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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】体の器官に圧力をかけるためのベルト
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
A61F2/24
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020544345
(86)(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-21
(86)【国際出願番号】 US2018058454
(87)【国際公開番号】W WO2019089754
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】62/580,033
(32)【優先日】2017-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512240408
【氏名又は名称】マフィン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MUFFIN INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】ジタール, ショーン, デイヴィス
(72)【発明者】
【氏名】サイモン, ジュニア., ジョン, シー.
(72)【発明者】
【氏名】ハーディー, グレゴリー, ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ニューカーク, ジェレミー, ティー.
(72)【発明者】
【氏名】フィアノット, ニール, イー.
(72)【発明者】
【氏名】ハヴェル, ウィリアム, ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ハドリー, リタ
(72)【発明者】
【氏名】ヂョウ, ユン
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0120647(US,A1)
【文献】特表2005-501638(JP,A)
【文献】国際公開第2004/093730(WO,A2)
【文献】国際公開第2004/052594(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
A61B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓の房室溝に沿って配置するためのベルトであって、
第1の開放端および第2の開放端を有するメッシュチューブであって、当該チューブの長手方向軸線に沿って該第1の開放端から該第2の開放端まで延びるチューブ腔をさらに有し、長手方向に沿ってループ状にされて心臓の周りで房室溝に沿って配置されるメッシュチューブと、
該チューブ内に位置し、該第1の開放端に隣接して該チューブに固定されて該第2の開放端に向かって該チューブ腔を通って延び、複数の保持要素によって該チューブ腔内において該チューブに接続されて、該チューブに対して該保持要素を通って長手方向に移動可能とされている第1の縫合糸部分と、
該チューブ内に位置し、該第1の縫合糸部分と平行に該第1の縫合糸部分から間隔を置いて配置され、該第1の開放端に隣接して該チューブに固定されて該第2の開放端に向かって該チューブ腔を通って延び、複数の保持要素によって該チューブ腔内において該チューブに接続されて、該チューブに対して該保持要素を通って長手方向に移動可能とされている第2の縫合糸部分と、
を備え、
該第1および第2の縫合糸部分を引っ張ることにより、該チューブを該チューブに沿った少なくとも選択された位置で長手方向に圧縮するようにして、該チューブを締めて該ループの面積を減少させるようにした、ベルト。
【請求項2】
該第1の縫合糸部分および第2の縫合糸部分はそれぞれ、該チューブの外側にあり引っ張って該チューブを締めることができるようにする部分を提供するように、該第2の開放端を通って延びている、請求項1に記載のベルト。
【請求項3】
該第1の縫合糸部分および該第2の縫合糸部分は、該第1の縫合糸部分と該第2の縫合糸部分との間に中間部分を有し且つ該中間部分に取り付けられた係止縫合糸を備える単一の張力縫合糸の一部とされている、請求項1に記載のベルト。
【請求項4】
該チューブ内で該第2の開放端に隣接するリングをさらに含み、該張力縫合糸が該リングの上で該リングを通って折り畳まれ、該第1および第2の縫合糸部分が該リングの片側にあり、該中間部分が該リングの反対側にある、請求項3に記載のベルト。
【請求項5】
該リングは、その周りに該張力縫合糸が折り畳まれる丸い係合部分を含む、請求項4に記載のベルト。
【請求項6】
該リングが、該第2の開放端に隣接して該チューブに平行な第1および第2の直線状側部分を有し、該第1の直線状側部分は少なくとも1つの保持要素によって該チューブに接続され、該第2の直線状側部分は少なくとも1つの保持要素によって該チューブに接続されている、請求項4に記載のベルト。
【請求項7】
該係止縫合糸は、該係止縫合糸に加えられて該第1および第2の縫合糸部分に伝達される張力を保持するのに使用するための複数の突起を含む、請求項3に記載のベルト。
【請求項8】
該係止縫合糸は、該チューブ内の長さ部分と、該第1の開放端を通って該チューブを出る部分とを有し、
該突起は、該チューブ内及び該第1の開放端の隣にある係止縫合糸の全体長さ部分までの上にあり、または該係止縫合糸の該チューブ内の長さ部分にはないようにされている、請求項7に記載のベルト。
【請求項9】
該メッシュはニチノールからなる、請求項1に記載のベルト。
【請求項10】
該メッシュは、該チューブが体温に達したときにその断面がバーベル状となるようにヒートセットされている、請求項1に記載のベルト。
【請求項11】
該メッシュは、該チューブが体温に達したときにその断面が楕円形または楕円形になるようにヒートセットされている、請求項1に記載のベルト。
【請求項12】
該メッシュは、該チューブが体温に達したときに平らなリボン形状となるようにヒートセットされている、請求項1に記載のベルト。
【請求項13】
該メッシュは、該チューブが体温に達したときに、第1のフープ直径および第1の断面寸法を有する第1の領域と、第2のフープ直径および第2の断面寸法を有する第2の領域とを有する形状となるようにヒートセットされており、該第1のフープ直径は該第2のフープ直径よりも大きく、該第1の断面寸法は該第2の断面寸法よりも大きい、請求項1に記載のベルト。
【請求項14】
該第1の領域と該第2の領域との間の中間部分が、房室溝の少なくとも一部に一致するようにされた輪郭を含む、請求項13に記載のベルト。
