(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】mRNAを増幅する方法及び完全長mRNAライブラリを調製する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20230110BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20230110BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20230110BHJP
C12Q 1/6811 20180101ALI20230110BHJP
C12Q 1/6853 20180101ALI20230110BHJP
C12Q 1/6855 20180101ALI20230110BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230110BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20230110BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6806 Z ZNA
C12Q1/6811 Z
C12Q1/6853 Z
C12Q1/6855 Z
C12N15/11 Z
C12N15/10 Z
C40B40/08
(21)【出願番号】P 2021569082
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2020087393
(87)【国際公開番号】W WO2021130151
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-01-31
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509122120
【氏名又は名称】ベースクリック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】フリッシュムート, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】セルジュコフ, サシャ
(72)【発明者】
【氏名】フェアトゥル, ジェシカ
(72)【発明者】
【氏名】グラーフ, ビルギット
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/026853(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/075785(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03461832(EP,A1)
【文献】Journal of molecular biology,2015年,Vol.427,p.2610-2616
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6844
C12Q 1/6806
C12Q 1/6811
C12Q 1/6853
C12Q 1/6855
C12N 15/11
C12N 15/10
C40B 40/08
C12Q 1/6869
C12Q 1/686
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルに含まれる少なくとも1つのRN
Aを増幅及び/又は配列決定する方法であって、
a)増幅対象である少なくとも1つのRNAの3’末端又はその近傍に位置する配列と相補的な配列を含む少なくとも1つの第1プライマーを用意し、少なくとも1つの第1プライマーを少なくとも1つのRNAにハイブリダイズできる条件下で上記少なくとも1つの第1プライマーを上記サンプルに添加する工程;
b)逆転写酵素及びヌクレオチドを上記サンプルに添加することを含む条件下で上記少なくとも1つのRNAを逆転写して、上記少なくとも1つのRNAの完全長cDNAを得る工程;
c)少なくとも過剰なヌクレオチドから上記サンプルを精製する工程;
d)アジド分子-アルキン分子ペアの第1パートナーを含むように3’位で修飾されたジデオキシヌクレオチドと、テンプレート非依存的ポリメラーゼとを添加して、工程b)で得られたcDNAの3’末端に単一の3’-アジド又は3’-アルキン修飾ジデオキシヌクレオチドを結合させる工程;
e)少なくとも、工程d)で添加した過剰な修飾ジデオキシヌクレオチドから上記サンプルを精製する工程;
f)ポリヌクレオチド配列と、その5’末端に結合した上記アジド分子-アルキン分子ペアの第2パートナーとを含むアダプター分子を、クリック反応を実施し、且つトリアゾール結合の形成下、工程d)で得られた3’修飾cDNAに上記アダプター分子をライゲーションするための条件下で添加する工程;
及び
g)上記アダプター分子の5’末端のヌクレオチドのうち少なくとも6個と相補的であり、且つその3’末端に、上記cDNAの3’末端のジデオキシヌクレオチドと相補的なヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を有する第2プライマーを添加して、上記トリアゾール結合と重なる位置で、工程
f)で得られたライゲーションされたアダプター/cDNA分子に上記第2プライマーをハイブリダイズ及び結合させる工程;
を有し、さらに、
工程g)に続いて、
h)DNAポリメラーゼを添加して上記第2プライマーを鎖伸長させることで、工程b)で得られた全cDNAと相補的な配列を含む第二鎖DNAを生成する工程;及び
i)
工程h)に続いて、工程h)の上記第二鎖DNAを配列決定する工程;若しくは
j)
工程h)に続いて、上記第1プライマーの少なくとも一部と同一である第3プライマーを添加し、上記完全長cDNAを増幅して完全長RNAライブラリを得る工程;
を有するか、又は
工程g)に続いて、
h’)DNAポリメラーゼを添加して上記第2プライマーを鎖伸長させると共に、上記第二鎖DNA及び上記全cDNAの配列を決定する工程
を有する方法。
【請求項2】
サンプルに含まれる少なくとも1つのRN
Aを増幅及び/又は配列決定する方法であって、
a)増幅対象である少なくとも1つのmRNAの3’末端又はその近傍に位置する配列と相補的な配列を含み、且つその5’末端にアジド分子-アルキン分子ペアの第1パートナーによる修飾を含む少なくとも1つの第1プライマーを用意し、少なくとも1つの第1プライマーを少なくとも1つのmRNAにハイブリダイズできる条件下で上記少なくとも1つの第1プライマーを上記サンプルに添加する工程;
b)逆転写酵素及びヌクレオチドを上記サンプルに添加することを含む条件下で上記少なくとも1つのmRNAを逆転写して、上記少なくとも1つのmRNAの完全長cDNAを得る工程;
c)少なくとも過剰なヌクレオチドから上記サンプルを精製する工程;
d)アジド分子-アルキン分子ペアの第2パートナーを含むように3’位で修飾されたジデオキシヌクレオチドと、テンプレート非依存的ポリメラーゼとを添加して、工程b)で得られたcDNAの3’末端に単一の3’-アジド又は3’-アルキン修飾ジデオキシヌクレオチドを結合させる工程;
e)少なくとも、工程d)で添加した過剰な修飾ジデオキシヌクレオチドから上記サンプルを精製する工程;
f)クリックライゲーション反応を実施して、トリアゾール結合の形成下、環状一本鎖cDNAを生成する工程;
g)上記第1プライマーの5’末端のヌクレオチドのうち少なくとも6個と相補的であり、且つその3’末端に、上記cDNAの3’末端のジデオキシヌクレオチドと相補的なヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を有する第2プライマーを添加して、上記トリアゾール結合と重なる位置で、工程f)で得られたライゲーションされた環状第1プライマー/cDNA分子に上記第2プライマーをハイブリダイズ及び結合させる工程;
及び、
h)DNAポリメラーゼを添加して上記第2プライマーを鎖伸長させた後、上記完全長cDNAを増幅する工程、又は
h’)DNAポリメラーゼを添加して上記第2プライマーを鎖伸長させると共に、上記全cDNAを含む上記環状一本鎖DNAの配列を決定する工程
を有する方法。
【請求項3】
前記RNAがmRNAである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)において、上記少なくとも1つの第1プライマーとし
て2~50個のヌクレオチドの5’伸長を含むポリ(dT)プライマーを用意し、上記サンプル中に存在する上記少なくとも1つのmRNAのポリA鎖にハイブリダイズできる条件下で上記サンプルに添加する、請求項1
または3に記載の方法。
【請求項5】
第1プライマーがアンカー配列である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程d)において、上記ジデオキシヌクレオチドとして、3’-アルキン若しくは3’-アジド修飾ddGTP、又は3’-アルキン若しくは3’-アジド修飾ddCT
Pを使用する、請求項1
~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
工程d)において、上記ジデオキシヌクレオチドとして3’-アジド修飾ddGTPを使用する、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程d)において、上記ジデオキシヌクレオチドとして3’-アジド-2’,3’-ジデオキシGTP(AzddGTP)を使用する、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
工程g)において、3’末端にdC又はd
Gを含む第2プライマーを添加する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程g)において、3’末端にdCを含む第2プライマーを添加する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程g)において、上記ヌクレオチド配列の3’末端の2位にdC又はd
Gを含む第2プライマーを添加する、請求項1~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程g)において、上記ヌクレオチド配列の3’末端の2位にdCを含む第2プライマーを添加する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
