(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】光触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20230110BHJP
B01J 31/38 20060101ALI20230110BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20230110BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20230110BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J31/38 M
B01J35/10 301H
B01J37/04 102
B01J37/10
(21)【出願番号】P 2018064190
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2020-11-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-201451(JP,A)
【文献】特開2014-188417(JP,A)
【文献】国際公開第2010/055770(WO,A1)
【文献】特表2004-507421(JP,A)
【文献】特開2010-195654(JP,A)
【文献】特開2013-095622(JP,A)
【文献】特開2001-262007(JP,A)
【文献】特開2004-018477(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105523583(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103285852(CN,A)
【文献】特開2002-320917(JP,A)
【文献】特開2013-216858(JP,A)
【文献】YANG, S. et al.,Journal of the American Ceramic Society,2005年03月17日,Vol.88,pp.968-970,<DOI:10.1111/j.1551-2916.2005.00151.x>
【文献】TAHERINIA, M. et al.,Iranian Journal of Hydrogen & Fuel Cell,2017年,Vol.2,pp.139-151,<DOI:10.22104/ijhfc.2017.2372.1147>
【文献】PARRA, R. et al.,Chemistry of Materials,2007年11月20日,Vol.20,pp.143-150,<DOI:10.1021/cm702286e>
【文献】JUN, W. Y. et al., Korean Chemical Engineering Research,2010年08月31日,Vol.48,pp.417-422
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01G 23/00 - 23/08
C07F 7/28
B01J 13/00 - 13/22
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタニアナノ粒子を含有する光触媒であって、前記チタニアナノ粒子は、表面に、-OCOR(式中、Rは水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~2のヒドロキシアルキル基を示す)で表される基でチタン原子と結合しているアシル基が結合しており、前記アシル基が結合しているチタニアナノ粒子の平均粒子径が1~5nmであり、且つ、示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における重量減少が5重量%以上である、光触媒。
【請求項2】
前記アシル基が、炭素数1~4のモノカルボン酸及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸由来のアシル基である、請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
前記有機酸が酢酸である、請求項2に記載の光触媒。
【請求項4】
前記チタニアナノ粒子の比表面積が150~500m
2/gである、請求項1~3のいずれか1項に記載の光触媒。
【請求項5】
前記チタニアナノ粒子は、100%がアナターゼ型酸化チタンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の光触媒。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の光触媒の製造方法であって、
(A)チタンアルコキシド、水酸化チタン又はハロゲン化チタンと、有機酸と、水とを混合して分散液を得る工程、及び
(B)前記工程(A)で得られた分散液を
82℃以上で1時間以上加熱する
(ただし、0.11~0.2MPaの場合は5~30分加熱する)工程を備え、且つ、
前記工程(A)において、前記チタンを含む物質と前記有機酸との混合比率は、前記チタンを含む物質中のチタン1モルに対して前記有機酸中のアシル基が1.5モル以上
である、製造方法。
【請求項7】
