(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】地下構造物用蓋受枠セット
(51)【国際特許分類】
E02D 29/14 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
E02D29/14 A
(21)【出願番号】P 2021167823
(22)【出願日】2021-10-13
(62)【分割の表示】P 2019151789の分割
【原出願日】2017-12-23
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】508165490
【氏名又は名称】アクアインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100178951
【氏名又は名称】長谷川 和家
(72)【発明者】
【氏名】大波 豊明
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-183019(JP,A)
【文献】実開昭56-130053(JP,U)
【文献】特開平09-025639(JP,A)
【文献】特開平06-264463(JP,A)
【文献】特開2003-239308(JP,A)
【文献】実開昭63-045857(JP,U)
【文献】実開平05-094347(JP,U)
【文献】特開2009-007893(JP,A)
【文献】特開2004-183366(JP,A)
【文献】特開2021-031908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造物につながる開口を画定する受枠と、該開口を塞ぐ蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットにおいて、
前記蓋体は、前記受枠の内周面に支持され周縁部に鍵穴が設けられた蓋本体と、該蓋本体に設けられた錠部材と、該蓋本体に設けられた規制部材とを有するものであり、
前記受枠は、前記内周面よりも下方位置に一体に設けられた爪受け部を有するものであり、
前記規制部材は、前記鍵穴を閉塞する弁体と、前記蓋本体に揺動可能に支持される軸とを有し、該弁体が該鍵穴を閉塞する方向に付勢されたものであり、
前記錠部材は、錠本体と、前記蓋本体に対して該錠本体を揺動可能に支持する軸部と、該錠本体と一体に設けられた爪部とを有し、該爪部が前記爪受け部に係合して前記開口の開放を阻止する一方、該爪部が該爪受け部に係合しない状態に揺動させると該開口の開放を許容するものであり、
前記規制部材を前記弁体が前記鍵穴を閉塞する状態から開放する方向に揺動させると、該弁体の先端が前記受枠の内周面に接触し、
該弁体が該鍵穴を閉塞する方向への付勢力に抗して前記軸が該内周面から離れる方向に移動するものであることを特徴とする地下構造物用蓋受枠セット。
【請求項2】
前記蓋本体は、水平方向に延在した支持溝を有するものであり、
前記軸は、前記支持溝に支持されたものであることを特徴とする請求項1記載の地下構造物用蓋受枠セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物につながる開口を画定する受枠と、開口を塞ぐ蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットに関する。
【背景技術】
【0002】
下水道や上水道、あるいは電力、ガス、通信等における地下埋設物や地下施設等の地下構造物が地上につながる箇所には、地下構造物につながる開口を画定する受枠と、開口を塞ぐ蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットが設置される場合がある。本明細書では、蓋体の蓋本体が受枠に支持され開口が塞がれた状態(蓋本体が受枠に嵌め込まれた状態)を閉蓋状態と称し、この閉蓋状態から蓋本体が開くことを開蓋と称することがある。また、地下構造物用蓋受枠セットを、蓋受枠セットと略称する場合がある。
【0003】
