(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ダンパー
(51)【国際特許分類】
F16F 7/00 20060101AFI20230111BHJP
F16F 7/08 20060101ALI20230111BHJP
F16F 9/02 20060101ALN20230111BHJP
F16F 9/36 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
F16F7/00 B
F16F7/08
F16F9/02
F16F9/36
(21)【出願番号】P 2019091992
(22)【出願日】2019-05-15
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000124096
【氏名又は名称】株式会社パイオラックス
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】加藤 幸一
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-076852(JP,A)
【文献】特開2016-011750(JP,A)
【文献】特開平09-287627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/00
F16F 9/02
F16F 9/36
F16F 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに近接離反する一対の部材の間に取付けられ、該一対の部材が近接又は離反するときに制動力を付与するダンパーであって、
一端に開口部を設けた筒状のシリンダーと、
前記シリンダー内に移動可能に挿入されるロッドと、
弾性樹脂材料からなり、前記シリンダーの前記開口部に取付けられるキャップとを有し、
前記キャップは、前記シリンダーの一端に係合するフランジ部と、該フランジ部から軸方向に延びて、前記シリンダー内に挿入されると共に、前記ロッドの外周に配置される筒状の挿入部と、該挿入部の先端側内周に設けられ、前記ロッドの外周に常時圧接される圧接部と、前記挿入部の基端側に設けられ、前記開口部の内周に係合して、前記キャップを抜け止めする抜け止め部とを有しており、
前記ダンパーの制動時に、前記ロッドの外周に圧接された前記圧接部と、前記抜け止めとの間で、前記挿入部に軸方向圧縮力が作用して、同挿入部が前記シリンダーの内径方向に撓み変形するように構成されていることを特徴とするダンパー。
【請求項2】
前記シリンダーの、前記開口部側の内周に、凹部が形成されており、
前記抜け止め部は凸部とされ、前記凹部に挿入されると共に、前記ダンパーの制動時に、前記凹部の内周に係合するようになっており、
前記凸部の外周及び/又は前記凹部の内周には、前記ダンパーの制動時に、前記凹部内周から前記凸部が抜き出される方向に抜き出し力を作用させる、斜面が形成されている請求項1記載のダンパー。
【請求項3】
前記挿入部には、その先端側から基端側に向けて軸方向に延びるスリットが形成されている請求項1又は2記載のダンパー。
【請求項4】
前記凹部は貫通孔となっており、
前記フランジ部の周縁からは、前記貫通孔を覆うように、前記挿入部の先端側に向けて外側筒部が軸方向に延びており、
前記挿入部の基端側内周には、前記ロッドの外周に当接する環状シール部が設けられている請求項2記載のダンパー。
【請求項5】
前記抜け止め部は、前記挿入部の軸方向に複数設けられている請求項1~4のいずれか1つに記載のダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のグローブボックスの開閉動作等の制動に用いられる、ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のグローブボックスには、リッドが急に開くのを抑制して緩やかに開かせるために、ダンパーが用いられることがある。
【0003】