工程d)において、上記テンプレート非依存的ポリメラーゼとして、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)を使用する、請求項1~
12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
工程f)において、上記アダプター分子の5’末端にアルキンを結合させ
る、請求項1及び3~
13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
工程f)において、上記クリック反応は、銅触媒によるアジド-アルキン環化付加(CuAAC)又は歪み促進型銅フリークリックライゲーション(SPAAC)を含む、請求項1~
14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
複数のmRNA分子を含むサンプルから完全長mRNAライブラリを調製するための、請求項1~
15のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項17】
上記複数のmRNA分子を含むサンプルは、1種以上の細胞の全mRNA又は生物の全エクソームを含む、請求項
16に記載の使用。
【請求項18】
サンプルに含まれる複数のmRNA、1種以上の細胞の全mRNA、又は個体の全エクソームを配列決定する方法であって、上記複数のmRNA、上記全細胞mRNA、又は個体のエクソームを含むサンプルを用意する工程;請求項1~
15のいずれか1項に記載の方法を実施することで、又は請求項
16に記載の使用に従って、完全長mRNAのライブラリを調製する工程;及び増幅されたmRNA又は得られたmRNAライブラリの配列を決定する工程を有する方法。
【請求項19】
ロングリードシーケンシング技術を適用する、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
複合疾患のバリアントマッピング、遺伝子異常の調査のための、請求項
18又は19に記載の方法。
【請求項21】
サンプルに含まれる少なくとも1つのRN
Aを増幅するためのキットであって、
a)増幅対象である少なくとも1つのmRNAの3’末端又はその近傍に位置する配列と相補的な配列を含む第1プライマー;
b)逆転写酵素;
c)アジド分子-アルキン分子ペアの第1パートナーを含むように3’位で修飾されたジデオキシヌクレオチド;
d)テンプレート非依存的ポリメラーゼ;
e)ポリヌクレオチド配列と、その5’末端に結合した上記アジド分子-アルキン分子ペアの第2パートナーとを含むアダプター分子;
f)上記アダプター分子の5’部分のヌクレオチドのうち少なくとも6個と相補的であり、且つその3’末端にc)の上記ジデオキシヌクレオチドと相補的なヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を有する第2プライマー;
g)上記第1プライマーの少なくとも一部と同一である第3プライマー
を含むキット。
【請求項22】
サンプルに含まれる少なくとも1つのRN
Aを増幅及び/又は配列決定するためのキットであって、
a)増幅対象である少なくとも1つのmRNAの3’末端又はその近傍に位置する配列と相補的な配列を含み、且つその5’末端にアジド分子-アルキン分子ペアの第1パートナーによる修飾を含む第1プライマー;
b)逆転写酵素;
c)アジド分子-アルキン分子ペアの第2パートナーを含むように3’位で修飾されたジデオキシヌクレオチド;
d)テンプレート非依存的ポリメラーゼ;
e)上記第1プライマーの5’部分のヌクレオチドのうち少なくとも6個と相補的であり、且つその3’末端にc)の上記ジデオキシヌクレオチドと相補的なヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を有する第2プライマー
を含むキット。
【請求項23】
前記RNAがmRNAである、請求項21または22に記載のキット。
【請求項24】
h)RNase;
i)全4種の天然由来ヌクレオチド
;
k)バッファ及び溶媒
;
のうち少なくとも1つを更に含む、請求項
21~23のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプルに含まれる少なくとも1つのRNA、特に少なくとも1つのmRNAを増幅する方法、複数のRNA分子を含むサンプルから完全長RNAライブラリを調製するための当該方法の使用、特定の細胞の全RNA又は生物の全エクソームを配列決定する方法、及び遺伝子診断の方法に関する。本発明は更に、本発明の方法の少なくとも1つを実施するための試薬を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のあらゆる技術的進歩にもかかわらず、RNAシーケンシング、特に完全長mRNAシーケンシング又はトランスクリプトーム若しくはエクソームシーケンシングは、依然として非常に大きな課題となっている。エクソームは、生物のゲノムのうち、エクソンに含まれ、遺伝情報の転写及びRNAスプライシングによるイントロンの除去を経て、当該生物の最終的なタンパク質に翻訳されるmRNAとなる全ての部分を含む。一方、トランスクリプトームは、1つの細胞又は特定の細胞集団の全てのRNA、特に対応する全てのmRNAを含む。
【0003】
全エクソームシーケンシングは、一般的な疾患の他、希少疾患の理解にも大きく貢献する。特定のタンパク質の機能に影響を与えたり、更には機能を喪失させたりする変異がメンデル疾患の主な原因であることが知られている。例えば、非特許文献1及び非特許文献2は、メンデル疾患及び非メンデル疾患に関与する遺伝的変異を決定するための全エクソームキャプチャー及び超並列DNAシーケンシングについて報告している。
【0004】
特にがん細胞のトランスクリプトームは、発がんの理解を深めるために特に重要である。しかし、幹細胞のような他の細胞型における分子メカニズムや細胞経路の解析も、様々な各種用途のためのバイオマーカーの発見と同様、常に研究の焦点となっている。
【0005】
ヒトや動物のエクソーム及びトランスクリプトームは、特に疾患の治療又は予防を前進させる目的で注目されているが、植物細胞の場合、標的変異や遺伝子工学による作物の改良のためなど、植物遺伝学の理解を深めることにも関心が寄せられている。
【0006】
遺伝物質の迅速な分析には、使いやすく効率的で信頼性の高いツールが必要である。主な問題は、患者の血液等の少量の生体試料等のソースにおいて目的のDNA又はRNAを直接検出する必要があることである。これらからは、遺伝物質の様々な成分を微量しか得られない。必要な感度を達成するためには、通常、分析前にサンプル中の核酸量を増やす増幅工程が必要である。あるいは、DNA/RNA分析物から直接得られる微小な検出信号を増幅する検出方法を適用する。
【0007】
核酸を増幅する方法には、PCR増幅法等の核酸増幅プロトコルが含まれる。PCR増幅法は、生体物質から得られた各種DNA鎖のプール中で、目的のDNA配列のみが増幅されるという大きな利点がある。これが、複雑な生体試料中の単一遺伝子の信頼性の高い分析の根幹をなしている。ここ数年、次世代シーケンシング(NGS)技術やRNAシーケンシングに焦点が移っている。RNAを直接配列決定する堅牢な方法は存在しないため、全てのライブラリ調製法は、mRNAをDNAに逆転写することから始まる。その後、得られた一本鎖cDNAは、通常、オリゴヌクレオチドをシーケンシング装置に適合させるいわゆる「第二鎖合成」中に二本鎖DNA(dsDNA)に変換される。更に、配列決定手順にはアダプター配列が必要である。これらのアダプターは、タグメンテーション(トランスポザーゼを介したDNA断片化及びプライマー付加)又は酵素ライゲーションによってのみdsDNAへ効率的に導入できる。このような一本鎖RNAから二本鎖DNAへの変換プロセスが、現在のRNAライブラリ調製法が複雑であることの理由である。
【0008】
近年、特許文献1は、dsDNAに対してリガーゼが示すのと同じような効率で一本鎖DNAを化学的にライゲーションできる化学ライゲーション法を開示した。この方法では、2001年/2002年にSharpless及びMeldalのグループによって独立して定義されたクリックケミストリーの概念が使用されている(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。アジドとアルキンを銅触媒により反応させて1,2,3-トリアゾール(traizole)を得る方法は、Huisgen1,3-双極子環化付加(非特許文献6)の変形形態であり、クリック反応を実施するのに最も広く用いられる方法となっている。この反応は、その温和な条件と高い効率から、例えば様々な目的でのDNA標識など、生物学及び材料科学において無数の用途が見出されている(非特許文献7)。
【0009】
このような化学ライゲーションの原理に促されて、様々なグループが酵素ライゲーションを用いないライブラリ調製法を開発している(非特許文献8、特許文献2、非特許文献9)。例えば、第二鎖合成が不要になったり、人工的な組み換えやプライマーの二量体形成が抑制されたりなどして、プロトコルの工程数が低減する利点はあるものの、従来のプロトコルに比べて感度が若干低下することが認められた。更に、逆転写の際に人工ヌクレオチドを取り込む必要があり、且つ得られた骨格模倣体は標準的なライブラリ調製法で採用されている全てのポリメラーゼにより許容されないため、この新しいプロトコルの広い商業的適用を欠いている。
【0010】
従って、mRNAの増幅、及び完全長ライブラリ、特にサンプル(例えば、全エクソーム調製物又は個体の特定の細胞型の全mRNA)に含まれる複数のmRNAの完全長ライブラリの調製のための改良された概念を提供することを本発明の目的とした。本発明者らが実施した研究の別の態様は、他のRNA、特にウイルスRNAの配列決定又は増幅を容易にすることであった。更に、一本鎖DNAを連結するための化学ライゲーション法の効率を利用するが、ライブラリワークフローにおける標準的な酵素に適合する方法を提供することを目的とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2019/063803号
【文献】米国特許出願公開第2018/0127816号明細書(A1、Illumina,Inc.)
