(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】コイル線材、電流センサ部材及び電流センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 15/18 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
G01R15/18 A
(21)【出願番号】P 2018202090
(22)【出願日】2018-10-26
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 将輝
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 正樹
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-054490(JP,A)
【文献】特開2012-088224(JP,A)
【文献】特開2006-064527(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0149678(US,A1)
【文献】特開平11-121253(JP,A)
【文献】特開2007-163228(JP,A)
【文献】特開平03-223678(JP,A)
【文献】特開2018-105678(JP,A)
【文献】特開2011-038996(JP,A)
【文献】特開2013-061327(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0210787(US,A1)
【文献】中国実用新案第202351323(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0356935(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 15/00-17/22、
H01F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性及び導電性を有する芯線と、
巻線と、を有し、
前記芯線の一方の端部と前記巻線の一方の端部とが電気的に接続されて、かつ前記巻線が前記芯線の周囲に巻き回されて前記芯線を共有の中心軸とする複数のループを形成し、
前記巻線は前記芯線の周方向に導電性のワイヤ線が螺旋状に巻き回されたものであり、
前記巻線は、前記ワイヤ線と、前記ワイヤ線の螺旋方向に延在して前記ワイヤ線を被覆する第一絶縁膜と、を有し、
測定対象の電流が流れる方向を巻軸として前記巻線が前記巻軸に沿って複数ターン巻回されており、
隣り合う前記ターンのそれぞれの前記ループの表面に配置された前記第一絶縁膜同士が密着しており、
以下の条件(i)または(ii)を満たす、
コイル線材。
(i)前記芯線の表面が露出していて、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面と前記芯線の表面との最短距離が前記第一絶縁膜の厚さより小さい。
(ii)前記芯線の表面に第二絶縁膜が形成されていて、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面と前記第二絶縁膜の表面との最短距離が前記第一絶縁膜及び前記第二絶縁膜の厚さのいずれか厚いものの厚さより小さい。
【請求項2】
前記芯線の表面が露出している場合、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面の少なくとも一部が前記芯線の表面と接触し、
前記芯線の表面に第二絶縁膜が形成されている場合、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面の少なくとも一部が前記第二絶縁膜の表面と接触している、請求項1に記載のコイル線材。
【請求項3】
前記芯線の表面が露出している場合、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面が全周に亘って前記芯線の表面と接触し、
前記芯線の表面に第二絶縁膜が形成されている場合、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面が全周に亘って前記第二絶縁膜の表面と接触している、請求項1または2に記載のコイル線材。
【請求項4】
