IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグの特許一覧

特許7205973表面プラズモン共鳴アッセイのためのセンサー表面
<>
  • 特許-表面プラズモン共鳴アッセイのためのセンサー表面 図1
  • 特許-表面プラズモン共鳴アッセイのためのセンサー表面 図2A
  • 特許-表面プラズモン共鳴アッセイのためのセンサー表面 図2B
  • 特許-表面プラズモン共鳴アッセイのためのセンサー表面 図3
  • 特許-表面プラズモン共鳴アッセイのためのセンサー表面 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】表面プラズモン共鳴アッセイのためのセンサー表面
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20230110BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20230110BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
G01N33/543 595
G01N33/553
G01N21/41 101
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019569393
(86)(22)【出願日】2018-06-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 EP2018064964
(87)【国際公開番号】W WO2018228903
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】1709503.5
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】597064713
【氏名又は名称】サイティバ・スウェーデン・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】レーナ・ヴィンテルバック
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・ラーゲル
(72)【発明者】
【氏名】ペール・シェリン
(72)【発明者】
【氏名】トマス・ダルモ
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-514224(JP,A)
【文献】特開2004-150828(JP,A)
【文献】特表2002-543429(JP,A)
【文献】特開2004-125625(JP,A)
【文献】特開2009-216483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SPR(表面プラズモン共鳴)装置のためのセンサー表面を調製する方法であって、
センサー表面を、少なくとも1種類の官能性基を有する1種以上のチオールC10-C30アルカン反応剤と反応させることによって、前記センサー表面上に自己組織化単分子層(SAM)を形成させることを含み、
1種以上のタンパク質抵抗性化合物が、前記官能性基の第画分に結合され;次いで、
1種以上の捕捉用分子が、直接、又は前記タンパク質抵抗性化合物ではないリンカーを介して、前記センサー表面上の前記官能性基の第2画分に結合され、
ここで、
前記捕捉用分子は、前記タンパク質抵抗性化合物には全く結合されず、
前記捕捉用分子は、タンパク質(リガンド)である、方法。
【請求項2】
前記官能性基の第2画分は、前記官能性基の第1画分を介してタンパク質抵抗性化合物が結合された後に前記センサー表面上に残る前記官能性基に含まれ、前記官能性基の第1画分及び第2画分は、同じ種類であるか又は異なる種類である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記センサー表面が、金又は銀でメッキされた表面である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記チオールC10-C30アルカン反応剤の前記官能性基が、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基、ビニル基、カルボニル基、又はチオール基の1種以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記チオールC10-C30アルカン反応剤が、MHA(メルカプトヘキサデカン酸)又はその誘導体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質抵抗性化合物が、ポリエチレングリコール又はその誘導体から選択される親水性ポリマーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質抵抗性化合物が、分子量(Mw)2000~10000のポリエチレングリコール(PEG)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記官能性基の第2画分は、捕捉用分子(リガンド)の結合前に活性化され、結合した捕捉用分子(リガンド)の量は、その活性化時間の長さに反比例し、かつ、