【非特許文献】
【0012】
【文献】Choi et al.,Proc Natl Acad Sci USA,106(45),p.19096-19101(2009)
【文献】Bamshad et al.,Nat Rev.Genet.,12,745-755(2011)
【文献】Sharpless,K.B.et al.,Angew.Chem.2002,114,2708,
【文献】Sharpless,K.B.et al.,Angew.Chem.Int.Ed.2002,41,2596
【文献】Meldal,M.et al.,J.Org.Chem.2002,67,3057
【文献】R.Huisgen,1,3,-Diploar Cycloaddition Chemistry(Ed.:A Padwa),Wiley,New York,1984
【文献】Gramlich,P.M.A.et al.,Angew.Chem.Int.Ed.2008,47,8350
【文献】Routh,A.et al.,J.Mol.Biol.427,2610-2616(2015)
【文献】Miura,F.et al.,Nucleic Acids Research,Vol.46,No.16,e95(2018)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、RNA、好ましくはmRNAを増幅及び/又は配列決定するための、特に、特定の細胞の全mRNA又は生物の全エクソームの完全長mRNAライブラリを調製するための改良された方法を提供することで、上記問題を解決する。
【0014】
第1の態様において、本発明は、サンプルに含まれる少なくとも1つのRNA、好ましくはmRNAを増幅及び/又は配列決定する方法であって、
a)増幅対象である少なくとも1つのRNAの3’末端又はその近傍に位置する配列と相補的な配列を含む少なくとも1つの第1プライマーを用意し、少なくとも1つの第1プライマーを少なくとも1つのRNAにハイブリダイズできる条件下で上記少なくとも1つの第1プライマーを上記サンプルに添加する工程;
b)逆転写酵素及びヌクレオチドを上記サンプルに添加することを含む条件下で上記少なくとも1つのRNAを逆転写して、上記少なくとも1つのRNAの完全長cDNAを得る工程;
c)少なくとも過剰なヌクレオチドから上記サンプルを精製する工程;
d)アジド分子-アルキン分子ペアの第1パートナーを含むように3’位で修飾されたジデオキシヌクレオチドと、テンプレート非依存的ポリメラーゼとを添加して、工程b)で得られたcDNAの3’末端に単一の3’-アジド又は3’-アルキン修飾ジデオキシヌクレオチドを結合させる工程;
e)少なくとも、工程d)で添加した過剰な修飾ジデオキシヌクレオチドから上記サンプルを精製する工程;
f)ポリヌクレオチド配列と、その5’末端に結合した上記アジド分子-アルキン分子ペアの第2パートナーとを含むアダプター分子を、クリック反応を実施し、且つトリアゾール結合の形成下、工程d)で得られた3’修飾cDNAに上記アダプター分子をライゲーションするための条件下で添加する工程;
g)上記アダプター分子の5’末端のヌクレオチドのうち少なくとも6個と相補的であり、且つその3’末端に、上記cDNAの3’末端のジデオキシヌクレオチドと相補的なヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を有する第2プライマーを添加して、上記トリアゾール結合と重なる位置で、工程f)で得られたライゲーションされたアダプター/cDNA分子に上記第2プライマーをハイブリダイズ及び結合させる工程;
あるいは、
h)DNAポリメラーゼを添加して上記第2プライマーを鎖伸長させることで、工程b)で得られた全cDNAと相補的な配列を含む第二鎖DNAを生成する工程;及び
i)工程h)の上記第二鎖DNAを配列決定する工程;若しくは
j)上記第1プライマーの少なくとも一部と同一である第3プライマーを添加し、上記完全長cDNAを増幅して完全長RNAライブラリを得る工程;
又は
h’)DNAポリメラーゼを添加して上記第2プライマーを鎖伸長させると共に、上記第二鎖DNA及び上記全cDNAの配列を決定する工程
を有する方法に関する。
【0015】
第2の態様において、本発明は、サンプルに含まれる少なくとも1つのRNA、好ましくはmRNAを増幅及び/又は配列決定する方法であって、
a)増幅対象である少なくとも1つのmRNAの3’末端又はその近傍に位置する配列と相補的な配列を含み、且つその5’末端にアジド分子-アルキン分子ペアの第1パートナーによる修飾を含む少なくとも1つの第1プライマーを用意し、少なくとも1つの第1プライマーを少なくとも1つのmRNAにハイブリダイズできる条件下で上記少なくとも1つの第1プライマーを上記サンプルに添加する工程;
b)逆転写酵素及びヌクレオチドを上記サンプルに添加することを含む条件下で上記少なくとも1つのmRNAを逆転写して、上記少なくとも1つのmRNAの完全長cDNAを得る工程;
c)少なくとも過剰なヌクレオチドから上記サンプルを精製する工程;
d)アジド分子-アルキン分子ペアの第2パートナーを含むように3’位で修飾されたジデオキシヌクレオチドと、テンプレート非依存的ポリメラーゼとを添加して、工程b)で得られたcDNAの3’末端に単一の3’-アジド又は3’-アルキン修飾ジデオキシヌクレオチドを結合させる工程;
e)少なくとも、工程d)で添加した過剰な修飾ジデオキシヌクレオチドから上記サンプルを精製する工程;
f)クリックライゲーション反応を実施して、トリアゾール結合の形成下、環状一本鎖cDNAを生成する工程;
g)上記第1プライマーの5’末端のヌクレオチドのうち少なくとも6個と相補的であり、且つその3’末端に、上記cDNAの3’末端のジデオキシヌクレオチドと相補的なヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を有する第2プライマーを添加して、上記トリアゾール結合と重なる位置で、工程f)で得られたライゲーションされた環状第1プライマー/cDNA分子に上記第2プライマーをハイブリダイズ及び結合させる工程;
及び、
h)DNAポリメラーゼを添加して上記第2プライマーを鎖伸長させた後、上記完全長cDNAを増幅する工程;又は
h’)DNAポリメラーゼを添加して上記第2プライマーを鎖伸長させると共に、上記全cDNAを含む上記環状一本鎖DNAの配列を決定する工程
を有する方法に関する。
【0016】
第3の態様において、本発明は、複数のmRNA分子を含むサンプルから完全長mRNAライブラリを調製するための当該本発明の方法の使用に関する。
【0017】
第4の態様において、本発明は、生物の1種以上の細胞の全mRNA又は生物の全エクソームを配列決定する方法であって、当該エクソーム又は全細胞mRNAを含むサンプルを用意する工程;本明細書中に記載した本発明に係る方法を実施することで完全長mRNAのライブラリを調製する工程;及び得られた全細胞mRNA又はエクソームの配列を決定する工程を有する方法に関する。
【0018】
第5の態様において、本発明は、サンプルに含まれる少なくとも1つのRNA、好ましくはmRNAを増幅及び/又は配列決定するためのキットであって、
a)増幅対象である少なくとも1つのRNAの3’末端又はその近傍に位置する配列と相補的な配列を含む第1プライマー;
b)逆転写酵素;
c)アジド分子-アルキン分子ペアの第1パートナーを含むように3’位で修飾されたジデオキシヌクレオチド;
d)テンプレート非依存的ポリメラーゼ;
e)ポリヌクレオチド配列と、その5’末端に結合した上記アジド分子-アルキン分子ペアの第2パートナーとを含むアダプター分子;
f)上記アダプター分子の5’部分のヌクレオチドのうち少なくとも6個と相補的であり、且つその3’末端にc)の上記ジデオキシヌクレオチドと相補的なヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を有する第2プライマー;
g)上記第1プライマーの少なくとも一部と同一である第3プライマー
を含むキットに関する。
【0019】
本発明の第6の態様は、サンプルに含まれる少なくとも1つのRNA、好ましくはmRNAを増幅及び/又は配列決定するためのキットであって、
a)増幅対象である少なくとも1つのmRNAの3’末端又はその近傍に位置する配列と相補的な配列を含み、且つその5’末端にアジド分子-アルキン分子ペアの第1パートナーによる修飾を含む第1プライマー;
b)逆転写酵素;
c)アジド分子-アルキン分子ペアの第2パートナーを含むように3’位で修飾されたジデオキシヌクレオチド;
d)テンプレート非依存的ポリメラーゼ;
e)上記第1プライマーの5’部分のヌクレオチドのうち少なくとも6個と相補的であり、且つその3’末端にc)の上記ジデオキシヌクレオチドと相補的なヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を有する第2プライマー
を含むキットである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