蓋受枠セットには、受枠に対して蓋本体を開閉可能に連結する蝶番構造と、不法投棄や不法侵入の防止、さらには、地下構造物内の圧力による開蓋を防止するための施錠構造とを備えたものが知られている。なお、本明細書では、地下構造物内の圧力を、内圧と称することがある。この施錠構造は、蓋本体に設けられた錠部材と、受枠に設けられた爪受け部とからなるものが一般的である(例えば、特許文献1~3等参照)。錠部材は、錠本体と、蓋本体に対して錠本体を揺動可能に支持する軸部と、錠本体と一体に設けられた爪部とを有し、爪部が受枠の爪受け部に係合した係合状態になると開蓋が阻止される。また、蓋本体に形成された鍵穴から、T字型あるいはフック型の開閉工具を挿入し、爪部が爪受け部に係合しない状態に錠部材を揺動させることで開蓋が可能になる。なお、特許文献1記載の蓋受枠セットは、鍵穴を閉塞する弁体が錠部材に設けられたものである。特許文献2記載の蓋受枠セットは、錠部材とは別に、蓋本体に揺動自在に設けられた規制部材を有し、この規制部材に弁体が設けられている。この蓋受枠セットでは、弁体を開閉工具で押えて規制部材を揺動させると、揺動した規制部材に押されて錠部材が揺動する。また、特許文献3記載の蓋受枠セットは、弁体を有する規制部材と錠部材とを備え、鍵穴から挿入された開閉工具によって、規制部材と錠部材とがそれぞれ独立して揺動するものである。
【0004】
また、これらの蓋受枠セットは、集中豪雨などにより内水氾濫を起こして内圧が高まると、受枠に対して蓋本体が所定高さ浮上して爪部と爪受け部とが係合する係合状態になり、蓋本体と受枠との隙間から内圧を解放する。それでも内圧が高まっていくと、下水道管等が破損する前に錠部材の軸部等が破断して蓋本体から錠部材が分離し、これによって開蓋されて内圧を解放する。こうすることで、下水道管等の破損を防ぐと共に、蝶番構造が破壊されて蓋体が飛散してしまうことや、受枠を地下構造物に固定するボルト等が破断して受枠ごと蓋受枠セットが飛散してしまうことも防止している。しかしながら、ゲリラ豪雨とも言われる近年の集中豪雨による内圧は凄まじく、蓋本体から分離した錠部材の飛散や地下構造物への落下が問題となる。このため、錠部材全体の飛散等の防止を目的とした蓋受枠セットが提案されている(例えば、特許文献4等参照)。
【0005】
特許文献4記載の蓋受枠セットは、その錠部材が、錠本体とは別体に形成された爪部と、この爪部を錠本体に固定する固定ピンとを有している。固定ピンは、外周に切欠が形成され、内圧が高まって蓋本体が受枠に対して浮上した係合状態で、さらに内圧が高まると、固定ピンが切欠の位置で破断して係合状態が解除される。これにより開蓋されて内圧を解放する。この蓋受枠セットによれば、爪部、固定ピンおよび固定ピンを錠本体に取り付けるボルト等が飛散または落下し、錠部材全体の飛散や落下を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-239308号公報
【文献】実開昭63-45857号公報
【文献】特開平2-183019号公報
【文献】特開2016-205123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記事情に鑑み、弁体が受枠の内周面に引っかかってしまうことなく、規制部材を揺動させることができる工夫がなされた地下構造物用蓋受枠セットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を解決する本発明の地下構造物用蓋受枠セットは、地下構造物につながる開口を画定する受枠と、該開口を塞ぐ蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットにおいて、
前記蓋体は、前記受枠の内周面に支持され周縁部に鍵穴が設けられた蓋本体と、該蓋本体に設けられた錠部材と、該蓋本体に設けられた規制部材とを有するものであり、
前記受枠は、前記内周面よりも下方位置に一体に設けられた爪受け部を有するものであり、
前記規制部材は、前記鍵穴を閉塞する弁体と、前記蓋本体に揺動可能に支持される軸とを有し、該弁体が該鍵穴を閉塞する方向に付勢されたものであり、
前記錠部材は、錠本体と、前記蓋本体に対して該錠本体を揺動可能に支持する軸部と、
