(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】低粘度含フッ素エラストマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/06 20060101AFI20230111BHJP
C08F 14/18 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08F2/06
C08F14/18
(21)【出願番号】P 2022111736
(22)【出願日】2022-07-12
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2021130539
(32)【優先日】2021-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 達也
(72)【発明者】
【氏名】古谷 喬大
(72)【発明者】
【氏名】寺田 純平
(72)【発明者】
【氏名】入江 正樹
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-349768(JP,A)
【文献】特開昭60-067517(JP,A)
【文献】特表2003-527468(JP,A)
【文献】特表2003-519261(JP,A)
【文献】特開2017-066249(JP,A)
【文献】特開昭61-085411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00- 2/60
4/36
6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合開始剤および溶剤の存在下に、フルオロモノマーを溶液重合することによって、低粘度含フッ素エラストマーを得る低粘度含フッ素エラストマーの製造方法であって、
前記溶剤が、ハロゲン原子を含まないアシル化合物であり、
前記重合開始剤が、有機過酸化物およびアゾ化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記重合開始剤の1分間半減期温度が110℃以下であって、前記有機過酸化物の分子中に存在する酸素原子-酸素原子間の結合、または、前記アゾ化合物の分子中に存在する窒素原子-窒素原子間の結合が開裂することにより生じる全てのフラグメントの炭素数が、10以下であ
り、
前記低粘度含フッ素エラストマーのB型粘度(40℃)が、30000以下であり、
前記溶液重合により少なくとも低粘度含フッ素エラストマーを含有する組成物を得た後、得られた組成物の温度を、前記重合開始剤の1分間半減期温度以上の温度に1分間以上維持し、低粘度含フッ素エラストマーを得る
製造方法。
【請求項2】
前記重合開始剤が、フッ素原子を含有しない請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記重合開始剤が、ジアルキルパーオキシジカーボネートである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アシル化合物が、エステル化合物およびケトン化合物からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記組成物を1分間以上維持する温度が、100℃以下である請求項
1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶液重合を、実質的に水および界面活性剤の非存在下に行う請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記低粘度含フッ素エラストマーの数平均分子量が、10000以下である請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低粘度含フッ素エラストマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低粘度含フッ素エラストマーは、ポリマーの成形性を改善したり、ポリマー成形品の硬度を低下させたりする目的で用いられている。低粘度含フッ素エラストマーの製造方法として、溶液重合によりフルオロモノマーを重合する方法が知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、溶剤の存在または非存在下に、非金属有機過酸化物の存在下で、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンおよび脂肪族連鎖移動剤の混合物を加圧下に加熱することによって、低分子量共重合体を調製する方法が記載されている。
【0004】
たとえば、特許文献2には、ラジカル開始剤の存在下、特定の構造を有するカルボン酸エステル溶媒中で、溶液重合によって低分子量の弗化ビニリデンのホモポリマーまたはコポリマーを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第3069401号明細書
