(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】袋状フィルタ
(51)【国際特許分類】
B01D 39/08 20060101AFI20230110BHJP
D04B 1/00 20060101ALI20230110BHJP
D04B 1/18 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B01D39/08 Z
D04B1/00 B
D04B1/18
(21)【出願番号】P 2020168318
(22)【出願日】2020-10-05
(62)【分割の表示】P 2019546252の分割
【原出願日】2019-02-18
【審査請求日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018031267
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018119141
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505136457
【氏名又は名称】中野産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】中野 義典
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-078762(JP,A)
【文献】特開平11-147008(JP,A)
【文献】実公平06-008081(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D39/00-39/20
B01D29/11-29/37
C02F11/00-11/20
D04B1/00-1/28
D04B21/00-21/20
D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械において循環使用される液体である濾過対象液に含まれる加工粉を濾過するための工業用濾過装置に使用される袋状フィルタであって、
少なくとも一部にポリウレタン弾性糸を芯糸とするカバリング糸を、袋状丸編物全体にわたって、一部又は全部に使用して得られた袋状丸編物からなり、袋形状の底部において、丸編物の胴部周面が
、二重に編地を編成した部位で形成されてなり
、二重に編地を編成した部位(袋状フィルタ長手方向の長さ)が袋幅の20%以上であ
り、
上記二重に編地を編成した部位は、K式編み機を使用したダブルニットインによる折り返し二重構造を形成し、当該二重構造の端部を封じることで、袋形状が形成されていることを特徴とする袋状フィルタ。
【請求項2】
丸編物の胴部周面を形成する少なくとも二重に編地を編成した部位の幅(袋状フィルタ長手方向の長さ)が袋幅の20~100%の範囲である請求項1記載の袋状フィルタ。
【請求項3】
袋状丸編物の開口部近傍の端部が、二重以上の編地で形成されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の袋状フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、袋状フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、濾過対象液に含まれる固体を袋状フィルタを用いて分離する工業用の濾過装置が知られている。この濾過装置は、例えば、工作機械における加工部分の冷却、潤滑、洗浄などに循環使用されるクーラント、切削油、研削液、洗浄液などの液体である濾過対象液に含まれる切り粉、研磨粉などの加工粉からなる所定の大きさ以上の固体を分離するのに用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
本発明者らは、このような袋状フィルタにおいてカバリング弾性糸を使用した袋状フィルタを開発した(例えば、特許文献2参照)。このようなカバリング弾性糸を使用した袋状フィルタは、目詰まりするまでの期間である寿命(使用可能時間)が長いという利点を有する。すなわち、目詰まりが生じにくいため、フィルタの交換頻度が低く、かつ、低コストであるという利点を有する。
【0004】
このような袋状フィルタにおいて、更に耐久性を向上させ、コストを上げることなく交換頻度を少なくすることができれば、更に好ましいものである。特に、袋状フィルタにおいては、部位によって劣化の速度が大きく相違している。しかし、フィルタという用途の特質上、ほとんどの部位において劣化が生じていなくても、負荷がかかりやすい特定部分に劣化が生じればそれ以上使用することはできず、交換する必要が生じてしまう。
【0005】
