(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリエステル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20230111BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230111BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230111BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20230111BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L63/00 A
C08K3/22
C08K5/521
C08K7/02
(21)【出願番号】P 2018172143
(22)【出願日】2018-09-14
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2017185848
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大眉 有紀年
(72)【発明者】
【氏名】山川 隆行
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 誠
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-133790(JP,A)
【文献】特開2013-173822(JP,A)
【文献】特開平08-073707(JP,A)
【文献】特開2011-132313(JP,A)
【文献】特開2011-127048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/00-63/91
C08L67/00-67/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)ハロゲン化エポキシ化合物25~40重量部、(C)三酸化アンチモン7~12重量部、(D)強化繊維20~80重量部、および(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェート0.1~1.0重量部を配合し
、前記(B)ハロゲン化エポキシ化合物が末端をトリブロモフェノールで封鎖した化合物である、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェートの分子量が200以上2000以下である請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェートがオクタデシルアシッドホスフェートである請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる電気電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形時の粘度増大を抑制できる樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた機械物性などの諸特性を生かし、機械機構部品、電気・電子部品、自動車部品などの幅広い分野に利用されている。
【0003】
熱可塑性ポリエステル樹脂は基本的に可燃性であるため、機械機構部品、電気・電子部品、自動車部品などの工業用材料として使用するには一般の化学的、物理的諸特性のバランス以外に火炎に対する安全性、すなわち難燃性が要求され、UL-94規格のV-0を示す高度な難燃性が必要とされる場合が多い。
【0004】
熱可塑性ポリエステル樹脂に難燃性を付与する方法としては、難燃剤としてハロゲン化エポキシ化合物、さらに難燃助剤として三酸化アンチモンを樹脂にコンパウンドする方法が一般的である。一方で、ハロゲン化エポキシ化合物は、コンパウンドや射出成形などの溶融時に粘度上昇を引き起こしやすく、成形滞留時に粘度上昇すると安定して成形品が成形できないことや得られる物性が安定しないなどという不具合が生じる課題があった。
【0005】
例えば、特許文献1~3のようにハロゲン化エポキシ化合物使用時の増粘を抑制するためにリン化合物を添加する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-118478号公報
【文献】特開2002-47400号公報
【文献】特開平7-41651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に記載のリン化合物を添加する方法では、溶融時における増粘改良効果は不十分であった。そのため、コンパウンド時に粘度上昇し、シリンダー内に増粘した熱可塑性樹脂が残存し炭化物が発生する問題があった。さらに増粘改良を狙ってリン化合物の添加量を増やすと、成形時に発生するガス量が増え、成形性に劣るという課題があった。
【0008】
以上のように、高度な難燃性を維持しながら、かつコンパウンド時や射出成形時の溶融時における粘度安定性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が求められているが、従来の技術ではこれを十分に満たすことは出来なかった。
【0009】
すなわち本発明は、高い難燃性を維持しながら、コンパウンド時の炭化物発生を抑制し射出成形時の溶融時における粘度増大を抑制できるとともに、射出成形時のガス発生量が少ない熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、以下の構成を有する。
(1)(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)ハロゲン化エポキシ化合物25~40重量部、(C)三酸化アンチモン7~12重量部、(D)強化繊維20~80重量部、および(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェート0.1~1.0重量部を配合し、前記(B)ハロゲン化エポキシ化合物が末端をトリブロモフェノールで封鎖した化合物である、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(2)前記(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェートの分子量が200以上2000以下である(1)に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(3)前記(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェートがオクタデシルアシッドホスフェートである(1)または(2)に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(4)(1)~(3)のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる電気電子部品。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、高度な難燃性を維持しながら、コンパウンド時の炭化物発生を抑制しかつ射出成形時の粘度安定性に優れ、かつ射出成形時のガス発生量が少ない熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)ハロゲン化エポキシ化合物25~40重量部、(C)三酸化アンチモン7~12重量部、(D)強化繊維20~80重量部、および(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェート0.1~1.0重量部を配合してなる。本発明のポリブチレンテレフタレート組成物は、樹脂組成物を構成する個々の成分同士が反応した反応物を含むが、当該反応物は高分子同士の複雑な反応により生成されたものであるから、その構造を特定することは実際的でない事情が存在する。したがって、本発明は配合する成分により発明を特定するものである。
