IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コベルコ建機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-旋回式作業機械の安全装置 図1
  • 特許-旋回式作業機械の安全装置 図2
  • 特許-旋回式作業機械の安全装置 図3
  • 特許-旋回式作業機械の安全装置 図4
  • 特許-旋回式作業機械の安全装置 図5
  • 特許-旋回式作業機械の安全装置 図6
  • 特許-旋回式作業機械の安全装置 図7
  • 特許-旋回式作業機械の安全装置 図8
  • 特許-旋回式作業機械の安全装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】旋回式作業機械の安全装置
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/24 20060101AFI20230111BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20230111BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
E02F9/24 B
E02F9/26 B
E02F9/20 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018132209
(22)【出願日】2018-07-12
(65)【公開番号】P2020007866
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 裕樹
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-021374(JP,A)
【文献】国際公開第2015/029110(WO,A1)
【文献】特開2007-023486(JP,A)
【文献】実開平07-020352(JP,U)
【文献】特開平05-028382(JP,A)
【文献】特開2016-194481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/24
E02F 9/26
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面上を走行可能な下部走行体と、当該下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、を備えた作業機械に設けられる安全装置であって、
前記上部旋回体に設けられて前記作業機械の周囲の障害物を検知する障害物検知器と、
前記下部走行体に対する前記上部旋回体の旋回角度を検出する旋回角度検出器と、
前記障害物検知器により検知される前記障害物の前記上部旋回体に対する位置である障害物位置を演算する障害物位置演算部と、
前記作業機械の周囲に前記下部走行体の走行動作の強制停止を判定するための走行停止判定領域を設定する走行判定領域設定部と、
前記障害物位置演算部により演算された前記障害物位置が前記走行停止判定領域内の位置であるか否かを判定する走行動作制限判定部と、
前記障害物位置が前記走行停止判定領域内の位置であると前記走行動作制限判定部が判定した場合に前記障害物位置に近づく方向への前記下部走行体の走行動作を強制停止させるための走行動作停止指令を出力する指令出力部と、を備え、
前記走行判定領域設定部が設定する前記走行停止判定領域は、前記下部走行体の走行方向について前記作業機械の外側に設定された走行方向領域と、前記走行方向と直交する方向である幅方向について前記作業機械の外側に設定された幅方向領域と、を有し、当該幅方向領域の前記幅方向の最小寸法は前記走行方向領域の前記走行方向の最小寸法よりも小さく、
前記走行判定領域設定部は、前記旋回角度にかかわらず前記幅方向領域の前記幅方向の最小寸法が前記走行方向領域の前記走行方向の最小寸法よりも小さくなるように、前記旋回角度検出器により検出される前記旋回角度に基づき、前記下部走行体に対する前記上部旋回体の姿勢に応じて前記走行方向領域及び前記幅方向領域を変化させるように構成されており、
前記走行判定領域設定部は、前記上部旋回体の前後方向と前記下部走行体の前後方向とが合致する正体姿勢では、前記作業機械の外側であって前記上部旋回体の後端面の後方に位置する後側端縁と前記後端面との間に前記走行方向領域を設定し、かつ、前記幅方向領域の前記幅方向の最小寸法を前記後端面から後側端縁までの寸法よりも小さくするように構成され、
前記走行判定領域設定部は、前記正体姿勢から前記上部旋回体が90度旋回して側方を向くことにより前記上部旋回体よりも前側と後側にそれぞれ前記下部走行体が突出する横向き姿勢では、前記走行方向領域として、前記下部走行体の前側に位置する前側端縁を外郭として当該前側端縁と前記下部走行体の前端との間に前側領域を設定するとともに、前記下部走行体の後側に位置する後側端縁を外郭として当該後側端縁と前記下部走行体の後端との間に後側領域を設定し、かつ、前記幅方向領域の前記幅方向の最小寸法を前記下部走行体の前記前端から前記前側端縁までの寸法及び前記下部走行体の前記後端から前記後側端縁までの寸法のそれぞれよりも小さくするように構成されている、作業機械の安全装置。
【請求項2】
請求項1記載の作業機械の安全装置であって、前記走行判定領域設定部は、前記上部旋回体が前記下部走行体の前進方向を向く正体姿勢から左右いずれかに旋回することにより前記幅方向の一方の側においてのみ前記下部走行体の側端よりも当該幅方向の外側にはみ出た姿勢にあるときに、前記走行停止判定領域として、前記幅方向の両側にそれぞれ第1幅方向端縁及び第2幅方向端縁を有する領域を設定するように構成され、前記第1幅方向端縁は前記幅方向の一方の側において前記下部走行体の側端よりも当該幅方向の外側にはみ出た前記上部旋回体の外端よりも前記幅方向の外側を通りかつ前記走行方向と平行な方向に延びる線からなり、前記第2幅方向端縁は前記第1幅方向端縁と反対の側において前記下部走行体の前記側端に沿って前記走行方向と平行な方向に延びる線からなる、作業機械の安全装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の作業機械の安全装置であって、前記走行判定領域設定部は、前記上部旋回体が前記下部走行体の前進方向を向く正体姿勢にあるときは前記走行方向の両側のうち前記上部旋回体の後側にのみ前記走行方向領域を設定し、前記上部旋回体が前記正体姿勢から90°旋回して前記幅方向を向く横向き姿勢にあるときは前記走行方向の両側に前記走行方向領域を設定するように構成されている、作業機械の安全装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の作業機械の安全装置であって、前記下部走行体が左右一対の走行用履帯を有する場合、前記幅方向領域の前記幅方向の寸法は、前記左右一対の走行用履帯の一方のみが駆動され、あるいは当該左右一対の走行用履帯が互いに逆向きに駆動されることにより前記下部走行体が旋回動作することによる作業機械と障害物との接触を阻止するのに十分な寸法に設定されている、作業機械の安全装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の作業機械の安全装置であって、前記作業機械に前記上部旋回体を旋回させるための旋回操作が与えられたときに前記上部旋回体の周囲に旋回停止判定領域を設定する旋回停止判定領域設定部と、前記障害物位置演算部により演算された前記障害物位置が前記旋回停止判定領域内の位置であるか否かを判定する旋回停止判定部と、をさらに備え、前記指令出力部は、前記障害物位置が前記旋回停止判定領域内の位置であると前記旋回停止判定部が判定した場合に前記障害物位置に近づく方向への前記上部旋回体の旋回動作を強制停止させるための旋回動作停止指令を出力するように構成されている、作業機械の安全装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の作業機械の安全装置であって、前記走行判定領域設定部は、前記走行停止判定領域に前記下部走行体が含まれないように当該下部走行体の形状によって当該走行停止判定領域の下面の少なくとも一部の高さ位置を切換えるように構成されている、作業機械の安全装置。
