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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/02 20160101AFI20230111BHJP
【FI】
C08G75/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018225029
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020084132
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀川 喬平
(72)【発明者】
【氏名】石橋 淳司
(72)【発明者】
【氏名】竹田 多完
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-001535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を酸素雰囲気下で加熱して架橋させる工程を含むポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、オゾン濃度が0ppmより大きく、1000ppm以下の雰囲気下でポリアリーレンスルフィド樹脂を架橋反応させることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記架橋反応工程における樹脂温度が150℃以上270℃未満の温度範囲にある請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂の特性を維持したまま、PAS樹脂を、高い生産効率で製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下PASと略す)は、優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性などエンジニアリングプラスチックとしては好適な性質を有しており、射出成形、押出成形用を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品、フィルム、繊維などに使用されている。
【0003】
従来、PASの溶融粘度を高めるために、一般にはPASを気相酸化性雰囲気下でその融点以下の温度に加熱することが行われていた。しかし、所定の溶融粘度を有するPASを得るためには、長時間にわたって加熱しなければならないという問題があった。加熱時間を短縮する方法として、架橋促進剤を添加する方法が知られている。例えば、架橋促進剤として、RSHを使用する方法(特許文献1)、硫黄、チウラムポリスルフィド及び有機過酸化物の混合物を使用する方法(特許文献2)、硫酸、スルホン酸ハロゲン化物又はその他の含硫黄系化合物を使用する方法(特許文献3、4)、過酸化水素、次亜塩素酸アルカリ金属塩を使用する方法(特許文献5)、ヘキサメトキシメチルメラミンを使用する方法(特許文献6)がある。
【0004】
また、架橋促進剤として、アセチルアセトンの金属キレートを使用する方法(特許文献7)、特定の金属ハロゲン化物(特許文献8)を使用する方法が提案されている。
【0005】
更に加熱時間を短縮する方法として、オゾンの存在下にて加熱して架橋させる方法(特許文献9)が開示されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第3,386,950号明細書
【文献】米国特許第3,699,087号明細書
【文献】米国特許第3,839,301号明細書
【文献】米国特許第4,421,910号明細書
【文献】米国特許第3,931,419号明細書
【文献】米国特許第3,998,767号明細書
【文献】特開昭61-213262号公報
【文献】特開昭61-213263号公報
【文献】特開昭59-1535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の方法によれば、架橋反応時間の短縮は未だ不十分である。または短時間で効率良く架橋し得るが、得られたPAS中に金属が混入するために、その用途が制限されるという欠点があった。また、特許文献9に開示された方法によると、オゾンを供給することで、確かにPAS樹脂を短時間で効率よく生産できるが、オゾン濃度が高いのでPAS樹脂の特性を維持できなくなるという欠点があった。
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するため、PAS樹脂の特性を維持したまま、PASを製造する際の架橋反応時間を短縮することを目的として、検討した結果達成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、重合により得られたPASを特定条件のオゾン雰囲気で架橋反応することにより、PAS樹脂の特性を維持したまま、生産効率が高いPAS樹脂の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は以下の通りである。
(1)ポリアリーレンスルフィド樹脂を酸素雰囲気下で加熱して架橋させる工程を含むポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、オゾン濃度が0ppmより大きく、1000ppm以下の雰囲気でポリアリーレンスルフィド樹脂を架橋反応させることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
(2)前記架橋反応工程における樹脂温度が150℃以上270℃未満の温度範囲にある1項記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PAS樹脂の特性を維持したまま、高い生産効率でPAS樹脂を製造する方法に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
[PAS]
本発明におけるPASとは、式、-(Ar-S)-の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては、下記の式(A)~式(K)で表される構造であるが、中でも式(A)で表される構造であることが好ましい。
