(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】動力伝達ベルトの張力調整装置及び張力調整装置を備える研削盤
(51)【国際特許分類】
F16H 7/12 20060101AFI20230111BHJP
B24B 47/12 20060101ALI20230111BHJP
B24B 5/04 20060101ALI20230111BHJP
B23Q 5/04 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
F16H7/12 A
B24B47/12
B24B5/04
B23Q5/04 510C
(21)【出願番号】P 2018173213
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清田 大
(72)【発明者】
【氏名】加藤 育也
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特表昭58-501389(JP,A)
【文献】実開昭62-066370(JP,U)
【文献】特開2000-130567(JP,A)
【文献】特開平10-274297(JP,A)
【文献】特開2006-068847(JP,A)
【文献】特開2012-077868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/12
B24B 47/12
B24B 5/04
B23Q 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達ベルトの張力調整装置において、
固定部材と、
前記動力伝達ベルトを付勢して前記動力伝達ベルトの張力を変更する付勢用プーリと、
前記付勢用プーリを回転可能に支持し、且つ、前記固定部材が備えるガイド部材に係合され、前記付勢用プーリによる前記動力伝達ベルトへの付勢方向へ前記固定部材に対して往復動可能にガイドされるスライド部材と、
前記固定部材と前記スライド部材との間に配置され、前記付勢用プーリが前記動力伝達ベルトを付勢する方向に前記スライド部材を付勢する弾性部材と、
を備え、
前記スライド部材は、第一部材および第二部材を備え、
前記第一部材には、前記ガイド部材が挿通されるガイド軸用貫通孔が上下方向に延在するように形成され、
前記付勢用プーリは、前記第一部材の下部前方に回転可能に支持され、
前記第二部材は、前記第一部材の上部前方であって前記第一部材において前記付勢用プーリが支持される位置とは異なる位置に一体的に配置され、
前記弾性部材は、前記第二部材と前記固定部材との間に配置され、
前記付勢用プーリの回転軸線方向において、前記付勢用プーリが前記動力伝達ベルトから受ける付勢反力の中心位置を第一中心位置と定義し、前記弾性部材が前記スライド部材を付勢する付勢力の中心位置を第二中心位置と定義し、前記固定部材の前記ガイド部材が前記スライド部材をガイドする位置をガイド位置と定義し、
前記第一中心位置と前記第二中心位置との間の第一距離が、前記第一中心位置と前記ガイド位置との間の第二距離よりも短
く、
前記スライド部材において、前記付勢用プーリが前記動力伝達ベルトから受ける付勢反力によって生じる前記ガイド部材を支点とするモーメントの少なくとも一部を、前記弾性部材によって前記第二部材に作用する付勢力によって生じる前記ガイド部材を支点とするモーメントによって相殺するように構成されている、動力伝達ベルトの張力調整装置。
【請求項2】
前記張力調整装置を、前記付勢用プーリの前記回転軸線方向から視た場合、前記第二中心位置における前記弾性部材が前記スライド部材を付勢する前記付勢力の前記中心位置の延長線は、前記付勢用プーリの前記回転軸線と交差する、請求項1に記載の動力伝達ベルトの張力調整装置。
【請求項3】
前記弾性部材は、圧縮コイルばねであり、
前記固定部材は、
固定部材本体と、
第一、第二端部が前記固定部材本体に固定され、軸線の位置が前記ガイド位置となる前記ガイド部材としてのガイド軸と、
第一端部が前記固定部材本体に固定されるとともに前記圧縮コイルばねの内径側に挿通され、軸線の位置が前記第二中心位置と一致する支持軸と、を備え、
前記スライド部材
の前記第一部材は、
前記ガイド軸が、前記スライド部材
の前記第一部材に対して軸線方向に相対移動可能となるよう貫挿される
前記ガイド軸用貫通孔
を備え、
前記スライド部材の前記第二部材は、
前記支持軸が、前記スライド部材
の前記第二部材に対して軸線方向に相対移動可能となるように挿通される支持軸用孔
を備える、請求項1又は2に記載の動力伝達ベルトの張力調整装置。
【請求項4】
前記固定部材は、
前記ガイド軸の前記軸線、及び前記支持軸の前記軸線の延長線が、それぞれ前記付勢用プーリの前記回転軸線を跨いで前記回転軸線の両側に均等に配置されるよう前記ガイド軸及び前記支持軸を二本ずつ備え、
前記圧縮コイルばねは、
軸線が、各前記二本の支持軸の前記軸線とそれぞれ一致するよう前記固定部材と前記スライド部材との間に二本配置される、請求項3に記載の動力伝達ベルトの張力調整装置。
【請求項5】
前記第二中心位置は、前記付勢用プーリの前記回転軸線方向における前記動力伝達ベルトの幅の範囲内に位置する、請求項1-4の何れか1項に記載の動力伝達ベルトの張力調整装置。
【請求項6】
前記第二中心位置は、前記第一中心位置と一致する、請求項1-4の何れか1項に記載の動力伝達ベルトの張力調整装置。
【請求項7】
前記動力伝達ベルトは、ゴム製の平ベルトである、請求項1-6の何れか1項に記載の動力伝達ベルトの張力調整装置。
【請求項8】
前記第一部材と前記付勢用プーリの間には、前記第一部材の前記下部前方からさらに前方に突出して設けられ、前記第二部材とは離れて設けられ、前記付勢用プーリを回転可能に支持する回転支持軸を備える、請求項1-7の何れか一項に記載の張力調整装置。
【請求項9】
砥石車と、
前記砥石車と連結され前記砥石車を軸線周りに回転可能に支持する軸部材と、
出力軸を備えるモータと、
前記軸部材と前記モータの前記出力軸に掛け渡され、前記モータの回転力を、前記軸部材を介して前記砥石車に伝達する前記動力伝達ベルトと、
前記動力伝達ベルトの張力を所定の張力に調整する請求項1-
