(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】蓄電池の冷却制御装置及び電動車両
(51)【国際特許分類】
B60L 58/26 20190101AFI20230110BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20230110BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20230110BHJP
【FI】
B60L58/26
B60L3/00 S
B60L50/60
(21)【出願番号】P 2018168484
(22)【出願日】2018-09-10
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】濱田 和
(72)【発明者】
【氏名】井上 諭
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和宏
(72)【発明者】
【氏名】平林 孝介
(72)【発明者】
【氏名】石井 優作
(72)【発明者】
【氏名】川上 晃弘
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-089569(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0017419(US,A1)
【文献】特開2006-126107(JP,A)
【文献】特開2014-104891(JP,A)
【文献】特開2018-106831(JP,A)
【文献】特開2015-085873(JP,A)
【文献】特開2015-095361(JP,A)
【文献】国際公開第2011/010392(WO,A1)
【文献】特開2006-190695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の電力を蓄積する蓄電池と、第1通路と第2通路とを含む冷媒通路に冷媒を流して前記蓄電池を冷却可能な冷却装置と、を有する電動車両に搭載される蓄電池の冷却制御装置であって、
前記電動車両の温度分布を推測する推測部と、
前記冷却装置の駆動条件を設定する条件設定部と、を備え、
前記条件設定部は、前記推測部が推測した温度分布に基づいて、前記第1通路を用いて前記蓄電池を冷却する条件と、前記第2通路を用いて前記蓄電池を冷却する条件とを、個別に設定可能であ
り、
前記推測部は、走行予定の経路情報と気象予測情報とに基づいて前記電動車両の温度分布を推測することを特徴とする蓄電池の冷却制御装置。
【請求項2】
前記推測部は、
前記経路情報に基づいて日射方向を予測し、予測された前記日射方向と
前記気象予測情報とに基づいて、予定された走行中の
前記電動車両の温度分布を推測することを特徴とする請求項1記載の蓄電池の冷却制御装置。
【請求項3】
前記推測部が推測した温度分布に基づいて、予定された走行中における前記蓄電池の第1部分と第2部分との温度変化を予測し、前記第1部分と前記第2部分とが所定温度に達するか否かを個別に判定する判定部を更に備え、
前記条件設定部は、前記判定部の判定結果に基づいて、前記蓄電池を冷却する条件を設定することを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の蓄電池の冷却制御装置。
【請求項4】
前記条件設定部は、前記第1通路を用いた冷却を開始する第1閾値温度と、前記第2通路を用いた冷却を開始する第2閾値温度とを、個別に設定可能であり、かつ、前記判定部が所定温度に達すると判定した前記第1部分、前記第2部分又はこれら両方に対応して、前記第1閾値温度、前記第2閾値温度又はこれら両方を低下させることを特徴とする請求項3記載の蓄電池の冷却制御装置。
【請求項5】
前記条件設定部は、前記判定部が予測した所定温度に達するタイミングよりも前に、前記第1閾値温度、前記第2閾値温度又はこれら両方を低下させることを特徴とする請求項4記載の蓄電池の冷却制御装置。
【請求項6】
走行用の電力を蓄積する蓄電池と、
第1通路と第2通路とを含む冷媒通路に冷媒を流して前記蓄電池を冷却可能な冷却装置と、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の蓄電池の冷却制御装置と、
を備え、
前記冷媒は空気であり、
前記第1通路は車室内の中央よりも右方に吸気口を有する空気通路であり、