【文献】特開昭61-85411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示では、フルオロモノマーの溶液重合が円滑に進行して、低粘度含フッ素エラストマーを製造することができ、しかも、重合後の簡便な処理によって、未反応重合開始剤を失活させ、さらに重合開始剤の分解物を除去することができ、結果として成形不良や成形品の物性低下を抑制することができる低粘度含フッ素エラストマーを製造するための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示によれば、重合開始剤および溶剤の存在下に、フルオロモノマーを溶液重合することによって、低粘度含フッ素エラストマーを得る低粘度含フッ素エラストマーの製造方法であって、前記溶剤が、ハロゲン原子を含まないアシル化合物であり、前記重合開始剤が、有機過酸化物およびアゾ化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記重合開始剤の1分間半減期温度が110℃以下であって、前記有機過酸化物の分子中に存在する酸素原子-酸素原子間の結合、または、前記アゾ化合物の分子中に存在する窒素原子-窒素原子間の結合が開裂することにより生じる全てのフラグメントの炭素数が、10以下である製造方法が提供される。
【0008】
本開示の製造方法において、前記重合開始剤が、フッ素原子を含有しないことが好ましい。
本開示の製造方法において、前記重合開始剤が、ジアルキルパーオキシジカーボネートであることが好ましい。
本開示の製造方法において、前記アシル化合物が、エステル化合物およびケトン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
本開示の製造方法において、前記溶液重合により少なくとも低粘度含フッ素エラストマーを含有する組成物を得た後、得られた組成物の温度を、前記重合開始剤の1分間半減期温度以上の温度に1分間以上維持し、低粘度含フッ素エラストマーを得ることが好ましい。
本開示の製造方法において、前記組成物を1分間以上維持する温度が、100℃以下であることが好ましい。
本開示の製造方法において、前記溶液重合を、実質的に水および界面活性剤の非存在下に行うことが好ましい。
本開示の製造方法において、前記低粘度含フッ素エラストマーの数平均分子量が、10000以下であることが好ましい。
本開示の製造方法において、前記低粘度含フッ素エラストマーのB型粘度(40℃)が、30000以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、フルオロモノマーの溶液重合が円滑に進行して、低粘度含フッ素エラストマーを製造することができ、しかも、重合後の簡便な処理によって、未反応重合開始剤を失活させ、さらに重合開始剤の分解物を除去することができ、結果として成形不良や成形品の物性低下を抑制することができる低粘度含フッ素エラストマーを製造するための製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本開示の製造方法においては、重合開始剤および溶剤の存在下に、フルオロモノマーを溶液重合することによって、低粘度含フッ素エラストマーを得る。
【0012】
低粘度含フッ素エラストマーを製造するための溶液重合においては、特許文献1および2に記載のように、非金属有機過酸化物などの重合開始剤が用いられている。重合開始剤は、重合により得られる低粘度含フッ素エラストマー中に残留する。残留した重合開始剤は、徐々に分解して低粘度含フッ素エラストマーを変色させる問題がある。また、低粘度含フッ素エラストマーを他のゴムに配合する際に、あるいは、他のゴムに配合した後に成形または架橋する際に、残留した重合開始剤によって予期せぬスコーチが発生し、結果として成形不良または架橋不良を生じさせたりする問題がある。さらには残留した重合開始剤の分解物は、通常フッ素を含まない低分子炭化水素類であり、架橋されることなく成形品に残留するため、残留量によっては成形品の耐熱性、シール性などの物性を低下させる恐れや、成形不良や架橋不良を生じさせる恐れがある。
【0013】
しかしながら、従来の溶液重合による製造方法では、得られる低粘度含フッ素エラストマーが抱えるこれらの問題を容易に解決できないことが判明した。したがって、低粘度含フッ素エラストマー中に重合開始剤が残留した場合でも、重合後の簡便な処理により、粘度の上昇などの種々の問題を解決できる低粘度含フッ素エラストマーを製造するための製造方法が望まれる。
【0014】
本発明者らの検討により、特定の溶剤を用い、重合開始剤として、限定された1分間半減期温度および特定の構造を有する有機過酸化物またはアゾ化合物を用いることによって、フルオロモノマーの溶液重合が円滑に進行して、低粘度含フッ素エラストマーを製造することができ、しかも、重合後の簡便な処理によって、得られる低粘度含フッ素エラストマー中に残留する重合開始剤を失活させることができるとともに、重合開始剤から生じる分解物を容易に除去できることが見出された。
【0015】
すなわち、本開示の製造方法においては、溶剤として、ハロゲン原子を含まないアシル化合物を用い、重合開始剤として、1分間半減期温度が110℃以下であって、分子の開裂により小さい炭素数のフラグメントを与える有機過酸化物またはアゾ化合物を用いる。本開示の製造方法は、このような溶剤および重合開始剤を用いることから、フルオロモノマーの溶液重合が円滑に進行し、得られる低粘度含フッ素エラストマーの処理も容易である。
【0016】
(重合開始剤)
本開示の製造方法において、溶液重合は、重合開始剤の存在下に行われる。本開示の製造方法において用いる重合開始剤は、有機過酸化物およびアゾ化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、なおかつ、110℃以下の1分間半減期温度を有している。さらに、重合開始剤のうち、有機過酸化物は、分子内に酸素・酸素結合(-O-O-)を有しており、アゾ化合物は、分子内に窒素・窒素結合(-N=N-)を有しているが、本開示の製造方法においては、重合開始剤として、これらの結合が開裂して生じる全てのフラグメントの炭素数が10以下である化合物を用いる。
