(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】ヘミング加工装置
(51)【国際特許分類】
B21D 39/02 20060101AFI20230110BHJP
B21D 37/04 20060101ALI20230110BHJP
B21D 19/08 20060101ALI20230110BHJP
B21D 19/04 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B21D39/02 E
B21D39/02 F
B21D37/04 Z
B21D19/08 C
B21D19/04 B
(21)【出願番号】P 2019128149
(22)【出願日】2019-07-10
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000135999
【氏名又は名称】株式会社ヒロテック
(72)【発明者】
【氏名】菅 賢二
(72)【発明者】
【氏名】三輪 雄一郎
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/229963(WO,A1)
【文献】特開平02-030329(JP,A)
【文献】特開2016-064427(JP,A)
【文献】特開2013-086181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 39/02
B21D 37/04
B21D 19/08
B21D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンビル交換を搬送用ロボットで行わせる
ことができる軽量アンビルを備え、ヘミングローラーを装着したヘミング加工用ロボット
と仕上げ用ローラーを備えたロボットでヘミング加工を行うよう構成したヘミング加工装置において、
前記ヘミングローラーでヘミング加工するのが困難な被ヘミング材の部位においては、
駆動源のない1または複数のリンク式ヘムパンチを前記アンビルに装着し、該ヘムパンチを、
前記ロボットの仕上げ用ローラーを前記リンク式ヘムパンチのアーム部端部に構成した孔部に係合させることにより作動させて、前記被ヘミング材をヘミング加工するよう構成し、
前記リンク式ヘムパンチ装着時においても前記搬送用ロボットでアンビル交換できるよう構成したことを特徴とする、
ヘミング加工装置。
【請求項2】
前記ローラーヘミング加工するのが困難な部位が、被ヘミング材端部に
形状精度が要求される機能的形状が設けられている部位であることを特徴とする、
請求項1に記載のヘミング加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ドアパネル等のアウターパネルとインナーパネルとをヘミング加工する際に用いられるローラーヘミング加工装置に関し、特にローラーでヘミング加工することが困難な形状を有する部位をヘミング加工するためのリンク式ヘムパンチを備えたヘミング加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ドアの製造現場では、アウターパネルとインナーパネルとからなるワークをヘミング加工するためのヘミング加工装置が用いられている。このような装置として、例えば、特許文献1には、ヘミング加工用ロボットでローラーをワークに押圧しながらヘミング加工を行い、搬送ロボットで機種変更時のアンビル交換を行う軽量アンビルを備えたヘミング加工装置が開示されている。
【0003】
このようなヘミング加工装置1は、
図10に示すように、ワークWを載置するアンビル2と、ワークWを保持するプレッサーマテハン3と、このプレッサーマテハン3を把持・搬送してアンビル2にワークWを搬入・搬出する搬送ロボット5と、更にヘミング加工用ロボット6とを備えている。アンビル2とプレッサーマテハン3は、搬送ロボット側ATC装置と脱着するための装置側ATCを備えている。
【0004】
