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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】地下構造物用蓋受枠セット
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/14 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
E02D29/14 Z
E02D29/14 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019061062
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020159113
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】508165490
【氏名又は名称】アクアインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100178951
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和家
(72)【発明者】
【氏名】大波 豊明
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-316250(JP,A)
【文献】特公昭50-022821(JP,B1)
【文献】実開昭58-090254(JP,U)
【文献】実開平07-043460(JP,U)
【文献】特開平08-151650(JP,A)
【文献】特開2015-045220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造物につながる開口を画定する金属製の受枠と、
該受枠に支持されることで該開口を塞ぐ金属製の蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットにおいて、
前記受枠は、下方に向けて内径が狭くなる方向に傾斜した内周面を有するものであり、
前記蓋体は、下方に向けて外径が狭くなる方向に傾斜した外周面を有するものであり、
前記内周面と前記外周面のうちの少なくとも一方は、防食用シートが設けられたものであり、
前記防食用シートは、合成ゴムまたはプラスチックのいずれかまたは複数を材料とし、硬度60°~100°、厚さ0.5~5.0mmのものであって、閉蓋状態において、前記内周面または前記外周面に面接触し、前記蓋体に荷重が掛かると、弾性変形による、前記受枠の拡径または前記蓋体の縮径、あるいは、弾性変形による、該受枠の拡径および該蓋体の縮径を促進するものであることを特徴とする地下構造物用蓋受枠セット。
【請求項2】
地下構造物につながる開口を画定する金属製の受枠と、
該受枠に支持されることで該開口を塞ぐ金属製の蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットにおいて、
前記受枠は、下方に向けて内径が狭くなる方向に傾斜した内周面を有するものであり、
前記蓋体は、下方に向けて外径が狭くなる方向に傾斜した外周面を有するものであり、
前記内周面と前記外周面のうちの少なくとも一方は、防食用シートが設けられたものであり、
前記防食用シートは、アルミニウム、亜鉛、ステンレス、ニッケル、クロム、またはこれらいずれかを主材料とする合金からなる、展伸材または溶射皮膜のいずれかまたは複数を材料とし、厚さ0.1~3.0mmのものであって、閉蓋状態において、前記内周面または前記外周面に面接触し、前記蓋体に荷重が掛かると、弾性変形による、前記受枠の拡径または前記蓋体の縮径、あるいは、弾性変形による、該受枠の拡径および該蓋体の縮径を促進するものであることを特徴とする地下構造物用蓋受枠セット。
【請求項3】
前記防食用シートは、前記内周面または前記外周面における、下側部分に設けられたものであることを特徴とする請求項1または2記載の地下構造物用蓋受枠セット。
【請求項4】
前記防食用シートは、下方の端部に向かうに従い徐々に厚くなるものであることを特徴とする請求項1~3のうちいずれか1項記載の地下構造物用蓋受枠セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物につながる開口を画定する金属製の受枠と、開口を塞ぐ金属製の蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットに関する。