天然由来の完全長RNA、特に完全長mRNA、特定の細胞若しくは細胞型の全mRNA、更には生物の全エクソーム、すなわちタンパク質をコードする遺伝子の完全なコード領域を、一般的に用いられている方法で増幅することは、依然として複雑で時間のかかる手順である。本発明では、いわゆる「クリックケミストリー」を採用することで完全長RNAの増幅を容易にし、サンプルに含まれる複数又は多数のRNAの増幅でさえ、1つの単一手順で実施できる。RNA配列の決定は、増幅後でも、RNAの逆転写により得られたcDNAの第二鎖合成中でさえも実施できる。
【0021】
原則として、本発明の方法は、RNA、特に任意の種類のRNAを含む混合物の増幅及び/又は配列決定が望まれる場合、あらゆる種類のRNAに適用できる。本発明の方法をmRNAに適用することが好ましく、そのような方法に含まれる別の好ましいRNAは、任意の形態のウイルスRNAであり、すなわち、宿主のゲノムに組み込まれるウイルスRNAでもある。以下における本発明の方法の詳細な例示的説明では主にmRNAについて言及することが多いが、同じ手段及び工程を実施して、同じようにしてウイルスRNA又は他のRNAを増幅又は配列決定することもできることを理解されたい。
【0022】
本発明の全体的な文脈において、mRNAは、メッセンジャーRNA、すなわち、細胞又は生物に含まれるDNAによってコードされ、細胞メカニズムによってタンパク質に翻訳され得るリボ核酸を指す。加えて、ここで定義されているように、RNA及びmRNAという用語は、修飾されたヌクレオチドを含む合成リボ核酸又はmRNAをも包含し得る。更に、RNA又はmRNAは、糖部分の類似体を含む核酸を含むことを意図している。天然のRNA及びmRNAは、アデニン、ウラシル、シトシン、又はグアニンからなる群から選択される1つ以上の塩基を含むが、非天然塩基も含まれ得る。
【0023】
本発明の方法は、1種類のRNA又はmRNAのみを含むサンプルに適用できる。これは、サンプルが、同じヌクレオチド配列及び同じ数のヌクレオチドを有する核酸のみを含むことを意味する。本発明の他の実施形態において、サンプルは2種以上の異なるRNA及び/又はmRNA、好ましくは2種以上の異なるmRNAを含んでいてもよい。本発明の文脈において、「異なるRNA及び/又はmRNA」という語は、異なるヌクレオチド配列を有する核酸だけでなく、同じヌクレオチド配列を有するが、何らかの理由で異なる数のヌクレオチドを含むRNA及び/又はmRNAも含むことを意図している。
【0024】
本発明の文脈中で使用される「クリックケミストリー」又は「クリック反応」等の用語は、当該技術分野や、上記「背景技術」で言及した例示的な刊行物に記載されている全ての対応する方法を指すことが意図されている。特に、国際公開第2019/063803号(A1)が参照され、その開示は、特にクリック反応を実施するための条件、試薬及び方法に関する限り、本発明の目的のために具体的に含まれる。工程f)の文脈において、銅触媒によるアジド-アルキン環化付加(CuAAC)を実施するのが好ましく、国際公開第2019/063803号(A1)に記載の条件下で実施するのが最も好ましい。しかしながら、本発明の文脈において、アルキン修飾及びアジド修飾核酸をライゲーションするための更によく知られた方法である歪み促進型銅フリークリックライゲーション(SPAAC)を実施することも可能であり、好ましい(例えば、I.S.Marks et al.,Bioconjug Chem.2011 22(7):1259-1264;M.Shelbourne et al.,Chem. ommun.2012,48,11184-11186;M.Shelbourne et al.,Chem.Commun.2011,47,6257-6259)。クリック反応で使用するためのヌクレオチド及び核酸の修飾に適したアルキン残基及びアジド残基は従来技術に記載されており、当業者には周知である。クリック可能な5’-アルキン又はアジド修飾オリゴヌクレオチドの例も
図7に概説している。アルキン三重結合又はアジドモチーフとこのように修飾されたヌクレオチドとの間のスペーサーの長さは様々であり、アルキン分子-アジド分子ペアのクリック反応から生じるトリアゾール結合を含む各テンプレートを読み過ごすDNAポリメラーゼ又は逆転写酵素の能力によってのみ制限される。本発明の好ましい実施形態において、スペーサーは少なくとも1つの原子を含み、最大で30個の原子、より好ましくは最大で20個の原子、最も好ましくは最大で10個の原子を含む。スペーサーはC原子を含むが、ヘテロ原子であるN及び/又はOを含んでもよい。
【0025】
簡単に要約すると、本発明の第1の態様は、1つ以上の(m)RNAテンプレートから逆転写によってcDNAを調製することを含み、その間又はその後、得られた1つ以上のcDNAは、アルキン修飾又はアジド修飾を含むようにその3’末端で修飾される。より具体的には、クリック反応に関与する分子ペアの一方のパートナーをcDNAに結合させる。続いて、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド配列と、その3’末端にある上記分子ペアの第2パートナーとを含むアダプターをクリック反応によってcDNAにライゲーションする。このアダプター及び特定の第2プライマーを使用することで、cDNAを非常に効果的に増幅したり、cDNAを直接配列決定したりすることができる。
【0026】
このような第1の本発明の方法は、少なくとも1つの(m)RNAの3’末端又はその近傍に位置する配列と相補的な第1プライマーを、(m)RNAを含むサンプルに添加する最初の工程a)を含む。このような第1プライマーのサンプルへの添加は、第1プライマーを相補的な(m)RNA配列にハイブリダイズできる条件下で行われる。
【0027】
少なくとも1つの第1プライマーは、各標的(m)RNAと相補的な核酸を、プライマーを(m)RNAへ効果的にハイブリダイズできるような十分な数で含む。第1プライマーは、DNA/RNA増幅手順において有用だと考えられる任意の数のヌクレオチドを含むことができる。好ましい実施形態において、第1プライマーは、少なくとも5個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも10個又は少なくとも15個のヌクレオチドで構成される。そのような好ましい実施形態において、第1プライマーは更に、最大で60個のヌクレオチド、好ましくは最大で50個のヌクレオチド、最も好ましくは最大で45個のヌクレオチドで構成される。少なくとも1つの第1プライマーを少なくとも1つのmRNAへハイブリダイズさせるための条件又はハイブリダイズさせるのに有利な条件は当業者によく知られており、例えば、J.Zhang et al.,Biochem.J.,1999,337,231-241に記載のものが挙げられる。特に好ましい条件についても、当業者が予備試験によって容易に決定できる。
【0028】
このような第1の本発明の方法の第2の工程b)では、少なくとも1つの(m)RNAにハイブリダイズしたプライマーの3’末端から出発して、(m)RNAは、逆転写酵素及びヌクレオチドをサンプルに添加することを含む条件下で逆転写されて、少なくとも1つのmRNAの完全長cDNAが得られる。本発明の文脈では、通常、天然由来の4種類のヌクレオチドであるdATP、dCTP、dGTP及びdTTPが採用されるが、本発明の方法の別工程のcDNA形成を損なわない限り、人工ヌクレオチドが含まれていてもよい。工程a)については、逆転写の条件も当業者にはよく知られている。
【0029】
中間工程c)では、少なくとも工程b)で使用した過剰なヌクレオチドを除去する。本発明の好ましい実施形態では、残存する(m)RNA、過剰な逆転写酵素、及び過剰な第1プライマーもこの工程中に除去できる。特に好ましい実施形態では、当該技術分野で知られている方法に従ってcDNAの精製を実施し、精製されたcDNAが本方法の別工程に含まれる。
【0030】
次の工程d)では、アジド/アルキンクリック反応ペアの第1パートナーを含むように3’位で修飾されたジデオキシヌクレオチド(ddNTP)と、テンプレート非依存的ポリメラーゼとをサンプルに添加する。「ジデオキシヌクレオチド」又はddNTPという語は、2’-ヒドロキシル基も3’-ヒドロキシル基も有さないヌクレオチドを表す。本発明の文脈において、ddNTPは、アデニン、チミン、シトシン又はグアニン塩基のうち1つを含む。修飾されたジデオキシヌクレオチドは、ポリメラーゼによってcDNA配列にその3’末端で付加され、また、ジデオキシヌクレオチドは必要な3’-ヒドロキシル基を含まないので、それ以上の鎖伸長は起こらず、結合したアジド基又はアルキン基は、cDNAの3’末端と第2のクリック反応パートナーとの反応に利用できる。本発明の好ましい実施形態において、アルキン基又はアジド基は、ddNTPのデオキシリボース部分の3’位に結合されており、また、ddNTPは分子に結合したアジド基を含むことも好ましい。
【0031】
別の中間工程e)では、少なくとも、工程d)で使用した過剰な修飾ジデオキシヌクレオチドを除去する。本発明の好ましい実施形態では、この工程中も、最終的に残存する(m)RNA、過剰な逆転写酵素、及び過剰な第1プライマー、並びに/又は工程d)で使用したようなテンプレート非依存的ポリメラーゼを除去することができる。
【0032】
