(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】遺伝的に修飾されたTリンパ球
(51)【国際特許分類】
A61K 35/17 20150101AFI20230110BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20230110BHJP
C12N 15/26 20060101ALI20230110BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20230110BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20230110BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230110BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230110BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230110BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230110BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
A61K35/17 A
C12N5/0783
C12N15/26 ZNA
C12N15/867
C12N15/09 110
A61P37/02
A61P29/00
A61P37/06
A61P35/00
A61P31/00
(21)【出願番号】P 2019520482
(86)(22)【出願日】2017-06-22
(86)【国際出願番号】 EP2017065330
(87)【国際公開番号】W WO2017220704
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-05-28
(32)【優先日】2016-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518456007
【氏名又は名称】ダヴィド・クラッツマン
【氏名又は名称原語表記】David KLATZMANN
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド・クラッツマン
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-523083(JP,A)
【文献】国際公開第2015/188141(WO,A2)
【文献】特表2002-515247(JP,A)
【文献】The Journal of Immunology, 2012, Vol.189, pp.1228-1236
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2009, Vol.106, No.45, pp.19078-19083
【文献】Nat. Rev. Immunol., 2015, Vol.15, pp.283-294
【文献】Human Gene Therapy Methods, 2012, Vol.23, pp.376-386
【文献】Molecular Therapy, 2000, Vol.1, No.6, pp.516-521
【文献】Trends in Immunology, 2015, Vol.36, No.11, pp.667-669
【文献】J Immunol,2001年12月01日,Vol.167, No.11,pp.6356-6365
【文献】Mol Ther,2008年03月31日,Vol.16, No.3,pp.599-606
【文献】J Surg Res,2013年09月30日,Vol.184, No.1,pp.282-289
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/17-35/768
A61P 1/00-43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における自己免疫疾患または炎症性疾患を治療するのに使用するための、または患者における移植片拒絶または移植片対宿主病(GVHD)を予防するのに使用するための、制御性T(Treg)細胞を含む組成物
であって、ここで該Treg細胞が、インターロイキン-2(IL-2)をコードする導入遺伝子を安定的に発現するように遺伝的に修飾されており、該Treg細胞が、ヒト細胞であり、およびIL-2が、ヒトIL-2またはヒトIL-2の活性変異体である、組成物。
【請求項2】
該細胞が、構成的様式で該インターロイキンを安定的に発現するように遺伝的に修飾されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該細胞が、誘導的に該インターロイキンを安定的に発現するように遺伝的に修飾されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
該細胞が、
さらに自殺遺伝子を発現するように修飾されており、該導入遺伝子および
該自殺遺伝子が細胞のゲノム
中に組み込まれている、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
該細胞が、
該導入遺伝子を含む組込みウイルスベクターにより修飾されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
組込みウイルスベクターがレンチウイルスベクターである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
該細胞が、
導入遺伝子の組み込みを可能にするシステムにより修飾されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
該導入遺伝子の組み込みを可能にするシステムが、Crispr-Cas9システム、Zincフィンガーヌクレアーゼ、TALENまたはメガヌクレアーゼである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
該細胞がポリクローナル細胞である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
該細胞が、該細胞を抗原特異的またはリガンド特異的にする標的分子を該インターロイキンと共に共発現するように修飾されている、請求項1~
8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
該インターロイキン-2が、
ヒト成熟IL2タンパク質(配列番号3)に対するデス-アラニル
-1セリン-125ヒトインターロイキンである、請求項1~
10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
該インターロイキン-2が、ヒト成熟IL2タンパク質(配列番号3)に対して、N88R、N88I、N88G、D20H、D109C、Q126L、Q126F、D84G、またはD84Iからなる群から選択されるアミノ酸置換を示す、請求項1~