上記ヘミング加工装置1によれば、まず搬送ロボット5がプレッサーマテハン3を把持して、アウターパネルW1とインナーパネルW2からなるワークWをプレッサーマテハン3で把持する。その後、搬送ロボット5は、ワークWを保持したプレッサーマテハン3をアンビル2上に載置してワークWをアンビル2に搬入し、搬送ロボット5はプレッサーマテハン3との連結を解除して退避する。そして、ワークWがアンビル2に固定されると、退避していた搬送ロボット5はローラーヘッドに持ち替え、他のヘミング加工用ロボット6とともにワーク外周に所定の加工を行う。ワーク外周のヘミング加工が終わると、搬送ロボット5はローラーヘッドとの連結を解除し、プレッサーマテハン3と連結して退避し、別のヘミング加工用ロボット6がワーク開口部内周のヘミング加工を行う。ヘミング加工が終了すると、搬送ロボット5はプレッサーマテハン3をワーク上部へ載置し、ワークWを把持して搬出する。
【0005】
アンビル2の交換作業の際には、ヘミング加工用ロボットとして稼働していたもう1台の搬送ロボット5が、ローラーヘッドとの連結を解除して、アンビル2をATC装置を介して把持する。アンビル2を把持した搬送ロボット5は、アンビル置き台9aまでアンビル2を搬出する。プレッサーマテハン3を把持していた、もう1台の搬送ロボット5は、プレッサーマテハン3を搬出したアンビル2上に載置して、次の工程で使用するアンビル2を取りに行き、ATC装置51を介して把持してアンビル支持台4へ置くことでアンビル交換作業を行う。軽量アンビルを用いるため、アンビル2の搬送用に可搬能力の大きなロボットを設置する必要がなく、搬送ロボットを小型化でき、ヘミング加工用ロボットと同等のロボットで機種変更時のアンビル交換を行うことができる。さらに、アンビル交換時間を短縮して生産性を向上させることができ、多種多様なワークを切り替えながら生産する生産ラインに適用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、被ヘミング材の一部には、コーナー部などのローラーヘミング加工することが困難な部位や、端部に機能的形状を有しローラーヘミング加工を行うと変形してしまう部位がある。ここで、機能的形状とは、特有の機能を持った形状で、機能を発揮するため一定の形状精度が要求される形状を指す。これらの形状を押しつぶさないようにヘミング加工を行う必要があるが、ローラーヘミング加工が困難な部位に対しても、形状の無い平坦なフランジ部をヘミング加工する際に使用する同じローラーを使用すると、この部位は波打ったような形状となり外観品質が悪化するという問題や機能的部位の形状精度が悪化するという問題があった。また、ヘミングローラーを使用して外観品質や形状精度を確保しようとすると、形状に影響を与えないように加工しなければならず、ローラーヘッドの加圧力を加減しながら何度もヘミング加工する必要があり加工時間が増大してしまうという問題があった。
【0008】
ローラーヘミング加工することが困難な形状を有する部位に対しては、専用のヘムパンチをアンビル2に設けてヘミング加工を行うことができる。通常、このような専用のヘムパンチには、加圧シリンダのような重量の大きな駆動源を設けてヘムパンチを作動させ、ヘミング加工を行う。しかしながら、重量の大きな駆動源を備えたヘムパンチを軽量アンビルに設けると、アンビル搬送時に必要な可搬能力の大きなロボットを設けなければならず、設備コストや設置場所が増大してしまうという問題があった。また、アンビルの重量が増加してしまうと、軽量アンビルを使用することで達成していたアンビル交換時間を短縮して生産性を向上させるという効果が減少してしまう。
【0009】
本発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、生産設備を軽量化し、ローラーヘミング加工することが困難な部位に対しても品質を確保しながら、加工時間を短縮して短い生産タクトに対応可能なヘミング加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明では、アンビル交換を搬送用ロボットで行わせるよう軽量アンビルを備え、ヘミングローラーを装着したヘミング加工用ロボットでヘミング加工を行うよう構成したヘミング加工装置において、ヘミングローラーでヘミング加工するのが困難な被ヘミング材の部位においては、1または複数のリンク式ヘムパンチを前記アンビルに装着し、該ヘムパンチをロボットで作動させて前記被ヘミング材をヘミング加工するよう構成したことを特徴とする。
【0011】
