(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】塩化物ヒープ浸出における水バランス
(51)【国際特許分類】
C22B 15/00 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
C22B15/00 105
C22B15/00 107
(21)【出願番号】P 2020534465
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 IB2018060422
(87)【国際公開番号】W WO2019123365
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-09-17
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ZA
(32)【優先日】2018-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ZA
(73)【特許権者】
【識別番号】515048825
【氏名又は名称】ビーエイチピー チリ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】オルメオ バリオス ダマソ
(72)【発明者】
【氏名】チロワ クレメント チブワナ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス マテウス シュトラウス
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05232490(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0144209(US,A1)
【文献】特表2016-535167(JP,A)
【文献】特表2015-530481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100~230g/Lの塩化物濃度を有する高濃度塩化物ヒープ浸出操作におけるすすぎに利用可能な水の量を最大化する方法であって、ヒープ内の浸出済み残留鉱石をすすぐために、
銅鉱石1トン当たり0.05~0.35m
3のプロセス補給水を使用し、前記浸出済み残留鉱石から塩化物含有水性液を取り出す工程
であるすすぎ工程を含む方法であって、有機相中の塩化物濃度を低減するために多段向流負荷有機溶媒スクラブ回路を利用することにより、すすぎに利用可能なプロセス補給水の量を増加させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記すすぎ工程におけるプロセス補給水の量は、
銅鉱石1トン当たり0.1~0.15m
3であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
次の少なくとも1つを使用して、すすぎに使用可能なプロセス補給水の量を増やす工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
(1)浸出回路からの水の蒸発を増加させる。
(2)前記ヒープに雨水が入らないようにする。
(3)負荷された有機物の効果的なスクラビングにより、電解採取ブリード補給水の需要を削減する。
【請求項4】
前記有機相の前記塩化物濃度を50ppm未満に減少させることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
取り出された前記塩化物含有水性液は回収され、前記ヒープ浸出操作にリサイクルすることにより、前記ヒープ浸出操作に追加する補給塩の量が減少することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記すすぎ工程を5~100日の期間行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記期間が20日であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記すすぎ工程で取り出された前記塩化物含有水性液中に回収された銅は、前記高濃度塩化物ヒープ浸出操作に戻され、その後、溶媒抽出工程および電解採取工程を使用して回収されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記すすぎ工程で前記プロセス補給水により取り出された前記塩化物含有水性液中に回収された塩化物の、すすぎ前の前記浸出済み残留鉱石中の塩化物の総含有量に対する比率は、40~85%であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記比率が60%であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅鉱石の高濃度塩化物浸出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性硫酸塩溶液を細菌と共に使用する低品位硫化銅鉱のバイオ浸出は、世界中で適用されている確立された商業的プロセスである。
【0003】
