IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ モガム バイオテクノロジー リサーチ インスティチュートの特許一覧

特許7206524IDSを含む融合タンパク質及びその使用
<>
  • 特許-IDSを含む融合タンパク質及びその使用 図1
  • 特許-IDSを含む融合タンパク質及びその使用 図2
  • 特許-IDSを含む融合タンパク質及びその使用 図3
  • 特許-IDSを含む融合タンパク質及びその使用 図4
  • 特許-IDSを含む融合タンパク質及びその使用 図5
  • 特許-IDSを含む融合タンパク質及びその使用 図6
  • 特許-IDSを含む融合タンパク質及びその使用 図7
  • 特許-IDSを含む融合タンパク質及びその使用 図8
  • 特許-IDSを含む融合タンパク質及びその使用 図9
  • 特許-IDSを含む融合タンパク質及びその使用 図10
  • 特許-IDSを含む融合タンパク質及びその使用 図11
  • 特許-IDSを含む融合タンパク質及びその使用 図12
  • 特許-IDSを含む融合タンパク質及びその使用 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】IDSを含む融合タンパク質及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20230111BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230111BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230111BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230111BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20230111BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20230111BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230111BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230111BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230111BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/28
C12N15/13
C12P21/08
C12N9/16 Z
C12N15/55
C12N15/62 Z
A61K47/68
A61K38/02
A61K39/395 Y
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/14
A61P35/00
A61P25/28
A61P25/16
A61P9/00
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021517964
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 KR2019013730
(87)【国際公開番号】W WO2020085721
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】10-2018-0129201
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】504385351
【氏名又は名称】モガム・インスティテュート・フォー・バイオメディカル・リサーチ
【氏名又は名称原語表記】MOGAM INSTITUTE FOR BIOMEDICAL RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】チョ, キ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】リー, ミジョン
(72)【発明者】
【氏名】ソン, ウン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム, キ ス
(72)【発明者】
【氏名】カン, クァン ヨブ
(72)【発明者】
【氏名】チョ, ウイ チョル
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-507131(JP,A)
【文献】特表2015-537034(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0152719(US,A1)
【文献】国際公開第2018/038243(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン受容体に結合する抗体の断片を含む第1のドメインと、
イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)活性を有するタンパク質を含む第2のドメインと、を含み、
前記第1のドメインが、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を有するH-CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するH-CDR2、及び配列番号5のアミノ酸配列を有するH-CDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号2のアミノ酸配列を有するL-CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するL-CDR2、並びに配列番号6、10及び11のアミノ酸配列からなる群から選択されるいずれか1つを有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むか、
(ii)配列番号1のアミノ酸配列を有するH-CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するH-CDR2、及び配列番号7のアミノ酸配列を有するH-CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号2のアミノ酸配列を有するL-CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するL-CDR2、及び配列番号6又は8のアミノ酸配列を有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域とを含むか、又は
(iii)配列番号1のアミノ酸配列を有するH-CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するH-CDR2、及び配列番号9のアミノ酸配列を有するH-CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号2のアミノ酸配列を有するL-CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するL-CDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列を有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、
融合タンパク質。
【請求項2】