その活性化反応剤が、EDC/NHS、エピクロルヒドリン、又は二官能性反応剤から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法によって調製されたセンサー表面を使用してSPRアッセイを行う方法であって、
センサー表面上の捕捉用分子(リガンド)と相互作用する可能性のあるアナライトを添加する工程と、
速度論的アッセイ及び/又は濃度アッセイを実行する工程と
を含む、方法。
【請求項10】
SPR(表面プラズモン共鳴)装置のためのセンサー表面であって、
その上に利用可能な官能性基を有する自己組織化単分子層(SAM)を備えた基材を含み、
タンパク質抵抗性化合物が、前記官能性基の第1画分に結合しており、
捕捉用分子(リガンド)が、前記センサー表面上の前記官能性基の第2画分に結合しており、
ここで、前記捕捉用分子(リガンド)は、前記タンパク質抵抗性化合物には全く結合しておらず、
前記自己組織化単分子層(SAM)は、少なくとも1種類の官能性基を有する1種以上のチオールC 10 -C 30 アルカン反応剤から形成されたものであり、
前記タンパク質抵抗性化合物は、第一級アミン基を有するポリエチレングリコールの誘導体であり、
前記官能性基の第一画分は、カルボキシル基であり、
前記捕捉用分子(リガンド)は、タンパク質である、センサー表面。
【請求項11】
前記タンパク質抵抗性化合物及び前記捕捉用分子が、同じ種類の官能性基に結合している、請求項10に記載のセンサー表面。
【請求項12】
前記タンパク質抵抗性化合物及び前記捕捉用分子が、異なる種類の官能性基に結合している、請求項10に記載のセンサー表面。
【請求項13】
センサー表面は金メッキ表面であり、SAMは、MHA-SAMであり、タンパク質抵抗性化合物は、第一級アミン基を有するポリエチレングリコール(PEG)の誘導体である、請求項10~12のいずれか一項に記載のセンサー表面。
【請求項14】
前記タンパク質抵抗性化合物は、0.5~5mMの濃度の分子量(Mw)5000のPEGである、請求項10~13のいずれか一項に記載のセンサー表面。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アッセイの改良のための方法及び装置に関する。より詳細には、本発明は、改良されたセンサー表面の調製、及びSPR(表面プラズモン共鳴)アッセイ又は相互作用におけるその使用に関する。本発明はまた、これらの方法により調製されたセンサー表面に関する。
【背景技術】
【0002】
生体分子などの分子間の相互作用をリアルタイムで監視できる分析センサーシステムへの関心が高まっている。これらのシステムは多くの場合、光学バイオセンサーに基づいており、通常、相互作用分析センサー又は生体特異的装置と呼ばれ、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して、試料中の分子とセンサー表面に固定化された分子構造との相互作用を検出する。試料がセンサー表面を通過する際、結合の進展が、相互作用の発生割合(速度)に直接反映される。試料の注入の後に、バッファー(緩衝剤)が流され、この際に、検出器の応答には、センサー表面上の複合体の解離速度が反映される。GE HealthcareのBIACORE(登録商標)システムからの典型的な出力は、分子相互作用の時間経過を表すグラフ又は曲線であり、会合相部分及び解離相部分を含む。
【0003】
BIACORE(登録商標)システム(及び類似のセンサーシステム)を使用すると、リアルタイムで、ラベリングを使用せずに、多くの場合、関与する物質を精製することなしに、試料中の特定の分子(アナライト)の存在及び濃度だけでなく、分子間相互作用における結合(結合及び解離)の速度定数及び表面相互作用の親和性を含む追加の相互作用パラメーターをも測定することができる。結合速度定数(ka)及び解離速度定数(kd)は、数多くの様々な試料アナライト(analyte)濃度について得られた速度論的データを、微分方程式の形で相互作用モデルの数学的記述に適合させることによって取得することができる。親和性(親和定数K又は解離定数Kとして表される)は、結合及び解離速度定数から計算することができる。
【0004】