より最近では、細菌を使用することなく、黄銅鉱を含む硫化銅鉱石を高い電位で浸出することができる塩化物浸出の方法が開発された。特許文献1および特許文献2は、高濃度の塩化物を使用して黄銅鉱の不動態化を解消し、700mV(SHE:標準水素電極Standard Hydrogen Electrode)を超える溶液酸化電位での操作を可能にし、浸出率の増加と銅回収率の向上をもたらすことを開示している。
【0004】
高濃度の塩化物は、酸素含有ガスの存在下で、2価の銅イオン(Cu(II))および第二鉄イオン(Fe(III))などの酸化剤の形成速度を高めている。これらの酸化剤は硫化銅鉱物と反応して、溶液中に銅を溶出させる。
【0005】
実際には、商業規模での塩化物溶液中における銅鉱石のヒープ浸出は、放っておくとプロセスの経済的実行可能性が制限されてしまう。高濃度塩化物(100~230g/L塩化物)によるヒープ浸出に対する特定の制約としては、浸出済み残留物に水分として含まれる溶液中における回路からの塩化物の損失である。
【0006】
特許文献3は、塩化物ヒープ浸出により硫化物材料から貴金属を抽出する方法を開示している。鉱石をヒープ内で30~60日間浸出する。浸出サイクルに続いて、混入した塩化物および金属を回収するために、ヒープを水で洗浄する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/059551号
【文献】国際公開第2014/030048号
【文献】米国特許第5232490号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、少なくとも部分的に、前述の問題に対処すること、すなわち、利用可能であり、浸出済み残留固形物をすすぐのに適した水の量を最大にすることである。これにより、塩化物を回収し、プロセスからの塩化物の損失を減らすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、高濃度塩化物によるヒープ浸出操作において、すすぐために利用可能な水の量を最大にする方法を提供する。この方法は、鉱石1トン当たり0.05~0.35m
3
のプロセス補給水を使用して、浸出済み鉱石をヒープ内ですすぎ、これによって浸出済み鉱石から塩化物含有水性液を取り出す工程を含んでおり、有機相中の塩化物濃度を低減するために多段向流負荷有機溶媒スクラブ回路を利用することにより、すすぎに利用可能なプロセス補給水の量を増加させている。
【0010】
すすぎ工程におけるプロセス補給水の量は、好ましくは、鉱石1トン当たり0.1~0.15m
3
とすることができる。
【0011】
100~230g/Lの塩化物濃度でのヒープ浸出は、高濃度塩化物浸出と見なされる。
【0012】
「水バランス」は、システムへ流入する水の量とシステムから流出する水の量の差に関する。
【0013】
すすぎに利用可能なプロセス補給水の量を最大化し、不注意によるパージ並びに対応する塩化物および銅の損失を防止するため、プロセス補給水の量を増加させる方法、およびプロセス補給水を利用する方法は、以下のように実現することができる。
a)水不足は、浸出操作からの蒸発を増加させることによって、たとえば空中噴霧器を利用することによって、またはポンドのカバーまたはヒープ上の太陽電池フィルムなどの蒸発減少装置を配置しないことによって、すなわちこのような装置を設置しないままにすることによって起こる恐れがある。
b)雨水がヒープに入らないようにする。
c)電解採取ブリード補給水の需要は、負荷された有機物の効果的なスクラビングによって減少することができる。
【0014】
有機相の塩化物濃度を50ppm未満に減少させることができる。
【0015】
塩化物をほとんど、または、まったく含まないプロセス補給水は、塩化物含有水性液を取り出すために使用され、次に、それは回収され、ヒープ浸出操作にリサイクルされ、これにより、操作に追加する補給塩が減少する。
【0016】
すすぎ工程を5~100日の期間行うことができる。好ましくは、この期間は、20日である。
【0017】
浸出済み残留鉱石または塩化物含有水性液に残った残留可溶性銅は、すすぎ工程中にすすぎ水中に回収することができ、また浸出操作に戻すことができ、その後、溶媒抽出工程と電解採取工程を使用して回収することができ、全体的な銅の回収率が向上する。
【0018】
すすぎ工程でプロセス補給水により取り出され、水性液中に回収された塩化物および銅は、それぞれすすぎ前の残留鉱石中の総含有量の割合として表すことができ、「洗浄効率」と定義することがきる。この洗浄効率は、指定された洗浄量(即ち、鉱石1トン当たり0.05~0.35m3)で通常40%~85%である。所望の割合(または比率)は、60%程度である。
【0019】
塩化物レベルは、言及した範囲内にあってもよく、通常150g/Lである。しかし、これは単なる例示であり、限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】従来のヒープ浸出プロセスを表した図である。
【
図2】
図1のヒープ浸出プロセスのインプットとアウトプットの「ブラックボックス」図である。
【
図3】
図1のプロセスの一部を形成する溶媒抽出プロセスおよび電解採取プロセスを表した図である。
【
図4】本発明による最適化されたヒープ浸出プロセスを表した図である。
【
図5A】すすぎ段中の可溶イオンの回収率を鉱石1トン当たりの洗浄水の添加量の関数として百分率で表した洗浄効率曲線である。
【
図5B】必要とされる塩分補給添加量の減少を鉱石1トン当たりの洗浄水の添加量の関数としてkg/Lで表した曲線である。