8の何れか一項に記載の張力調整装置と、を備える研削盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達ベルトの張力調整装置及び張力調整装置を備える研削盤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転駆動力を一方の軸から他方の軸に伝達する駆動力伝達装置がある。このような駆動力伝達装置では、駆動力軸に固定された駆動プーリと動力を伝達させる従動軸に固定された従動プーリとの間に、例えばゴム製のベルトを掛け渡している。これにより、駆動力軸が回転駆動されると、回転駆動力はベルト及び従動プーリを介して従動軸に伝達される。
【0003】
しかしながら、このとき、ベルトには常に大きな張力が付与される。このため、ゴム製のベルトは所定量伸び、ベルトの張力が低下する場合がある。ベルトの張力が低下すると、ベルトが例えば平ベルトである場合、ベルトと各プーリとの間に滑りが生じ、駆動力の伝達効率が低下する虞がある。また、さらに伸びが大きくなれば、ベルトが各プーリから外れてしまう虞もある。
【0004】
そこで、このようなベルトの張力低下に対し、張力を増加させる方向の付勢力をベルトに付与する張力調整装置がある(特許文献1-3参照)。特許文献1の張力調整装置では、手動によってブラケットの先端に設けられた付勢用のプーリを移動させてベルトを付勢し、ベルトの張力の増加を図る。また、特許文献2の張力調整装置では、弾性部材によって付勢用のプーリをベルトの方向に移動させてベルトを付勢し、自動でベルトの張力の増加を図る。
【0005】
しかしながら、特許文献1の張力調整装置では、駆動プーリの軸方向において、付勢用のプーリがベルトを付勢する位置、即ちベルトの張力が付勢用のプーリに反力を付与する位置と、付勢用のプーリが設けられたブラケットの支持点位置とがオフセットして配置されている。また、ブラケットは、支持点位置を支点として片もち状態で配置されている。このため、ブラケットは、ベルトの張力に基づく反力によって回転モーメントを受け、受けた回転モーメントが大きい場合にはブラケットが変形する虞がある。
【0006】
また、特許文献2の張力調整装置においても、駆動プーリ(クランクプーリ)の軸方向において、ベルトの張力が付勢用のプーリに反力を付与する位置と、弾性部材が付勢用のプーリ(テンションプーリ)をベルトの方向に付勢する荷重中心位置とがオフセットして配置されている。また、付勢用のプーリは、弾性部材を支持する支持部材に片もち状態で支持されている。このため、付勢用のプーリは、ベルトの張力に基づく反力によって回転モーメントを受けて支持部材が傾き、支持部材を支持する部材と支持部材との間に摩耗が生じる虞がある。
【0007】
しかし、これらの課題に対応可能な構成として、特許文献3に記載の張力調整装置では、駆動プーリの軸方向において、ベルトの張力が付勢用のプーリに反力を付与する位置と、弾性部材が付勢用のプーリをベルトの方向に付勢する荷重中心位置とがほぼ一致している。このため、付勢用のプーリが支持部材を介して固定部材に片もち状態で支持されていても、対向するベルトの張力は、弾性部材の付勢力によって相殺されるので、特許文献1,2のように、付勢用のプーリの支持部材が回転モーメントを受ける虞は低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実公昭50-25905号公報
【文献】実公昭62-44188号公報
【文献】特許第5479351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3の張力調整装置は、本来、特許文献1,2の説明において記載した課題を解決するための構成ではない。特許文献3の記載によれば、張力調整装置は、良好なメンテナンス性(交換性)を満足させるために構成された装置である。このため、付勢部4aでは、新しい弾性部材(圧縮バネ)と交換し易いよう、付勢用のプーリが設けられた部分とは完全に別体で形成されている。また、付勢部4aは、弾性部材(圧縮バネ)を収容するためのシリンダ状の部材であるリテーナを備える。リテーナの内部には、圧縮バネの両端を支持するバネ保持部材と、圧縮バネを支持するとともに圧縮バネの圧縮量を管理するための挿入ピースと、を備える。また、リテーナの側面には、圧縮バネの交換時期を見極める指標となる圧縮バネの圧縮量を監視するための監視窓が設けられている。このため、特許文献3の張力調整装置は、非常に複雑で高価な構成となっている。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、付勢用のプーリが動力伝達ベルトの張力に応じた反力をベルトから受けても、付勢用のプーリの支持部には回転モーメントが生じず耐久性を有するとともに、少ない部品点数、及び一体化された簡素な構成により、低コストで、且つ動力伝達装置への組み付けが容易である動力伝達ベルトの張力調整装置及び張力調整装置を備える研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1.動力伝達ベルトの張力調整装置)
本発明の一態様は、
動力伝達ベルトの張力調整装置において、
固定部材と、
前記動力伝達ベルトを付勢して前記動力伝達ベルトの張力を変更する付勢用プーリと、
前記付勢用プーリを回転可能に支持し、且つ、前記固定部材が備えるガイド部材に係合され、前記付勢用プーリによる前記動力伝達ベルトへの付勢方向へ前記固定部材に対して往復動可能にガイドされるスライド部材と、
前記固定部材と前記スライド部材との間に配置され、前記付勢用プーリが前記動力伝達ベルトを付勢する方向に前記スライド部材を付勢する弾性部材と、
を備え、
前記スライド部材は、第一部材および第二部材を備え、
前記第一部材には、前記ガイド部材が挿通されるガイド軸用貫通孔が上下方向に延在するように形成され、
前記付勢用プーリは、前記第一部材の下部前方に回転可能に支持され、
前記第二部材は、前記第一部材の上部前方であって前記第一部材において前記付勢用プーリが支持される位置とは異なる位置に一体的に配置され、
前記弾性部材は、前記第二部材と前記固定部材との間に配置され、
前記付勢用プーリの回転軸線方向において、前記付勢用プーリが前記動力伝達ベルトから受ける付勢反力の中心位置を第一中心位置と定義し、前記弾性部材が前記スライド部材を付勢する付勢力の中心位置を第二中心位置と定義し、前記固定部材の前記ガイド部材が前記スライド部材をガイドする位置をガイド位置と定義し、