本発明に係るヘミング加工装置では、機種変更時のアンビル交換が搬送用ロボットで行われるように軽量アンビルを備え、かつ軽量アンビルにはロボットで作動させるヘムパンチを備える。
この構成によれば、ヘミングローラーでヘミング加工するのが困難な被ヘミング材の部位においても従来のように専用の駆動源を備えたヘムパンチを備える必要がない。アンビルに設けたリンク式ヘムパンチをロボットで作動させることができるため、アンビルを軽量化して小型化することができ、可搬能力の小さな搬送用ロボットを用いて機種変更時のアンビル交換ができ、設備費用や設置スペースを節約することができる。さらに、ヘミング加工するのが困難な部位においてもローラーの加圧力を加減しながら繰り返しヘミング加工する必要がなく、加工時間を短縮して外観品質を確保することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、ローラーヘミング加工するのが困難な部位が、被ヘミング材端部に機能的形状が設けられている部位であることを特徴とする。機能的形状とはある特有の機能を持った形状で、機能を発揮するため一定の形状精度が要求される形状を意味する。
【0013】
この構成によれば、ローラーヘミング加工するのが困難な機能的形状に対しても、リンク式ヘムパンチによって形状精度を満たすヘミング加工を短い加工時間で行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ローラーでヘミング加工することが困難な形状を有する部位をヘミング加工する際に、重量の大きな駆動源を設けることなくロボットでヘムパンチを作動させることが可能なため、アンビルを軽量化することができる。そして、可搬能力の小さなロボットで機種変更時のアンビル交換が可能なので、設備の低コスト化や設置場所を削減することができる。さらに、品質を維持してヘミング加工時間の短縮を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るヘミング加工装置の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】(a)は本発明に係るドアパネルの略図で、(b)は(a)Aの拡大図である。
【
図3】本発明に係るアンビルの構成を示す斜視図である。
【
図4】本発明に係るガイド装置の構成を示す斜視図である。
【
図5】本発明に係るリンク式ヘムパンチを示す斜視図である。
【
図6】本発明に係るリンク式ヘムパンチをロボットで作動させる様子を示す斜視図である。
【
図7】本発明に係るプレッサーマテハンの構成を示す斜視図である。
【
図8】本発明に係るヘミング加工用ロボットのヘッドの構成を示す斜視図である。
【
図9】本発明に係るリンク式ヘムパンチを作動するロボットのヘッドの構成を示す斜視図である。
【
図10】従来技術のヘミング加工装置を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の実施形態の説明は、本質的な例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を限定することを意図するものではない。
【0017】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。
図2(a)に示すように、自動車用ドアパネル10は、ドアウィンドウを収容する本体部11と、ドアウィンドウの開口部が形成されたサッシュ部12とを有している。
図2(b)に示すように、自動車用ドアパネル10には機能的形状(突起形状)15が設けられている。ここで、機能的形状とはある特有の機能を持った形状で、機能を発揮するため一定の形状精度が要求される形状を指す。本実施例では、自動車用ドアパネル10のベルト部14に、後の工程でベルトモールを係合するための突起形状15が設けられている。
【0018】
ヘミング加工装置1で加工される被ヘミング材Wは、車外側に位置するアウターパネルW1と、車室側に位置するインナーパネルW2とから構成される。ヘミング加工装置1は
