(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】がん微小環境を制御する治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20230110BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230110BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230110BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230110BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
A61K31/7105 ZNA
A61K48/00
A61K39/395 N
A61P43/00 111
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2018146981
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】山本 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓
(72)【発明者】
【氏名】萬 顯
(72)【発明者】
【氏名】菅井 有
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/183943(WO,A2)
【文献】United European Gastroenterology Journal, 2018.8, Vol.6, No.8, Supp., p. A271. Abstract Number: P0413
【文献】Cell Death and Disease, 2013, Vol.4, #e914
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00 - 45/08
A61K 48/00
A61K 31/00-31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AEBP1(adipocyte enhancer binding protein 1)
の阻害剤を含む、大腸がんを処置するための医薬組成物であって、AEBP1の阻害剤が、AEBP1の転写体RNAに対するsiRNA、アンチセンス核酸、shRNAまたはmiRNA、またはAEBP1を認識する抗体
である、前記医薬組成物。
【請求項2】
AEBP1の阻害剤が、AEBP1の転写体RNAに対するsiRNA
である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
AEBP1の阻害剤が、AEBP1を認識する抗体
である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
血管新生阻害剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
AEBP1の阻害剤を含む、大腸がん処置の予後を改善するための医薬組成物であって、AEBP1の阻害剤が、AEBP1の転写体RNAに対するsiRNA、アンチセンス核酸、shRNAまたはmiRNA、またはAEBP1を認識する抗体
である、前記医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AEBP1(adipocyte enhancer binding protein 1)の阻害剤を含む、がんを処置するための医薬組成物、該医薬組成物を用いたがんの処置方法などに関する。また本発明は、AEBP1の発現量を決定することを含む、がん治療の予後を予測する方法、ならびにAEBP1の阻害剤を含むがん治療の予後を改善する医薬組成物および該医薬組成物を用いたがん治療の予後を改善する方法などにも関する。
【背景技術】
【0002】
近年の研究により、がんの周辺環境、例えば血管、ECM、線維芽細胞等を含む間質などが、がんの発症および進行に重要な役割を担っていることが明らかになってきている。このような背景からがんの周辺環境の重要性がクローズアップされてきており、がん細胞自体でなく、その周辺環境を標的とした治療法が検討されるようになっている。中でも腫瘍血管新生は、増殖、浸潤および転移に関わる重要な機構であると考えられている。そのため、がん微小環境における血管新生の制御は、がんの治療や進行抑制のための有望な戦略である。
【0003】
しかしながら、がんの発症および進行において、がん微小環境での分子機構、特に腫瘍血管新生の分子機構については、未だ明らかとなっていない部分が多く、がん微小環境を標的としたがんの治療法は確立されているとはいえない。
【0004】
Adipocyte Enhancer Binding Protein 1(AEBP1)はカルボキシペプチダーゼAタンパク質ファミリーのメンバーであり、aP2プロモーターに結合する転写抑制因子として同定されたタンパク質である。AEBP1は脂肪形成や平滑筋細胞の分化、腹壁発達や創傷治癒において重要な役割を果たしていると考えられている。また、最近では神経膠芽腫において高発現していることや、黒色腫におけるBRAF阻害剤への抵抗性獲得に関与していることなどが報告されている(非特許文献1および2)。また、非特許文献3には、皮膚腫瘍や悪性黒色腫における、がん関連線維芽細胞(CAF)のマーカー候補遺伝子として挙げられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ladha et al., Mol Cancer Res; 10(8); 1039-11;51
【文献】Hu et al., Cell Death Dis., 2013 Nov 7;4:e914
【文献】Sasaki et al., Human Pathology (2018) 79, 1-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、AEBP1の阻害剤を含む、がんを処置するための新規な医薬組成物、該医薬組成物を用いたがんを処置する方法、AEBP1の発現量を決定することを含む、がん治療の予後を予測する方法、ならびにAEBP1の阻害剤を含むがん治療の予後を改善する医薬組成物および該医薬組成物を用いたがん治療の予後を改善する方法などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のとおり、がん微小環境を標的としたがんの治療法は未だ確立されているとは言えない。例えば大腸がんにおける血管新生阻害療法については、現在は抗VEGFヒト化モノクローナル抗体(ベバシズマブ)や低分子VEGFR阻害剤(ソラフェニブ)などを用いた治療が行われているが、VEGF-VEGFRを標的にした血管新生療法にはその効果の限界や、重大な有害事象が起こることも報告されている。したがって、患者負担の少ない新たな治療方法が求められている。
【0008】
本発明者らは、上記問題を解決するために新たな治療方法を模索する中で、正常血管内皮細胞(NEC)と比較して、腫瘍血管内皮細胞(TEC)においてAEBP1が有意に高発現しているという新たな知見を得た。かかる知見に基づいてがん微小環境におけるAEBP1遺伝子の分子機構について鋭意研究を続けたところ、AEBP1を発現抑制すると腫瘍組織における血管新生および腫瘍組織の増加が有意に低下することを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明に下記に掲げるものに関する:
[1]AEBP1(adipocyte enhancer binding protein 1)の阻害剤を含む、腫瘍を処置するための医薬組成物。
[2]AEBP1の阻害剤が、AEBP1の転写体RNAに対するsiRNA、アンチセンス核酸、shRNAまたはmiRNAである、[1]の医薬組成物。
[3]AEBP1の阻害剤が、AEBP1の転写体RNAに対するsiRNAである、[2]の医薬組成物。
[4]腫瘍が、固形腫瘍である、[1]~[3]の医薬組成物。
[5]腫瘍が、大腸がんである、[4]の医薬組成物。
[6]医薬組成物が、血管新生阻害剤である、[1]~[5]の医薬組成物。
[7]対象における腫瘍処置の予後を予測する方法であって、対象由来の試験サンプル中のAEBP1の発現産物の発現量を決定することを含む、前記方法。
[8]腫瘍が、大腸がんである、[7]の方法。
[9]AEBP1の阻害剤を含む、腫瘍処置の予後を改善するための医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、腫瘍血管特異的に高発現する遺伝子を標的とした治療法となるため、従来の血管新生阻害療法と比較して顕著に副作用が低減できる。また、腫瘍血管新生のみならずがん関連線維芽細胞(CAF)の増殖も有意に低減できることから、がん微小環境を標的とした新しい作用機序を有する新規な治療法を提供することができる。さらには、AEBP1は予後不良因子であることも見出されたことから、がん治療の予後を予測し、改善することも可能であるため、転移や再発の予防においても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1Aは、CRC組織を酵素処理し、磁気マイクロビーズ法(IMS)を用いて細胞を分離した試験の概要を表す図である。Bは、CRC組織パラフィン包埋切片をCD31とCD146で染色した染色像(上段)およびFACSでCRC組織の細胞をCD31とCD146を用いてソートした結果(下段)を表す。Cは、3組のTECsとNECsのmRNA発現を比較したところ、ANTXR1(TEM8)を含む18の遺伝子がTECsで発現が亢進していたことを表す図である。
【
図2】
図2は、臨床検体の正常上皮、腫瘍上皮、NECs、TECsの4群において,定量的RT-PCRにてそれぞれの候補遺伝子のmRNA発現量を評価した結果を表すグラフである。
【
図3】
図3Aは、ヒト大腸がん組織のがん部の腫瘍血管(上段)および非がん部の正常血管(下段)をCD31(左列)、CD146(中央)、AEBP1(右列)で染色した染色像である。B、CおよびDはヒト大腸癌組織のがん部の間質AEBP1で染色した染色像である。C、DはそれぞれBの点線部分を拡大した図である。
【
図4】
図4Aは、大腸癌細胞株細胞(DLD1、SW480、RKO、WiDr、HT-29、HCT116、COLO320、LoVo)、正常細胞のHUVEC、HMVEC、NHDFおよびCAFにおいて定量的RT-PCR法を用いてAEBP1およびANTXR1(TEM8)を含む7遺伝子のmRNAレベルでの発現を評価した結果を表すグラフである。Bは、上記各細胞について血管内皮マーカー(CD31),腫瘍血管内皮マーカー(CD146)のmRNAレベルでの発現を定量的RT-PCR法を用いて評価した結果を表すグラフである。
【
図5】
図5Aは、腫瘍培養上清(TCM)の回収の手順を表す模式図である。Bは、DLD1およびSW480由来のTCM(無血清)およびDMEM(無血清)でHUVECを培養したときの光学顕微鏡写真である。それぞれ培養開始後24hおよび48hに撮影した。Cは、8種の大腸癌細胞株細胞由来のTCM(無血清)でHUVECを培養し、定量的RT-PCR法を用いてAEBP1のmRNAレベルでの発現変化を継時的に評価した結果を表すグラフである。Dは、FBSを添加(2.5%,10%)したDLD1由来のTCMでHUVECを培養したときのAEBP1のmRNAレベルでの発現変化を定量的RT-PCR法を用いて評価した結果を表すグラフである。Eは、HUVECとDLD1を10cmディッシュ上に4:1の割合で播種し共培養した.培養開始24hおよび96h後に10
6細胞ずつ回収し,IMS法を用いてHUVECとDLD1を分離・回収する試験の概略を表す図である。Fは、共培養開始後24hおよび96hにおけるHUVEC、DLD1のAEBP1およびCD31のmRNAレベルでの発現を定量的RT-PCR法を用いて評価した結果を表すグラフである。Gは、共培養開始24hおよび96h後におけるHUVEC、DLD1の光学顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、AEBP1高発現大腸がんと低発現大腸がんの患者の生存曲線を表す。
【
図7】
図7AおよびBは、2種類のsiAEBP1またはコントロールsiRNAをそれぞれHUVECとCAFに導入し、定量的RT-PCR法を用いてAEBP1のmRNAレベルでの発現を確認しノックダウン効率を評価したグラフである。CおよびDは、それぞれHUVECまたはCAFに2種類のsiAEBP1またはコントロールsiRNAを導入し、導入直後から継時的に細胞の増殖を調べた結果を表す図である。Eは、AEBP1をノックダウンしたHUVECのFACSを用いた細胞周期分析の結果を表すグラフである。G1アレストを起こしている細胞が増加したことがわかる。Fは、管腔形成アッセイの結果を表す図である。AEBP1をノックダウンしたHUVECの管腔形成能は抑制されたことがわかる。Gは、創傷治癒アッセイの結果を表す図である。AEBP1をノックダウンしたHUVECの創傷閉鎖は抑制されたことがわかる。Hは、2種類のsiAEBP1またはコントロールsiRNAを導入して48時間、72時間後のHUVECの発現アレイ解析の結果を表す図である。2種類のsiRNAに共通して変動する遺伝子としてAEBP1以外にAQP1、POSTN1などが同定された。IおよびJは、2種類のsiAEBP1またはコントロールsiRNAをHUVECに導入し、定量的RT-PCR法を用いてAQP1およびPOSTN1のmRNAレベルでの発現を確認した結果を表すグラフである。
【
図8】
図8Aは、ヌードマウスにDLD1またはDLD1とHUVECを移植した際の、腫瘍の増殖曲線を示す。Bは、移植後14日目における腫瘍の体積(mm
3)を比較したグラフである。Cは、移植後12日目における腫瘍の微小血管密度を表すグラフである。Dは、腫瘍のパラフィン包埋切片をCD31で免疫組織染色した染色像である。Eは、ヌードマウスにDLD1を移植し、継時的にsiAebp1を投与した場合の腫瘍の増殖曲線を示す。Fは、移植後28日目における腫瘍の微小血管密度を表すグラフである。Gは、腫瘍のパラフィン包埋切片をCD31で免疫組織染色した染色像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明について詳細に説明する。
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願、公開された出願および他の出版物は、その全体を参照により本明細書に援用する。また本明細書において参照された出版物と本明細書の記載に矛盾が生じた場合は、本明細書の記載が優先されるものとする。