前記第一中心位置と前記第二中心位置との間の第一距離が、前記第一中心位置と前記ガイド位置との間の第二距離よりも短く、
前記スライド部材において、前記付勢用プーリが前記動力伝達ベルトから受ける付勢反力によって生じる前記ガイド部材を支点とするモーメントの少なくとも一部を、前記弾性部材によって前記第二部材に作用する付勢力によって生じる前記ガイド部材を支点とするモーメントによって相殺するように構成されている、動力伝達ベルトの張力調整装置にある。
【0013】
このように、本発明に係る張力調整装置では、第一中心位置と第二中心位置との間の第一距離が、第一中心位置とガイド位置との間の第二距離よりも短くなるよう構成される。このため、付勢用のプーリが動力伝達ベルトの張力に応じた反力を受けても、当該反力は第二中心位置の位置に応じて、弾性部材がスライド部材を付勢する付勢力により相応に相殺されるので、スライド部材のガイド部材が受ける回転モーメントを良好に抑制することができる。また、ガイド軸の摩耗が良好に抑制されるので高い耐久性を備える。
【0014】
そして、このとき、弾性部材は、特許文献3の付勢部(4a)の構成とは大きく異なり、固定部材とスライド部材との間に配置するだけで付勢部として成立する。このため、組み付けが簡素であるとともに部品点数が大幅に削減されるので低コストに製造できる。さらに、張力調整装置は、固定部材、弾性部材、付勢用プーリ、スライド部材、及びスライド部材をガイドするガイド部材が一体化(ユニット化)されて形成される。従って、特許文献3のように、付勢部(4a)と付勢用のプーリ(14)とをそれぞれ別体で形成し、その後、相互に係合させながら駆動力伝達装置の支持部に別々に組み付ける必要がない。このため、駆動力伝達装置への組み付け工数の低減、延いては低コスト化を図ることができる。
【0015】
(2.研削盤)
また、本発明の他の態様は、砥石車と、
前記砥石車と連結され前記砥石車を軸線周りに回転可能に支持する軸部材と、
出力軸を備えるモータと、
前記軸部材と前記モータの前記出力軸に掛け渡され、前記モータの回転力を、前記軸部材を介して前記砥石車に伝達する前記動力伝達ベルトと、
前記動力伝達ベルトの張力を所定の張力に調整する上記に記載の張力調整装置と、を備える研削盤にある。
このように、工作物を研削する際には、常時、砥石車の振動によって動力伝達ベルトの張力が変動する研削盤に適用することで、高い耐久性を有する研削盤が得られる。また、研削盤の低コスト化にも寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係る動力伝達ベルトの張力調整装置が適用された研削盤の平面図の概要である。
【
図2】
図1のK視図であり、駆動力伝達装置に張力調整装置が装着された図である。
【
図5】
図4における固定部材本体のみのQ視図である。
【
図7】変形例1を説明する
図6に対応する図である。
【
図8】変形例2を説明する
図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1.第一実施形態>
(1-1.概要)
以下に、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。
図1には、本発明に係る動力伝達ベルト42の張力調整装置50(
図2参照)を適用した研削盤1の実施形態を示す。研削盤1は、一例として砥石台トラバース型研削盤を示す。
図1は、研削盤1の平面図の例を示し、
図2は、
図1におけるK視図を示す。また、X軸,Y軸,Z軸が記載されている全ての図面において、X軸とY軸とZ軸とは互いに直交している。Y軸は鉛直上向きを示しており、Z軸とX軸は水平方向を示している。Z軸はワーク回転軸方向を示しており、X軸方向は砥石車15が、ワークWに切り込む方向を示している。
【0018】
(1-2.研削盤1の全体構成)
図1に示すように、研削盤1は、床上に固定されたベッド11と、ベッド11に固定されたワークWを回転可能に両端支持する主軸台12と、心押装置13と、ベッド11上をZ軸方向及びX軸方向に移動可能な砥石台14と、制御装置18と、を備える。
【0019】
砥石台14は、砥石台14に回転可能に支持される砥石車15と、砥石車15を回転駆動させる駆動力伝達装置40と、後に詳述する本発明に係る張力調整装置50と、を備える。制御装置18は、主軸台12及び砥石車15を駆動させ、かつワークWに対する砥石車15の位置を制御するとともに砥石車15によるワークWの研削を制御する。
【0020】
研削盤1は、ワーク回転軸WZ回りに回転するワークWを、砥石車15によって研削する。砥石車15は、略円板形状に形成される。砥石車15は、砥石回転軸TZ回りに回転し、ワークWに対してZ軸及びX軸方向に相対移動可能に構成されている。なお、ワーク回転軸WZと砥石回転軸TZは、どちらもZ軸と平行である。
【0021】
図1に示すように、主軸台12は、ベース12aと、主軸ハウジング12bと、主軸12cとを備える。ベース12aは、ベッド11上に載置される。主軸ハウジング12bは、ベース12aに対してZ軸方向に往復移動可能に構成される。主軸12cは、主軸ハウジング12b内でワーク回転軸WZ回りに回転可能に支持される。また、主軸12cの一端にはセンタ部材12dが設けられる。主軸12cには図示しない駆動モータが設けられており、制御装置18は、センタ部材12dの先端をとおるワーク回転軸WZ回りに主軸12cを、任意の角速度で任意の角度まで回転させることができる。
【0022】
心押装置13は、ベース13aと、心押軸ハウジング13bと、心押軸13cと、センタ部材13dとを備える。ベース13aは、ベッド11上に載置される。心押軸ハウジング13bは、ベース13aに対してZ軸方向に移動可能に構成される。心押軸13cは、心押軸ハウジング13b内でワーク回転軸WZ回りに回転可能または回転不能に支持され、主軸12cと同軸に設けられる。そして、ワークWは、センタ部材12dを備えた主軸台12と、センタ部材13dを備えた心押装置13によって両端(または両端近傍)が支持される。なお、センタ部材12dは、チャックであってもよい。
【0023】
