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  • 特許-プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20230111BHJP
   C08G 59/24 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
C08G59/24
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018528360
(86)(22)【出願日】2018-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2018020397
(87)【国際公開番号】W WO2019021613
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2017146291
(32)【優先日】2017-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】新井 厚仁
(72)【発明者】
【氏名】杉本 篤希
(72)【発明者】
【氏名】三野 真弘
(72)【発明者】
【氏名】三原 真由美
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/017340(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/034114(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/118368(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/125674(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/24
C08G 59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構成要素[A]~[C]を含み、かつ条件(I)~(III)を満たすプリプレグ。
[A]:炭素繊維
[B]:エポキシ樹脂
[C]:[B]の硬化剤
(I):X線光電子分光法により測定される[A]の表面酸素濃度O/Cが0.10以上である。
(II):[B]および[C]を硬化させて得られる硬化物が、クロスニコル状態での偏光光学顕微鏡観察にて干渉模様を示す分子異方性を有する樹脂領域を含む。
(III)構成要素[B]が、下記一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂およびプレポリマーを含み、プレポリマーを構成要素[B]中のエポキシ樹脂とプレポリマーの合計量100質量部に対して、5~60質量部含む。
【化1】
(一般式(1)中、Q 、Q 、Q はそれぞれ群(I)より選択される1種の構造を含む。一般式(1)中のR 、R はそれぞれ炭素数1~6のアルキレン基を示す。群(I)中のZは各々独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。一般式(1)および群(I)中のY 、Y 、Y はそれぞれ群(II)より選択される少なくとも1種の2価の基又は単結合からなる連結基を示す。)
【化2】
【化3】
【請求項2】
構成要素[B]が含むプレポリマーの数平均分子量は350-5000である請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
構成要素[C]の硬化剤は、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体である請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
構成要素[A]がエポキシ化合物を含むサイジング剤が塗布されてなるサイジング剤塗布炭素繊維である、請求項1~3のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記サイジング剤塗布炭素繊維2±0.5gを、アセトニトリルとクロロホルムを体積比9対1で混合した溶液10mlに浸漬し、超音波洗浄を20分間行うことで繊維からサイジング剤を溶出させた後、十分に乾燥させて質量を測定し、さらに、該洗浄後炭素繊維を窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行い、該加熱処理前後の質量変化量を、加熱処理前のサイジング剤塗布炭素繊維の質量で除した値の質量%として表される、該サイジング剤塗布炭素繊維の洗浄後のサイジング剤付着量が、前記サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.14質量%以上0.30質量%以下である、請求項に記載のプリプレグ。
【請求項6】
下記式にて求められる界面剪断強度が25MPa以上である、請求項1~のいずれかに記載のプリプレグ。
界面剪断強度IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)
ここで、σはストランド引張強度、dは炭素繊維単糸の直径、lcは臨界繊維長を表す。
【請求項7】
請求項1~に記載のプリプレグを硬化させてなる炭素繊維強化複合材料。
【請求項8】
下記構成要素[A]と、下記構成要素[B]および[C]の硬化物を含む炭素繊維強化複合材料であって、条件(I)~(III)を満たす炭素繊維強化複合材料。
[A]:炭素繊維
[B]:エポキシ樹脂
[C]:[B]の硬化剤
(I):X線光電子分光法により測定される[A]の表面酸素濃度O/Cが0.10以上である。
(II):[B]および[C]を硬化させて得られる硬化物が、クロスニコル状態での偏光光学顕微鏡観察にて干渉模様を示す分子異方性を有する樹脂領域を含む。
(III)構成要素[B]が、下記一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂およびプレポリマーを含み、プレポリマーを構成要素[B]中のエポキシ樹脂とプレポリマーの合計量100質量部に対して、5~60質量部含む。
【化4】
(一般式(1)中、Q 、Q 、Q はそれぞれ群(I)より選択される1種の構造を含む。一般式(1)中のR 、R はそれぞれ炭素数1~6のアルキレン基を示す。群(I)中のZは各々独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。一般式(1)および群(I)中のY 、Y 、Y はそれぞれ群(II)より選択される少なくとも1種の2価の基又は単結合からなる連結基を示す。)
