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特許7206212治療用細胞組成物の効力を決定するための方法及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】治療用細胞組成物の効力を決定するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20230110BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230110BHJP
   G01N 33/536 20060101ALI20230110BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
C12Q1/06
G01N33/53 D
G01N33/536 D
C07K16/18
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019549391
(86)(22)【出願日】2018-03-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 US2018021149
(87)【国際公開番号】W WO2018165161
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】62/467,420
(32)【優先日】2017-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519323078
【氏名又は名称】タラリス・セラピューティクス・インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】513036860
【氏名又は名称】ユニヴァーシティー・オブ・ルイスヴィル・リサーチ・ファウンデイション・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スザンヌ・ティー・イルドスタッド
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・カトポディス
(72)【発明者】
【氏名】ウラディミール・センユコフ
(72)【発明者】
【氏名】マルギット・イェシュケ
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-504970(JP,A)
【文献】特表2016-527920(JP,A)
【文献】CORNISH, G.H., et al.,"Differential regulation of T-cell growth by IL-2 and IL-15.",BLOOD,2006年,Vol.108, No.2,pp.600-608,DOI: 10.1182/blood-2005-12-4827
【文献】SALMOND, R.J., et al.,"MAPK, phosphatidylinositol 3-kinase, and mammalian target of rapamycin pathways converge at the level of ribosomal protein S6 phosphorylation to control metabolic signaling in CD8 T cells.",J. IMMUNOL.,2009年,Vol.183,pp.7388-7397,DOI: 10.4049/jimmunol.0902294
【文献】JEURINK, P.V., et al.,"T cell responses in fresh and cryopreserved peripheral blood mononuclear cells: kinetics of cell viability, cellular subsets, proliferation, and cytokine production.",CRYOBIOLOGY,Vol.57, No.2,2008年,pp.91-103,DOI: 10.1016/j.cryobiol.2008.06.002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植促進細胞(FC)及び/又はアルファベータTCR+T細胞を含む試料の効力を決定する方法であって、
移植促進細胞(FC)及び/又はアルファベータTCR+T細胞を含む試料を5分間から60分間の期間にわたり分裂促進刺激剤と接触させる工程;及び
リボソームS6タンパク質がリン酸化されている(pS6)前記試料中のFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の数を決定する工程;
を含み、
pS6がリン酸化されている前記試料中のFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の数が、前記試料中の前記FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞それぞれの効力の指標である、方法。
【請求項2】
前記試料が、100,000個から2,000,000個のFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分裂促進刺激剤が、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)とイオノマイシンとの併用、フィトヘマグルチニン(PHA)、コンカナバリンA(conA)及びポークウィードマイトジェン(PWM)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料を、20分間から30分間の期間にわたり前記分裂促進刺激剤と接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
pS6がリン酸化されている前記試料中のFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の数が、pS6に対する蛍光標識抗体を使用して決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記蛍光標識抗体の結合が、FACSを使用して検出される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記試料中の前記FCの少なくとも30%が、pS6+である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記試料中の前記アルファベータTCR+T細胞の少なくとも30%が、pS6+である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞を凍結させる前に実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