前記第2通路は車室内の中央よりも左方に吸気口を有する空気通路であることを特徴とする電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の冷却制御装置及び電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
HEV(Hybrid Electric Vehicle)、EV(Electric Vehicle)等の電動車両には、走行用の電力を蓄積する蓄電池が搭載される。蓄電池は温度管理され、温度が制限値を超えないよう、冷却装置が蓄電池を冷却する。また、蓄電池の温度が制限値を超えると、電池管理部が蓄電池の出力を制限することがある。
【0003】
特許文献1には、車両の室温の異常を事前に予測し、異常発生の可能性を通知する車室温監視装置が示されている。この車室温監視装置は、太陽の方向と車両の向きとに基づいて、車両内にどの程度日光が入るか予測し、この予測結果を用いて室内の気温変化を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば夏期に、長時間、車両が一定の方角に移動する場合、車室の左右一方から太陽光が射し続け、たとえ冷房をしていても車室内の片側の温度が上昇する場合がある。このように車両に温度の偏りが生じた場合、従来の電動車両では、この温度の偏りが蓄電池の冷却能力の偏りとなって影響し、蓄電池の片側の温度が上昇してしまう場合がある。蓄電池の片側の温度が上昇した場合でも、蓄電池の出力が制限されて電動車両の動力が低下したり、あるいは、非常冷却に移行して大きな騒音が発生したりするといった課題が生じる。
【0006】
本発明は、車両の温度の偏りに対応して適切に蓄電池を冷却できる蓄電池の冷却制御装置及び電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、
走行用の電力を蓄積する蓄電池と、第1通路と第2通路とを含む冷媒通路に冷媒を流して前記蓄電池を冷却可能な冷却装置と、を有する電動車両に搭載される蓄電池の冷却制御装置であって、
前記電動車両の温度分布を推測する推測部と、
前記冷却装置の駆動条件を設定する条件設定部と、を備え、
前記条件設定部は、前記推測部が推測した温度分布に基づいて、前記第1通路を用いて前記蓄電池を冷却する条件と、前記第2通路を用いて前記蓄電池を冷却する条件とを、個別に設定可能であり、
前記推測部は、走行予定の経路情報と気象予測情報とに基づいて前記電動車両の温度分布を推測することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の蓄電池の冷却制御装置において、
前記推測部は、
前記経路情報に基づいて日射方向を予測し、予測された前記日射方向と前記気象予測情報とに基づいて、予定された走行中の前記電動車両の温度分布を推測することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の蓄電池の冷却制御装置において、
前記推測部が推測した温度分布に基づいて、予定された走行中における前記蓄電池の第1部分と第2部分との温度変化を予測し、前記第1部分と前記第2部分とが所定温度に達するか否かを個別に判定する判定部を更に備え、
前記条件設定部は、前記判定部の判定結果に基づいて、前記蓄電池を冷却する条件を設定することを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の蓄電池の冷却制御装置において、
前記条件設定部は、前記第1通路を用いた冷却を開始する第1閾値温度と、前記第2通路を用いた冷却を開始する第2閾値温度とを、個別に設定可能であり、かつ、前記判定部が所定温度に達すると判定した前記第1部分、前記第2部分又はこれら両方に対応して、前記第1閾値温度、前記第2閾値温度又はこれら両方を低下させることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の蓄電池の冷却制御装置において、
前記条件設定部は、前記判定部が予測した所定温度に達するタイミングよりも前に、前記第1閾値温度、前記第2閾値温度又はこれら両方を低下させることを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、
走行用の電力を蓄積する蓄電池と、
