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▶ エーツェーペー エントヴィッケルングゲゼルシャフト エムベーハーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】血液ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/205 20210101AFI20230110BHJP
   F04D 29/64 20060101ALI20230110BHJP
   A61M 60/13 20210101ALI20230110BHJP
   A61M 60/148 20210101ALI20230110BHJP
   A61M 60/216 20210101ALI20230110BHJP
   A61M 60/414 20210101ALI20230110BHJP
   A61M 60/419 20210101ALI20230110BHJP
   A61M 60/422 20210101ALI20230110BHJP
   A61M 60/825 20210101ALI20230110BHJP
   A61M 60/829 20210101ALI20230110BHJP
【FI】
A61M60/205
F04D29/64 D
A61M60/13
A61M60/148
A61M60/216
A61M60/414
A61M60/419
A61M60/422
A61M60/825
A61M60/829
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021033192
(22)【出願日】2021-03-03
(62)【分割の表示】P 2018517850の分割
【原出願日】2016-10-04
(65)【公開番号】P2021094413
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-03-31
(31)【優先権主張番号】15189242.9
(32)【優先日】2015-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515170724
【氏名又は名称】エーツェーペー エントヴィッケルングゲゼルシャフト エムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジース トルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】スパニエル ゲルト
(72)【発明者】
【氏名】シューマッハ ヨルク
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0010686(US,A1)
【文献】特開平06-181983(JP,A)
【文献】特開平08-206192(JP,A)
【文献】国際公開第2007/032740(WO,A1)
【文献】特許第6847935(JP,B2)
【文献】米国特許第05527272(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/205
F04D 29/64
A61M 60/13
A61M 60/148
A61M 60/216
A61M 60/414
A61M 60/419
A61M 60/422
A61M 60/825
A61M 60/829
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル(2)内を案内される可撓性駆動シャフト(3)と、前記駆動シャフト(3)の遠位領域で前記駆動シャフト(3)に接続された送達要素(6)と、モータ(7)とを備える血液ポンプであり、前記モータ(7)が、ステータ(36)と、前記ステータ(36)内に回転可能に取り付けられたロータ(30)とを備え、前記ステータ(36)が、巻線(37)を備え、前記ロータ(30)が、ロータ磁石(31)を備え、前記駆動シャフト(3)が、前記駆動シャフト(3)の近位端部で前記ロータ(30)に接続されている血液ポンプであって、
前記ステータ(36)と前記ロータ(30)とが、取り外し不能に互いに接続され、前記ロータ(30)と前記ステータ(36)によって画定される隙間(40)を形成し、
前記ステータ(36)が、基本的に環状の断面を有する液密スリーブ(44)を備え、前記液密スリーブ(44)によって前記隙間(40)が画定され
前記液密スリーブ(44)は、前記巻線(37)をリンス流体から分離するように配置される、
前記隙間(40)が、前記カテーテル(2)と前記駆動シャフト(3)の間に形成される中間空間に流体接続される、
ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の血液ポンプであって、
前記隙間(40)が、0.05mmの最小幅を有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の血液ポンプであって、前記隙間(40)が、少なくとも0.1mmの幅を有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記隙間(40)が、少なくとも0.15mmの幅を有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記隙間(40)が、少なくとも0.2mmの幅を有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記隙間(40)が、最大で1mmの幅を有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記隙間(40)が、最大で0.5mmの幅を有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記巻線(37)が、前記ロータ磁石(31)の外径の最大で1.5倍に対応する内径を有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記巻線(37)が、前記ロータ磁石(31)の外径の最大で1.25倍に対応する内径を有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記巻線(37)と前記ロータ磁石(31)の間の径方向距離が、最大で2mmであることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記隙間(40)に流体接続されたリンス開口(41)を有する、ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項12】
請求項11に記載の血液ポンプであって、前記リンス開口(41)が、前記モータ(7)の近位端部に配置されたリンス接続部(42)に接続されることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項13】
請求項1から1のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記巻線(37)が、生体適合性ポッティング化合物にポッティングされることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項14】
請求項1から1のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記液密スリーブ(44)が、前記ロータ磁石(31)の軸方向長さの1.5倍より小さい軸方向の長さを有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項15】
請求項1から1のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記ロータ(30)が、少なくとも1つの滑り軸受によって径方向に取り付けられることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項16】
請求項1から1のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記ロータ(30)が、少なくとも1つの玉軸受によって径方向に取り付けられることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項17】
請求項1に記載の血液ポンプであって、前記少なくとも1つの玉軸受が、磁化不能材料を含むことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項18】
請求項1または1に記載の血液ポンプであって、前記少なくとも1つの玉軸受が、セラミック材料を含む玉を備えることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項19】
請求項1から1のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記少なくとも1つの玉軸受が、プラスチックを含む保持器を備えることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記ロータ(30)が、前記ロータ磁石(31)を保護するためのコーティングおよび/またはカバーを有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項21】
