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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/30 20200101AFI20230110BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20230110BHJP
   C08F 220/44 20060101ALI20230110BHJP
   C08L 33/26 20060101ALI20230110BHJP
   C07C 233/20 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
A61K6/30
A61K6/887
C08F220/44
C08L33/26
C07C233/20
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019529603
(86)(22)【出願日】2017-12-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 EP2017082485
(87)【国際公開番号】W WO2018108948
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-01-20
(31)【優先権主張番号】16204000.0
(32)【優先日】2016-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502289695
【氏名又は名称】デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】フィック,クリストフ・ペー
(72)【発明者】
【氏名】クレー,ヨアヒム・エー
(72)【発明者】
【氏名】シェフラー,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーバー,クリストフ
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-533800(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0075831(US,A1)
【文献】WAKICHI FUKUDA; ET AL,CYCLOPOLYMERIZATION OF N-ALKYL-N-ALLYLACRYLAMIDES,POLYMER JOURNAL,日本,1988年04月,VOL:20, NR:4,PAGE(S):337 - 344,http://dx.doi.org/10.1295/polymj.20.337
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/30
A61K 6/887
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 下記の式(I)の重合性化合物:
【化1】

(式中、
Rは直鎖または分枝鎖のC2-18アルキルまたはアルケニル基を表し、これらはヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基およびカルボキシル基から選択される基で置換されていてもよく、C2-18アルキルまたはアルケニル基の主鎖中の1~8個の炭素原子は、互いに独立して、酸素原子および硫黄原子から選択されるヘテロ原子によって置換されていてもよく、
は、水素原子またはメチル基を表す);
(b) 重合開始剤系、及び
(c) 有機水溶性溶媒及び/又は水から選択される一種以上の溶媒、又は 充填材を含む、歯科用組成物。
【請求項2】
Rは、下記の式(II)
【化2】

の基であり、
(式中、
Xは水素原子、ヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基またはカルボキシル基であり;
Zは酸素原子または硫黄原子であって、複数のZが存在する場合、前記Zは同一または異なっていてもよく;
はヒドロキシル基、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基または水素原子であり、複数のRが存在する場合、同一でも異なっていてもよく;
はヒドロキシル基、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基または水素原子であり、複数のRが存在する場合、同一でも異なっていてもよく;
a は0または1であり;
b は2~18の整数であり;
c は2~16の整数であり;
d は0~8の整数であり;
e は、1~3の整数である)、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
重合性化合物は下記の式(III)または(IV)の化合物であって:
【化3】

(式中、
は水素原子またはメチル基を表し、
Xはヒドロキシル基、三級アミノ基またはカルボキシル基であり;
nは5~18の整数であり、
mは2~15の整数である)、請求項1または2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記式(III)の化合物におけるnは6~12であり、または前記式(IV)の化合物におけるnは2~8である、請求項3に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
前記式(I)の重合性化合物の23℃における動的粘度が、最大で10Pa・sである、請求項1~4のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
Xがヒドロキシ基またはカルボキシル基である、請求項1~5のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
前記式(I)の化合物が、組成物の総重量に基づいて1~80重量パーセントの量で含有される、請求項1~6のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記重合開始剤が光開始剤、レドックス開始剤、またはそれらの混合物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
前記重合開始剤が、組成物の総重量に基づいて0.01~10重量パーセントの量で含有される、請求項1~8のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
高充填歯科用複合材、流動性歯科用複合材、小窩裂溝封鎖材、歯科用接着剤、歯科用セメント、根管シーラー、グラスアイオノマーセメントおよび歯科用溶浸剤から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項11】
下記の式(I’):
【化4】

の重合性化合物
(式中、
R’は直鎖または分枝鎖のC5-18アルキルまたはアルケニル基を表し、これらはヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基およびカルボキシル基から選択される基で置換されていてもよく、C5-18アルキルまたはアルケニル基の主鎖中の1~8個の炭素原子は、互いに独立して、酸素原子および硫黄原子から選択されるヘテロ原子によって置換されていてもよく、
’は、水素原子またはメチル基を表し、
但し、前記化合物は、N-アリル-N-トリデシルアクリルアミド、N-アリル-N-(2,5,8,11-テトラオキサトリデカン-13-イル)アクリルアミドまたはN-オクチル-N-アリルアクリルアミドではない)。
【請求項12】
R’は、下記の式(II’)
【化5】

の基であって、
(式中、
Xは水素原子、ヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基またはカルボキシル基であり;
Zは酸素原子または硫黄原子であって、複数のZが存在する場合、前記Zは同一または異なっていてもよく;
はヒドロキシル基、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基または水素原子であり、複数のRが存在する場合、同一でも異なっていてもよく;
はヒドロキシル基、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基または水素原子であり、複数のRが存在する場合、同一でも異なっていてもよく;
aは0または1であり;
bは2~18の整数であり;
cは2~16の整数であり;
dは0~8の整数であり;
eは1~3の整数であり、
但し、a=d=0であるとき、bは少なくとも5である)、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
下記の式(III’)または(IV’):
【化6】

(式中、
’は水素原子またはメチル基を表し、
X’は水素原子、ヒドロキシル基、三級アミノ基またはカルボキシル基であり;
n’は5~18の整数であり、
m’は2~15の整数である)
の化合物である、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
以下の化合物:
【化7】

から選択される、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
歯科用組成物における請求項11~14のいずれか一項に記載の化合物の、歯科用組成物の製造のための使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の重合性化合物および重合開始剤系を含む歯科用組成物に関する。さらに本発明は、歯科用組成物における特定の重合性化合物等およびその使用に関する。本発明の特定の重合性化合物は、N-アリル(メタ)アクリルアミド基を有し、窒素原子は、ヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基およびカルボキシル基から選択される基でさらに置換されてもよいアルキルまたはアルケニル基でさらに置換され、アルキルまたはアルケニル基の主鎖中の1~8個の炭素原子は、互いに独立して、酸素原子および硫黄原子から選択されるヘテロ原子によって置換されていてもよい。
【背景技術】
【0002】
重合性化合物を含有する重合性歯科用組成物が知られている。従来、重合性歯科用組成物は、広範囲の用途に提供されており、したがって、多様な要件を満たさなければならない。例えば、重合性歯科用組成物は、歯科用接着剤組成物、結合剤、小窩裂溝封鎖材、歯科用減感作用組成物、歯髄覆罩組成物、歯科用複合材、歯科用グラスアイオノマーセメント、歯科用セメント、又は歯科用根管シーラー組成物、又は歯科用インフィルトラントであってもよい。
【0003】
典型的には、(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリルアミドが、重合性歯科用組成物の重合性化合物として使用される。ラジカル重合における高い反応性のため、(メタ)アクリレートが特に好ましい。メタクリレートの二重結合当たりの重合エンタルピーは、-ΔH=30~45kJ/molの範囲にあり、およびアクリレートの二重結合当たりの重合エンタルピーは、-ΔH=45~60kJ/molの範囲にある。架橋能を提供するために、ビス-GMAなどの多官能性(メタ)アクリレートは、早くも1962年に歯科用用途に使用された。
【0004】
しかしながら、高い反応性にもかかわらず、従来の重合性化合物は浸出問題のために問題であり、それによって未反応モノマーは例えば70%未満の不十分な変換率のために重合歯科用組成物から浸出する。この滲出問題は、毒物学的懸念を生じさせ、および/または硬化した歯科用組成物の不十分な機械的特性をもたらし得る。
【0005】
さらに、歯科用組成物用の従来の重合性化合物はしばしば高い動的粘度を有し、歯科用組成物の粘度を下げるために追加の成分の使用を必要とすることがある。動的粘度を調整するための典型的な成分は反応性希釈剤および/または溶媒である。しかしながら、そのような追加の成分は、歯科用組成物の貯蔵安定性および硬化特性、特に収縮に影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
最後に、歯科用接着剤またはガラスアイオノマーなどの酸性組成物は、高い加水分解安定性を有する水相溶性の重合性化合物を必要とする。
【0007】
従来の重合性化合物は、典型的には、組み合わせにおいて、高い反応性、低い粘度および加水分解安定性を特徴としない。
【0008】
M.Porelら、Journal of the American Chemical Society、2014、136、13162~13165頁は、窒素原子がC1-4アルキル、2-ジメチルアミノエチルまたは2-ヒドロキシエチルで置換されているN-アリルアクリルアミド化合物を開示している。これらの化合物は、定序性ポリマーを調製するための出発物質として使用される。
【0009】
E.Ascicら、Angewandte Chemie International Edition、2011年、50、5188~5191頁は、N-[1-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロピル]-N-2-プロペン-1-イル-2-プロペンアミドを開示している。この化合物は二環式化合物を調製するための出発物質として使用される。
【0010】
米国特許出願公開第2016/075831号明細書は、N-アリル-N-トリデシルアクリルアミドおよびN-アリル-N-(2,5,8,11-テトラオキサトリデカン-13-イル)アクリルアミドを含むモノマーを重合することによって、定序性ポリマーおよびかかるポリマーを製造する方法を開示している。
【0011】
Wakichi Fukudaら、“Cyclopolymerization of N-Alkyl-N-allylacrylamides”、PolymerJournal、Vol.20,no.4(1988)、337~344頁は、N-オクチル-N-アリルアクリルアミドを開示している。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、高い反応性、低い動的粘度および優れた加水分解安定性を有する、従来の(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリルアミドと共重合性である重合性化合物を含む歯科組成物を提供することである。
【0013】
第一の態様によると、本発明は、
(a) 下記の式(I):
【化1】

(式中、
Rは直鎖または分枝鎖のC2-18アルキルまたはアルケニル基を表し、これらはヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基およびカルボキシル基から選択される基で置換されていてもよく、C2-18アルキルまたはアルケニル基の主鎖中の1~8個の炭素原子は、互いに独立して、酸素原子および硫黄原子から選択されるヘテロ原子によって置換されていてもよく、および、
は、水素原子またはメチル基を表す)、の重合性化合物、および
(b) 重合開始剤系、を含む、歯科用組成物を提供する。
【0014】
第二の態様によると、本発明は、以下の式(I’):
【化2】

の重合性化合物であって、
(式中、
R’は直鎖または分枝鎖のC5-18アルキルまたはアルケニル基を表し、これらはヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基およびカルボキシル基から選択される基で置換されていてもよく、C5-18アルキルまたはアルケニル基の主鎖中の1~8個の炭素原子は、互いに独立して、酸素原子および硫黄原子から選択されるヘテロ原子によって置換されていてもよく、および、
’は、水素原子またはメチル基を表す)、重合性化合物を提供する。
【0015】
式(I’)の化合物は、好ましくはN-アリル-N-トリデシルアクリルアミド、N-アリル-N-(2,5,8,11-テトラオキサトリデカン-13-イル)アクリルアミドまたはN-オクチル-N-アリルアクリルアミド以外である。
【0016】
第三の態様によると、本発明は、歯科用組成物中の以下の式(I’)の上記に定義された重合性化合物の使用を提供する。
【0017】
本発明は、式(I)または(I’)の重合性化合物が23℃で好ましくは最大で10Pa・sの低い動的粘度を有するという認識に基づく。したがって、化合物自体の加工、ならびに式(I)または(I’)の重合性化合物を含む歯科用組成物の扱い方は優れている。さらに、式(I)または(I’)の重合性化合物は、重合エンタルピー-ΔHに関して高い反応性を有し、好ましくは約50~75kJ/molである。最後に、式(I)または(I’)の重合性化合物は優れた加水分解安定性を有する。
【0018】
低い動的粘度、高い反応性および優れた加水分解安定性の組み合わせにより、式(I)または(I’)の重合性化合物を、浸潤剤などの低粘度の歯科用組成物において、追加の溶媒または反応性希釈剤なしで重合性化合物として使用することができる。さらに、式(I)または(I’)の重合性化合物は、高粘度歯科用組成物の動的粘度を低下させるための反応性希釈剤として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
「N-アリル(メタ)アクリルアミド」とは、アミド基の窒素原子がアリル基によって置換される(メタ)アクリルアミド基を指す。
【0020】
「重合」という用語は、多数の化合物を組み合わせることによって大きな分子、すなわち高分子またはポリマーを形成することに関連する。化合物の文脈での「重合性」という用語は、共有結合の形成下で化合物を重合する能力を指す。重合性化合物は、線形の高分子を形成し得るか、または三次元ネットワーク構造を有する架橋ポリマーを形成するために組み合わせ得る。単一の重合性官能基を有する重合性化合物は直鎖状ポリマーを形成し、一方少なくとも二つの重合性官能基を有する重合性化合物はポリマーネットワークとしても知られる架橋ポリマーを形成し得る。
【0021】
本明細書で使用される用語「重合性化合物」は、少なくとも一つの重合性二重結合、好ましくは炭素-炭素二重結合を有する化合物を意味する。式(I)、(III)、(IV)、(I’)、(III’)および(IV’)の重合性化合物において、(メタ)アクリロイル基およびアリル基は重合性二重結合を含む。少なくとも二つの重合性官能基を含む本発明の重合性化合物は、環状構造の形成がネットワーク密度を低下させる点で特有である。
【0022】
用語「硬化」は、重合性化合物、例えばモノマー、オリゴマー、または更にはポリマーの、好ましくは架橋ポリマーネットワークへの重合を意味する。
【0023】
「重合開始剤系」という用語は本明細書で使用される場合、重合性化合物の重合化を開始することができる任意の化合物または化合物の混合物を意味する。
【0024】
「浸潤剤」という用語は、カリエスエナメル病変および象牙質細管などの多孔性固体に容易に浸透することによって浸潤するように適合された液体歯科用組成物を意味する。浸潤後、浸潤剤は硬化されてもよい。
【0025】
本発明は、重合開始剤系によって重合性または共重合性である歯科用組成物を提供する。
【0026】
歯科用組成物は、口腔内で使用される歯科用材料であってもよい。好ましくは、本発明による歯科用組成物は、高充填歯科用複合材、流動性歯科用複合材、小窩裂溝封鎖材、歯科用接着剤、歯科用セメント、根管シーラー、グラスアイオノマーセメントおよび歯科用溶浸剤から選択される。
【0027】
重合性化合物(a)
本発明の歯科用組成物は、(a)重合性化合物を含む。歯科用組成物は、一つまたは複数の重合性化合物(a)を含み得る。重合性化合物(a)は下記の式(I):
【化3】

