(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】汚泥の処理方法および汚泥の処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 11/00 20060101AFI20230110BHJP
C02F 11/04 20060101ALI20230110BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20230110BHJP
C02F 11/143 20190101ALI20230110BHJP
C02F 11/145 20190101ALI20230110BHJP
C02F 11/06 20060101ALI20230110BHJP
C02F 11/02 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
C02F11/00 B
C02F11/04 A
C02F1/58 R
C02F1/58 S
C02F11/143
C02F11/145
C02F11/00 M
C02F11/00 N
C02F11/06 A
C02F11/06 B
C02F11/04 Z
C02F11/02
(21)【出願番号】P 2018118313
(22)【出願日】2018-06-21
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】金 熙濬
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-200199(JP,A)
【文献】特開昭58-143900(JP,A)
【文献】特開2015-033691(JP,A)
【文献】特開2005-265273(JP,A)
【文献】特開2002-336870(JP,A)
【文献】特開2015-077551(JP,A)
【文献】特開2016-087584(JP,A)
【文献】特開2016-190238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F11/00-11/20
C02F1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥の消化液を吸着剤と接触させ、前記消化液に含まれるリン成分の一部を、前記吸着剤に吸着させ、リン酸カルシウム又はリン酸マグネシウムとして析出して除去する吸着工程と、
前記吸着工程を経た前記消化液に析出剤を添加し、前記消化液に含まれるリン成分の少なくとも一部を析出させる析出工程と、
前記析出工程で処理された前記消化液から得られる消化汚泥を燃焼する燃焼工程とを有
し、
前記析出工程で、カルシウム系物質としての炭酸カルシウムと、硝酸アルミニウムおよび酢酸アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種であるアルミニウム系物質とを含む析出剤を用いることを特徴とする汚泥の処理方法。
【請求項2】
前記析出工程で析出したリン成分の少なくとも一部を、前記燃焼工程より前に系外に除去する析出物除去工程を有する請求項1に記載の汚泥の処理方法。
【請求項3】
前記析出剤中に含まれるカルシウムの物質量をX
Ca[mol]、アルミニウムの物質量をX
Al[mol]としたとき、0.1≦X
Ca/X
Al≦10の関係を満足する請求項
1または2に記載の汚泥の処理方法。
【請求項4】
前記燃焼工程における燃焼温度は、550℃以上900℃以下である請求項1
ないし3のいずれか1項に記載の汚泥の処理方法。
【請求項5】
汚泥の消化液を吸着剤と接触させ、前記消化液に含まれるリン成分の一部を、前記吸着剤に吸着させ、リン酸カルシウム又はリン酸マグネシウムとして析出して除去する吸着処理部と、
前記吸着処理部を経た前記消化液に析出剤を添加し、前記消化液に含まれるリン成分の少なくとも一部を析出させる析出処理部と、
前記析出処理部で処理された前記消化液から得られる消化汚泥を燃焼する燃焼炉とを備え
、
前記析出処理部で、カルシウム系物質としての炭酸カルシウムと、硝酸アルミニウムおよび酢酸アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種であるアルミニウム系物質とを含む析出剤を用いることを特徴とする汚泥の処理システム。
【請求項6】
汚泥の処理システムが、メタン発酵処理を行う嫌気槽と、硝化脱窒素処理を行う無酸素槽と、好気菌消化処理を行う好気槽とを含む消化処理部を備えており、
前記析出処理部は、前記無酸素槽より下流側で、かつ、前記好気槽より上流側に設けられている請求項
5に記載の汚泥の処理システム。
【請求項7】
汚泥の処理システムが、メタン発酵処理を行う嫌気槽と、硝化脱窒素処理を行う無酸素槽と、好気菌消化処理を行う好気槽とを含む消化処理部を備えており、
前記嫌気槽および前記無酸素槽のうち少なくとも一方が、前記析出処理部としても機能する請求項
5に記載の汚泥の処理システム。
【請求項8】
汚泥の処理システムが、メタン発酵処理を行う嫌気槽と、硝化脱窒素処理を行う無酸素槽と、好気菌消化処理を行う好気槽とを含む消化処理部を備えており、
前記吸着処理部は、前記嫌気槽および前記無酸素槽より下流側で、かつ、前記好気槽より上流側に設けられている請求項
5に記載の汚泥の処理システム。
【請求項9】
汚泥の処理システムが、メタン発酵処理を行う嫌気槽と、硝化脱窒素処理を行う無酸素槽と、好気菌消化処理を行う好気槽とを含む消化処理部を備えており、
前記嫌気槽および前記無酸素槽が、前記吸着処理部としても機能する請求項
5に記載の汚泥の処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥の処理方法および汚泥の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理場から排出される下水汚泥等の含水汚泥の処理法として、環境汚染防止上の制約や埋め立て処分場の枯渇の問題等から、燃焼炉での燃焼処理が多く採用されている。
【0003】
下水汚泥を消化処理した脱水汚泥(以下、単に「汚泥」とも言う)には、高濃度(灰換算約30%)でリンが含まれている。このため、汚泥を燃焼処理する際に、汚泥に含まれるリン成分が蒸発し、リン酸化合物として燃焼炉の壁等に付着し、燃焼炉の炉壁を傷めたり、排気管を詰まらせたり、熱交換管を腐食させたりする等の問題が生じている。
【0004】
そこで、汚泥の処理において、汚泥中に含まれるリンの量を低減させるための研究がなされている。
【0005】
リンの除去技術としては、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)を用いた方法が知られているが、このような方法では、アンモニア成分が必要であること、反応時間の長さの問題もあり、上記の問題を十分に解決できなかった。
【0006】
また、汚泥中の微粒子、浮遊物を凝集させる凝集剤あるいはリン回収剤として、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、ポリ硫酸第二鉄が知られている(例えば非特許文献1)。
【0007】
しかしながら、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄を用いた場合、上記のような燃焼炉等に対する悪影響の問題を十分に解決することができなかった。特に、消化処理を施した汚泥がリンを比較的高い含有率(例えば、焼却灰中の含有率が10質量%以上となるような含有率)で含まれる場合に、上記のような問題がより顕著に発生していた。また、これらは、高価であり、コスト上の問題や灰発生量の増加の問題もあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】下水道における効率的なリン回収と凝集剤の循環利用、高橋康弘、堀康弘、Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan 12, 200-206 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、燃焼時に蒸発するリン成分の量を減らし、燃焼炉に与える悪影響を抑制することができる汚泥の処理方法および汚泥の処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の汚泥の処理方法は、汚泥の消化液を吸着剤と接触させ、前記消化液に含まれるリン成分の一部を、前記吸着剤に吸着させ、リン酸カルシウム又はリン酸マグネシウムとして析出して除去する吸着工程と、
前記吸着工程を経た前記消化液に析出剤を添加し、前記消化液に含まれるリン成分の少なくとも一部を析出させる析出工程と、
前記析出工程で処理された前記消化液から得られる消化汚泥を燃焼する燃焼工程とを有し、