【0014】
【化1】
【0015】
R1, R2は水素、炭素数1~10を有するアルキル基、炭素数1~10を有するアルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。
【0016】
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(L)~式(N)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、-(Ar-S)-の単位1モルに対して0~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0017】
【化2】
【0018】
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0019】
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位が次式(O)で示されるp-フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンが挙げられる。
【0020】
【化3】
【0021】
上記本発明のPAS樹脂の製造方法について詳細に説明するが、もちろん本発明で規定する要件を満足する限りPAS樹脂の製造法は下記に限定されるものではない。
【0022】
以下に、本発明の製造方法において使用するポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0023】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp-ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p-ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0024】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のPAS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9モル以上2.0モル未満、好ましくは0.95モル以上1.5モル未満、更に好ましくは1.005モル以上1.2モル未満の範囲が例示できる。
【0025】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0026】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0027】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0028】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。
【0029】
本発明法において、反応系内に存在するスルフィド化剤(以下、仕込みスルフィド化剤という)の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0030】
なお、スルフィド化剤とともに、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、これらのなかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0031】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95モル以上1.20モル未満、好ましくは1.00モル以上1.15モル未満、更に好ましくは1.005モル以上1.100モル未満の範囲が例示できる。
【0032】
[重合溶媒]
本発明では重合溶媒として有機極性溶媒を用いることが好ましい。具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0033】
本発明における有機アミド溶媒の使用量は、特に制限はないが、仕込みスルフィド化剤1モル当たり2.5モル以上15モル未満、好ましくは2.5モル以上5.5モル未満の範囲が選択され、2.7モル以上4.5モル未満の範囲がより好ましく、2.7モル以上4.0モル未満の範囲が更に好ましく、2.7モル以上3.5モル未満の範囲がよりいっそう好ましい。ここで反応系の有機アミド溶媒量とは、反応系内に導入した有機アミド溶媒量から、反応系外に除去された有機アミド溶媒量を差し引いた量である。有機アミド溶媒の使用量が前記範囲未満では、純度の高いPASを得にくくなる傾向にある。また、有機アミド溶媒が前記範囲を超える量使用して重合すると、分子量が上がり難く、また結晶化速度が速くなりすぎて、特に厚手のフィルムの製膜に支障を来す場合がある。更に、多すぎても少なすぎても反応に要する時間が長くなるため、経済的に不利になる傾向がある。
【0034】
[分子量調節剤、分岐・架橋剤]
本発明においては、生成PAS樹脂の末端に特定の構造を導入するため、あるいは重合反応や分子量を調節するためなどに、モノハロゲン化合物などの分子量調節剤(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。また、PAS樹脂に分岐または架橋重合体を形成させるために、トリハロゲン化以上のポリハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物及びハロゲン化芳香族ニトロ化合物などの分岐・架橋剤を併用することも可能である。ポリハロゲン化合物としては通常に用いられる化合物を用いることができるが、中でもポリハロゲン化芳香族化合物が好ましく、具体例としては、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,4,6-トリクロロナフタレン等を挙げることができ、中でも1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼンが好ましい。