IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<図1>
  • -耐摩耗部材 図1
  • -耐摩耗部材 図2
  • -耐摩耗部材 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】耐摩耗部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20230110BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20230110BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20230110BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20230110BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20230110BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230110BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20230110BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20230110BHJP
【FI】
C22C29/08
C22C19/07 J
C22C19/05 D
C22C19/03 J
C22C30/00
B22F1/00 Q
B22F1/05
C22C1/05 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022538366
(86)(22)【出願日】2022-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2022024620
【審査請求日】2022-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000238016
【氏名又は名称】冨士ダイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】藤井 卓
(72)【発明者】
【氏名】小椋 勉
(72)【発明者】
【氏名】スィトゥモラン ステパヌス リキー
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 僚太
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-501385(JP,A)
【文献】特開2005-256076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/08
C22C 5/00-45/10
B22F 1/00- 8/00
C22C 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が0.5~20μmのWC微粒子を主成分とする硬質相と、Ni,Co,Fe及びCrからなる群から選ばれた少なくとも1種の結合相成分を含む結合相とを有する超硬合金をマトリックスとし、前記マトリックス中に粒径が50~200μmのWC及びW 2 Cを主成分として構成されるWC/W 2 C粗粒子が分散相として存在しており、
前記WC/W 2 C粗粒子はWCとW 2 Cのラメラ組織を有し、
前記WC/W 2 C粗粒子の少なくとも一部は、中心部と、前記結合相成分を含む外周部と、前記中心部と前記外周部の間に位置し、前記外周部よりも前記結合相成分を多く含む中間部とを備える三層構成を有し、
前記分散相が10~70体積%含まれていることを特徴とする耐摩耗部材。
【請求項2】
前記WC/W 2 C粗粒子は前記WC微粒子の硬度以上の硬度を有することを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗部材。
【請求項3】
前記WC/W 2 C粗粒子の平均粒径は前記WC微粒子の平均粒径の5~70倍であることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗部材。
【請求項4】
前記結合相が前記マトリックスに対して10~85質量%含まれることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の耐摩耗部材。
【請求項5】
前記WC微粒子の硬度はビッカース硬さで1700~2000 HVであり、前記WC/W 2 C粗粒子の硬度はビッカース硬さで2000~3100 HVであることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の耐摩耗部材。