10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
該細胞が、治療する患者にとって自己由来または同種異系である、請求項
1~
12のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
インターロイキン-2(IL-2)をコードする導入遺伝子を安定的に発現するように遺伝子修飾されている制御性T(Treg)細胞であって、該Treg細胞が、ヒト細胞であり、およびIL-2が、ヒトIL-2であるかまたはヒトIL-2の活性変異体である、制御性T(Treg)細胞。
【請求項15】
インターロイキン-2が、ヒト成熟IL2タンパク質(配列番号3)に対するデス-アラニル-1セリン-125ヒトインターロイキンである、請求項14に記載のTreg細胞。
【請求項16】
インターロイキン-2が、ヒト成熟IL2タンパク質(配列番号3)に対して、N88R、N88I、N88G、D20H、D109C、Q126L、Q126F、D84G、またはD84Iからなる群から選択されるアミノ酸置換を示す、請求項14に記載のTreg細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞療法の分野に関する。本発明は、インターロイキン-2(IL-2)またはインターロイキン-15(IL-15)からなる群から選択されるインターロイキンを安定的に発現する制御性T(Treg)細胞またはエフェクターT細胞(Teff)を含む組成物を提供する。かかる修飾Treg組成物は、免疫成分を有する疾患、例えば、自己免疫および/または炎症性疾患、アレルギー、移植拒絶、または移植片対宿主病(GVHD)を治療または予防するのに有用である。修飾Teff組成物は、癌および感染症の治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
IL-2は、当初、Teffの活性化および機能をサポートすると記載された薬物である。同様に、IL-2は癌免疫療法に高投与量で使用される。これらの高投与量で、IL-2はTeffを活性化する。
【0003】
制御性細胞(Treg)がそれらの発達、機能および生存についてインターロイキン2(IL-2)に依存することが最近示された(KlatzmannおよびAbbas,2015,Nat Rev Immunol.15(5):283-94)。マウスにおけるIL-2をコードする遺伝子のノックアウトは、予測される免疫不全よりもむしろ、重度のリンパ球増殖および自己免疫をもたらした。この知見のすぐ後に、IL-2受容体のβ鎖(IL-2Rβ;CD122とも呼ばれる)またはIL-2Rα(CD25とも呼ばれる)をコードする遺伝子のノックアウトを有するマウスの類似表現型が記載された。Tregの標準的な表現型マーカーとしてのCD25の記載は、IL-2シグナル伝達の欠陥がTregに影響し、自己免疫を引き起こす可能性があることを示唆していた。これは、TregがIL-2欠損マウスまたはIL-2R欠損マウス中に存在しないこと、および正常マウスからのこれらの細胞の養子導入が該欠損マウスにおける自己免疫を予防することができることを示すことにより確認された。これらのノックアウトマウス研究の結論は、IL-2シグナル伝達の喪失が免疫寛容および恒常性の破壊をもたらすので、IL-2の主な役割はTregの維持であり、エフェクターおよびメモリーT細胞の発達ではないということである。
【0004】
しかしながら、Tregは本質的にIL-2を産生することができず、これは主として非Treg活性化T細胞により提供される。実際、免疫応答の間、活性化Teffは制御ループにおいてTregを「増強する」(Grinberg-Bleyerら,2010,J Clin Invest,120(12):4558-68)。エフェクター免疫応答が低下する傾向があるとき、Tregは効率的であるのに十分なIL2を見出さない場合がある。
【0005】
Tregは自己免疫疾患および炎症を調節し、かつすべての免疫応答を制御する。従って、Tregに基づく治療法は、自己免疫疾患および/または炎症性疾患、またはアレルギーの治療に大きな可能性を有する(Klatzmann&Abbas,前出)。これは、例えば低投与量のIL2により、in vivoでTregを拡大および活性化することにより達成されることができる(Klatzmann&Abbas,前出)。またこれは、天然のまたは修飾されたTregを含む、ex vivoで拡大されたTreg(GitelmanおよびBluestone,2016,J Autoimmun71:78-87)を用いた細胞療法によっても達成することができる。しかしながら、これは大量のTregの反復注射を必要とすることがあり、面倒である。
【0006】
また、Teffに基づく治療法が、特に癌の分野において開発されている。かかる治療法は、「腫瘍浸潤リンパ球(TIL)」から採取することができるものとして、天然の抗癌Teff、またはCAR-T細胞などの人工的Teffのいずれかを含むことができる(Feldmanら,2015 Semin Oncol.42(4):626-39)。
【0007】
TregおよびTeffを培養することは、培養培地に大量のIL-2を添加することを含む。IL-2との培養の数日または数週間後、これらの培養条件と比較して比較的IL-2が乏しい環境を表す患者において、特に、正常個体よりも遺伝的に調節された低いIL-2生産をしばしば有する自己免疫疾患患者のために、これらの細胞は再注射される(KlatzmannおよびAbbas,前出)。これは、TregおよびTeffの生存および機能に影響を及ぼし得る。
【0008】
従って、改善されたT細胞療法に対する要望がある。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、インターロイキン-2(IL-2)またはインターロイキン-15(IL-15)からなる群から選択されるインターロイキンを安定的に発現する制御性T(Treg)細胞またはエフェクターT細胞(Teff)を提供する。
【0010】
本発明の主題は、TregまたはTeffを含む組成物である。
【0011】
IL-2を分泌するTregがさらにより好ましい。
【0012】
好ましい実施形態において、該細胞は、構成的様式で該インターロイキンを安定的に発現するように遺伝的に修飾されている。
【0013】
別の実施形態において、該細胞は、誘導的様式で該インターロイキンを安定的に発現するように遺伝的に修飾されている。
【0014】
好ましい態様において、該細胞は、該インターロイキンをコードする導入遺伝子および自殺遺伝子を発現するように修飾されており、該導入遺伝子および自殺遺伝子は該細胞のゲノムに組み込まれている。
【0015】
