IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 寧徳新能源科技有限公司の特許一覧

特許7206379負極材料及びそれを含む電気化学デバイス並びに電子機器
<>
  • 特許-負極材料及びそれを含む電気化学デバイス並びに電子機器 図1
  • 特許-負極材料及びそれを含む電気化学デバイス並びに電子機器 図2
  • 特許-負極材料及びそれを含む電気化学デバイス並びに電子機器 図3
  • 特許-負極材料及びそれを含む電気化学デバイス並びに電子機器 図4
  • 特許-負極材料及びそれを含む電気化学デバイス並びに電子機器 図5
  • 特許-負極材料及びそれを含む電気化学デバイス並びに電子機器 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】負極材料及びそれを含む電気化学デバイス並びに電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20230110BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230110BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230110BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230110BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230110BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230110BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20230110BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20230110BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20230110BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20230110BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/36 C
H01M4/13
H01M4/66 A
H01M4/587
H01M4/36 E
H01M4/62 Z
H01G11/24
H01G11/26
H01G11/68
H01G11/86
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021517941
(86)(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 CN2019121736
(87)【国際公開番号】W WO2021102847
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】易 ▲ティン▼
(72)【発明者】
【氏名】崔 航
(72)【発明者】
【氏名】謝 遠森
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-164870(JP,A)
【文献】特開2018-147672(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110034284(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109841814(CN,A)
【文献】特開2012-227154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/66
H01G 11/24
H01G 11/26
H01G 11/68
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素含有粒子を含む負極材料であって、
前記ケイ素含有粒子は、
ケイ素酸化物SiO(ただし、xが0.5~1.6である。)と、
前記ケイ素酸化物SiOの表面の少なくとも一部を被覆する炭素層と、を含み、
前記ケイ素含有粒子は、ラマンスペクトルにおいて、1350cm-1におけるピークの高さI1350 と1580cm-1におけるピークの高さI1580との比の値が、2.5≦1350/I1580 <5を満たし、且つ、510cm-1におけるピークの高さI510 と1350cm-1におけるピークの高さI1350との比の値が、2.3≦510/I1350 <12を満たす、
負極材料。
【請求項2】
前記ケイ素酸化物SiOは、SiO、SiO、Siナノ結晶粒子又はそれらの組み合わせを含む、
請求項1に記載の負極材料。
【請求項3】
前記ケイ素含有粒子の比表面積は、2.5~15m/gである、
請求項1に記載の負極材料。
【請求項4】
前記炭素層の厚さは、3~40nmである、
請求項1に記載の負極材料。
【請求項5】
前記ケイ素含有粒子の平均粒子径は、500nm~30μmである、
請求項1に記載の負極材料。
【請求項6】
集電体と前記集電体に位置するコート層を含む負極であって、
前記コート層は、ケイ素含有粒子を含み、
前記ケイ素含有粒子は、
ケイ素酸化物SiO(ただし、xが0.5~1.5である。)と、
前記ケイ素酸化物SiOの表面の少なくとも一部を被覆する炭素層とを含み、
前記ケイ素含有粒子は、ラマンスペクトルにおいて、1350cm-1におけるピークの高さI1350 と1580cm-1におけるピークの高さI1580との比の値が、2.5≦1350/I1580 <5を満たし、且つ、510cm-1におけるピークの高さI510 と1350cm-1におけるピークの高さI1350との比の値が、2.3≦510/I1350 <12を満たす、
負極。
【請求項7】
前記集電体は、銅、アルミニウム、ニッケル、銅合金、アルミニウム合金、ニッケル合金又はそれらの任意の組み合わせを含む、
請求項6に記載の負極。
【請求項8】
前記コート層は、黒鉛粒子をさらに含み、
前記ケイ素含有粒子の総個数に対する、前記黒鉛粒子と密に隣り合うケイ素含有粒子の個数の割合は、40%以上であり、
前記ケイ素含有粒子と隣り合う黒鉛粒子との間の距離は、500nm以下である、請求項6に記載の負極。
【請求項9】
前記コート層のX線回折パターンは、004回折線図形及び110回折線図形を含み、 前記004回折線図形により得られる単位格子長のc軸長(C004)と、前記110回折線図形により得られる単位格子長のa軸長(C110)との比の値(C004/C110)を、前記コート層のOI値とし、前記OI値が7.5<OI<18を満たす、請求項8に記載の負極。
【請求項10】