【0017】
重合開始剤の1分間半減期温度は、110℃以下であり、好ましくは105℃以下であり、より好ましくは100℃以下であり、さらに好ましくは95℃以下であり、特に好ましくは90℃以下であり、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは70℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上である。
【0018】
重合開始剤の半減期とは、重合開始剤の半分が分解するまでの時間であり、重合開始剤の1分間半減期温度とは、1分間に重合開始剤の半分が分解する温度である。重合開始剤の半減期および重合開始剤の半減期温度を測定する方法は公知である。
【0019】
本開示の製造方法において用いる重合開始剤は、上記の範囲内の1分間半減期温度を有していることに加えて、有機過酸化物の分子中に存在する酸素原子-酸素原子間の結合、または、アゾ化合物の分子中に存在する窒素原子-窒素原子間の結合が開裂した場合に、炭素数が10以下であるフラグメントを生じさせる。
【0020】
有機過酸化物およびアゾ化合物は、酸素・酸素結合(-O-O-)または窒素・窒素結合(-N=N-)が熱により分解して遊離ラジカルが発生する。本開示の製造方法において用いる重合開始剤は、これらの結合が開裂した場合に、非常に小さい炭素数を有するフラグメントを生じさせる構造を有している。上記範囲内の1分間半減期温度を有しており、非常に小さい炭素数を有するフラグメントを生じさせる構造を有している重合開始剤を用いることによって、低温でも重合開始剤を分解させやすく、しかも、分解により生じる分解物を容易に揮発させることができる。したがって、本開示の製造方法により得られる低粘度含フッ素エラストマーに重合開始剤が残留した場合でも、低粘度含フッ素エラストマーから残留した重合開始剤を容易に除去できる。したがって、本開示の製造方法により低粘度含フッ素エラストマーを得た後、得られた低粘度含フッ素エラストマーに対して、後述する加熱処理などの簡便な処理を行うことによって、粘度の上昇や成形不良を抑制することができる低粘度含フッ素エラストマーを製造することができる。
【0021】
上記の結合が開裂した場合に生じるフラグメントの炭素数には、アルキル基を構成する炭素原子、ケト基を構成する炭素原子などの全ての炭素原子が含まれる。たとえば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(CH3-CH(CH3)-O-C(=O)-O-O-C(=O)-O-CH(CH3)-CH3)の酸素・酸素結合(-O-O-)が開裂した場合には、フラグメントとして、-O-C(=O)-O-CH(CH3)-CH3)が生じるので、フラグメントの炭素数は4である。開裂により生じるフラグメントの数は、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートの場合は2であるが、重合開始剤が2以上の酸素・酸素結合(-O-O-)または窒素・窒素結合(-N=N-)を有する場合には、3以上のフラグメントが生じ得る。
【0022】
本開示の製造方法においては、フッ素原子を含有しない重合開始剤が好適に用いられる。重合開始剤としては、有機過酸化物が好ましく、有機過酸化物としては、
ジイソブチリルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド;
ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシジカーボネート;
クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレートなどのアルキルパーオキシエステル;
などが挙げられる。
【0023】
有機過酸化物としては、なかでも、ジアルキルパーオキシジカーボネートが好ましく、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネートおよびジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートがさらに好ましい。
【0024】
アゾ化合物としては、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物などが挙げられ、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が好ましい。
【0025】
溶液重合に用いる重合開始剤の量は、フルオロモノマーの種類、目的とする低粘度含フッ素エラストマーの分子量、反応速度などによって適宜決定される。重合開始剤の量は、モノマー全量100質量%に対して、好ましくは0.00001~10質量%であり、より好ましくは0.0001~1質量%であり、さらに好ましくは0.01~0.5質量%である。
【0026】
(溶剤)
溶液重合は、溶剤の存在下に行われる。本開示の製造方法においては、溶剤として、ハロゲン原子を含まないアシル化合物を用いる。
【0027】
