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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ポット精紡機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   D01H 1/08 20060101AFI20230111BHJP
   D01H 1/36 20060101ALI20230111BHJP
   D01H 7/74 20060101ALI20230111BHJP
   D01H 13/24 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
D01H1/08
D01H1/36 D
D01H7/74
D01H13/24
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018169258
(22)【出願日】2018-09-11
(65)【公開番号】P2020041232
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179936
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 明日香
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(72)【発明者】
【氏名】近藤 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】槌田 大輔
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-081634(JP,A)
【文献】実開平06-083779(JP,U)
【文献】特開2000-053326(JP,A)
【文献】特開2017-020124(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第04400999(DE,A1)
【文献】特開昭62-162023(JP,A)
【文献】国際公開第02/081796(WO,A1)
【文献】特表2005-520938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H 1/08
D01H 1/36
D01H 7/74
D01H 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗糸搬送方向の上流側から下流側に順に配置されたバックローラ対、ミドルローラ対およびフロントローラ対を有し、前記バックローラ対、前記ミドルローラ対および前記フロントローラ対をそれぞれ回転させることにより、粗糸を引き伸ばすドラフト装置と、
前記バックローラ対に対して進退移動可能に設けられる楔部を有し、前記バックローラ対を構成する2つのローラの間に前記楔部を食い込ませることにより、前記ドラフト装置に対する前記粗糸の供給を停止する粗糸供給停止装置と、
所定の速度で回転するポットと、
をそれぞれ備える複数の紡錘を具備するポット精紡機の制御方法であって、
前記ドラフト装置から供給される糸を前記ポット内に紡出する紡出工程と、
前記ポット内に紡出された糸をボビンに巻き返す巻き返し工程と、
前記紡出工程および前記巻き返し工程を終えた後で、かつ、次の回の前記紡出工程を開始する前に、前記ポット内に残り糸が有るか否かを前記紡錘ごとに検査する検査工程と、を有し、
前記検査工程で前記残り糸が有ると判断された前記紡錘については、前記次の回の前記紡出工程で前記ポット内に糸が紡出されないよう、前記粗糸供給停止装置を作動させる
ポット精紡機の制御方法。
【請求項2】
前記検査工程では、前記ポットの内部をカメラで撮影し、前記撮影によって得られる画像データを画像処理して、前記ポット内に残り糸が有るか否かを判断する
請求項1に記載のポット精紡機の制御方法。
【請求項3】
前記検査工程でいずれかの前記紡錘の前記ポット内に前記残り糸が有ると判断された場合に、前記残り糸が有ると判断された前記紡錘について、前記粗糸供給停止装置を作動させる前に、すべての前記紡錘について、前記バックローラ対および前記ミドルローラ対を粗糸搬送時と反対方向に所定量だけ回転させる
請求項1または2に記載のポット精紡機の制御方法。
【請求項4】
前記検査工程で前記ポット内に前記残り糸が有ると判断された回数がN回(Nは2以上の整数)連続した場合に、ポット精紡機の運転を停止させる
請求項1~3のいずれか一項に記載のポット精紡機の制御方法。
【請求項5】
1回の前記検査工程で前記ポット内に前記残り糸が有ると判断された前記紡錘の数が予め設定された上限値を超えた場合に、ポット精紡機の運転を停止させる
請求項1~3のいずれか一項に記載のポット精紡機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポット精紡機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポット精紡機においては、ドラフト装置によって引き伸ばされた糸を導糸管によってポット内に導入するとともに、導入した糸を導糸管の端部から紡出してポットの内壁に積層させ、その後、ポット内でボビンに糸を巻き返している。その際、何らかの理由で糸の巻き返しに失敗すると、本来であればボビンに巻き返されるべき糸が、巻き返し工程を終えた段階でポット内に残ってしまう。本明細書では、巻き返し工程を終えた段階でポット内に残る糸を「残り糸」という。
【0003】
巻き返し工程を終えた段階でポット内に残り糸が存在すると、その後の紡出工程でポット内に紡出される糸(以下、「後の糸」ともいう。)が残り糸の上に積層される。このため、ポットの内壁に形成されるケークの厚さが通常よりも厚くなる。その結果、糸の紡出中に導糸管がケークに接触したり、巻き返しのためのポット内の挿入されるボビンがケークに接触したりするおそれがある。
【0004】