【請求項7】
請求項6記載の作業機械の安全装置であって、前記下部走行体は上下方向に変位可能な可動部位を有するものであって、前記走行判定領域設定部は、当該可動部位の変位にかかわらず当該可動部位が前記走行停止判定領域内に入らないように当該走行停止判定領域の下面の少なくとも一部の高さ位置を切換えるものである、作業機械の安全装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の作業機械の安全装置であって、前記走行判定領域設定部は、前記走行停止判定領域に加え、当該走行停止判定領域の外側に走行減速判定領域を設定するものであり、前記走行動作制限判定部は、前記障害物位置演算部により演算された前記障害物位置が前記走行停止判定領域内の位置であるか否かの判定に加えて当該障害物位置が前記走行減速判定領域内の位置であるかの判定も行うものであり、前記指令出力部は、前記障害物位置が前記走行減速判定領域内の位置であると前記走行動作制限判定部が判定した場合に前記障害物位置に近づく方向への前記下部走行体の走行速度を強制的に低減するための走行減速指令を出力するように構成されている、作業機械の安全装置。
【請求項9】
請求項8記載の作業機械の安全装置であって、前記走行動作制限判定部は、前記上部旋回体の旋回角度に対応した前記走行停止判定領域の外郭の形状の変更に対応して前記走行減速判定領域の外郭の形状を変更するように構成されている、作業機械の安全装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部走行体及びこれに旋回可能に搭載される上部旋回体を備えた油圧ショベル等の作業機械に設けられ、当該作業機械の周囲の障害物の存在に基いて当該作業機械の安全のための制御を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、旋回式作業機械に設けられる安全装置として、特許文献1に記載されるものが知られている。この装置は、建設機械周辺の障害物(特許文献1では作業者)の位置を検出するセンサと、前記建設機械の周囲に円形の領域を設定する手段と、当該領域内に作業者がいる場合に下部走行体の走行や上部旋回体の旋回を制限(強制停止も含む。)する手段と、を具備する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2700710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に記載される装置では、前記上部旋回体の旋回角度にかかわらず前記下部走行体の走行によって作業機械と障害物(特許文献1では作業者)とが接触するのを回避するため、当該下部走行体の走行動作を停止するか否かを判定するための停止領域が前記上部旋回体の旋回中心を中心とした円形の領域に設定される。従って、実際の作業機械の走行方向からみて本来は接触する可能性が全くない位置に障害物が存在する場合にも下部走行体の走行が高い頻度で強制停止される可能性がある。このような無駄な強制停止の頻発は作業効率の著しい低下を招く。このような課題を解決するための具体的な手段について特許文献1に何ら開示はされていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、旋回式作業機械に設けられる安全装置であって、作業効率の著しい低下を招くことなく下部走行体の走行について的確な安全制御を行うことが可能な装置を提供することを目的とする。
【0006】
提供されるのは、地面上を走行可能な下部走行体と、当該下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、を備えた作業機械に設けられる安全装置であって、前記上部旋回体に設けられて前記作業機械の周囲の障害物を検知する障害物検知器と、前記下部走行体に対する前記上部旋回体の旋回角度を検出する旋回角度検出器と、前記障害物検知器により検知される前記障害物の前記上部旋回体に対する位置を演算する障害物位置演算部と、前記作業機械の周囲に前記下部走行体の走行動作の強制停止を判定するための走行停止判定領域を設定する走行判定領域設定部と、前記障害物位置演算部により演算された前記障害物位置が前記走行停止判定領域内の位置であるか否かを判定する走行動作制限判定部と、前記障害物位置が前記走行停止判定領域内の位置であると前記走行動作制限判定部が判定した場合に前記障害物位置に近づく方向への前記下部走行体の走行動作を強制停止させるための走行動作停止指令を出力する指令出力部と、を備える。前記走行判定領域設定部が設定する前記走行停止判定領域は、前記下部走行体の走行方向について前記作業機械の外側に設定された走行方向領域と、前記走行方向と直交する幅方向について前記作業機械の外側に設定された幅方向領域と、を有し、当該幅方向領域の前記幅方向の最小寸法は前記走行方向領域の前記走行方向の最小寸法よりも小さい。さらに、前記走行判定領域設定部は、前記旋回角度検出器により検出される前記旋回角度に基づき、前記下部走行体に対する前記上部旋回体の姿勢に応じて前記走行方向領域及び前記幅方向領域を変化させるように構成されている。
【0007】
この安全装置では、前記走行停止判定領域のうちの走行方向領域、すなわち、作業機械の走行軌跡上に位置する領域、に当該走行方向に大きな寸法を与えることにより、高い安全性を確保する一方、前記走行停止判定領域のうちの幅方向領域、すなわち、前記走行軌跡から前記幅方向に外れた領域、の当該幅方向の寸法は小さく抑えることにより、安全な状態にあるにもかかわらず下部走行体の走行動作が無駄に強制停止されてしまうことによる作業効率の低下を抑えることができる。しかも、前記旋回角度検出器により検出される前記旋回角度に基づき、前記下部走行体に対する前記上部旋回体の姿勢に応じて前記走行方向領域及び前記幅方向領域が変化することにより、前記上部旋回体の旋回角度(つまり下部走行体に対する相対姿勢)にかかわらず適正な走行停止制御を実行することが可能である。
【0008】
前記走行判定領域設定部は、例えば、前記上部旋回体が前記下部走行体の前進方向を向く正体姿勢から左右いずれかに旋回することにより前記幅方向の一方の側においてのみ前記下部走行体の側端よりも当該幅方向の外側にはみ出た姿勢にあるときに、前記走行停止判定領域として、前記幅方向の両側にそれぞれ第1幅方向端縁及び第2幅方向端縁を有する領域を設定するように構成され、前記第1幅方向端縁は前記幅方向の一方の側において前記下部走行体の側端よりも当該幅方向の外側にはみ出た前記上部旋回体の外端よりも前記幅方向の外側を通りかつ前記走行方向と平行な方向に延びる線からなり、前記第2幅方向端縁は前記第1幅方向端縁と反対の側において前記下部走行体の前記側端に沿って前記走行方向と平行な方向に延びる線からなるものが、好適である。
【0009】