前記工程(B)における加熱条件が、0.09~0.11MPa
で1.5時間以上である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(A)において作製される分散液中のN、Cl及びS元素の濃度がいずれも0.01mol/L以下である、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(A)において作製される分散液中の無機酸の濃度が0.01mol/L以下である、請求項6~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
工程(B)において作製される分散液のpHが2以上6未満である、請求項6~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
水50質量%以上と、請求項1~5のいずれか1項に記載の光触媒とを含有する、光触媒分散液。
【請求項12】
有機酸とは別途有機分散剤を含有しない、請求項11に記載の光触媒分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
チタニア(酸化チタン)は光触媒材料として利用されている。一般的にはチタニアの粉体を溶媒に分散して使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】J. Phys. Chem. B 2003, 107, 14336-14341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光触媒用のチタニアに関しては、結晶性が高いものが多く、結晶性が高いほどチタニアの屈折率が高いがゆえに、白色度が非常に強く透明性に劣るものが多かった。
【0005】
一方、粒径が小さいほど水やアルコール中では凝集してしまい、均一に塗布しにくいうえに、結局透明性が出ない。また、仮に塗布しても、平均粒子径が小さいほど乾燥による収縮が大きいためクラックや剥がれが起こりやすい。また、樹脂に塗布した場合は樹脂を劣化させてしまう。
【0006】
一方、有機系の分散剤を用いた場合は、チタニア表面の活性が損なわれるという問題点がある。また硝酸や塩酸等の無機強酸を用いて分散した場合は、分散性は向上するが酸の揮発により周辺の装置を腐食してしまうという問題がある。
【0007】
また、チタンアルコキシド等のチタン源と硝酸や塩酸等の無機強酸を用いて水熱合成反応を行う方法(非特許文献1等)もあるが、工業的には排水の問題や反応器の腐食の問題が起こる恐れがあるため、硝酸や塩酸を用いることができない場合が多い。
【0008】
そこで、本発明は、大きいチタニア粒子でも小さいチタニア粒子でも達成できなかった塗布性、光触媒性及び透明性を備えたチタニア微粒子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を鑑み、鋭意検討した結果、本発明者らは、表面にアシル基が結合しており、且つ、示差熱熱重量同時測定装置によって昇温させた場合の200℃以上における重量減少が5重量%以上であるチタニアナノ粒子が、上記課題を全て解決できることを見出した。そして、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.チタニアナノ粒子を含有する光触媒であって、前記チタニアナノ粒子は、表面にアシル基が結合しており、且つ、示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における重量減少が5重量%以上である、光触媒。
項2.前記アシル基が、-OCOR(式中、Rは水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~2のヒドロキシアルキル基を示す)で表される基でチタン原子と結合している、項1に記載の光触媒。
項3.前記アシル基が、炭素数1~4のモルカルボン酸及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸由来のアシル基である、項1に記載の光触媒。
項4.前記有機酸が酢酸である、項3に記載の光触媒。
項5.前記チタニアナノ粒子の平均粒子径が1~5nmである、項1~4のいずれか1項に記載の光触媒。
項6.前記チタニアナノ粒子の比表面積が150~500m2/gである、項1~5のいずれか1項に記載の光触媒。
項7.前記チタニアナノ粒子がアナターゼ型以外の結晶形を含まない、項1~6のいずれか1項に記載の光触媒。
項8.項1~7のいずれか1項に記載の光触媒の製造方法であって、
(A)チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る工程、及び
(B)前記工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する工程
を備え、且つ、
前記工程(A)において、前記チタンを含む物質と前記有機酸との混合比率は、前記チタンを含む物質中のチタン1モルに対して前記有機酸中のアシル基が1.5モル以上である、製造方法。
項9.前記工程(B)における加熱条件が82℃以上で1.5時間以上である、項8に記載の製造方法。
項10.前記チタンを含む物質がチタンアルコキシド、水酸化チタン又はハロゲン化チタンである、項8又は9に記載の製造方法。
