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特許7206287認知機能の活動のリアルタイム測定のためのシステムおよびかかるシステムを較正する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】認知機能の活動のリアルタイム測定のためのシステムおよびかかるシステムを較正する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/377 20210101AFI20230110BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
A61B5/377 ZDM
A61B10/00 H
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020544978
(86)(22)【出願日】2018-11-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2018082109
(87)【国際公開番号】W WO2019101807
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】1760970
(32)【優先日】2017-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518436250
【氏名又は名称】パリ シアンス エ レットル
(73)【特許権者】
【識別番号】510073202
【氏名又は名称】セントレ ナショナル デ ラ リシェルシェ サイエンティフィック(セ・エン・エル・エス)
(73)【特許権者】
【識別番号】517124642
【氏名又は名称】エコール シュペリュール ドゥ フィジーク エ ドゥ シミ アンドゥストゥリエール ドゥ ラ ヴィーユ ドゥ パリ
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ヴィアラテ,フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】モラ‐サンチェス,アルド
(72)【発明者】
【氏名】ドレイフス,ジェラール
(72)【発明者】
【氏名】ゴーム,アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】プリニ,アルフレード アラム
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03241489(EP,A1)
【文献】特開2011-150408(JP,A)
【文献】CECOTTI et al.,"Optimization of Single-Trial Detection of Event-Related Potentials Through Artificial Trials",IEEE TRANSACTIONS ON BIOMEDICAL ENGINEERING,IEEE,2015年09月,Vol.62, No.9 ,Pages 2170-2176
【文献】Mora Sanchez et al.,"A COGNITIVE BRAIN-COMPUTER INTERFACE PROTOTYPE FOR THE CONTINUOUS MONITORING OF VISUAL WORKING MEMORY LOAD",2015 IEEE 25TH INTERNATIONAL WORKSHOP ON MACHINE LEARNING FOR SIGNAL PROCESSING,IEEE,2015年09月,Pages 1-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験被験者の認知機能の活動をリアルタイムで測定するためのシステム(1)を較正するための方法であって、当該方法は、以下の逐次の段階、すなわち:
a)試験被験者による第一のタスクの実行中に試験被験者の神経活動を表わす電気信号を取得する段階であって、第一のタスクは、被験者によるその実行が被験者の認知機能の種々の活動状態につながるように構成される、段階と;
b)認知機能についてのマーカー値を、
・段階a)で取得された信号;
・それぞれ第一の参照集団のある参照被験者による第一のタスクの実行中の第一の参照集団の該参照被験者の神経活動を表わす、諸参照電気信号
から計算する段階であって、
マーカー値は試験被験者の認知機能の活動状態を表わす、段階と;
c)段階b)で計算されたマーカー値の複数のコピーを生成し、生成されたコピーにノイズを加える段階と;
d)段階b)で計算されたマーカー値および段階c)で計算されたノイズのあるコピーからの自動学習によって分類器を構築する段階であって、該分類器は、試験被験者の神経活動を表わす電気信号が、試験被験者の認知機能の所定の活動状態の結果である確率(PA)を表わす値を計算することによって、試験被験者の認知機能活動を測定するのに適している、段階とを含む、
方法。
【請求項2】
前記認知機能が作動記憶である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マーカー値が、参照被験者の認知機能の低活動状態または高活動状態を表わす、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
段階c)の実施後かつ段階d)の実施前に、前記マーカーは、マーカー値およびマーカー値のノイズのあるコピーから決定される認知機能活動状態との相関に従って順序付けられ、次いで、順序付けられたマーカーの中からある種のマーカーがその順位に従って選択され、段階d)は選択されたマーカーの値から実施される、請求項1ないし3のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
段階d)は、選択されたマーカー値のみから、または選択されたマーカー値および選択されたマーカー値のノイズのあるコピーのみから実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第一のタスクは、被験者によるその実行が、被験者の認知機能の少なくとも二つの異なる活動状態に交互につながるように構成される、請求項1ないし5のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第一のタスクは、被験者によるその実行が、被験者の認知機能の低活動状態と高活動状態に交互につながるように構成される、請求項1ないし6のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第二のタスクが、被験者によるその実行が、低認知機能活動および高混乱機能活動の同時状態につながるように構成され、当該方法は:
e)第二のタスクを実行する第二の参照集団のある被験者の神経活動を表わす電気信号が、試験被験者の認知機能の前記所定の活動状態の結果である確率(PA)についての代表値を前記分類器によって計算する段階であって、第二の参照集団の被験者の神経活動を表わす前記電気信号が、第二の参照集団の被験者による第二のタスクの実行中に取得される、段階と;
f)段階e)の間に計算された確率(PA)を表わす前記値と固定の閾値(Tv)とを比較する段階とを含む、
請求項1ないし7のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
のタスクは、被験者によるその実行が、被験者の認知機能の少なくとも二つの異なる活動状態に交互につながるように構成される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第二のタスクは、被験者によるその実行が、被験者の認知機能の低活動状態と高活動状態に交互につながるように構成される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記マーカーのうちの一つのマーカーの値は、段階a)で取得された前記信号の信号周波数スペクトルの少なくとも一部にわたって計算された、電気信号のスペクトルパワーの代表値である、請求項1ないし10のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記信号周波数スペクトルの前記一部は、α範囲、β範囲、γ範囲およびθ範囲において選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
試験被験者の神経活動を表わす電気信号は、電極配置のための国際標準である10-20システムの位置Fp1および/またはCzおよび/またはOzおよび/またはCP5に配置された電極によって得られる、請求項1ないし12のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
試験被験者の認知機能の活動をリアルタイムで測定する方法であって:
請求項1ないし13のうちいずれか一項に記載の方法に基づく較正段階と;
試験被験者の神経活動を表わす電気信号を取得する段階と、試験被験者の認知機能活動をリアルタイムで測定するためのシステム(1)を使って、試験被験者の神経活動を表わす電気信号が所定の認知機能活動状態の結果である確率(PA)を表わす値を計算することによって、試験被験者の認知機能活動をリアルタイムで測定する段階とを含む、
方法。
【請求項15】
試験被験者の認知機能の活動をリアルタイムで測定するためのシステム(1)であって:
・電気信号取得のためのサブシステム(2)と;
・処理ユニット(3)とを有しており、
処理ユニット(3)が:
a)試験被験者による第一のタスクの実行中に試験被験者の神経活動を表わす電気信号を取得する段階であって、第一のタスクは、被験者によるその実行が被験者の認知機能の種々の活動状態につながるように構成される、段階と;
b)認知機能活動マーカーの値を、段階a)で取得された信号と、それぞれ第一の参照集団のある参照被験者による第一のタスクの実行中の第一の参照集団の該参照被験者の神経活動を表わす、諸参照電気信号とから計算する段階であって、マーカー値は試験被験者の認知機能の活動状態を表わす、段階と;
c)段階b)で計算されたマーカー値の複数のコピーを生成し、生成されたコピーにノイズを加える段階と;
d)段階b)で計算されたマーカー値および段階c)で計算されたノイズのあるコピーからの自動学習によって分類器を構築する段階であって、該分類器は、試験被験者の神経活動を表わす電気信号が、試験被験者の認知機能の所定の活動状態の結果である確率(PA)を表わす値を計算することによって、試験被験者の認知機能活動を測定するのに適している、段階と
を実行するように構成されていることを特徴とする、
システム(1)。
【請求項16】
前記認知機能が作動記憶である、請求項15記載のシステム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳‐コンピュータ・インターフェースに、より詳細には、認知機能の活動をリアルタイムで測定するためのシステム、およびかかるシステムのための較正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳‐コンピュータ・インターフェース(brain-computer interface、BCI)システムは、脳とその環境との間の通信を可能にする。これらのシステムは、被験者の脳波を読んで解釈することによって、個人が自分の環境と対話することを許容するために、既知の仕方で使用される。より近年では、脳‐コンピュータ・インターフェースは、認知機能の特徴を読み、あるいは測定するために使用されている。
【0003】
非特許文献1は、データベースに記録された電気生理学的信号から作動記憶の活動を評価するためのシステムを記述している。そのようなシステムの較正は、以下の段階を含む:
・脳電図(electroencephalogram、EEG)電気生理学的信号収集;
・独立成分の解析によって手動でまたは自動的に、たとえばまばたきのようなリーダー・バイアスによって導入される電気生理学的情報の除去;
・たとえば所与の収集チャネル上での所与の周波数範囲において測定されたパワーのような、作動記憶の高活動もしくは低活動状態に依存するマーカー値の抽出;
・作動記憶の低活動または高活動状態に対応するマーカーを関連性の高い順に分類し、分類されたマーカーの中から諸マーカーを選択すること;
・選択されたマーカー値からの分類器の構築。
【0004】
システムは試験され、作動記憶活動は、分類器によって処理される、事前記録された電気生理学的信号から評価される。これらの信号は、低いおよび/または高い作動記憶活動状態を生成する、被験者によって実行される既知のタスクの間に前もって収集される:すると、このように構築される分類器の感度または特異性を試験することが可能である。
【0005】
しかしながら、記載されたシステムは、リアルタイムでの被験者の認知活動、特に作動記憶を測定することは許容しない。
【0006】
さらに、分類器出力において測定された信号は、作動記憶活動の正確な評価を許容しない。特に、分類器出力において測定される信号は、たとえば、注目または興奮のような、タスク実行中の被験者の他の認知機能の活動に依存しうる。
【0007】