このような強度を改善するための方法としては、使用する糸を太いものとすることが考えられる。しかし、使用する編み機の制約もあり、糸を太くすることでこのような問題を改善することは困難であった。
【0006】
また、このような袋状フィルタにおいて、更に編目の隙間を小さくすることでより細かな固形物を捕捉することができれば、更に好ましいものである。特に、フィルタは使用目的に応じて捕捉すべき固形物の大きさが異なる。このため、より微細な(例えば、平均粒子径が1~20μm)粒子を捕捉できるようなフィルタも要求されている。
【0007】
このような捕捉能力を改善するための方法としては、上述と同様に使用する糸を太いものとすることが考えられる。しかし、使用する編み機におけるフックの形やゲージの制約もあり、糸を太くすると編むことが困難となり、これによって上述した問題を改善することは困難であった。したがって、使用する糸の太さや編組織の調整のみで、上述した問題を解決することは困難であった。
【0008】
また、繊維の分野においては各種熱融着糸が知られており、種々の目的に使用されている。例えば、特許文献3等に開示された熱融着性ポリウレタン弾性繊維等が知られている。しかしながら、このような熱融着糸を使用した袋状フィルタは、これまで検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-154213号公報
【文献】特開2013-78762号公報
【文献】特開2006-307409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記に鑑み、コストの上昇を生じることなく従来の袋状フィルタよりも耐久性に優れるため、交換頻度を少なくすることができる袋状フィルタを提供することを目的とするものである。
さらに、従来の袋状フィルタよりも、細かな固形物を捕捉することができる、高い濾過性能と耐久性を両立した袋状フィルタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、工作機械において循環使用される液体である濾過対象液に含まれる加工粉を濾過するための工業用濾過装置に使用される袋状フィルタであって、
少なくとも一部にポリウレタン弾性糸を芯糸とするカバリング糸を使用した繊維素材を、袋状丸編物全体にわたって、一部又は全部に使用して得られた袋状丸編物からなり、袋形状の底部において、丸編物の胴部周面が、二重に編地を編成した部位で形成されてなり、二重に編地を編成した部位(袋状フィルタ長手方向の長さ)が袋幅の20%以上であり、
上記二重に編地を編成した部位は、K式編み機を使用したダブルニットインによる折り返し二重構造を形成し、当該二重構造の端部を封じることで、袋形状が形成されていることを特徴とする袋状フィルタである。
【0012】
上記丸編物の胴部周面の少なくとも二重に編地を編成した部位の幅(袋状フィルタ長手方向の長さ)が袋幅の20~100%の範囲であることが好ましい。
上記袋状丸編物の開口部近傍の端部が、二重以上の編地で形成されてなることが好ましい。
【0013】
本発明は、固形分を含む廃液を濾過するために使用される袋状フィルタであって、
少なくとも一部に弾性糸を使用した繊維素材を一部又は全部に使用して得られた袋状丸編物からなり、
使用された繊維素材の一部が熱融着糸であることを特徴とする袋状フィルタでもある。
上記弾性糸は、熱融着弾性糸であることが好ましい。
上記袋状フィルタは、熱融着弾性糸のカバリング糸を少なくとも一部に使用したものであることが好ましい。
上記袋状フィルタは、熱融着弾性糸と仮撚加工糸との引き揃え糸を少なくとも一部に使用したものであることが好ましい。
上記袋状フィルタは、熱融着糸弾性糸とその他の繊維とを交編した編地であることが好ましい。
上記袋状フィルタは、編工程によって袋状形状を形成した後に熱処理を行うことによって、熱融着糸を融着させたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第一の袋状フィルタは、耐久性に優れるため、濾過装置において交換頻度を少なくすることができ、これによってコストダウンに寄与することができる。
さらに、本発明の第二の袋状フィルタは、粒径の小さい固形物も濾過できるような良好な濾過性能を有し、これによって濾過能力の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の袋状フィルタの一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の袋状フィルタの一例を示す模式図である。
【
図3】本発明の袋状フィルタの一例を示す模式図である。
【
図4】本発明の袋状フィルタの一例を示す模式図である。
【
図5】本発明の袋状フィルタの製造方法の一例を示す模式図である。