【
図6】
図4のプロセスの一部を形成する向流回路を利用する最適化された銅溶媒抽出済み有機スクラブプロセスを表した図である。
【
図7A】下流の電解採取プロセスに流入する電解液中の塩化物濃度を低減するために操作する、
図6のスクラブプロセスで使用することができる異なる向流スクラブ回路を表した図である。
【
図7B】下流の電解採取プロセスに流入する電解液中の塩化物濃度を低減するために操作する、
図6のスクラブプロセスで使用することができる異なる向流スクラブ回路を表した図である。
【
図7C】下流の電解採取プロセスに流入する電解液中の塩化物濃度を低減するために操作する、
図6のスクラブプロセスで使用することができる異なる向流スクラブ回路を表した図である。
【
図8】低品位黄銅鉱の処理に使用される統合パイロットプラントのフローシートである。
【
図9】
図8に関連するパイロットプラントのインプットおよびアウトプットを示す簡略図である。
【
図10】パイロットプラントのさまざまな操作フェーズにおける、多数のクリブの給液期間の関数として表した銅回収曲線である。
【
図11】第2操作フェーズのパイロットプラントにおける1つのクリブに対する洗浄水追加の関数として表した洗浄効率(塩回収)曲線である。
【
図12】
図11に関連するクリブについて洗浄水追加の関数として表した補給に必要な塩量曲線である。
【
図13】パイロットプラントでラフィネート中に不純物金属(アルミニウム、マグネシウム、鉄)と硫酸塩がどのように蓄積するかを時間の関数として表した曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、添付の図面を参照して実施例としてさらに説明される。
【0022】
図1は、単段ヒープ浸出を含む一般的なヒープ浸出プロセス10を示している。一般に、塩化物によるヒープ浸出プロセスは、「レーストラック」として知られるヒープの構築と操作の方法を使用して適用される。レーストラック形のヒープでは、鉱石12は酸14および塩16を使用して凝集され(13)、ヒープ18内でパッド(図示せず)に積み重ねられる。ヒープ18は、所定の時間、水性浸出液20で給液される。この水性浸出液20は、ヒープ18上でリサイクルされる。鉱石12から遊離した銅は、浸出溶液22に集められ、浸出溶液22は、ヒープ18から浸出溶液ポンド24に排出される。
【0023】
有機溶媒抽出工程26と電解採取工程28の組み合わせにより、金属銅29が溶液から回収される。
【0024】
浸出期間の終わりに、給液が停止され、浸出済み鉱石は排出される。浸出済み鉱石残留物30(リピオスとも呼ばれる)および混入した水性液は、除去され、廃棄施設に送られる。
【0025】
図2は、ヒープ18へのいくつかのインプット、およびヒープ18からのいくつかのアウトプットを示す。インプットとしては、以下が含まれる。
a)鉱石12:価値のある鉱物または金属を含む鉱石、この場合は銅。
b)酸14:一般にこの酸は、酸性環境を維持するために、脈石と反応するための酸を供給するために、銅鉱石の溶解とFe(III)およびCu(II)酸化剤の生成のために、並びに、可溶性銅および他の金属イオンを浸出溶液22に溶出するために、鉱石12に添加される硫酸である。
c)雨または降水32:ヒープ18および関連するポンドに降る雨で、プロセスで循環する溶液に加えられる。
d)空気34:空気は、Cu(II)とFe(III)を生成するための、および硫化鉱物の浸出のための酸化剤として酸素を供給するため、プロセスに送り込まれる。
e)プロセス補給水36:この水は、アウトプットされる水の量がインプットされる水の量よりも多い場合、不足分を補給するために使用される。プロセス補給水は、必要に応じて、蒸発42によって失われた水、浸出済み鉱石残留物30中の水分として失われた水、および浸出回路から取り出されたパージストリーム45で失われた水を補うために追加される。
f)銅溶媒スクラブ水38:この水は、有機相に混入した塩化物を除去するために、溶媒抽出中に使用され、後続の電解採取プロセスに流入する電解液への塩化物の移動を防ぐ。
g)電解採取ブリード補給水40:回路から除去される電解液ブリードを補充して、その中の不純物のレベルを制御するために使用される。
h)塩16:塩化物を取り込むため。
i)水37:補給水36、スクラブ水38および電解採取補給水40を含む。
【0026】
図2に示すアウトプットは、以下の通りである:
a)浸出済み鉱石残留物(すなわち、リピオス)30は、浸出済み鉱石残留物30(リピオス)中に混入した溶液31として水分を含む。これは、浸出液20による給液が停止され、浸出済み鉱石30が排出され、浸出溶液22が収集されると、浸出済み鉱石30と共に残る残留水溶液である。
b)ヒープおよび関連するポンドからの蒸発42、すなわち大気中に失われた水。
c)銅29、つまり鉱石12から回収される対象金属。
d)回路から不純物を除去するために、または浸出液20中の酸濃度を下げるために、必要に応じて使用されるパージストリーム45。パージストリーム45は、不純物を除去するために、ヒープ浸出プロセス10の任意の適切な溶液ストリームまたはポンドから得ることができる。ヒープ浸出プロセス10からの大量の銅損失を防ぐために、パージストリーム45の銅濃度は、低くなっていることが望ましい。
【0027】