前記ケイ素含有粒子の比表面積は、2.5~15m/gである、
請求項6に記載の負極。
【請求項11】
前記ケイ素含有粒子と前記黒鉛粒子との重量比は、0.07~0.7である、
請求項8に記載の負極。
【請求項12】
前記炭素層の厚さは、3~40nmである、
請求項6に記載の負極。
【請求項13】
前記コート層は、結合剤をさらに含み、
前記結合剤は、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレン-ブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリム、カルボキシメチルセルロースカリウム又はそれらの任意の組み合わせを含む、
請求項6に記載の負極。
【請求項14】
前記コート層と前記集電体との間の剥離強度は、20N/m以上である、
請求項6に記載の負極。
【請求項15】
請求項6~14のいずれか1項に記載の負極を含む電気化学デバイス。
【請求項16】
リチウムイオン電池である請求項15に記載の電気化学デバイス。
【請求項17】
請求項15に記載の電気化学デバイスを含む電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関し、具体的に、負極材料及びそれを含む電気化学デバイス並びに電子機器、特にリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコン、携帯電話、タブレットコンピュータ、ポータブル電源及び無人機等の家電製品の普及に伴い、その中の電気化学デバイスに対する要求はますます高まってきている。例えば、電池は、軽量だけでなく、高容量と長い寿命も求められている。リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、安全性が高く、メモリ効果がなく、寿命が長いなどの際立った利点を有しているため、既に市場で主流を占めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の実施例は、負極材料及び該負極材料を製造する方法を提供する。これにより、関連分野に存在する少なくとも1つの課題を少なくともある程度解決しようとする。本発明の実施例は、該負極材料を用いる負極、電気化学デバイス及び電子機器をさらに提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの実施例において、本発明は、ケイ素含有粒子を含む負極材料であって、
前記ケイ素含有粒子は、
ケイ素酸化物SiO(ただし、xが0.5~1.6である。)と、
前記ケイ素酸化物SiOの表面の少なくとも一部を被覆する炭素層と、を含み、
前記ケイ素含有粒子は、ラマンスペクトルにおいて、約1350cm-1におけるピークの高さI1350と約1580cm-1におけるピークの高さI1580との比の値が、約0<I1350/I1580<約5を満たし、且つ、約510cm-1におけるピークの高さI510と約1350cm-1におけるピークの高さI1350の比の値が、約0<I510/I1350<約12を満たす、負極材料を提供する。
【0005】
別の実施例において、本発明は、集電体と前記集電体に位置するコート層を含む負極であって、
前記コート層は、ケイ素含有粒子を含み、
前記ケイ素含有粒子は、
ケイ素酸化物SiO(ただし、xが0.5~1.6である。)と、
前記ケイ素酸化物SiOの表面の少なくとも一部を被覆する炭素層とを含み、
前記ケイ素含有粒子は、ラマンスペクトルにおいて、約1350cm-1におけるピークの高さI1350と約1580cm-1におけるピークの高さI1580との比の値が、約0<I1350/I1580<約5を満たし、且つ、約510cm-1におけるピークの高さI510と約1350cm-1におけるピークの高さI1350の比の値が、約0<I510/I1350<約12を満たす、負極を提供する。
【0006】
別の実施例において、本発明は、集電体と前記集電体に位置するコート層を含む負極であって、
前記コート層は、ケイ素酸化物SiO(ただし、xが0.5~1.6である。)を含むケイ素含有粒子と、黒鉛粒子とを含み、
前記ケイ素含有粒子の総個数に対する、前記黒鉛粒子と密に隣り合うケイ素含有粒子の個数の割合は、約40%以上であり、
前記ケイ素含有粒子と隣り合う黒鉛粒子との間の距離は、約500nm以下である、負極を提供する。
【0007】
別の実施例において、本発明は、集電体と前記集電体に位置するコート層を含む負極であって、
前記コート層は、ケイ素酸化物SiO(ただし、xが0.5~1.6である。)を含むケイ素含有粒子と、黒鉛粒子とを含み、
前記コート層のX線回折パターンは、004回折線図形及び110回折線図形を含み、
前記004回折線図形により得られる単位格子長のc軸長(C004)と、前記110回折線図形により得られる単位格子長のa軸長(C110)との比の値(C004/C110)を、前記炭素コート層のOI値とし、前記OI値が約7.5<OI<約18を満たす、負極を提供する。
【0008】
別の実施例において、本発明は、負極材料の製造方法であって、
希ガス雰囲気でケイ素酸化物SiOを約200~1500℃に加熱すること、
炭素源ガスを導入し、約200~1500℃で約30~120分間加熱し、固体を得ること、
前記固体を粉砕し、篩分けすることを含む、方法を提供する。
(ここで、xは0.5~1.5である。)
【0009】
別の実施例において、本発明は、本発明の実施例に記載の負極を含む電気化学デバイスを提供する。
【0010】
別の実施例において、本発明は、本発明の実施例に記載の電気化学デバイスを含む電子機器を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ケイ素系負極活物質材料の特性(例えば、I1350/I1580とI510/I1350の数値)の制御と、負極の組成の最適化により、リチウムイオン電池の初回効率、サイクル特性とレート特性を向上させる。
【0012】
本発明の実施例の追加の態様および利点は、後続の説明で部分的に説明、表示されるか、または本発明の実施例の実施によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下、本発明の実施例に対する説明を容易にするために、本発明の実施例や従来技術を説明するために必要な図面を簡単に説明する。明らかに、以下に説明する図面は、本発明の一部の実施例だけに係るものである。当業者にとって、他の実施例の図面は、創造的な努力なしでもこれらの図面に示されている構造に基いて得ることが依然としてできる。