【請求項6】
前記WC/W2C粗粒子は、Wに対するCの原子比が0.5超0.9以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の耐摩耗部材。
【請求項7】
前記WC/W 2 C粗粒子の全体のうち、前記三層構成を有するWC/W 2 C粗粒子が30%以上含まれることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の耐摩耗部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗部材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化物,金属,セラミックス等の被加工物の粉砕,混合,圧粉成形等を行うための容器や金型等の被加工物に接する部材には超硬合金が用いられることが多い。しかし、被加工物がセラミックス等の硬質物の粉末である場合、被加工物に接する部材の摩耗は著しい。またかかる摩耗は、被加工物の粉末粒子が大きいほど顕著となる。そこで、近年、このような被加工物に接する超硬合金部材の耐摩耗性の向上・長寿命化が求められている。
【0003】
一般的に、被加工物に接する超硬合金部材の耐摩耗性の向上・長寿命化は硬度を高めることで図られる。これは、高硬度なWCを主成分とする硬質相を多くすることにより超硬合金の高硬度化が図れるが、同時に、硬質相を結合しているCoやNiなどの軟質な金属相の厚みが小さくなり、破壊靭性が低下する。そのため、被加工物が高硬度の粉末であって高いエネルギーをもって衝突する場合、超硬合金部材の硬度を増加するだけでは長寿命化につながらない。
【0004】
特許文献1は、硬質部材と摺接する際に摩耗しにくい耐摩耗部材として、平均粒径10~150μmのWC硬質粒子がCoやNiからなる結合部(軟質な金属相)によって結合された耐摩耗部材が提案している。しかし、実施例2のようにWC硬質粒子の平均粒径が大きい(110μm)場合、硬質粒子間の距離(平均自由工程)が広いため、軟質な金属相の部分も広くなり、そこから摩耗が進行しやすくなる。一方、実施例1のようにWC硬質粒子の平均粒径が小さい(16μm)場合、金属相の摩耗のみならず、硬質粒子の破壊が著しくなり、耐摩耗性が十分とは言えないという問題がある。
【0005】
特許文献2は、AlB2,Al4C3,AlN,Al2O3,AlMgB14,B4C,立方晶窒化ホウ素(cBN),六方晶窒化ホウ素(hBN),CrB2,Cr3C2,Cr2O3,HFB2,HfC,HfN,Hf(C,N),MoB2,Mo2B5,Mo2C,MoS2,MoSi2,NbB2,NbC,NbN,Nb(C,N),SiB4,SiB6,SiC,Si3N4,SiAlCB,TaB2,TaC,TaN,Ta(C,N),TiB2,TiC,TiN,Ti(C,N),VB2,VC,VN,V(C,N),WB,WB2,W2B5,WC,W2C,WS2,ZrB2,ZrC,ZrN,Zr(C,N),ZrO2,およびそれらの混合物ならびに合金のうちの少なくとも1つからなるコア材料上にコア材料よりも高い破壊靭性を有する中間層を形成させた平均粒径50μm未満の被覆粒子が、WもしくはWCを含む第1の粒子とCoを含む第2の粒子との混合物を含むマトリックス中に含まれている固結材料を開示している。この材料は、切削工具として使用した場合にはマトリックス部にもWCが分散されているため摺動時にも摩耗しにくい。しかし、被加工物が高硬度の粉末であって高いエネルギーをもって衝突する、例えば粉砕,混合,圧粉成形等を行うための容器や金型等として使用した場合には、被覆粒子の径が50μm未満であり耐摩耗性が十分とは言えない。また、特許文献2ではコア材料に高靭性材料を種々の方法で被覆しているが、やはり、十分な耐摩耗性を発揮できるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO 2020/194628 A1
【文献】特許第6257896号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、粒径が大きい硬質のW化合物粗粒子を超硬合金のマトリックス相で結合した複合材料とすることにより、従来のWC基超硬合金よりも、結合相の摩耗を抑え、かつ硬質相の破壊を抑制することができる耐摩耗部材を提供することにある。かかる耐摩耗部材は、例えば、セラミックス等の硬質粉末などの混錬、射出、圧粉成形するための工具、粉砕刃や都市土木用工具などの用途に適する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、結合相の摩耗を抑え、かつ硬質相の破壊を抑制するために、被加工物の粉末粒径に対して粒径がある程度大きいW化合物粉末を硬質相として用いることを考えた。