【請求項15】
該メッシュが、該チューブが体温に達したときに1つ以上の下部の丸みのある輪郭領域を有するサドル形状となるようにヒートセットされており、該下部の丸みのある輪郭領域の少なくとも一つが房室溝にぴったりと収まるように形状付けられている、請求項1に記載のベルト。
【請求項16】
第1および第2の縫合糸部分は、それぞれの別個の縫合糸のそれぞれの部分である、請求項1に記載のベルト。
【請求項17】
第1および第2の縫合糸部分は、ループを形成するように接続されている、請求項1に記載のベルト。
【請求項18】
該ループは、少なくとも部分的に該ベルトの外部にある細長い要素に接続され、該細長い要素は、係止縫合糸と送達フィラメントとのうちの一方である、請求項17に記載のベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2017年11月1日に提出された米国仮特許出願第62/580,033号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
本願における開示は概ね、患者の状態を治療する方法として、器官を圧迫するために患者の体内に挿入するための装置に関する。特に、少なくとも部分的に臓器の周りに適用するためのベルトの実施形態が開示される。
【背景技術】
【0002】
三尖弁逆流(TR)の治療では、ベルトまたはバンドを心臓の周りに、特に心臓の房室(AV)溝に送達することが提案されている。ベルトが適切に配置されると、ベルトは心臓の周りで締められるか(cinched)、締め付けられて(tightened)、三尖弁輪が狭められ、TR状態が緩和される。三尖弁輪を狭めるためにベルトは心臓からの圧力に打ち勝つ必要があるが、この圧力は患者により異なる可能性があり、これは管理すべき不幸な副作用と考えられ得る。
【0003】
必要なときにベルトに張力を提供するために縫合糸を使用することが提案されている。このアプローチにはいくつかの問題が指摘されている。たとえば、ベルトを締めると、AV溝や冠血管、または他の組織に対して過度の圧力が発生する可能性があり、冠血流を抑制し、心臓機能に悪影響を及ぼす可能性がある。さらに、ベルトに取り付けられた縫合糸を使用して締める場合、縫合糸はベルト内のどこの位置にもなり得、軸方向および横方向の両方に自由に動き得る。したがって、ベルトに関する、および心臓の生物学的構造に関する、縫合糸の制御性が欠けている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
総体的には、ベルトを締める構造と方法、およびベルトが冠動脈圧迫のリスク(たとえば、血管を圧縮して血流を制限または阻止するリスク)を最小限に抑えるための構造と方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書では、特に、三尖弁逆流を含む状態を治療するための装置および方法が開示されている。そのような装置は、心臓のAV溝に沿って配置するバンドまたはベルトを含むが、これは、第1の開放端および第2の開放端を有するヒートセッティング性メッシュチューブと、第1の開放端から第2の開放端まで当該チューブを長手軸線方向で通るチューブ腔とを含み得る。チューブは、心臓の周りでAV溝に沿って配置されるように、ループ状に構成することができる。第1の縫合糸部分がチューブ内にあり、第1の開放端に隣接してチューブに固定され、チューブ腔を通って第2の開放端に向かって延びる。この第1の縫合糸部分は、複数の保持要素によってチューブ腔内においてチューブに接続され、チューブに対してこれら保持要素を通って長手方向に移動できるようにすることができる。いくつかの実施形態では、第2の縫合糸部分が、チューブ内において、第1の縫合糸部分から離して平行に設けられる。第2の縫合糸部分は、第1の開放端に隣接するチューブに固定され、チューブ腔を通って第2の開放端に向かって延びるようにすることができる。第2の縫合糸部分は、複数の保持要素によってチューブ腔内でチューブに接続されてチューブに対して保持要素を通って長手方向に移動可能とすることができる。第1および/または第2の縫合糸部分を引っ張ると、チューブがチューブに沿った少なくとも選択された位置で長手方向に圧縮されるように、チューブが締められてループの面積が減少する。
【0006】
特定の実施形態では、第1の縫合糸部分および第2の縫合糸部分はそれぞれ、チューブの外側にあり引っ張ってチューブを締め付けることができる部分を提供するように、第2の開放端を通って延びている。あるいは、第1の縫合糸部分および第2の縫合糸部分は、第1の縫合糸部分と第2の縫合糸部分との間に中間部分を有する単一の張力縫合糸の一部とすることができる。係止縫合糸を、張力縫合糸の中央部分に取り付けることができる。リングをチューブ内に第2開放端に隣接して設けることができ、そのような場合、張力縫合糸がリングの上で折り畳まれて、第1および第2の縫合糸部分がリングの片側にあり、張力縫合糸の中間部分がリングの反対側となる。リングの実施形態は、その周りに張力縫合糸が折り畳まれる丸い係合部分、および/または第2の開放端に隣接するチューブと平行な第1および第2の直線状側部を含み得る。リングの第1および第2の直線状側部は、1つまたは複数のそれぞれの保持要素によってチューブに接続することができる。係止縫合糸は、それに加えられて第1および第2の縫合糸部分に伝達された張力を保持するのに使用する複数の突起を含むことができる。一例では、係止縫合糸は、チューブ内の長さ部分と、第1の開放端を通ってチューブを出る部分とを有し、突出部は、チューブ内及び第1の開放端の隣にある係止縫合糸の全体長さ部分までの上に設けられ、または係止縫合糸のチューブ内の部分上には設けられないようにする。
【0007】
チューブのメッシュの例は、ニチノールなどのヒートセット(熱形状設定)可能材料である。チューブの実施形態は、チューブが体温に達すると、その断面がバーベル形状、楕円形、または平らなリボン形状をとるようにヒートセット(熱形状設定)されたメッシュを含む。さらなる例には、チューブが体温に達したときに、第1のフープ直径と第1の断面寸法を持つ第1の領域と、第2のフープ直径と第2の断面を持つ第2領域を持つ形状をヒートセットされたメッシュが含まれる。第1のフープ直径は、第2のフープ直径より大きくてもよく、第1の断面寸法は、第2の断面寸法より大きくてもよい。第1の領域と第2の領域の間の中間部分は、房室溝の少なくとも一部に一致するようにされた輪郭を含むことができる。別の例は、チューブが体温に達したときに、1つまたは複数の下側の丸みのある輪郭領域を有するサドル形状をとるようにヒートセットされたメッシュを含むことができる。下側の丸みのある輪郭領域の少なくとも1つは、AV溝内にぴったりと合うようにすることができる。
【0008】
