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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】端子モジュールおよびコネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/40 20060101AFI20230111BHJP
   H01R 13/6581 20110101ALN20230111BHJP
【FI】
H01R13/40 Z
H01R13/6581
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018247605
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020107566
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前岨 宏芳
(72)【発明者】
【氏名】一尾 敏文
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-330026(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070204(WO,A1)
【文献】特開2017-126499(JP,A)
【文献】特開2017-098081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R13/40-13/533
H01R13/56-13/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本の被覆電線と、前記被覆電線の外周を覆う導電性のシールド部と、前記シールド部の外周を覆うシース部と、を有するシールド電線と、
前記被覆電線に接続される内導体と、
前記内導体と共に前記被覆電線の端部を収容する絶縁性の端子収容部材と、
前記端子収容部材が収容されると共に前記シールド部が電気的に接続された状態で固定される外導体と、を備えた端子モジュールであって、
前記シールド部において前記被覆電線を引き出すシールド側引出部の軸心が前記内導体において前記被覆電線を引き出す内導体側引出部の軸心に対して径方向にずれて配置されており、
前記端子収容部材の壁部のうち前記シールド側引出部の軸心がずれた側の壁部には、前記被覆電線において前記内導体側引出部と前記シールド側引出部との間に位置する繋ぎ部が挿通可能な電線挿通路が形成されており、
前記被覆電線の前記繋ぎ部には、前記繋ぎ部の外周を覆う覆い部材が装着されており、
前記シールド電線は、複数の前記被覆電線を含み、
前記覆い部材は、前記繋ぎ部の外周面に沿ってそれぞれ装着される筒状の覆い部本体を複数有し、かつ前記複数の覆い部本体を連結する連結部を有しており、
前記覆い部本体は、周方向に延びるスリットを有している端子モジュール。
【請求項2】
前記電線挿通路は、前記覆い部材に覆われた前記繋ぎ部が挿通可能な大きさに形成されている請求項1に記載の端子モジュール。
【請求項3】
少なくとも1本の被覆電線と、前記被覆電線の外周を覆う導電性のシールド部と、前記シールド部の外周を覆うシース部と、を有するシールド電線と、
前記被覆電線に接続される内導体と、
前記内導体と共に前記被覆電線の端部を収容する絶縁性の端子収容部材と、
前記端子収容部材が収容されると共に前記シールド部が電気的に接続された状態で固定される外導体と、を備えた端子モジュールであって、
前記シールド部において前記被覆電線を引き出すシールド側引出部の軸心が前記内導体において前記被覆電線を引き出す内導体側引出部の軸心に対して径方向にずれて配置されており、
前記端子収容部材の壁部のうち前記シールド側引出部の軸心がずれた側の壁部には、前記被覆電線において前記内導体側引出部と前記シールド側引出部との間に位置する繋ぎ部が挿通可能な電線挿通路が形成されており、
前記端子収容部材は、前記内導体および前記被覆電線の端部が載置される第1壁部を有する第1部材と、前記第1部材の前記第1壁部とは反対側から前記内導体および前記被覆電線の端部を覆う第2壁部を有する第2部材とを備えており、
前記電線挿通路は、前記第1壁部および前記第2壁部のいずれか一方が他方に比べて前記被覆電線の延び方向に短く設定されて形成されている端子モジュール。
【請求項4】
前記被覆電線の前記繋ぎ部には、前記繋ぎ部の外周を覆う覆い部材が装着されており、