前記、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物としては、例えばアミノ機、メルカプト基及びヒドロキシル基などの官能基を有するハロゲン化芳香族化合物を挙げることができる。具体例としては2,5-ジクロロアニリン、2,4-ジクロロアニリン、2,3-ジクロロアニリン、2,4,6-トリクロロアニリン、2,2’-ジアミノ-4,4’-ジクロロジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノ-2’、4-ジクロロジフェニルエーテルなどを挙げることができる。前記、ハロゲン化芳香族ニトロ化合物としては、例えば2,4-ジニトロクロロベンゼン、2,5-ジクロロニトロベンゼン、2-ニトロ-4,4’-ジクロロジフェニルエーテル、3,3’-ジニトロ-4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、2,5-ジクロロ-2-ニトロピリジン、2-クロロ-3,5-ジニトロピリジンなどを挙げることができる。
【0035】
[重合助剤]
本発明においては、比較的高重合度のPAS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られるPAS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸金属塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸金属塩および/または水が好ましく用いられる。
【0036】
上記有機カルボン酸金属塩とは、一般式R(COOM)(式中、Rは、炭素数1~20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1~3の整数である。)で表される化合物である。有機カルボン酸金属塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。有機カルボン酸金属塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0037】
有機カルボン酸金属塩は、有機酸と、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属重炭酸塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記有機カルボン酸金属塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性に劣ると推定しており、安価かつ反応系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0038】
これら重合助剤を用いる場合の使用量は、仕込みスルフィド化剤1モルに対し、0.01モル以上0.7モル未満の範囲が選択され、より高い重合度を得る意味においては0.1モル以上0.6モル未満の範囲が好ましく、0.2モル以上0.5モル未満の範囲がより好ましい。
【0039】
また水を重合助剤として用いることは、流動性と高靭性が高度にバランスした樹脂組成物を得る上で有効な手段の一つである。その場合の添加量は、仕込みスルフィド化剤1モルに対し、0.5モル以上15モル未満の範囲が好ましく、より高い重合度を得る意味においては0.6モル以上10モル未満の範囲が好ましく、1モル以上5モル未満の範囲がより好ましい。
【0040】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤として有機カルボン酸金属塩を用いる場合は前工程開始時あるいは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0041】
[重合安定剤]
本発明においては、重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることができる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述の有機カルボン酸金属塩も重合安定剤として作用するので、本発明で使用する重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0042】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みスルフィド化剤1モルに対して、通常0.01モル以上0.2モル未満、好ましくは0.03モル以上0.1モル未満、より好ましくは0.05モル以上0.09モル未満の割合で使用する。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
【0043】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時あるいは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
【0044】
次に、前工程、重合反応工程、回収工程、架橋反応工程について順を追って具体的に説明する。
【0045】
[前工程]
PAS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。なお、この操作により水を除去し過ぎた場合には、不足分の水を添加して補充することが好ましい。
【0046】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温から150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180以上260℃未満の温度範囲まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0047】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0モル以上10.0モル未満の範囲であることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0048】