試料中の分子がセンサーチップ表面の捕捉用分子に結合すると、濃度、したがって表面の屈折率が変化し、SPR応答が検出される。相互作用の過程において時間に対する応答をプロットすると、相互作用の進行状況の定量的尺度が提供される。このようなプロット、又は動態(kinetic)又は曲線(結合等温線)は通常、結合曲線又はセンサーグラムと呼ばれ、「アフィニティトレース」又は「アフィノグラム」とも呼ばれることもある。BIACORE(登録商標)システムでは、SPR応答値は共鳴単位(RU)で表される。1RUは、最小反射光強度の角度の0.0001°の変化を表す。これは、ほとんどのタンパク質及び他の生体分子についての、センサー表面上の濃度の約1pg/mmの変化に相当する。アナライトを含む試料がセンサー表面に接触すると、センサー表面に結合した捕捉用分子(リガンド)が「親和(association)」と呼ばれるステップでアナライトと相互作用する。このステップは、結合曲線では、試料が最初にセンサー表面に接触する際のRUの増加によって示される。逆に、「解離」は、通常、試料フローが、例えばバッファーフローに置き換えられたときに発生する。このステップは、結合曲線では、アナライトが表面に結合したリガンドから解離するにつれて、経時的にRUが低下することによって示される。
【0005】
したがって、SPR装置システムの重要な部分は、研究対象となる相互作用が発生するセンサー表面である。このセンサー表面は、金の薄層でコーティングされたガラス表面で構成され、その上に、マトリックスと呼ばれる親水性層が、自己組織化単分子層(SAM)の上に作成され、これにより金のチップへの非特異的結合(NSB)が防止される。センサー表面は、様々な材料、例えば、(ポリ)テトラフルオロエチレン、(ポリ)ビニリデンジフルオリド、又はそれらの組み合わせなどのポリマーの表面層を有する剛性基材であってもよい。
【0006】
一般的に使用されるマトリックスは、カルボキシメチル化デキストラン(CMDx)であり、このCMDxは、センサー表面に三次元構造を形成する、非特異的結合特性の低い柔軟な炭水化物ポリマーである。SPR計装ハードウェアの感度の向上に伴って技術開発が進むにつれて、センサー表面の化学的性質に対する要求が高まっている。低相互作用シグナルを検出できるように、生体分子のドリフト(drift)及び非特異的結合を最小限に抑えることが特に重要となる。リガンドは、カルボキシル基を介してデキストランマトリックスに固定化される。カルボキシル基の大部分は、リガンドの固定化に関与せず、活性化後にカルボキシル基に加水分解されるか、活性化されない。
【0007】
マトリックスの特性は、使用するバッファー条件に依存する。例えば、pHと塩濃度が異なれば、負電荷及び電荷反発の程度が異なるため、表面との関係でマトリックスの膨張に違いが生じる。試料に起因するバッファー条件の違い、及び試料中のバッファーの違い、及びアッセイ中のバッファー流量などは、デキストランの膨張の違いにつながり、これがベースラインのドリフトを引き起こす。このマトリックスの変化は、SPRシグナル(ベースラインのドリフト)に影響を及ぼし、アッセイのパフォーマンスに悪影響を及ぼす。アッセイでは、マトリックスの膨張を最小限に抑える必要がある。リガンドがマトリックスに固定化されていると、マトリックスの動態が大きなシグナル変化を引き起こし、アッセイ(分析)パフォーマンスに悪影響を与えるリスクが高くなる。
【0008】
捕捉用分子/リガンドが異なれば、他のバッファー成分に対して異なる特性が示される。アッセイバッファーに共通する成分は洗浄剤である。洗浄剤の特性は、アッセイの種類によって様々である。様々な洗浄剤が、様々な種類のマトリックスに様々に結合する。
【0009】
ターゲット及び試料が異なれば、センサー表面への要求も異なる。CMDxは、多くの様々な種類の試料及びアッセイに有用であるが、デキストランが機能しない場合には代替マトリックスが必要となる。したがって、ドリフト及び非特異的結合を最小限に抑える、改良されたセンサー表面が求められている。
【0010】
PEG(ポリエチレングリコール)又はOEG(オリゴエチレングリコール)の表面には、タンパク質を寄せ付けない特性(抵抗性)があり、PEG又はOEGは、アッセイにおけるセンサーの表面への不要な結合を減らすために使用されてきた。このような技術では、PEG又はOEG部分は、相互作用分析に含まれることとなる相互作用物質の1つ(捕捉用分子)の結合にも使用される。あるいは、リガンド及びタンパク質抵抗性化合物は、国際公開第2006/041392号に記載されているように、ヒドロゲル(例えばCMDxなど)の別個の画分に結合される。但し、その表面はベースラインの変動に悩まされるため、一部の敏感な試料には適していない。
【0011】