項11.工程(A)において作製される分散液中のN、Cl及びS元素の濃度がいずれも0.01mol/L以下である、項8~10のいずれか1項に記載の製造方法。
項12.工程(A)において作製される分散液中の無機酸の濃度が0.01mol/L以下である、項8~11のいずれか1項に記載の製造方法。
項13.工程(B)において作製される分散液のpHが2以上6未満である、項8~12のいずれか1項に記載の製造方法。
項14.水50質量%以上と、項1~7のいずれか1項に記載の光触媒とを含有する、光触媒分散液。
項15.前記有機酸とは別途有機分散剤を含有しない、項14に記載の光触媒分散液。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大きいチタニア粒子でも小さいチタニア粒子でも達成できなかった塗布性、光触媒性及び透明性を備えたチタニア微粒子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。本明細書において、数値範囲をA~Bで表記する場合、A以上B以下を示す。
【0012】
本明細書において、「酸化チタン」又は「チタニア」とは、二酸化チタン(TiO2)のみを指すものではなく、三酸化二チタン(Ti2O3);一酸化チタン(TiO);Ti4O7、Ti5O9等に代表される二酸化チタンから酸素欠損した組成のもの等も含む。また、末端OH基に代表されるように一部酸化チタンの合成に起因するTi-O-Ti以外の基を含んでいてもよい。さらに、末端OH基に有機酸等が結合したものも含まれる。
【0013】
1.光触媒
本発明の光触媒は、表面にアシル基が結合しており、且つ、示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における重量減少が5重量%以上であるチタニアナノ粒子を含有する。
【0014】
通常、水、無機酸、遊離した有機酸等は200℃以下でほとんど揮発する。一方、本発明のチタニアナノ粒子は、表面にアシル基が結合していることから、200~600℃の範囲で徐々に脱離する。例えばアセチル基の場合は、約260℃をピークとして200~600℃の範囲で徐々に脱離する。このように、本発明のチタニアナノ粒子は、表面にアシル基が結合していることから、乾燥又は焼成時にチタニアナノ粒子同士の凝集を抑制できるためクラック、剥がれ等が起こりにくく塗布性及び透明性に特に優れるとともに、クラック、剥がれ等を抑制することができる結果光触媒性にも優れる。なお、通常は、アシル基を有していると光触媒性は低下するのが技術常識であるが、本発明では上記のとおりクラック、剥がれ等の抑制効果が特に優れているためアシル基を有しているにもかかわらず光触媒性も向上させることができる。
【0015】
また、上記チタニアナノ粒子は、表面にアシル基が大量に結合していることが好ましい。表面にアシル基が存在している場合は、上記のとおり200~600℃の範囲で徐々に離脱することから、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって昇温させた場合に200℃以上での重量原料が大きい。このため、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における重量減少が5重量%以上、好ましくは7~20重量%である。この際、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)の詳細な条件は、雰囲気:空気、昇温速度:3℃/分である。
【0016】
上記チタニアナノ粒子は、上記のとおり表面にアシル基が結合しているものであるが、このアシル基は、-OCOR(式中、Rは水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~2のヒドロキシアルキル基を示す)で表される基でチタン原子と結合していることが好ましい。言い換えれば、このアシル基は、炭素数1~4のモルカルボン酸、炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸等の有機酸由来のアシル基であることが好ましい。
【0017】
上記Rにおいてアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基等が挙げられ、ヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基等が挙げられる。つまり、モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられ、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸等が挙げられる。
【0018】
なお、揮発性、有害性及び分解性の観点から、Rとしては水素原子又はメチル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基等が好ましく、水溶性及び臭気の観点からメチル基が好ましい。つまり、揮発性、有害性及び分解性の観点から、モノカルボン酸としてはギ酸、酢酸等が好ましく、ヒドロキシカルボン酸としてはグリコール酸、乳酸等が好ましい。また、水溶性及び臭気の観点から酢酸が特に好ましい。これらの有機酸は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0019】