フルオロモノマーの溶液重合において、アシル化合物は連鎖移動剤としても作用するので、アシル化合物の存在下にフルオロモノマーの重合を行うことにより、得られる含フッ素エラストマーの分子量が適切に調整され、低粘度の含フッ素エラストマーを得ることができる。
【0028】
アシル化合物の沸点は、重合開始剤の1分間半減期温度以下であることが好ましい。アシル化合物の沸点が重合開始剤の1分間半減期温度以下であると、得られる低粘度含フッ素エラストマーに対して、後述する加熱処理を行った場合に、同じ加熱処理温度で、重合開始剤の分解、分解により生じる分解物の揮発および溶剤の揮発を同時に行うことができることから、粘度の上昇や成形不良を抑制することができる低粘度含フッ素エラストマーの製造が一層容易になる。
【0029】
アシル化合物の沸点は、好ましくは110℃以下であり、より好ましくは100℃以下であり、さらに好ましくは90℃以下であり、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは60℃以上であり、さらに好ましくは70℃以上である。
【0030】
アシル化合物としては、アシル基(R-CO-(Rはアルキル基である))を有する化合物であれば特に限定されないが、エステル化合物およびケトン化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、エステル化合物がより好ましい。
【0031】
エステル化合物としては、カルボン酸エステルが好ましく、炭素数1~20のカルボン酸エステルがより好ましく、蟻酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、吉草酸エステルおよびカプロン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチルおよびプロピオン酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種が特に好ましく、酢酸メチルおよび酢酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種が最も好ましい。
【0032】
ケトン化合物としては、炭素数1~20のケトン化合物が好ましく、アセトンおよびメチルエチルケトンがより好ましい。
【0033】
(重合)
本開示の製造方法においては、溶液重合によって、フルオロモノマーを重合させる。本開示の製造方法においては、フルオロモノマーを溶液重合するので、重合により生じる低粘度含フッ素エラストマーが、溶剤中に溶解した状態で重合反応が進行する。したがって、溶液重合は、重合により生じるポリマーが水性媒体中で懸濁した状態で重合反応が進行する懸濁重合や、重合により生じるポリマーが水性媒体中で乳化した状態で重合反応が進行する乳化重合とは、重合方法が異なる。
【0034】
フルオロモノマーの溶液重合は、たとえば、攪拌機を備えた反応器に、重合開始剤、溶剤およびフルオロモノマーを仕込み、所定の温度にすることによって、開始することができる。反応開始後、反応の進行とともに圧力が低下するので、初期圧力を維持するように、追加のフルオロモノマーを連続的又は間欠的に追加供給してもよい。フルオロモノマーの重合は、撹拌しながら行うことができる。所定量の低粘度含フッ素エラストマーが生成した時点で、反応器内の単量体をパージして反応を終了させる。反応終了後に得られた低粘度含フッ素エラストマーを含有する組成物を冷却してもよい。
【0035】
重合温度は、好ましくは10~250℃であり、より好ましくは20℃以上であり、さらに好ましくは30℃以上であり、特に好ましくは40℃以上であり、より好ましくは200℃以下であり、さらに好ましくは150℃以下である。また、本開示の製造方法においては、上記の重合開始剤を用いることから、重合温度が100℃以下、好ましくは100℃未満の低温であっても、円滑に溶液重合が進行する。低温で重合することにより、反応器などの設備に要するコストを低減することができる。
【0036】
重合圧力は、好ましくは0.1~10MPaGであり、より好ましくは0.5MPaG以上であり、より好ましくは5MPaG以下であり、さらに好ましくは2.5MPaG以下である。
【0037】
本開示の製造方法においては、溶液重合を実質的に水の非存在下に行うことができる。本開示において、「実質的に水の非存在下に、」とは溶剤に対する水の量が1質量%以下であることを意味する。
【0038】
本開示の製造方法においては、溶液重合を実質的に界面活性剤の非存在下で行うことができる。本開示において「実質的に界面活性剤の非存在下に」とは、溶剤に対する界面活性剤の量が10質量ppm以下であることを意味する。界面活性剤としては、フッ素非含有界面活性剤(炭化水素系界面活性剤)、含フッ素界面活性剤などが挙げられ、これらは、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0039】
さらに、本開示の製造方法においては、溶液重合を実質的にアルコール化合物またはニトリル化合物の非存在下に行うことができる。
【0040】
溶液重合は、反応器内で行うことができる。本開示の製造方法においては、溶液重合を反応器内で行うことにより得られる低粘度含フッ素エラストマーの質量(g)の、反応器の内容積(L)に対する割合を、400g/L以上とすることができる。本開示の製造方法により得られる含フッ素エラストマーは、粘度が低いことから、反応器内に大量の含フッ素エラストマーを収容しながら、フルオロモノマーの溶液重合を円滑に進行させることができる。したがって、本開示の製造方法は、一度の溶液重合により比較的多くの低粘度含フッ素エラストマーを回収することができる。