複数の前記ループを形成する巻線は、少なくとも一部の範囲に亘って隣接する他のループの巻線と接触している、請求項1から3のいずれか一項に記載のコイル線材。
【請求項5】
筒形状を有する筒形状部
と、前記筒形状部の両端に設けられた一対の巻線留め部と、を有するボビン部と、
前記ボビン部に、前記筒形状部の中心軸周りに複数回巻き回された請求項1から4のいずれか一項に記載のコイル線材と、
前記コイル線材を構成する前記芯線の前記一方の端部と異なる他方の端部及び前記ワイヤ線の前記一方の端部と異なる他方の端部にそれぞれ接続された第一引出線及び第二引出線と、
を有
し、
前記一対の巻線留め部間の長さが、前記複数ターン巻回された前記巻線の前記巻軸に沿う長さと等しい、電流センサ部材。
【請求項6】
両端に端子部を有する長尺の導体部材と、
前記導体部材に巻き回された請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のコイル線材と、
を有する電流センサ部材。
【請求項7】
前記導体部材の外周部に装着される筒形状部
と、前記筒形状部の両端に設けられた一対の巻線留め部と、を有するボビン部をさらに備え、
前記コイル線材は、前記ボビン部の前記筒形状部の外周部に巻き回され
、
前記一対の巻線留め部間の長さが、前記複数ターン巻回された前記巻線の前記巻軸に沿う長さと等しい、請求項6に記載の電流センサ部材。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のコイル線材と、
前記コイル線材を構成する前記芯線の前記一方の端部と異なる他方の端部及び前記ワイヤ線の前記一方の端部と異なる他方の端部との間に接続されて電気信号を検出する検出器と、を備え、
前記コイル線材が巻き回されて形成されるコイル線材輪中を通る電流を検出する、電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル線材、電流センサ部材及び電流センサに関する
【背景技術】
【0002】
従来の電流センサは、例えば特許文献1に示すように、トロイタルコアに1次巻線と2次巻線が巻回されているトランス型のセンサがよく使われている。このようなセンサでは、測定対象とする電流が1次巻線に流れることにより、トロイタルコアに磁束の変化を引き起こすため、これにより2次巻線内に電流が誘起される。そして、2次巻線に流れる電流を検出することで、1次巻線の電流を測定できる。
また、特許文献2に示すように、別のタイプの電流センサにおいては、被検出電流により発生する周回磁束の磁路となる磁性体コアが設けられ、その磁性体コアのギャップ内にホール素子が配置される。そのホール素子から出力される電気信号のレベルは、被検出電流による周回磁束の強度や向きに応じて変化する。このため、そのホール素子から出力される電気信号が増幅回路により増幅され、被検出電流の電流値として出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-203679号公報
【文献】特開昭63-61961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1または2の構成においては、いずれも磁性コアを利用しなければならないため、センサの構成部材の点数が多く、センサの寸法や重量が大きくなるという欠点があった。また、磁性コアを使用することで、センサの取り付けが大変困難になるという問題があった。
本発明は、上記の点を鑑みてなされたものであって、センサの寸法や重量が小さく、取り付けの便利な電流センサに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のコイル線材は、可撓性及び導電性を有する芯線と、巻線と、を有し、前記芯線の一方の端部と前記巻線の一方の端部とが電気的に接続されて、かつ前記巻線が前記芯線の周囲に巻き回されて前記芯線を共有の中心軸とする複数のループを形成し、前記巻線は前記芯線の周方向に導電性のワイヤ線が螺旋状に巻き回されたものであり、前記巻線は、前記ワイヤ線と、前記ワイヤ線の螺旋方向に延在して前記ワイヤ線を被覆する第一絶縁膜と、を有し、測定対象の電流が流れる方向を巻軸として前記巻線が前記巻軸に沿って複数ターン巻回されており、隣り合う前記ターンのそれぞれの前記ループの表面に配置された前記第一絶縁膜同士が密着しており、以下の条件(i)または(ii)を満たす。