【背景技術】
【0002】
下水道や上水道、あるいは電力、ガス、通信等における地下埋設物や地下施設等の地下構造物が地上につながる箇所には、地下構造物につながる開口を画定する受枠と、この受枠に支持されることで開口を塞ぐ蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットが設置される場合がある。本明細書では、蓋体が受枠に支持され、開口が塞がれた状態(蓋体が受枠に嵌め込まれた状態)を閉蓋状態と称することがある。また、地下構造物用蓋受枠セットを、蓋受枠セットと略称する場合がある。
【0003】
前述した地下構造物内は、下水道管路施設など、特に下水が滞留するような箇所で硫化水素等が発生し、腐食雰囲気となり易い。蓋体や受枠は、一般的に鋳鉄等の金属製のものであり、蓋体の裏面や、閉蓋状態において受枠の露出する箇所は、腐食雰囲気に曝される厳しい環境となるため、それに耐えうる防食性能が要求される。このため、蓋体の裏面や受枠の露出する箇所に、エポキシ樹脂系粉末塗料等を静電塗装して防食塗膜を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0004】
蓋体や受枠は鋳鉄等の金属製のものであり、表面の荒れ等に起因して、閉蓋状態で面接触する、蓋体の外周面と受枠の内周面との間に隙間等が生じやすい。このため、上昇した腐食雰囲気が蓋体の外周面と受枠の内周面との間に入り込み、蓋体の外周面と受枠の内周面が腐食してしまうという問題がある。ここで、蓋体の外周面と受枠の内周面は、防食塗膜を均一に設けることが困難なうえに、たとえ防食塗膜を設けたとしても蓋体の開閉動作等で干渉(接触)し剥がれてしまう。このため、特許文献1に記載の防食塗膜では、蓋体の外周面と受枠の内周面の腐食を防止することは難しいのが現状である。
【0005】
一方、振動や騒音、がたつき等を防止するため、蓋体と受枠との間にパッキンを配置する蓋受枠セットも提案されている(特許文献2~4等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-045220号公報
【文献】特開平8-13527号公報
【文献】特開平8-151650号公報
【文献】実開平6-35346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これら特許文献2~4記載の蓋受枠セットでは、閉蓋状態においてパッキンが潰れることで蓋体と受枠との隙間がパッキンに吸収され、これによって振動等を防止しようとするものである。しかしながら、パッキンと、蓋体や受枠との密着性が十分であるとはいえない。特に、長期間の使用によりパッキンが劣化すると、蓋体の外周面と受枠の内周面との間に腐食雰囲気が入り込み易くなる。このため、特許文献2~4記載の蓋受枠セットにおいても、蓋体の外周面と受枠の内周面の腐食を長期間にわたり安定して防止することは難しい。
【0008】
本発明は前記事情に鑑み、蓋体の外周面と受枠の内周面の腐食を、長期間にわたり安定して防止する工夫がなされた地下構造物用蓋受枠セットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を解決する本発明の地下構造物用蓋受枠セットは、地下構造物につながる開口を画定する金属製の受枠と、該受枠に支持されることで該開口を塞ぐ金属製の蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットにおいて、
前記受枠は、下方に向けて内径が狭くなる方向に傾斜した内周面を有するものであり、
前記蓋体は、下方に向けて外径が狭くなる方向に傾斜した外周面を有するものであり、
前記内周面と前記外周面のうちの少なくとも一方は、防食用シートが設けられたものであり、
前記防食用シートは、合成ゴムまたはプラスチックのいずれかまたは複数を材料とし、硬度60°~100°、厚さ0.5~5.0mmのものであって、閉蓋状態において、前記内周面または前記外周面に面接触し、前記蓋体に荷重が掛かると、弾性変形による、前記受枠の拡径または前記蓋体の縮径、あるいは、弾性変形による、該受枠の拡径および該蓋体の縮径を促進するものであることを特徴とする。