第1通路と第2通路とを含む冷媒通路に冷媒を流して前記蓄電池を冷却可能な冷却装置と、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の蓄電池の冷却制御装置と、
を備え、
前記冷媒は空気であり、
前記第1通路は車室内の中央よりも右方に吸気口を有する空気通路であり、
前記第2通路は車室内の中央よりも左方に吸気口を有する空気通路であることを特徴とする電動車両である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従えば、車両の温度の偏りに対応して適切に蓄電池を冷却できる蓄電池の冷却制御装置及び電動車両を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る電動車両の要部を示すブロック図である。
【
図2】高電圧バッテリ及び冷却装置の配置を示す図である。
【
図3】冷却制御装置が実行する冷却条件設定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、予定された走行中の高電圧バッテリの予測温度(A)と冷却制御された高電圧バッテリの温度(B)とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電動車両の要部を示すブロック図である。
図2は、高電圧バッテリ及び冷却装置の配置を示す図である。
【0016】
本発明の実施形態に係る電動車両1は、例えばHEVであり、エンジン11、補機12、走行モータ21、インバータ22、蓄電池としての高電圧バッテリ23、冷却装置31、車両制御部41、バッテリ管理部42及び冷却制御装置50を備える。さらに、電動車両1は、交通情報及び気象情報通信部61、ルート情報登録部62及び各種センサ63を備える。
【0017】
エンジン11及び走行モータ21は、走行用の動力を発生し、図示しない電動車両1の駆動輪を駆動する。エンジン11は、車両制御部41が補機12を制御することで駆動する。走行モータ21は、インバータ22から電力を受けて駆動する。インバータ22は、車両制御部41の制御に基づいて高電圧バッテリ23の電力を変換して走行モータ21へ出力する。車両制御部41は、図示しない操作部(操舵ハンドル、アクセルペダル、ブレーキペダル及びシフトレバー等)の操作に基づいてインバータ22、補機12又は図示しないトランスミッションを制御し、これにより運転者の操作に応じた走行が実現される。
【0018】
高電圧バッテリ23は、例えばリチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池などであり、走行用の電力を蓄積する。高電圧バッテリ23は、
図2に示すように、例えば車室の床下に配置される。
【0019】
バッテリ管理部42は、高電圧バッテリ23の状態を監視し、高電圧バッテリ23の充放電を管理する。監視される状態には、高電圧バッテリ23の温度、SOC(State Of Charge)、開放端電圧及び放電電圧などが含まれる。バッテリ管理部42は、SOC及びバッテリ温度によって決定される充電可能電力と放電可能電力とを超えて充電又は放電がなされないよう、例えば車両制御部41と通信を行って、充放電の管理を行う。
【0020】
冷却装置31は、
図2にも示すように、高電圧バッテリ23へ車室内の空気を流す第1ダクト34及び第2ダクト35と、第1ダクト34に空気を流す第1ファン32と、第2ダクト35に空気を流す第2ファン33とを備える。第1ダクト34を通って流れる空気は、高電圧バッテリ23の左半分に沿って流れ、この部分を冷却する。第2ダクト35を通って流れる空気は、高電圧バッテリ23の右半分に沿って流れ、この部分を冷却する。第1ダクト34は車室の中央よりも左方に吸気口を有する。第2ダクト35は車室の中央よりも右方に吸気口を有する。第1ダクト34及び第2ダクト35はそれぞれに流れる空気を合流させずに高電圧バッテリ23まで送る。
【0021】
第1ダクト34及び第2ダクト35は、本発明に係る冷媒通路及び空気通路の一例に相当する。第1ダクト34は、本発明に係る「第1通路」の一例に相当する。第2ダクト35は、本発明に係る「第2通路」の一例に相当する。高電圧バッテリ23の左半分は、本発明に係る「蓄電池の第1部分」の一例に相当する。高電圧バッテリ23の右半分は、本発明に係る「蓄電池の第2部分」の一例に相当する。
【0022】