最後に、このように評価された作動記憶活動は、試験された電気生理学的信号に依存して変化し、および/または矛盾する値を呈することがありうる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Mora Sanchez et al.(Mora S´anchez,A.M., Gaume,A., Dreyfus,G., & Vialatte,F.B., 2015, September、A cognitive brain-computer interface prototype for the continuous monitoring of visual working memory load, 2015 IEEE 25th International Workshop on Machine Learning for Signal Processing(MLSP),p.1-5, IEEE)
【文献】Baddeley,A.D., & Hitch,G., 1974, Working memory, Psychology of learning and motivation, 8, 47-89
【文献】d'Esposito,M., Aguirre,G.K., Zarahn,E., Ballard,D., Shin,R.K., & Lease,J., 1998, Functional MRI studies of spatial and nonspatial working memory, Cognitive Brain Research, 7(1), 1-13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の1つの目的は、試験被験者の認知機能の活動を測定する精度を高める解決策を提供することである。本発明の別の目的は、リアルタイムで作動記憶などの認知機能の活動を測定することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的は、本発明の文脈において、試験被験者の認知機能活動をリアルタイムで測定するためのシステムを較正するための方法によって達成される。本方法は、以下の逐次の段階を含む:
a)試験被験者による第一のタスクの実行中に試験被験者の神経活動を表わす電気信号を取得する段階であって、第一のタスクは、被験者によるその実行が被験者の認知機能の種々の活動状態につながるように構成される段階;
b)認知機能についてのマーカー値を、
・段階a)で取得された信号;
・それぞれ第一の参照集団のある参照被験者による第一のタスクの実行中の第一の参照集団の該参照被験者の神経活動を表わす、諸参照電気信号
から計算する段階であって、
前記マーカー値は試験被験者の認知機能の活動状態を表わす、段階;
c)段階b)で計算されたマーカー値の複数のコピーを生成し、生成されたコピーにノイズを加える段階;
d)段階b)で計算されたマーカー値および段階c)で計算されたノイズのあるコピーからの自動学習によって分類器を構築する段階であって、該分類器は、試験被験者の神経活動を表わす電気信号が、試験被験者の認知機能の所定の活動状態の結果である確率を表わす値を計算することによって、試験被験者の認知機能活動を測定するのに適している、段階。
【0011】
段階b)で計算されたマーカー値のノイズのあるコピーが段階c)で生成されるので、すべての信号における、試験被験者の神経活動を表わす信号の割合を制御し、それにより分類器に関連する測定誤差を減少させることが可能である。
【0012】
さらに、段階c)で生成されるコピーはノイズがあるので、信号変動分布は、分類器の統計的学習を改善するように構成できる。
【0013】
本発明は、有利には、個別に、またはそれらの技術的に可能な任意の組み合わせにおいて採用される、以下の特徴によって補足される:
・認知機能は作動記憶である;
・マーカー値は、参照被験者の認知機能の低活動状態または高活動状態を表わす;
・段階c)の実施後かつ段階d)の実施前に、マーカーは、マーカー値および該マーカー値のノイズのあるコピーから決定される認知機能活動状態との相関に従って順序付けられ、次いで、順序付けられたマーカーの中からある種のマーカーがその順位に従って選択され、段階d)は選択されたマーカーの値から実施される;
・段階d)は、選択されたマーカー値からのみ、または選択されたマーカー値および選択されたマーカー値のノイズのあるコピーからのみ実施される;
・第一のタスクは、被験者によるその実行が、被験者の認知機能の少なくとも二つの異なる活動状態に交互につながるように構成される;
・第一のタスクは、被験者によるその実行が、被験者の認知機能の低活動状態と高活動状態に交互につながるように構成される;
・第二のタスクが、被験者によるその実行が、低認知機能活動および高混乱機能活動の同時状態につながるように構成され、本方法は、以下の段階を含む:
e)第二のタスクを実行する第二の参照集団のある被験者の神経活動を表わす電気信号が、試験被験者の認知機能の前記所定の活動状態の結果である確率についての代表値を前記分類器によって計算する段階であって、第二の参照集団の被験者の神経活動を表わす前記電気信号が、第二の参照集団の被験者による第二のタスクの実行中に取得される、段階;
f)段階e)で計算された確率を表わす前記値と固定の閾値とを比較する段階;
・第二のタスクは、被験者によるその実行が、被験者の認知機能の少なくとも二つの異なる活動状態に交互につながるように構成される;
・第二のタスクは、被験者によるその実行が、被験者の認知機能の低活動状態と高活動状態に交互につながるように構成される;
・前記マーカーのうちの一つのマーカーの値は、信号周波数スペクトルの少なくとも一部にわたって計算された、電気信号のスペクトルパワーを表わす値である;
・信号周波数スペクトルの前記一部は、α範囲、β範囲、γ範囲およびθ範囲において選択される;
・試験被験者の神経活動を表わす電気信号は、電極配置のための国際標準である10-20システムの位置Fp1および/またはCzおよび/またはOzおよび/またはCP5に配置された電極によって得られる。
【0014】
本発明の別の目的は、試験被験者の認知機能の活動をリアルタイムで測定する方法であって、試験被験者の神経活動を表わす電気信号を取得する段階と、先に定義した較正方法に従って以前に較正されている、試験被験者の認知機能活動をリアルタイムで測定するためのシステムを使って、試験被験者の神経活動を表わす電気信号が所定の認知機能活動状態の結果である確率を表わす値を計算することによって、試験被験者の認知機能の活動をリアルタイムで測定する段階とを含む、方法である。
【0015】
本発明の別の目的は、試験被験者の認知機能の活動をリアルタイムで測定するためのシステムであり:
・電気信号取得のためのサブシステム;
・処理ユニット;
・前記処理ユニットが:
a)試験被験者による第一のタスクの実行中に試験被験者の神経活動を表わす電気信号を取得する段階であって、第一のタスクは、被験者によるその実行が被験者の認知機能の種々の活動状態につながるように構成される段階;
b)認知機能活動マーカーの値を、段階a)で取得された信号と、それぞれ第一の参照集団のある参照被験者による第一のタスクの実行中の第一の参照集団の該参照被験者の神経活動を表わす、諸参照電気信号とから計算する段階であって、マーカー値は試験被験者の認知機能の活動状態を表わす、段階;