凍結されていたFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞に実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の治療用量を決定するのを補助する方法であって、
FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞を含む細胞試料を準備する工程;
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法により前記細胞試料の効力を決定する工程であって、前記細胞試料中のFCの少なくとも30%及び/又はアルファベータTCR+T細胞の少なくとも30%がpS6+であることが、前記細胞試料が効力を有することを示す、工程;
を含み、前記細胞試料の前記効力がFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の治療用量を示す、方法。
【請求項12】
pS6のリン酸化型に対する抗体、並びに以下:CD3に対する抗体、CD8に対する抗体、及びアルファベータTCRに対する抗体の少なくとも1つ、
を含む製造品であって、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法において使用するための、製造品。
【請求項13】
前記pS6のリン酸化型に対する抗体、CD3に対する抗体及びアルファベータT細胞受容体(TCR)に対する抗体を含む、請求項12に記載の製造品。
【請求項14】
前記pS6のリン酸化型に対する抗体及びCD8に対する抗体を含む、請求項12に記載の製造品。
【請求項15】
前記pS6のリン酸化型に対する抗体、CD3に対する抗体、CD8に対する抗体、及びアルファベータTCRに対する抗体を含む、請求項12に記載の製造品。
【請求項16】
分裂促進刺激剤を更に含む、請求項12から15のいずれか一項に記載の製造品。
【請求項17】
少なくとも1つの蛍光標識を更に含む、請求項12から16のいずれか一項に記載の製造品。
【請求項18】
各抗体に対する少なくとも1つの蛍光標識を更に含む、請求項12から17のいずれか一項に記載の製造品。
【請求項19】
各抗体に対する前記少なくとも1つの蛍光標識のそれぞれが互いに識別可能である、請求項18に記載の製造品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれている、2017年3月6日に出願した米国仮特許出願第62/467,420号の優先権を主張する。
【0002】
本開示は、治療用細胞組成物の効力を決定するための方法及び組成物に一般に関する。
【背景技術】
【0003】
効力アッセイは、1つ又は複数の生理学的特性に関連している1つ又は複数の生物学的マーカーを検出する又は測定することによって、細胞組成物の治療活性を予測することを目的としている。しかし、作用の治療機序が治療用細胞組成物間で変動する場合があることから、関連する生物学的又は生物物理学的特性に再現性よく関連する生物学的機能を同定することは困難である場合がある。付加的に、作用の治療機序が複雑な生物学的経路に依存する場合があることから、どの産物が効力を決定することに最も関連しているかを同定することは特に難しい場合がある。それでもなお、細胞組成物治療特性を反映し、生産バッチ間一致性の信頼できる測定を提供する効力アッセイを開発することは極めて重要である。
【0004】
本開示は、移植促進細胞(facilitating cell)(FC)及び/又はアルファベータTCR+T細胞の治療有効性を評価するための新規効力アッセイを記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第8,632,768号
【文献】米国特許第9,452,184号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
促進細胞及び/又はアルファベータTCR+T細胞の効力を評価するための方法及び組成物は、本明細書に記載される。
【0007】
一態様では、促進細胞(FC)及び/又はアルファベータTCR+T細胞を含む試料の効力を決定する方法が提供される。そのような方法は、典型的には、FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞を含む試料を分裂促進刺激剤(mitogenic stimulus)と接触させること;並びにリボソームS6タンパク質がリン酸化されている(pS6)試料中のFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の数を決定することを含む。本明細書に記載のとおり、pS6がリン酸化されている試料中のFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の数は、試料中のFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の効力をそれぞれ示す。
【0008】
代表的な分裂促進刺激剤としては、非限定的に、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)とイオノマイシンとの併用、フィトヘマグルチニン(PHA)、コンカナバリンA(conA)及びポークウィードマイトジェン(PWM)が挙げられる。一部の実施形態では、試料を、約5分間から約60分間(例えば、約20分間から約30分間)の期間にわたり分裂促進刺激剤と接触させる。
【0009】
一部の実施形態では、試料は、約100,000個から約2,000,000個のFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞を含む。一部の実施形態では、pS6がリン酸化されている試料中のFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の数は、pS6に対する蛍光標識抗体を使用して決定される。一部の実施形態では、蛍光標識抗体の結合は、FACSを使用して検出される。
【0010】
一部の実施形態では、方法は、FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞を凍結させる前に実施される。一部の実施形態では、方法は、凍結されていたFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞について実施される。