【0013】
本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステルとしては、ジカルボン酸(あるいは、そのエステル形成誘導体)とジオール(あるいは、そのエステル形成誘導体)とを主成分とする重縮合反応によって得られる重合体ないしは共重合体などが使用できる。
【0014】
上記ジカルボン酸としてテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、2,5-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、4,4’-p-ターフェニレンジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸などが挙げられ、テレフタル酸が好ましく使用できる。
【0015】
これらのジカルボン酸は2種以上を混合して使用してもよい。なお、少量であればこれらのジカルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸を一種以上混合して使用することができる。
【0016】
また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-メチル1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびそれらの混合物などが挙げられる。なお少量であれば、分子量400~6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを1種以上共重合せしめてもよい。
【0017】
これらの重合体ないし共重合体の好ましい例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリヘキシレンテレフタレート(PHT)、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート、ポリシクロヘキサン-1,4-ジメチロールテレフタレートなどのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートなどの共重合ポリエステルが挙げられる。これらのうち、ポリブチレンテレフタレートが好ましく使用できる。なお、ここで「/」は共重合体を意味する。
【0018】
本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル末端基量は、特に限定されないが、流動性、耐加水分解性および耐熱性の点で、50eq/t以下であることが好ましく、30eq/t以下であることがより好ましく、20eq/t以下であることがさらに好ましい。カルボキシル末端基量の下限値は0eq/tであってもよい。なお、本発明において、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル末端基量は、熱可塑性ポリエステル樹脂をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。
【0019】
本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の粘度は、溶融混練が可能であれば特に限定されないが、成形性の点で、o-クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.36~1.60dl/gの範囲であることが好ましく、0.50~1.50dl/gの範囲であることがより好ましい。
【0020】
本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などにより製造することができ、バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができる。
【0021】
また、本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は2種類以上を混ぜて使用することができる。
【0022】
なお、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましく、重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイドおよびブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられるが、これらの内でも有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、さらに、チタン酸のテトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステルおよびテトライソプロピルエステルが好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステルが特に好ましい。これらの重合反応触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することもできる。重合反応触媒の添加量は、機械特性、成形性および色調の点で、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.005~0.5重量部の範囲が好ましく、0.01~0.2重量部の範囲がより好ましい。
【0023】
本発明で使用する(B)ハロゲン化エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を有し、少なくとも1つのハロゲン原子を有する物質であれば特に限定されるものではなく、具体的には、テトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマーまたはポリマー、ブロム化フェノールノボラックエポキシなどのブロム化エポキシ樹脂が好ましい。
【0024】
(B)ハロゲン化エポキシ化合物は、トリブロモフェノールなどで末端を封鎖したものを用いても構わない。
【0025】
また、(B)ハロゲン化エポキシ化合物の添加量は、難燃性、加水分解性、および金属汚染の点から、本発明の(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、25~40重量部であり、好ましくは27~38重量部、より好ましくは30~35重量部である。上記難燃剤は、1種で用いても、2種以上併用して用いても構わない。
【0026】
本発明で使用する(C)三酸化アンチモンとは、ハロゲン化エポキシ化合物と併用することによって、相乗的に難燃性を向上させることができるものである。表面処理などが施されている三酸化アンチモンも使用できる。
【0027】
また、(C)三酸化アンチモンの添加量は、難燃性、加水分解性、および金属汚染の点から、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、7~12重量部であり、好ましくは8~11重量部、より好ましくは9~10重量部である。三酸化アンチモンは、1種で用いても、2種以上併用して用いても構わない。