工程f)では、アダプター分子を第2のクリック反応パートナーとしてサンプルに添加すえる。アダプター分子は、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド配列を有し、その5’末端に結合したアジド分子-アルキン分子ペアの第2パートナーを含む。アルキン基とアジド基との間で起こるクリック反応によって、トリアゾール結合の形成下、アダプター分子をcDNAの3’末端にライゲーションする。アダプター分子は、本発明の方法の次の工程においてハイブリダイゼーション及びそれに続く増幅によって第2プライマーを結合するのに役立つ。従って、アダプター分子は、そのような第2プライマーの結合を可能にするのに十分な数のヌクレオチドを含み、通常は少なくとも6個、好ましくは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも15個のヌクレオチドを含む。好ましい実施形態において、アダプター分子は、最大で100個、より好ましくは最大で80個又は60個のヌクレオチドを含む。更に、その5’末端に結合したアルキンを含むアダプター分子を工程eで使用することも、本発明の好ましい実施形態と考えられる。
【0033】
次の工程g)では、アダプター分子の全部又は一部と相補的なヌクレオチド配列を含む上記第2プライマーを添加する。第2プライマーのヌクレオチド配列は、アダプター分子のヌクレオチド配列の5’末端の少なくとも6個のヌクレオチドと相補的であり、その3’末端に、cDNAの3’末端のジデオキシヌクレオチドと相補的なヌクレオチドを含んでいる。従って、第2プライマーは、クリック反応で形成されたトリアゾール結合と重なる位置で、ライゲーションされたアダプター/cDNA分子にハイブリダイズ及び結合する。
【0034】
別の工程では、DNAポリメラーゼを添加することで、第2プライマーが伸長される。1つ以上のRNAの増幅が望ましい限り、第1プライマーの少なくとも一部と同一である1つ以上の第3プライマーを添加することができ、その後、得られたcDNAを公知の方法に従って増幅できる。この選択肢は、工程h)及びj)で定義される。第3プライマーは、例えば、第1プライマーよりも少ないヌクレオチドを含んでもよいが、依然としてハイブリダイゼーションを確保する。また、第3プライマーは、ハイブリダイゼーションを確保する特定の配列と、少なくとも1つのmRNA上の第1プライマーの標的配列と相補的ではない別の配列とを含んでもよい。
【0035】
1つ以上のRNAの配列決定が望まれる限り、本発明の文脈において異なる選択肢がある。まず、工程g)後、DNAポリメラーゼを添加して第2プライマーを鎖伸長させることで、工程b)で生成された全cDNAと相補的な配列を含む「完全長」第二鎖DNAを生成することができる。これらの第二鎖DNAは、単一分子の配列決定のための公知の方法(Pacific Biosciences社(https://www.pacb.com/)等から入手可能なシステム及びキット)に従って増幅することなく配列決定できる。この選択肢は、工程h)及びi)で定義される。
【0036】
別の実施形態では、DNAポリメラーゼを添加した後、第2プライマーの鎖伸長と同時に配列決定を実施できる。この別の選択肢は、工程h’)で定義される。配列決定は、例えば、よく知られているサンガーシーケンシング法若しくはこの原理に基づいて開発された方法、又はsequencing-by-synthesis法(Illumina社(https://illumina.com/)等から入手可能なシステム及びキット)に従って実施できる。
【0037】
本発明の方法では、一般的に用いられるプロセス(そのうちの1つを
図1に模式的に示す)で必要とされていたようなRNAの断片化やランダムプライミングを必要とすることなく、特定のRNAサンプルについて増幅cDNAを生成することが初めて可能となる。そのような従来技術の増幅プロセスと比較して、本発明の方法では、重複するフラグメントの配列データを整列させる必要なしに、目的の完全なmRNA等を完全に代表するcDNAライブラリに到達するのに必要なプロセス工程が少なくなる。また、本発明の方法では、ランダムプライミング又は特異的プライミングのいずれかから完全長ライブラリを生成する。加えて、本発明の方法は、ライブラリ調製ワークフロー用の標準的なポリメラーゼを用いて実施できる。ポリ(dT)プライミングを用いる本発明の方法の模式図を
図2に示す。
【0038】
第1プライマーとしては、本発明の文脈において様々な各種代替物及び各ポリヌクレオチドを検討できる。第一に、従来技術の方法で知られている通り、ランダムプライマーを使用できる。この第1の代替物については、RNA、好ましくはmRNA内のランダムな部分にハイブリダイズするランダム配列を有する短めのヌクレオチド配列を採用できる。そのようにランダムな第1プライマーを使用するプロセスの生成物は長さが異なる。
【0039】
第2の代替物及び本発明の好ましい実施形態では、ランダムプライマーの代わりに特異的プライマーを使用する。この代替物は、サンプルに含まれる少なくとも1つのRNAの配列又は同一性が既知である場合に特に適用可能である。サンプル中に存在し得る1つ以上の既知の(m)RNAの有無についてサンプルを分析する場合、対応する特異的プライマーを使用して、そのような既知の(m)RNAを検出することができる。
【0040】
本発明の好ましい実施形態でもある別の代替物では、mRNA増幅用の少なくとも1つの第1プライマーとしてポリ(dT)プライマーを使用する。ポリ(dT)プライマーは、通常、6~30個のdTヌクレオチドを含む。プライマーは、サンプル中の少なくとも1つのmRNAのポリA鎖にハイブリダイズできる条件下でサンプルに添加される。全てのmRNA分子は、その3’末端に、複数のアデノシン一リン酸で構成されたポリA鎖を含む。ポリ(A)鎖は、遺伝子の転写が完了した後に起こるポリアデニル化によって真核生物のRNAに付加される。しかしながら、ポリ(A)鎖は、翻訳時にコーディング機能は持たない。従って、ポリA鎖は、プライマーのハイブリダイゼーションの理想的な標的であり、対応するポリ(dT)プライマーを得るには、標的mRNAの配列に関する知識は必要ない。更に、ポリ(dT)プライマーを使用すると、サンプルに含まれるmRNAの完全なコード配列を逆転写及び増幅できる。
【0041】
特定の実施形態において、本発明はまた、異なる種類のプライマー、すなわち、ランダムプライマー及び特異的プライマー、ランダムプライマー及びポリ(dT)プライマー、又は特異的プライマー及びポリ(dT)プライマーの使用を含む。これは、プライマーが特定のアンカー配列又は捕捉配列も含む場合に特に有用である。例えば、サンプル中の既知のmRNAの存在を検出するための特異的プライマーが含まれてもよい。例えば、そのような特異的プライマーの5’末端に結合した捕捉配列が存在すると、増幅後の工程において、このような既知のmRNAについて得られた増幅cDNAを固体支持体に結合させ、固体支持体に結合したcDNAを他の増幅産物から分離し、そのようなcDNAの存在を検出するという選択肢が得られる。第1プライマーに結合した捕捉配列又はアンカー配列が含まれることで得られる他の有用な選択肢は、当業者によって容易に認識でき、これらも本発明の文脈に包含される。
【0042】
mRNA増幅について本発明の特に好ましい実施形態では、アンカー配列を含むポリ(dT)プライマーが少なくとも1つの第1プライマーとして使用される。このアンカー配列によって、通常は2~50個のヌクレオチドからなる追加の5’末端伸長が得られる。アンカー配列は、好ましくは少なくとも5個、より好ましくは少なくとも8個のヌクレオチドを含む。更に好ましい実施形態において、アンカー配列は、最大で40個、より好ましくは最大で30個のヌクレオチドを含む。このようなアンカー配列が存在すると、例えば、本発明の方法で使用されるポリ(dT)プライマーの均一な位置決めを確保できる可能性が得られる。
【0043】
更に好ましい実施形態では、本発明の方法の工程d)において、3’-アルキン若しくは3’-アジド修飾ddGTP又は3’-アルキン若しくは3’-アジド修飾ddCTPが添加される。cDNAの3’末端にG又はC塩基のいずれかが存在すると、次の工程g)において第2プライマーが特に効率的にハイブリダイズ及び結合されることが観察された。最良の結合結果は、工程d)において3’-アルキン又は3’-アジド修飾ddGTPをcDNAに添加することによって、cDNAの3’末端がGを含むように修飾された場合に得られ、最も好ましい修飾ジデオキシヌクレオチドは3’-アジド-2’,3’-ジデオキシGTP(AzddGTP)であった。
【0044】
工程d)について上述した好ましい実施形態と対応して、工程g)における第2プライマーがその3’末端にdG又はdC、最も好ましくはdCを含むことが更に好ましい。本発明の方法では、第2プライマーがその3’末端に、cDNAの3’末端のヌクレオチドと相補的なヌクレオチドを含む必要がある。従って、工程d)でアルキン修飾又はアジド修飾ddGTPを使用する好ましい実施形態において、第2プライマーはその3’末端にdCを含む。工程d)においてアルキン修飾又はアジド修飾ddCTPが含まれる他の好ましい実施形態において、第2プライマーはそれに対応して3’末端にdGを含む。上記修飾ddGTPを使用する上で開示した最も好ましい実施形態に沿って、そのような最も好ましい実施形態では、その3’末端にdCを含む第2プライマーが使用される。本発明の更に好ましい実施形態において、第2プライマーは、その3’末端の2位にdCを含む。本発明者らは、第2プライマーがクリック反応で形成されたトリアゾール結合と重なるこの位置にdCが存在すると、プライマー結合及びその後のプライマー伸長が大きく改善されることに気づいた。