請求項1から2のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記血液ポンプが、前記モータ(7)が患者の体外に配置されているときに心室から患者の血管に血液を送り込むように構成されることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記送達要素(6)および筐体(5)を含む展開可能なポンプヘッド(4)を特徴とし、前記送達要素(6)および前記筐体(5)が、強制的に圧縮された後で自動的に展開するように設計されている血液ポンプ。
【請求項23】
請求項1から2のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記液密スリーブ(44)は、磁気的に不活性である、血液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、請求項1のプリアンブルに記載する血液ポンプに関する。特に、本願は、モータを備えた血液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近位端部および遠位端部とそれらの間に配置されたカテーテルとを備え、可撓性駆動シャフトがカテーテルの内部を案内される血液ポンプは、現況技術で知られている。このような血液ポンプは、通常、折り畳み可能筐体および折り畳み可能送達要素を備えるポンプヘッドを遠位端部に備え、この送達要素は、駆動シャフトの遠位領域に接続されている。このようなポンプヘッドは、手の届きにくい位置まで案内することができる。例えば、このようなポンプヘッドは、心臓の左心室から大動脈に血液を送達するために、大動脈弓を介して大腿動脈を通して患者の大動脈弁の領域に挿入することができる。駆動シャフトは、血液ポンプの近位端部において、通常は患者の体外に位置するモータによって駆動される。このような血液ポンプは、例えば、文献、欧州特許第2868331A2号に記載されている。
【0003】
文献、米国特許第4895557号には、血液ポンプの駆動装置のモータ構成が開示されている。このモータ構成は、殺菌可能な液密のロータ筐体を含み、このロータはこのロータ筐体内に位置している。ロータ筐体は、動作時には、ロータがステータによって囲まれるようにステータ筐体の凹部の中に案内されるように設計されている。動作後に、ロータ筐体はステータ筐体の凹部から引き出され、処理される。
【0004】
このようなモータ構成の欠点は、体積がかなり大きく、特にこのモータ構成を患者の脚に固定する際に問題を生じる可能性があることである。さらに、このようなモータ構成では、動作時に望ましくないかなりの発熱がある可能性がある。さらに、システムの組立て時に、例えば使用者の手袋の不純物などによってステータがかなり汚れる可能性があり、これにより再利用可能なステータの大規模な洗浄および殺菌が必要になる可能性があるという欠点もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述した知られているデバイスの欠点を克服する、取扱いの簡単な血液ポンプを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、メインクレームの特徴を備えた血液ポンプによって達成される。従属請求項の特徴および実施例から、他にもさらに発展させることができる。
【0007】
提案する血液ポンプは、カテーテル内を案内される可撓性駆動シャフトと、駆動シャフトの遠位領域で駆動シャフトに接続された送達要素と、モータとを備え、モータは、ステータと、ステータ内に回転可能に取り付けられたロータとを備える。ステータは、巻線を備え、ロータは、ロータ磁石を備える。さらに、駆動シャフトは、駆動シャフトの近位端部でロータに接続されている。ステータとロータとは、解除不能に互いに接続され、ロータとステータによって画定される隙間を形成する。
【0008】
提案する血液ポンプは、特に、ロータおよびステータが使用者が取り外すことができるように設計される、現況技術で知られている血液ポンプのモータのモジュール構成と比較して、小型の構成にすることができる。この提案する血液ポンプでは、ステータとロータとは、1つのユニットを形成しており、例えば摩擦接合または材料接合で互いに接続することができる。小型の構成にすることによって、モータの軽量化を実現することができ、これにより、患者の脚に固定されたときの負担が少ない。
【0009】