【0009】
原料のW化合物粉末としては、WCやW2C等を含むが微細組織を有し、硬さが2500 HVとWCよりも硬い、粉末粒径100μmの粉末を用いた。以下このW化合物をWC/W2Cと記す。この粉末を用い、WC/W2C-3Cr-27Niの混合粉末を作製し、圧粉成形後、ホットプレス焼結法により1200℃-25 MPaで焼結を行った。この合金は硬質なセラミックス粉末に対し、高い耐摩耗性を示した。しかし、摩耗面を観察したところ、硬質相粒子間の距離が大きくなり、そのマトリックス相であるNi-Cr相の摩耗が優先的に生じていることが分かった。
【0010】
そこで本発明者らは、粒径の小さいWCを用いた超硬合金をマトリックス相とし、粒径がある程度大きいW化合物硬質粒子を分散させれば、マトリックス相の摩耗を抑え、かつ硬質粒子の破壊を抑制することができ、高い衝突エネルギーを持ったセラミックス粉末の接触に対し、高い耐摩耗性を発揮することを見出し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明の一実施態様による耐摩耗部材は、粒径が0.5~20μmのWC微粒子を主成分とする硬質相と、Ni,Co,Fe及びCrからなる群から選ばれた少なくとも1種の結合相成分を含む結合相とを有する超硬合金をマトリックスとし、前記マトリックス中に粒径が50~200μmのWC及びW 2 Cを主成分として構成されるWC/W 2 C粗粒子が分散相として存在しており、前記WC/W 2 C粗粒子はWCとW 2 Cのラメラ組織を有し、前記WC/W 2 C粗粒子の少なくとも一部は、中心部と、前記結合相成分を含む外周部と、前記中心部と前記外周部の間に位置し、前記外周部よりも前記結合相成分を多く含む中間部とを備える三層構成を有し、前記分散相が10~70体積%含まれていることを特徴とする。
【0012】
前記W化合物粗粒子は前記WC微粒子の硬度以上の硬度を有するのが好ましい。
【0013】
前記W化合物粗粒子の平均粒径は前記WC微粒子の平均粒径の5~70倍であるのが好ましい。
【0014】
前記結合相が前記マトリックスに対して10~85質量%含まれるのが好ましい。
【0016】
前記WC微粒子の硬度はビッカース硬さで1700~2000 HVであり、前記W化合物粗粒子の硬度はビッカース硬さで2000~3100 HVであるのが好ましい。
【0018】
前記WC/W2C粒子は、Wに対するCの原子比が0.5超0.9以下であるのが好ましい。
【0021】
前記W化合物粗粒子の全体のうち、前記三層構成を有するW化合物粗粒子が30%以上含まれるのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、硬質相として粒径の小さいWCを用いた超硬合金のマトリックス相に、粒径がある程度大きいW化合物粒子を分散させることにより、マトリックス相の摩耗を抑え、かつ硬質相の破壊・脱落を抑制することができ、高い衝突エネルギーを持ったセラミックス粉末の接触に対して高い耐摩耗性を発揮する。例えば、セラミックス粉末などの混錬、射出、圧粉成形するための工具、粉砕刃や都市土木用工具などの用途に適する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の耐摩耗部材の断面SEM組織の一例を示すSEM写真である。
図2】三層構成を有するWC/W2C粗粒子を示す模式図である。
図3】本発明の耐摩耗部材のEDS分析結果の一例を示すNiマッピング像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の耐摩耗部材は、粒径が0.5~20μmのWC微粒子を主成分とする硬質相と、Ni,Co,Fe及びCrからなる群から選ばれた少なくとも1種を含む結合相とを有する超硬合金をマトリックスとし、マトリックス中に粒径が50~200μmのW化合物粗粒子が分散相として存在しており、W化合物粗粒子はWC及び/又はW2Cを主成分として構成される粗粒子からなることを特徴とする。
【0025】
硬質相のWC微粒子の粒径は0.5~20μmの範囲内に含まれる。WC微粒子の粒径は、超耐摩耗部材の任意の断面におけるWC微粒子の、同一面積の円に換算した時の直径とする。WC微粒子の粒径が20μm超であると、抗折力が低下し、さらに結合相の厚い部分が増大して、そこから摩耗が進行しやすくなる。WC微粒子の粒径が0.5μm未満であると脱落しやすくなり、かつ十分な靭性が得られず、耐チッピング性が低下する。WC微粒子の粒径は0.5~20μmの範囲内であるのが好ましく、2~10μmの範囲内であるのがより好ましい。
【0026】