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の第一の袋状フィルタは、袋形状の底部において、少なくとも二重に編地を形成した部位を有する点に特徴を有するものである。
すなわち、袋状フィルタは、垂直方向に装置に設置がなされることから、固体を含んだ廃液は、その多くが袋状フィルタの底面部上に落下することになる。よって、落下の際の負荷は主に、フィルタ底部にかかる。そして、濾過された固形物もまた、底部に溜まりやすい。このため、袋状フィルタの底部に負荷が集中し、その結果底部からの劣化を生じやすい。すなわち、胴部においてはほとんど劣化を生じていないのに、底部においてのみ劣化が生じることがあり、これが袋状フィルタの寿命低下の原因となる。本発明においては、このような底部に対して、少なくとも二重に編地を編成した部位を設け、これによって、底部の強度を改善することによって、上述した問題を解決したものである。
【0017】
本発明において少なくとも一部に弾性糸を使用した繊維素材を使用して得られた袋状編物を使用するのは、弾性糸を使用した編地は、伸縮性において特に優れるものであることから、固形物を捕捉する能力が非常に高く、かつ、多くの固形物が捕捉された後でも糸の伸縮によって編目が変形することで液体が通過しやすく、編目のつまりによって濾過能力が低下するという問題が生じにくいためである。
【0018】
本発明で使用する少なくとも一部に弾性糸を使用した繊維素材を一部又は全部に使用して得られた袋状丸編物は、特に限定されず、スパンデックス弾性糸とその他の繊維とを組み合わせて複合化した複合繊維によって得られた編地(A-1)、弾性体を構成単位とするコンジュゲート繊維によって得られた編地(A-2)、スパンデックス糸とその他の繊維とを交編した編地(A-3)等を使用することができる。
以下、これらについて、より具体的に説明する。
【0019】
(スパンデックス弾性糸とその他の繊維とを組み合わせて複合化した複合繊維によって得られた編地(A-1))
ここでの複合繊維は、一部にスパンデックス弾性糸を使用し、これをその他の繊維と組み合わせた複合糸を使用した編地である。ここで、組み合わせるその他の繊維としては特に限定されず、ポリアミド繊維、絹、ポリエステル繊維、綿糸、ポリオレフィン繊維(例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維)などを使用することが好ましい。これらのなかでも、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維を使用することが特に好ましく、ポリエステル繊維を使用することが最も好ましい。ここでいうポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートからなる繊維、ポリブチレンテレフタレートからなる繊維等を挙げることができる。
【0020】
スパンデックス弾性糸としては特に限定されるものではないが、耐久性、強度、コスト等の観点からみて、ポリウレタン弾性糸を使用することが最も好ましい。
【0021】
以下で詳述するように、本発明の袋状フィルタの製造においては、筒状の丸編物を製造し、その底部を閉口させることによって製造することが好ましい。このような製造方法に際しては、底部の閉口の強度を得ることが必要である。特に、閉口部は底部の一部を形成するものとなるから、フィルタとしての使用時に負荷がかかりやすく、破れほつれ等の原因となりやすい部位である。
【0022】
複合糸の複合方法としては特に限定されず、カバリング糸、弾性糸と仮撚加工糸との引き揃え糸等の公知の任意のものを使用することができる。なかでも、強度や加工性等の観点から弾性糸にその他の繊維を巻きつけることで得られたカバリング糸を使用することが特に好ましい。
【0023】
カバリング弾性糸を構成するスパンデックス弾性糸としては特に限定されず、例えば、5~510デニールのものを使用することができる。上記下限は、10デニールであることがより好ましく、上記上限は280デニールであることがより好ましい。
【0024】
カバリング糸は、シングルカバリング、ダブルカバリングのいずれであってもよい。
より具体的には、例えば、弾性糸に、ポリエステルなどの合成繊維のフィラメント数の多いハイマルチタイプ(1フィラメントが1.2デシテックスより細い糸)をカバリングしたシングルカバーリングヤーン(SCY22dWN70/48、50/144、75/144、75/72デニール/本数等)を挙げることができる。また、弾性繊維に、2本の合成繊維の糸をカバリングしたダブルカバーリングヤーン(DCY)であってもよい。なお、スパンデックス繊維としては、一般的に広く使用されているポリウレタン弾性繊維を使用することが好ましいが、これに限定されるものではなく、例えば、ポリエーテルエステル弾性繊維を用いてもよい。また、弾性繊維の糸を合成繊維の糸でカバリングすることにより、加工粉によって編み目の破損や損傷が短時間で発生するのを防止することができる。