【0041】
(加熱処理)
フルオロモノマーの重合により、通常、低粘度含フッ素エラストマー、重合開始剤および溶剤を含有する組成物が得られる。本開示の製造方法においては、得られた組成物をさらに加熱処理することができる。
【0042】
より具体的には、本開示の製造方法においては、溶液重合により少なくとも低粘度含フッ素エラストマーを含有する組成物を得た後、得られた組成物の温度を、重合開始剤の1分間半減期温度以上の温度に1分間以上維持し、低粘度含フッ素エラストマーを得ることができる。
【0043】
本開示の製造方法における重合においては、上記の重合開始剤を用いることから、重合により得られる組成物に対して、このような簡便な加熱処理を行うことによって、組成物中の重合開始剤を分解し、揮発させることができる。したがって、本開示の製造方法において、加熱処理を行うことによって、重合開始剤およびその分解物を低粘度含フッ素エラストマーから容易に除去することができる。
【0044】
さらに、本開示の製造方法における重合においては、上記の溶剤を用いることから、重合により得られる組成物に対して、このような簡便な加熱処理を行うことによって、組成物中の溶剤を揮発させることができる。したがって、本開示の製造方法において、加熱処理を行うことによって、重合開始剤およびその分解物に加えて、溶剤についても、低粘度含フッ素エラストマーから容易に除去することができる。
【0045】
したがって、本開示の製造方法において、得られた組成物の温度を、重合開始剤の1分間半減期温度以上の温度に1分間以上維持することによって、組成物から重合開始剤、重合開始剤から生じる分解物および溶剤を除去し、高い純度で低粘度含フッ素エラストマーを回収することができる。
【0046】
加熱処理の温度は、重合開始剤の1分間半減期温度以上の温度であれば特に限定されない。加熱処理の温度が高いほうが、処理時間を短縮することができる。しかしながら、組成物を高温に維持して加熱処理をするためには、高温のスチームで組成物を加熱するなど、高価な設備と高いエネルギーを必要とする。したがって、加熱処理の温度は、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは100℃未満であり、さらに好ましくは95℃以下である。本開示の製造方法において用いる重合開始剤は、このような低温でも分解することができる。したがって、本開示の製造方法においては、温水、ヒーター、低圧力のスチームなどの入手が容易で高価な設備を要しない加熱処理手段を用いることができ、このような加熱処理手段を用いて低温で加熱処理をした場合でも、成形品の物性が低下しにくく、成形不良も生じにくい低粘度含フッ素エラストマーを製造することができる。さらに、高温で加熱処理をすることにより生じる着色などの他の不具合も回避できる。
【0047】
加熱処理の時間、すなわち、組成物を上記の温度に維持する時間は、好ましくは1分間~48時間であり、より好ましくは10分以上であり、さらに好ましくは20分以上であり、より好ましくは24時間以下であり、さらに好ましくは12時間以下であり、特に好ましくは1時間以下である。
【0048】
低粘度含フッ素エラストマーを含有する組成物の加熱処理は、反応器内で行うことができる。反応器内でフルオロモノマーを重合した後、同一の反応器内で組成物の加熱処理を行ってもよいし、重合に用いた反応器とは異なる反応器に組成物を収容した後に、組成物の加熱処理をおこなってもよい。
【0049】
また、フルオロモノマーの重合を、加熱処理と同一の温度範囲内で行う場合には、フルオロモノマーの重合後に得られる組成物を冷却することなく、そのまま加熱処理を行ってもよい。あるいは、フルオロモノマーの重合を行った後、得られる組成物を加熱または冷却することにより、得られる組成物を加熱処理の温度に調整して、加熱処理を行ってもよい。
【0050】
加熱処理手段としては、特に限定されるものではないが、重合により得られる組成物を機械的に攪拌してせん断力を加える手段、組成物を加熱する手段、真空・減圧手段、脱気手段、得られた低粘度含フッ素エラストマーを加熱する手段、加圧して低粘度含フッ素エラストマーを排出する手段などからなるものが好ましい。このような手段を備える装置の例としては、国際公開第2006/118247号に記載のものが挙げられる。
【0051】
加熱処理は、加圧下、常圧下、減圧下のいずれの方法で行なってもよいが、常圧または減圧下であることが好ましい。減圧度は、500Torr超が好ましいが、組成物中の溶剤の含有量が少ない場合は、1~500Torrで処理する方が、溶剤含有量がより短時間で減少するため、好ましい。
【0052】
加熱処理する際は組成物を攪拌することが好ましく、その攪拌速度は、特に限定されるものではないが、1~1000rpmであることが好ましく、3~300rpmであることがより好ましい。攪拌速度が、1rpm未満であると、処理時間が長くなる傾向があり、1000rpmをこえると、処理装置が特殊な仕様になる傾向がある。
【0053】
加熱処理の好適な一実施形態においては、組成物中に不活性ガスを吹き込みながら、加熱処理を行う。この実施形態によれば、重合開始剤から生じる分解物を揮発させ、溶剤を揮発させて、組成物中から除去する速度を高めることができる。
【0054】