結合相はNi,Co,Fe及びCrからなる群から選ばれた少なくとも1種の結合相成分を含んでおり、特にNi及び/又はCoを含有する金属相であるのが好ましい。マトリックスは、WC微粒子を主成分とする硬質相が結合相により結合された超硬合金で形成される。
【0027】
結合相の含有量は超硬合金のマトリックス全体の10~85質量%であるのが好ましい。ここで、結合相の含有量は、結合相における結合相成分として添加した成分の総和を意味し、それ以外の成分として添加した後に固溶している成分は結合相の含有量には含めない。結合相の含有量が10質量%未満であると、超硬合金の硬さが高くなりすぎ、靭性が低下する。また結合相の含有量が85質量%超であると、結合相の厚い部分の数が増加する。結合相の含有量は超硬合金のマトリックス全体の10~85質量%であるのがより好ましく、20~60質量%であるのがさらに好ましい。
【0028】
分散相のW化合物粗粒子は、WC及び/又はW2Cを主成分として構成される粗粒子からなる。WC及び/又はW2Cを主成分として構成される粗粒子は、WCを主成分として構成されるWC粗粒子、W2Cを主成分として構成されるW2C粗粒子、WC及びW2Cを主成分として構成されるWC/W2C粗粒子を含む。WC/W2C粗粒子は、WC及びW2C混合物から構成され、WC相とW2C相の両方を含む。WC/W2C粗粒子は、一部にWC及びW2Cの共晶を含んでいても良い。ここで、「主成分として構成される」とは、各粗粒子が微量のWをさらに含んでいても良く、焼結過程で混入する結合相成分を含むW低級炭化物も含んでも良いことを意味する。WC及び/又はW2Cを主成分として構成されるW化合物粗粒子を超硬合金のマトリックス中に分散させることにより、超硬合金の結合相の摩耗を抑え、かつ硬質相の破壊を抑制し、硬質セラミックス粉末などの混錬、射出、圧粉成形する際などの、被加工物が高硬度の粉末であって高いエネルギーをもって衝突する場合でも、本発明の耐摩耗部材は優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0029】
分散相を構成するW化合物粗粒子は、WC微粒子の硬度以上の硬度を有するのが好ましい。WC微粒子の硬度以上の硬度を有し、かつWC微粒子よりも粒径が大きいW化合物粗粒子を超硬合金のマトリックス中に分散相として存在させることにより、超硬合金の結合相の摩耗を抑え、かつ硬質相の破壊を抑制し、本発明の耐摩耗部材は優れた耐摩耗性を得ることができる。W化合物粗粒子は、WC微粒子の硬度よりも大きい硬度を有するのがより好ましい。WC微粒子の硬度は、ビッカース硬さで1700~2000 HVであるのが好ましく、1700~1900 HVであるのがより好ましい。またW化合物粗粒子の硬度は、ビッカース硬さで2000~3100 HVであるのが好ましく、2400~3100 HVであるのがより好ましい。またW化合物粗粒子はWC微粒子よりもビッカース硬さで100 HV以上の硬度を有するのが好ましく、200 HV以上の硬度を有するのがより好ましく、300 HV以上の硬度を有するのが特に好ましい。WC微粒子及びW化合物粗粒子のビッカース硬さは、それぞれ同一材料の試験片に対してビッカース硬さ試験により求めてもよいし、ナノインデンテーションにより硬さ測定してビッカース硬さに換算してもよいし、WC微粒子の硬さは文献値としてもよい(鈴木壽 編著:超硬合金と焼結硬質材料-基礎と応用-,p2)。
【0030】
特に、W化合物粗粒子としてWC粗粒子を用いる場合、WC粗粒子のビッカース硬さは2000~2400 HVであるのが好ましく、WC粗粒子はWC微粒子よりもビッカース硬さで100 HV以上の硬度を有するのが好ましい。このようにビッカース硬さの小さくWC微粒子と、ビッカース硬さの大きいWC粗粒子とを組み合わせることにより、超硬合金の結合相の摩耗を抑え、かつ硬質相の破壊を抑制し、優れた耐摩耗性を得ることができる。またWC粗粒子はW2C相を含んでいないので、WC/W2C粗粒子と比べて硬度の面で劣るが、硬度及び靭性のバランスに優れる。ビッカース硬さの大きいWC粗粒子については、市販のWC粒子を熱処理により硬度を高めることにより作製しても良い。
【0031】
分散相のW化合物粗粒子の粒径は50~200μmの範囲内に含まれる。W化合物粗粒子の粒径は、WC微粒子の粒径と同様の方法により求める。W化合物粗粒子の粒径が50μm未満であると、硬質相の脱落や破壊が生じて、耐摩耗性が不十分である。またW化合物粗粒子の粒径が200μm超であると、被加工物を傷付ける恐れがあり、かつ結合相の部分的な平均自由行路が大きくなり、その結合相の摩耗が生じる。W化合物粗粒子の粒径は50~200μmの範囲内であるのが好ましく、110~180μmの範囲内であるのがより好ましい。
【0032】