また、前記目的を解決する本発明の他の地下構造物用蓋受枠セットは、地下構造物につながる開口を画定する金属製の受枠と、
該受枠に支持されることで該開口を塞ぐ金属製の蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットにおいて、
前記受枠は、下方に向けて内径が狭くなる方向に傾斜した内周面を有するものであり、
前記蓋体は、下方に向けて外径が狭くなる方向に傾斜した外周面を有するものであり、
前記内周面と前記外周面のうちの少なくとも一方は、防食用シートが設けられたものであり、
前記防食用シートは、アルミニウム、亜鉛、ステンレス、ニッケル、クロム、またはこれらいずれかを主材料とする合金からなる、展伸材または溶射皮膜のいずれかまたは複数を材料とし、厚さ0.1~3.0mmのものであって、閉蓋状態において、前記内周面または前記外周面に面接触し、前記蓋体に荷重が掛かると、弾性変形による、前記受枠の拡径または前記蓋体の縮径、あるいは、弾性変形による、該受枠の拡径および該蓋体の縮径を促進するものであることを特徴とする。
【0010】
ここで、前記受枠および前記蓋体は、例えば鋳鉄製の鋳物からなるものであってもよい。また、前記内周面と前記外周面は、その傾斜角度が特に限定されるものではない。例えば8°~12°程度の範囲の中で、同じ傾斜角度であってもよいし、前記内周面の傾斜角度を前記外周面の傾斜角度よりも僅かに大きくする等、該内周面の傾斜角度と該外周面の傾斜角度とを異ならせてもよい。ここで、傾斜角度とは、受枠の上端面に対して水平な蓋体の上面に直交する方向を基準にして、この方向に対して傾斜する角度をいう。
【0011】
前記防食用シートは、前記蓋体に荷重が掛かると、弾性変形によって、前記枠体が拡径または前記蓋体が縮径、あるいは該枠体が拡径および該蓋体が縮径するように、材料、硬度および厚さ等を設定する。なお、弾性変形によって、前記枠体が拡径するか、前記蓋体が縮径するか、あるいは該枠体が拡径するとともに該蓋体が縮径するかは、該枠体と該蓋体の弾性率によって異なる。一般的には前記枠体が拡径する場合が多いが、該枠体を剛性仕様にした場合には前記蓋体が縮径する場合もある。また、前記防食用シートは、前記蓋体の開閉動作における、該蓋体と前記受枠との干渉(接触)によっても、切れたり割れたりせず、傷が付き該蓋体や該受枠における、鋳鉄等の素地が露出しない厚さに設定することが好ましい。
【0012】
本発明の地下構造物用蓋受枠セットによれば、閉蓋状態において、前記蓋体に荷重が掛かると、前記防食用シートによって、前記受枠の拡径または前記蓋体の縮径、あるいは該受枠の拡径および該蓋体の縮径が促進される。この結果、弾性変形して拡径した前記受枠が縮径しようとする力や、弾性変形して縮径した前記蓋体が拡径しようとする力によって、いわゆるくさび効果が強まり、前記防食用シートと、前記内周面または前記外周面との面接触の密着性が高まる。これにより、長期間の使用によっても、前記外周面と前記防食用シートとの間、または前記内周面と該防食用シートとの間に腐食雰囲気が入り込みにくくなり、該外周面と該内周面の腐食を長期間にわたり安定して防止することができる。
【0014】
ここで、前記合成ゴムとしては、NBR(ニトリルゴム)、CR(クロロプレンゴム)、IIR(ブチルゴム)が好ましく、前記プラスチックとしては、PP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)が好ましい
【0015】
さらに、本発明の地下構造物用蓋受枠セットにおいて、前記防食用シートは、前記内周面または前記外周面における、下側部分に設けられたものであってもよい。
【0016】
こうすることで、前記防食用シートと前記内周面における下側部分、または該防食用シートと前記外周面における下側部分との面接触の密着性がより高まり、該外周面と該内周面の腐食をより効果的に防止することができる。
【0017】
また、本発明の地下構造物用蓋受枠セットにおいて、前記防食用シートは、下方の端部に向かうに従い徐々に厚くなるものであってもよい。
【0018】