該錠本体と一体に設けられた爪部とを有し、該爪部が前記爪受け部に係合して前記開口の開放を阻止する一方、該爪部が該爪受け部に係合しない状態に揺動させると該開口の開放を許容するものであり、
前記規制部材を前記弁体が前記鍵穴を閉塞する状態から開放する方向に揺動させると、該弁体が該鍵穴を閉塞する方向への付勢力に抗して該弁体の先端が前記受枠の内周面に接触し、前記軸が該内周面から離れる方向に移動するものであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の地下構造物用蓋受枠セットにおいて、前記蓋本体は、水平方向に延在した支持溝を有するものであり、
前記軸は、前記支持溝に支持されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、弁体が受枠の内周面に引っかかってしまうことなく、規制部材を揺動させることができる工夫がなされた地下構造物用蓋受枠セットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態である地下構造物用蓋受枠セットの断面図である。
【
図4】
図1に示す受枠における、爪受け部が設けられた一端側部分を示す図である。
【
図5】(a)は、内圧が所定以上に高まって
図1に示す蓋体が持ち上がった様子を示す断面図であり、(b)は、(a)の円で囲んだB部における、爪部と爪受け部との係合状態を拡大して示す図である。
【
図6】変形例における、爪部と爪受け部とが係合する様子を示す図である。
【
図7】
図1に示す地下構造物用蓋受枠セットにおける一端側部分を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態である蓋受枠セット(地下構造物用蓋受枠セット)の断面図である。この
図1では、地面Gを示しているが、図面を簡略化するため、他の図面では地面Gを省略する場合がある。
【0014】
図1には、円盤状の蓋本体4を有する蓋体2と、その蓋体2を支持する筒状の受枠3とを備えた蓋受枠セット10を、蓋本体4の中心を通る直線で断面した様子が示されている。以下の説明では、
図1の断面図を基準に、左右方向を径方向と称し、左側を一端側と称し、右側を他端側と称して説明する。地下埋設物である下水道用排水管は地表から所定の深さの位置に埋設されており、その下水道用排水管の途中に、地下施設として、マンホールが設けられている。下水道用排水管もマンホールも地下構造物に相当する。マンホールは、既製のコンクリート成型品を積み上げた躯体によって、下水道用排水管から地表へ向かう縦穴として形成されている。受枠3は、その躯体の上に設けられたものであり、地下構造物であるマンホールにつながる開口を内周面31によって画定している。
【0015】
蓋体2は、蓋本体4の他に、錠部材5と、規制部材6と、蝶番部材7とを有するものである。蓋本体4は、受枠3の内周面31に支持されて開口を開閉自在に塞ぐものであり、
図1に示す蓋体2は、蓋本体4が受枠3に嵌合することで開口を塞いでいる(閉蓋状態)。蓋本体4は、鋳鉄製のものであり、その下面に補強用のリブ41が設けられている。なお、蓋本体4は、鋳鉄以外の鉄製であってもよく、鉄以外の金属、樹脂もしくはコンクリート製であってもよい。また、蓋本体4の一端側の周縁部には、開閉工具を挿入するための鍵穴4aが設けられている。
【0016】
図1に示すように、蝶番部材7は、蓋本体4の下面における他端側の周縁部に軸73によって回動自在に連結されている。この蝶番部材7は、その中間部分に形成された鉤状突起71と、その下端部分に形成された抜止突起72とを備えている。また、受枠3の他端側における、内周面31の下方位置には、蝶番座33が設けられている。この蝶番座33には、蝶番部材7が上下方向に貫通する貫通孔331と、被係合部332とが設けられている。これら蝶番部材7と蝶番座33とによって蝶番構造が構成され、蓋本体4を360度旋回あるいは180度転回させることができる。また、内圧(マンホール内の圧力)が所定以上に高くなると蓋体2が持ち上がり、閉蓋状態から蓋本体4が浮上するとともに、詳しくは後述するように爪部53が爪受け部32に係合し、蝶番部材7の鉤状突起71が蝶番座33の被係合部332に係合する。なお、抜止突起72は、蓋体2を持ち上げると蝶番座33に当接する部分であり、抜止突起72が蝶番座33に当接するまで蓋体2を持ち上げると、蓋本体4を垂直反転させることができる。