図1】本発明の実施例4におけるケイ素系負極活物質材料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図2】本発明の実施例1における新規負極の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図3】本発明の実施例3における新規負極の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図4】本発明の実施例5における新規負極の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図5】本発明の実施例3におけるケイ素系負極活物質材料のラマンスペクトルを示す図である。
図6】本発明の実施例3と比較例1のリチウムイオン電池のサイクル曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。なお、本発明の実施例は、本発明を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0015】
本発明で使用されるように、「約」という用語は、小さな変化を記述し説明するために使用される。イベントや状況と組み合わせて使用される場合、前記用語は、前記イベントや前記状況がまさに発生する例、および前記イベントや状況が非常に近く発生する例を指すことができる。例えば、数値と組み合わせて使用される場合、前記用語は、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、±0.05%以下など、前記数値の±10%以下の変動範囲を指すことができる。
【0016】
また、本発明では、量、比率、その他の数値を範囲形式で記載する場合がある。なお、このような範囲形式は、便宜上および簡潔のために用いられ、柔軟性をもって解釈されるべきであり、範囲を制限する明記される数値だけでなく、前記範囲内にある全ての各数値やサブ範囲を、各値やサブ範囲が明記されるように含む。
【0017】
発明を実施するための形態及び特許請求の範囲において、用語「のうちの一方」、「のうちの一つ」、「のうちの一種」又は他の類似用語で接続された項目のリストは、列挙された項目のうちのいずれかを意味することができる。例えば、項目A及びBを列挙する場合、フレーズ「A及びBのうちの一方」はAのみ又はBのみを意味する。別の例において、項目A、B及びCを列挙する場合、フレーズ「A、B及びCのうちの一つ」はAのみ、Bのみ、又はCのみを意味する。項目Aは、単一の要素又は複数の要素を含んでもよい。項目Bは、単一の要素又は複数の要素を含んでもよい。項目Cは、単一の要素又は複数の要素を含んでもよい。
【0018】
発明を実施するための形態及び特許請求の範囲において、用語「のうちの少なくとも一方」、「のうちの少なくとも一つ」、「のうちの少なくとも一種」、又は他の類似用語で接続された項目のリストは、列挙された項目の任意の組み合わせを意味することができる。例えば、項目A及びBを列挙する場合、フレーズ「A及びBのうちの少なくとも一方」はAのみ、Bのみ、又はA及びBを意味する。別の例において、項目A、B及びCを列挙する場合、フレーズ「A、B及びCのうちの少なくとも一つ」はAのみ、又はBのみ、Cのみ、A及びB(Cを排除する)、A及びC(Bを排除する)、B及びC(Aを排除する)、又はA、B及びCの全てを意味する。項目Aは、単一の要素又は複数の要素を含んでもよい。項目Bは、単一の要素又は複数の要素を含んでもよい。項目Cは、単一の要素又は複数の要素を含んでもよい。
【0019】
一.負極
いくつかの実施例において、本発明は、ケイ素含有粒子を含む負極材料であって、前記ケイ素含有粒子は、xが0.5~1.6であるケイ素酸化物SiOと、前記ケイ素酸化物SiOの表面の少なくとも一部を被覆する炭素層とを含み、前記ケイ素含有粒子は、ラマンスペクトルにおいて、約1350cm-1におけるピークの高さI1350と約1580cm-1におけるピークの高さI1580との比の値が、約0<I1350/I1580<約5を満たし、且つ510cm-1におけるピークの高さI510と約1350cm-1におけるピークの高さI1350の比の値が、約0<I510/I1350<約12を満たす、負極材料を提供する。
【0020】
いくつかの実施例において、本発明は、集電体と、前記集電体に位置するコート層を含む負極であって、前記コート層は、ケイ素含有粒子を含み、前記ケイ素含有粒子は、xが0.5~1.5であるケイ素酸化物SiOと、前記ケイ素酸化物SiOの表面の少なくとも一部を被覆する炭素層とを含み、前記ケイ素含有粒子は、ラマンスペクトルにおいて、約1350cm-1におけるピークの高さI1350と約1580cm-1におけるピークの高さI1580との比の値が、0<I1350/I1580<5を満たし、且つ約510cm-1におけるピークの高さI510と約1350cm-1におけるピークの高さI1350の比の値が、0<I510/I1350<12を満たす、負極を提供する。
【0021】
いくつかの実施例において、前記コート層は、黒鉛粒子をさらに含有し、前記ケイ素含有粒子の総個数に対する、前記黒鉛粒子と密に隣り合うケイ素含有粒子の個数の割合は、約40%以上であり、且つ前記ケイ素含有粒子と隣り合う黒鉛粒子との間の距離は、約500nm以下である。
【0022】
いくつかの実施例において、本発明は、集電体と前記集電体に位置するコート層を含む負極であって、前記コート層は、xが0.5~1.5であるケイ素酸化物SiOを含むケイ素含有粒子と黒鉛粒子とを含み、前記ケイ素含有粒子の総個数に対する、前記黒鉛粒子と密に隣り合うケイ素含有粒子の個数の割合は、約40%以上であり、且つ前記ケイ素含有粒子と隣り合う黒鉛粒子との間の距離は、約500nm以下である、負極を提供する。
【0023】
いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子は、前記ケイ素酸化物SiOの表面の少なくとも一部を被覆する炭素層をさらに含む。
【0024】
いくつかの実施例において、前記コート層のX線回折パターンは、004回折線図形及び110回折線図形を含み、前記004回折線図形により得られる単位格子長におけるc軸長(C004)と、前記110回折線図形により得られる単位格子長におけるa軸長(C110)との比の値(C004/C110)を、前記炭素コート層のOI値とし、前記OI値が約7.5<OI<約18を満たす。
【0025】
いくつかの実施例において、本発明は、集電体と前記集電体に位置するコート層を含む負極であって、前記コート層は、xが0.5~1.5であるケイ素酸化物SiOを含むケイ素含有粒子と黒鉛粒子とを含み、前記コート層のX線回折パターンは、004回折線図形及び110回折線図形を含み、前記004回折線図形により得られる単位格子長のc軸長(C004)と、前記110回折線図形により得られる単位格子長のa軸長(C110)との比の値(C004/C110)を、前記炭素コート層のOI値とし、前記OI値が約7.5<OI<約18を満たす、負極を提供する。
【0026】
いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子は、ラマンスペクトルにおいて、約1350cm-1におけるピークの高さI1350と約1580cm-1におけるピークの高さI1580との比の値が、約0<I1350/I1580<約5を満たし、且つ約510cm-1におけるピークの高さI510と約1350cm-1におけるピークの高さI1350の比の値が、約0<I510/I1350<約12を満たす。
【0027】
いくつかの実施例において、I1350/I1580の値は、約1~4である。いくつかの実施例において、I1350/I1580の値は、約0.3、約0.5、約1、約1.2、約1.5、約1.8、約2.5、約3、約3.5、約4.5、約4.8、又はこれらの任意の2つの数値からなる範囲である。
【0028】
いくつかの実施例において、I510/I1350の値は、約2~10である。いくつかの実施例において、I510/I1350の値は、約2.5、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約5.5、約6、約6.5、約7、約7.5、約8、約9、約10、約11、又はこれらの任意の2つの数値からなる範囲である。
【0029】
いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子の総個数に対する、前記黒鉛粒子と密に隣り合うケイ素含有粒子の個数の割合は、約40%以上である。いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子の総個数に対する、前記黒鉛粒子と密に隣り合うケイ素含有粒子の個数の割合は、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、又はこれらの任意の2つの数値からなる範囲である。
【0030】
いくつかの実施例において、ケイ素含有粒子と黒鉛粒子が密に隣り合うとは、前記ケイ素含有粒子と隣り合う黒鉛粒子との間の距離が約5nm以下であるか、又はケイ素含有粒子と隣接黒鉛粒子が直接接触することを意味する。いくつかの実施例において、ケイ素含有粒子と黒鉛粒子が密に隣り合うとは、前記ケイ素含有粒子と黒鉛粒子との間の距離が約4nm以下、約3nm以下又は約2nm以下であることを意味する。
【0031】
いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子と隣り合う黒鉛粒子との間の距離は、約500nm以下である。いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子と隣り合う黒鉛粒子との間の距離は、約400nm以下、約300nm以下、約200nm以下、約100nm以下である。
【0032】
いくつかの実施例において、ケイ素含有粒子と黒鉛粒子が密に隣接しない状態であるとは、前記ケイ素含有粒子と隣り合う黒鉛粒子との間の距離が約5nmよりも大きいことを意味する。
【0033】
いくつかの実施例において、前記OI値は、約7.5<OI<約18を満たす。いくつかの実施例において、前記OI値は、約8<OI<約15を満たす。いくつかの実施例において、前記OI値は、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、又はこれらの任意の2つの数値からなる範囲である。
いくつかの実施例において、前記ケイ素酸化物SiOとしては、SiO、SiO、Siナノ結晶粒子又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0034】
いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子の比表面積は、約2.5~15m/gである。いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子の比表面積は、約5~10m/gである。いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子の比表面積は、約3m/g、約4m/g、約6m/g、約8m/g、約10m/g、約12m/g、約14m/g、又はこれらの任意の2つの数値からなる範囲である。
【0035】
いくつかの実施例において、前記炭素層の厚さは、約3~40nmである。いくつかの実施例において、前記炭素層の厚さは、約5~35nmである。いくつかの実施例において、前記炭素層の厚さは、約10nm、約15nm、約20nm、約25nm、約30nm、約30nm、又はこれらの任意の2つの数値からなる範囲である。
【0036】
いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子の平均粒子径は、約500nm~30μmである。いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子の平均粒子径は、約1μm~25μmである。いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子の平均粒子径は、約5μm、約10μm、約15μm、約20μm、又はこれらの任意の2つの数値からなる範囲である。
【0037】
いくつかの実施例において、前記集電体は、銅、アルミニウム、ニッケル、銅合金、アルミニウム合金、ニッケル合金又はそれらの組み合わせを含む。
【0038】
いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子と前記黒鉛粒子の重量比は、約0.07~0.7である。いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子と前記黒鉛粒子の重量比は、約0.1~0.6である。いくつかの実施例において、前記ケイ素含有粒子と前記黒鉛粒子の重量比は、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、又はこれらの任意の2つの数値からなる範囲である。
【0039】
いくつかの実施例において、前記コート層は、結合剤をさらに含む。前記結合剤としては、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレン-ブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリム、カルボキシメチルセルロースカリウム又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0040】
いくつかの実施例において、前記コート層は、導電剤をさらに含む。前記導電剤としては、導電カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、導電黒鉛、グラフェン又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0041】