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPAS樹脂を製造する。
【0049】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温から220℃未満、好ましくは100℃以上220℃未満の温度範囲で、有機極性溶媒にスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を加える。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は特に制限はなく、同時であってもさしつかえない。
【0050】
かかる混合物を200℃以上290℃未満の温度範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01℃/分以上5℃/分未満の範囲の速度が選択され、0.1℃/分以上3℃/分未満の速度範囲がより好ましい。
【0051】
一般に、最終的には250℃以上290℃未満の温度まで昇温し、その温度で通常0.25時間以上50時間未満、好ましくは0.5時間以上20時間未満の間、反応させる。
【0052】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃以上260℃未満の温度範囲で一定時間反応させた後、260℃以上290℃未満の温度範囲に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃以上260℃未満の温度範囲での反応時間としては、通常0.25時間以上20時間未満の範囲が選択され、好ましくは0.25時間以上10時間未満の範囲が選択される。
【0053】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点で次の段階に移行することが有効である。
【0054】
[回収工程]
本発明でのPAS樹脂の製造においては、重合終了後に、重合工程で得られたPAS成分および溶媒などを含む重合反応物からPASを回収する。回収方法としては、例えばフラッシュ法、すなわち重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、0.8MPa以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ溶媒回収と同時に重合体を粉粒状にして回収する方法や、クエンチ法、すなわち重合反応物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のPAS成分を析出させ、かつ70℃以上、好ましくは100℃以上の状態で濾別することでPAS成分を含む固体を回収する方法等が挙げられる。
【0055】
フラッシュ法の好ましい態様としては、重合工程で得られた高温高圧の重合反応物を常圧中の窒素または水蒸気などの雰囲気にノズルから噴出させる方法が例示できる。フラッシュ法では、高温高圧状態から常圧状態に重合反応物をフラッシュしたときの溶媒の気化熱を利用して効率よく溶媒回収することができるが、フラッシュさせるときの内温が低いと溶媒回収の効率が低下し生産性が低下する。そのためフラッシュさせるときの重合系内の温度、つまり重合反応物の温度は250℃以上が好ましく255℃以上がより好ましい。常圧中にフラッシュさせるときの窒素または水蒸気などの雰囲気の温度は通常150~250℃が選択され、重合反応物からの溶媒回収が不足する場合は、フラッシュ後に150~250℃の窒素または水蒸気などの雰囲気下で加熱を継続してもよい。
【0056】
かかるフラッシュ法で得られたPAS樹脂は重合副生物であるアルカリ金属ハロゲン化物やアルカリ金属有機物などのイオン性不純物を含んでいるため、洗浄を行うことが通例である。洗浄条件としては、かかるイオン性不純物を除去するに足る条件であれば特に限定されるものではない。洗浄液としては例えば水や有機溶媒を用いて洗浄する方法が挙げられ、簡便かつ安価にPAS樹脂を得る点、PAS樹脂中にオリゴマー成分を含有させて高い溶融流動性を持たせる点で、水を用いた洗浄が好ましい方法として例示できる。洗浄工程における水の温度が80℃以上であることが好ましく、熱水、酸または酸の水溶液、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液のいずれかの液体に浸漬させる処理を1回以上行うことが好ましい。
【0057】
更には、80℃以上の温度で、浸漬させる処理を2回以上行うことが好ましく、1回目に熱水、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液のいずれかの液体に浸漬させる処理を行うことが好ましい。もちろん、2回以上の浸漬させる処理を行う場合、各処理での洗浄温度が異なっていてもよいし、異なる2種以上の液体に浸漬させる処理を組み合わせて用いることも可能であり、各処理の間にはポリマーと洗浄液を分離する濾過工程を経ることがより好ましい方法である。
【0058】
酸または酸の水溶液にPAS樹脂を浸漬させる処理は、処理後の液体のpHが2~8であることが好ましい。酸または酸の水溶液とは、有機酸、無機酸または前記水に有機酸、無機酸等を添加して酸性にしたものである。使用する有機酸、無機酸としては、酢酸、プロピオン酸、塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸等が例示でき、これらに限定されるものではないが、酢酸、塩酸が好ましい。
【0059】
アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液にPAS樹脂を浸漬させる処理に使用する水溶液のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の量は、PAS樹脂に対し、0.01~5重量%が好ましく、0.1~0.7重量%が更に好ましい。アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液とは、前記水にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を添加して溶解させたものである。使用するアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩としては、前記有機酸のカルシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
