(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 29/76 20060101AFI20230110BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230110BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20230110BHJP
B01J 37/30 20060101ALI20230110BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B01J29/76 A
B01J37/08 ZAB
B01J37/04 101
B01J37/30
B01D53/94 222
(21)【出願番号】P 2021121500
(22)【出願日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】天田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】堀 恵悟
(72)【発明者】
【氏名】今井 啓人
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-533343(JP,A)
【文献】特表2016-500562(JP,A)
【文献】特開2012-148968(JP,A)
【文献】特開平03-131345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
B01J 21/00-38/74
F01N 3/00
3/02
3/04-3/38
9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu-CHA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒であって、
前記Cu-CHA型ゼオライトは、シリカアルミナ比(SAR)が
8.0以下であり、かつ、バリウムでイオン交換されている、
排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記Cu-CHA型ゼオライトにおけるCu量が、前記Cu-CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.10mol/mol-Al以上0.40mol/mol-Al以下である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記バリウムの量が、前記Cu-CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.01mol/mol-Al以上である、請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記バリウムの量が、前記Cu-CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.25mol/mol-Al以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項5】
SCR触媒である、請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項6】
基材、及び前記基材上の触媒層を含む、排ガス浄化触媒装置であって、
前記触媒層が、請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒を含む、
排ガス浄化触媒装置。
【請求項7】
SARが
8.0以下のCu-CHA型ゼオライト、及びバリウム源を混合して混合物を得ること、並びに
得られた混合物を焼成すること
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項8】
前記バリウム源が、酢酸バリウム、炭酸バリウム、硝酸バリウム、硫酸バリウム、及び水酸化バリウムから選択される1種又は2種以上である、請求項7に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される排ガス中のNOxを、大気に放出される前に、還元浄化する技術として、選択的接触還元(SCR:Selective Catalytic Reduction)システムが知られている。SCRシステムは、還元剤、例えばアンモニア(又は尿素等のアンモニア源)を用いて、排ガス中のNOxをN2に還元する技術である。
【0003】