c)段階b)で計算されたマーカー値の複数のコピーを生成し、生成されたコピーにノイズを加える段階;
d)段階b)で計算されたマーカー値および段階c)で計算されたノイズのあるコピーからの自動学習によって分類器を構築する段階であって、該分類器は、試験被験者の神経活動を表わす電気信号が、試験被験者の認知機能の所定の活動状態の結果である確率を表わす値を計算することによって、試験被験者の認知機能活動を測定するのに適している、段階
を実行するように構成されていることを特徴とする。
【0016】
有利には、本システムによって測定される認知機能は作動記憶である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
他の特徴および利点は、純粋に例解用であり限定しない、添付の図面に関して読まれるべき以下の説明から明白であろう。
図1】作動記憶に特有のタスクの実行を示す。
図2】認知機能活動のリアルタイム測定システムを示す。
図3】本発明のある実施形態による、試験被験者の認知機能の活動のリアルタイム測定システムを較正するための方法を示す。
図4】作動記憶の活動、種々のタスクによって生成される認知機能活動、および混乱因子によって生成される認知機能活動の領域を概略的に示す。
図5】認知機能活動のリアルタイム測定の方法を示す。
図6】リアルタイムでの作動記憶に特有のタスクの実行に対応する分類器の性能特性を示す。
図7】混乱因子の高活動状態の存在下での、被験者によるタスクの実行中の分類器の性能特性を示す。
図8】試験被験者の神経活動を表わす電気信号が、試験被験者の認知機能の高活動状態から生じる確率の時間発展を示す。
図9】低活動状態および高活動状態についてのマーカー値の間の差を、種々のチャネルについて示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
定義
「作動記憶」〔ワーキングメモリ〕とは、情報を処理するために利用できる一時的な情報を受け持つ認知機能を意味し、非特許文献2では認知モデルとして記載されており、その活動は、たとえば、磁気共鳴撮像を用いた測定により確認できる(非特許文献3)。作動記憶は、情報に関する認知操作を行なうために、数秒または数分、該情報を保持する短期的な能力に依存する。被験者は、実行するタスクの性質に応じて、作動記憶の活動の異なるレベルまたは状態(または負荷)を呈することがある。
【0019】
被験者によるタスクの実行
図1は、特定の認知機能(この場合は作動記憶)に特有の第一のタスクの実行を示している。作動記憶に特有のタスクは、一方では、第一の参照集団の諸被験者によって、他方では、試験被験者によって、システム1の較正中および/または認知機能活動の測定中に実行される。異なる被験者がコンピュータ画面の前に配置され、画面上に図形の集まりが表示され、それらの図形が、実行されるタスクの間に使用される。被験者は、すべての図形になじめるよう、それぞれの図形に短い名前を割り当てるように求められる。図形の異なる集合が示され、各集合は、たとえば、動物または幾何学的形状のような異なる意味の場に対応する。
【0020】
タスクの実行中に二つの条件または状態が試験される。作動記憶の低活動状態では、ターゲットは表示された二つの図形からなり、作動記憶の高活動状態では、ターゲットは表示された5つまたは6つの図形からなる。
【0021】
それらの状態のうちの一方(または条件のうちの一方)に対応するターゲットが被験者に対して示される。被験者は、ターゲットを記憶するよう求められる。その後、ターゲットは消え、同じ集合からの図形のシーケンスが画面上で右から左へスライドする。スクロール速度は222ピクセル毎秒である。被験者は、図形のシーケンスにおいてターゲットを見つけたときにボタンを押すように求められ、それが1つの試験とみなされる。被験者がターゲットが表示される前にボタンを押した場合、またはターゲットを見逃した場合は、試験は終了し、分析されない。試験は平均25秒間継続する。図1は、作動記憶の低活動状態における試験例を示す。図1のパネルAは、三角形と菱形の二つの図形からなるターゲットを示している。図1のパネルBは、試験中の図形のシーケンスのスクロールを示す。
【0022】
次いで、作動記憶の他方の状態に対応するターゲットが被験者に提示され、試験が実施される。二つの条件が交互にされる。図形を言葉で表わすことにより、単純な貯蔵/回復方法を使用できる。すなわち、音韻ループを用いてターゲット・コンポーネントの名前を頭の中で繰り返す内部反復により、被験者はターゲットをスクロールする要素と比較することができる。情報のエンコードが被験者間で均一であるように、さまざまな被験者は、この内部反復を行なうように求められる。各被験者は、4つの異なる意味の場から10の試験を実施する。
【0023】
第一のタスクは、コンポーネントの貯蔵、維持および/または処理のような作動記憶サブ機能の活動を変化させるように設計されている。スクロールする間、図形のシーケンスは、ディストラクター、すなわち、構成がターゲットに類似している図形の集合を含む。たとえば、ディストラクターは、図面上に現われる順序で3番目の図形から1つの図形が変更されるターゲット図形のシーケンスによって形成できる。ディストラクターは、被験者がターゲットを認識するためにターゲットの一部のみを記憶することを防止する。図形のスクロールは、ディストラクターがターゲットと同じ確率で現われるようにプログラムされる。このプログラミングは、被験者がディストラクターの後にターゲットが現われることを学習してそれを待つことを防止する。各試験の継続時間は、被験者が試験の継続時間を知るのを防ぐように、15~30秒の間でランダムにプログラムされる。画面の、図形がスクロールする部分の大きさは100ピクセル×300ピクセルであり、各図形の大きさは100ピクセル×100ピクセルである。この制約されたサイズは、被験者の眼の動きが認知活動とは無関係な寄生的な電気生理学的信号を発生させないようにする。使用される画面の部分、図形の大きさ、およびスクロール速度は、被験者が一度に1つしか見えないように調整される。被験者と画面の距離は60cmである。
【0024】
有利には、第一のタスクは、被験者によるその実行が、被験者の認知機能の低活動状態および高活動状態に交互につながるように構成され、よって、調べられる認知機能に依存しない電気信号ドリフトを低減または回避できる。
【0025】
第一のタスクとは異なる横断タスクも、被験者によって実行されることができる。横断タスクは、試験被験者における認知機能活動を生成するために使用され、被験者が日常環境において行なうタスクをより代表するように設計される。横断タスクは、たとえば、一連の暗算である。たとえば、d1からdnまでの一連の数字が被験者に示される。横断タスクは、たとえば、d1にd2を乗算し、結果を記憶し、その結果を使ってそれにd3を乗算する、のようにしてdnまで行なうことからなる。