【0011】
一部の実施形態では、試料中のFCの少なくとも30%は、pS6+である。一部の実施形態では、試料中のアルファベータTCR+T細胞の少なくとも30%は、pS6+である。
【0012】
別の態様では、FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の治療用量を決定する方法が提供される。そのような方法は、典型的には、FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞を含む細胞試料を準備すること;細胞試料の効力を決定することを含む。本明細書に記載されるとおり、細胞試料の効力は、FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の治療用量の指標であり得る。
【0013】
別の態様では、pS6のリン酸化型に対する抗体、並びに以下:CD3に対する抗体、CD8に対する抗体及びアルファベータTCRに対する抗体の少なくとも1つを含む製造品である。
【0014】
一部の実施形態では、製造品は、pS6のリン酸化型に対する抗体、CD3に対する抗体、及びアルファベータT細胞受容体(TCR)に対する抗体を含む。一部の実施形態では、製造品は、pS6のリン酸化型に対する抗体及びCD8に対する抗体を含む。一部の実施形態では、製造品は、pS6のリン酸化型に対する抗体、CD3に対する抗体、CD8に対する抗体及びアルファベータTCRに対する抗体を含む。
【0015】
本明細書に記載される製造品は、分裂促進刺激剤を更に含み得る。本明細書に記載される製造品は、少なくとも1つの蛍光標識を更に含み得る。本明細書に記載される製造品は、各抗体に対する少なくとも1つの蛍光標識を更に含み得る。一部の実施形態では、各抗体に対する少なくとも1つの蛍光標識のそれぞれは、互いに識別可能である。
【0016】
他に定義されない限り本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、主題の方法及び組成物が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似又は等価の方法及び材料は、主題の方法及び組成物の実施及び検査において使用され得るが、好適な方法及び材料は、下に記載される。付加的に、材料、方法及び例は、例示的であるだけであって限定を意図しない。本明細書において述べられるすべての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】FC(CD8+/TCR-)のゲーティングを示す図である。
図2】FCに対するpS6の選択性を示すグラフである。
図3】アルファベータTCR+細胞のゲーティングを示す図である。
図4】アルファベータTCR+細胞に対するpS6の選択性を示すグラフである。
図5】FCに対するpS6+の直線性フィットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示は、FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の効力を決定する方法を提供する。FC及びアルファベータTCR+T細胞は、米国特許第8,632,768号及び第9,452,184号に記載されている治療用細胞組成物中の3つの主な構成成分のうちの2つである。本治療用細胞組成物の現在の治療及び臨床使用を考慮すると、治療用細胞組成物、更に具体的にはその中のFC及びアルファベータTCR+T細胞の効力を調製後で患者への投与前に評価するための迅速で定量的な方法は、非常に有用である。
【0019】
HSC、FC及びアルファベータTCR+T細胞の治療用組成物の調製の際、又はそのような治療用組成物が調製された後に、組成物からの細胞の試料が移され、分裂促進刺激剤と接触させてもよい。典型的には、FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞(例えば、約100,000個から約2,000,000個のFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞について)を、分裂促進刺激剤と接触させる。本明細書において使用される、分裂促進刺激剤又は簡単にはマイトジェンは、細胞に有糸分裂を起こさせる化合物(例えば、タンパク質、小分子等)を指す。代表的な分裂促進刺激剤としては、非限定的に、イオノマイシンとホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA;12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート(TPA)としても周知)、フィトヘマグルチニン(PHA)、コンカナバリンA(conA)又はポークウィードマイトジェン(PWM)が挙げられる。一部の場合では、商業的に入手可能な細胞刺激カクテルが製造社の条件下で使用されてよい(例えば、カタログ番号00-4970、ThermoFisher Scientific社)。代替的に、希釈又は用量設定実験は、本明細書に記載される治療用細胞組成物において効力を示す最大量の刺激及び/又はシグナルを産生する具体的なマイトジェンの量及び曝露時間を決定するために実施されてよい。
【0020】
典型的には、全細胞約100,000個から約2,000,000個(すなわち、HSC、FC及びアルファベータTCR+T細胞を含む治療用細胞組成物由来)を、マイトジェンと接触させ、十分に混合され(例えば、ボルテックスされ)、温度約37℃に約5分間から約60分間(すなわち、1時間)(例えば、約5分間から約50分間、約5分間から約30分間、約5分間から約15分間、約10分間から約45分間、約10分間から約30分間、約15分間から約45分間、約15分間から約30分間、約20分間から約60分間、約20分間から約40分間、約30分間から約45分間、約30分間から約60分間、約45分間から約60分間)維持された。FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞が分裂促進刺激剤に曝露される時間の長さは、一部は、使用される具体的な分裂促進刺激剤に依存し、一部の実施形態では、FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞は、分裂促進刺激剤に約15分間、37℃に設定された5%CO2インキュベーターにおいて曝露される。
【0021】