いくつかの実施例において、前記コート層と前記集電体との間の剥離強度は、約20N/m以上である。いくつかの実施例において、前記コート層と前記集電体との間の剥離強度は、約30N/m以上である。いくつかの実施例において、前記コート層と前記集電体との間の剥離強度は、約50N/m以上である。
【0042】
いくつかの実施例において、本発明は、負極材料の製造方法であって、
(1)希ガス雰囲気中でケイ素酸化物SiOを約200~1500℃に加熱すること、
(2)炭素源ガスを導入し、約200~1500℃で約30~120分間加熱して、固体を得ること、
(3)前記固体を粉砕し、篩分けすることを含む、方法を提供する。
(ここで、xは0.5~1.5である。)
【0043】
いくつかの実施例において、加熱温度は、約300~1200℃である。いくつかの実施例において、加熱温度は、約350℃、約400℃、約500℃、約600℃、約700℃、約800℃、約900℃、約1100℃、約1200℃、約1300℃、約1400℃又はこれらの任意の2つの数値からなる範囲である。
【0044】
いくつかの実施例において、加熱時間は、約40~100分間である。いくつかの実施例において、加熱時間が、約50分間、約60分間、約70分間、約80分間、約90分間、約100分間、約110分間又はこれらのうちの任意の2つの数値からなる範囲。
【0045】
いくつかの実施例において、希ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0046】
いくつかの実施例において、炭素源ガスとしては、CH、C、C、C、C又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0047】
いくつかの実施例において、負極は、溶媒中で負極活物質材料、導電性材料と接着剤を混合して、活物質材料組成物を製造し、前記活物質材料組成物を集電体に塗布する方法で、取得することができる。
【0048】
いくつかの実施例において、溶媒としては、N-メチルピロリドンが挙げられるがこれに限定されない。
【0049】
シリコン材は、質量当たり容量の理論値(4200mAh/g)が高く、リチウムイオン電池分野における応用が将来的に期待されている。しかし、シリコン材は、充放電サイクル過程において、Liイオンの吸蔵・放出に伴い、体積が大きく変化し、ケイ素系材料が粉化して集電体から脱離し、それにより負極の導電性が劣化し、リチウムイオン電池のサイクル特性が低下する。
【0050】
現在、シリコン材のサイクル過程における大きな体積変化や導電性劣化を解決するための主な方法は、シリコン材ナノ化、シリコン材と黒鉛又は他の材料(金属又は非金属)との複合、及び表面被覆等である。ナノシリコン材は比表面積が大きいため、固体電解質界面(solid electrolyte interface, SEI)膜を形成するのにより多くの電解質を消費し、それにより初回クーロン効率が低くなる。さらに、ナノシリコン材の製造は、困難で高価である。これらの一連の課題で、ナノシリコン材のさらなる応用が制限されている。シリコン材に炭素被覆を行うことは、シリコン負極材料の導電性を向上させ、膨張を緩和することができるため、よい応用が図られる。しかし、被覆炭素層については、原料選定、厚み制御、操作温度等の面では、さらに最適化・改良する必要がある。
【0051】
ケイ素系負極活物質材料は、ラマンスペクトルにおいて約1350cm-1におけるピークが欠陥炭素を示し、ピーク値が高いほど欠陥炭素の含有量が高いことを示す。1580cm-1におけるピークは無欠陥炭素を示し、ピーク値が高いほど無欠陥炭素の含有量が高いことを示す。I1350/I1580値が小さいほど、ケイ素酸化物SiO表面を被覆する炭素層において、無欠陥炭素の割合が高く、すなわち炭素層の黒鉛化度が高いことを示す。I1350/I1580値が小さいほど、炭素層中のSPハイブリッド化炭素が多く、炭素層の間隔が減少し、被覆層の緻密性が増加することを示し、それにより比表面積が低下し、初回クーロン効率が向上する。
【0052】
図5は、本発明実施例3に係るケイ素系負極活物質材料のラマンスペクトルを示す図である。図5から分かるように、実施例3に係るケイ素系負極活物質材料は、約510cm-1、約1350cm-1、約1580cm-1におけるピーク値を有する。図1~4から分かるように、I1350/I1580が大きいほと、ケイ素系粒子と黒鉛粒子との間の距離が小さい。
【0053】
ケイ素系負極活物質は、ラマンスペクトルにおいて、約510cm-1におけるピークI510がSiを示し、ピーク値が高いほどSiの含有量が高いことを表す。I510/I1350の値が小さいほど、ケイ素酸化物SiO表面の炭素被覆層が厚くかつ均一であることを表す。
【0054】
本発明のいくつかの実施例において、約0<I1350/I1580<約5、及び約0<I510/I1350<約12を満たすようにケイ素系負極活物質材料を制御することで、製造されるリチウムイオン電池の初回効率、サイクル特性とレート特性を明らかに向上させる。
【0055】
ケイ素系負極活物質材料と黒鉛との混合物を負極活物質とする場合、ケイ素系粒子と隣り合う黒鉛粒子との間の距離が大きすぎると、初期段階で黒鉛粒子とケイ素系負極活物質材料との接触が悪く、電子輸送が阻害されることで、サイクル特性が劣化する。本発明のいくつかの実施例において、ケイ素系粒子と隣り合う黒鉛粒子との距離を約500nm以下と制御することで、リチウムイオン電池のサイクル特性をさらに向上させることができる。
【0056】
X線回折パターンは、004回折線図形及び110回折線図形を含む。前記004回折線図形により得られる単位格子長のC軸長(C004)と、前記110回折線図形により得られる単位格子長のa軸長(C110)との比の値(C004/C110)を、前記負極の配向指数(OI値と略称される)とする。
【0057】
OI値が大きいほど、負極に露出したリチウム吸蔵面が少なく、リチウムイオンの吸蔵が阻害されることを表し、それによりレート特性が劣化する。本発明のいくつかの実施例において、負極OI値を約7.5~18に制御することで、リチウムイオン電池のレート特性をさらに向上させることができる。
【0058】
二.正極
本願の実施例における正極に用いることができる材料、構成及びその製造方法は、従来技術に開示された技術のいずれを包含する。いくつかの実施例において、正極は、米国特許出願US9812739Bに記載の正極であり、該出願全体が参照により本出願に組み込まれる。
【0059】
いくつかの実施例において、正極は、集電体と、該集電体上に位置する正極活物質材料層とを含む。
【0060】