【0013】
本開示において、例えば「AEBP1」など、単に遺伝子名で表記している場合、別段の記載のない限り当該遺伝子名で表される公知の核酸配列を有する遺伝子を意味し、典型的にはcDNAまたはmRNA配列を表すが、当業者が当該遺伝子の配列として認識し得る限りこれに限定されず、例えば、1もしくは複数個、好ましくは1~数個、さらに好ましくは、1~10個、1~5個、1~3個、1もしくは2個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入を含む塩基配列、前記cDNAまたはmRNA配列と70%以上、80%以上又は90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上もしくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列、および縮重配列などであってもよい。
【0014】
本開示におけるAEBP1の好ましい遺伝子およびその核酸配列の例としては、GenBank Accession No. NM_001129.4で表される配列およびそのホモログなどが挙げられる。また、かかる配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする塩基配列や、前記配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有する塩基配列を含有する核酸もまた、本開示のAEBP1に包含される。
【0015】
本開示において、「AEBP1タンパク質」など、遺伝子名に「タンパク質」と付記して表す場合、当該遺伝子によりコードされるタンパク質、そのアイソフォーム、およびそのホモログのことを意味する。当該アイソフォームとしては、例えばスプライシングバリアント、個体差に基づくSNP等のバリアント等が挙げられる。具体的には、(1)当該遺伝子によりコードされるタンパク質において、90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質、(2)当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列において、1または複数、好ましくは1~数個、さらに好ましくは、1~10個、1~5個、1~3個、1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、付加または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。
【0016】
本開示において、ある遺伝子の「阻害剤」とは、当該遺伝子の発現を阻害または抑制する剤のほか、当該遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を阻害する剤も含まれる。本開示において「遺伝子の発現を阻害または抑制する剤」としては、例えば当該遺伝子の転写体RNAに対するsiRNA、アンチセンス核酸、shRNAまたはmiRNAなどのほか、例えば当該遺伝子の転写抑制因子なども含まれる。本開示のAEBP1の発現を阻害または抑制する剤としては、例えばRNA干渉(RNAi)作用を有する、siRNA(例えば、配列番号1または配列番号2に記載の配列を有する核酸)もしくはその前駆体RNA、又はそれらの修飾RNA、あるいは、AEBP1遺伝子の転写体RNAに対するsiRNAをコードするDNAを含むベクターを包含する。また、本開示において、AEBP1の発現を阻害または抑制する剤は、例えば、shRNA、miRNAなどであってもよい。ベクターは、アンチセンスRNAもしくはアンチセンスDNA、該アンチセンスRNAをコードするDNAもしくは該アンチセンスDNAを含んでいてもよい。
【0017】
siRNAは、AEBP1遺伝子の転写体RNAの一部に相補的な18~25ヌクレオチド、好ましくは20~24ヌクレオチド、さらに好ましくは21~23ヌクレオチドからなる、かつRNAi(RNA干渉)作用を有する、センスRNAとアンチセンスRNAとからなる二本鎖RNAであってもよい。センスRNAとアンチセンスRNAの各3'末端には、2~5ヌクレオチド、好ましくは2ヌクレオチドの突出末端を有していてもよい。
【0018】
本開示において、AEBP1遺伝子の発現の抑制剤は、例えば、センス鎖と、アンチセンス鎖とを含むsiRNAの組み合わせであってもよく、例えば、センス鎖として配列番号1に記載の核酸とアンチセンス鎖として配列番号3に記載の核酸の組合せ、または、センス鎖として配列番号2に記載の核酸とアンチセンス鎖として配列番号4に記載の核酸の組合せなどが挙げられる。また、これらの核酸は、任意に修飾された核酸を含んでいてもよい。
【0019】
本開示において、「遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を阻害する剤」としては、当該タンパク質が活性を発揮できなくすることができる剤であればいかなる剤であってもよく、これに限定するものではないが、例えば当該タンパク質に結合する核酸またはタンパク質、当該タンパク質の活性型を非活性型に変換するタンパク質もしくはかかるタンパク質をコードする核酸を含むヌクレオチド、当該タンパク質を活性化するタンパク質を阻害する剤などが挙げられる。本開示のAEBP1タンパク質の活性を阻害する剤としては、これに限定するものではないが、例えばAEBP1タンパク質を認識する抗体、AEBP1タンパク質を阻害する化合物などが挙げられる。
【0020】
本開示の阻害剤の細胞への導入は、任意の既知の導入手法、例えば、限定されずに、リポフェクタミン法、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、超音波導入法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターなど)を利用する方法、またはマイクロインジェクション法などを用いることができる。
ウイルスベクターを使用する場合、ウイルスの力価としては1×103~1×1015p.f.u.(プラーク形成単位)であってもよく、好ましくは1×105~1×1013、より好ましくは1×107~1×1011、さらに好ましくは1×108~1×1010で用いることができる。
【0021】
本開示の阻害剤が核酸である場合、かかる核酸分子は、裸の核酸として使用しても、種々の核酸構築物またはベクターに組み込んで使用してもよい。ベクターとしては、プラスミドベクター、ファージベクター、ファージミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター等の公知の任意のものを利用することができる。核酸構築物またはベクターは、例えば哺乳動物、微生物、ウイルス、または昆虫遺伝子から誘導される適当な転写または翻訳制御配列を少なくとも含んでいることが好ましい。かかる制御配列は、遺伝子発現において調節的役割を有する配列、例えば転写プロモーターまたはエンハンサー、転写を調節するためのオペレーター配列、メッセンジャーRNA内部のリボゾーム結合部位をコードしている配列、ならびに、転写、翻訳開始または転写終了を調節する適切な配列を包含する。
【0022】
<1>本開示の医薬組成物
本開示の一側面は、有効成分としてAEBP1の阻害剤を含む医薬組成物に関する。