このような走行停止判定領域によれば、当該走行停止判定領域の幅方向の寸法を最小限に抑えながら、前記下部走行体及びこの下部走行体から幅方向の一方の側にはみ出る上部旋回体の部分のいずれについても、これらが前記下部走行体の走行に伴って障害物に接触することを確実に防ぐことができる。
【0010】
前記走行判定領域設定部は、前記上部旋回体が前記下部走行体の前進方向を向く正体姿勢にあるときは前記走行方向の両側のうち前記上部旋回体の後側にのみ前記走行方向領域を設定し、前記上部旋回体が前記正体姿勢から90°旋回して前記幅方向を向く横向き姿勢にあるときは前記走行方向の両側に前記走行方向領域を設定するように構成されていることが、好ましい。
【0011】
前記上部旋回体が前記正体姿勢にあるとき、すなわち当該上部旋回体の前後方向と走行方向とが合致しているとき、当該上部旋回体の前方の視界が良好であるため、当該上部旋回体の後方にのみ前記走行方向領域を設定しても高い安全性を確保することが可能である。これに対し、前記上部旋回体が前記横向き姿勢にあるとき、当該上部旋回体が前記正体姿勢にあるときの前方の視界に比べて当該上部旋回体の左右両側の視界すなわち走行方向両側の視界はともに悪いので、このような状態では当該走行方向の両側に前記走行方向領域を設定することにより、高い安全性を確保することが可能である。
【0012】
前記下部走行体が左右一対の走行用履帯を有する場合、前記幅方向領域の前記幅方向の寸法は、前記左右一対の走行用履帯の一方のみが駆動され、あるいは当該左右一対の走行用履帯が互いに逆向きに駆動されることにより前記下部走行体が旋回動作することによる作業機械と障害物との接触を阻止するのに十分な寸法に設定されていることが、好ましい。このことは、前記左右一対の走行用履帯が互いに同じ向きに駆動されることによる通常走行だけでなく、互いに逆向きに駆動されることによる下部走行体の旋回動作についても、高い安全性を確保することを可能にする。
【0013】
前記安全装置は、前記作業機械に前記上部旋回体を旋回させるための旋回操作が与えられたときに前記上部旋回体の周囲に旋回停止判定領域を設定する旋回停止判定領域設定部と、前記障害物位置演算部により演算された前記障害物位置が前記旋回停止判定領域内の位置であるか否かを判定する旋回停止判定部と、をさらに備え、前記指令出力部は、前記障害物位置が前記旋回停止判定領域内の位置であると前記旋回停止判定部が判定した場合に前記障害物位置に近づく方向への前記上部旋回体の旋回動作を強制停止させるための旋回動作停止指令を出力するように構成されていることが、好ましい。
【0014】
前記旋回停止判定領域設定部及び前記旋回停止判定部は、前記作業機械の動作が走行動作から旋回動作に切換えられた場合、あるいは走行動作中にこれと並行して旋回動作が開始された場合、に当該旋回動作によって上部旋回体と障害物が接触する前に当該上部旋回体の旋回動作を停止させることを可能にする。
【0015】
前記走行判定領域設定部は、前記走行停止判定領域に前記下部走行体が含まれないように当該下部走行体の形状によって当該走行停止判定領域の下面の少なくとも一部の高さ位置を切換えるように構成されていることが、好ましい。このことは、前記走行停止判定領域に前記下部走行体が存在することに起因して誤った走行停止動作が行われるのを防ぐことを可能にする。
【0016】
例えば、前記下部走行体が上下方向に変位可能な可動部位を有する場合、前記走行判定領域設定部は、当該可動部位の変位にかかわらず当該可動部位が前記走行停止判定領域内に入らないように当該走行停止判定領域の下面の少なくとも一部の高さ位置を切換えるものであることが、好ましい。
【0017】
前記走行判定領域設定部は、前記走行停止判定領域に加え、当該走行停止判定領域の外側に走行減速判定領域を設定するものであり、前記走行動作制限判定部は、前記障害物位置演算部により演算された前記障害物位置が前記走行停止判定領域内の位置であるか否かの判定に加えて当該障害物位置が前記走行減速判定領域内の位置であるかの判定も行うものであり、前記指令出力部は、前記障害物位置が前記走行減速判定領域内の位置であると前記走行動作制限判定部が判定した場合に前記障害物位置に近づく方向への前記下部走行体の走行速度を強制的に低減するための走行減速指令を出力するように構成されていることが、好ましい。前記走行減速判定領域の設定は、前記障害物位置が前記走行停止判定領域内に入る前に前記走行減速判定領域内に入った時点で走行速度の減速を行うことを可能にし、これにより、走行動作の急停止による乗り心地の悪化を防ぐとともに、前記障害物が前記作業機械に接触する前に前記下部走行体の走行動作をより確実に停止させることを可能にする。
【0018】
この場合、前記走行動作制限判定部は、前記上部旋回体の旋回角度に対応した前記走行停止判定領域の外郭の形状の変更に対応して前記走行減速判定領域の外郭の形状を変更するように構成されていることが、より好ましい。このことは、前記走行停止判定領域の形状の変化にかかわらず、当該走行停止判定領域に障害物が進入する前の適正なタイミングで走行動作の減速を開始させるための適正な走行減速判定領域を前記走行停止判定領域の外側に設定することを可能にする。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、下部走行体及び上部旋回体を備えた旋回式作業機械に設けられる安全装置であって、作業効率の著しい低下を招くことなく下部走行体の走行について的確な安全制御を行うことが可能な装置が、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る安全装置が搭載される旋回式作業機械の例である油圧ショベルを示す側面図である。
図2】前記油圧ショベル及びこれに配置される障害物センサ等の配置を示す平面図である。
図3】前記安全装置を示すブロック図である。
図4】前記油圧ショベルの上部旋回体が正体姿勢にあるときに設定される走行停止判定領域及び走行減速判定領域を示す平面図である。
図5】前記上部旋回体が前記正体姿勢から所定の旋回角度だけ旋回したときに設定される走行停止判定領域及び走行減速判定領域を示す平面図である。
図6】前記上部旋回体が前記正体姿勢から90°旋回した横向き姿勢にあるときに設定される走行停止判定領域及び走行減速判定領域を示す平面図である。
図7】前記油圧ショベルの下部走行体の可動部位であるドーザの上下方向の変位とこれに伴う走行停止領域及び走行減速判定領域の下面の高さ位置の変更を示す側面図である。
図8】前記上部旋回体の周囲に設定される旋回停止判定領域及び旋回減速判定領域を示す平面図である。
図9】比較例に係る走行停止判定領域及び走行減速判定領域を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1及び図2は、本発明の実施の形態に係る安全装置が搭載される作業機械の例である油圧ショベルを示す。なお、本発明に係る安全装置が適用される作業機械は当該油圧ショベルに限らない。本発明は、下部走行体及びこれに旋回可能に搭載される上部旋回体を備える作業機械であって、その周辺の障害物の存在に基づく安全動作の要請が存在する作業機械に広く適用されることが可能である。
【0023】
前記油圧ショベルは、地面Gの上を走行可能な下部走行体10と、前記下部走行体10に対して旋回動作が可能となるように当該下部走行体10に搭載される上部旋回体12と、図3に示すような走行駆動装置30、旋回駆動装置32、及び警報装置40を備える。
【0024】
前記下部走行体10は、左右一対のクローラ(走行用履帯)11L,11Rを含む走行装置を備える。前記走行装置は地面Gに沿って下部走行体10及びその上の前記上部旋回体12(この実施の形態では油圧ショベル全体)を移動させるように、作動する。