Fc領域をさらに含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記Fc領域がヘテロダイマーである、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記第1のドメインが、インスリン受容体に結合する抗体のFab又はscFv領域である、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記Fc領域が、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4の重鎖定常領域(CH)由来である、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記ヘテロダイマーFcの一方がノブ構造を有し、他方がホール構造を有する、請求項3に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記第1のドメインのC末端が前記Fc領域のN末端に結合している、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記第2のドメインのC末端が前記Fc領域のN末端に結合している、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
前記第2のドメインが配列番号21のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
インスリン受容体とインスリンとの間の結合を阻害しない、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
中枢神経系(CNS)疾患を予防又は治療するための医薬組成物であって、請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質を有効成分として含む、医薬組成物。
【請求項12】
前記中枢神経系疾患が、リソソーム蓄積症(LSD)、ハンチントン病、てんかん、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳卒中、大脳皮質基底核変性症(CBD)、大脳皮質基底核神経節変性症(CBGD)、前頭側頭型認知症(FTD)、多系統萎縮症(MSA)、進行性核上性麻痺(PSP)及び脳がんからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記リソソーム蓄積症が、ハンター症候群、テイ・サックス病、ニーマン・ピック病、ポンペ病、クラッベ病、ゴーシェ病、ファブリー病、ウォルマン病、モルキオ症候群、メンケス症候群、ガラクトシアリドーシス、糖原病、ファンコニ・ビッケル症候群、レッシュ・ナイハン症候群及びツェルウェーガー症候群からなる群から選択されるいずれか1つである、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
融合タンパク質を作製するための方法であって、
インスリン受容体に結合する抗体の断片をFc領域に結合させて、第1のモノマーを作製するステップと、
イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)をヘテロダイマーFc領域に結合させて、第2のモノマーを作製するステップと、
前記第1のモノマーを前記第2のモノマーと混合するステップと、を含み、
前記抗体断片が、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を有するH-CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するH-CDR2、及び配列番号5のアミノ酸配列を有するH-CDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号2のアミノ酸配列を有するL-CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するL-CDR2、並びに配列番号6、10及び11のアミノ酸配列からなる群から選択されるいずれか1つを有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むか、
(ii)配列番号1のアミノ酸配列を有するH-CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するH-CDR2、及び配列番号7のアミノ酸配列を有するH-CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号2のアミノ酸配列を有するL-CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するL-CDR2、及び配列番号6又は8のアミノ酸配列を有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域とを含むか、又は
(iii)配列番号1のアミノ酸配列を有するH-CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するH-CDR2、及び配列番号9のアミノ酸配列を有するH-CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号2のアミノ酸配列を有するL-CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するL-CDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列を有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、
方法。
【請求項15】
前記第1のモノマーの前記Fc領域のCH3がノブ構造を有する場合、前記第2のモノマーのCH3がホール構造を有するか、又は、
前記第1のモノマーの前記Fc領域のCH3がホール構造を有する場合、前記第2のモノマーのCH3がノブ構造を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記IDSが配列番号21のアミノ酸配列を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のモノマーが、
(i)配列番号12又は6のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号13、18及び19のアミノ酸配列からなる群から選択されるいずれか1つを有する軽鎖とを含むか、
(ii)配列番号14のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号13又は15のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含むか、又は
(iii)配列番号17のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号13のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含み、
前記第2のモノマーが、配列番号20のアミノ酸配列を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
中枢神経系疾患を予防又は治療するための医薬の製造のための、請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)を含む融合タンパク質及びその使用、より詳細には、IDS酵素とインスリン受容体に結合する抗体の断片とが融合している融合タンパク質及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンター症候群(ムコ多糖症II)は、中枢神経系(CNS)で生じる疾患の一つであり、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)の変異により引き起こされる。IDSは、グリコサミノグリカン(GAG)の分解に必須の酵素である。IDSの活性が低下しているか、又は失われている場合、GAGは組織及び細胞に蓄積し、これにより疾患が引き起こされる。現在、ヒュンタラーゼ及びエラプレースがハンター症候群の治療剤として用いられている。しかし、これらの中枢神経系疾患の治療剤は、治療剤の脳への送達が適切に達成されないという点で問題であり、これは、これらの治療剤が、患者の静脈内に注入された後、血液脳関門(BBB)を通過しないためである。
【0003】
一方、脳血管細胞は、BBBを介して、血液と脳との間の物質の移動を制限し、それにより、脳を保護している。そのため、体内の血管を循環している物質、例えば抗体又は酵素を、中枢神経系(CNS)で生じる疾患の治療剤として応用することは困難であり、これは、かかる物質が、一般的にBBBを通過せず、そのため、脳への物質の移動が制限されるためである。