加熱処理の好適な一実施形態においては、反応器内でフルオロモノマーを重合することにより、低粘度含フッ素エラストマー、重合開始剤および溶剤を含有する組成物を得た後、該反応器中の組成物に不活性ガスを吹き込みながら、組成物の温度を上記した範囲内で所定の時間維持することにより、重合開始剤を分解し、生じた分解物を溶剤とともに揮発させて該反応器内から除去し、該反応器内に残った低粘度含フッ素エラストマーを反応器から回収する。この実施形態によれば、同一の反応器を用いて重合および加熱処理を行うことができるとともに、反応器内から重合開始剤、重合開始剤から生じる分解物および溶剤を除去しながら加熱処理を行うことができる。加熱処理後には、低粘度含フッ素エラストマーだけが反応器に残るので、反応器の下部に設けた配管から低粘度含フッ素エラストマーを流出させるだけで回収が完了する。したがって、この実施形態によれば、高い生産性で、粘度が上昇しにくく、成形不良も生じにくい低粘度含フッ素エラストマーを製造することができる。重合開始剤、重合開始剤から生じる分解物および溶剤の含有量をさらに低下させるために、回収した低粘度含フッ素エラストマーに対して、さらに上記の加熱処理を行ってもよい。
【0055】
(低粘度含フッ素エラストマー)
本開示の製造方法においては、フルオロモノマーを溶液重合することによって、低粘度含フッ素エラストマーを得る。
【0056】
フルオロモノマーとしては、フッ化ビニリデン(VdF)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニル、ヨウ素含有フッ素化ビニルエーテル、一般式(1):
CHX1=CX2Rf (1)
(式中、X1およびX2は、一方がHであり、他方がFであり、Rfは炭素数1~12の直鎖または分岐したフルオロアルキル基)で表される含フッ素単量体(1)などが挙げられる。
【0057】
PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)がより好ましく、特にPMVEが好ましい。
【0058】
また、PAVEとしては、式:CF2=CFOCF2ORfc(式中、Rfcは、炭素数1~6の直鎖または分岐鎖状パーフルオロアルキル基、炭素数5~6の環式パーフルオロアルキル基、又は、1~3個の酸素原子を含む炭素数2~6の直鎖または分岐鎖状パーフルオロオキシアルキル基である)で表されるパーフルオロビニルエーテルを用いることもできる。PAVEとしては、例えば、CF2=CFOCF2OCF3、CF2=CFOCF2OCF2CF3またはCF2=CFOCF2OCF2CF2OCF3が好ましい。
【0059】
含フッ素単量体(1)としては、Rfが直鎖のフルオロアルキル基である単量体が好ましく、Rfが直鎖のパーフルオロアルキル基である単量体がより好ましい。Rfの炭素数は1~6であることが好ましい。
【0060】
含フッ素単量体(1)としては、CH2=CFCF3、CH2=CFCF2CF3、CH2=CFCF2CF2CF3、CH2=CFCF2CF2CF2CF3、CHF=CHCF3(1,3,3,3-テトラフルオロプロペン)、CHF=CHCF3(E体)、CHF=CHCF3(Z体)などが挙げられ、なかでも、CH2=CFCF3で示される2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンが好ましい。
【0061】
本開示の製造方法においては、フルオロモノマーとして、少なくともビニリデンフルオライドまたはテトラフルオロエチレンを重合することが好ましく、少なくともビニリデンフルオライドを重合することがより好ましい。
【0062】
本開示の製造方法において、フルオロモノマーとともに、フッ素非含有単量体を重合してもよい。フッ素非含有単量体としては、たとえばエチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンなどの炭素数2~10のα-オレフィン単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどのアルキル基が炭素数1~20であるアルキルビニルエーテルなどが挙げられ、これらの単量体や化合物のなかから1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
重合により得られる低粘度含フッ素エラストマーは、主鎖にメチレン基(-CH2-)を含むことが好ましい。主鎖に-CH2-を含む含フッ素エラストマーとしては、-CH2-で表される化学構造を含むものであれば特に限定されず、例えば、-CH2-CF2-、-CH2-CH(CH3)-、-CH2-CH2-、-CH2-CF2-(CF3)-等の構造を含む含フッ素エラストマーが挙げられ、これらは、例えば、ビニリデンフルオライド、プロピレン、エチレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン等を重合することにより、含フッ素エラストマーの主鎖に導入することができる。
【0064】
含フッ素エラストマーは、なかでも、VdF単位またはTFE単位を含有することが好ましく、VDF単位を含有することがより好ましい。
【0065】
含フッ素エラストマーとしてより具体的には、VdF系含フッ素エラストマー、TFE/プロピレン(Pr)系含フッ素エラストマー、TFE/Pr/VdF系含フッ素エラストマー、エチレン(Et)/HFP系含フッ素エラストマー、Et/HFP/VdF系含フッ素エラストマー、Et/HFP/TFE系含フッ素エラストマー、Et/TFE/PAVE系含フッ素エラストマーなどが挙げられる。
【0066】