【0025】
前記下部走行体10は、図1及び図7に示すようなドーザ13を含む。当該ドーザ13は、必要に応じて下部走行体10の本体に後付けされる。当該ドーザ13は、水平軸回りに回動することにより図7に二点鎖線で示されるように上下方向に変位することが可能な可動部位である。
【0026】
前記上部旋回体12は、旋回フレーム16と、その上に搭載される複数の要素と、を有する。当該複数の要素は、作業装置14、エンジンを収容するエンジンルーム17、及び運転室であるキャブ18を含む。
【0027】
前記作業装置14は、掘削作業その他の必要な作業のための動作を行うことが可能であり、ブーム20、アーム22及びバケット24と、これらを動かす複数の油圧シリンダであるブームシリンダ26、アームシリンダ27及びバケットシリンダ28と、を含む。前記ブーム20は、前記旋回フレーム16の前端に起伏可能すなわち水平軸回りに回動可能に支持される基端部と、その反対側の先端部と、を有する。前記アーム22は、前記ブーム20の先端部に水平軸回りに回動可能に取付けられる基端部と、その反対側の先端部と、を有する。前記バケット24は、前記アーム22の先端部に回動可能に取付けられる。
【0028】
前記走行駆動装置30は、前記下部走行体10が前方及び後方のうちの任意の方向に走行することができるように前記クローラ11L,11Rをそれぞれ前進方向及び後進方向の双方向に駆動する。当該走行駆動装置30は、例えば、油圧ポンプ、左右走行モータ、左右走行コントロールバルブ、及び走行用パイロット回路を含む油圧回路からなる。前記油圧ポンプはエンジンにより駆動されて作動油を吐出する。前記左右走行モータは、それぞれ油圧モータからなり、前記油圧ポンプから吐出される作動油の供給を受けて正逆両方向に回転することにより前記左右のクローラ11L,11Rをそれぞれ個別に前進方向及び後進方向の双方に駆動する。前記左右走行コントロールバルブは前記油圧ポンプから前記左右走行モータへの作動油の供給方向及び流量を制御するように開弁作動する。
【0029】
前記走行用パイロット回路は、前記キャブ18内に配置される左右走行リモコン弁と、当該左右走行リモコン弁と前記左右走行コントロールバルブとを接続する左右走行パイロットラインと、当該左右走行パイロットラインのそれぞれの途中に設けられる走行制限電磁弁と、図3に示すような左右走行パイロット圧センサ36を含む。前記左右走行リモコン弁は、下部走行体10の走行を指令するためのオペレータによる走行指令操作を受け、当該走行指令操作に対応する走行パイロット圧が前記左右走行パイロットラインを通じて前記左右走行コントロールバルブに供給されることを許容するように開弁する。前記走行制限電磁弁は、走行動作制限信号の入力を受けることにより、前記左右走行コントロールバルブに入力される前記走行パイロット圧を減圧するように作動する。前記左右走行パイロット圧センサ36は、それぞれ、前記左右走行リモコン弁から前記左右走行コントロールバルブに供給される前記走行パイロット圧を検出し、当該走行パイロット圧に対応する電気信号を生成して出力する。
【0030】
前記旋回駆動装置32は、前記下部走行体10に対して前記上部旋回体12を左旋回方向及び右旋回方向の双方向に駆動する。当該旋回駆動装置32は、例えば、前記油圧ポンプ、図2に示される旋回モータ34、旋回コントロールバルブ、及び旋回用パイロット回路を含む油圧回路からなる。前記旋回モータ34は、前記油圧ポンプから吐出される作動油の供給を受けて正逆両方向に回転することにより、前記上部旋回体12を左旋回方向及び右旋回方向の双方に旋回させる。前記旋回コントロールバルブは前記油圧ポンプから前記旋回モータ34への作動油の供給方向及び流量を制御するように開弁作動する。
【0031】
前記旋回用パイロット回路は、前記キャブ18内に配置される旋回リモコン弁と、当該旋回リモコン弁と前記旋回コントロールバルブとを接続する旋回パイロットラインと、当該旋回パイロットラインの途中に設けられる旋回制御電磁弁と、図3に示される旋回パイロット圧センサ38と、を含む。前記旋回リモコン弁は、前記上部旋回体12の旋回を指令するためのオペレータによる旋回指令操作を受け、当該旋回指令操作に対応する旋回パイロット圧が前記旋回パイロットラインを通じて前記旋回コントロールバルブに供給されることを許容するように開弁する。前記旋回制御電磁弁は、旋回動作制限信号を受けることにより、前記旋回コントロールバルブに入力される前記旋回パイロット圧を減圧するように作動する。前記旋回パイロット圧センサ38は、前記旋回リモコン弁から前記旋回コントロールバルブに供給される前記旋回パイロット圧を検出し、当該旋回パイロット圧に対応する電気信号を生成して出力する。
【0032】
前記警報装置40は、図2に示すように前記キャブ18内に設けられ、警報指令信号の入力を受けることにより必要な警報動作(例えば警報ランプの点灯や警報音の生成)を行う。
【0033】
前記油圧ショベルは、さらに、図3に示すような安全装置を備える。当該安全装置は、例えば図2に示すような前記油圧ショベルの周囲の障害物60の存在を検知するとともに、その検知結果に基づいて前記障害物60と前記下部走行体10及び前記上部旋回体12との接触を回避するための安全動作を前記油圧ショベルに行わせる。具体的に、この実施の形態に係る安全装置は、図2及び図3に示されるような複数の(図2に示す例では4つの)障害物センサ61,62,63,64と、旋回角度センサ66と、コントローラ70と、を備える。
【0034】
前記複数の障害物センサ61~64は、前記上部旋回体12の外周において設定された複数の設定部位のそれぞれに配置され、前記障害物60の存在を検知するとともに、前記障害物センサ61~64が配置されている前記設定部位に対する前記障害物60の相対位置に対応する電気信号である障害物検知信号を生成して前記コントローラ70に入力する。前記複数の障害物センサ61~64のそれぞれは、例えば赤外線カメラや超音波センサにより構成される。
【0035】
図2は、前記複数の障害物センサ61~64の配置の一例を示している。図2において、障害物センサ61,62は、上部旋回体12の後端面上の左右の位置に配置され、主として当該上部旋回体12の後方に位置する障害物、例えば図2に示すような障害物60、の検知を行う。障害物センサ63は、キャブ18の前部左側面上に配置され、主として上部旋回体12の左方に位置する障害物の検知を行う。障害物センサ64は、前記上部旋回体12の右前部側面に配置され、主として上部旋回体12の右方に位置する障害物の検知を行う。
【0036】
前記旋回角度センサ66は、前記下部走行体10に対する前記上部旋回体12の旋回角度θを検出し、当該旋回角度θに対応する電気信号である旋回検出信号を生成して前記コントローラ70に入力する。
【0037】
前記コントローラ70は、前記走行パイロット圧センサ36、前記旋回パイロット圧センサ38、前記障害物センサ61~64及び前記旋回角センサ66からそれぞれ入力される検出信号を取込み、その検出信号に基づいて、前記油圧ショベルに安全動作を行わせるための安全動作指令を出力する。当該コントローラ70は、例えばコンピュータからなり、前記安全制御を行うための機能として、図3に示すような障害物位置演算部71と、走行判定領域設定部73と、走行動作制限判定部74と、旋回判定領域設定部75と、旋回動作制限判定部76と、指令出力部78と、を有する。
【0038】
前記障害物位置演算部71は、前記障害物センサ61~64の少なくとも一つにより検出される障害物の障害物位置を演算する。当該障害物位置は、前記上部旋回体12に対する前記障害物の相対位置、すなわち、前記上部旋回体12を基準とする座標系である上部側座標系において特定される前記障害物の位置、である。