前記析出工程で、カルシウム系物質としての炭酸カルシウムと、硝酸アルミニウムおよび酢酸アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種であるアルミニウム系物質とを含む析出剤を用いることを特徴とする。
【0011】
本発明の汚泥の処理方法では、前記析出工程で析出したリン成分の少なくとも一部を、前記燃焼工程より前に系外に除去する析出物除去工程を有することが好ましい。
【0015】
本発明の汚泥の処理方法では、前記析出剤中に含まれるカルシウムの物質量をXCa[mol]、アルミニウムの物質量をXAl[mol]としたとき、0.1≦XCa/XAl≦10の関係を満足することが好ましい。
【0017】
本発明の汚泥の処理方法では、前記燃焼工程における燃焼温度は、550℃以上900℃以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の汚泥の処理システムは、汚泥の消化液を吸着剤と接触させ、前記消化液に含まれるリン成分の一部を、前記吸着剤に吸着させ、リン酸カルシウム又はリン酸マグネシウムとして析出して除去する吸着処理部と、
前記吸着処理部を経た前記消化液に析出剤を添加し、前記消化液に含まれるリン成分の少なくとも一部を析出させる析出処理部と、
前記析出処理部で処理された前記消化液から得られる消化汚泥を燃焼する燃焼炉とを備え、
前記析出処理部で、カルシウム系物質としての炭酸カルシウムと、硝酸アルミニウムおよび酢酸アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種であるアルミニウム系物質とを含む析出剤を用いることを特徴とする。
【0019】
本発明の汚泥の処理システムでは、汚泥の処理システムが、メタン発酵処理を行う嫌気槽と、硝化脱窒素処理を行う無酸素槽と、好気菌消化処理を行う好気槽とを含む消化処理部を備えており、
前記析出処理部は、前記無酸素槽より下流側で、かつ、前記好気槽より上流側に設けられていることが好ましい。
【0020】
本発明の汚泥の処理システムでは、汚泥の処理システムが、メタン発酵処理を行う嫌気槽と、硝化脱窒素処理を行う無酸素槽と、好気菌消化処理を行う好気槽とを含む消化処理部を備えており、
前記嫌気槽および前記無酸素槽のうち少なくとも一方が、前記析出処理部としても機能することが好ましい。
本発明の汚泥の処理システムでは、汚泥の処理システムが、メタン発酵処理を行う嫌気槽と、硝化脱窒素処理を行う無酸素槽と、好気菌消化処理を行う好気槽とを含む消化処理部を備えており、
前記吸着処理部は、前記嫌気槽および前記無酸素槽より下流側で、かつ、前記好気槽より上流側に設けられていることが好ましい。
本発明の汚泥の処理システムでは、汚泥の処理システムが、メタン発酵処理を行う嫌気槽と、硝化脱窒素処理を行う無酸素槽と、好気菌消化処理を行う好気槽とを含む消化処理部を備えており、
前記嫌気槽および前記無酸素槽が、前記吸着処理部としても機能することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、燃焼時に蒸発するリン成分の量を減らし、燃焼炉に与える悪影響を抑制することができる汚泥の処理方法および汚泥の処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の汚泥の処理システムの第1実施形態を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の汚泥の処理方法の第1実施形態を示す工程図である。
【
図3】本発明の汚泥の処理システムの第2実施形態を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の汚泥の処理システムの第3実施形態を模式的に示す図である。
【
図5】
図4に示す処理システムが備える吸着処理部の一例を模式的に示す図である。
【
図6】本発明の汚泥の処理方法の第3実施形態を示す工程図である。
【
図7】本発明の汚泥の処理システムの第4実施形態を模式的に示す図である。
【
図8】
図7に示す処理システムが備える吸着処理部と嫌気槽との関係を模式的に示す図である。
【
図9】析出剤として塩化カルシウムを用いた場合の析出剤の添加量とリンの析出率との関係を示すグラフである。
【
図10】析出剤として水酸化カルシウムを用いた場合の析出剤の添加量とリンの析出率との関係を示すグラフである。
【
図11】析出剤として塩化マグネシウムを用いた場合の析出剤の添加量とリンの析出率との関係を示すグラフである。
【
図12】析出剤としてポリ塩化アルミニウムを用いた場合の析出剤の添加量とリンの析出率との関係を示すグラフである。
【
図13】消化汚泥の燃焼温度と、燃焼により得られる汚泥灰中のリン含有率との関係を示すグラフである。
【
図14】吸着剤表面でリン成分を吸着させ、吸着剤一成分と反応させ析出させる工程で、吸着剤としてドロマイトを用いた場合の吸着剤の添加量とリンの吸着率との関係を示すグラフである。
【
図15】吸着剤として水酸化ドロマイトを用いた場合の吸着剤の添加量とリンの吸着率との関係を示すグラフである。
【
図16】吸着剤として軽焼ドロマイト(平均粒径:1mm)を用いた場合の吸着剤の添加量とリンの吸着率との関係を示すグラフである。
【
図17】吸着剤として軽焼ドロマイト(平均粒径:3mm)を用いた場合の吸着剤の添加量とリンの吸着率との関係を示すグラフである。
【
図18】吸着剤としてドロマイトを用いた場合のpHとリンの吸着率との関係を示すグラフである。
【
図19】吸着剤として水酸化ドロマイトを用いた場合のpHとリンの吸着率との関係を示すグラフである。
【
図20】吸着剤として軽焼ドロマイト(平均粒径:1mm)を用いた場合のpHとリンの吸着率との関係を示すグラフである。
【
図21】吸着剤として軽焼ドロマイト(平均粒径:3mm)を用いた場合のpHとリンの吸着率との関係を示すグラフである。
【
図22】被処理物の吸着剤との接触時間と、リンの吸着率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
≪第1実施形態≫
以下、汚泥の処理方法、汚泥の処理システムの第1実施形態について説明する。
【0024】
図1は、本発明の汚泥の処理システムの第1実施形態を模式的に示す図である。
図2は、本発明の汚泥の処理方法の第1実施形態を示す工程図である。以下の説明では、
図1中の下側を「下側」または「下部」とし、
図1中の上側を「上側」または「上部」とする。後に説明する
図3、
図4、
図5、
図7についても同様である。
【0025】
本発明の汚泥の処理方法は、汚泥の消化液Sに析出剤41を添加し、消化液Sに含まれるリン成分の少なくとも一部を析出させる析出工程と、析出工程で処理された消化汚泥SSを燃焼する燃焼工程とを有する。
【0026】
また、本発明の汚泥の処理システム1は、汚泥の消化液Sに析出剤41を添加し、消化液Sに含まれるリン成分の少なくとも一部を析出させる析出処理部(析出槽)40と、析出処理部40で処理された消化液Sおよび残渣汚泥から得られる消化汚泥SSを燃焼する燃焼炉60とを備える。
【0027】
このような本発明によれば、燃焼時に蒸発するリン成分の量を減らし、燃焼炉に与える悪影響を抑制することができる汚泥の処理方法、汚泥の処理システムを提供することができる。
【0028】
特に、本発明では、汚泥(消化汚泥SS)の燃焼工程(燃焼炉60での燃焼処理)に先立って、汚泥の消化液S中に含まれているリン成分を、析出工程(析出処理部40)で処理し、消化液Sに溶解状態で含まれるリン成分の濃度を低くする。
【0029】
消化液Sに溶解状態で含まれるリン成分の濃度が高いと、燃焼により、リン成分が蒸発し、燃焼炉60の炉壁、排気管、熱交換管等に悪影響を及ぼしやすいが、本発明では、消化液S中に含まれているリン成分を析出させることにより、上記のような悪影響を抑えることができる。より具体的には、消化液Sに含まれていたリン成分を析出物として析出させることにより、当該析出物を固液分離等の方法で系外に除去すること(回収すること)ができる。また、リン成分を、分解温度が高く、より安定性の高い析出物とすることにより、析出物を系外に除去しない場合であっても、上記のような悪影響を抑えることができる。
【0030】
なお、被処理物の元である汚泥は、リン成分を含んでいれば、いかなるものであってもよく、家庭等からの下水、し尿の処理あるいは工場廃水の浄化に伴って多量に排出される、有機質の最終生成物が凝集してできた固形物を含み、固形と液状の中間性状を示す泥状の廃棄物を含む概念である。
【0031】
また、被処理物である消化液S中において、リンは、通常、主形態であるリン酸イオンやリン酸塩、酸化物等の形態で含まれている。本明細書では、これらの形態を含めてリンを含む化合物(イオン性物質を含む)や当該化合物中に含まれるリン原子のことを、単にリンということがある。また、本明細書では、リン酸塩とは、リン酸イオン(PO4