【0028】
本発明で使用する(D)強化繊維とは、ガラス繊維、アラミド繊維、および炭素繊維などが挙げられる。上記のガラス繊維としては、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維であり、アミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラック系エポキシ化合物などの一種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられる。また、上記のシランカップリング剤および/または集束剤はエマルジョン液で使用されていてもよい。
【0029】
また、(D)強化繊維は本発明の樹脂組成物の機械強度を向上させるのに大きな効果があり、その配合量は、射出成形時の流動性と射出成形機や金型の耐久性の点から、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、20~80重量部であり、好ましくは20~70重量部、より好ましくは20~60重量部である。
【0030】
本発明で使用する(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェートとは、例えばメチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ドデシルアシッドホスフェート、オクタデシルアシッドホスフェートなどが挙げられる。これらを一種以上含む混合物であっても良い。特に、好ましく用いられる脂肪族アルキルアシッドホスフェートとしては、オクタデシルアシッドホスフェートが挙げられる。リン系安定剤の中でも、(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェートを用いることにより、射出成形時の溶融時における粘度増大を抑制できる。
【0031】
本発明において、(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェートの分子量は、好ましくは、200~2000であり、300~1000がより好ましく、400~800がさらに好ましい。200以上とすることで、加熱時の発生ガス量を抑制することができ、2000以下とすることで樹脂組成物中の分散性が良くなるため、滞留安定性が向上する。
【0032】
本発明において、(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェートの配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.1~1.0重量部であり、0.03~0.8重量部がより好ましく、0.05~0.5重量部がさらに好ましい。0.1重量部以上で十分な溶融滞留安定性、炭化物発生抑制や加熱時の発生ガス量低減効果が得られ、1.0重量部以下では良好な機械特性が得られる。
【0033】
また、本発明においては、さらに(D)強化繊維以外の無機充填材を配合することができる。これは、本発明の成形品の結晶化特性、耐アーク性、異方性、機械強度、難燃性あるいは熱変形温度などの一部を改良するものであり、とくに、異方性に効果があるためソリの少ない成形品が得られる。かかる強化繊維以外の無機充填材としては、限定されるものではないが針状、粒状、粉末状および層状の無機充填材が挙げられ、具体例としては、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスフレーク、チタン酸カリウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、ワラステナイト、シリカ、カオリン、タルク、スメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイト、ヘクトライト)、バーミキュライト、マイカ、フッ素テニオライト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウム、およびドロマイトなどが挙げられ、一種以上で用いられる。とくに、ガスビーズ、ガラスフレーク、カオリン、タルクおよびマイカを用いた場合は、異方性に効果があるためソリの少ない成形品が得られる。
【0034】
また、上記の強化繊維以外の無機充填材には、カップリング剤処理、エポキシ化合物、あるいはイオン化処理などの表面処理が行われていても良い。また、粒状、粉末状および層状の無機充填剤の平均粒径は衝撃強度の点から0.1~20μmであることが好ましく、特に5~15μmであることが好ましい。また、強化繊維以外の無機充填材の配合量は、成形時の流動性と成形機や金型の耐久性の点から強化繊維の配合量と合わせて、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、20~80重量部を越えない量が好ましい。
【0035】
本発明においては、さらに本発明の樹脂組成物が長期間高温にさらされても極めて良好な耐熱エージング性を有するための安定剤として、ヒンダードフェノール系化合物および/またはホスファイト系化合物などの酸化防止剤を配合できる。ヒンダードフェノール系酸化化合物および/またはホスファイト系化合物を配合する場合の配合量は、耐熱エージング性と難燃性の点から、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01~5重量部、好ましくは0.02~4重量部、より好ましくは0.03~3重量部である。
【0036】
また、前記のヒンダードフェノール系化合物の例としては、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビスもしくはトリス(3-t-ブチル-6-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、N,N’-トリメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)などが挙げられる。
【0037】
また、前記のホスファイト系化合物の例としては、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルオスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、アルキルアリル系ホスファイト、トリアルキルホスファイト、トリアリルホスファイト、ペンタエリスリトール系ホスファイト化合物などが挙げられる。
【0038】
本発明においては、さらに滑剤を一種以上添加することにより、成形時の離型性を改良することが可能である。かかる滑剤としては、ステアリン酸カルウシム、ステアリン酸バリウムなどの金属石鹸、脂肪酸エステル、脂肪酸エステルの塩(一部を塩にした物も含む)、エチレンビスステアロアマイドなどの脂肪酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸およびセバシン酸からなる重縮合物あるいはフェニレンジアミンとステアリン酸およびセバシン酸の重縮合物からなる脂肪酸アミド、ポリアルキレンワックス、酸無水物変性ポリアルキレンワックスおよび上記の滑剤とフッ素系樹脂やフッ素系化合物の混合物が挙げられるがこれに限定されるものではない。滑剤を配合する場合の添加量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01~5重量部、好ましくは0.02~4重量部、より好ましくは0.03~3重量部である。
【0039】