【0045】
工程d)におけるテンプレート非依存的ポリメラーゼとして、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)酵素を使用するのが好ましい。該酵素は、DNAポリメラーゼXファミリーのメンバーであり、DNA分子の3’末端へのヌクレオチドの付加を触媒する。他の大部分のDNAポリメラーゼと異なり、TdTはテンプレートを必要としない。好ましい基質として3’-オーバーハングにヌクレオチドを付加することができるが、平滑又は陥凹3’末端にヌクレオチドを付加する際も良好に働く。従って、分子生物学、すなわち、cDNA末端の高速増幅(RACE)、PCR、つい最近では酵素を用いたde novo遺伝子合成において重要かつ広範な用途が見出されている。
【0046】
本発明の文脈において、検出可能な標識又はタグを有するか、又は固体支持体への固定化を可能とする部分を含むプライマー及びアダプター分子の少なくとも1つを含むことも選択肢であり、好ましい実施形態でもある。そのような選択肢の1つは、第1プライマーについて既に上述した。このような部分は、例えば、固体支持体と直接的に又は別の分子を介して間接的に共有結合を形成できるものであってもよい。例えば、増幅された核酸を捕捉して更に検出又は配列決定することが意図される場合、固体支持体への固定化が非常に有利な場合があり、自動配列決定法において一般的に使用される。そのような実施形態に沿って、本発明で使用するプライマー又はアダプターの1つは、固体支持体に既に結合した状態であってもよく、本方法はそのような固体支持体の存在下で実施できる。固体支持体として、結合した分子を反応混合物から捕捉及び分離できる任意の材料が、直接又は後の段階で含まれても、添加されてもよい。固体支持体として、様々な材料及び分子が本発明の文脈において含まれ、使用されてもよい。例えば、平面又は三次元の面を固体支持体とすることができ、例えば、プライマー又はアダプターが結合しているか、その後の結合反応で結合されるビーズを本文脈で有利に使用できる。更に、プライマー又はアダプターの1つを標識された形態で、すなわち、増幅産物の検出を可能とする検出可能な標識又はタグを含む形態で使用することもできる。特に特異的プライマーを使用する場合、それに対応して増幅cDNAの存在を検出することは、当業者に知られている方法で容易に実施できる。
【0047】
また、上で概説した選択肢を組み合わせて、増幅cDNAを捕捉及び検出することができる。本発明の特に好ましい別の実施形態において、本発明の方法で使用されるプライマー又はアダプターの少なくとも1つは、固体支持体に結合しているか、又は固体支持体への結合を容易にする分子に接続又は結合しており、プライマー及びアダプター分子の他の少なくとも1つは、検出可能な標識、又は検出可能な標識がそれを介して結合できる分子を含む。本発明のこれらの実施形態によれば、増幅産物、従って、分析対象のサンプル中の特定のmRNAの存在を簡単に、好ましくは自動でも検出することができる。
【0048】
上述の好ましい例は、本発明の方法の考えられる全ての変形形態及び利点を網羅的に列挙することはできないが、当業者であれば、研究又は診断の特定の目的に最も適するように本方法を容易に適合させることができる。従って、特に本発明の方法と別の公知手順との組み合わせは、本発明の範囲内に含まれる。
【0049】
本発明の方法の変形形態及び本発明の第2の態様を
図9に示す。そのような代替法では、第1プライマーとして、様々な各種代替物及び各ポリヌクレオチドが本発明の文脈において検討される。第一に、5’末端においてアジド分子-アルキン分子ペアの第1パートナーで修飾されたプライマーを公知の固相法で調製し、工程a)及びb)で上述した通り逆転写に使用することができる。工程c)で精製し、工程d)でテンプレート非依存的ポリメラーゼを介して(アジド分子-アルキン分子ペアの第2パートナーを有するように修飾された)ddNTPを付加した後、その末端にアジド残基及びアルキン残基を含むcDNAが生成され得る。過剰なヌクレオチドを除去した後、クリックライゲーションを実施して、クリック条件下で環状一本鎖cDNAを生成できる(例えば、V.Cassinelli,et al.Angew.Chem.Int.Ed.,2015,54,7795-7798)。連結を防ぐために、二重修飾cDNAを、前述した通り、クリックライゲーション前に希釈する(R.Kumar et al.,J.Am.Chem.Soc.,2007,129(21),6859-6864)。続いて、ローリングサークル増幅でテンプレートを増幅又は配列決定するために、工程g)の第2プライマーの代わりに、第1プライマーの少なくとも一部と相補的な別の第2プライマーを使用できる(BGI genomicsのNGS法)。従って、この代替法では、第1の本発明の方法について記載した大部分の態様が依然として適用されるが、本発明の第1の態様の工程f)で記載したアダプター分子の添加は適用可能ではないか、又はもはや必要とされない。しかしながら、別の第2プライマーは、その3’末端に、(クリック反応による環化の前に)cDNAの3’末端のジデオキシヌクレオチドと相補的なヌクレオチドも含み得る。
【0050】
本発明の方法の文脈及び上述した本発明の第2の態様において、工程h)を介して増幅を実施する代わりに、工程h’)において公知の方法に従って配列決定を直接実施することも可能である。例えば、本発明の方法の工程g)で得られた生成物、又は代替法について
図9の下部で示すような環状DNA/プライマーコンストラクトを用いて、サンガーシーケンシングを直接実施できる。また、本発明の方法の工程g)の生成物又は代替法の環状DNA/プライマーコンストラクトを鎖伸長して得られた生成物を用いて、一塩基配列決定法を適用できる。
【0051】
本発明の別の主題及び第3の態様は、完全長mRNAライブラリを調製するためのサンプルに含まれる1つ以上のmRNAを増幅するための上述した本発明の方法の使用である。特に、少なくとも1つの第1プライマーとしてポリ(dT)プライマーが使用される本発明の好ましい実施形態の文脈において、本方法によれば、サンプルに含まれる完全なmRNA配列を増幅できる。これは、サンプルが生物の1種以上の細胞の全mRNA、更には生物の全エクソーム、つまり、特定の細胞又は生物においてタンパク質に翻訳されることになる全mRNAを含む場合に、特に有用である。
【0052】
本発明の別の第4の主題は、上記に詳述したような本発明の方法及び使用に関し、更に、増幅mRNA又は得られたmRNAライブラリの配列を決定することを含む。このような方法によれば、生物の細胞の全mRNA、更には生物の全エクソームを高い信頼性で配列決定でき、mRNAプール中の希少な転写物の検出も確保できる。このような方法の提供は、医学研究や臨床診断において、例えば、複合疾患のバリアントマッピング、遺伝子異常の調査、疾患の遺伝的基盤の決定、又はメンデル障害の診断等の用途に特に有用である。
【0053】
更に、本発明の第5及び第6の主題は、上述した本発明の方法及び使用の少なくとも1つを実施するためのキットを提供する。
【0054】
本発明の第1の態様に従ってサンプルに含まれる少なくとも1つの(m)RNAの増幅及び/又は配列決定を可能にするキットは、
a)増幅対象である少なくとも1つの(m)RNAの3’末端又はその近傍に位置する配列と相補的な配列を含む第1プライマー;
b)逆転写酵素;
c)アジド分子-アルキン分子ペアの第1パートナーを含むように3’位で修飾されたジデオキシヌクレオチド;
d)テンプレート非依存的ポリメラーゼ;
e)ポリヌクレオチド配列と、その5’末端に結合した上記アジド分子-アルキン分子ペアの第2パートナーとを含むアダプター分子;
f)上記アダプター分子の5’部分のヌクレオチドのうち少なくとも6個と相補的であり、且つその3’末端にc)の上記ジデオキシヌクレオチドと相補的なヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を有する第2プライマー;
g)必要に応じて、上記第1プライマーの少なくとも一部と同一である第3プライマー
を含む。
【0055】
本発明の第2の態様に従ってサンプルに含まれる少なくとも1つのRNA、好ましくはmRNAの増幅及び/又は配列決定を実施するのに有用なキットは、
a)増幅対象である少なくとも1つのmRNAの3’末端又はその近傍に位置する配列と相補的な配列を含み、且つその5’末端にアジド分子-アルキン分子ペアの第1パートナーによる修飾を含む第1プライマー;
b)逆転写酵素;
c)アジド分子-アルキン分子ペアの第2パートナーを含むように3’位で修飾されたジデオキシヌクレオチド;
d)テンプレート非依存的ポリメラーゼ;
e)上記第1プライマーの5’部分のヌクレオチドのうち少なくとも6個と相補的であり、且つその3’末端にc)の上記ジデオキシヌクレオチドと相補的なヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を有する第2プライマー
を含む。
【0056】
更に、本発明の好ましい実施形態において、本発明のキットは、本発明の方法を実施するための別の有用な試薬、特に、
h)RNase;
i)全4種の天然由来ヌクレオチド;