リガンドがOEGに固定されているアルカン-OEG SAM層によって構築された、OEG表面を備えたセンサーチップの例もある。一例がライヒェルツ(Reicherts)である(http://www.reichertspr.com/products/sensor-chips/planar-polyethylene-glycol-carboxyl-sensor-chip-part-13206061/?back=products)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際出願第2006/041392号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【文献】インターネット<URL: http://www.reichertspr.com/products/sensor-chips/planar-polyethylene-glycol-carboxyl-sensor-chip-part-13206061/?back=products>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、試料の種類に応じて、現在知られているいくつかのマトリックスには、いくつかの欠点、高いバックグラウンドノイズ及び非特異的結合等がある。したがって、代替的なマトリックス及びポリマーを備えたセンサー表面が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、不活性マトリックスの固定化及びSAMへの捕捉用分子の組み合わせによって、SPRセンサー表面上のマトリックスの変動を最小化することにより、アッセイノイズを低減することができることを見出した。
【0016】
第1の態様において、本発明は、SPR(表面プラズモン共鳴)装置のためのセンサー表面を調製する方法であって、
表面を、少なくとも1種類の官能性基を有する1種以上のチオールC10-C30アルカン反応剤と反応させることによって、前記センサー表面上に自己組織化単分子層(SAM)を形成させることを含み、
1種以上のタンパク質抵抗性化合物が、前記官能性基の第一画分に結合され;
1種以上の捕捉用分子が、直接、又は前記タンパク質抵抗性化合物ではないリンカーを介して、前記センサー表面上の前記官能性基の第2画分に結合され、
ここで、前記捕捉用分子は、前記タンパク質抵抗性化合物には全く結合されない、方法を提供する。リガンドを固定化するための官能性基は、SAM上でのみ利用可能であり、タンパク質抵抗性化合物/マトリックス上では利用可能ではない。
【0017】
表面は、金属、好ましくは金又は銀のメッキ表面であるか、又はSPR用途に適した任意の他の表面である。
【0018】
官能性基の第2画分は、官能性基の第1画分を介してタンパク質抵抗性化合物をカップリング(結合)した後に、表面に残っている官能性基に含まれる。
【0019】
SAMの官能性基は、捕捉用分子及びタンパク質抵抗性化合物のカップリング(結合)に使用される。これらのカップリングには、同じ又は異なる種類の官能性基を使用することができ、存在する場合には、同じ又は異なるリンカーを使用することができる。
【0020】
タンパク質抵抗性化合物は、マトリックス形成化合物又は単にマトリックスとも呼ばれ、リンカーを介して表面に結合されてもよい。捕捉用分子は、当技術分野における従来の様式と同様に、相互作用物質の1つであり、そのリガンドがアナライトと直接相互作用するものであるか、又は、捕捉用分子がリガンドに結合するかのいずれかである。本発明は、結合反応のタイプに限定されず、アナライトとその結合パートナーとの間の任意のタイプの反応に関連する。
【0021】
リンカーは、例えば、エピクロロヒドリン、シスタミン、2官能性活性化反応剤、カルボヒドラジドなどであり得る。
【0022】
10-C30チオールアルカン反応剤の官能性基は、好ましくは、カルボキシル、ヒドロキシル、アミノ、アルデヒド、エポキシ、ビニル、カルボニル又はチオール基のうちの1つ以上である。あるいは、リガンドを固定化することができる予備活性化基である。タンパク質抵抗性基は、捕捉用分子のものと同じSAM上の官能性基に固定化されていても、捕捉用分子のものとは異なるSAM上の官能性基に固定化されていてもよい。
【0023】
好ましくは、C10-C30チオールアルカン反応剤は、MHA(メルカプトヘキサデカン酸)又はその誘導体である。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、タンパク質抵抗性化合物は、ポリエチレングリコール又はその誘導体、例えば、分子量(Mw)が20,000未満のメトキシポリエチレングリコールアミンから選択される親水性ポリマーである。最も好ましくは、タンパク質抵抗性化合物は、分子量(Mw)100~20000、好ましくは分子量(Mw)2000~10000、最も好ましくは分子量(Mw)4000~6000のPEGである。
【0025】