【0025】
(弾性体を構成単位とするコンジュゲート繊維によって得られた編地(A-2))
一部に弾性体を構成単位とするコンジュゲート繊維は、市販されたものが存在し、これらを好適に使用することができる。例えば、ポリアミドとポリウレタンのコンジュゲート繊維、ポリエステルとポリウレタンのコンジュゲート繊維等を挙げることができる。このようなコンジュゲート繊維のコンジュゲートタイプとしては特に限定されず、サイドバイサイド型、芯鞘型等のものを使用することができる。このようなコンジュゲート繊維としては、KBセーレン社製のシデリア(商品名)等、市販のものを使用することができる。
【0026】
(スパンデックス糸とその他の繊維とを交編した編地(A-3))
スパンデックス糸を上述したような複合糸やコンジュゲート糸として使用するのでなく、それ自体を単糸として使用し、その他の繊維と交編したものであってもよい。このような交編の方法としては特に限定されず、公知の任意の編み組織とすることができる。
【0027】
(その他の繊維素材の併用について)
上述した(A-1)~(A-3)のようなそれぞれの編地においては、スパンデックス弾性糸とその他の繊維とを組み合わせて複合化した複合繊維、弾性体を構成単位とするコンジュゲート繊維、スパンデックス糸を2種以上組み合わせて使用するものであってもよいし、一部その他の繊維を組み合わせて使用するものであってもよい。その他の繊維としては特に限定されず、ポリアミド繊維、絹、ポリエステル繊維、綿糸、ポリオレフィン繊維(例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維)などを使用することができる。
【0028】
本発明の第二の袋状フィルタは、少なくとも一部に熱融着糸を使用した繊維素材を一部又は全部に使用して得られた袋状丸編物からなる袋状フィルタであり、さらに、これを構成する繊維のうち一部に熱融着糸を使用したものである。
本願発明の袋状フィルタは、上記熱融着糸を一部に使用した繊維素材とし、編目の一部を融着させることで、編目のずれを生じにくくすることができ、これによって小さな固形物が編目を通過してしまうことが抑制され、これによって、濾過能力の向上を図ることができる。
【0029】
上記融着糸としては、弾性糸を熱融着弾性糸としてもよいし、弾性糸と組み合わせて使用される繊維の一部又は全部を熱融着糸とするものであってもよい。上述した効果をより好適に得ることができるという点で、熱融着弾性糸を使用することが特に好ましい。
【0030】
本発明において使用できる、熱融着糸としては特に限定されず、熱融着性ポリウレタン弾性糸、熱融着性ポリエステル糸、熱融着ナイロン糸等を挙げることができる。
上記熱融着性ポリウレタン弾性糸としては特に限定されないが、湿熱下真空80℃で融着した時の熱融着力が0.15N/dtex以上であることが好ましい。このような熱融着性ポリウレタン弾性糸を使用することにより、熱融着性及び熱セット時の耐熱性に優れ、断糸や劣化が起こりにくく耐久性に優れた袋状フィルタを得ることができる。また、上記熱融着性ポリウレタン弾性糸は、糸の太さが10~310texの範囲であることが好ましい。上記範囲より細いと、融着部の表面積が狭くなり、充分な耐久性が得られないおそれがある。また、上記範囲より太いと、編み機の針にかからない場合がある。
このような熱融着性ポリウレタン弾性糸としては、モビロンK-L、モビロンR、モビロンRL、モビロンRLL(商品名:日清紡テキスタイル株式会社製)、ライクラ(商品名:インビスタ社)等の市販の製品を使用してもよい。
【0031】
また、本発明においては、熱融着性ではない弾性糸を熱融着糸と併用して使用することもできる。このようにして使用できる熱融着糸ではない弾性糸としては特に限定されず、ポリウレタン弾性糸、ポリエーテルエステル弾性糸等を挙げることができる。
【0032】
更に、本発明においては、弾性糸と組み合わせて使用する糸を熱融着糸とすることもできる。この場合、弾性糸としては、熱融着糸ではない通常の弾性糸を使用することもできるし、熱融着糸と組み合わせることもできる。
【0033】
弾性糸と組み合わせて使用できる熱融着糸としては特に限定されず、上述した熱融着ポリエステル糸、熱融着ポリアミド糸等を挙げることができる。熱融着ポリアミド糸としては、例えば、エルダー(商品名、東レ社製)等を挙げることができる。
【0034】
但し、弾性糸と組み合わせる糸を熱融着糸とした場合は、袋状フィルタ中の孔が固定化されてしまい、物理的な力がかかっても、孔が広がりにくくなってしまう。このため、濾過の初期段階で細かな固形物を除去することはできるが、その後、長時間使用するとき、孔が適度に広がることで、目詰まりを生じにくい、という熱融着弾性糸を使用した場合の効果は生じにくい。以上の観点から、弾性糸としては熱融着弾性糸を使用することがより好ましい。