液体でPAS樹脂を洗浄する際の洗浄温度は80℃以上200℃以下が好ましく、イオン性不純物の少ないPAS樹脂を得る点において150℃以上200℃以下がより好ましく、さらには180℃以上200℃以下がより好ましい。100℃以上の液体での処理の操作は、通常、所定量の液体に所定量のPAS樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、攪拌することにより行われる。
【0061】
熱水、酸の水溶液、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液に使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。PAS樹脂と液体の割合は、液体が多いほうが好ましく、通常、液体1Lに対し、PAS樹脂10g以上500g未満の浴比が好ましく選択され、50g以上200g未満が更に好ましい。
【0062】
洗浄添加剤は洗浄工程のいずれの段階で使用してもよいが、少量の添加剤で効率的に洗浄を行うには、フラッシュ法において回収した固形物を80℃以上200℃以下の熱水に浸漬、濾過する処理を数回行った後、150℃以上の酸または酸の水溶液にPAS樹脂を浸漬させて処理する方法が好ましい。
【0063】
但し、本発明の回収法はフラッシュ法に限定されるものではない。本発明の要件を満たす方法であれば、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法(クエンチ法)を用いることももちろん可能である。
【0064】
本発明ではPAS樹脂を上記浸漬処理する前に、有機溶媒により洗浄する工程を含んでもよく、その方法は次のとおりである。PAS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、PAS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N-メチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0065】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPAS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。
【0066】
有機溶媒でPAS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温以上300℃未満の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温以上150℃未満の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0067】
かくして得られたPAS樹脂は常圧下および/または減圧下に乾燥する。かかる乾燥温度としては、120℃以上280℃未満の範囲が好ましく、140℃以上250℃未満の範囲がより好ましい。乾燥雰囲気は、窒素、ヘリウム、減圧下などの不活性雰囲気でも、酸素、空気などの酸化性雰囲気、空気と窒素の混合雰囲気の何れでも良いが、溶融粘度の関係から不活性雰囲気が好ましい。乾燥時間は、0.5時間以上50時間未満が好ましく、1時間以上30時間未満が好ましく、1時間以上20時間未満がさらに好ましい。
【0068】
[架橋反応工程]
本発明においては、上記回収工程から得られたPAS樹脂を、揮発性成分を除去するために、あるいは架橋高分子量化して好ましい溶融粘度に調整するために、酸素含有雰囲気下、150℃以上270℃未満の温度で架橋反応を行う必要がある。
【0069】
架橋高分子量化を抑制し、揮発性成分除去を目的として架橋反応を行う場合、加熱温度および加熱時間を特定の範囲にすれば、高い酸素濃度雰囲気下でも低い酸素濃度雰囲気下でも差し支えない。
【0070】
高い酸素濃度雰囲気の条件としては酸素濃度が2体積%以上であることが好ましく、加熱温度は150℃以上270℃未満、加熱時間は0.1時間以上20時間未満、行うことが好ましい。ただ、酸素濃度が高い条件下では揮発性成分の低減速度が速いものの、同時に酸化架橋が急速に進行するため溶融流動性が低下しやすくなる。そのため概して低温・長時間または高温・短時間で加熱することが好ましい。
【0071】
低温・長時間加熱する具体的な条件としては150℃以上210℃以下で1時間以上20時間以下が好ましく、170℃以上200℃以下で1時間以上15時間以下がより好ましい。加熱温度が150℃を下回る温度で架橋反応を行うと揮発性成分の低減効果が小さい。また、低温であっても酸素濃度2体積%以上の条件においては加熱時間が20時間を越えると溶融流動性が低下しやすくなる。高温・短時間加熱する具体的な条件としては210℃を超え270℃未満で0.1時間以上10時間未満が好ましく、220℃以上260℃以下で0.2時間以上5時間未満がより好ましい。加熱温度が270℃以上であると酸化架橋が急激に進行し溶融流動性が低下しやすくなる。また、高温であっても酸素濃度2体積%以上の条件においては加熱時間が0.1時間を下回ると揮発性成分の低減効果が小さい。
【0072】
低い酸素濃度雰囲気の条件としては酸素濃度が2体積%未満であることが好ましく、加熱温度は150℃以上270℃未満、加熱時間は0.2時間以上50時間未満、行うことが好ましい。酸素濃度が低いと揮発性成分の低減効果が小さくなる傾向にあるため概して高温・長時間で加熱を行うことが好ましく、220℃以上260℃未満で2時間以上20時間未満行うことがより好ましい。加熱温度が210℃を下回る場合は揮発性成分が低減しにくく、加熱時間が50時間を上回ると生産性が低下する。
【0073】