好ましい態様において、該細胞は、好ましくはレンチウイルスベクターである組込み(integrative)ウイルスベクターにより修飾されている。別の態様において、該細胞は、Crspr-Cas9システム、Zingフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、またはメガヌクレアーゼなどの導入遺伝子の組み込みを可能にするシステムにより修飾されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、「hIL-2-2A-CD-2A-GFP」ベクターの地図である。この修飾レンチウイルスプラスミドpBL249は自己不活性化レトロウイルスゲノムを有し、自殺遺伝子(シトシンデアミナーゼ(CD))およびレポーター遺伝子(緑色蛍光タンパク質(GFP))と関連するhIL-2導入遺伝子を含有する。全ての導入遺伝子発現はEF1アルファプロモーター下にある。該3つの導入遺伝子は「2A」配列により連結されており、従って単一のRNAから発現される。ペプチド介在配列2Aは、mRNAの次の開始コドンへのリボソームジャンプを引き起こし、単一のRNAからの全ての導入遺伝子の共発現を可能にする。該ベクターにより発現されるGFP遺伝子は、該実験の追跡調査を容易にする目的のためである。それは、目的の任意の導入遺伝子により、特にCARなどの標的化部分により、またはIL-10もしくはTGF-ベータなどのTreg抑制に関与する遺伝子により有利に置き換えられることができる。
【0017】
【
図2】
図2Aおよび2Bは、外因性IL-2の非存在下(
図2A)または存在下(
図2B)で培養された、IL2形質導入またはGFP形質導入Treg対非形質導入Tregの拡大の動態曲線を示す(3回の独立した実験の平均)。全ての細胞が外因性IL-2の存在下で増殖するのに対して、IL-2形質導入細胞のみがその非存在下で増殖する。
図2Cは、外因性IL-2の存在下で最初の6日間培養し、次いでその非存在下で培養したIL2-形質導入またはGFP-形質導入Tregの拡大の動態曲線を示す。IL-2形質導入細胞は外因性IL-2の非存在下で増殖し続ける一方、非形質導入細胞は増殖を停止して死滅する。
図2Dおよび2Eは、IL-2使用停止後、新鮮な未培養Tregと比較した、2Cにおけるのと同様に培養された細胞におけるFoxP3、CD25およびphospho-STAT5(pSTAT5)マーカーの発現を示す。
図2Dにおいて、GFPのみを産生する生存Treg(Treg
GFP)(中央パネル)は、対照の新鮮Treg(左パネル)よりも少ないFoxp3およびCD25を発現する。対照的に、IL-2を産生するTreg(Treg
IL2)は、対照の新鮮Tregと比較してさらにより高レベルのFoxP3およびCD25を発現し、それらが活性化されることを示す。
図2Eにおいて、対照の新鮮TregまたはGFPのみを産生するTregは、IL-2とIL-2Rとの相互作用により誘導されるpSTAT5を発現しない。対照的に、IL-2を産生するTregは高レベルのpSTAT5を発現し、さらにそれらが高度に活性化されることを示す。まとめると、
図2Aから2Eは、内因性IL-2を産生するように形質導入されたTregがin vitroで十分なIL-2であり、かつ活性化されることを実証する。
【0018】
【
図3】
図3Aから3Cは、内因性IL-2を産生するTregの抑制活性を示す。CD4+エフェクターT細胞(Teff)を細胞分裂中に希釈される色素と共にインキュベートする。活性化の際、それらは該色素(A)を失い、分裂を示した。色素で染色されていないTregが示される(B)。TeffがIL-2の非存在下で培養されたTreg
IL2と示された比率で混合されると、Teff分裂の投与量依存的な阻害がある。最も高い比率で、阻害は完了し、かつTeffの増殖は1/8の比率で再び現れ始める(C)。これは、IL-2の非存在下で増殖されたTreg
IL2が非常に抑制的であることを示す。
【0019】
【
図4】
図4Aから4Cは、in vivoでT細胞を欠くレシピエントマウスに養子導入されたhIL-2-2A-GFP(Treg
IL2)ベクターで形質導入されたヒトTregの選択的優位生存を示す。該hIL-2-2A-GFPで形質導入されたヒトTregの集団を、T細胞を欠くマウスに注射する。注射時の形質導入細胞の割合はTreg
IL2の約8%である。この割合は25日目に60%に増加し、これは、IL-2産生Tregの増殖の利点を示す(4A)。
図4BおよびCは、T細胞を欠くレシピエントマウスに養子導入された該形質導入細胞の割合(4B)および数(4C)の変動を示す。該導入されたヒト細胞を最初に同定および計数し、そして次に、これらの細胞内のGFPを発現する細胞の割合を決定する。GFPのみを発現する形質導入細胞(Treg
GFP)の割合は安定したままであり、一方、Treg
IL2の割合は経時的に連続的に増加する(4B)。これは数の観点からも当てはまる(4C)。Treg
GFPの数は連続的に減少し、一方、Treg
IL2の数は35日目まで連続的に増加し、次いで減少する。結果は、Treg
GFPについて6匹のマウスおよびTreg
IL2について7匹のマウスの平均±SEMに由来する。ノンパラメトリックマンホイットニー検定は、
図4Bおよび4Cについてp<0.01で強い有意性を示す。
【0020】
【
図5】
図5Aおよび5Bは、T細胞を欠くマウスに注射されたヒトTregの表現型を示す。Treg
IL2およびTreg
GFPは、T細胞を欠き、従って、それらの環境中にIL-2を全く有さない(またはごくわずかに有する)マウスに養子導入されている。該注射された細胞集団は精製されておらず、従って、形質導入細胞(約20%)と非形質導入細胞との混合物を表す。注射後14日目に、最初に、該注射された細胞は、ヒトCD45マーカーの発現により分析される(A、左パネル)。該CD45+細胞は、該Treg
GFP(上部パネル)よりも該Treg
IL2(下部パネル)についてより多数である。次いで、CD25およびFoxp3の発現が、これらの細胞において観察される(A、右パネル)。わずかな生存Treg
GFPのほとんどは、依然としてCD25およびFoxp3を発現するが、一見低レベルである。また、より多数のTreg
IL2は、CD25およびFoxp3を高レベルで発現する。Treg
IL2における、Treg
GFPにおけるよりも高い強度のCD25発現(B、左パネル)およびFoxP3発現(B、右パネル)が、ヒストグラムとして示される。
図5Cおよび5Dは、該マウスを安楽死させた後の35日目の養子導入細胞を示す。
図5Cは、5Aと同じ結果を報告し、かつTreg
IL2(下部パネル)の方がTreg
GFP(上部パネル)よりもはるかに高いという、生存細胞数のさらにより顕著な差を示す。
図5Dは、異なる組織における該養子導入細胞の存在を示す。Treg
GFPは組織中で少数であり、一方Treg
IL2は脾臓、肝臓および肺中で多数検出される。全ての場合において、それらは高レベルのCD25およびFoxp3を発現する。
【0021】
【
図6】
図6は、5-フルオロシトシン(5-FC)による、シトシンデアミナーゼ自殺遺伝子を発現する形質導入細胞の調節の効率を示すグラフである。該hIL-2-2A-CD-2A-GFPベクターで形質導入したTeffは、フローサイトメトリーによりGFP発現について精製される。これらの細胞または非形質導入対照細胞は、増加する5-FC濃度の存在下で培養される。結果は細胞増殖の阻害率を示す。これらの結果は、シトシンデアミナーゼ(CD)遺伝子を発現するTeff細胞の増殖の98%を超える阻害を示す。