こうすることで、上昇してくる腐食雰囲気の侵入を、前記内周面または前記外周面における、下側部分で食い止め易くなり、該外周面と該内周面の腐食をより効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、蓋体の外周面と受枠の内周面の腐食を、長期間にわたり安定して防止する工夫がなされた地下構造物用蓋受枠セットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)は、本発明の一実施形態である蓋受枠セットの断面図であり、(b)は、(a)に示す蓋受枠セットの平面図である。
図2】(a)は、図1(a)の円で囲んだA部における、蓋体と受枠が面接触している箇所を拡大して示す端面図である。(b)は、(a)に示す受枠を抜き出して示す端面図である。
図3図2(a)に示す蓋受枠セットの第1変形例を示す図である。
図4図2(a)に示す蓋受枠セットの第2変形例を示す図である。
図5】(a)は、試験1および試験3を説明するための図であり、(b)は、試験2を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
図1(a)は、本発明の一実施形態である蓋受枠セット10の断面図であり、同図(b)は、同図(a)に示す蓋受枠セット10の平面図である。なお、図1(a)に示す断面図は、同図(b)のB-B線断面図である。また、図1(a)では、地面Gを示し、同図(b)では、地面Gを省略している。
【0023】
図1には、蓋体2と、その蓋体2を支持する受枠3とを備えた蓋受枠セット(地下構造物用蓋受枠セット)10が示されている。地下埋設物である下水道用排水管は地表から所定の深さの位置に埋設されており、その下水道用排水管の途中に、地下施設として、マンホールが設けられている。下水道用排水管もマンホールも地下構造物に相当する。マンホールは、既製のコンクリート成型品を積み上げた躯体によって、下水道用排水管から地表へ向かう縦穴として形成されている。受枠3はその躯体の上に設けられたものであり、地下構造物であるマンホールにつながる開口Hを画定している。この地下構造物内は、発生した硫化水素等によって腐食雰囲気になっている。
【0024】
蓋体2は、地下構造物であるマンホールにつながる開口Hを開閉自在に塞ぐ平面視で円形のものであり、図1に示す蓋体2は、開口Hを塞いでいる。図1に示す、蓋体2および受枠3は、鋳造によって成形された、例えば材質がFCD700からなる鋳鉄製のものである。なお、蓋体2および受枠3は、鋳鉄以外の鉄製であってもよく、鉄以外の金属製であってもよい。蓋体2は、円盤状の天板部21と、その天板部21の外周部分に設けられ天板部21を囲む環状壁部22と、天板部21の裏面から下方に突出した蓋リブ23とを備えている。天板部21の裏面と蓋リブ23には、電着塗装による防食被膜が形成されている。また、環状壁部22の外周には、詳しくは後述する外周面221(図2参照)が形成されている。天板部21における、図1(a)では下側に位置する周縁部分には、開閉工具を挿入するための鍵穴211が形成され、この鍵穴211の裏面側には、蓋体2が開口Hを塞いだ状態を維持する錠(不図示)が設けられている。一方、錠とは180度反対側の位置(図1(b)における上側)には、蓋体2を受枠3に回動自在に連結する蝶番(不図示)が設けられている。
【0025】
図1に示すように、受枠3は、平面視で環状に形成された筒状の枠本体31と、枠本体31の下端部分から外側に張り出したフランジ部32と、フランジ部32の上面に設けられた枠リブ33とを有している。枠本体31の内周部分には、受枠3の内側にリング状に突出した停止部312が設けられている。この停止部312は、長期間の使用により蓋体2のずり下がりが進行していくと、蓋体2の環状壁部22の下端が当接し、これ以上のずり下がりを阻止するものである。枠本体31の内周部分における、停止部312の上側には、内周面311(図2参照)が形成され、この内周面311に防食用シートS(図2参照)が設けられている。
【0026】
図2(a)は、図1(a)の円で囲んだA部における、蓋体2と受枠3が面接触している箇所を拡大して示す端面図である。図2(b)は、同図(a)に示す受枠3を抜き出して示す端面図である。なお、図2(b)では、蓋体2の外周面221に防食用シートSを設けた例を一点鎖線の円で囲んで示している。
【0027】
図2(a)に示すように、受枠3は、枠本体31の内側部分における、停止部312よりも上側に、下方に向けて内径が狭くなる方向に傾斜した内周面311を有している。また、蓋体2は、環状壁部22の外周に、下方に向けて外径が狭くなる方向に傾斜した外周面221を有している。