【0017】
錠部材5と規制部材6は、蓋本体4の下面における一端側の周縁部に設けられている。また、受枠3の一端側における、内周面31の下方位置には、爪受け部32が設けられている。この爪受け部32は、
図1の断面では斜め下方に突き出た部分であり、詳しくは後述する。
【0018】
図2は、
図1に示す錠部材を示す図である。
図2(b)は、
図1の錠部材5を拡大して示す右側面図であり、
図2(a)は、
図1の錠部材5を一端側から見た正面図である。なお、
図2(a)における左右方向が、錠部材5の幅方向になる。
【0019】
図2に示すように、錠部材5は、錠本体51と、一対の軸部52,52と、爪部53と、一対のガイド部54,54とを有し、これらが一体に形成された鋳鉄製のものである。
図2(a)に示すように、錠本体51は、幅方向両側に立設した一対の支柱部511,511と、一対の支柱部511,511を下端側で連結する基部512とを有する、正面視略U字状あるいは略コ字状のものである。基部512は、一対の支柱部511,511よりも幅方向に拡がっている部分が設けられており、この部分は錘の役目を有している。一対の支柱部511,511の上端部分には、幅方向における外側に突出した軸部52がそれぞれ設けられ、これら一対の軸部52,52によって、錠本体51が揺動可能に蓋本体4に支持されている。
【0020】
図2(b)に示すように、爪部53は、基部512における径方向の外側(図では左側)の面から斜め上方に突き出た部分であり、錠本体51側の根元53bから先端53aに向かうにつれて肉厚が薄くなるように形成されている。また、
図2(a)に示すように、爪部53は、錠部材5における幅方向の中央部分に配置されている。一対のガイド部54,54は三角形状の突起であり、
図2(a)に示すように、爪部53を挟んだ幅方向の両側に設けられている。一対のガイド部54,54それぞれの上面には、径方向の外側に向けて斜め下方に傾斜した傾斜面54aが形成されている。内圧が所定以上に高くなると蓋体2が持ち上がり、閉蓋状態から蓋本体4が浮上するとともに、前述したように蝶番部材7の鉤状突起71が蝶番座33の被係合部332に係合し、ガイド部54の傾斜面54aにガイドされつつ、爪部53が、
図1に示す爪受け部32に係合する。
【0021】
図3は、
図1に示す規制部材を示す図である。
図1では、規制部材6の一部が錠部材5に隠れているが、
図3(b)は、
図1の規制部材6を抜き出して拡大して示す右側面図であり、
図3(a)は、
図1の規制部材6を一端側から見た正面図である。
【0022】
図1および
図3に示すように、規制部材6は、蓋本体4の鍵穴4aを閉塞する弁体61を有しており、
図3(b)に示す挿通孔62aに挿通された、
図1に示す軸ピン62によって、規制部材6が揺動可能に蓋本体4に支持されている。また、規制部材6は、下端側部部の幅方向両側それぞれに錘部63を有している。これら一対の錘部63,63と、
図1に示すトーションばね64とによって、規制部材6は、その弁体61が鍵穴4aを閉塞する方向に付勢されている。また、
図1に示すように、規制部材6は、一対の錘部63,63が、錠本体51の右側(径方向における内側)の面に当接し、錠部材5の反時計回りの揺動を規制している。
【0023】
図4は、
図1に示す受枠における、爪受け部が設けられた一端側部分を示す図である。具体的には、
図4(a)は、受枠3の一端側部分を上方から見た平面図である。
図4(b)は、受枠3の一端側部分を、径方向における内側から見た図であり、同図(a)を図の下方から見た図に相当する。
図4(c)は、同図(b)のA-A線断面図であり、同図(d)は、受枠3の一端側部分を下方から見た底面図である。
【0024】
図4に示すように、爪受け部32は、袋状(ドーム状)に形成されている。これにより、詳しくは後述するように、蓋体2が持ち上がると爪部53が挿入される空間S(
図4(c)参照)が爪受け部32によって画定されている。
【0025】