上記チタニアナノ粒子の平均粒子径は、1~5nmが好ましく、2~4nmがより好ましい。チタニアナノ粒子の平均粒子径をこの範囲とすることにより、光触媒性が高く、且つ透明性の高い膜が形成できる。また、通常平均粒子径が小さい場合、加熱時の収縮が大きいため、クラックや基板からの剥離が起こりやすいが、本発明のチタニアナノ粒子は平均粒子径が小さいにも関わらず塗布性に優れる材料である。本発明のチタニアナノ粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。
【0020】
上記チタニアナノ粒子の比表面積は、150~500m2/gが好ましく、200~400m2/gがより好ましい。チタニアナノ粒子の比表面積をこの範囲とすることにより、光触媒性が高くできる。上記チタニアナノ粒子の比表面積はBET法により測定する。
【0021】
また、上記チタニアナノ粒子は、N、Cl及びS元素の濃度をいずれも0~5000ppm、特に0~1000ppmとすることができる。チタニアナノ粒子のN、Cl及びS元素の濃度をこの範囲とすることにより、基材の腐食などを抑えることができる。なお、この条件は、TiCl4、TiOSO4等の酸性チタニア前駆体由来の不純物が存在しないか、又はごく少量であることを意味している。上記チタニアナノ粒子のN、Cl及びS元素の濃度はWDX(蛍光X線)により測定する。
【0022】
さらに、上記チタニアナノ粒子の結晶形は、アナターゼ型が好ましい。アナターゼ型を採用することにより、光触媒性を特に向上させることができる。また、同様の理由から、アナターゼ型以外の結晶形は存在せず、アナターゼ型100%であることが好ましい。
【0023】
このようなチタニアナノ粒子は、平均粒子径及び比表面積を調整することができ、また、分散性に優れるため透明性及び塗布性に優れるものである。また、上記チタニアナノ粒子は、光触媒性にも優れている。このため、上記チタニアナノ粒子は、光触媒として有用である。
【0024】
2.光触媒の製造方法
本発明の光触媒は、
(A)チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る工程、及び
(B)前記工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する工程
を備え、且つ、
前記工程(A)において、前記チタンを含む物質と前記有機酸との混合比率は、前記チタンを含む物質中のチタン1モルに対して前記有機酸中のアシル基が1.5モル以上である方法により得られる。
【0025】
(2-1)工程(A)
工程(A)では、特定量のチタンを含む物質、特定量の有機酸及び水を混合して分散液を得る。
【0026】
使用するチタンを含む物質としては、加熱により酸化チタンとなる物質であれば特に制限はない。つまり、チタンを含む物質としては、酸化チタン及び/又は酸化チタン前駆体が好ましく、具体的には、酸化チタン;水酸化チタン;チタンアルコキシド;三塩化チタン、四塩化チタン等のハロゲン化チタン(特に塩基で中和したもの);金属チタン等が挙げられる。これらのチタンを含む物質は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。これらのなかでも、得られるチタニアの分散性、塗布性及び光触媒性の観点から、チタンアルコキシド、水酸化チタン又はハロゲン化チタン(特に塩基で中和したもの)が好ましく、特に純度、分散性、塗布性及び光触媒性の観点からチタンアルコキシドがより好ましい。
【0027】
チタンアルコキシドとしては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-ブトキシド、チタンテトラn-プロポキシド、チタンテトラエトキシド等が挙げられ、コスト、副生成物の水溶性、塗布性及び光触媒性の観点から、チタンテトライソプロポキシドが好ましい。
【0028】
なお、チタンアルコキシドと有機酸との組合せによっては、得られるチタニアを触媒として水に溶けにくいエステル化合物が遊離することがあるが、チタニア自身には問題はない(例えば、チタンテトラn-ブトキシドと酢酸の組合せにおいて、混合し加熱した段階で酢酸ブチルが生じ遊離する)が、均一な分散液を得る観点からは、水溶性に優れる有機酸アルコキシドが得られる有機酸とチタンアルコキシドとの組合せを採用することが好ましい。
【0029】
ハロゲン化チタン(四塩化チタン、三塩化チタン等)については、不純物(ハロゲン)、量産時の反応器の腐食、結晶性制御、塗布性及び光触媒性の観点から、塩基で中和し、沈殿物の洗浄を行ってから用いることが好ましい。その場合、得られるチタニアの分散性の観点から、乾燥を行わずに用いることが好ましい。
【0030】
なお、酸化チタン、金属チタン等の固体を用いる場合は、平均粒子径は100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。下限値は特に設定されないが、通常1nm程度である。なお、粒径が大きい場合は遊星ボールミル、ペイントシェーカー等を用いて乾式又は湿式で粉砕して用いることもできる。酸化チタン、金属チタン等の固体の平均粒子径は、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定する。
【0031】