なお、冷却装置31の第1ファン32及び第2ファン33は、複数段階の強度で駆動されてもよい。例えば、第1ファン32及び第2ファン33は、高電圧バッテリ23が適正温度の期間には、第1強度(弱)で駆動されて通常送風が行われ、高電圧バッテリ23の温度が1段目の閾値温度に達した場合に、第2強度(中)で駆動されて本冷却が行われてもよい。さらに、第1ファン32及び第2ファン33は、高電圧バッテリ23の温度が制限温度又は制限温度の近い2段目の閾値温度に達した場合に、第3強度(強)で駆動されて非常冷却が行われてもよい。以下では、特に制限されないが、上記のように三段階で冷却装置31が駆動される場合について説明する。
【0023】
冷却制御装置50は、冷却装置31の第1ファン32及び第2ファン33を駆動して高電圧バッテリ23の冷却制御を行う。具体的には、冷却制御装置50は、高電圧バッテリ23の左部の温度と閾値温度とを比較し、その結果に基づいて第1ファン32を駆動する。また、冷却制御装置50は、高電圧バッテリ23の右部の温度と閾値温度とを比較し、その結果に基づいて第2ファン33を駆動する。温度と閾値温度との比較は、ヒステリシス特性が付加された比較であってもよい。
【0024】
さらに、冷却制御装置50は、第1ダクト34を用いて高電圧バッテリ23を冷却する駆動条件と、第2ダクト35を用いて高電圧バッテリ23を冷却する駆動条件とを、個別に設定できる。条件の設定は、例えば第1ファン32を駆動する閾値温度の昇降と、第2ファン33を駆動する閾値温度の昇降とによって行われる。
【0025】
なお、冷却装置31が複数段階で駆動される場合には、冷却制御装置50は、その中の1つの段階の冷却(例えば本冷却)を実行する条件のみを、第1ファン32と第2ファン33とで個別に設定可能としてもよい。
【0026】
冷却制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行する制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)とを備えた、ECU(Electronic Control Unit)である。冷却制御装置50においては、CPUが制御ブログラムを実行することで各種の制御モジュールが実現される。制御モジュールには、温度分布推測部51、判定部52、条件設定部53及び制御部54が含まれる。温度分布推測部51、判定部52及び条件設定部53の各機能は、
図3の冷却条件設定処理と併せて説明する。温度分布推測部51は、本発明に係る「推測部」の一例に相当する。
【0027】
冷却制御装置50は、交通情報及び気象情報通信部61、ルート情報登録部62及び各種センサ63と通信を行う。交通情報及び気象情報通信部61は、電動車両1の外部のシステムから、無線通信により交通情報(渋滞発生情報等)、交通予測情報(渋滞の発生予測等)、気象情報及び気象予測情報を得る。ルート情報登録部62には、運転者等から電動車両1が走行する予定の経路及び時刻等が登録される。ルート情報登録部62は、例えばナビゲーション装置であってもよいし、自動運転システムが搭載された電動車両であれば乗員又は上位のシステムから行き先情報が入力される行き先入力装置であってもよい。各種センサ63には、外気温センサ及び車室内気温センサが含まれる。
【0028】
冷却制御装置50の制御部54は、バッテリ管理部42から高電圧バッテリ23の温度情報を受ける。温度情報には、高電圧バッテリ23の左部の温度と右部の温度とが示される。なお、温度情報は、高電圧バッテリ23の近傍に配置された温度センサから冷却制御装置50が直接に信号を受けることで取得してもよい。制御部54は、入力された温度情報に基づいて、前述したように第1ファン32と第2ファン33を駆動する。
【0029】
<冷却条件設定処理>
図3は、冷却制御装置が実行する冷却条件設定処理の手順を示すフローチャートである。
図4は、予定された走行中の高電圧バッテリの予測温度(A)と冷却制御された高電圧バッテリの温度(B)とを示すグラフである。
【0030】
冷却条件設定処理は、例えばルート情報登録部62に走行予定の経路及び日時が登録されたことに基づいて開始される。あるいは、冷却条件設定処理は、例えばルート情報登録部62に走行予定の経路が登録され、予定された走行が開始されたタイミングで開始されてもよい。
【0031】
冷却条件設定処理が開始されると、先ず、冷却制御装置50は、ルート情報登録部62から走行予定情報を取得し、さらに、交通情報及び気象情報通信部61を介して気象予測情報と交通予測情報とを取得する(ステップS1)。走行予定情報には、予定された走行の経路情報と時刻情報とが含まれる。
