IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ピエール、ファブレ、デルモ‐コスメティークの特許一覧

特許7206216酒さを処置するためのポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールの組合せを含んでなる化粧用組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】酒さを処置するためのポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールの組合せを含んでなる化粧用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/045 20060101AFI20230110BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20230110BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20230110BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230110BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20230110BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230110BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230110BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230110BHJP
   A61K 9/08 20060101ALN20230110BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20230110BHJP
【FI】
A61K31/045
A61K36/48
A61K8/34
A61K8/9789
A61K47/10
A61P17/00
A61P43/00 121
A61Q19/00
A61K9/08
A61P29/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019556733
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 EP2017084456
(87)【国際公開番号】W WO2018127435
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】1750059
(32)【優先日】2017-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500166231
【氏名又は名称】ピエール、ファブレ、デルモ‐コスメティーク
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO-COSMETIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】エレーヌ、エルナンデス-ピジョン
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー、カステス-リッツィ
(72)【発明者】
【氏名】ステファヌ、ポワニー
(72)【発明者】
【氏名】マリー、フランソワーズ、アリー
(72)【発明者】
【氏名】イブ、ブリュネル
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-523381(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0206789(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0148393(US,A1)
【文献】ANONYMOUS,ROSACEA THERAPY LOTION,[ONLINE],2016年09月15日,P1,http://web.archive.org/web/20160915063559/http://www.pratimaskincare.com/rosacea-therapy-lotion
【文献】Research Journal of Pharmceutical, Biological, and Chemical Sciences,2014年,Vol.5,pp.546-551
【文献】EXPERIMENTAL DERMATOLOGY,2010年11月,VOL:19, NR:11,,PAGE(S):980-986