そこで、たとえば特許文献1には、導糸管の端部から糸を紡出するときに、導糸管の周囲を回転する糸脚の回転周波数が残り糸の存在によって低くなるという現象を利用して、ポット内に残り糸があるか否かを検査する技術が記載されている。具体的には、糸の紡出中に糸脚の回転周波数を検出するとともに、検出した回転周波数と目標値とを比較し、ポット内に残り糸があるか否かを検査する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-81634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、実際に糸の紡出を開始した後でないと、糸脚の回転周波数を検出することができない。このため、ポット内に残り糸が存在している場合は、糸脚の回転周波数を検出するために紡出した糸が、残り糸の上に積層されてしまう。このため、上述したように導糸管がケークに接触したり、ボビンがケークに接触したりするおそれがある。また、仮にボビンへの巻き返しを行えたとしても、そのボビンには残り糸と後の糸が混在して巻き返されることになる。このため、その後のワインダー工程でボビンから糸を巻き取るときに残り糸と後の糸とが絡まり、どちらも使えない糸、すなわち「くず糸」になってしまう。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、糸の巻き返しに失敗した場合でも、ポット内で残り糸と後の糸が積層されることを回避することができるポット精紡機の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、粗糸搬送方向の上流側から下流側に順に配置されたバックローラ対、ミドルローラ対およびフロントローラ対を有し、前記バックローラ対、前記ミドルローラ対および前記フロントローラ対をそれぞれ回転させることにより、粗糸を引き伸ばすドラフト装置と、前記バックローラ対に対して進退移動可能に設けられる楔部を有し、前記バックローラ対を構成する2つのローラの間に前記楔部を食い込ませることにより、前記ドラフト装置に対する前記粗糸の供給を停止する粗糸供給停止装置と、所定の速度で回転するポットと、をそれぞれ備える複数の紡錘を具備するポット精紡機の制御方法であって、前記ドラフト装置から供給される糸を前記ポット内に紡出する紡出工程と、前記ポット内に紡出された糸をボビンに巻き返す巻き返し工程と、前記紡出工程および前記巻き返し工程を終えた後で、かつ、次の回の前記紡出工程を開始する前に、前記ポット内に残り糸が有るか否かを前記紡錘ごとに検査する検査工程と、を有し、前記検査工程で前記残り糸が有ると判断された前記紡錘については、前記次の回の前記紡出工程で前記ポット内に糸が紡出されないよう、前記粗糸供給停止装置を作動させる。
【0009】
本発明に係るポット精紡機の制御方法において、前記検査工程では、前記ポットの内部をカメラで撮影し、前記撮影によって得られる画像データを画像処理して、前記ポット内に残り糸が有るか否かを判断してもよい。
【0010】
本発明に係るポット精紡機の制御方法において、前記検査工程でいずれかの前記紡錘の前記ポット内に前記残り糸が有ると判断された場合に、前記残り糸が有ると判断された前記紡錘について、前記粗糸供給停止装置を作動させる前に、すべての前記紡錘について、前記バックローラ対および前記ミドルローラ対を粗糸搬送時と反対方向に所定量だけ回転させてもよい。
【0011】
本発明に係るポット精紡機の制御方法において、前記検査工程で前記ポット内に前記残り糸が有ると判断された回数がN回(Nは2以上の整数)連続した場合に、ポット精紡機の運転を停止させてもよい。
【0012】
本発明に係るポット精紡機の制御方法において、1回の前記検査工程で前記ポット内に前記残り糸が有ると判断された前記紡錘の数が予め設定された上限値を超えた場合に、ポット精紡機の運転を停止させてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、糸の巻き返しに失敗した場合でも、ポット内で残り糸と後の糸が積層されることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るポット精紡機の構成例を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態に係るポット精紡機の駆動制御系の構成例を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係るポット精紡機の制御方法を説明するためのフローチャートである。
図4】本発明の実施形態に係るポット精紡機の制御方法を適用した場合のポット精紡機の具体的な動作例を説明する図である。
図5】本発明の実施形態に係るポット精紡機の制御方法を適用した場合のポット精紡機の具体的な動作例を説明する図である。
図6】本発明の実施形態に係るポット精紡機の制御方法を適用した場合のポット精紡機の具体的な動作例を説明する図である。
図7】本発明の実施形態に係るポット精紡機の制御方法を適用した場合のポット精紡機の具体的な動作例を説明する図である。
図8】本発明の実施形態に係るポット精紡機の制御方法を適用した場合のポット精紡機の具体的な動作例を説明する図である。
図9】本発明の実施形態に係るポット精紡機の制御方法を適用した場合のポット精紡機の具体的な動作例を説明する図である。
図10】バックローラ対およびミドルローラ対を逆回転させる技術的な意義を説明するための図である。
図11】バックローラ対およびミドルローラ対を逆回転させる技術的な意義を説明するための図である。
図12】バックローラ対およびミドルローラ対を逆回転させる技術的な意義を説明するための図である。
図13】バックローラ対およびミドルローラ対を逆回転させる技術的な意義を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
<ポット精紡機の構成>
まず、本発明の実施形態に係るポット精紡機の構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るポット精紡機の構成例を示す概略図である。