(i)前記芯線の表面が露出していて、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面と前記芯線の表面との最短距離が前記第一絶縁膜の厚さより小さい。
(ii)前記芯線の表面に第二絶縁膜が形成されていて、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面と前記第二絶縁膜の表面との最短距離が前記第一絶縁膜及び前記第二絶縁膜の厚さのいずれか厚いものの厚さより小さい。
【0006】
本発明のセンサ部材は、筒形状を有する筒形状部と、前記筒形状部の両端に設けられた一対の巻線留め部と、を有するボビン部と、前記ボビン部に、前記筒形状部の中心軸周りに複数回巻き回された上記のコイル線材と、前記コイル線材を構成する前記芯線の前記一方の端部と異なる他方の端部及び前記ワイヤ線の前記一方の端部と異なる他方の端部にそれぞれ接続された第一引出線及び第二引出線と、を有し、前記一対の巻線留め部間の長さが、前記複数ターン巻回された前記巻線の前記巻軸に沿う長さと等しい。
また、本発明のセンサ部材は、両端に端子部を有する長尺の導体部材と、前記導体部材に巻き回された上記のコイル線材と、を有する。
【0007】
本発明の電流センサは、上記のコイル線材と、前記コイル線材を構成する前記芯線の前記一方の端部と異なる他方の端部及び前記ワイヤ線の前記一方の端部と異なる他方の端部との間に接続されて電気信号を検出する検出器と、を備え、前記コイル線材が巻き回されて形成されるコイル線材輪中を通る電流を検出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、構成部材の点数が少なく、寸法、重量が小さく、取り付けも便利な電流センサを構成できるコイル線材、電流センサ部材及び、このような部材によって構成される電流センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第一実施形態、第二実施形態の電流センサ部材の概略を説明するための図である。
【
図2】
図1に示したコイル線材を適用した電流センサを説明するための模式図である。
【
図3】(a)は、コイル線材の一部を示した模式的な斜視図である。(b)は、(a)に示したコイル線材を切断した断面図である。
【
図4】(a)は、巻線が芯線と所定の距離dを隔てて巻き回されていて、かつ芯線が第二絶縁膜を有する状態を示す図である。(b)は巻線が芯線と所定の距離dを隔てて巻き回されていて、かつ芯線が露出している状態を示す図である。
【
図6】(a)は、巻線が芯線と接触して巻き回されていて、かつ芯線が第二絶縁膜を有する状態を示す図である。(b)は巻線が芯線と接触して巻き回されていて、かつ芯線が露出している状態を示す図である。
【
図7】第一実施形態のボビン部を備えた電流センサ部材を説明するための図である。
【
図8】(a)は、第二実施形態のボビン部にコイル線材を巻き回した状態を示す図である。(b)は、(a)の一部を拡大して示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の第一実施形態、第二実施形態を図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。また、第一実施形態、第二実施形態の図面は、第一実施形態、第二実施形態の構成や機能等を説明するための図であって、そのサイズ比や太さ、長さ、幅及び高さを正確に表すものとは限らない。また、第一実施形態、第二実施形態は、図面に示した形状に限定されるものではない。
さらに、本明細書では、第一実施形態、第二実施形態を総称して「本実施形態」とも記す。
【0011】
[概略]
図1は、本実施形態のコイル線材2を用いた電流センサ部材1を示す図である。電流センサ部材1とは、電流センサに用いられる部品の一つをいう。
コイル線材2は、後に詳述するように、芯線に巻線が巻き回されて構成されている。
図1に示す電流センサ部材1は、長尺の導体部材5にコイル線材2を巻き回して構成されている。導体部材5は、導線性を有する電線と、電線を被覆する絶縁性の樹脂製の絶縁膜とにより構成されている。また、コイル線材2の巻線22(
図2等)の表面が第一絶縁膜221(
図4(a)、
図4(b)等)により被覆されているため、コイル線材2と導体部材5とは互いに絶縁されている。
本実施形態では、導体部材5の断面を円形としているが、このような構成に限定されるものでなく、導体部材5は、例えば断面が矩形であるものであってもよい。