の化合物である。
【0028】
式(I)において、Rは直鎖または分枝鎖のC2-18アルキルまたはアルケニル基を表し、これらはヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基およびカルボキシル基から選択される基で置換されていてもよく、C2-18アルキルまたはアルケニル基の主鎖中の1~8個の炭素原子は、互いに独立して、酸素原子および硫黄原子から選択されるヘテロ原子によって置換されていてもよく、および、Rは、水素原子またはメチル基を表す。
【0029】
式(I)のRの定義における「第三級アミノ基」という用語は、同一でも異なっていてもよく、独立してC1-4アルキル基、好ましくはメチル基、から選択される二つの基で置換されたアミノ基を意味する。
【0030】
好ましくは、Rは下記式(II):
【化4】

の基である。
【0031】
式(II)において、Xは水素原子、ヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基またはカルボキシル基を表し、Zは酸素原子または硫黄原子を表し、Zが複数存在する場合、同一でも異なっていてもよい。Rは水素原子またはヒドロキシル基、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基およびカルボキシル基から選択される基である。基Rが複数存在する場合、それらの基は同一でも異なっていてもよい。Rは水素原子またはヒドロキシル基、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基およびカルボキシル基から選択される基である。基Rが複数存在する場合、それらの基は同一でも異なっていてもよい。
【0032】
式(II)において、aは0または1であり、bは2~18の整数であり、cは2~16の整数であり、dは0~8の整数であり、そしてeは1~3の整数である。
【0033】
式(II)の「a」が1である場合、Rは、式(I)のN-アリル(メタ)アクリルアミド基の窒素原子に結合している単一のアリル部分-[HC-CH=CH]-を含む。下記式(IV)を参照のこと。式(II)において、「a」が0である場合、Rはアリル部分を含まない。
【0034】
式(II)の化合物は、任意のアリル部分-[HC-CH=CH]-および単位-[CHRおよび-[Z-[CHR.を含む。結果得られた組み合わせ単位-[[CHR-[Z-[CHRは単位(II)e倍に含まれ得る。組み合わせ単位-[[CHR-[Z-[CHRにおいて、dは0であり得るため、単位-[Z-[CHRは任意である。したがって、dが0である場合、式(II)の置換基Xは-[Z-[CHRから成る鎖の末端位置に結合している。dが1~8である場合、式(II)のXは-[Z-[CHRから成る鎖の末端位置に結合している。dが0の場合、cの選択は冗長になることが理解されるが、なぜならそれはこの場合、単位-[Z-[CHRが式(II)に含まれないからである。
【0035】
説明のために、式(II)の基の二つの特定の例をここに挙げる:a=0、b=5、d=0、e=1、Rが水素原子であり、Xがヒドロキシル基の場合、式(II)はn-ペンチル-5-オール-(CH-OHである。または、a=0、b=5、c=2、d=3、e=1、Zが酸素原子であり、RおよびXがそれぞれ水素原子を表す場合、式(II)はn-ペンチル-5-トリ-エチレングリコール(-(CH-[O-CH-CH-OH)である。
【0036】
好ましくは、式(II)において、aは0または1であり、bは2~12の整数であり、cは2~8の整数であり、dは0~8の整数であり、そしてeは1または2である。より好ましくは、式(II)において、aは0または1であり、bは2~9の整数であり、cは2~4の整数であり、dは0~2および5~8の整数であり、そしてeは1または2である。最も好ましくは、式(II)において、aは0または1であり、bは2~6の整数であり、cは2であり、dは0または5~8の整数であり、そしてeは1である。
【0037】
式(I)の重合性化合物は、スキーム1に示すように、例えば式(VI)の化合物から得られた式(V)のN-アリル化合物から開始して調製されてもよい:
【化5】
【0038】
式(VI)および(V)の化合物において、Rは式(I)の化合物について上記で定義したのと同じ意味を有する。
【0039】
例えば、M.Porelら、Journal of the American Chemical Society、2014、136、13162~13165頁は、上記のスキーム1で示される合成経路によって、窒素原子がC1-4アルキル、2-ジメチルアミノエチルまたは2-ヒドロキシエチルで置換されているN-アリルアクリルアミド化合物の調製を開示している。この調製は、式(I)の重合性化合物の調製に対して適用され得る。
【0040】
式(VI)の出発化合物がNHである場合、ハロゲン化アリル、好ましくは臭化物または塩化物が適用され、AがBr、Cl、またはIである場合、アリルアミンが適用される。
【0041】
式(VI)の出発化合物は、例えばC2-18アルキルもしくはアルケニルジオール、C2-18アルカノールもしくはアルケノール、C1-4アルコキシC2-18アルカノールまたはアルケノール、三級アミノC2-18アルカノールまたはアルケノール、およびカルボキシルC2-18アルカノールまたはアルケノールからなる群から選択されるアルカノールもしくはアルケノール誘導体を、ヨウ化水素酸、臭化水素酸または塩酸(HI、HBr、HCl)と反応させることにより調製することができる。それによって、上記アルカノールまたはアルケノール誘導体のヒドロキシル基は、ヨウ素、臭素または塩素原子で置換される。
【0042】
式(VI)および(V)の化合物において、Rは、ヒドロキシル基、1-4アルコキシ基、三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基で置換されていてもよい。これらの基のうち、特にヒドロキシル基およびカルボキシル基は、ハロゲン化アリルまたはアミンおよび/または(メタ)アクリロイルハロゲン化物と望ましくなく反応し得る反応性基を表す。このような望ましくない副反応を回避するために、ヒドロキシルまたはカルボキシル基などの反応性基の副反応を回避するように反応条件を適切に設定することができる。代替でまたは追加で、任意の反応基は保護基によって保護されていてもよい。任意の反応性基が保護されている場合、式(V)の化合物を式(I)の化合物に変換するために追加の脱保護ステップが必要であり得る。
【0043】
式(VI)、(V)および(I)のRの任意の反応性基については、保護基は、例えばヒドロキシル基またはカルボキシル基は、式(VI)の化合物を式(I)の重合性化合物に変換するために適用される反応条件下で切断可能でない限り、特に限定されないが、これは典型的には基本的反応条件である。例えば、反応性基は、任意の従来の保護基、例えばP.G.M.WutsおよびT.W.Greene, Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis,4th Edition,John Wiley and Sons Inc.,2007に記載されるヒドロキシルまたはカルボキシル保護基によって保護され得る。ヒドロキシル基に対する特に好ましい保護基は、例えば、アリルおよびベンジルエーテル基などである。カルボキシル基を表す反応性基のための特に好ましい保護基はベンジルエステル基である。これらの特に好ましい保護基は、プラチナまたはパラジウムなどの適切な触媒の存在下で水素化によって簡単に除去され得る。
【0044】
式(I)の化合物において、アリル基は、以下のスキーム2に従う分子内環化重合反応において(メタ)アクリル基の重合可能な炭素-炭素二重結合と共に互いに結合し得ると考えられる:
【化6】
【0045】
分子内環化重合により、追加的な反応エンタルピーが得られる。すなわち、式(I)の化合物の反応性は、隣接したN-アリル基を欠く従来の(メタ)アクリレートと比較して増加する。この分子内環化重合は、重合エンタルピー-ΔHに関して約50~75kj/molの増加した反応性を提供することが好ましい。それによって、好ましくは少なくとも70%の高い変換率が達成され、それによって浸出問題が軽減される。さらに、ネットワーク密度は、同一モル質量及び同一数の重合性二重結合を有するが、N-アリル(メタ)アクリルアミド基を欠く重合性化合物と比較して重合応力を減少させることができる分子内周期化によって減少される。
【0046】
環の形成は、例えば、赤外分光法(IR)のみによりまたは更なる分析方法、例えば核磁気共鳴分光法(NMR)と組み合わせて行うことができる。
【0047】
好ましくは、式(I)の重合性化合物は以下の構造式(III)または(IV):
【化7】

から選択される。
【0048】
式(III)および(IV)において、Rは水素原子またはメチル基、好ましくは水素原子を表し、Xは水素原子、ヒドロキシル基、第三級アミノ基またはカルボキシル基を表し、nは5~18の整数であり、mは2~15の整数である。
【0049】
好ましくは、式(III)の化合物において、nは6~12であり、そして式(IV)の化合物において、nは2~8である。
【0050】
式(IV)の化合物は、それらが隣接部分-CH-N-アリルの水素原子にC-H酸性を付与する二重結合を含有するため、好ましい。理論に束縛されることを望まないが、(メタ)アクリル基の重合性C-C二重結合と組み合わせたこのC-H酸性度は、式(IV)の化合物の特に有利な重合エンタルピー及び粘度を提供すると考えられる。更に、上記のC-H酸性度により、式(IV)の化合物は有利な最大重合速度及び望ましい機械的特性、例えば曲げ強度を提供し得る。
【0051】
好ましい式(I)の化合物は、以下の構造式を有する:
【化8】
【0052】
上記に示した式(I)の特に好ましい重合性化合物から、アクリロイル化合物が最も好ましい。
【0053】
式(I)のRが分岐および/または置換アルキルまたはアルケニル基を表す場合、Rは一個以上のキラル中心、すなわち四個の異なる置換基をそれぞれ有する一つまたは複数の炭素原子を有していてもよい。例えば、R=2-ヒドロキシプロピルを有する式(I)の上記に示された特に好ましい化合物は、その構造式において「」で示される一つのキラル中心を有する。
【0054】
一つのキラル中心を有するRを有する式(I)の重合性化合物からは、二つのエナンチオマーが存在する。エナンチオマーはスーパーインポーズすることができない互いの鏡像を表す。二つ以上のキラル中心を有するRを有する式(I)の重合性化合物からは、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーが存在する。ジアステレオマーは鏡像を表さず、それらは異なる物理的性質および異なる化学反応性を有する。すなわち、式(I)の重合性化合物について、一つまたは複数のキラル中心を有するRを適切に選択することによって、そのエナンチオマーまたはジアステレオマーの化学反応性およびそのジアステレオマーの物理的性質を有利に設定することができる。
【0055】
式(I)、(III)および(IV)の化合物に関して、Xがヒドロキシル基またはカルボン酸基であることが好ましい。そのような化合物は歯科用組成物にとって興味深い反応性成分を表す。例えば、これらの化合物はガラスアイオノマー歯科用組成物中のガラス成分を浸出させることがある。
【0056】
式(I)の重合性化合物の動的粘性は、23℃で最大10Pa・sであることが好ましい。
【0057】
好ましくは、式(I)の重合性化合物は、50~75kJ/molの重合エンタルピー-ΔHを有する。
【0058】
本発明による歯科用組成物では、式(I)の重合性化合物は、組成物の総重量に基づいて、好ましくは最大で約95重量パーセント、好ましくは1~80重量パーセント、より好ましくは10~50重量パーセントの量で含有される。
【0059】
具体的には、歯科用浸潤剤については、式(I)の重合性化合物は、組成物の総重量に基づいて、好ましくは少なくとも50重量パーセント、より好ましくは60~95重量パーセント、最も好ましくは65~80重量パーセントの量で含有される。
【0060】
式(I)の大量の(a)重合性化合物に対しては、浸潤剤の形態の本発明の歯科用組成物は、カリエスエナメル病変に容易に浸透し、次いでそれらを浸潤させる。式(I)の化合物はまた、優れた硬化特性および有利な加水分解の安定性を有するため、優れた密封特性および長寿命の両方を有する歯科用浸潤剤を提供できる。
【0061】
重合開始剤系(b)
本発明の歯科用組成物は、(b)重合開始剤系を含む。重合開始剤系(b)は、本発明による式(I)の重合性化合物の重合を開始する能力を有する任意の化合物または系であり得る。重合開始剤系(b)は、光開始剤系、レドックス開始剤系、またはそれらの混合物であってもよい。
【0062】
用語「光開始剤」は、例えば、光化学プロセスにおいて、光に暴露することにより、または共開始剤との相互作用により活性化された場合に、フリーラジカルを形成する任意の化学物質を意味する。
【0063】
用語「レドックス開始剤系」は、酸化剤及び還元剤、ならびに必要に応じて触媒、例えば金属塩との組み合わせ、を意味する。レドックス開始剤系はラジカルを形成するレドックス反応を生じさせる。これらのラジカルはラジカル重合性化合物の重合を開始させる。典型的には、レドックス開始剤系を、酸化剤および還元剤の少なくとも部分的な分解をもたらす水および/または有機溶媒と接触させることによってレドックス開始剤系を活性化する、即ちレドックス反応を開始させる。任意の触媒を添加して、レドックス反応を、したがってラジカル重合性化合物の重合を促進することができる。
【0064】
光開始剤とレドックス開始剤との混合物は「二重硬化開始剤系」である。
【0065】
例えば、適切な光開始剤系は、二成分系または三成分系の形態であってもよい。例えば、米国特許代5,545,676号に記載されるように、二成分系は、光開始剤及び電子供与化合物を含んでもよく、三成分系はヨードニウム塩、スルホニウム塩またはホスホニウム塩、光開始剤、及び電子供与化合物を含んでもよい。
【0066】
重合開始剤系(b)に好適な光開始剤は、Norrish I型及びNorrish II型光開始剤である。
【0067】
好適なノリッシュI型光開始剤は、ホスフィンオキシドおよびSi-またはGe-アシル化合物である。
【0068】
ホスフィンオキシド開始剤は約380nm~約450nmの機能的波長範囲を有し、米国特許第4,298,738号、同第4,324,744号、及び同第4,385,109号、ならびに欧州特許公開第0173567号に記載されているようなアシルホスフィンオキシド及びビスアシルホスフィンオキシドを含む。アシルホスフィンオキシドの具体例として、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ジベンゾイルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、トリス(2,4-ジメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、トリス(2-メトキシベンゾイル)ホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイル-ビス(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、及び2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシドを挙げることができる。約380nm超~約450nmの波長範囲で照射された場合、フリーラジカル開始が可能な市販されているホスフィンオキシド光開始剤は、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURE 819)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI 403)、重量比25:75のビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(IRGACURE 1700)との混合物、重量比1:1のビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(DAROCUR 4265)との混合物、及びエチル2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィナート(LUCIRIN LR8893X)、を含む。典型的には、ホスフィンオキシド開始剤は、組成物の総重量に基づいて、触媒有効量、例えば0.1重量%~5.0重量%で組成物中に存在する。
【0069】
Si-またはGe-アシル化合物光開始剤は、以下の式(X)を有することが好ましい:
-R
(X)
[式中、
は、次式(XI)の基であり:
【化9】
【0070】
(式中、
MはSi又はGeであり、
10は、置換もしくは非置換ヒドロカルビル又はヒドロカルビルカルボニル基を表し、
11は、置換もしくは非置換ヒドロカルビル又はヒドロカルビルカルボニル基を表し、
12は、置換又は非置換ヒドロカルビル基を表し)、