開示された構造は、圧迫ベルトが引っ張られているときの冠状動脈圧迫のリスクを最小限に抑える。三尖弁および/または僧帽弁における逆流を減少させることにおいて治療的利益を依然として達成しながら、冠状動脈を過度に圧迫しないように、ベルトに加えられた力をAV溝の十分に広い弧に分配する方法が開示されている。本明細書に開示されるベルトの実施形態は、冠状動脈の流れが最も高いと予想される心室拡張期の冠状動脈圧よりも高い内圧(すなわち、心臓に向かう圧力)を加えてはならない。このような実施形態は、隣接する構造への外傷を最小限に抑えるように成形または構成され(例:ベルトに鋭利なエッジがないようにされ)、ベルトを配置して(必要に応じて)締めた状態では心臓の上または周りを滑るリスクを最小限に抑えるように構成する必要がある。開示されるいくつかのベルトの実施形態は縫合糸または他の張力要素の位置を制御して、張力要素によって加えられるか、そうでなければそれに関連する力または圧力を最適に分配するようにする。特定の実施形態では、ベルトの除去または改修が必要な場合、ベルトの端部は、送達カテーテルまたは他のデバイスに容易に引き込まれるように(例えば、先細りに)構成される。
いくつかのベルトの実施形態は、伸張可能または圧縮可能であり、デリバリーフレームの周りに、デリバリーカテーテルまたは他のデバイス内にコンパクトにフィットし、設定時に、張力、圧力または力を効果的に分配する所望の形状または構成をとる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明の実施形態に係るベルトの平面図である。
図1A図1Aは、図1のベルト用のメッシュチューブの斜視図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿って矢印の方向で見た図1のベルトの断面図である。
図3A図3Aは、特定のセット形状の図1のベルトの断面の斜視図である。
図3B図3Bは、特定のセット形状の図1のベルトの断面の斜視図である。
図4図4は、特定のセット形状の図1のベルトの斜視図である。
図5図5は、特定のセット形状の図1のベルトの斜視図である。
図6図6は、特定のセット形状の図1のベルトの斜視図である。
図7図7は、単一の張力縫合糸を備えたベルトの実施形態の平面図である。
図8図8は、2つの張力縫合糸部分を有するベルトの実施形態の平面図である。
図9図9は、2つの張力縫合糸部分を有するベルトの実施形態の平面図である。
図10図10は、2つの張力縫合糸部分を有するベルトの実施形態の平面図である。
図11図11は、中間ループを有する2つの張力縫合糸部分を備えたベルトの平面図である。
図12図12は、中間ループおよび追加の構造を有する2つの張力縫合糸部分を備えたベルトの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は多くの異なる形態で具現化され得るが、本発明の原理の理解のために、ここで図面に示される実施形態を参照し、それらを説明するために具体的な用語を使用する。しかし、それによって本発明の範囲の限定が意図されているものではない。本明細書に記載される本発明の原理の記載された実施形態および任意のさらなる応用における任意の変更およびさらなる修正は、本発明が関連する当業者によって通常行われるものと考えられる。
【0011】
ここで図面を全体的に参照すると、身体器官に圧迫を加える際に使用するためのベルト20の実施形態が示されている。以下で述べるように、ベルト20は、三尖弁逆流(TR)状態の治療において心臓の房室(AV)溝に適用するために特に用意することができる。本明細書の開示は、その使用および配置に時々焦点を合わせるが、開示される構造および方法は、多くの状態、治療、インプラントまたは目的に使用できることが理解されるであろう。
【0012】
図示の実施形態のベルト20は、両側の開放端24、26と、該開放端の間の内部容積28の周りの自然直径(すなわち、応力がかかっていないとき、またはヒートセット(熱形状設定)された後のチューブの直径)を備えた生体適合性材料の可撓性のメッシュチューブ22とされている。以下でさらに説明するように、ベルト20に張力をかけるために、1または複数の縫合糸がベルト20に接続される。そのような張力により、ベルト20をTRの治療のためにAV溝に締めることができる。チューブ20のメッシュは、隙間38を開けたストランド、ワイヤ、または繊維36で形成したり、または薄いシートを切断、エッチング、スタンピング、またはその他の方法で部分的な除去をしたり、隙間38を形成したりして作ることができる。メッシュにより、ベルト20はその長さまたは中心軸線Aに沿った張力下で縦方向に伸び、それによって伸ばされた領域の直径が減少し、その長さまたは中心軸線Aに沿って張力の緩和または圧縮によりその直径が増加する。
【0013】
チューブ22のメッシュは、多くの利用可能な天然または合成の丈夫な生体適合性材料で作ることができる。特定の実施形態では、ベルト20のメッシュはニチノールでつくられ、例えば、相互に固定および/または巻き付けられて隙間38を形成する1つ以上の個々の(ストランド36としての)ニチノールワイヤから作られる。図1の実施形態におけるベルト20は、長さL及び長手方向軸線Aを横断するように測定された直径Dを有するオリジナルの円筒形状を有する。ヒートセット可能材料(例えば、ニチノール)で作られた実施形態に係るベルト20は、製造中、または少なくとも使用前に、体内に配置されたときに想定された形状となるようにヒートセットされる。この例では、ベルト20は、室温でそのオリジナルの(例えば、円筒形)形態を有しており、体内配送のためにパックされ、体に挿入されてその温度が体温となるかまたはそれに近づくと、ヒートセットされた形状となる。
【0014】
望ましいヒートセット形状の例として、図3に、ヒートセットされたフラットなリボン形状のベルト20が示されている。フラットなリボン形状はニチノールのメッシュにヒートセットされていて、ベルト20は、その体内設定状態で(側部40から側部42までの)所望の長さwを有し、初期長さLを有するようになる。ベルト20からの圧力が心室拡張期中の冠状動脈圧、例えば約30mmHgを超えないようにするために、以下に示すように幅wをどのようにすべきかが決定される。特定の張力Fに対するベルト20の断面の応力は、σ0=F/(tw)であり、ここで、tはベルト20のメッシュの厚さ、wは上で定義したベルト20の幅である。フープ応力式は、その圧力を目的の圧力Pに関連付けるものであり、σ0=Pr/tとなる。ここで、tは上で定義したとおりで、rはAV溝の半径である。これらの断面応力を互いに等しくなるように設定すると、F/tw=Pr/tになる。相殺して整理すると、w=F/Prとなる。実験的に決定された、0.4ポンド(1.8N)の張力、0.58psi(30mmHg)の血管圧、および2インチ(51mm)のAV溝の半径から、ベルト20の幅wが0.35インチ(8.9mm)に決定される。ベルト20の幅wの異なる値は、AV溝半径の差または血管圧力の差など、特定の患者に関する変動値に基づいて上記の方法によって決定される。したがって、特定の患者に適した幅wを有するベルト20は、カスタムメイドされ得る。その幅wは、例えば編組ニチノールワイヤのヒートセットベルト20によって設定され、このベルト20が体によって熱が加えられると(すなわち体温になると)、当該ベルト20は幅wの形状となる。