図1に示すように、アウターパネルW1を載置するアンビル2と、被ヘミング材Wを保持するプレッサーマテハン3と、プレッサーマテハン3を把持・搬送する搬送ロボット5と、ヘミング加工用ロボット6と、アンビル2に設けられたリンク式ヘムパンチ27と、を備え、アンビル2に載置されたアウターパネルW1の外周部に対してはヘミング加工用ロボット61のローラー63によりヘミング加工を行い、アウターパネルW1の突起形状15が設けられた部位にはリンク式ヘムパンチ27によりヘミング加工を行い、アウターパネルW1とインナーパネルW2とを一体化するものである。
【0019】
ヘミング加工装置1による加工工程は、アウターパネルW1にインナーパネルW2を板厚方向に重ね合わせた状態で、予めフランジ加工したアウターパネルW1の端部を所定の角度でヘミングしていく予備曲げ工程と、予備曲げされたアウターパネルW1の端部をインナーパネルW2に押圧してインナーパネルW2の周縁部に重なるまでさらに曲げ加工する本曲げ工程とを有している。
【0020】
(アンビル)
アンビル2は、
図1に示すように、アンビル2を支持するアンビル支持台4に載置されている。アンビル2は、
図3に示すように、被ヘミング材Wを支持するアンビル本体部20と、被ヘミング材Wを搬入する際に被ヘミング材Wを支持する受け21と、アウターパネルW1を吸引把持する把持装置22と、搬送ロボット5のATC装置51と脱着するためのATC装置23と、プレッサーマテハン3の位置決め装置36と相対的な位置決めを行いアンビル2とプレッサーマテハン3とを連結させる位置決め装置24と、フランジ加工された被ヘミング材Wの外縁部を拘束して位置決めを行うガイド装置25と、被ヘミング材端部の突起形状15をヘミング加工する3台のリンク式ヘムパンチ27と、アンビル本体部20に配置され、アンビル本体部20を支持・固定する支持ブラケット28と、アンビル2を支持して高さを調整可能に配置された補助サポート29と、を備えている。
【0021】
アンビル本体部20は、被ヘミング材Wを載置して支持する部位であり、被ヘミング材Wのヘミング加工部位を裏から支持できるような形状に成形されている。そして、アンビル本体部20は、アウターパネルW1の本体部を支持する前部20aと後部20b、下部20cと上部20d、サッシュ部後部20eを備えている。また、アンビル2本体部は、剛性を確保してアンビル本体部20を補強するための複数のフレーム26がアンビル本体部の下部中央にハブ状の中央部と該中央部から放射状に設けられている。
【0022】
受け21は、被ヘミング材Wをアンビル2へ搬入する際に被ヘミング材Wを支持する部位であり、シリンダ等の駆動装置によって受け21を昇降させるためのリフター21aを備えている。被ヘミング材Wの搬入時には、受け21はリフター21aによりアンビル本体部20の上方に保持される。加工時には、リフター21aにより受けを下降させることもできるが、本実施例では、搬送ロボット5が下方に押圧することにより、リフター21aを押し下げて受け21を下降させる。受け21は、アンビル本体部20の前部20aと後部20b、下部20cと上部20の内側に所定の個数設けられており、被ヘミング材Wを安定して支持できるように数を調整することができる。
【0023】
把持装置22は、アンビル2に載置された被ヘミング材Wを構成するアウターパネルW1を吸引把持するためのものであり、特に限定されるものではないが、負圧を利用して吸引把持するバキュームカップを採用することができる。把持装置22は、アンビル本体部20の前部20aと後部20b、下部20cと上部20dの内側に所定の個数設けられている。把持装置22は、負圧配管が弁装置(共に図示せず)を介して接続されている。把持装置22は、弁装置の開閉動作により、被ヘミング材Wとの接触部分に負圧力を作用させる状態と作用させない状態とに切り替え可能となっている。把持装置22の被ヘミング材Wとの接触部分に負圧力を作用させると、把持装置22は被ヘミング材Wを下方から吸引保持する。一方、把持装置22の被ヘミング材Wとの接触部分に負圧力を作用させないと、被ヘミング材Wは把持装置22から離脱可能となる。
【0024】
ATC装置23は、周知のオートツールチェンジャーであり、搬送ロボット5のATC装置51と脱着するためのものである。ATC装置23は、ハブ状のフレーム26の上側(上面)に設けられている。具体的な作動は、被ヘミング材Wが載置されていない状態で、搬送ロボット5のATC装置51に設けられた係合凸部を、対向するアンビル2のATC装置23に配設された係合凹部に位置決めをして係合することで、搬送ロボット5とアンビル2とを連結することができる。アンビル2のATC装置23と搬送ロボット5のATC装置51とは図示しないアクチュエータによって装着状態と離脱状態に自動的に切り替えられるようになっている。
