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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】肌状態改善剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20230111BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230111BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230111BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230111BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALN20230111BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
G01N33/68
C12Q1/02
G01N33/50 Q
C12Q1/6813 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018172370
(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公開番号】P2020046195
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100168996
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 雅美
(72)【発明者】
【氏名】錦織 秀
(72)【発明者】
【氏名】佐々 祥子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 啓貴
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-147777(JP,A)
【文献】特表2015-505242(JP,A)
【文献】特開2014-171441(JP,A)
【文献】特開2018-072098(JP,A)
【文献】特開2017-178920(JP,A)
【文献】佐藤暢彦ほか,C2C12細胞筋管由来マイオカインが皮膚線維芽細胞に与える影響解析,日本薬学会第138年会講演予稿集,日本,2018年03月,26PA-pm279
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII),
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格筋細胞におけるマイオカインの分泌活性を指標として、肌状態改善剤をスクリーニングする方法であって、
前記マイオカインが、真皮線維芽細胞及び/又は表皮細胞において、肌状態に関連する遺伝子の発現量を変動させるものであり、
前記マイオカインが、マイオネクチン、アディポネクチン、カテプシンB、MCP-1、FSTL1、IL-4、及びCCL20から選択される、方法
【請求項2】
被験物質を添加した骨格筋細胞における前記マイオカインの分泌活性が、被験物質を添加しなかった骨格筋細胞における分泌活性と比較して大きい又は小さい場合に、前記被験物質は肌状態改善作用を有すると判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記肌状態が、ハリ・弾力、色素沈着、炎症、バリア機能、及び薄毛から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記遺伝子が肌状態を向上させる機能を有し、かつ前記発現量の変動が亢進である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記遺伝子が、COL18A1、ELN、FGF7、HAS1、LAMA1、FLG、KRT2及びKRT4から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝子が肌状態を低下させる機能を有し、かつ前記発現量の変動が抑制である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記遺伝子が、IL-6、MMP2、MMP11、MMP12、MMP15、MMP16、MMP25、PTGIS、及びEDN1から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のスクリーニング方法を行う工程、前記工程により肌状態改善作用を有すると判定された被験物質を選択する工程、及び前記選択された物質を組成物に含有させることを決定する工程を含む、肌状態改善用組成物の設計方法。
【請求項9】
