(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】スリーブ印刷版用版胴、スリーブ印刷版の固定方法、及び、缶の印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41F 17/22 20060101AFI20230110BHJP
B41F 27/12 20060101ALI20230110BHJP
B41N 1/20 20060101ALI20230110BHJP
B41N 1/22 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B41F17/22
B41F27/12 A
B41N1/20
B41N1/22
(21)【出願番号】P 2019064063
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】アルテミラ製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩明
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-104532(JP,A)
【文献】特開2012-091389(JP,A)
【文献】特開平10-052907(JP,A)
【文献】特開2016-179587(JP,A)
【文献】特開2008-162086(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0074719(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 17/22
B41F 27/12
B41N 1/20
B41N 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って延びる円筒面を有し、この円筒面に円筒形状をなすスリーブ印刷版が着脱可能に取り付けられるスリーブ印刷版用版胴であって、
版胴本体と、この版胴本体の外周面に形成された径方向内方に向けて凹んだ凹部と、この凹部に収容されるとともに径方向に向けて出没する固定部材と、を有し、複数の前記凹部及び前記固定部材が周方向に等間隔に配置されており、
前記スリーブ印刷版の位置を決定する位置決めピンが、前記固定部材の周方向中央部において前記版胴本体の径方向に向けて延在するように配置されるとともに、前記固定部材とは独立して設けられており、
複数の前記固定部材の一つには、前記位置決め部ピンが位置する領域に切欠部が形成されていることを特徴とするスリーブ印刷版用版胴。
【請求項2】
前記固定部材の径方向外方を向く面には、前記版胴本体の外周面よりも前記スリーブ印刷版との摩擦力が大きくなるように、滑り止め手段が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスリーブ印刷版用版胴。
【請求項3】
円筒形状をなすスリーブ印刷版を、
請求項1または請求項2に記載のスリーブ印刷版用版胴に固定するスリーブ印刷版の固定方法であって、
前記スリーブ印刷版には、前記位置決めピンに係合する位置決め用切欠部が形成されており、
前記固定部材を径方向内方に後退させた状態で、前記スリーブ印刷版を装着して、前記位置決め用切欠部に前記位置決めピンを係合させ、
前記固定部材を径方向外方に張り出すことで、前記スリーブ印刷版が固定されることを特徴とするスリーブ印刷版の固定方法。
【請求項4】
円筒形状をなすスリーブ印刷版の外周面に形成された画像パターンを、缶胴に印刷する缶の印刷装置であって、
前記スリーブ印刷版が
請求項1または請求項2に記載のスリーブ印刷版用版胴に装着されていることを特徴とする缶の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線に沿って延びる円筒面を有し、この円筒面に円筒形状をなすスリーブ印刷版が着脱可能に取り付けられるスリーブ印刷版用版胴、このスリーブ印刷版用版胴にスリーブ印刷版を固定するスリーブ印刷版の固定方法、及び、このスリーブ印刷版用版胴を備えた缶の印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上述の円筒形状をなす印刷刷版(以下、スリーブ印刷版と称す)は、各種印刷に使用されている。このスリーブ印刷版は、例えば特許文献1のように、版胴に嵌挿することで、版胴の外周面に密着するように固定される。ここで、従来の版胴は、中空のエア室を有する略円筒状に形成されており、その軸方向端面からエア室内に貫通するエア供給孔と、その外周面からエア室内に貫通するエア吹出孔とを形成して構成されている。
【0003】
この版胴においては、エア供給孔からエア室内にエアを導入してエア室の圧力を上げると、この圧力上昇に伴ってエア吹出孔から高圧エアが吹き出す構成とされている。