【0004】
次いで、トランスフェリン又はインスリンは、受容体介在性トランスサイトーシス(RMT)機構を用いて、脳血管細胞の表面に発現したタンパク質、例えばトランスフェリン受容体(TfR)又はインスリン受容体(IR)によって脳に送達され得ることが見出されている。この機構は、治療剤を脳に送達する方法を開発するために使用されている。近年、BBBを通過することができる抗TfR抗体を用いて、種々の物質、例えばIDS治療剤を脳に送達することができる技術が開発されている(韓国特許出願公開第10-2016-0011198号及び第10-2015-0039798号)。
【0005】
したがって、BBB受容体に対して高い親和性を有し、優れたBBB通過効率を有するIDS治療剤を開発することが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明者らは、BBBを通過することができるIDS酵素治療剤を開発した。詳細には、本発明の目的は、インスリン受容体に結合する抗体の断片、IDS酵素、及びFc領域が融合した非対称融合タンパク質、並びにその使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明は、インスリン受容体に結合する抗体の断片を含む第1のドメインと、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)活性を有するタンパク質を含む第2のドメインと、Fc領域とを含む融合タンパク質、及びそれを作製するための方法を提供する。
【0008】
さらに、本発明は、中枢神経系疾患を予防又は治療するための医薬組成物であって、融合タンパク質を有効成分として含む医薬組成物を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、融合タンパク質を作製するための方法であって、インスリン受容体に結合する抗体の断片をFc領域に結合させて、第1のモノマーを作製するステップと、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)をヘテロダイマーFc領域に結合させて、第2のモノマーを作製するステップと、第1のモノマーを第2のモノマーと混合するステップとを含む方法を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、中枢神経系疾患を予防又は治療するための融合タンパク質の使用を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、中枢神経系疾患を予防又は治療するための医薬の製造のための融合タンパク質の使用を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、中枢神経系疾患を予防又は治療するための方法であって、融合タンパク質又は融合タンパク質を含む医薬組成物を個体に投与するステップを含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明による融合タンパク質は、IDS酵素治療剤が脳に送達されるように、BBBを効果的に通過することができる。そのため、融合タンパク質を有効成分として含む医薬組成物は、中枢神経系疾患の治療剤として使用することができる。特に、医薬組成物は、リソソームの蓄積によって引き起こされる種々の疾患を予防又は治療することができることが期待される。さらに、融合タンパク質が、動物BBB受容体及びヒトBBB受容体との優れた交差反応性を示すという観点から、融合タンパク質は、種々の疾患動物モデルに適用された融合タンパク質が直接臨床試験に適用することができるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】融合タンパク質の構造及び作用機構の概略図を示す。
図2】インスリン受容体に結合する抗体(IR739)の変異導入部位を示す図である。
図3】インスリン受容体に結合する抗体バリアント(H031、HL009、L016、L113及びH118)のCDR3配列を示す図である。
図4】ヒト、サル及びマウスにおけるIR739の交差反応性を評価するためにFACS分析を行うことにより得られた結果を示す図である。
図5】ヒトインスリン受容体及びマウスインスリン受容体に対するIR739及びIR739のバリアント(H031、HL009、L016、L113及びH118)の結合親和性を比較することにより得られた結果を示す図である。
図6】ヒトインスリン受容体及びマウスインスリン受容体に対するIR739及び融合タンパク質(IDS-IR739、IDS-HL009及びIDS-H031)の結合親和性を比較することにより得られた結果を示す図である。
図7】IR739濃度の変化に応じて、インスリン受容体に対するインスリンとIR739との間の相互作用効果を比較することにより得られた結果を示す図である。
図8】インスリン濃度の変化に応じて、インスリン受容体に対するインスリンとIR739との間の相互作用効果を比較することにより得られた結果を示す図である。
図9】マウス血液中のIR739の半減期を示す図である。
図10】マウス血液中のIDS及びIDS-HL009の半減期を示す図である。
図11】IR739の脳取り込み効率を示す図である。
図12】IR739のバリアント(H031、HL009、L113及びH118)の脳取り込み効率を比較することにより得られた結果を示す図である。
図13】融合タンパク質の脳取り込み効率を比較することにより得られた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一態様において、インスリン受容体に結合する抗体の断片を含む第1のドメインと、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)活性を有するタンパク質を含む第2のドメインとを含む、融合タンパク質を提供する。
【0016】
本明細書中で使用する用語「インスリン受容体」は、細胞上に発現し、インスリンを輸送することができる膜貫通受容体タンパク質を指す。ここで、インスリン受容体は、血液脳関門(BBB)受容体の一つとして作用することができる。血液脳関門受容体としては、インスリン受容体、インスリン様成長因子受容体(IGF-R)、トランスフェリン受容体、低密度リポタンパク質(LDL)受容体、グルコーストランスポーター1(Glut1)及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子(HB-EGF)等が挙げられ、これらは、BBBを越えて分子を輸送することができるか、又は、投与された外因性分子を輸送するのに使用することができる細胞外膜貫通受容体タンパク質である。
【0017】
本発明の一実施形態において、融合タンパク質は、ヒトインスリン受容体の細胞外ドメイン(ECD)に結合し、BBBを通過することができ、それにより融合IDSは、脳に送達され得る。
【0018】
本明細書中で使用する用語「抗体」は、ある特定の抗原と免疫学的に反応するイムノグロブリン(Ig)分子を指し、該分子は、抗原を特異的に認識する受容体としての役割を果たすタンパク質分子である。抗体は、抗体全体及びその断片(抗体断片)の両方を包含する概念を意味する。
【0019】
本明細書中で使用する用語「イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)」は、リソソームグリコサミノグリカン(GAG)の分解に必須の酵素を指す。変異がIDSに生じる場合か、又はIDSの活性が低下するか、若しくは不活化する場合、GAGは殆どの組織及び細胞に蓄積し、これは、疾患を引き起こし得る。ここで、IDSは、配列番号21のアミノ酸配列を有していてもよい。
【0020】
本発明の一実施形態において、融合タンパク質は、Fc領域をさらに含んでいてもよく、Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4の重鎖定常領域(CH)由来であってもよい。さらに、Fc領域は、ヘテロダイマーであってもよく、ヘテロダイマーFcの一方はノブ構造を有していてもよく、他方はホール構造を有していてもよい。ノブ又はホール構造は、Fc領域のCH3に位置していてもよい。