また、ベッド11には、トラバースベース19が載置される。トラバースベース19は、Z軸駆動モータ21にて制御されるボールねじ22の回転角度に応じ、V型ガイド23に沿ってZ軸方向の任意の位置に位置決め制御される。制御装置18は、図略のエンコーダ等の位置検出手段からの信号を検出しながら、Z軸駆動モータ21に制御信号を出力して、トラバースベース19のZ軸方向の位置決めをする。
【0024】
トラバースベース19には、砥石車15を進退させる砥石台14が載置される。砥石台14は、X軸駆動モータ25にて制御されるボールねじ30の回転角度に応じ、トラバースベース19の上面に一体的に設けられたガイド16,17に沿ってX軸方向の任意の位置に位置決めされる。制御装置18は、位置検出手段からの信号を検出しながらX軸駆動モータ25に制御信号を出力して、砥石台14のX軸方向の位置を位置決めする。
【0025】
また、例えば、砥石回転軸TZとワーク回転軸WZは同一水平面上に位置しているとする。この状態で砥石車15をワークWに対して相対的に近づけていき、ワークWと砥石車15とが接触した位置における砥石車15の側の点を加工点とする。このとき、研削盤1には、加工点の近傍にクーラントを供給するクーラントノズルが設けられているが、図示省略する。
【0026】
図1に示すように、砥石台14は、スライドテーブル26と、砥石車15と、砥石軸受27と、砥石駆動モータ28(サーボモータであり、モータに相当する)と、X軸駆動モータ25と、砥石車15を回転駆動させる駆動力伝達装置40(
図2参照)と、張力調整装置50(
図2参照)等を備える。砥石駆動モータ28の回転駆動力(回転力)は、駆動力伝達装置40を介して砥石車15に伝達される。なお、本実施形態では、砥石台14をX軸駆動モータ25とボールねじ30とによって進退させる構造の例を示したが、例えばリニアモータを用いてもよい。砥石台14を進退させる駆動装置は、特に限定されない。
【0027】
(1-3.駆動力伝達装置40)
図2に示すように、駆動力伝達装置40は、駆動プーリ41,動力伝達ベルト42,従動プーリ43を備える。円筒状の駆動プーリ41は、砥石駆動モータ28が備える回転軸28a(出力軸に相当)の先端に回転軸28aと一体回転可能に固定される。回転軸28aの軸線方向における駆動プーリ41の外周面両端には、鍔部(図略)が突設されている。また、本実施形態において、円筒状の従動プーリ43は、駆動プーリ41よりも円筒の直径が小さく、砥石車15を軸線周りに回転可能に支持する回転軸15a(軸部材に相当)の先端に回転軸15aと一体回転可能に固定される。回転軸15aの軸線方向における従動プーリ43の外周面両端には、鍔部(図略)が突設されている。
【0028】
そして、駆動プーリ41の外周面の鍔部の間、及び従動プーリ43の外周面の鍔部の間に動力伝達ベルト42(以降、ベルト42とのみ記載する)が、張力Tを有して掛け渡される(
図2中、二点鎖線参照)。なお、このとき、張力Tは、砥石駆動モータ28の作動時に、駆動プーリ41と従動プーリ43との間で設定されるべき所定の張力T1以下の大きさでよい(T≦T1)。なお、所定の張力T1は、所定の幅(範囲)を有して設定される値である。
【0029】
そして、駆動プーリ41と従動プーリ43との間におけるベルト42の張力Tが所定の張力T1である場合、砥石駆動モータ28の回転力が、回転軸28a,駆動プーリ41,ベルト42,従動プーリ43,回転軸15aの順に高効率で伝達され、砥石車15が回転駆動される。つまり、砥石駆動モータ28の回転力を、回転軸15a(軸部材)を介して砥石車15に伝達する。
【0030】
上記において、ベルト42は、所謂、平ベルトと呼称されるベルトであり、例えば、ゴムであるウレタンゴムのみによって形成される単体式平ベルトである。ただし、ベルト42は、単体式平ベルトには限らない。例えば、心体として延伸ポリアミドフィルムなどを用いるフィルムコア平ベルト,心体としてポリエステルコードなどを用いるコード平ベルト,又はポリエステルなどの比較的強度の高い心体と摩擦係数の高いカバー層を積層した積層式平ベルトであってもよい。
【0031】
(1-4.張力調整装置50)
張力調整装置50は、駆動力伝達装置40が備えるベルト42の張力Tを、予め設定された所定の張力T1に調整する装置である。
図2に示すように、張力調整装置50は、ユニット化され、砥石台14が有するスライドテーブル26に固定される。
図2-
図4に示すように、張力調整装置50は、固定部材51と、付勢用プーリ55と、スライド部材56と、二本の圧縮コイルばね57,57(弾性部材に相当する)と、を備える。
【0032】
(1-4-1.固定部材51)
固定部材51は、固定部材本体52と、二本のガイド軸53,53(ガイド部材に相当する)と、二本の支持軸54,54と、を備える。固定部材本体52は、例えば、SPCC等の鉄系の板部材により形成される。
図2-
図4に示すように、固定部材本体52は、長方形状の板部材の長手方向両端部がそれぞれ直角に屈曲されて形成される第一支持部52a,及び第二支持部52bと、第一支持部52aと第二支持部52bとを連結する接続部52cと、を備える。これにより、第一支持部52aと第二支持部52bとは内側の面52a1,52b1同士が対向して配置される。
【0033】
図2に示すように、このとき、接続部52cの下方の端部から立設される第二支持部52bの長さは、同様に接続部52cの上方の端部から立設される第一支持部52aの長さの約半分程度である。接続部52cは、砥石台14のスライドテーブル26に、図示しない所定の固定手段によって固定される。
図5に示すように、第一支持部52aは、4個所の貫通孔52a2,52a3,52a4,52a5を備える。なお、
図5は、
図4における固定部材本体52のみのQ視図である。
図5に示すように、4個所の貫通孔52a2-52a5は、各孔の中心を結んだ仮想線(二点鎖線)が矩形Reを形成するよう配置される。また、第二支持部52bは、第一支持部52aの貫通孔52a2,52a3と対向する位置に貫通孔52b2,52b3を備える。
【0034】
二本のガイド軸53,53は、第一支持部52aの貫通孔52a2と第二支持部52bの貫通孔52b2との間、及び第一支持部52aの貫通孔52a3と第二支持部52bの貫通孔52b3との間に、各軸線位置が各貫通孔の中心と一致するよう配置される。このとき、各ガイド軸53,53は、それぞれ一方(
図4において上方)の端部である第一端部53aと他方(