図1に示す状態で開蓋しようとしても、爪部53が爪受け部32に係合し、開蓋が阻止される。開蓋するには、まず、不図示のT字型の開閉工具を用い、弁体61を押えて規制部材6を反時計回りに揺動させ、開閉工具の先端を鍵穴4aから挿入する。次いで、鍵穴4aから挿入した開閉工具の先端によって、錠部材5を、その爪部53が爪受け部32に係合しない姿勢に揺動させることで開蓋が可能になる。すなわち、本実施形態の蓋受枠セット10は、前述した特許文献3記載の蓋受枠セットと同様に、鍵穴4aから挿入された開閉工具によって、規制部材6と錠部材5とがそれぞれ独立して揺動するものである。
図7は、
図1に示す地下構造物用蓋受枠セットにおける一端側部分を拡大して示す図である。
図7に示すように、蓋本体4には、規制部材6の軸ピン62を支持する支持溝4bが形成されている。この支持溝4bは水平方向に延在したものである。なお、支持溝4bのうち、規制部材6によって隠れた部分は破線で示している。開閉工具を用い、弁体61を押えて規制部材6を反時計回りに揺動させると、弁体61の先端が受枠3の内周面31に接触し、トーションばね64の付勢力に抗して軸ピン62が他端側に移動する。これにより、弁体61が受枠3の内周面31に引っかかってしまうことなく、規制部材6を揺動させることができる。
【0026】
図5(a)は、内圧が所定以上に高まって
図1に示す蓋体が持ち上がった様子を示す断面図である。
【0027】
集中豪雨等によって内圧が所定以上に高まると、
図5(a)に示すように、蓋体2が持ち上がる。具体的には、蓋本体4が高さh分浮上し、蝶番部材7の鉤状突起71が蝶番座33の被係合部332に係合するとともに、爪部53が空間S(
図4(c)参照)に挿入されて爪受け部32に係合した係合状態になる。これにより、蓋本体4と受枠3との隙間から内圧を解放する。
【0028】
図5(b)は、同図(a)の円で囲んだB部における、爪部と爪受け部との係合状態を拡大して示す図である。なお、
図5(b)では、図面を簡略化するため、錠部材5と受枠3のみを示すと共に、受枠3については端面を示している。
【0029】
図5(b)に示すように、係合状態における爪部53は、空間S(
図4(c)参照)に挿入され、ガイド部54の傾斜面54aにガイドされた状態で爪受け部32と係合している。なお、
図5(b)に示す係合状態では、爪受け部32がガイド部54にも接触しているが、内圧の状況等によっては、係合状態において、爪受け部32がガイド部54から離間する場合もある。また、
図5(b)では、係合状態において錠部材5が揺動していないが、錠部材5が反時計回りに揺動した姿勢で爪部53が爪受け部32に係合する場合もある。
【0030】
本実施形態では、爪部53と爪受け部32とは、紙面と直交する水平方向(
図2および
図3に示す幅方向)に沿った線状または面状に接触している。爪受け部32が接触する、爪部53側の接触部位Tの肉厚L1は、爪部53が接触する、爪受け部32側の接触部位T’の肉厚L2よりも薄いものである。ここでいう肉厚とは、水平方向に沿った接触部位T,T’に対して、鉛直面内において交差する方向の厚さをいう。
【0031】
図5に示す係合状態において、内圧がさらに高まっていくと、爪部53が破断し、係合状態が解除される。ここで、爪部53が破断する箇所は、内圧の状況や、製造での寸法誤差等によって変わってくるが、例えば、
図5(b)の二点鎖線で示すような箇所で破断し、その破断した箇所の断面(破断面)を、一点鎖線の円で囲んで示している。
【0032】
本実施形態の爪部53は、いずれの箇所で破断した場合であっても、一点鎖線の円で囲んで示すように、その破断面が、高さHよりも幅L3の方が大きくなるように形成されている。ここで、爪部53の破断における高さと幅の断面二次モーメントの関係において、高さは三乗で力が働くため、幅に比べて高さの方が、製造での寸法誤差から生じる力の値の精度が低い。このため、爪部53における破断面を高さHよりも幅L3の方が大きくすれば、力の精度を高めることができ、これにより、爪部53の強度を所定の範囲内に収めることが容易になる。ここで、爪部53の強度における上下の限界値は、例えば、蓋本体4の受枠3への食い込み力や、蓋本体4の飛散、受枠3ごとの蓋受枠セット10の飛散の防止等の観点から設定される。また、爪部53における、爪受け部32と接触する側や、その反対側に、一点鎖線で示す切欠(ノッチ)531を形成し、爪部53の強度を弱めたり調整する態様を採用してもよい。また、切欠531を形成することで、爪部53が破断する箇所を、所望の位置に設定することも可能になる。なお、錠部材5における爪部53以外の部分、例えば軸部52や支柱部511等は、爪部53が破断する圧力まで内圧が高まっても、破断しない強度に設定されている。