図1に示すように、ポット精紡機1は、ドラフト装置2と、粗糸供給停止装置3と、導糸管4と、ポット5と、ボビン支持部6と、検査装置7と、を備えている。なお、これらの構成要素は、紡績の一単位となる1つの紡錘を構成するものである。ポット精紡機1は、複数の紡錘を具備するものであるが、各々の紡錘は共通の構成を有するため、ここでは1つの紡錘の構成について説明する。
【0017】
(ドラフト装置)
ドラフト装置2は、糸材料となる粗糸9を所定の細さの糸に引き伸ばす装置である。ドラフト装置2は、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17からなる複数のローラ対を用いて構成されている。複数のローラ対は、粗糸搬送方向の上流側から下流側に向かって、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17の順に配置されている。
【0018】
バックローラ対15は、バックトップローラ15aとバックボトムローラ15bとによって構成されている。バックトップローラ15aとバックボトムローラ15bは互いに所定の圧力で接触している。バックトップローラ15aは従動ローラであり、バックボトムローラ15bは駆動ローラである。このため、バックトップローラ15aは、バックボトムローラ15bの回転に従って回転する。
【0019】
ミドルローラ対16は、ミドルトップローラ16aとミドルボトムローラ16bとによって構成されている。ミドルトップローラ16aとミドルボトムローラ16bは互いに所定の圧力で接触している。ミドルトップローラ16aは従動ローラであり、ミドルボトムローラ16bは駆動ローラである。このため、ミドルトップローラ16aは、ミドルボトムローラ16bの回転に従って回転する。ミドルローラ対16にはエプロン対19が巻かれている。エプロン対19は、トップエプロン19aとボトムエプロン19bとによって構成されている。トップエプロン19aはミドルトップローラ16aに巻かれ、ボトムエプロン19bはミドルボトムローラ16bに巻かれている。
【0020】
フロントローラ対17は、フロントトップローラ17aとフロントボトムローラ17bとによって構成されている。フロントトップローラ17aとフロントボトムローラ17bは互いに所定の圧力で接触している。フロントトップローラ17aは従動ローラであり、フロントボトムローラ17bは駆動ローラである。このため、フロントトップローラ17aは、フロントボトムローラ17bの回転に従って回転する。
【0021】
各々のローラ対15,16,17は、後述するドラフト駆動部の駆動によって回転する。ドラフト駆動部は、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17をそれぞれ所定の速度で回転させる。ここで、各々のローラ対15,16,17の回転速度を単位時間あたりの回転数(rpm)で規定すると、ミドルローラ対16の回転数はバックローラ対15の回転数よりも高く、フロントローラ対17の回転数はミドルローラ対16の回転数よりも高い。このように各々のローラ対15,16,17の回転数は互いに異なり、この回転数の違い、すなわち回転速度差を利用して、ドラフト装置2は粗糸9を細く引き伸ばす。ドラフト装置2によって所定の細さに引き伸ばされた糸20は、ドラフト装置2から吸篠管22を通して導糸管4へと供給される。
【0022】
(粗糸供給停止装置)
粗糸供給停止装置3は、ドラフト装置2のバックローラ対15に対して進退移動可能に設けられる楔部8を有している。粗糸供給停止装置3は、バックローラ対15を構成する2つのローラ、すなわちバックトップローラ15aとバックボトムローラ15bとの間に楔部8を食い込ませることにより、ドラフト装置2に対する粗糸9の供給を停止する。
【0023】
実際に粗糸供給停止装置3を作動させると、バックローラ対15に対して楔部8が前進移動する。これにより、バックトップローラ15aとバックボトムローラ15bとの間に楔部8が食い込む。このため、バックボトムローラ15bからバックトップローラ15aへの回転の伝達が楔部8によって遮断される。また、粗糸9は、バックトップローラ15aと楔部8との間に挟み込まれる。これにより、バックボトムローラ15bが回転しても、粗糸9に搬送力が付与されなくなる。このため、ドラフト装置2に対する粗糸9の供給が停止する。
【0024】
(導糸管)
導糸管4は、ドラフト装置2から吸篠管22を通して供給される糸20をポット5内に導くものである。ドラフト装置2によって引き伸ばされた糸20は、たとえば、空気の旋回流を利用して吸篠管22に引き込まれた後、吸篠管22を通して導糸管4に導入される。導糸管4は、細長い管状に形成されている。導糸管4を長さ方向と直交する方向に断面したときの形状は円形になっている。導糸管4は、ドラフト装置2の下流側に、ポット5と同軸に配置されている。導糸管4の下部は、ポット5内に配置されている。導糸管4の下端部には糸排出口4aが形成されている。導糸管4に導入された糸20は、導糸管4の糸排出口4aから紡出される。導糸管4は、後述する導糸管駆動部によって上下方向に移動可能に設けられている。
【0025】
(ポット)
ポット5は、ケーク24の形成と糸20の巻き返しに用いられるものである。ポット5は、円筒形に形成されている。ポット5は、ポット5の中心軸回りに回転可能に設けられている。ポット5の中心軸Kは、鉛直方向と平行に配置されている。このため、ポット5の中心軸方向の一方は上方、他方は下方となっている。ポット5は、後述するポット駆動部の駆動によって回転する。ポット5の下端部には開口部5aが形成されている。ケーク24は、ポット5の内壁5bに形成される糸20の積層体である。
【0026】
(ボビン支持部)
ボビン支持部6は、ボビン25を支持するものである。ボビン支持部6は、後述するボビン駆動部によって上下方向に移動可能に設けられている。ボビン支持部6は、ボビン台座26と、ボビン装着部27と、を有している。ボビン台座26は板状に形成されている。ボビン装着部27はボビン台座26に固定されている。