巻線は、ロータ磁石の外径の最大で1.5倍、好ましくは最大で1.25倍、特に好ましくは最大で1.15倍に対応する内径を有することができる。巻線とロータ磁石の間に距離があることにより、磁性空隙が得られる。ロータ磁石と巻線の間の距離を小さくすると、電力をポンプ出力に効率的に変換することができるので、所望のポンプ出力で動作しているときにモータの熱損失を低く抑えることができる。提案するモータでは、単部品構成により磁性空隙中に筐体部品を設ける必要がないことから、ステータとロータが個別に収容されるように設計される構成形態と比較して、巻線とロータ磁石の間の小さな距離を実現することができる。巻線の内径が6mmであるとすると、ロータ磁石の外径は、例えば5.25mmより大きくすることができる。
【0010】
例えば、巻線とロータ磁石の間の径方向距離は、最大で2mm、好ましくは最大で1.25mm、特に好ましくは最大で0.75mmとすることができる。
【0011】
隙間は、通常は、環状の断面を有する。隙間は、磁性空隙の幅に対応する、または磁性空隙の幅より小さい幅を有する。隙間は、最大で1mm、好ましくは最大で0.5mm、特に好ましくは最大で0.25mmの幅を有する隙間が考えられる。また、少なくとも0.1mm、好ましくは少なくとも0.15mm、特に好ましくは少なくとも0.2mmの幅を有する隙間も考えられる。
【0012】
さらに、隙間に流体接続されたリンス開口を設けることができる。リンス開口は、リンス接続部に流体接続することができる。流体接続部は、例えば、モータの近位端部に配置することができる。
【0013】
さらに、隙間が、カテーテルと駆動シャフトの間に形成される中間空間に流体接続されるものと考えることもできる。これにより、リンス流体を、リンス接続部を介して、隙間を通して駆動シャフトとカテーテルの間の中間空間の中に流すことができる。これにより、カテーテル内の駆動シャフトの潤滑を行うことができる。さらに、リンス接続部を通してリンス流体を導入することにより、患者の血液がモータ、特に隙間に侵入するのを防止することができる。リンス流体は、リンス接続部、隙間、およびカテーテル得道シャフトの間の中間空間を通して患者の体内に案内されることもできる。例えば、グルコース溶液が、リンス流体として使用される。
【0014】
リンス流体が、近位端部から遠位端部に向かってロータの周りを洗うものと考えることができる。また、リンス流体が遠位端部から近位端部に向かってロータの周りを洗うものと考えることもできる。
【0015】
例えば米国特許第4895557号に記載されるように、いくつかの内腔を有するカテーテルを使用して、順方向リンスおよび戻り方向リンスを実現することもできる。この場合、リンス流体用の2つ以上の接続部をモータ上に設けることができる。
【0016】
リンス流体が確実に隙間を通って流れることができるようにするために、隙間が0.05mmの最小幅を有するものと考えることができる。
【0017】
巻線がポッティング化合物にポッティングされるものと考えることができる。ポッティング化合物による巻線のポッティングは、巻線の表面に生じる可能性がある凹部を閉じて平滑化するのに適している。ポッティング化合物は、凹部に流入して凹部を満たすのに適した低粘度材料を含む可能性がある。
【0018】
ポッティング化合物が、隙間を画定するステータの一部分を形成するものと考えることができる。ポッティング化合物によって、隙間のほぼ平滑な境界表面を実現することができる。ポッティング化合物は、例えばエポキシ樹脂を含む可能性がある。さらに、ポッティング化合物が、例えば酸化アルミニウム、鉄粉、またはその他の熱伝達を改善する熱伝達性物質を含むことも考えることができる。ポッティング化合物によって、隙間の通気後にステータに付着する気泡の数を減少させることができる。
【0019】
リンス流体による、または場合によってはリンス流体によって運ばれる粒子による巻線の損傷または腐食を、ポッティング化合物によって防止することができる。さらに、ポッティング化合物によって、粒子が巻線上に沈降することも防止することができる。
【0020】
さらに、ポッティング化合物が生体適合性材料を含むことも考えることができる。通常は、この場合のポッティング化合物は、完全に生体適合性材料で構成されて、有害な物質がリンス接続部を介して患者に対して放出される可能性がないようになっている。例えば、巻線をパリレンでコーティングすることを考えることもできる。
【0021】
また、ステータが、基本的に環状の断面を有する液密スリーブを備え、この液密スリーブによって隙間が画定されるものと考えることもできる。例えば、このスリーブによって、ステータの巻線をリンス流体から分離することができる。これにより、リンス流体による巻線の損傷を防止することができる。スリーブが、隙間を画定するステータの一部分を構成するものと考えることもできる。