前記組成物が皮膚外用剤又は飲食品である、請求項に記載の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌状態改善剤をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肌のハリ・弾力、シワ、色素沈着など、肌状態の良し悪しは、見た目の印象に大きな影響を与えるものであるため、その改善への関心は高い。そのため、抗老化用、抗シワ用、美白用等の肌状態の改善に有用な化粧料の需要は近年大きくなっており、盛んに開発されている。また、それらの化粧料に含有させる、抗老化剤、抗シワ剤、美白剤等の有効成分にもととなり得る成分の、新たなメカニズムによるスクリーニング方法も種々提案されている(特許文献1~3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-119665号公報
【文献】特開2017-112892号公報
【文献】特開2016-063784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の肌状態改善剤では、ある程度の改善効果は認められるものの、十分に満足のいく効果が得られているとは言い難い。また、肌状態を向上させるメカニズムのさらなる解明も求められている。
本発明は、かかる状況に鑑み、新たなアプローチにより肌状態改善剤として有効な成分を探索することを目的とし、そのための新たなスクリーニング方法を確立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、筋肉と肌状態との関係に着目し、筋肉から分泌されるサイトカインであるマイオカイン(Myokine)が、皮膚において種々機能し肌状態に関与する遺伝子の発現を変動させることを見出した。そして、骨格筋細胞におけるマイオカインの分泌活性を変動、すなわち増大又は減少させる物質が、肌状態改善剤の有効成分となり得ることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]骨格筋細胞におけるマイオカインの分泌活性を指標として、肌状態改善剤をスクリーニングする方法。
[2]被験物質を添加した骨格筋細胞における前記マイオカインの分泌活性が、被験物質を添加しなかった骨格筋細胞における分泌活性と比較して大きい又は小さい場合に、前記被験物質は肌状態改善作用を有すると判定する、[1]に記載の方法。
[3]前記肌状態が、ハリ・弾力、色素沈着、炎症、バリア機能、及び薄毛から選択される、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記マイオカインが、真皮線維芽細胞及び/又は表皮細胞において、肌状態に関連する遺伝子の発現量を変動させるものである、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。[5]前記マイオカインが、マイオネクチン、アディポネクチン、カテプシンB、MCP-1、FSTL1、IL-4、及びCCL20から選択される、[4]に記載の方法。
[6]前記遺伝子が肌状態を向上させる機能を有し、かつ前記発現量の変動が亢進である、[4]又は[5]に記載の方法。
[7]前記遺伝子が、COL18A1、ELN、FGF7、HAS1、LAMA1、FLG、KRT2及びKRT4から選択される、[6]に記載の方法。
[8]前記遺伝子が肌状態を低下させる機能を有し、かつ前記発現量の変動が抑制である、[4]又は[5]に記載の方法。
[9]前記遺伝子が、IL-6、MMP2、MMP11、MMP12、MMP15、MMP16、MMP25、PTGIS、及びEDN1から選択される、[8]に記載の方法。[10][1]~[9]のいずれかに記載のスクリーニング方法を行う工程、及び前記工程により選択された物質を含有させる工程を含む、肌状態改善用組成物の設計方法。
[11]前記組成物が皮膚外用剤又は飲食品である、[10]に記載の設計方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、皮膚外用剤や飲食品に含有させるのに好適な、肌状態改善剤として有効な成分を探索できるスクリーニング方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の肌状態改善剤のスクリーニング方法は、骨格筋細胞におけるマイオカインの分泌活性を指標とすることを特徴とする。
本発明者らは、筋肉から分泌されるマイオカインが、皮膚において種々機能し肌状態に関与する遺伝子の発現を変動させることを見出した。かかる遺伝子としては、例えば、ハリ・弾力、色素沈着、炎症、バリア機能、及び薄毛等の肌状態の変化に関与する酵素やサイトカイン等の遺伝子が挙げられ、これらの発現が変動すると肌状態が向上又は低下する。
【0009】
より具体的には、コラーゲンやエラスチン等の線維状タンパク質の合成や分解等に関与する酵素、ヒアルロン酸等の合成や分解等に関与する酵素、細胞間基質の合成や分解等に関与する酵素などの遺伝子の発現が変動しその活性が変動すると、ハリ・弾力が向上又は低下する。メラニンの生成、輸送、分解等に関与する酵素やサイトカインなどの遺伝子の発現が変動しその活性が変動すると、色素沈着が向上又は低下する。炎症性サイトカインなどの遺伝子の発現が変動しその活性が変動すると、炎症が進行又は抑制される。なお、皮膚における炎症は、シワやニキビ等の発生にも至る。保水機能や紫外線吸収能を有する天然保湿因子や、角層の補修やターンオーバー、細胞接着等に関与する酵素などの遺伝子の発現が変動しその活性が変動すると、バリア機能が向上又は低下する。毛母細胞の分化や増殖等に関与する酵素などの遺伝子の発現が変動しその活性が変動すると、及び薄毛が進行又は抑制される。