細胞を好適な期間にわたりマイトジェンを用いて刺激した後に、リボソームS6タンパク質(「S6」)がリン酸化された(「pS6」)FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の数が決定される。細胞の数を決定するための最も一般的で効率的な方法が、1つ又は複数の蛍光抗体及び蛍光標識細胞分取(FACS)分析を使用することであることは理解される。本方法では、異なって蛍光標識された抗体は、抗CD3、抗CD8、抗アルファベータTCR及び抗ホスホS6(すなわち、抗pS6)と共に刺激された細胞を染色するために使用され得る。総FCは、CD8+及びアルファベータTCR-として数え上げられる一方で、効力があるFCは、CD8+、アルファベータTCR-及びホスホ-S6+(すなわち、pS6+)として数え上げられる。同様に総アルファベータTCR+T細胞は、CD3+として数え上げられる一方で、効力があるアルファベータTCR+T細胞は、CD3+及びpS6+としてとして数え上げられる。本明細書に記載される方法において使用され得る抗体は、商業的に入手可能である。例えば、BD Biosciences社(例えば、カタログ番号563423、557757、555916、557760、557746、561951、563625、563826、561674、560433、560434若しくは560435)、Abnova社(例えば、カタログ番号MAB12370、MAB9820、MAB4591、MAB4596、ab99859、ab95648、MAB6560若しくはMAB6559)又はeBiosciences社(例えば、カタログ番号12-0039、50-0037、25-0087、9047-0087、46-9986、11-9986、12-9007又は48-9007)を参照されたい。
【0022】
FACSと共に使用され得る多数の蛍光標識が、当技術分野において公知である。それらが発する光(例えば、赤、青紫、黄、緑、青)の波長によって分類され得る多数の異なる標識は、複数の抗体及びそれらの対応する結合標的の同時又は並行検出を可能にする。例えば、本明細書に記載されるCD3、CD8及びアルファベータTCRに対する抗体は、FCをアルファベータTCR+T細胞から識別できるように異なって標識されてよく、pS6のリン酸化型に対する抗体もリン酸化S6(すなわち、pS6)を非リン酸化S6 FCから、及びリン酸化S6(すなわち、pS6)を非リン酸化S6アルファベータTCR+T細胞から識別できるように、他の標識抗体とは異なって標識されてよい。非限定的に、代表的な蛍光標識としては、例えば、Alexa fluor 488、Alexa fluor 532、Alexa fluor 647、Alexa fluor 700、シアニン5、シアニン5.5、シアニン7、蛍光イソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)、eFluor 450、eFluor 506、eFluor 610、eFluor 660及びeFluor 780が挙げられる。蛍光標識は、例えばEMD Millipore社(Darmstadt、Germany);abcam社(Cambridge、Cambridgeshire、UK);及びPromega社(Madison、WI)から得ることができる。
【0023】
例えば、臨床使用のためのGMP(優良医薬品製造基準)生産設定では、最終治療用細胞組成物の一部のみを、好適な期間にわたり分裂促進刺激剤と接触させてもよく、次にpS6を含有するFC及びアルファベータTCR+細胞のパーセントを決定するためにFACSによって分析されてよい。一部の実施形態では、約600万個の白血球がマイトジェンを用いて刺激される。典型的には、白血球600万個の内、細胞約250,000個は、アルファベータTCR+T細胞であると推定され、細胞約25,000個はFCであると推定される。試料は、凍結保存前並びに/又は凍結保存及び解凍後に評価されてよい。後者の場合、効力について評価される試料は、別のバイアル中で凍結保存されてよい。効力検査は、患者が治療用細胞組成物の投与のために準備する前に実施されてよく、治療用細胞組成物が投与のための十分な細胞を含むかどうか決定するために使用されてよい。FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の効力を決定するための本明細書に記載される方法は、定量的であり、約2から4時間以内で実施することができ、これらの方法が臨床設定において非常に有用であるようにしている。
【0024】
本明細書に記載される場合、S6がリン酸化されている試料中のFC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の数は、試料中のこれらの細胞の効力の指標である。本明細書において使用される「効力」は、S6をリン酸化することによって分裂促進刺激剤に応答する試料中の細胞の数を指す。この方法で(すなわち、S6をリン酸化することによって)応答する細胞は、それらが、細胞外シグナルに応答でき、これらのシグナルへの応答で核リプログラミングを開始することから、効力があると見なされる。調製及び/又は任意の他の種類の操作(例えば、凍結、解凍、運搬/輸送)後に、細胞(例えば、FC及びアルファベータTCR+T細胞)の効力を決定することは、治療用細胞組成物の調製及び治療用細胞組成物の生物学的品質の判定における重要な構成要素であり得る。重要なことに、本明細書に記載される効力アッセイも保存(例えば、凍結保存)の際及び/又は後の治療用細胞組成物の安定性を決定及び定量するために使用され得る。
【0025】
細胞治療では、細胞組成物中の1つ又は複数の細胞型の効力を確認又は決定することは望ましい。この場合、細胞組成物中のFCの少なくとも約30%がpS6+である(すなわち、試料中のFCの少なくとも約30%が効力がある)、又は細胞組成物中のアルファベータTCR+T細胞の少なくとも約30%がpS6+である(すなわち、試料中のアルファベータTCR+T細胞の少なくとも約30%が効力がある)ことは望ましい。この場合、細胞組成物中FCの少なくとも約30%がpS6+である(すなわち、試料中のFCの少なくとも約30%が効力がある)及び細胞組成物中のアルファベータTCR+T細胞の少なくとも約30%がpS6+である(すなわち、試料中のアルファベータTCR+T細胞の少なくとも約30%が効力がある)ことは望ましい。
【0026】
治療用細胞組成物又はその中の具体的な細胞型のいずれかに関して本明細書において使用される場合「少なくとも30%」は、例えば、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%を指し得ることは理解される。少なくとも30%と述べられる場合、それは、例えば、約30%から約90%、約30%から約80%、約30%から約70%、約40%から約80%、約40%から約70%、約40%から約60%、約50%から約80%、約50%から約70%、約60%から約90%、約60%から約80%、約70%から約80%、約75%から約80%又は約80%から約90%も指す場合があることが理解される。