分散液中のチタンを含む物質の濃度は、生産性、反応液の粘度、塗布性及び光触媒性の観点から、0.01~5mol/Lが好ましく、0.05~3mol/Lがより好ましい。
【0032】
反応に使用する酸は、有機酸であり、揮発性のある酸が好ましいことから化学式CnH2n+1COOH(n= 0~3)で示されるモノカルボン酸、炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0033】
揮発性、有害性及び分解性の観点から、モノカルボン酸としてはn= 0のギ酸及びn= 1の酢酸が好ましく、ヒドロキシカルボン酸としてはグリコール酸、乳酸等が好ましく、水溶性及び臭気の観点から酢酸が特に好ましい。これらの有機酸は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0034】
有機酸の使用量は、分散性、塗布性、光触媒性及びコストの観点から、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して、COOH基を1.5モル以上、好ましくは2モル含むように調整することが好ましい。有機酸を多く用いるほど経時安定性、塗布性等が向上する。なお、上限値は特に制限されないが、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して通常10モルである。
【0035】
分散液中の有機酸の濃度は、分散性、塗布性、光触媒性及びコストの観点から、0.02~10mol/Lが好ましく、0.1~7mol/Lがより好ましい。
【0036】
反応溶媒としては、水等の水性溶媒を主成分(具体的には、例えば50質量%以上)として用いることが好ましいが、反応時にアルコール又はエステルを含んでいてもよい。
【0037】
例えばチタンテトライソプロポキシドを原料として用いた場合、有機酸との反応によりイソプロパノールが生じる。また、加熱により有機酸のイソプロピルエステルが生じることもある。つまり、工程(A)により得られる分散液中には、アルコール又はエステルを投入してもよいし、系中で発生していてもよい。このアルコール又はエステルについては、100℃以下の開放系における加熱により除去してもよいし、減圧により除去してもよいし,反応液中に残留していてもよい。
【0038】
なお、分散液中にアルコールが含まれる場合には、得られるチタニアナノ粒子の平均粒子径が小さくなる傾向にあり、平均粒子径を制御するために、意図的にアルコールを添加してもよい。
【0039】
本発明においては、通常チタニアナノ粒子の水熱合成反応に用いることが多い硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸(特に無機強酸)は、得られるチタニアナノ粒子の結晶形がアナターゼ型の他にブルッカイト型も混在するだけでなく、得られる分散液の貯蔵安定性にも劣り、装置の腐食、不純物、排水等の観点からも原則用いない。ただし、原料の分散性、均一性等を高め取扱いを容易にする場合には、効果を損なわない範囲で、例えば、0.01mol/L以下の範囲で補助的に使用することもできる。この場合、分散液中のN、Cl及びS元素の濃度がいずれも0.01mol/L以下となる。
【0040】
このような工程(A)で得られる分散液のpHは、装置の腐食や取扱いの安全性、及び分散性の観点から、2以上6未満が好ましく、2.1~5がより好ましい。
【0041】
工程(A)において、分散液の作製方法は特に制限はなく、チタンを含む物質、有機酸及び水(溶媒)を同時に混合してもよいし、逐次混合してもよい。特に、凝集して大きな塊を形成しにくく攪拌を継続できる観点から、有機酸及び水(溶媒)を混合した後に、攪拌しながらチタンを含む物質を投入することが好ましい。
【0042】
(2-2)工程(B)
工程(B)においては、工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する。
【0043】
工程(B)は、常圧下に行ってもよいし、密閉容器内で加圧下に行ってもよい。チタニアナノ粒子の平均粒子径を小さくする観点から、常圧下に行うことが好ましく、具体的には0.09~0.11MPaが好ましい。なお、加圧下に行う場合は、光触媒性が高く、且つ透明性の高い膜が形成できる観点からは、0.2MPa以下(0.11~0.2MPa)において短時間(例えば5~30分程度)の反応を行うことが好ましい。
【0044】
加熱の際には、チタンを含む物質と有機酸と水を十分に反応する観点から、撹拌することが好ましい。攪拌の方法は特に制限はなく、常法に従うことができる。また、攪拌時間は、チタンを含む物質と有機酸と水を十分に反応する観点から、1時間以上が好ましく、1.5時間以上がより好ましい。攪拌時間の上限値は特に制限されないが、通常240時間である。
【0045】
加熱温度は、80℃より高い温度、好ましくは82℃以上である。加熱温度が80℃以下では、クラックが発生しやすく、塗布性に劣りすぐに脱落することから塗膜を形成することが困難となる。なお、加熱温度の上限値は特に制限はないが、常圧で反応する場合は通常120℃である。
【0046】
このような工程(B)で得られる分散液のpHは、装置の腐食や取扱いの安全性、及び分散性の観点から、2以上6未満が好ましく、2.1~5がより好ましい。
【0047】