【0039】
前記走行判定領域設定部73は、前記キャブ18内においてオペレータにより前記走行駆動装置30に前記走行指令操作が与えられたとき、具体的には前記走行パイロット圧センサ36により検出される走行パイロット圧が一定以上となったとき、に前記下部走行体10及び前記上部旋回体12の周囲に図4図6に示すような走行停止判定領域AT1及び走行減速判定領域AT2を設定する。
【0040】
前記走行停止判定領域AT1は、当該走行停止判定領域AT1内に前記障害物が進入したときに前記下部走行体10の走行動作を強制停止させるために設定される領域である。当該走行停止判定領域AT1は、前記走行動作の強制停止により前記下部走行体10または前記上部旋回体12と前記障害物との接触を防ぐことを可能にする大きさ及び形状に設定されている。
【0041】
前記走行減速判定領域AT2は、前記走行停止判定領域AT1の外側に設定される領域であって、当該走行減速判定領域AT2内に前記障害物が進入したときに前記下部走行体10の走行速度を強制的に低減させるために設定される領域である。当該走行減速判定領域AT2は、前記障害物が前記走行停止判定領域AT1内に入るまでに前記走行速度の十分な低減を可能にする大きさ及び形状に設定されている。ここでいう走行速度の十分な低減とは、前記走行停止判定領域AT1に前記障害物が進入したときの前記走行動作の過度の急停止を防ぎ、かつ、油圧ショベルの大きな慣性にかかわらず当該油圧ショベルに前記障害物が接触する前に確実に前記走行動作を停止させることを可能にするような低減をいう。
【0042】
前記走行停止判定領域AT1及び前記走行減速判定領域AT2の具体的な形状については後に詳述する。
【0043】
前記走行動作制限判定部74は、前記障害物位置演算部71により演算された前記障害物位置が前記走行停止判定領域AT1内の位置であるか否か、つまり当該障害物位置が当該走行停止判定領域AT1に含まれるか否か、を判定し、これにより、当該走行停止判定領域AT1内に前記障害物が存在するか否かを判定する。つまり、前記障害物が前記下部走行体10及び前記上部旋回体12に対して当該下部走行体10の走行動作の即時停止を要する程度まで接近しているか否かを判定する。
【0044】
また、前記走行動作制限判定部74は、前記障害物位置が前記走行減速判定領域AT2内の位置であるか否か、つまり当該障害物位置が当該走行減速判定領域AT1に含まれるか否か、の判定も行い、これにより、当該走行減速判定領域AT2内に前記障害物が存在するか否かを判定する。つまり、前記障害物が前記下部走行体10及び前記上部旋回体12に対して当該下部走行体10の走行動作の減速を要する程度まで接近しているか否かを判定する。
【0045】
前記旋回判定領域設定部75は、前記キャブ18内においてオペレータにより前記旋回駆動装置32に前記旋回指令操作が与えられたとき、具体的には前記旋回パイロット圧センサ38により検出される旋回パイロット圧が一定以上となったとき、に前記上部旋回体12の周囲に図8に示すような旋回停止判定領域AS1及び旋回減速判定領域AS2を設定する。
【0046】
前記旋回停止判定領域AS1は、当該旋回停止判定領域Aらと1内に前記障害物が進入したときに前記上部旋回体12の旋回動作を強制停止させるために設定される領域である。当該旋回停止判定領域AS1は、前記旋回動作の強制停止により前記上部旋回体12と前記障害物との接触を防ぐことを可能にする大きさ及び形状に設定されている。
【0047】
前記旋回減速判定領域AS2は、前記旋回停止判定領域AS1の外側に設定される領域であって、当該旋回減速判定領域AS2内に前記障害物が進入したときに前記上部旋回体12の旋回速度を強制的に低減させるために設定される領域である。当該旋回減速判定領域AS2は、前記障害物が前記減速停止判定領域AS1内に入るまでに前記旋回速度の十分な低減を可能にする大きさ及び形状に設定されている。ここでいう旋回速度の十分な低減とは、前記旋回停止判定領域AS1に前記障害物が進入したときの前記旋回動作の過度の急停止を防ぎ、かつ、上部旋回体12の大きな慣性モーメントにかかわらず当該油圧ショベルに前記障害物が接触する前に確実に前記旋回動作を停止させることを可能にするような低減をいう。
【0048】
前記旋回動作制限判定部76は、前記障害物位置演算部71により演算された前記障害物位置が前記旋回停止判定領域AS1内の位置であるか否か、つまり当該障害物位置が当該旋回停止判定領域AS1に含まれるか否か、を判定し、これにより、当該旋回停止判定領域AS1内に前記障害物が存在するか否かを判定する。つまり、前記障害物が前記上部旋回体12に対して当該上部旋回体12の旋回動作の即時停止を要する程度まで接近しているか否かを判定する。
【0049】
また、前記旋回動作制限判定部76は、前記障害物位置が前記旋回減速判定領域AS2内の位置であるか否か、つまり当該障害物位置が当該旋回減速判定領域AS2に含まれるか否か、の判定も行い、これにより、当該走行減速判定領域AT2内に前記障害物が存在するか否かを判定する。つまり、前記障害物が前記上部旋回体12に対して当該上部旋回体12の旋回動作の減速を要する程度まで接近しているか否かを判定する。
【0050】
前記指令出力部78は、前記走行動作及び旋回動作制限判定部74,76の判定結果に基づいて安全制御のための指令を生成し、これを出力する。具体的には次のような動作を行う。
(A)前記障害物位置が前記走行減速判定領域AT2内の位置であると前記走行動作制限判定部74が判定した場合:指令出力部78は、走行駆動装置30の適当な要素(当該走行駆動装置30が前記のような油圧回路である場合には走行制御電磁弁)に走行動作制限信号である走行減速指令信号を入力することにより、オペレータによる走行指令操作にかかわらず、障害物に近づく走行方向についての下部走行体10の走行速度を強制的に低減する。
(B)前記障害物位置が前記走行停止判定領域AT1内の位置であると前記走行動作制限判定部74が判定した場合:指令出力部78は、走行駆動装置30の前記適当な要素に走行動作制限信号である走行動作停止指令信号を入力することにより、オペレータによる走行指令操作にかかわらず、障害物に近づく走行方向についての下部走行体10の走行動作を強制的に停止させる。
(C)前記障害物位置が前記旋回減速判定領域AS2内の位置であると前記旋回動作制限判定部76が判定した場合:指令出力部78は、旋回駆動装置32の適当な要素(当該旋回駆動装置30が前記のような油圧回路である場合には旋回制御電磁弁)に旋回動作制限信号である旋回減速指令信号を入力することにより、オペレータによる旋回指令操作にかかわらず、障害物に近づく旋回方向についての上部旋回体12の旋回速度を強制的に低減する。
(D)前記障害物位置が前記旋回停止判定領域AS1内の位置であると前記旋回動作制限判定部76が判定した場合:指令出力部78は、旋回駆動装置32の前記適当な要素に旋回動作制限信号である旋回動作停止指令信号を入力することにより、オペレータによる旋回指令操作にかかわらず、障害物に近づく旋回方向についての上部旋回体12の旋回動作を強制的に停止させる。
(E)(A)~(D)のいずれの場合においても前記指令出力部78は警報装置40に警報指令信号を入力して当該警報装置40に適当な警報動作を行わせる。
【0051】