前記電線挿通路は、前記覆い部材に覆われた前記繋ぎ部が挿通可能な大きさに形成されている請求項3に記載の端子モジュール。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の端子モジュールと、
前記端子モジュールを収容するハウジングと、を備えたコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、端子モジュールおよびコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、芯線を絶縁内被覆で覆った被覆電線の外周を編組線と絶縁外被覆とによって覆ったシールド電線の端末に接続される高周波コネクタとして、特開2011-253724号公報(下記特許文献1)に記載のものが知られている。この高周波コネクタは、シールド電線を皮剥ぎして露出させた芯線に接続される内導体端子と、内導体端子を内部に設けられたキャビティ内に収容する絶縁性の誘電体と、誘電体の外側を覆う外導体端子と、外導体端子を収容するコネクタハウジングとを備えている。シールド電線は、絶縁外被覆を皮剥ぎして露出した編組線が外導体端子の内周面に電気的に接続され、編組線および絶縁外被覆から前方に向かって真っ直ぐ引き出された被覆電線の芯線が内導体端子内に導入されて内導体端子と電気的に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-253724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のコネクタは、外導体端子の構造によっては、内導体端子から引き出される被覆電線の軸心と編組線および絶縁外被覆から引き出される被覆電線の軸心とを同軸に配置することができず、内導体端子から引き出される被覆電線の軸心と編組線および絶縁外被覆から引き出される被覆電線の軸心とが芯ずれした状態となる場合がある。内導体端子から引き出される被覆電線の軸心と編組線および絶縁外被覆から引き出される被覆電線の軸心とが芯ずれしていると、内導体端子を収容する誘電体から引き出された被覆電線が急激に屈曲される虞がある。被覆電線が急激に屈曲されると、信号の反射が生じ、通信品質が低下することが懸念される。また、被覆電線を急激に屈曲させた状態で内導体端子および外導体端子に組み付ける必要があるため、組み付け作業性が悪化してしまう。
【0005】
本明細書では、組み付け作業性が悪化することを抑制すると共に、通信品質が低下することを抑制する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によって開示される技術は、少なくとも1本の被覆電線と、前記被覆電線の外周を覆う導電性のシールド部と、前記シールド部の外周を覆うシース部と、を有するシールド電線と、前記被覆電線に接続される内導体と、前記内導体と共に前記被覆電線の端部を収容する絶縁性の端子収容部材と、前記端子収容部材が収容されると共に前記シールド部が電気的に接続された状態で固定される外導体と、を備えた端子モジュールであって、前記シールド部において前記被覆電線を引き出すシールド側引出部の軸心が前記内導体において前記被覆電線を引き出す内導体側引出部の軸心に対して径方向にずれて配置されており、前記端子収容部材の壁部のうち前記シールド側引出部の軸心がずれた側の壁部には、前記被覆電線において前記内導体側引出部と前記シールド側引出部との間に位置する繋ぎ部が挿通可能な電線挿通路が形成されている構成とした。
【0007】
また、本明細書によって開示される技術は、コネクタであって、前記端子モジュールと、前記端子モジュールを収容するハウジングと、を備えている構成とした。
【0008】
例えば、端子収容部材に電線挿通路が形成されていない場合には、内導体引出部から引き出された被覆電線の繋ぎ部が端子収容部材の内壁面に沿って配され、端子収容部材から引き出された後、シールド引出部に向かって急激に屈曲されることになってしまう。被覆電線の繋ぎ部では、急激に屈曲されることにより信号の反射が生じ易くなると共に、曲げ応力によって被覆電線が損傷することが懸念される。
【0009】
ところが、このような構成の端子付き電線によると、端子収容部材の電線挿通路内に被覆電線の繋ぎ部が挿通されることによって繋ぎ部を急激に屈曲させずに緩やかに傾斜した状態にすることができる。これにより、被覆電線の繋ぎ部への曲げ応力が抑制される共に、被覆電線の曲げに起因した信号の反射による通信品質の低下を抑制することができる。また、被覆電線の繋ぎ部を緩やか傾斜した状態に配索できるから、例えば、繋ぎ部を急激に屈曲させた状態で被覆電線を内導体や外導体に組み付ける場合に比べて、組み付け作業性が悪化することを抑制することができる。