【0028】
図2(b)に示すように、受枠3の内周面311の傾斜角度θ1は、蓋体2の外周面221の傾斜角度θ2(一点鎖線の円内参照)と同じ傾斜角度(例えば8°~9°)に設定されている。また、内周面311の表面には、その全周にわたって防食用シートSが接着等により設けられている。
【0029】
防食用シートSは、本実施形態では、合成ゴムのNBRによって構成され、硬度は60°~100°に設定されている。ここで、防食用シートSの硬度が60°未満であると、パッキンと同様に蓋体2に掛かった荷重の力が吸収されてしまい、受枠3の拡径や蓋体2の縮径を促進することが難しい。また、防食用シートSの厚さは、蓋体2の開閉動作における、蓋体2と受枠3との干渉によっても、切れたり割れたりせず、傷が付き蓋体2や受枠3における、鋳鉄の素地が露出しない厚さとの観点から、0.5~5.0mmの範囲で設定される。
【0030】
また、防食用シートSは、NBRを材料とするものに限定されず、CRやIIR等の他の合成ゴムを材料とするものであってもよいし、PP、PVC等のプラスチックを材料とするものであってもよい。さらに、これらの材料を複合したものであってもよい。なお、これら合成ゴムやプラスチックを材料とした防食用シートSは、NBRを材料とした場合と同様に、硬度60°~100°、厚さ0.5~5.0mmに設定することが好ましい。
【0031】
さらに、防食用シートSとして、アルミニウム、亜鉛、ステンレス、ニッケル、クロム、またはこれらいずれかを主材料とする合金からなる、展伸材や溶射皮膜を採用することできる。これら展伸材や溶射皮膜を採用した場合の防食用シートSの厚さは、0.1~3.0mmが好ましい。
【0032】
図2(a)に示すように、閉蓋状態では、蓋体2の外周面221と、受枠3の内周面311に設けられた防食用シートSとが面接触して蓋体2が受枠3に支持される。この閉蓋状態において蓋体2に上方から荷重がかかると、防食用シートSによって、弾性変形による、受枠3の拡径(白抜きの矢印)または蓋体2の縮径(塗りつぶした矢印)、あるいは、弾性変形による、受枠3の拡径および蓋体2の縮径が促進される。この結果、弾性変形して拡径した受枠3が縮径しようとする力や、弾性変形して縮径した蓋体2が拡径しようとする力によって、いわゆるくさび効果が強まり、防食用シートSと、蓋体2の外周面221との面接触の密着性が高まる。これにより、長期間の使用によっても、防食用シートSと蓋体2の外周面221との間に腐食雰囲気が入り込みにくくなり、蓋体2の外周面221の腐食を長期間にわたり安定して防止することができる。なお、本実施形態では、受枠3の内周面311は、表面に設けられた防食用シートSによって腐食が防止される。
【0033】
また、防食用シートSを設ける箇所は、受枠3の内周面311に限られず、図2(b)において、一点鎖線の円で囲んで示すように、防食用シートSを、蓋体2の外周面221に設けてもよい。この態様を採用した場合には、防食用シートSと、受枠3の内周面311との面接触の密着性が高まり、長期間の使用によっても、防食用シートSと受枠3の内周面311との間に腐食雰囲気が入り込みにくくなる。ただし、蓋体2の外周面221には、鍵穴211(図1(b)参照)等があるため、接着剤等によって防食用シートSを貼る作業性を考慮すると、防食用シートSを受枠3の内周面311に設ける態様が好ましい。なお、受枠3の内周面311と蓋体2の外周面221の双方に防食用シートSを設ける態様としてもよい。
【0034】
さらに、図2(b)の二点鎖線の円で囲んで示すように、NBR等によって構成された防食用シートSの内部に、ワイヤW等を挿入する態様としてもよい。この態様によれば、蓋体2に掛かる荷重が伝わりやすくなり、防食用シートSと、蓋体2の外周面221または受枠3の内周面311との面接触の密着性をより高めることができる。
【0035】
次に、図1および図2に示す蓋受枠のセットの変形例について説明する。以下に説明する変形例においては、図1および図2に示す実施形態との相違点を中心に説明し、図1および図2に示す実施形態における構成要素の名称と同じ名称の構成要素には、これまで用いた符号を付して説明し、重複する説明は省略することがある。
【0036】
図3は、図2(a)に示す蓋受枠セット10の第1変形例を示す図である。
【0037】