【0027】
一部の場合では、1つ又は複数の文書(例えば、分析証明書)は、治療用細胞組成物に添付されてよい。治療用細胞組成物と共に含まれ得る文書は、例えば、次の:治療用細胞組成物中のpS6+若しくは効力がある細胞の合計パーセンテージ(細胞の総数と比較する);治療用細胞組成物中のpS6+若しくは効力があるFCのパーセンテージ;治療用細胞組成物中のpS6+若しくは効力があるアルファベータTCR+T細胞のパーセンテージ;治療用細胞組成物中のpS6+若しくは効力があるFCの数;並びに/又は治療用細胞組成物中のpS6+若しくは効力があるアルファベータTCR+T細胞の数の1つ又は複数を報告し得る。治療用細胞組成物と共に含まれ得る文書は、推奨用量(例えば、総細胞数、pS6+若しくは効力がある細胞の数又は体積)及び/又は投薬レジメンも示し得る。
【0028】
したがって本明細書に記載される方法は、FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞を含む細胞組成物の好適な治療用量を決定するために使用され得る。例えば、FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞を含む細胞試料の効力は、本明細書に記載されるとおり、FC又はアルファベータTCR+T細胞のいずれか又は両方の効力に基づいて決定されてよく、治療用量は決定され、次に患者に投与されてよい。本明細書において使用される場合、好適な治療用量は、移植片対宿主病がなく、いかなる毒性(例えば、アルファベータTCR+T細胞由来)も存在せずに移植を可能にする用量を指す。
【0029】
本開示は、製造品も提供する。本明細書に記載される製造品は、例えば、本明細書に記載される抗体の1つ又は複数を含み得る。例えば、CD3、CD8、アルファベータTCR、及び/又はpS6に特異的に結合する1つ又は複数の抗体は、本明細書に記載される製造品に含まれてよい。
【0030】
本明細書に記載される製造品は、1つ又は複数の蛍光標識も含んでよい。蛍光標識が製造品中の抗体それぞれについて提供され得ることは理解される。蛍光標識が抗体それぞれについて提供される場合、これらの蛍光標識のそれぞれは異なっていてよい(例えば、互いに識別可能である)ことも理解される。更に、製造品中の1つ又は複数の抗体は、すでに標識化されて提供されてよく;代替的に蛍光標識は、最終使用者による標識化のために抗体とは別に(例えば、別のバイアル中に)提供されてよい。
【0031】
製造品は、非限定的に、1つ又は複数のマイトジェン(例えば、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)とイオノマイシンとの併用、フィトヘマグルチニン(PHA)、コンカナバリンA(conA)若しくはポークウィードマイトジェン(PWM))、細胞培養培地、1つ又は複数の緩衝液、試薬及び/又は補助因子等の、追加構成成分を含んでもよい。製造品は、FC及び/又はアルファベータTCR+T細胞の効力を決定するために必要なステップを実施するために1つ又は複数の容器、例えば、バイアル、キュベット、試験管、培養プレート等も含んでよい。
【0032】
本発明により、当技術分野内の従来の分子生物学、微生物学、生化学及び組換えDNA技術が用いられ得る。そのような技術は、文献に十分に説明されている。本発明は、特許請求の範囲に記載される主題の方法及び組成物の範囲を限定しない続く実施例において更に記載される。
【実施例
【0033】
(実施例1)
方法の原理
本明細書に記載される方法は、本明細書においてFCRxと称される治療用細胞組成物の製造工程由来の凍結保存された最終産物の効力を決定するために使用され得る。
【0034】
促進細胞(FC)及びアルファベータTCR+細胞の作用機構は、細胞遊走、幹細胞生着の支持及び免疫寛容の発達を含む複雑な工程である。タンパク質合成及び細胞増殖に関与する標的リボソームS6タンパク質(pS6)のリン酸化は、FC及びアルファベータTCR+細胞が凍結保存後に分裂促進刺激剤に応答できたことを示す代替アッセイとして開発された。S6のリン酸化を、FC又はアルファベータTCR+に対する抗体パネルを用いて染色した非刺激及び刺激細胞試料において定量し、刺激に伴うpS6における増加を細胞の両方のサブセットにおいて決定した。
【0035】
免疫表現型検査は、細胞によって発現されるタンパク質を研究するために使用される技術である。それは、細胞表面抗原又は細胞内タンパク質に対して方向付けられた蛍光抗体を用いた細胞の標識化を含む。標識細胞は、サイズ、細胞複雑性及び蛍光特性に関して1秒あたり数千の細胞を分析できるフローサイトメーター、レーザーに基づく装置において分析する。
【0036】
T細胞は、それらの細胞表面にCD3を提示していた。フィコエリトリン(PE)を用いて標識したマウス抗ヒトCD3抗体を使用することによって、陽性蛍光シグナルを検出した。CD8 T細胞サブセットは、CD8をそれらの細胞表面に発現していた。PEを用いて標識したマウス抗ヒトCD8抗体を使用することによって、陽性蛍光シグナルを検出した。T細胞は、TCR(アルファベータ及びガンマデルタサブユニットから構成される)をそれらの細胞表面に提示していた。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲートマウス抗ヒトアルファベータTCR抗体を用いて標識した場合、陽性蛍光シグナルが検出された。FITCコンジュゲートマウス抗ヒトガンマデルタTCR抗体を用いて標識した場合、陽性蛍光シグナルが検出された。アルファベータTCR+細胞は、表現型アルファベータTCR+ CD3+を提示した。促進細胞(FC)は、表現型アルファベータTCR-ガンマデルタTCR-CD8+を提示した。刺激した細胞は、細胞内にpS6を発現した。alexa fluor 647(AF647)を用いて標識した抗pS6抗体を用いることによって、陽性蛍光シグナルを検出した。
【0037】
FC及びアルファベータTCR+細胞についての免疫表現型検査は記載されている。例えば、米国特許第8,632,768号及び第9,452,184号を参照されたい。したがって、本開示は、FC及びアルファベータTCR+T細胞の効力の指標としてのS6のリン酸化の使用に注目する。
【0038】
認定方針は、FCRx製造工程訓練実施からの凍結保存最終産物を利用した(ロットICT-R&D052615)。試料を許容可能な設置、操作及び稼働時の適格性確認を経たFACSCaliburフローサイトメーター(BD Biosciences社)で分析した。
【0039】