3-)やピロリン酸イオン(P2O7
4-)等のポリリン酸等のリン酸系の陰イオンと、陽イオンとを含む塩のことを指す。
【0032】
また、本実施形態の汚泥の処理方法では、汚泥S1の消化を行う消化工程で、メタン発酵処理、硝化脱窒素処理、および、好気菌消化処理の各処理を行う。
【0033】
そして、本実施形態の汚泥の処理システムは、汚泥S1の消化を行う消化処理部20が、メタン発酵処理を行う嫌気槽(メタン発酵処理部)21と、硝化脱窒素処理を行う無酸素槽(硝化脱窒素処理部)22と、好気菌消化処理を行う好気槽(好気菌消化処理部)23とを備えている。
【0034】
メタン発酵処理(嫌気槽21)では、主に、嫌気性微生物によって汚泥S1を分解するメタン発酵を行う。
【0035】
硝化脱窒素処理(無酸素槽22)では、メタン発酵処理(嫌気槽21)で発生したアンモニア性窒素を、硝化により硝酸性窒素、亜硝酸性窒素とした後に、還元反応により窒素ガスに変化させる。
【0036】
好気菌消化処理(好気槽23)では、好気菌により、被処理物(汚泥S1についての消化処理が一部進行した消化液S)中に含まれている有機物を消化させたり、溶解状態で含まれているリン成分を脱リン菌(好気菌の種類)に取り込ませたりする。
【0037】
また、本実施形態の汚泥の処理方法は、消化工程および析出工程の後であって、燃焼工程の前のタイミングで、消化汚泥SSを脱水する脱水工程、および、乾燥する乾燥工程を有している。
【0038】
そして、本実施形態の汚泥の処理システムは、消化処理部20および析出処理部40よりも下流側であり、燃焼炉60よりも上流側に、消化汚泥SSを脱水する脱水装置50、および、脱水装置50により脱水された消化汚泥SSを乾燥する乾燥装置70を備えている。
【0039】
このような構成により、汚泥の処理をより効率よく行うことができるとともに、本発明による効果をより顕著に発揮することができる。
【0040】
また、本発明の汚泥の処理システムは、被処理物である汚泥(固形分としての汚泥、および、消化液のような液体分)を各装置間で移送する移送手段(図示略)を備えていてもよい。
【0041】
本発明の汚泥の処理方法は、本発明の汚泥の処理システムを用いて好適に実施することができる。
【0042】
<消化工程(消化処理部)>
[メタン発酵処理(嫌気槽)]
まず、メタン発酵処理(嫌気消化処理)では、嫌気槽21において、有機性廃棄物である汚泥S1を嫌気性微生物によって分解し、メタンガスを生産しながら、減容化する。
【0043】
嫌気槽21には、嫌気性微生物群を高濃度に保持する微生物の固定床が設けられているのが好ましい。例えば、発酵槽内に微生物担体(例えば、ガラス繊維性、炭素繊維製の微生物担体等)を充填して固定床(図示せず)とすることができる。
【0044】
嫌気槽21内に導入された汚泥S1を嫌気性微生物群により消化させ、メタンガスにまで分解する。
【0045】
また、嫌気槽21には、汚泥S1を嫌気性微生物群の活性温度に保持する保温装置(図示せず)が設けられているのが好ましい。
【0046】
これにより、嫌気槽21内の汚泥S1をメタン生成微生物に適する発酵温度、例えば、中温域から高温域(37℃以上55℃以下程度)に維持することができ、メタン生成をさらに効率よく行うことができる。
なお、嫌気槽21は、例えば、固定床に代えて浮遊床方式とすることもできる。
【0047】
メタン生成嫌気性微生物により、汚泥S1中に含まれる有機酸等の有機物質は分解され、メタンガスおよび炭酸ガスが生成される。なお、メタン発酵処理により発生したメタンは、回収してエネルギー資源として再利用することができる。
【0048】
そして、メタン発酵処理(嫌気消化処理)された汚泥S1(消化液Sにも)は、有機残渣を含んでいる。メタン発酵処理(嫌気消化処理)を経て得られた消化液Sにはアンモニア性窒素およびリンが多く含まれているので、消化液をこのまま放流することは、環境に影響を与えることから規制されている。そこで、本実施形態では、析出処理部40を設けることで消化液Sからリン成分を析出させ、焼却処理される消化汚泥SS中に、炉に悪影響を与えやすい形態で含まれるリン成分の含有量を減らし、焼却の際に、過剰なリン成分の蒸発による焼却炉内の腐食等の問題の発生を効果的に防止することができる。
【0049】
嫌気槽21でメタン発酵処理された汚泥S1と消化液Sは、硝化脱窒素処理部である無酸素槽22に供給される。言い換えると、メタン発酵処理に供された汚泥(消化液S)は、その後、硝化脱窒素処理に供される。
【0050】
[硝化脱窒素処理(無酸素槽)]
硝化脱窒素処理では、無酸素槽22において、メタン発酵処理で発生したアンモニア性窒素を窒素ガスに変化させる。
【0051】
図示の構成では、無酸素槽(硝化脱窒素処理部)22は、被処理物である消化液S(嫌気槽21で処理された液相)に含まれている硝酸性窒素、亜硝酸性窒素を微生物(脱窒菌)処理で窒素に還元する無酸素部221と、好気性条件下でアンモニア性窒素を微生物(硝酸菌、亜硝酸菌)処理することで硝酸性窒素、亜硝酸性窒素を生成する好気部222を備えている。
【0052】
まず、無酸素部221において、無酸素の状態を好む硝化細菌(脱窒菌)によって、消化液S中に含まれる硝酸性窒素、亜硝酸性窒素を窒素ガスに変化させる(脱窒素処理)。次に、消化液Sは好気部222に送られる。好気部222においては、消化液S中に含まれるアンモニア性窒素を微生物(硝酸菌、亜硝酸菌)によって、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素へ変化させる。次いで、消化液Sは無酸素部221に送られる。このようにして、消化液Sは無酸素部221と好気部222の間を内部循環する。
【0053】
これにより、消化液に含まれるアンモニア性窒素、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素の量を少なくすることができる。
【0054】
なお、図示の構成では、無酸素槽22および好気槽23を1つずつ備えているが、無酸素槽22および好気槽23の組み合わせを複数段備えていてもよい。また、消化液Sを、同一の無酸素槽22および好気槽23を、繰り返し循環させるように構成してもよい。
【0055】
嫌気槽21および無酸素槽22では、脱リンされるので消化液S中のリン濃度は高くなる。
【0056】
[好気菌消化処理(好気槽)]
好気菌消化処理では、好気槽23において、好気菌により、被処理物(汚泥S1についての消化処理が一部進行した消化液S)中に含まれている有機物を消化させたり、脱リン菌(好気菌の一種)により、溶解状態で含まれているリン成分を取り込むようにする。
【0057】
これにより、例えば、消化液S中に溶解状態で含まれるリン成分の含有率を十分に低くすることができるため、本処理後の消化液Sを排水として処理することができる。
【0058】
<析出工程(析出処理部)>
嫌気槽21と無酸素槽22で消化処理された汚泥S1に脱水処理(固液分離)を施して、消化汚泥SSと消化液Sとに分離する。
【0059】
消化汚泥SSは脱水工程、燃焼工程に供され、消化液Sは析出処理部40での析出工程に供される。
【0060】
析出工程では、析出処理部40において、消化液Sを析出剤41と接触させ、消化液Sに含まれるリン成分の少なくとも一部を、リン酸塩として析出させる。
【0061】
特に、本実施形態では、析出処理部40が、無酸素槽22よりも下流側で好気槽23よりも上流側に設けられており、析出工程を硝化脱窒素処理と好気菌消化処理との間のタイミングで行う。すなわち、本実施形態では、消化工程中において析出工程を行う。
【0062】
これにより、好気槽23(好気菌消化処理)に供される消化液S中における溶解状態で含まれるリンの含有率を十分に低くすることができ、最終的に燃焼炉60に供給される消化汚泥SS中に、炉に悪影響を与えやすい形態で含まれるリン成分の含有量をより低くすることができる。その結果、焼却の際に、過剰なリン成分の蒸発による燃焼炉60内の腐食等の問題の発生をより効果的に防止することができる。
【0063】
また、析出処理部40を好気槽23よりも上流側に配置することにより、好気槽23で消化処理時に発生する消化汚泥SS(新しい菌)に、分解温度の低いリン成分が含まれることを効果的に防止することができる。すなわち、新しく発生する消化汚泥SSに含まれているリン濃度を低下させることができる。
【0064】
析出処理部40は、消化液Sに対して析出剤41を添加する析出剤添加手段42を備え、消化液S中に溶解状態で含まれるリン成分をリン酸塩として析出させる。
【0065】
析出剤添加手段42としては、例えば、ホッパー等を用いることができる。
析出剤添加手段42は、析出剤41を固体として添加してもよいし、液体(例えば、析出剤41の水溶液)として添加してもよい。
【0066】
また、析出処理部40は、図示のように、消化液Sと添加された析出剤41とを混合する撹拌手段43を備えているのが好ましい。