本開示の医薬組成物は、有効成分としてAEBP1の阻害剤を含むことを特徴とするものであり、さらに1または2以上の薬学的に許容し得る界面活性剤、担体、希釈剤および/または賦形剤などを含んでもよい。薬学的に許容し得る界面活性剤、担体、希釈剤および/または賦形剤などは医薬分野でよく知られており、例えば、その全体を本明細書に援用するRemington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., Mack Publishing Co., Easton, PA (1990)などに記載されている。当業者は、医薬組成物の投与形態等に合わせて、適切な薬学的に許容し得る界面活性剤、担体、希釈剤および/または賦形剤などを選択することが可能である。
【0023】
本開示の医薬組成物に含まれるAEBP1の阻害剤としては、AEBP1タンパク質の活性またはAEBP1の発現を阻害または抑制することが可能な剤であれば特に限定されず、上記で例示したAEBP1タンパク質の活性を阻害する剤またはAEBP1の発現を阻害または抑制する剤などを用いることができるが、典型的にはAEBP1の発現を阻害または抑制する剤が挙げられる。AEBP1の発現を阻害または抑制する剤としては、上述のとおり、典型的にはAEBP1の転写体RNAに対するsiRNA(例えば、配列番号1または配列番号2に記載の配列を有する核酸)もしくはその前駆体RNA、またはそれらの修飾RNA、shRNA、miRNA、あるいは前記RNAをコードするDNAを含むベクターなどが挙げられる。好ましい一態様において、AEBP1の阻害剤は、AEBP1の転写体RNAに対するsiRNAである。
【0024】
本開示の医薬組成物は、限定されずに、上記のAEBP1の高活性または高発現に関連する疾患の処置に用いることができる。したがって、本発明はまた、AEBP1の高活性または高発現が関与する疾患の処置のための有効量の上記AEBP1の阻害剤を含む医薬組成物に関する。「AEBP1の高活性または高発現に関連する疾患」としては、典型的には腫瘍などの細胞増殖性疾患、肺線維症などの線維症などが挙げられる。ここで、本開示において、「腫瘍(tumor)」は、良性腫瘍および悪性腫瘍(がん、悪性新生物)を含む。がん(cancer)は、造血器の腫瘍、上皮性の悪性腫瘍(癌、carcinoma)と非上皮性の悪性腫瘍(肉腫、sarcoma)とを含む。
【0025】
上述のとおり、本発明者らにより、腫瘍血管内皮細胞およびがん関連線維芽細胞(CAF)において、特にAEBP1の発現が亢進していることが新たに見いだされた。したがって好ましい態様において、本開示の医薬組成物により処置される疾患は、がんであり、より好ましい態様において、固形腫瘍である。ここで「固形腫瘍」とは、造血器の腫瘍以外の腫瘍を意味する。
本開示の医薬組成物が対象とするがんとしては、腫瘍血管内皮細胞およびCAFにおいてAEBP1が発現している限り限定されず、例えば線維肉腫、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、カポジ肉腫、リンパ管肉腫、滑膜肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫などの肉腫、脳腫瘍、頭頚部癌、乳癌、肺癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、虫垂癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、膵癌、胆嚢癌、胆管癌、肛門癌、腎癌、尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、精巣癌、子宮癌、卵巣癌、外陰癌、膣癌、皮膚癌などの癌腫が挙げられる。好ましい一態様において、本開示の医薬組成物は、大腸がんを処置するためのものである。
【0026】
腫瘍血管内皮細胞およびCAFにおいてAEBP1が発現しているか否かは、当該技術分野において公知の方法を用いて検査することができ、例えばAEBP1タンパク質の存在を検出する方法、AEBP1の転写体RNAの発現を遺伝子レベルで検出する方法などにより判断できる。具体的には、タンパク質レベルでの検出方法としては、例えばAEBP1タンパク質を特異的に認識する抗体を用いた免疫染色法、ウェスタンブロッティング法、ELISA法などの公知のタンパク質発現解析法、遺伝子レベルでの検出方法としては、例えば、ノーザンブロッティング法、RNaseプロテクションアッセイ、RT-PCR、リアルタイムPCR等のPCR法、in situハイブリダイゼーション法、in vitro転写法などの公知の遺伝子発現解析法により検出することができる。本発明の一態様において、AEBP1の発現量は、正常細胞に比べ、2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましく10倍以上、特に好ましくは20倍以上増加している。
【0027】
上述のとおり、AEBP1は腫瘍血管内皮細胞において高発現しており、該細胞においてAEBP1タンパク質の活性および/またはAEBP1の発現を阻害または抑制することにより、腫瘍組織における血管新生を阻害することができ、以て腫瘍の増殖を抑制し、腫瘍を処置することができる。したがって好ましい一態様において、本発明の医薬組成物は、血管新生阻害剤、より好ましくは腫瘍血管新生阻害剤として用いることができる。
【0028】
本開示の医薬組成物は、対象とする疾患を処置するのに有用な他の作用物質、例えば抗腫瘍剤、抗炎症剤などをさらに含んでもよい。
抗腫瘍剤としては、限定されずに、例えば、イホスファミド、ニムスチン(例えば、塩酸ニムスチン)、シクロホスファミド、ダカルバジン、メルファラン、ラニムスチン等のアルキル化剤、ゲムシタビン(例えば、塩酸ゲムシタビン)、エノシタビン、シタラビン・オクホスファート、シタラビン製剤、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(例えば、TS-1)、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン等の代謝拮抗剤、イダルビシン(例えば、塩酸イダルビシン)、エピルビシン(例えば、塩酸エピルビシン)、ダウノルビシン(例えば、塩酸ダウノルビシン、クエン酸ダウノルビシン)、ドキソルビシン(例えば、塩酸ドキソルビシン)、ピラルビシン(例えば、塩酸ピラルビシン)、ブレオマイシン(例えば、塩酸ブレオマイシン)、ペプロマイシン(例えば、硫酸ペプロマイシン)、ミトキサントロン(例えば、塩酸ミトキサントロン)、マイトマイシンC等の抗腫瘍性抗生物質、エトポシド、イリノテカン(例えば、塩酸イリノテカン)、ビノレルビン(例えば、酒石酸ビノレルビン)、ドセタキセル(例えば、ドセタキセル水和物)、パクリタキセル、ビンクリスチン(例えば、硫酸ビンクリスチン)、ビンデシン(例えば、硫酸ビンデシン)、ビンブラスチン(例えば、硫酸ビンブラスチン)等のアルカロイド、アナストロゾール、タモキシフェン(例えば、クエン酸タモキシフェン)、トレミフェン(例えば、クエン酸トレミフェン)、ビカルタミド、フルタミド、エストラムスチン(例えば、リン酸エストラムスチン)等のホルモン療法剤、カルボプラチン、シスプラチン(CDDP)、ネダプラチン等の白金錯体、サリドマイド、ネオバスタット、ベバシズマブ等の血管新生阻害剤、L-アスパラギナーゼなどが挙げられる。
【0029】