(i)はXと同じ意味を有し、これにより式(X)の化合物は対称であってもまたは非対称であってもよく、あるいは
(ii)以下の式(XII)の基である;
【化10】

(式中、
は、単結合、酸素原子、又はNR’基を表し、R’は置換ヒドロカルビル基若しくは非置換ヒドロカルビル基を表し、
13は、置換若しくは非置換ヒドロカルビル基、トリヒドロカルビルシリル基、モノ(ヒドロカルビルカルボニル)ジヒドロカルビルシリル基、又はジ(ヒドロカルビルカルボニル)モノヒドロカルビルシリル基を表し)、あるいは
(iii)MがSiである場合、Rは置換又は非置換ヒドロカルビル基であってもよい]
【0071】
式(X)の光開始剤化合物は、歯科用組成物に特に好適な重合開始剤を表す。式(X)の化合物は高い重合効率を提供し、着色問題が回避される。さらに、カンファーキノンのような従来の光開始剤を含む重合系において、着色は効率的に抑制される。さらに、式(X)の化合物は、歯科用途において典型的に適用される波長範囲内で光吸収を有し、それらは歯科用組成物の成分と適合性があり、さらに生理学的に無害であると考えられる。従って、式(X)の化合物は光開始剤として特に好ましい。
【0072】
式(X)の化合物に関連して、本明細書で使用する「置換された」という用語は、R10、R11,、R12、R13、およびR’が、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、および-NR基から成る群から選択される置換基で置換されていてもよいことを意味し、式中RおよびRは互いに独立してC1-6アルキル基を表す。ここで、ハロゲン原子の例示は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素とすることができる。C1~6アルキル基は、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、及びn-ブチルである。C1~6アルコキシ基の例示は、例えば、メトキシ、エトキシ、及びプロポキシである。これらの置換基におけるアルキル部分は、直鎖状、分岐又は環状であってもよい。好ましくは、置換基は、塩素原子、ニトロ基、C1~4アルコキシ基及び-NR基(式中、R及びRは互いに独立してC1~4アルキル基を表す)から選択される。
【0073】
10、R11及びR12が置換される場合、それらは1~3個の置換基、より好ましくは1個の置換基で置換されることが好ましい。
【0074】
式(X)の化合物において、R10、R11、およびR12部分は、以下のように定義されてもよい:
10及びR11は、互いに独立して、置換若しくは非置換ヒドロカルビル又はヒドロカルビルカルボニル基を表し、R12は、置換又は非置換ヒドロカルビル基を表す。
【0075】
ヒドロカルビル基は、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、又はアリール基であってもよい。
【0076】
アルキル基は、直鎖又は分岐C1~20アルキル基、典型的にはC1~8アルキル基であってもよい。C1~6アルキル基の例としては、1~6個の炭素原子、好ましくは、1~4個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐アルキル基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、及びn-ヘキシルを挙げることができる。
【0077】
シクロアルキル基は、C3~20シクロアルキル基、典型的にはC3~8シクロアルキル基であってもよい。シクロアルキル基の例としては、3~6個の炭素原子を有する基、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシルを挙げることができる。
【0078】
シクロアルキルアルキル基は、4~20個の炭素原子を有してもよく、1~6個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐アルキル基と3~14個の炭素原子を有するシクロアルキル基との組み合わせを含んでもよい。シクロアルキルアルキル(-)基の例としては、例えば、メチルシクロプロピル(-)メチルシクロブチル(-)、メチルシクロペンチル(-)、メチルシクロヘキシル(-)、エチルシクロプロピル(-)、エチルシクロブチル(-)、エチルシクロペンチル(-)、エチルシクロヘキシル(-)、プロピルシクロプロピル(-)、プロピルシクロブチル(-)、プロピルシクロペンチル(-)、プロピルシクロヘキシル(-)を挙げることができる。
【0079】
アリールアルキル(-)基は、C7~20アリールアルキル(-)基、典型的には、1~6個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐アルキル基と6~10個の炭素原子を有するアリール(-)基との組み合わせであってもよい。アリールアルキル(-)基の具体例は、ベンジル(-)基又はフェニルエチル(-)基である。
【0080】
アリール基は、6~10個の炭素原子を有するアリール基を含むことができる。アリール基の例は、フェニル及びナフチルである。
【0081】
10及びR11のヒドロカルビルカルボニル基は、有機残基Rorgが上記で定義されたヒドロカルビル残基であるアシル基(Rorg-(C=O)-)を表す。
【0082】
式(X)の化合物は、一個または二個のヒドロカルビルカルボニル基を含んでもよく、即ちR10またはR11のいずれか一方がヒドロカルビルカルボニル基であるか、またはR10およびR11の両方がヒドロカルビルカルボニル基である。好ましくは、式(X)の化合物は、一個のヒドロカルビルカルボニル基を含む。
【0083】
好ましくは、ヒドロカルビルカルボニル基はアリールカルボニル基であり、より好ましくはベンゾイル基である。
【0084】
好ましくは、R10およびR11は、直鎖または分岐C1-6アルキル基、およびフェニル基またはベンゾイル基から成る群から独立して選択され、これらの基は、ハロゲン原子、ニトロ基、C1-4アルコキシ基、および-NR基から選択される一~三個の置換基で所望により置換されてもよく、式中、RおよびRは互いに独立してC1-4アルキル基を表し、R12は直鎖または分岐C1-6アルキル基またはフェニル基である。
【0085】
最も好ましくは、R10およびR11は、直鎖または分岐C1-4アルキル基、およびフェニル基またはベンゾイル基から成る群から独立して選択され、これらの基は、ハロゲン原子、ニトロ基、C1-4アルコキシ基および-NR基から選択されたものから成る群から選択される一個の置換基で所望により置換されてもよく、式中、RおよびRは互いに独立してC1-4アルキル基を表し、R12}は直鎖または分岐C1-4アルキル基である。
【0086】
式(X)の化合物では、RはXと同じ意味を有してもよく、これにより式(X)の化合物は対称または非対称であってもよい。あるいは、Rは、置換若しくは非置換のヒドロカルビル基、又は式(XII)の基を表してもよい。好ましくは、RがXと同じ意味を有する場合、式(X)の化合物は非対称である。Rが置換又は非置換ヒドロカルビル基を表す場合、ヒドロカルビル基は、Rについて上記で定義されたものと同じ意味を有し、且つそれらから独立して選択される。
【0087】
式(X)の化合物の式(XII)の基において、R13は、置換または非置換ヒドロカルビル基、トリヒドロカルビルシリル基、モノ(ヒドロカルビルカルボニル)-ジヒドロカルビルシリル基、またはジ(ヒドロカルビルカルボニル)モノヒドロカルビルシリル基を表す。
【0088】
式(XII)のR13がトリヒドロカルビルシリル基、モノ(ヒドロカルビルカルボニル)-ジヒドロカルビルシリル基、またはジ(ヒドロカルビルカルボニル)モノヒドロカルビルシリル基である場合、ヒドロカルビルおよびヒドロカルビルカルボニル基の各々は、R10、R11およびR12について定義されたものと同じ意味を有し、且つそれらから独立して選択される。
【0089】
式(XII)では、R’はR12について定義されたのと同じ意味を有し、且つそれらから独立して選択される。
【0090】
式(X)の化合物においてMがSiである場合、Rはまた、置換または非置換ヒドロカルビル基であってもよく、ヒドロカルビル基は、R12について上記で定義されたものと同じ意味を有し、且つそれらから独立して選択される。
【0091】
例えば、RがXと同じ意味を有し、且つ対称である式(X)の化合物は、以下の構造式を有してもよい:
【化11】

例えば、Rが式(XII)の基を表し、Yが結合、酸素原子、またはNP’基であり、またR13が置換もしくは非置換ヒドロカルビル基を表す式(X)の化合物は、以下の構造式を有してもよい:
【化12】

例えば、Rが式(XII)の基を表し、R13がトリヒドロカルビルシリル基を表す式(X)の化合物は、以下の構造式を有する:
【化13】

例えば、MがSiであり、Rが置換又は非置換ヒドロカルビル基を表す式(X)の化合物は、以下の構造式を有してもよい:
【化14】

好ましくは、式(X)の化合物は、以下から成る群から選択され:
【化15】

M=Siである式(X)の化合物が特に好ましい。
【0092】
最も好ましくは、式(X)の化合物は、以下から成る群から選択され:
式(X)の化合物は、以下から成る群から選択され:
【化16】