【0027】
ボビン装着部27は、ボビン25が着脱自在に装着される部分である。ボビン装着部27は、ポット5の中心軸方向で導糸管4と対向するように、導糸管4およびポット5と同軸に配置されている。また、ボビン装着部27は、導糸管4よりも下方に配置されている。このため、ボビン装着部27にボビン25を装着すると、ボビン25は、ポット5の中心軸K上で導糸管4と対向するように配置される。
【0028】
(検査装置)
検査装置7は、ポット5内に残り糸が有るか否かを検査するものである。検査装置7は、撮影用のカメラ31と、画像処理部32とを有している。カメラ31は、ポット5の内部を撮影し、その撮影によって得られた画像データを出力するものである。画像処理部32は、カメラ31から出力される画像データを画像処理することにより、ポット5内に残り糸が有るか否かを判断するものである。カメラ31および画像処理部32を有する検査装置7は、ポット精紡機1が具備する複数の紡錘と同じ数だけ設けられていてもよいし、複数の紡錘につき1つだけ設けられていてもよい。
【0029】
本実施形態においては、一例として、複数の紡錘につき1つの検査装置7を備える構成を採用するものとする。その場合は、1つの検査装置7を用いて、すべての紡錘のポット内画像を撮影する必要がある。そこで本実施形態においては、すべての紡錘のポット5を対象に残り糸の有無を検査できるよう、図示しない移動式のワゴンに検査装置7が実装されている。ポット精紡機1が具備する複数の紡錘は、ポット精紡機1の機台の長手方向に並んで配置される。このため、ワゴンは、ポット精紡機1が具備する複数の紡錘の並び方向に移動可能に設けられる。
【0030】
ワゴンに実装されるカメラ31は、ワゴンの移動によって各紡錘のポット5下に配置され、各紡錘のポット5の内部を順に撮影する。これに対して、画像処理部32は、カメラ31から出力される画像データを取り込んで画像処理する。その際、カメラ31が撮影したポット5内に残り糸が有ると、カメラ31から出力される画像データにおいて、たとえば図1に示すようにポット5の内壁5bの地肌部分と残り糸20との境界Pに所定量の輝度差が生じる。このため、画像処理部32は、画像データを画像処理した際に、所定量の輝度差が生じる部分が存在する場合は残り糸が有ると判断し、存在しない場合は残り糸が無いと判断する。
【0031】
図2は、本発明の実施形態に係るポット精紡機の駆動制御系の構成例を示すブロック図である。
図2に示すように、ポット精紡機1は、制御部50と、ドラフト駆動部51と、楔駆動部52と、導糸管駆動部53と、ポット駆動部54と、ボビン駆動部55と、ワゴン駆動部56、を備えている。
【0032】
(制御部)
制御部50は、ポット精紡機1全体の動作を統括的に制御するものである。制御部50には、制御の対象として、ドラフト駆動部51、楔駆動部52、導糸管駆動部53、ポット駆動部54、ボビン駆動部55およびワゴン駆動部56が電気的に接続されている。また、制御部50には、検査装置7が電気的に接続されている。このうち、ドラフト駆動部51、導糸管駆動部53、ポット駆動部54、ボビン駆動部55およびワゴン駆動部56は、複数の紡錘に対してそれぞれ1つ設けられ、楔駆動部52は、複数の紡錘と1対1の対応関係で複数設けられる。
【0033】
(ドラフト駆動部)
ドラフト駆動部51は、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17をそれぞれ所定の回転数で回転させるものである。ドラフト駆動部51は、制御部50からドラフト駆動部51に与えられる制御指令に基づいて駆動することにより、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17を回転させる。
【0034】
(楔駆動部)
楔駆動部52は、粗糸供給停止装置3の楔部8を動作させるものである。楔駆動部52は、制御部50から楔駆動部52に与えられる制御指令に基づいて駆動することにより、バックローラ対15に対して楔部8を前進移動または後退移動させる。制御部50は、粗糸供給停止装置3を作動させる場合は、楔駆動部52の駆動により楔部8を前進移動させ、粗糸供給停止装置3の作動を解除する場合は、楔駆動部52の駆動により楔部8を後退移動させる。
【0035】
(導糸管駆動部)
導糸管駆動部53は、導糸管11を動作させるものである。導糸管駆動部53は、制御部50から導糸管駆動部53に与えられる制御指令に基づいて駆動することにより、導糸管11を上下方向に移動させる。
【0036】
(ポット駆動部)
ポット駆動部54は、ポット12を回転させるものである。ポット駆動部54は、制御部50からポット駆動部54に与えられる制御指令に基づいて駆動することにより、ポット12の中心軸Kを回転中心としてポット12を回転させる。
【0037】
(ボビン駆動部)
ボビン駆動部55は、ボビン25を動作させるものである。ボビン駆動部55は、制御部50からボビン駆動部55に与えられる制御指令に基づいて駆動することにより、ボビン装着部27に装着されるボビン25を、ボビン台座26と一体に上下方向に移動させる。
【0038】
(ワゴン駆動部)
ワゴン駆動部56は、上述したワゴンを動作させるものである。ワゴン駆動部56は、制御部50からワゴン駆動部56に与えられる制御指令に基づいて駆動することにより、ワゴンと共に検査装置7を移動させる。
【0039】
(検査装置)
検査装置7は、カメラ31および画像処理部32を用いて検査した結果を制御部50に通知する。ポット精紡機1が具備する複数の紡錘にはそれぞれ固有の識別情報が割り当てられている。これに対して、検査装置7は、ワゴンの移動により各紡錘のポット5内をカメラ31で撮影し、これによって得られた画像データを画像処理部32で画像処理する。その際、画像処理部32は、ポット5内に残り糸が有るか否かを紡錘ごとに判断する。そして、画像処理部32は、ポット5内に残り糸が有る紡錘を検出した場合は、検出した紡錘の識別情報を検査結果として制御部50に通知する。また、画像処理部32は、いずれの紡錘のポット5内にも残り糸が無かった場合、すなわちすべての紡錘で巻き返しに成功した場合は、その旨を検査結果として制御部50に通知する。