このSCRシステムでは、シリカ/アルミナ比(SAR)が低いゼオライトを銅(Cu)でイオン交換した、Cu-ゼオライトが、低温領域におけるNOx浄化能に優れるものとして知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、シリカ/アルミナ比(SAR)30未満のモレキュラーシーブを含み、かつ、当該モレキュラーシーブはイオン交換銅(Cu)及びイオン交換白金(Pt)を含む、選択的アンモニア酸化のための二元金属触媒が記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、構造コード「CHA」で表されるチャバサイト型ゼオライトを銅(Cu)でイオン交換した、Cu-CHA型ゼオライトを用いた排ガス浄化触媒が、NOx浄化能に優れると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2012-507400号公報
【文献】国際公開第2008/106519号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SCRシステムにおいて、低SARのCu-ゼオライトは、低温領域におけるNOx浄化能に優れるが、副生成物としてN2Oが生成する。N2Oは、地球温暖化に影響する温室効果ガスであるため、その排出量は抑制されるべきである。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、NOxの浄化効率が十分に高く、かつ、N2Oの生成量が少ない、排ガス浄化触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、以下のとおりである。
【0010】
《態様1》Cu-CHA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒であって、
前記Cu-CHA型ゼオライトは、シリカアルミナ比(SAR)が20.0以下であり、かつ、バリウムでイオン交換されている、
排ガス浄化触媒。
《態様2》前記Cu-CHA型ゼオライトにおけるCu量が、前記Cu-CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.10mol/mol-Al以上0.40mol/mol-Al以下である、態様1に記載の排ガス浄化触媒。
《態様3》前記バリウムの量が、前記Cu-CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.01mol/mol-Al以上である、態様1又は2に記載の排ガス浄化触媒。
《態様4》前記バリウムの量が、前記Cu-CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.25mol/mol-Al以下である、態様1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
《態様5》SCR触媒である、態様1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
《態様6》基材、及び前記基材上の触媒層を含む、排ガス浄化触媒装置であって、
前記触媒層が、態様1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒を含む、
排ガス浄化触媒装置。
《態様7》SARが20.0以下のCu-CHA型ゼオライト、及びバリウム源を混合して混合物を得ること、並びに
得られた混合物を焼成すること
を含む、態様1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
《態様8》前記バリウム源が、酢酸バリウム、炭酸バリウム、硝酸バリウム、硫酸バリウム、及び水酸化バリウムから選択される1種又は2種以上である、態様7に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、NOxの浄化効率が十分に高く、かつ、N2Oの生成量が少ない、排ガス浄化触媒装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《排ガス浄化触媒》
本発明の排ガス浄化触媒は、
Cu-CHA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒であって、
Cu-CHA型ゼオライトは、シリカアルミナ比(SAR)が20.0以下であり、かつ、バリウムでイオン交換されている、
排ガス浄化触媒である。
【0013】
本発明の排ガス浄化触媒では、SARが20.0以下のCu-CHA型ゼオライトを用いる。上述したとおり、SARが低いCu-ゼオライトは、低温領域におけるNOx浄化能に優れる。本発明では、Cu-CHA型ゼオライトのSARを20.0以下に限定することにより、低温領域のNOx浄化能が特に高められている。
【0014】