ここで、スリーブ印刷版を版胴に対して着脱する際には、エア吹出孔を塞ぐように版胴の外周面にスリーブ印刷版を装着した状態において、エア吹出孔から高圧エアを吹き出してスリーブ印刷版の内周孔を拡径し、スリーブ印刷版を着脱することになる。
【0004】
しかしながら、上述のように高圧エアを用いる版胴においては、スリーブ印刷版の材質や厚みによっては、高圧エアによってもスリーブ印刷版を十分に拡径することができず、スリーブ印刷版を容易に着脱することができないおそれがあった。
また、高圧エアの供給機構が必要となるため、スリーブ印刷版を装着するための設備構成が複雑となるおそれがあった。
【0005】
ここで、特許文献2、3には、平板状の印刷版を版胴の外周面に沿って曲げた状態で版胴に固定する方法として、版胴の外周面の一部に設けられた固定部材を径方向外方に向けて張り出すことによって、前記印刷版を固定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-272682号公報
【文献】特公平01-055107号公報
【文献】特開2012-091389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、引用文献2,3においては、平板状の印刷版を版胴の外周面に沿って曲げた状態で版胴に固定するものであり、円筒形状をなすスリーブ印刷版を固定することは想定していなかった。
ここで、スリーブ印刷版においては、円筒形状をなすスリーブ本体の外周面に画像部が形成されており、引用文献2,3に開示されたように、固定部材によってスリーブ印刷版を内周側から押圧した場合には、画像部に歪みが生じ、精度良く印刷することができないおそれがあった。
また、スリーブ印刷版においては、固定が不十分であると、周方向及び軸線方向に移動するおそれがあり、位置精度が不十分となるおそれがあった。
【0008】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであって、高圧エアを用いることなくスリーブ印刷版を確実に固定することができるとともに、スリーブ印刷版の位置精度を向上させることができ、精度良く印刷を行うことが可能なスリーブ印刷版用版胴、スリーブ印刷版の固定方法、及び、このスリーブ印刷版用版胴を備えた缶の印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するために、本発明に係るスリーブ印刷版用版胴は、軸線に沿って延びる円筒面を有し、この円筒面に円筒形状をなすスリーブ印刷版が着脱可能に取り付けられるスリーブ印刷版用版胴であって、版胴本体と、この版胴本体の外周面に形成された径方向内方に向けて凹んだ凹部と、この凹部に収容されるとともに径方向に向けて出没する固定部材と、を有し、複数の前記凹部及び前記固定部材が周方向に等間隔に配置されており、前記スリーブ印刷版の位置を決定する位置決めピンが、前記固定部材の周方向中央部において前記版胴本体の径方向に向けて延在するように配置されるとともに、前記固定部材とは独立して設けられており、複数の前記固定部材の一つには、前記位置決め部ピンが位置する領域に切欠部が形成されていることを特徴としている。
【0010】
この構成のスリーブ印刷版用版胴によれば、前記スリーブ印刷版の位置を決定する位置決めピンが、前記固定部材の周方向中央部において前記版胴本体の径方向に向けて延在するように配置されるとともに、前記固定部材とは独立して設けられているので、位置決めピンによってスリーブ印刷版の位置を決めた状態で、前記固定部材を径方向外方に張り出すことでスリーブ印刷版を固定することができ、スリーブ印刷版の位置精度を向上させることができる。よって、精度良く印刷を行うことが可能となる。
【0011】
ここで、本発明のスリーブ印刷版用版胴においては、前記固定部材の径方向外方を向く面には、前記版胴本体の外周面よりも前記スリーブ印刷版との摩擦力が大きくなるように、滑り止め手段が形成されていることが好ましい。
この場合、前記固定部材の径方向外方を向く面に滑り止め手段が形成されており、前記固定部材の径方向外方を向く面の前記スリーブ印刷版との摩擦力が、前記版胴本体の外周面よりも大きくなるように構成されているので、前記固定部材を張り出した際に、スリーブ印刷版と固定部材との間ですべりが生じることを抑制でき、さらに強固にスリーブ印刷版を固定することが可能となる。
【0013】
本発明のスリーブ印刷版の固定方法は、円筒形状をなすスリーブ印刷版を、前述のスリーブ印刷版用版胴に固定するスリーブ印刷版の固定方法であって、前記スリーブ印刷版には、前記位置決めピンに係合する位置決め用切欠部が形成されており、前記固定部材を径方向内方に後退させた状態で、前記スリーブ印刷版を装着して、前記位置決め用切欠部に前記位置決めピンを係合させ、前記固定部材を径方向外方に張り出すことで、前記スリーブ印刷版が固定されることを特徴としている。