図1に示す電流センサ部材1にあっては、導体部材5は、電流センサ部材1が電流センサを構成した場合の測定対象となる電流の流路となる線であり、測定対象の電流は、電極を通って導体部材5に流入、流出する。
【0012】
コイル線材2は、導体部材5に対し、導体部材5の長さ方向に大凡コイル線材2の太さ分ずつずらしながら導線の周方向に巻き回される。本明細書では、このような巻線の巻き回し方法を螺旋状に巻くとも記す。
本実施形態では、コイル線材2を芯線21(
図2等)と、巻線22とにより形成している。芯線21には第一引出線212が接続されていて、巻線22には第二引出線222が接続されている。第一引出線212、第二引出線222は、芯線21及び巻線22を
図2に示す外部回路8に接続するための導線である。なお、
図2においては、表現しやすいために螺旋状に巻回されたコイル線材2が1ターンしか巻いていないように表現しているが、実際には、コイル線材2はその巻軸(電流iと同じ方向)を沿って、隙間無く2層以上巻回されている。
以下、本実施形態のコイル線材2、コイル線材2を用いたセンサ部材及び電流センサについて順に説明する。
【0013】
[第一実施形態]
(コイル線材)
先ず、第一実施形態のコイル線材2の電気的な特性について説明する。
図2は、
図1に示したコイル線材2を適用した電流センサ100を説明するための模式図である。
図2に示すように、コイル線材2は、芯線21と、芯線21に螺旋状に巻き回される巻線22とにより構成されている。芯線21と巻線22は別個の導線であるが、それぞれの一方の端部p1、p2が、点Pにおいて接続されている。また、芯線21の端部p1と異なる側の端部p3、巻線22の端部p2と異なる側の端部p4は、例えば
図2に示す外部回路8と接続する第一引出線212、第二引出線222の端部である。外部回路8は、芯線21、巻線22から出力される電気的な信号(例えば電圧)を観測するための回路であって、この信号は、例えば端子p5、p6間の電圧(e)として観測される。このような外部回路8は、電流を検出する検出器として機能する。電流センサ100は、コイル線材2が巻き回されることによって構成されるコイル線材輪20の中心を通る電流iを検出、測定する。
図3(a)は、コイル線材の一部を示した模式的な斜視図である。
図3(b)は、
図3(a)に示したコイル線材を芯線21の接線方向と直交する方向に切断した横断面図である。なお、本実施形態では、電流センサ部材1を構成する芯線21及び巻線22の太さは任意であって、
図1に示した電流センサ部材1では芯線21に比べて巻線22が充分に細くなっているが、
図3(a)、
図3(b)では芯線21と巻線22との太さが略等しい例を示している。
図3(a)、
図3(b)に示すように、このようなコイル線材2は、多くの場合、芯線21の周りに第二絶縁膜211が被覆形成されて構成されている。螺旋状に巻き回された巻線22のワイヤ線220(
図4)同士が接触せず、また、ワイヤ線220が芯線21と接触していなければ、理論的にはセンサの線材として機能する。また、芯線21に第二絶縁膜211が被覆成形されていてもよい。
【0014】
これに対し、第一実施形態のコイル線材2は、以下のように構成されている。
図4(a)、
図4(b)及び
図5は、
図1に示したコイル線材2の形状を説明するための図である。このうち、
図4(a)、
図4(b)は、
図3(a)、
図3(b)中に示したx,y,z座標のx-y平面でコイル線材2を切断し、切断面を-zの方向に見た断面図である。
図4(a)、
図4(b)は、いずれも巻線22が芯線21と所定の距離dを隔てて巻き回されている状態を示している。
図4(a)は芯線21が第二絶縁膜211を有する例を示し、
図4(b)は巻線22が露出している例を示している。
図5は、
図4(a)、
図4(b)の芯線21の図示を省いて巻線22が形成するループrを示している。
図4(a)から
図5は、いずれも模式的な図である。
【0015】
第一実施形態のコイル線材2は、
図4(a)、
図4(b)示すように、可撓性及び導電性を有する芯線21と、第一絶縁膜221が導電性のワイヤ線に被覆形成された巻線22と、を有している。芯線21の一方の端部p1(
図2)と巻線の一方の端部p2(
図2)とが電気的に接続されて、かつ巻線22が芯線21の周囲に巻き回されて芯線を共有の中心軸とする複数のループr(
図3)を形成する。
【0016】
芯線21に要求される可撓性は、芯線21を環状にしてコイル線材輪20(