【0040】
<ポット精紡機の動作>
次に、本発明の実施形態に係るポット精紡機の基本的な動作について説明する。
まず、ポット精紡機1が行う工程には、ドラフト装置2から供給される糸20をポット5内に紡出する紡出工程と、ポット5内に紡出された糸20をボビン25に巻き返す巻き返し工程とが、少なくとも含まれる。以下に、紡出工程および巻き返し工程でのポット精紡機1の動作について説明する。なお、紡出工程および巻き返し工程は、いずれもポット5を所定の速度で回転させた状態で行われる。このため、制御部50は、ポット精紡機1の運転を開始するときにポット駆動部54に制御指令を与えることにより、ポット5を所定の速度で回転させ、その状態で紡出工程に移行する。
【0041】
(紡出工程)
まず、制御部50は、ドラフト駆動部51に制御指令を与えることにより、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17をそれぞれ所定の速度で回転させる。これにより、粗糸9は、各々のローラ対15,16,17の回転に従って搬送される。その際、ミドルローラ対16はバックローラ対15よりも高速で回転し、フロントローラ対17はミドルローラ対16よりも高速で回転する。これにより、粗糸9は、各々のローラ対15,16,17の回転速度差によって所定の細さに引き伸ばされる。
【0042】
ドラフト装置2によって引き伸ばされた糸20は、ドラフト装置2から吸篠管22を通して導糸管4に導入される。導糸管4に導入された糸20は、導糸管4の糸排出口4aから紡出されるとともに、ポット5の回転によって生じる遠心力によりポット5の内壁5bに張り付く。また、糸20には、ポット5の回転によって撚りが加えられる。
【0043】
次に、制御部50は、導糸管駆動部53に制御指令を与えることにより、導糸管4を所定の周期で繰り返し上下方向に往復移動させながら、導糸管4の位置を相対的に下方に変位させる。これにより、ポット5の内壁5bに所定量の糸20が積層される。その結果、ポット5の内壁5bにケーク24が形成される。その際、制御部50は、ドラフト駆動部51に制御指令を与えることにより、糸切りを行う。具体的には、制御部50は、フロントローラ対17の回転を継続したまま、バックローラ対15およびミドルローラ対16の回転を共に停止するように、ドラフト駆動部51に制御指令を与える。これにより、フロントローラ対17の直近で糸が切られる。以上で紡出工程が終了となる。
【0044】
(巻き返し工程)
まず、制御部50は、上述したポット駆動部54の駆動によりポット5を所定の速度で回転させながら、ボビン駆動部55に制御指令を与えることにより、ボビン台座26を上方に移動させる。このとき、ボビン25は、ボビン台座26と共に上方に移動する。また、ボビン25は、ポット5の開口部5aを通してポット5内に進入する。これにより、ボビン25がポット5内に挿入される。また、制御部50は、ポット5内に挿入されるボビン25が導糸管4に接触しないよう、導糸管駆動部53に制御指令を与えることにより、導糸管4を上方に移動させる。
【0045】
次に、制御部50は、たとえば図示しないフィーラー駆動部を駆動してフィーラーをポット5の内壁5bに接触させることにより、ケーク24の下端側に巻かれている糸20をポット5の内壁5bから剥がす。これにより、ポット5の内壁5bから離れた糸20がボビン25に巻き付き、これをきっかけにボビン25への糸の巻き返しが開始される。
【0046】
その後、ケーク24を形成していたすべての糸20がボビン25に巻き返されると、制御部50は、ボビン駆動部55に制御指令を与えることにより、ボビン台座26を下方に移動させる。これにより、糸20が巻き返されたボビン25、すなわち満管のボビン25がポット5外に取り出される。以上で巻き返し工程が終了となる。
【0047】
ところで、上述した紡出工程と巻き返し工程を順に行う場合、何らかの理由で糸の巻き返しに失敗することがある。糸の巻き返しに失敗すると、ケーク24を形成していた糸20の全部または一部が残り糸となってポット5内に残る。このため、ポット5内に残り糸が存在する紡錘において、再度、紡出工程を行うと、残り糸の上に後の糸が積層されてしまう。そこで、本発明の実施形態においては、ポット精紡機1を以下のように制御することとした。
【0048】
図3は、本発明の実施形態に係るポット精紡機の制御方法を説明するためのフローチャートである。図示したポット精紡機の制御方法は、制御部50の制御下で行われる。
【0049】
まず、制御部50は、変数Mの値を、初期値である1に設定する(ステップS1)。変数Mは、各工程の実施回を示す1以上の整数であり、M=1のときは第1回、M=2のときは第2回、M=3のときは第3回を意味する。このため、たとえば、M=1のときが今回であると、M=2のときが次の回に相当する。また、M=2のときが今回であるとすると、M=1のときが前の回、M=3のときが次の回に相当する。こうした考えは、変数Mが4以上のときも同様である。
【0050】
次に、制御部50は、第1回の紡出工程を開始する(ステップS2)。第1回の紡出工程では、すべての紡錘において粗糸供給停止装置3の作動が解除されている。粗糸供給停止装置3の作動が解除された状態では、楔部8がバックローラ対15から後退した位置に配置される。
【0051】
次に、制御部50は、第1回の紡出工程が終了する前に、すべての紡錘について粗糸供給停止装置3の作動を解除する(ステップS3)。次に、制御部50は、第1回の紡出工程が終了したか否かを判断する(ステップS4)。
【0052】
次に、制御部50は、上記ステップS4において第1回の紡出工程を終了したと判断すると、第1回の巻き返し工程を行う(ステップS5)。巻き返し工程は、すべての紡錘で並行して行う。
【0053】