いくつかの実施例において、正極活物質材料としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、リチウムニッケルコバルトマンガン(NCM)三元系材料、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、マンガン酸リチウム(LiMn)が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0061】
いくつかの実施例において、正極活物質材料層は、接着剤をさらに含み、また導電性材料を含んでもよい。接着剤は、正極活物質材料粒子同士の結合を向上させ、そして、正極活物質材料と集電体との結合を向上させる。
【0062】
いくつかの実施例において、接着剤接着剤としては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキサイド含有ポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(1,1-ジフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン-ブタジエンゴム、アクリレート化スチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、ナイロン等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0063】
いくつかの実施例において、導電性材料としては、炭素系材料、金属系材料、導電性ポリマーおよびこれらの混合物が挙げられるが、これらに制限されない。いくつかの実施例において、炭素系材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維及びこれらの任意の組み合わせから選択される。いくつかの実施例において、金属系材料としては、金属粉末、金属繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などが挙げられる。いくつかの実施例において、導電性ポリマーは、ポリフェニレン誘導体である。
【0064】
いくつかの実施例において、集電体としては、アルミニウムが挙げられるが、これに制限されない。
【0065】
正極は、本分野で公知の製造方法により製造することができる。例えば、正極は、活物質材料、導電性材料および接着剤を溶媒に混合して活物質材料組成物を製造し、この活物質組成物を集電体上に塗布する方法により得ることができる。いくつかの実施例において、溶媒としては、N-メチルピロリドンが挙げられるが、これに制限されない。
【0066】
三.電解液
本発明の実施例に使用可能な電解液は、従来技術において知られている電解液であってもよい。
【0067】
いくつかの実施例において、前記電解液は、有機溶媒、リチウム塩及び添加剤を含む。本発明に係る電解液の有機溶媒は、従来技術において知られている電解液の溶媒として使用可能な任意のものであってもよい。本発明に係る電解液に使用される電解質は制限されず、従来技術において知られている任意のものであってもよい。本発明に係る電解液の添加剤は、従来技術において知られている電解液の添加剤として使用可能な任意のものであってもよい。
【0068】
いくつかの実施例において、前記有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート又はプロピオン酸エチルが挙げられるが、これらに制限されない。
【0069】
いくつかの実施例において、前記リチウム塩は、有機リチウム塩、無機リチウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0070】
いくつかの実施例において、前記リチウム塩としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムLiN(CFSO(LiTFSI)、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウムLi(N(SOF))(LiFSI)、リチウムビスオキサレートボレートLiB(C(LiBOB)又はリチウムジフルオロオキサラトボレートLiBF(C)(LiDFOB)が挙げられるが、これらに制限されない。
【0071】
いくつかの実施例において、前記電解液におけるリチウム塩の濃度は、約0.5~3mol/L、約0.5~2mol/L又は約0.8~1.5mol/Lである。
【0072】
四.セパレータ
いくつかの実施例において、正極と負極との間には、短絡を防止するために、セパレータを設置する。本発明の実施例に使用されるセパレータに採用可能な材料や形状については、特に制限されず、従来技術に開示されたいずれの技術であってもよい。いくつかの実施例において、セパレータは、本発明に係る電解液に対し安定な材料で形成されたポリマー又は無機物等を含む。
【0073】
例えば、セパレータは、基材層及び表面処理層を含むことができる。基材層は、多孔質構造を有する不織布、膜又は複合膜であり、基材層の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1種である。具体的には、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン多孔質膜、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布又はポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレン多孔質複合膜(英語原文:polypropylene-polyethylene-polypropylene porous composite film)を用いることができる。
【0074】
基材層の少なくとも1つの表面には、表面処理層が設けられており、表面処理層は、ポリマー層又は無機物層であってもよく、ポリマーと無機物を混合して形成された層であってもよい。
【0075】
無機物層は、無機粒子及び結合剤とを含む。無機粒子は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、二酸化ハフニウム、酸化スズ、二酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭化ケイ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び硫酸バリウムからなる群から選択される1種又は複数種の組み合わせである。結合剤は、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン及びポリヘキサフルオロプロピレンからなる群から選択される1種又は複数種の組み合わせである。
【0076】