また、本発明の排ガス浄化触媒では、上記のような低SARのCu-CHA型ゼオライトが、更にバリウム(Ba)でイオン交換されている。このことにより、本発明の排ガス浄化触媒は、N2Oの排出量が低減されている。
【0015】
本発明の排ガス浄化触媒において、N2Oの排出量が低減されている理由は、以下のように推察される。
【0016】
SCR反応によって、NOxが浄化される機構は、以下の反応(1)及び(2)によると考えられている。
2NO+4NH3+2O2→3N2+6H2O (1)
2NO2+2NO+2NH3→3N2+3H2O (2)
【0017】
このSCR反応中に、以下の副反応(3)及び(4)が起こり、N2Oが生成すると考えられる。
2NO2+2NH3→NH4NO3+N2+H2O (3)
NH4NO3→N2O+2H2O (4)
【0018】
本発明の排ガス浄化触媒では、Baが上記副反応(3)の左辺に現れるNO2をトラップして、NH4NO3の生成量を低減し、副反応(4)の進行を抑制することにより、N2Oの生成が抑制されるものと考えられる。
【0019】
〈Cu-CHA型ゼオライト〉
本発明の排ガス浄化触媒は、Cu-CHA型ゼオライトを含む。「Cu-CHA型ゼオライト」とは、構造コード「CHA」で示されるチャバサイト型のゼオライトを、Cuでイオン交換したものである。
【0020】
本発明の排ガス浄化触媒では、Cu-CHA型ゼオライトのシリカアルミナ比(SAR)は、20.0以下である。SARが20以下のCu-CHA型ゼオライトを用いることにより、SCR反応によるNOx浄化率、特に低温領域におけるNOx浄化率が高いものとなる。このSARの値は、ゼオライト中のシリカ(SiO2)のモル量と、アルミナ(Al2O3)のモル量との比(SiO2/Al2O3)として示される。
【0021】
本発明の排ガス浄化触媒におけるCu-CHA型ゼオライトのSARは、NOx浄化率を高くする観点から、18以下、16以下、15以下、12以下、10以下、8以下、又は6以下であってよい。一方で、SARが低すぎると、ゼオライトの合成が困難となり、触媒コストの過度の上昇を招く場合がある。このような事態を回避するため、Cu-CHA型ゼオライトのSARは、4以上、6以上、8以上、又は10以上であってよい。
【0022】
Cu-CHA型ゼオライトにおけるCu量は、本発明の排ガス浄化触媒のSCR活性を高くする観点から、Cu-CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.10mol/mol-Al以上、0.15mol/mol-Al以上、0.20mol/mol-Al以上、0.25mol/mol-Al以上、又は0.30mol/mol-Al以上であってよい。
【0023】
Cu-CHA型ゼオライトにおけるCu量の上限については、SCR活性の観点らの制限はない。しかしながら、Cu-CHA型ゼオライト中のCu量を過度に増やしても、SCR活性が無制限に上昇するわけではない。したがって、排ガス浄化触媒の製造コストを適正に維持する観点から、Cu-CHA型ゼオライトにおけるCu量は、Cu-CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.50mol/mol-Al以下、0.45mol/mol-Al以下、0.40mol/mol-Al以下、0.35mol/mol-Al以下、0.30mol/mol-Al以下、又は0.25mol/mol-Al以下であってよい。
【0024】
本発明の排ガス浄化触媒では、CHA型ゼオライトに、Cuとともに、Cu以外のイオン(ただしBaを除く)がイオン交換されていてもよい。しかしながら本発明の排ガス浄化触媒では、高度のSCR活性を発現する観点からは、ドープイオン中のCuの割合は、高い方が望ましい。本発明の排ガス浄化触媒では、CHA型ゼオライトにドープされた全イオン中のCuの割合は、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、若しくは99質量%以上であってよく、又は100質量%であってもよい。
【0025】
本発明の排ガス浄化触媒は、上記のようなCu-CHA型ゼオライトが、更に、Baでイオン交換されている。Baは、NO2を吸着し、上述の副反応(3)の左辺に現れるNO2をトラップして、NH4NO3の生成量を低減し、副反応(4)の進行を抑制することにより、N2Oの生成を抑制する機能を担う。この機能を有効に発現させるため、本発明の排ガス浄化触媒におけるBaの量は、Cu-CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.01mol/mol-Al以上、0.05mol/mol-Al以上、0.10mol/mol-Al以上、0.15mol/mol-Al以上、又は0.20mol/mol-Al以上であってよい。