含フッ素エラストマーとしては、VdF系含フッ素エラストマーが好ましい。VdF系含フッ素エラストマーは、VdF単位を有する含フッ素エラストマーである。含フッ素エラストマー中のVdF単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは20モル%以上であり、より好ましくは40モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上であり、特に好ましくは60モル%以上である。VdF系含フッ素エラストマーは、VdF単位が、VdF単位とその他の単量体に基づく単量体単位との合計モル数の20モル%以上、90モル%以下が好ましく、40モル%以上、85モル%以下がより好ましく、45モル%以上、80モル%以下が更に好ましく、50モル%以上、80モル%以下が特に好ましい。
【0067】
VdF系含フッ素エラストマーにおけるその他の単量体としては、VdFと共重合可能な単量体であれば特に限定されず、たとえば、上述した含フッ素単量体を使用することができる。
【0068】
VdF系含フッ素エラストマーとしては、VdF/HFP共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体、VdF/TFE/Pr共重合体、VdF/Et/HFP共重合体及びVdF/含フッ素単量体(1)の共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体が好ましい。また、VdF以外の他の単量体として、TFE、HFP及びPAVEからなる群より選択される少なくとも1種の単量体を有するものであることがより好ましい。
【0069】
含フッ素エラストマーとしては、VdF/HFP共重合体またはVdF/HFP/TFE共重合体がより好ましく、VdF/HFP/TFEの組成が(32~85)/(10~34)/(0~40)(モル%)であるものが特に好ましい。
【0070】
VdF/HFP/TFEの組成としては、(32~85)/(15~34)/(0~34)(モル%)がより好ましく、(47~81)/(17~32)/(0~26)(モル%)が更に好ましい。
【0071】
例えば、上記VdF/HFP共重合体において、VdF/HFPの組成としては、好ましくは(45~85)/(15~55)(モル%)であり、より好ましくは(50~83)/(17~50)(モル%)であり、さらに好ましくは(55~81)/(19~45)(モル%)であり、特に好ましくは(60~80)/(20~40)(モル%)である。
【0072】
低粘度含フッ素エラストマーの数平均分子量は、好ましくは10000以下であり、より好ましくは9000以下であり、さらに好ましくは8000以下であり、好ましくは1000以上であり、より好ましくは3000以上であり、さらに好ましくは5000以上である。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0073】
低粘度含フッ素エラストマーのB型粘度(40℃)は、好ましくは30000以下であり、より好ましくは20000以下であり、さらに好ましくは10000以下であり、好ましくは100以上であり、より好ましくは500以上であり、さらに好ましくは1000以上である。B型粘度は、B型粘度計を用いて40℃で測定することができる。
【0074】
本開示の製造方法により得られる低粘度含フッ素エラストマーは、加工助剤、可塑剤などの他のエラストマーへの添加剤として、好適に利用することができる。また、低粘度含フッ素エラストマーそのものを、カーボン、金属または金属化合物などのフィラーを高密度で充填可能な媒体として好適に利用することができる。
【0075】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例】
【0076】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0077】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0078】
<ポリマーの組成>
NMR分析により求めた。
【0079】
<数平均分子量(Mn)>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
装置:HLC-8020(東ソー社製)
昭和電工社製カラム:GPC KF-806M 2本
GPC KF-801 1本
GPC KF-802 1本
検出器:示差屈折率計
展開溶媒:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
試料濃度:0.1重量%
標準試料:単分散ポリスチレン各種、TSKgel標準ポリスチレン(東ソー社製)
【0080】
<B型粘度>
東機産業社製B型粘度計TV-10Mを用いて40℃で低粘度含フッ素エラストマーの粘度を測定した。
【0081】
<重合開始剤の分解物の分析>
ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)により測定した。
装置:5977A MSD(Agilent Technologies製)
カラム:DB624
オーブン温度:50℃×5分→10℃/分で昇温→250℃×5分
FID検出器温度:250℃
【0082】
実施例1