【0015】
好ましくは、ベルト20は平らな状態をとるようにヒートセットされ、前の例のように、引張部材からベルトに力を分配するようにする。オリジナルの円筒形断面の平坦化は、単に断面を楕円形にすること(図3A、比較的高い幅w)から、ベルト20の対向する側部40、42がそれぞれに平行で互いに密接に隣接している(図3B、比較的狭い幅w)リボン状の断面を作ることまでの範囲である。図3Aでは、ベルト20は楕円形または楕円形の断面で示され、縁部44、46が長軸によって交差および分離され、縁部44、46の間の中央部分が、幅wは短軸に沿っているか、またはそれに少なくとも実質的に平行である。同様に、図3Bに示すように、縁部44、46は、長軸と交差し、長軸によって分離され、幅wは、短軸に沿っているか、または短軸と平行である。縁部44、46は、以下でさらに論じられるように、締めるための1つ以上の縫合糸の場所を提供する。
【0016】
特定の実施形態では、平坦化されたベルト20は、長手方向軸線Aの両側に拡大された丸みを帯びた縁部50、52を有するようにされる。断面において、ベルト20のこの例は、ドッグボーン(dog bone)またはバーベルのように見える。一例として、縁部50、52間のベルト20の中間部分54は平坦であり、メッシュは縁部50、52間の両側部40、42において少なくともほぼ平面であり、これらの側部40、42は互いに近接または接触している。縁部50、52は円形または湾曲しており、例えば円形または楕円形の円筒形断面を有する。いくつかの例示された実施形態(例えば、図4)では、縁部50、52は、互いに同じ形状を有する。拡大された縁部50、52は、AV溝内で下にある組織と係合してそれを把持するための追加の表面積を提供する。縁部50、52は、それらが丸められているので、隣接する心臓組織に何らかの外傷を引き起こし得る鋭い角または他の表面の可能性を低減する。心房の付属器またはローブは、AV溝のベルト20に張り出す可能性があるので、そのような表面がないことが好ましい。
【0017】
別の実施形態では、ベルト20は、片側により大きな湾曲直径を有する領域60と、より狭い/より小さな湾曲直径を有する領域62とを形成する断面を有するようにヒートセットされる。領域60は、心房組織よりも厚く室圧も高くなっている心室壁の上に配置するように設計される。領域60のより厚い断面は、心室組織に対するより確実な保持という利点を有し、より高い心室圧は、そのより厚い材料に抗する。領域62は、薄いAV溝と室圧が低い心房壁の上に配置するように設計されている。より薄い領域62は、ベルト20の中間部分64がAV溝によりぴったりと適合することを可能にすることができる。中間部分64は、図5に示すように、AV溝の少なくとも一部に一致する輪郭66を側部42内に含むことができる。
【0018】
別の実施形態では、ベルト20は、心臓の外部の自然な曲線を有するかまたはそれに近似するリング形状にヒートセットされ、ベルト20が、自然な位置を有するか、または心臓の周りにフィットすることができるようにする。例えば、心臓の画像を撮って、心臓をモデル化し、その画像を使用して、ベルト20に曲線を作製し、それをベルト20にヒートセットすることができる。そのような実施形態は、当該ベルトが設置されたときにベルト20が心臓の形状となるので、その設置を容易にする。その形状のベルト20は、楕円形のペグを対応するサイズと形状の穴に取り付けるのと同様に、心臓にうまくフィットし、ベルト20の最終的な締め付けの前に心臓の輪郭によく適合する。
【0019】
別の実施形態では、ベルト20は、3つのローブまたはサドル形状にヒートセットされる。図6は、AV溝に沿って横方向に荷重を分散するために、3つの縫合糸(例えば、各ローブに沿って1つの縫合糸)の通過を可能にする例示的な断面形状である。この形状は、AV溝自体が単一の平面にないということに対処する。図6のようなベルト20の形状により、ベルト設置時にベルト20がAV溝に自然に収まるようになる。さらに、3つのピンと張った縫合糸と共に使用されるとき、ローブは、縫合糸を相互に分離した状態にして縫合糸によって加えられる圧縮力を分配する。その例では、ベルト20は、上部の平坦な領域70と、1つまたは複数の下部の輪郭領域、例えば2つのサイドローブ72と1つのミドルローブ74とを有する。ミドルローブ74は例えば部分的に円柱状または丸みを帯びた尾根のように丸みを帯びており、これはAV溝内にフィット、好ましくはAV溝内に密接するようになっている。サイドローブ72は丸みを帯びており、少なくとも一部がミドルローブ74と本質的に同じ曲率を有し、縁部76も丸められている。ドッグボーンの形態に関して前述したように、そのような縁部領域は鋭い角のないより確実な係合を提供する。より一般的には、ベルト20の経路は、心臓のAV溝の経路をよりよく追跡する非平面の3次元形状にヒートセットすることができる。
【0020】
これらの実施形態のいずれにおいても、ベルト20は、動脈が当該ベルトの下を通過する(可能性が高い)心臓の領域の上に配置されるベルトの領域に対してより大きな幅wを提供するようにヒートセットされ得る。そのより大きな幅は、張力がかけられたときにベルト20のその領域における比較的小さな圧力を可能にし、そのような領域は、動脈が通過する心臓の領域の上にされる。ベルト20は、心臓の三尖弁輪の辺りまたは近くにある部分において幅が狭くてもよい。そのより狭い幅は、張力がかけられたときにベルト20のその領域において比較的より大きな圧力を提供し得、したがって、三尖弁逆流を治療するために必要とされる場所にそのより大きな圧力を向ける。
【0021】
本明細書に開示されるベルトの実施形態のいずれにおいても、張力は、1つ以上の縫合糸によってベルトを通して加えられる。「縫合糸」とは、一般的な定義だけでなく、本明細書で説明するように、TR治療などの手術で使用するためにベルトに通されてベルト設置時にベルトを引っ張るのに十分な柔軟性と引張強度を有する生体適合性の線またはフィラメントを意味する。さらに、「縫合糸」は、完全に別個のアイテムだけでなく、1つまたは複数のそのようなアイテムの一部も意味する。縫合糸を引っ張るか、または他の方法で張力をかけると、ベルトに圧縮が加えられ、それによって心臓の房室溝に圧縮が加えられる。
【0022】