【0026】
一方で、排ガス浄化触媒の製造コストを適正に維持し、かつ、CuのSCR活性を損なわないとの観点から、本発明の排ガス浄化触媒におけるBaの量は、Cu-CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対して、0.50mol/mol-Al以下、0.40mol/mol-Al以下、0.30mol/mol-Al以下、0.25mol/mol-Al以下、又は0.20mol/mol-Al以下であってよい。
【0027】
本発明の排ガス浄化触媒は、上記のとおり、Cu-CHA型ゼオライトが、更に、Baでイオン交換されているものである。本発明の排ガス浄化触媒は、Cu及びBa以外に、貴金属を含んでいてもよい。この貴金属は、本発明の排ガス浄化触媒に担持されていてよい。
【0028】
本発明の排ガス浄化触媒に含まれる貴金属は、白金族元素から選択されてよく、特に、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、及びロジウム(Rh)から選択されてよい。
【0029】
上記のような本発明の排ガス浄化触媒は、SCR触媒として好適である。
【0030】
《排ガス浄化触媒の製造方法》
本発明の排ガス浄化触媒は、例えば、
SARが20.0以下のCu-CHA型ゼオライト、及びバリウム源を混合して混合物を得ること、並びに
得られた混合物を焼成すること
を含む、方法によって製造されてよい。
【0031】
SARが20.0以下のCu-CHA型ゼオライトは、SARが20.0以下のCHA型ゼオライトを、Cuイオンでイオン交換することにより、製造されてよい。このイオン交換は、SARが20.0以下のCHA型ゼオライトと、Cuイオン源とを、適当な溶媒中(例えば水中)で接触させることにより、行われてよい。または、SARが20.0以下のCHA型ゼオライトと、Cuイオン源とを、乳鉢中で混合させることにより行われてよい。Cuイオン源は、例えば、酢酸銅、硫酸銅等の、溶媒可能な塩であってよい。
【0032】
バリウム源は、例えば、酢酸バリウム、硫酸バリウム、硝酸バリウム、水酸化バリウム等から選択される1種又は2種以上であってよく、好ましくは酢酸バリウムである。
【0033】
SARが20.0以下のCu-CHA型ゼオライトと、バリウム源との混合は、乾式混合、及び湿式混合のどちらでもよい。湿式混合は、両者を適当な混合機中で混合することにより、行われてよい。湿式混合は、両者を適当な溶媒中(例えば水中)で混合することにより、行われてよい。
【0034】
SARが20.0以下のCu-CHA型ゼオライト、及びバリウム源の、乾式混合又は湿式混合によって得られた混合物は、次いで、これを焼成することにより、本発明の排ガス浄化触媒が得られる。
【0035】
混合物の焼成は、公知の方法によって行われてよい。
【0036】
《排ガス浄化触媒装置》
本発明の別の観点によると、排ガス浄化触媒装置が提供される。
【0037】
本発明の排ガス浄化触媒装置は、
基材、及び基材上の触媒層を含む、排ガス浄化触媒装置であって、
触媒層が、上記に説明した本発明の排ガス浄化触媒を含む、
排ガス浄化触媒装置である。
【0038】
基材は、所望の排ガス浄化触媒装置における基材に応じて、適宜に選択されてよい。
基材の構成材料は、例えば、コージェライト、金属等であってよい。基材は、ストレートフロー型であっても、ウォールフロー型であってもよい。
【0039】
本発明の排ガス浄化触媒装置における基材は、典型的には、例えば、コージェライト製のストレートフロー型又はウォールフロー型のモノリスハニカム基材であってよい。
【0040】
本発明の排ガス浄化触媒装置における触媒層は、本発明の排ガス浄化触媒を含む。この触媒層は、本発明の排ガス浄化触媒の他に、これ以外の任意成分を含んでいてよい。触媒層の任意成分は、例えば、Cu-CHA型ゼオライト以外の無機酸化物、バインダー等であってよい。
【0041】
触媒層に含まれるCu-CHA型ゼオライト以外の無機酸化物は、例えばアルミニウム、ケイ素、チタニウム、ジルコニウム、希土類元素等から選択される1種又は2種以上の元素の酸化物であってよい。無機酸化物として、具体的には例えば、アルミナ、ジルコニア等が挙げられる。これらの無機酸化物の1種以上に、貴金属が担持されていてもよい。
【0042】
触媒層に含まれるバインダーとしては、例えば、アルミナ系バインダー、ジルコニア系バインダー、シリカ系バインダー、チタニア系バインダー等が挙げられる。
【0043】
《排ガス浄化触媒装置の製造方法》
本発明の排ガス浄化触媒装置は、任意の方法で製造されてよい。
【0044】
しかしながら、本発明の排ガス浄化触媒装置は、例えば、基材上に触媒層を形成することを含む方法によって製造されてよい。