【0022】
スリーブは、巻線だけでなく、その他のモータ部分もスリーブによってリンス流体から分離されることによって、損傷しないように保護されるように、設計することもできる。例えば、モータ内にあることもある半田位置を、腐食しないようにスリーブによって保護することもできる。
【0023】
スリーブは、例えば、特にポリエーテルエーテルケトンまたはポリエチレンなどのプラスチック、あるいはガラスを含む可能性がある。スリーブが、例えばポリエチレンを含む弾性プラスチックで構成されるものと考えることもできる。スリーブは、リンス流体を案内する働きをするが、必ずしもモータを機械的に安定させる働きをするわけではない。そのため、スリーブを薄い壁で製造する、かつ/または可撓性材料で製造することが可能である。さらに、モータまたはモータの一部分の外形は、スリーブの形状によって決定されない。そのため、スリーブが、軸方向に巻線および/またはロータのわずかな部分しか覆わないようにすると有利であることがある。例えば、スリーブが、ロータ磁石の軸方向長さの1.5倍より小さい軸方向の長さを有するものと考えることもできる。
【0024】
ロータが、少なくとも1つの滑り軸受によって径方向に取り付けられるものと考えることもできる。例えば、ロータは、2つの滑り軸受によって取り付けることもできる。この少なくとも1つの滑り軸受は、例えば、磁化不能材料および/またはセラミック材料、特に酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、イットリウム安定化酸化ジルコニウム、または窒化ケイ素を含む可能性がある。滑り軸受は、さらに、鋼、特にインプラント鋼を含む可能性がある。例えば、ダイヤモンドライクアモルファスカーボンによる生体適合性コーティングを設けることもできる。
【0025】
さらに、ロータが、少なくとも1つの玉軸受によって径方向に取り付けられるものと考えることができる。この少なくとも1つの玉軸受が、磁化不能材料を含むものと考えることができる。特に、モータの動作によって摩耗が生じる玉軸受の部分が、磁化不能材料を含む、または磁化不能材料で構成されるものと考えることができる。これにより、玉軸受のそれらの部分の摩耗屑が、モータの強磁性構成要素に付着しないことが実現される。これにより、例えば、強磁性摩耗屑がロータに付着したままとなり、ロータを損傷させることを防止することができる。さらに、強磁性摩耗屑がモータの巻線またはその他の構成要素を損傷させることを防止することができる。
【0026】
例えば、上記の少なくとも1つの玉軸受は、セラミック材料を有する玉を備えることができる。さらに、上記の少なくとも1つの玉軸受は、プラスチックを含む保持器を備えることができる。この保持器は、例えば、ポリエチレンまたはポリテトラフルオロエチレンを含む可能性がある。玉は、完全にセラミック材料からなることもある。保持器は、完全にプラスチックで構成されることもある。
【0027】
通常は、ロータは、ロータ磁石を保護するためのコーティングおよび/またはカバーを備える。このコーティングおよび/またはカバーが、隙間を画定するロータの位置部分を構成することもある。コーティングおよびカバーは、生体適合性材料を含む、または生体適合性材料からなる可能性がある。例えば、パリレンまたは生体適合性エポキシ樹脂によるコーティングを設けることができる。ダイヤモンドライクアモルファスカーボンのコーティングを設けることもできる。コーティングは、100μm未満、好ましくは10μm未満の厚さを有することができる。ロータは、例えば、ポリエーテルエーテルケトンまたはステンレス鋼の被覆を備えることができる。
【0028】
血液ポンプは、送達要素および筐体を含む展開可能なポンプヘッドを備えることができ、この送達要素および筐体は、強制的に圧縮された後で自動的に展開するように設計される。展開可能なポンプヘッドにすることにより、ポンプヘッドおよび送達要素を比較的大きな設計にしながら、患者の組織内に血液ポンプを挿入するための穴の直径は比較的小さくすることができる。
【0029】
通常は、このポンプは、モータが患者の体外に配置されているときに心室から患者の血管に血液を送り込むように構成される。モータは、例えば、患者の大腿に固定されるように構成することができる。
【0030】
そのために、可撓性駆動シャフトは、患者の解剖学的構造によって決まる十分な長さを有する。通常は、この場合の可撓性シャフトは、少なくとも50cm、好ましくは少なくとも90cmの長さを有する。可撓性駆動シャフトの最大長さは、200cm、好ましくは150cmである。
【0031】