このようなダンパーとして、下記特許文献1には、筒状のピストンハウジングと、該ピストンハウジング内に挿入されるピストンロッドと、ピストンハウジングの一端開口に取付けられたガイド/ダンピングユニットとを備える、ダンパーが記載されている。ガイド/ダンピングユニットは、半割筒状をなした一対のハーフシェルを有しており、各ハーフシェルの内部には、弾性減衰材料から形成された四角板状をなしたダンピングストリップが収容されている。そして、各ハーフシェル内にダンピングストリップを収容して、一対のハーフシェルで、ピストンロッドの一端外周を挟み込んで、ガイド/ダンピングユニットを構成した後、同ガイド/ダンピングユニットをピストンハウジングの一端内部に挿入することで、ガイド/ダンピングユニットが、ピストンハウジングの一端開口に取付けられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、グローブボックスなどの開閉においては、手でゆっくり開くときには、制動力を弱くし、グローブボックス内の荷物の重さ等によって急激に開くときには、制動力を強くして、使い勝手を損なわずに、開いたときの衝撃力を弱めることが望まれている。このため、ロッドの移動速度に応じて制動力が変動する、荷重応答特性に優れたダンパーが要求されている。
【0006】
しかし、上記特許文献1のダンパーでは、一対のハーフシェル内に収容された、一対のダンピングストリップの内面が、ピストンロッドの外周の2箇所で、面接触しているだけなので、上記のような荷重応答性をもたせることは難しい。また、ガイド/ダンピングユニットは部品点数が多く、ピストンハウジングの一端開口に対する取付作業性が良いとは言えなかった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、荷重応答特性に優れ、組立て作業性も良い、ダンパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、互いに近接離反する一対の部材の間に取付けられ、該一対の部材が近接又は離反するときに制動力を付与するダンパーであって、一端に開口部を設けた筒状のシリンダーと、前記シリンダー内に移動可能に挿入されるロッドと、弾性樹脂材料からなり、前記シリンダーの前記開口部に取付けられるキャップとを有し、前記キャップは、前記シリンダーの一端に係合するフランジ部と、該フランジ部から軸方向に延びて、前記シリンダー内に挿入されると共に、前記ロッドの外周に配置される筒状の挿入部と、該挿入部の先端側内周に設けられ、前記ロッドの外周に常時圧接される圧接部と、前記挿入部の基端側に設けられ、前記開口部の内周に係合して、前記キャップを抜け止めする抜け止め部とを有しており、前記ダンパーの制動時に、前記ロッドの外周に圧接された前記圧接部と、前記抜け止めとの間で、前記挿入部に軸方向圧縮力が作用して、同挿入部が前記シリンダーの内径方向に撓み変形するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリンダーに対してロッドが制動方向に移動すると、ロッド外周に圧接された圧接部と抜け止め部との間で、挿入部に軸方向圧縮力が作用して、挿入部がシリンダーの内径方向に撓み変形することで、制動力を付与する。この際、ロッドの制動方向への移動速度が速いと、ロッド外周に対する圧接面積が急激に増大するため、制動力を迅速に高めることができ、一方、ロッドの制動方向への移動速度が遅い場合には、ロッド外周に対する圧接面積もゆっくり増していくことになり、制動力の増大は緩やかになるため、ロッドの移動速度に応じて制動力が変動する、荷重応答特性に優れたダンパーとすることができる。また、キャップに設けられた筒状の挿入部に、制動力付与構造を設けたので、部品点数を少なくして、組立て作業性もよいダンパーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るダンパーの、一実施形態を示す分解斜視図である。
【
図2】同ダンパーを構成するキャップを示しており、(a)はその斜視図、(b)は(a)とは異なる方向から見た場合の、断面斜視図である。
【
図3】同ダンパーを構成するキャップの正面図である。
【
図7】同ダンパーの使用状態を示しており、ロッドが静止した状態の説明図である。
【
図8】同ダンパーの使用状態を示しており、ロッドが静止した状態における、
図7とは異なる向きでの断面説明図である。
【
図9】同ダンパーの使用状態を示しており、戻し方向に移動した状態の説明図である。
【
図11】(a)はロッドが静止した状態の要部拡大説明図、(b)は(a)の状態からロッドがダンパー制動方向へ移動した状態の要部拡大説明図、(c)は(b)の状態からロッドがダンパー制動方向へ移動した状態の要部拡大説明図である。
【
図12】(a)は
図11(c)の状態からロッドがダンパー制動方向へ移動した状態の要部拡大説明図、(b)は(a)の状態からロッドがダンパー制動方向へ移動した状態の要部拡大説明図である。