【化5】
【化6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた層間靱性、引張強度を兼ね備えた炭素繊維強化複合材料が得られるプリプレグ、炭素繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維と、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性、また耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。特に、高性能が要求される用途では、連続した強化繊維を用いた繊維強化複合材料が用いられ、強化繊維としては比強度、比弾性率に優れた炭素繊維が、そしてマトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、中でも特に炭素繊維との接着性に優れたエポキシ樹脂が多く用いられている。
【0003】
炭素繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂を必須の構成要素とする不均一材料であり、強化繊維の配列方向の物性とそれ以外の方向の物性に大きな差が存在する。例えば、強化繊維層間破壊の進行し難さを示す層間靱性は、強化繊維の強度を向上させるのみでは、抜本的な改良に結びつかないことが知られている。特に、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維強化複合材料は、マトリックス樹脂の低い靭性を反映し、強化繊維の配列方向以外からの応力に対し、破壊され易い性質を持っている。そのため、航空機構造材のように高い強度と信頼性を必要とする用途に向けては、繊維方向強度を確保しつつ、層間靭性を始めとする強化繊維の配列方向以外からの応力に対応することができる複合材料物性の改良を目的に、種々の技術が提案されている。
【0004】
近年、航空機構造材への炭素繊維強化複合材料の適用部位が拡大していることに加えて、発電効率やエネルギー変換効率の向上を目指した風車ブレードや各種タービンへの炭素繊維強化複合材料の適用も進んでおり、肉厚な部材、また3次元的な曲面形状を有する部材への適用検討が進められている。このような肉厚部材、あるいは曲面部材に引っ張りや圧縮の応力が負荷された場合、プリプレグ繊維層間への面外方向への引き剥がし応力が発生し、これにより層間に開口モードによる亀裂が生じ、その亀裂の進展により部材全体の強度、剛性が低下し、全体破壊に到る場合がある。この引き剥がし応力に対抗するために、開口モード、すなわちモードIでの層間靱性が必要になる。高いモードI層間靱性を有する炭素繊維強化複合材料を得るには、マトリックス樹脂が高い靱性を備えることが必要となる。マトリックス樹脂の靱性を改良するため、マトリックス樹脂にゴム成分を配合する方法(例えば、特許文献1参照)、熱可塑性樹脂を配合する方法(例えば、特許文献2参照)が知られていた。また、インターリーフと呼ばれる一種の接着層ないしは衝撃吸収層を層間に挿入する方法(例えば、特許文献3参照)、および粒子により層間を強化(例えば、特許文献4参照)する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-139662号公報
【文献】特開平7-278412号公報
【文献】特開昭60-231738号公報
【文献】特公平6-94515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載の方法では、マトリックス樹脂の靱性改良効果は十分なものではなかった。また、特許文献3や特許文献4に記載の方法では、モードII層間靱性に対しては効果があるものの、モードI層間靱性に対しては、十分な効果が得られるものではなかった。また、これらは高い層間靱性を有する炭素繊維強化複合材料を得るために、マトリックス樹脂に高い靱性を付与する方法であり、マトリックス樹脂と組み合わせて用いる強化繊維の表面元素比率や、マトリックス樹脂と強化繊維の界面接着性に着目して層間靱性を向上する方法については何ら記述されていなかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、モードI層間靱性とモードII層間靱性、引張強度に優れた炭素繊維強化複合材料が得られるプリプレグ、および炭素繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために次のような手段を採用するものである。
すなわち、本発明のプリプレグは、下記構成要素[A]~[C]を含み、かつ条件(I)および(II)を満たす。
[A]:炭素繊維
[B]:エポキシ樹脂
[C]:[B]の硬化剤
(I):X線光電子分光法により測定される[A]の表面酸素濃度O/Cが0.10以上である。
(II):[B]および[C]を硬化させて得られる硬化物が、クロスニコル状態での偏光光学顕微鏡観察にて干渉模様を示す分子異方性を有する樹脂領域を含む。
【0009】
また、本発明の炭素繊維強化複合材料は、上記に記載のプリプレグを硬化させてなる。
【0010】
また、本発明の炭素繊維強化複合材料は、下記構成要素[A]と、下記構成要素[B]および[C]の硬化物を含む炭素繊維強化複合材料であって、条件(I)および(II)を満たす。
[A]:炭素繊維
[B]:エポキシ樹脂
[C]:[B]の硬化剤
(I):X線光電子分光法により測定される[A]の表面酸素濃度O/Cが0.10以上である。
(II):[B]および[C]を硬化させて得られる硬化物が、クロスニコル状態での偏光光学顕微鏡観察にて干渉模様を示す分子異方性を有する樹脂領域を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、モードI層間靱性とモードII層間靱性、引張強度に優れた炭素繊維強化複合材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】モードI層間靭性(GIC)の測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の構成要素[A]である炭素繊維としては、繊維の形態や配列については限定されず、例えば、一方向に引き揃えられた長繊維、単一のトウ、織物、ニット、および組紐などの繊維構造物が用いられる。2種類以上の炭素繊維や、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維などの他の強化繊維と組み合わせて用いても構わない。