【文献】J.Am.Acad.Dermatol.,2013年,Vol.69,S15-26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 36/00-36/9068
A61K 8/00-8/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,5-ペンタンジオールに溶解した4-t-ブチルシクロヘキサノールを含んでなる、酒さの処置および/または予防において、ポンガミア油と組み合わせて使用するための、組成物。
【請求項2】
ポンガミア油を含んでなる、酒さの処置および/または予防において、1,5-ペンタンジオールに溶解した4-t-ブチルシクロヘキサノールと組み合わせて使用するための、組成物。
【請求項3】
酒さが、紅斑毛細管拡張性酒さ、丘疹膿疱性酒さ、腫瘤型酒さ、眼性酒さからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
局所適用に好適な形態であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの皮膚科学的または皮膚化粧的に許容可能な賦形剤と組み合わせて、ポンガミア油と、1,5-ペンタンジオールに溶解した4-t-ブチルシクロヘキサノールの組合せを含んでなる、酒さの処置および/または予防のための皮膚科学用または皮膚化粧用組成物。
【請求項6】
酒さが、紅斑毛細管拡張性酒さ、丘疹膿疱性酒さ、腫瘤型酒さ、眼性酒さからなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の皮膚科学用または皮膚化粧用組成物。
【請求項7】
前記組成物の総重量に対して0.01~5重量%、好ましくは0.05~2重量%のポンガミア油を含んでなることを特徴とする、請求項5または6に記載の皮膚科学用または皮膚化粧用組成物。
【請求項8】
1,5-ペンタンジオールに溶解した、前記組成物の総重量に対して0.01~5重量%、好ましくは0.05~2重量%の4-t-ブチルシクロヘキサノールを含んでなることを特徴とする、請求項5~7のいずれか一項に記載の皮膚科学用または皮膚化粧用組成物。
【請求項9】
局所適用に好適な形態であることを特徴とする、請求項5~8のいずれか一項に記載の皮膚科学用または皮膚化粧用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールの新規な組合せ、ならびに発赤と闘うための化粧品および皮膚科学の分野におけるその使用に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、酒さと闘うための前記組合せを含んでなる組成物の化粧的使用に関する。
【背景技術】
【0003】
皮膚は、ヒトの身体の最大の器官であり、表面積のほぼ2mを覆っている。皮膚は、外部からの保護、熱調節およびホルモン合成を含むいくつかの基本的役割を果たしており、免疫機能も有する。皮膚は、3つの重ね合わさった層、すなわち、常に再生される表皮、真皮、および線維構造を提供する皮下組織から構成される。皮膚の色、キメおよび質も、否定できない心理社会的機能も有する。
【0004】
感受性の高い皮膚は、その全種類が、温度の変化、寒さ、風、刺激的な衛生用品または洗面用品、および不適切なケアに対して迅速かつ過剰に反応するという点で類似している。顔面発赤は、感受性の高い皮膚の顕著な特徴であり、皮膚および皮膚血管の過剰な反応性を特徴とする。発赤は、多かれ少なかれ間欠的であるが、常に不快で、困惑させるものである。
【0005】
間欠的な発赤は、紅潮ともいい、授業中に指された学生、就職面接、感情的または闘争的な会話などの平凡なまたは多少「ストレスのかかる」状況に起因し得るが、顔面の血液循環を増加させる温度変化にも起因し得る急性血管拡張反応である。熱すぎる食品、アルコール飲料および特定の食品(香辛料、マスタードなど)も、発赤を引き起こし得る。
【0006】
発赤を促進および悪化させ得る種々の因子としては、皮膚の微小循環を促進させる寒さまたは日光などの外的因子;感情、コーヒーまたは香辛料の摂取などの内的因子;遺伝が挙げられる。発赤は、血管反応性皮膚、遺伝的であり得る皮膚の特徴、または、さらには皮膚の老化(25歳から、皮膚は発赤に対してさらに感受性が高くなる)を有する人に出現し得る。
【0007】
発赤は最終的に、特に頬において持続的になり得る。これは紅色症と呼ばれ、赤色の班の形態で頬に最も多く認められるびまん性であるが持続的な発赤である。
【0008】
悪化した紅色症は、小さな拡張血管の出現を伴い、染みだらけとなる。
【0009】