【0033】
爪部53が破断して係合状態が解除されると、内圧によって蝶番部材7が軸73を中心に揺動して鉤状突起71が蝶番座33の被係合部332から外れる。次いで、抜止突起72が蝶番座33に当接するまで蓋体2が持ち上がり蓋本体4が垂直反転する。なお、内圧の状況によっては、蝶番部材7の鉤状突起71が蝶番座33の被係合部332から外れず、蓋本体4は垂直の姿勢まで開蓋した後、反転せずに閉まる方向に戻る場合もある。いずれの場合でも、開蓋(開口が開放)されて、内圧を解放する。これにより、下水道管等の破損や、蝶番構造が破壊されることによる蓋本体4の飛散、受枠3をマンホールに固定するボルト等が破損することによる受枠3ごとの蓋受枠セット10の飛散等が防止される。また、錠部材5の破壊に関して、破断する部分が爪部53に限定され、飛散したり落下したりするものを少なくすることができる。特に、本実施形態の爪部53は、接触部位Tから根元53bに向かうにつれて肉厚が厚くなるように形成されているため、爪部53は、根元53bよりも、接触部位T側、あるいは接触部位T付近、すなわち爪部53の根元53bよりも先端53a側で破断しやすくなり、飛散または落下する破断片を小さくすることができる。
【0034】
さらに、本実施形態では、爪受け部32が、爪部53の先端53a側に接触するように導くガイド部54を設けている。爪受け部32が接触する爪部53の接触部位Tは、係合状態において、爪部53にかかる力の支持点位置になる。このため、接触部位Tが、爪部53の先端53a側になればなるほど、爪部53における、接触部位Tよりも根元53b側の部位に働く力が大きくなり、爪部53が破断しやすくなる。なお、接触部位Tが先端53a側になりすぎると爪受け部32との係合状態が不安定になる場合がある。また、不法投棄や不法侵入を目的に開蓋しようとしても、爪部53が破断しないようにする必要がある。これらの観点から接触部位Tの位置を調整することが望ましい。
【0035】
またさらに、前述したように、本実施形態では、爪受け部32が袋状に形成されており、係合状態では、爪受け部32によって画定された空間S(
図4(c)参照)内に爪部53が挿入された状態になる。このため、爪部53が破断した場合に、その破断片の飛散を抑えることができる。
【0036】
次に、
図1~
図5に示す蓋受枠のセットの変形例について説明する。以下に説明する変形例においては、
図1~
図5に示す実施形態との相違点を中心に説明し、
図1~
図5に示す実施形態における構成要素の名称と同じ名称の構成要素には、これまで用いた符号を付して説明し、重複する説明は省略することがある。
【0037】
図6は、変形例における、爪部と爪受け部とが係合する様子を示す図である。本変形例は、上記実施形態の蓋受枠セットと比べて、ガイド部54の形態が相違するものであり、
図6では、
図5(b)と同じく、錠部材5と受枠3のみを示している。
【0038】
図6(a)では、上記実施形態のガイド部54の傾斜面54aを一点鎖線で示しており、本変形例のガイド部54’は、傾斜面54a’が、上記実施形態の傾斜面54aと比べて、径方向の斜め外側に高くなるように形成されている。このため、内圧が高まり、
図1に示す閉蓋状態から蓋体2が浮上していくと、ガイド部54’の傾斜面54a’が爪受け部32に接触し、錠部材5が反時計回りに揺動していく。やがて、
図6(b)に示すように、ガイド部54’にガイドされて、
図5(b)に示す実施形態よりも、爪部53の先端53a側に爪受け部32が接触して係合状態になる。これにより、接触部位Tが、爪部53の先端53a側になり、爪部53が破断しやすくなる。
【0039】