この後、常法により、チタニアナノ粒子を沈殿及び遠心分離すること等により、本発明の光触媒を回収することができる。つまり、大量のアシル基が表面に結合したチタニアナノ粒子を含有する光触媒を得ることができる。
【0048】
3.光触媒分散液
本発明の光触媒分散液は、上記工程(A)~(B)を経た反応液を用い、超音波分散等の分散工程を加えることにより、さらに均一な分散液を作製できる。この時、従来のチタニア分散液においては分散剤を使用しなければ均一な分散液を得ることができなかったことから、本発明においても、分散剤を加えてもよいが、分散剤を加えなくても通常のチタニアナノ粒子より遥かに分散性のよい分散液が得られる。分散性がよい結果、コーティングの耐クラック性にも優れる。また、分散剤を加えなくてもよい結果、緻密なチタニアのコーティングが可能になる。
【0049】
この際、本発明の光触媒分散液においては、本発明の光触媒分散液の総量を100質量%として、溶媒である水の含有量をコーティングの容易さ、及びコーティングの膜性の観点から、50質量%以上、特に60質量%以上とすることが好ましい。
【0050】
また、本発明の光触媒を反応液から取り出し、溶媒を変更することも可能である。反応液から遠心分離やろ過膜等により水分を除去し、有機溶媒に置換してもよい。その際は本発明の光触媒を乾燥させないことが、分散性、透明性等の観点から好ましい。
【0051】
分散液に使用する有機溶媒としては、アルコール等が挙げられる。このアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の炭素数1~6の脂肪族アルコールの他、α-テルピネオール等の非脂肪族アルコール;ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ヘキシレングリコール(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)、エチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール系溶媒;1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール等が挙げられる。
【0052】
また、OH基を有さなくても、チタニア及び他の溶媒(水、アルコール等)との親和性があればよく、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、テトラエチレングリコールジアセテート等が挙げられる。なかでも、沸点等の観点から、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が好ましい。
【0053】
本発明の光触媒分散液は、用途に応じて粘度を調整し、例えば、スピンコート、ディップコート、スプレー等に用いる場合は低粘度、刷毛塗り、スキージ法等に用いる場合はそれより粘度を高く調整し、スクリーン印刷に用いる場合は、さらに粘度を高く調製し、流動性を抑制することが好ましい。このようにして得られる本発明の塗膜は、上記のとおり緻密なコーティングである。
【実施例】
【0054】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に酢酸120g(2mol)を加え60分撹拌し、水を538g加えた。この分散液は、チタンテトライソプロポキシドの濃度は0.625mol/L、酢酸の濃度は2.5mol/L、pHは2.2であった。半透明の沈殿が大量に発生したが、60分間撹拌した後に加熱を行ったところ70℃で沈殿がすべて溶解した。なお、この分散液において、無機酸の濃度、N、Cl及びS元素の濃度はいずれも0mol/Lである。
【0056】
その後、常圧(0.1MPa)で85℃で3時間撹拌したところ、有機分散剤を使うことなく半透明の均一なチタニア分散液が得られた。この分散液に超音波分散を加えたところ、粘度が低減され、透明性が増した。この分散液は水の含有量が67質量%でありpHは2.3であった。この分散液をスピンコートによりガラスに塗布し、乾燥したところ、透明な塗膜が得られた。
【0057】
この分散液を乾燥し、チタニアナノ粒子を得た。このチタニアナノ粒子について、BET比表面積を測定したところ250m2/gであった。また、TEM観察を行ったところ、平均粒子径は約3nmであった。また得られたチタニアナノ粒子について、X線回折で結晶性を解析したところ、アナターゼ型100%であった(他の結晶形は存在しなかった)。
【0058】
この分散液を、水分計を用いて200℃で保持し重量減少がなくなるまで乾燥したチタニアナノ粒子のTG-DTAを、空気雰囲気下3℃/minの昇温条件で600℃まで昇温させて測定したところ、200℃以上での重量減少は10%であった。この200℃以上での重量減少は、有機酸である酢酸が脱離することによる重量減少に相当する。遊離した酢酸は200℃以下でほとんど揮発することから、200℃以上における重量減少が10%あることが、本発明のチタニアナノ粒子表面にアシル基である大量のアセチル基が-OCOCH3の形でチタン原子と結合していることを示唆している。
【0059】