【0010】
本明細書によって開示される端子モジュールは、以下の構成としてもよい。
前記被覆電線の前記繋ぎ部には、前記繋ぎ部の外周を覆う覆い部材が装着されており、前記電線挿通路は、前記覆い部材に覆われた前記繋ぎ部が挿通可能な大きさに形成されている構成としてもよい。
このような構成によると、繋ぎ部に覆い部材が装着されることにより繋ぎ部が屈曲し難くなっている。
【0011】
ところが、このような構成によると、電線挿通路は、調整部材に覆われた繋ぎ部が挿通可能となっているから、電線挿通路に繋ぎ部を挿通することで、繋ぎ部における曲げ応力を抑制できると共に、被覆電線の曲げに起因した信号の反射による通信品質の低下を抑制することができる。
【0012】
前記端子収容部材は、前記内導体および前記被覆電線の端部が載置される第1壁部を有する第1部材と、前記第1部材とは反対側から前記内導体および前記被覆電線の端部を覆う第2壁部を有する第2部材とを備えており、前記電線挿通路は、前記第1壁部および前記第2壁部のいずれか一方が他方に比べて前記被覆電線の延び方向に短く設定されて形成されている構成としてもよい。
【0013】
例えば、第1部材の第1壁部および第2部材の第2壁部のいずれか一方に切欠いた形状の電線挿通路を形成する場合、電線挿通路が形成された壁部の剛性が低下することになり、内導体および被覆電線に対して第1部材および第2部材を組み付ける際に、電線挿通路が形成された部材が他の部材に接触するなどして破損してしまうことが懸念される。
【0014】
ところが、このような構成によると、第1部材の第1壁部および第2部材の第2壁部のいずれか一方が他方に比べて短く設定されることによって電線挿通路が形成されているから、第1部材および第2部材の剛性が低下することを抑制しつつ、電線挿通路を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本明細書によって開示される技術によれば、組み付け作業性が悪化することを抑制すると共に、通信品質が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係るコネクタの斜視図
図2】コネクタの正面図
図3図2のA-A線断面図
図4】コネクタの分解斜視図
図5】ロア部材とアッパ部材とを組み付ける前の状態を示す斜視図
図6】ロア部材とアッパ部材とを組み付ける前の状態を示す正面図
図7】ロア部材とアッパ部材とを組み付ける前の状態を示す側面図
図8図6のB-B線断面図
図9】上下反転させたアッパ部材の斜視図
図10】アッパ部材の底面図
図11】ロア部材の平面図
図12】第1外導体の平面図
図13】第1外導体の側面図
図14図12のC-C線断面図
図15】繋ぎ部に調整部材が装着された状態を示す斜視図
図16】内導体が組み付けられた上下反転状態のアッパ部材にロア部材を組み付ける前の状態を示す斜視図
図17】内導体および被覆電線の端部が端子収容部材に収容された状態を示す斜視図
図18】内導体および被覆電線の端部が端子収容部材に収容された状態を示す平面図
図19】第1外導体に第2外導体を組み付ける前の状態を示す斜視図
図20】端子モジュールの平面図
図21】端子モジュールの側面図
図22図20のD-D線断面図
図23】他の実施形態に係る内導体および被覆電線の端部が端子収容部材に収容された状態を示す斜視図
図24】他の実施形態に係る内導体および被覆電線の端部が端子収容部材に収容された状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
本明細書に開示された技術における一実施形態について図1から図22を参照して説明する。
【0018】
本実施形態は、例えば電気自動車やハイブリット自動車等の車両に搭載され、例えば車両内における車載電装品(カーナビゲーションシステム、ETC、モニタ等)と外部機器(カメラ等)との間や、車載電装品間の有線の通信経路に配される通信用のコネクタ10を例示している。
【0019】
コネクタ10は、図1から図4に示すように、シールド電線11と、シールド電線11の前側の端末に接続される複数の内導体20と、複数の内導体20を収容する端子収容部材30と、端子収容部材30の外周を覆った状態でシールド電線11に接続される外導体50と、外導体50を収容するハウジング70とを備えて構成されている。