1本のみの張力縫合糸がベルト20(例えば図7)に取り付けられるかまたは他の方法で接続された実施形態では、縫合糸78は、チューブ腔28を通ってベルト20内で浮いた状態になり得る。特定の実施形態では、張力縫合糸78の一端は、ベルト20の一端24またはその近く(およびベルト20に取り付けられるかまたは他の方法で接続されるロック機構M)でベルト20に固定される。縫合糸78は、チューブ腔28を通り、ベルト20の端部26から出て、ロック機構Mを通される。ベルト20内の張力縫合糸78は、ベルト20に対して軸方向および横方向の両方に移動することができる。ロック機構を通された張力縫合糸78の一端を引っ張ると、他端がベルト20に固定された状態で、当該縫合糸78の一部がベルト20を通って動く。ベルトの端部24は、張力縫合糸78と共に軸線Aに沿って引っ張られ、ベルト20の長さを短縮し、それを張力下に置く。ロック機構Mは、縫合糸78およびベルト20を、心臓の周りで、その張力状態に保持する。
【0023】
図8に示す実施形態では、ベルト20はその中に、張力をかけるための2つの平行な縫合糸または縫合糸部分80、82を有する。2つの縫合糸80、82の使用は、ベルト20に安定した張力をかけること、およびベルト20を心臓の周りで締めるときの圧力または力を分配することにおいて、単一の縫合糸をベルト内20に浮遊させることによって行うことができるよりも効果的であることが分かった。例えば、2つの分離した縫合糸を介して力を加えることにより、締めまたは締め付け中にベルトが縁部(例えば、44、46、50または52)の周りで回転されることによって平ベルト20が1つの縁部上で立ち上がりまたは立つようになることによるベルト20の回転または旋回のリスクを低減または排除する。縫合糸80、82の横方向での動きを制限する、すなわち互いに離れた状態を維持するようにすると、2つの縫合糸80、82をベルト20と共に使用することがより効果的であることも分かっている。2つの浮遊した縫合糸は、位置エネルギーが最小化されるため、またはベルト20の設置または締め付け中に一緒に引っ張られるため、一緒に留まる傾向があることが分かっている。縫合糸が一緒に留まると、それらは単一のより厚い縫合糸のように振る舞う傾向があり、2つの縫合糸を使用することによる力の適用と分配、および他の利点が失われる。
【0024】
縫合糸80、82は、ベルト20の長手方向軸線を挟んで互いに対向する位置でベルト20に取り付けられ、図示の実施形態では、縫合糸80、82は、ベルト20の内側に取り付けられている。ベルト20が特定の形状にヒートセットされる実施形態では、縫合糸80、82は、ヒートセット後に配置される。一連の保持要素84が、ベルト20に沿った様々な位置で縫合糸80、82を囲んでいる。特定の実施形態では、要素84は、それぞれの縫合糸80、82の周りに廻されベルト20のメッシュを通して結ばれる糸またはフィラメントである。例えば、フィラメント86の形態の保持要素84は、メッシュを通して縫合糸80の周りに通され、そしてメッシュを通して1回以上戻され、次いで結ばれるか、熱融着されるか、そうでなければ固定される。図示の実施形態では、フィラメント86は、縫合糸80の周りに少なくとも2回通され、すなわちループされ、ベルト20またはその近傍、例えばベルト20の外面に固定される。フィラメント86をそれ自体およびベルト20に対して(例えば、結び目によって)固定すると、フィラメント86にある程度のたるみまたは柔軟性が保持され、各保持要素84を通る開口部または通路88を形成し、縫合糸80が最小の抵抗でそれぞれの保持要素84の通路88を長手方向に動けるようになる。特定の場合として、図10に示されるチューブ100のように、それぞれの張力縫合糸80、82のそれぞれの管をベルト20のチューブ腔を通して配置するようにすることができる。それぞれの張力縫合糸は、管に最初から通され、または管がベルト20内に取り付けられた後に通されることによって、それぞれの管を通って延びるようにされる。フィラメント86は、ベルト20のメッシュおよび管の周りに、例えば2回以上通され、締め付けられて管の周りにぴったりと固定され、結び目または他の方法で固定されて、固定要素84を形成する。それから管は、それぞれの張力縫合糸の上を滑らせて要素84から外に引き出され得る。保持要素84を管の周りにぴったりとフィットさせることにより、保持要素の結び付けまたは固定が容易になり、また管が取り外されたときに保持要素が張力縫合糸に対してたるむことが保証される。同様または同一の保持または固定要素84が縫合糸82のために存在する。
【0025】
他の実施形態では、保持要素は、ベルト20に取り付けられたリング、チュービング、またはシースであってもよく、またはそれらを含んでもよい。上述のフィラメントはリングとして作用する。メッシュ内のニチノールワイヤで作られたベルト20の例では、ベルト20のメッシュを形成する個々のワイヤを使用して内部ガイドリング(図9の92)を形成することができる(例えば、そのようなリングは、ベルト20のメッシュが形成されるときに形成される)。リング92は、縫合糸80または82が最小の抵抗で長手方向にリングを通過できるようなサイズの開口部または通路94を有する。リング92の金属表面は、特に金属(例えば、ニチノールワイヤ)が平滑化されている場合、特に隣接する人体組織への損傷や刺激を排除するために図示のようにベルト20内で使用される場合、フィラメント保持要素84よりも、縫合糸80、82の長手方向の通過に対する抵抗を大幅に少なくすることが可能である。他の実施形態では、管またはシース100は、縫合糸80、82を最小の抵抗で縦方向に通過可能にするサイズの通路を有する個々のフィラメント保持要素84またはリング保持要素92と同様の位置で、ベルト20(例えば、図10)の内側に取り付けられ得る。いくつかの個々のチューブをベルト20内に互いに離して設けることができる。特に、そのような管がベルト20よりも縦方向に圧縮性が低い場合、または単一のチューブ100が保持要素として使用される場合、そのような管は、ベルトを張力下に置いたときにベルト20の締め付けを制限しないように圧縮可能とすべきである。
【0026】
固定要素または保持要素84は、図示の実施形態では、ベルト20に沿って等間隔で配置されている。縫合糸80、82は、ベルト20に沿った保持要素84において張力のかかった即ち本質的に線形のままであるように意図されているので、保持要素84は、互いに比較的遠くに、例えば特定の実施形態では、互いに最大5ミリメートル、最大10ミリメートル、最大15ミリメートル、最大20ミリメートル離されるか、または、ベルトが設置されるときに縫合糸80、82の一方または両方に存在する可能性のあるたるみが、縫合糸80、82の一方が他方に接触することがないようにしながら互いに十分に近い位置とすることができる。さらに、一実施形態では、保持要素84の位置は、縫合糸80、82に沿って互い違いに配置される。すなわち、縫合糸80を保持する1つの保持要素84を通りベルト20の長手軸線に直交する平面が、他の縫合糸82を保持する保持要素84の間を通り、特定の実施形態においては、他の縫合糸82を保持する保持要素84(例えば、図8)の間の中央にあるようにされる。その互い違いの状態により、保持要素84が互いにオフセットされた状態で、ベルト20を折り畳む、圧縮する、または他の態様で送達装置に詰めることができ、送達装置の輪郭を低くすることができる。他の実施形態では、保持要素84は、対称的であるか、またはごくわずかにオフセットしている(たとえば、1~3ミリメートルだけのオフセットであり、その結果、縫合糸80を有する保持要素を通る上記の平面は、縫合糸82を有する保持要素のすぐ隣を通るようにされる)。そのような場合、縫合糸80、82による張力は、ベルト20の側部40、42の同じ位置またはその近くで、保持要素84を介してベルト20に加えられる。