次に、前記走行判定領域設定部73により設定される前記走行停止判定領域AT1及び前記走行減速判定領域AT2の平面形状の特徴を、図4図6を参照しながら説明する。図4は、前記上部旋回体12が前記下部走行体10の前進方向(図4では左方向)を向く姿勢、すなわち、当該上部旋回体12の前後方向と当該下部走行体10の前後方向とが合致する正体姿勢にある状態を示し、図6は当該上部旋回体12が当該正体姿勢から90°旋回して側方(左側)を向く横向き姿勢にある状態を示し、図5は当該上部旋回体12が当該正体姿勢から左側に所定の旋回角度θ(0°<θ<90°)だけ旋回して当該正体姿勢と当該横向き姿勢との間の斜め向き姿勢にある状態を示している。
【0052】
(1)正体姿勢での走行判定領域の平面形状(図4
前記上部旋回体12が前記正体姿勢にあるとき、前記走行判定領域設定部73は前記走行停止判定領域AT1及び走行減速判定領域AT2の形状を図4に示すような形状に設定する。同図に示される走行停止判定領域AT1は、左側端縁EL1と、右側端縁ER1と、後側端縁EB1で囲まれた領域である。
【0053】
前記左側端縁EL1は、前記下部走行体10の走行方向(図4では左右方向)に延びる前記左クローラ11Lの側端の外側において当該走行方向と平行な方向に延びる直線により構成される。前記右側端縁ER1は、前記走行方向に延びる前記右クローラ11Rの側端の外側において当該走行方向と平行な方向に延びる直線により構成される。従って、前記左クローラ11Lと前記左側端縁EL1との間の領域は、前記走行方向と直交する幅方向(図4では上下方向)について前記左クローラ11Lの外側に設定された左側幅方向領域に相当し、前記右クローラ11Rと前記右側端縁ER1との間の領域は前記幅方向について前記右クローラ11Rの外側に設定された右側幅方向領域に相当する。
【0054】
前記後側端縁EB1は、前記上部旋回体12の後端面12aのさらに後方に位置し、当該後端面12aに沿う形状、図4に示される例では後ろ向きに凸の略円弧形状、をなす。当該後側端縁EB1と前記上部旋回体12の後端面12aとの間の領域は前記走行方向について前記後端面12aの外側(後側)に設定された走行方向領域に相当する。
【0055】
図4に示される前記左側幅方向領域及び前記右側幅方向領域のそれぞれの幅方向の寸法はいずれも全域にわたって一定である。つまりこれらの寸法はそれぞれの最小寸法LL1,LR1に等しい。同様に、前記走行方向領域(後側領域)の走行方向の寸法も全域にわたり略一定である。しかも、前記幅方向領域の幅方向の最小寸法LL1,LR1は前記走行方向領域の走行方向の最小寸法LB1よりも小さい。
【0056】
前記旋回減速判定領域AT2は前記走行停止判定領域AT1のさらに外側に設定され、しかも、当該走行停止判定領域AT1の外郭の形状に対応した形状の外郭を有する。具体的に、前記上部旋回体12が前記正体姿勢にある状態において、前記旋回減速判定領域AT2は、前記走行停止判定領域AT1の前記左側端縁EL1のさらに外側(左側)でこれと平行に延びる左側端縁EL2と、前記走行停止判定領域AT1の前記右側端縁ER1のさらに外側(右側)でこれと平行に延びる右側端縁ER2と、前記走行停止判定領域AT1の前記後側端縁EB1のさらに外側(後側)で当該後側端縁EB1に沿って略円弧状に延びる後側端縁EB2と、を有する。従って、前記旋回減速判定領域AT2は、前記旋回停止判定領域AT1の端縁EL1,ER1,EB1とその外側に設定された前記端縁EL2,ER2,EB2との間に挟まれた領域である。
【0057】
前記走行停止判定領域AT1と同様、前記走行減速判定領域AT2の左側幅方向領域及び前記右側幅方向領域のそれぞれの幅方向の寸法はいずれも全域にわたって一定であり(つまりそれぞれの最小寸法LL2,LR2であり)、同様に、前記走行方向領域(後側領域)の走行方向の寸法も全域にわたり略一定である。そして、前記幅方向領域の幅方向最小寸法LL2,LR2は前記走行方向領域の走行方向最小寸法LB2よりも小さい。
【0058】
(2)横向き姿勢での走行判定領域の平面形状(図6
前記上部旋回体12が前記横向き姿勢にあるとき、具体的にこの実施の形態では当該上部旋回体12が前記正体姿勢から左に90°旋回して当該上部旋回体12の後部が右側クローラ11Rの側端から幅方向外側(右側)に大きくはみ出した姿勢にあるとき、前記走行判定領域設定部73は前記走行停止判定領域AT1及び走行減速判定領域AT2の形状を図6に示すような形状に設定する。
【0059】
前記走行停止判定領域AT1は、左側端縁EL1と、右側端縁ER1と、前側端縁EF1と、後側端縁EB1と、を有する。
【0060】
前記左側端縁EL1は、前記上部旋回体12が前記正体姿勢にあるときと同じく前記左クローラ11Lの側端の外側において当該走行方向と平行な方向に延びる直線により構成される。これに対して前記右側端縁ER1は、前記のように前記右クローラ11Rから右側にはみ出した上部旋回体12の後部の後端面12aのさらに幅方向外側(右側)において前記走行方向と平行な方向に延びる直線により構成されている。すなわち、当該右側端縁ER1は、上部旋回体12のはみ出し部分の外端(図6では後端面12a)の外側で走行方向に延びる「第1幅方向端縁」に相当し、前記左側端縁EL1は、その反対側(左側)で前記左クローラ11Lの側端に沿って延びる「第2幅方向端縁」に相当する。
【0061】
前記前側及び後側端縁EF1,EB1は、それぞれ前記左右クローラ11L,11Rの走行方向両外側(前側及び後側)にそれぞれ位置し、前記幅方向と平行な方向に延びる。つまり、前記上部旋回体12が前記横向き姿勢にあるときは、前記走行方向の両側、すなわち前側及び後側の双方、に走行方向領域が設定される。具体的には、前記左右クローラ11L,11Rの前側(走行方向外側)に前記前側端縁EF1を外郭とする前側領域が設定されるとともに、前記左右クローラ11L,11Rの後側(走行方向外側)に前記後側端縁EB1を外郭とする後側領域が設定される。
【0062】
この横向き姿勢において、前記左側幅方向領域及び前記右側幅方向領域のそれぞれの幅方向の最小寸法LL1,LR1はいずれも前記走行方向領域(前側及び後側領域)の走行方向の最小寸法LF1,LB1よりも小さい。この実施の形態において、前記左側幅方向領域の最小寸法LL1は前記左クローラ11Lの側端から前記左側端縁EL1までの距離に相当し、前記右側幅方向領域の最小寸法LR1は前記上部旋回体12の外端(後端面12aのうち最も右端に位置する部分)から前記右側端縁ER1までの距離に相当する。
【0063】
なお、この実施の形態では、前記前側及び後側端縁EF1,EB1と前記右側端縁ER1との境界部分である角部が斜め向きの直線ないしは外向きに凸の曲線によって円滑に繋がれている。
【0064】
前記旋回減速判定領域AT2は、前記上部旋回体12が前記正体姿勢にあるときと同様、前記走行停止判定領域AT1のさらに外側に設定され、かつ、当該走行停止判定領域AT1の外郭の形状に対応した形状の外郭を有する。具体的に、当該旋回減速判定領域AT2は、前記走行停止判定領域AT1の前記前側端縁EF1のさらに前側の位置で前記幅方向と平行な方向に延びる直線状の前側端縁EF2と、前記走行停止判定領域AT1の前記後側端縁EB1のさらに後側の位置で前記幅方向と平行な方向に延びる後側端縁EB2と、前記走行停止判定領域AT1の右側端縁ER1のさらに右側の位置で前記走行方向と平行な方向に延びる右側端縁ER2と、を有する。一方、前記走行停止判定領域AT1の前記左側端縁EL1の外側(左側)には走行減速判定領域AT2の端縁が設定されていない。つまり、この実施の形態では、上部旋回体12が横向き姿勢にあるときに当該上部旋回体12が存在しない側(左側)での走行減速判定領域AT2の設定が省略されている。
【0065】
(3)斜め向き姿勢での判定領域の平面形状(図5