図2)を形成することが可能な程度であればよく、コイル線材輪20の径はコイル線材2を適用して構成される電流センサの用途により決定する。芯線21が形成すべきコイル線材輪20の径が小さいほど芯線21には大きな可撓性が要求される。巻線22は、ワイヤ線220と、ワイヤ線220を被覆するように形成(被覆形成)された第一絶縁膜221によって構成されている。
芯線21及びワイヤ線220は、例えば、直径0.025~3.2mmの軟銅線(断面が円形状)であってもよい。また、第一絶縁膜221は、例えば厚さ0.003mm~0.035mm程度の高分子化合物を溶かしたワニスの絶縁被膜であってもよい。高分子化合物には、ポリビニルホルマール、ポリウレタン、ポリアミドイミド、ポリエステル、ナイロン等を用いるものであってもよい。
また、第二絶縁膜211は、第一絶縁膜221と同様に、0.003mm~0.035mm程度の高分子化合物を溶かしたワニスの絶縁被膜であってもよい。高分子化合物には、ポリビニルホルマール、ポリウレタン、ポリアミドイミド、ポリエステル、ナイロン等を用いるものであってもよい。
また、第一実施形態は、芯線21及びワイヤ線220を断面が円形状のものに限定するものではない。芯線21及びワイヤ線220の断面は、楕円や矩形であってもよいし、多角形であってもよい。
さらに、芯線21及び巻線22は同じ線材、即ち材質や、寸法などが全て同一であっても良く、一部スペックが異なる線材でも良い。また、一方が単線で、他方が複数線材からなるリツ線材でもよい。
【0017】
第一実施形態は、芯線21とワイヤ線220とが絶縁されていればよく、芯線21が絶縁膜により被覆されているものであっても(
図4(a))、被覆されていないものであってもよい(
図4(b))。
芯線21の表面に第二絶縁膜211が形成されている場合、
図4(a)に示すように、複数のループrの少なくとも一部の巻線の内周面S(
図5)と第二絶縁膜211の表面211aの最短距離dが、第一絶縁膜221及び第二絶縁膜211の厚さt1、t2のいずれか厚いものの厚さより小さくなっている。つまり、上記の絶縁被膜の数値の例を基準にすると、最短距離dは、0.003mm以下から0.035mm以下の数値をとり得る。
図4(a)に示した例では、厚さt1、厚さt2のうち、厚さt2は厚さt1よりも充分大きく、最短距離dが厚さt2よりも小さくなっていることが明らかである。
【0018】
図5に示すように、巻線22の内周面Sは、巻線22の周面のうち、芯線21に向かう側の面であって、芯線21に直接または第二絶縁膜211を介して接触し得る面の範囲をいう。
また、「複数のループrの少なくとも一部」は、複数のループrのうちの一部または全部をいい、ループrの全てにおいて内周面Sと表面211aとの距離が最短距離d以上であることを除くものである。また、最短距離とは、ループrの内周面S上の各点のうち、表面211aと最も近くにある点と表面211aとの距離を指す。したがって、第一実施形態のこのような構成は、内周面S上に表面211aとの距離が最短距離dよりも長い点があることを除外するものではない。
【0019】
ただし、第一実施形態は、芯線21の表面に第二絶縁膜211が形成されている場合、複数のループrの少なくとも一部の巻線22の内周面Sが全周に亘って第二絶縁膜211の表面211aと接触していることが好ましい。
【0020】
また、第一実施形態では、
図4(b)に示すように、芯線21の表面が露出している場合、複数のループrの少なくとも一部の巻線22の内周面Sと芯線21の表面211aとの最短距離dが第一絶縁膜221の厚さt1より小さくなっている。ここでいう最短距離は、ループrの内周面S上の各点のうち、表面21aと最も近くにある点と表面21aとの距離を指す。第一実施形態では、芯線21の表面が露出している場合、複数のループrの少なくとも一部の巻線22の内周面Sが全周に亘って芯線21の表面21aと接触していることが好ましい。
【0021】
さらに、第一実施形態は、上記条件により、内周面Sと表面211aまたは芯線21の表面21aとの距離が「0」、即ち内周面Sと表面211aとが接触していてもよい。
図6(a)、
図6(b)は、いずれも巻線22が芯線21と接触して巻き回されている状態を示している。
図6(a)は芯線21が第二絶縁膜211を有する例を示し、
図6(b)は巻線22が露出している例を示している。芯線21が第二絶縁膜211と接触する例では、複数のループrの少なくとも一部の巻線22の内周面Sの少なくとも一部が第二絶縁膜211の表面211aまたは芯線21の表面21aと接触している。