【
図13】同ダンパーにおいて、抜け止め部を複数設けた場合の、要部拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明に係るダンパーの、一実施形態について説明する。
【0012】
図1に示されるダンパー10は、互いに近接離反する一対の部材に取付けられ、該一対の部材が近接又は離反するときに制動力を付与するものであって、例えば、自動車のインストルメントパネルに設けられた収容部の開口部に、開閉可能に取付けられたグローブボックスやリッド等の、制動用として用いることができる。なお、以下の実施形態においては、一方の部材を、インストルメントパネルの収容部等の固定体とし、他方の部材を、固定体の開口部に開閉可能に取付けられた、グローブボックスやリッド等の開閉体として説明するが、一対の部材は互いに近接離反可能なものであれば、特に限定はされない。
【0013】
図1に示すように、この実施形態のダンパー10は、一端に開口部22を設けたシリンダー20と、このシリンダー20内に移動可能に挿入されるロッド30と、弾性樹脂材料からなり、シリンダー20の開口部22に取付けられて、ロッド30を開口部22から抜け止めするキャップ50とを有している。
【0014】
図1に示すように、この実施形態のシリンダー20は、所定長さで延びる略円筒状の壁部21を有しており、その軸方向の一端側が開口して開口部22をなしている。また、
図7に示すように、壁部21の他端側は端部壁23によって閉塞されている。この端部壁23の外側には、環状をなした取付部24が設けられており、該取付部24を介して、インストルメントパネル等の一方の部材に、シリンダー20が取付けられるようになっている。
【0015】
図7に示すように、壁部21の内周であって、一端側の開口部22からは、他端側の端部壁23に向けて、凹溝状をなしたキャップ挿入溝25が所定長さで形成されている。
図10に示すように、このキャップ挿入溝25には、キャップ50の後述する挿入部53が挿入配置される。このキャップ挿入溝25は、その内周が、挿入部53の外周に当接して、挿入部53の外径方向側への撓み変形を規制するものであるが、キャップ挿入溝25を設けなくともよい。すなわち、シリンダーの内周形状としては、キャップの挿入部の、シリンダー外径方向側への撓み変形を規制する形状であれば、特に限定はされない。
【0016】
更に、シリンダー20の開口部22側の内周には、凹部27が形成されている。
図1に示すように、この実施形態では、壁部21の径方向に対向する箇所に、一対の凹部27,27が形成されている。
【0017】
また、
図1や
図10に示すように、この実施形態における凹部27は、壁部21の開口部22に近接した位置に、壁部21を貫通する貫通孔とされており、更に、壁部21の周方向に沿って長く延びる長孔状となっている。
【0018】
ただし、凹部としては、壁部21の内面側から外面側に向けて、所定深さで形成された凹状をなしていてもよい。すなわち、本発明における「凹部」とは、凹部のみならず、貫通した孔も含む意味である。
【0019】
また、
図10に示すように、各凹部27の、壁部21の軸方向に対向する一対の内周面のうち、開口部22に近接する内周面には、壁部21の一端側に向けて次第に凹部27を拡開させる、斜面28が形成されている。
【0020】
一方、前記ロッド30は、円柱状に延びる軸部31と、この軸部31の先端側に連設され、軸部31よりも大径とされた頭部32とからなる。このロッド30は、シリンダー20の開口部22を通して、その先端側の頭部32側からシリンダー20内に移動可能に挿入されるようになっている。また、軸部31の基端側には、環状をなした取付部33が設けられており、該取付部33を介して、グローブボックス等の他方の部材に、ロッド30が取付けられるようになっている。なお、
図8に示すように、頭部32の外径は、キャップ50の挿入部53の内径よりも大きく設定されており、シリンダー20の開口部22から、ロッド30を抜け止め可能としている。
【0021】
次に、
図2~6を参照してキャップ50について説明する。このキャップ50は、シリンダー20の一端に係合するフランジ部51と、このフランジ部51から軸方向に延びて、シリンダー20内に挿入されると共に、ロッド30の外周に配置される筒状の挿入部53と、この挿入部53の先端側内周に設けられ、ロッド30の外周に常時圧接される圧接部55と、挿入部53の基端側に設けられ、開口部22の内周に係合して、キャップ50を抜け止めする抜け止め部59とを有している。また、このキャップ50は、例えば、ゴムや、ラバー、エラストマー、スポンジ等の、弾性樹脂材料によって、全ての部分が一体形成されている。