【0027】
他の実施形態では、縫合糸80、82の一方または両方は、ベルト20の長手方向軸線の両側の2つの線に沿ってベルト20のメッシュを通して織られるようにしてもよい。一例では、縫合糸80は、ベルト20の内側の一端24に固定され、ベルト20のメッシュを通され、ベルト20の外側に沿って一定長さだけ延ばされ、次にメッシュを通過して内側に戻され、上記一定長さと同じ又は異なる長さだけ延ばされる。その縫うような仕様はベルト20の長さを通して続けられる。縫合糸82は、同様または同一の仕様でベルト20の反対側を通すようにすることができる。そのような縫合糸のメッシュへの通し方は、縫合糸80、82とベルト20との間に比較的高い摩擦力を生み出し、縫合糸80、82が締め付けられるときにベルト20に提供される張力は均一ではなく、ベルト20のある部分は心臓の周りで収縮するが、他の部分は比較的緩いままであり得ることが分かった。したがって、ベルト20を通しての縫合糸80、82の取付けは特定の状況下で効果的であり得るが、本明細書に開示される他の実施形態がより効果的に作動する。
【0028】
図11に示す別の実施形態では、狭められた端部24、26を有するメッシュチューブ22を含む、上述のベルト20の実施形態と同様または同一のベルト20が示されている。
この実施形態では、単一の縫合糸Sがベルト20を通って延び、第1の縫合糸部分80はベルト20の一方の側または縁に沿って延び、第2の縫合糸部分82はベルト20の反対側または縁に沿って延びる。本明細書に記載される他のベルトの実施形態と同様に、縫合糸Sは、端部24でチューブ22に固定される。図11に示されるように、縫合糸部分80の端部および縫合糸部分82の端部は、それぞれチューブ22またはチューブ22に隣接または接続されたロック機構Mに固定される。これらの固定された端部から、各縫合糸部分80、84は端部26に向かって延び、上述のように、1つ以上の保持要素84によってチューブ22に保持される。この実施形態では、縫合糸部分80、82がチューブの端部26の近くまたはそこに到達すると、縫合糸Sが折り返してベルト20のチューブ腔28を通ってループ85を形成する。この実施形態のループ85は、チューブ腔28を通って延び、端部24を通って(そして、存在する場合は、ロック機構Mを通って)、ベルト20のチューブ22の外部まで延びる。ループ85は、ベルト20を送達するためのシステムの一部であり得る、フック、グリップまたは他の構造などによって、張力線Tに接続することができる。以下に概説するように、ベルト20の設置に続いて、張力線Tは好ましくはループ85から取り外される。この実施形態は、縫合糸部分80、82の一方に作用に支障が生じた場合でも、他方の縫合糸部分がベルト20に張力を提供することができる。
【0029】
別の実施形態では、ベルト20(図12)は、上記の実施形態と同様に構成され、上記の保持要素84と同様または同一の保持要素184を備える。ベルト20は、特定の形状または設定の実施形態に関して上述したように作製、成形、および/または構成されてもよいことが理解されよう。第1の縫合糸または縫合糸部分180は、ベルト20の一方の側部140に沿って保持要素184を通され、第2の縫合糸または縫合糸部分182は、ベルト20の別の側部142(ベルト20の長手方向軸線Aを横切って縫合糸180の反対側)に沿って保持要素184を通される。係止縫合糸210は、ベルト20の一端226またはその近くで縫合糸部分180、182に接続され、これら縫合糸部分180、182は、ベルト20の端226でまたはその近くでリング212に通されている。
【0030】
この実施形態では、縫合糸部分180、182は、単一の張力縫合糸Sの一部である。縫合糸部分180、182はそれぞれ、縫合糸80、82に関して上述したように、(例えば、ブランケットステッチによって)ベルト20の端部224に固定される。縫合糸部分180は、ベルト20の一方の側部(例えば、図12に見られるような上部)の保持要素184を通され、次いで、縫合糸Sの中央ループ214が、ベルト20の他端226またはその近くでリング212を通され、縫合糸Sの残りは、ベルト80の反対側部(例えば、図12の底部)の保持要素184を通されて、ベルト20の端部224で固定される。リング212を通過するループ214は、係止縫合糸210の端部222に固定され、縫合糸Sは、リング212の一部を覆って折りたたまれる(すなわち、リング212の周りを180°屈曲する)。他の実施形態では、縫合糸部分180、182は、別個の張力縫合糸であり得、それらの各々は、上記のようにリング212を通過し、係止縫合糸210に取り付けられることが理解される。
【0031】
図示の実施形態の係止縫合糸210は、一連の結び目、ビーズまたは他の突起230を含み、これらは、図示の実施形態では、ベルト220内を通って(上述のような)ロック機構M内に延びる係止縫合糸210の全長に沿って等間隔で配置される。他の実施形態では、突起230は、係止縫合糸210の一部、例えばリング212から最も遠いところで、ベルト220内を通ってロック機構M内に延びる係止縫合糸210の部分の少なくとも3分の1から2分の1の部分に設けることができる。張力をかけられたまたは締められたベルト(例えば、ベルト20)は、ベルトの初期長さLの60から80パーセントの間の長さを有する必要があり、従って係止縫合糸210のある長さ(例えば、ベルト内の縫合糸210の初期の長さの80から40パーセントの間の長さ)は、ベルトから出て、ロック機構Mにまで至るか、またはそれを通過しなければならないことが分かっている。したがって、ロック機構Mに隣接してベルト20に入る係止縫合糸210の少なくとも40~80パーセントに突起を配置し、ベルトの端部およびロック機構を通して引っ張られるようにしておくことが良い。
【0032】