本発明による方法の1つの実施形態では、官能性基の第2画分は、捕捉用分子又はリガンドへのカップリングの前に活性化され得、カップリングされた捕捉用分子(リガンド)の量(level)は、その活性化時間の長さに反比例し、その時間は約5秒を超える。
【0026】
本発明に従って調製されたセンサー表面を使用してSPRアッセイを実行する方法は、センサー表面上の捕捉用分子(リガンド)と相互作用する可能性のあるアナライトを添加することと、速度論的アッセイ及び/又は濃度アッセイを実行することとからなる。
【0027】
第2の態様において、本発明は、その上に直接官能性基を備えた自己組織化単分子層(SAM)を備えた、金属メッキ表面などの、SPRに一般的に使用されるタイプの基材又はチップを含むセンサー表面に関する。ここで、タンパク質抵抗性化合物は、前記官能性基の第1画分に結合し、捕捉用分子(リガンド)は、センサー表面上の前記官能性基の第2画分に結合するが、タンパク質抵抗性化合物にはリガンドは全く結合しない。
【0028】
好ましくは、表面は、金属メッキ、好ましくは金メッキ表面であり、SAMは、チオール-アルカンC10-C30のSAM、最も好ましくはMHA-SAMであり、タンパク質抵抗性化合物はポリエチレングリコール(PEG)又はその誘導体である。好ましい実施形態では、タンパク質抵抗性化合物は、0.05~50mM、好ましくは0.5~5mMの濃度の分子量(Mw)5000のPEGである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明のセンサー表面の調製における方法ステップの概略図である。
図2A図2Aは、図1のセンサー表面に特定のリガンドが付着する官能性基を指す矢印付きの概略図である。
図2B図2Bは、PEG基がリガンドの固定化に関与しないことを示す。
図3図3は、本発明のセンサー表面を用いて開始される、活性化時間対リガンド濃度の結果を示すグラフである。
図4図4は、図1/実施例3に従って合成されたPEG表面上に固定化されたリガンド(30秒の活性化)を用いた速度論的特性評価アッセイのセンサーグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
予備研究において、発明者らは、オリゴ(エチレングリコール)(OEG)誘導体化アルカンチオール化合物、又はこれらの化合物とOEGを有さないアルカンチオール化合物との混合物から作成された自己組織化単分子層(SAM)が、高い非特異的結合を示すことを発見した。サイクリックボルタンメトリー分析の結果が悪いことにより、好ましくない充填密度及び不十分な表面被覆が示され、したがって、試料の、金表面/破壊されたSAMへの、望ましくない非特異的結合の高い蓋然性が示された。この結果は、SAMアルカンチオール-OEGを有する表面は、高感度(high sensitivity)用途には適していないことを示している。
【0031】
本発明は、捕捉用分子が、センサー表面に密接に結合して、マトリックス分子には全く結合しないことにより、ベースラインドリフトが最小化される、新規センサー表面を提供する。捕捉用分子は、PEG又はOEG又は任意の他の親水性又はタンパク質抵抗性部分を介さずに、アルカンチオールSAM層に直接(又はSAM上のリンカーを介して)結合する。本発明は、分離特性を達成するためにアルカン-SAMでセンサー表面を作成することを含む方法であって、第2のステップとして、親水性マトリックスを導入して、タンパク質反発特性を達成する一方で、SAM上のリガンド固定化のために利用可能な官能性基を提供して、低いベースラインドリフトを達成する、方法を提供する。
【0032】
チオールアルカン、例えばC10-C30アルカンなどを用いて、金表面上に、反応剤が自己組織化した単分子層(SAM)を作成することができる。SAM C16は、センサー表面上の金表面及び任意の破壊されたSAM成分への、試料成分からの非特異的結合を避けるために必要とされる、良好な分離特性を備えた高密度のSAMを示す。
【0033】
マトリックス、例えばPEGマトリックスなどを形成するタンパク質抵抗性化合物は、SAM層の官能性基を介して共有結合により固定化される。マトリックス分子は、そのタンパク質を寄せ付けない特性又はアッセイに有益なその他の特性のためにのみ添加される。したがって、リガンド及びタンパク質抵抗性化合物(マトリックス)の両方が、SAM単層に直接結合するか、又はリンカーを介して結合する。リンカーは、例えばエピクロロヒドリンであってもよい。リンカーは短い分子であり、先行技術にみられるような親水性化合物ではない。
【0034】