ポリマー層にはポリマーが含まれ、ポリマーの材料は、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、アクリル酸エステル重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0077】
五.電気化学デバイス
本発明の実施例は、電気化学デバイスを提供する。前記電気化学デバイスとしては、電気化学反応を起こす任意のものが挙げられる。
【0078】
いくつかの実施例において、本発明の電気化学デバイスは、金属イオンを吸蔵・放出可能な正極活物質材料を有する正極、本発明の実施例に係る負極、電解液、及び正極と負極との間に設置されたセパレータを含む。
【0079】
いくつかの実施例において、本発明の電気化学デバイスとしては、全ての種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、コンデンサが挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0080】
いくつかの実施例において、前記電気化学デバイスは、リチウム二次電池である。
【0081】
いくつかの実施例において、リチウム二次電池としては、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0082】
六.電子機器
本発明に係る電子機器は、本発明の実施例に係る電気化学デバイスを使用した任意のものであってもよい。
【0083】
いくつかの実施例において、前記電子機器としては、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用大型蓄電池、リチウムイオンキャパシタ等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0084】
以下、リチウムイオン電池を例にして具体的な実施例を参照しながらリチウムイオン電池の製造を説明する。本発明に記載の製造方法は、一例に過ぎず、他の適切な製造方法もいずれも本発明の範囲内にあることは、当業者には理解すべきである。
実施例
【0085】
以下、本発明に係るリチウムイオン電池の実施例及び比較例の性能評価について説明する。但し、実施例3~10は参考例である。
【0086】
一.試験方法
1.Raman試験:ラマンスペクトル測定では、Jobin Yvon LabRAM HRスペクトロメータを採用し、光源を532nmとし、試験範囲が300cm-1~2000cm-1とする。
【0087】
2.走査型電子顕微鏡(SEM)試験:走査型電子顕微鏡による特性評価は、PhilipsXL-30電界放出型走査電子顕微鏡を用いて記録し、10kV、10mAの条件で行う。
【0088】
3.透過型電子顕微鏡(TEM)での被覆層厚さのテスト:透過型電子顕微鏡による特性評価は、日本電子JEOL JEM-2010透過型電子顕微鏡で行い、動作電圧を200kVとする。
【0089】
4.OI値の試験方法:
中華人民共和国機械工業規格JB/T4220-2011『人造黒鉛の格子パラメータの測定方法』に従って、負極の炭素コート層のX線回折パターンにおける004回折線図形と110回折線図形をテストする。テストの条件は、X線としてCuKα線が採用され、CuKα線がフィルタやモノクロメータにより除去され;X線管の動作電圧を(30~35)kV、動作電流を(15~20)mAとし;カウンタの走査速度を1/4(°)/minとし;004回折線図形を記録する場合、回折角2θの走査範囲を53°~57°とし;110回折線図形を記録する場合、回折角2θの走査範囲を75°~79°とする。004回折線図形により得られる単位格子長のc軸長を、C004とする。前記110回折線図形により得られる単位格子長のa軸長を、C110とする。以下の式によりOI値を算出する。
OI値=C004/C110
【0090】
5.密に隣り合う状態についてSEM試験方法:
ケイ素含有粒子の総個数に対する、黒鉛粒子と密に隣り合う状態におけるケイ素含有粒子個数の割合(以下、「R」と称する)のSEM試験方法は、下記通りである。
負極のSEM画像から異なる100μm×100μmの範囲を5つ選択する。100μm×100μmの各範囲で、ケイ素含有粒子と隣り合う黒鉛粒子との間の距離が約5nm以下であることを、密に隣り合う状態と定義する。この5つの100μm×100μmの範囲におけるすべてのケイ素含有粒子個数に対する、この5つの100μm×100μmの範囲における密に隣り合う状態におけるケイ素含有粒子の個数の割合を算出する。
【0091】
6.密に隣接しない状態についてSEM試験方法:
密に隣接しない状態におけるケイ素含有粒子と隣り合う黒鉛粒子との最大間の距離(以下、Dと称する)のSEM試験方法は、下記通りである。
負極のSEM画像から異なる100μm×100μmの範囲を5つ選択する。100μm×100μmの各範囲において、ケイ素含有粒子と隣り合う黒鉛粒子との間の距離が約5nmより大きいことを、密に隣接しない状態と定義する。100μm×100μmの各範囲において、密に隣接しない状態におけるケイ素含有粒子と隣り合う黒鉛粒子との最大粒子間距離を、それぞれ測量する。この5つの100μm×100μmの範囲において測量された最大粒子間距離の平均値を算出し、前記平均値を、密に隣接しない状態におけるケイ素含有粒子と隣り合う黒鉛粒子との最大粒子間距離とする。
【0092】
7.負極接着力試験:引張試験器を用いてケイ素含有負極の接着力を測定する。即ち、負極を15mm×2mmの大きさに裁断し、3M両面テープにより裁断された負極をステンレス鋼板に貼付し、引張試験器に置き、負極接着力を測定する。
【0093】
8.比表面積試験:低温恒温で、異なる相対圧でガスの固体表面への吸着量を測定した後、ブルナウアー-エメット-テラー吸着理論及びその式(BET式)に基づいて、試料の単分子層吸着量を求め、固体の比表面積を算出する。
粉末サンプルを約1.5~3.5g秤量してTriStar II 3020サンプル試験管に装入し、約200℃で120分間脱気した後、試験を行う。
【0094】
9.サイクル特性試験:試験温度を25℃とし、0.5Cで4.45Vまで定電流充電し、そして0.025Cまで定電圧充電し、5分間静置した後、0.5Cで3.0Vまで放電する。上記ステップで得られた容量を初期容量とする。そして0.5Cでの充電/0.5Cでの放電サイクル試験を行い、各ステップの容量と初期容量との比を求め、容量減衰曲線を得る。
【0095】
10.レート特性試験:試験温度を25℃とし、0.5Cで4.45Vまで定電流充電し、そして0.025Cまで定電圧充電し、5分間静置した後0.2Cで3.0Vまで放電する。上記ステップで得られた容量を初期容量とする。0.5Cでの充電、2Cでの放電を行い、2Cでの放電容量と0.2Cでの容量との比が、レート特性である。
【0096】