面皰が出現し、発赤が持続的になると、それは酒さと呼ばれる。発赤に加えて、付随する面皰が十代の座瘡を想起させるため、かつては「酒さ性座瘡」と呼ばれた。
【0010】
酒さは、血管弛緩と関連する慢性および進行性の一般的な炎症性皮膚疾患である。これは、顔面の小血管に影響を及ぼす状態である。酒さは、色白の皮膚を有する人に影響を及ぼすことが多く、重大な心理情動的な結果をもたらし得る。この病態の名称は、罹患中の顔面の特徴的な色を意味している。顔面の一般的な外観により、慢性的な飲み過ぎが誤って示唆されるため、酒さは、社会的観点において、特に女性にとって生活することが困難な疾患である。酒さは、かなり一般的な疾患であり、フランスにおいて成人集団の2~3%が罹患している。女性は特に罹患しやすく、男性の2倍の数の女性が酒さに罹患している。酒さは、主に顔面の中央部に影響を及ぼし、顔面発赤またはのぼせ、顔面紅斑、丘疹、膿疱、毛細血管拡張およびときには眼性酒さと呼ばれる眼病変を特徴とする。重度の症例、特に男性において、鼻の軟組織が腫脹し、鼻瘤と呼ばれる球状腫脹が生じ得る。酒さは、必ずしもそうではないが、温度変化、アルコール、香辛料、日光曝露または感情などの異なる刺激により悪化する再燃によって、数年間にわたり進行する。
【0011】
酒さの発症機序は、今日においても依然として理解が非常に不十分である。科学者が実際に分かっていることは、この疾患の起源は血管であるということである。血管は、特に色白の皮膚、薄い色の眼および金髪を有する北欧人被験体において、機能不全をもたらすと考えられる。この地理的素因はフランスにおいて認められ、フランスでは、この疾患は、ロワール川より南部では非常にまれであり、ロワール川より北部では非常によく認められる。地中海の反対側、および特に暗色皮膚においては、この疾患は実際的に存在しない。
【0012】
Wilkin et al., J. Am. Acad. Dermatol. 46(4): 584-587, 2002)による臨床的特徴に従って、酒さを4種類に分類することが一般的である。
【0013】
紅潮、持続的な紅斑、丘疹および膿疱、毛細血管拡張などの一次特徴、ならびに灼熱感または刺激感、プラーク、乾燥皮膚、浮腫、眼症状発現、酒さの腫瘤変化などの二次特徴が、しばしば関連して認められる。これらの徴候に基づき、患者を以下の4種類に分類することができるが、患者は、2種類以上の酒さを示唆する特徴を同時に示す場合もある。
【0014】
- 紅斑毛細管拡張性酒さは、紅潮および持続的な顔面中央部の紅斑を主な特徴とする。毛細血管拡張の出現が一般的であるが、この型の診断に必須ではない。顔面中央部の浮腫、灼熱感および刺激感ならびに粗さまたは鱗屑も報告され得る。
【0015】
- 丘疹膿疱性酒さは、顔面中央部の分布における一過性の丘疹および/または膿疱を伴う持続的な顔面中央部の紅斑を特徴とする。しかしながら、丘疹および膿疱は、開口周辺部、すなわち、口周囲、鼻周囲または眼周囲の領域にも生じ得る。この型の酒さは座瘡と似ているが、面皰はみられない。しかし、酒さと座瘡は共存し得る。この型の酒さを有する患者は、時々灼熱感および刺激感を訴えることがある。この型は、毛細血管拡張の存在を含む前述の型の発症前または発症と同時にしばしば認められる。後者は、持続的な紅斑および丘疹または膿疱によって隠される場合がある。
【0016】
- 腫瘤型酒さは、肥厚する皮膚、不整な表面小結節および肥大を含む。鼻瘤は、最もよくみられる症状であるが、腫瘤型酒さは、頤、前頭部、頬および耳を含むその他の部位に影響を及ぼし得る。この型の酒さを有する患者は、腫瘤領域における開存した表出性の毛包も有する場合があり、毛細血管拡張が存在する場合がある。この型は、1または2型の発症前または発症と同時にしばしば認められる。鼻瘤の場合は、これらのさらなる紅斑は、特に鼻領域において顕著であり得る。
【0017】
- 眼性酒さ(ocular or ophthalmic rosacea):患者の眼が、以下の徴候および症状:水様もしくは充血した外観、異物感、灼熱感もしくは刺激感、乾燥、そう痒、光線過敏、視朦、結膜および眼瞼縁の毛細血管拡張、または眼瞼および眼周囲の紅斑のうち1つ以上を有する場合、眼性酒さの診断を考慮する必要がある。眼瞼炎、結膜炎および眼瞼縁の不整は、検出され得るその他の徴候である。霰粒腫として出現するマイボーム腺機能不全または麦粒腫として出現する慢性ブドウ球菌感染症は、酒さに関連した眼疾患の一般的な徴候である。
【0018】
眼性酒さの診断は、皮膚の徴候および症状も検出された場合に最もよく行われる。
【0019】
最後に、さらにまれな他の形態が存在し、特に肉芽腫性酒さが挙げられる。
【0020】
その頻度にもかかわらず、その原因は依然として十分に決定されておらず、いくつかの因子が関与し得る。食事および気候因子が、この疾患において役割を果たし、これらの症状に対して影響を及ぼす。酒さを有する患者において、時々顔面静脈の機能不全がみられ、これは、顔面の血管内の血液の貯留に至り、血管の拡張、浮腫および内皮の変化へと段階的に至る。