本発明の利点は、タンパク質抵抗性化合物(マトリックス)へのリガンドの固定化が全くないことである。同一のリガンドがマトリックス上及びSAM上に固定化されると、固定化されたリガンドは2つの異なるリガンド集団である、SAM層に固定化された集団及びマトリックスに固定化された集団を形成する。これにより、アッセイ結果に悪影響が及ぶ。本発明では、PEGマトリックス又は代替的なマトリックス又はマトリックスの混合物が、SAM官能性基上に別個のステップで固定され、リガンドの固定化に使用される官能性基を有さないため、全てのリガンドは、SAM官能性基のみに固定化される。(任意選択で)失活させた後、SAM単分子層の残りの官能性基は、リガンドの固定化に利用可能である。
【0035】
本発明において、好ましいチオール-アルカン反応剤は、MHA16(メルカプトヘキサデカン酸)である。チオール-アルカン反応剤がMHAの場合、センサー表面のMHA SAM層のカルボキシ部分に、一級アミンを有するPEG分子を共有結合的にカップリング(covalent coupling)することができる。第一級アミン基を有するPEG分子は、EDC/NHS化学によりCOOH(カルボキシ基)を持つSAM層に共有結合することができる。カルボキシル化されたアルカンチオールSAMにカップリング(結合)したアミン官能化PEG分子(例えば5kDaなど)を備えたセンサー表面は、良好なマトリックス安定性特性を示し、血漿試料及び洗浄剤からの非特異的結合に対して高い抵抗性(resistance)を有することが実証された。
【0036】
タンパク質抵抗性化合物(マトリックス)及びリガンドは、SAM層上の他の官能性基を介して固定化することもできる。固定化のためのSAM層上の可能な官能性基の例は、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、アルデヒド、カルボニル、エポキシ、ビニル及びチオールである。
【0037】
SAM層への固定化に関与することとなるタンパク質抵抗性化合物(マトリックス)上の可能な官能性基の例は、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、アルデヒド、カルボニル、エポキシ、ビニル及びチオールである。タンパク質抵抗性化合物(マトリックス)をSAM層に固定化した後、タンパク質抵抗性化合物(マトリックス)に残っている官能性基は、利用可能であってはならず、すなわちリガンド/キャプチャーの固定化に使用されず、かつ/あるいは、必要に応じて非活性化される。あるいは、これらの官能性記は、リガンドの固定化に使用されることとなるSAM上の官能性基とは異なることができる。
【0038】
タンパク質抵抗性化合物(マトリックス)のSAM層への固定化は、自発的な共有結合(covalent coupling)、又は、マトリックス上又はSAM層上のいずれかの官能性基(SAM上のアルデヒドやマトリックス上のヒドラジンなど)の活性化によって行われる。非反応性基又は反応性基の非活性化が行われる。マトリックス又はリンカーの安定化が含まれる場合もある。例えば、アルデヒドとヒドラジンとの間のカップリングは、NaCNBHによって安定化される。
【0039】
活性化及び不活性化手順は当業者に知られており、例えば、EDC/NHS化学により活性エステルを導入することによるか、又はエピクロルヒドリンによりエポキシドを導入することによる、SAM又はマトリックスの活性化があり得る。あるいは、二官能性反応剤を介した確立された化学による活性化、例えば、表面上のアミン基、及び二官能性反応剤上のNHS誘導体、及びリガンド固定化のための二官能性反応剤からの反応性ジスルフィドによる活性化があり得る。
【0040】
[リガンドの固定化]
センサー表面(チップ表面)上のCOOH基へのリガンドの固定化を可能にするさまざまなカップリング(結合)化学が数多く存在する。最も一般的な方法は、アミンカップリングを使用することであり、これにより、チップ表面上のカルボキシル基が、タンパク質(リガンド)の第一級アミン基との共有アミド結合に使用される。しかし、このプロセスは自発的には起こらず、カルボキシル基を活性化する必要がある。活性化は、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)と、N-ヒドロキシ-コハク酸イミド(NHS)との混合物を用いて行われる。EDCは、カルボキシル基と反応し、反応性中間体を形成し、次にそれがNHSと反応して、活性NHSエステルを形成する。リガンドがセンサーチップ表面上を通過すると、(良好な脱離基である)このNHS部分が、リガンド上の第一級アミン基と自発的に反応し、リガンドとチップ表面との間の共有結合が形成される。ほとんどのタンパク質にはいくつかの第一級アミンを有しているため、リガンドの生物活性に深刻な影響を与えることなく固定化を達成することができる。
【0041】