j)クリック反応を実施するための試薬;
k)バッファ及び溶媒;
l)cDNA増幅を実施するための試薬;
m)精製用試薬
のうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0057】
このような方法を実施するためのキットに含まれる試薬について、当業者であれば、追加の試薬を含めたり、特定の方法に必要のない試薬を除外したりするよう容易に適合させることができる。
【0058】
本発明の1つの主題に関して上記で開示された全ての情報は、当該情報が、はっきりと繰り返されていないとしても、本発明の文脈において認識可能な関連性を有する他の主題の文脈においても同様に適用されると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】ライブラリ調製のためのRNAの一般的な従来技術のPCR増幅の模式図を表す。RNAサンプルを超音波装置を用いて断片化し、フラグメントを(ランダムに)プライミングし、逆転写酵素を用いて第一鎖合成(cDNA合成)を実施する。dTTPの代わりにウラシルを取り込んだ第二鎖を生成し、二本鎖DNAフラグメントを精製及び平滑末端化する。dAテーリングを実施して、その後の酵素アダプターライゲーション工程の効率を向上させる。サイズ選択を含む別のクリーンアップ工程を実施し、U含有鎖を除去してからPCR濃縮する。
【
図2】ポリ(dT)プライミングによってmRNAを増幅し、完全長mRNAライブラリを得る工程を含む本発明の方法の模式図を表す。
【
図3】
図3Aは、本発明の方法によって生成されたクリックライゲーションcDNAプールから生成された完全長PCRフラグメントを表す。1つのプライマーはクリックライゲーションアダプターに結合し(アダプタープライマー1)、第2のプライマーは、逆転写のプライミングに使用されるポリ(dT)の一部(ポリ(dT)リバースプライマー)である。伸長時間(1~10分)に応じて、PCRフラグメントの分布はより長い増幅物側にシフトする。
図3B及び
図3Cは、バイオアナライザ装置(Agilent)を用いた完全長PCRフラグメントの分析結果を表す。PCR時の伸長時間3分(C)のサンプルの場合のdsDNAサイズの分布は、伸長時間1分(B)と比べてより大きなサイズへ明らかにシフトする。
【
図4】本発明の方法によって生成されたクリックライゲーションcDNAプールから生成されたPCRフラグメントを表す。プライマーは転写物のちょうど5’末端をカバーする。GAPDHやβ-Gal等のハウスキーピング遺伝子の次に、eGFP、Cas9、及びFlucのmRNAを、内部コントロールとしてJurkat細胞全mRNAプールにスパイクした。
【
図5】本発明の方法によって生成されたクリックライゲーションcDNAプールから生成されたPCRフラグメントを表す。1つのプライマーはクリックライゲーションアダプターに結合し、第2のプライマーは遺伝子特異的な逆相補鎖(
図4の内部リバース等)に結合する。人工的に生成されたβ-Gal遺伝子フラグメントを除き、全てのPCR産物は
図4と比較して予想通り大きい。
【
図6】本発明の方法のための一本鎖cDNAの末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼを介した3’末端標識のためのクリック可能なヌクレオチドを例示する。
【
図7】本発明の方法のためのアダプターオリゴヌクレオチドのクリック可能な5’末端を例示する。
【
図8】天然のホスホジエステル(左)と比較した本発明の方法のためのトリアゾール骨格バージョンを例示する。
【
図9】完全長mRNAの配列決定のための別のワークフローの模式図を表す。5’-アルキン/アジド修飾プライマーを逆転写に使用し、得られたcDNAを精製する。末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)によってアジド/アルキンヌクレオチドを3’末端に取り込み、過剰なヌクレオチドを除去してからクリックライゲーションを実施して、環状ssDNAを生成する。少なくとも一部が相補的なプライマーを最初のプライマーに適用することで、環状ssDNAの増幅、更には配列決定が可能となり得る。
【
図10】プライミングされたモデルRNA(A)に対して実施したトリアゾール読み通しのPCR産物(B)である。3’-アジドddATPを含むヌクレオチドミックスでモデルRNAを逆転写し、ヌクレオチドを除去し、cDNAを5’-アルキンアダプター(アルキン-オリゴ1)にクリックライゲーションした。粗クリック反応ミックスは、様々なテンプレート量、ポリメラーゼ、及びサイクル条件を用いたPCRのテンプレートとして使用した。
【
図11】未修飾オリゴヌクレオチド(オリゴ2)へのTdTを介したAzddNTP取り込みと、それに続くアルキンオリゴヌクレオチド短鎖モデル(アルキン-オリゴ3)とのクリックの結果を、2つの合成的に調製したオリゴヌクレオチド(3’-N
3-Reference、アルキンオリゴ3及びアジド-オリゴ2)間でのクリックと比較して表す。
【
図12】本発明の方法に従って処理されたPCRフラグメント(
図5、レーン4)から生成されたサンガーシーケンシングのキャピラリー電気泳動トレースを表す。この配列決定によって、プロトコル後、mRNAの5’末端は元の状態のままであることが分かる。ここでは、逆転写前にRNAプールにスパイクしたFluc mRNA(ホタルルシフェラーゼ)について実施した。平均品質値スコア(QV)は54.34であり、すなわち特定の配列に対して>99.999%の確実性である。
【0060】
以下の実施例により、本発明を更に説明する。
【実施例】
【0061】
実施例1(
図3に関連)
内部コントロールとして、GAPDH等のハウスキーピング遺伝子の次に、eGFP(Baseclick)、CleanCap(登録商標)Cas9(Trilink)、CleanCap(登録商標)β-Gal(Trilink)、及びCleanCap(登録商標)Fluc(Trilink)のmRNA(0.1μg)を2μgのJurkat細胞全RNAプールにスパイクした。このRNAプールに、1μLのdNTPミックス(10mM)及び2μLのポリ(dT)プライマー(100μM)を合わせて、RNaseを含まないH
2Oで総体積を13μLにした。混合物を65℃で5分間インキュベートし、0℃まで3分間冷却してハイブリダイズした。cDNA合成では、4μLの5×SuperScript IVバッファ、1μLのジチオスレイトール(100mM)、200ユニットのSuperscript IV逆転写酵素を添加し、RNaseを含まない水でフィルアップして総体積を20μLにした。混合物を50℃で20分間、80℃で10分間インキュベートし、4℃まで3分間冷却した。cDNA合成後、3μLの10×RNase Hバッファ、1μLのRNase A(10mg/mL)、1.4μLのRNase H(5U/μL)、及び4μLのシュリンプアルカリフォスファターゼ(1U/μL)、及び0.6μLのdH
2Oを添加して、RNA及び過剰のヌクレオチドを除去した。混合物を37℃で25分間、65℃で15分間インキュベートし、0℃まで3分間冷却した後、PCR産物用のメーカー説明書に従ってスピンカラム法(BaseClean Kit)で浄化し、17μLのdH
2Oで溶出した。
【0062】
精製した混合物は、3’-N3-ddGTPを用いたアジド伸長にそのまま使用した。17μLの精製cDNA混合物に、5μLの5×TdTバッファ、1μLの3’-N3-ddGTP(10mM)、及び2μLの末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(20U/μL)を添加した。この溶液を37℃で1時間インキュベートし、0℃まで3分間冷却した。修飾されたcDNAをPCR産物用のメーカー説明書に従ってスピンカラム法(BaseClean Kit)で精製し、9μLで溶出した。
【0063】
9μLの精製したアジド修飾cDNA、0.5μLのアルキンアダプター(100μM)、2.5μLのActivator2
40(baseclick GmbH)、0.5μLのdH2O、及び2つのリアクターペレットを用いてクリックライゲーションを実施した。反応混合物を45℃、600rpmで40分間インキュベートした。反応後、上清を新しいバイアルに移した。ペレットを12.5μLの水で洗浄し、上清を前の上清に移した。クリックライゲーションされたcDNAをPCR産物用のメーカー説明書に従ってスピンカラム法(BaseClean Kit)で浄化し、10μLで溶出した。
【0064】
クリックライゲーション後、cDNAプールを非標的プライマー(アダプタープライマー1及びポリ(dT)リバースプライマー)を用いて増幅して、完全長mRNAライブラリを得た。200μLの反応バイアル中で、11.5μLのdH2O、4μLの5×OneTaqバッファ、1μLのアダプタープライマー1(10μM)、1μLのポリ(dT)リバースプライマー(10μM)、0.4μLのdNTPミックス(10mM)、2μLの精製クリックライゲーション混合物、及び0.13μLのOneTaq DNAポリメラーゼ(5000U/μL)(New England Biolabs)を合わせた。このサンプルをサーモサイクラー(BIORAD)で熱サイクルプログラムにかけた。
【0065】
標準的なサイクルとして、様々な伸長時間で以下の条件を用いた(工程4)。