【0025】
位置決め装置24は、当該位置決め装置24に対応するプレッサーマテハン3の部位に設けられた位置決め装置36と相互に位置決めをしてアンビル2とプレッサーマテハン3とを連結させるためのものであり、
図3に示すように、アンビル本体部20の外側に4か所設けられている。本実施例では、アンビル2の位置決め装置24は位置決めピンを、プレッサーマテハン3の位置決め装置36は位置決め孔を備えている。
【0026】
アンビル2とプレッサーマテハン3とを位置決めして連結するには、まず搬送ロボット5によってプレッサーマテハン3を移動し、位置決め装置36を対向するアンビル2の位置決め装置24の上方に移動させる。そして、搬送ロボット5によりプレッサーマテハン3を下方に移動させ、位置決め孔に位置決めピンを挿通することでアンビル2とプレッサーマテハン3との位置決めを行うことができる。
【0027】
プレッサーマテハン3の位置決め装置36のアーム部の端面には位置決め孔(図示しない)が配置されている。この位置決め孔には図示しない複数の係合孔が周方向に所定の間隔をあけて半径方向に形成されている。一方アンビル2の位置決め装置24のアーム部の端面には位置決めピン(図示しない)が配置されている。この位置決めピンの先端には係合孔に対応する個数の図示しない係合部材を備えており、半径方向へ移動可能に設けられている。位置決めピンを位置決め孔に挿通すると、シリンダ等の駆動装置により係合孔に係合部材が係合して、アンビル2とプレッサーマテハン3とが互いに離脱不能に連結される。一方、係合部材を係合孔に係合させない状態では、アンビル2とプレッサーマテハン3とが互いに離脱可能な非連結状態とされる。このように、アンビル2とプレッサーマテハン3とを連結することで、被ヘミング材Wをアンビル2に載置した状態で、アウターパネルW1とインナーパネルW2とがずれないように加圧することができる。
【0028】
ガイド装置25は、予めフランジ部が形成されたアウターパネルW1の外周縁部を拘束することで、アンビル2に対して被ヘミング材Wの位置を規制して位置決めする装置である。ガイド装置25は、
図4に示すように、一方の端部には被ヘミング材W外周縁部に当接して拘束するアウターガイド部25aと、他方の端部にアンビル2に対し回転可能に支持された支持部25bとを備えた本体部と、アウターガイド部25a上端部がアンビル2の外縁から突出するよう本体部を付勢する付勢部25cを備えている。このようなガイド装置25は、
図3に示すように、アンビル2の外縁に沿って被ヘミング材Wの位置を規制しながらヘミング加工を行うのに十分な数だけ複数配設されている。ガイド装置本体部は、アンビル2の外縁に埋め込んで配設されているため、ヘミング加工時にローラー63がアンビル2の外側から接近してもローラー63と干渉することなく、確実に被ヘミング材Wの位置を規制して位置決めすることができる。
【0029】
またガイド装置の付勢部25cは、被ヘミング材Wのヘミング加工時にローラー63と干渉して加工を妨げないよう、ローラー63による加圧力が作用すると沈下動作を行う。具体的には、ローラー63がアウターガイド部25aの端部に当接して加圧力が作用すると、アウターガイド部25aは支持部25bに回動可能に支持されていることから、アウターガイド部25aが支持部25bを中心として付勢部25cの付勢力に抗して沈下動作を行う。ローラー63がアウターガイド部25aの上を通過し加圧力が作用しなくなると、付勢部25cの付勢力によりアウターガイド部25aは初期位置に戻り、被ヘミング材Wの位置決め状態に復帰する。
【0030】
支持ブラケット28はアンビル2に2か所設けられている。支持ブラケット28の座面には位置決め用の基準孔が設けられており、アンビル支持台4の基準ピン(図示せず)を挿通して位置決めを行い、アンビル支持台4に固定している。
【0031】
(リンク式ヘムパンチ)
リンク式ヘムパンチ27は、ローラーでヘミング加工することが困難な機能的形状15を有するアウターパネルW1の部位をヘミング加工する際に用いられる。本実施例では、