【0021】
コルチコステロイドも原因とみなされることがあり、特に2つの状態において当てはまり、その最初の状態は、コルチコステロイドの適用により悪化する酒さである。2番目の状態は、その種の薬剤の長期使用後の疾患の出現であり、ステロイド性酒さと呼ばれる。
【0022】
酒さにおいて、サイトカインIl-8、Il-1b、TNF-α、インフラマソームに関連する遺伝子(NALP-3およびCASP-1)の発現の有意な増加に加え、炎症現象および血管現象に関与するその他の遺伝子の発現の増加が認められることが実証されている(Annales de Dermatologie et de Venereologie 第139巻, 第12S号 B81頁 (2012年12月))。従って、これらのサイトカインは、この状態をモニタリングおよび/または処置するための選択のマーカーである。
【0023】
テトラサイクリン誘導体による経口処置は、いくつかの理由により問題であるが、特に、それらの重大な副作用のために問題である。ドキシサイクリンなどのテトラサイクリンの経口投与は、光線過敏または光毒性もしくは消化管障害をも誘発し得る。
【0024】
出願WO2002/074290は、酒さを処置するための、ニトロイミダゾール化合物と組み合わせてもよい化合物である、少なくとも1つの非ステロイド性抗炎症化合物の局所的使用を記載している。しかしながら、この処置の組合せは、重大な副作用、特に消化管および腎臓への副作用を誘発することが報告されている(Edwards, Br. J. Vener Dis., 56, 285-290, 1980)。
【0025】
従って、副作用が可能な限り少なく、長期間使用できる、酒さの処置における有効な活性薬剤のニーズが存在する。
【発明の概要】
【0026】
本発明の目的は、酒さに対する有効な処置を提供することである。好ましくは、この処置は局所適用され、それにより、いずれの全身性副作用も有意に減少させる。
【0027】
よって、本発明は、酒さの予防および/または処置において使用するための、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールの組合せに関する。
【0028】
特定の実施態様によれば、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールの組合せは、酒さの予防および/もしくは処置または皮膚発赤の予防および/もしくは処置のための唯一の活性薬剤である。
【0029】
従って、本発明は、皮膚発赤の予防および/または処置において使用するための、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールの組合せに関する。
【0030】
皮膚発赤は、特に頬に限局した間欠的発赤(すなわち、紅潮)または特に頬に限局した紅色症であり得る。
【0031】
ポンガミアすなわちカランジャ、クロヨナは、マメ科ファミリーの樹木である。クロヨナは、インド、インドネシア、マレーシア、台湾、バングラデシュ、スリランカ、中国南部、日本、東アフリカ、オーストラリア北部および北アメリカにおいて広くみられる。この樹木は、様々な条件において生存することができ、5℃~50℃の温度および0~1200mの高度で生存することができる。この樹木は、ほぼ総ての種類の土壌、窒素が低く、塩が高い土壌ですら生育することができ、耐乾性である。この樹木に対しては多数の学名が存在し、このことは、この植物が様々な形態にあることを示しており、時々異なる種として記載されている。ポンガミアは、最大18m高である。その葉は奇数羽状(imperipinnate)であり、15~20cm長であり、小葉が2~5対であり、対生で、滑らかで、光沢があり、心臓形に近い(subcoriate)。花は、白色、淡紫色または桃色である。果実は、木質のさやであり、35~50mm長であり、区別がつかない。種子は、独特で、偏平であり、小さな豆の形状をしており、髄に包まれている。
【0032】
ポンガミアの異なる部分の植物化学的検討は、フラノフラボン、フラノフラボノール、クロメノフラボン、フラノジケトンなどの特定の化合物の存在を示している。
【0033】
種子は、油(27~40%)、タンパク質(17~20%)、粗繊維(約14%)、アミノ酸および微量の精油を含有する。カランジンおよびポンガモールを含むフラボン、カルコン、ロテノン、フェノール酸、ステロールなど、その他の化合物も認められる。
【0034】