【0045】
基材は、所望の排ガス浄化触媒装置における基材に応じて、適宜に選択されてよい。例えば、コージェライト製のストレートフロー型モノリスハニカム基材であってよい。
【0046】
この基材上に、本発明の排ガス浄化触媒を含む塗工液をコートしてコート層を形成し、得られたコート層を焼成することによって、基材上に触媒層が形成される。コート後、焼成前に、必要に応じて、コート層の乾燥を行ってもよい。
【0047】
塗工液は、本発明の排ガス浄化触媒、及び必要に応じて任意成分又はその前駆体を含んでいてよい。塗工液の溶媒は、水、若しくは水性有機溶媒、又はこれらの混合物であってよく、典型的には水である。
【0048】
塗工液のコート、並びにコート後の乾燥及び焼成は、それぞれ、公知の方法に準じて行われてよい。
【実施例】
【0049】
《比較例1》
(1)排ガス浄化触媒装置の製造
シリカアルミナ比(SAR)26.0、Al原子当たりのCu量0.08mol/mol-AlのCu-CHA型ゼオライト、シリカ系バインダー、及び水を混合して、触媒層塗工用スラリーを得た。
【0050】
見かけ容積約1Lのストレートフロー型のコージェライト製ハニカム基材に、焼成後のコート量が120g/Lとなるように、上記の触媒層塗工用スラリーを塗工し、空気中、500℃において1時間焼成することにより、排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0051】
(2)水熱耐久
得られた排ガス浄化触媒装置に、水蒸気10質量%を含む空気を流通させながら、触媒層温度650℃にて、50時間の水熱耐久を行った。
【0052】
(3)SCR性能の評価(1)
水熱耐久後の排ガス浄化触媒装置に、下記組成のモデルガスを、空間速度80,000h-1にて供給して、流通させながら、触媒層温度300℃におけるN2O排出量及びNOx浄化率を評価した。これらの量の評価は、組成が安定した後の排出ガスの組成に基づいて、以下の基準により行った。
N2O排出量:組成が安定した後の排出ガス中のN2O濃度(ppm)
NOx浄化率(%):{1-(排出ガス中のNOx濃度(ppm)/供給ガス中のNOx濃度(ppm)}×100
【0053】
上記における濃度単位「ppm」は、モル基準の百万分率である。
【0054】
モデルガスの組成を、表1に示す。
【0055】
【0056】
《比較例2及び3》
Cu-CHA型ゼオライトとして、SAR及びCu量が、それぞれ、表2に記載の値のCu-CHA型ゼオライトを用いた他は、比較例1と同様にして、排ガス浄化触媒装置を製造し、水熱耐久を行ったうえで、N2O排出量及びNOx浄化率の評価を行った。
【0057】
以上の結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
表2を参照すると、Cu-CHA型ゼオライトのSARが26.0と大きい比較例1の排ガス浄化触媒装置では、N2O生成量は3.4ppmと少ないものの、NOx浄化率も84%と低かった。これに対して、SARが15.0のCu-CHA型ゼオライトを用いた比較例2、及びSARが7.5のCu-CHA型ゼオライトを用いた比較例3では、NOx浄化率は92%と高かったが、N2O生成量は、9.6ppm又は12.7ppmまで上昇していた。
【0060】
これらのことから、本発明は、SARが20.0程度以下のCu-CHA型ゼオライトにおいて、高いNOx浄化率を維持しつつ、N2O生成量の低減を目的とすることが適切であることが確認された。
【0061】
〈SAR7.5のCu-CHA型ゼオライトの検討〉
《実施例1》
(1)排ガス浄化触媒装置の製造
比較例3で用いたのと同じ、SAR7.5、Al原子当たりのCu量0.22mol/mol-AlのCu-CHA型ゼオライト、及び酢酸バリウムを、乳鉢中で30分間混合した。得られた混合物を、空気中、500℃にて3時間焼成して、バリウムでイオン交換されているCu-CHA型ゼオライト(Ba/Cu-CHA)を得た。酢酸バリウムの使用量は、Cu-CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対するバリウム原子の量が、Ba/Al=0.05(mol/mol)となる量とした。
【0062】
Cu-CHA型ゼオライトの代わりに、上記で得られたBa/Cu-CHAを使用した他は、比較例1と同様にして、排ガス浄化触媒装置を製造し、水熱耐久を行ったうえで、N2O排出量及びNOx浄化率の評価を行った。
【0063】
《実施例2、3、5、及び6、並びに比較例4~10》
酢酸バリウムの代わりに、表3に記載の種類及び量の金属源をそれぞれ用いた他は、実施例1と同様にして、排ガス浄化触媒装置を製造し、水熱耐久を行ったうえで、N2O排出量及びNOx浄化率の評価を行った。