【0035】
本発明の第二の袋状フィルタは、袋状丸編物の形状を形成した後、熱処理を行うことによって、融着糸による融着を生じさせることが好ましい。このようにすることで、編目間で一定の融着がなされ、編目が極端に広がりすぎることがなくなる。このため、細かい固形物を濾別する際に、編目の隙間から漏出することが少なくなり、本発明の効果を得ることができると推測される。
【0036】
上述した目的のために熱融着糸を使用するものであることから、袋状物の全体にわたって、一部又は全部に少なくとも弾性糸を使用した繊維素材が使用されており、袋状物の全体にわたって融着が行われることが好ましい。
【0037】
本発明で使用する少なくとも弾性糸を使用した繊維素材を一部又は全部に使用して得られた袋状丸編物は特に限定されず、弾性糸とその他の繊維とを組み合わせて複合化した複合繊維によって得られた編地(B-1)、弾性糸とその他の繊維とを交編した編地(B-2)等を使用することができる。
以下、これらについて、より具体的に説明する。
【0038】
(弾性糸とその他の繊維とを組み合わせて複合化した複合繊維によって得られた編地(B-1))
ここでの複合繊維は、一部に弾性糸を使用し、これをその他の繊維と組み合わせた複合糸を使用した編地である。そして、この複合糸において、弾性糸又はその他の繊維の一部を熱融着糸としたものである。
【0039】
ここで、組み合わせるその他の繊維としては特に限定されず、ポリアミド繊維、絹、ポリエステル繊維、綿糸、ポリオレフィン繊維(例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維)などを使用することが好ましい。これらのなかでも、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維を使用することが特に好ましく、ポリエステル繊維を使用することが最も好ましい。ここでいうポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートからなる繊維、ポリブチレンテレフタレートからなる繊維等を挙げることができる。
【0040】
複合糸の複合方法としては特に限定されず、熱融着弾性糸を芯糸としたカバリング糸、熱融着弾性糸と仮撚加工糸との引き揃え糸等の公知の任意のものを使用することができる。なかでも、強度や加工性等の観点から熱融着弾性糸にその他の繊維を巻きつけることで得られた熱融着カバリング糸を使用することが特に好ましい。
【0041】
熱融着カバリング糸を構成する熱融着ポリウレタン弾性糸としては特に限定されず、例えば、5~510デニールのものを使用することができる。上記下限は、10デニールであることがより好ましく、上記上限は280デニールであることがより好ましい。
【0042】
上記熱融着カバリング糸は、シングルカバリング、ダブルカバリングのいずれであってもよい。
より具体的には、例えば、熱融着弾性糸に、ポリエステルなどの合成繊維のフィラメント数の多いハイマルチタイプ(1フィラメントが1.2デシテックスより細い糸)をカバリングしたシングルカバーリングヤーン(SCY22dWN70/48、50/144、75/144、75/72デニール/本数等)を挙げることができる。また、熱融着弾性糸に、2本の合成繊維の糸をカバリングしたダブルカバーリングヤーン(DCY)であってもよい。
【0043】
更に、上述したものと同様の繊維構成として、弾性糸として通常の弾性糸を使用し、組み合わせる繊維を熱融着糸としてもよい。
更に、使用するすべての複合糸が「一部に熱融着糸を使用した複合糸」であってもよいし、「熱融着糸を使用しない複合糸」と併用して使用するものであってもよい。「一部に熱融着糸を使用した複合糸」を使用する場合、使用する繊維の50%(複合繊維本数換算)以上が「一部に熱融着糸を使用した複合糸」であることが好ましい。
【0044】
(弾性糸とその他の繊維とを交編した編地(B-2))
弾性糸を上述したような複合糸として使用するのでなく、それ自体を単糸として使用し、その他の繊維と交編したものであってもよい。このような交編の方法としては特に限定されず、公知の任意の編み組織とすることができる。
【0045】
このような交編した編地においては、弾性糸として熱融着弾性糸を一部又は全部に使用することが好ましい。
熱融着弾性糸としては、上述した編地(B-1)において例示したものを使用することができる。
【0046】
なお、細かな固形物の除去を良好に、かつ、長期間にわたって行うことができるという観点から、上記弾性糸とその他の繊維とを組み合わせて複合化した複合繊維によって得られた編地(B-1)がより好ましいものである。