【0022】
以上のように、第一実施形態は、巻線22と芯線21とが近接または接触しているため、コイル線材2の占用する空間が小さく、省スペース化の効果を高めながら、ワイヤ線220の高抵抗化を抑えることができる。なお、巻線22と芯線21との間の寄生容量は、第一絶縁膜221あるいは第二絶縁膜211の膜厚、さらには第一絶縁膜221、第二絶縁膜211の誘電率等によって調整することができる。第二絶縁膜211、第一絶縁膜221は、その材質が同じであってもよいし、異なるものであってもよい。また、膜厚を寄生容量等に応じて調整するものであってもよい。
また、上記のように定められた最短距離dは、巻線22が芯線21または第二絶縁膜211に接触するように巻き回し、その後スプリングバック等により若干元に戻った場合に生じる程度の値となる。また、最短距離dが0である場合、巻き回された巻線22は加熱処理等によってそのままの状態を維持しているものと考えられる。このような第一実施形態のコイル線材2は、巻線22の巻き回しにおいて芯線21または第二絶縁膜211との間の距離のばらつきが小さく、電流センサに用いた場合に電流センサの製品ばらつきを低減することに有効である。
さらに、第一実施形態のコイル線材2は、任意の長さになるように成形することが可能であって、任意の箇所に巻き回して使用することが可能である。このため、コイル線材2を測定対象となる電流が流れる任意の部位に直接巻き回して使用することができる。
【0023】
また、第一実施形態のコイル線材2は、
図4(a)から
図6(b)に示すように、複数のループrを形成する巻線22が、少なくとも一部の範囲に亘って隣接する他のループrの巻線22と接触している。つまり、第一実施形態では、複数のループrの各々が、隣接する他のループrと密着するように形成されている。「密着」は、複数のループrに対してループの列を圧縮する方向の力を加えた場合に各ループrが接触し、かつ、力を解除した場合に各ループrが互いに離れる方向の力を受ける状態をいう。
少なくとも一部の範囲とは、複数のループrが配置されている範囲のうちの一部または全部をいう。すなわち、第一実施形態は、ループrが配置されている範囲のうちの一部において、互いに隣接するループrが接触していない状態にあることを排除するものではない。
このような構成により、第一実施形態は、ワイヤ線220の長さを最小限に抑えながら、単位長さ当たりの巻線数を増やすことができる。
【0024】
(電流センサ部材)
次に、第一実施形態の電流センサ部材1を説明する。電流センサ部材1は、
図1に示すように、導体部材5にコイル線材2を巻き回して構成されている。
このとき、第一実施形態では、導体部材5の外周部に装着される筒形状部を有するボビン部をさらに備え、コイル線材を、ボビン部の筒形状の外周部に巻き回すようにしてもよい。
図7は、ボビン部6を備えた電流センサ部材11を説明するための図である。ボビン部6は、筒形状部61と、筒形状部61の両端に設けられた巻線留め部62、63を備えている。ボビン部6は、挿通孔64を有し、挿通孔64に導体部材5を挿通させて導体部材5に取り付けられる。電流センサ部材11では、コイル線材2がボビン部6に巻き回されることによって導体部材5の周囲に配置される。
ボビン部6は、絶縁性の例えば樹脂等を材料としている。巻線留め部62、63は、筒形状部61上に形成される凸状の部材であって、巻線22が巻線留め部62、63を超えて筒形状部61よりも外側に移動することを防いでいる。第一実施形態では、巻線留め部62、63間の長さを巻線22が巻き回し可能な最小限の長さと等しくすることによってループrが配置される全範囲においてループr同士を密着させることが可能になる。
このような第一実施形態の電流センサ部材11は、測定対象となる電流を発生する機器をボビン部6の筒形状部61に挿通させる。そして、測定対象の電流の変化により電圧の検出や電圧値の測定を行っている。
【0025】
[変形例]
また、第一実施形態の電流センサ部材1に関しては、ボビン部6を含まない実施形態も可能である。この場合、電流センサ部材1を導体部材5の外周側に直接巻きつけてから、その第一引出線212と第二引出線222とを下述の電流センサの外部回路8に取り付けることもできる。そうすると、既に固定された導体部材5を外して電流センサ部材1を取り付ける必要はなく、従来の電流センサに比べ、取付便利性が向上させることができる。