次に、この分散液を厚さ1mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を120℃で乾燥し、587.6nm(d線:メチレンブルーの吸収ピークに近い波長)の透過率を紫外・可視分光測定装置(島津製作所 UV3400)により測定したところ90.9であった。メチレンブルー1mmol/Lの溶液を基板に滴下し、10分後余分な液を除去した。浸漬後の587.6nmの透過率を紫外・可視分光測定装置により測定したところ74.9%であった。その後、ブラックライトによるピーク波長352nm紫外光の照射を行ったところ、5時間で色が消失し、透過率が色素浸漬前の91.2%に回復した。
【0060】
[比較例1]
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に酢酸を30g(0.5mol)加え15分撹拌し、水を625g加えた。この分散液は、チタンテトライソプロポキシドの濃度は0.625mol/L、酢酸の濃度は0.625mol/L、pHは2.9であった。半透明の沈殿が大量に発生したが、65%硝酸を4ml加え、60分間撹拌しながら加熱を行ったところ50℃で沈殿がすべて溶解した。なお、この分散液において、無機酸の濃度は0.05mol/L、Nの濃度は0.05mol/L、Cl及びS元素の濃度はいずれも0mol/Lである。
【0061】
その後、常圧(0.1MPa)で80℃で5時間撹拌した液に水を加え、合計800gに調製した後、超音波をかけたところ、半透明の均一なチタニア分散液が得られた。この分散液は水の含有量が62.5質量%以上でありpHは0.7であった。
【0062】
この分散液を乾燥し、チタニアナノ粒子を得た。このチタニアナノ粒子について、BET比表面積を測定したところ280m2/gであった。また、TEM観察を行ったところ、平均粒子径は約3nmであった。また得られたチタニアナノ粒子について、X線回折で結晶性を解析したところ、ほとんどアナターゼ型であったが、ブルッカイト型も少量混在していた。この分散液をガラス基板に塗布し、乾燥したところ、実施例1と同等の比表面積と粒径であるにも関わらず、塗膜にクラックが生じ、ガラスから脱落した。
【0063】
[比較例2]
pH0.7の硝酸水溶液650gを撹拌しながら、チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)を加えた。この分散液は、チタンテトライソプロポキシドの濃度は0.625mol/L、pHは1.0であった。なお、この分散液において、無機酸の濃度は0.25mol/L、Cl及びS元素の濃度はいずれも0mol/Lである。
【0064】
この分散液を1時間撹拌したのち、常圧(0.1MPa)で80℃に昇温して8時間保持し、半透明のチタニア分散液を合成した。最終重量は800gに調整した。この分散液は水の含有量が80質量%でありpHは1.0であった。
【0065】
この分散液を乾燥し、チタニアナノ粒子を得た。このチタニアナノ粒子について、BET比表面積を測定したところ220m2/gであった。また、TEM観察を行ったところ、平均粒子径は約3nmであった。また得られたチタニアナノ粒子について、X線回折で結晶性を解析したところ、ほとんどアナターゼ型であったが、ブルッカイト型も少量混在していた。この分散液をガラス基板に塗布し、乾燥したところ、塗膜にクラックが生じ、ガラスから剥離及び脱落した。
【0066】
また、原料のチタニア分散液を7日後に観察したところ、沈殿が発生し、ゲル化が進行して高粘度化しており貯蔵安定性にも難があった。
【0067】
[比較例3]
チタニアナノ粒子ST-01(石原産業(株)製、比表面積300m2/g、比表面積から計算した平均粒子径5nm)10gに酢酸30gと水160gを加え、超音波分散を行ったが、均一な溶液が得られなかった。
【0068】
この分散液をガラス基板上に塗布したが、チタニア膜が完全に不透明であった。
【0069】
[比較例4]
チタニアナノ粒子ST-01(石原産業(株)製、比表面積300m2/g、比表面積から計算した平均粒子径5nm)10gに酢酸30gと水160gを加え,80℃で3時間撹拌した後、超音波分散を行ったが、均一な溶液が得られなかった。
【0070】
この分散液をガラス基板上に塗布したが、チタニア膜が完全に不透明であった。
【0071】
[比較例5]
チタニアナノ粒子=25(日本アエロジル(株)製、比表面積50m2/g、比表面積から計算した平均粒子径5nm)10gに酢酸30gと水160gを加え、超音波分散を行ったところ、均一な溶液が得られなかった。
【0072】
次に、この分散液を厚さ1mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を120℃で乾燥し、587.6nm(d線:メチレンブルーの吸収ピークに近い波長)の透過率を紫外・可視分光測定装置(島津製作所 UV3400)により測定したところ91.3%であった。この分散液を厚さ1mmのガラスにスピンコートしたところ、白濁しているが目視では均一で半透明の塗膜が得られた。次に、この塗膜を120℃で乾燥し、メチレンブルー1mmol/Lの溶液を基板に滴下し、10分後余分な液を除去した。浸漬後の可視光の透過率を紫外・可視分光測定装置により測定したところ82.7%であり、実施例1と比較して色素の吸着量が少なかった。その後、ブラックライトによるピーク波長352nmの紫外光の照射を行ったところ、5時間後の587.6nmの透過率は87.0%、20時間後の587.6nmの透過率は91.1%と、色が消失するのに20時間を要したことから光触媒性に劣ることが理解できる。