このように、ガイド部54’は、係合状態において、爪受け部32が接触する、爪部53の接触部位Tを先端側に導くものであり、爪部53にかかる力の支持点位置を爪部53の先端53a側に導くものである。また、ガイド部54’は、係合状態において、爪部53にかかる力の支持点位置を調整するものでもあり、支持点位置を特定するものでもある。
【0040】
以上説明した蓋受枠セット10によれば、弁体61が受枠3の内周面31に引っかかってしまうことなく、規制部材6を揺動させることができる。
【0041】
本発明は前述した実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、特許文献2記載の蓋受枠セットと同様に、開閉工具によって揺動させた規制部材に押されて錠部材が揺動する態様を採用してもよい。
【0042】
また、これまで説明した地下構造物用蓋受枠セットは、
地下構造物につながる開口を画定する受枠と、該開口を塞ぐ蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットにおいて、
前記蓋体は、前記受枠の内周面に支持され周縁部に鍵穴が設けられた蓋本体と、該蓋本体に設けられた錠部材と、該蓋本体に設けられた規制部材とを有するものであり、
前記受枠は、前記内周面よりも下方位置に一体に設けられた爪受け部を有するものであり、
前記規制部材は、前記鍵穴を閉塞する弁体と、前記蓋本体に揺動可能に支持される軸とを有し、該弁体が該鍵穴を閉塞する方向に付勢されたものであり、
前記錠部材は、錠本体と、前記蓋本体に対して該錠本体を揺動可能に支持する軸部と、
該錠本体と一体に設けられた爪部とを有し、該爪部が前記爪受け部に係合して前記開口の開放を阻止する一方、該爪部が該爪受け部に係合しない状態に揺動させると該開口の開放を許容するものであり、
前記爪受け部に前記爪部が係合した係合状態で前記地下構造物の内圧が高まっていくと、該爪部が破断して該係合状態が解除され、前記開口が開放されるものであることを特徴としてもよい。
【0043】
さらに、これまで説明した地下構造物用蓋受枠セットは、地下構造物につながる開口を画定する受枠と、該開口を塞ぐ蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットにおいて、
前記蓋体は、前記受枠の内周面に支持され周縁部に鍵穴が設けられた蓋本体と、該蓋本体に設けられた錠部材と、該蓋本体に設けられた規制部材とを有するものであり、
前記受枠は、前記内周面よりも下方位置に一体に設けられた爪受け部を有するものであり、
前記規制部材は、前記鍵穴を閉塞する弁体と、前記蓋本体に揺動可能に支持される軸とを有し、該弁体が該鍵穴を閉塞する方向に付勢されたものであり、
前記錠部材は、錠本体と、前記蓋本体に対して該錠本体を揺動可能に支持する軸部と、該錠本体と一体に設けられた爪部とを有し、該爪部が前記爪受け部に係合して前記開口の開放を阻止する一方、該爪部が該爪受け部に係合しない状態に揺動させると該開口の開放を許容するものであり、
前記爪受け部に前記爪部が係合した係合状態で前記地下構造物の内圧が高まっていくと、該爪部が破断して該係合状態が解除され、前記開口が開放されるものであり、
前記錠部材は、前記係合状態において、前記爪受け部を、前記爪部の先端側に接触するように導くガイド部を有することを特徴とする。
【0044】
すなわち、前記爪部は、前記爪受け部よりも強度が弱いものである。ここで、前記爪部は、強度を調整する(強度を低下させる)切込が設けられたものであってもよい。前記切込を設ける態様を採用すれば、前記爪部が破断する箇所が該切込を設けた位置に設定され易い。また、前記地下構造物内の圧力(内圧)が、前記爪部が破断する圧力まで高まっても、前記軸部や前記錠本体は、破断しない強度を有するものである。なお、前記地下構造物用蓋受枠セットは、前記受枠に対して前記蓋体を開閉可能に連結する蝶番構造を有し、前記係合状態において前記爪部が破断して前記係合状態が解除されると、該蓋体が該蝶番構造に連結された状態で垂直反転し、前記開口を開放するものであってもよい。ここで、前記ガイド部は、前記係合状態において、前記爪部にかかる力の支持点位置を調整するものでもあり、該支持点位置を特定するものでもある。
【0045】