pS6アッセイは、陽性対照(PC)又はシステム適合性検査(SST)を使用することなく認定された。典型的にはPC又はSSTは、マイトジェンを用いて刺激したヒト細胞であり、細胞内pS6シグナルが測定される。しかしFCRx試料は、細胞の不均一な混合物を含有し、本発明者らは、目的の特定の細胞亜集団の表現型を分析し、分裂促進刺激後のpS6染色を評価し;それにより、検査試料はそれ自体のSSTとして作用した。
【0040】
付加的に、ドナーの多様性によるPCの応答における差異も因子となり、商業的供給業者から入手可能な特異的PCはなかった。アッセイPC又はSSTの使用及び実行は、完全な検証の際に更に調査されるが、FCRx最終産物の効力の評価における使用のためのpS6アッセイの認定に影響を与えなかった。
【0041】
次の略号が使用された。
【0042】
【表1】
【0043】
(実施例2)
pS6の選択性
pS6抗体の選択性を、陰性及び陽性蛍光シグナルが非刺激及び刺激細胞からそれぞれ得られたことを確認するためのFCRx最終産物を使用して評価した。非刺激細胞が低レベルのS6リン酸化(すなわち、pS6)を実証したことから、選択性を刺激細胞におけるpS6リン酸化の増加によっても評価した。pS6抗体の選択性は、非刺激試料(青色曲線)と比較した刺激試料(赤色曲線)における、pS6について染色したFC細胞の発生頻度の上昇(図1)によって示されている(図2)。pS6抗体の選択性は、非刺激試料(青色曲線)と比較した刺激試料(赤色曲線)における、pS6について染色したアルファベータTCR+細胞の発生頻度の上昇(図3)によって示されている(図4)。
【0044】
図1を参照し、FCは、表現型アルファベータTCR-ガンマデルタTCR- CD8+を用いて明確に同定され、領域R3を使用してゲーティングされた。次にFCのpS6染色を単一パラメーターヒストグラムを使用して評価した。
【0045】
図2を参照し、pS6を用いて染色した非刺激FC(青色曲線)及び刺激FC(赤色曲線)の蛍光分布の代表的なオーバーレイ。pS6抗体を用いて染色した刺激細胞は、pS6-細胞と比較してpS6+細胞について蛍光強度の明確な分離(>1log)を実証した。非刺激試料は、5.8の平均蛍光強度(MFI)で24.81%のpS6+細胞を有した。刺激試料は、89.1のMFIで78.94%のpS6+細胞を有し、pS6-細胞と比較して蛍光において15倍の増加を示している。
【0046】
図3を参照し、アルファベータTCR+細胞は、表現型アルファベータTCR+/CD3+を用いて明確に同定され、領域R3を使用してゲーティングされた。次にアルファベータTCR+細胞のpS6染色を単一パラメーターヒストグラムを使用して評価した。
【0047】
図4を参照し、pS6を用いて染色した非刺激アルファベータTCR+細胞(青色曲線)及び刺激アルファベータTCR+細胞(赤色曲線)の蛍光分布の代表的なオーバーレイ。pS6抗体を用いて染色した刺激細胞は、pS6-細胞と比較してpS6+細胞について蛍光強度の明確な分離(>1log)を実証した。非刺激試料は、5.27のMFIで4.98%のpS6+細胞を有した。刺激試料は、62.99のMFIで81.47%のpS6+細胞を有し、pS6-細胞と比較して蛍光において12倍の増加を示している。
【0048】
これらのデータは、選択性のための受け入れ基準に合致し、アッセイがpS6に特異的であることを示している。
【0049】
(実施例3)
方法の確度
pS6アッセイの確度を細胞の回収率から直線性判定により決定した。データは、直線性からの結果(Table 5(表5))を使用してpS6+ FC(Table 2(表2))について示す。
【0050】
【表2】
【0051】
pS6+FC細胞の回収率は、FCサブセットの62.1%から0.49%の範囲である細胞のpS6+FC集団の94.8%から116.1%の範囲であった。このことは、pS6アッセイが名目値の16.1%以内の確度を有することを示している。これは、pS6+細胞の%算出の±30%の標的値に合致する。
【0052】
(実施例4)
アッセイ内精度
方法のアッセイ内精度を分析者1、1日目及び装置1由来の4回反復から評価した。pS6+FC及びアルファベータTCR+細胞についてのデータをTable 3(表3)に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
FC及びアルファベータTCR+細胞についてのパネルを用いて染色した4回反復のFCRx最終産物由来の非刺激及び刺激試料におけるpS6+細胞についてのCVの%は、≦30%であり、受け入れ基準に合致した。
【0055】
(実施例5)
中間精度
方法の中間精度を2つの別々のフローサイトメーターで2日間にわたって2名の分析者によって作成されたデータから評価した。pS6+FC及びアルファベータTCR+細胞についてのデータをTable 4(表4)に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
2台のサイトメーターを使用して2名の分析者によって2日間にわたって分析した、10回又は12回反復のFCRx最終産物細胞由来のCVの%は、pS6+FC(非刺激)について52.4%、pS6+ FC(刺激)について17.9%、pS6+アルファベータTCR+細胞(非刺激)について36.2%及びpS6+アルファベータTCR+細胞(刺激)につい14.2%であった。分析者1の1日目由来及び両方の分析者の2日目由来のものと比較して、分析者2の1日目由来の結果は、FC及びアルファベータTCR+非刺激細胞の両方について低いpS6+の%を実証した。中間精度については受け入れ基準はないが、見出されたとおりデータを報告した。
【0058】
(実施例6)
pS6の直線性
pS6アッセイの直線性をFCについてだけ染色した刺激細胞と共に、FC及びpS6について染色した刺激細胞の系列希釈によって決定した。独立変数としてのリン酸化の予測された%の平均値に対して、従属変数としてのリン酸化の%をプロットし、方程式y=ax+bを使用する線形回帰分析を適用した(Table 5(表5)、図5、Table 6(表7))。
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
pS6+細胞の検出についてアッセイの直線性を判定するために、pS6(pS6-)について染色していない刺激試料をpS6+細胞を希釈するために使用した。細胞の自己蛍光のために、およそ2.33%のpS6-細胞がpS6+細胞の%を定量するために使用したマーカー領域に捕捉された。したがって、これをpS6+の全体の平均%結果から減算し、この平均値(バックグラウンド減算後)をアッセイの直線性を評価するために使用した。
【0062】
【表7】
【0063】
(実施例7)
ロバスト性又は試料安定性