前記上部旋回体12が図5に示すような斜め向き姿勢にあるとき、前記走行停止判定領域AT1及び前記走行減速判定領域AT2は、前記上部旋回体12が前記横向き姿勢にあるときと同じ原理で設定される。つまり、当該走行停止判定領域AT1は、幅方向と平行な方向に延びる直線状の前側及び後側端縁EF1,EB1と、走行方向と平行な方向に延びる直線状の左側及び右側端縁EL1,ER1と、を有し、当該走行減速判定領域AT2は、前記前側端縁EF1、前記後側端縁EB1及び前記右側端縁ER1のそれぞれ外側に位置する前側端縁EF2、後側端縁EB2及び右側端縁ER2を有する。ただし、この斜め向き姿勢では、前記上部旋回体12の前端(図5ではキャブ18の左前角部)が左クローラ11Lの側端よりも僅かに幅方向外側(左側)にはみ出していることから、前記左側端縁EL1は当該上部旋回体12の前端よりも僅かに幅方向外側(左側)に位置するように設定されている。
【0066】
以上説明した各姿勢において設定される前記左側端縁EL1及び右側端縁ER1を構成する線は、必ずしも前記のような直線に限定されない。当該線は、下部走行体10の走行に伴う障害物と下部走行体10及び上部旋回体12との接触を防ぐことが可能となるように前記走行方向と平行な方向に延びる線であればよく、比較的曲率の小さい曲線であってもよい。例えば、図6に示される横向き姿勢または図5に示される斜め向き姿勢において前記右側端縁ER1を構成する線は、前記上部旋回体12の後端面12aに沿って、あるいはこれよりも小さい曲率で、外向きに凸となるように湾曲する曲線であってもよい。前記左側端縁EL1及び右側端縁ER1は、あるいは、直線と曲線との組み合わせにより構成されてもよい。
【0067】
以上説明したように、この実施の形態に係る走行判定領域設定部73は、上部旋回体12がいずれの姿勢にあるときも(つまり上部旋回体12の旋回角度θにかかわらず)前記走行停止判定領域AT1のうちの走行方向領域(図4では上部旋回体12の後方の領域、図5及び図6では左右クローラ11L,11Rの前後の領域)、すなわち、作業機械の走行軌跡上に位置する領域、に当該走行方向について大きな寸法を与えることにより、高い安全性を確保する一方、前記走行停止判定領域のうちの幅方向領域(図4では左右クローラ11L,11Rの左右両外側の領域、図5及び図6では左クローラ11Lの左側の領域と上部旋回体12の後部の右側の領域)、すなわち、前記走行軌跡から前記幅方向に外れた領域、の当該幅方向の寸法は小さく抑えることにより、安全な状態にあるにもかかわらず下部走行体の走行動作が無駄に強制停止されてしまうことによる作業効率の低下を抑えることができる。しかも、当該走行判定領域設定部73は、前記旋回角度θに基づき、前記下部走行体10に対する前記上部旋回体12の姿勢に応じて前記走行停止判定領域AT1の走行方向領域及び前記幅方向領域を変化させることにより、前記旋回角度θにかかわらず適正な走行停止制御を実行することが可能である。
【0068】
前記旋回角度θに対応して走行判定領域を変化させることによる効果を、図9に示す比較例との対比によってさらに説明する。当該比較例は、上部旋回体12の旋回角度θにかかわらず常に一定の走行停止判定領域AT3及び走行減速判定領域AT4を設定するものである。
【0069】
この比較例において、上部旋回体12の旋回角度θにかかわらず下部走行体10の走行動作に伴う障害物と下部走行体10及び上部旋回体12との接触を防ぐためには、当該走行停止判定領域AT3及び当該走行減速判定領域AT4として図4図6のそれぞれに示される走行停止判定領域AT1及び当該走行減速判定領域AT2よりも著しく大きい領域を設定しなければならない。例えば、各領域AT3,AT4について図9に示される左側領域幅方向最小寸法LL3,LL4、右側領域幅方向最小寸法LR3,LR4、及び後側領域走行方向最小寸法LB3,LB4は、それぞれ、図4において対応する最小寸法LL1,LL2,LR1,LR2及びLB1,LB2よりもかなり大きな寸法としなければならない。
【0070】
このことは、障害物が安全な位置にあるにもかかわらず無駄な走行動作の強制停止が行われる頻度を高くし、これにより作業効率の著しい低下を招く。例えば左右クローラ11L,11Rが実線で示されるように図9の左右方向を向いている状態(つまり下部走行体10に対して上部旋回体12が正体姿勢にある状態)で障害物が図9に示される点P1に位置する場合、つまり、左クローラ11Lからその外側に十分離れている場合、走行停止制御は本来不要であるが、前記点P1は図9に示される走行停止判定領域AT3内の位置であるため、強制停止が実行されてしまう。同様に、左右クローラ11L,11Rが二点鎖線で示されるように図9の上下方向を向いている状態(つまり下部走行体10に対して上部旋回体12が横向き姿勢にある状態)で障害物が図9に示される点P2に位置する場合、つまり、上部旋回体12の後端面12aから右方に十分離れている場合、も本来は走行停止制御が不要であるが、前記点P2は走行停止判定領域AT3内に位置するのでやはり強制停止が実行されてしまう。
【0071】
これに対して前記実施の形態に係る走行停止領域設定部73は、図4図6に示される上部旋回体12の旋回角度θに応じてこれに適した判定領域AT1,AT2を設定することにより、無駄な強制停止の実行の頻度を大幅に削減することが可能である。
【0072】
前記実施の形態に係る走行判定領域設定部73は、上部旋回体12が図6に示すような横向き姿勢にあるとき(正確には、正体姿勢から少なくとも図5に示されるような斜め向き姿勢に対応する旋回角度θよりも大きな旋回角度で旋回した状態)の走行停止判定領域AT1について、上部旋回体12の後部がはみ出す右側では当該上部旋回体12の外端よりも外側の位置で走行方向に延びる直線からなる右側端縁(第1幅方向端縁)ER1と、その反対側で左クローラ11Lの側端に沿って前記走行方向と平行に延びる直線からなる左側端縁(第2幅方向端縁)EL1と、を設定することにより、当該走行停止判定領域AT1の幅方向の寸法を最小限に抑えながら、前記下部走行体10及び前記上部旋回体12の後部のいずれについても、これらが前記下部走行体10の走行に伴って障害物に接触することを確実に防ぐことができる。
【0073】
また、前記走行判定領域設定部73は、前記上部旋回体12が図4に示されるような前記正体姿勢にあるときは前記上部旋回体12の後方にのみ前記走行方向領域を設定し、前記上部旋回体12が図6に示すような横向き姿勢にあるとき(この実施の形態では前記正体姿勢から少なくとも図5に示されるような斜め向き姿勢に対応する旋回角度θよりも大きな旋回角度で旋回した状態)は前記走行方向の両側、つまり前側及び後側の双方に、それぞれ前記走行方向領域を設定することにより、高い安全性を確保しながら前記走行停止判定領域AT1の走行方向の寸法も削減することが可能である。具体的に、前記正体姿勢では、上部旋回体12の前方の視界が良好であるため、前側の走行方向領域を省略しても高い安全性を確保することが可能である一方、前記上部旋回体12が少なくとも前記横向き姿勢にあるとき、つまり、走行方向の両側である上部旋回体12の左右両側の視界が良好でないとき、は当該走行方向の両側に前記走行方向領域を設定することにより、高い安全性を確保することが可能である。
【0074】