【0020】
シールド電線11は、複数の被覆電線12と、複数の被覆電線12の外周を一括して覆う編組線からなるシールド部15と、シールド部15のさらに外周を覆う絶縁性の被覆からなるシース部16とを備えて構成されている。本実施形態のシールド電線11は、2本の被覆電線12がシールド部15に一括して覆われている。
【0021】
各被覆電線12は、導電性を有する芯線13を絶縁性の絶縁被覆14によって覆った形態とされている。被覆電線12は、シールド部15に覆われた状態では、2本の被覆電線12が捻って撚り合わせた状態となっており、シールド電線11の端末である前端部では、シース部16が皮剥ぎされて、撚りが解かれた状態の2本の被覆電線12とシールド部15とが露出している。
【0022】
シールド部15は、複数の導電性を有する金属細線を筒状に編んで形成されている。シース部16の端末から露出したシールド部15は、シース部16の端部上に折り返されてシース部16の端部の外周を覆っており、このシールド部15が折り返された部分は、折り返し部15Aとされている。折り返し部15Aは、図3図15から図18に示すように、2本の被覆電線12を前方に向かって引き出しており、折り返し部15Aにおいてそれぞれの被覆電線12が引き出された部分は、シールド側引出部19とされている。
【0023】
折り返し部15Aから前方に引き出された各被覆電線12の前端部は、絶縁被覆14がさらに皮剥ぎされることによって芯線13が露出しており、露出した芯線13には内導体20が電気的に接続されている。
【0024】
内導体20は、導電性を有する金属板材をプレスなどによって加工することによって形成されている。内導体20は、図示しないピン型の雄端子が挿入されて接続される角筒状の接続筒部22を有しており、接続筒部22の後方に芯線13および絶縁被覆14の端末に圧着して接続される電線接続部24が連なって形成されている。また、電線接続部24の後端部において絶縁被覆14に圧着された部分は、被覆電線12が後方に引き出される内導体側引出部25とされている。
【0025】
被覆電線12のうち、内導体側引出部25とシールド側引出部19との間に配される被覆電線12は繋ぎ部17とされており、繋ぎ部17には、繋ぎ部17におけるインピーダンスを調整するための調整部材80が装着されている。
【0026】
調整部材80は、導電性を有する金属板材をプレスなどによって加工することによって形成されている。調整部材80は、被覆電線12における繋ぎ部17の外周にそれぞれ装着される2つの調整部本体82と、2つの調整部本体82を連結する連結部85とを備えて構成されている。
【0027】
それぞれの調整部本体82は、繋ぎ部17の外周面を周方向に覆う略円筒状に形成されている。調整部本体82は、繋ぎ部17の前後方向略中央部に装着されており、調整部本体82の前後方向の長さ寸法は、繋ぎ部17の前後方向の長さ寸法よりもやや短くなっている。
【0028】
連結部85は、上方に向かって膨らむように湾曲した形態とされており、2つの調整部本体82を左右方向に連結している。また、連結部85は、図16から図18に示すように、後部に比べて前部が左右方向に幅広に形成されている。したがって、調整部材80は、後部よりも前部が左右方向に幅広となっている。
【0029】
端子収容部材30は、合成樹脂製であって、図4から図11に示すように、前後方向に長い直方体状に形成されている。
【0030】
端子収容部材30の前後方向中央部よりも前側には、前後方向に延びるキャビティ32が左右方向に2つ並んで形成されている。各キャビティ32内には、図3および図22に示すように、被覆電線12に接続された内導体20が収容可能とされている。
【0031】
端子収容部材30の後部は、2つの内導体20の内導体側引出部25から後方に引き出された繋ぎ部17が調整部材80と共に収容される大収容部33とされている。
【0032】
また、端子収容部材30は、図4から図8に示すように、下部に配置されるロア部材35と、上部に配されるアッパ部材40とを上下方向に組み合わせることで構成されている。
【0033】
ロア部材35は、図4から図8および図11に示すように、端子収容部材30の壁部31のうち下壁31Dを構成する底壁35Dと、底壁35Dの両側縁に設けられた一対の係止片36とを備えて構成されている。底壁35Dは、前後方向に長い略矩形の板状に形成されており、底壁35Dには2つの内導体20が左右方向に並んで載置されるようになっている。
