(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】回転ベゼルをスナップ嵌めするためのばねリング
(51)【国際特許分類】
G04B 19/28 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
G04B19/28 B
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020152557
(22)【出願日】2020-09-11
【審査請求日】2020-09-11
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599044744
【氏名又は名称】コマディール・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル・ジャコー
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ブルセ
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-164131(JP,A)
【文献】特開2018-17731(JP,A)
【文献】特開昭54-92357(JP,A)
【文献】特開2017-58231(JP,A)
【文献】特開2019-113543(JP,A)
【文献】特開2015-232560(JP,A)
【文献】独国特許発明第3205821(DE,C1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0098650(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ベゼルをスナップ嵌めするためのばねリング(14)であって、
当該ばねリング(14)は、平面(P1)内にて延在し、セラミックスによって作られた携行型時計ケース(2)のミドル部(4)の円筒状の外側リムに
前記平面(P1)内にて延在する底部をもつように形成された環状溝(12)内に受けられるように意図されており、
当該ばねリング(14)には、その内側リム上に、当該ばねリング(14)の中心に向か
いかつ前記平面(P1)から離間する方向へ前記平面(P1)に対して傾斜する
形態の少なくとも1つのラグ(16)があり、
前記ラグ(16)は、
前記傾斜する形態を維持した状態で携行型時計ケース(2)のミドル部(4)の円筒状の外面(8)と係合して、前記ミドル部(4)に対する当該ばねリング(14)の位置をインデクシングする
ことを特徴とするばねリング(14)。
【請求項2】
前記ラグ(16)は、実質的に25°である角度の分、当該ばねリング(14)が延在する前記平面(P1)に対して傾斜している
ことを特徴とする請求項1に記載のばねリング(14)。
【請求項3】
当該ばねリング(14)には、3つの傾斜ラグ(16)があり、この傾斜ラグ(16)は、前記内側リム上にて360°にわたって2つの間が120°ずつ離間するように分布している
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のばねリング(14)。
【請求項4】
前記傾斜ラグ(16)は、当該ばねリング(14)の中心(20)の方へと延在し、当該ばねリング(14)が延在している前記平面(P1)に対して上方に傾斜している
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のばねリング(14)。
【請求項5】
当該ばねリング(14)には、さらに、少なくとも1つのノッチ形成タブ(18)があり、このノッチ形成タブ(18)は、回転ベゼルと係合して、当該ばねリング(14)に前記ベゼルをスナップ嵌めするように意図されている
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のばねリング(14)。
【請求項6】
当該ばねリング(14)は、3つのノッチ形成タブ(18)があり、このノッチ形成タブ(18)は、360°にわたって2つの間が120°ずつ離間するように分布している
ことを特徴とする請求項5に記載のばねリング(14)。
【請求項7】
計時器用ムーブメントが収容されるセラミックスによって作られた携行型時計ケース(2)のミドル部(4)に回転可能に取り付けられるように意図された回転ベゼルシステム(6)であって、
回転ベゼルと、及びこの回転ベゼルをスナップ嵌めするためのばねリング(14)とを備え、
前記ばねリング(14)は、請求項1~6のいずれか一項に記載されたばねリングである
ことを特徴とする回転ベゼルシステム(6)。
【請求項8】
セラミックスによって作られたミドル部(4)と、及びこのミドル部(4)に回転可能に取り付けられた回転ベゼルを備える回転ベゼルシステム(6)とを備える携行型時計ケース(2)であって、
前記ミドル部(4)には、環状溝(12)が形成された円筒状の外側リムがあり、
前記回転ベゼルシステム(6)は、請求項7に記載された回転ベゼルシステムであり、
前記ばねリング(14)は、前記ミドル部(4)に形成された前記環状溝(12)内にて受けられ、
前記傾斜ラグ(16)は、前記ミドル部(4)の円筒状の外面(8)と係合する