抗炎症剤としては、限定されずに、ステロイド系抗炎症剤(プレドニゾロン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、フルチカゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン等)や非ステロイド系抗炎症剤(アセチルサリチル酸、ロキソプロフェン、アセトアミノフェン、ケトプロフェン、チアプロフェン酸、スプロフェン、トルメチン、カルプロフェン、ベノキサプロフェン、ピロキシカム、ベンジダミン、ナプロキセン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ジフルニサール、アザプロパゾン等)、炎症性サイトカインの発現を抑制するRNAi分子(例えば、siRNA、shRNA、ddRNA、miRNA、piRNA、rasiRNAなど)、アンチセンス核酸などの物質、および/または炎症性サイトカインの作用を抑制する薬物、例えば、炎症性サイトカインに対する抗体や、炎症性サイトカインの受容体拮抗剤などが挙げられる。
【0030】
本開示の医薬組成物は、本開示の阻害剤を種々の薬物送達担体に担持させた形で包含し得る。かかる担体としては、限定されずに、例えば、ポリマーナノ粒子、ポリマーミセル、デンドリマー、リポソーム、ウイルスナノ粒子、カーボンナノチューブ等が挙げられる(Cho K. et al., Clin Cancer Res. 2008 Mar 1;14(5):1310-6など参照)。
【0031】
本開示の阻害剤や医薬組成物は、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、たとえば、限定することなく、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、直腸、腫瘍内、動脈内、門脈内、骨髄内、歯髄内、舌下、口腔内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形および製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる(たとえば、標準薬剤学、渡辺喜照ら編、南江堂、2003年、上記Remington’s Pharmaceutical Sciencesなどを参照)。
【0032】
例えば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤などが挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤などの注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であることができる。
【0033】
本開示はまた、本開示の各種剤または組成物に含まれ得る成分を、単独でもしくは組み合わせて含む1個または2個以上の容器を含む組成物の調製キット、ならびに、そのようなキットの形で提供される各種剤または組成物の必要構成要素にも関する。かかるキットは、上記のほか、本開示の阻害剤または医薬組成物の調製方法や投与方法などが記載された指示、例えば説明書や、CD、DVD等の電子記録媒体等を含んでいてもよい。
【0034】
また、後述するように、本発明者らにより、AEBP1を腫瘍血管内皮細胞および/またはCAFに発現する腫瘍を有する対象は、AEBP1を腫瘍血管内皮細胞および/またはCAFに発現しない腫瘍対照と比較して、腫瘍治療の予後が悪いことが見出された。このことから、本開示の阻害剤または医薬組成物は、対象に腫瘍治療を施した際の予後を改善するために用いることができると考えられる。したがって本開示の医薬組成物は別の一態様において、対象の腫瘍治療の予後を改善するために用いられる医薬組成物を包含する。
【0035】
<2>本開示の疾患の予防および/または治療方法
本開示は別の一側面において、対象におけるAEBP1の高活性または高発現に関連する疾患を予防および/または治療する方法であって、本開示の阻害剤または医薬組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法(以下、「本開示の処置方法」と称する場合がある)にも関する。
【0036】
本開示における「対象」は、AEBP1の高活性または高発現に関連する疾患、典型的にはがん、に罹患し得る生物個体であればいかなる生物個体であってもよいが、好ましくはヒトおよび非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどの齧歯類、チンパンジーなどの霊長類、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの偶蹄目、ウマなどの奇蹄目、ウサギ、イヌ、ネコなど)の個体であり、より好ましくはヒトの個体である。本開示において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、例えばがんの予防および/または治療が企図される場合には、典型的にはがんに罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。また、がんの予防には、がんの再発の予防も含まれ得、したがってがんを罹患するリスクを有する対象には、がんを再発するリスクを有する対象が含まれ得る。
【0037】
また、用語「処置」は、本明細書で用いる場合、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、疾患の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0038】
本開示の処置方法に用い得る阻害剤または医薬組成物としては、本明細書に記載の任意のものが挙げられる。本側面における有効量とは、例えば、がんの症状を低減し、またはその進行を遅延もしくは停止する量であり、好ましくは、がんを抑制し、または治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラットなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。有効成分の具体的な用量は、それを必要とする対象に関する種々の条件、例えば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、剤形、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。また、投与方法についても、上記において例示したような、既知の任意の適切な投与方法を用いることができる。
【0039】
本開示の処置方法の一態様は、投与する工程の前に、AEBP1陽性の腫瘍血管内皮細胞を有する対象を予防/治療の対象として選択する工程をさらに含んでよい。かかる態様においては、前記選択する工程の前に、対象から腫瘍サンプルを採取する工程および対象から得られた腫瘍サンプルにおいて、AEBP1の発現を検出する工程をさらに含んでもよい。かかる工程に用いられる検出方法としては、上記腫瘍血管内皮細胞またはCAFにおいてAEBP1の発現を検出する方法について例示した方法などを用いることができる。
【0040】
<3>本開示の予後予測方法
上述のとおり、本発明者らにより、対象の腫瘍組織中のAEBP1の発現量が高いほど、腫瘍処置後の予後が悪くなることが見出された。したがって本開示の別の一側面は、対象由来の試験サンプル(例えば対象由来の腫瘍組織など)中のAEBP1の発現産物の発現量を決定することを含む、対象における腫瘍治療の予後を予測する方法(以下、「本開示の予後予測方法」と称する場合がある)を包含する。