図4図6のいずれの姿勢においても、前記走行停止判定領域AT1の幅方向領域の前記幅方向の寸法は、前記左右一対のクローラ11L,11Rの一方のみが駆動され、あるいは当該左右一対のクローラ11L,11Rが互いに逆向きに駆動されることにより前記下部走行体10がその場で旋回動作することによる下部走行体10及び上部旋回体12と障害物との接触を阻止するのに十分な寸法、つまり、当該接触が発生する前に前記クローラ11L,11Rの走行動作を停止させる寸法、に設定されていることが、好ましい。また、このような下部走行体10の旋回動作のためのクローラ11L,11Rの走行速度は、通常走行での走行速度に比べて一般的に低いので、前記幅方向領域の幅方向の寸法を前記走行方向領域の走行方向の寸法より小さくしても、下部走行体10及び上部旋回体12と障害物との接触を確実に防ぐことが可能である。
【0075】
次に、前記走行判定領域設定部73により設定される前記走行停止判定領域AT1及び前記走行減速判定領域AT2の高さ方向の範囲について図1及び図7を参照しながら説明する。
【0076】
本発明において、走行停止判定領域や走行減速判定領域の高さ方向の範囲は特に限定されないが、前記実施の形態に係る走行判定領域設定部73は、原則として、前記走行停止判定領域AT1及び前記走行減速判定領域AT2の下面の高さを図1に示すような高さHo、つまり、上部旋回体12の下面(例えば旋回フレーム16の下面)と略同等の高さ、に設定する。このような下面高さの設定は下部走行体10の一部や(走行に支障のない程度の)地面G上の石等が前記領域AT1,AT2に進入することを防ぎ、これにより、当該進入に基づいて下部走行体10の走行動作が誤って強制停止されることを防ぐ。
【0077】
しかし、前記実施の形態に係る油圧ショベルでは、前記下部走行体10の本体に図1及び図7に示すようなドーザ13が取付けられ、しかも、当該ドーザ13は図7に二点鎖線で示すような回動によって前記上部旋回体12の下面よりも高い位置、つまり通常設定される判定領域AT1,AT2の下面よりも高い位置、まで変位する可能性がある。
【0078】
前記走行判定領域設定部73は、このように上下方向に変位可能な可動部位である前記ドーザ13の上端が前記上部旋回体12の下面よりも高い位置まで変位しても当該上端が前記判定領域AT1,AT2に入らないように、前記ドーザ13の回動角度によって前記判定領域AT1,AT2の下面の高さを変化させる機能を有する。例えば、ドーザ13が図7の上側の二点鎖線で示されるような上限位置まで回動しているとき、前記走行判定領域設定部73は前記判定領域AT1,AT2の下面の高さを前記上限位置における前記ドーザ13の上端の高さよりも大きい高さH1に設定する。
【0079】
前記下面の高さ位置の変更は、当該下面全体について行われてもよいし、当該下面の少なくとも一部についてのみ行われてもよい。例えば、前記上限位置にある前記ドーザ13が前記判定領域AT1,AT2に含まれないようにするには、当該判定領域AT1,AT2のうち前記ドーザ13に対応する領域を含む一部の領域のみについて下面の高さ位置が変更されればよく、その外側の領域の下面の高さ位置は必ずしも変更されなくてもよい。換言すれば、前記ドーザ13に対応する領域を含む一部の領域についてのみその下面の高さ位置を変更して他の領域の下面の高さ位置は維持することにより、ドーザ13との干渉を避けながら判定領域AT1,AT2を大きく確保することが可能である。
【0080】
以上説明した判定領域AT1,AT2の下面の高さの変更は、ドーザ13の回動に限らず、下部走行体10の形状が変化する場合に有効である。例えば、前記走行判定領域設定部73は、下部走行体10の本体に前記ドーザ13またはそれ以外の付属部品が取付けられる場合と取付けられない場合とで前記判定領域AT1,AT2の下面の高さを切換えるものであってもよい。あるいは、前記判定領域AT1,AT2の下面の高さが走行方向や幅方向、あるいは旋回方向において変化するような形状の当該判定領域AT1,AT2が設定されてもよい。
【0081】
さらに、前記実施の形態に係る安全装置の前記旋回判定領域設定部75は、オペレータによって前記旋回駆動装置32に旋回指令操作が与えられたとき、具体的には旋回パイロット圧センサ38により検出される旋回パイロット圧が一定以上の大きさになったとき、前記走行判定領域AT1,AT2に代え、あるいはこれに加え、図8に示すような旋回停止判定領域AS1(この実施の形態では旋回停止判定領域AS1及びその外側に位置する旋回減速判定領域AS2)を設定することにより、前記走行動作に代えて、あるいは当該走行動作に加えて上部旋回体12の旋回動作が行われることによる当該上部旋回体12と障害物との接触も有効に防ぐことを可能にする。
【0082】
具体的に、図8に示される旋回停止判定領域AS1及び旋回減速判定領域AS2は、上部旋回体12の後端面12aに沿う後側端縁と、上部旋回体12の左右両側縁に沿ってこれと平行な方向(つまり上部旋回体12の前後方向)に延びる左右両側端縁と、を有し、上部旋回体12の旋回動作に伴って同じく旋回方向に移動する。前記安全装置の指令出力部78は、前記障害物位置が前記旋回停止判定領域AS1内の位置であると前記旋回動作制限判定部76が判定したときに前記上部旋回体12の旋回動作を強制停止させる旋回動作停止指令信号を旋回駆動装置32に入力することにより、当該上部旋回体12の旋回動作によって当該上部旋回体12と障害物とが接触することを防ぐことができる。また、当該指令出力部78は、前記障害物位置が前記旋回減速判定領域AS2内の位置であると前記旋回動作制限判定部76が判定した時点で前記旋回駆動装置32に旋回減速指令信号を入力して前記上部旋回体12の旋回動作の減速を開始させることにより、前記障害物位置が前記旋回停止判定領域AS1に入った時点での上部旋回体12の旋回動作の急停止を防ぐとともに、前記上部旋回体12の大きな慣性モーメントにかかわらず前記障害物が前記上部旋回体12に接触する前の時点で確実に当該上部旋回体12の旋回動作を停止させることを可能にする。
【0083】
なお、本発明において旋回判定領域設定部及び旋回動作制限判定部は必須の要素ではなく、適宜省略されることが可能である。
【0084】
また、本発明において前記走行減速判定領域AT2の設定は適宜省略可能である。換言すれば、本発明に係る旋回判定領域設定部は前記走行停止判定領域AT1及び前記走行減速判定領域AT2のうちの前者のみを設定するものであってもよい。
【0085】
前記走行減速判定領域が設定される場合において、その具体的な形状は図4図6に示されるような走行減速判定領域AT2の形状に限定されない。例えば、当該走行減速判定領域AT2の平面形状は、走行停止判定領域AT1とは全く別の形状、例えば矩形状や円形状であってもよい。しかし、例えば図4図6に示されるように、前記上部旋回体12の旋回角度θに対応した前記走行停止判定領域AT1の外郭の形状の変更に対応して前記走行減速判定領域AT2の外郭の形状を変更することは、当該走行停止判定領域AT1の形状の変化にかかわらず、当該走行停止判定領域AT1に障害物が進入する前の適正なタイミングで走行動作の減速を開始させるための適正な走行減速制御を実現することを可能にする。
【符号の説明】
【0086】
G 地面
10 下部走行体
12 上部旋回体
13 ドーザ(可動部位)
30 走行駆動装置
32 旋回駆動装置
40 警報装置
60 障害物
61~64 障害物センサ(障害物検知器)
66 旋回角度センサ(旋回角度検知器)
70 コントローラ
71 障害物位置演算部
73 走行判定領域設定部
74 走行動作制限判定部
75 旋回判定領域設定部
76 旋回動作制限判定部
78 指令出力部
AT1 走行停止判定領域
AT2 走行減速判定領域
AS1 旋回停止判定領域
AS2 旋回減速判定領域
ER1 右側端縁(第1幅方向端縁)
EL1 左側端縁(第2幅方向端縁)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9