【0032】
次に、温度分布推測部51は、走行予定情報に示された経路の方角と日時とから電動車両1に太陽光が差し込む方向(日射方向)を予測する(ステップS2)。予測は、走行中の各時点の日射方向について行われる。
【0033】
さらに、温度分布推測部51は、予測された日射方向と気象予測情報とに基づいて、予定された走行中の車室内の温度分布を推測する(ステップS3)。例えば、温度分布推測部51は、複数種類の日射方向と、複数種類の気象情報と、これらに応じた単位時間あたりの車室内の左右の温度偏差量とを対応づけたデータテーブルを予め持つ。そして、温度分布推測部51は、データテーブルを参照して車室内の左右の温度偏差量を求めるように構成される。走行中に日射方向が変わる場合には、温度分布推測部51は、データテーブルから得られた単位時間あたり温度偏差量を時間ごとに積算して、走行中の各時点の温度分布を計算すればよい。さらに、温度分布推測部51は、温度偏差量を積算する際、温度偏差が飽和する作用に対応する補正処理を行ってもよい。また、温度分布推測部51は、車室内が冷房されることを考慮して、いつもの走行の冷房温度を学習しておき、学習した冷房温度に基づき温度分布の絶対値を予測してもよい。また、走行予定の時刻が、現在に近い場合には、温度分布推測部51は、各種センサ63から取得される現在の外気温度、現在の車室内温度、又はこれら両方を用いて、予測される温度分布を補正してもよい。
【0034】
温度分布が推測されたら、判定部52は、走行予定情報と交通予測情報とに基づいて、予定された走行中の各時点における走行モータ21の負荷を予測する(ステップS4)。登りの経路があれば走行モータ21の負荷は大きくなり、渋滞で停止と発進が多くなれば走行モータ21の負荷は大きくなる。また、スムースな交通の流れが続けば、エンジンの駆動が所定の割合で加わって走行モータ21の負荷は小さくなる。ステップS4において、判定部52は、電動車両1の各時点の走行の状態から、各時点の走行モータ21の負荷を予測する。
【0035】
続いて、判定部52は、ステップS3で推測された温度分布と、ステップS4で予測された走行モータ21の負荷とに基づいて、予定された走行中の高電圧バッテリ23の左部及び右部の温度変化を予測する(ステップS5)。ここで、判定部52は、冷却装置31が標準的に駆動された場合を前提として、上記温度変化を予測する。
【0036】
具体的には、ステップS5において、先ず、判定部52は、予測された走行モータ21の負荷に応じて高電圧バッテリ23の各時点の放出電力を求め、放出電力から各時点の高電圧バッテリ23の発熱量を求める。次に、判定部52は、冷却装置31が標準的に駆動されるものとして走行中の各時点の高電圧バッテリ23の放熱量を求める。
【0037】
放熱量は、高電圧バッテリ23の周囲の環境温度と、高電圧バッテリ23の周囲を流れる冷媒(空気)の流量に基づき計算される。例えば、高電圧バッテリ23が適正温度の期間には、冷却装置31の第1ファン32及び第2ファン33は弱で駆動される。したがって、高電圧バッテリ23の左部の環境温度は、第1ダクト34の吸気口のある車室内の左側の空気の温度となり、高電圧バッテリ23の左部の周囲を流れる空気は弱流量となる。同様に、高電圧バッテリ23の右部の環境温度は、第2ダクト35の吸気口のある車室内の右側の空気の温度となり、高電圧バッテリ23の右部の周囲を流れる空気は弱流量となる。このため、高電圧バッテリ23の左部と右部の放熱量は、各環境温度と高電圧バッテリ23の左部と右部の温度との差分と、高電圧バッテリ23の左部と右部の空気の流量とから、所定の計算式を用いて求めることができる。
【0038】
判定部52は、ステップS5において、これらの計算を行って、予定された走行中の各時点における高電圧バッテリ23の左部と右部の放熱量を計算する。加えて、判定部52は、高電圧バッテリ23の各時点の予測温度に、上記のように計算された各時点の発熱量と放熱量との差分に応じた温度変化を積算し、これにより、予定された走行の各時点の高電圧バッテリ23の左部と右部の温度を予測する。
【0039】
例えば、晴天の夏期、予定された走行中に電動車両1の左側から強い太陽光が継続的に射し込む場合、車室内の左側の内装品が熱せられ、車室内の左側が高い温度分布となる。これにより第1ダクト34から取り込まれる空気の温度が上昇し、通常時において、高電圧バッテリ23の左部の放熱量が低下する。