分散相のW化合物粗粒子の平均粒径は、硬質相のWC微粒子の平均粒径の5~70倍であるのが好ましい。WC微粒子の平均粒径は、耐摩耗部材の任意の断面におけるすべてのWC微粒子の面積の和をWC微粒子の数で除した、WC微粒子1個当たりの平均の面積を、同一面積の円の直径に換算して求められる。W化合物粗粒子の平均粒径もWC微粒子の平均粒径と同様の方法により求められる。WC微粒子の平均粒径に対するW化合物粗粒子の平均粒径の大きさがこの範囲に含まれると、本発明の耐摩耗部材は、高硬度と高破壊靭性の特性をバランス良く得られ、被加工物が高硬度の粉末であって高いエネルギーをもって衝突する場合などに対して、より優れた耐摩耗性を発揮することができる。分散相のW化合物粗粒子の平均粒径は、硬質相のWC微粒子の平均粒径の5~70倍であるのがより好ましく、10~40倍であるのがさらに好ましい。
【0033】
分散相の含有量は耐摩耗部材全体に対して10~70体積%であるのが好ましい。ここで、分散相の含有量は、分散相における分散相成分として添加した成分の総和を意味し、それ以外の成分として添加した後に固溶している成分は分散相の含有量には含めない。分散相の含有量が10体積%未満であると、耐摩耗部材の硬さが劣り、耐摩耗性が不十分である。また分散相の含有量が70体積%超であると、耐摩耗部材の硬さが高くなりすぎ、靭性が低下する。分散相の含有量は耐摩耗部材全体に対して20~70体積%であるのがより好ましく、30~65体積%であるのがさらに好ましい。
【0034】
超硬合金マトリックスに分散させたW化合物粗粒子は、WC/W2C粗粒子からなるのが好ましい。WC/W2C粗粒子は、微細な二相組織を得やすいため十分な硬度を有し、耐摩耗性及び耐衝撃性に優れている。そのため、超硬合金であるマトリックス中のWC微粒子よりも粒径が大きいWC/W2C粗粒子を超硬合金マトリックス中に分散相として存在させることにより、本発明の耐摩耗部材は、優れた耐摩耗性及び耐衝撃性を発揮することができ、被加工物が高硬度の粉末であって高いエネルギーをもって衝突する場合などに好適に用いることができる。WC/W2C粗粒子はWに対するCの原子比が0.5超0.9以下であるのが特に好ましい。
【0035】
WC/W2C粗粒子は、WCとW2Cのラメラ組織を有するのが好ましい。WCとW2Cのラメラ組織とは、WC相とW2C相とが層状に交互に形成された構成を意味する。ここで、本発明の耐摩耗部材の断面SEM組織の一例を図1に示す。図1に示すように、耐摩耗部材の断面SEM組織におけるWC/W2C粗粒子は、特にその中心部において、WC相とW2C相とが層状に交互に形成されたラメラ組織を備えている。このような非常に薄い相のラメラ組織を形成していることにより、WC/W2C粗粒子は高い硬度を有するとともに、摩耗時も局所的に微細な破壊が僅かずつ進行するため損耗速度が遅く、WCとW2Cのラメラ組織を有するWC/W2C粗粒子は、特に優れた耐摩耗性及び耐衝撃性を本発明の耐摩耗部材に付与することができる。
【0036】
WC/W2C粗粒子の少なくとも一部が、図2に示すように、中心部1と、結合相成分をわずかに含む外周部2と、中心部1と外周部2の間に位置し、外周部2よりも結合相成分を多く含む中間部3とを備える三層構成を有するのが好ましい。これは、超硬合金のマトリックスにWC/W2C粗粒子を分散相として加えて焼結したことにより、マトリックスからWC/W2C粗粒子へ結合相成分と炭素が拡散浸透していき、外周部2にはWCが形成され、冷却に従い、外周部2の液相の結合相成分は凝固温度が高い中間部3の凝固に従い、中間部3に移動して凝固・収縮していき、その結果、中間部3の結合相成分は最も多くなったものと考えられる。それにより、WC/W2C粗粒子の中間部3にMe3W3C(Meは結合相成分)など結合相成分を含む低級炭化物が形成され、それらがWCやW2Cと比較して熱膨張係数が大きいため、低級炭化物を多く含む中間部3が内部に存在することにより冷却時に他の部分よりも収縮量が大きく、その結果、WC/W2C粗粒子の表面部に圧縮応力を生じさせ、このような三層構成を有するWC/W2C粗粒子は、非常に優れた耐摩耗性及び耐衝撃性を本発明の耐摩耗部材に付与することができる。
【0037】
WC-Ni-Cr合金のマトリックスに分散相としてWC/W2C粗粒子を使用した本発明の耐摩耗部材について、本発明の耐摩耗部材のEDS分析結果の一例のNiマッピング像を図3に示す。図3に示すように、WC/W2C粗粒子の結合相成分であるNiが外周部2に含まれており、外周部2よりも中間部3のほうが結合相成分であるNiを多く含んでいることが分かる。
【0038】