【0034】
一対の係止片36は、底壁35Dの後端部から上方に延出されて形成されており、各係止片36は、左右方向に貫通する略矩形状の係止孔36Aを有している。
【0035】
アッパ部材40は、図4から図10に示すように、端子収容部材30の上壁31Uを構成する天井壁40Uと、天井壁40Uの前端部に設けられた前壁42と、天井壁40Uの左右方向の両側縁にそれぞれ設けられた側壁44とを備えて構成されている。
【0036】
天井壁40Uは、前後方向に長い略矩形の平板状に形成されており、ロア部材35の底壁35Dとは反対側から内導体20および被覆電線12の端部を覆う大きさとされている。天井壁40Uの左右方向略中央部には、天井壁40Uから下方に向けて延出する隔壁45が形成されている。隔壁45は、アッパ部材40とロア部材35とが組み付けられると、ロア部材35の底壁35Dと上下方向に対向するように近接して配され、端子収容部材30内に内導体20が収容される2つのキャビティ32を構成する。
【0037】
前壁42は、天井壁40Uの前端縁から下方に延びた板状に形成されており、前壁42には、雄端子が挿入される挿入口42Aが設けられている。
【0038】
一対の側壁44は、それぞれが天井壁40Uから下方に延出した形態とされており、前壁42の左右方向の両側の側縁にそれぞれ連なって形成されている。
【0039】
各側壁44の前後方向略中央部には、アッパ部材40とロア部材35とが組み付けられた際に、ロア部材35の係止片36が嵌合される嵌合凹部44Aが形成されている。嵌合凹部44Aは、側壁44の下端部から天井壁40Uまで上下方向に切欠かれた形態をなしており、嵌合凹部44Aに臨む天井壁40Uの側縁には、外方にむかって突出する係止突起46が形成されている。
【0040】
係止突起46は、アッパ部材40とロア部材35とが組み付けられて嵌合凹部44A内にロア部材35の係止片36が嵌合された際に、図17および図18に示すように、係止片36の係止孔36Aに嵌まり込んでアッパ部材40とロア部材35とを組み付けた状態に保持するようになっている。
【0041】
外導体50は、図20から図22に示すように、端子収容部材30の外周を覆う第1外導体51と、第1外導体51およびシールド電線11の折り返し部15Aの外周を覆うように第1外導体51に組み付けられる第2外導体60とによって構成されている。
【0042】
第1外導体51は、導電性を有する金属板材をプレスなどによって加工することによって形成されている。第1外導体51は、図3および図22に示すように、端子収容部材30を収容する筒状部52と、筒状部52の後端縁に設けられたシールド接続部53とを備えている。
【0043】
筒状部52は、図12から図14に示すように、正面視略矩形の角筒状をなしており、筒状部52の後方から端子収容部材30が挿入されて収容されるようになっている。
【0044】
シールド接続部53は、筒状部52の下側後端縁から斜め下後方に向かって延びる繋ぎ片54と、繋ぎ片54の後端縁から後方に向かって真っ直ぐ延びる舌片55とを備えている。
【0045】
舌片55は、略矩形の板状をなしており、筒状部52内に端子収容部材30が収容されると、図3および図22に示すように、シールド電線11における折り返し部15Aの下方に配置されるようになっている。
【0046】
第2外導体60は、導電性を有する金属板材をプレスなどによって加工することによって形成されている。第2外導体60は、図19から図22に示すように、筒状部52からシールド電線11の折り返し部15Aの位置まで延びる天井板61と、天井板61の前部に設けられた一対の固定バレル62と、天井板61の後部に設けられた一対の接続バレル63とを備えて構成されている。
【0047】
天井板61は、筒状部52の後部から折り返し部15Aまでの領域を上方から覆う大きさに形成されており、天井板61の前部には、上下方向に貫通するランス孔61Aが設けられている。
【0048】
一対の固定バレル62は、天井板61の前部における左右方向の両側縁に設けられており、左右方向の両側から巻き付くように筒状部52の後部に圧着されるようになっている。
【0049】
一対の接続バレル63は、一対の固定バレル62の後方に連なるように天井板61の後部における左右方向の両側縁に設けられている。
【0050】
一対の接続バレル63のうちの一方は、折り返し部15Aにおける左右方向の一方の側部に沿って配置される側板64と、側板64の上端に設けられた固定片65とを有しており、他方は、折り返し部15Aにおける左右方向の他方の側部に沿って配置される側板64と、側板64の上端に設けられた2つの固定片65とを有している。