図3に示すように、第1変形例の蓋受枠セット10では、防食用シートSが、受枠3の内周面311における下側部分に設けられている。第1変形例の蓋受枠セット10によれば、防食用シートSと、蓋体2の外周面221における下側部分との面接触の密着性がより高まり、上昇してくる腐食雰囲気の侵入を、その上流側で効果的に防止することができる。
【0038】
図4は、図2(a)に示す実施形態の第2変形例を示す図である。
【0039】
図4において一点鎖線の円で囲んで示すように、第2変形例の蓋受枠セット10では、下方に向かうに従い厚さtが厚くなる防食用シートSを採用している。
【0040】
こうすることで、上昇してくる腐食雰囲気の侵入を、防食用シートSと蓋体2の外周面221における、下側部分で食い止め易くなり、蓋体2の外周面221の腐食をより効果的に防止することができる。
【0041】
次いで、図1図4に示す実施形態について、比較例とともに実施した試験を説明する。
【0042】
受枠3の内周面311における上端の直径と、蓋体2の外周面221における上端の直径が、共に630mmの蓋受枠セットを2組用意した。受枠3の材質はFCD600とし、蓋体2の材質はFCD700とした。また、蓋体2は、日本下水道協会規格JSWAS G-4に準拠したものを用いた。これら2組の受枠セットのうち、一方の蓋受枠セット10の受枠3は、内周面311における上端の直径が633mmとなるように内周面311を削り、この内周面311に、厚さ1.5mmの防食用シートSを設けた。防食用シートSとしては、硬度70°のNBR製のものを用いた。これにより、受枠3の防食用シートSにおける上端の直径が630mmの実施例を得た。他方の受枠セット10’には防食用シートSを設けず比較例とした。そして、実施例と比較例について、試験1~試験3を実施した。
【0043】
図5(a)は、試験1および試験3を説明するための図である。
【0044】
(試験1)閉蓋状態において、蓋体2に設置した載荷板Pに対して、トレーラーが通過する際の荷重とされる実重としての70kNと、日本下水道協会規格JSWAS G-4において3倍の安全率を付加した試験荷重とされる210kNの2種類の荷重を、それぞれ1回加えた際の載荷中の受枠3の変形と、10回加えた際の載荷中の受枠3の変形を測定した。測定箇所は、図5(a)に示すように、鍵穴211の裏面側に設けられた錠とは180度反対側となる、蝶番が設けられている箇所を起点とする90°間隔の4カ所(M1~M4)とし、受枠3の上端から15mm下方の位置に変位計を設置し測定した。
【0045】
表1は、70kNの荷重を1回載荷した際の受枠3の変位を示し、表2は、210kNの荷重を1回載荷した際の受枠3の変位を示している。また、表3は、70kNの荷重を10回載荷した際の受枠3の変位を示し、表4は、210kNの荷重を10回載荷した際の受枠3の変位を示している。表1~4において、マイナスは受枠3の拡径した値を示し、プラスは受枠3の縮径した値を示している。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
図5(b)は、試験2を説明するための図である。
【0051】
(試験2)載荷板Pの周囲の変位が大きいことがこれまでの実験実績で把握されている。このため、図5(b)に示すように、載荷板Pの周囲における、蝶番側M5,M5の2カ所と、錠側M6,M6の2カ所の計4カ所において、試験1と同様の荷重を、それぞれ1回加えた際の載荷中の受枠3の変形と、10回加えた際の載荷中の受枠3の変形を測定した。なお、測定箇所は、枠リブ33が設けられている箇所とした。
【0052】
表5は、70kNの荷重を1回載荷した際の受枠3の変位を示し、表6は、210kNの荷重を1回載荷した際の受枠3の変位を示している。また、表7は、70kNの荷重を10回載荷した際の受枠3の変位を示し、表8は、210kNの荷重を10回載荷した際の受枠3の変位を示している。表5~8において、マイナスは受枠3の拡径した値を示し、プラスは受枠3の縮径した値を示している。
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
【表8】
【0057】