これにより、消化液Sと析出剤41とをより効率よく接触させることができる。
【0067】
析出剤41の添加により析出したリン成分(析出物)の少なくとも一部を、後に詳述する燃焼工程より前のタイミングで、系外に除去する(回収する)析出物除去工程を有していてもよい。
【0068】
析出物除去工程で除去(分離)される析出物は、通常、リン酸塩を主成分としており、その純度が比較的高く、不純物の含有率が低い。したがって、除去(分離)した析出物は、資源として利用しやすい形態である。
【0069】
このように、析出したリン成分(リン酸塩)を再利用することで、最終的な産業廃棄物量を減量することができる。
【0070】
析出物は、固液分離により好適に除去することができる。
析出物の具体的な除去方法としては、例えば、濾過、遠心分離、デカンテーション、スクリュープレス、ローラープレス、ロータリードラムスクリーン、ベルトスクリーン、振動スクリーン、多重板振動フィルター、真空脱水、加圧脱水、ベルトプレス、遠心濃縮脱水、多重円板脱水等の方法が挙げられ、これらから選択される1種または1種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
析出剤41は、リン酸塩等の析出を促進する機能を有していればよく、例えば、塩化カルシウム(CaCl2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)等のカルシウム系物質、塩化マグネシウム(MgCl2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、炭酸マグネシウム(MgCO3)等のマグネシウム系物質、ポリ塩化アルミニウム(〔Al2(OH)nCl6-n〕m(ただし、1≦n≦5であり、m≦10の関係を満足するのが好ましい。))、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム等のアルミニウム系物質、ポリ硫酸第二鉄、鉄塩等の鉄系物質等を用いることができるが、カルシウム系物質、マグネシウム系物質およびアルミニウム系物質よりなる群から選択される少なくとも1種を用いるのが好ましく、カルシウム系物質を用いるのがより好ましい。
【0072】
カルシウム系物質、マグネシウム系物質およびアルミニウム系物質よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることにより、融点が特に高いリン酸塩を形成することができ、析出物除去工程を省略した場合や、析出物除去工程を簡略化して析出物除去工程後の消化汚泥SS中に比較的多くの析出物が含まれる場合であっても、前述したような問題の発生を効果的に防止することができる。
【0073】
中でも、上記のカルシウム系物質は、イオン性物質であり、析出剤41として好適に機能させることができ、リン酸塩の一部となるカルシウム成分を系内に効率よく供給しつつ、混合物のpHを好適に調整することができる。その結果、本工程で、消化液Sに混合される析出剤41の使用量を抑制し、本工程を効率よく進行させることができる。また、このようなカルシウム系析出剤(カルシウム系物質)を用いることにより、比較的大きな析出物を容易に形成することができる。したがって、析出物除去工程での析出物の除去が容易である。また、このようなカルシウム系析出剤(カルシウム系物質)を用いることにより、析出物として、融点が比較的高いリン酸塩(例えば、Ca3(PO4)2(融点1670℃)、Ca2P2O7(融点1353℃)等)を好適に析出させることができる。
【0074】
以下に、析出剤41としてカルシウム系物質を用いた場合の反応式の例を示す。
CaCl2+2H3PO4→Ca(H2PO4)2+2HCl
Ca(H2PO4)2→Ca(HPO4)+H3PO4
2Ca(HPO4)→Ca2P2O7+H2O
CaCl2+H4P2O7→Ca2P2O7+4HCl
Ca(OH)2+2H3PO4→Ca(H2PO4)2+2H2O
Ca(H2PO4)→Ca(HPO4)+H3PO4
2Ca(HPO4)→Ca2P2O7+H2O
CaCO3+H2O→Ca(OH)2+CO2
Ca(OH)2+2H3PO4→Ca(H2PO4)2+2H2O
Ca(H2PO4)→Ca(HPO4)+H3PO4
2Ca(HPO4)→Ca2P2O7+H2O
【0075】
特に、析出剤41としては、塩化カルシウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましく、塩化カルシウムが好ましい。
【0076】
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。特に、塩化カルシウムは、水に対する溶解度が高く、析出反応がより速く進行し、本工程をより効率よく行うことができる。また、塩化カルシウムは、容易かつ安定的に入手することができ、他の析出剤に比べて比較的安価である。このようなことから、汚泥の処理コストの低減や安定的な処理の観点等からも有利である。
【0077】
なお、本明細書中において、リン酸のカルシウム塩とは、カルシウムイオン(Ca2+)と、リン酸系の陰イオン(リン酸イオン(PO4
3-)やピロリン酸イオン(P2O7
4-)等のポリリン酸等)とを含む塩を総称するものである。
【0078】
このようなリン酸のカルシウム塩としては、例えば、Ca2P2O7、Ca3(PO4)2、リン酸三カルシウム(Ca(H2PO4)2)、無水リン酸水素カルシウム(CaHPO4)、ヒドロキシアパタイト(HAP)(Ca10(PO4)6(OH)2)、やこれらの水和物等が挙げられる。
【0079】
また、本工程では、析出剤41として、2種類以上の物質を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
これにより、例えば、析出剤41の使用量を抑制しつつ、消化液S中に含まれるリン酸塩の析出率をより高くすることができる。また、例えば、析出工程で析出する析出物をより大きく成長させることができ、析出物除去工程での析出物の除去がより容易となる。また、析出するリン酸塩全体としての組成を調整し、燃焼炉60等に対する悪影響の発生をさらに効果的に防止することができる。
【0081】
析出剤41として、2種類以上の物質を組み合わせて用いる場合、これら複数の物質は、例えば、混合物として添加してもよいし、異なる組成の物質を異なるタイミングで付与してもよい。
【0082】
例えば、析出剤41として、カルシウム系物質とアルミニウム系物質とを併用してもよい。
【0083】
これにより、析出剤41の使用量を抑制しつつ、消化液S中に含まれるリン酸塩の析出率をさらに高くすることができる。また、析出工程で析出する析出物をさらに大きく成長させることができ、析出物除去工程での析出物の除去がさらに容易となる。また、析出物の熱安定性をより向上させることができ、析出物除去工程を省略したとしても、燃焼炉60等に対する悪影響の発生をより効果的に防止することができる。また、析出物除去工程を省略することにより、汚泥の処理効率をより向上させることができる。
【0084】
カルシウム系物質とアルミニウム系物質を併用する場合、当該アルミニウム系物質は、ポリ塩化アルミニウムおよびアルミニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
これにより、前述した効果がさらに顕著に発揮される。
【0085】
本工程において、析出剤41として、カルシウム系物質とアルミニウム系物質とを併用する場合、以下の条件を満足するのが好ましい。すなわち、本工程で用いる析出剤41中に含まれるカルシウムの物質量をXCa[mol]、アルミニウムの物質量をXAl[mol]としたとき、1.0≦XCa/XAl≦4.0の関係を満足するのが好ましく、1.3≦XCa/XP≦3.0の関係を満足するのがより好ましく、1.5≦XCa/XAl≦2.5の関係を満足するのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がさらに顕著に発揮される。
【0086】
析出物の組成は、析出剤41の組成によって異なる。
例えば、析出剤41としてカルシウム系物質を用いると、析出物は、Ca3(PO4)2、Ca(H2PO4)2、CaHPO4等のカルシウム系の塩を含むものとなる。
【0087】
また、析出剤41としてアルミニウム系物質を用いると、析出物は、AlPO4等のアルミニウム系の塩を含むものとなる。
【0088】
また、析出剤41として鉄系物質を用いると、析出物は、FePO4、Fe3(PO4)2等の鉄系の塩を含むものとなる。
【0089】
また、本工程での消化液Sと析出剤41とを含む混合物のpH(本工程終了時におけるpH)は、3以上13以下であるのが好ましく、5以上10以下であるのがより好ましい。
【0090】
これにより、固体状のリン酸塩をより効率よく析出させることができるとともに、析出した塩が再溶解してしまうことをより効果的に防止することができる。