【0051】
それぞれの固定片65は、図3および図22に示すように、折り返し部15Aの下方に配置された第1外導体51の舌片55と共に折り返し部15Aの下部に巻き付くように圧着固定される。
【0052】
また、それぞれの固定片65が折り返し部15Aと舌片55とに圧着固定されると、折り返し部15Aが下方に配された舌片55に向かって引きつけられて、図3および図22に示すように、折り返し部15Aの下側の外周面が舌片55に沿った状態となり、シールド側引出部19の軸心βが内導体20における内導体側引出部25の軸心αに対して径方向下側にずれた配置となる。
【0053】
また、それぞれの固定片65の先端部には、内側に向かって折り返したフック部66が形成されている。
【0054】
フック部66は、それぞれの固定片65が圧着されると舌片55の左右方向の両側縁のいずれか一方に引っ掛かることにより、それぞれの固定片65をシールド部15から外れないように固定する。これにより、第1外導体51と第2外導体60とによって構成される外導体50がシールド電線11のシールド部15に電気的に接続固定されるようになっている。
【0055】
ハウジング70は、合成樹脂製であって、図3に示すように、内導体20と端子収容部材30と外導体50とがシールド電線11の端末に組み付けられた端子モジュール68を収容するモジュール収容部72を有している。
【0056】
モジュール収容部72は、前後方向に貫通する角筒状に形成されており、モジュール収容部72内には、端子モジュール68の外導体50におけるランス孔61Aの縁部と係止可能なランス73が設けられている。ランス73は、端子モジュール68がモジュール収容部72の正規収容位置に収容されると、図3に示すように、ランス孔61Aに嵌まり込み、ランス73とランス孔61Aの縁部とが係止することで端子モジュール68がハウジング70内に保持されるようになっている。
【0057】
さて、端子収容部材30を構成する壁部31のうち下壁(内導体側引出部25の軸心αに対してシールド側引出部19の軸心βがずれた下側の壁部31)31Dには、図3および図22に示すように、被覆電線12の繋ぎ部17が挿通可能な電線挿通路34が形成されている。
【0058】
電線挿通路34は、図3図17図18および図22に示すように、端子収容部材30の後部における下壁31Dが上壁31Uよりも前後方向に短く設定されることにより、下壁31Dの後端縁部31D1と、左右方向の両側に位置する側壁31Wの後部における上端縁部31W1とによって構成されており、電線挿通路34によって大収容部33は下方に開口した状態となっている。
【0059】
言い換えると、ロア部材35の底壁35Dがアッパ部材40の天井壁40Uよりも前後方向に短く形成されており、ロア部材35とアッパ部材40とを組み付けると、ロア部材35の底壁35Dにおける後端縁部35D1と、アッパ部材40の左右方向の両側の側壁44における下端縁部44Bとによって電線挿通路34が形成されるようになっている。
【0060】
また、電線挿通路34の左右方向の幅寸法L1は、調整部材80の左右方向の幅寸法L2よりも大きく設定されており、調整部材80が装着された状態の繋ぎ部17が挿通可能とされている。
【0061】
したがって、電線挿通路34には、図3および図22に示すように、内導体側引出部25から斜め下後方に位置するシールド側引出部19に向けて緩やかに傾斜して延びる被覆電線12の繋ぎ部17が、調整部材80が装着された状態で配索されている。
【0062】
本実施形態は、以上のような構成であって、次に、通信用のコネクタ10の組み立て手順の一例を簡単に説明し、続けて、コネクタ10の作用および効果について説明する。
【0063】
まず、シールド電線11のシース部16を皮剥ぎして、2本の被覆電線12の端末とシールド部15を露出させ、シールド部15をシース部16の外面に折り返して折り返し部15Aを形成する。また、2本の被覆電線12の前端部の絶縁被覆14を皮剥ぎして芯線13を露出させ、図15に示すように、露出した芯線13に電線接続部24を圧着して内導体20を接続する。
【0064】
次に、シールド電線11の2本の被覆電線12の繋ぎ部17に調整部材80を装着する。調整部材80は、繋ぎ部17に装着する前の展開状態では、図4に示すように、調整部本体82を構成する上側の部分が上方に開いた状態となっており、調整部本体82が開いた状態の調整部材80上に被覆電線12の繋ぎ部17を配置し、繋ぎ部17に巻き付けるようにして調整部本体82を圧着して繋ぎ部17に調整部材80を固定する。