ヒープ18に導入される空気34は、酸素が消費された空気流(図示せず)として、ヒープの側面および上部から流出する。
【0028】
図3は、銅溶媒抽出工程26および電解採取プロセス工程28の簡略化されたフローダイアグラムである。浸出溶液22Xは、有機溶媒抽出設備44を通過し、浸出溶液ポンド24から排出される。有機溶媒抽出設備44は、抽出プロセス46、続いてスクラビングプロセス58、およびストリッピングプロセス48を含む。
【0029】
抽出プロセス46では、溶解した銅イオンは、浸出溶液22Xから有機相51に取り込まれ、次いで、銅希薄化溶液50は、給液中にヒープ18にリサイクルするためにラフィネートポンド52に送られる。スクラビングプロセス58では、有機相51は、低塩化物スクラブ水38を使用してスクラブされ、有機相内の少量の混入した水溶液に含まれる塩化物を除去する。スクラブ水38Xは、使用後、浸出溶液ポンド24に再循環される。
【0030】
ストリッピングプロセス48では、溶解銅は有機相51から電解液54に取り込まれ、電解採取プロセス28の電解採取工程56に送られ、そこで溶解した銅イオンが還元され、金属銅29として取り出される。使用済み電解液55は、ストリッピングプロセス48に戻される。電解採取パージ35は、電解採取工程56からヒープ浸出プロセス10、好ましくはPLSポンド24にリサイクルされてもよい。
【0031】
図2に示されているヒープ浸出プロセス10を出る水は、浸出済み鉱石30中の水分31、蒸発42による水分およびパージストリーム45中の水分である。回路溶液中の不純物の蓄積を制限し、酸濃度を下げるため、回路から溶液を除去する。浸出済み鉱石30中の水分レベルは、鉱石材料の特性に応じて、質量あたりの体積として5%~25%、より典型的には8%~20%の範囲である。
【0032】
ヒープ浸出プロセス10内の浸出液20中の塩化物は、鉱石12自体に由来する可能性があるが、大部分は塩16の形で添加することが必要である。これは、ほとんどの鉱石には通常、溶解性の塩化物がほとんど含まれていないためである。比較として、ヒープ浸出プロセス10で必要な塩化物の量は、浸出液20で100~230g/Lである。
【0033】
ヒープ浸出操作に加えられる塩化物の量は、失われる量と等しくなければならない。塩化物含有塩がヒープ浸出プロセスから除去される唯一のメカニズムは、浸出済みヒープ残留物、すなわち、リピオス30内の沈殿した塩と塩化物含有水分を介するものである。パージが回路から取り出されると(内部でリサイクルされない)、塩化物、酸、銅の損失、および回路からの溶解金属と塩不純物の除去につながる。通常、高濃度銅溶液のパージは回路から行われない。そのため、パージは最後の手段としてのみ用いられる。
【0034】
失われた塩化物は補充しなければならない。塩化物は、塩化ナトリウムとして、または同様の塩により補充することができる。この塩は購入して処理現場に輸送する必要がある。全体として、平均的な条件下では、沈殿した塩からの僅かな増加が相殺される浸出プロセスによる脈石および鉱石のミネラルの損失により、通常、鉱石からの固体成分の正味の減少は約5%である。簡潔に言えば、沈殿した鉄塩には硫酸塩、ヒドロキシイオン、Na(ナトリウム)またはK(カリウム)が含まれているため、Fe(鉄)の沈殿により質量が増加することが指摘されている。そのため、沈殿物の質量は、浸出した鉄および硫化物の質量よりも大きい(溶液からのS(硫黄)と酸素の追加による)。沈殿物からの質量の追加により、銅と脈石のミネラルの溶解による質量の損失を補っているが、通常、全体で約5%の正味の質量の損失が予想される。
【0035】
塩およびその輸送コストは、処理現場の場所に依存する。塩およびその輸送コストは、低くて2.5USドル/T程度から、高くて40USドル/T程度(例示的な数値のみ)になるであろう。高濃度塩化物によるヒープ浸出操作は、通常、年間1000万トンの鉱石で生産を開始し、それを大幅に超える可能性がある。したがって、塩の購入と輸送コストは、かなりの額になる。
【0036】
図4は、多くの点で
図1に示すものと同じである本発明によるヒープ浸出プロセス10Aを示す。水37Aは、補給水36A、スクラブ水38Aおよび電解採取補給水40Aを含む。
【0037】
塩16Aは、ヒープ浸出プロセスの開始時に添加される塩と、プロセス溶液中、例えば、液20A中の必要な塩化物濃度を維持するために必要な追加の塩(補給塩)を含む。
【0038】
補給水36Aを浸出済み残留鉱石30Aに送って、この鉱石をすすぎ、高濃度の塩化物を含む混入した溶液をすすぎ流れ溶液60Aに取り出す。補給水36Aは、塩化物が少なく、すすぎ流れ溶液60Aは、塩化物が多い。すすぎ流れ溶液60Aは、浸出ポンド24A、またはヒープ浸出回路内の他の適切なポンドに送られる。したがって、元の塩分のかなりの部分がプロセスに保持される。
【0039】
水性浸出液20Aでの給液に続いて、大量の混入した給液溶液がヒープ18Aから排出できるように、補給水36Aでヒープ18Aのすすぎを開始する前の5~50日、通常は20日の休止期間を置くことが好ましい。これにより、8~20%、通常10%の残留水分レベルが達成される。排出されたヒープをすすぐことで、洗浄効率が改善される。
【0040】
補給水36Aを浸出済み鉱石残留物30Aに適用するためのすすぎ期間は、変動するが、5~100日、好ましくは10~50日、または通常20日である。
【0041】