図4において下方)の端部である第二端部53bの各端面に、それぞれ雌ねじ53a1,53b1を備える。
【0035】
そして、
図4に示すように、4本のボルト151が、第一支持部52a及び第二支持部52bにおいてガイド軸53,53が配置された側とは反対側から、貫通孔52a2,52a3及び貫通孔52b2,52b3を介して、それぞれの雌ねじ53a1,53b1と螺着される。これにより、ガイド軸53,53が、固定部材本体52に固定される。なお、このとき、ガイド軸53,53には、後に詳述するスライド部材56が、ガイド軸53,53に対して軸線方向に相対移動可能に挿通されている。具体的には、スライド部材56に形成された貫通孔であるガイド軸用貫通孔56a,56aにガイド軸53,53が挿通される。
【0036】
次に、支持軸54,54について説明する。
図4に示すように、二本の支持軸54,54は、一方(
図4において上方)の端部である第一端部54a,54aの各端面に、それぞれ雌ねじ54a1,54a1を備える。支持軸54,54は、第一支持部52aに対して、ガイド軸53,53が配置される側と同じ側で、かつ軸線が貫通孔52a4,52a5の中心と一致するよう配置される。そして、2本のボルト58が、第一支持部52aにおいて支持軸54,54が配置された側とは反対側から、貫通孔52a4,52a5を介して、雌ねじ54a1,54a1と螺着される。これにより、支持軸54,54が、固定部材本体52に片もち支持によって固定される。
【0037】
また、このとき、支持軸54,54には、
図4に示すように、前述したスライド部材56が、支持軸54,54及びガイド軸53,53に対して軸線方向に相対移動可能に挿通される。具体的には、スライド部材56に形成された貫通孔である支持軸用孔56b,56bに、支持軸54,54が挿通される。なお、支持軸用孔56b,56bは、貫通孔ではなく有底の孔であってもよい。つまり、スライド部材56と支持軸54,54とが軸線方向に相対移動した際、支持軸54,54の他方側の端部54b,54bが支持軸用孔の底面に当接しないような深さで形成されていればよい。
【0038】
図4に示すように、付勢用プーリ55は、張力調整装置50が作動した場合、付勢用プーリ55の外周面によって駆動力伝達装置40のベルト42を付勢し、ベルト42の張力Tを所定の張力T1に調整する(変更する)。
図4に示すように、付勢用プーリ55は、駆動プーリ41及び従動プーリ43と近似の形状で形成される。
【0039】
つまり、付勢用プーリ55は、円筒状に形成される。付勢用プーリ55は、付勢用プーリ55の回転を支持する回転支持軸59の先端に、回転支持軸59と相対回転可能に設けられる。また、付勢用プーリ55は、付勢用プーリ55の回転軸線方向における外周面両端に鍔部を備える。そして、後に詳細に説明するが、回転支持軸59は、付勢用プーリ55が設けられた側と反対側の端部がスライド部材56に固定される。
【0040】
スライド部材56は、
図3の斜視図、及び
図4の断面図に示すように、直方体状のブロックのうち、
図4において、下方で、且つ前方(左側)の一部(
図4の二点鎖線部参照)が削除された形状を呈している。便宜上、以降の説明では、ブロックのうち削除されている部分の後方(
図4の右側)の部材を第一部材56Aとし、削除されている部分の上方の部材を第二部材56Bとして説明する。
【0041】
スライド部材56は、第一部材56Aに、上述したガイド軸用貫通孔56a,56aが形成される。ガイド軸用貫通孔56a,56aは、第一部材56Aの上面56cから下面56dに貫通して形成される。ガイド軸用貫通孔56a,56aは、付勢用プーリ55の回転軸線方向(=回転支持軸59の軸線方向)において同じ位置に配置される。ガイド軸用貫通孔56a,56aには、上述したように固定部材51が備えるガイド軸53,53(ガイド部材に相当する)が挿通し係合される。詳細には、ガイド軸用貫通孔56a,56aの両端(上端及び下端)には、ガイド軸53,53との間にドライ軸受152,153が設けられる。
【0042】
これにより、スライド部材56が、付勢用プーリ55によるベルト42への付勢方向(=ガイド軸53,53の軸線方向)において、固定部材51に対して精度よく往復動可能にガイドされる。本実施形態では、このように、付勢用プーリ55の回転軸線方向において、固定部材51が備えるガイド軸53,53(ガイド部材に相当)が、スライド部材56をガイドする位置、即ち、ガイド軸53,53(又はガイド軸用貫通孔56a,56a)の軸線位置をガイド位置Gと定義する。なお、ガイド位置Gは、後の説明にて使用する。
【0043】
また、スライド部材56は、上述したように、回転支持軸59を介して、付勢用プーリ55を支持する。付勢用プーリ55は、回転支持軸59に対して相対回転可能となるよう回転支持軸59に支持される。このとき、付勢用プーリ55の回転軸線方向(回転支持軸59の軸線方向)は、張力調整装置50を駆動力伝達装置40に組付けた組付け状態(以降の説明においては、組付け状態とのみ記載して説明する場合がある)とした場合において、駆動プーリ41及び従動プーリ43の各回転軸線と平行となるよう配置される。
【0044】
回転支持軸59は、第一部材56Aの前面56eから所定量突出して固定される。上述したように、回転支持軸59は、第一部材56Aの前面56e(
図4において左側の面)から第一部材56Aの背面56f(
図4において右側の面)に亘り貫通して設けられた支持孔に、端部が圧入されて固定される。
【0045】
このとき、
図4を左方向から見たR視図、即ち張力調整装置50を、付勢用プーリ55の回転軸線方向から視た
図6に示すように、水平方向において、ガイド軸53,53の軸線53A,53Aが、それぞれ付勢用プーリ55の回転軸線O(=回転支持軸59の軸線)を跨いで回転軸線Oの両側に均等に配置される。そして、付勢用プーリ55が、回転支持軸59の先端部に、例えば、ボールベアリング、ニードルベアリング等の軸受(不図示)を介して回転支持軸59に対し相対回転可能に設けられる。
【0046】
また、付勢用プーリ55は、