【0021】
本明細書中で使用する用語「Fc領域」は、定常領域の一部を含有するイムノグロブリン重鎖のC末端領域を指す。Fc領域は、通常、抗体重鎖定常領域のCH2及びCH3を含む。さらに、Fc領域は、野生型Fc領域及びバリアントFc領域を含む。
【0022】
本発明の一実施形態において、第1のドメインは、インスリン受容体に結合する抗体のFab又はscFv領域であってもよい。本明細書中で使用する用語「Fab」は、軽鎖の可変及び定常領域と、重鎖の可変及びCH1領域とを含むものを指す。本明細書中で使用する用語「scFv」は、抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含むものを指し、「軽鎖可変領域(VL)-リンカー-重鎖可変領域(VH)」で構成されていてもよい。リンカーは、人工的に重鎖可変領域を軽鎖可変領域へと連結させるように機能する、ある特定の長さを有するアミノ酸配列を指す。
【0023】
第1のドメインは、CDRを含み、これらのCDRは、ある特定の抗原に対する結合特異性を付与し、ここで、CDRのセット(CDR1、CDR2、CDR3)は、抗原に対する結合部位を供給してもよい。
【0024】
本発明の一実施形態において、第1のドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を有するH-CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するH-CDR2、並びに配列番号5、7及び9のアミノ酸配列からなる群から選択されるいずれか1つを有するH-CDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号2のアミノ酸配列を有するL-CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するL-CDR2、並びに配列番号6、8、10及び11のアミノ酸配列からなる群から選択されるいずれか1つを有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含んでいてもよい。好ましくは、第1のドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を有するH-CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するH-CDR2、及び配列番号7のアミノ酸配列を有するH-CDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号2のアミノ酸配列を有するL-CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するL-CDR2、及び配列番号8のアミノ酸配列を有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含んでいてもよい。
【0025】
本発明の一実施形態において、第1のドメインのC末端をFc領域のN末端に結合させることにより得られる第1のモノマーは、配列番号12、14、16及び17のアミノ酸配列からなる群から選択されるいずれか1つを有する重鎖と、配列番号13、15、18及び19のアミノ酸配列からなる群から選択される任意の1つを有する軽鎖とを有していてもよい。
【0026】
本発明の一実施形態において、第2のドメインは、配列番号21のアミノ酸配列を有していてもよい。本発明の一実施形態において、融合タンパク質は、第2のドメインのC末端がFc領域のN末端に結合している構造を有していてもよく、上述の結合によって得られる第2のモノマーは、配列番号20のアミノ酸配列を有していてもよい。
【0027】
より詳細には、第1のドメイン及びFc領域は、リンカーを介して互いに結合していてもよい。さらに、第2のドメイン及びFc領域は、リンカーを介して互いに結合していてもよい。リンカーとしては、ペプチド結合によって互いに接合された5~20アミノ酸からなる、一本鎖ペプチドリンカーを使用してもよい。アミノ酸は、グリシン、セリン、アラニン、プロリン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸及びグルタミン酸からなる群から選択される1つ又は複数であってもよい。詳細には、リンカーは、グリシン及びセリンからなっていてもよく、(G4S)n(式中、nは1~5である)のリンカーであってもよい。本発明の一実施形態において、リンカーは、配列番号22のアミノ酸配列を有していてもよい。
【0028】
本発明の一実施形態において、融合タンパク質は、第1のドメインのC末端がダイマーFc領域のいずれか一方のN末端に結合しており、第2のドメインのC末端がダイマーFc領域の他方のN末端に結合している、非対称構造を有していてもよい。融合タンパク質は非対称構造を有するため、二価抗体が分解経路に偏向する可能性が高いという問題を防止することが可能である。
【0029】
本発明の一実施形態において、融合タンパク質は、ヒト抗体、ヒト化抗体、又はキメラ抗体であってもよい。用語「ヒト抗体」は、構造及びCDR領域がイムノグロブリン配列由来である可変領域を有するインタクトな抗体を指し、用語「ヒト化抗体」は、非ヒト抗体、例えばマウス抗体のイムノグロブリン由来の最小配列を含むキメラ抗体を指し、用語「キメラ抗体」は、異なる哺乳類、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ又はヒトの組合せに由来する抗体を指す。
【0030】
本発明の一実施形態において、融合タンパク質は、当技術分野で一般的に行われる方法、例えばノブインホール(knob-in-hole)法(Ridgwayら、Protein Engineering、617~621(1996))、ファージ抗体ライブラリー法(Clacksonら、Nature、352:624~628(1991))、融合法(Kohler及びMilstein、European Journal of Immunology、6:511~519(1976))及び組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)によって作製することができる。
【0031】
本発明の一実施形態において、IDS融合の融合タンパク質(IDS-IR739、IDS-HL009及びIDS-H031)は、ファージ抗体ライブラリー法及びノブインホール法を用いて作製した。融合タンパク質は、インスリン受容体に結合し、受容体介在性トランスサイトーシス(RMT)機構を介してBBBを通過することができるため、IDS融合の融合パートナー部位は、脳内の標的に対して作用することができる(図1)。
【0032】
RMT機構を介してBBBを通過する抗体については、そのBBB受容体に対する親和性が非常に重要である。詳細には、親和性が適当なレベルよりも低い場合、BBBに対する結合効率が低下するという問題がある。一方、親和性が適当なレベルよりも高い場合、BBBを通過した後に治療剤が放出される速度が低下し、結果としてBBB通過効率が低下する。
【0033】
本発明の一実施形態において、融合タンパク質は、インスリン受容体に対するインスリンの結合を阻害しないものであってもよい。
【0034】
さらに、本発明の一態様において、中枢神経系(CNS)疾患を予防又は治療するための医薬組成物であって、融合タンパク質を有効成分として含む、医薬組成物を提供する。
【0035】
本明細書中で使用する用語「中枢神経系(CNS)」は、生体機能を制御する神経組織の複合体を指し、脳と脊髄とを含む。中枢神経系疾患は、CNSに影響を与える、及び/又はCNSに病因を有する疾患又は障害を指す。疾患の具体例としては、リソソーム蓄積症(LSD)、ハンチントン病、てんかん、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳卒中、大脳皮質基底核変性症(CBD)、大脳皮質基底核神経節変性症(CBGD)、前頭側頭型認知症(FTD)、多系統萎縮症(MSA)、進行性核上性麻痺(PSP)及び脳がんが挙げられる。リソソーム蓄積症の具体例としては、ハンター症候群、テイ・サックス病、ニーマン・ピック病、ポンペ病、クラッベ病、ゴーシェ病、ファブリー病、ウォルマン病、モルキオ症候群、メンケス症候群、ガラクトシアリドーシス、糖原病、ファンコニ・ビッケル症候群、レッシュ・ナイハン症候群及びツェルウェーガー症候群等が挙げられる。