患者の体外に位置するモータによって駆動される血液ポンプを使用することにより、患者の体内のモータによって駆動される血液ポンプと比較して、より高い効率に関する需要を満たす必要がある可能性がある。動作時に生成される熱を患者の血液系を介して除去することは、例えば、患者の体内に配置されるモータでは有利である。これに対して、患者の体外に配置される熱を生成するポンプは、特定の状況では、熱の放散のためのさらに別の要素、または特に効率的な動作方法を必要とする。
【0032】
本願は、さらに、提案する血液ポンプの動作方法に関する。この動作方法を使用すると、モータの筐体の接触可能表面は、15000rpm、好ましくは少なくとも30000rpmの速度での連続運転中に、60℃以下、好ましくは48℃以下、特に好ましくは43℃以下の温度まで加熱する。特に、患者の大腿にモータを固定するときには、モータの筐体が動作時に加熱しすぎないことが重要である。
【0033】
さらに、モータの筐体の接触可能表面が、少なくとも1l/min、好ましくは少なくとも2l/minの送達速度での血液ポンプの連続運転中に、60℃以下、好ましくは48℃以下、特に好ましくは43℃以下の温度まで加熱する動作方法も考えられる。
【0034】
血液ポンプが、例えば熱伝達的にモータに接続された冷却リブを備えた冷却体、または動作時に生成される熱を放散させるヒートチューブを含むものと考えることもできる。血液ポンプが、例えば大腿の皮膚を介して患者の組織に熱を放散させるように構成されることも考えられる。
【0035】
記載した全ての構成要素を備えた血液ポンプは、無菌パッケージで納入することができる。この血液ポンプは、例えばガンマ線殺菌によって、またはエチレンオキシドを使用して、殺菌することができる。この血液ポンプは、使用後に全体を廃棄することができる。したがって、提案する血液ポンプの場合には、血液ポンプの各部、特にモータを、使用者が繰り返し洗浄または殺菌しなくてもよい。
【0036】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】ポンプ構成を示す概略図である。
図2】ポンプヘッドを示す概略図である。
図3(a)】ポンプヘッドを示す、さらに別の概略図である。
図3(b)】ポンプヘッドを示す、さらに別の概略図である。
図4】筐体を示す概略図である。
図5】モータを示す概略図である。
図6】別のモータを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、ポンプ構成1を示す概略図である。ポンプ構成1は、カテーテル2を含み、このカテーテル2内を、可撓性駆動シャフト3が案内される。カテーテル2は、ポンプヘッド4に接続されている。このポンプヘッド4は、筐体5と、この筐体5内に配置された、駆動シャフト3の近位端部に接続されたモータ7によって駆動シャフト3を介して駆動することができる送達要素6とを含む。ポンプヘッド4とカテーテル2および駆動シャフト3とは、左心室10の領域内のポンプヘッド4が大動脈弁11の領域に位置するように、ポート8を介して大腿動脈9内に導入される。動作時には、駆動シャフト3がモータ7によって駆動され、ポンプ構成1は、左心室10から大動脈12内に血液を送達する。図示の左心支援用の構成では、ポンプ構成1の送達方向は、ポンプ構成1の遠位端部13からポンプ構成1の近位端部14に向かう方向に対応する。
【0039】
ただし、ポンプ構成1は、例えば右心支援に適したポンプ構成1の近位端部14から遠位端部13に向かう方向に血液を送達するように構成することもできる。
【0040】
ポンプヘッド4を、図2に概略的に示す。図2以降の図で繰り返し示される特徴には、同じ参照番号を付してある。ポンプヘッド4は、送達要素6と、筐体5とを含む。この例の送達要素6は、回転羽根の形態をした2つの可撓性区間を備えるポンプロータとして設計されている。さらに、ポンプヘッド4の遠位領域15に取り付けられた駆動シャフト3も示されている。弾性変形可能な材料で構成されるいわゆるピグテール17が、ポンプヘッド4の遠位端部16に設けられている。円筒要素18が、駆動シャフト3に堅く接続されている。送達要素6は、円筒要素18に固定されている。送達要素6および筐体5は、展開可能な設計であり、強制的に圧縮された後で自動的に展開することができるようになっている。送達要素6は、プラスチック製である。筐体5は、形状記憶材料ニチノール製である。送達要素6および筐体5が展開可能な設計であることにより、ポンプヘッド4全体を展開することができる。
【0041】
筐体5は、菱形格子19として設計され、液密領域20にポリウレタン製の弾性被覆21を備える。弾性被覆21は、格子19によって液密領域20に形成された菱形格子開口を弾性被覆21によって液密に閉じることができるように、菱形格子19の内側および外側を覆っている。