【0022】
そして、このダンパー10においては、
図11及び
図12に示すように、その制動時に、ロッド30の外周に圧接された圧接部55と、抜け止め部59との間で、挿入部53に軸方向圧縮力が作用して、挿入部53がシリンダー20の内径方向に撓み変形するように構成されており、これによって制動力が付与されるようになっている(これについては後で詳述する)。
【0023】
なお、この実施形態においては、
図7や
図8に示す状態(ロッド30の頭部32が、シリンダー20の端部壁23に近接した状態)から、例えば、グローブボックス等が開口部から開くなどして、矢印F1方向に荷重が作用して、
図7や
図8に示すように、頭部32がシリンダー20の端部壁23から離反する方向に移動する際に、ダンパー10による制動力が付与されるようになっている。
【0024】
この実施形態では、上記の、頭部32がシリンダー20の端部壁23から離反する方向に移動して、シリンダー20の開口部22からの、ロッド30の引き出し量が増大する方向(符号F1で示す方向)を、ダンパー10の制動方向とする。また、この実施形態では、頭部32がシリンダー20の端部壁23に近接して、シリンダー20内への、ロッド30の押込み量が増大する方向(
図9の符号F2で示す方向)を、ダンパーの制動方向とは反対の戻り方向(単に、「戻り方向」ともいう」)とする。
【0025】
図2に示すように、前記フランジ部51は、中央に円形状の挿通孔51aを有する円環板状をなしており、シリンダー20の一端に係合可能となっている。また、フランジ部51の挿通孔51aの周縁から、略円筒状をなした挿入部53が、シリンダー20の軸方向に所定長さで延びている。なお、
図5に示すように、挿入部53の内径D2は、軸方向の先端側に設けた圧接部55に至るまでは一定径で、かつ、ロッド30の軸部31の外径D1よりも大きく形成されている。そのため、ダンパー10の制動力が付与されていない状態(ロッド30が静止した状態)で、挿入部53の内周と、軸部31の外周との間に、隙間が形成されるようになっている。また、
図10に示すように、この挿入部53は、シリンダー20の開口部22にキャップ50を取付けた状態で、シリンダー20の、前記キャップ挿入溝25内に挿入されて配置されるようになっている。
【0026】
なお、以下の、キャップ50の説明において、「先端側」とは、フランジ部51から離反した端部側を意味し、「基端側」とは、フランジ部51に近接した端部側を意味するものとする。
【0027】
また、挿入部53の外径は、シリンダー20のキャップ挿入溝25の内径に適合する大きさとされている。そのため、
図10に示すように、シリンダー20の開口部22にキャップ50を取付けた状態で、挿入部53の外周がキャップ挿入溝25の内周に当接するようになっており、挿入部53のシリンダー外径方向側への撓み変形が規制される。
【0028】
上記挿入部53の先端側(フランジ部51から離反した端部側)からは、基端側(フランジ部51に近接した端部側)に向けて、スリット57が形成されている。
図2(b)や
図6に示すように、この実施形態では、挿入部53の周方向に均等な間隔をあけて、挿入部53の径方向に対向する位置に、一対のスリット57,57が形成されている。また、
図5に示すように、各スリット57は、挿入部53の最先端から、その基端の手前(フランジ部51に至るまで)に至る長さで形成されている。その結果、挿入部53は、基端側は環状に連結されているものの、先端から基端手前までの部分が、一対のスリット57,57を介して分離された略半割円筒状となっている(
図2(a)参照)。これらのスリット57,57には、ロッド30がダンパーの戻り方向(
図9のF2参照)に移動する際に、シリンダー20内の空気が入り込むようになっている。
【0029】
なお、この実施形態のスリット57は、挿入部53の最先端から基端手前の範囲において、挿入部53の板厚方向全部を切欠いて形成されているが(
図6参照)、例えば、
図6の二点鎖線で示すように、挿入部53の基端側部分を、挿入部53の外面から所定深さの凹溝状とし、それよりも先端側を挿入部53の板厚全部を切欠くような形状をなしたスリット57aとしてもよく、ダンパー戻り時に、シリンダー内の空気が入り込む形状のスリットであればよい。
【0030】