図示の実施形態のリング212は、その上に張力縫合糸部分180、182が折り畳まれた丸みのある(例えば、円形)部分250と、丸み部分250に接合する2つの直線状側部分252、254を有する。リング212は、生体適合性のワイヤまたは他の頑丈な材料で作られ、係止縫合糸210から張力縫合糸部分180、182に張力を効果的に伝達できるように比較的柔軟性がないものとすることができる。リング212の外面256は、使用中にリング212と張力縫合糸部分180、182との間の摩擦を低減するように丸みがあり(例えば、断面が円形のワイヤでできている)、特定の実施形態では滑らかである。リング212の実施形態で使用されるワイヤの断面直径は、リング212と張力縫合糸部分180、182との間の摩擦に実質的な影響を与えるものであり、直径0.35ミリメートルで超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)で作られた縫合糸の場合、リング212を作るために使用されるワイヤは、0.53ミリメートル(0.021インチ)以上の直径を持つべきであることが実験的試験で判明した。
【0033】
側部分252および254は丸み部分250を備えた単体とされて、この実施形態では直線状とされて頂点258で互いに接合している。側部分252、254の直線的な性質は、ベルト20の端部226でベルト20の狭くなる側部240、242と密接にフィットすることを意図しており、特定の実施形態では、頂点258での側部分252、254間の角度は5度~30度とされる。側部分252、254は最初は離れており、溶接、接着剤または他の技術などにより頂点258で接合されるようにしても良く、またはそれらは互いに接合され、丸み部分250と接合されるようにして形成されてもよい。リング212は、上述の保持要素84の実施形態と同様または同一であり得る保持要素260によって、ベルト20の狭い側部240、242に保持される。
【0034】
リング212を備えたベルト20の実施形態は、張力縫合糸部分180、182とベルト20との間の低摩擦、およびベルト20に引っ掛かる危険性が低い突起230を有する係止縫合糸210といったいくつかの利点を提供する。この設計は、ベルト20のオリジナルの長さの約50パーセントまでのベルト20の締め付けを可能にし、TR治療における三尖弁輪の十分な減少を提供する。また、図11に関して述べたように、一方の張力縫合糸部分180または182に支障があるときでも、ベルト20に張力を提供することができる。
【0035】
TRまたは他の状態の治療のために締め付けられる、そして患者のAV溝の中またはそれに沿って配置されという状況でのベルト20の使用につき述べる。他の場所または状況において、開示された構造の使用が可能であることは理解されるであろう。以下の説明においては、特に図12を参照して述べる。しかしながら、以下に記載される方法は、本明細書に記載されるベルト20の他の実施形態に概ね適用可能であり、その主な違いはリング212および/または係止縫合糸210の有無である。
【0036】
ベルト20は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる2017年10月25日に出願されたPCT/US2017/058245に開示されている導入器を含むことができる送達システム(図示せず)によって、AV溝に送達される。ベルト20は、送達システムから出され、心臓の周りにループされ、AV溝に位置決めされる。ベルト20および縫合糸部分180、182は、そのようにして心臓の周りに廻される。
【0037】
ベルト20の配置が満足のいくものであると決定されると、ユーザはAV溝の周りの心臓の三尖弁輪(tricuspid annulus)を減少させるためにベルト20を締める。ユーザは、適切なツール(図示せず)を使用して、係止縫合糸210を引く。その結果、係止縫合糸がベルト20の端部224を出始め、ロック機構Mを通って動き始める。係止縫合糸210が引っ張られると、ループ214も引っ張られ、係止縫合糸210の張力がリング212の周りを通り張力縫合糸部分180、182を引っ張る。したがって、張力縫合糸部分180、182は、それぞれの保持要素184を通して引っ張られる。張力縫合糸部分180、182を引くと、張力縫合糸部分180、182の心臓の周りの半径が減少し、ベルト20を心臓に対して内側に押し付け、ベルト20の端部224に固定された張力縫合糸部分180、182のそれぞれの端部は、ベルト20の長さを圧縮する。ベルト20の長さが圧縮されると、ベルト20のメッシュはその圧縮をある程度の幅の拡張とし柔軟性を提供して冠状動脈または他の構造に加えられる圧力を制限または低減する。
【0038】
係止縫合糸210は、三尖弁輪の所望の量の減少が達成されるまで引っ張られる。特定の実施形態では、上記のように、その量は、ベルト20の長さをベルト20のオリジナルの長さの最大60パーセントまで短縮することで達成される。締めまたは締め付けが完了すると、ロック機構Mが作動して、係止縫合糸210を緊張状態に保持する。その後、ベルトの送達ツールやその他のツールを取り外し手術が完了する。
【0039】
本開示は詳細に図示および説明されてきたが、これは例示的であり特性を限定するものではない。本開示では選択された実施形態のみが示され説明されており、本明細書または以下の特許請求の範囲に記載される開示の精神に含まれるすべての同等物、変更、および修正が保護されるべきである。1つまたは複数の特定の構造または実施形態に関して特に説明される特徴は、本明細書に開示される他の構造または実施形態に組み込まれるか、または他の方法で使用されてもよいことが理解されよう。
【0040】
以下の番号付きの項は、本発明を理解するのに有用であり得る特定の実施形態を示す。
【0041】
1. 心臓の房室溝に沿って配置するためのベルトであって、
第1の開放端および第2の開放端を有するメッシュチューブであって、当該チューブの長手方向軸線に沿って該第1の開放端から該第2の開放端まで延びるチューブ腔をさらに有し、長手方向に沿ってループ状にされて心臓の周りで房室溝に沿って配置されるメッシュチューブと、
該チューブ内に位置し、該第1の開放端に隣接して該チューブに固定されて該第2の開放端に向かって該チューブ腔を通って延び、複数の保持要素によって該チューブ腔内において該チューブに接続されて、該チューブに対して該保持要素を通って長手方向に移動可能とされている第1の縫合糸部分と、
該チューブ内に位置し、該第1の縫合糸部分と平行に該第1の縫合糸部分から間隔を置いて配置され、該第1の開放端に隣接して該チューブに固定されて該第の2開放端に向かって該チューブ腔を通って延び、複数の保持要素によって該チューブ腔内において該チューブに接続されて、該チューブに対して該保持要素を通って長手方向に移動可能とされている第2の縫合糸部分と、
を備え、
該第1および第2の縫合糸部分を引っ張ることにより、該チューブを該チューブに沿った少なくとも選択された位置で長手方向に圧縮するようにして、該チューブを締めて該ループの面積を減少させるようにした、ベルト。