【0014】
この構成のスリーブ印刷版の固定方法によれば、前記固定部材を径方向内方に後退させた状態で、前記スリーブ印刷版を装着して、前記位置決め用切欠部に前記位置決めピンを係合させ、前記固定部材を径方向外方に張り出すことで、前記スリーブ印刷版が固定される構成とされているので、前記スリーブ印刷版を精度良く位置決めした状態で、固定部材によって固定することができる。よって、スリーブ印刷版を確実に位置決めすることができ、精度良く印刷を行うことが可能となる。
【0015】
本発明の缶の印刷装置は、円筒形状をなすスリーブ印刷版の外周面に形成された画像パターンを、缶胴に印刷する缶の印刷装置であって、前記スリーブ印刷版が前述のスリーブ印刷版用版胴に装着されていることを特徴としている。
このような構成とされた缶の印刷装置によれば、スリーブ印刷版とスリーブ印刷版用版胴とが強固に固定されるとともに、スリーブ印刷版を位置精度良く配置することができ、安定した印刷作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高圧エアを用いることなくスリーブ印刷版を確実に固定することができるとともに、スリーブ印刷版の位置精度を向上させることができ、精度良く印刷を行うことが可能なスリーブ印刷版用版胴、スリーブ印刷版の固定方法、及び、このスリーブ印刷版用版胴を備えた缶の印刷装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態において用いられるスリーブ印刷版の一例を示す説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態であるスリーブ印刷版用版胴の概略説明図である。(a)が正面図、(b)が軸線に沿った断面図である。
【
図3】本実施形態における版胴本体の説明図である。
【
図4】本実施形態における固定部材及び位置決めピンの配置位置を示す説明図である。(a)が正面図、(b)が上面図である。
【
図5】本実施形態における固定部材が凹部に収容された状態を示す説明図である。
【
図6】本実施形態であるスリーブ印刷版用版胴を備えた缶の印刷装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
まず、本実施形態において使用されるスリーブ印刷版30について、
図1を用いて説明する。
【0019】
スリーブ印刷版30は、
図1に示すように、軸線Lに沿って延びる円筒形状をなすスリーブ本体31と、このスリーブ本体31の外周面に配設され、缶に印刷される画像パターンが形成された画像部33と、を備えている。
スリーブ印刷版30の軸線L方向一端側(
図1において右上側)部分には、位置決め用切欠部35が形成されている。
【0020】
スリーブ本体31は、例えば、樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)、金属等で構成されており、本実施形態では、ニッケル(Ni)で構成されたものとされている。
【0021】
画像部33は、例えばレーザー光による彫刻が可能な感光性樹脂からなる版材にエッチングやレーザー加工によって画像パターンを形成したものであり、いわゆる凸版とされている。
本実施形態では、2つの画像部33,33が軸線Lを挟んで対向する位置(180°対向位置)に配設されている。
【0022】
ここで、本実施形態におけるスリーブ印刷版30は、上述のように、ニッケル等の金属で構成されていることから、高圧エアによって十分に拡径することができない。
このため、このスリーブ印刷版30は、本実施形態に係るスリーブ印刷版用版胴10に装着されて使用される。
【0023】
次に、本実施形態に係るスリーブ印刷版用版胴10について、
図2から
図5を参照して説明する。
このスリーブ印刷版用版胴10は、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、概略円筒状をなす版胴本体11を備えている。この版胴本体11には、印刷装置の回転駆動軸(図示なし)が挿入される内周孔12が設けられている。本実施形態では、内周孔12は軸線O方向先端側(
図2(b)において左側)に向かうに従い漸次縮径するテーパ孔とされており、回転駆動軸の先端も軸線O方向先端側(
図1において左側)に向かうに従い漸次縮径するテーパ軸とされている。このように内周孔12と回転駆動軸とがテーパ嵌合されることにより、版胴本体11と回転駆動軸との軸線O方向の相対位置が決定されることになる。
【0024】
そして、版胴本体11の外周面には、径方向内方に向けて凹む複数の凹部18が形成されている。これら複数の凹部18は、版胴本体11の周方向に等間隔に配置されており、本実施形態では、
図2(a)及び
図3に示すように、2つの凹部18,18が軸線Oを挟んで対向する位置(180°対向位置)に配設されている。