【0091】
本工程の処理温度は、特に限定されないが、0℃以上90℃以下であるのが好ましく、10℃以上80℃以下であるのがより好ましく、15℃以上60℃以下であるのがさらに好ましい。
【0092】
これにより、リン酸塩を析出剤41により効率よく析出させることができ、短時間で効率よく本工程を行うことができる。
【0093】
本工程(析出工程)終了時における、消化液S中に含まれる溶解成分としてのリンの除去率(何ら処理が施されていない被処理物である消化液Sからのリンの除去率で、元素Pに換算した値。析出率。)は、特に限定されず、燃焼炉60での状況によってかわるが、10質量%以上98質量%以下であるのが好ましく、50質量%以上90質量%以下であるのがより好ましい。
【0094】
これにより、本発明による効果がより顕著に発揮され、燃焼炉60等に与える悪影響をより効果的に抑制することができる。
【0095】
これに対し、溶解成分としてのリンの除去率が低すぎると、前述したような本発明による効果が十分に発揮されない可能性がある。
【0096】
一方、溶解成分としてのリンの除去率を必要以上に高くしても、焼却炉等に対する悪影響の程度はほとんど変化せず、析出剤41の使用量が増大する等の問題を生じ、汚泥の処理効率、コスト等の観点から好ましくない。
【0097】
析出処理部40で析出処理された消化液Sは、消化処理部20の好気槽(好気菌消化処理部)23に供給され、前述したような好気菌による好気菌消化処理と、脱リン菌による脱リン処理が施される。
【0098】
<脱水工程(脱水装置)>
消化処理、析出処理後、処理済みの消化液Sを含む消化汚泥SSは、脱水装置50に供給される。
【0099】
脱水工程では、脱水装置50を用いて、消化汚泥SSに脱水処理を施し、消化汚泥SSの含水率を低くする。
【0100】
これにより、燃焼炉60における燃焼温度を低下させず、燃焼工程をより効率よく行うことができる。
【0101】
脱水装置50としては、例えば、ベルトプレス型脱水装置、遠心分離型脱水装置、フィルタプレス等の脱水装置を採用することができる。
【0102】
ここで、もともとの消化液S中に含まれていたリンは、析出工程(析出処理部40)を経て、その多くが、分解温度が高く、より安定性に優れるリン酸塩に変換されていたり、系外に除去されたりしており、好気槽(好気菌消化処理)で脱リン菌(好気菌の一種類)に取り込まれるリンの量も比較的少なく、好気槽23で発生する消化汚泥SS(余剰汚泥)も、燃焼時に蒸発するリン成分の含有率が低い。
【0103】
脱水処理された消化汚泥SSは、さらに、加熱乾燥機等を用いて乾燥処理を施してもよい。
【0104】
加熱乾燥機としては、例えば、熱風乾燥機、ベルト乾燥機、キルン乾燥機等の乾燥機を採用することができる。
【0105】
これにより、消化汚泥SSの含水率をより低くすることができ、燃焼工程をさらに効率よく行うことができる。
【0106】
脱水装置50で脱水処理された消化汚泥SSは燃焼炉60に供給される。言い換えると、脱水工程に供された消化汚泥SSは、その後、燃焼工程に供される。
【0107】
<燃焼工程(燃焼炉)>
燃焼工程では、燃焼炉60において、上述した処理が施された消化汚泥SSを燃焼する。
【0108】
このとき、消化汚泥SSが、脱水処理により含水率が低くなされていると、燃焼温度の不本意な低下をより効果的に防止しつつ、より効率よく本工程を行うことができる。また、燃焼温度の制御も容易となる。
【0109】
燃焼炉60としては、例えば、流動層燃焼炉、回転型燃焼炉、固定層燃焼炉、ストーカー式燃焼炉、ガス化溶融炉等を採用することができる。
【0110】
燃焼炉60は、高温の流動媒体(砂)61からなる流動媒体層を有する流動層燃焼炉であるのが好ましい。高温の流動媒体(砂)61に消化汚泥SSを投入することで、流動する砂の熱量を利用して消化汚泥SSをムラなく、より短時間で燃焼することができる。
【0111】
図1に示す例において、流動層燃焼炉としての燃焼炉60は、鉛直方向に延びる筒状の形状をしており、その内部が、ガスの上側への移動を許容する分散板62によって仕切られて、分散板62より下側がガス供給部63とされている。分散板62の上側には、流動媒体61である砂からなる流動媒体層を有する。ガス供給部63は、外部から供給された高温のガスを、分散板62を介して、上側の流動媒体層へ向かって送ることができるようになっている。流動媒体層は、ガス供給部63から供給されるガスにより流動するようになっている。
【0112】
そして、高温の流動媒体61に消化汚泥SSを投入することで、流動砂の熱量を利用して消化汚泥SSをムラなく、より短時間で燃焼することができる。
【0113】
燃焼工程において、燃焼時の炉内温度(最高炉内温度)は、500℃以上1500℃以下であるのが好ましく、550℃以上900℃以下であるのがより好ましい。
【0114】
これにより、燃焼処理に要するエネルギー量を削減しつつ、短時間で効率よく本工程を行うことができる。また、燃焼炉60等への悪影響をより効果的に防止することができる。
【0115】
本工程の処理時間(500℃以上での燃焼時間)は、1分以上120分以下であるのが好ましく、5分以上30分以下であるのがより好ましい。
【0116】
これにより、燃焼処理に要する費用を削減しつつ、効率よく本工程を行うことができる。
本工程で燃焼された消化汚泥SSは、処理生成物である燃焼灰となる。
【0117】
≪第2実施形態≫
図3は、本発明の汚泥の処理システムの第2実施形態を模式的に示す図である。
【0118】
以下、この図を参照して本発明の汚泥の処理方法、汚泥の処理システムの第2実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0119】
本実施形態は、消化工程(消化処理部20)と析出工程(析出処理部40)との関係が異なる以外は前記第1実施形態と同様である。
【0120】
より具体的には、前述した実施形態では、析出処理部40が消化処理部20を構成する嫌気槽21および無酸素槽22よりも下流側に設けられており、嫌気消化処理および硝化脱窒素処理の後に、析出処理を行うように構成されていたが、本実施形態では、嫌気槽21および無酸素槽22に、それぞれ、析出剤添加手段42および撹拌手段43が設けられており、嫌気処理(メタン発酵処理)中および無酸素処理(硝化脱窒素処理)中に析出処理を施すように構成されている。言い換えると、嫌気槽21および無酸素槽22が、析出処理部としても機能するように構成されている。
【0121】
このような構成にすることにより、消化処理および析出処理をより効率よく行うことができ、汚泥の処理方法全体としての効率のさらなる向上を図ることができる。
【0122】
なお、図示の構成では嫌気槽21および無酸素槽22の両方で、析出処理を行っているが、析出処理は、これらのうちの一方のみで行ってもよい。
【0123】
≪第3実施形態≫
図4は、本発明の汚泥の処理システムの第3実施形態を模式的に示す図である。
図5は、
図4に示す処理システムが備える吸着処理部の一例を模式的に示す図である。
図6は、本発明の汚泥の処理方法の第3実施形態を示す工程図である。
【0124】
以下、これらの図を参照して本発明の汚泥の処理方法、汚泥の処理システムの第3実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0125】
本実施形態は、前述した工程(構成)に加えて、さらに、吸着工程(吸着処理部30)を有している以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0126】
より具体的には、本実施形態では、消化処理部20を構成する嫌気槽21および無酸素槽22よりも下流側で、かつ、析出処理部40よりも上流側に、吸着処理部30が設けられており、析出工程に先立って、吸着工程を行うように構成されている。
【0127】
このような構成により、燃焼工程(燃焼炉60)に供される消化汚泥SS中におけるリン成分の含有率をより低くすることができる。その結果、燃焼時に蒸発するリン成分の量をさらに減らし、燃焼炉に与える悪影響をさらに効果的に抑制することができる。
【0128】
<吸着工程(吸着処理部)>
吸着工程では、吸着処理部30において、消化液Sを吸着剤36と接触させ、消化液Sに含まれるリン成分の少なくとも一部を、吸着剤36に吸着させ、吸着剤成分と反応させることでリン酸カルシウム又はリン酸マグネシウムとして析出して除去する。
【0129】
特に、本実施形態では、吸着処理部30が、無酸素槽22よりも下流側で好気槽23よりも上流側に設けられており、吸着工程を硝化脱窒素処理と好気菌消化処理との間のタイミングで行う。すなわち、本実施形態では、消化工程中において吸着工程を行う。
【0130】