次に、制御部50は、第1回の検査工程を行う(ステップS6)。検査工程では、検査装置7を用いて残り糸の有無を検査する。具体的には、制御部50は、ワゴン駆動部56に制御指令を与えることにより、ワゴンと共に検査装置7を移動させる。これにより、検査装置7は、各々の紡錘のポット5内に残り糸が有るか否かを検査し、その検査結果を制御部50に通知する。
【0054】
次に、制御部50は、検査装置7から通知された検査結果を基に、複数の紡錘の中でポット5内に残り糸が有る紡錘が存在するか否かを判断する(ステップS7)。制御部50は、検査装置7から通知される検査結果に紡錘の識別情報が1つ以上含まれていればステップS7でYesと判断し、検査結果に紡錘の識別情報が1つも含まれていなければステップS7でNoと判断する。
【0055】
ステップS7において、残り糸が有る紡錘が存在すると判断した場合、制御部50は、ドラフト駆動部51に制御指令を与えることにより、すべての紡錘について、バックローラ対15およびミドルローラ対16を粗糸搬送時と反対方向に所定量だけ回転(以下、「逆回転」ともいう。)させる(ステップS8)。バックローラ対15およびミドルローラ対16を逆回転させた後は、バックローラ対15およびミドルローラ対16の回転を停止させておく。ステップS8でバックローラ対15およびミドルローラ対16を逆回転させる技術的な意義については後段で説明する。
【0056】
次に、制御部50は、ステップS6の検査工程で残り糸が有ると判断された紡錘のみを対象に、次の回の紡出工程でポット5内に糸20が紡出されないよう、粗糸供給停止装置3を作動させる(ステップS9)。具体的には、制御部50は、複数の紡錘に対応する複数の粗糸供給停止装置3の中から、検査結果に含まれる紡錘の識別情報によって特定される紡錘の粗糸供給停止装置3だけを作動させる。また、制御部50は、識別情報によって特定される紡錘の粗糸供給停止装置3に対応する楔駆動部52に制御指令を与える。これにより、識別情報によって特定される紡錘のドラフト装置2では、バックローラ対15に対して楔部8が前進移動する。このため、バックローラ対15を構成するバックトップローラ15aとバックボトムローラ15bとの間に楔部8が食い込んだ状態となる。
【0057】
なお、上記ステップS7において、残り糸が有る紡錘が存在しないと制御部50が判断した場合は、ステップS7からステップS10に移行する。
【0058】
次に、制御部50は、ステップS6の検査工程でポット5内に残り糸が有ると判断された回数がN回連続したか否かを判断する(ステップS10)。ステップS6の検査工程でポット5内に残り糸が有ると判断された回数は、ステップS5の巻き返し工程で巻き返しに失敗した回数を意味する。Nは、2以上の整数であって、その値は巻き返しの失敗による生産性への影響を考慮して予め設定される。Nの値は、たとえば、3以上5以下の範囲に設定される。
【0059】
ステップS10でYesと判断すると、制御部50は、ポット精紡機1の運転を停止させる(ステップS11)。ポット精紡機1の運転を停止させると、すべての紡錘でポット5の回転が停止する。なお、第1回の紡出工程を開始してからポット精紡機1の運転を停止させるまでの間、ポット5は所定の速度で回転し続ける。このため、紡出工程、巻き返し工程および検査工程は、いずれも、ポット5の回転を停止させることなく行われる。
【0060】
一方、ステップS10でNoと判断すると、制御部50は、変数Mの値をインクリメントした後(ステップS12)、ステップS2に戻る。
【0061】
次に、制御部50は、ステップS2において第2回の紡出工程を開始する。このとき、第1回の巻き返し工程を終えた段階で、いずれかの紡錘のポット5内に残り糸が存在している場合は、その紡錘の粗糸供給停止装置3が作動している状態で第2回の紡出工程に移行する。このため、粗糸供給停止装置3が作動している紡錘では、ドラフト装置2に対する粗糸9の供給が停止される。したがって、第2回の紡出工程を開始しても、ポット5内に残り糸が存在する紡錘ではポット5内に糸20が紡出されることがない。よって、ポット5内で残り糸の上に次の糸が積層されることもない。
【0062】
次に、制御部50は、すべての紡錘について粗糸供給停止装置3の作動を解除した後(ステップS3)、第2回の紡出工程が終了したか否かを判断する(ステップS4)。これにより、第1回の検査工程の検査結果に基づいて粗糸供給停止装置3を作動させた紡錘があった場合は、その紡錘を含むすべての紡錘において粗糸供給停止装置3の作動が解除される。
【0063】
次に、制御部50は、第2回の巻き返し工程を行った後(ステップS5)、第2回の検査工程を行う(ステップS6)。第2回の巻き返し工程は、ポット5内に残り糸が有るか否かにかかわらず、すべての紡錘で実施する。その際、第1回の巻き返し工程で巻き返しに失敗しても、第2回の巻き返し工程で巻き返しに成功する場合がある。たとえば、第1回の巻き返し工程で巻き返しに失敗した紡錘の識別情報が「007」であって、その識別情報「007」によって特定される紡錘で第2回の巻き返し工程を行ったときに巻き返しに成功する場合がある。そうした場合、第2回の巻き返し工程を終了した段階では、識別情報「007」によって特定される紡錘のポット5内に残り糸が存在しない。このため、第2回の巻き返し工程の後で行われる第2回の検査工程では、検査装置7から制御部50に通知される検査結果に識別情報「007」が含まれない。よって、識別情報「007」によって特定される紡錘では、粗糸供給停止装置3の作動が解除されたまま、第3回の紡出工程が開始されてポット5内に糸20が紡出される。
【0064】