また、
図2(b)や、
図4、
図5に示すように、上記圧接部55は、挿入部53の先端側の内周から、一定の突出高さで突出し、かつ、挿入部53の軸方向に沿って所定長さで延びた、凸状をなしている。この実施形態では、
図2(b)や
図5に示すように、半割円筒状をなした挿入部53,53の内周全周に亘って、それぞれ圧接部55,55が形成されている。なお、
図5に示すように、圧接部55の内径D3(挿入部53の径方向に対向する箇所での内径)は、挿入部53の内径D2よりも小さく、かつ、ロッド30の軸部31の外径D1よりも小さく形成されている。そのため、ロッド30が静止した状態、ロッド30がダンパーの制動方向(
図7,8のF1参照)又は戻り方向(
図9のF2参照)に移動した状態の、いずれの状態においても、圧接部55は、ロッド30の軸部31に常時圧接されるようになっている
【0031】
また、各圧接部55の基端側には、挿入部53の先端側から基端側に向けて、圧接部55を次第に肉薄とするテーパ部55aが形成されており、更に、圧接部55の先端側には、曲面状をなしたR状部55bが形成されている。
【0032】
図4や
図6に示すように、前記抜け止め部59は、挿入部53の基端側外周であって、前記一対のスリット57,57に直交する方向に、それぞれ形成された一対のものからなる。また、
図6に示すように、各抜け止め部59は、半割円筒状をなした各挿入部53の基端側外周において、同挿入部53の周方向に沿って所定幅で突設している。
【0033】
また、
図1や
図2(a)に示すように、前記フランジ部51の外面側であって、一対の抜け止め部59,59に整合する位置には、シリンダー20の開口部22へのキャップ50の取付時に、一対の抜け止め部59,59の位置を把握するための、突起状をなしたマーカー59a,59aが突設されている。
【0034】
更に
図4に示すように、各抜け止め部59の基端側には、挿入部53の先端側から基端側に向けて、抜け止め部59を次第に肉薄とする基端側斜面60が形成されており、また、各抜け止め部59の先端側には、挿入部53の先端側から基端側に向けて、抜け止め部59を次第に肉厚とする先端側斜面61が形成されている。
【0035】
そして、
図10に示すように、一対の抜け止め部59,59は、シリンダー20に設けた一対の凹部27,27の内側開口から挿入されると共に、
図11や
図12に示すように、各抜け止め部59の基端側斜面60が、矢印F1に示すダンパー10の制動時に、各凹部27の内周のうち、開口部22に近接する斜面28にそれぞれ係合するようになっている。
【0036】
また、矢印F1に示すダンパーの制動時に、各抜け止め部59の基端側斜面60が、凹部27の斜面28に係合すると、
図10に示すように、抜け止め部59から凹部27に付与される制動方向F1に沿った力F1´の一部が、基端側斜面60や斜面28によって、シリンダー20の開口部22へ向けて、斜め内方に傾斜する抜き出し力F3に分解される。その結果、抜け止め部59には、凹部27の内周から抜き出される方向へと、抜き出し力F3が作用するようになっている。
【0037】
すなわち、この実施形態においては、抜け止め部59の基端側斜面60と、凹部27の斜面28とが、ダンパーの制動時に、凹部内周から凸部が抜き出される方向に抜き出し力を作用させる、本発明における「斜面」をなしている。なお、この実施形態では、凸部の外周及び凹部の内周に、それぞれ「斜面」設けたが、例えば、凸部の外周や、凹部の内周の一方にのみ、「斜面」を設けてもよい。
【0038】
また、
図4に示すように、この実施形態では、一対の抜け止め部59,59は、挿入部53の軸方向の一箇所(一対の抜け止め部59,59が挿入部53の軸方向に一致する箇所に形成されている)に設けられた構成となっているが、
図13に示すように、抜け止め部59は、挿入部53の軸方向に複数設けてもよい(ここでは一対の抜け止め部59,59が、挿入部53の軸方向の2箇所に設けられている)。なお、この場合は、シリンダー20に設けた凹部27も、シリンダー20の軸方向に複数形成されることとなる。また、抜け止め部59としては、挿入部53の軸方向の3箇所以上に設けてもよい。
【0039】
また、
図4や
図5に示すように、フランジ部51の周縁からは、挿入部53の先端側に向けて軸方向に延びて、シリンダー20の開口部22にキャップ50を取付けた状態で、貫通孔とされた凹部27を覆う、外側筒部63を有している。この実施形態の外側筒部63は、フランジ部51の外周縁部から、周方向に連続した切れ目のない略円筒状をなすと共に、挿入部53に設けた一対の抜け止め部59,59を覆う長さで延設されている。