これにより、好気槽23(好気菌消化処理)に供される消化液S中におけるリンの含有率をより低くすることができ、最終的に燃焼炉60に供給される消化汚泥SS中に含まれるリンの含有率をより低くすることができる。その結果、焼却の際に、過剰なリン成分の蒸発による燃焼炉60内の腐食等の問題の発生をより効果的に防止することができる。
【0131】
吸着剤36は、消化液S中のリン成分を吸着することができればよいが、例えば、ドロマイト類、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
中でも、吸着工程では、吸着剤36としてドロマイト類を用いるのが好ましい。
【0132】
これにより、消化液S中に含まれるリン成分をドロマイト類により効率よく吸着させることができる。また、リン成分とともに、消化液S中に含まれる重金属も効率よく除去することができる。
【0133】
本工程で用いるドロマイト類としては、ドロマイト、水酸化ドロマイト(消化ドロマイト。ドロマイトプラスターを含む)、軽焼ドロマイト、ドロマイトクリンカー等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0134】
中でも、水酸化ドロマイトを用いることにより、消化液S中に含まれるリン成分をドロマイト類にさらに効率よく吸着させることができる。また、消化液S中に含まれる重金属もより効率よく除去することができる。
【0135】
また、ドロマイトを用いることにより、吸着剤36としてのドロマイト類の選択の幅が広がり、ドロマイト類の粒径や細孔径等の条件を最適な条件に調整することができる。また、吸着剤36がより安価であるため、汚泥の処理コストのさらなる低減の観点からも有利である。
【0136】
本工程で用いる吸着剤36は、通常、多孔質である。
これにより、吸着剤36の単位質量(単位体積)当たりの表面積を大きくすることができ、リン成分の除去効率をさらに向上させることができる。
【0137】
吸着剤36(特に、ドロマイト類)の平均細孔径は、特に限定されないが、1nm以上100μm以下であるのが好ましく、2nm以上100μm以下であるのがより好ましく、50nm以上30μm以下であるのがさらに好ましい。
【0138】
これにより、吸着剤36の耐久性を確保しつつ、吸着剤36によるリン成分の吸着効率をさらに向上させることができる。また、消化液S中に含まれる重金属もより効率よく除去することができる。
【0139】
吸着剤36(特に、ドロマイト類)のBET比表面積は、特に限定されないが、10m2/g以上であるのが好ましく、40m2/g以上1000m2/g以下であるのがより好ましい。
【0140】
これにより、吸着剤36によるリン成分の吸着効率をさらに向上させることができる。また、消化液S中に含まれる重金属もより効率よく除去することができる。
【0141】
吸着剤36(特に、ドロマイト類)の形状、大きさは特に限定されないが、吸着剤36が粒子状をなしている場合、その平均粒径は、3μm以上200mm以下であるのが好ましく、100μm以上100mm以下であるのがより好ましく、1mm以上50mm以下であるのがさらに好ましい。
【0142】
これにより、吸着剤36の単位質量(単位体積)当たりの粒子表面積を大きくすることや吸着剤36にリン成分を均一に吸着させることができるとともに、粒子状の吸着剤36が不本意に凝集してしまうこと等が効果的に防止され、吸着剤36の流動性、取り扱いのしやすさが向上する。また、容器(例えば、カラム35)への充填性(充填のしやすさ、容器の形状に対する追従性)を向上させることができる。
【0143】
吸着工程で吸着剤36に吸着させるリン成分は、少なくともその一部が消化液Sに溶解状態で含まれていればよい。
【0144】
本工程で吸着剤36に吸着されるリン成分としては、例えば、リン酸イオンやその塩(例えば、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム等)、亜リン酸やその塩、ペルオキソ一リン酸やその塩、ホスホン酸やその塩、ホスフィン酸やその塩、五酸化二リン等のリンの酸化物、五塩化リン等のリンのハロゲン化物、塩化ホスホリル等のハロゲン化ホスホリル、一リン化カルシウム、二リン化酸カルシウム等のリン化カルシウム等が挙げられる。
【0145】
本工程での消化液Sと吸着剤36とを含む混合物のpH(本工程終了時におけるpH)は、3以上13以下であるのが好ましく、5以上10以下であるのがより好ましい。
【0146】
これにより、リン成分を吸着剤36により効率よく吸着させることができ、本工程をより効率よく行うことができる。
【0147】
以下、吸着処理部30について詳細に説明する。
図5に示すように、吸着処理部30は、消化液Sが入れられた処理槽31と、吸着剤36が充填されたカラム(容器)35と、処理槽31とカラム35の下部とを接続して配され、処理槽31からカラム35に消化液Sを供給する第1の配管32と、カラム35の上部と処理槽31とを接続して配され、カラム35を通過した消化液Sを処理槽31に戻す第2の配管33とを有している。
【0148】
図示の構成では、消化液Sは、処理槽31の下部から、第1の配管32を通じてカラム35に供給される。なお、消化液Sは、処理槽31の上部からカラム35に供給される構成であってもよい。
【0149】
カラム35に消化液Sを通す場合に、図示のように、カラム35の下側から上側に向けて消化液Sを通すのが好ましい。
【0150】
これにより、カラム35の内部に消化液Sを行き渡らせることができ、カラム35に充填された吸着剤36と消化液Sとをより効率よく接触させて、消化液S中に含まれるリン成分を、吸着剤36により効率よく吸着させることができる。特に、吸着剤36としてドロマイト類を用いる場合、ドロマイト類の空孔内においてもリン成分をドロマイト類により効率よく吸着させることができる。
【0151】
カラム35を通過した消化液Sは、カラム35の上部から、第2の配管33を通じて処理槽31に戻される。
【0152】
吸着剤36による吸着作用により、カラム35を通過した後の消化液Sは、カラム35を通過する前の消化液Sに比べて、リンの濃度が低下している。
【0153】
また、処理槽31とカラム35との間で消化液Sを循環させることで、繰り返し吸着処理を行い、より効率よく吸着剤36にリン成分を吸着させることができる。
【0154】
吸着剤36が充填されたカラム35に消化液Sを通すことにより、吸着剤36と接触させた後の吸着剤36からの消化液Sの分離が容易になる。
【0155】
また、カラム35を着脱可能なカートリッジとすることにより、吸着剤36の交換を容易に行うことができる。また、リン成分を吸着した吸着剤36の回収も容易に行うことができる。
【0156】
なお、消化液Sは多くの固形分(夾雑物)を含む場合があり、消化液Sをそのままカラム35に通すと、固形分によりカラム35が目詰まりを起こしてしまう可能性がある。
【0157】
そこで、カラム35に供給される消化液Sから、カラム35が目詰まりしない程度に、比較的大きな固形分(夾雑物)を除去しておくのが好ましい。例えば、
図5に示すように、フィルター、スクリーン、トロンメル、渦流式分水槽(スワール分水槽)等の夾雑物除去手段34を、第1の配管32の入り口または中途部に配しておくのが好ましい。
【0158】
これにより、カラム35の目詰まりを効果的に防止しつつ、長期間にわたってより安定的に、消化液Sと吸着剤36とを接触させることができる。また、処理システム1のメンテナンス(吸着剤36の交換を含む)の頻度を減らすことができ、消化液Sの処理の効率をより向上させることができる。
【0159】
本工程の処理時間(消化液Sがカラム35に入り、吸着剤36との接触時間、即ち滞留時間)は、特に限定されないが、1分以上1日以下であるのが好ましく、10分以上3時間以下であるのがより好ましい。
【0160】
これにより、消化液Sの処理効率の低下を効果的に防止しつつ、吸着剤36によるリン成分の吸着効率をさらに向上させることができる。
【0161】
本工程の処理温度は、特に限定されないが、0℃以上90℃以下であるのが好ましく、10℃以上80℃以下であるのがより好ましく、15℃以上60℃以下であるのがさらに好ましい。
【0162】
これにより、リン成分を吸着剤36により効率よく吸着させることができ、短時間で効率よく本工程を行うことができる。
【0163】
本工程(吸着工程)終了時における、消化液S中に含まれる溶解成分としてのリンの除去率(何ら処理が施されていない被処理物である消化液Sからのリンの除去率で、元素Pに換算した値)は、特に限定されず、燃焼炉60での状況によってかわるが、10質量%以上98質量%以下であるのが好ましく、50質量%以上90質量%以下であるのがより好ましい。
【0164】
これにより、吸着工程を行うことによる効果がより顕著に発揮され、燃焼炉60等に与える悪影響をより効果的に抑制することができる。
【0165】
これに対し、溶解成分としてのリンの除去率が低すぎると、前述したような吸着工程を行うことによる効果が十分に発揮されない可能性がある。
【0166】