本実施形態では、凹部18は、
図3に示すように、軸線O方向に延在して版胴本体11の端面にまで達するとともに、径方向外方に向けてコの字状に開口する溝状をなるように構成されている。
【0025】
この凹部18には、径方向に向けて出没する固定部材20が収容されている。本実施形態では、上述のように、2つの凹部18,18が形成されており、2つの凹部18,18に、それぞれ固定部材20が収容されている。
この固定部材20は、
図4に示すように、版胴本体11の径方向外方を向く面21が、版胴本体11の曲率半径と同一の曲率半径を持つ曲面形状とされており、この固定部材20が最も径方向外方に張り出した状態では、版胴本体11の外周面と固定部材20の径方向外方を向く面21とが滑らかに接続され、円筒面が形成されることになる。
また、固定部材20が最も径方向内方に後退した状態では、固定部材20の径方向外方を向く面21が、凹部18の径方向外方端よりも径方向内方に位置するように配置されることになる。
【0026】
固定部材20は、
図4及び
図5に示すように、挿通溝22と受面部23とが形成されており、この挿通溝22に偏心ギア25が挿通されるとともに、受面部23の径方向を向く面には、固定部材20を径方向内方に向けて付勢する付勢部材(ばね部材)26が当接されている。
ここで、固定部材20は、
図2(a)及び
図5に示すように、偏心ギア25が回転することによって、径方向外方に張り出すように構成されている。すなわち、偏心ギア25が回転してその肉厚部が径方向外方に位置した際に、固定部材20が径方向外方に向けて張り出すことになる。
また、偏心ギア25を回転させてしてその肉薄部が径方向外方に位置した際には、上述の付勢部材(ばね部材)26の付勢力によって、固定部材20が径方向内方に移動することになる。
【0027】
そして、本実施形態に係るスリーブ印刷版用版胴10においては、複数(本実施形態では、2つ)の固定部材20が、同期して径方向外方に向けて張り出すように構成されている。
本実施形態においては、
図2に示すように、版胴本体11の軸線を中心として回転する本体ギア27を備えており、この本体ギア27がそれぞれの固定部材20に配設された偏心ギア25に歯合されている。本体ギア27が回転することによって、複数の固定部材20,20に配設された偏心ギア25,25が同期して回転することになり、複数の固定部材20,20が同期して径方向外方に向けて張り出す構造とされている。
なお、偏心ギア25,25を同期して回転させる際には、本体ギア27自体を回転させる構成としてもよいし、一方の偏心ギア25を回転させることで、本体ギア27及び他方の偏心ギア25を回転させるように構成してもよい。
【0028】
本実施形態においては、本体ギア27は、偏心ギア25と歯合される領域に部分的にギア歯が形成されている。本実施形態では、本体ギア27のギア歯が偏心ギア25と歯合した状態が維持されるように、本体ギア27の回転移動範囲を規制する規制溝28が形成され、この規制溝28に規制ピン29が挿通されている。
【0029】
また、本実施形態においては、固定部材20の径方向外方を向く面21には、版胴本体11の外周面よりもスリーブ印刷版30との摩擦力が大きくなるように、滑り止め手段が形成されている。
本実施形態においては、滑り止め手段は、粗面部とされており、この粗面部の十点平均粗さRZjis(JIS B 0601-2001)が10μm以下とされている。なお、粗面部の十点平均粗さRZjisは、2μm以上5μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0030】
そして、本実施形態においては、版胴本体11には、固定するスリーブ印刷版30の位置決めを行う位置決めピン15が立設されている。本実施形態では、位置決めピン15は着脱可能とされており、版胴本体11に形成された取付孔に挿入することで配設されるように構成されている。
そして、この位置決めピン15は、
図4(b)に示すように、凹部18(固定部材20)の周方向中央部に位置するように構成されている。また、この位置決めピン15は、固定部材20とは独立して設けられており。固定部材20が径方向に移動しても、位置決めピン15は移動しないように構成されている。
なお、
図4(b)に示すように、固定部材20には、位置決めピン15が位置する領域に、切欠部24が形成されている。
【0031】
本実施形態では、位置決めピン15を挿入可能な取付孔は、複数の凹部18(複数の固定部材20)にそれぞれ形成されており、そのうちの1つを選択し、位置決めピン15が挿入される構成とされている。すなわち、本実施形態では、1つの位置決めピン15が立設された構造とされるとともに、位置決めピン15の立設位置を選択できるように構成されているのである。
【0032】