【0026】
[電流センサ]
次に、第一実施形態の電流センサ100を説明する。第一実施形態の電流センサ100は、以上説明したコイル線材2と、コイル線材2を構成する芯線21の一方の端部p1と異なる他方の端部p3及びワイヤ線220の一方の端部p2と異なる他方の端部p4との間に接続されて電気信号を検出する外部回路8(検出器)と、により構成されて、コイル線材2が巻き回されて形成されるコイル線材輪20中を通る電流iを検出している。このような第一実施形態の電流センサ100は、
図2に示されている。
つまり、電流センサ100は、
図2に示すように、芯線21及び巻線22の端部p1、p2が接続されていて、他方の端部p3、p4がそれぞれ第一引出線212、第二引出線222に接続されている。そして、第一引出線212、第二引出線222に電気信号(電圧)を検出する検出器として機能する外部回路8が接続されている。
第一実施形態の電流センサ100では、コイル線材2が巻き回されて形成されるコイル線材輪20の中央を通る交流またはパルス状の電流iの変化に応じてコイル線材2に生じる電圧値や電界強度が変化する。外部回路8は、コイル線材2に生じる変化を第一引出線212、第二引出線222間の電圧により検出する。外部回路8は、さらに、検出信号を増幅するアンプや検出信号のノイズを除去するフィルタ、さらには検出値を表示する表示部を備えるものであってもよい。
【0027】
[第二実施形態]
次に、第二実施形態の電流センサ部材を説明する。
図8(a)、
図8(b)は、第二実施形態の電流センサ部材を説明するための図である。
図8(a)は、第二実施形態のボビン部9にコイル線材2を巻き回した状態を示していて、
図8(b)は、
図8(a)に示した電流センサ部材の一部を拡大して示す拡大図である。第二実施形態の電流センサ部材31は、筒形状を有する筒形状部91を有するボビン部9と、ボビン部9に、筒形状部91の中心軸A周りに複数回巻き回されたコイル線材2と、を有している。また、電流センサ部材31は、コイル線材2を構成する芯線21の端部p3と、ワイヤ線220の端p4にそれぞれ接続された第一引出線212及び第二引出線222と、を有している。さらに、筒形状部91の上下には、筒形状部91からその径方向に沿って突出した上鍔部92、下鍔部93が形成されている。また、筒形状部91の中心には、上下方向を沿って貫通する中空部94が設けられている。また、電流センサ部材31は、コイル線材2を構成する芯線21の端部p3と、ワイヤ線220の端p4にそれぞれ接続された第一引出線212及び第二引出線222と、を有している。更に、上下方向の筒形状部91の長さは、コイル線材輪20の直径よりはるかに小さい。また、このとき、筒形状部91の内周面は、胴体部材5の外周面に密着しなくても良い。こうすることにより、たとえ設置場所が狭く、或いは設置の制約があっても、第二実施形態に係る電流センサを設置することができる。
【0028】
第二実施形態のボビン部9は、ボビン部6と同様に筒形状部91を備えているが、筒形状部91が導体部材5を挿通させるものではない点で相違する。ボビン部9の筒形状部91は、中心軸Aに直交する断面が円形の円筒形を有している。なお、第二実施形態は、筒形状部91を円筒形にすることに限定されるものではなく、断面が楕円形や矩形、さらには多角形であってもよい。
【0029】
このような第二実施形態の電流センサ部材31は、測定対象となる電流を発生する機器を筒形状部91内の挿通孔94に挿通させる。そして、測定対象の電流の変化により電圧の検出や電圧値の測定を行っている。電流センサ部材31を機器の部品として組み込む場合、筒形状部91の形状や挿通孔94のサイズを機器における取り付け位置に合わせて設計しておくことが好ましい。
また、電流センサ部材31は、筒形状部91の部分を開閉できる開閉部材を更に備える好ましい。こうすれば、例えば既に固定された測定対象に対して、電流センサ部材31を取り付けようとする場合、まず開閉部材を開いて、測定対象の機器を筒形状部91内の挿通孔94内部に入れ、そして開閉部材を閉じれば、簡単に電流センサ部材31を取り付けることができる。
【0030】
以上説明した本実施形態によれば、芯線21と巻線22の内周面Sとを近接または接触するものとしたことによって巻線22の単位長さ当たりの巻数を多くし、コイル線材2の横断面を小さくしてコイルを細線化することができる。そして、このようなコイル線材2を巻き回して構成される電流センサ100を、コンパクトにすることができる。また、本実施形態は、コイル線材2の巻き回し回数を多くすることによって磁性体コアを用いずにコイルのインダクタンスを大きくすることができる。このことから、本実施形態は、センサの構成部材の点数が少なく、寸法、重量が小さく、取り付けも便利な電流センサを提供することができる。