特に好ましくは、M=Siである。
【0093】
好適なNorrish II型光開始剤は、例えば、約400nm~約520nm(好ましくは約450nm~約500nm)の範囲内の光を吸収するモノケトン及びジケトンなどの増感剤化合物と共開始剤の組み合わせである。特に好適な増感剤化合物は、約400nm~約520nm(更により好ましくは、約450~約500nm)の範囲内の光を吸収するαジケトンを含む。増感剤化合物の例としては、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6-テトラメチルシクロ-ヘキサンジオン、フェノールアントラキノン、1-フェニル-1,2-プロパンジオン、及び別の1-アリール-2-アルキル-1,2-エタンジオン、ならびに環状αジケトンが挙げられる。好適な共開始剤は、置換アミン、例えばエチルジメチルアミノベンゾエートまたはジメチルアミノベンゾニトリル、または式(IV)の本重合性化合物のようなCH-酸性を有する重合性化合物を含む電子供与化合物である。
【0094】
第三級アミン還元剤は、アシルホスフィンオキシドと組み合わせて使用されることができる。適切な芳香族第三級アミンの例としては、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸n-ブトキシエチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノベンゾフェノンエチル4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エステル、及びN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。脂肪族第三級アミンの例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、及びトリエタノールアミントリメタクリレートが挙げられる。
【0095】
アミン還元剤は、組成物の総重量に基づいて、0.1重量%~5.0重量%の量で組成物中に存在してもよい。
【0096】
歯科用組成物が酸性組成物の形態である場合、即ち組成物のpH7が未満である場合、組成物のpHに応じて、式(X)の化合物は、エステル基を含有しないか、または一ヶ月以内に室温にてpH3の水性媒体中で著しく加水分解しないエステル基のみという条件で選択することが好ましい。それにより、未硬化歯科用組成物の保存期間の安定性、ならびに患者の口の内での硬化後の安定性に関して、7未満のpHを有する組成物である酸性歯科用組成物の有利な安定性が確保される。従って、酸性歯科用組成物のためには、Rが式(XII)(Yは酸素原子である)の基であるものを除いて、式(X)の化合物が特に好ましい。
【0097】
さらに、アシルシリル部分(-C(=O)-Si-)は塩基性条件、即ち7よりも高いpHに対して感受性がある場合があるので、アシルシリル部分が選択された塩基性pHの水性媒体中で一ヶ月の間室温にて開裂されないという条件で、7より高い組成物のpH値を適宜選択することが好ましい。
【0098】
式(X)の化合物は、市販されているか、または公表された手順に従って調製され得る公知の化合物であってもよい。
【0099】
MがSiであり、及びRが置換又は非置換のヒドロカルビル基を表す式(X)の化合物は、例としてYamamoto K.ら.,J.Tetrahedron Lett.,1980,vol.21の1653頁~1656頁に記載されているように、例えばジシランとの一段階Pd触媒反応によって容易に調製され得る。
【0100】
【化17】
【0101】
スキーム3では、ジシランとしてヘキサメチルシランを用いて、反応が例示的に示されており、これにより、R10、R11、およびR12がメチル基を表す式(X)の化合物が得られる。メチル以外の炭化水素置換基を有するジシランを適用することにより、R10、R11、及びR12を変えることができると考えられている。
【0102】
が式(XII)の基を表し、式中、Yが酸素原子であり、R13がヒドロカルビル基を表す式(X)の化合物は、例えば、Nicewicz D.A.ら,Org.Synth.,2008,85の278頁~286頁に記載された三段階合成により調製されてもよい。この三段階合成では、アセトアセテートがアジド化合物に変換され、これを次にトリヒドロカルビルシリルトリフルオロメタン-スルホネートと反応させてトリヒドロカルビルシリルジアゾアセテートを得て、これを最終的にペルオキシ一硫酸カリウムと反応させて標的化合物に到達する:
【化18】
【0103】
スキーム4では、この反応は、式(X)の化合物を得るために例示的に示され、式中、式(X)のX、R10およびR11はメチル基を表し、およびR12はtert-ブチル基を表す。これは、R10、R11およびR12はt-BuMeSiOSOCF以外のトリヒドロカルビルシリルトリフルオロメタン-スルホナートを適用することにより変化することができる。
【0104】
あるいは、MがSiであり、Rが式(XII)の基を表し、且つYが酸素原子を表す式(X)の化合物は、Nicewicz D.A.,J.Am.Chem.Soc.,2005,127(17)の6170頁~6171頁に記載されるように、ZnI及びEtNの存在下でシリルグリオキシレート、末端アルキン、及びアルデヒドのワンポット三成分カップリング反応により調製されてもよい。シリルグリオキシレート化合物の更なる合成については、Boyce G.R.らによるJ.Org.Chem.,2012,77(10)の4503頁~4515頁、及びBoyce G.R.らによるOrg.Lett.,2012,14(2)の652頁~655頁に記載されている。
【0105】
例えば、式(X)の以下の化合物が知られ、且つ市販されており、それらのケミカルアブストラクト(CAS)番号は括弧内に記載されている:ベンゾイルトリフェニルシラン(1171-49-9)、ベンゾイルトリメチルシラン(5908-41-8)、1-[(トリメチルシリル)カルボニル]-ナフタレン(88313-80-8)、1-メトキシ-2-[(トリメチルシリル)-カルボニル]-ベンゼン(107325-71-3)、(4-クロロベンゾイル)(トリフェニル)シラン(1172-90-3)、(4-ニトロベンゾイル)(トリフェニル)シラン(1176-24-5)、(メチルジフェニルシリル)フェニル-メタノン(18666-54-1)、(4-メトキシベンゾイル)トリフェニルシラン(1174-56-7)、及びtert-ブチル(tert-ブチルジメチルシリル)グリオキシレート(852447-17-7)。
【0106】
式(X)の全ての化合物は式(XI)の基を含み、
【化19】

で表される化合物である。
【0107】
式(XI)中、M、R10、R11およびR12は上記のように定義される。Mの選択に応じて、式(XI)の基は、アシルシラン基又はアシルゲルマン基を表す。UV-VIS光に暴露すると、Mとアシル基との間の結合は開裂される場合があり、これによりシリル/ゲルマニル及びアシルラジカルが重合開始構造として形成されるが、ラジカルへの開裂と競合して、カルベン構造が形成される場合がある:
【化20】
【0108】
重合開始ラジカルの形成とカルベン形成との間の競合は、アシルシランについて、El-Roz,M.らにより、Current Trends in Polymer Science,2011,vol.15,1~13頁に記載されている。
【0109】
加えて、RがXと同じ意味を有するか、または式(XII)の基である式(X)の化合物の場合、1,2-ジケトン基(-C(=O)-C(=O)-)のC-C結合は、UV-VIS光に暴露されると二つのアシルラジカルへと開裂される場合がある。この開裂は、Rが式(XII)の基であり、Yが酸素原子である式(X)の化合物について、即ちグリオキシレート(-O-C=O)-C(=O)-)化合物について、例示的に示されている:
【化21】
【0110】
さらに、式(X)の化合物では、Rが、式(XII)(式中、Yが酸素原子であり、R13が置換又は非置換ヒドロカルビル基である)の化合物である場合には、ラジカル開裂に対する第三の可能性がある。即ち、分子内又は分子間の水素引き抜きが起こる場合があり、水素ラジカルが抽出される:
【化22】
【0111】
グリオキシレート基の開裂と水素引き抜き機構の両方は、ケイ素もゲルマニウムも含まない光開始剤(エチルフェニルグリオキシレート(Irgacure(登録商標)MBF)など)で知られている。
【0112】
がXと同じ意味を有するか、または式(XII)の基である式(X)の化合物では、本発明者らは分子モデリング計算を行い、計算から-C(=O)-C(=O)-基のC-C結合はSi-CまたはGe-C結合よりも弱いために、Si-CまたはGe-C結合の開裂が除外される可能性があると思われる。
【0113】
光開始剤系は、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩及びテトラアリール又はテトラアルキルホスホニウム塩をさらに含んでもよい。これらの塩は、光開始剤の重合性能を改善するための共開始剤として機能する場合があるが、カチオン重合のための開始剤としても機能する場合がある。
【0114】
例えば、ジアリールヨードニウム塩は、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウム(DPI)テトラフルオロボレート、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム(Me2-DPI)テトラフルオロボレート、フェニル-4-メチルフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジ(4-ヘプチルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、ジ(3-ニトロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-クロロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(ナフチル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、ジ(4-トリフルオロメチルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、DPIヘキサフルオロホスフェート、Me2-DPIヘキサフルオロホスフェート、DPIヘキサフルオロアルセネート、ジ(4-フェノキシフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、フェニル-2-チエニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、3,5-ジメチルピラゾリル-4-フェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、DPIヘキサフルオロアンチモネート、2,2’-DPIテトラフルオロボレートジ(2,4-ジクロロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-ブロモフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-メトキシフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(3-カルボキシフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(3-メトキシカルボニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(3-メトキシスルホニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-アセトアミドフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(2-ベンゾチエニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、及びDPIヘキサフルオロホスフェートからなる群から選択される。
【0115】
特に好ましいヨードニウム化合物としては、ジフェニルヨードニウム(DPI)ヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム(Me2-DPI)ヘキサフルオロホスフェート、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(Irgacure(登録商標)250、BASF SEから市販されている製品)、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムテトラフルオロボレート、4-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(2-ヒドロキシテトラデシルオキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、及び4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムボレートが挙げられる。
【0116】
特に好ましい実施形態によれば、ヨードニウム化合物は、DPIヘキサフルオロホスフェート及び/又は4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである。
【0117】
好ましいトリアリールスルホニウム塩は、以下の式:
【化23】

PF6のS-(フェニル)チアントレニウムヘキサフルオロホスフェートである。
【0118】
特に好ましいホスホニウム塩は、テトラアルキルホスホニウム塩、テトラキス-(ヒドロキシメチル)-ホスホニウム(THP)塩、またはテトラキス-(ヒドロキシメチル)-ホスホニウムヒドロキシド(THPOH)塩であり、テトラアルキルホスホニウム塩の陰イオンは、ギ酸塩、酢酸塩、リン酸塩、硫酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物からなる群から選択される。
【0119】
特に好ましい光開始剤系は、式(X)の光開始剤を、所望によりカンファーキノンに加えて、上述のようにジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩またはテトラアリール若しくはテトラアルキルホスホニウム塩と組み合わせて含む。
【0120】
適切なレドックス開始剤系は還元剤および酸化剤を含み、これらは式(I)の(a)重合性化合物または光の存在と無関係の(c)さらなる重合性化合物の重合性基の重合を開始することができるフリーラジカルを生成する。還元剤及び酸化剤は、典型的な歯科条件下での貯蔵及び使用を可能にするために、重合開始剤系(b)が十分に貯蔵安定性があり、望ましくない着色がないように選択される。更に、還元剤及び酸化剤は、重合開始剤系が樹脂系と十分に混和して組成物中に重合開始剤系(b)が溶解することができるように選択される。
【0121】
有用な還元剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、及び米国特許第5,501,727号に記載されているような金属錯体化アスコルビン酸化合物;アミン、即ち、第三級アミン(4-tert-ブチルジメチルアニリンなど);芳香族スルフィン酸塩(p-トルエンスルフィン酸塩及びベンゼンスルフィン酸塩なdl);チオ尿素(1-エチル-2-チオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,1-ジブチルチオ尿素、及び1,3-ジブチルチオ尿素など);並びにそれら混合物、が挙げられる。他の補助還元剤としては、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、亜ジチオン酸又は亜硫酸陰イオンの塩、及びそれらの混合物が挙げられてもよい。
【0122】
適切な酸化剤としては、過硫酸及びその塩、例えば、アンモニウム、ナトリウム、カリウム、セシウム及びアルキルアンモニウム塩が挙げられる。追加の酸化剤としては、ベンゾイルペルオキシドなどの過酸化物、クミルヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、及びアミルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド、並びに、塩化コバルト(III)及び塩化第二鉄、硫酸セリウム(IV)などの遷移金属の塩、過ホウ酸及びそれらの塩、過マンガン酸及びそれらの塩、過リン酸及びそれらの塩、並びにそれらの混合物が挙げられる。一つ若しくは複数の異なる酸化剤又は一つ若しくは複数の異なる還元剤を開始剤系に使用してもよい。少量の遷移金属化合物を添加してレドックス硬化の速度を促進してもよい。還元剤及び酸化剤は、適切なフリーラジカル反応速度を可能にするのに十分な量で存在する。
【0123】
還元剤又は酸化剤は、組成物の貯蔵安定性を増強するため、及び必要に応じて、還元剤及び酸化剤を一緒に包装できるようにするためにマイクロカプセル化されてもよい(米国特許第5,154,762号)。封入剤を適切に選択することにより、貯蔵安定状態で酸化剤と還元剤とを組み合わせ、且つ酸官能性成分及び所望により充填剤さえも組み合わせることができる場合がある。さらに、水不溶性封入剤を適切に選択することにより、微粒子反応性ガラス及び水と一緒に還元剤及び酸化剤を貯蔵安定状態で組み合わせられる。
【0124】
好ましくは、重合開始剤は組成物の全重量に基づいて0.01~10%の量で含まれる。
【0125】
さらなる重合性化合物(c)
本発明の歯科用組成物は、式(I)の(a)重合性化合物以外の(c)さらなる重合性化合物を任意で含み得る。歯科用組成物は、一つまたは複数のさらなる重合性化合物(c)を含み得る。
【0126】
本明細書で使用される用語「さらなる重合性化合物」は、モノマー、オリゴマーおよびポリマーを含む。
【0127】
さらなる重合性化合物(c)は、その重合性基について特に限定されない。さらなる重合性化合物(c)は、一つまたは複数の重合性基を有していてもよい。少なくとも一つの重合性基は、例えば、重合性炭素-炭素二重結合であることができ、(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基から選択されることができ、好ましくは(メタ)アクリロイル基であることができる。
【0128】
モノマーの形態のさらなる重合性化合物(c)の好適な例は、(メタ)アクリレート、アクリル酸またはメタクリル酸のアミド、ウレタンアクリレートまたはメタクリレート、およびポリオールアクリレートまたはメタクリレートからなる群から選択され得る。
【0129】
(メタ)アクリレートは、好ましくは以下の式(A)、(B)および(C):
【化24】