図1に示すように、リンク式ヘムパンチ27はアンビル2に3台配設される。
図5に示すように、リンク式ヘムパンチ27は、
図9に示すロボット65の仕上げ用ローラー67と係合する孔部27aを有するアーム部27bと、ヘムパンチ27cとを備え、ヘムパンチ27cを備えるブラケット27dとアーム部27bとはリンク27eを介して連結されている。ヘムパンチ27cは、ロボット65の仕上げ用ローラー67と孔部27aとを係合して、ロボット65の作動でアーム部27bを上下動させることにより、回転軸27fを中心に退避位置と曲げ加工位置との間を移動可能に設けられている。
【0032】
リンク式ヘムパンチ27でヘミング加工を行う場合は、
図6に示すように、ロボット65の仕上げ用ローラー67を孔部27aに係合し、ロボット65の作動によりアーム部27bを下方に押圧して、ヘムパンチ27cを退避位置から曲げ加工位置まで移動させる。このようにして、ヘムパンチ27cをフランジ部に対して押圧させてフランジ部のヘミング加工を行う。ヘミング加工が終了すると、ロボット65によりアーム部27bの位置を元に戻すことでヘムパンチを退避位置まで戻し、仕上げ用ローラー67と孔部27aとの係合を解除する。そして、残り2台のリンク式ヘムパンチ27にも同様の動作を行い、ヘミング加工を行う。リンク式ヘムパンチ27によるヘミング加工が終了すると、ヘミング加工された部位を当該仕上げ用ローラー67により押圧して最終的な仕上げ加工を行う。
【0033】
本実施例ではアウターパネルW1のヘミング端部に
図2(b)に示すように後の工程でベルトモールを係合するための突起形状を有している。このような特殊な形状を持ったヘミング端部をローラーでヘミングすると、ローラーヘミング加工の特性上被ヘミング部をローラーで変形させながら加工するためどうしても前記突起形状に波打ったような変形が生じてしまう。このような部位ではリンク式ヘムパンチを用いることで、一定の範囲を平面のままヘミング加工し形状を変形させない高品質なヘミング加工が実現できる。
また、リンク式ヘムパンチ27には専用の駆動源を設けることなくロボット65でリンク式ヘムパンチ27を作動させることができるため、簡易な構成によりアンビル2を軽量化して小型化することができる。これによりアンビル2の重量増加を最小限に抑えながらリンク式ヘムパンチを追加できるので、搬送ロボット5の可搬重量をアップすることなく機能形状を備えたヘミング部の高品質なヘミング加工を実現できる。本実施例では3台のリンク式ヘムパンチ27で構成しているが、被ヘミング材Wの形状に応じて台数は調整することができる。
【0034】
(プレッサーマテハン)
プレッサーマテハン3は、
図7に示すように、被ヘミング材Wの形状に対応したフレーム部31と、インナーパネルW2の位置決め孔と係合してインナーパネルW2の位置決めを行う2つの基準ピン(図示せず)と、アウターパネルW1を把持する把持装置33と、アウターパネルW1の最終形状と干渉しない位置でインナーパネルW2を加圧するよう設けられたプレッサー34と、搬送ロボット5のATC装置51と脱着するためのATC装置35と、アンビル2の位置決め装置24と相対的な位置決めを行いアンビル2とプレッサーマテハン3とを連結させる位置決め装置36と、を備えている。
【0035】
フレーム部31は、把持装置33で被ヘミング材Wを把持した状態で、搬送ロボット5によって被ヘミング材Wを搬送したり、位置決め装置36を介してアンビル2と連結し、プレッサー34を被ヘミング材Wに加圧して被ヘミング材Wをアンビルに固定する機能を持つ部材である。
【0036】
基準ピンは、インナーパネルW2の位置決め孔に対応してフレーム部31の下側(下面)に2箇所設けられ、当該位置決め孔と係合して、プレッサーマテハン3が被ヘミング材Wを保持する際の位置決めを行う。
【0037】
把持装置33は、フレーム部31に配置される把持アーム33aと、把持アーム33aを駆動する駆動装置33cと、把持アーム33aの先端にアウターパネルW1を把持する把持部33bとを有している。把持装置33は、駆動装置33cにより把持アーム33aを作動して被ヘミング材Wをクランプした状態で搬送ロボット5により図示しない被ヘミング材W置き台からアンビル2へと被ヘミング材Wを搬送する。その際、アンビル2に設けられた受け21は、リフター21aによりアンビル本体部20の上方に保持されており、被ヘミング材Wが受け21により支持されると、把持装置33はクランプを解除する。本実施例では把持装置33は4か所配置されているが、被ヘミング材Wの搬送安定性を確保できるように数を調整することができる。