【0022】
【
図7】
図7Aおよび7Bは、実験的移植片対宿主病(GVHD)のモデルにおけるIL-2を発現するTeff(Teff
IL2)のより高い効率を示す。T細胞を欠くNSGマウスは、Teff
GFP単独またはTeff
IL2により養子導入される。Teffを受けていない対照マウスは体重が増加する一方、Teffを養子導入したマウスは、3週間で体重が減少し始めた。Teff
IL2を受けているマウスは、Teff
GFPを受けているマウスよりも体重が減った(7A)。肝臓のT細胞浸潤は、Teff
GF2を受けているマウスよりもTeff
IL2を受けているマウスの方がはるかに顕著であり、より顕著なGVHDを示す。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明者は、生存および機能に関して改善された性質を有するTregまたはTeffを使用することによりT細胞療法が改善されることができるという仮説を立てた。
【0024】
その見通しにおいて、本発明者は、IL-2をコードする(またはIL-15をコードする)遺伝子を安定的に発現するTregまたはTeffを使用して、IL-2の非存在下での生存および機能を裏付けすることを提案する。
【0025】
本発明によれば、IL-2またはIL-15を分泌することにより、かかるTregまたはTeffは、in vivoでの生存の利点および/またはそれらの抑制活性の増強を有し得る。これは、自己分泌様式で形質導入された細胞自体に、および外分泌様式で隣接するバイスタンダー細胞に関係し得る。
【0026】
定義
導入遺伝子の「安定的な形質導入」または「安定的な発現」は、該導入遺伝子が細胞のゲノム中へ組み込まれることを意味する。安定的に形質導入された細胞の顕著な特徴は、該外来遺伝子が該ゲノムの一部になり、それ故複製されることである。従って、これらの形質導入細胞の子孫もまた、該新規遺伝子を発現するであろう。
【0027】
「制御性T細胞」または「Treg」は、免疫抑制活性を有するTリンパ球である。通常、天然のTregは、CD4+CD25+Foxp3+細胞、好ましくはCD127(低)、CD4+、CD25(高)、Foxp3+細胞として特徴付けられる。かかる疾患におけるそれらの作用機序は完全には理解されていないが、Tregは炎症性疾患の制御において主要な役割を果たす。
【0028】
事実、ほとんどの炎症性疾患において、Tregの枯渇は疾患を悪化させる一方、Tregの添加はそれを減少させる。抑制活性を有するCD8+Foxp3+Tリンパ球のまれな集団も存在するが、ほとんどのTregはCD4+細胞である。
【0029】
本出願の文脈内で、「エフェクターT細胞」(または「Teff」)なる語は、1つ以上のT細胞受容体(TCR)を発現し、かつエフェクター機能(例えば、細胞傷害活性、サイトカイン分泌、抗自己認識など)を実行する、Treg以外の従来のTリンパ球(時には文献においてTconvとも呼ばれる)を指す。本発明に記載されるヒトTeffの主な集団は、CD4+Tヘルパーリンパ球(例えば、Th0、Th1、Th9、Th17)およびCD4+またはCD8+細胞傷害性Tリンパ球を含み、それらは自己または非自己抗原に特異的であることができる。
【0030】
本発明の文脈内で、「IL-2」なる語は、例えばヒト、マウス、ラット、霊長類、およびブタなどの哺乳動物起源を含む、IL-2の任意の起源を指し、天然であるか、または天然IL-2ポリペプチドの活性変異体であってもよい。ヒトIL-2のヌクレオチド及びアミノ酸配列は、例えばGenbankアクセス番号NM_000586に開示される。本発明は、より好ましくはヒトIL-2を使用する。hIL-2のヌクレオチド配列は配列番号1として提供され、対応するアミノ酸配列は配列番号2である。シグナルペプチドは配列番号2のアミノ酸1~20であり、成熟ペプチド(配列番号2の21位のアラニンで始まる)は、配列番号3として示される。IL-2の活性変異体は文献に開示されている。該天然IL-2の変異体は、その断片、類似体、および誘導体であることができる。該変異体のいくつかは、TregまたはTeffに対する改善された活性を有してもよく、従ってそれらの細胞において好ましく使用されるであろう。「断片」により、インタクトなポリペプチド配列の一部のみを含むポリペプチドが意図される。「類似体」は、1つ以上のアミノ酸置換、挿入、または欠失を有する天然のポリペプチド配列を含むポリペプチドを指す。参照IL-2ポリペプチドの活性変異体は、一般に、該参照IL-2ポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する。変異体IL-2ポリペプチドが活性であるかどうかを決定するための方法は、当技術分野において利用可能であり、本発明において具体的に記載される。活性変異体は、最も好ましくは、Tregを活性化する変異体である。
【0031】
例えば、IL-2変異体の例は、特許または特許出願EP109748、EP136489、US4,752,585;EP200280、またはEP118617、ならびにUS6,348,192、WO99/60128、EP2970423、WO16/164937に開示される。好ましい実施形態において、該IL-2変異体タンパク質はC125S置換を示し、さらに好ましくは、それはデス-アラニル1、セリン-125ヒトインターロイキン-2(配列番号3として示される成熟ヒトIL-2ペプチドを参照)である。別の好ましい実施形態において、該IL-2変異タンパク質は、ヒト成熟IL2タンパク質(配列番号3)に対して、L12G、L12K、L12Q、L12S、Q.13G、E15A、E15G、E15S、H16A、H16D、H16G、H16K、H16M、H16N、H16R、H16S、H16T、H16V、H16Y、L19A、L19D、L19E、L19G、L19N、L19R、L19S、L19T、L19V、D20A、D20E、D20F、D20G、D20G、D20W、M23R、M23R、R81G、R81S、R81T、D84A、D84E、D84G、D84I、D84M、D84QのD84R、D84S、D84T、S87R、N88A、N88D、N88E、N88F、N88I、N88G、N88M、N88R、N88S、N88V、N88W、V91D、V91E、V91G、V91S、V91K、I92K、I92R、およびE95G、ならびにD109C、Q126L、Q126Fからなる群、なおより好ましくは、N88R、N88I、N88G、D20H、D109C、Q126L、Q126F、D84G、またはD84Iからなる群から選択される置換を有するヒトIL-2を含む。野生型IL-2よりもTregに対する良好な選択性を有する活性変異体は、Tregにおける使用に好ましく、一方、Teffに対して、野生型IL-2よりも良好な選択性を有する活性変異体は、Teffにおける使用に好ましい。
【0032】