2.該第1の縫合糸部分および第2の縫合糸部分はそれぞれ、該チューブの外側にあり引っ張って該チューブを締めることができるようにする部分を提供するように、該第2の開放端を通って延びている、上記1に記載のベルト。

3.該第1の縫合糸部分および該第2の縫合糸部分は、該第1の縫合糸部分と該第2の縫合糸部分との間に中間部分を有し且つ該中間部分に取り付けられた係止縫合糸を備える単一の張力縫合糸の一部とされている、上記1-2に記載のベルト。

4.該チューブ内で該第2の開放端に隣接するリングをさらに含み、該張力縫合糸が該リングの上で該リングを通って折り畳まれ、該第1および第2の縫合糸部分が該リングの片側にあり、該中間部分が該リングの反対側にある、上記1-3に記載のベルト。

5.該リングは、その周りに該張力縫合糸が折り畳まれる丸い係合部分を含む、上記4に記載のベルト。

6.該リングが、該第2の開放端に隣接して該チューブに平行な第1および第2の直線状側部分を有し、該第1の直線状側部分は少なくとも1つの保持要素によって該チューブに接続され、該第2の直線状側部分は少なくとも1つの保持要素によって該チューブに接続されている、上記4に記載のベルト。

7.該係止縫合糸は、該係止縫合糸に加えられて該第1および第2の縫合糸部分に伝達される張力を保持するのに使用するための複数の突起を含む、請求項3-6に記載のベルト。

8.該係止縫合糸は、該チューブ内の長さ部分と、該第1の開放端を通って該チューブを出る部分とを有し、
該突起は、該チューブ内及び該第1の開放端の隣にある係止縫合糸の全体長さ部分までの上にあり、または該係止縫合糸の該チューブ内の長さ部分にはないようにされている、上記7に記載のベルト。

9.該メッシュはニチノールからなる、上記1-8に記載のベルト。

10.該メッシュは、該チューブが体温に達したときにその断面がバーベル状となるようにヒートセットされている、上記1-9に記載のベルト。

11.該メッシュは、該チューブが体温に達したときにその断面が楕円形または楕円形になるようにヒートセットされている、上記1-9に記載のベルト。

12.該メッシュは、該チューブが体温に達したときに平らなリボン形状となるようにヒートセットされている、上記1-9に記載のベルト。

13.該メッシュは、該チューブが体温に達したときに、第1のフープ直径および第1の断面寸法を有する第1の領域と、第2のフープ直径および第2の断面寸法を有する第2の領域とを有する形状となるようにヒートセットされており、該第1のフープ直径は該第2のフープ直径よりも大きく、該第1の断面寸法は該第2の断面寸法よりも大きい、上記1-9に記載のベルト。

14.該第1の領域と該第2の領域との間の中間部分が、房室溝の少なくとも一部に一致するようにされた輪郭を含む、上記13に記載のベルト。

15.該メッシュが、該チューブが体温に達したときに1つ以上の下部の丸みのある輪郭領域を有するサドル形状となるようにヒートセットされており、該下部の丸みのある輪郭領域の少なくとも一つが房室溝にぴったりと収まるように形状付けられている、上記1-9に記載のベルト。

16.該2つの縫合糸部分は、それぞれの別個の縫合糸のそれぞれの部分である、上記1-15に記載のベルト。

17.該2つの縫合糸部分は、ループを形成するように接続されている、上記1-16に記載のベルト。

18.該ループは、少なくとも部分的に該ベルトの外部にある細長い要素に接続され、該細長い要素は、係止縫合糸と送達フィラメントとのうちの一方である、請求項17に記載のベルト。上記17に記載のベルト。
【0042】
上記の各項に記載された構造または他の特徴は、上述のいずれかの実施形態の他の構造または特徴とともに、本発明のデバイスに単独でまたは任意の組み合わせで含まれ得る。
図1
図1A
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12