一方、溶解成分としてのリンの除去率を必要以上に高くしても、焼却炉等に対する悪影響の程度はほとんど変化せず、吸着剤36の使用量が増大し、吸着工程に要する時間が必要以上に長くなる等の問題を生じ、消化液Sの処理効率、コスト等の観点から好ましくない。
【0167】
本実施形態では、吸着工程に供された消化液Sは、析出処理部40に供給され、前述したような析出処理が施される。
【0168】
≪第4実施形態≫
図7は、本発明の汚泥の処理システムの第4実施形態を模式的に示す図である。
図8は、
図7に示す処理システムが備える吸着処理部と嫌気槽との関係を模式的に示す図である。
【0169】
以下、これらの図を参照して本発明の汚泥の処理方法、汚泥の処理システムの第4実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0170】
本実施形態は、消化工程(消化処理部20)と吸着工程(吸着処理部30)との関係が異なる以外は前記第3実施形態と同様である。
【0171】
より具体的には、前述した第3実施形態では、吸着処理部30が消化処理部20を構成する嫌気槽21および無酸素槽22よりも下流側に設けられており、嫌気消化処理および硝化脱窒素処理の後に、吸着処理を行うように構成されていたが、本実施形態では、吸着処理部30’が、嫌気槽21および無酸素槽22にそれぞれ付設されており、嫌気処理(メタン発酵処理)中および無酸素処理(硝化脱窒素処理)中に吸着処理を施すように構成されている。
【0172】
吸着処理部30’は、前記第1実施形態で説明したのと同様のカラム(容器)35、吸着剤36、第1の配管32、第2の配管33および夾雑物除去手段34を備えている。
【0173】
このような構成にすることにより、消化処理および吸着処理をより効率よく行うことができ、汚泥の処理方法全体としての効率のさらなる向上を図ることができる。
【0174】
なお、吸着処理部30’は、図示の構成では嫌気槽21および無酸素槽22の両方に付設されているが、これらのうちの一方のみに付設されていてもよい。
【0175】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されない。
【0176】
例えば、本発明の汚泥の処理方法は、前述した工程以外の工程(例えば、前処理工程、中間処理工程、後処理工程等)を有していてもよい。
【0177】
また、例えば、本発明の汚泥の処理システムは、前述した構成以外の構成(例えば、前処理装置、中間処理装置、後処理装置等)を有していてもよい。
【0178】
また、前述した実施形態では、析出処理部を、無酸素槽より下流側でかつ好気槽より上流側の部位に設けた構成、嫌気槽および無酸素槽のうち少なくとも一方が析出処理部としても機能する構成(嫌気槽および無酸素槽のうち少なくとも一方に析出剤を添加する構成)について説明したが、例えば、嫌気槽および無酸素槽のうち少なくとも一方(一方のみである場合には、無酸素槽がより効果的である)に、析出処理部を付設し、当該析出処理部に固液分離膜で分離した消化液を導入し、当該析出処理部において析出剤を添加する構成であってもよい。この場合、当該析出処理部で処理された消化液を嫌気槽、無酸素槽に戻すように構成してもよい。特に、この場合、処理済みの消化液から析出した析出物を分離、回収し、析出物が除去された消化液を嫌気槽、無酸素槽に戻すのが好ましい。また、嫌気槽、無酸素槽と析出処理部との間で消化液を循環させ、繰り返し析出処理を施してもよい。
【0179】
また、前述した実施形態では、析出処理の後に好気菌による処理を行う場合について代表的に説明したが、好気菌による処理は省略してもよい。より具体的には、例えば、析出処理により、十分にリンを析出させることができている場合等には、好気菌による処理を省略してもよい。
【0180】
また、析出工程に加えて吸着工程を行う場合、前述した実施形態(第3実施形態、第4実施形態)では、析出工程の前に吸着工程を行う場合について説明したが、析出工程の後に吸着工程を行ってもよい。
【0181】
また、析出工程に加えて吸着工程を行う場合、前述した実施形態(第3実施形態、第4実施形態)では、析出処理部の構成が第1実施形態と同様である場合について説明したが、析出処理部の構成は第2実施形態と同様であってもよい。
【実施例】
【0182】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0183】
《1》析出剤の量とリン析出率との関係
(実験例1)
リン酸を水に溶かしてリン酸溶液を調製した。比較のため、1Nの塩酸溶液(塩化水素水溶液)200mLに10gの灰を添加し、80℃、リン成分を完全に溶解させ、残渣と分離したリン酸溶液も調製した。次に、リン成分を溶解させた溶液200mLを撹拌しつつ、1N水酸化ナトリウム溶液を添加し、嫌気消化処理槽、消化脱窒処理槽内のpH条件をpH8に調節した。塩化カルシウム(析出剤)の添加量をリンとカルシウム比(P/Ca)を変えながら、リン酸カルシウムの析出率を調べた。
【0184】
リン溶解液に塩化カルシウム(析出剤)を加え終わった後、さらに60分間撹拌し、その後、析出したリン酸カルシウムを濾別した。
【0185】
得られた濾液(液体)について、モリブデンブルー法により、液体中に含まれるリン成分の濃度を求め、その結果から、析出剤によるリン成分の析出率を求めた。
【0186】
また、析出剤の使用量を種々変更した以外は、前記と同様にして、測定を行い析出剤によるリン成分の析出率を求めた。
この実験結果を
図9に示す。
【0187】
(実験例2)
析出剤として、塩化カルシウムの代わりに、水酸化カルシウムを用いた以外は、前記実験例1と同様にして析出剤によるリン成分の析出率を求めた。
この実験結果を
図10に示す。
【0188】
(実験例3)
析出剤として、塩化カルシウムの代わりに、塩化マグネシウムを用いた以外は、前記実験例1と同様にして析出剤によるリン成分の析出率を求めた。
この実験結果を
図11に示す。
【0189】
(実験例4)
リン酸を水に完全に溶解させ、リン酸水溶液を調製した。次に、この溶液に、1N水酸化ナトリウム溶液を添加し、嫌気消化処理槽、消化脱窒処理槽内のpH条件と同じになるようにpH8に調節した。そこに、ポリ塩化アルミニウム(析出剤)の添加量を変えながら、リン酸アルミニウムとして析出率を調べた。その時、撹拌時間は60分間に固定した。その後、析出したリン酸アルミニウムを濾別し、得られた濾液(液体)について、モリブデンブルー法により、液体中に含まれるリン成分の濃度を求め、その結果から、ポリ塩化アルミニウムによるリン成分の析出率を求めた。この実験結果を
図12に示す。
【0190】
図9~
図12から明らかなように、汚泥と析出剤とを接触させることにより、汚泥の消化液中のリン成分を析出により効率よく析出させ、溶解成分としてのリンの含有率を効果的に低下させることができることがわかる。また、いずれの析出剤においても、析出剤の量が多くなるほど、リンの除去率(析出率)は増加した。
【0191】
なお、析出剤として、塩化カルシウムの代わりに、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウムとポリ塩化アルミニウムとの混合物を用いた以外は、前記実験例と同様の処理を行ったところ、前記と同様に、リン成分の析出が確認された。
【0192】
上記の実験から明らかなように、消化液に含まれるリンイオンと析出剤とを接触させることにより、汚泥消化液中のリン成分を効率よく析出させ、溶解成分としてのリンの含有率を効果的に低下させることができることがわかる。また、リン成分の析出率は、リン成分と添加剤の量(P/添加剤比)に依存することも確認された。
【0193】
《2》燃焼温度とリン蒸発量との関係
まず、脱リン消化汚泥を用意した。
【0194】
その後、消化汚泥を脱水、乾燥した後、その一部について、前記と同様にしてリン成分の濃度を求めた。また、脱水、乾燥した消化汚泥の残部のうちの一部について、空気雰囲気で完全燃焼を行った。その時、炉内温度は、600℃であった。得られた燃焼灰について、前記と同様にしてリン成分の濃度を求めた。これらの結果から、汚泥灰に含まれるリン成分量を求めた。また、燃焼によるリン成分の減少量を求めた。
【0195】
また、炉内温度を種々変更した以外は、前記と同様にして、消化汚泥を燃焼し、燃焼によるリン成分の減少量を求めた。
この実験結果を
図13に示す。
【0196】
図13から明らかなように、汚泥の消化液に析出剤を添加することにより汚泥灰に含まれるリン含有率は30%から21%に低下した。また、消化汚泥の燃焼時の炉内温度が高くなることにより、燃焼灰に移行するリンの含有率が低下しており、燃焼工程においてリン成分が蒸発していることが分かる。特に、燃焼温度を高くするほど、燃焼灰のリン含有率が低下するので、リン成分の蒸発量が高くなることが分かる。
【0197】