IL-15は、IL-2と構造的に類似するサイトカインである。本発明の文脈内で、「IL-15」なる語は、例えばヒト、マウス、ラット、霊長類、およびブタなどの哺乳動物起源を含む、IL-15の任意の起源を指し、天然であるか、または天然IL-15ポリペプチドの活性変異体であってもよい。ヒトIL-2のヌクレオチド及びアミノ酸配列は、例えばGenbankアクセス番号Y09908に開示される。hIL-15のヌクレオチド配列は、配列番号4として提供される。対応するアミノ酸配列は配列番号5である。より好ましくは、本発明はヒトIL-15を使用する。天然IL-15の変異体は、それらの断片、類似体、および誘導体であることができる。「断片」により、インタクトなポリペプチド配列の一部のみを含むポリペプチドが意図される。「類似体」は、1つ以上のアミノ酸置換、挿入、または欠失を有する天然ポリペプチド配列を含むポリペプチドを指す。参照IL-2ポリペプチドの活性変異体は、一般に、該参照IL-2ポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する。変異体IL-15ポリペプチドが活性であるかどうかを決定するための方法は、当技術分野において利用可能であり、本発明において具体的に記載される。活性変異体は、最も好ましくは、Tregを活性化する変異体である。
【0033】
IL-2と同様に、IL-15は、IL-2/IL-15受容体β鎖から構成される複合体に結合し、かつそれを介してシグナル伝達する。IL-15は、T細胞活性化および増殖、特にCD8+T細胞のT細胞活性化および増殖を誘導し、また、抗原の非存在下でメモリー細胞を維持するための生存シグナルを提供し、CD8+T細胞に有利に働き、単球を活性化する。
【0034】
Tリンパ球は「その特異的破壊を可能にする分子」を発現する。これは、導入遺伝子によりコードされる分子、または該Tリンパ球により天然に発現される分子であってもよい(後者が同種異系である場合)。「特異的破壊」なる語は、GVH反応の発症を防止するために、または注射された細胞によるあらゆる有害反応を止めるために、患者に投与されるTリンパ球のみが破壊されるであろうことを意味する。該「その特異的破壊を可能にする分子」は、例えば、HLA系の抗原、分子Thy-1、NGF受容体もしくは該受容体の切断型、または免疫原性ではなく、かつ該Tリンパ球により天然に発現されない抗原であってもよい。これらの分子のいずれかを保有するTリンパ球は、次いで、該HLA分子に特異的な抗リンパ球血清、または該抗原に対して特異的に向けられた抗体により特異的に破壊されることができる。
【0035】
また、Tリンパ球の「特異的破壊を可能にする分子」は「自殺遺伝子」によりコードされる分子であってもよい。「自殺遺伝子」なる語は、条件付きで、それを発現する細胞にとって毒性のある分子をコードする遺伝子を意味する。
【0036】
治療される「対象」または「患者」は、任意の哺乳動物、好ましくはヒトであってもよい。該ヒト対象は子供、成人または高齢者であってもよい。他の実施形態において、該対象は、猫、犬、馬などの非ヒト哺乳動物である。
【0037】
「治療すること」または「治療」なる語は、示される疾患におけるあらゆる改善を意味する。それは、疾患の発生または再発を予防すること、少なくとも1つの症状を軽減すること、または疾患の重症度もしくは発症を減少させることを含む。特に、それは急性発作(フレア)の危険性、発生または重症度を減らすことを含む。「治療すること」または「治療」なる語は、疾患の進行を減少させることを包含する。特に本発明は、疾患の進行を予防または遅延させることを包含する。「治療すること」または「治療」なる語は、特に無症候性であるが「危険性がある」と診断されている対象において、危険性を低減させるまたは疾患の発症を遅らせることによる予防的治療をさらに包含する。
【0038】
修飾するためのTregおよびTeff
本発明に従って修飾されることができるTregおよびTeffは、ポリクローナル細胞または特定の細胞であってもよい。「特異的」は、該TregまたはTeffが標的疾患の病態生理学に関与する抗原を特異的に認識し、結合することを意味する。特に治療する疾患が自己免疫疾患である場合、特異的Tregが好ましい。特異的TregまたはTeffは、IL-2またはIL-15を、該細胞を抗原特異的またはリガンド特異的にする、例えば特定の組織タイプを標的化する標的化分子と共発現させることにより得られてもよい。また特異的Tregは、細胞集団の全体的な特異性を意味してもよい。これは、例えば、特定の細胞を含有する可能性が高い部位(すなわち、癌の場合はTIL)から細胞を採取することにより、または特定の抗原または同種抗原による刺激などの特定の条件下で細胞を培養することにより得られることができる。またこれは、特異的T細胞受容体(TCR)、有利には既知の特異性を有するTCRのα鎖およびβ鎖の両方を発現することにより、またはキメラ抗原受容体(CAR)T細胞の設計に使用されているような任意の標的化部分を発現することにより達成されることができる。
【0039】
特に関心のあるTregおよびTeffサブセットは、CD45RA-CD45RO+CCR7+CD62L+であるセントラルメモリーT細胞、CD45RA-CD45RO+CCR7-CD62L-であるエフェクターメモリーT細胞、またはCD45RA+CD45RO-CCR7-CD62L-であるエフェクター細胞として古典的に定義される活性化またはメモリー細胞の中で見出されてもよい。特に関心のあるさらなるTregおよびTeffサブセットは、特定の標的組織またはそれらの流入リンパ節(すなわち、膵臓または膵臓リンパ節)、または腫瘍において見出されてもよい。
【0040】
本発明に従って修飾されることができるTregおよびTeffは、自己由来、すなわち治療される患者から採取されてもよく、または同種異系、すなわち治療する対象とは別の対象から得られてもよい。好ましい実施形態において、該TregおよびTeffは治療する対象と同じ種のものである。好ましくは、それらはヒト細胞である。
【0041】
従って、ドナーは好ましくはヒトであり、胎児、新生児、子供、成人であってもよい。
【0042】
TregまたはTeff調製物は、例えば、末梢血、リンパ球除去の血液製剤、末梢リンパ節、脾臓、胸腺、臍帯血などから得られる。
【0043】
Tリンパ球の遺伝的修飾
本発明によれば、TregまたはT細胞はIL-2またはIL-15を安定的に発現するように修飾されている。
【0044】
かかる安定的な発現は、発現するように導入遺伝子を構成する、IL-2またはIL-5をコードするヌクレオチド配列の細胞のゲノム中への組込みにより達成されることができる。
【0045】
導入遺伝子の安定的な組込みのための方法は、当技術分野において既知である。
【0046】
限定するものではないが、レトロウイルス(例えば、オンコレトロウイルス、スプマウイルスまたはレンチウイルス)などの組込みウイルスベクターが使用されてもよい。
【0047】
「レンチウイルス」なる表現は、本発明に特に好ましいレトロウイルスのカテゴリーを意味する。レンチウイルスの例は、HIV(特にHIV-1またはHIV-2)などのヒトレンチウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)およびVISNAウイルスを含むがこれらに限定されない。
【0048】