【0041】
本開示の予後予測方法は以下の工程を含む:
(A)対象由来の試験サンプル中のAEBP1の発現産物の発現量を決定する工程。
本開示の予後予測方法において、腫瘍は、上記<1>において詳述したとおりであり、好ましくは大腸がんである。
【0042】
本開示の予後予測方法において、「試験サンプル」は、対象由来の腫瘍血管内皮細胞および/またはCAFが含まれるサンプルであれば特に限定されず、典型的には対象由来の腫瘍組織サンプルである。
本開示の予後予測方法において、「発現産物」は、AEBP1が転写されることにより開始される発現プロセスにおいて産生されるあらゆる物質を意味し、典型的には例えばAEBP1の転写体RNAもしくはAEBP1タンパク質、またはその断片などが挙げられる。
【0043】
工程(A)において、AEBP1の発現産物の発現量が決定される。発現産物の発現量の決定は、上記<1>において詳述したような発現産物の検出方法を用いることができる。
本開示の予後予測方法は、工程(A)の後、任意に以下の工程:
(B)(A)で得られた発現量を、基準値と比較する工程
を含み得る。
【0044】
基準値としては、サンプル中のAEBP1の発現量の多寡の基準となる値であればいかなる値であってもよいが、典型的には例えば、健常者の同一組織におけるAEBP1の発現量、予後がよいと判断された患者における腫瘍組織のAEBP1発現量の平均値、予後が悪いと判断された患者における腫瘍組織のARBP1発現量の平均値などが挙げられる。
ここで、本開示において「予後が悪い」とは、典型的には、腫瘍を処置された対象の処置後の寛解状態の期間が、同種の腫瘍を処置された対照群における処置後の寛解状態の期間の平均値よりも短いことをいう。
【0045】
ある一態様において、基準値と比較して対象のサンプル中のAEBP1発現量が多かった場合、予後が悪いと予測される。別の一態様において、基準値と比較して対照サンプル中のAEBP1発現量が少なかった場合、予後が良いと予測される。
好ましい態様において、基準値は0である。すなわち、対象のサンプル中にAEBP1発現産物が検出された場合、予後が悪いと予測される。
【0046】
<4>本開示の予後改善方法
上述のとおり、腫瘍組織中、例えばがん微小環境や腫瘍血管内皮細胞などにAEBP1を高発現する腫瘍は、高発現しない腫瘍と比較して、処置後の予後が悪いことが本発明者らにより見出された。AEBP1は腫瘍組織中での血管新生に関与する因子であり、AEBP1を阻害することにより、腫瘍組織中での血管新生を阻害し、以て対象の腫瘍処置の予後を改善することができる。したがって本開示の一側面は、本開示の阻害剤または医薬組成物の有効量を、腫瘍処置後の対象に投与する工程を含む、腫瘍処置の予後を改善する方法(「本開示の予後改善方法」と称する場合がある)にも関する。
【0047】
本開示において「予後を改善する」とは、腫瘍を処置した対象における予測される寛解期間をより長くすることをいう。寛解期間の予測は、本開示の予後予測方法によって予測してもよいし、例えば同様の腫瘍処置を行った対象群の寛解期間の平均値などから予測してもよい。
本側面における「腫瘍処置」は、本開示の処置方法以外に当該技術分野において公知の任意の処置であってよく、例えば外科的切除、抗腫瘍剤などを用いた薬剤療法、放射線療法、がん免疫療法などであり得る。
【0048】
本側面における有効量とは、例えば、対象においてAEBP1の活性または発現を阻害することができる量であり、好ましくは、腫瘍血管の新生を阻害する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラットなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。有効成分の具体的な用量は、それを必要とする対象に関する種々の条件、例えば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、剤形、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。また、投与方法についても、上記において例示したような、既知の任意の適切な投与方法を用いることができる。
【0049】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0050】
例1.ヒト大腸がん組織からの血管内皮細胞分離
ヒト大腸がん組織を鋏および剃刀を用いて細かい断片とした。これにI型コラーゲナーゼ(Worthington)とDNaseI(Worthington)を加え、37℃で2時間振盪する酵素処理を行い組織溶解液とした。これをフィルターに通し細胞を回収し、さらにACKバッファー(Thermo Fisher Scientific)を加えて赤血球を除去した。得られた細胞懸濁液にEpithelial Enrich(invitrogen)と抗CD146抗体(抗MCAM抗体、EMD Millipore)およびDynabeads Pan mouse IgG(VERITAS)を用いた磁気マイクロビーズ法(immuno-magnetic separation, IMS法)で上皮細胞と血管内皮細胞を分離した。Epithelial Enrichはビーズに抗EpCAM抗体を結合したもので、直接EpCAM陽性の上皮細胞に結合することができる。抗CD146抗体はあらかじめDynabeads Pan mouse IgGと振盪混和させて抗体とビーズを結合させてからCD146陽性細胞に結合させた。
【0051】
IMS法(
図1A)による細胞分離の予備実験として、FACSを用いて血管内皮細胞マーカーであるCD31とCD146によるソーティングを行ったところCD31陽性細胞は1.1%でCD146陽性細胞は7.7%であった(
図1B)。大腸癌組織14症例を癌部および非癌部にわけ、それぞれ上皮細胞マーカーであるEpiCAM陽性細胞とCD146陽性細胞に分けることで腫瘍上皮細胞(n=13)、正常上皮細胞(n=12)、TECs(n=14)、NECs(n=14)の計53サンプルを得た。得られたサンプルからRNeasyキットを用いてtotalRNAを抽出した。
【0052】
例2.RNAシークエンス解析
大腸がん組織14症例を癌部および非癌部に分け、それぞれ上皮細胞および血管内皮細胞に分けることで腫瘍上皮細胞(n=13)、正常上皮細胞(n=12)、腫瘍血管内皮細胞(TECs、n=14)、正常内皮細胞(NECs、n=14)の計53サンプルを得た。これらのサンプルからTRI REAGENT(MRC)を用いてRNAを回収し、2100バイオアナライザ- RNA ソリューション(Agilent、RNA6000ナノキット)を用いてクオリティチェックを行った。TECsとNECsそれぞれ3サンプル(いずれもRIN値≧8)にRNAシークエンスを行い、得られた発現データについてVolcanoプロットを用いて解析した。
【0053】
RNA-seqを用いて、NECsとTECsそれぞれ3サンプルずつのmRNAの発現を網羅的に調べた結果についてボルケーノプロットを用いて解析したところ、NECsとTECsにおいて統計学的に発現が変化している26遺伝子を認め、そのうちTECsで優位に発現が亢進している18遺伝子を同定した(