かかるフローにおいて、骨格筋細胞におけるマイオカインの分泌活性を増強又は減弱させることによって、前記肌状態に関連する遺伝子が肌状態を向上させる又は悪化させない方向に発現が変動させれば、肌状態を改善することができる。言い換えると、皮膚において所定の遺伝子の活性を亢進又は抑制させるマイオネクチンの骨格筋細胞における分泌活性を増強又は減弱させるような物質は、肌状態改善剤となり得る。
【0010】
本発明のスクリーニング方法において指標となるマイオカインの分泌活性とは、通常は骨格筋細胞からのマイオカインの分泌量である。
【0011】
本発明のスクリーニング方法の好ましい態様においては、被験物質を添加した骨格筋細胞における前記マイオカインの分泌活性が、被験物質を添加しなかった骨格筋細胞における分泌活性(コントロール)と比較して大きい又は小さい場合に、前記被験物質は肌状態改善作用を有すると判定される。
【0012】
本発明のスクリーニング方法において指標とするマイオカインは、真皮線維芽細胞及び/又は表皮細胞において、肌状態に関連する遺伝子の発現量を変動させるものである。
ここで、マイオカインが、真皮線維芽細胞及び/又は表皮細胞において、前記発現量を変動させるか否かは、例えばマイオカインを添加した真皮線維芽細胞及び/又は表皮細胞における発現量を測定することにより確認することができ、前記発現量が、マイオカインを添加しなかった細胞における発現量(コントロール)と比較して大きい又は小さい場合に、前記マイオカインは該遺伝子の発現量を変動させるものであると判断する。ここで、発現量とは、肌状態に関連する遺伝子のmRNAの転写量と、該タンパク質の翻訳量との何れかを指すものとする。また、変動が大きい方の程度としてはコントロールに対して120%以上が好ましく、変動が小さい方の程度としてはコントロールに対して80%以下が好ましい。
【0013】
本発明のスクリーニング方法の好ましい態様では、指標とするマイオカインが発現量を変動させる肌状態に関連する遺伝子は、肌状態を向上させる機能を有するものである。そのような遺伝子としては、特に限定されないが、COL18A1、ELN、FGF7、HAS1、LAMA1、FLG、KRT2、KRT4等が挙げられる。これらの遺伝子の機能と関連する肌状態を表1及び2に示す。
【0014】
本発明のスクリーニング方法の好ましい態様では、指標とするマイオカインが発現量を変動させる肌状態に関連する遺伝子は、肌状態を低下させる機能を有するものである。そのような遺伝子としては、特に限定されないが、IL-6、MMP2、MMP11、MMP12、MMP15、MMP16、MMP25、PTGIS、EDN1等が挙げられる。これらの遺伝子の機能と関連する肌状態を表3及び4に示す。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
【表3】
【0018】
【表4】
【0019】
本発明のスクリーニング方法の好ましい態様では、指標とするマイオカインは、真皮線維芽細胞及び/又は表皮細胞において肌状態に関連する遺伝子の発現量を変動させるものであれば特に限定されず、例えばマイオネクチン、アディポネクチン、カテプシンB、MCP-1、FSTL1、IL-4、CCL20等が挙げられる。
また、肌状態に関連する遺伝子が肌状態を向上させる機能を有するものである場合、本発明のスクリーニング方法において指標とするマイオカインは、前記遺伝子の発現量を亢進させるものである。また、肌状態に関連する遺伝子が肌状態を低下させる機能を有するものである場合、本発明のスクリーニング方法において指標とするマイオカインは、前記発現量の変動を抑制させるものである。
表5に、上記マイオカインと、それにより発現が変動する遺伝子の組み合わせを例示するが、これらに限定されない。
【0020】
【表5】
【0021】
本発明のスクリーニング方法に用いる細胞としては、骨格筋細胞(筋芽細胞を含む)を用い、通常は、ヒト由来の正常な細胞を用いる。
細胞の培養の条件としては、通常の培養条件の他、本発明のスクリーニング方法の実行を妨げない、具体的にマイオネクチンの分泌活性(分泌量等)の測定を妨げない培養条件であれば、特段の限定なく適用することができる。
【0022】
本発明のスクリーニング方法が対象とする被験物質は、純物質、動植物由来の抽出物、またはそれらの混合物等のいずれであってもよい。
動植物由来の抽出物は、動物又は植物由来の抽出物自体のみならず、抽出物の画分、精製した画分、抽出物又は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味するものとし、植物由来の抽出物は、自生若しくは生育された植物、漢方生薬原料等として販売されるものを用い