図4(A)のグラフは、このような走行予定で判定部52が予測した温度を示す。タイミングt0は走行開始時点を示し、タイミングt3は走行終了時点を示している。このような走行予定の予測温度では、
図4(A)に示すように、車室内の温度の偏差が影響して、高電圧バッテリ23の左部と右部との温度に偏りが生じる。
図4(A)のグラフは、走行途中のタイミングt1から高電圧バッテリ23の左部の温度が上昇し、走行予定の終端タイミングt3よりも前のタイミングt2で左部の温度が制限値Sthに達する予測を示している。
図4(A)のグラフは、高電圧バッテリ23の右部の温度には大きな変化が生じないという予測を示している。
【0040】
ステップS5で温度が予測されたら、先ず、判定部52は、予測された高電圧バッテリ23の左部の温度が制限値Sthを超えるか否かを判定する(ステップS6)。判定の結果、超えていなければ、そのまま処理がステップS8に進む。一方、超えた期間があれば、条件設定部53は、第1ダクト34を用いて本冷却を開始する第1閾値温度を、通常の温度(例えば35°)から低い温度(例えば25°)へ変更する(ステップS7)。変更の期間は、温度が制限値に達するよりも前の期間(例えば
図4の期間T1)とする。すなわち、ステップS7において、条件設定部53は、上記の期間に設定記憶部53aの値が低い温度に書き替えられるように書替えの予約を行う。なお、ステップS6で比較する温度の値は、制限値Sthに限られず、例えば制限値Sthから余裕分を差し引いた値が適用されてもよいし、制限値Sthとは無関係に、冷却を要する所定温度として予め定められた値としてもよい。
【0041】
ステップS7の変更が行われた場合、該当する期間(例えば
図4(B)の期間T1)に設定記憶部53aの第1閾値温度の値が低い値に変更される。制御部54は、設定記憶部53aの値と温度とを比較して、第1ファン32を駆動制御する。このような制御処理によって、高電圧バッテリ23の左部の温度が高くない段階で、第1ダクト34を用いた本冷却が開始され、高電圧バッテリ23の左部の温度が下げられる。
【0042】
続いて、判定部52は、予測された高電圧バッテリ23の右部の温度が制限値Sthを超えるか否かを判定する(ステップS8)。判定の結果、超えていなければ、このまま冷却条件設定処理が終了する。一方、超えた期間があれば、条件設定部53は、第2ダクト35を用いて本冷却を開始する第2閾値温度を、通常の温度(例えば35°)から低い温度(例えば25°)へ変更する(ステップS9)。変更の期間は、温度が制限値に達するよりも前の期間とする。すなわち、ステップS9において、条件設定部53は、上記の期間に設定記憶部53bの値が低い温度に書き替えられるように書替えの予約を行う。なお、ステップS8で比較する温度の値は、制限値Sthに限られず、例えば制限値Sthから余裕分を差し引いた値が適用されてもよいし、制限値Sthとは無関係に、冷却を要する温度として予め決められた値としてもよい。
【0043】
ステップS9の変更が行われた場合、該当する期間に設定記憶部53bの第2閾値温度の値が低い値に変更される。制御部54は、設定記憶部53bの値と温度とを比較して、第2ファン33を駆動制御する。このような制御処理によって、高電圧バッテリ23の右部の温度が高くない段階で、第2ダクト35を用いた本冷却が開始され、高電圧バッテリ23の右部の温度が下げられる。
【0044】
ステップS9の後、冷却条件設定処理が終了する。
【0045】
図4(B)のグラフは、冷却条件設定処理により設定変更がなされた場合の、高電圧バッテリ23の左部と右部の温度変化を示している。期間T1で第1閾値温度が低く設定変更されることで、車室内の左側が熱せられる前に、第1ダクト34を用いた本冷却が実行され、高電圧バッテリ23の左部の温度が通常時よりも低下する。高電圧バッテリ23の熱容量は大きい。このため、高電圧バッテリ23の左部の温度が事前に低下することで、走行中、車室内の左側が熱せられてタイミングt1から高電圧バッテリ23の左部の温度が上昇しても、その後、高電圧バッテリ23の温度が制限値Sthに達しない。そして、走行の終端タイミングt3まで至っている。
【0046】