図1C)。この中にはTECsで優位に発現が高い遺伝子に腫瘍血管内皮マーカー(tumor endothelial maker8、TEM8)として報告があるANTXR1も含まれていた。
【0054】
例3.臨床検体における遺伝子発現の検証
RNAシークエンス解析により候補に挙がった遺伝子についてqRT-PCR法を用いてメッセンジャーRNA(mRNA)レベルでの発現を確認した。また臨床検体のパラフィン包埋切片を免疫組織染色し候補遺伝子のタンパクレベルでの発現を確認した。
【0055】
53サンプルすべてについて、上述の18遺伝子のうちノンコーディング遺伝子を除いた16遺伝子のmRNAレベルでの発現を定量的RT-PCRを用いて評価した(
図2)。TECsにおいて最も有意に発現が亢進する遺伝子としてAEBP1を同定し、臨床検体のパラフィン包埋切片の免疫組織染色でTECでのAEBP1発現が確認された(
図3A)。またAEBP1は腫瘍血管のみならずCAFを含む腫瘍間質にも染まることがわかった(
図3B)。
【0056】
例4.大腸がん細胞株細胞および正常細胞における候補遺伝子の発現の検証
8種類の大腸がん細胞株細胞(DLD1、SW480、RKO、WiDr、HT-29、HCT116、COLO320、LoVo)、正常血管内皮細胞としてヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HMVEC)、正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)(いずれもLONZA)およびがん関連線維芽細胞(CAF)(Vitro Biopharma)を用意した。8種類の大腸がん細胞株細胞はATCCのプロトコールに準じ、DLD1、SW480、RKO、WiDrはDMEM/10%FBS、HT-29、HCT116はMcCoy’s5A/10%FBS、COLO320はRPMI/10%FBS、LoVoはF-12/10%FBSの培地を用いて培養し、HUVECsとHMVECsはEGM-2(LONZA)を用いて培養した。これらの細胞をqRT-PCR法を用いて候補遺伝子のmRNAレベルでの発現を確認した。同様に、これらの細胞において血管内皮マーカー(CD31)および腫瘍血管内皮マーカー(CD146)のmRNAレベルでの発現も確認した。
【0057】
大腸がん細胞株細胞(DLD1、SW480、RKO、WiDr、HT-29、HCT116、COLO320、LoVo)、HUVEC、HMVEC、NHDFおよびCAFにおいて定量的RT-PCR法を用いて、AEBP1およびANTXR1(TEM8)を含む7遺伝子のmRNAレベルでの発現を確認した(
図4A)。HUVEC、HMVECにおけるAEBP1の発現は大腸がん細胞株細胞の100倍以上で、大腸がん細胞株細胞での発現は極僅かであった。AEBP1のHUVEC、HMVEC、NHDFおよびCAFにおける発現の特異性は、ANTXR1より高かった。またAEBP1もANTXR1も、内皮細胞のみならずNHDFおよびCAFでも発現していることが分かった。血管内皮マーカー(CD31)の発現は、HUVEC、HMVECで高く、NHDF、CAF,大腸がん細胞株細胞で低かったが、CD146はCAFでもある程度発現していることがわかった(
図4B)。
【0058】
例5.腫瘍培養上清実験および共培養実験による候補遺伝子の発現変化
8種類の大腸がん細胞株細胞をセミコンフルエントになるまで培養した細胞を無血清培地で24時間培養し、その培養上清を回収し孔径0.22μmのフィルター(MILLIPORE)を通し、腫瘍培養上清(TCM)とした。HUVECをTCM(無血清)および無血清の基礎培地であるコントロール培地で培養したときの様子を光学顕微鏡で継時的に観察した。さらにTCMおよびコントロール培地で培養したHUVECのAEBP1のmRNAレベルでの発現変化をqRT-PCR法を用いて継時的に評価した。またFBSを添加(2.5%)したTCMでHUVECを培養し、AEBP1の発現の変化を継時的に評価した。さらに同一の10cmディッシュにDLD1とHUVECを1:4の割合で播種しEGM-2を用いて共培養した。24時間および96時間経過したところで106個の細胞集団を回収し、IMS法を用いてDLD1とHUVECを分離した。抗体はEpithelial Enrichのみを用いて細胞集団からDLD1をpositive selectionにて回収し、HUVECをnegative selectionにて回収した。回収したDLD1およびHUVECはqRT-PCR法を用いてCD31およびAEBP1のmRNAレベルでの発現を評価した。
【0059】
大腸がん細胞株細胞より採取したTCM(
図5A)で培養したHUVECを光学顕微鏡で観察したところ、無血清の培地(DMEM)で培養したHUVECでは多くの細胞が24hでディッシュから剥がれて集合し、48hでほぼ全ての細胞でこうした変化が認められた(
図5B).TCMで培養したHUVECでは時間が経つと集合する細胞が増えるが、無血清培地で培養したHUVECよりは少なかった。またDLD1由来のTCMで培養した方がSW480由来のTCMで培養するより生存するHUVECが多く、TCMを作成するがん細胞の種類によってHUVECの生存および集合に差が認められた(
図5B)。8種の大腸がん細胞株細胞由来のTCM(無血清)および無血清の培地でHUVECを培養し、定量的RT-PCR法を用いてAEBP1のmRNAレベルでの発現変化を継時的に評価した。多くの場合、TCMで24時間培養したHUVECではAEBP1の発現が亢進したのに対し、無血清培地で培養したHUVECでは発現が低下する傾向が見られた。特にDLD1とHCT116由来のTCMを用いて培養した場合、無血清培地で培養した場合と比べて培養開始後12時間、24時間でAEBP1の発現に有意な差が認められた(
図5C)。FBSを添加(2.5%)したDLD1由来のTCMで培養した場合、AEBP1の発現のピークのタイミングは24時間で変わらなかったが無血清の場合よりも発現量が増加した。またFBSを添加(2.5%)した方がピーク時のAEBP1の発現量は多かった。FBSを添加した培地で培養するとAEBP1の発現が亢進したがTCMで培養した場合ほどではなかった。同一のディッシュでDLD1とHUVECを培養し光学顕微鏡で観察したところ、培養開始時にはDLD1:HUVEC=1:4であったが96時間後にはほぼ同数の割合になっていた(
図5G)。培養開始24時間後と96時間後にIMS法を用いてDLD1とHUVECを分離し、定量的RT-PCR法を用いてAEBP1およびCD31のmRNAレベルでの発現を評価した。96時間後のHUVECではTCMで実験した場合よりさらに高い発現が見られた(
図5F)。
【0060】
例6.公開されている大規模な臨床データ解析
The Cancer Genome Atlas(TCGA)によって公開されている大規模な臨床検体を用いてRNA-seqによるmRNA発現データと全生存率(OS)を解析したところ、AEBP1が高発現する大腸がんを有する対象は、有意に生存率が低い結果となった。このことから、AEBP1の高発現は、大腸がんの予後不良因子であることがわかった(
図6)。
【0061】
例7.HUVECにおけるAEBP1のノックダウン実験
(1)siAEBP1のトランスフェクション