pS6染色の安定性を凍結保存したFCRx最終産物試料を使用する保持時間研究によって評価した。試料を解凍し、FCパネル及びpS6を用いて染色し、次に3つの別々のアリコートに分けた。1つのアリコートをBD染色緩衝液に再懸濁し、フローサイトメーターで分析した(時間0分間、T0)。追加的アリコートを4%パラホルムアルデヒド中、氷上で固定し、固定後15分間(T15分)、及び2℃から8℃での20時間(T20時間)保存後に検査した。T15分間でのデータをT0時点と比較し、T20時間、時点でのデータをpS6+FCの%における変化についてT15分間時点と比較し、差異%(DIFF%)として算出した(Table 7(表8))。付加的に、1日目にアッセイ内精度について分析したFCパネル、アルファベータTCR+細胞パネル及びpS6を用いて染色した試料を、BD染色緩衝液中で一晩冷蔵保存し、翌日(T21時間)再分析した。一次分析後に残っていた試料が少量であったことから、これらの試料をプールし、単一の試料として再分析した。T21時間時点でのデータをpS6+FCの%、pS6+アルファベータTCR+の%における変化について平均T0時点と比較し、DIFF%として算出した(Table 8(表9))。
【0064】
【数1】
【0065】
試料保存の正確な時間は、FACSCaliburでの試料の分析の開始時間に基づいており、電子的リスト様式ファイル内に記録した。
【0066】
【表8】
【0067】
【表9】
【0068】
【表10】
【0069】
2%パラホルムアルデヒド中で保存した試料は、非刺激及び刺激試料の両方においてpS6+FCの減少を実証した。しかし、20時間、冷蔵保存された固定試料は、固定15分間後の試料と比較して、同等のレベルのpS6+細胞を有した。
【0070】
BD染色緩衝液中で一晩保存した試料は、前日に分析された同じ試料と比較して、同等のレベルのpS6+FC及びpS6+アルファベータTCR+細胞を有した。
【0071】
(実施例8)
定量の範囲及び限度
pS6フォスフロー(phosflow)効力アッセイは、FC染色パネルを使用して 0.56% pS6+細胞までの許容可能な精度を有する直線性を実証した。FCが、アルファベータTCR+細胞よりも典型的には低い発生頻度のサブセットの細胞であることから、直線性は、FCパネルを使用してpS6について決定し、FC及びアルファベータTCR+細胞の両方に適用した。検査したpS6+細胞の上限は、62.10%であり、検査した3回の反復試料について精度2.8% CVを有するアッセイについて、未希釈pS6+刺激FC試料において観察されたpS6リン酸化のレベルであった。したがって、この認定において検査されたものより高い発生頻度のpS6+細胞を含む最終産物は、高発生頻度の事象は、統計的に低い変動性を示すことから、許容可能な直線性も実証することが推測され得る。したがって、pS6フォスフローアッセイの範囲は、0.56%のLOQを有してpS6+細胞0.56%から100%である。
【0072】
(実施例9)
効力についての閾値
このアッセイの認定は、3日間の検査にわたって解凍され分析された検査材料の複数のバイアルを有するFCRx最終産物の代表的な1つのロットを利用した。pS6効力アッセイは、細胞が効力があるかどうかを判定するためにFC及びアルファベータTCR+細胞におけるpS6リン酸化に適用するための特定の基準を必要とする。これは、非刺激試料と比較した刺激試料におけるpS6+細胞の総増加(刺激pS6+の%マイナス非刺激pS6+の%)によって、又は刺激係数の算出により、非刺激試料と比較した刺激試料でのpS6+細胞における階乗の増加(factorial increase)(刺激pS6+の%/非刺激pS6+の%)によってのいずれかによって決定され得る。精度検査からの結果をこれらの閾値決定の両方について評価し、Table 10(表11)及びTable 11(表12)に要約する。分析者2の1日目についての結果は、それらが外れ値である可能性があることから省き、反復非刺激試料が逸脱2において詳述のとおり分析されなかった2日目の分析者については、省いた。
【0073】
【表11】
【0074】
【表12】
【0075】
(実施例10)
検証プロトコールからの逸脱
検証プロトコールからの2つの逸脱があった。
【0076】
逸脱1
認定において使用したCO2インキュベーターは、IQOQPQを受けていなかった。インキュベーター温度及びCO2をインキュベーターでの読み取り値を使用してアッセイ認定活動の際にモニターした。追加的に温度及びCO2を認定検査活動の前及び後に較正した温度計及び温度プローブ、並びにFyriteキットを使用してモニターした。すべての温度及びCO2読み取り値は、インキュベーターについての要求される操作仕様内であり、細胞は刺激され、pS6を発現し、インキュベーターの操作条件が適切であったことを示していた。したがって、この逸脱は、データの品質又は完全性に影響を与えなかった。
【0077】
逸脱2
分析者2は、2日目の中間精度のための2セットの反復試料を調製するための十分な細胞を有さなかった。FC及びアルファベータTCR+細胞についての非刺激細胞の重複セットは、省いた。重複刺激細胞をチューブ1本あたり300μLの試料を用いて調製し、それにより、細胞表面染色のために使用する抗体の体積を調整した。中間精度の全体評価を非刺激細胞についてn=10個の試料及び刺激細胞についてn=12個の試料を使用して行った。それにより、この逸脱は、データの品質又は完全性に影響を与えなかった。
【0078】
(実施例11)
考察及び要約
認定検査からの結果は、フォスフロー効力アッセイにおいて使用したpS6抗体が選択的であったことを実証した。pS6AF647抗体は、同じ試料中のpS6-細胞集団と比較して1log decadeを超える蛍光分離を有する陽性ピークを実証した。pS6リン酸化は、非刺激対照と比較してすべての刺激試料において増加していた。FC及びアルファベータTCR+細胞を検出する能力は、細胞内フォスフロー染色手順によって損なわれず、pS6のリン酸化はこれら2つの細胞亜集団において定量された。これらのデータは、特定の細胞表面抗原及びpS6を認識する蛍光色素コンジュゲート抗体クローンが、pS6フォスフロー効力アッセイにおいて組み合わせて使用され得ることを示している。
【0079】