【0047】
(その他の繊維素材の併用について)
上述した(B-1)~(B-2)のようなそれぞれの編地においては、熱融着糸とその他の繊維とを組み合わせて複合化した複合繊維、熱融着糸を2種以上組み合わせて使用するものであってもよいし、一部その他の繊維を組み合わせて使用するものであってもよい。その他の繊維としては特に限定されず、ポリアミド繊維、絹、ポリエステル繊維、綿糸、ポリオレフィン繊維(例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維)などを使用することができる。
【0048】
(袋状フィルタの形状について)
本発明の第一の袋状フィルタの一例を
図1に示した。
図1に示したように、本発明のフィルタは、開口部1を有する袋状形状を有する。その底部の接合部4によって、丸編みの一端が封じられることで、袋形状が形成されている。そして、当該底部近傍において、二重部3(又は、三重以上部)が形成されている。
【0049】
当該形状を有する袋状フィルタは、
図2に示したように、開口部近傍の端部も二重以上の重なりを形成したものであってもよい。本発明の袋状フィルタは、開口部を配管に嵌めこむことで使用する場合もある。この場合には、開口部においても負荷がかかりやすくなり、破損しやすいため、開口部も二重以上の編地とすることで補強してもよい。更に、三重以上、四重以上の構造とすることで当該補強はより強力なものになる点で好ましい。
【0050】
このような二重以上の構造の形成方法は特に限定されず、K式編み機を使用したダブルニットインによる方法や、通常の方法で二重部を形成した後も編みを形成し、このような編みを重ねて三重部、四重部として縫い付ける方法等を挙げることができる。
【0051】
更に、
図3に示したように、底部近傍のみではなく、胴部の全体にまで二重部が形成されたものであっても差し支えない。底部近傍が二重部となっていれば、上述した
図1に示したものと同様の効果が得られる。更に、胴部の全体が二重の構造になっていれば、胴部においても、耐久性の向上が得られる。このため、より高い耐久性が求められるような用途のフィルタにおいては、二重部の割合を高くすることで、より耐久性を高めることができる点で好ましい。
【0052】
編み組織を二重とする幅は特に限定されるものではないが、例えば、袋形状の幅(すなわち、
図1に示した模式図であれば、横方向の幅)の20~100%であることが好ましい。この程度の幅とすることで、底部の破損しやすい部分を充分に補強することができる点で好ましい。
【0053】
袋状とするために、底部の接合部4において編地の接合を行うことが必要である。このような接合は、ミシン縫いによって縫い付ける方法等を挙げることができる。
【0054】
本発明の第二の袋状フィルタの一例を
図4に示した。
図4に示したように、本発明のフィルタは、開口部1を有する袋状形状を有する。その底部の接合部4によって、丸編みの一端が封じられることで、袋形状が形成されている。本発明の袋状フィルタは、少なくとも一部に熱融着糸及び弾性糸を使用した繊維素材を一部又は全部に使用して得られた袋状丸編物であるが、作業工程に係るコストや、耐久性の面から全体が同一の繊維素材により形成されたものであることが好ましい。また、特に負荷のかかりやすい当該底部近傍において、二重以上の編地とすることで補強してもよい、すなわち、上述の第一の袋状フィルタで挙げた
図1に示したように、二重部3(又は、三重以上部)が形成されていてもよい。
【0055】
第二の袋状フィルタは、上述の第一の袋状フィルタで挙げた
図2及び
図3に示したように、開口部近傍の端部も二重以上の重なりを形成したものであっても、底部近傍のみではなく胴部の全体にまで二重部が形成されたものであっても差し支えない。
【0056】
このような二重以上の構造の形成方法は特に限定されず、上述の第一の袋状フィルタと同様の方法を挙げることができる。
【0057】
編み組織を二重とする幅は特に限定されるものではないが、第一の袋状フィルタと同様、袋形状の幅(すなわち、
図1に示した模式図であれば、横方向の幅)の20~100%であることが好ましい。
【0058】
袋状とするために、底部の接合部4において編地の接合を行うことが必要である。このような接合は、熱融着糸の融着、ミシン縫いによる縫合、これらの併用等の方法によって行うことができる。
【0059】
(袋状フィルタの口部について)
袋状フィルタの開口部1の形状は、特に限定されるものではないが、上述したように二重以上の重なりを形成したものであってもよいし、更には、ひも通し部を形成したものであってもよい。すなわち、袋状フィルタは、開口部を配管に嵌めこんで使用することが一般的な使用方法となる。このため、配管に袋状フィルタを固定するためには、ひも等を使用して配管に括り付ける方法が最も一般的である。