次に、本実施形態であるスリーブ印刷版用版胴10にスリーブ印刷版30を固定する方法について説明する。
まず、スリーブ印刷版用版胴10において、固定部材20を径方向内方に後退させる。このとき、上述のように、固定部材20の径方向外方を向く面が、凹部18の径方向外方端よりも径方向内方に位置するように配置されることになる。
【0033】
固定部材20を径方向内方に後退させた状態において、スリーブ印刷版用版胴10(版胴本体11)を軸線O方向から見て、凹部18の径方向外方端を直線で結んだ際の外周長さが、スリーブ印刷版30の内周長さよりも短くなるように構成されている。
これにより、固定部材20を径方向内方に後退させた状態では、スリーブ印刷版30を拡径することなく、スリーブ印刷版30をスリーブ印刷版用版胴10(版胴本体11)に装着することができる。
【0034】
そして、版胴本体11の取付孔に位置決めピン15を挿入し、スリーブ印刷版30の位置決め用切欠部35を、上述の位置決めピン15に係合させることにより、スリーブ印刷版30の位置決めを行う。
このとき、スリーブ印刷版30において180°間隔で配設された2つの画像部33,33が、2つの固定部材20,20(凹部18,18)に対して90°間隔となるよう に、配置されることになる。
【0035】
次に、一方の固定部材20に配設された一方の偏心ギア25を回転させる。すると、一方の偏心ギア25に歯合された本体ギア27が軸線Oを中心に回動し、他方の固定部材20に配設された他方の偏心ギア25も回転する。これにより、180°間隔に配設された2つの固定部材20,20が同期して径方向外方に向けて張り出し、円筒面が形成されることになる。すなわち、画像部33,33に対して直交する方向に、2つの固定部材20,20が張り出すように構成されている。
ここで、このとき、固定部材20が最も径方向外方に張り出して形成された円筒面の外周長さは、スリーブ印刷版30の内周長さよりも大きくなり、スリーブ印刷版30が強固に固定されることになる。
【0036】
次に、本実施形態であるスリーブ印刷版用版胴10を備えた缶の印刷装置50について説明する。缶の印刷装置の概略を
図6に示す。
この缶の印刷装置50は、インク付着機構51と、缶移動機構55とで概略構成されている。
【0037】
インク付着機構51は、各色のインクを供給する複数のインカーユニット60と、これらのインカーユニット60からインクを写し取った後、缶胴71の外周面に接触して該インクを印刷する(付着させる)ブランケットホイール52とから構成される。
なお、
図6においては、5つのインカーユニット60が図示されているが、使用するインクの数に応じてインカーユニットを備えるものとされている。
【0038】
インカーユニット60は、インク源61と、インク源61に接触してインクを受けるダクティングロール62と、このダクティングロール62に接続する複数のロールからなる中間ロール63と、この中間ロール63に接続するインク付着ロール64と、このインク付着ロール64に接続する印刷版胴40とからなる。ここで、印刷版胴40は、本実施形態に係るスリーブ印刷版用版胴10にスリーブ印刷版30が固定されることによって構成されている。
ブランケットホイール52の外周面には、印刷用ブランケット53が複数枚備えられている。この印刷用ブランケット53は、印刷版胴40の外周面に形成された画像部33に接触するとともに、缶胴71に接触する構成とされている。
【0039】
缶移動機構55は、缶胴71を取り入れる缶シュータ56と、この缶シュータ56から供給された缶胴71を回転自在に保持するマンドレル57と、このマンドレル57に装着された缶胴71を、順次、インク付着機構51側に回転移動させるマンドレルターレット58とで構成されている。
【0040】
このような構成とされた缶の印刷装置50においては、各々のインカーユニット60のインク源61から各々異なった色のインクが、ダクティングロール62、中間ロール63、インク付着ロール64を介して、印刷版胴40の外周面に配設された画像部33に付着させられ、これら各色のインクが、回転するブランケットホイール52上の印刷用ブランケット53にパターンとして乗せられ、このパターンがマンドレル57に保持された缶胴71に接触しながら印刷される。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態に係るスリーブ印刷版用版胴10によれば、スリーブ印刷版30の位置を決定する位置決めピン15が、固定部材20の周方向中央部において版胴本体11の径方向に向けて延在するように配置されるとともに、固定部材20とは独立して設けられているので、位置決めピン15によってスリーブ印刷版30の位置を決めた状態で、固定部材20を径方向外方に張り出すことによりスリーブ印刷版30を固定することができ、スリーブ印刷版30の位置精度を向上させることができる。よって、精度良く印刷を行うことが可能となる。