ヒープ浸出プロセス10Aは、塩の節減に関連しているが、浸出済み鉱石残留物30Aに残っている残留可溶性銅の一部がヒープ浸出プロセス10Aに戻されるという追加の利点がある。溶媒抽出工程26Aおよび電解採取工程28Aを使用することにより、残留可溶性銅を回収することができる。
【0042】
図5Aは、浸出済み鉱石からの可溶性銅の取り出しから計算された洗浄効率曲線を示している。取り出された銅のパーセンテージは、塩化物を含むすべての可溶性成分に適用される。溶液分析を正確に行うために、銅を指標として使用した。この曲線は、鉱石1トンあたりの予想されるプロセス補給水(36A)の需要が、可溶性イオンの回収率(パーセンテージで表される)とバランスが取れている運転範囲Rを示している。この範囲は、状況に応じて変えることができる。この範囲Rは、鉱石1トン当たり0.05~0.35m
3であり、好ましくは鉱石1トン当たり0.1~0.15m
3である。
図5Aの曲線は、範囲Rでの最適な洗浄効率が50%~70%であることを示している。鉱石1トン当たり0.1m
3の洗浄水追加における目標回収率は、60%である。
【0043】
図5Bは、追加洗浄水36Aの関数として、kg/Tでの添加補給塩の減少を示す。塩の回収に直接関連する補給塩の減少は、洗浄水として示された量の補給水36Aで残留鉱石を洗浄することにより達成される。
【0044】
すすぎに利用可能な補給水36Aの量を最大にする効果的な方法は、他の流れを通ってプロセスに入る水の量を減らすことである。水は、降雨32A、酸14A、酸反応、溶媒抽出スクラブ水38A、および電解採取ブリード補給水40Aからプロセスに入る。蒸発42Aにより水不足が発生する。
【0045】
すすぎ段に向けることができる水の量を最大にするために、以下を考慮することができる。
図6に示すように、多段向流アプローチ70を利用することにより、スクラブ水38Aを減らすことができる。これは、浸出済み鉱石30A(またはリピオス)をすすぐために、より多くの量の補給水36Aを使用することを可能にする。
【0046】
プロセス70は、第1段70A、第2段70Bおよび第3段70Cを含んでいる。さらに段を追加することができる。しかし、利益が減少し、資金が増加する。プロセス70の最適なパフォーマンスは、3段が期待されている。抽出済み有機相51は、前のサイクルの第2段70Bのセトラー74bから得られた第1中間高濃度塩化物使用済みスクラブ水38Xbと混合するために、抽出プロセス46からミキサー72aに送られる。その後、スクラブ済み有機相49aと高濃度塩化物使用済みスクラブ水38Xcに分離するために、セトラー74aに送られる。
【0047】
有機相49aは、第2中間高濃度塩化物使用済みスクラブ水38Xa(前のサイクルの第3段70Cの使用済みスクラブ水から得られる)と混合するためにミキサー72b(現在の第2段70Bにある)に流入し、次に、中間高濃度塩化物有機相49bと中間の使用済みスクラブ水38Xb(次のサイクルの第1段70Aに送られる)に分離するためのセトラー74bに流入する。
【0048】
有機相49bは、新鮮なスクラブ水38Aと混合するために(現在の第3段70Cの)ミキサー72cに流入し、次に、スクラブ済み有機相49cと中間高濃度塩化物使用済みスクラブ水38Xa(次のサイクルの第2段70Bに送られる)に分離するためのセトラー74cに流入する。スクラブ済み有機相49cは、ストリッピングプロセス48に流入する。
【0049】
溶媒抽出プラントは、水性および有機性の接触および分離のために、それぞれミキサー/セトラーを使用する。2つの流体は、連続相を形成する水性流体と、不連続相として分散する有機流体とで分散液を形成するため、ミキサーで混合される。水/有機分散液は、2つの流体が有機相と水相に分離するセトラーに流入する。この分離は完全ではなく、各相はその中に混入した他の流体の一部を含んでいる。
【0050】
抽出、または溶媒抽出プロセス46の投入段から得られる有機物51は、スクラブ段58に流入する。
【0051】
図7A、7Bおよび7Cは、それぞれ、有機相51の塩化物濃度を低減するために使用される、単段向流スクラブ回路、2段向流スクラブ回路、および3段向流スクラブ回路を示している。
【0052】
スクラブ段58に入る有機相51は、通常約150000ppmの塩化物含有量を伴う混入した浸出溶液を有する。銅が電解液54中に取り込まれる前に、このレベルを約50ppmに減少させることが通常望ましい。
【0053】
図7Aの単一サイクルスクラブ段58Aでは、抽出段46からの有機相51は、ミキサー内で低塩化物水溶液38Aと組み合わされる。スクラビングは、完全ではなく、混入した塩化物の一部は、最終的な有機相49aの混入した溶液に持ち込まれる。
【0054】
図7Bは、2サイクル向流スクラブ段58A、58Bを示している。得られた有機相49bは、単一サイクルのスクラブ段58Aから得られる有機相49aよりも混入した塩化物含有量が低い。しかし、高濃度塩化物浸出操作では、大量のスクラブ水を使用しない限り、2サイクルのスクラブ段では、得られる有機相の塩化物含有量を十分に減らすことはできない。
【0055】
プロセス10Aでは、3段向流スクラブ回路58A、58B、58Cが使用されている(
図7C)。この回路では、抽出段46で得られる有機物の僅かに約75分の1のスクラブ流量で、最終段58Cからの有機相49cの塩化物濃度は、50ppm未満に減少している。
【0056】