【0042】
筐体5は、さらに、弾性被覆21によって覆われていない入口領域22を備える。入口領域22では、菱形格子開口は入口開口となる。図2では、例示を目的として、そのうちの1つに参照番号23を付してある。筐体5は、やはり弾性被覆21によって覆われていない出口領域24を備える。出口領域24では、菱形格子開口は出口開口となる。例示を目的として、そのうちの1つを図示し、参照番号25を付してある。
【0043】
ポンプ構成1の動作時には、駆動シャフト3が、モータ7によって駆動され、駆動シャフト3に接続された送達要素6が、駆動シャフト3の軸の周りで回転する。これにより、血液は、入口領域22の入口開口を通して筐体5内に移送され、その後、出口領域24の出口開口を通って筐体5から出て行く。血液は、このようにポンプ構成1によって送達方向26に送達される。
【0044】
弾性被覆21は、送達要素6の軸方向の全長を完全に取り囲んでいるわけではない。送達要素6は、出口領域24の途中まで突出し、少なくとも参照番号25で示す出口開口が、送達要素6の側方すなわち径方向に隣接して配置されるようになっている。これに対して、遠位端部の弾性被覆21は、送達要素6が入口領域22中に全く、または有意に突出せず、したがって側方を入口開口で囲まれないように設計されている。
【0045】
弾性膜21および送達要素6の設計、ならびにそれらの互いに対する配置は、送達要素6の軸方向長さの約3分の1が、液密領域20を形成する弾性膜21によって取り囲まれないようになっている。図示の例では、この分の送達要素6の軸方向長さは、出口領域24によって取り囲まれている。
【0046】
ポンプヘッド4は、流出要素をさらに備える。これは、図3(a)に示すような流出シールド27として、または図3(b)に示すような流出管27’として設計することができる。
【0047】
図3(a)に示す流出シールド27は、筐体5の液密領域20で筐体5に固定されている。流出シールド27は、円錐台形の側方表面の形状を有し、送達方向26に向かって広がるように送達方向26に延びている。送達要素6および出口領域24は、流出シールド27によって取り囲まれている。別の実施形態では、出口領域24が流出シールド27によって部分的に取り囲まれることも考えられる。
【0048】
図3(b)のポンプヘッド4は、流出シールド27の代わりに流出管27’が設けられる点だけが、図3(a)に示すポンプヘッド4と異なる。この流出管27’は、液密領域20で筐体5に固定され、そこから送達方向26に延びている。流出管27’は、ポリウレタン製であり、送達方向26に位置する領域に開口28、28’、28’’を含む。図示の例では、出口領域24は、流出管27’によって完全に取り囲まれている。流出管27’は可撓性であり、送達方向26とは反対の方向に血流が生じると、カテーテル2および/または筐体5に押し付けられることによって自動的に閉じる。
【0049】
図4は、筐体5の菱形格子19を示す概略図である。また、弾性被覆21を備えた液密領域20、ならびに入口領域22および出口領域24も示してある。入口領域22および出口領域24の両領域は、円錐形状を有し、液密領域20は、基本的に管状である。格子19は、格子ストラットを含み、そのうちの1つに、例示を目的として参照番号45を付してある。格子ストラット45は、基本的に菱形の格子開口が、液密領域20内より入口領域22および出口領域24内の方が大きくなるように走っている。図4では、全体がよく分かるように、筐体5の向こう側にある格子ストラットは点線のみで示してある。
【0050】
液密領域20では、格子ストラット45は、比較的細かいメッシュ状の格子を形成する。格子19は、液密領域20では筐体5の外周に沿って、32本のストラットを含む、あるいは結節点を有する筐体5の軸方向位置でこの外周を考えれば、16個の結節を備える。このような密なメッシュ状の格子19により、液密領域20の筐体5のほぼ円形の断面が得られる。
【0051】
筐体5の外周に沿った格子ストラット45の数は、液密領域20から入口領域22および出口領域24の方向に、格子ストラットを対にして結合することによって半減し、対応する領域において、筐体5は、結節点のない外周に沿って16本の格子ストラット45を含む。格子ストラット45の数は、その後、入口領域22および出口領域24の方向に、格子ストラットを対にして結合することによって再び減少し、これらの領域では、筐体5は、8本の格子ストラット45を備える。さらに、出口領域24において上述の方法で格子ストラット45の数をさらに減少させ、筐体5は、送達方向26にさらに進んだ位置にある領域では、外周に沿って4本しか格子ストラット45を有していない。