リガンドの固定化を促進するために、予備濃縮と呼ばれるプロセスにおいて、誘引静電力が採用される。リガンドを、タンパク質の等電点(pI)より低いが、チップ表面のpIより高いpHを有するカップリング用バッファーに溶解する。これにより、リガンドとチップ表面は反対の正味電荷を獲得する。正に帯電したリガンド分子は、静電的に負の表面に引き付けられ、表面近くの高いリガンド濃度は、より効率的な固定化をもたらす。
リガンドを固定化した後、過剰なNHS活性化カルボキシル基を、例えば、残留NHSエステルを除去するエタノールアミン又はNaOHを用いて不活性化して、アナライトの注入の間にタンパク質が表面にそれ以上全く固定化されないようにする。このプロセスは、正に帯電した表面及び負に帯電したリガンドを用いて実行することもできる。
【0042】
リガンドレベル(ligand level)は、リガンド濃度、活性化時間、又はリガンドの接触、リガンドの固定化/カップリング用バッファーの組成及びpH、又はこれらのパラメーターの組み合わせを変化させることによって制御することができる。本発明者らは、驚くべきことに、本発明によるMHA SAM層を備えたセンサー表面を用いることにより、活性化時間を短くするとリガンドレベルが増加することが多いことを発見した。これは、CMDxなどのヒドロゲルを備えた市販のセンサー表面とは逆である。後者の場合、活性化時間(接触時間)が長くなると、リガンドのレベルが増加する。
【実施例
【0043】
実施例1:MHA SAM及びPEGを用いるセンサー表面の合成
この例では、図1を参照する。
金表面を有するガラスチップを含む基材を、25℃にて1mMのMHAを含む80%/20%のエタノール/水に浸漬し、一晩インキュベートした。金のチップを、以下の溶液:100%エタノール、80%エタノール、50%エタノール、20%エタノール、100%水で各5分間、前述した順序で洗浄した。
【0044】
センサーチップを窒素ガスで乾燥し、水中の0.144MのEDC及び0.050MのNHSに浸し、25℃で30分間インキュベートした。センサーチップを水で4回洗浄し、その後、1.79mMの分子量(Mw)5000のO-(2-アミノエチル)ポリエチレングリコールを含む0.252Mリン酸ナトリウムバッファー(pH 8.5)に浸し、25℃にて30分間インキュベートした。このPEG溶液を廃棄し、残った活性エステルを、1Mエタノールアミン(pH 8.5)を用いて失活させた。最後に、センサーチップを水で4回洗浄した。このチップを窒素ガスで乾燥させた。
【0045】
実施例2:様々な活性化時間を用いたSAM MHA上のカルボキシル基へのリガンド(抗体)の固定化
実施例1のチップを、プラスチック製のキャリア及びフードで組み立てた。その後、制御ソフトウェアの製造元の指示に従って、チップをBiacore 3000に装着した。SAM上のカルボキシル基を、30秒間、60秒間、90秒間、及び180秒間の間、水中の200mMのEDC及び50mMのNHSの混合液を用いて装置内で活性化した。
【0046】
10mM酢酸ナトリウム(pH 5)中の50μg/mlのマウスIgG1抗体を、活性化されたチップ表面上に7分間注入した。チップ表面(の反応していないコハク酸イミドエステル)を、1Mのエタノールアミン(pH 8.5)を用いて5分間失活させた。様々なフローセルを用いて、様々な活性化時間での固定化を実施した。ランニングバッファーは、HBS-EP(BR100188)(GE Healthcare)であった。
【0047】
この例では、図3のグラフを参照する。図3は、30秒後から、固定化レベルが活性化時間に対して反比例することを示している。
【0048】
実施例3:本発明のセンサー表面を用いたアッセイ
実施例1のチップを、プラスチック製のキャリア及びフードを用いて組み立てた。チップを、制御ソフトウェアの指示に従って、Biacore(登録商標)8Kに装着した。SAM上のカルボキシル基を、水中の200mMのEDC及び50mMのNHSの混合液を用いて30秒間、装置内で活性化した。
【0049】
10mM酢酸ナトリウム(pH 5)中の30μg/mlのマウス抗βμを、活性化されたチップ表面上に7分間注入した。チップ表面(の反応していないコハク酸イミドエステル)を、1Mのエタノールアミン(pH 8.5)を用いて5分間不活性化した。ランニングバッファー中の様々な濃度のβμ(1、2、4、8、16nM)を、固定化した表面上、及びリガンドを有さないリファレンスのスポット/表面上に注入した。ランニングバッファーは、HBS-P+であった。マウスの抗βμへのβμの結合速度論を決定することが可能であった。1対1の結合モデルへのフィッティングを適用した。
【0050】
この例では、図4を参照する。図4は、リファレンスを差し引いたセンサーグラムを示す。Biacore(登録商標)8K評価ソフトウェアにより、結合定数(ka)、解離定数(kd)、及び親和定数(KD)を計算した。結果は、以前に確立された利用可能な結果と一致している。
図1
図2A
図2B
図3
図4