【0026】
認知機能の低活動状態および混乱因子によって生成される混乱機能の高活動状態につながるよう構成された第二のタスクも設計される。たとえば、第二のタスクは、被験者における認知機能の低活動状態につながるように設計された第一のタスクに、1~2秒の期間にわたってランダムな軌道をたどる赤い点またはスポットが付加されたものを実行することからなっていてもよい。第一のタスクに対するこの変化は、たとえば注目などの作動記憶混乱因子の高活動状態を生成する。
【0027】
電気生理学的信号収集
試験被験者または参照集団被験者の神経活動を表わす電気信号は、電気生理学的信号でありうる。変形として、試験被験者または参照集団被験者の神経活動を表わす電気信号は、光学的ニューロイメージング、超音波撮像または磁気撮像、たとえば機能的磁気共鳴撮像(fMRI)、機能的脳超音波、ポジトロン発光撮像、および/または近赤外分光法からの電気信号でありうる。電気生理学的信号は、500Hzのサンプリング周波数でEEG装置(Brain Products V-Amp、登録商標)を使用することにより、試験被験者または一つまたは複数の参照集団に関して記録される。変形として、試験被験者の神経活動を表わす電気信号は、心電図(ECG)、筋電図(EMG、筋活動を表わす測定)、眼電図(EOG、眼の電位差を表わす測定)、脳磁図(MEG)および/または血圧センサー、および/または呼吸センサーによって測定される電気生理学的信号でありうる。試験被験者の神経活動を表わす電気信号は、前述の試験被験者の神経活動を表わす電気信号の組み合わせの結果でありうる。
【0028】
図2は、電気生理学的信号を取得するためのサブシステム2と、処理ユニット3とを有する、試験被験者の認知機能の活動をリアルタイムで測定するためのシステム1を示す。収集サブシステム2は、たとえば、EEGヘッドセット、EEG電極、およびEEG電極を処理ユニット3に接続するためのコネクタを有する。図2は、10-20システム国際標準に従った、試験被験者の頭蓋のまわりのEEG電極の配置をも示している。
【0029】
参照集団からの電気信号は、男性10人と女性10人を含む21~31歳の20人の健康な被験者から得られる。認知機能活動のリアルタイム測定のための電気信号もこの集団において取得される。電気信号は、横断タスクを実行している6人の被験者においても取得される。各タスクの後、各被験者の精神的疲労が収集され、答えが肯定的であれば試験が停止される。
【0030】
解析されたEEG信号シーケンスは、2.5秒続く。1744個の相異なる信号が、リアルタイム測定システム1を較正する際に参照電気信号として使用され、90個の相異なる信号が、各被験者についてリアルタイム測定システム1を較正する際に試験被験者を表わす電気信号として使用される。認知機能の活動をリアルタイムで測定するとき、試験被験者の神経活動を表わす電気信号は、リアルタイムで取得されたEEG信号の連続的な流れからなる。
【0031】
脳‐コンピュータ・インターフェースの設計および較正
たとえば、一組のパラメータP1、P2、P3、P4およびP5が、脳‐コンピュータ・インターフェースの設計を特徴付けることができる。たとえば、参照電気信号シーケンスの継続時間P1は、2.5秒に等しいように選択される。較正中の試験被験者を表わす電気信号の数P2は、90に等しいように選択される(高活動状態を表わす45個のシーケンスおよび低活動状態を表わす45個のシーケンス)。試験被験者からの較正電気信号の割合P3は65%に等しい。平均ゼロのガウスノイズの標準偏差は、P4に、考慮されるマーカーの標準偏差を乗算したものに等しい。ここで、P4は、たとえば、1.5に等しい。マーカーの数P5は8に等しい。考慮されるマーカーの標準偏差は、たとえば、マーカーの値から計算される。マーカーの値自体は、タスクの実行中に、時間における種々の測定シーケンスに対応する電気信号から計算される。
【0032】
図3は、本発明のある実施形態による、試験被験者の認知機能の活動のリアルタイム測定システムを較正するための方法を示す。システムによって測定される認知機能は、有利には作動記憶である。
【0033】
方法段階101の間、試験被験者の認知活動を表わす信号の取得が、試験被験者による第一のタスクの実行中に実施される。第一のタスクは、システム1によって測定される認知機能に特有のタスクであり、たとえば、作動記憶に特有のタスクであってもよい。
【0034】
較正の前に、参照電気信号が取得され、測定システム1に送信された。各参照電気信号は、参照被験者による第一のタスクの実行中における第一の参照集団についての参照被験者の神経活動を表わす。たとえば、前述の作動記憶に特有のタスクは、被験者によって実行されるとき、試験に依存して、被験者の作動記憶の低活動状態または高活動状態につながる。1Hz未満および45Hzを超える取得信号周波数は、3次バターワース(Butterworth)フィルタを使用してEEG信号から消去される。次に、得られたEEG信号は、P1秒に等しい継続時間のいくつかのシーケンスにセグメント分割される。各シーケンスが視覚的に検査され、ノイズが多すぎるシーケンス、または筋肉バイアスが見えるシーケンスはすべて、考慮に入れられない。特に、まばたき特性を含むシーケンスは考慮に入れられない。
【0035】
方法段階102の間、試験被験者の神経活動および参照電気信号を表わす信号から、認知機能活動マーカーの値が計算される。各信号は諸シーケンスにセグメント分割される。スペクトル・マーカーの値は、各シーケンスについて、0.5秒のウインドウで、ウェルシュ(Welsh)法を用いて計算される。スペクトル・マーカーの値は、次の周波数範囲のそれぞれにおいて絶対パワーおよび相対パワーで計算される:δ(1~4Hz)、θ(4~8Hz)、α(8~12Hz)、低β(12~20Hz)、高β(20~30Hz)。ある周波数範囲における相対パワーは、周波数範囲内のパワーと、周波数の前記集合についてのパワーとの比である。マーカーとしての相対パワーの使用は、絶対パワーの使用が許容するよりも適切な仕方で、異なる試験被験者間でマーカーを比較することを許容する。各シーケンスについて、合計192個のマーカーが、16個の収集チャネル、周波数範囲当たり2個のマーカーおよび6つの周波数範囲から得られる。
【0036】
192行M列の行列の形で計算されたマーカー値の集合を呈示することができる。ここで、Mはシーケンスの数である。この行列は、構成要素が二値であるベクトルと組み合わせることができ、当該タスクによって特に試験される認知機能の高活動状態または低活動状態を記述する。
【0037】