本発明においては、さらに、カーボンブラック、酸化チタン、および種々の色の顔料や染料を1種以上配合することにより種々の色に樹脂を調色し、耐候(光)性、および導電性を改良することも可能であり、顔料や染料の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01~5重量部、好ましくは0.02~4重量部、より好ましくは0.03~3重量部である。
【0040】
また、前記のカーボンブラックとしては、限定されるものではないが、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、アントラセンブラック、油煙、松煙、および、黒鉛などが挙げられ、平均粒径500nm以下、ジブチルフタレート吸油量50~400cm3/100gのカーボンブラックが好ましく用いられ、処理剤として酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、ポリオール、シランカップリング剤などで処理されていてもよい。
【0041】
また、上記の酸化チタンとしては、ルチル形、あるいはアナターゼ形などの結晶形を持ち、平均粒子径5μm以下の酸化チタンが好ましく用いられ、処理剤として酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、ポリオール、シランカップリング剤などで処理されていてもよい。また、上記のカーボンブラック、酸化チタン、および種々の色の顔料や染料は、本発明の難燃性樹脂組成物との分散性向上や製造時のハンドリング性の向上のため、種々の熱可塑性樹脂と溶融ブレンドあるいは単にブレンドした混合材料として用いてもよい。とくに、前記の熱可塑性樹脂としては、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0042】
本発明は、本発明の効果を損なわない範囲で、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂以外の樹脂を配合することができる。本発明で使用する(A)熱可塑性ポリエステル樹脂以外の樹脂としては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれも用い得るが、成形性の点から熱可塑性樹脂が好ましい。樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、芳香族および脂肪族ポリケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、熱可塑性澱粉樹脂、ポリウレタン樹脂、MS樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリエーテルイミド樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂などを挙げることができる。
【0043】
その他にはエチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、各種アクリルゴム、エチレン-アクリル酸共重合体およびそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(たとえば、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体)、酸変性エチレン-プロピレン共重合体、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴムなども挙げられ、更に、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するもの、ビニル基などを有するもの、或いは各種の平均粒径(樹脂組成物中における)を有するものや、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成されるいわゆるコアシェルゴムと呼ばれる多層構造重合体なども使用することができ、さらにシリコーン化合物を含有したコアシェルゴムも使用することができる。
【0044】
また、上記具体例に挙げた各種の(共)重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体およびグラフト共重合体などのいずれであっても用いることができ、1種で用いても、2種以上併用して用いてもかまわない。
【0045】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、通常公知の方法で製造される。例えば、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)ハロゲン化エポキシ化合物、(C)三酸化アンチモン、(D)強化繊維、および(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェート、さらに必要に応じて強化繊維以外の無機充填材、酸化防止剤、滑剤およびさらに必要に応じてその他の必要な添加剤や顔料や染料などの着色剤を予備混合して、または予備混合せずに押出機などに供給して十分溶融混練することにより本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が調製される。
【0046】
上記の予備混合の例として、ドライブレンドするだけでも可能であるが、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合することが挙げられる。また、(D)強化繊維は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加する方法であってもよい。また、液体の添加剤の場合は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加する方法や元込め部などから定量ポンプで供給する方法などであってもよい。
【0047】
また、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を製造するに際し、限定されるものではないが、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機などを用いることができる。
【0048】
かくして得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、通常公知の方法で射出成形することによって本発明の成形品が得られる。前記の射出成形方法としては、通常の射出成形方法以外にガスアシスト法、2色成形法、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
【0049】
また、射出成形機の構造を簡単に述べると、プラスチックスを加熱溶融混練後、溶融プラスチックスを高圧で射出する部分と射出された溶融プラスチックスを所定の形状(成形品)に冷却固化させる金型から構成されており、本発明の特定の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形する際の金型温度は、30℃~90℃の範囲の一定温度で温調されていることが不良品の少ない成形品を得られることから好ましい。