発現するためのポリヌクレオチドをコードするIL-2またはIL-15は、典型的に、プロモーターなどの制御発現エレメントに作動可能に連結される。本発明において、細胞、特に哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞)中の標的ポリヌクレオチドの発現を促進することができる任意のプロモーターが、本発明の範囲内に含まれる。従って、プロモーターは有利には外因性プロモーターである。かかる外因性プロモーターは、例えば、伸長因子1-a(EF1-a)、CMV、SV40、ベータグロビンおよびPGKを含むことができる。
【0049】
本発明において、使用されるレンチウイルス粒子は、有利に、複製欠損である、すなわち、一度該レンチウイルス粒子が細胞中へ入ると、それは単独で複製して新しい粒子を形成することはできない。従って、該ウイルスの複製に必要なウイルスタンパク質をコードする遺伝子は、該レンチウイルス粒子中に存在しないかまたは欠損する。典型的に、かかる欠損は遺伝物質中の1つ以上のウイルス構造および複製機能(例えば、gag、polおよびenv遺伝子)の変異および/または欠失によるものであってもよい。複製におけるその欠損のために、本発明の複製欠損レンチウイルス粒子は、トランスコンプリメンテーションシステム(ベクター/パッケージングシステム)により得ることができる。
【0050】
レンチウイルス粒子は、該レンチウイルス粒子を調製するために使用されるレンチウイルスのエンベロープタンパク質、あるいは標的とされる細胞に関して選択される異種エンベロープタンパク質を用いて偽型化されてもよい。特定の実施形態において、これらのエンベロープタンパク質は両種性(広い宿主範囲)である。好ましい実施形態において、該レンチウイルスベクターはVSV-Gタンパク質で偽型化される。該VSV-G糖タンパク質は、異なる血清型のベシクロウイルスに由来してもよい。別の実施形態において、該レンチウイルス粒子は、MuLV両種性エンベロープ、モコラエンベロープ、EboZエンベロープ、エボラ-レストン(EboR)エンベロープ、インフルエンザ血球凝集素(HA)エンベロープ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)FおよびG、ベネズエラウマ脳炎、西ウマ脳炎および狂犬病ウイルスエンベロープタンパク質ならびにCMVエンベロープタンパク質からなる群から選択される、リンパ球の感染を媒介することができるタンパク質で偽型化される。
【0051】
レンチウイルス粒子を宿主細胞(プロデューサー細胞または標的細胞)および組み込まれる遺伝物質と接触させることを可能にする形質導入の条件の例は、当技術分野において周知であり、実験の節において記載される。
【0052】
また、伝統的な遺伝子導入アプローチに加えて、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、Zincフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)またはClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼタンパク質(Cas)システムは、二本鎖切断をし、かつ遺伝子ターゲティングの頻度を高めることができるので、それらを使用してもよい。
【0053】
また、メガヌクレアーゼが使用されてもよい。これらは、古細菌や始原細菌、バクテリア、ファージ、真菌、酵母、藻類、およびいくつかの植物オルガネラなどのさまざまな単細胞生物に由来する配列特異的エンドヌクレアーゼである。
【0054】
IL-2またはIL-15の発現は、構成的または誘導的いずれかであることができる。
【0055】
第一の実施形態において、導入遺伝子の発現は構成的である。かかる構成的発現は、いくつかの技術により、例えば、IL-2またはIL-15をコードする核酸を、構成的発現を有するプロモーターの調節下に置くことにより達成されてもよい。該プロモーターは、EF1aまたはCMVプロモーターなどの高い遺伝子発現を駆動するもの、またはPGKなどの低い発現を駆動するものの中から選択されることができる。
【0056】
別の実施形態において、導入遺伝子の発現は誘導性であってもよい、すなわち該導入遺伝子は外部刺激に応答してのみ発現される。
【0057】
誘導性プロモーターの例は、以下であってもよい:
・テトラサイクリン制御プロモーター:該システムの要素のいくつかは、テトラサイクリンリプレッサータンパク質(TetR)、テトラサイクリンオペレーター配列(tetO)、およびTetRと単純ヘルペスウイルスタンパク質16(VP16)活性化配列との融合であるテトラサイクリントランス活性化因子融合タンパク質(tTA)を含む;
・ステロイド制御プロモーター:該システムの要素のいくつかは、ラットグルココルチコイドレセプター(GR);ヒトエストロゲン受容体(ER);異なるガ種に由来するエクジソン受容体;またはステロイド/レチノイド/甲状腺受容体スーパーファミリー由来のプロモーターをカバーする種々のエンティティーの使用を含む。
・熱、冷たさまたは光により活性化されるプロモーターなどの物理的に活性化されるプロモーター。
【0058】
Giry-Laterriereら,2011,Hum Gene Ther.,22(10):1255-67は、薬物誘導性遺伝子発現のためのレンチウイルスベクターの例を記載する。
【0059】
これらのTregおよびTeffは、例えば、それらの標的化を調節するために、それらの特異性を変化させるであろうタンパク質を発現するようにさらに遺伝的に修飾されることができる。これは、特定のTCR(例えば、既知の特異性を有するTrCRのα鎖およびβ鎖の両方)、またはCAR-T細胞を設計するために使用されているような任意の標的化部分(例えば、Oladapo YekuおよびRenier Brentjens,Biochem.Soc.Trans.(2016)44,412-418を参照)を発現することにより達成されることができる。キメラ抗原受容体(CAR)T細胞構築物は、典型的に、既知の抗原に対する一本鎖可変フラグメント(scFv)からなる。
【0060】
またそれらは、その特異的破壊を可能にする分子を発現することができる。特定の実施形態において、T細胞の特異的破壊を可能にする分子をコードする導入遺伝子を発現するように、該T細胞は修飾される。
【0061】
特に、導入遺伝子は「自殺」遺伝子である。例えば、それは、ヌクレオシド類似体を一リン酸分子(それ自体、細胞酵素により、ポリメラーゼの効果下で伸長中に核酸中へ組み込まれることができる三リン酸ヌクレオチドに変換可能であり、該効果は鎖伸長の中断である)にリン酸化することができる分子をコードする遺伝子であってもよい。該ヌクレオチド類似体は、例えばアシクロビルまたはガンシクロビルであってもよい。該「自殺」遺伝子により発現される該分子は、特に、単純ヘルペスウイルス1型のチミジンキナーゼ(TK)であってもよい。該単純ヘルペスウイルス1チミジンキナーゼ(HSV1 TK)は、問題の細胞において十分な濃度で存在する場合、アシクロビル(9-((2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン)またはガンシクロビル(9[1,3-ジヒドロキシ-2-プロポキシメチル]グアニン)などのヌクレオチド類似体を一リン酸分子(それ自体、細胞酵素により該細胞内でポリメラーゼの効果下で伸長中に核酸中へ組み込まれることができる三リン酸ヌクレオチドに変換可能であり、該効果は、鎖伸長の中断およびそれに続く細胞死である)にリン酸化することができる。任意の有害反応の場合、該ヌクレオチド類似体(例えばガンシクロビル)は、次いで患者に投与される。また該自殺遺伝子は、毒性のない5-フルオロシトシン(5-FC)を毒性のある5-フルオロウラシル(5-FU)に変換するシトシンデアミナーゼであることができ、または、それは誘導性カスパーゼ-9自殺遺伝子であることができる。