方法段階103の間、方法段階102で計算されたマーカー値の複数のコピーが生成される。生成されたコピーにノイズが加えられる。一般に、リアルタイム測定のためのシステム1を較正するとき、方法段階102で実装されるようにマーカー値を計算するために、少なくとも二つのタイプの電気信号が使用されてもよい:試験被験者の神経活動を表わす信号値と、第一の参照集団の参照被験者の神経活動を表わす参照電気信号である。その後、分類器が、それら二つのタイプの信号から発生する可能性のあるマーカー値およびノイズのあるコピーを用いてトレーニングされる。とはいえ、第一の参照集団に由来する信号の数が多いほど、試験被験者に由来する較正信号の影響は小さくなり、そうすると、分類器によって試験被験者の電気信号を分類する精度が不十分になる可能性がある。よって、マーカー値、および好ましくは試験被験者の神経活動を表わす電気信号のマーカー値のノイズのあるコピーを生成することによって、すべてのマーカー値に対する、第一の参照集団を表わす信号から発されるマーカー値の割合を制御することが可能であり、たとえばその割合を制限することが可能である。
【0038】
さらに、試験被験者を表わす信号に由来するマーカー値にノイズを加えることは、分類器の統計的学習に適合するマーカー変動分布をシミュレートすることを許容する。各コピーに加えられるノイズは、たとえば、ゼロ平均のガウスノイズであり、その標準偏差は、考慮されるマーカーの標準偏差のP4倍に等しい。よって、使用される信号のすべてに対する、試験被験者の神経活動を表わす信号に由来するマーカー値の割合(パラメータP3によって制御される)を調整することによって、および種々のコピーに加えられるノイズ(たとえば、パラメータP4によって制御される)を調整することによって、分類器の出力における誤差を最小にすることが可能である。
【0039】
方法段階104の間、段階102で使用されるマーカーは、マーカー値およびマーカー値のノイズのあるコピーから決定される、第一のタスクによってあらかじめ定義された認知機能の活動状態(単数または複数)との相関に従って順序付けられる。たとえば、グラム・シュミット(Gram-Schmidt)直交化(OFR、orthogonal forward regression[直交順方向回帰])、または一般に、マーカーを順序付けるために変数を選択する教師付き方法を使用することができる。分類後、最初のマーカーは、認知機能活動状態と最も高い相関をもつ値(単数または複数)をもつマーカーである。分類後の第二のマーカーは、第一のマーカーに関連する部分をデータから除去した後、認知機能活動状態と最も高い相関をもつ値(単数または複数)をもつマーカーである。次いで、前に定義された順序に従って、最も適切なマーカーのうちからいくつかのマーカーが選択される。段階105に記載されるように、マーカーの所与の集合をもって構築される分類器の誤差を試験することが可能である。すなわち、前に定義された数のマーカーが選択されることができ、最も適切なマーカーのうちから選択されるべき構成要素の数は、分類器誤差を試験してその誤差を低減することによって最適化されることができる。
【0040】
方法段階105の間、計算されたマーカー値および生成されたノイズのあるコピーから自動学習後に分類器が構築される。好ましくは、分類器は、少なくとも段階104で選択されたマーカー値から、好ましくは段階104で選択されたマーカー値および方法段階104で選択されたマーカー値のノイズのあるコピーのみから構築される。分類器は、たとえば、線形判別分析分類器であってもよい。分類器学習はまた、選択されたパターンのそれぞれに関連する認知機能の活動状態(たとえば、低活動状態または高活動状態)を用いて実行される。
【0041】
学習後、分類器は、試験被験者の認知機能の活動の測定を許容する出力信号を有することができる。それは、被験者の神経活動を表わす電気信号が、試験被験者の認知機能の高活動状態に起因する確率PA、またはより一般的には、確率PAから計算される二値結果など、確率PAを表わす値を計算することによる。nが自然数であるとして、n個の状態を特徴付けることができるn個のクラスをもつ分類器を構築することも可能である。この場合、n個の認知機能活動状態のそれぞれに対応するパターンおよびパターン値は、あらかじめ計算されており、第一のタスクは、被験者によるその実行が、n個の可能な状態のうち、第一の参照集団からの被験者の認知機能の活動状態を生成するように、構成される。よって、マーカーは、これらのマーカーの値を使用するアルゴリズムによって、試験被験者の認知機能の状態(単数または複数)を予測するために使用される。
【0042】
図4は、所定のタスクの実行中に認知機能の活動状態を測定することができるすべてのマーカーを有限数で概略的に示している。測定される認知機能に特有のタスクは、被験者の二つの相異なる認知機能状態、この場合は低活動状態および高活動状態につながるような仕方で設計される。実際上は、作動記憶などの測定される認知機能は、複雑なマルチモーダル構造であってもよい。得られた種々の信号は、混乱因子によって生じた可能性がある。これらの混乱因子は認知的であることができる、すなわち、注目、興奮および/または欲求不満が作動記憶に関する混乱因子である可能性がある。これらの混乱因子は、またたき、声に出さない発話(subvocalization)、筋収縮などの運動イベント〔モーター・イベント〕からも生じうる。
【0043】
楕円(a)で定義された領域は、認知機能に特有な第一のタスクの実行を表わすすべてのマーカーを概略的に示している。楕円(b)で定義された領域は、横断タスクの実行を表わすすべてのマーカーを概略的に示している。楕円(c)で定義された領域は、認知機能(この場合は作動記憶)の活動状態を測定することを許容するすべてのマーカーを概略的に表わす。楕円(d)で定義された領域は、運動混乱因子によって生成された活動状態の測定を可能にするすべてのマーカーを概略的に表わし、楕円(e)で定義された領域は、認知的混乱因子によって生成された活動状態の測定を可能にするすべてのマーカーを概略的に表わす。
【0044】
楕円(a)および(b)の重なりは、第一のタスクおよび横断タスクの実行を表わす、マーカーの空でない集合を概略的に示す。楕円(a)、(b)および(c)の重なり(図中で(f)で示される領域)は、第一のタスク、横断タスク、および作動記憶の実行を表わすマーカーの空でない集合を概略的に示す。この集合が空ではないという事実は、第一のタスクと横断タスクが作動記憶に関わるように設計されたという事実の結果である。楕円(a)、(b)および(e)の重なり(図中で(g)で示される領域)は、第一のタスクおよび横断タスクの実行を表わすマーカーの空でない集合、ならびに認知的混乱因子によって生成された活動状態の測定を可能にするマーカーを概略的に示す。好ましくは、この最後の集合に属するマーカーは、第一のタスクまたは横断タスクを実行することによって生成される認知機能の活動状態を測定するのに適した分類器を構築する際には考慮に入れられない。
【0045】