【0065】
次に、図16に示すように、上下反転させたアッパ部材40の天井壁40U上に2つの内導体20を組み付け、アッパ部材40に対してロア部材35を上方から組み付ける。これにより、図17および図18に示すように、内導体20が端子収容部材30に収容される。
【0066】
ここで、アッパ部材40にロア部材35を組み付けると、ロア部材35の底壁35Dがアッパ部材40の天井壁40Uよりも前後方向に短く形成されているから、ロア部材35の底壁35Dにおける後端縁部35D1と、アッパ部材40の左右方向の両側の側壁44における下端縁部44Bとによって電線挿通路34が形成される。これにより、図17および図18に示すように、端子収容部材30の大収容部33が下方に開口された状態となり、調整部材80が装着された繋ぎ部17が電線挿通路34を通して露出した状態となる。
【0067】
次に、図19に示すように、外導体50の第1外導体51における筒状部52の後方から端子収容部材30を挿入し、第1外導体51に対して第2外導体60を組み付ける。
【0068】
第2外導体60の組み付けは、第1外導体51の舌片55が下側になるように第2外導体60の天井板61を第1外導体51に上方から組み付け、固定バレル62を筒状部52に巻き付けるようにして圧着する。また、接続バレル63のそれぞれの固定片65を舌片55およびシールド部15に巻き付けるようにして圧着する。
【0069】
それぞれの固定片65が圧着されると、折り返し部15Aが下方に配された舌片55に向かって引きつけられて、図22に示すように、折り返し部15Aの下側の外周面が舌片55に沿った状態となり、シールド側引出部19の軸心βが内導体20における内導体側引出部25の軸心αに対して径方向下側にずれた配置となる。
【0070】
すると、内導体側引出部25からシールド側引出部19に向けて延びる被覆電線12の繋ぎ部17が電線挿通部内を斜め下方向に向かって緩やかに傾斜して挿通される。
【0071】
また、それぞれの固定片65が圧着されると、図20から図22に示すように、固定片65のフック部66が舌片55の側縁に引っ掛かることで固定片65が舌片55およびシールド部15から外れないように固定され、シールド電線11の端末に内導体20と端子収容部材30と外導体50とが組み付けられた端子モジュール68が完成する。
【0072】
最後に、端子モジュール68をハウジング70のモジュール収容部72に後方から挿入し、端子モジュール68が正規の収容位置に至ると、図3に示すように、ランス73が外導体50のランス孔61Aに嵌まり込み、端子モジュール68がハウジング70内に抜け止めされて保持される。これにより、通信用のコネクタ10が完成する。
【0073】
次に、通信用のコネクタ10の作用および効果について説明する。
本実施形態のように、内導体20の内導体側引出部25の軸心αとシールド側引出部19の軸心βとを同軸に設定することができず、内導体側引出部25の軸心αとシールド側引出部19の軸心βとが径方向に芯ずれした状態となる場合、内導体側引出部25とシールド側引出部19との間に配索される被覆電線12の繋ぎ部17が急激に屈曲され、繋ぎ部17が急激に屈曲されることに起因して被覆電線12における信号の反射が生じ易くなることが懸念される。また、繋ぎ部17に曲げ応力が生じることによって被覆電線12が損傷することが懸念される。
【0074】
そこで、本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意検討を行った結果、本実施形態の構成を見出した。すなわち、本実施形態の通信用のコネクタ10は、少なくとも1本の被覆電線12と、被覆電線12の外周を覆う導電性のシールド部15と、シールド部15の外周を覆うシース部16と、を有するシールド電線11と、被覆電線12に接続される内導体20と、内導体20と共に被覆電線12の端部を収容する絶縁性の端子収容部材30と、端子収容部材30が収容されると共にシールド部15が電気的に接続された状態で固定される外導体50と、を備えた端子モジュール68であって、シールド部15において被覆電線12を引き出すシールド側引出部19の軸心βが内導体20において被覆電線12を引き出す内導体側引出部25の軸心αに対して径方向にずれて配置されており、端子収容部材30の壁部31のうちシールド側引出部19の軸心βがずれた側である下側の壁部(下壁31D)31には、被覆電線12において内導体側引出部25とシールド側引出部19との間に位置する繋ぎ部17が挿通可能な電線挿通路34が形成されている。