た抽出物、市販されている抽出物等が挙げられる。
抽出操作は、植物部位の全草を用いるほか、植物体、地上部、根茎部、木幹部、葉部、茎部、花、花蕾、果実等の部位を使用することできるが、予めこれらを粉砕あるいは細切して抽出効率を向上させることが好ましい。抽出溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、1,3-ブタンジオール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類等の極性溶媒から選択される一種又は二種以上が好適なものとして例示することができる。具体的な抽出方法としては、例えば、植物体等の抽出に用いる部位又はその乾燥物1質量部に対して、溶媒を1~30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬し、室温まで冷却した後、所望により不溶物及び/又は溶媒除去し、カラムクロマトグラフィー等で分画精製する方法が挙げられる。
【0023】
本発明のスクリーニング方法における手順の一例を以下に挙げるが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
まず、プレ培養した骨格筋細胞に被験物質を添加し、24~48時間インキュベーションする。その後、培養上清中のマイオカイン濃度を、ELISA等で定量的に測定する。コントロールとして被験物質を添加しなかった骨格筋細胞においても培養上清中のマイオカイン濃度を測定する。被験物質を添加した細胞におけるマイオカイン濃度が、被験物質を添加しなかった細胞におけるマイオカイン濃度(コントロール)に対して大きい又は小さい場合、前記被験物質は肌状態改善作用を有すると判定する。具体的には、指標とするマイオカインが、肌状態を向上させる機能を有する遺伝子の発現量を亢進させるものである場合、又は肌状態を低下させる機能を有する遺伝子の発現量を抑制させるものである場合、被験物質を添加した細胞におけるマイオカイン濃度がコントロールに対して大きいときに、前記被験物質は肌状態改善作用を有すると判定する。また、指標とするマイオカインが、肌状態を向上させる機能を有する遺伝子の発現量を抑制させるものである場合、又は肌状態を低下させる機能を有する遺伝子の発現量を亢進させるものである場合、被験物質を添加した細胞におけるマイオカイン濃度がコントロールに対して小さいときに、前記被験物質は肌状態改善作用を有すると判定する。該判定された物質は、肌状態改善用の組成物に好適に含有し得る肌状態改善剤となり得る。また、指標としたマイオカインが発現量を変動させる遺伝子が関与する肌状態の種類により、前記判定された物質が改善しうる具体的な肌状態を推定することができる。
なお、マイオカイン濃度等の分泌活性の変動の程度としては、変動が増強の場合はコントロールに対して110%以上が好ましく、120%以上がより好ましく、150%以上がさらに好ましい。また、変動が減弱の場合はコントロールに対して90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、50以下がさらに好ましい。
【0024】
スクリーニングにより選択された被験物質が肌状態改善作用を有することは、例えば、該物質を含有する組成物を適用した被験者の自覚による評価、熟練の評価者による官能評価、画像解析によるメラニン量、シミ、シワ、タルミ等の評価、皮膚の粘弾物性の評価、皮膚のコラーゲン産生量の評価、皮膚の水分保持量やTEWLの評価、毛量の評価など、周知の方法によって確認することができる。
【0025】
本発明のスクリーニング方法により肌状態を改善する作用を有すると判定された物質(肌状態改善剤)は、任意の調製方法により組成物に含有させることができる。すなわち、本発明のスクリーニング方法は、肌状態改善用組成物の設計に好適に用いることができる。かかる組成物としては、例えば皮膚外用組成物や飲食品組成等を好適に挙げられる。また、肌状態改善用途としては、具体的にはハリ・弾力改善用、色素沈着改善用・美白用、抗炎症・抗シワ用、バリア機能改善用、薄毛改善用等が挙げられる。
【0026】
本発明のスクリーニングにより肌状態を改善する作用を有すると判定された物質(肌状態改善剤)を組成物に含有させる場合、その含有量(配合量)は、通常、0.00001質量%以上、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上であり、通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。肌状態改善剤の含有量(配合量)が少なすぎると所望の効果が得られにくい場合があり、多すぎると効果が頭打ちになるばかりか組成物の処方の自由度を損なう場合があるからである。また、組成物に含有させる肌状態改善剤の種類は、1種類のみでなく2種類以上であってもよい。なお、動植物抽出物等についてはその配合量は固形物換算量とする。
また、該組成物には、本発明のスクリーニングにより肌状態を改善する作用を有すると判定された物質以外の肌状態改善用成分、例えば他のハリ・弾力改善剤、色素沈着改善剤、美白剤、抗炎症剤、抗シワ剤、バリア機能改善剤、薄毛改善剤等もともに配合してもよい。