図4における右側の端面が、第一部材56Aの前面56eから若干、離間して配置される。また、付勢用プーリ55は、回転支持軸59周りの多くの部分が、第一部材56Aの前面の前方と、第二部材56Bの下面56gの下方とによって形成される空間S内に収容される。また、付勢用プーリ55の下方は、外部空間Vに開放されている。これにより、上述した駆動力伝達装置40への組付け状態において、付勢用プーリ55の下方の外部空間Vに位置する駆動力伝達装置40が備えるベルト42の外表面と、付勢用プーリ55の外周面のうち下方に位置する一部の面とが良好に当接できる。
【0047】
また、上述したように、スライド部材56は、第二部材56Bに二本の支持軸54,54が挿通される支持軸用孔56b,56bを備える。支持軸用孔56b,56bは、第二部材56Bの上面56cから下面56gに貫通して形成される。なお、第二部材56Bの上面56cは、第一部材56Aの上面56cと同一面である。また、支持軸用孔56b,56bは、付勢用プーリ55の回転軸線方向(回転支持軸59の軸線方向)において同じ位置に配置される。
【0048】
そして、
図4に示すように、支持軸用孔56b,56bには、上述したように固定部材51が備える支持軸54,54が挿通される。従って、支持軸用孔56b,56bの軸線及び、支持軸54,54の軸線の位置は一致しているといえる。このとき、各支持軸54,54の下端面の位置は、スライド部材56が支持軸54,54に対して最大限、上方に相対移動した場合でも、スライド部材56の第二部材56Bの下面56gから突出して付勢用プーリ55の外周面に当接(衝突)しない長さに形成される。
【0049】
そして、上記の構成において、二本の圧縮コイルばね57,57(弾性部材)が、各支持軸54,54を、それぞれ、内径側に挿通した状態で、固定部材本体52における第一支持部52aのスライド部材56側の面52a1と、スライド部材56の上面56cの間に所定量圧縮されて配置される。これにより、圧縮コイルばね57,57は、上述した組付け状態において、付勢用プーリ55が動力伝達ベルト42を付勢する方向にスライド部材56を付勢する。
【0050】
ここで、
図4に示すように、付勢用プーリ55の回転軸線方向において、二本の圧縮コイルばね57,57(弾性部材)がスライド部材56を付勢する付勢力Pの中心位置、即ち付勢力Pの荷重中心位置を第二中心位置D2と定義する。また、付勢用プーリ55の回転軸線方向において、付勢用プーリ55がベルト42から受ける付勢反力(-P)の中心位置、即ち付勢反力(-P)の荷重中心位置を第一中心位置D1と定義する。本実施形態において、付勢用プーリ55の回転軸線方向における第一中心位置D1は、ベルト42の幅Wiの中央位置に一致するものとする。
【0051】
このとき、ベルト42の幅Wiの中央位置が、付勢用プーリ55の回転軸線方向において、圧縮コイルばね57,57が、スライド部材56を付勢する付勢力の第二中心位置D2と一致するよう付勢用プーリ55の位置が予め設定される。つまり、上記実施形態においては、付勢用プーリ55の回転軸線方向において、第一中心位置D1と第二中心位置D2との間の第一距離L1(不図示)は「0」である。従って、第一距離L1は、第一中心位置D1とガイド位置Gとの間の第二距離L2よりも短い。
【0052】
また、スライド部材56を、付勢用プーリ55の回転軸線方向(R方向)から視た場合、
図6に示すように、支持軸54,54(又は支持軸54,54を挿通させる支持軸用孔56b,56b)の軸線54A,54Aの延長線は、それぞれ付勢用プーリ55の回転軸線O(=回転支持軸59の軸線)を跨いで回転軸線Oの両側に均等な距離aを有して配置される。
【0053】
また、このとき、圧縮コイルばね57,57が、スライド部材56を付勢する付勢力の中心位置D3(第二中心位置D2に対応する)、即ち二本の圧縮コイルばね57,57による付勢力の荷重中心位置D3は、圧縮コイルばね57,57の軸線間の中央である。つまり、R方向から視た場合において、中心位置D3において、二本の圧縮コイルばね57,57がスライド部材56を付勢する付勢力Pの延長線は、付勢用プーリ55の回転軸線Oと交差する。
【0054】
(1-5.作用)
次に、張力調整装置50を駆動力伝達装置40に組付けた組付け状態(
図2参照)における作用について説明する。なお、研削盤1の作動については、公知であるため、詳細な説明は省略する。例えば、
図2は、初期状態において、張力調整装置50を駆動力伝達装置40に組付けた際、二本の圧縮コイルばね57,57が、スライド部材56を付勢する付勢力Pと、付勢用プーリ55がベルト42から受ける付勢反力(-P)と、が釣り合った状態を示す。そして、このときのベルト42の張力が、幅(範囲)を有した所定の張力T1であるものとする。
【0055】
このとき、
図4に示すように、付勢用プーリ55の回転軸線方向において、圧縮コイルばね57,57が、スライド部材56を付勢する付勢力Pの第二中心位置D2と、付勢用プーリ55がベルト42から受ける付勢反力(-P)の第一中心位置D1とは同じ位置である。これにより、付勢用プーリ55の回転軸線方向において、付勢力Pと付勢反力(-P)とは、相殺される。
【0056】
従って、付勢用プーリ55がベルト42から受ける付勢反力(-P)によって、付勢用プーリ55が固定されるスライド部材56が、ガイド位置Gの何れかの点を中心として回転する回転モーメントは生じにくい。このため、生じた回転モーメントによって、スライド部材56が備える軸受152と、軸受153が支持するガイド軸53,53との間において傾きが生じ摩耗が生じる虞は低い。
【0057】
また、このとき、
図6に示すように、張力調整装置50を、付勢用プーリ55の回転軸線方向(R方向)から視た場合、第二中心位置D2に対応する中心位置D3において、圧縮コイルばね57,57がスライド部材56を付勢する付勢力Pの延長線は、付勢用プーリ55の回転軸線と交差する。また、第一中心位置D1に対応する中心位置D4において、付勢用プーリ55がベルト42から受ける付勢反力(-P)の延長線は、付勢用プーリ55の回転軸線と交差する。
【0058】
つまり、
図6における左右方向において、圧縮コイルばね57,57が、スライド部材56を付勢する付勢力Pの中心位置D3(荷重中心位置)と、付勢用プーリ55がベルト42から受ける付勢反力(-P)の中心位置D4(荷重中心位置)とは一致している。
【0059】
これにより、スライド部材56は、付勢用プーリ55がベルト42から受ける付勢反力(-P)と、二本の圧縮コイルばね57,57がスライド部材56を付勢する付勢力Pとが