WC/W2C粗粒子のうち少なくとも一部が三層構成を有していれば上記効果を得られるが、W化合物粗粒子の全体数のうち30%以上が三層構成を有するWC/W2C粗粒子であるのが好ましく、50%以上が三層構成を有するWC/W2C粗粒子であるのがより好ましい。またW化合物粗粒子の平均粒径以上の粒径を有するW化合物粗粒子のうち、90%以上が三層構成を有するWC/W2C粗粒子であるのが望ましく、95%以上が三層構成を有するWC/W2C粗粒子であるのがより望ましい。それにより、さらに優れた耐摩耗性及び耐衝撃性を本発明の耐摩耗部材に付与することができる。
【0039】
本発明の耐摩耗部材は以下の方法により製造することができる。マトリックス相を構成する各成分の粉末を用意し、湿式ボールミル等により混合して混合粉末を作製し、その混合粉末に分散相を構成するW化合物粗粒子の粉末を添加して混合し、原料粉末を調製する。この原料粉末を焼結することにより本発明の耐摩耗部材が得られる。焼結方法はホットプレス焼結法を用いるのが望ましい。焼結方法はホットプレス焼結法に限らず、公知の焼結法を適宜用いることができる。
【実施例
【0040】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0041】
実施例1
原料粉末には、分散相としてWC/W2C粉末(粒径20~300μm)及びWC粉末(粒径110μm)を用い、マトリックス相としてWC粉末(粒径0.3~18μm),Cr3C粉末(粒径2μm),Cr粉末(粒径30μm),Co粉末(粒径1.5μm),Ni粉末(粒径2.8μm),Fe粉末(粒径3μm)及び(Ta, Nb)C粉末(粒径2μm)を用いた。WC/W2C粉末としては、Wに対するCの原子比C/WがC/W=0.64であり、WCとW2Cのラメラ組織を有しているものを用いた。
【0042】
マトリックス相を構成する表1に示す粉末を湿式ボールミルにより混合して混合粉末を作製した。WC粉末は表2に示す粒径のものを使用した。発明品6及び11はCrを添加しており、発明品2,5及び8はそれぞれVC,(Ta,Nb)C及びMoを添加した。得られた混合粉末に、表2に示す所定量及び粒径を有するWC/W2C粉末を加えて混合し(発明品11のみWC/W2C粉末の代わりにWC粉末を用いた。)、原料粉末を調製した。この原料粉末を焼結温度1100~1300℃、圧力20~50 MPaにてホットプレス焼結法により焼結することにより、発明品1~12及び比較品1~5の耐摩耗部材を得た。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
発明品1~12及び比較品1~5の耐摩耗部材のビッカース硬さを求めた。ビッカース硬さはビッカース硬度計HV30を用いて計測し、抗折力はJISR 1601に基づいて3点曲げ試験により測定した。発明品1~12及び比較品1~5の耐摩耗部材の研磨断面のSEM像(観察倍率:1,000倍)を撮影し、EDSによりW化合物粗粒子の三層構成の有無を確認した。また発明品1~12及び比較品1~5の耐摩耗部材の耐摩耗性はセラミックス砥粒中で相手材円盤の端面に一定時間試料を押し当てて、その摩耗量で評価した。得られた結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
発明品1~9及び12は、焼結性に優れ、かつWC粒子の脱落や破壊がほとんどなく、良好な耐摩耗性が得られた。発明品11はW化合物粗粒子としてWC粗粒子を用いているが、WC粒子の脱落や破壊がほとんどなく、耐摩耗性も十分だった。比較品1はW化合物粗粒子が少ないためマトリックス相のWC粒子が脱落しやすく十分な耐摩耗性は得られなかった。比較品2はW化合物粗粒子の粒径が小さいため、脱落しやすく十分な耐摩耗性が得られなかった。比較品3はマトリックス相のWC粒子の粒径が小さすぎるため脱落しやすく耐摩耗性は十分でなかった。比較品4はW化合物粗粒子の粒径が大きすぎるため、相手材に傷をつけることがあったため使用不可とした。比較品5はW化合物粗粒子の体積率が多すぎるため、焼結性がやや劣り耐摩耗性は低かった。また発明品10はマトリックス相の結合相量が多いため、分散相の粗粒子の外周部に結合相成分(特にNi)の化合物が形成されたW化合物粗粒子も見られ、耐摩耗性がやや劣った。
【要約】
粒径が大きい硬質のW化合物粗粒子を超硬合金のマトリックス相で結合した複合材料とすることにより、従来のWC基超硬合金よりも、結合相の摩耗を抑え、かつ硬質相の破壊を抑制することができる耐摩耗部材を提供する。粒径が0.5~20μmのWC微粒子を主成分とする硬質相と、Ni,Co,Fe及びCrからなる群から選ばれた少なくとも1種を含む結合相とを有する超硬合金をマトリックスとし、マトリックス中に粒径が50~200μmのW化合物粗粒子が分散相として存在しており、W化合物粗粒子はWC及び/又はW2Cを主成分として構成される粗粒子からなることを特徴とする耐摩耗部材。
図1
図2
図3