pS6フォスフローアッセイは、非刺激及び刺激FCパネル試料についてそれぞれ4.8%CV及び0.8%CV、非刺激及び刺激アルファベータTCR+細胞パネル試料についてそれぞれ18.7%CV及び1.4%CVのアッセイ内精度を実証した。これらのデータは、≦30%CVの受け入れ基準内であった。2日間で2台のサイトメーターを使用して2名の分析者によって測定された中間精度は、非刺激及び刺激FCについてそれぞれ52.4%CV及び17.9%CV、非刺激及び刺激アルファベータTCR+細胞についてそれぞれ36.2%CV及び14.2%CVであった。中間精度については受け入れ基準がなく、見出されたとおり報告する。しかし、本発明者らは、精度検査の分析者1の1日目及び2日目由来並びに分析者2の2日目由来の結果と比較して、分析者2の1日目について低いpS6+の%結果を観察した。これは、pS6染色ステップの際に細胞が十分に再懸濁されなかったためであると判定され、アッセイ手順内にアッセイの変動性の原因となり得る重要なステップがあることを示している。中間精度は、非刺激試料については高い(36.2%から52.4%CV)が、刺激試料は、14.2%CVから17.9%CVの中間精度を実証した。これは、FCRx最終産物の1つの代表なロットであり、アッセイの変動性は、ドナー及び製造工程間の全体的な変動性、並びに凍結保存検査試料の解凍手順の際に取り込まれ得る変動を判定するために、追加的な最終産物ロットを使用して更に評価される必要がある。
【0080】
アッセイは、0.56% pS6+細胞に至るまで、相関係数≧0.90、反復のCV≦30%及び予測値の±30%の回収率に基づいて直線性を実証した。直線性の上限は、直線性検査用では62.10% pS6+細胞であった、認定検査材料中に存在するpS6+細胞の個別の集団の相対発生頻度に依存した。したがって、この認定において検査されたものより高いpS6+細胞発生頻度を含む最終産物は、高発生頻度の事象は統計的に低い変動性を示すことから、許容可能な直線性も実証すると考えられる。したがって、直線性及び範囲は、0.56% pS6+細胞から100% pS6+細胞に至ると考えることができる。直線性は、この亜集団がアルファベータTCR+細胞よりも事象の発生頻度が典型的には低いことから、FCパネルだけを使用して評価され、それによりアッセイの直線性の更にストリンジェントな評価を表している。したがってこれらのデータは、FC及びアルファベータTCR+細胞の両方におけるpS6リン酸化の直線性に関して基準を適用するために使用され得る。
【0081】
pS6+細胞の確度評価のための商業的に入手可能な対照細胞がないことから、確度は直線性検査の際に決定された細胞の予測される回収率から評価した。pS6+細胞のニート試料は、それにより名目値と考えられる、62.10%のpS6+細胞を有した。続く系列希釈からのpS6+細胞の実際の回収率を、予測される結果と比較し、測定の確度を決定した。直線性の結果に基づいて、名目±30%以内の確度は、アッセイの指定されたLOQである0.56% pS6+ FCに至るまで実証された。したがって、これらのデータは、方法がpS6+FC及びアルファベータTCR+細胞の検出に関して正確であることを示している。
【0082】
試料安定性を、BD染色緩衝液中に一晩冷蔵保存した試料について、及び細胞固定液(2%パラホルムアルデヒド)中に保存した試料についても検査した。細胞は、表面染色及びpS6染色手順の刺激ステップ後にすべて固定されるが、このロバスト性評価は、方法のとおりBD染色緩衝液中の最終試料の保存又は2%パラホルムアルデヒド固定液中での保存、を評価した。固定液中に保存したFC試料について15分間の固定は、BD染色緩衝液中に保存した試料と比較して31.3%に至るpS6+細胞の減少を生じた。しかし、冷蔵庫での続く21時間の試料の保存は、pS6+細胞の追加的な減少を示さなかった。BD染色緩衝液中で冷蔵保存した試料について、非刺激及び刺激FC試料においてpS6+細胞は、それぞれ51.1%及び1.3%減少した。BD染色緩衝液中に保存したアルファベータTCR+細胞試料は、6.15%に至るpS6+細胞の減少をBD染色緩衝液中での21時間の保存後に示した。これらのデータは、pS6フォスフローアッセイ試料が調製当日にフローサイトメーターを実行されるべきであることを示している。
【0083】
効力についての閾値をFC及びアルファベータTCR+細胞の両方について、刺激試料中のpS6+細胞の%を非刺激試料中のものと比較することによって評価した。FCは、刺激に続いてpS6+細胞の%において合計49.75%の増加、及び2.89の階乗の増加を実証した。アルファベータTCR+細胞は、刺激に続いてpS6+細胞の%において合計76.68%の増加、及び17.78の階乗の増加を実証した。検査したFCRx最終産物のロットについて、アルファベータTCR+細胞は、FCと比較して刺激後に更に大きなpS6+リン酸化を示し、各細胞型が効力についての閾値に関して特定の基準を必要とすることを示している。アッセイ認定は、FCRx最終産物のロットを1つだけ利用し、解凍及び分析された場合に同じロットの異なるバイアル間でいくらかの変動性、並びに分析者間の変動性が観察された。したがって、効力についての次の閾値(Table 12(表13))は、この認定由来のデータに基づいて提案されており、研究、フェーズII臨床製造及びアッセイ検証由来の追加的FCRx最終産物ロットの分析から回収されるデータを利用して更に評価及び改良される。
【0084】
【表13】
【0085】
FCRx最終産物中のFC及びアルファベータTCR+細胞の効力を評価するための本方法は、認定されていると考えられる。アッセイは、pS6+細胞0.56%の定量限界及びpS6+細胞0.56%から100%の範囲で選択的、正確及び精密である。試料は、調製当日に分析されなければならない。
【0086】
(実施例12)
臨床応用
最終産物の凍結保存バイアルを解凍し、効力アッセイを最終産物中のT細胞及びFCの機能性又は効力を判定するために使用した。これらの結果は、7AAD及びトリパンブルーを使用して実施した細胞生存率アッセイと相関した。
【0087】
主題の方法及び組成物は、多数の異なる態様と併せて本明細書に記載に記載されるが、種々の態様の前述の記載は例示を目的とし、主題の方法及び組成物の範囲を限定しないことは、理解される。他の態様、有利点及び改変は、続く特許請求の範囲の範囲内である。
【0088】
開示される方法及び組成物のために使用されてよく、それらと併せて使用されてよく、それらの調製において使用されてよく、その産物である方法及び組成物が開示される。これら及び他の材料は、本明細書において開示され、これらの方法及び組成物の組合せ、サブセット、相互作用、群等が開示されることは理解される。すなわち、これらの組成物及び方法のさまざまな個々それぞれ及び集合的組合せ及び順列を具体的に参照することは、明確に開示され得ないが、それぞれは、具体的に検討され、本明細書に記載される。例えば、主題の特定の組成物又は特定の方法が開示及び考察され、多数の組成物又は方法が考察される場合、組成物及び方法のそれぞれ及びすべての組合せ及び順列は、そうでないと具体的に示されない限り、具体的に検討される。同様に、これらの任意のサブセット又は組合せも具体的に検討され、開示される。
図1
図2
図3
図4
図5