一方で、第1回の巻き返し工程で巻き返しに失敗し、第2回の巻き返し工程でも巻き返しに失敗する場合、すなわち複数回連続して巻き返しに失敗する場合もある。たとえば、第1回の巻き返し工程で巻き返しに失敗した紡錘の識別情報が「003」であって、その識別情報「003」によって特定される紡錘で第2回の巻き返し工程でも巻き返しに失敗する場合がある。そうした場合、第2回の巻き返し工程を終了した段階では、識別情報「003」によって特定される紡錘のポット5内に残り糸が存在する。このため、第2回の巻き返し工程の後で行われる第2回の検査工程では、検査装置7から制御部50に通知される検査結果に識別情報「003」が含まれる。この場合、制御部50は、ステップS7でYesと判断した後、ステップS8でバックローラ対15およびミドルローラ対16を逆回転させ、その後、ステップS9において識別情報「003」により特定される紡錘の粗糸供給停止装置3を作動させる。よって、識別情報「003」によって特定される紡錘では、ドラフト装置2に対する粗糸9の供給が粗糸供給停止装置3によって停止されるため、第3回の紡出工程でポット5内に糸20が紡出されることはない。
【0065】
次に、本発明の実施形態に係るポット精紡機の制御方法を適用した場合のポット精紡機の具体的な動作例について、図4図9を用いて説明する。
ここではポット精紡機1が具備する複数の紡錘の中から3つの紡錘を例に挙げて説明する。また、3つの紡錘を第1の紡錘61、第2の紡錘62および第3の紡錘63に区分する。そして、第1の紡錘61は導糸管4-1とポット5-1を備え、第2の紡錘62は導糸管4-2とポット5-2を備え、第3の紡錘63は導糸管4-3とポット5-3を備えるものとする。
【0066】
まず、第1回の紡出工程を終えた段階では、図4に示すように、各々の紡錘61,62,63のポット5-1,5-2,5-3内にそれぞれケーク24-1,24-2,24-3が形成されている。ケーク24-1は、ポット5-1の内壁に積層された糸20-1によって形成されている。また、ケーク24-2は、ポット5-2の内壁に積層された糸20-2によって形成され、ケーク24-3は、ポット5-3の内壁に積層された糸20-3によって形成されている。
【0067】
次に、第1回の巻き返し工程を終えた段階では、図5に示すように、第1の紡錘61ではボビン25-1に糸20-1が巻き返され、第3の紡錘63ではボビン25-3に糸20-3が巻き返されている。これに対して、第2の紡錘62では、巻き返しの失敗によりボビン25-2に糸20-2が巻き返されておらず、ポット5-2の内壁にケーク24-2が残っている。このとき、ポット5-2内でケーク24-2を形成している糸20-2が残り糸に相当する。
【0068】
次に、第1回の検査工程では、図6に示すように、図中の矢印方向へのカメラ31の移動により、各々の紡錘61,62,63のポット5-1,5-2,5-3内をカメラ31で順に撮影する。この段階では、第2の紡錘62のポット5-2内だけに糸20-2が残存している。第1回の検査工程においては、第1の紡錘61のポット5-1内、および、第3の紡錘63のポット5-3内には、残り糸が無いと判断されるが、第2の紡錘62のポット5-2内には、糸20-2の残存によって残り糸が有ると判断される。このため、第1の紡錘61と第3の紡錘63ではいずれも粗糸供給停止装置3(図1参照)が作動せず、第2の紡錘62では粗糸供給停止装置3が作動する。
【0069】
そうすると、第2回の紡出工程では、図7に示すように、第1の紡錘61で導糸管4-1を用いてポット5-1内に糸20-1が紡出され、第3の紡錘63でも導糸管4-3を用いてポット5-3内に糸20-3が紡出される。これに対して、第2の紡錘62では、粗糸供給停止装置3が作動しているため、ポット5-2内に糸が紡出されない。
【0070】
その後、第2回の紡出工程を終えた段階では、図8に示すように、各々の紡錘61,62,63のポット5-1,5-2,5-3内にそれぞれケーク24-1,24-2,24-3が形成されている。ケーク24-1とケーク24-3は第2回の紡出工程で形成されたもので、ケーク24-2は第1回の紡出工程で形成されたものである。
【0071】
次に、第2回の巻き返し工程を終えた段階では、図9に示すように、第1の紡錘61でボビン25-1に糸20-1が巻き返され、第2の紡錘62および第3の紡錘63でも、ボビン25-2,25-3に糸20-2,20-3が巻き返されている。この場合、第2の紡錘62では、第1回の巻き返し工程で巻き返しに失敗した後、第2回の巻き返し工程で巻き返しに成功している。このため、第3回の紡出工程では、3つの紡錘61,62,62のいずれでも、ポット5-1,5-2,5-3内に糸20-1、20-2,20-3が紡出されることになる。
【0072】
続いて、上記ステップS8でバックローラ対15およびミドルローラ対16を逆回転させる技術的な意義について説明する。
まず、紡出工程では、ケーク24の形成を終えて糸切りするときに、フロントローラ対17の回転を継続したまま、バックローラ対15およびミドルローラ対16の回転を停止させる。このため、糸切りした後のドラフト装置2では、図10に示すように、粗糸9の先端9aがフロントローラ対17の直近に位置する。この状態で次の回の紡出工程を行うと、粗糸供給停止装置3が作動している紡錘では、図11に示すように、バックトップローラ15aとバックボトムローラ15bとの間に楔部8が食い込んだ状態で、ミドルローラ対16とフロントローラ対17が回転する。このため、バックローラ対15とミドルローラ対16との間で粗糸9が引っ張られて切断される。その結果、粗糸9の切れ端部分9bがミドルローラ対16とフロントローラ対17の回転によって搬送され、ポット5内に入り込んでしまうおそれがある。また、ポット5内に入り込んでしまった粗糸9を捨て糸にすることは可能だが、そうすると原料分玉が悪化し、生産性低下につながる。また、フロントローラ対17およびミドルローラ対16を回転したまま、バックローラ対15の回転を停止させて糸切りを行えば、バックローラ対15およびミドルローラ対16の逆回転は不要となるが、その場合は糸切れ位置が各錘間でばらつき、巻き返し成功率や紡出開始成功率の低下につながり、生産性が低下する。
【0073】