【0027】
本発明に係る肌状態改善剤を皮膚外用組成物に含有させる場合、その製造に際しては、化粧料、医薬部外品、医薬品などの製剤化で通常使用される成分を任意に配合することができる。
かかる任意成分としては例えば、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類、ホホバ油、カルナウバワックス、オレイン酸オクチルドデシルなどのエステル類、オリーブ油、牛脂、椰子油などのトリグリセライド類、ステアリン酸、オレイン酸、レチノイン酸などの脂肪酸、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール等の高級アルコール、スルホコハク酸エステルやポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤類、アルキルベタイン塩等の両性界面活性剤類、ジアルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、これらのポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤類、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3-ブタンジオール等の多価アルコール類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を任意に配合することができる。
該皮膚外用組成物は、常法に従って前述の成分を処理・配合することにより製造することができる。また、その形態は、例えば、ローション剤型、乳化剤型、オイル剤型など任意の剤型とすることができる。
【0028】
本発明に係る肌状態改善剤を飲食品に含有させる場合、その製造に際しては、食品製造において通常使用される成分を任意に配合することができる。
かかる任意成分としては例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪、栄養素、調味料及び香味料等を用いることができる。炭水化物としては、単糖類、例えば、ブドウ糖、果糖など;二糖類、例えば、マルトース、スクロース、オリゴ糖など;及び多糖類、例えば、デキストリン、シクロデキストリンなどのような通常の糖及び、キシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールが挙げられる。香味料としては、天然香味料(タウマチン、ステビア抽出物等)及び合成香味料(サッカリン、アスパルテーム等)を使用することができる。その他に、前述の医薬組成物で用いられる添加物であって通常食品にも添加されるものを同様に用いてもよい。
【0029】
飲食品の形態としては、液状、ペースト状、固体、粉末、顆粒等の形態を問わない。また、錠菓、流動食、飼料等も飲食品の態様に含まれる。
【0030】
また、他に一般の飲食品に含有させる態様であってもよく、例えば、パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉の小麦粉製品;、即席めん
、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品等の即席食品;農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等の農産加工品;水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等の水産加工品;畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等の畜産加工品;加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム、その他の乳製品等の乳・乳製品;バター、マーガリン類、植物油等の油脂類;しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等の基礎調味料;調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等の複合調味料・食品類;素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等の冷凍食品;キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子等の菓子類;炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料等の飲料類;これら以外の食品等に、本発明に係る肌状態改善剤を添加してもよい。
【0031】
本発明に係る肌状態改善剤を含有する食品組成物の態様としては、通常の食品、飲料、機能性表示食品、特定保健用食品等の保健機能食品、サプリメント等が挙げられ、特に機能性表示食品が好ましい。