【0038】
プレッサー34は、
図7に示すようにフレーム部31の下側(下面)に配設され、L字形状やI字形状をした棒状の部材で構成される。プレッサー34の先端部は、アウターパネルW1のヘミング加工後の最終形状と干渉しない位置でインナーパネルW2を加圧するように所定の間隔で適切な個数設けられている。
【0039】
ATC装置35は、フレーム部31の上側(上面)に設けられている。ATC装置35の構成はアンビル2のATC装置23と同様であるので、説明は省略する。
【0040】
位置決め装置36は、アンビル2の位置決め装置24に対応する部位に設けられ、アンビル2の位置決め装置24と相互に位置決めしてアンビル2とプレッサーマテハン3とを連結する。位置決め装置36の構成は、アンビル2の位置決め装置24の説明において説明済みのため、詳細な説明を省略する。
【0041】
(搬送ロボット)
搬送ロボット5は、多関節ロボットであり、プレッサーマテハン3を把持・搬送してアンビル2に対して被ヘミング材Wを搬入・搬出するように、ロボットアームの先端部にATC装置51を備えている。被ヘミング材Wを搬入・搬出する場合には、搬送ロボット5のATC装置51とプレッサーマテハン3のATC装置35とを連結して行うことができる。また、アンビル交換を行う場合には、搬送ロボット5のATC装置51とアンビル2のATC装置23とを連結して行うことができる。
アンビル交換をロボットで行わせることにより、機種変更に伴うアンビル交換作業を60秒以内で行わせることが可能となった。
【0042】
本実施例では、搬送ロボット5はヘミング加工を行わないが、搬送ロボット5にはATC装置51が装着されているので、プレッサーマテハン3との連結を解除すると、ローラーヘッドを装着してヘミング加工用ロボットとしても稼動することができ、効率良くロボットを稼動することができる。
【0043】
(へミング加工用ロボット)
図8に示すようにヘミング加工用ロボット61は、ロボットアームの先端部にローラーヘッド62を装着した多関節ロボットであり、アンビル2に載置された被ヘミング材Wのヘミング加工部位にローラーヘッド62に装着されたローラー63を押圧しながらアウターパネルW1の外周縁部をインナーパネルW2の外周縁部に重なる最終形状となるまでヘミング加工を行うものである。
【0044】
本実施例のローラーヘッド62は、
図8に示すように、ローラー63の加圧軸A-Aがロボットの先端部との接合部に対し30度から60度傾斜を持って取り付けられ、かつローラー63の加圧軸A-Aが旋回可能に構成された旋回式ローラーヘッド62を採用している。これにより、ローラー63の加工可能範囲を拡大することができ、ヘミング加工中のロボット同士の相互干渉を低減することができる。
【0045】
図8に示すようにローラー63に隣接して、仕上げ用パンチ64を取り付けている。この構成によりローラーヘミング工程が終了すると、同じロボットの作動ですぐに仕上げ用パンチ64を使ったヘミングの仕上げ工程に移れるという工程短縮のメリットがある。
【0046】
本実施例ではATC装置51が装着されプレッサーマテハン3やアンビル2、ローラーヘッド61のいずれかを選択して装着可能な搬送ロボット5が3台、ローラーヘッド61が直接ロボット先端部に装着された専用のヘミング加工用ロボットが2台でヘミング加工装置1を構成している。被ヘミング材Wの形状や加工時間の要求などに応じてこれらロボットの台数は調整することができる。
【0047】
(動作)