【0036】
医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでいてもよい。経口投与用には、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定剤、懸濁化剤、着色剤及び香味剤等を使用してもよい。注入用には、緩衝剤、保存剤、無痛化薬、可溶化剤、等張剤及び安定剤等を混合し、使用してもよい。局所投与用には、基剤、賦形剤、滑沢剤及び保存剤等を使用してもよい。
【0037】
医薬組成物は、上述の薬学的に許容される担体と混合されることによって種々の製剤で作製されてもよい。注入用には、医薬組成物は、単位投与量アンプル又は多回投与量形態で作製されてもよい。
【0038】
さらに、医薬組成物は、その膜透過性を増強することができる界面活性剤を含んでいてもよい。この界面活性剤としては、ステロイド、カチオン性脂質由来のもの、例えばN-[1-(2,3-ジオレオイル)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)又は種々の化合物、例えばヘミコハク酸コレステロール及びホスファチジルグリセロールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
医薬組成物の投与経路及び投与量については、投与は、個体の状態及び有害作用の有無に応じて種々の方法及び量で行ってもよく、最適な投与方法及び投与量は、当業者が適当な範囲で選択してもよい。
【0040】
詳細には、非経口投与については、医薬組成物は、静脈内、筋肉内、皮内、皮下、腹腔内、細動脈内、脳室内、病巣内、くも膜下腔内及び局所投与並びにそれらの組合せからなる群から選択されるいずれか1つの経路によって投与されてもよいが、これらに限定されるものではない。さらに、組成物の一日投与量は、約0.0001mg/kg~100mg/kg、好ましくは、0.001mg/kg~10mg/kgであり、投与量は、一日に一回~数回投与されるのが好ましい。しかし、投与量は、個体の体重、年齢、性別、健康状態、食事、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重症度に応じて変動し得る。
【0041】
医薬組成物は、非経口投与する場合、種々の製剤で投与されてもよく、製剤に作製される場合、医薬組成物は、一般的に用いられる希釈剤又は賦形剤、例えば充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤及び界面活性剤を用いて作製してもよい。非経口投与用の製剤としては、滅菌水溶液剤、非水溶液剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤及び坐剤が挙げられ得る。さらに、非水溶液剤又は懸濁剤については、植物油、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びオリーブ油、並びに注入可能なエステル、例えばオレイン酸エチル等を使用してもよい。坐剤の基剤については、ウイテプゾール、マクロゴール、Tween 61、カカオバター、ラウリン脂肪、又はグリセロゼラチン等を使用してもよい。
【0042】
本明細書中で使用する用語「個体」は、医薬組成物の投与によって、緩和、抑制、又は治療することができる状態又は疾患に罹患しているか、又は発症する危険性がある、哺乳類、好ましくはヒトを指す。
【0043】
本明細書中で使用する用語「予防」は、医薬組成物を用いて、疾患を防ぐか、又は疾患の症候を抑制若しくは遅延させる、任意の行為を指す。
【0044】
本明細書中で使用する用語「治療」は、医薬組成物を用いて疾患を改善させるか、又は有益なように変化させる、任意の行為を指す。
【0045】
さらに、本発明の一態様において、融合タンパク質を作製するための方法であって、インスリン受容体に結合する抗体をFc領域に結合させて、第1のモノマーを作製するステップと、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)をヘテロダイマーFc領域に結合させて、第2のモノマーを作製するステップと、第1のモノマーを第2のモノマーと混合するステップとを含む方法を提供する。
【0046】
本発明の一実施形態において、Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4の重鎖定常領域(CH)由来であってもよい。
【0047】
本発明の一実施形態において、抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を有するH-CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するH-CDR2、並びに配列番号5、7及び9のアミノ酸配列からなる群から選択されるいずれか1つを有するH-CDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号2のアミノ酸配列を有するL-CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するL-CDR2、並びに配列番号6、8、10及び11のアミノ酸配列からなる群から選択されるいずれか1つを有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含んでいてもよい。詳細には、抗体断片は、配列番号1のアミノ酸配列を有するH-CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するH-CDR2、及び配列番号7のアミノ酸配列を有するH-CDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号2のアミノ酸配列を有するL-CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するL-CDR2、及び配列番号8のアミノ酸配列を有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含んでいてもよい。
【0048】
本発明の一実施形態において、第1のモノマーのFc領域のCH3がノブ構造を有する場合、第2のモノマーのCH3は、ホール構造を有していてもよいか、又は、第1のモノマーのFc領域のCH3がホール構造を有する場合、第2のモノマーのCH3はノブ構造を有していてもよい。
【0049】
本発明の一実施形態において、IDSは、配列番号21のアミノ酸配列を有していてもよい。
【0050】
本発明の一実施形態において、第1のモノマーは、配列番号12、14、16及び17のアミノ酸配列からなる群から選択されるいずれか1つを有する重鎖と、配列番号13、15、18及び19のアミノ酸配列からなる群から選択されるいずれか1つを有する軽鎖とを含んでいてもよく、第2のモノマーは、配列番号20のアミノ酸配列を有していてもよい。
【0051】
より詳細には、本発明による融合タンパク質IDS-IR739は、配列番号12又は16のアミノ酸配列を有する重鎖と配列番号13のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む第1のモノマー、及び配列番号20のアミノ酸配列を有する第2のモノマーを含んでいてもよい。
【0052】
本発明による融合タンパク質IDS-HL009は、配列番号14のアミノ酸配列を有する重鎖と配列番号15のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む第1のモノマー、及び配列番号20のアミノ酸配列を有する第2のモノマーを含んでいてもよい。
【0053】
本発明による融合タンパク質IDS-H031は、配列番号14のアミノ酸配列を有する重鎖と配列番号13のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む第1のモノマー、及び配列番号20のアミノ酸配列を有する第2のモノマーを含んでいてもよい。