【0050】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる電気電子部品とは、本発明の難燃性、機械特性、および射出成形性に優れる特徴を活かした成形品であり、ブレーカー、電磁開閉器、フォーカスケース、フライバックトランス、複写機やプリンターの定着機用成形品、一般家庭電化製品、OA機器などのハウジング、バリコンケース部品、各種端子板、変成器、プリント配線板、ハウジング、端子ブロック、コイルボビン、コネクター、リレー、ディスクドライブシャーシー、トランス、スイッチ部品、コンセント部品、モーター部品、ソケット、プラグ、コンデンサー、各種ケース類、抵抗器、金属端子や導線が組み込まれる電気・電子部品、コンピューター関連部品、音響部品などの音声部品、照明部品、電信・電話機器関連部品、エアコン部品、VTRやテレビなどの家電部品、複写機用部品、ファクシミリ用部品、光学機器用部品などの成形品が挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明の効果を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例8は参考例である。また、各特性の測定方法は以下の通りである。
【0052】
[参考例]
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂
<A-1>ポリブチレンテレフタレート樹脂、東レ(株)社製“1100S”を、用いた。(以下、PBTと略す)。
<A-2>ポリエチレンテレフタレート樹脂、三井ペット樹脂(株)社製三井PET“J005”固有粘度が0.63のPETを用いた(以下、PETと略す)。
【0053】
(B)ハロゲン化エポキシ化合物
<B-1>テトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマー、トリブロモフェノール末端 阪本薬品工業(株)社製“SR-T3040”を用いた。
<B-2>テトラブロムビスフェノール-A-エポキシポリマー、阪本薬品工業(株)社製“SR-T5000”を用いた。
【0054】
(C)三酸化アンチモン
<C-1>三酸化アンチモン、日本精鉱(株)社製“PATOX-MK”を用いた。
【0055】
(D)強化繊維
<D-1>繊維径約13μmのチョップドストランド状のガラス繊維、日本電気硝子社製“T-187”を用いた。
【0056】
(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェート
<E-1>アデカ社製オクタデシルアシッドホスフェート“AX-71”分子量490を用いた。
<E-2>“ドデシルアシッドホスフェート”分子量382を用いた。
<E-3>メチルアシッドホスフェートで分子量119のものを用いた。
【0057】
(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェートに該当しない化合物
<E’-1>住友化学社製 6-t-ブチル-4-[3-(2,4,8,10‐テトラ‐t‐ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-6-イルオキシ)プロピル]-o-クレゾール“スミライザーGP”を用いた。
<E’-2>米山化学社製 特級試薬 “リン酸トリメチル”を用いた。
<E’-3>米山化学社製 特級試薬 “リン酸1ナトリウム2水和物”を用いた。
<E’-4>アデカ社製 3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン“PEP-8”を用いた。
【0058】
[各特性の測定方法]
本実施例、比較例においては以下に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
【0059】
(1)燃焼性
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度270℃、金型温度80℃の温度条件、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で試験片厚み1/32インチおよび1/64インチの難燃性評価用試験片を用い、UL94垂直試験に定められている評価基準に従い、難燃性を評価した。難燃性はV-0>V-1>V-2の順に低下しランク付けされる。また、1/64インチV-0の場合、◎と判定し、1/32インチの場合、○と判定、1/32インチでV-1またはV-2の場合、×と判定した。
【0060】
(2)滞留安定性
メルトインデクサー(東洋精機社製)を使用し、予め130℃、3時間乾燥させたペレットを用い、ISO1133に従って試験温度270℃、荷重1000gの条件下、測定を行なった。その際、20分滞留時MFRと5分滞留時MFRを測定し、以下のように増粘性を評価した。
滞留MFR変化率(%)
=(1-(20分滞留時MFR/5分滞留時MFR))×100
変化率が±20%未満は○、±20%以上を×と判定した。
【0061】
(3)低ガス性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、(株)TABAI ESPEC製パーフェクトオーブンを用いて270℃で0.5h加熱処理し、以下の算出式より加熱による重量減少率を求め、低ガス性の評価を行った。
重量減少率(%)={1-(加熱処理後の重量/加熱処理前の重量)}×100
重量減少率が0.3%未満であれば○、0.3%以上であれば×と判定した。
【0062】
(4)炭化物発生量
日本製鋼所製J55AD射出成形機を用いて、成形温度280℃、金型温度80℃の温度条件で、各実施例および比較例により得られた樹脂組成物をスクリュウ内において可塑化し15分滞留させた後、射出と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間は10秒の成形条件で80×80×1mmtの角板を得た。得られた角板を用い、島津製デジタルマイクロスコープVHX-500Fを用いて倍率20倍以上の視野で確認できるΦ0.5mm以上の炭化物個数を炭化物発生量として評価した。
【0063】
[実施例1~11]、[比較例1~9]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き2軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)を用いて、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)ハロゲン化エポキシ化合物、(C)三酸化アンチモン、(E)脂肪族アルキルアシッドホスフェートなどを表1~表4に示した配合組成で混合し、元込め部から添加した。なお、(D)強化繊維は、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。
【0064】
さらに、混練温度270℃、スクリュー回転150rpmの押出条件で溶融混合を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃の熱風乾燥機で3時間乾燥後、東芝機械製IS55EPN射出成形機を用い、各種成形品を得た。さらに、前記の測定方法で種々の値を測定し、同じく表1~表2にその結果を示した。
【0065】
【0066】
【0067】
表1の実施例1~実施例11から、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、射出成形時の燃焼性、滞留安定性、炭化物発生抑制、低ガス性に優れる樹脂組成物と言える。
【0068】
表2の比較例1~9から、(E’)脂肪族アルキルアシッドホスフェートに該当しない化合物を配合した場合、本発明の(A)成分~(E)成分のいずれかを配合しない場合、あるいは(A)成分~(E)成分が特定範囲外の配合量である場合においては、燃焼性、滞留安定性、炭化物発生抑制、および低ガス性に課題のある樹脂組成物であることが明らかである。