ことを特徴とする携行型時計ケース(2)。
【請求項9】
請求項8に記載の携行型時計ケース(2)を備える
ことを特徴とする携行型時計(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転ベゼルをスナップ嵌めするためのばねリングに関する。
【0002】
本発明は、さらに、ばねリングを備える回転ベゼルシステムに関する。
【0003】
本発明は、さらに、セラミックスによって作られたミドル部と、そのミドル部に回転可能に取り付けられた回転ベゼルシステムとを備える携行型時計ケースに関する。
【0004】
本発明は、さらに、当該携行型時計ケースを備える携行型時計(例、腕時計、懐中時計)に関する。
【背景技術】
【0005】
既知の回転ベゼルシステムには、回転ベゼルと係合して回転ベゼルのスナップ嵌めを可能にするように意図されたばねリングが設けられている。このようなスナップ嵌めによって、嵌めた後に、例えば、携行型時計ケースのミドル部のまわりにて回転ベゼルが正確に回転することができる。ミドル部がセラミックスによって作られている場合、このようなミドル部には、概して、ばねリングを受けるように意図されている環状溝が形成された円筒状の外側リムがある。しかし、この場合、ミドル部の加工に起因する傷が溝の底部に形成されてしまう。このような傷は、例として
図2に示しており、避けられない。なぜなら、溝を加工するために用いられる研削機によって形成されるためである。また、セラミックスによって作られたミドル部を備えるこのようなシステムにおいて発生する問題として、溝の底部に形成された傷とばねリングが接触すると、ばねリングが溝内にて平らに配置されなくなるという問題がある。このことによって、トルク変動、部品の間の機械的疲労に起因する間隙、したがって、回転ベゼルシステムの早期摩耗の問題が発生してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況で、本発明の目的は、セラミックスによって作られた携行型時計ケースのミドル部の溝の底部におけるばねリングの正しいポジショニングを確実にして、部品の機械的摩耗を低減し、したがって、アセンブリーの信頼性及び耐久性を向上させるような、回転ベゼルをスナップ嵌めするためのばねリングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような状況で、本発明は、独立請求項1に記載の特徴を有する回転ベゼルをスナップ嵌めするためのばねリングに関する。
【0008】
従属請求項2~6において、ばねリングの特定の形状を定めている。
【0009】
携行型時計ケースのミドル部の円筒状の外面と係合するように意図されている少なくとも1つの傾斜ラグがばねリングの内側リム上に存在することによって、ばねリングが溝の底部に形成された傷と接触することを防ぐことができる。このことによって、ミドル部に対してばねリングの位置をインデクシングすることができ、したがって、ミドル部に設けられた溝内においてばねリングが平らに配置されることを確実にすることができる。したがって、ベゼルの回転トルクの変動、そして、様々な部品の機械的摩耗が従来技術のシステムと比べて低減される。したがって、好ましいことに、当該ばねリングを備えるアセンブリーの信頼性と耐久性が向上する。
【0010】
また、本発明に係るばねリングには、さらに、製造が容易であり、携行型時計ケースのミドル部内に取り付けることが容易であり、様々な現状の既存部品と交換可能であり、アフターセールスサービス中においても容易に交換可能であり、製品の知覚できる品質を向上させ、そして、特に回転ベゼルの回転精度の感覚についての、ユーザーの知覚を向上させることができるという利点がある。
【0011】
好ましいことに、ばねリングには、3つの傾斜ラグがあり、この傾斜ラグは、360°にわたって2つの間が120°ずつ離間するように分布している。このことによって、溝の底部に存在する傷とは無関係に、携行型時計ケースのミドル部に対してばねリングを再センタリングすることができ、したがって、溝内のばねリングの正しいポジショニングを向上させることができる。このことによって、部品の機械的摩耗も同様に低減する。
【0012】
本発明の1つの特定の技術的特徴によると、当該ばねリングには、さらに、回転ベゼルと係合して、前記ベゼルを当該ばねリングにスナップ嵌めするように意図されている少なくとも1つのノッチ形成タブがある。
【0013】
このような状況で、本発明は、さらに、前記ばねリングを備え、従属請求項7に記載された特徴を有する回転ベゼルシステムに関する。前記回転ベゼルは、通常、環状の回転ベゼルであり、好ましくは、単方向性のベゼルである。
【0014】
このような状況で、本発明は、さらに、セラミックスによって作られたミドル部と、及び前記回転ベゼルシステムを備え、従属請求項8に記載された特徴を有する携行型時計ケースに関する。
【0015】
このような状況で、本発明は、さらに、前記携行型時計ケースを備え、従属請求項9に記載された特徴を有する携行型時計に関する。
【0016】