以上のように、本実施形態の電動車両1及び冷却制御装置50によれば、冷却装置31の第1ダクト34と第2ダクト35とに車室内の空気を流して高電圧バッテリ23の冷却を行うことができる。さらに、温度分布推測部51は、電動車両1の車室内の温度分布を推測し、この温度分布に基づいて、条件設定部53が第1ダクト34を用いた冷却の条件と、第2ダクト35を用いた冷却の条件とを個別に設定できる。したがって、電動車両1の走行中に、左右の一方から日光が射し込んで電動車両1の温度に左右の偏りが生じ、この偏りが高電圧バッテリ23の冷却能力に影響する場合でも、この温度の偏りに対応して冷却装置31を駆動することができる。これにより、高電圧バッテリ23を適切に冷却し、高電圧バッテリ23の一方の部分のみ温度が上昇してしまうような事態を抑制できる。
【0047】
さらに、本実施形態の電動車両1及び冷却制御装置50によれば、温度分布推測部51は、走行予定情報の経路に基づいて日射方向を予測し、予測された日射方向と気象予測情報とから、予定された走行中の車室内の温度分布を推測する。したがって、条件設定部53は、実際に温度の偏りが生じてから、冷却の条件を変更することもできるし、実際に温度の偏りが生じる前に、冷却の条件を変更することもできる。これにより、電動車両1の様々な温度状況に対応して、より適切な高電圧バッテリ23の冷却が可能となる。
【0048】
さらに、本実施形態の電動車両1及び冷却制御装置50によれば、判定部52が、高電圧バッテリ23の左部の温度と右部の温度とが制限値に達するか左右で個別に判定する(
図3のステップS6、ステップS8)。そして、条件設定部53は、判定部52の判定結果に基づいて、冷却の条件を設定する。したがって、温度の偏りに対応した高電圧バッテリ23の適切な冷却を実現しつつ、第1ダクト34を用いた冷却と第2ダクト35を用いた冷却とで冷却の条件を個別に設定する制御処理を単純化できる。制御処理の単純化により、冷却処理の信頼性を向上できる。
【0049】
さらに、本実施形態の電動車両1及び冷却制御装置50によれば、条件設定部53は、温度が制限値に達すると判定された高電圧バッテリ23の左部、右部又はこれら両方の冷却を開始する第1閾値温度、第2閾値温度又はこれら両方を低く設定する。このような条件設定により、冷却装置31の制御手順を変更することなく、早期の冷却が必要なときに、制御部54に必要な冷却を開始させることができる。したがって、冷却条件の設定変更と冷却装置31を駆動する制御処理とをより単純化でき、これらの処理の信頼性を向上できる。
【0050】
さらに、本実施形態の電動車両1及び冷却制御装置50によれば、判定部52が予測した高電圧バッテリ23の左部又は右部の温度が制限値に達するタイミングよりも前に、条件設定部53が、閾値温度を低下させる。これにより、電動車両1の車室内の温度の偏りによって、走行中に、高電圧バッテリ23の左部又は右部の温度が制限値に達して、出力制限が行われたり、非常冷却が行われて騒音が発生したりするといった事態を抑制できる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、冷却装置は空気を冷媒として蓄電池(高電圧バッテリ23)を冷却する構成を示した。しかし、冷却装置は、冷却液等の空気以外の冷媒を用いて蓄電池を冷却する構成であってもよい。また、上記実施形態では、温度分布推測部51が車室内の温度分布を推測したが、例えば冷却装置の冷媒の通路自体が日射の影響で温度変化するような場合には、冷媒の通路を含んだ電動車両の温度分布を推測してもよい。また、冷却装置の冷媒通路の吸気口が車室外にある場合には、車室外を含んだ電動車両の温度分布を推測してもよい。また、上記実施形態では、冷却の条件を設定する例として、条件設定部53が、第1ファン32を駆動する第1閾値温度、又は、第2ファン33を駆動する第2閾値温度を変更する構成を示した。しかし、条件設定部は、冷却開始時間の設定、冷却動作の強度の設定、冷却動作の継続時間長の設定などの様々な条件を、各冷媒通路を用いた冷却ごとに設定可能に構成してもよい。また、上記実施形態では、冷却装置31が蓄電池(高電圧バッテリ23)を冷却する構成を示したが、蓄電池に加えて電力制御用の電子部品を冷却してもよい。この場合、電力制御用の電子部品についても、電動車両の温度の偏りに対応して、温度の偏りに適した冷却を行えるという効果が得られる。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 電動車両
23 高電圧バッテリ(蓄電池)
31 冷却装置
32 第1ファン
33 第2ファン
34 第1ダクト
35 第2ダクト
50 冷却制御装置
51 温度分布推測部
52 判定部
53 条件設定部
54 制御部
61 交通情報及び気象情報通信部
62 ルート情報登録部
Sth 制限値