[式中、R20、R 20、R** 20、R*** 20は、互いに独立して、水素原子、-COOM;C3-6シクロアルキル基、C6-14アリールもしくはC3-14ヘテロアリール基、-COOM、-POM、-O-POもしくは-SOで置換されていてもよい直鎖状C1-18もしくは分枝状C3-18アルキル基;C1-16アルキル基、C6-14アリールもしくはC3-14ヘテロアリール基、またはC~C18アリールもしくはC~C18ヘテロアリール基、-COOM、-POM、-O-POもしくは-SOで置換されていてもよいC~C18シクロアルキル基を表し:
21は、水素原子;C3-6シクロアルキル基、C6-14アリール基もしくはC3-14ヘテロアリール基、-COOM、-POM、-O-POもしくは-SOで置換されていてもよい直鎖状C1-18もしくは分枝状C3-18アルキル基もしくはC~C18アルケニル基;C1-16アルキル基、C6-14アリールもしくはC3-14のヘテロアリール基、-COOM、-POM、-O-POもしくは-SOで置換されていてもよいC~C18シクロアルキル基;またはC~C18アリールもしくはC~C18ヘテロアリール基を表し:
22は、1~45個の炭素原子を有する二価の有機残基を表し、これにより二価の有機残基は1~7個のC3~12シクロアルキレン基、1~7個のC6~14アリーレン基、1~7個のカルボニル基、1~7個のカルボキシル基(-(C=O)-O-若しくは-O-(C=O-))、1~7個のアミド基(-(C=O)-NH-若しくは-NH-(C=O)-)、又は1~7個のウレタン基(-NH-(C=O)-O-若しくは-O-(C=O)-NH-)の少なくとも一つ、並びに酸素、窒素、及び硫黄から選択される1~14個のヘテロ原子を含有してもよく、この二価の有機残基は、ヒドロキシル基、チオール基、C6~14アリール基、-COOM、-POM、-O-PO、又は-SOから成る群から選択される一つ又は複数の置換基で置換されていてもよく、好ましくはR22は、一つ又は複数の-OH基で置換されていてもよいC~C18アルキレン基又はC~C18アルケニレン基であり、このアルキレン基又はアルケニレン基は1~4個のC6~10アリーレン基、1~4個のウレタン基(-NH-(C=O)-O-又は-O-(C=O)-NH-)、及び1~8個の酸素原子のうちの少なくとも一つを含んでもよく、
23は、飽和の二価もしくは多価の置換もしくは非置換のC~C18炭化水素基、飽和の二価もしくは多価の置換もしくは非置換の環状C~C18炭化水素基、二価もしくは多価の置換もしくは非置換のC~C18アリールもしくはヘテロアリール基、二価もしくは多価の置換もしくは非置換C~C18アルキルアリールもしくはアルキルヘテロアリール基、二価もしくは多価の置換もしくは非置換のC~C30アラルキル基、または1~14個の酸素原子を有する二価もしくは多価の置換もしくは非置換のC~C45モノ-、ジ-、もしくはポリエーテル残基を表し:
mは整数であり、好ましくは1~10の範囲であり、
20、R 20、R** 20、*** 20、R21、およびR22のうちのいずれか一つのMは、それぞれ互いに独立して、それぞれ水素原子又は金属原子を表し、
20、R 20、R** 20、*** 20、R21、およびR22のうちのいずれか一つのMは、それぞれ互いに独立して、それぞれ金属原子を表す]の化合物から選択され得る。
【0130】
20、R 20、R** 20およびR*** 20について、直鎖状C1-18アルキル基または分枝状C3-18アルキル基は、例えばメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、ペンチル、またはヘキシルであってもよい。R21およびR 21について、C1-18アルキル基またはC2-18アルケニル基は、例えばエチル(エテニル)、n-プロピル(プロペニル)、i-プロピル(プロペニル)、n-ブチル(ブテニル)、イソブチル(イソブテニル)、tert-ブチル(ブテニル)、sec-ブチル(ブテニル)、ペンチル(ペンテニル)、またはヘキシル(ヘキセニル)であってもよい。
【0131】
20、R 20、R** 20、R*** 20およびR21について、アリール基は、例えば、フェニル基またはナフチル基であってもよく、C3-14ヘテロアリール基は、窒素、酸素、硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0132】
22について、「二価の有機残基は、~のうちの少なくとも一つを含んでいてもよい」という句において、二価の有機残基に含まれていてもよい基が共有結合によって二価の有機残基に組み込まれることを意味する。例えば、BisGMAでは、フェニルの形態の二個のアリール基と酸素の形態の二個のヘテロ原子がR22の二価の有機残基に組み込まれている。あるいは、更なる例として、UDMAでは、二個のウレタン基(-NH-(C=O)-O-または-O-(C=O)-NH-)がR22の二価の有機残基に組み込まれている。
【0133】
式(B)において、点線の結合は、R20およびR*** 20が、COに対して(Z)または(E)配置であってもよいことを示す。
【0134】
好ましくは、式(A)、(B)および(C)において、R20、R 20、R** 20、およびR*** 20は、互いに独立して、水素原子;C3-6シクロアルキル基、C6-14アリールまたはC3-14ヘテロアリール基で置換されていてもよい直鎖状C1-16または分枝状C3-16アルキル基;C1-16アルキル基、C6-14アリールまたはC3-14ヘテロアリール基で置換されていてもよいC3-6シクロアルキル基;C6-14アリールまたはC3-14ヘテロアリール基を表わす。より好ましくは、式(B)において、R20、R 20、R** 20、およびR*** 20は、互いに独立して、水素原子;C4-6シクロアルキル基、C6-10アリールもしくはC4-10ヘテロアリール基で置換されていてもよい直鎖状C1-8または分枝状C3-8アルキル基;C1-6アルキル基、C6-10アリールもしくはC4-10ヘテロアリール基で置換されていてもよいC4-6シクロアルキル基;またはC6-10アリール基を表す。更により好ましくは、R20、R 20、R** 20、およびR*** 20は、互いに独立して、水素原子、シクロヘキシル基もしくはフェニル基で置換されていてもよい直鎖状C1-4もしくは分枝状CもしくはCアルキル基、またはC1-4アルキル基で置換されていてもよいシクロヘキシル基を表す。最も好ましくは、R20、R 20、R** 20、およびR*** 20は、互いに独立して、水素原子、または直鎖状C1-4もしくは分枝状CまたはCアルキル基を表す。
【0135】
好ましくは、式(A)において、R21は、水素原子;C3-6シクロアルキル基、C6-14アリールもしくはC3-14ヘテロアリール基で置換されていてもよい直鎖状C1-16もしくは分枝状C3-16アルキル基またはC2-16アルケニル基;C1-16アルキル基、C6-14アリールもしくはC3-14ヘテロアリール基で置換されていてもよいC3-6シクロアルキル基;C6-14アリールまたはC3-14ヘテロアリール基を表す。より好ましくは、R21は、水素原子、直鎖状C1~10若しくは分岐C3~10アルキル、又はC2~10アルケニル基(C4~6シクロアルキル基、C6~10アリール基、又はC4~10ヘテロアリール基で置換されていてもよい)、C4-6シクロアルキル基(C1~6アルキル基、C6~10アリール基若しくはC4~10ヘテロアリール基、又はC6~10アリール基で置換されていてもよい)を表す。更により好ましくは、R21は、水素原子;シクロヘキシル基またはフェニル基で置換されていてもよい直鎖状C1-10もしくは分枝状C3-10アルキル基または直鎖状C2-10もしくは分枝状C3-10アルケニル基;またはC1-4アルキル基で置換されていてもよいシクロヘキシル基を表す。なお更により好ましくは、R21は、非置換のC1-10アルキル基またはC2-10アルケニル基、更により好ましくは非置換C2-6アルキル基またはC3-6アルケニル基、最も好ましくはエチル基またはアリル基を表す。
【0136】
式(A)、(B)、および(C)のメタクリレート化合物は、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ビスフェノールAグリセロレートジメタクリレート(「bis-GMA」CAS No.1565-94-2)、4,4,6,16(または4,6,6,16)-テトラメチル-10,15-ジオキソ-11,14-ジオキサ-2,9-ジアザヘプタデカ-16-エン酸2-[(2-メチル-1-オキソ-2-プロペン-1-イル)オキシ]エチルエステル(CAS No.72869-86-4)(UDMA)、グリセロールモノアクリレートおよびグリセロールジアクリレート、例えば1,3-グリセロールジメタクリレート(GDM)、グリセロールモノメタクリレートおよびグリセロールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシド繰り返し単位の数は2~30で変化する)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレンオキシド繰り返し単位の数は2~30で変化する、特にトリエチレングリコールジメタクリレート(「TEGDMA」)、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールならびにジペンタエリスリトールのモノアクリレートおよびモノメタクリレート、ジアクリレートおよびジメタクリレート、トリアクリレートおよびトリメタクリレートならびにテトラアクリレートおよびテトラメタクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルトリメチルヘキサンエチレンジカルバメート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルジメチルベンゼンジカルバメート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシ-フェニル)]プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-アクリルオキシ-フェニル)]プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-メタクリレート]プロパン、ならびに2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-アクリレート]プロパン、からなる群から選択されることができる。
【0137】
最も好ましくは、式(B)の化合物は、
【0138】
【化25】

からなる群から選択される。
【0139】
特に好ましいモノ-もしくはビス-または(メタ)アクリルアミドおよびポリ[(メタ)アクリルアミド]は以下の式(D)、(E)、および(F):
【化26】

(式中、R24、R 24、R** 24、R*** 24は、式(A)、(B)および(C)について上記に定義したR20、R 20、R** 20、R*** 20と同じ意味であり、R25、R 25は、互いに独立して、式(A)について上記に定義したR21と同義の残基を表し、R27およびm’は、式(C)について上記に定義したR23、mと同義である)を有する。
【0140】
式(E)中、R26は炭素数1~45の二価の置換もしくは無置換の有機残基を表し、それにより、前記有機残基は、1~7個のC3-12シクロアルキレン基、1~7個のC6-14アリーレン基、1~7個のカルボニル基、1~7個のカルボキシル基(-(C=O)-O-または-O-(C=O-)、1~7個のアミド基(-(C=O)-NH-または-NH-(C=O)-)、1~7個のウレタン基(-NH-(C=O)-O-または-O-(C=O)-NH-)、ならびに酸素、窒素および硫黄から選択される1~14個のヘテロ原子のうちの少なくとも一つを含んでいてもよく、この二価の有機残基は、ヒドロキシル基、チオール基、C6-14アリール基、-COOM、-POM、-O-PO、または-SOからなる群から選択される一つまたは複数の置換基で置換されていてもよい。好ましくは、R26は、C~C18アルキレン基またはC~C18アルケニレン基であり、これらは、1~4個のC6-10アリーレン基およびC3-8シクロアルキレン基、1~4個のウレタン基(-NH-(C=O)-O-または-O-(C=O)-NH-)、および1~8個の酸素原子または窒素原子のうちの少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0141】
26について、句「二価の有機残基は、~のうちの少なくとも一つを含んでいてもよい」は、式(B)の化合物のR22について上記に定義したのものと同様の意味を有する。
【0142】
式(D)、(E)、(F)において、点線の結合は、R24およびR*** 24が、COに対して(Z)または(E)配置であることができることを示す。
【0143】
式(D)の化合物において、R25およびR25 は、R25およびR25 がC-C結合により、またはエーテル基、チオエーテル基、アミン基、およびアミド基からなる群から選択される官能基により、結合した環を一緒に形成してもよい。
【0144】
式(D)、(E)、(F)による好ましいメタクリルアミドは以下の式:
【0145】
【化27】

を有する。
【0146】
式(D)、(E)、(F)による好ましいアクリルアミドは、以下の式:
【0147】
【化28】

【化29】

を有する。
【0148】
最も好ましいのは以下のビスアクリルアミドである:
構造式を有するN,N’-ジアリル-1,4-ビスアクリルアミド-(2E)-ブタ-2-エン(BAABE)、
【化30】