図示している少なくとも1つの実施形態に基づく下記の説明を読むことによって、本発明に係る回転ベゼルをスナップ嵌めするためのばねリングの目的、利点及び特徴を明確に理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るばねリングを備える回転ベゼルシステムを備える携行型時計ケースの斜視図である。
【
図2】
図1の携行型時計ケースの断面II-IIにおける断面図である。
【
図4】
図3のばねリングの断面IV-IVにおける断面図である。
【
図5】
図3のばねリングの断面V-Vにおける断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、携行型時計ケース2を備える携行型時計1を示している。携行型時計ケース2は、通常、セラミックスによって作られたミドル部4を備える。また、携行型時計ケース2は、さらに、回転ベゼルシステム6、そして、計時器用ムーブメントを備える。この計時器用ムーブメントは、簡明性のために図示していない。回転ベゼルシステム6は、ミドル部4に回転可能に取り付けられている。好ましくは、回転ベゼルシステム6は、独立したモジュールによって構成している。
【0019】
図1に示しているように、ミドル部4は環状である。ミドル部4には、本体であるミドル部4の部分10の境界を定める円筒状の外面8がある。ミドル部4には、さらに、円筒状の外側リム上に環状溝12がある。
図1及び2に示しているように、環状溝12は、後述するように、本発明に係るばねリング14を受けることを意図されている。
【0020】
回転ベゼルシステム6は、回転ベゼルと、この回転ベゼルをスナップ嵌めするスナップリング14とを備える。回転ベゼルは、通常、環状の回転ベゼルであり、好ましくは、単方向性のベゼルであり、簡明性の理由によって図に示していない。回転ベゼルは、セクションばねによって保持され、このセクションばねは、ベゼルがミドル部の本体上を通過する間に広がって、その後に、ミドル部にある溝に挿入されて、スナップ嵌めによってばねリング14と係合する。ばねリング14は、環状溝12内にて受けられ、
図2に示している平面P1内にて延在する。この平面P1は、ばねリング14が溝12内に配置されているときに、実質的に水平となってある。
【0021】
ばねリング14には、その内側リム上に、平面P1に対して傾斜している少なくとも1つのラグ16がある。
図1~3に示している実施形態において、ばねリング14には、3つの傾斜ラグ16があり、この傾斜ラグ16は、内側リム上にて360°にわたって2つの間が120°ずつ離間するように分布している。好ましくは、ばねリング14には、さらに、このばねリング14にベゼルをスナップ嵌めさせるように回転ベゼルと係合するように意図されている少なくとも1つのノッチ形成タブ18がある。
図1~3に示している実施形態において、ばねリング14には、3つのノッチ形成タブ18があり、このノッチ形成タブ18は、360°にわたって2つの間が120°ずつ離間するように分布している。ばねリング14は単一の材料の部品によって構成している。ばねリング14は、例えば、Phynoxのような材料によって作られる。
【0022】
図1に示しているように、各傾斜ラグ16はミドル部4の円筒状の外面8と係合して、ミドル部4に対するばねリング14の位置をインデクシングする。このようにして、ばねリング14は、常に、環状溝12内にて実際に平らに配置される。特に、
図2に示しているように、溝12の底部に形成された傷19とばねリング14が接触することはなく、このことによって、摩耗やトルク変動の問題を避けることができる。
図1及び2の特定の実施形態において、前記傷19の幅は、実質的に0.2mmである。
【0023】
好ましくは、
図1、3及び4に示しているように、各ラグ16は、ばねリング14の中心20の方へと延在し、平面P1に対して上方に傾斜している。
図1及び4に示している特定の実施形態において、各ラグ16は、実質的に25°である角度の分、平面P1に対して傾斜している。
【0024】
各ノッチ形成タブ18は、同じ回転ベゼルと、又はベゼルに取り付けられた部品と、係合して、ばねリング14にベゼルをスナップ嵌めするように構成している。このために、
図5に示しているように、各ノッチ形成タブ18には、例えば、第1の部分18aと第2の部分18bがあり、これらの両方が平面P1に対して上方に延在している。この第1の部分18aは、例えば、外側になるにしたがって曲がりがこの第1の部分18aを平面P1から離す傾向のあるアーチ状の形をしており、第1の部分18aの任意の点における接触円の中心は、タブ18に対して平面P1の反対側に位置する。第2の部分18bは、例えば、平面P1に対して傾斜した平坦な部分である。
図5の特定の実施形態において、各ノッチ形成タブ18の第2の部分18bは、実質的に15°である角度の分、平面P1に対して傾斜している。好ましくは、
図1に示しているように、各ノッチ形成タブ18は、ばねリング14の厚みにおいて切り込みを予め形成してから形成される。したがって、切り込みの形は、対応するタブ18の形に対して相補的な形となる。
【符号の説明】
【0025】
1 携行型時計
2 携行型時計ケース
4 ミドル部
6 回転ベゼルシステム
8 外面
9 傷
12 環状溝
14 ばねリング
16 傾斜ラグ
18 ノッチ形成タブ
P1 平面