【0062】
形質導入プロトコルの例は、国際特許出願WO2009/053629に記載される。
【0063】
IL-2の発現は、Tregの抑制機能を増大させる。IL-2を発現するTregは、より良好に生存するだけでなく、IL-2を発現しないTregよりも良好に機能するであろう。Treg機能の他の改善は、IL10、TGFβなどの抑制性サイトカインをコードする遺伝子を共発現させることにより達成されることができる。
【0064】
細胞療法
本発明に従って修飾されたTregおよびTeffは、細胞療法において有用である。
【0065】
特に、患者における自己免疫疾患または炎症性疾患を治療するための方法が記載され、該方法は、かかるTregを含む組成物の有効量を投与することを含む。
【0066】
自己免疫疾患または炎症性疾患は、限定するものではないが、I型真性糖尿病(T1D)、クローン病、潰瘍性大腸炎、重症筋無力症、グレーブス病、橋本病、アジソン病および自己免疫性胃炎および自己免疫性肝炎、慢性関節リウマチおよび脊椎関節炎を含むリウマチ性疾患、全身性エリテマトーデス、全身性硬化症およびその変種、多発性筋炎および皮膚筋炎、悪性貧血、自己免疫性血小板減少症、シェーグレン症候群、多発性硬化症、乾癬およびぶどう膜炎からなる群から選択されてもよい。当業者は、所望により、本発明の方法をこれらのまたは他の自己免疫疾患に適用できることを理解する。
【0067】
喘息、食物または皮膚アレルギーを含むがこれらに限定されないアレルギーの治療も包含される。
【0068】
別の態様において、患者における移植片拒絶または移植片対宿主病(GVHD)の危険性を予防または低減するための方法が提供され、該方法は、本明細書に記載されるように修飾されたTregを該患者に投与することを含む。
【0069】
典型的に、患者は造血幹細胞移植を必要としていてもよい。該患者は実際に、HSCの移植により治療されてもよい任意の疾患に罹患していてもよい。これは、特に、悪性血液疾患などの癌、ならびに遺伝性疾患、造血系および/または免疫系に影響する疾患を含んでもよい。
【0070】
特定の実施形態において、Tregは、国際特許出願WO2009/053631に開示されるように、造血幹細胞の同種移植などの造血幹細胞の移植前の患者の「コンディショニング」中に投与されてもよい。
【0071】
処方および投与方法を含む細胞療法は、当技術分野において既知であり、本明細書に記載されるT制御性細胞およびベクターに適用されることができる。例えば、EP1153131を参照のこと。
【0072】
別の実施形態において、患者における癌を治療するための方法が記載され、該方法は、かかる修飾Teffを含む組成物の有効量を投与することを含む。
【0073】
癌は、固形腫瘍または悪性血液疾患であってもよい。
【0074】
固形腫瘍のうち、肺癌、皮膚癌、腎臓癌、膀胱癌、骨癌、肝臓癌、膵臓癌、卵巣癌、乳癌、子宮癌、前立腺癌、結腸癌、結腸直腸癌、頭頸部癌などが挙げられてもよい。
【0075】
悪性血液疾患のうち、急性白血病、骨髄異形成症、またはリンパ増殖性症候群(慢性リンパ性白血病、骨髄腫、リンパ腫など)、骨髄異形成、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、および急性骨髄芽球性白血病(AML)、リンパ腫、または骨髄腫が挙げられてもよい。
【0076】
患者は、特に腫瘍の再発、例えば悪性血液疾患の再発に罹患していてもよい。
【0077】
さらに別の態様において、患者における感染症を治療するための方法が提供され、該方法は、かかる修飾Teffを含む組成物の有効量を投与することを含む。該感染症は、任意の病原体による感染症、例えば、HIV、HBV、HCV、ならびにEBVまたはCMVなどのウイルス感染症であってもよい。
【0078】
大量の修飾T細胞およびTregは、様々な商業的および臨床的適用に有用である。これは、例えば少なくとも1,000,000個の細胞を含む。特定の実施形態において、細胞調製物は少なくとも5×109個のT細胞を含む。
【0079】
所望の量を得るために、TregおよびTeffは、一度遺伝的に修飾されると、適切な培養培地中で培養されてもよい。
【0080】
典型的に、T細胞の組成物は静脈内経路により投与される。投与するTregおよびTeffの量は、対象の年齢、体重および性別、ならびに治療する特定の疾患に依存してもよい。範囲の例は、100,000から10億個以上の細胞、好ましくは100万から10億個以上のT細胞である。
【0081】
以下の実施例は本発明を説明するものであり、その範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0082】
実施例1:IL-2を発現するレンチウイルスベクターの設計
レンチウイルスを用いて、ヒトTregにIL-2遺伝子を導入し、恒久的かつ構成的に発現させた。
【0083】
ベクターの地図を
図1として示す。実験に関連する目的のために、例えば、形質導入細胞を容易に同定するために、GFP導入遺伝子を組み込む。臨床適用のために、該GFP導入遺伝子は、存在しないか、またはさらなる所望の機能性(すなわち、標的化または追加の抑制機能)を提供する任意の他の導入遺伝子により置換されることができる。
【実施例2】
【0084】
実施例2:hIL2を形質導入されたTregのin vitroでの自給
ヒトTregを精製し、実施例1に記載されるレンチウイルスベクター(これはヒトIL-2およびGFPをコードする)で形質導入した。
【0085】
その目的のために、抗CD25抗体およびMACSで被覆された磁気ビーズを使用して、CD25高発現に基づいて、健康なドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)からTregを精製した。CD3+CD4+CD25 高 CD127 低 Tregの純度は、>90%である。
【0086】
次いで、抗CD3/抗CD28ビーズによる活性化の後、外因性IL-2(600UI/mL)およびラパマイシン(100nM)の存在下でTregを0.5~1×106細胞/mLで48時間培養した。次いで、細胞を洗浄し、25のMOIでレンチウイルス上清で形質導入した。次いで、細胞をインキュベーター中37℃で培養した。
【0087】