図6における左右方向において同一位置で対向する。よって、
図6に示す状態におけるスライド部材56を、回転させる回転モーメントは生じにくい。このため、生じた回転モーメントによって、スライド部材56が備える軸受152と、軸受153が支持するガイド軸53,53との間において傾きが生じ摩耗する虞は低い。
【0060】
その後、研削盤1が長時間作動し、駆動力伝達装置40のベルト42が伸びると、ベルト42の張力T1が低下する。これにより、駆動プーリ41と従動プーリ43との間で伝達される砥石駆動モータ28の回転力の伝達効率が低下する。また、張力T1がさらに低下すれば、ベルト42が、駆動プーリ41及び従動プーリ43から脱落する虞もある。
【0061】
しかしながら、本実施形態では、張力調整装置50を備え、上述したように、付勢用プーリ55がベルト42を常にバランスよく付勢している。そして、張力T1が低下すると、バランスよく付勢した状態が維持されたまま、付勢用プーリ55が、圧縮コイルばね57,57の付勢によってベルト42側に前進し、ベルト42の張力を張力T1に調整する。
【0062】
(1-6.第一実施形態における効果)
上記第一実施形態に係る動力伝達ベルト42の張力調整装置50によれば、固定部材51と、付勢用プーリ55と、スライド部材56と、圧縮コイルばね57,57(弾性部材)とによって構成される。そして、付勢用プーリ55の回転軸線方向において、付勢用プーリ55が動力伝達ベルト42から受ける付勢反力(-P)の中心位置を第一中心位置D1と定義し、圧縮コイルばね57,57(弾性部材)がスライド部材56を付勢する付勢力Pの中心位置を第二中心位置D2と定義し、固定部材51のガイド軸53,53(ガイド部材)がスライド部材56をガイドする位置をガイド位置Gと定義する。そして、第一中心位置D1と第二中心位置D2との間の第一距離L1が、第一中心位置D1とガイド位置Gとの間の第二距離L2よりも短い。
【0063】
このように、張力調整装置50では、第一中心位置D1と第二中心位置D2の間の第一距離L1が、第一中心位置D1とガイド位置Gとの間の第二距離L2よりも短くなるよう構成される。このため、付勢用プーリ55が動力伝達ベルト42の張力Tに応じた反力(-P)を受けても、当該反力は第二中心位置D2の位置に応じて、圧縮コイルばね57,57(弾性部材)がスライド部材56を付勢する付勢力により相応に相殺される。このため、スライド部材56のガイド軸53,53(ガイド部材)が受ける回転モーメントを良好に抑制することができる。したがって、スライド部材56は、ガイド軸53,53(ガイド部材)によって良好にガイドされ、ガイド軸53,53に対して精度よく軸線方向に相対移動可能である。また、張力調整装置50は、ガイド軸53,53の摩耗が良好に抑制されるので高い耐久性を備える。
【0064】
そして、このとき、圧縮コイルばね57,57(弾性部材)は、従来技術(特許文献3)における付勢部4aの構成とは大きく異なり、固定部材51(固定部材本体52)とスライド部材56との間に配置するだけで付勢部として成立する。このため、組み付けが簡素であるとともに部品点数が大幅に削減されるので、張力調整装置50を低コストに製造できる。
【0065】
さらに、張力調整装置50は、固定部材51、圧縮コイルばね57,57、付勢用プーリ55、スライド部材56、及びスライド部材56をガイドするガイド軸53,53(ガイド部材)が一体化(ユニット化)されて形成される。従って、従来技術(特許文献3)のように、付勢部(4a)と付勢用のプーリ(14)とをそれぞれ別体で形成し、その後、相互に係合させながら駆動力伝達装置の支持部に別々に組み付ける必要がない。このため、駆動力伝達装置40への組み付け工数の低減、延いては低コスト化を図ることができる。
【0066】
また、上記第一実施形態によれば、張力調整装置50を、付勢用プーリ55の回転軸線方向(R方向)から視た場合、第二中心位置D2に対応し、圧縮コイルばね57,57(弾性部材)がスライド部材56を付勢する付勢力Pの中心位置D3(荷重中心位置)から付勢力P方向に伸びる延長線は、付勢用プーリ55の回転軸線Oと交差する。これにより、R方向から視た場合において、付勢力Pと,付勢用プーリ55が動力伝達ベルト42から受ける付勢反力(-P)とは、
図6における左右方向において、同一位置で付勢し合い相殺される。このため、
図6におけるスライド部材56に回転モーメントは生じない。従って、スライド部材56は、ガイド軸53,53(ガイド部材)によってさらに良好にガイドされ、ガイド軸53,53に対して精度よく軸線方向に相対移動可能となる。
【0067】
また、上記第一実施形態によれば、弾性部材は、圧縮コイルばね57,57であり、固定部材51は、固定部材本体52と、第一、第二端部53a,53bが固定部材本体52に固定され、軸線の位置がガイド位置Gとなるガイド部材としてのガイド軸53,53と、第一端部54aが固定部材本体52に固定されるとともに圧縮コイルばね57,57の内径側に挿通され、軸線の位置が第二中心位置D2と一致する支持軸54,54と、を備える。また、スライド部材56は、ガイド軸53,53が、スライド部材56に対して軸線方向に相対移動可能となるよう貫挿されるガイド軸用貫通孔56a,56aと、支持軸54,54が、スライド部材56に対して軸線方向に相対移動可能となるように挿通される支持軸用孔56b,56bと、を備える。
【0068】
このように、弾性部材として圧縮コイルばね57,57を備える。これにより、固定部材51、圧縮コイルばね57,57、付勢用プーリ55、スライド部材56、及びスライド部材56をガイドするガイド軸53,53(ガイド部材)を、容易、且つ低コストに一体化(ユニット化)できる。
【0069】
また、上記第一実施形態によれば、固定部材51は、ガイド軸53,53の軸線、及び支持軸54,54の軸線の延長線が、それぞれ付勢用プーリ55の回転軸線O(=回転支持軸59の軸線)を跨いで回転軸線Oの両側に均等に配置されるようガイド軸53,53及び支持軸54,54を二本ずつ備える。圧縮コイルばね57,57(弾性部材)は、各軸線が、各二本の支持軸54,54の軸線とそれぞれ一致するよう固定部材51とスライド部材56との間に二本配置される。
【0070】