【0040】
また、
図6に示すように、外側筒部63と、その内側に配置された挿入部53とで、二重筒状のような構成となっており、外側筒部63の内周と、挿入部53の外周との間には、隙間Rが形成されるようになっている。この隙間Rは、ロッド30がダンパーの戻り方向(
図9のF2参照)に移動する際に、スリット57を通過したシリンダー20内の空気を、シリンダー20の外部に排出するものである。
【0041】
なお、
図6に示すように、前記フランジ部51の内面側(挿入部53の先端側に向く面側)であって、各スリット57の周方向の両側には、外側筒部63の内周と、挿入部53の外周とを連結する、連結リブ65,65が設けられている。ここでは、各スリット57の周方向両側に一対ずつ、合計で4つの連結リブ65が放射状をなすように、周方向に均等な間隔を空けて設けられている。この連結リブ65は、挿入部53の基端側と外側筒部63の基端側どうしを連結して、その補強を図ると共に、ロッド30がダンパーの戻り方向に移動する際に、スリット57から抜け出る空気をある程度ガイドして、シリンダー外部へ排出させやすくする。
【0042】
また、
図4や
図5に示すように、挿入部53の基端側内周には、ロッド30の外周に当接する環状シール部67が設けられている。すなわち、この実施形態における挿入部53は、先端から基端手前までが一対のスリット57,57を介して分離されているが、基端側は環状に連結されており、この基端側の内周から環状をなすように突出した、環状シール部67が設けられている。
図5に示すように、この環状シール部67の内径D4は、ロッド30の軸部31の外径D1よりも小さく形成されており、シリンダー20内にロッド30が挿入され、かつ、シリンダー20の開口部22にキャップ50を取付けた状態で、いるものの、ロッド30の軸部31の外周に圧接して、挿入部53の内周と、軸部31の外周との隙間をシールするようになっている。
【0043】
なお、以上説明した、シリンダーや、ロッド、キャップの形状や構造は、あくまでも一例であり、上記のような構造に限定されるものではない。
【0044】
次に、上記構成からなるダンパー10の作用効果について説明する。
【0045】
まず、ダンパー10を組立てる際には、例えば、次のようにして行うことができる。まず、キャップ50の挿通孔51aの基端側開口から、ロッド30を頭部32側から挿入して押し込んで、挿入部53の内側に軸部31を挿入すると共に、頭部32を挿入部53の先端開口から挿出させて、ロッド30の軸部31の外周に、キャップ50を配置する。この状態で、
図1に示すように、シリンダー20の一対の凹部27,27に、キャップ50の一対のマーカー59a,59aを整合させて、ロッド30ごと、キャップ50の挿入部53を、シリンダー20の開口部22に挿入して押し込んでいく。すると、
図10に示すように、挿入部53がシリンダー20のキャップ挿入溝25に配置されると共に、一対の抜け止め部59,59が、一対の凹部27,27に挿入されて、各凹部27の斜面28に対して、各抜け止め部59の基端側斜面60が軸方向に対向して配置される。その結果、開口部22からキャップ50が抜け外れようとしても、抜け止め部59の基端側斜面60が凹部27の斜面28に係合可能となり、シリンダー20の開口部22に、キャップ50が抜け止め防止された状態で取付けることができる。
【0046】
そして、このダンパー10における制動力は、次のようにして付与される。
図11及び
図12を参照して説明する。
【0047】
図11(a)には、ダンパーに制動力が付与されていない状態、すなわち、ロッド30が静止して、頭部32がシリンダー20の端部壁23から離反する方向に移動していない状態が示されている。この状態では
図11(a)において、点描のハッチングで示すように、ロッド30の軸部31の外周に、圧接部55,55が圧接されると共に、環状シール部67が圧接される。なお、以下の説明において、挿入部53の内周のうち、環状シール部67を除く、ロッド30の軸部31の外周に圧接される面積S(以下、単に「圧接面積S」ともいう)にも、点描のハッチングを付して表現するものとする。
【0048】
そして、
図11(a)に示す状態から、例えば、グローブボックス等が開口部から開くなどして、矢印F1方向に荷重が作用し、頭部32がシリンダー20の端部壁23から離反する方向に移動、すなわち、シリンダー20に対してロッド30が制動方向に移動すると、