さらに、本実施形態によれば、巻線22を芯線21に接触させて巻き回すことによって巻線22の径のばらつきを抑え、ひいてはコイル線材2を用いて構成される電流センサ100の特性のばらつきを低減することができる。このため、本実施形態は、製造の歩留まりが高く、信頼性の高い電流センサを提供することができる。
【0031】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)可撓性及び導電性を有する芯線と、第一絶縁膜が導電性のワイヤ線に被覆形成された巻線と、を有し、前記芯線の一方の端部と前記巻線の一方の端部とが電気的に接続されて、かつ前記巻線が前記芯線の周囲に巻き回されて前記芯線を共有の中心軸とする複数のループを形成し、以下の条件(i)または(ii)を満たす。
(i)前記芯線の表面が露出していて、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面と前記芯線の表面との最短距離が前記第一絶縁膜の厚さより小さい。
(ii)前記芯線の表面に第二絶縁膜が形成されていて、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面と前記第二絶縁膜の表面との最短距離が前記第一絶縁膜及び前記第二絶縁膜の厚さのいずれか厚いものの厚さより小さい、コイル線材。
(2)前記芯線の表面が露出している場合、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面の少なくとも一部が前記芯線の表面と接触し、前記芯線の表面に第二絶縁膜が形成されている場合、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面の少なくとも一部が前記第二絶縁膜の表面と接触している、(1)のコイル線材。
(3)前記芯線の表面が露出している場合、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面が全周に亘って前記芯線の表面と接触し、前記芯線の表面に第二絶縁膜が形成されている場合、複数の前記ループの少なくとも一部の前記巻線の内周面が全周に亘って前記第二絶縁膜の表面と接触している、(1)または(2)のコイル線材。
(4)複数の前記ループを形成する巻線は、少なくとも一部の範囲に亘って隣接する他のループの巻線と接触している、(1)から(3)のいずれか一つのコイル線材。
(5)筒形状を有する筒形状部を有するボビン部と、前記ボビン部に、前記筒形状部の中心軸周りに複数回巻き回された(1)から4のいずれか一項に記載のコイル線材と、前記コイル線材を構成する前記芯線の前記一方の端部と異なる他方の端部及び前記ワイヤ線の前記一方の端部と異なる他方の端部にそれぞれ接続された第一引出線及び第二引出線と、
を有する電流センサ部材。
(6)両端に端子部を有する長尺の導体部材と、前記導体部材に巻き回された(1)から(4)のいずれか一つのコイル線材と、を有する電流センサ部材。
(7)前記導体部材の外周部に装着される筒形状部を有するボビン部をさらに備え、前記コイル線材は、前記ボビン部の前記筒形状部の外周部に巻き回される、(6)の電流センサ部材。
(8)(1)から(4)のいずれか一つのコイル線材と、前記コイル線材を構成する前記芯線の前記一方の端部と異なる他方の端部及び前記ワイヤ線の前記一方の端部と異なる他方の端部との間に接続されて電気信号を検出する検出器と、を備え、前記コイル線材が巻き回されて形成されるコイル線材輪中を通る電流を検出する、電流センサ。
【符号の説明】
【0032】
1・・・電流センサ部材
2・・・コイル線材
5・・・導体部材
6、9・・・ボビン部
8・・・外部回路(検出器)
11、31・・・電流センサ部材
20・・・コイル線材輪
21・・・芯線
21a、211a・・・表面
22・・・巻線
61、91・・・筒形状部
62、63・・・巻線留め部
64、94・・・挿通孔
100・・・電流センサ
211・・・第二絶縁膜
212・・・第一引出線
220・・・ワイヤ線
221・・・第一絶縁膜
222・・・第二引出線
p1、p2、p3、p4・・・端部
r・・・ループ