よって、認知機能活動測定の、一つまたは複数の混乱因子への依存性を試験することが可能である。この目的に向け、方法段階107の間、第二のタスクを実行する第二の参照集団の被験者の神経活動を表わす電気信号が、試験被験者の認知機能の高活動状態に起因する確率PAが、たとえば方法段階105の間に構築された分類器を用いて計算される(第二の参照集団からの被験者の神経活動を表わす電気信号は、第二の参照集団の被験者による第二のタスクの実行中に取得された)。第二のタスクを実行する第二の参照集団からの電気信号は、たとえば、段階106の間に、あらかじめ取得されてもよい。
【0046】
方法段階108の間、得られた確率PAは、あらかじめ記録された、またはユーザーによって決定された閾値Tv値と比較されることができる。よって、確率PAが0.5より大きい、好ましくは0.6より大きい、好ましくは0.7より大きい場合、分類器は認知機能の高活動状態を示し、一方、タスクは認知機能の低活動状態を引き起こすように特に設計される。この試験は、認知機能の高活動状態と混乱因子を弁別できない前記分類器の構成を明らかにした。この段階に続いて、たとえば、認知機能を混乱因子から弁別するのに好適な新しい分類器の構築に到達するために、被験者から電気信号を取得する新たな段階を行なうことができる。このことは、条件PA>Tvについて図3によって示されている。この試験に続いて、測定を停止してもよい。
【0047】
認知機能活動のリアルタイム測定
図5は、認知機能活動のリアルタイム測定のための方法を示している。リアルタイムで認知機能活動を測定するための方法の前には、たとえば、較正方法の段階101~106を含む方法による測定システム1の較正が行なわれる。すなわち、試験被験者の神経活動を表わす電気信号が試験被験者の認知機能の高活動状態から帰結する確率PAを計算することによって試験被験者の認知機能活動を測定するのに好適であるよう、分類器が構築される。
【0048】
リアルタイム測定方法の段階201の間、試験被験者の神経活動を表わす電気信号が取得される。電気信号の連続的な流れが、収集サブシステム2から処理ユニット3に送信され、処理ユニット3によって分析される。たとえば、2.5秒間の継続時間のスライディング窓に含まれる信号が使用される。
【0049】
方法段階202の間、確率PA、またはより一般には、確率PAを表わす値が、試験被験者の認知活動について、リアルタイム測定システム1を使用して計算される。「リアルタイム」とは、10秒未満、好ましくは5秒未満で確率PAの計算を実施する、認知活動の測定を意味する。確率PAを表わす値は、たとえば、確率PAから計算された二値予測であってもよい。
【0050】
結果
図6は、リアルタイムで作動記憶に特有の、第一のタスクの実行に対応する分類器の性能特性、または受信動作特性(receiving operating characteristic、ROC)曲線を示す。確率PAの値は、第一のタスクの各試験の継続時間にわたって連続的に測定される。ROC曲線から二つのパラメータ、すなわち、分類閾値および要求される持続活動時間が計算できる。要求される持続活動時間とは、試験を認知機能の高活動状態をもつと分類するための、認知活動機能が閾値よりも高い継続時間である。このように、各分類限界および各要求される持続活動時間について、特異性および感度に対応するペアを計算することができ、それらの値が図6の点によって示されている。次いで、要求される特異性値について、感度を最大化するために要求される分類限界および最適時間を見出すことができる。持続活動時間の要求される値は当該試験によって異なるが、平均的には、この時間についての最適値は、2秒~10秒の間、好ましくは4秒~6秒の間に含まれ、好ましくは実質的に5秒に等しい。リアルタイムでの曲線下面積(area under the curve、AUC)は0.78であり、これは、p<0.0001で、図6の黒線で示されているランダム分類器に対応する値0.5よりも高い。
【0051】
計92の試験を分析し、電気信号が82%のケースで実行されたタスクと一致した応答(良好な応答)であると結論づけることにつながった。個々のデータは下記の表1にまとめてある。
【表1】
【0052】
図7は、混乱因子(この場合は興奮)の高活動状態の存在下での、被験者によるタスクの実行中の分類器の性能特性を示す。曲線(a)は、混乱因子の高活動状態の存在下での被験者によるタスクの実行中の分類器の性能特性であり、曲線(b)は、興奮マーカーに含まれる情報を脱相関した後の、補正された同じ特性である。曲線下面積(b)は曲線面積(a)から7%未満であり、有意な差は呈さない。
【0053】
図8は、作動記憶の活動に対応する確率PAの時間発展を示している。横断タスクの実行中に20の試験において測定された確率PAの平均が、時間の関数として示されている。確率PAは一般に10秒後における減少を示す。この変化は、作動記憶活動状態の8.5秒での高から低へのスイッチングと、システム1によって導入される遅延が実質的に2.5秒であることを考えると、整合している。言い換えれば、確率PAの測定は、確率PAが測定される時刻より前の2.5秒間の作動記憶活動の全体的な測定である。一般に、最小値に達した後、確率PAは再び増加するが、作動記憶の高活動状態に対応する期間中のような高い値には達しない。
【0054】
図9は、種々の周波数範囲について高活動状態と低活動状態の間のマーカー値の差を示している。図9のパネルAは、作動記憶の高活動状態に対応するタスクの実行中の、すべてのチャネルについての、α周波数範囲におけるスペクトルパワーの平均と、低活動状態における対応する平均との間の差を示す。図9のパネルBは、作動記憶の高活動状態に対応するタスクの実行中の、すべてのチャネルについての、低γ周波数範囲におけるスペクトルパワーの平均と、低活動状態における対応する平均との間の差を示す。図9のパネルCは、作動記憶の高活動状態に対応するタスクの実行中の、すべてのチャネルについての、低β周波数範囲におけるスペクトルパワーの平均と、低活動状態における対応する平均との間の差を示す。図9のパネルDは、作動記憶の高活動状態に対応するタスクの実行中の、すべてのチャネルについての、高β周波数範囲におけるスペクトルパワーの平均と、低活動状態における対応する平均との間の差を示す。測定されたスペクトルパワーの平均は、10秒間にわたりパワーを積分することによって計算される。図示した周波数範囲は、たとえば、図3に示される較正方法の方法段階105に記載された方法により選択されたマーカーについての周波数範囲である。選択されたマーカーは、好ましくは、10-20のシステム標準に記載されるように、位置Fp1に配置された電極によって取得された低β範囲の相対パワー、位置Czに配置された電極によって取得された低β範囲の相対パワー、位置Fp1に配置された電極によって取得された低γ範囲の相対パワー、位置Czに配置された電極によって取得された高β範囲の相対パワー、位置Ozに配置された電極によって取得されたα範囲の相対パワー、および位置CP5に配置された電極によって取得されたα範囲の相対パワーから選択できる。