多段サイクル向流スクラブ段でのスクラブ水は、通常の従来からの単段スクラブ回路で使用されるスクラブ水の3分の1未満である。ここで節約された水は、
図4の洗浄水36Aとして使用することができ、浸出済み鉱石をすすぐために使用することができる。これにより、塩化物回収の観点から洗浄効率が最大化し、浸出済み鉱石への可溶性銅の損失が減少する。
【0057】
以下は、上述の発明の原理を検証するために行われたテスト作業に関する。
【0058】
実験的評価-統合パイロットプラント
【実施例1】
【0059】
本発明の方法の適用をパイロット規模で再現するために、9つのクリブと溶媒抽出プラントを組み込んだ統合パイロットプラントを設けた。このプラントは、動的な「レーストラック」スタイルのヒープ浸出操作を使用して、さまざまな低品位黄銅鉱を処理するように設計されている。これは、複数のセクターを備えているヒープであり、新しいセクターが積み重ねられ、古くからある、最も浸出されたセクターがパッドから取り除かれ、再利用される。
【0060】
各クリブは、4m2の断面積、7.5mの操作高さ、10mの全高を有しており、約40トンの鉱石を含んでいた。クリブは、9つのセクターでの商業運転をシミュレーションするために操作された。このプロセスは、動的であり、浸出済みクリブから浸出残留物を定期的に取り除き、空のクリブで浸出済み残留物を新鮮な鉱石と交換した。
【0061】
3つの別個の操作フェーズを行った。試験した鉱石サンプルに含まれる主要な硫化銅鉱物と脈石鉱物の組成範囲、および操作の簡単な説明を表1に要約する。
【0062】
表1 パイロットプラント操作フェーズ
【表1】
*CSR-銅源比率(Copper Source Ratio、この鉱物に含まれている総銅の割合)
【0063】
鉱石サンプルは、3段の破砕回路で破砕された。破砕された鉱石は、クリブに投入される前に凝集が行われた。塩化ナトリウム(塩)、酸およびラフィネート(または他の銅、鉄およびプロセス液を含有した酸)を、凝集プロセスで鉱石に加えた。次に、凝集済み鉱石を空のクリブに投入し、一定期間養生した後、給液が始まった。給液サイクルの最後に、各クリブを排水し、洗浄するために給水し、再び排水し、最後に空にした。次に、空のクリブを準備して、凝集済み鉱石が新たに投入された。
【0064】
操作の開始およびデータの収集に関連するフェーズIおよびII。
【0065】
フェーズIIIの操作では、低品位鉱石は、銅等級が0.3%程度であり、含有銅の75%が黄銅鉱(黄銅鉱のCSR(銅源比率)が75%)であった。操作は、取り出しとサンプル処理の前に、45日間の養生期間、20日間の湿潤期間、360日間の給液、20日間の洗浄、30日間の排水(合計475日間)で構成された。
【0066】
フェーズIIIの操作スケジュールは、45日ごとにクリブへの投入および取り出しができるように設計されており、それにより、商業的な動的パッドの操作および産業用液体の取り扱いをシミュレートした。この操作終了は、定常状態の不純物濃度を取得し、起こり得る運用上の問題を特定するために不可欠であった。操作は閉鎖回路で維持され、残留物水分と蒸発による損失を補うためのラフィネートを生成するために、洗浄水が再導入された。水の添加率は、鉱石1トン当たり0.11m3に維持された。新鮮な補給水は、有機物を洗浄して塩化物を除去するために、および本発明の方法に従って残留鉱石を洗浄するために使用された。
【0067】
パイロットプラントは、商用ヒープ浸出操作を真似るように注意深く制御されたアウトプットおよびインプットを備えた閉鎖システムとして操作された。つまり、淡水の追加は、蒸発によって失われた水、浸出済み残留物(またはリピオス)中の水分としての損失、およびプロセス溶液のパージで失われた水の補充(不純物を下げるために必要な場合)のバランスを取るために制限された。パイロットプラントのプロセスフローシートを
図8に示す。パイロットプラントの主な構成要素および操作を下記のように要約する。
・ラフィネートタンク1:溶媒抽出(SX)7からの戻りラフィネートを保管する。1m
3のラフィネート供給タンク2A-I、各クリブ3A-Iに供給する。プロセスの操作上の酸の需要を満たすために、必要に応じて補給酸をラフィネートタンクに加えることができる。
・浸出溶液(PLS)4および5:各クリブ3A-IからのPLSは、1m
3PLSタンク4A-Iに集められる。PLS、はタンク4A-IからPLS保持タンク5に移送される。
・高濃度銅溶液PLS6:鉱石の養生後のクリブの初期の給液から集めた最初のPLSは、高濃度の銅を含有量している。この初期PLSは、保持タンク6に集められる。タンク6の高濃度銅溶液PLSに補給酸を加えることができる。タンク6の高濃度銅溶液PLSにSXからのパージ水を加えることができる。
・鉱石の凝集8:鉱石を凝集ドラムで凝集させる。ラフィネートタンク1のラフィネートを鉱石に追加する。必要に応じて、目標とする酸の追加と総塩の追加とにあわせるために、酸と固形塩とを追加する。高濃度銅溶液PLSは、鉱石の凝集に使用することができ、銅と酸(高濃度銅溶液PLSに含まれる)を鉱石の凝集に直接戻すことができる。酸を含む凝集鉱石の銅含有量が高いと、初期の休止工程での鉱石の養生中に銅の溶解を改善することができる。必要に応じて、凝集した鉱石をロードクリブ(3A-I)に移動する。