本発明に係る食品組成物を肌状態改善用途、ハリ・弾力改善用途、色素沈着改善・美白用途、抗炎症・抗シワ用途、バリア機能改善用途、薄毛改善用途等とする場合、製品化の際にその有する有用性や機能性に関する表示を付してもよい。
かかる「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、「肌状態の改善用」「美白用」「肌のハリ・弾力改善用」、「抗炎症・抗シワ用」、「バリア機能改善用」、「薄毛改善用」といった用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本発明の「表示」行為に該当する。
また、「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装、容器等に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材等、若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。なお、本発明の食品組成物が保健機能食品等の行政が定める各種制度に基づいて認可を受けその認可のもとで実施される場合は、該認可に基づく態様で表示することが好ましい。
【0032】
本発明に係る肌状態改善剤を含有する食品組成物の好ましい摂取量は、成人が摂取する場合、該肌状態改善剤の固形物換算で1日当たり0.001~1000mg/kgとすることが、十分に効果が発揮される観点から好ましく、更に0.01~100mg/kg、特に0.1~10mg/kgとすることが好ましい。この1日分の量を一度に又は数回に分けて摂取することができる。また、単回摂取する他に、連続的に又は断続的に数週間~数か月の間摂取することが好ましい。
【実施例
【0033】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
<参考例>皮膚に対するマイオカインの影響の確認
HuMedia-KG2培地(クラボウ製)及びDMEM培地(Thermo FisherScientific製)を用いて、正常ヒト表皮細胞(クラボウ製、成人女性Hispanic由来、Lot:00703)及び正常ヒト真皮線維芽細胞(クラボウ製、成人女性Hispanic由来、Lot:00702)をそれぞれ24ウェルプレートに2×10cells/ウェル播種し培養した。播種24時間後にマイオカイン(アディポネクチン、マイオネクチン、カテプシンB、MCP-1、FSTL1、IL-4、CCL20)を各ウェルに一種類ずつ終濃度100ng/mLとなるように添加し、さらに培養した。24時間後に細胞を回収し、QIAcube(QIAGEN)にてRNAを抽出・精製した。精製したRNAサンプルをClariom S Assay, human(Thermo Fisher Scientific)を用いて解析した。そのデータをTranscriptome Analysis Console(TAC)ソフトウェア(Thermo Fisher Scientific)を用いて解析し、各細胞種のコントロールと比較して、各マイオカイン添加による遺伝子発現のシグナル比が>1.2又は<-1.2で、かつp値が<0.05の遺伝子であり、肌状態に関連することが知られている遺伝子を抽出した。
結果を表6に示す。マイオカインの添加により、線維芽細胞又は表皮細胞において肌状態に関連する遺伝子の発現量が変動することが分かる。
【0035】
【表6】
【0036】
<実施例>肌状態改善剤のスクリーニング
以下の手順で、マイオネクチンの分泌量を指標に、肌状態改善剤のスクリーニングを行った。
SkGM2培地(Lonza製)を用いて、ヒト太腿由来筋芽細胞(クラボウ製、新生児男性Caucasian由来、Lot:04211)を24ウェルプレートに1×10cells/ウェルで播種し、培養した。播種24時間後に表7に記載の被験試料を各ウェルに1種類ずつ添加した。2日後、マイオネクチンのELISAキット(Cloud-Clone Corp製、製品番号:SEU540Hu)を用いて培養上清のマイオネクチン濃度を解析した。コントロール細胞の培養上清のマイオネクチン濃度を100%としたときの、被験試料を添加した細胞の培養上清の相対マイオネクチン濃度を算出した。
【0037】
結果を表7に示す。その結果、クロバナツルアズキエキス及びノニエキスを添加した筋芽細胞において、マイオネクチンの分泌が促進されたことが確認された。なお、これらのエキスはハリ・弾力等の肌状態改善作用を有することが既に知られており、マイオカインの分泌活性を指標とする本発明の方法により、肌状態改善剤をスクリーニングできることが示された。
一方、ハスエキス及びフキタンポポエキスは筋芽細胞におけるマイオネクチンの分泌を抑制し、温泉水及びマタタビエキスは筋芽細胞におけるマイオネクチンの分泌に影響を与えなかった。
【0038】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のスクリーニング方法により、肌状態改善剤として有効な成分を探索することができる。かかる肌状態改善剤は、肌状態改善用途の皮膚外用剤や飲食品に好適に含有させることができるため、産業上非常に有用である。