【0060】
このようなひも通し部としては特に限定されるものではないが、例えば、本発明者が完成した特開2013―231261に記載した、編み時に地編み部とひも押さえ部とで編み方向に対して編み目数が相違するものとし、ひも通し部を形成する部位において、地編み部とひも押さえ部とが編み目によって連結されていないものであるようなものとすることができる。
このような方法で形成されたひも通し部は、袋構造を形成している組織とひも通し部とが、ともに編み組織によって形成されていることから、ほつれ等を生じにくく、更に、製造においてもコストが安い点で有利である。更に、目的に応じてそのひも通し部の幅や長さ等も任意に調整することができる。
【0061】
(製造方法)
上述したような袋状フィルタの製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、
図5において模式図で示したような以下の方法によって製造することができる。
本発明の袋状フィルタは、丸編み機によって製造することができる。すなわち、筒状に編みながら、端部近傍で折り返し、更に、末端において、胴部と接合させることで二重の構造を得ることができる。このような二重構造の製造は、K式ストッキング編み機のダブルインニットインゴム口編みに使用される通常の方法で行うことができる。
【0062】
より具体的には例えば、靴下編み機であるハイゲージ丸編み機(4インチ:400針)により袋状の編地とされたものを挙げることができる。なお、編地は、天笠(無地)編み、針抜き編みなどを単独もしくは組み合わせて編むことができる。
【0063】
折り返した後の末端部の胴部の接合は、熱融着糸の融着によって接合するもの、編み組織によって接合するものであってもよいし、縫い付けによるもの、これらの2以上の方法を併用するものであってもよい。
【0064】
このようにして形成された筒状物の端部を一体化させることによって開口部を閉じ、これによって袋状形状の構造を有するものとすることができる。このような端部を一体化させる工程は、熱融着糸の融着、一般的な縫い付け等の方法によって行うことができる。
なお、第一の袋状フィルタは、二重以上の折り返し構造を有する筒状物の端部を一体化させることによって開口部を閉じ、これによって袋状形状の、底部に少なくとも二重以上の構造を有するものとすることができる。
【0065】
また、筒編み物の編みはじめ部分において底部形成を行うものであっても、編み終わり部分において底部形成を行うものであってもいずれであってもよい。いずれとした場合でも、従来の丸編み機を使用して製造することができる。具体的には、K式編み機によるダブルニットインによる方法等によって二重部を形成することができる。
【0066】
より具体的には、最初に二重部を編みたてして、後に二重部を編みたてしたとき、後に編みたてした二重部の編み立ての後、4口編、2口編から1口編にして編立を終わるときの8スクラップ部に融着糸を編み込むことによって、ほつれ防止をすることが、製造方法として好ましい。
【0067】
第二の袋状フィルタの場合、更に、編みたて後に熱融着性弾性糸を熱融着するため、加熱工程を行う。加熱温度は特に限定されず、湿熱下真空で80~125℃であることが好ましい。また、このような融着のための加熱を、カレンダー処理や染色処理等における加熱時に同時に行うものであってもよい。
【0068】
(濾過装置)
本発明の袋状フィルタは、開口部より廃液を導入し、固形分を袋状内部に捕捉して、液体を外部に排出するような方法で濾過を行う方法に使用することができる。このような濾過を行う濾過装置は特に限定されるものではないが、例えば、特開2010-184170号に記載されたような公知の濾過装置において好適に使用することができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
口径4インチの丸編みにて
図2に示したような開口部及び先端部が二重になった袋状丸編み物を得た。得られた袋状物は、幅11cmであり、先端部の二重になっている部分の長さは、4cmであった。
なお、製造に際しては、ウレタン弾性糸を芯糸とするカバリング糸を使用した。また、端部4の接合は、ミシン縫いによって行った。
【0070】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、
図3に示したように二重部が胴部にまで及んだ形状の袋状丸編み物を得た。
【0071】
(比較例1)
実施例1と同様の袋状フィルタであって、先端部の二重部がない袋状フィルタを製造した。
【0072】
(評価)