・鉱石がクリブ3A-Iで浸出される:凝集した鉱石をクリブに積み上げる。養生(初期休止期間)することができる。その後、給液を開始する。給液は、鉱石を確実に濡らすためにゆっくり開始する。給液は、低濃度銅ラフィネートを溶媒抽出プロセスからクリブの上部にポンプで送ることによって行われる。液は、ドリッパーネットワークを介して散布により、クリブの表面に分散される。溶液を各クリブ内の鉱石に浸透させる。同時に、各クリブの底部に空気を導入する。銅は、プロセス液中の酸と空気中の酸素との組み合わせによって溶けやすくなる。給液は、クリブの底部に流入する。すでに銅含有量が高く、PLS(浸出溶液)と呼ばれている。これは集められ、溶媒抽出プロセスに流入する。
・鉱石の浸出に続いて、ラフィネートによる鉱石の給液を停止する。鉱床を排水し、次に鉱石を洗浄水で洗浄して、混入した塩化物(塩)と溶解した銅とを回収する。洗浄された浸出済み鉱石残留物は、次にクリブから取り除かれ、廃棄される。
・溶媒抽出(SX)7:銅をPLSから溶媒抽出によって回収する。銅をE1およびE2の2つの抽出段で有機物に負荷する。次に、負荷された有機物を2段洗浄L1およびL2で水洗する。混入した水溶液を除去するために洗浄が必要であり、そのため、負荷された有機物のストリッピング後のアドバンス電解液の塩化物含有量は50ppm未満である。洗浄段に続いて、銅をアドバンス電解液7bに回収するために、負荷された有機物は、S1でストリッピングされる。負荷された有機物をストリッピングするための使用済み電解液は、保持タンク7cから供給される。負荷された有機物を完全にストリッピングするために必要な量まで酸濃度を上げるために、必要に応じて、保持タンク7cの使用済み電解液に補給酸を加えることができる。銅の回収のために、アドバンス電解液が回路から取り除かれ、使用済み電解液が回路に戻される。負荷された有機物の洗浄効率は、洗浄段の数を3つに増やすことで改善することができる(
図7Cを参照)。洗浄効率の向上により、負荷された有機物の洗浄に必要な洗浄水量が減少し、浸出済み鉱石残留物の洗浄用水量を増加させることができるので、鉱石残留物に混入した溶液を取り出すことにより、塩化物と銅の回収率が向上する。
【0068】
表2 フェーズI、フェーズII、フェーズIIIのパイロットプラント操作パラメーター
【表2】
【0069】
インプットとアウトプットを示すパイロットヒープの簡略化された物質収支図を
図9に示す。鉱石、酸、塩、水のバランスの代表的な値を表3に示す。表3の結果は、0.11m
3/Tの水を運転目標として鉱石を洗浄することによって回収された塩が9kg/Tに等しく、必要な補給塩の点で大幅な節約を示していることを示している。フェーズIIで処理された鉱石の場合、鉱石の洗浄によって回収された銅(実施例2に示す)を含む回収された総銅は、元の鉱石フィード中の銅の60%に相当した。
【0070】
インプットとアウトプットを示すパイロットプラントの物質収支
【表3】
【0071】
表3は、ある期間にわたってこのプロセスにより処理した348トンの鉱石について、溶媒抽出洗浄水が4.3m
3であったことを示している。浸出後の鉱石洗浄に使用した洗浄水は、34.9m
3であり、約8倍であった。したがって、この場合、溶媒抽出洗浄水をさらに減らすことで鉱石洗浄を改善する余地はほとんど期待できない。しかし、溶媒抽出洗浄の性能は、2段構成のこの洗浄容量では不十分であった。洗浄後の負荷された有機物中の混入した溶液の塩化物濃度は、600ppmのオーダーである。溶媒抽出に割り当てられる洗浄水を増やすことはできまる。しかし、これでは浸出済み鉱石の洗浄に使用できる水量に影響を与え、洗浄済み有機物の塩化物含有量を十分に減らすことは期待できない。この結果、可溶性銅の損失、および塩の需要が増加する。もう1つのオプションは、前述のように、向流溶媒洗浄段の段数を3以上に増やすことである(
図7C)。これにより、洗浄水を増やすことなく、洗浄後の有機物中の塩化物が大幅に減少する。
【0072】
この例は、全体的なプロセスの水収支と、全体的なプラント性能に対するSX洗浄段の構成との間の相互作用を示している。この例は、負荷された有機物の効率的な洗浄には、洗浄水の追加量を最小限にし、事前の電解液で塩化物の目標レベルを達成するために、多段の洗浄が必要であることを示している。この結果は、残留物を洗浄するために利用可能な水が最大化されているため、前述の原則と一致している。
【実施例2】
【0073】
洗浄効率曲線並びに銅および塩化物の回収
銅回収:
図10に示す結果は、パイロットプラント運転の2つのクリブ、すなわちクリブ1のフェーズI(鉱石A;0.5%Cuおよび60%CSR黄銅鉱)およびクリブ5のフェーズII(鉱石B;0.65%Cuおよび75%CSR黄銅鉱)の運転時間の関数としての銅回収およびPLS(または給液排水溶液)銅濃度のプロフィールを表している。
【0074】
クリブ1のフェーズIでは、給液溶液またはラフィネートは5g/Lの銅を含んでいた。この結果は、処理された鉱石サンプルの場合、浸出サイクルの最後では、銅回収率が59%であることを示している。浸出済み残留物を排出し、次に水で洗浄して、混入した溶解銅を回収した。
図10に示すように、水洗による残留鉱石からの銅の取り出しにより、銅の回収率が70%に増加した。
【0075】
クリブ5では、フェーズIIの給液溶液、またはラフィネートは、0.5g/Lの銅を含んでいた。この結果は、処理された鉱石サンプルの場合、浸出サイクルの最後では、銅回収率が59.5%であることを示している。浸出済み残留物を排出し、次にプロセス水で洗浄して、混入した溶解銅を回収した。