【0066】
【0067】
PCR混合物をPCR産物用のメーカー説明書に従ってスピンカラム法(BaseClean Kit)で浄化し、10μLのdH
2Oで溶出した。
図3Aでは、TAEバッファ(20mM TRIS、10mM酢酸、0.5mM EDTA)で調製した1.5%アガロースゲル(10×15cm)で各PCR反応の3μLアリコートを分析した。
【0068】
図3B及び
図3Cに示すバイオアナライザ測定では、mRNAプールから生成した完全長PCRフラグメントの1μLの精製アリコート(
図3Aのレーン1の伸長時間1分、レーン2の伸長時間3分)を、DNA1000キット(Agilent)及びバイオアナライザ装置(Agilent2100)を用いて測定した。
【0069】
【0070】
【0071】
実施例2(
図4に関連)
クリックライゲーション(実施例3に記載の手順)後、特定のPCRフラグメントが得られる標的プライマー(各種の内部リバース及びフォワードプライマー、下記表を参照)を用いて、cDNAプールから特定の遺伝子を増幅した。200μLの反応バイアル中で、11.5μLのdH
2O、4μLの5×OneTaq標準反応バッファ、1μLの内部リバースプライマー(10μM)、1μLの内部フォワードプライマー(10μM)、0.4μLのdNTPミックス(10mM)、2μLの精製クリックライゲーションcDNA混合物、及び0.13μLのOneTaq DNAポリメラーゼ(5000U/μL)(New England Biolabs)を合わせた。このサンプルをサーモサイクラー(BIORAD)で熱サイクルプログラムにかけた。
【0072】
【0073】
TAEバッファ(20mM TRIS、10mM酢酸、0.5mM EDTA)で調製した1.5%アガロースゲル(10×15cm)で各PCR増幅の5μLの未精製アリコートを分析した。
【0074】
【0075】
実施例3(
図5及び
図12に関連)
クリックライゲーション(
図3の例に記載の手順)後、特定のPCRフラグメントが得られる遺伝子特異的プライマー及び一般的なアダプタープライマー標的プライマー(各種の内部リバースプライマー及びアダプタープライマー1、下記表を参照)を用いて、cDNAプールから特定の遺伝子を増幅した。200μLの反応バイアル中で、11.5μLのdH
2O、4μLの5×OneTaq標準反応バッファ、1μLの内部リバースプライマー(10μM)、1μLのアダプタープライマー1(10μM)、0.4μLのdNTPミックス(10mM)、2μLの精製クリックライゲーションcDNA混合物、及び0.13μLのOneTaq DNAポリメラーゼ(5000U/μL)(New England Biolabs)を合わせた。このサンプルをサーモサイクラー(BIORAD)で熱サイクルプログラムにかけた。
【0076】
【0077】
TAEバッファ(20mM TRIS、10mM酢酸、0.5mM EDTA)で調製した1.5%アガロースゲル(10×15cm)で各PCR増幅の5μLの未精製アリコートを分析した。
【0078】
図12に示すようなサンガーシーケンシングの場合、生成したFluc(ホタルルシフェラーゼ)のPCRフラグメントをPCR産物用のメーカー説明書に従ってスピンカラム法(BaseClean Kit)で浄化し、20μLのdH
2Oで溶出した。このテンプレート及び特異的プライマー(FLUC内部リバースプライマー)を、Eurofins Genomics(ドイツ、エーバースベルク)に従って調製し、そこへ送付してサンガーシーケンシングを実施した。
【0079】
【0080】
実施例4(
図10に関連)
トリアゾール読み通しの実現可能性を、モデルRNA配列の逆転写について例示した。RNAをプライマー1にハイブリダイズさせた後、200μMのdTTP、dGTP、dCTP、及び3’-アジド-ddATPの存在下、MuLV逆転写酵素を用いて逆転写した。メーカー説明書に従い、ヌクレオチド除去キット(QIAGEN)を用いてcDNAを精製して、ヌクレオチド及び酵素を除去した。
【0081】
単一のリアクターペレット(600~800μm、元素銅を含む)を入れた200μL反応バイアル中、合計12.5μLの反応ミックスとし、精製cDNAにアルキンオリゴ1をクリックし、45℃で60分間インキュベートした。反応ミックスは、800μMのTHPTA、20mMのMgCl2、5%DMSO、7μMのアルキンオリゴ1、及び約4μMの精製cDNAで構成した。必要に応じて、dH2Oを用いて最終体積を12.5μLに調整した。
【0082】
インキュベーション後、サンプルを短時間スピンダウンし、上清を新しいバイアルに移して反応を停止した。粗クリック反応物を1:1000、1:5000、及び1:10000(最大で4nM、0.8nM、及び0.4nM)に希釈して、更に精製することなくPCR増幅を実施した。
【0083】
200μL反応バイアル中で、総体積20μLのPCR増幅物を調製した。クリック反応希釈液を200μMのdNTP、10pmolのプライマー2及びプライマー3、並びに1Uのポリメラーゼと合わせた。各種ポリメラーゼについて、メーカーの推奨に従ってPfu、Phusion、Q5、One Taq、及びDream Taqの各バッファを使用した。このサンプルをサーモサイクラー(BIORAD)で熱サイクルプログラムにかけた。
【0084】
標準的なサイクル条件として以下の条件を用いた。
【0085】
【0086】
Pfuポリメラーゼでは、異なるテンプレート希釈液及び別のサイクル条件を検討した。
【0087】
【0088】
インキュベーション後、サンプルを短時間スピンダウンし、TAEバッファ(20mM TRIS、10mM酢酸、0.5mM EDTA)で調製した3%アガロースゲル(10×15cm)でアリコートを分析した。
【0089】
サンプルは、20%の紫色ローディング色素(NEB)で調製し、それに合わせて低分子量DNAラダー(25~766bp、NEB、N3233)を調製した。通常、0.5μLのマーカーを5μLのローディング体積で使用した。ゲルは、60分間、定電力(10W、最大500V、最大100mA)をかけてTAEバッファ中で泳動させた。その後、新たに調製した1:10000のエチジウムブロマイド希釈液でゲルを15分間インキュベートしてから、dH2Oで15分間脱色した。可視化にはGel Doc EZ Imager(BIO RAD)を使用した。
【0090】
【0091】
逆転写後に得られたcDNA:(配列番号20)
【数1】
【0092】
得られたクリック生成物:(配列番号21)
【数2】
AT=AとTを骨格模倣体で結合
【0093】
【0094】
【0095】
実施例5(
図11に関連)
最終体積25μLのサンプルは、1×末端ヌクレオチジルトランスフェラーゼバッファ(25mM Tris-HCl(pH7.2)、200mMカコジル酸カリウム、0.01%(v/v)Triton X-100、1mM CoCl
2)中、1μMのオリゴ2、1mMの3’-アジド-2’,3’-ジデオキシグアノシン-5’-トリフォスフェート又は3’-アジド-2’,3’-ジデオキシウリジン、及びTdT-酵素(2U/μl)を含み、TdT-反応を実施した。反応物を37℃で一晩(12~15時間)インキュベートし、70℃まで10分間加熱して停止した。QIAquick Nucleotide Removal Kitを用いて混合物を精製し、30μLの水で溶出した。
【0096】
200μL反応バイアル中で、2つのリアクターペレット(600~800μm、元素銅を含む)を12.5μLの反応ミックスと合わせ、45℃で60分間インキュベートした。クリック反応混合物は、800μMのTHPTA、40mMのMgCl2、5%(v/v)DMSOのH2O溶液、1μMのアルキン-オリゴ3、及びTdT反応で得た約0.3μMの精製アジドオリゴヌクレオチドで構成した。リファレンスとして、800μMのTHPTA、40mMのMgCl2、5%(v/v)DMSOのH2O溶液、1μMのアルキン-オリゴ3、及び約1μMのアジド-オリゴ2で構成した反応混合物を混合した。
【0097】
インキュベーション後、サンプルを短時間スピンダウンし、上清を新しいバイアルに移して反応を停止した。サンプルは20%ポリアクリルアミドゲルで分析した。リファレンスとして低分子量DNAラダー(25~766bp、NEB、N3233)を使用した。
【0098】
オリゴヌクレオチドの変性PAGEでは、サンプルを尿素(50v/v)と混合し、20%変性ポリアクリルアミドゲル(7.5mLのRotiphorese(登録商標)Sequencing gel concentrate、750μLのRotiphorese(登録商標)Sequencing buffer concentrate、2.09mLの再蒸留水、3mLの6M尿素溶液、1.5mLの10×Tris-ホウ酸-EDTA(TBE)バッファ(1M Tris、1M H3BO3、25mM EDTA)、150μLの過硫酸アンモニウム(10%(w/v))、10μLのテトラメチルエチレンジアミン(W×D×H=7.5×0.1×8.3cm))にロードした。ゲル電気泳動は、0.5×TBEバッファ中、150Vで2時間実施した。ゲルをエチジウムブロマイド溶液で染色し、水で洗浄した。その後、BioRad社のGel Doc(商標)EZ Systemを用いてバンドを可視化し、Image Lab(商標)ソフトウェアを用いて解析した。
【0099】
【0100】
【配列表】