及び
構造式を有するN,N’-ジエチル-1,3-ビスアクリルアミド-プロパン(BADEP)である。
【0149】
【化31】
【0150】
特に好ましいさらなる重合性化合物(c)は、N置換アルキルアクリルまたはアクリル酸アミドモノマー、好ましくは式(A)、(B)、(D)および(E)の化合物から選択され、より好ましくは式(D)および(E)の化合物から選択され、最も好ましくは式(E)の化合物から選択される。
【0151】
ポリマーの形態のさらなる重合性化合物(c)は、好ましくは、重合性ポリ酸ポリマーから選択される。
【0152】
用語「重合性ポリ酸ポリマー」と共に用いられる用語「重合性」は、付加重合において共有結合によって化合することができるポリマーを意味する。「重合性ポリ酸ポリマー」は、重合によって、架橋剤と、例えば、重合性(炭素-炭素)二重結合を有するモノマーと共有結合することができ、歯科用組成物を硬化する場合にグラフトポリマーおよび/または架橋ポリマーを形成する。
【0153】
用語「重合性ポリ酸ポリマー」と共に使用される用語「ポリ酸」は、ポリマーが、反応性ガラスとのセメント反応に関与し得る複数の酸性基、好ましくはカルボン酸基を有することを意味する。カルボン酸基は、好ましくは、骨格中に存在し、アクリル酸、メタクリル酸、および/またはイタコン酸に由来する。
【0154】
他の更なる成分
本発明による歯科用組成物は、上述の成分の他に、追加的な任意の成分を含んでもよい。
【0155】
例えば、本発明による歯科用組成物は、適切な溶媒を含んでもよい。
【0156】
溶媒は、(d)有機水溶性溶媒および/または水から選択されることが好ましい。有機水溶性溶媒は、エタノール、プロパノール(n-、i-)、ブタノール(n-、iso-、tert.-)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジイソプロピルケトンなどのケトン、およびDMSOなどの極性非プロトン溶媒からなる群から選択され得る。
【0157】
歯科用浸潤剤の形態の歯科用組成物については、DMSOは有機水溶性溶媒として特に好ましい。
【0158】
本発明の歯科用組成物は、組成物の総重量に基づいて5~75重量パーセントの量で溶媒を含んでもよい。
【0159】
好ましくは、本発明による歯科用組成物は、水を含まない。
【0160】
本発明による歯科用組成物は、(e)充填剤を含むことができる。歯科用組成物は、一つまたは複数の充填剤(e)を含んでもよい。好ましくは、充填剤(e)は、微粒子ガラス充填剤、シラン化ガラスフレーク、粒状予備重合充填剤、粉砕予備重合充填剤、および充填剤凝集体から選択される。
【0161】
用語「微粒子ガラス充填剤」は、熱溶融プロセスによりガラスに変態され、様々なプロセスにより粉砕される主として金属酸化物の固体混合物を指す。ガラスは、微粒子状の形態である。更に、微粒子ガラス充填剤は、例えば、シラン化処理または酸処理により表面改質され得る。
【0162】
充填剤(e)の場合、ガラス成分を、「不活性ガラス」、「反応性ガラス」、および「フッ化物徐放性ガラス」から選択することができる。
【0163】
用語「不活性ガラス」は、セメント反応において酸性基を含むポリマーと反応することができないガラスを指す。不活性ガラスは、例えば、Journal of Dental Research、1979年6月、1607~1619頁、又はより最近では、米国特許第4814362号、同第5318929号、同第5360770号、及び米国特許出願公開第2004/0079258A1号に記載されている。具体的には、米国特許出願公開第2004/0079258A1号により、強塩基性酸化物、例えばCaO、BaO、SrO、MgO、ZnO、NaO、KO、LiOを弱塩基性酸化物、例えばスカンジウム又はランタニド系列中のもので置換した不活性ガラスが知られている。
【0164】
用語「反応性ガラス」は、セメント反応において酸性基を含むポリマーと反応することができるガラスを指す。ガラスは、微粒子状の形態である。任意の従来の反応性歯科用ガラスを本発明のために使用することができる。微粒子反応性ガラスの具体例は、カルシウムアルミノシリケートガラス、カルシウムアルミノフルオロシリケートガラス、カルシウムアルミニウムフルオロボロシリケートガラス、ストロンチウムアルミノシリケートガラス、ストロンチウムアルミノフルオロシリケートガラス、ストロンチウムアルミノフルオロボロシリケートガラスから選択される。好適な反応性ガラスは、金属酸化物の形態、例えば、酸化亜鉛および/もしくは酸化マグネシウム、ならびに/または例えば米国特許第US-A3,655,605号、同US-A3,814,717号、同US-A4,143,018号、同US-A4,209,434号、同US-A4,360,605号および同US-A4,376,835号に記載のイオン溶出性ガラスの形態であってもよい。
【0165】
用語「フッ化物徐放性ガラス」は、フッ化物を放出することができるガラスを指す。ガラスがフッ化物徐放性、好ましくは持続的フッ化物徐放性を有するという条件で、フッ化物を含有するガラス無機粒子を形成するために酸化物の混合物に添加することによって、フッ化物放出能力を与えることができる。このような無機粒子は、フッ化ナトリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化ランタン、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、及びカルシウム含有フルオロアルミノシリケートガラスからなる群から選択することができる。
【0166】
好ましくは、微粒子ガラス充填剤は、上記に定義した反応性ガラスまたはフッ化物徐放性ガラス、より好ましくは反応性ガラスである。
【0167】
最も好ましくは、微粒子ガラス充填剤は、
1) 20~45重量%のシリカと、
2) 20~40重量%のアルミナと、
3) 20~40重量%の酸化ストロンチウムと、
4) 1~10重量%のPと、
5) 3~25重量%のフッ化物と、を含む反応性微粒子ガラス充填剤である。
【0168】
本歯科用組成物は、組成物の総重量に基づいて、好ましくは20~90重量%、より好ましくは30~80重量%の微粒子ガラス充填剤を含む。
【0169】
微粒子ガラス充填剤は、例えば電子顕微鏡法により、またはMALVERN Mastersizer SもしくはMALVERN Mastersizer 3000装置により具現される従来のレーザー回折粒度分布測定法を用いる測定で、一般に0.005~100μm、好ましくは0.01~40μm、より好ましくは0.05~20μm、最も好ましくは0.1~3μmの平均粒子径を有する。
【0170】
微粒子ガラス充填剤は、単峰性または多峰性(例えば、二峰性)粒度分布を有してもよく、多峰性微粒子ガラス充填剤は、異なる平均粒子径を有する二つ以上の微粒子画分の混合物を表す。
【0171】
本明細書で使用される用語「シラン化」は、充填剤がその表面にシランカップリング剤を、例えば少なくとも部分的に、好ましくは完全に充填剤の表面を覆うコーティングの形態で有することを意味する。
【0172】
典型的に、シランカップリング剤は式(Y)
(R14,R15,R16)Si(R (Y)
のオルガノシランが用いられ、式中nは1~3であり、置換基R14、R15、R16の数は4-nであり、R14、R15、R16のうちの少なくとも一つは重合性基を表す。二個又は三個の基Rが存在する場合、同じでも互いに異なっていてもよいRは、被覆しようとする充填材料の表面と反応することができる加水分解性基を表す。Rは、アルコキシ基、エステル基、ハロゲン原子及びアミノ基からなる群から選択されてもよく、アルコキシ基は、好ましくは直鎖状C1-8又は分枝状もしくは環状C3-8アルコキシ基であり、そしてエステル基は、好ましくは直鎖状C1-8又は分枝状もしくは環状C3-8アルキル基を有するカルボキシレートである。最も好ましくは、加水分解性の基Rは、アルコキシル基を表す。
【0173】
基R14、R15及びR16は、同じでも互いに異なっていてもよく、非反応性基及び/又は重合性基を表すが、但し、R14、R15及びR16のうちの少なくとも一つは重合性基を表す。R14、R15及びR16の非反応性基をアルキル基、好ましくは直鎖状C1-8又は分枝状もしくは環状C3-8アルキル基で表すことができる。R14、R15及びR16の重合性基は、好ましくは(メタ)アクリル基、ビニル基又はオキシラン基からなる群から選択され、より好ましくは(メタ)アクリル基又はビニル基、最も好ましくは(メタ)アクリル基であり、(メタ)アクリル基は、例えばメタクリルオキシ又はメタクリルオキシアルキルの形態であってもよく、ここでアルキルは直鎖状C1-8又は分枝状もしくは環状C3-8アルキル基を意味する。
【0174】
特に好ましいオルガノシランは、例えば3-メタクリロキシトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、トリス(2-メトキシエトキシ)-ビニルシランもしくはトリス(アセトキシ)-ビニルシラン、又は欧州特許出願公開第0969789A1号に開示されているオルガノシランの特定の群、即ち3-メタクリル-オキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメトキシ-モノクロロシラン、3-メタクリル-オキシプロピルジクロロモノメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリ-クロロシラン、3-メタクリロキシ-プロピルジクロロモノメチル-シラン、及び3-メタクリロキシプロピルモノクロロジメチルシランのうちのいずれか一つである。
【0175】
式(Y)のオルガノシランの代わりに又はそれに加えて、いわゆるダイポーダル(dipodal)オルガノシランを用いることができる。ダイポーダルオルガノシランは、典型的には式(Z);
((R14、R15、R16)Si-R17CH-R (Z)、
(式中、R14、R15、R16およびRは、式(Y)のオルガノシランについて上記に定義したのと同じ意味を有し、R17はアルキレン基、好ましくは直鎖状C1-8または分枝状もしくは環状C3-8アルキレン基を表す)の化合物である。
【0176】
本明細書で使用される用語「フレーク」は、ガラスがフレークの形態であること、すなわちその長径がその厚さよりも少なくとも2倍大きいことを意味する。平均長径の平均厚さに対する比は、本明細書では「平均アスペクト比」と呼ばれる。
【0177】
1~70μmのメジアン粒子径(D50)を有する複合充填剤粒子を供給するために、前述の充填剤の凝集体を、
a) 1~1200nmのメジアン粒子径(D50)を有する微粒子充填剤、好ましくは上記の微粒子ガラス充填剤を、その微粒子充填剤の表面上にポリマーコーティング層を形成する重合性皮膜形成剤を含有するコーティング組成物でコーティングすることであって、前記ポリマーコーティング層は、コーティング層の表面に反応性基を示してもよく、前記反応性基は付加重合性基及びステップ成長重合性基から選択され、それによりその後又は同時にコーティング微粒子充填剤を形成する、コーティングすることと;
b) コーティングされた微粒子充填剤を造粒するために、必要に応じて更なる架橋剤の存在下で、及び必要に応じて反応性基を示さない更なる微粒子充填剤の存在下でコーティング微粒子充填剤を凝集させることであって、造粒物は、コーティング微粒子充填剤粒子と、少なくとも一つのコーティング層によって互いに分離されそして互いに結合する任意の更なる微粒子充填剤粒子とを含有し、それにより、少なくとも一つのコーティング層は、反応性基と必要に応じて更なる架橋剤とを反応させることによって得られる架橋基によって架橋されてもよい、凝集させることと;
c) コーティング微粒子充填剤の造粒物を必要に応じて粉砕すること、分級すること及び/又はふるい分けすることと;
d) コーティング微粒子充填剤の造粒物を必要に応じて更に架橋することと;
を含むプロセスであって、反応性基は反応性基及び必要に応じて更なる架橋剤を反応させることによって得られる架橋性基に変換され、欧州特許出願公開第2604247A1号に更に記載されるように、微粒子充填剤は体積基準で複合充填剤粒子の主成分である、プロセスによって得ることができる。
【0178】
造粒され、粉砕された予備重合充填剤を得るために、上記の方法の工程b)は省略され、そして粉砕工程c)は好適な造粒粒子径又は粉砕粒子径を得るために好適な粉砕装置を用いて行われる。
【0179】
本発明による歯科用組成物は、好ましくは、組成物の総重量に基づいて1~85重量パーセントの量の充填剤(e)を含有する。
【0180】
特に好ましい充填剤(e)は、
(e-1) 0.1~3μmの平均粒子径を有する一つまたは複数の微粒子ガラス充填剤(e);および
(e-2) 一つまたは複数のシラン化ガラスフレークを含み、
(i) シラン化ガラスフレークは50nm~1000nmの平均厚さを有し、
(ii) シラン化ガラスフレークは2:1~50:1の範囲の平均アスペクト比(長径/厚さ)を有する。
【0181】
本明細書で使用される「平均厚さ」は、以下のように決定され得る。試料の100以上のガラスフレークの厚さを、走査形電子顕微鏡(SEM)によって測定する。次に、測定した厚さの合計を、厚さを測定したガラスフレークの数で割る。
【0182】
特に好ましい充填剤(e)において、微粒子ガラス充填剤(e-1)は、0.1~3μm、好ましくは0.2~2μm、より好ましくは0.3~1.5μm、最も好ましくは0.5~1.2μmの平均粒子径を有する。微粒子ガラス充填剤(e-1)の平均粒子径が0.1μm未満である場合、歯科用組成物の取扱性を低下させる可能性がある。微粒子ガラス充填剤(e-1)の平均粒子径が3.0μmより大きい場合、硬化した歯科用組成物の光沢性を低下させる可能性がある。
【0183】
好ましくは、微粒子ガラス充填剤(e-1)は反応性ガラスまたはフッ化物徐放性ガラスである。より好ましくは、微粒子ガラス充填剤(e-1)は反応性ガラスである。
【0184】
好ましくは、歯科用組成物は微粒子ガラス充填剤(e-1)を組成物の総重量に基づいて、0.5~60重量パーセント、好ましくは1~50重量パーセント、より好ましくは3~40重量パーセントの量を含有する。
【0185】
微粒子ガラス充填剤(e-1)は、好ましくは少なくとも0.5、より好ましくは少なくとも0.9、最も好ましくは少なくとも0.95の球形度を有する。
【0186】
本明細書で使用される用語「球形度」は、微粒子ガラス充填剤(e-1)の形態の与えられた粒子と同じ体積を有する球の表面積の、微粒子ガラス充填剤(e-1)の形態の粒子の表面積に対する比を意味する。
【0187】
好ましくは、微粒子ガラス充填剤(e-1)はシラン化されており、より好ましくは上記に定義したオルガノシランでシラン化されている。
【0188】
シラン化ガラスフレーク(e-2)は、好ましくは、50nm~1000nmの平均厚さ、および/または2:1~50:1の範囲の平均アスペクト比(長径/厚さ)を有する。シラン化ガラスフレークの上記平均厚さは50~1000μmであるが、異なる厚さを有するシラン化ガラスフレークの画分の重量は試料中で変動し得る。シラン化ガラスフレークは、少なくとも90重量%の量において、好ましくは30nm~1500nmの厚さ、より好ましくは40nm~1000nmの厚さを有するシラン化ガラスフレークの画分を含む。
【0189】
シラン化ガラスフレーク(e-2)の特定の平均厚さおよび特定の平均アスペクト比を選択することにより、優れた光沢および光沢保持率を長期間得ることができる。本発明によれば、硬化した歯科用組成物のポリマーマトリックス内でシラン化ガラスフレーク(e-2)を自己整列させることが可能であり、それによりガラスフレークを部分的に重なり合わせることによって配置することができる。平面状の重なり合う自己整列により、硬化した歯科用組成物の滑らかな表面が得られる。したがって、歯科用組成物は、球または繊維の形態のガラスを含有する従来の組成物と比較して初期光沢を改善する。
【0190】
本明細書で使用される用語「光沢」は、表面が正反射方向にどれだけ良好にまたは不良に光を反射するかを示す光学特性を意味する。光沢は、材料の屈折率、入射光の角度、表面形状によって影響を受ける。見かけの光沢は、正反射の量、即ち入射光に対して対称的な角度で等しい量で表面から反射される光に依存する。正反射は、光学分野で衆知のフレネル方程式によって計算されることができる。マイクロメートルの範囲の表面粗さは、正反射状態に影響する。正反射光の強度が低いということは、表面が粗く、光を他の方向に散乱させることを意味する。具体的には、完全に無反射の表面はゼロ光沢単位(G.U.)を有するが、完全な鏡は60°の測定角度で1000G.U.を有する。60°の測定角度が視覚的観察に最も近い相関を与えるために使用するのに最良の角度であると考えられるので、典型的に、光沢測定には、60°の測定角度が用いられる。10G.U.以下は低光沢を意味し、10~70G.U.は半光沢と見なされ、70G.U.より上は高光沢と見なされる。本発明による硬化した歯科用組成物から調製された歯科用修復物については、半光沢(10~70G.U.)および高光沢(>70G.U.)が好ましく、高光沢が特に好ましい。
【0191】
シラン化ガラスフレーク(e-2)の特定の選択は、初期光沢を改善するだけでなく、比較的長い期間にわたって光沢を保持することができる。
【0192】
本明細書で使用される用語「光沢保持」は、硬化した歯科用組成物が、材料除去方法、例えば研磨もしくはポリッシングによる加工を受ける場合でも、または同様に、硬化した歯科用組成物が、典型的な毎日の負荷、例えば歯磨き、口腔内の唾液、および患者による歯ぎしりもしくは噛みしめに曝される場合でも、比較的長期間にわたってその初期光沢を保持することを意味する。平面状の重なり合う配置では、ガラスフレーク状粒子が機械的荷重によって除去される可能性が低いので、ガラスフレークのこの配列は前述の荷重に対してより安定していることが容易に理解される。即ち、硬化した歯科用組成物の表面は比較的長期間にわたって滑らかなままであろう。更に、耐薬品性に関して、例えば唾液および/または食物由来の酸の観点から、ガラスフレークの平面状の重なり合う配列は一種のバリアを形成し、そのバリアは硬化した歯科用組成物およびその裏の歯を化学的影響、例えば酸性度による劣化から保護する。
【0193】
さらに、シラン化ガラスフレーク(e-2)は、未硬化歯科用組成物の有利な粘度をもたらし得る。具体的には、シラン化ガラスフレーク(e-2)は、歯科用組成物のチキソトロピック挙動をもたらし得る。
【0194】
本発明によれば、微粒子ガラス充填剤(e-1)とシラン化ガラスフレーク(e-2)との組み合わせは、歯科用組成物の粘度を所望の範囲内に調整するのに好適である。ガラスフレークは平面状の重なり合う配列形態における有利な配置をとり、その配置は均一な強化および寸法安定性の向上をもたらし得るため、シラン化ガラスフレーク(e-2)はまた、硬化した歯科用組成物の機械的特性および長期の機械的耐性の点から有利であり得る。
【0195】
シラン化ガラスフレーク(e-2)と微粒子ガラス充填剤(e-1)との組み合わせは、硬化した歯科用組成物について十分にバランスのとれた特性を得るために特に選択される。シラン化ガラスフレーク(e-2)と微粒子ガラス充填剤(e-1)との特定の組み合わせにより、優れた光沢、光沢保持率、および長期の耐薬品性ならびに優れた機械的特性および長期の機械的耐性を達成することができる。小さいナノサイズのシラン化ガラスフレーク(e-2)は、最大3μmのかなり大きくなり得る微粒子ガラス充填剤(e-1)の間および周囲に容易に配置される。それにより、小さいナノサイズのシラン化ガラスフレーク(e-2)は、上記の平面状の重なり合う配列形態で自己整列することができ、それにより一種のバリアまたはシールド効果をもたらすことができる。即ち、大きな微粒子ガラス充填剤(e-1)粒子はシラン化ガラスフレーク(e-2)の平面状の重なり合う配列によってシールドされるので、大きな微粒子ガラス充填剤(e-1)粒子は、硬化した歯科用組成物から、機械的な力および化学的影響による除去がされない。このシールドの結果、大きな微粒子ガラス充填剤(e-1)ではなく、もしあれば、せいぜい、小さいナノサイズのシラン化ガラスフレーク(e-2)が硬化した歯科用組成物から除去される。このシールド効果により、小さい粒子を除去した後でも、硬化した歯科用組成物の表面は依然として滑らかであり、優れた光沢を有するので、非常に劣化した光沢を有する著しく不規則な表面をもたらす大きな粒子が除去された硬化組成物と比較して、優れた光沢が保持される。更に、上記のシールド効果はまた良好な機械的および化学的耐性の両方を提供することも可能であり、よってシールド効果が攻撃的な化学的影響、例えば酸性液体が大きな粒子に浸透するのを防止する。この浸透により、機械的な力が加えられた場合に粒子が除去される可能性があり、それにより光沢および長期の機械的耐性が低下する。
【0196】
例えば、米国特許出願公開第2006/0241205A1号に教示されているように、微粒子ガラス充填剤(e-1)がガラスフレーク(e-2)よりも小さい場合、上記のシールド効果が得られる可能性が低いことは容易に理解される。ガラスフレークは、例えば(球状)ガラス充填剤粒子の形態の構造充填剤よりも大きいので、(球状)ガラス充填剤粒子の間におよびその周囲に容易には配置されることはできないが、むしろ(球状)ガラス充填剤粒子およびガラスフレークの別々の層を形成することができる。なぜなら大きいガラスフレークを小さい(球状)ガラス充填剤粒子間に平面状の重なり合う配列で配置することができないためである。しかし、大きなガラスフレークの層が(球状)ガラス充填剤粒子を覆う場合、大きなガラスフレークは機械的な力または化学的影響によって硬化した歯科用組成物の表面から容易に除去され得る。そして、光沢ならびに化学的および機械的耐性の劣化は、本発明による歯科用組成物と比較して非常に高い。
【0197】
好ましくは、微粒子ガラス充填剤(e-1)は、0.3~2、より好ましくは0.4~1.2の平均粒子径を有する。
【0198】
シラン化ガラスフレーク(e-2)については、それらが80nm~1000nmの平均厚さを有することが好ましい。
【0199】
最も好ましくは、微粒子ガラス充填剤(e-1)は0.4~1.2の平均粒子径を有し、そしてシラン化ガラスフレーク(e-2)は(a)50nm~1000nmの平均厚さ、および(b)2:1~50:1の範囲の平均アスペクト比(長径/厚さ)を有する。
【0200】
シラン化ガラスフレーク(e-2)のガラスは、酸化物として重量パーセントで以下の成分を含むのが好ましい:
SiO=64-70
=2-5
ZnO=1-5
NaO=8-13
MgO=1-4
CaO=3-7
Al=3-6、
ならびに最大3重量%のKOおよびTiO
【0201】
シラン化ガラスフレーク(e-2)のガラスは、不活性ガラスであることが好ましく、用語「不活性ガラス」は、微粒子ガラス充填剤(e-1)について上述したのと同じ意味を有する。
【0202】
シラン化ガラスフレーク(e-2)は、アスペクト比が少なくとも20:1のガラスフレークを粉砕し、続いて粉砕されたガラスフレークをシラン化することによって得られることが好ましい。ガラスフレークの粉砕は特に限定されず、充填材料を粉砕するために典型的に用いられる任意の装置、例えばボールミル粉砕装置を用いて実施されることができる。
【0203】
このようにして得られた粉砕ガラスフレークを、重合性化合物(ii)と反応性の一つまたは複数の重合性基を有するシランでシラン化することができる。歯科用組成物の充填材料をシラン化するためのシランは公知であり、それらの非常に多様な歯科用途は、例えばJ.M.Antonucci、Journal of Research of the National Institute of Standards and Technology、2005年、110巻、5号、541~558頁に記載されている。
【0204】
シラン化ガラスフレーク(e-2)は、好ましくは、光散乱によって決定される粒子径分布を有し、ここで、粒子の少なくとも70パーセント、より好ましくは少なくとも75パーセント、さらにより好ましくは少なくとも80パーセントは、50μm未満の粒子径を有する。
【0205】
シラン化ガラスフレーク(e-2)は1.46~1.60の範囲の屈折率を有することが好ましい。
【0206】
微粒子ガラス充填剤(e-1)およびシラン化ガラスフレーク(e-2)は、微粒子ガラス充填剤(e-1)の平均粒子径とシラン化ガラスフレーク(e-2)の平均厚さとの比を、好ましくは10:1~1:1、より好ましくは7:1~1.2:1、最も好ましくは、4:1~1.4:1の範囲内で選択することによって好適に選択され得る。
【0207】
歯科用組成物はシラン化ガラスフレーク(e-2)を組成物の総重量に基づいて、好ましくは0.5~40重量パーセント、より好ましくは1~30重量パーセント、さらにより好ましくは3~20重量パーセントの量を含有する。
【0208】
歯科用組成物において、微粒子ガラス充填剤(e-1)の重量とシラン化ガラスフレーク(e-2)の重量との比は、好ましくは80:1~0.5:1、より好ましくは40:1~1:1、さらにより好ましくは20:1~1.5:1、さらにいっそうより好ましくは10:1~2:1、最も好ましくは5:1~2.5:1の範囲である。
【0209】
一部式または多部式歯科用組成物
本発明による歯科用組成物は、一部式または多部式歯科用組成物であってもよい。
【0210】
本明細書で使用される用語「一部式」は、歯科用組成物の全ての構成要素が一部分に含まれることを意味する。
【0211】
1
本明細書で使用される用語「多部式」は、歯科用組成物の構成要素が多数の別々の部分に含まれることを意味する。例えば、構成要素の第一の部分は第一の部分に含まれ、さらに構成要素の第二の部分は第二の部分に含まれ、構成要素の第三の部分は第三の部分に含まれてもよく、構成要素の第四の部分は第四の部分に含まれてもよい、などである。
【0212】
好ましくは、歯科用組成物は一部式または二部式歯科用組成物、より好ましくは一部式歯科用組成物である。
【0213】
一部式歯科用組成物については、水がなく、任意で有機溶媒を含まないことが好ましい。水および/または有機溶媒は、歯科用組成物の保存中に重合開始剤系の、特にレドックス開始剤系の望ましくない活性化をもたらす場合がある。
【0214】
二部式歯科用組成物では、第一の部分は、好ましくは固体である少なくとも重合開始剤系(b)、および任意で例えば微粒子ガラス充填剤などの充填剤(e)などの固体成分を含むことが好ましい。第二の部分は、好ましくは少なくとも重合性化合物(a)、および任意で有機水溶性溶媒および/または水を含む。第二の部分には水がないことが好ましい。
【0215】
歯科組成物の特徴
本発明による歯科用組成物は酸性であることが好ましい。より好ましくは、最大でも6のpH、最も好ましくは、最大でも4のpHを有する。
【0216】
水性歯科用組成物の前述のpH値は、歯科用組成物に含まれる成分、および意図される用途に応じて適宜調節される場合がある。歯科用組成物のpHは当技術分野において知られている任意の手段によって、例えば、所定量の一つ又は複数の酸性化合物をその水溶性歯科用組成物に添加することによって調節されてもよい。この文脈では、「酸性化合物」という用語はpKが約-10~50の範囲内である化合物を意味する。適切な無機酸の例は、硫酸、ホスホン酸、リン酸、塩酸、硝酸などであり、これらは単独で、又は互いに組み合わせて使用されてもよい。好適な有機酸の例は、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、イタコン酸、ポリ(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルリン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、コハク酸、リンゴ酸、タンニン酸、トルエンスルホン酸、アジピン酸、酒石酸、及びアスコルビン酸から成る群より選択されることが好ましいカルボン酸である。水性歯科用組成物の設定pH値は、20℃の温度でpK値が約9~50の範囲内である有機弱酸又は無機弱酸とその対応する塩の組み合わせである安定化させられる典型的な化学的緩衝系によって場合がある。あるいは、その緩衝系は20℃の温度におけるpK値が約6~8の範囲である有機化合物を代表するノーマン・グッド緩衝液(グッド緩衝液)の形態であってもよく、生化学的に不活性であり、且つ人体などの生体系での適用に適切である。典型的な化学緩衝系の例は、酸性酸/酢酸塩緩衝液、リン酸二水素塩/リン酸一水素塩緩衝液、またはクエン酸/クエン酸緩衝液である。グッド緩衝液の例は、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、2-N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、又はN-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)である。用語「pH値」に関連し、pH値/系は、典型的には、水が主な化合物である水性系、例えば、歯科用組成物の液相の約55~90重量パーセントの量で存在し得る水性系、に関することが留意される。歯科用組成物のpH値は、水性系のpH値を決定するための適切な標準手段、例えば、ガラス電極によって決定されてもよい。
【0217】
好ましい無水製剤の形態での本歯科用組成物などの非水性系については、pH値は、水の代わりに、有機溶媒を含む系について決定される必要がある。これらの有機溶媒は、例えば、エタノール、プロパノール(n-、i-)、ブタノール(n-、イソ-、tert-)などのアルコール、ケトン、アセトンなどのケトンから成る群から選択され得る。これらの有機溶媒を含むこうした非水性系のpH値の決定は、ガラス電極によっても実施され得る。ところが、pH値を正しく決定するために、非水性系でのpH値を測定するための電極の製造者の指示を考慮に入れる必要がある。
【0218】
式(I’)の重合性化合物、およびその使用
本発明はさらに、以下の式(I’)の重合性化合物に関する:
【化32】
【0219】
式(I’)中、R’は直鎖または分岐のC5-18アルキルまたはアルケニル基を表し、これらはヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、第三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基で置換されていてもよい。任意で、C5-18アルキルまたはアルケニル基の主鎖において、1~8個の炭素原子は互いに独立して、酸素原子および硫黄原子から選択されるヘテロ原子により置換されていてもよい。R’は、水素原子またはメチル基を表す。
【0220】
式(I’)のR’の定義における「第三級アミノ基」という用語は、独立してC1-4アルキル基、好ましくはメチル基、から選択される二つの基で置換されたアミノ基を意味する。
【0221】
好ましくは、R’は、ヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、第三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基で置換されていてもよい、直鎖のCもしくは直鎖または分岐のC6-18アルキルまたは直鎖または分岐のC5-18アルケニル基、より好ましくは直鎖または分岐のC6-18アルキルまたはアルケニル基、最も好ましくは直鎖または分岐のC8-18アルキルまたはアルケニル基を表す。
【0222】
R’中、主鎖における炭素原子がヘテロ原子で置換されている場合、R’のアルキル基の主鎖中において、好ましくはR’の直鎖アルキル基の、1、2または5~8個の炭素原子、より好ましくは5~8個の炭素原子、最も好ましくは6~8個の炭素原子が互いに独立して、酸素原子および硫黄原子から選択されるヘテロ原子で置き換えられていてもよいことが好ましい。
【0223】
’は、水素原子またはメチル基を表す。
【0224】
好ましくは、下記の式(I)の重合性化合物において、R’は下記の式(II’):
【化33】