図10に示すように、水洗による銅の取り出しにより、銅の回収率が60%に増加した。
【0076】
クリブ1において銅の回収率が11%増加し、クリブ5においてそれが0.6%しか増加しなかった理由は、クリブ1が高濃度銅含有溶液(5g/L)を給液することで、かなりの可溶性銅が浸出の終わりに、クリブが保持していたためである。クリブ5の場合、クリブ1で使用した溶液の銅濃度の1/10の濃度の溶液を給液したため、洗浄前にクリブに保持されていた可溶性銅の量は、はるかに少なかったためである。
【0077】
溶媒抽出プロセスを注意深く操作することは、プロセスに給液する際に低濃度銅ラフィネートを供給することにより、可溶性銅の損失を低減することができる。
【0078】
塩化物回収:上述のように、溶媒抽出プロセスを注意深く操作することは、プロセスに給液する際に低濃度銅ラフィネートを供給することにより、可溶性銅の損失を低減することができる。これは塩化物には当てはまらない。このプロセスでは、黄銅鉱の浸出を最大化するために、給液中の塩化物含有量を多くすることが求められる(約150g/L)。ヒープから取り除かれる浸出済み鉱石(リピオス)に混入する残留塩化物は、塩化ナトリウムまたは代替塩化物源(HCl、MgClなど)を追加して補わなければならない。
【0079】
塩化物回収に関する洗浄効率を
図11に示す。このデータは、クリブ5におけるフェーズIIのプロセス水洗浄の結果に基づいている。その結果は、適用される洗浄水の量が増加するにつれて、塩化物の回収率が増加することを示している。パイロットプラントのプロセスフローシートの水収支では、残留鉱石を洗浄するために使用する水を、プロセスから失われた水が他の淡水投入量より少なくなるように制限する必要がある。パイロットプラントから取り除かれた残留鉱石中の水分として水が失われ、蒸発によって水が失われ、液体が回路からパージされると水が取り除かれる。回路へのもう1つの淡水投入は、混入した塩化物を取り除くために、溶媒抽出済み有機洗浄工程で使用する淡水である。
【0080】
残留鉱石を洗浄するために利用可能な水の最大量は、鉱石1トン当たり約0.1m
3である。
図11の例に示す結果は、鉱石1トン当たり0.1m
3の洗浄水で、洗浄効率(または塩化物回収率)が約60%に等しいことを示している。
【0081】
水洗によって達成される塩化物の回収は、残留鉱石中の水分で失われる塩化物を補給するために添加しなければならない同等の塩化物として表すこともできる。
図12に示すように、クリブ5のフェーズIIの洗浄曲線の補給塩(NaCl)に関して、鉱石1トン当たり0.1m
3の洗浄比では、補給塩(NaCl)が鉱石1トン当たり約18kgであることを示している。
【実施例3】
【0082】
不純物の蓄積
洗浄は、塩化物を保持し、銅の回収をわずかに増加させると考えられる。負の側面としては、脈石鉱物と酸との反応から生じる潜在的に望ましくない成分もプロセスに保持されることである。
【0083】
脈石鉱物と酸との反応は、Ca(カルシウム)、Si(ケイ素)、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Fe(鉄)、およびK(カリウム)などの金属の溶解も引き起こす。これらの溶解成分は、浸出後の洗浄済み鉱石の溶解成分の質量が浸出後に再沈殿した成分が溶解する質量より小さくなる濃度で溶液中に蓄積する。
【0084】
洗浄を伴う閉鎖回路操作におけるパイロットプラントラフィネート中の不純物の蓄積を
図13に示す。アルミニウムとマグネシウムの濃度(黒雲母や亜塩素酸塩などの脈石鉱物ケイ酸塩の酸による溶解)は、閉鎖回路での操作期間とともに明らかに増加し、ラフィネート1リットル当たり、それぞれ約10gおよび5gの濃度に達した。総鉄濃度は、ラフィネート1リットル当たり、2~4gの範囲である。総硫酸塩濃度は、ラフィネート1リットル当たり、約80gである。
【0085】
一般に、塩化ナトリウムの添加に加えて、このような成分の蓄積により、溶液は、飽和してしまう。硫酸塩は、不溶性鉄ジャロサイト(NaまたはKジャロサイトなど)として、メタシデロナトライト[Na2Fe3+(SO4)2(OH)・(H2O)]として、或いは低温および高飽和レベルにおいて、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウムおよび/または硫酸マグネシウムとして、溶液から沈殿することがすでに知られている。
【0086】
硫酸鉄および他の金属硫酸塩の沈殿は、特に環境温度が低く(<20℃)、塩の沈殿が増加する場合に、操作回路に問題を引き起こす恐れがある。起こり得る問題は、次のとおりである。
・ヒープ給液に使用するドリッパーラインにおける硫酸塩の沈殿。ドリッパーラインが閉塞し、効果的なヒープ給液ができなくなる。
・溶液保持ポンドにおける塩の沈殿。溶液保持ポンドの有効容量が減少する。
・ヒープの層内における沈殿。細孔空間が閉塞し、鉱床を通る溶液の流れおよび溶液の分布が不十分になり、銅の回収率が低下する恐れがある。
【0087】
沈殿量は、洗浄の程度によって変化する。塩化物の回収を最適化すると、望ましくない成分の蓄積と沈殿に起因するプロセス上の問題により発生するコストによって効果が相殺される場合がある。このような場合は、洗浄の程度を下げることが必要である。