インドにおける樹木の種子中の油は、主にオレイン酸、リノール酸、リノレン酸およびベヘン酸を含有する。一方、パキスタンからのポンガミア種子油は、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸およびリグノセリン酸を含有する。不鹸化画分が、重要である(5.5%)。これは、β-シトステロールおよびその他のステロール、オレイン酸メチル、3’-メトキシフラノ(2’’,3’’:7,8)フラボン、苦味を与えるカランジンおよびポンガモールに加え、同じ系列のフラノフラボンに属するその他の少数分子:ポンガピン、カンジョン、ポンガグラブロン、ランコラチン(lancolatin)B、イソポンガフラボン、ポンゴール(pongol)およびグラブラカルコン(glabrachalcone)を含有する。経時的に、カランジンが沈殿するため、油が古いほど、その含量は少ないが、ポンガモールの含量は、経時的に同じままである。
【0035】
ポンガミア油は、インドにおいて、ヒトおよび動物の両方の治療における高寄生虫活性のために主に使用されているが、農業においても、作物をその敵、すなわち昆虫および線虫から保護するために使用されている。ヒト療法において、ポンガミア油は、疥癬寄生虫を排除するために、皮膚に適用される。この殺ダニ活性は非常に発達しており、油をアスコルビン酸と組み合わせると、活性は大きくなる。異なるポンガミア抽出物(油、または種子、葉または樹皮抽出物)も、いくつかの栽培植物において有害種に対する忌避活性を示し、実際に、ポンガミア抽出物は、約40種類の有害種に対して有効であることが判明している。さらに、ポンガミア油は、バチルス属、ミクロコッカス属、シュードモナス属、ブドウ状球菌属、サルモネラ菌属、サルシナ属、エシェリキア属およびキサントモナス属のいくつかの細菌に対する抗菌活性を有する。
【0036】
ポンガミア油に関して同定された殺ダニ活性は、酒さにおけるその使用のための出発点である。ポンガミア油は、抗炎症活性を有することは知られておらず、炎症に関連する総ての皮膚疾患においても知られていない。
【0037】
4-t-ブチルシクロヘキサノールは、一過性受容器電位バニロイド1(TRPV1)のアンタゴニストである。TRPV1は、トウガラシに存在するカプサイシンなどのバニロイドファミリーの分子により活性化されるイオンチャネル型受容体である。TRPV1は、TRPファミリーの一部である。この受容体ファミリーは、機械的刺激、熱刺激および特定の化学的刺激に対して感受性が高い。TRPV1は、刺激に応答して、主にカルシウムイオンを流入させる非選択性陽イオンチャネル受容体である。
【0038】
TRPV1は、小径の感受性の高いニューロンの末梢端に位置している。これらの感覚受容器は、皮膚エンベロープ、粘膜および中枢神経系の特定の領域において発現する。これらは、侵害受容熱、低pHに加え、熱傷中に合成される酸化リノール酸の代謝産物、および一般的に、バニロイドファミリーに属するその他の物質により活性化される。TRPV1が刺激されると、受容体が活性化され、コンフォメーションが変化し、陽イオンチャネルが開く。
【0039】
感受性の高い皮膚を有する患者において、高いTRPV1発現レベルが報告されており、一方、感受性の高い皮膚の訴えをしない人においては、検出不可能なレベルが報告されている(Facer et al., BMC Neurology, 2007, 7-11)。
【0040】
ペンチレングリコールとともに調合されている4-t-ブチルシクロヘキサノールは、Symsitive(登録商標)1609の名称で販売されている;これは、TRPV1アンタゴニストであり、pH3~12および50℃までの温度で安定である。これは、つっぱり感およびピリピリ感などの小さな皮膚の問題に対して有効である。しかしながら、この化合物は、炎症における活性を有することは知られておらず、炎症に関連する総ての皮膚疾患においても知られていない。
【0041】
意外にも、本発明者らは、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールの組合せが、非常に有利な抗炎症活性を有することを発見した(実施例1)。
【0042】
本発明の目的は、特に患者の副作用を減少させる、酒さに対する処置を提供することである。好ましくは、この処置は局所適用され、それにより、いずれの全身性副作用も有意に減少させる。
【0043】
よって、本発明は、酒さの処置および/または予防において使用するための、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールとを含んでなる組合せに関する。
【0044】
好ましくは、4-t-ブチルシクロヘキサノールは、トランス型である。
【0045】
好ましくは、4-t-ブチルシクロヘキサノールは、ペンチレングリコールに溶解している。
【0046】
同様に好ましい様式では、4-t-ブチルシクロヘキサノールは、オクチルドデカノールに溶解している。