これに対して、上記ステップS8でバックローラ対15およびミドルローラ対16を逆回転させると、図12に示すように、粗糸9が粗糸搬送方向の上流側に引き戻される。このとき、制御部50は、好ましくは、粗糸9の先端9aが、フロントローラ対17の直近位置からミドルローラ対16の直近位置へと移動するように、ドラフト駆動部51を介してバックローラ対15とミドルローラ対16の回転量を制御する。これにより、図13に示すように、粗糸供給停止装置3の作動によってバックトップローラ15aとバックボトムローラ15bとの間に楔部8が食い込んだ状態で、ミドルローラ対16とフロントローラ対17が回転しても、粗糸9が切断されなくなる。このため、粗糸9の切れ端部分がポット5内に入り込むことを抑制することができる。なお、バックローラ対15とミドルローラ対16を逆回転させるときの回転量は、少なくとも、図11のような粗糸9の切断を回避できる量であればよい。
【0074】
<実施形態の効果>
本発明の実施形態に係るポット精紡機の制御方法は、紡出工程および巻き返し工程を終えた後で、かつ、次の回の紡出工程を開始する前に、ポット5内に残り糸が有るか否かを紡錘ごとに検査する検査工程を有する。そして、検査工程で残り糸が有ると判断された紡錘については、次の回の紡出工程でポット5内に糸20が紡出されないよう、粗糸供給停止装置3を作動させる構成を採用している。これにより、巻き返し工程で巻き返しに失敗し、ポット5内に残り糸が存在する紡錘があったとしても、その紡錘では次の回の紡出工程でポット5内に糸20が紡出されなくなる。このため、いずれかの紡錘で糸の巻き返しに失敗した場合でも、ポット5内で残り糸と後の糸が積層されることを回避することができる。
【0075】
また、本発明の実施形態においては、ポット5の内部をカメラ31で撮影し、撮影によって得られる画像データを画像処理して、ポット5内に残り糸が有るか否かを判断する構成を採用している。これにより、ポット5内に残り糸が有るか否かを、残り糸に触れることなく判断することができる。このため、残り糸への接触に起因するケーク24の崩れを生じることなく、検査工程を行うことができる。また、検査工程においては、ポット5の回転を止めなくても、ポット5の内壁5bの地肌部分と残り糸との境界に生じる輝度差を利用して、ポット5内に残り糸が有るか否かを的確に判断することができる。
【0076】
また、本発明の実施形態においては、検査工程でいずれかの紡錘のポット5内に残り糸が有ると判断された場合に、残り糸が有ると判断された紡錘について、粗糸供給停止装置3を作動させる前に、すべての紡錘について、バックローラ対15およびミドルローラ対16を粗糸搬送時と反対方向に所定量だけ回転させる構成を採用している。これにより、巻き返し工程で巻き返しに失敗し、ポット5内に残り糸が存在する紡錘があったとしても、その紡錘で次の回の紡出工程を開始するときに、ドラフト装置2内で粗糸が切断されないよう、予め粗糸9を粗糸搬送方向の上流側に引き戻しておくことができる。
【0077】
また、本発明の実施形態においては、検査工程でポット5内に残り糸が有ると判断された回数がN回連続した場合に、ポット精紡機1の運転を停止させる構成を採用している。これにより、巻き返し工程で複数回連続して巻き返しに失敗する場合に、その連続回数がN回に達した段階でポット精紡機1の運転を停止させることで、生産性の低下を抑制することができる。
【0078】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0079】
たとえば、上記実施形態においては、ポット5の内部をカメラ31で撮影するようにしたが、これに限らず、各々の紡錘で巻き返し工程を終えてポット5外に取り出されたボビン25をカメラ31で撮影してもよい。その場合、巻き返しに成功したボビン25と、巻き返しに失敗したボビン25では、実際にボビン25に巻き返されている糸量、糸の巻かれている範囲、糸の積層形状などが異なる。このため、ポット5外に取り出されたボビン25をカメラ31で撮影した場合でも、糸量などの違いを画像処理によって検出することにより、ポット5内に残り糸が有るか否かを判断することができる。また、巻き返し工程で巻き返しに成功した場合は、巻き返しの終端側となるボビン25の上端側に、糸20が1層または数層で薄く巻かれる領域が存在する。このため、その領域をカメラ31で撮影し、そこに薄く糸20が巻かれている場合と巻かれていない場合の輝度差または色差などを画像処理によって検出することにより、ポット5内に残り糸が有るか否かを判断してもよい。
【0080】
また、検査工程は、必ずしもカメラ31と画像処理部32を用いて行う必要はなく、たとえば、接触式のセンサをポット5の内壁5bに接触させて残り糸の有無を判断してもよい。
【0081】
また、上記実施形態においては、検査工程でポット5内に残り糸が有ると判断された回数がN回連続した場合に、ポット精紡機1の運転を停止させるように制御したが、本発明はこれに限らない。たとえば、M回目の巻き返し工程を終えるたびに行われる1回の検査工程でポット5内に残り糸が有ると判断された紡錘の数(換言すると、M回目の巻き返し工程で巻き返しに失敗した紡錘の数)Jが予め設定された上限値を超えた場合に、ポット精紡機1の運転を停止させるように制御してもよい。この制御方法を採用した場合は、たとえば、ポット精紡機1が備える多数の紡錘のうち、特定の少数の紡錘が連続で巻き返しに失敗し続けたとしても、1回の検査工程でポット5内に残り糸が有ると判断された紡錘の数Jが上限値を超えないかぎり、ポット精紡機1の運転が継続される。このため、少数の紡錘が連続で巻き返しに失敗し続けたとしても、いったんポット精紡機1の運転を停止することによる生産性低下の影響が大きい場合には、ポット精紡機1の運転を停止せずに継続させることができる。なお、上述したJの値は、検査結果に含まれる識別情報の数をカウントすることで把握可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 ポット精紡機、2 ドラフト装置、3 粗糸供給停止装置、4 導糸管、5 ポット、7 検査装置、8 楔部、15 バックローラ対、15a バックトップローラ、15b バックボトムローラ、16 ミドルローラ対、17 フロントローラ対、9 粗糸、20 糸、31 カメラ、32 画像処理部、61~63 紡錘。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13