11.初回効率試験:0.5Cのレートで4.45Vまで定電流充電し、さらに4.45Vの定電圧条件で電流が0.025Cより小さいまで充電し、リチウムイオン電池の充電容量C0を得る。5分間静置した後、0.5Cのレートで3.0Vまで定電流放電し、リチウムイオン電池の放電容量D0を得る。D0/C0は、リチウムイオン電池の初回クーロン効率である。
【0097】
二.リチウムイオン電池の製造
正極の製造
LiCoO、導電カーボンブラック、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を約96.7%:1.7%:1.6%の重量比でN-メチルピロリドン溶媒系に十分に撹拌して均一に混合し、正極スラリーを製造した。製造された正極スラリーを正極集電体であるアルミニウム箔に塗布し、乾燥させ、冷間プレスし、正極を得る。
【0098】
負極の製造
(1)MSK-SFM-10真空攪拌機を用いる。以下の実施例や比較例で製造されるケイ素系負極活物質400g、黒鉛2400g、及び導電剤(導電カーボンブラック、Super P(登録商標))50gを攪拌機に入れ、120分間攪拌し、混合物を得る。公転回転数を10-30r/minとする。
【0099】
(2)結合剤(ポリアクリル酸エステル)100gを(1)で得られた混合物に入れ、60分間攪拌して均一に分散させ、さらに脱イオン水を加え、120分間攪拌し、混合されたスラリーを得る。公転回転数を10~30r/min、自転回転数を1000~1500r/minとする。
【0100】
(3)(2)で得られたスラリーを170メッシュの二層スクリーンで濾過し、負極スラリーを得る。負極スラリーは、粘度を2500~4000mPa.Sに、固形分を35~50%に制御する。
【0101】
(4)(3)で得られた負極スラリーを銅箔集電体に塗布し、塗布厚さを50~200μmとし、負極を乾燥させた後、冷間プレスし、両面圧縮密度を1.3~2.0g/cmとする。
【0102】
電解液の製造
乾燥アルゴン雰囲気で、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)(重量比が約1:1:1)を混合された溶媒に、濃度が約1mol/LになるようにLiPFを添加して均一に混合し、さらに約10wt%のフルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加した後、均一に混合し、電解液を得る。
【0103】
セパレータの製造
PE高分子多孔質膜をセパレータとする。
【0104】
リチウムイオン電池の製造
セパレータを正極と負極の間に位置させて隔離の役割を果たすように、正極、セパレータ、負極を順に積層する。巻き回してジェリーロールを得る。ジェリーロールを外装の中に置き、電解液を注入し、封止する。化成、脱気、トリミングなどのプロセスフローを経てリチウムイオン電池を得る。
【0105】
三.負極活物質材料の製造
1.以下の方法で実施例1のケイ素系負極活物質材料を製造する。
(1)約2kgの市販品ケイ素酸化物SiO(0.5<X<1.6,D50=約5.5μm)粉末を流動床のバッフルに置き、室温条件でArを導入し、ガス流速を約200mL/minとし、約3時間保持し、炉チャンバー内の空気を排除する。
【0106】
(2)炉内の空気が全部排出された後、約20℃/minの昇温速度で約400℃まで昇温し、十分間後に、炭素源ガスCH(ガス流速を約300mL/minとする)を導入し、約400℃で約60分間保持した後直ちにCHガスを切断する。
【0107】
(3)Ar雰囲気で室温まで降温し、冷却した後に粉末サンプルを取り出し、最後に400メッシュのスクリーンで篩過し、ケイ素系負極活物質材料を得る。
【0108】
実施例2~10と比較例2~5のケイ素系負極活物質材料の製造方法は、実施例1と類似し、加熱温度、時間や炭素源ガスに相違がある。具体的な温度、時間及び炭素源ガスは、表1に示される。比較例1において、ケイ素系負極活物質はケイ素酸化物SiO(0.5<X<1.6,D50=約5.5μm)自体であり、即ち被覆されていない。
【0109】
【表1】
【0110】
表2には、実施例1~10と比較例1~5における負極の特性とリチウムイオン電池の性能試験結果を示す。
【表2】
【0111】
実施例1~10と比較例1~5の試験結果から分かるように、ケイ素酸化物SiO表面に炭素層を被覆することで、リチウムイオン電池の初回クーロン効率とサイクル特性を明らかに改善することができる。炭素被覆層は、ケイ素酸化物SiOと電解液との直接接触を減少させることができるため、初回クーロン効率を向上させることができる。さらに、炭素被覆層は、リチウムの吸蔵・放出サイクル過程においてケイ素酸化物SiOの膨張によって発生する応力を緩和し、膨張によるケイ素系材料の粉化を低減することができる。炭素被覆層は、ケイ素系負極活物質材料の導電性を向上させ、HFのケイ素酸化物に対する腐食を緩和し、サイクル特性を改善することもできる。
【0112】
また、実施例1~10と比較例1~5の試験結果から分かるように、ケイ素系負極活物質が、(1)約0<I1350/I1580<約5と約0<I510/I1350<約12、(2)Rが約40%以上、(3)Dが約500nm以下、(4)約7.5<OI<約18という条件のいずれか満たすと、製造されるリチウムイオン電池は、高い初回効率、サイクル特性及び/又はレート特性が図られる。ケイ素系負極活物質が上記4つの条件を同時に満たす場合、初回効率、サイクル特性とレート特性により優れる。
【0113】
図6には、本発明実施例3と比較例1のリチウムイオン電池のサイクル曲線を示す。実施例3のリチウムイオン電池のサイクル特性が比較例1のリチウムイオン電池より明らかに優れることが分かった。
【0114】
明細書全体における「いくつかの実施例」、「一部の実施例」、「1つの実施例」、「別の例」、「例」、「具体例」又は「一部の例」に対する引用は、本発明における少なくとも1つの実施例又は例が、該実施例又は例に説明された特定の特徴、構造、材料又は特性を含むことを意味する。したがって、「いくつかの実施例において」、「実施例において」、「1つの実施例において」、「別の例において」、「一例において」、「特定の例において」または「例」など、本明細書全体における各箇所に示される説明は、必ずしも本発明における同じ実施例または例を引用するわけではない。また、本明細書における特定の特徴、構造、材料又は特性は、任意の適切な方式で1つ又は複数の実施例又は例に組み合わせることができる。
【0115】
例示的な実施例を示し説明したが、上記実施例が本発明を制限するものとして解釈されるべきではなく、かつ本発明の精神、原理及び範囲から逸脱することなく実施例に対して変更、代替、補正する可能であることは、当業者には理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6