【0054】
本発明による融合タンパク質IDS-H118は、配列番号17のアミノ酸配列を有する重鎖と配列番号13のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む第1のモノマー、及び配列番号20のアミノ酸配列を有する第2のモノマーを含んでいてもよい。
【0055】
本発明による融合タンパク質IDS-L016は、配列番号12又は16のアミノ酸配列を有する重鎖と配列番号18のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む第1のモノマー、及び配列番号20のアミノ酸配列を有する第2のモノマーを含んでいてもよい。
【0056】
本発明による融合タンパク質IDS-L113は、配列番号12又は16のアミノ酸配列を有する重鎖と配列番号19のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む第1のモノマー、及び配列番号20のアミノ酸配列を有する第2のモノマーを含んでいてもよい。
【0057】
本発明は、中枢神経系疾患を予防又は治療するための融合タンパク質の使用を提供する。
【0058】
さらに、本発明は、中枢神経系疾患を予防又は治療するための医薬の製造のための融合タンパク質の使用を提供する。
【0059】
さらに、本発明は、中枢神経系疾患を予防若しくは治療するための方法、及び/又は治療効果を増強する方法であって、融合タンパク質又は融合タンパク質を含む医薬組成物を個体に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0060】
個体は、中枢神経系疾患に罹患している個体であってもよい。さらに、個体は、哺乳類、好ましくはヒトであってもよい。
【0061】
融合タンパク質又は医薬組成物の投与経路、投与量、及び投与頻度については、対象への投与は、対象の状態及び有害効果の有無に応じて種々の方法及び量で行ってもよく、最適な投与方法、投与量及び投与頻度は、当業者が適当な範囲で選択してもよい。さらに、融合タンパク質又は医薬組成物は、治療する疾患について治療効果が知られている他の薬剤若しくは生理学的に活性な物質と組み合わせて投与してもよく、又は他の薬剤との組合せ製剤の形態で製剤化してもよい。
【実施例
【0062】
以後本明細書において、本発明を以下の実施例によって、より詳細に記載する。しかし、以下の実施例は例示目的のみのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0063】
作製例1.IR739抗体の作製
ヒト合成scFvライブラリー(MIDAS、MOGAM)を用いて、抗IR抗体を作製した。MIDASのファージライブラリーを5μg/mlの濃度のヒトIRでコーティングしたチューブに入れ、処理を37℃で2時間行った。0.05% Tween 20を添加したPBS緩衝液で洗浄を4回行った。次いで、1% BSA/0.1Mグリシン(pH2.0)緩衝液での処理を室温で10分間行って、IRに結合したファージを溶出した。溶出したファージを、70μlの2M Tris-HCl(pH9.0)で中和し、これを用いて事前に培養した9mlの大腸菌(E.coli)(XL1-Blue)を30分間感染させた。ファージ感染XL1-Blueに、SB(super broth)培地、テトラサイクリン及びカルベニシリンを添加し、培養を37℃で1時間行った。次いで、培養物にヘルパーファージを添加した。培養をさらに1時間行った。培養物に培地を最大100ml添加し、培養を37℃で一晩行った。
【0064】
培養培地を遠心分離により回収し、ファージを20%PEG溶液で沈殿させた。遠心分離後、1%BSAを添加したPBS溶液を用いてファージを収集した。ファージを収集した溶液を用いて、マウスIRコートチューブ及びヒトIRコートチューブを交互に用いて、パニングプロセスを最大4回繰り返した。三次ファージ及び四次ファージ感染XL1-Blueコロニーのそれぞれを培養して、各ファージ含有培養液を得た。培養液及びIRコートプレートを用いて、ヒトIRとマウスIRとに同時に結合する、ファージ発現XL1-BlueクローンをELISAにより選択した。選択したクローンのプラスミドを配列決定して、VH及びVL配列を得た。これらの配列に基づいて、従来のIgG形態を有する抗体を作製した。
【0065】
下記実験例1の交差反応性評価により、MIDASヒトscFvライブラリーのスクリーニングにより得られた抗体の中から、ヒトIR、サルIR及びマウスIRのいずれにも結合する抗体である、IR739を選択した。上述のように作製したIR739のタンパク質配列を下記表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
作製例2.IR739抗体のバリアントの作製
ランダム変異誘発を用いて、LCDR3のAsn-Asn配列及びHCDR3のSer-Tyr-Gly-Thr-Val-Asn-His配列に変異を導入した(図2)。変異を導入するために、IR739の遺伝子を、対応する配列のコドンをNNK縮重コドン(N=A、T、G又はC、及びK=G又はT)に置き換えることにより得られたプライマーを用いたPCRに供して、変異体scFv DNA断片を作製した。エレクトロポレーションにより、変異体scFv DNA断片のそれぞれをライゲーションした1μgのpCIwベクター(Promega)を、100μlのXL1-Blueに形質転換した。次いで、生成物を10mlのSB(super broth)培地に入れ、培養を37℃で1時間行った。
【0068】
培養物に10mlのヘルパーファージを添加し、培養を37℃で1時間行った。次いで、培養物にテトラサイクリン及びカルベニシリンを補充した80mlの培地をさらに添加し、培養を一晩行った。変異を導入したXL1-Blueの培養液を遠心分離により回収し、ファージを20%PEG溶液で沈澱させた。遠心分離後、1% BSA/0.1Mグリシン(pH2.0)緩衝液を用いた培養を室温で10分間行って、IRに結合したファージを溶出した。溶出したファージを70μlの2M Tris-HCl(pH9.0)を用いて中和し、これを用いて事前に培養した9mlの大腸菌(XL1-Blue)を30分間感染させた。ファージ感染XL1-Blueに、SB(super broth)培地、テトラサイクリン及びカルベニシリンを添加し、培養を37℃で1時間行った。次いで、培養物にヘルパーファージを添加した。培養をさらに1時間行った。培養物に培地を最大100ml添加し、培養を37℃で一晩行った。
【0069】
培養培地を遠心分離により回収し、ファージを20%PEG溶液で沈殿させた。遠心分離後、1% BSAを添加したPBS溶液を用いてファージを収集した。ファージを収集した溶液を用いて、マウスIRコートチューブ及びヒトIRコートチューブを交互に用いて、パニングプロセスを最大4回繰り返した。三次ファージ及び四次ファージ感染XL1-Blueコロニーのそれぞれを培養して、各ファージ含有培養液を得た。培養液及びIRコートプレートを用いて、IR739よりも高いか、又は低い吸光度を有するクローンをELISAにより選択した。選択したクローンを配列決定して特有の配列を選択し(図3)、クローニングして、従来のIgG形態を有するバリアントであるH031、H118、HL009、L016及びL113を作製した。
【0070】
作製例3.非対称融合抗体の作製
1つのFabがIDSに置き換えられているIDS融合タンパク質のそれぞれ(IDS-IR739、IDS-H031、IDS-HL009及びIDS-8D3)を作製するために、ノブインホールをイムノグロブリンの重鎖に導入した。ノブを導入した重鎖において、Lys409をTrp409に置き換え、ホールを導入した重鎖において、Asp399及びPhe405をそれぞれ、Val399及びThr405に置き換えた。クローニングにより、IR739、HL009及び8D3のVHを、ホールを導入した重鎖のVHに置き換え、IDSのC末端を、ノブを導入した重鎖のCH2のN末端に融合した。トランスフェリン受容体に対する抗体である8D3を対照として用いた。
【0071】