【0042】
さらに、本実施形態においては、本実施形態においては、固定部材20の径方向外方を向く面21に滑り止め手段が形成されており、固定部材20の径方向外方を向く面21のスリーブ印刷版30との摩擦力が、版胴本体11の外周面よりも大きくなるように構成されているので、固定部材20を張り出した際に、スリーブ印刷版30と固定部材20との間ですべりが生じることを抑制でき、さらに強固にスリーブ印刷版30を固定することが可能となる。
なお、本実施形態では、画像部33は固定部材20とは直交する方向に配置されているので、固定部材20を張り出した際に、スリーブ印刷版30に形成された画像部33の歪みが生じることをさらに抑制でき、さらに精度良く印刷を行うことが可能となる。
【0043】
また、本実施形態においては、固定部材20が複数(本実施形態では2つ)配設されているので、スリーブ印刷版30を強固に固定することができる。そして、位置決めピン15が、複数の固定部材20の一つに配設されているので、この位置決めピン15にスリーブ印刷版30の位置決め用切欠部35を係合させることで、スリーブ印刷版30を確実に位置決めすることが可能となる。
【0044】
また、本実施形態においては、位置決めピン15を挿入可能な取付孔が、複数の凹部18(複数の固定部材20)にそれぞれ形成されており、そのうちの1つを選択し、位置決めピン15が挿入される構成とされているので、スリーブ印刷版30と版胴本体11との周方向の相対位置を変化させて固定することが可能となる。
例えば、本実施形態のように、2つの固定部材20の位置に取付孔が形成されていた場合には、位置決めピン15の位置を変更することにより、スリーブ印刷版30を、2つの画像部33,33を180°回転させた位置で、版胴本体11に固定することが可能となる。
【0045】
また、本実施形態では、固定部材20が最も径方向外方に張り出した状態で、円筒面が形成される構成とされているので、固定部材20を径方向内方に後退させた状態で、スリーブ印刷版30を版胴本体11に装着することができ、固定部材20が最も径方向外方に張り出した状態とすることでスリーブ印刷版30を強固に固定することが可能となる。
【0046】
さらに、本実施形態では、複数の固定部材20,20が同期して径方向外方に向けて張り出す構造とされているので、固定部材20,20を張り出した際に、スリーブ印刷版30の内周孔にはバランス良く圧力が加わるため、スリーブ印刷版30に形成された画像部33に歪みが生じにくくなり、精度良く印刷を行うことが可能となる。
【0047】
また、本実施形態であるスリーブ印刷版30の固定方法によれば、固定部材20を径方向内方に後退させた状態でスリーブ印刷版30を装着し、スリーブ印刷版30の位置決め切欠部35に位置決めピン15を係合させてスリーブ印刷版30の位置決めを行った上で、固定部材20を径方向外方に張り出すことで、スリーブ印刷版30が固定される構成とされているので、スリーブ印刷版30を精度良く位置決めした状態で固定することができ、精度良く印刷を行うことが可能となる。
【0048】
さらに、本実施形態では、画像部33,33に対して直交する方向に、2つの固定部材20,20が張り出すように構成されているので、スリーブ印刷版30を固定するために固定部材20,20を径方向外方に張り出しても、スリーブ印刷版30の内周孔にはバランス良く圧力が加わるため、スリーブ印刷版30の画像部33に歪みが生じにくく、精度良く印刷を行うことが可能となる。
【0049】
また、本実施形態である缶の印刷装置50によれば、スリーブ印刷版30とスリーブ印刷版用版胴10とが強固に固定されるとともに、スリーブ印刷版30を位置精度良く配置して固定することができ、精度良く安定した印刷作業を行うことができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、凹部及び固定部材が2つ配設されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、1つの凹部及び固定部材が配設されたものであってもよいし、3つ以上の凹部及び固定部材が配設されたものであってもよい。
【0051】
また、本実施形態では、画像部が2つ配設されたスリーブ印刷版を用いたもので説明したが、これに限定されることはなく、1つの画像部が配設されたものでもよいし、3つ以上の画像部が配設されたものであってもよい。
さらに、本実施形態では、スリーブ印刷版のスリーブ本体をニッケル(Ni)で構成したものして説明したが、他の材質で構成したものであってもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 スリーブ印刷版用版胴
11 版胴本体
15 位置決めピン
18 凹部
20 固定部材
30 スリーブ印刷版
33 画像部
35 位置決め用切欠部
50 缶の印刷装置