試験1および試験2の結果から明らかなように、防食用シートSが設けられていない比較例に比べて、防食用シートSが設けられた実施例の方が、受枠3の拡径が大きくなっていることが分かる。すなわち、防食用シートSは、蓋体2に荷重が掛かると、弾性変形による、受枠3の拡径を促進するものである。この点、防食用シートSが設けられた実施例でも、受枠3の弾性変形が発生し、弾性変形の吸収や隙間を埋めるパッキンとは相違することがわかる。なお、実施例では、70kNの低荷重載荷でも、受枠3の弾性変形が発生している。このため、軽自動車や2輪車などの軽荷重の繰返しによって、蓋体2と受枠3の食付き力を発生させることが可能であることが分かる。
【0058】
(試験3)閉蓋状態において、蓋体2に設置した載荷板Pに対して、70kNと210kNの2種類の荷重を、それぞれ1回加えた際の載荷中の蓋体2の沈下量と、10回加えた際の載荷中の蓋体2の沈下量を測定した。測定箇所は、試験1と同様に、図5(a)に示す4カ所(M1~M4)とし、蓋体2の外周側の位置に変位計を設置し測定した。
【0059】
表9は、70kNの荷重を1回載荷した際の蓋体2の沈下量を示し、表10は、210kNの荷重を1回載荷した際の蓋体2の沈下量を示している。また、表11は、70kNの荷重を10回載荷した際の蓋体2の沈下量を示し、表12は、210kNの荷重を10回載荷した際の蓋体2の沈下量を示している。
【0060】
【表9】
【0061】
【表10】
【0062】
【表11】
【0063】
【表12】
【0064】
試験3の結果から明らかなように、防食用シートSが設けられていない比較例に比べて、防食用シートSが設けられた実施例の方が、蓋体2が沈下していることがわかる。すなわち、防食用シートSは、蓋体2に荷重が掛かると、弾性変形による、受枠3の拡径または蓋体2の縮径、あるいは受枠3の拡径および蓋体2の縮径を促進するものである。この点について考察すると、比較例の受枠3は面線点による部分的に集中荷重により支持しているのに対し、実施例については、防食用シートSによって均等荷重となり、蓋体2と受枠3の密着性が高くなっているものと推察される。
【0065】
以上説明した蓋受枠セット10によれば、蓋体の外周面と受枠の内周面の腐食を、長期間にわたり安定して防止することができる。
【0066】
本発明は前述した実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、前述した実施形態では、受枠3の内周面311の傾斜角度θ1と、蓋体2の外周面221の傾斜角度θ2とを同じに設定しているが、例えば、受枠3の内周面311の傾斜角度θ1を、蓋体2の外周面221の傾斜角度θ2よりも大きくしてもよい。この態様を採用すると、防食用シートSと、蓋体2の外周面221における下側部分との面接触の密着性をより高めることができる。
【0067】
なお、以上説明した実施形態や各変形例の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、実施形態や他の変形例に適用してもよい。
(付記1)他の地下構造物用蓋受枠セットは、
地下構造物につながる開口を画定する金属製の受枠と、該受枠に支持されることで該開口を塞ぐ金属製の蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットにおいて、
前記受枠は、下方に向けて内径が狭くなる方向に傾斜した内周面を有するものであり、
前記蓋体は、下方に向けて外径が狭くなる方向に傾斜した外周面を有するものであり、
前記内周面と前記外周面のうちの少なくとも一方は、防食用シートが設けられたものであり、
前記防食用シートは、閉蓋状態において、前記内周面または前記外周面に面接触し、前記蓋体に荷重が掛かると、弾性変形による、前記受枠の拡径または前記蓋体の縮径、あるいは、弾性変形による、該受枠の拡径および該蓋体の縮径を促進するものであることを特徴とする。
(付記2)付記1記載の地下構造物用蓋受枠セットにおいて、前記防食用シートは、下方に向かうに従い厚くなるものであってもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 蓋受枠セット
2 蓋体
21 天板部
211 鍵穴
22 環状壁部
221 外周面
23 蓋リブ
3 受枠
31 枠本体
311 内周面
312 停止部
32 フランジ部
33 枠リブ
G 地面
H 開口
S 防食用シート
W ワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5