以上の結果から、汚泥の消化液に析出剤を添加することにより、汚泥の消化液中に溶解成分として含まれているリン成分を、析出剤により析出させることができ、消化液中に溶解成分として含まれているリン成分の含有率を効果的に低下させることができることがわかった。
【0198】
また、燃焼時に、燃焼炉温度を下げることにより、燃焼炉に与える悪影響を少なくすることができると推測される。
【0199】
《3》吸着剤の量とリン除去率との関係
(実験例5)
吸着剤表面にリン成分を吸着させ、吸着剤の成分又は一部成分と反応させ、熱分解温度が高い物質(リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム)として析出する実験を行うため、まず、0.5Nの塩酸を調製した。
【0200】
次に、この塩酸200mLを分取し、ここにリン含有率30質量%の汚泥灰10gを添加し、リン成分を完全に溶解させた。
【0201】
次に、リン成分を溶解させた塩酸から、100mL分取し、これに、0.3gの粒子状のドロマイト原石(平均粒径:1mm)を加え、30分間撹拌した。
撹拌終了後に、吸着剤(ドロマイト原石)を濾別した。
【0202】
得られた濾液(液体)について、モリブデンブルー法により、液体中に含まれるリン成分の濃度を求め、その結果から、吸着剤(ドロマイト原石)によるリン成分の吸着率を求めた。
【0203】
また、吸着剤(ドロマイト原石)の使用量を種々変更した以外は、前記と同様にして、測定を行い吸着剤(ドロマイト原石)によるリン成分の吸着率を求めた。
この実験結果を
図14に示す。
【0204】
(実験例6)
吸着剤として、平均粒径:1mmのドロマイト原石の代わりに、平均粒径:1mmの水酸化ドロマイトを用いた以外は、前記実験例5と同様にして吸着剤によるリン成分の吸着率を求めた。
この実験結果を
図15に示す。
【0205】
(実験例7)
吸着剤として、平均粒径:1mmのドロマイト原石の代わりに、平均粒径:1mmの軽焼ドロマイトを用いた以外は、前記実験例5と同様にして吸着剤によるリン成分の吸着率を求めた。
この実験結果を
図16に示す。
【0206】
(実験例8)
吸着剤として、平均粒径:1mmのドロマイト原石の代わりに、平均粒径:3mmの軽焼ドロマイトを用いた以外は、前記実験例5と同様にして吸着剤によるリン成分の吸着率を求めた。
この実験結果を
図17に示す。
【0207】
図14~
図17から明らかなように、汚泥と吸着剤(特にドロマイト類)とを接触させることにより、汚泥中のリン成分を効率よく除去できることがわかる。
【0208】
また、いずれの吸着剤においても、吸着剤の量が多くなるほど、リンの除去率は増加し、特に、吸着剤として水酸化ドロマイト、軽焼ドロマイトを用いた実験例6~8では、吸着剤1gでリンをほぼ100%の割合で除去できている。
【0209】
《4》pHとリン除去率との関係
(実験例9)
嫌気性微生物を用いた嫌気処理(メタン発酵処理)および無酸素処理(硝化脱窒素処理)時の消化液に準じるリンが含まれている溶液(消化液)に塩酸または水酸化ナトリウムを滴下し所定のpHに調整した。
【0210】
このようにしてpHが調整された消化液を100mLだけ分取し、これに、所定量の粒子状のドロマイト原石(平均粒径:1mm)を加え、30分間撹拌した。
撹拌終了後に、吸着剤(ドロマイト原石)を濾別した。
【0211】
得られた濾液(液体)について、モリブデンブルー法により、液体中に含まれるリン成分の濃度を求め、その結果から、吸着剤(ドロマイト原石)によるリン成分の吸着率を求めた。なお、液体中におけるリン成分のうち80質量%以上は、リン酸またはその塩であった。
【0212】
また、測定に用いる消化液のpHを種々変更した以外は、前記と同様にして、測定を行い吸着剤(ドロマイト原石2g)によるリン成分の吸着率を求めた。
この実験結果を
図18に示す。
【0213】
(実験例10)
吸着剤として、平均粒径:1mmのドロマイト原石の代わりに、平均粒径:1mmの水酸化ドロマイトを用いた以外は、前記実験例9と同様にして吸着剤によるリン成分の吸着率を求めた。
この実験結果を
図19に示す。
【0214】
(実験例11)
吸着剤として、平均粒径:1mmのドロマイト原石の代わりに、平均粒径:1mmの軽焼ドロマイトを用いた以外は、前記実験例9と同様にして吸着剤によるリン成分の吸着率を求めた。
この実験結果を
図20に示す。
【0215】
(実験例12)
吸着剤として、平均粒径:1mmのドロマイト原石の代わりに、平均粒径:3mmの軽焼ドロマイトを用いた以外は、前記実験例9と同様にして吸着剤によるリン成分の吸着率を求めた。
この実験結果を
図21に示す。
【0216】
図18~
図21から明らかなように、吸着剤の添加により、消化液中に含まれるリン成分を効率よく吸着除去することができ、吸着処理後の消化液(液体)中に含まれるリン成分の含有量を十分に低くできることが確認された。また、リン成分の吸着率は、吸着剤の条件、pH条件に依存することも確認された。
【0217】
《5》処理時間(接触時間)とリン除去率との関係
(実験例13)
嫌気性微生物を用いた嫌気処理(メタン発酵処理)および無酸素処理(硝化脱窒素処理)時の消化液に準じるリンが含まれている溶液(消化液)を準備した。
【0218】
この消化液を100mLだけ分取し、これに、0.8gの粒子状の水酸化ドロマイト(平均粒径:1mm)を加え、30分間撹拌した。
撹拌終了後に、吸着剤(水酸化ドロマイト)を濾別した。
【0219】
得られた濾液(液体)について、モリブデンブルー法により、液体中に含まれるリン成分の濃度を求め、その結果から、吸着剤(水酸化ドロマイト)によるリン成分の吸着率を求めた。
【0220】
また、消化液と吸着剤(水酸化ドロマイト)との接触時間を種々変更した以外は、前記と同様にして、測定を行い吸着剤(水酸化ドロマイト)によるリン成分の吸着率を求めた。
この実験結果を
図22に示す。
【0221】
図22から明らかなように、吸着剤との接触により、消化液中に含まれるリン成分を効率よく吸着除去することができ、吸着処理後の消化液(液体)中に含まれるリン成分の含有量を十分に低くできることが確認された。特に、5分程度の接触時間で、リンをほぼ100%の割合で除去できている。
【0222】
以上の結果から、汚泥の消化液に含まれているリン成分を、吸着剤(ドロマイト類)に吸着させ、吸着剤成分と反応させることで、効率よく除去できることがわかった。これにより、消化液中に含まれているリンの量を減らすことができ、消化汚泥に含まれるリン濃度も減らせることができる。その結果、燃焼時に蒸発しやすい状態のリン成分が低下し、燃焼炉に与える悪影響を抑制することができる。
【0223】
なお、前記実験例5~13で用いた吸着剤は、いずれも、多孔質で、平均細孔径が5nm以上30nm以下の範囲内の値であり、BET比表面積が40m2/g以上1000m2/g以下の範囲内の値であった。
【0224】
また、吸着工程での処理温度を15℃以上60℃以下の範囲内で変更した以外は、前記各実験例と同様にして処理を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
【0225】
また、前記の実験例では、消化液に吸着剤を添加して混合することにより、消化液と吸着剤とを接触させたが、吸着剤を充填したカラムに消化液を通すことによっても、上記のような結果が得られると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0226】
本発明の汚泥の処理方法は、汚泥の消化液に析出剤を添加し、前記消化液に含まれるリン成分の少なくとも一部を析出させる析出工程と、前記析出工程で処理された前記消化液から得られる消化汚泥を燃焼する燃焼工程とを有する。また、本発明の汚泥の処理システムは、汚泥の消化液に析出剤を添加し、前記消化液に含まれるリン成分の少なくとも一部を析出させる析出処理部と、前記析出処理部で処理された前記消化液から得られる消化汚泥を燃焼する燃焼炉とを備える。そのため、燃焼時に蒸発するリン成分の量を減らし、燃焼炉に与える悪影響を抑制することができる汚泥の処理方法、汚泥の処理システムを提供することができる。したがって、本発明の汚泥の処理方法、汚泥の処理システムは、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0227】
1…汚泥の処理システム
20…消化処理部
21…嫌気槽(メタン発酵処理部)
22…無酸素槽(硝化脱窒素処理部)
221…無酸素部
222…好気部
23…好気槽(好気菌消化処理部)
30…吸着処理部(吸着槽)
30’…吸着処理部
31…処理槽
32…第1の配管
33…第2の配管
34…夾雑物除去手段
35…カラム(容器)
36…吸着剤
40…析出処理部(析出槽)
41…析出剤
42…析出剤添加手段
43…撹拌手段
50…脱水装置
60…燃焼炉
61…流動媒体(砂)
62…分散板
63…ガス供給部
70…乾燥装置
S1…汚泥
S…消化液
SS…消化汚泥