【0052】
上記のように格子ストラット45の数を減らすことにより、液密領域20内より入口領域22および出口領域24において大きな格子開口を有する格子19が形成される。
【0053】
出口領域24および入口領域22の円錐領域の格子ストラット45は、螺旋状構造を形成し、これによりポンプヘッド4をカニューレから押し出したときにポンプヘッド4を確実に展開することができる。
【0054】
図5は、モータ7を示す概略図である。モータ7は、シャフトスタブ29の領域で、シャフトスタブ29に接着されているカテーテル2に接続される。可撓性駆動シャフト3は、カテーテル2内を案内される。モータ7は、さらに、ロータ磁石31を有するロータ30を備える。
【0055】
可撓性駆動シャフト3は、ロータ30に接続されており、ロータ30が回転すると、ロータ30から可撓性駆動シャフト3にトルクが伝達されるようになっている。このトルクが、可撓性駆動シャフトを介して送達要素6に伝達され、ポンプ構成はモータ7によって駆動される。
【0056】
ロータ30は、2つの軸受32,33によって軸方向に取り付けられている。これらの軸受のうちの一方の軸受33は、ロータ30を軸方向に安定させるためのばね要素34によって付勢されている。ばね要素34は、例えば、コイルばねまたは環状ばねとして設計される可能性がある。軸受32,33は、それぞれ、玉軸受または滑り軸受として設計される可能性がある。軸受32,33が玉軸受として設計される場合には、軸受32,33は、玉軸受が磁化不能材料を有するように、セラミック製の玉と、プラスチック製の保持器とを備える。軸受のリングは、例えば磁化可能金属から設計することも、あるいは磁化不能材料から設計することもできる。軸受32,33が滑り軸受として設計される場合には、これらの軸受はそれぞれ、DLCコーティングインプラント鋼およびイットリウム安定化酸化ジルコニウムを含む。
【0057】
ロータ磁石31は、生体適合性のDLCコーティングを含む。モータ7は、さらに、ステータ36を備える。ステータ36は、電気接続部38に導電的に接続された、いくつかの巻線37を備える。ステータ36は、さらに、バックアイアン積層39を備える。巻線37は、熱伝達性の酸化アルミニウムを含む生体適合性のエポキシ樹脂でポッティングされている。
【0058】
環状の断面を有する隙間40が、巻線37のコーティングの内側と、ロータ磁石31のコーティング35の外側との間に形成されている。隙間40は、0.2mmの幅を有する。この隙間40は、リンス接続部42に接続されたリンス開口41と流体接続しており、リンス接続部42は、モータ7の近位端部に配置されている。隙間40は、さらに、駆動シャフト3とカテーテル2の間に形成された中間空間と流体接続している。したがって、例えば、リンス接続部42を介してリンス開口41および隙間40ならびに中間空間にグルコース溶液を流すことができる。グルコース溶液は、このようにして、動作中にロータ30の周りを流れる。ロータ磁石31の外側と巻線37の内側の間の径方向距離は、0.5mmである。ここで、巻線37の内径は、ロータ磁石31の外径の1.1倍に対応する。
【0059】
ステータ36とロータ30は、使用者が解除できないような方法で互いに接続されており、モータ筐体43に組み込まれている。モータ筐体43は、例えば、グリップまたは冷却体に接続することができる。モータは、巻線37とロータ磁石31の間の距離が非常に小さいことにより、非常に効率的に動作させることができるので、この筐体に接続されていることがあるモータ筐体43およびグリップまたは冷却体は、ポンプ構成1が32000rpmの速度および毎分2.5lの送達出力で動作するときに露出表面において40℃未満にしか加熱されない。
【0060】
図6に示すモータ7’は、この実施形態のステータ36が、隙間40を画定する液密スリーブ44を備える点だけが、図5に示すモータ7と異なる。この実施形態では、隙間40の幅は、例えば0.15mmまたは0.22mmである。スリーブ44は、ポリエーテルエーテルケトンで構成され、磁気的に不活性である。スリーブ44は、例えばスリーブ44によって巻線37とステータ36の他の部分とが場合によっては隙間40を通って流れることもあるリンス流体から分離されるように配置される。軸方向のスリーブ44の長さは、ロータ磁石31の軸方向長さの約1.2倍である。
【0061】
単に実施例に開示しただけの様々な実施形態の特徴は、互いに結合することができ、また個別に請求することができる。
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5
図6