実施例1及び比較例1の袋状フィルタを特開2010-184170号に記載された濾過装置において使用して、切削金属粉が含まれたクーラント液の濾過を行った。その結果、実施例1のフィルタは、4週間経過後も使用できる状態を維持していたが、比較例1のフィルタは、4週間経過後にフィルタが劣化し、交換時期となった。以上の結果から、本発明の袋状フィルタは、耐久性に優れることが明らかとなった。実施例2のフィルタでも実施例1と同等の結果が得られた。
【0073】
(実施例3)(二重になっていないもの、熱融着性ポリウレタン弾性糸のカバリング糸)
口径4インチの丸編みにて
図4に示した袋状丸編み物を編み、湿熱下真空で105℃×15分でプレセットを行った。得られた袋状物は、幅11cmであった。
なお、製造に際しては、熱融着性ポリウレタン弾性糸(モビロンRLL、日清紡テキスタイル社製、100デニール)を芯糸とし、ウーリーナイロン(100デニール/80f)を鞘糸として使用したシングルカバリング糸を使用した。また、端部の接合は、ミシン縫いによって行った。
【0074】
(実施例4)(二重になっていないもの、弾性糸ではない熱融着性糸を鞘糸とするカバリング糸)
口径4インチの丸編みにて袋状丸編み物を編み、湿熱下真空で105℃×15分処理した。得られた袋状物は、幅11cmであった。
なお、製造に際しては、通常のポリウレタン糸(105d、旭化成社製)カバリングの鞘糸として、熱融着糸(エルダー、東レ社製)を使用した。また、端部の接合はミシン縫いによって行った。
【0075】
(実施例5)(二重になっていないもの、熱融着性弾性糸と仮撚加工糸との引き揃え糸)
口径4インチの丸編みにて袋状丸編み物を編み、湿熱下真空で105℃×15分処理した。得られた袋状物は、幅9cmであった。使用した繊維は、熱融着ポリウレタン弾性糸(モビロンRLL、日清紡テキスタイル社製、100デニール)を芯糸とし、12デニール/7fのポリアミド繊維を鞘糸としたカバリング糸とウーリーナイロン50デニール/40fの引き揃え糸を使用した。また、端部の接合は、ミシン縫いによって行った。
【0076】
(実施例6)(二重になっていないもの、熱融着性弾性糸とその他の繊維とを交編した編地)
熱融着性ポリウレタン弾性糸(モビロンRLL、日清紡テキスタイル社製、100デニール)を芯糸とし、ウーリーナイロン(100デニール/80f)を鞘糸として使用したシングルカバリング糸とウーリーナイロン100デニール/80fとを使用した。編み機の4口のうち、1,3にカバリング糸を使用し、2,4にウーリーナイロンを使用し、口径4インチの丸編みにて袋状丸編み物を編み、湿熱下真空で105℃×15分処理した。得られた袋状物は、幅11cmであった。また、端部の接合は、ミシン縫いによって行った。
【0077】
(実施例7)(底部が二重になっているもの、熱融着性ポリウレタン弾性糸のカバリング糸)
口径4インチの丸編みにて
図2に示したような開口部及び先端部が二重になった袋状丸編み物である以外は、実施例3と同様にして袋状物を得た。なお、編み末端の融着は熱融着によって行い、袋状部の底部の接合はミシン縫いによって行った。
【0078】
(実施例8)
実施例7と同様の方法で、
図3に示したように二重部が胴部にまで及んだ形状の袋状丸編み物を得た。
【0079】
(比較例2)(実施例3と比較、熱融着性ではないポリウレタン弾性糸のカバリング糸)
ポリウレタン弾性糸(旭化成社製105d)を芯糸とし、ポリアミド繊維(100デニール/80f)を鞘糸とするカバリング糸を使用し、実施例3と同様の方法で、袋状丸編み物を得た。なお端部4の接合はミシン縫いによって行った。
【0080】
(評価)
実施例3及び比較例2の袋状フィルタを特開2010-184170号に記載された濾過装置において使用して、平均粒子径5μmの切削金属粉が含まれたクーラント液の濾過を行った。その結果、実施例3のフィルタは、微細な金属粉を除去することができた。しかし、比較例2のフィルタは、微細な金属粉を除去することができず、濾過液中に微細な金属粉が存在する状態となった。以上の結果から、本発明の袋状フィルタは、より微細な粒子を含む廃液の濾過に好適に使用できることが明らかとなった。実施例4~8のフィルタでも、実施例3と同等の結果が得られた。これらのなかでも、実施例3,7,8のフィルタは、特に優れた性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の袋状フィルタは、例えば、特開2010-184170号に記載されたような工作機械における加工部分の冷却、潤滑、洗浄などに循環使用されるクーラント、切削油、研削液、洗浄液などの液体である濾過対象液に含まれる切り粉、研磨粉などの加工粉を濾過するための濾過装置におけるフィルタとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 開口部
2 胴部
3 二重部
4 接合部
5 開口部に設けた二重部