【0047】
本発明はまた、紅斑毛細管拡張性酒さ、丘疹膿疱性酒さ、腫瘤型酒さおよび眼性酒さからなる群から選択される酒さの処置および/または予防において使用するための、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールとを含んでなる組合せに関する。
【0048】
好ましくは、4-t-ブチルシクロヘキサノールは、トランス型である。
【0049】
本発明はまた、炎症性疾患の処置および/または予防において使用するための、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールとを含んでなる組合せに関する。
【0050】
本発明はまた、酒さを処置および/または予防するための医薬品を製造するための、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールとを含んでなる組合せの使用に関する。
【0051】
好ましくは、4-t-ブチルシクロヘキサノールは、トランス型である。
【0052】
本発明はまた、炎症性疾患を処置および/または予防するための医薬品を製造するための、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールとを含んでなる組合せの使用に関する。
【0053】
好ましくは、本発明による組合せは、局所適用される。
【0054】
よって、本発明の実施態様の1つによる組合せは、局所適用に好適な形態および局所適用に適合された形態で提供されることを特徴とする。
【0055】
局所適用とは、皮膚、粘膜および/または皮膚付属器への適用を意味する。
【0056】
酒さまたは炎症性疾患「の処置」または「を処置する」という用語は、酒さまたは炎症性疾患および/またはその症状の発生を軽減および/または阻害することを意味する。
【0057】
酒さの症状は、持続的な発赤、灼熱感および刺激感、のぼせまたは毛細血管拡張を意味する。
【0058】
好ましくは、本発明はまた、発赤を緩和および/または予防するためのポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールとを含んでなる組合せの使用に関する。この使用は、優先的には局所経路を介したものであり、化粧的使用である。
【0059】
発赤は、より詳しくは、皮膚発赤、間欠的皮膚発赤(すなわち、紅潮)、より詳しくは、頬に限局したものを意味する。
【0060】
よって、本発明は、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールとを含んでなる組合せの局所適用を含んでなる、皮膚発赤を軽減および/または予防するための化粧的方法を目的とする。
【0061】
このような化粧的方法において、皮膚発赤は、頬に限局したものである。
【0062】
本発明はまた、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールとを含んでなる組合せと、化粧的に許容可能な賦形剤、より特定的には局所適用のために許容可能な賦形剤を含んでなる、皮膚発赤を軽減および/または予防するための化粧用組成物に関する。
【0063】
好ましくは、4-t-ブチルシクロヘキサノールは、ペンチレングリコールに溶解している。
【0064】
同様に好ましい様式では、4-t-ブチルシクロヘキサノールは、オクチルドデカノールに溶解している。
【発明の具体的説明】
【0065】
本発明の一つの実施態様では、本発明による化粧用組成物は、皮膚科学的または皮膚化粧的に許容可能な賦形剤が、オクチルドデカノール、1,5-ペンタンジオールおよび少なくとも1種の植物油から選択される溶媒を含んでなることを特徴とする。好ましくは、溶媒は、オクチルドデカノールまたは1,5-ペンタンジオールである。
【0066】
本発明において、「化粧的、皮膚科学的または皮膚化粧的に許容可能な」とは、化粧用、皮膚科学用または皮膚化粧用組成物の調製に有用であり、一般的に安全で、無毒であり、生物学的にもその他の点でも望ましくないものではなく、かつ、特に局所適用による治療的または化粧的使用に許容可能であることを意味する。
【0067】
本発明による皮膚科学的、化粧用および皮膚化粧用組成物は、有効成分の特性および到達性を向上させるために、特に皮膚浸透を可能とする賦形剤とともに、局所投与に通常知られている形態、すなわち、ローション、フォーム、ゲル、分散液、エマルジョン、スプレー、血清、マスクまたはクリームであってもよい。有利には、前記組成物は、クリーム、エマルジョンである。
【0068】
よって、本発明は、局所適用に好適な形態および局所適用に適合された形態であることを特徴とする、本発明の実施態様の1つによる皮膚科学用または皮膚化粧用組成物に関する。