陰性対照として、他のヒトTregを、GFPをコードするベクター単独で感染させるか(ベクター対照)、または感染させずに使用した(NI)。TregのIL-2依存性を観察するために、Tregを、外因性IL-2を補足した、または外因性IL-2を補足しない培地中で9日間、in vitroで培養する。Tregの拡大の動態曲線を
図2A、2Bに示す。
【0088】
外因性IL-2の非存在下で、IL-2をコードする遺伝子(hIL-2-2A-GFP)で形質導入されたTregは、6日目から15日目の間に増殖し、一方、非形質導入Treg(NI)またはGFP対照ベクターで形質導入されたTregは増殖しなかった(
図2A)。形質導入細胞または対照細胞は、外因性IL-2の存在下で同様に増殖する(
図2B)。
【0089】
類似の実験において、細胞を最初に全てIL-2の存在下で6日間増殖させ、次いでIL-2なしで培養する。Treg
GFPおよびTreg
IL2は外因性IL2の存在下で同様に増殖する一方、Treg
IL2のみがその非存在下で増殖し続ける(
図2C)。これらの結果は、hIL-2遺伝子を形質導入されたTregが自立性であり、かつin vitroで拡大することを示す。
【0090】
さらに、表現型研究(
図2DおよびE)は、Treg
IL2が高度に活性化され、かつ抑制的であることを示す。外因性IL-2なしで培養されたTreg
GFPは、対照の新鮮Tregと同じレベルのCD25およびFoxp3を発現し、pSTAT5を発現しない。対照的に、Treg
IL2は、対照の新鮮Tregよりも高レベルのCD25およびfoxp3を発現し、pSTAT5も高度に発現し、全てが高度に活性化された状態を示す。
【0091】
この高い抑制活性を
図3に示す。Tregに対する古典的抑制アッセイを、各細胞分裂で次第に失われる蛍光色素で染色されたTeffに対し、増加量のTregを添加することにより行う。Tregの非存在下で、より小さい強度の異なるピークにより示されるように(
図3A)、約60%のTeffが分裂する。Tregを加えると、Teffの分裂は1/8 Treg/teffの比率まで抑制され、ここで、Teffの約6%が分裂され、1/16の比率でTeffの約12%が分裂される(
図3C)。
【実施例3】
【0092】
実施例3:hIL2を形質導入されたTregのin vivoでの自給
hIL-2を形質導入されたTregの生存および自給を、免疫不全NOD/SCIDガンマc KO(NSG)マウスにおいてin vivoで研究した。
【0093】
該NSGマウスは、T、BおよびNK細胞を完全に欠いており、IL-2を産生しない。この実験モデルを、IL-2を発現するTregのin vivoでの自給を検証するために選択した。
【0094】
従って、IL-2をコードする遺伝子を形質導入されたTregを、NSGマウスに導入した。注射された細胞は、約10%のGFP+細胞(故に、IL-2を発現している)を含有し、残りは非形質導入細胞であった。
【0095】
まず、これら全ての細胞の生存を、末梢血中でモニターした(
図4)。
【0096】
0日目に養子導入した場合、IL-2およびGFPをコードするベクターで形質導入されたT細胞集団は、10%の形質導入細胞(すなわちGFPを発現した)を含有し、GFPのパーセンテージは、該マウスの25日の追跡調査中、連続的に上昇する(
図4A)。
【0097】
独立した実験において、Treg
IL2およびTreg
GFP細胞の生存を比較した。養子導入細胞の集団内の形質導入細胞のパーセンテージは、GFPのみを形質導入されたTregについて安定したままであり、これは、該GFP形質導入細胞が非形質導入細胞を上回る増殖/生存の利点を有さないことを示す。対照的に、養子導入細胞の集団内の形質導入細胞のパーセンテージは、IL2(+GFP)を形質導入されたTregについて漸進的に増加し、これは、該IL2形質導入細胞が非形質導入細胞を上回る増殖/生存の利点を有することを示す(
図4B)。形質導入された養子導入細胞を数えると、該数はTreg
GFPについて急速に減少するが、一方でTreg
IL2について最初は増加することが示される(
図4C)。
【0098】
まとめると、これらの結果は、hIL-2遺伝子を発現するTregだけが自立性であり、かつin vivoで生存することができることを示す。
【0099】
養子導入細胞の表現型は、Treg
IL2が高度に活性化されることを示す。導入後14日目に、Treg
GFPよりもはるかに多くの生存Treg
IL2が存在し(
図5A左パネル)、それらはわずかな生存Treg
GFPよりも高レベルのCD25およびFoxp3を発現する(
図5A右パネルおよび
図5B)。生存細胞数の差は、マウスを安楽死させた時点で、35日目でさらにより顕著であり(
図5C)、養子導入細胞の生存を組織内でモニターした(
図5D)。生存Treg
GFPは肝臓でしか見出すことができず、それらは低レベルのCD25およびFoxp3を発現する。対照的に、多くのTreg
IL2細胞は脾臓、肝臓および肺で検出されることができ、それらが組織で再増殖することを可能にするTreg
IL2の生存の利点を強調する。注目すべきことに、これらの細胞はCD25およびFoxp3も高度に発現する。
【実施例4】
【0100】
実施例4:シトシンデアミナーゼ(CD)遺伝子の機能性
5-フルオロシトシン(5-FC)および5-フルオロウラシル(5-FU)は、シトシンの2つのヌクレオシド類似体である。5-FCは不活性であるが、シトシンデアミナーゼ(CD)の存在下で5-FUに代謝される。次いで、5-FUは、ウリジンホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT)により5-FU一リン酸(5-FU-MP)に変換される。5FU-MPは、タンパク質合成を阻害することにより5-FC三リン酸にリン酸化されてRNA中へ組み込まれることができるか、または、DNA合成に必須のチミジル酸シンテターゼを阻害するUPRTの存在下で5-フルオロデオキシウリジン一リン酸に変換されることができる。CD自殺遺伝子の機能性を検証するために、形質導入されたTリンパ球をGFP発現に基づいて精製し、次いで、5-FCの存在下で4日間培養した。細胞増殖を、トリチウム化チミジンの取り込みにより決定した(
図6)。
【実施例5】
【0101】
実施例5:hIL2を形質導入されたTeffの優れた機能性
実験的移植片対宿主病(GVHD)のモデルにおいて、IL-2を発現するTeff(TeffIL2)の効率を評価した。T細胞を欠くNSGマウスに、TeffGFPまたはTeffIL2を養子導入する。肝臓の重量減少および細胞浸潤は、この実験で分析されるGVHDの2つの主な徴候である。Teffを受けていない対照マウスは体重が増加する一方、Teffを養子導入したマウスは3週間で体重減少が開始した。TeffIL2を受けているマウスは、TeffGFPを受けているマウスよりも体重が減った(7A)。肝臓のT細胞浸潤は、TeffGFPを受けているマウスよりもTeffIL2を受けているマウスの方がはるかに顕著であった(7B)。体重減少および肝細胞浸潤は、TeffIL2により誘導されたGVHDがTeffGFPにより誘導されたものよりも顕著であることを示し、同様に、TeffGFPと比較してTeffIL2の優れた機能性を示す。
【配列表】