上記地下構造物用蓋受枠セットによれば、前記係合状態において、さらに内圧が高まっていくと、前記錠本体に一体に設けられた前記爪部が破断して開蓋し前記開口が開放される。このため、前記錠部材の破壊に関して、飛散したり落下したりするものが、破断した前記爪部に限定され、飛散したり落下したりするものを少なくすることができる。さらに、前記爪部は、前記錠本体に一体に設けられたものであるため、例えば鋳造等によって容易に製造でき、かつ部品点数も少ない。なお、前記軸部は、前記錠本体に一体に設けられたものであってもよいし、該錠本体とは別体のピン等で構成してもよい。また、前記係合状態において、前記爪受け部が前記爪部に接触する接触部位、すなわち該爪部にかかる力の支持点位置を該爪部の先端側に導くことができる。この結果、該爪部における、前記錠本体側の部位にかかる力が大きくなり、該爪部が破断しやすくなる。
【0046】
また、上記地下構造物用蓋受枠セットにおいて、前記爪部は、前記係合状態において、前記爪受け部が接触している接触部位の肉厚が、該爪受け部における、該爪部と接触している接触部位の肉厚よりも薄いものであってもよい。
【0047】
すなわち、前記接触部位の断面二次モーメントが、前記爪受け部よりも、前記爪部の方が小さいものである。ここでいう肉厚とは、水平方向に沿って線接触または面接触した前記接触部位に対して、鉛直面内において交差する方向の厚さをいう。前記受枠と、前記錠本体および前記爪部とは、同一素材で構成されたもの、例えば、共に鋳鉄製のものであってもよい。なお、前記爪部は、前記接触部位から前記錠本体に向かうにつれて前記肉厚が厚くなるもの、すなわち断面二次モーメントが大きくなるものであってもよい。こうすることで、前記爪部は、根元(前記錠本体側の部位)よりも前記接触部位側、あるいは該接触部位付近、すなわち根元よりも先端側で破断しやすくなり、飛散または落下する破断片を小さくすることができる。
【0048】
さらに、上記地下構造物用蓋受枠セットにおいて、前記爪部は、前記係合状態の後に破断した部位の破断面が、高さよりも幅の方が大きいものであってもよい。
【0049】
幅とは、水平方向の寸法をいう。
【0050】
前記爪部の破断における高さと幅の断面二次モーメントの関係において、高さは三乗で力が働くため、幅に比べて高さの方が、製造での寸法誤差から生じる力の値の精度が低い。このため、前記爪部における前記破断面を、高さよりも幅の方を大きくすれば、力の精度を高めることができる。これにより、前記蓋本体の前記受枠への食い込み力や、前記蓋体や該受枠ごとの前記蓋受枠セットの飛散の防止等の観点から設定された上下の限界値内に前記爪部の強度を収めることが容易になる。
(付記1)他の地下構造物用蓋受枠セットは、地下構造物につながる開口を画定する受枠と、該開口を塞ぐ蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットにおいて、
前記蓋体は、前記受枠の内周面に支持され周縁部に鍵穴が設けられた蓋本体と、該蓋本体に設けられた錠部材と、該蓋本体に設けられた規制部材とを有するものであり、
前記受枠は、前記内周面よりも下方位置に一体に設けられた爪受け部を有するものであり、
前記規制部材は、前記鍵穴を閉塞する弁体と、前記蓋本体に揺動可能に支持される軸とを有し、該弁体が該鍵穴を閉塞する方向に付勢されたものであり、
前記錠部材は、錠本体と、前記蓋本体に対して該錠本体を揺動可能に支持する軸部と、
該錠本体と一体に設けられた爪部とを有し、該爪部が前記爪受け部に係合して前記開口の開放を阻止する一方、該爪部が該爪受け部に係合しない状態に揺動させると該開口の開放を許容するものであり、
前記規制部材を前記弁体が前記鍵穴を閉塞する状態から開放する方向に揺動させると、該弁体の先端が前記受枠の内周面に接触し、前記軸が該内周面から離れる方向に移動するものであることを特徴とする。
【符号の説明】
【0051】
10 蓋受枠セット
2 蓋体
3 受枠
31 内周面
32 爪受け部
33 蝶番座
4 蓋本体
5 錠部材
51 錠本体
52 軸部
53 爪部
531 切欠(ノッチ)
54,54’ ガイド部
6 規制部材
7 蝶番部材
L1 肉厚
L2 肉厚
L3 幅
T,T’ 接触部位