ホールを導入した軽鎖及び重鎖を発現するプラスミド、並びにノブを導入し、IDSを融合したCH2-CH3を発現するプラスミドをCHO細胞に共トランスフェクトした。培養を37℃で10日間行った。培養液を遠心分離により分離した。次いで、IDS-IR739、IDS-HL009、IDS-H031及びIDS-8D3をProtein Aカラムを用いて精製した。IDS融合抗体をProtein Aカラムから、1M L-アルギニン溶液(pH4)を用いて溶出した。上述のように作製した非対称融合抗体の構造を図1(左)に示す。
【0072】
実験例1.交差反応性評価
ヒトIR、サルIR及びマウスIRのそれぞれを過剰発現させたそれぞれのExpi-293細胞を回収し、5×10細胞/mlでそれぞれのチューブに入れた。次いで、チューブを、MIDASヒトscFvライブラリーのスクリーニングにより得られた1μg/mlの抗体それぞれで処理した。培養を4℃で30分間行い、次いで、冷PBSによる洗浄を、遠心分離機を用いて3回行った。培養物に3% BSA/PBS緩衝液中の蛍光色素標識した抗ヒト抗体(FITC-結合抗ヒトIgG)を添加し、培養を4℃で30分間、暗所で行った。3% BSA/1% アジ化ナトリウム/PBSの冷緩衝液による洗浄を、遠心分離機を用いて3回行った。分析は、FACS機器を用いて行った。結果として、抗体IR739は、ヒトIR、サルIR及びマウスIRの全てに結合することが特定された(図4)。
【0073】
実験例2.IRに対する結合親和性の評価
実験例2.1.IR739の結合親和性の評価
IR739のIRに対する結合親和性を、表面プラズモン共鳴(SPR)により分析した。1μg/mlのヒトIR又はマウスIRをCM5センサーチップ上にアセテート(pH4.0)を用いて固定化した。IR739を、100nM、50nM、25nM、12.5nM、6.25nM、3.125nM又は1.563nMの濃度で、ヒトIR又はマウスIRを固定化したCM5センサーチップ上に流し、同時にその結合及び解離を測定した。測定条件については、流速を30μl/分に設定し、結合時間及び解離時間を、それぞれ120秒及び600秒に設定した。再生のために、10mMグリシン-HCl(pH1.5)を30秒間流した。IR739のヒトIR及びマウスIRに対する結合親和性の結果を下記表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
実験例2.2.IR739及びIR739のバリアントの結合親和性の比較
ELISAを行って、IR739及びそのバリアントのIRに対する結合親和性を比較した。5μg/mlの濃度で、IRでコーティングしたELISAプレートを3%スキムミルクで1時間ブロッキングし、次いで、それぞれのウェルを種々の濃度のIR739及びそのバリアントで処理した。処理を37℃で1時間行い、次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行った。IR739及びそのバリアントを検出するために、ペルオキシダーゼ結合抗ヒトFc IgGによる処理を行い、インキュベーションを37℃で1時間行った。次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行った。発色をテトラメチルベンジジン(TMB)ELISA溶液を用いて行い、450nmにおける吸光度を分析した。結果として、H031及びHL009は、ヒトIR及びマウスIRに対して、IR739よりも高い結合親和性を有し、L016及びH118は、IR739よりも低い結合親和性を有していた。L113は、IR739と同等の結合親和性を示した(図5)。
【0076】
実験例2.3.非対称融合抗体の結合親和性の評価
ELISAを行って、IDS-HL009のIRに対する結合親和性を特定した。5μg/mlの濃度で、IRでコーティングしたELISAプレートを3%スキムミルクで1時間ブロッキングし、次いで、それぞれのウェルを種々の濃度のIR739、IDS-IR739、IDS-HL009又はIDS-H031で処理した。処理を37℃で1時間行い、次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行った。IR-739、IDS-IR739、IDS-HL009及びIDS-H031を検出するために、ペルオキシダーゼ結合抗ヒトFc IgGによる処理を行い、インキュベーションを37℃で1時間行った。次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行った。発色をTMB ELISA溶液を用いて行い、450nmにおける吸光度を分析した。結果として、IDS-IR739、IDS-H031及びIDS-HL009は、ヒトIR及びマウスIRに対して、IR739よりも低い結合親和性を有しており、これは、かかる抗体において、1つのFabのIDSによる置き換えにより、アビディティ効果が除かれたためである(図6)。
【0077】
実験例3.IRに対するインスリンとIR739との間の競合の特定
IRに対するIR739とインスリンとの間の相互作用を特定するために、競合ELISAを行った。5μg/mlの濃度で、IRでコーティングしたELISAプレートを3%スキムミルクで1時間ブロッキングした。次いで、それぞれのウェルに、種々の濃度のIR739とビオチン化インスリンとの混合物を添加した。インキュベーションを37℃で1時間行い、次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行った。IR739を検出するために、ペルオキシダーゼ結合抗ヒトFc IgGによる処理を行い、ペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンによる処理を行って、ビオチン化インスリンを検出した。
【0078】
インキュベーションを37℃で1時間行った。次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行い、発色をTMB ELISA溶液を用いて行った。450nmにおける吸光度を分析した。結果として、IR739のIRに対する結合パターンは、インスリン濃度の変化による影響を受けなかった。詳細には、インスリン濃度が0.6nM~150nMまで変化する間、それぞれの濃度のIR739についての結合曲線に変化は観察されなかった(図7)。さらに、インスリンのIRに対する結合パターンも、IR739濃度の変化による影響を受けず、詳細には、IR739濃度が0.03nM~7nMまで変化する間、それぞれのインスリン濃度についての結合曲線に変化は観察されなかった(図8)。
【0079】
実験例4.マウス血液中の薬物動態の評価
実験例4.1.マウス血液中のIR739の薬物動態の評価
マウス血液中のIR739の安定性を分析するために、5mg/kgのIR739、又は対照である8D3抗体(抗TfR抗体)を各マウスの尾静脈に投与した。投与後、30分、1時間、2時間、6時間及び24時間のそれぞれにおいて、50μlの血液を眼出血により収集した。血液を遠心分離し、上清中の抗体濃度をELISAにより分析した。ELISA用に、ELISAプレートを1μg/mlの抗ヒトFab IgGでコーティングし、3%スキムミルクでブロッキングし、次いで、1/10希釈した50μlの上清で処理した。インキュベーションを37℃で1時間行い、次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行った。ペルオキシダーゼ結合抗ヒトFc IgGによる処理を行った。処理を37℃で1時間行った。次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行い、検出をTMB ELISA溶液を用いて行った。上述と同様の方法で、10,000ng/ml~4.5ng/ml(10,000ng/ml、3,333ng/ml、1,111ng/ml、370ng/ml、123ng/ml、41.2ng/ml、13.7ng/ml、4.5ng/ml)のIR739でELISAを行うことによって得られた結果を標準として用いて、濃度を算出した。IR739は、約24時間の半減期を有することが特定された(図9)。
【0080】
実験例4.2.マウス血液中のIDS-HL009の薬物動態の評価