このような構成によって、二本の圧縮コイルばね57,57が、スライド部材56を広い範囲でかつ安定的に付勢できるとともに、二本の圧縮コイルばね57,57によってスライド部材56を付勢する中心位置(荷重中心)を、容易に付勢用プーリ55が動力伝達ベルト42から受ける付勢反力(-P)の位置に一致させることができる。これにより、R方向から視た場合において、圧縮コイルばね57,57による付勢力Pと付勢用プーリ55が動力伝達ベルト42から受ける付勢反力(-P)とは、
図6における左右方向において、同一位置で付勢し合い相殺される。従って、スライド部材56には回転モーメントが生じないので、安定して固定部材51に対して軸線方向に相対移動可能となる。
【0071】
また、上記第一実施形態によれば、研削盤1が、砥石車15と、砥石車15と連結され、砥石車15を軸線周りに回転可能に支持する回転軸15a(軸部材に相当)と、回転軸28a(出力軸)を備える砥石駆動モータ28(モータ)と、回転軸15aとモータ28の回転軸28aに掛け渡され、砥石駆動モータ28の回転力を、回転軸15aを介して砥石車15に伝達する動力伝達ベルト42と、動力伝達ベルト42の張力Tを所定の張力に調整する張力調整装置50と、を備える。このように、ワークW(工作物)を研削する際には、常時、砥石車15の振動によって動力伝達ベルト42の張力Tが変動する研削盤1に張力調整装置50を適用することで、研削盤1も高い耐久性を有する。また、低コストな張力調整装置50を適用することで、研削盤1の低コスト化にも寄与する。
【0072】
(1-7.第一実施形態の変形例)
(1-7-1.変形例1)
上記第一実施形態においては、支持軸54,54及び圧縮コイルばね57,57(弾性部材)を二本ずつ設けた。しかしこの態様には限らない。第一実施形態の変形例1として、支持軸54及び圧縮コイルばね57(弾性部材)は、それぞれ一本ずつでもよい。この場合、支持軸54及び圧縮コイルばね57は、
図7に示すように、張力調整装置50をR方向から視た場合、各軸線は、付勢用プーリ55の回転軸線と交差するよう配置されることが好ましい。これにより、第一実施形態と同様の効果が期待できる。なお、変形例1の態様に限らず、支持軸54及び圧縮コイルばね57の各軸線は、付勢用プーリ55の回転軸線と交差しないよう配置されてもよい。これによっても相応の効果は期待できる。
【0073】
(1-7-2.変形例2)
また、上記第一実施形態では、付勢用プーリ55の回転軸線方向において、ベルト42が付勢用プーリ55を付勢する付勢反力(-P)の中心位置である第一中心位置D1と、圧縮コイルばね57,57がスライド部材56を付勢する付勢力Pの中心位置である第二中心位置D2とが一致する態様について説明した。
【0074】
しかし、この態様には限らない。第一実施形態の変形例2(
図8参照)として、第二中心位置D2は、付勢用プーリ55の回転軸線方向における動力伝達ベルト42の幅Wiの範囲内に位置していればよい。このような配置によっても、第二中心位置D2がガイド位置に一致するよう配置された場合と比べて、スライド部材56に対して発生させる回転モーメントは、第二中心位置D2の大きさに応じて抑制される。さらには、第二中心位置D2は、付勢用プーリ55の回転軸線方向における動力伝達ベルト42の幅Wiの範囲内に位置していなくてもよい。この場合、第一距離L1が、第二距離L2より小さければよい。これによっても相応の効果は期待できる。
【0075】
(1-7-3.変形例3)
また、上記第一実施形態においては、動力伝達ベルト42は、ゴム製の平ベルトであるとして説明した。しかし、この態様には限らない。第一実施形態の変形例3(図略)として、動力伝達ベルト42は、駆動力伝達装置40の作動中に伸び、張力Tが低下する可能性のある材質で形成されればどのような材質で形成されてもよい。一例として、樹脂や、金属等で形成されてもよい。これによっても、相応の効果が期待できる。
【0076】
<2.その他>
上記第一実施形態においては、回転支持軸59は、スライド部材56に相対回転不能に固定された。しかし、この態様には限らず、回転支持軸59は、付勢用プーリ55が配置される側の端部と反対側の端部が、スライド部材56に、例えばボールベアリング等を介して相対回転可能に支持されてもよい。この場合、付勢用プーリ55は、回転支持軸59のもう一方の端部に固定される。これによっても、第一実施形態と同様の効果が期待できる。
【0077】
また、上記第一実施形態では、スライド部材56のガイド部として、スライド部材56に形成されたガイド軸用貫通孔56a,56aと、ガイド軸用貫通孔56a,56aに貫挿されたガイド軸53,53を係合させて成立させた。しかし、この態様には限らず、ガイド部はどのような方式によって成立させてもよい。例えば、従来技術(特許第5479351号公報)に開示されるようなレール方式によるガイド部でもよい。または、公知のLMガイドを適用してガイド部を成立させてもよい。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0078】
また、上記第一実施形態では、弾性部材を圧縮コイルばね57としたが、この態様には限らない。弾性部材は、ゴム,板ばね,ウェーブワッシャ等どのようなものであってよい。ただし、弾性部材は、支持軸、又は支持軸に代わる部材によって、スライド部材56の上面と、固定部材本体52の第一支持部52aとの間に、良好に保持可能であることが好ましい。これによっても、相応の効果は期待できる。
【0079】
また、上記第一実施形態では、動力伝達ベルトの張力調整装置50を研削盤に備える態様について説明したが、この態様には限らない。駆動プーリ、従動プーリ及びベルトによって構成される駆動力伝達装置を備える装置であれば、どのような装置に適用しても良い。
【符号の説明】
【0080】
1;研削盤、 15;砥石車、 15a;回転軸(軸部材)、 28;砥石駆動モータ(モータ)、 28a;回転軸(出力軸)、 40;駆動力伝達装置、 41;駆動プーリ、 42;動力伝達ベルト、 43;従動プーリ、 50;張力調整装置、 51;固定部材、 52;固定部材本体、 52a;第一支持部、 52b;第二支持部、 52c;接続部、 53;ガイド軸、 54;支持軸、 55;付勢用プーリ、 56;スライド部材、 56a;ガイド軸用貫通孔、 56b;支持軸用孔、 59;回転支持軸、 D1;第一中心位置、 D2;第二中心位置、 G;ガイド位置、 L1;第一距離、 L2;第二距離。