【0064】
表3に記載の金属源の量は、ゼオライト中のAl原子1モルに対する金属原子換算量である。金属源としては、金属の種類に応じて、それぞれ、以下の化合物を使用した。
K:硝酸カリウム
Na:硝酸ナトリウム
Ba:酢酸バリウム
Ca:硝酸カルシウム
Sr:硝酸ストロンチウム
La:硝酸ランタン
【0065】
以上の結果を表3に示す。
【0066】
《実施例4》
比較例3で用いたのと同じ、SAR7.5、Al原子当たりのCu量0.22mol/mol-AlのCu-CHA型ゼオライト、及び酢酸バリウム、並びに純水を混合したスラリーとした。酢酸バリウムの使用量は、Cu-CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対するバリウム原子の量が、Ba/Al=0.12(mol/mol)となる量とした。
【0067】
得られたスラリーを、室温にて3時間撹拌した後、100℃で一晩、乾燥した後、500℃にて1時間焼成することにより、バリウムでイオン交換されたCu-CHA型ゼオライト(Ba/Cu-CHA)を得た。
【0068】
Cu-CHA型ゼオライトの代わりに、上記で得られたBa/Cu-CHAを使用した他は、比較例1と同様にして、排ガス浄化触媒装置を製造し、水熱耐久を行ったうえで、N2O排出量及びNOx浄化率の評価を行った。結果を表3に示す。
【0069】
【0070】
表3を参照すると、Cu-CHA型ゼオライトを、アルカリ金属でイオン交換した比較例4及び5、並びにバリウム以外のアルカリ土類金属でイオン交換した比較例6~9の排ガス浄化触媒では、NOx浄化率は維持され、又は若干向上するものの、N2O生成量の低減効果は不十分であった。また、Cu-CHA型ゼオライトをランタンでイオン交換した比較例10の排ガス浄化触媒は、NOx浄化率が若干損なわれるとともに、N2O生成量の低減効果も不十分であった。
【0071】
これに対して、Cu-CHA型ゼオライトにバリウムをイオン交換した実施例1~6の排ガス浄化触媒では、NOx浄化率は維持され、又は向上するとともに、N2O生成量の低減効果も大きかった。特に、バリウムの量が、ゼオライト中のAl原子1モルに対して0.07モル以上であるとき、特に0.10モル以上であるときには、顕著なN2O生成量低減効果を示すことが検証された。
【0072】
〈SAR15.0のCu-CHA型ゼオライトの検討〉
《実施例7》
比較例2で用いたのと同じ、SAR15.0、Al原子当たりのCu量0.30mol/mol-AlのCu-CHA型ゼオライト、及び酢酸バリウムを、乳鉢中で30分間混合した。得られた混合物を、空気中、500℃にて1時間焼成して、バリウムを添加したCu-CHA型ゼオライト(Ba/Cu-CHA)を得た。酢酸バリウムの使用量は、Cu-CHA型ゼオライト中のAl原子1モルに対するバリウム原子の量が、Ba/Al=0.10(mol/mol)となる量とした。
【0073】
Cu-CHA型ゼオライトの代わりに、上記で得られたBa/Cu-CHAを使用した他は、比較例1と同様にして、排ガス浄化触媒装置を製造し、水熱耐久を行ったうえで、N2O排出量及びNOx浄化率の評価を行った。
【0074】
得られた評価結果を、上記比較例2の評価結果とともに、表4に示す。
【0075】
【0076】
表4の結果から、SARが15.0のCu-CHAを用いた場合でも、バリウムでイオン交換された排ガス浄化触媒装置(実施例7)では、Baでイオン交換されていない排ガス浄化触媒装置(比較例2)が示した高度のNOx浄化率が維持されつつ、N2O生成量が低減されることが確認された。
【0077】
〈SCR性能の評価(2)〉
上記の比較例3及び実施例3でそれぞれ製造した排ガス浄化触媒装置について、モデルガスの組成を、下記表5のように変更した他は、上述の「SCR性能の評価(1)」と同様にして、触媒層温度300℃におけるN2O排出量を評価した。結果を表6に示す。
【0078】
【0079】
【0080】
排ガス中のNOとNO2との存在割合は、運転状況によって刻々変化する。
【0081】
上掲の表2~表4と、表6とを合わせて参照することにより、本発明の排ガス浄化触媒、及びこれを含む触媒層を有する排ガス浄化触媒装置が、運転状況の幅広い範囲にわたって、N2O生成量が低減されたものであることが検証された。
【要約】
【課題】NOxの浄化効率が十分に高く、かつ、N2Oの生成量が少ない、排ガス浄化触媒を提供すること。
【解決手段】Cu-CHA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒であって、前記Cu-CHA型ゼオライトは、シリカアルミナ比(SAR)が20.0以下であり、かつ、バリウムでイオン交換されている、排ガス浄化触媒。
【選択図】なし