図11(b)に示すように、圧接部55と抜け止め部59との間で、挿入部53に軸方向圧縮力が作用して、挿入部53がシリンダー20の内径方向に撓み変形する(矢印F4参照)。すなわち、軸部31の移動に追随して、軸部31外周に圧接された圧接部55が押圧されて、挿入部53の先端側が矢印F1方向に押し縮められて、挿入部53の先端側から軸方向基端側に向けて軸方向圧縮力が作用する。このとき、挿入部53は、その外周がシリンダー20のキャップ挿入溝25の内周に当接して、シリンダー外径方向側への撓み変形が規制されているので、挿入部53は、主としてシリンダー内径方向へと撓み変形することとなる。それと共に、上記の軸方向圧縮力によって、挿入部53に設けた抜け止め部59の基端側斜面60が、凹部27の斜面28に係合する方向に押されることで、上述したように、抜け止め部59に、凹部27の内周から抜き出される方向に、抜き出し力F3が作用するので、凹部27の内周から抜け止め部59が抜き出される方向に押圧されて、挿入部53のシリンダー内径方向への撓み変形が助長される。そのため、
図11(b)に示すように、挿入部53の基端側内周であって、抜け止め部59の基端側斜面60に整合する位置の近傍において、スリット57の一部を幅狭にしつつ、圧接面積Sが増大して、ダンパーの制動力が高まる。
【0049】
なお、上記のような斜面60,28による、抜け止め部59に対する抜き出し力F3が作用しない場合であっても(斜面60,28が形成されていない場合)、抜け止め部59が凹部27の内面に係合することで、この係合部分を起点として、軸方向圧縮力により挿入部53がシリンダー内径方向へと撓み変形するため、上記の係合部分に整合する位置である挿入部53の基端側内周において、圧接面積Sが増大して、ダンパーの制動力が高まることとなる。
【0050】
図11(b)の状態よりも、更に大きな開き荷重がかかって、頭部32がより早くシリンダー20の端部壁23から離反する方向に移動しようとすると、軸部31の移動に追随する圧接部55からの軸方向圧縮力が大きくなって、
図11(c)に示すように、スリット57の幅狭範囲を長くしつつ、挿入部53のシリンダー内径方向への撓み変形量が大きくなる。その結果、挿入部53の基端側内周における圧接面積Sが、軸方向先端側に拡大するため、ダンパーの制動力が更に高まる。
【0051】
図11(c)の状態よりも、更に大きな開き荷重がかかって、頭部32がより早くシリンダー20の端部壁23から離反する方向に移動しようとすると、軸部31の移動に追随する圧接部55からの軸方向圧縮力が大きくなって、
図12(a)に示すように、スリット57の幅狭範囲を更に長くしつつ、挿入部53のシリンダー内径方向への撓み変形量が更に大きくなる。その結果、挿入部53の基端側内周における圧接面積Sが、軸方向先端側に向けてより拡大するため、ダンパーの制動力が更に高まる。
【0052】
図12(a)の状態よりも、更に大きな開き荷重がかかって、頭部32がより早くシリンダー20の端部壁23から離反する方向に移動しようとすると、軸部31の移動に追随する圧接部55からの軸方向圧縮力が大きくなって、
図12(b)に示すように、スリット57の幅狭範囲を、圧接部55に至る長さとしつつ、挿入部53のシリンダー内径方向への撓み変形量が更に大きくなる。その結果、挿入部53の基端側内周における圧接面積Sが、圧接部55,55の近傍に至る範囲にまで拡大するため、ダンパーの制動力が更に高まる。
【0053】
上記のように、この実施形態においては、
図11及び
図12に示すように、ロッド30の頭部32がシリンダー20の端部壁23から離反する速度に応じて、キャップ50の挿入部53の、ロッド30の軸部31の外周に対する圧接面積Sが、挿入部53の軸方向基端側から徐々に増えて、ダンパーの制動力が増大するようになっている。すなわち、ロッド30の、ダンパー制動方向への移動速度が速いほど、キャップ50の挿入部53の、軸方向圧縮力が高くなって、挿入部53の、シリンダー内径方向への撓み変形量がより大きくなるため、圧接面積Sがより増大するため、ダンパーの制動力を迅速に高めることができる。一方、ロッド30の、ダンパー制動方向への移動速度が遅い場合は、挿入部53に対する軸方向圧縮力が弱くなるので、圧接面積Sの面積も小さくなり、制動力の増大も緩やかとなる。したがって、ロッド30の移動速度に応じて制動力が変動する、荷重応答特性に優れたダンパー10を提供することができる。
【0054】