3Lステンレス製オートクレーブから真空窒素置換により酸素を除去し、槽内を真空引きして酢酸エチル700gを吸引させた。系内を攪拌しながら60℃に温調し、ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)=59/41のモル比で、重合槽内圧が1.25MPaGになるよう圧入した。重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)1.5gを窒素で圧入して反応を開始した。圧力が1.21MPaGまで降下したところで、モル比でVdF/HFP=78.0/22.0の混合モノマーを1.25MPaGになるよう仕込み、4時間毎にIPP1.5gを窒素で圧入した。これを繰り返し混合モノマー2350g仕込んだところで供給を停止し、0.98MPaGまで圧力低下させたところでオートクレーブ内のガスを放出した。オートクレーブを95℃で30分間加熱することで残存IPPを失活させた後、オートクレーブ底部より窒素を導入し、24時間バブリングにて酢酸エチルおよび重合開始剤の分解物を除去し、冷却後に2400gのポリマーを得た。得られたポリマーはVdF/HFPを78.1/21.9のモル比の割合で含んでいた。得られたポリマーの40℃における粘度は3300、Mnは5400と決定された。
【0083】
ポリマー5gを酢酸エチルおよびアセトン5gに溶解させ、ヘキサン150mlに滴下することにより得られた抽出液をGC-MS分析した結果、重合開始剤の分解物は検出されなかった。
【0084】
実施例2
3Lステンレス製オートクレーブから真空窒素置換により酸素を除去し、槽内を真空引きして酢酸エチル700gを吸引させた。系内を攪拌しながら60℃に温調し、ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)=59/41のモル比で、重合槽内圧が1.25MPaGになるよう圧入した。重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)6.0gを窒素で圧入して反応開始した。圧力が1.21MPaGまで降下したところで、モル比でVdF/HFP=78.0/22.0の混合モノマーを1.25MPaGになるよう仕込み、4時間毎にIPP6.0gを窒素で圧入した。これを繰り返し混合モノマー2350g仕込んだところで供給を停止し、0.98MPaGまで圧力低下させたところでオートクレーブ内のガスを放出した。オートクレーブを95℃で30分間加熱することで残存IPPを失活させた後、オートクレーブ底部より窒素を導入し、24時間バブリングにて酢酸エチルおよび重合開始剤の分解物を除去し、冷却後に2400gのポリマーを得た。得られたポリマーはVdF/HFPを77.9/22.1のモル比の割合で含んでいた。得られたポリマーの40℃における粘度は1100、Mnは2500と決定された。
【0085】
ポリマー5gを酢酸エチル及びアセトン5gに溶解させ、ヘキサン150mlに滴下することにより得られた抽出液をGC-MS分析した結果、重合開始剤の分解物は検出されなかった。
【0086】
実施例3
3Lステンレス製オートクレーブから真空窒素置換により酸素を除去し、槽内を真空引きして酢酸エチル700gを吸引させた。系内を攪拌しながら60℃に温調し、ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)=59/41のモル比で、重合槽内圧が1.52MPaGになるよう圧入した。重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)1.5gを窒素で圧入して反応開始した。圧力が1.48MPaGまで降下したところで、モル比でVdF/HFP=78.0/22.0の混合モノマーを1.52MPaGになるよう仕込み、4時間毎にIPP1.5gを窒素で圧入した。これを繰り返し混合モノマー2350g仕込んだところで供給を停止し、1.30MPaGまで圧力低下させたところでオートクレーブ内のガスを放出した。オートクレーブを95℃で30分間加熱することで残存IPPを失活させた後、オートクレーブ底部より窒素を導入し、24時間バブリングにて酢酸エチルおよび重合開始剤の分解物を除去し、冷却後に2400gのポリマーを得た。得られたポリマーはVdF/HFPを78.3/21.7のモル比の割合で含んでいた。得られたポリマーの40℃における粘度は4800、Mnは7000と決定された。
【0087】
ポリマー5gを酢酸エチル及びアセトン5gに溶解させ、ヘキサン150mlに滴下することにより得られた抽出液をGC-MS分析した結果、重合開始剤の分解物は検出されなかった。
【要約】
【課題】フルオロモノマーの溶液重合が円滑に進行して、低粘度含フッ素エラストマーを製造することができ、しかも、重合後の簡便な処理によって、未反応重合開始剤を失活させ、さらに重合開始剤の分解物を除去することができ、結果として成形不良や成形品の物性低下を抑制することができる低粘度含フッ素エラストマーを製造するための製造方法を提供すること。
【解決手段】重合開始剤および溶剤の存在下に、フルオロモノマーを溶液重合することによって、低粘度含フッ素エラストマーを得る低粘度含フッ素エラストマーの製造方法であって、前記溶剤が、ハロゲン原子を含まないアシル化合物であり、前記重合開始剤が、有機過酸化物およびアゾ化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記重合開始剤の1分間半減期温度が110℃以下であって、前記有機過酸化物の分子中に存在する酸素原子-酸素原子間の結合、または、前記アゾ化合物の分子中に存在する窒素原子-窒素原子間の結合が開裂することにより生じる全てのフラグメントの炭素数が、10以下である製造方法を提供する。
【選択図】 なし