の基である。
【0225】
式(II’)において、Xは水素原子、ヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基またはカルボキシル基を表し、Zは酸素原子または硫黄原子を表し、Zが複数存在する場合、同一でも異なっていてもよい。Rは水素原子またはヒドロキシル基、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基およびカルボキシル基から選択される基である。基Rが複数存在する場合、それらの基は同一でも異なっていてもよい。Rは水素原子またはヒドロキシル基、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基およびカルボキシル基から選択される基である。基Rが複数存在する場合、それらの基は同一でも異なっていてもよい。
【0226】
式(II’)中、aは0または1であり、bは2~18の整数であり、cは2~16の整数であり、dは0~8の整数であり、eは1~3の整数であるが、a=d=0のとき、bは少なくとも5、好ましくは少なくとも6、より好ましくは少なくとも7である。
【0227】
好ましくは、式(II’)において、aは0または1であり、bは5~18の整数であり、cは2~8の整数であり、cは0~8の整数であり、eは1または2である。より好ましくは、式(II’)において、aは0または1であり、bは6~18の整数であり、cは2~4の整数であり、dは0~2および5~8の整数であり、eは1または2である。最も好ましくは、式(II’)において、aは0または1であり、bは8~18の整数であり、cは2であり、dは0または5~8の整数であり、eは1である。
【0228】
好ましくは、式(I)の重合性化合物は以下の構造式(III’)または(IV’):
【化34】