本発明の架橋反応のための加熱装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率良く、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましく、パドル式ドライヤー、流動層乾燥機、KIDドライヤー、スチームチューブドライヤー、さらにはインクラインドディスクドライヤー、ホッパードライヤー、縦型撹拌乾燥機などが例示できる。なかでもパドル式ドライヤーや流動層乾燥機、KIDドライヤーが均一かつ効率的に加熱する上で好ましい。加熱、架橋反応の酸素濃度を調整するために、酸素、空気、オゾンなどの酸化性ガスに、窒素、アルゴン、ヘリウム、水蒸気などの非酸化性の不活性ガスを混入しても問題ない。加熱装置内で加熱することができれば、加熱装置の上部、下部、側面のどの位置から酸化性ガスや不活性ガスを導入しても特に制限はないが、より簡便な方法としては加熱装置上部からのガスの導入が挙げられる。また、酸化性ガスや不活性ガスは、加熱装置導入前に混合させてから装置に導入してもよいし、加熱装置の異なる場所から別々に酸化性ガスと不活性ガスを混入してもよい。
【0074】
また、本発明の架橋反応工程におけるオゾン雰囲気の条件としては、オゾン濃度が0ppmより大きく、1200ppm以下であることが必要である。オゾン濃度は、100ppm以上1000ppm以下で行うことがより好ましい。オゾン濃度が1200ppmを超えると、得られたPAS樹脂の融点が低くなることから、PASの特性の一つである耐熱性が維持できなくなる。また、オゾンが0ppmであると、架橋反応時間が長くなる。
【0075】
また、本発明におけるオゾン濃度は、架橋反応工程を実施する反応系の出口に設置した紫外線吸収方式オゾン濃度計(オキトロテック有限会社製、OZM-5000GW)にて、重量分率にて測定した値である。
【実施例
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。PAS樹脂の特性については、以下の方法で測定した。
【0077】
[メルトフローレイトの測定条件]
測定にはメルトインデックサ(東洋精機社製)を用い、穴径2.096mm、長さ8.00mmのオリフィスを用いて、温度315.6℃、荷重5000gの条件で測定を行った。サンプル約7gを装置に投入し、1分経過後、ピストンを挿入し、更に4分経過の後、ピストンに荷重を載せ、測定を行った。
【0078】
[融解ピーク温度(融点(Tm))の測定]
パーキンエルマー社製示差走査熱量測定装置(DSC)8000を用い、サンプル量約5mg、窒素雰囲気下、昇温・降温速度20℃/分で、
(1)50℃から340℃まで昇温し、340℃で1分間ホールド
(2)50℃まで降温
した際、(1)にあらわれる融解ピーク温度(融点(Tm))を測定した。
【0079】
[オゾン濃度の測定]
架橋反応工程を実施する反応系の出口にオゾン濃度計を設置し、重量分率にて測定を行った。
【0080】
[酸素濃度の測定]
架橋反応工程を実施する反応系の出口に酸素濃度計を設置し、体積分率にて測定を行った。
【0081】
[参考例]PASの調製
[前工程]
撹拌機のついた1リットルオートクレーブに、48%水硫化ナトリウム116.8g(1.00モル)、48%水酸化ナトリウム85.5g(1.02モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)211.1g(2.13モル)、およびイオン交換水100gを仕込み、240rpmで撹拌しながら常圧で窒素を通じながら225℃まで約2時間かけて徐々に加熱し、水205gおよびNMP2gを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。硫化水素の飛散量はアルカリ金属硫化物1モル当たり0.01モルであった。
【0082】
[重合工程]
次に、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)148.1g(1.01モル)、NMP74.3g(0.75モル)を加えた。続いて反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、200℃から276℃まで平均昇温速度0.7℃/分の速度で昇温した。次いで、276℃で63分保持した。反応を終了し、室温近傍まで急冷して内容物を取り出した。重合反応に要した時間は178分であった。
【0083】
[回収工程]
得られた固形物を約1Lのイオン交換水で希釈しスラリーとして、70℃で30分撹拌、洗浄後、ガラスフィルター(ISO4793呼称P16、ポアサイズ10-16μ m)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を前記同様に、約1Lのイオン交換水で洗浄、濾別する操作を3回繰り返した。
【0084】
得られた固形物を、130℃、3時間で熱風乾燥した。得られたPASのメルトフローレイトは2156g/10分、Tmは280℃であった。
【0085】
実施例1
[架橋反応工程]
参考例で得たPAS粉末50gを表1に示す条件で架橋反応を行った。酸素1L/分、窒素3.8L/分の混合気体を撹拌機付き加熱装置に導入し、酸素濃度20.9体積%とした。オゾン発生器(ED-OG-R6)に酸素を供給し、反応系のオゾン濃度が400ppmとなるように出力調整した。得られたPASのメルトフローレイトは473g/10分、Tmは278℃であった。
【0086】
実施例2
架橋反応工程におけるオゾン濃度を800ppmとした以外は実施例1と同様に架橋反応を行った。得られたPASのメルトフローレイトは380g/10分、Tmは278℃であった。
【0087】
比較例1
架橋反応工程におけるオゾン濃度0ppmとした以外は実施例1と同様に架橋反応を行った。得られたPASのメルトフローレイトは1192g/10分、Tmは280℃であった。
【0088】
比較例2
架橋反応工程におけるオゾン濃度1400ppmとした以外は実施例1と同様に架橋反応を行った。得られたPASのメルトフローレイトは11g/10分、Tmは272℃であった。
【0089】
比較例3
架橋反応工程におけるオゾン濃度3200ppmとした以外は実施例1と同様に架橋反応を行った。得られたPASのメルトフローレイトは1g/10分、Tmは260℃であった。
【0090】
得られた結果を表1に示す。
【0091】
【表1】