【0069】
これらの組成物は一般に、本発明による組合せの化合物に加えて、通常、水または溶媒に基づいた生理学的に許容可能な媒質、例えば、アルコール、エーテルまたはグリコールを含有する。これらの組成物はまた、界面活性剤、錯化剤、保存剤、安定剤、乳化剤、増粘剤、ゲル化剤、保湿剤、皮膚軟化剤、微量元素、精油、芳香剤、色素、艶消剤、ケミカルもしくはミネラルフィルター、保湿剤または地熱水なども含有し得る。
【0070】
一般に、4-t-ブチルシクロヘキサノールは、脂肪アルコール、3~20個の炭素原子を有するアルカンジオール、または植物油といった種類の溶媒に含有され、溶解している。
【0071】
よって、本発明は、4-t-ブチルシクロヘキサノールが、脂肪アルコール、3~20個の炭素原子を有するアルカンジオール、または植物油といった種類の溶媒に溶解している、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールとを含んでなる組合せを目的とする。上記の使用は、このような組合せにも関する。
【0072】
よって、化粧的、皮膚科学的または皮膚化粧的に許容可能な賦形剤は、少なくとも1つの脂肪アルコールおよび/または3~20個の炭素原子を有する少なくとも1つのアルカンジオール、および/または少なくとも1種の植物油を含んでなり得る。
【0073】
よって、アルカンジオールは、1,2-プロピレングリコール、2-メチルプロパン-1,3-ジオール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-ペンタン-2,4-ジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、ジプロピレングリコール、好ましくは、1,2-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオールおよびジプロピレングリコールからなる群から選択され得る。
【0074】
より特定的には、アルカンジオールは、ペンチレングリコールとしても知られる1,5-ペンタンジオールである。
【0075】
脂肪アルコールは、デカノール、デセノール、オクタノール、オクテノール、ドデカノール、ドデセノール、オクタジエノール、デカジエノール、ドデカジエノール、オレイルアルコール、リシンオレイルアルコール、エルシルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、アラキジルアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール(特に、2-オクチル-1-ドデカノール)、セテアリルアルコールおよびベヘニルアルコールからなる直鎖または分岐脂肪アルコールの群から選択され得る。
【0076】
好ましくは、脂肪アルコールは、オクチルドデカノールである。
【0077】
よって、本発明は、4-t-ブチルシクロヘキサノールが、オクチルドデカノール、1,5-ペンタンジオールおよび少なくとも1種の植物油から選択される溶媒に溶解している、ポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールとを含んでなる組合せを目的とする。
【0078】
植物油は、扁桃油、落花生油、アルガン油、アボカド油、サフラワー油、ヤシ油、菜種油、綿実油、麦芽油、亜麻仁油、コーン油、ニーム油、ヘーゼルナッツ油、クルミ油、核油、カーネーション油、オリーブ油、パーム油、カボチャ種子油、ブドウ種子油、ヒマシ油、ぬか油、ゴマ油、大豆油、ひまわり油、微細藻油からなる群から選択され得る。
【0079】
化粧的、皮膚科学的または皮膚化粧的に許容可能な賦形剤はまた、フィンソルブ(Finsolv)TN、またはミリトールを含んでなってもよい。
【0080】
有利には、本発明による組成物は、アベンヌウォーターをさらに含んでなる。
【0081】
これらの組成物は、補完的または潜在的な相乗作用をもたらす他の有効成分をさらに含有してもよい。
【0082】
有利には、本発明による組成物は、前記組成物の総重量に対して0.01~5重量%、好ましくは0.05~2重量%、より好ましくは0.1~1重量%のポンガミア油を含んでなる。好ましくは、前記組成物は、前記組成物の総重量に対して0.1重量%のポンガミア油を含んでなる。同様に好ましくは、前記組成物は、前記組成物の総重量に対して0.5重量%のポンガミア油を含んでなる。
【0083】
有利には、本発明による組成物は、前記組成物の総重量に対して0.01~5重量%、好ましくは0.05~2重量%、より好ましくは0.1~1重量%の4-t-ブチルシクロヘキサノールを含んでなる。好ましくは、前記組成物は、前記組成物の総重量に対して0.1重量%の4-t-ブチルシクロヘキサノールを含んでなる。同様に好ましくは、前記組成物は、前記組成物の総重量に対して0.5重量%の4-t-ブチルシクロヘキサノールを含んでなる。