以上のように構成されたヘミング加工装置1を用いた動作について説明する。搬送ロボット5は、ATC装置51によってプレッサーマテハン3を把持し、図示しない被ヘミング材W置き台に置いてある予めフランジ加工されたアウターパネルW1とアウターパネルW1上に載置されたインナーパネルW2とからなる被ヘミング材Wを、プレッサーマテハン3の把持装置33によりアウターパネルW1をクランプして把持する。プレッサーマテハン3を介して被ヘミング材Wを把持した搬送ロボット5は、アンビル2へと被ヘミング材Wを搬入する。その際、アンビル2に設けられた受け21は、リフター21aによりアンビル本体部20の上方に保持されており、被ヘミング材Wが受け21により支持されると、把持装置33はクランプを解除する。クランプが解除された後も、被ヘミング材Wはアンビル本体部20上方に保持された受け21に支持されているため、プレッサーマテハン3を把持している搬送ロボット5は、下方に押圧してリフター21aを押し下げ、被ヘミング材Wをアンビル本体部20に当接させる。その後、被ヘミング材Wは、アンビル2の把持装置22との接触部分に作用する負圧力により下方から吸引保持されると同時に、位置決め装置24、36によるアンビル2とプレッサーマテハン3との連結によって、アンビル2に加圧支持される。
【0048】
被ヘミング材Wのアンビル2への加圧支持が完了すると、搬送ロボット5はプレッサーマテハン3との連結を解除して退避する。アンビル2に載置された被ヘミング材Wは、前述のように、アンビル2の把持装置22の吸引力とプレッサーマテハン3とアンビル2との連結による支持とでアンビル2に固定される。
【0049】
アンビル2に載置されたアウターパネルW1の外周端部のヘミング加工をヘミング加工用ロボット61により行う。ローラー63をアウターパネルW1の外周端部に押圧しながら所定の角度に曲げ加工する予備曲げ加工を行い、次に予備曲げ加工されたアウターパネルW1の外周端部をインナーパネルW2の周縁部に重なる最終形状となるまで押圧して加工する本曲げ加工を行い、アウターパネルW1の外周端部のヘミング加工を完了する。
【0050】
アウターパネル外周端部のローラーヘミング加工を行いながら、突起形状15が設けられたアウターパネルW1ベルト部14のヘミング加工を行う。
図6に示すように、ロボット65の仕上げ用ローラー67をリンク式ヘムパンチ27の孔部27aに係合し、3台のヘムパンチのアーム部27bを順番に押圧する。これにより、ヘムパンチ27cを待機位置から加工位置に回転させてヘミング加工する。被ヘミング部はあらかじめ前工程で約45度曲げ加工を施しているため、1回の加工で曲げ加工は完了する。その後、ロボット65は仕上げ用ローラー67と孔部27aとの係合を解除して、仕上げ用ローラー67により曲げ加工された部位の仕上げ加工を行う。
【0051】
ヘミング加工完了後、位置決め装置24、36によるアンビル2とプレッサーマテハン3との連結を解除する。退避していた搬送ロボット5は、プレッサーマテハン3上部へ移動して、ATC装置51によってプレッサーマテハン3を把持して次にヘミング加工を行う被ヘミング材Wを取りに行く。そして、次の工程の搬送ロボット68が図示しないマテハンにより被ヘミング材Wを把持して次工程へと搬送し、一連のヘミング加工を完了する。
【0052】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。第1の実施形態と共通する構成については説明を省略し、異なる構成についてのみ説明する。
被ヘミング材Wの4隅のコーナー部がヘミング加工するのが困難な被ヘミング材の部位に該当する場合があるため、本実施例においては4隅のコーナー部にリンク式ヘムパンチ(図示せず)を配置しヘミング加工を行っている。
【0053】
コーナー部をヘミングローラーでヘミングすると、コーナー部の形状によっては皺や割れの発生を避けるため、ローラーを何度も往復をさせる必要が生ずる場合がある。その場合はリンク式ヘムパンチを各コーナー部に配置し、各コーナー部のヘミング加工をリンク式ヘムパンチにより行わせる。この構成によりより高品質なコーナー部をヘミング加工をより短時間に行うことができる。
【0054】
この場合もアンビルの重量増加を最小限に抑えるため実施形態1に用いたのと同様の、ロボットを作動源とするリンク式ヘムパンチを配置し、ロボットの可搬重量が増加するのを防止している。
これらの構成によりアンビル交換時のロボットの可搬重量が増加することなく、各コーナー部のヘミング加工を高品質に短時間で行うことができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ヘミング加工装置
2 アンビル
3 プレッサーマテハン
5 搬送ロボット
15 突起形状(機能的形状〉
27 リンク式ヘムパンチ
W 被ヘミング材