マウス血液中のIDS-HL009の安定性を分析するために、5mg/kgのIDS、IR739、IDS-HL009又はIDS-8D3を各マウスの尾静脈に投与した。投与後、30分、1時間、2時間、6時間及び24時間のそれぞれにおいて、50μlの血液を眼出血により収集した。血液を遠心分離し、上清中の抗体濃度をELISAにより分析した。ELISA用に、ELISAプレートを1μg/mlの抗ヒトFab IgGでコーティングし、3%スキムミルクでブロッキングし、次いで、1/10希釈した50μlの上清で処理した。
【0081】
インキュベーションを37℃で1時間行い、次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行った。ペルオキシダーゼ結合抗ヒトFc IgGによる処理を行った。処理を37℃で1時間行った。次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行い、検出をTMB ELISA溶液を用いて行った。上述と同様の方法で、10,000ng/ml~4.5ng/ml(10,000ng/ml、3,333ng/ml、1,111ng/ml、370ng/ml、123ng/ml、41.2ng/ml、13.7ng/ml、4.5ng/ml)のIR739、IDS-HL009及びIDS-8D3でELISAを行うことによって得られた結果を標準として用いて、濃度を算出した。IDS濃度を測定するために、抗IDS IgGでコーティングしたELISAプレート上で、ビオチン結合抗IDS及びHRP結合ストレプトアビジンを用いてELISAを行った。IDS-HL009は、約14時間の半減期を有することが特定された(図10)。
【0082】
実験例5.脳取り込みの評価
実験例5.1.IR739の脳取り込み効率の評価
IR739の脳取り込み効率を分析するために、陰性対照IgG(抗メソテリン(MSLN)IgG)、8D3又はIR739を5mg/kgで各マウスの尾静脈に注入した。ここで、抗メソテリンIgGを陰性対照として使用し、8D3を陽性対照として使用した。1時間及び24時間後に、各物質について3匹のマウスのそれぞれを灌流し、次いで、脳をそこから取り出した。脳100mg当たり1mlの溶解緩衝液を添加し、粉砕を行った。次いで、13,000rpmで遠心分離を行った。ELISAプレートを1μg/mlの抗ヒトFab IgGでコーティングし、3%スキムミルクでブロッキングし、次いで、50μlの上清で処理した。インキュベーションを37℃で1時間行い、次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行った。ペルオキシダーゼ結合抗ヒトFc IgGによる処理を行った。インキュベーションを37℃で1時間行った。次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行い、検出をTMB ELISA溶液を用いて行った。上述と同様の方法で、1,000ng/ml~0.45ng/ml(1,000ng/ml、333ng/ml、111ng/ml、37.0ng/ml、12.3ng/ml、4.12ng/ml、1.37ng/ml、0.45ng/ml)の抗MSLN IgG、8D3及びIR739でELISAを行うことによって得られた結果を標準として用いて、濃度を算出した。IR739は、8D3よりも低い脳取り込み効率を示し、一方、抗MSLN IgGよりも高い脳取り込み効率を示した(図11)。
【0083】
実験例5.2.IR739のバリアントの脳取り込み効率の評価
IR739のバリアントの脳取り込み効率を分析するために、抗MSLN IgG、8D3、IR739、H031、HL009、L113又はH118を5mg/kgで各マウスの尾静脈に注入した。1時間及び24時間後に、各物質について3匹のマウスのそれぞれを灌流し、次いで、脳をそこから取り出した。脳100mg当たり1mlの溶解緩衝液を添加し、粉砕を行った。次いで、13,000rpmで遠心分離を行った。ELISAプレートを1μg/mlの抗ヒトFab IgGでコートし、3%スキムミルクでブロッキングし、次いで、50μlの上清で処理した。インキュベーションを37℃で1時間行、次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行った。ペルオキシダーゼ結合抗ヒトFc IgGによる処理を行った。インキュベーションを37℃で1時間行った。次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行い、検出をTMB ELISA溶液を用いて行った。上述と同様の方法で、1,000ng/ml~0.45ng/ml(1,000ng/ml、333ng/ml、111ng/ml、37.0ng/ml、12.3ng/ml、4.12ng/ml、1.37ng/ml、0.45ng/ml)の抗MSLN IgG、8D3、IR739、H031、HL009、L113及びH118でELISAを行うことによって得られた結果を標準として用いて、濃度を算出した。分析の結果として、バリアントの中で、HL009は、IR739よりも高い脳取り込み効率を示し、一方、H031、L113及びH118は、IR739よりも低い脳取り込み効率を示した(図12)。
【0084】
実験例5.3.IDS-HL009の脳取り込み効率の評価
IDS-HL009の脳取り込み効率を分析するために、IDS-HL009を5mg/kgで各マウスの尾静脈に注入した。1時間及び24時間後に、各物質について3匹のマウスのそれぞれを灌流し、次いで、脳をそこから取り出した。脳100mg当たり1mlの溶解緩衝液を添加し、粉砕を行った。次いで、13,000rpmで遠心分離を行った。ELISAプレートを1μg/mlの抗ヒトFab IgGでコーティングし、3%スキムミルクでブロッキングし、次いで、50μlの上清で処理した。インキュベーションを37℃で1時間行、次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行った。ペルオキシダーゼ結合抗ヒトFc IgGによる処理を行った。インキュベーションを37℃で1時間行った。次いで、0.05% Tween 20/PBS溶液による洗浄を3回行い、検出をTMB ELISA溶液を用いて行った。上述と同様の方法で、1,000ng/ml~0.45ng/ml(1,000ng/ml、333ng/ml、111ng/ml、37.0ng/ml、12.3ng/ml、4.12ng/ml、1.37ng/ml、0.45ng/ml)のIDS-HL009でELISAを行うことによって得られた結果を標準として用いて、濃度を算出した。IDS-HL009は、IDS、IDS-IR739及びIDS-H031よりも高い脳取り込み効率を示した(図13)。
【0085】
実験例6.IDS-HL009の特徴の評価
IDS及びIDS-HL009の特徴を分析するために、10ng/mlのIDS又は10μlのIDS-HL009及び0μlの100mM 4-メチルウンベリフェリルα-L-イドピラノースイズロン酸-2-スルフェート(4MU-α-IdopyraA-2)を96ウェルプレート(黒色)に入れ、インキュベーションを37℃で4時間行った。20μlのPi/Ci溶液(pH4.5)の添加により反応を停止し、反応物に10μlの25μg/ml組換えヒトα-L-イズロニダーゼを添加した。インキュベーションを37℃で24時間行った。次いで、反応物に200μlの0.25M炭酸/炭酸水素ナトリウム(pH10.0)を添加し、蛍光を測定した(吸光355nm/発光460nm)。4-メチルウンベリフェロンを標準として用いて活性を分析し、結果を下記表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
表3に示すように、IDS-HL009のIDS活性は、タンパク質1μgに対して、IDS:IDS-HL009=51.4:13.0nmol/分であることが示され、かつ、タンパク質1molに対して、IDS:IDS-HL009=3,084:2,105nmol/分であることが示された。上の結果から、IDS-HL009は、タンパク質1molに対して、IDSに対して約70%のIDS活性を有することが特定できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
0007206524000001.app