【0084】
本発明による皮膚科学的、皮膚化粧用または化粧用組成物および組合せは、1:10~10:1の間に含まれる、より詳しくは1:1、さらにより詳しくは1:5の4-t-ブチルシクロヘキサノール:ポンガミア油の質量比でのポンガミア油と4-t-ブチルシクロヘキサノールとを含んでなり得る。
【0085】
従って、本発明は、4-t-ブチルシクロヘキサノール:ポンガミア油の質量比が、1:10~10:1の間に含まれる、より詳しくは1:1、さらにより詳しくは1:5である、上記で詳述した酒さの処置および/または予防において使用するための組合せまたは皮膚科学的もしくは皮膚化粧用組成物に関する。
【0086】
本発明はまた、4-t-ブチルシクロヘキサノール:ポンガミア油の質量比が、1:10~10:1の間に含まれる、より詳しくは1:1、さらにより詳しくは1:5である、上記で詳述した皮膚発赤の処置および/または予防において使用するための組合せまたは化粧用組成物に関する。
【0087】
本発明はまた、4-t-ブチルシクロヘキサノール:ポンガミア油の質量比が、1:10~10:1の間に含まれる、より詳しくは1:1、さらにより詳しくは1:5である、上記で詳述した皮膚発赤を軽減および/または予防するための組合せまたは化粧用組成物に関する。
【0088】
このような組成物は、当業者に周知の方法に従って製造することができる。
【実施例
【0089】
以下の実施例により、その範囲を限定することなく、本発明を説明する。
【0090】
実施例1:ポンガミア油とペンチレングリコール中4-t-ブチルシクロヘキサノールの組合せの薬理試験
この試験の目的は、酒さ環境における正常ヒト表皮ケラチノサイトの炎症性応答に対するポンガミア油とペンチレングリコール中4-t-ブチルシクロヘキサノールの組合せの効果を評価することである。
【0091】
酒さ環境は、Steinhoff et al. 2013, JAADに記載のとおり、3つのアゴニスト、すなわち、TNFアクチベーター、Toll様受容体(TLR2)アクチベーターおよびTRPアクチベーター(TRPV1、TRPA1)、LL37ペプチドから選択される炎症メディエーター、自然免疫メディエーターおよび細菌成分の混合物により模倣される。
【0092】
プロトコール
ポンガミア油は、10μg/ml(0.001%に相当)で評価し、ペンチレングリコール中4-t-ブチルシクロヘキサノールは、300μM(4-t-ブチルシクロヘキサノールの47μg/ml、従って0.0047%に相当)で評価する。10μMで評価したIKK阻害剤を、陽性対照として用いた。
【0093】
酒さ環境におけるヒト表皮ケラチノサイトを、これらの化合物に25時間曝露させた。
【0094】
次に、培養上清を除去し、遠心分離し、-20℃で凍結させた。IL8の産生量を、供給業者の説明書(R&D Systems)に従って、ELISAにより定量する。試験した種々の化合物への曝露後のIL8分泌の阻害パーセントを算出する。一元配置分散分析(ANOVA)を用いて統計解析を実施し、次いで、ダネット検定を行う。
【0095】
7回の独立した実験を行い、平均をとる。
【0096】
結果
結果を以下の表にまとめる。
【0097】
【表1】
【0098】
ケラチノサイトが酒さ環境にある場合、IL8の非常に明確な分泌が認められ、その値は対照条件(0.1%DMSO)下での69±5pg/mL~3267±177pg/mLである。NFκB経路を遮断する参照阻害剤IKKは、このIL8分泌を強力に阻害する(86%の阻害)ため、用いた薬理試験が検証される。
【0099】
ペンチレングリコール中の300μMの4-t-ブチルシクロヘキサノールは、IL8の産生を統計的に有意に阻害する。10μg/mLのポンガミア油は、IL8分泌に対する阻害効果は低いが、依然として統計的に有意な様式である。他方、上記と同じ濃度のペンチレングリコール中4-t-ブチルシクロヘキサノールとポンガミア油の組合せは、ペンチレングリコール中4-t-ブチルシクロヘキサノール(p<0.05)であろうとポンガミア油(p<0.001)であろうと、個別に曝露させた化合物よりも大きな程度までIL8分泌を阻害する。よって、本発明者らは、ペンチレングリコール中4-t-ブチルシクロヘキサノールとポンガミア油の組合せによる、IL8産生の阻害に対する実際の相乗作用を実証した。このような活性により、この組合せは、非常に有望な鎮静特性(soothing and calming properties)を有する。
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】