【0055】
提案されるシステム1、ならびにシステム1を較正する方法およびリアルタイムで認知機能を測定する方法は、有利には、以下に応用を見出す:
・ビークル(自動車、航空、航行、鉄道輸送、潜水艦を含む軍事輸送)を運転する際の作動記憶活動の制御および監視;
・学校学習のような作動記憶に依存する認知機能の訓練;
・医学的障害の予防のための作業負荷活動の制御および/または訓練;
・より一般的には、あらゆる種類の活動中の作動記憶活動の個人的な制御(ニューロフィードバック)。
いくつかの態様を記載しておく。
〔態様1〕
試験被験者の認知機能の活動をリアルタイムで測定するためのシステム(1)を較正するための方法であって、当該方法は、以下の逐次の段階、すなわち:
a)試験被験者による第一のタスクの実行中に試験被験者の神経活動を表わす電気信号を取得する段階であって、第一のタスクは、被験者によるその実行が被験者の認知機能の種々の活動状態につながるように構成される、段階と;
b)認知機能についてのマーカー値を、
・段階a)で取得された信号;
・それぞれ第一の参照集団のある参照被験者による第一のタスクの実行中の第一の参照集団の該参照被験者の神経活動を表わす、諸参照電気信号
から計算する段階であって、
マーカー値は試験被験者の認知機能の活動状態を表わす、段階と;
c)段階b)で計算されたマーカー値の複数のコピーを生成し、生成されたコピーにノイズを加える段階と;
d)段階b)で計算されたマーカー値および段階c)で計算されたノイズのあるコピーからの自動学習によって分類器を構築する段階であって、該分類器は、試験被験者の神経活動を表わす電気信号が、試験被験者の認知機能の所定の活動状態の結果である確率(PA)を表わす値を計算することによって、試験被験者の認知機能活動を測定するのに適している、段階とを含む、
方法。
〔態様2〕
前記認知機能が作動記憶である、態様1に記載の方法。
〔態様3〕
前記マーカー値が、参照被験者の認知機能の低活動状態または高活動状態を表わす、態様1または2に記載の方法。
〔態様4〕
段階c)の実施後かつ段階d)の実施前に、前記マーカーは、マーカー値およびマーカー値のノイズのあるコピーから決定される認知機能活動状態との相関に従って順序付けられ、次いで、順序付けられたマーカーの中からある種のマーカーがその順位に従って選択され、段階d)は選択されたマーカーの値から実施される、態様1ないし3のうちいずれか一項に記載の方法。
〔態様5〕
段階d)は、選択されたマーカー値のみから、または選択されたマーカー値および選択されたマーカー値のノイズのあるコピーのみから実施される、態様4に記載の方法。
〔態様6〕
前記第一のタスクは、被験者によるその実行が、被験者の認知機能の少なくとも二つの異なる活動状態に交互につながるように構成される、態様1ないし5のうちいずれか一項に記載の方法。
〔態様7〕
第一のタスクは、被験者によるその実行が、被験者の認知機能の低活動状態と高活動状態に交互につながるように構成される、態様1ないし6のうちいずれか一項に記載の方法。
〔態様8〕
第二のタスクが、被験者によるその実行が、低認知機能活動および高混乱機能活動の同時状態につながるように構成され、当該方法は:
e)第二のタスクを実行する第二の参照集団のある被験者の神経活動を表わす電気信号が、試験被験者の認知機能の前記所定の活動状態の結果である確率(PA)についての代表値を前記分類器によって計算する段階であって、第二の参照集団の被験者の神経活動を表わす前記電気信号が、第二の参照集団の被験者による第二のタスクの実行中に取得される、段階と;
f)段階e)の間に計算された確率(PA)を表わす前記値と固定の閾値(Tv)とを比較する段階とを含む、
態様1ないし7のうちいずれか一項に記載の方法。
〔態様9〕
第二のタスクは、被験者によるその実行が、被験者の認知機能の少なくとも二つの異なる活動状態に交互につながるように構成される、態様8に記載の方法。
〔態様10〕
第二のタスクは、被験者によるその実行が、被験者の認知機能の低活動状態と高活動状態に交互につながるように構成される、態様8または9に記載の方法。
〔態様11〕
前記マーカーのうちの一つのマーカーの値は、段階a)で取得された前記信号の信号周波数スペクトルの少なくとも一部にわたって計算された、電気信号のスペクトルパワーの代表値である、態様1ないし10のうちいずれか一項に記載の方法。
〔態様12〕
前記信号周波数スペクトルの前記一部は、α範囲、β範囲、γ範囲およびθ範囲において選択される、態様11に記載の方法。
〔態様13〕
試験被験者の神経活動を表わす電気信号は、電極配置のための国際標準である10-20システムの位置Fp1および/またはCzおよび/またはOzおよび/またはCP5に配置された電極によって得られる、態様1ないし12のうちいずれか一項に記載の方法。
〔態様14〕
試験被験者の認知機能の活動をリアルタイムで測定する方法であって:
態様1ないし13のうちいずれか一項に記載の方法に基づく較正段階と;
試験被験者の神経活動を表わす電気信号を取得する段階と、試験被験者の認知機能活動をリアルタイムで測定するためのシステム(1)を使って、試験被験者の神経活動を表わす電気信号が所定の認知機能活動状態の結果である確率(PA)を表わす値を計算することによって、試験被験者の認知機能活動をリアルタイムで測定する段階とを含む、
方法。
〔態様15〕
試験被験者の認知機能の活動をリアルタイムで測定するためのシステム(1)であって:
・電気信号取得のためのサブシステム(2)と;
・処理ユニット(3)とを有しており、
処理ユニット(3)が:
a)試験被験者による第一のタスクの実行中に試験被験者の神経活動を表わす電気信号を取得する段階であって、第一のタスクは、被験者によるその実行が被験者の認知機能の種々の活動状態につながるように構成される、段階と;
b)認知機能活動マーカーの値を、段階a)で取得された信号と、それぞれ第一の参照集団のある参照被験者による第一のタスクの実行中の第一の参照集団の該参照被験者の神経活動を表わす、諸参照電気信号とから計算する段階であって、マーカー値は試験被験者の認知機能の活動状態を表わす、段階と;
c)段階b)で計算されたマーカー値の複数のコピーを生成し、生成されたコピーにノイズを加える段階と;
d)段階b)で計算されたマーカー値および段階c)で計算されたノイズのあるコピーからの自動学習によって分類器を構築する段階であって、該分類器は、試験被験者の神経活動を表わす電気信号が、試験被験者の認知機能の所定の活動状態の結果である確率(PA)を表わす値を計算することによって、試験被験者の認知機能活動を測定するのに適している、段階と
を実行するように構成されていることを特徴とする、
システム(1)。
〔態様16〕
前記認知機能が作動記憶である、態様15記載のシステム(1)。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D