【0075】
すなわち、図3および図22に示すように、端子収容部材30の電線挿通路34内に被覆電線12の繋ぎ部17が挿通されることによって繋ぎ部17を急激に屈曲させずに緩やかに傾斜した状態に配索することができる。これにより、被覆電線12の繋ぎ部17への曲げ応力が抑制される共に、被覆電線12の曲げに起因した信号の反射による通信品質の低下を抑制することができる。また、被覆電線12の繋ぎ部17を緩やかに傾斜した状態に配索できるから、例えば、繋ぎ部を急激に屈曲させた状態で被覆電線を内導体や外導体に組み付ける場合に比べて、組み付け作業性が悪化することを抑制することができる。
【0076】
また、被覆電線12の繋ぎ部17には、繋ぎ部17の外周を覆う調整部材(覆い部材)80が装着されており、電線挿通路34は、調整部材80に覆われた繋ぎ部17が挿通可能な幅寸法L1を有する大きさに形成されている。
【0077】
本実施形態では、繋ぎ部17に調整部材80が装着されることにより繋ぎ部17を屈曲させることができなくなっている。ところが、本実施形態の電線挿通路34は、調整部材80に覆われた繋ぎ部17が挿通可能となっているから、電線挿通路34に繋ぎ部17を挿通することができ、繋ぎ部17における曲げ応力を抑制することができる共に、被覆電線12の曲げに起因した信号の反射による通信品質の低下を抑制することができる。
【0078】
また、端子収容部材30は、図4から図8に示すように、内導体20および被覆電線12の端部が載置される底壁35D(第1壁部)を有するロア部材(第1部材)35と、ロア部材35とは反対側から内導体20および被覆電線12の端部を覆う天井壁40U(第2壁部)を有するアッパ部材(第2部材)40とを備えており、電線挿通路34は、底壁35Dおよび天井壁40Uのいずれか一方が他方に比べて被覆電線12の延び方向である前後方向に短く設定されて形成されている。
【0079】
例えば、ロア部材の底壁およびアッパ部材の天井壁のいずれか一方に切欠いた形状の電線挿通路を形成する場合、電線挿通路が形成された壁部の剛性が低下することになり、内導体および被覆電線に対してロア部材およびアッパ部材を組み付ける際に、電線挿通路が形成された部材が他の部材に接触するなどして破損してしまうことが懸念される。
【0080】
ところが、本実施形態によると、ロア部材35の底壁35Dおよびアッパ部材40の天井壁40Uのいずれか一方が他方に比べて前後方向に短く設定されることによって電線挿通路34が形成されているから、ロア部材35およびアッパ部材40の剛性が低下することを防ぎつつ、電線挿通路34を形成することができる。
【0081】
<他の実施形態>
本明細書で開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も含まれる。
【0082】
(1)上記実施形態では、繋ぎ部17に調整部材80が装着された構成にした。しかしながら、これに限らず、インピーダンスの調整が不要であれば、繋ぎ部に調整部材を装着しない構成にしてもよい。
【0083】
(2)上記実施形態では、アッパ部材40の天井壁40Uよりもロア部材35の底壁35Dを前後方向に短くして電線挿通路34を構成した。しかしながら、これに限らず、ロア部材およびアッパ部材の剛性を高く構成することによりロア部材の底壁に切欠き状の電線挿通路を構成してもよい。
【0084】
(3)上記実施形態では、雌型端子からなる内導体20を、ロア部材35およびアッパ部材40からなる端子収容部材30に収容した構成とした。しかしながら、これに限らず、図23および図24に示すように、雄型端子からなる内導体120をロア部材135およびアッパ部材140からなる端子収容部材130に収容として構成してもよい。
【符号の説明】
【0085】
10:コネクタ
11:シールド電線
12:被覆電線
15:シールド部
16:シース部
17:繋ぎ部
19:シールド側引出部
20:内導体
25:内導体側引出部
30:端子収容部材
31:壁部
31D:下壁
34:電線挿通路
35:ロア部材(「第1部材」の一例)
40:アッパ部材(「第2部材」の一例)
50:外導体
68:端子モジュール
70:ハウジング
80:調整部材(「覆い部材」の一例)
図1
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