また、このダンパー10においては、キャップ50に設けられた筒状の挿入部53に、上記のような制動力付与構造を設けたので、上述したようなキャップ取付け作業、すなわち、ロッド外周にキャップ50を装着した後、キャップ50の挿入部53をシリンダー20の開口部22に押し込んで、凹部27内に抜け止め部59を挿入配置するだけの簡単な作業で、シリンダー20の開口部22に、キャップ50を抜け止め状態で取付けることができる。そのため、ダンパー全体の部品点数を少なくしつつ、組立て作業性もよい、ダンパー10を提供することができる。
【0055】
一方、
図9の矢印F2に示すように、ロッド30がダンパーの戻り方向に移動すると、シリンダー20内の空気が、挿入部53に設けた一対のスリット57,57内に入り込むので、各スリット57が空気圧に押されて、略半割円筒状をなした挿入部53が開くと共に、シリンダー20内の空気が、外側筒部63内周と挿入部53外周との隙間R(
図6参照)を通過して、シリンダー20の外部へ排出される。また、ロッド30がダンパーの戻り方向に移動することで、ロッド30による、圧接部55を介しての挿入部53に対する軸方向圧縮力が作用しなくなると共に、上述したように、空気圧によって略半割円筒状の挿入部53が開いて、挿入部53の、圧接部55以外での、ロッド30の軸部31との圧接状態が解除されるので、挿入部53がシリンダー外径方向へと弾性復帰して元の長さに戻り、ロッド30の軸部31に対する摩擦力が急減して、ダンパーの制動力が解除されることとなり、ロッド30の頭部32を、シリンダー20の端部壁23に近接した位置に戻しやすくすることができる。
【0056】
また、この実施形態においては、
図10に示すように、抜け止め部59である凸部の外周、及び、凹部27の内周には、ダンパーの制動時に、凹部27内周から凸部が抜き出される方向に抜き出し力F3を作用させる、斜面(抜け止め部59の基端側斜面60、凹部27の斜面28)が形成されている。そのため、
図11や
図12に示すようなダンパーの制動時に、斜面60,28によって凹部27内周から凸部が抜き出される方向に押圧されて、挿入部53の、シリンダー20の内径方向への撓み変形を助長するので、ダンパーの制動力をより急激に増大させることができ、荷重応答性をより高めることができる。なお、凸部部の外周や、凹部の内周の一方にのみ、「斜面」を設けた場合も、上記と同様の効果を奏する。
【0057】
更に、この実施形態においては、
図2(b)や
図4に示すように、挿入部53には、その先端側から基端側に向けて軸方向に延びるスリット57が形成されている。そのため、ダンパー制動時に、挿入部53に軸方向圧縮力が作用したときに、
図11(b),(c)や
図12(a),(b)に示すように、スリット57の幅を利用して、挿入部53をシリンダー内径方向に撓み変形させやすくすることができ、ダンパーの制動力をより高めることができる。
【0058】
また、この実施形態においては、
図4や
図5、
図10等に示すように、フランジ部51の周縁からは、挿入部53の先端側に向けて軸方向に延びて、貫通孔である凹部27を覆う外側筒部63を有しており、挿入部53の基端側内周には、ロッド外周(ここではロッド30の軸部31の外周)に当接する環状シール部67が設けられている。そのため、ダンパー10の大型化を抑制しつつ(シールリング等が別途存在する構成だと、シリンダーやロッドが大径化する傾向となる)、外側筒部63によって、貫通孔である凹部27からの異物の侵入を抑制することができると共に、環状シール部67によって、挿入部53周とロッド30内周との間に、異物が侵入することを抑制することができる。
【0059】
更に
図13に示すように、抜け止め部59が、挿入部53の軸方向に複数設けられている場合には、シリンダー20の開口部22からのキャップ50の抜け止めと、挿入部53による制動力付与構造とを両立化しやすい構造とすることができる。
【0060】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、各種の変形実施形態が可能であり、そのような実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
10 ダンパー
20 シリンダー
22 開口部
27 凹部
28 斜面
30 ロッド
31 軸部
32 頭部
50 キャップ
51 フランジ部
53 挿入部
55 圧接部
57 スリット
59 抜け止め部
60 基端側斜面
63 外側筒部
67 環状シール部