20μM(5nmol/250μl)に調整した2種類のsiAEBP1(siAEBP1_1(配列番号1および3)およびsiAEBP1_2(配列番号2および4))およびコントロールsiRNA(Ambion)を用意し、HUVEC Nucleofector Kit(Amaxa)を用いてエレクトロポレーション法でHUVECにトランスフェクションした。siAEBP1およびコントロールsiRNAを導入したHUVECをEGM-2で培養し、48時間経過したところでRNAを抽出し、RT-PCR法を用いてAEBP1のmRNAレベルでの発現を評価してノックダウン効率を調べた。また同様の実験を2種類のsiAEBP1およびコントロールsiRNAを導入したCAFを用いて行った。
【0062】
エレクトロポレーション法を用いてsiAEBP1をHUVECおよびCAFに導入した。導入48時間後のHUVECおよびCAFからRNAを抽出し、定量的RT-PCR法を用いてAEBP1のmRNAレベルでの発現を評価した。ノックダウン効率はいずれもおよそ90%であった(
図7AおよびB)。
【0063】
(2)細胞増殖試験
2種類のsiAEBP1(siAEBP1_1およびsiAEBP1_2)およびコントロールsiRNAを導入した直後のHUVECを96ウェルプレートに播種し、Cell Counting Kit-8(同仁化学研究所)を用いて細胞増殖試験を行った。また同様の実験を2種類のsiAEBP1およびコントロールsiRNAを導入したCAFを用いて行った。
2種類のsiRNAでノックダウンしたHUVECおよびCAFはコントロールに比べて有意に細胞増殖が抑制されることがわかった(
図7CおよびD)。
【0064】
(3)細胞周期分析
2種類のsiAEBP1およびコントロールsiRNAを導入して48時間経過したHUVECを用いてフローサイトメーターを用いた細胞周期分析を行った。
2種類のsiRNAでノックダウンしたHUVECはコントロールに比べてG1期停止を起こしている細胞が増加することがわかり、細胞増殖試験と矛盾しない結果であった(
図7E)。
【0065】
(4)in vitro管腔形成アッセイ
Engelbreth-Horm-Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出した可溶性基底膜調製品であるマトリゲル(Corning)を用意した。正常血管内皮細胞はマトリゲル上で血管形成現象を起こすことが知られている。2種類のsiAEBP1およびコントロールsiRNAを導入したHUVECをEGM-2で培養し、48時間経過したところでマトリゲル上に播種し、血管形成の様子を光学顕微鏡で観察した。さらに画像解析ソフトImage Jを用いてAEBP1のノックダウンがマトリゲル上のHUVECの管腔形成に与える影響を定量的に評価した。
AEBP1をノックダウンしたHUVECはコントロールに比べて有意に管腔形成能が抑制された(
図7F)。
【0066】
(5)創傷治癒アッセイ
siAEBP1およびコントロールsiRNAを導入したHUVECをEGM-2で培養し、6ウェルプレートに播種した。セミコンフルエントになった時点で創傷を形成し、その後12時間、24時間のタイムポイントで創傷閉鎖を評価した。
AEBP1をノックダウンしたHUVECはコントロールに比べて有意に創傷閉鎖が抑制された(
図7G)。
【0067】
(6)遺伝子発現マイクロアレイ解析
AEBP1のノックダウンにより発現が変動する遺伝子を検索するため遺伝子発現マイクロアレイ解析を行った。2種類のsiAEBP1(siAEBP1_1およびsiAEBP1_2)およびコントロールsiRNAを導入して48時間、72時間経過したHUVECからRNAを抽出し、cRNAを合成後にSurePrint G3 Human GE 8x60K V2 microarray(Agilent Technologies)を用いたマイクロアレイ実験を行った。データ解析については、GeneSpring GX version 13(Agilent Technologies)を使用した。また同定した遺伝子に対してGene Ontology(GO)解析を行った。
【0068】
2種類のsiAEBP1またはコントロールsiRNAをHUVECに導入して48時間後、72時間後と2つのタイムポイントを設けて回収し、それぞれのタイムポイントでノックダウンしたサンプルとコントロールを比較することで発現が変動する遺伝子を検索するため遺伝子発現マイクロアレイ解析を行った。コントロールに比べて発現量が2.0倍以上低下する遺伝子を複数同定した(
図7H)。siRNA導入後48時間のタイムポイントにおいてAEBP1のノックダウンにより発現が変動する遺伝子にはPOSTNなどがあり、48時間および72時間のタイムポイントに共通して変動する遺伝子としてAEBP1の他にAQP1などが含まれていた。さらに既報に腫瘍血管新生などの報告があるAQP1、POSTNについて定量的RT-PCRでmRNAの発現量を確認した(
図7IおよびJ)。
【0069】
例8.マウスゼノグラフト実験
(1)DLD1とHUVECの共移植
肉腫とHUVECを混ぜて移植すると肉腫のみ移植した場合より腫瘍が増殖するとの報告があるため、大腸がん細胞株細胞(DLD1)について同様の実験を行った。ヌードマウスにDLD1またはDLD1とHUVECをPBS(250μl)で希釈したマトリゲル(250μl)に懸濁してマウスに移植した。移植腫瘍を継時的に計測し体積を概算(V=(W
2×L)/2(V:体積、W:短径、L:長径)し、増殖曲線を求めた。
DLD1とHUVECを供移植するとDLD1を単独で移植した場合よりも移植腫瘍が増大することを確認した(
図8AおよびB)。
【0070】
(2)DLD1とAEBP1ノックダウンHUVECの共移植
HUVECはマウス血管と合わさって移植腫瘍の血管新生に関与することが報告されている。そこで移植するHUVECのAEBP1をノックダウンすることで移植腫瘍内の血管新生にどのような影響を与えるかを調べるために1種類のsiAEBP1またはコントロールsiRNAを導入したHUVEC(5×10
5個)、DLD1(5×10
5個)をヌードマウスに供移植した。siRNAを導入したHUVECとDLD1をPBS(250μl)で希釈したマトリゲル(250μl)に懸濁してマウスに移植した。移植腫瘍内部に壊死が起こらない移植後12日目に移植腫瘍を摘出し、ホルマリン固定し、パラフィン包埋切片を作製した。CD31抗体にて腫瘍血管を染色し、微小血管密度(MVD)を測定した。
AEBP1をノックダウンしたHUVECをDLD1と共移植すると、コントロールに比べてMVDは少なく、移植腫瘍内の腫瘍血管新生が抑制されることがわかった(
図8CおよびD)。
【0071】
(3)DLD1移植腫瘍間質のノックダウン
マウスAebp1のノックダウンが移植腫瘍に侵入する腫瘍血管、腫瘍間質および腫瘍増殖に与える影響を調べるために、2種類のマウスAebp1に対するsiRNAを用意した。ヌードマウスにDLD1(1×106個)をsiAebp1およびコントロールsiRNAを加えたPBS(250μl)で希釈したマトリゲル(250μl)に懸濁してマウスに移植した。さらに移植腫瘍周囲に2種類のsiAebp1またはコントロールsiRNAを4日毎に投与した。移植腫瘍を継時的に計測し、増殖曲線を求めた。また移植腫瘍のパラフィン包埋切片をCD31で免疫組織染色し、Image Jを用いてMVDを客観的に測定した。
【0072】
2種類のsiAebp1を移植腫瘍周囲に投与した群はいずれもコントロール群よりも移植腫瘍の増殖が抑えられた(
図8E)。またsiAEBP1を投与した群はコントロール群に比べてMVDは少なく、移植腫瘍内の腫瘍血管新生も抑制されることがわかった(
図8FおよびG)。
【配列表】