から選択される。
【0229】
式(III’)および(IV’)において、R’は水素原子またはメチル基、好ましくは水素原子を表し、X’は水素原子、ヒドロキシル基、第三級アミノ基またはカルボキシル基を表し、n’は5~18の整数であり、m’は2~15の整数である。
【0230】
好ましい式(I’)の化合物は、以下の構造式から選択される:
【化35】

上記に示した式(I’)の特に好ましい重合性化合物から、アクリロイル化合物が最も好ましい。
【0231】
式(I’)の重合性化合物は、歯科用組成物、特に上述の歯科用組成物中で使用され得る。
【0232】
特に好ましい実施形態
特に好ましい実施形態によれば、本発明による歯科用組成物は、
(a) 下記の式(I)の重合性化合物:
【化36】

(式中、
Rは下記の式(II)の基であり、
【化37】

(式中、
Xは水素原子、ヒドロキシル基、三級アミノ基またはカルボキシル基であり;
Zは酸素原子であり;
は水素原子またはヒドロキシル基、三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基であり、複数のRが存在する場合、同一でも異なっていてもよく、好ましくはRは水素原子であり;
は水素原子またはヒドロキシル基、三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基であり、複数のRが存在する場合、同一でも異なっていてもよく、好ましくはRは水素原子であり;
aは0または1であり、
bは2~18の整数、好ましくは2~12の整数であり;
cは2~4の整数であり、好ましくは、bは2であり;
dは0~8の整数、好ましくは0であり;
eは1~3の整数、好ましくは1であり;
は、水素原子またはメチル基を表す)、重合性化合物;および
(b) 重合開始剤系、を含む。
【0233】
別の特に好ましい実施形態によると、本発明による重合性化合物は、式(I**)を有する:
【化38】

(式中、
R’は下記の式(II**)の基であり、
【化39】

(式中、
Xは水素原子、ヒドロキシル基、三級アミノ基またはカルボキシル基であり;
Zは酸素原子であり;
は水素原子またはヒドロキシル基、三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基であり、複数のRが存在する場合、同一でも異なっていてもよく、好ましくはRは水素原子であり;
は水素原子またはヒドロキシル基、三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基であり、複数のRが存在する場合、同一でも異なっていてもよく、好ましくはR’は水素原子であり;
aは0または1であり;
bは2~18の整数、好ましくは6~18の整数であり;
cは2~4の整数であり、好ましくは、bは2であり;
dは0~2または5~8の整数、好ましくは0であり;
eは1~3の整数、好ましくは1であり、
ただし、a=d=0のとき、bは少なくとも5、好ましくは少なくとも6、より好ましくは少なくとも7であり;
は、水素原子またはメチル基を表す。
【0234】
さらに、特に好ましい実施形態によると、式(I**)の重合性化合物は、歯科用組成物で使用される。
【0235】
特に好ましい実施形態は、説明の一般的な部分で上述した特徴のいずれか一つによって修正され得る。
【0236】
本発明を以下の実施例により更に説明する。
【実施例
【0237】
N-アクリル-8-アリルアミノ-オクタノールの調製
が水素原子を表し、Rがオクチル-8-オールを表す式(I)の化合物は、以下の三つのステップを含む合成経路によってオクタンジオールから出発して調製された。
【0238】
ステップ1:8-ブロモ-オクタノールの調製
16g(110mmol)のオクタンジオールを250mlトルエンに溶解した。15.5mlのHBr(137mmol、1.25当量、48%)を加えた後、反応混合物をディーンスターク受信機で還流して、反応物から水を除去した。8時間後、混合物を室温まで冷却し、蒸留水で二回洗浄し、塩水で一回洗浄した。硫酸ナトリウムで濾過し、溶媒を蒸発させた後、臭化物を定量的収率で得た。NMRスペクトルでは、残留トルエンが観察され、その後の工程には影響はなかった。
【0239】
20°C=1.23g/ml(lit:1.22g/ml)
13C NMR(CDCl;ppm):62.95(OH),34.04(BrCH ),32.78/32.71(Br)および(CHOH),29.23/28.73/28.09/25.65(CH
【0240】
ステップ2:8-アリルアミノ-オクタノールの調製
18g(130mmol、1.2当量)KCOを60ml(800mmol、7.3当量)アリルアミンで懸濁した。20mlジクロロメタンに溶解した22.9g8-ブロモオクタノールを、30分間にわたり滴下した。混合物を室温で一晩攪拌した。濾過および蒸発後、望ましい化合物を98%の収率で得た。
【0241】
ステップ3:N-アクリル-8-アリルアミノ-オクタノールの調製
15g(81mmol)8-アリルアミノ-オクタノールを、100mlのTHFに溶解し、8mlのHOに溶解した5.54gKOH(136mmol、1.7当量)を加え、混合物を氷で冷却した。10mlのTHFに溶解された8.1g(90mmol、1.1当量)塩化アクリルを30分間にわたって滴下した。混合物を3時間室温で攪拌した。その後、酢酸エチル中のBHT(10g/L=45mmol/L)の1.5ml溶液を加えた。その後、溶媒を蒸発させ、100mlの水を加えた。この混合物を100mlの酢酸イソプロピルで二回抽出し、次いで有機相を50mlの1N硫酸で二回、50mlの飽和NaHCO溶液で二回および50mlで二回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、蒸発させて90%の収率でアクリレートを得た。
【0242】
13C NMR(CDCl;ppm):166.37/165.85(C=O),133.28/133.11(CHH-CH),128.07/127.82(CHH-CO),127.75/127.42(=CH-CO),116.96/116.55(=CH-CH),62.70/62.66(OH),50.07/49.59(CH=CH-),47.26/46.57(N--CH),32.60/32.57(CHCHOH),29.21/29.17/29(CH CHOH),27.58/26.79/26.59/25.57/25.55(CH).
上記合成経路は、本発明による式(I)の任意の化合物の調製のために適合され得る。
【0243】
N-アクリル-7-アリルアミノ-ヘプタノールの合成:
26.5g(192mmol,1.2当量)KCOを96ml(1.28mol,8当量)アリルアミンで懸濁した。31.4g(160mmol,1当量)7-ブロモ-ヘプタノールを0~4℃で60分間滴下して加え、混合物を20時間攪拌した。濾過および蒸発後、アミンを99%の収率で得て、さらなる精製なしで使用した。
【0244】
27.6g(160mmol、1当量)のアリルアミノヘプタノールを200mlのTHFに溶解し、20mlの50%NaOH水溶液を加え、混合物を氷で冷却した。続いて、20mlのTHFに溶解した15.9g(176mmol、1.1当量)のアクリロイルクロリドを0~4℃で60分かけて滴下した。混合物を室温で1時間撹拌し、次いで酢酸エチル中40mMのBHT溶液3mlを加えた。THFを真空中で除去し、200mlのHOを添加し、そして混合物を150mlの酢酸エチルで二回抽出した。有機相を50mlの1M HSO溶液で二回、50mlの飽和NaHCO溶液で一回洗浄し、NaSO上で乾燥し、蒸発させて36g(98%)の所望の生成物を得た。
【0245】
N-アクリル-6-アリルアミノ-ヘキサノールの合成:
23g(166mmol,1.2当量)KCOを75ml(1mol,7.2当量)アリルアミンで懸濁した。25g(139mmol,1当量)6-ブロモ-ヘキサノールを室温で10分間滴下して加え、混合物を20時間攪拌した。濾過および蒸発後、アミンを98%の収率で得て、さらなる精製なしで使用した。
【0246】
21g(134mmol,1当量)アリルアミノヘキサノールおよび20.4ml(147mmol,1.1当量)トリエチルアミンを200mlジクロロメタン中に溶解し、混合物を氷で冷却した。その後、20mlのTHFに溶解した11.9g(147mmol、1.1当量)のアクリロイルクロリドを0~4℃で20分かけて滴下した。混合物を室温で3時間撹拌し、次いで酢酸エチル中40mMのBHT溶液1mlを加え、その後、100mlの蒸留HOを加えた。有機相を50mlの1M HSO溶液で二回、50mlの飽和NaHCO溶液で一回洗浄し、NaSO上で乾燥し、蒸発させて20g(71%)の所望の生成物を得た。
【0247】
N-アクリル-10-アリルアミノ-デカノールの合成:
28g(202mmol,1.2当量)KCOを75ml(1mol,7.9当量)アリルアミンで懸濁した。30g(126mmol,1当量)10-ブロモ-デカノールを室温で10分間滴下して加え、混合物を20時間攪拌した。濾過および蒸発後、アミンを98%の収率で得て、さらなる精製なしで使用した。
【0248】
25g(117mmol,1当量)アリルアミノデカノールおよび17.8ml(129mmol,1.1当量)トリエチルアミンを200mlジクロロメタン中に溶解し、混合物を氷で冷却した。その後、30mlのTHFに溶解した11.6g(129mmol、1.1当量)のアクリロイルクロリドを0~4℃で20分かけて滴下した。混合物を室温で3時間撹拌し、次いで酢酸エチル中40mMのBHT溶液1.5mlを加え、その後、100mlの蒸留HOを加えた。有機相を50mlの1M HSO溶液で二回、50mlの飽和NaHCO溶液で一回洗浄し、NaSO上で乾燥し、蒸発させて29g(93%)の所望の生成物を得た。