【0014】
炭素繊維としては、具体的にはアクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等の炭素繊維が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。
【0015】
かかるアクリル系の炭素繊維は、例えば、次に述べる工程を経て製造することができる。アクリロニトリルを主成分とするモノマーから得られるポリアクリロニトリルを含む紡糸原液を、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、または溶融紡糸法により紡糸する。紡糸後の凝固糸は、製糸工程を経て、プリカーサーとし、続いて耐炎化および炭化などの工程を経て炭素繊維を得ることができる。
【0016】
炭素繊維の形態としては、有撚糸、解撚糸および無撚糸等を使用することができるが、有撚糸の場合は炭素繊維を構成するフィラメントの配向が平行ではないため、得られる炭素繊維強化複合材料の力学特性の低下の原因となることから、炭素繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスが良い解撚糸または無撚糸が好ましく用いられる。
【0017】
本発明の炭素繊維は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、酸素含有官能基が導入されることが好ましい。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
【0018】
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられるが、接着性の観点から、炭素繊維をアルカリ性電解液中で液相電解酸化した後、サイジング剤を塗布することがより好ましい。
【0019】
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。
【0020】
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、マトリックス樹脂の硬化阻害を引き起こすアルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
【0021】
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01~5モル/リットルの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1~1モル/リットルの範囲内である。電解液の濃度が0.01モル/リットル以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コストに有利になる。一方、電解液の濃度が5モル/リットル以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0022】
本発明において用いられる電解液の温度は、10~100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10~40℃の範囲内である。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コストに有利になる。一方、電解液の温度が100℃以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0023】
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
本発明において、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m当たり1.5~1000アンペア/mの範囲内であることが好ましく、より好ましくは3~500アンペア/mの範囲内である。電流密度が1.5アンペア/m以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コストに有利になる。一方、電流密度が1000アンペア/m以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0024】
また、本発明において、電解処理で採用する電解電気量の総量は、炭素繊維1g当たり3~300クーロン/gであることが好ましい。電解電気量の総量を3クーロン/g以上とすることで、炭素繊維表面に十分に官能基を付与でき、マトリックス樹脂と炭素繊維の界面接着性が優れたものとなる。一方、電解電気量の総量を300クーロン/g以下とすることで炭素繊維単繊維表面の欠陥拡大を抑制し、炭素繊維の強度低下を低減できる。
【0025】
本発明において、電解処理の後、炭素繊維を水洗および乾燥することが好ましい。洗浄する方法としては、例えば、ディップ法とスプレー法を用いることができる。なかでも、洗浄が容易であるという観点から、ディップ法を用いることが好ましく、さらには、炭素繊維を超音波で加振させながらディップ法を用いることが好ましい態様である。また、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が好ましくは250℃以下、さらに好ましくは210℃以下で乾燥することが好ましい。
【0026】
本発明で用いる炭素繊維は、引張弾性率が200~440GPaの範囲であることが好ましい。炭素繊維の引張弾性率は、炭素繊維を構成する黒鉛構造の結晶度に影響され、結晶度が高いほど弾性率は向上する。炭素繊維の引張弾性率がこの範囲であると炭素繊維強化複合材料に剛性、強度のすべてが高いレベルでバランスするために好ましい。より好ましい引張弾性率は、230~400GPaの範囲内であり、さらに好ましくは260~370GPaの範囲内である。ここで、炭素繊維の引張弾性率は、JIS R7601(2006)に従い測定された値である。
【0027】
炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T800G-24K、“トレカ(登録商標)”T300-3K、“トレカ(登録商標)”T700G-12K、および“トレカ(登録商標)”T1100G-24K(以上東レ(株)製)などが挙げられる。
【0028】
本発明において用いられる炭素繊維は、単繊維繊度が0.2~2.0dtexであることが好ましく、より好ましくは0.4~1.8dtexである。単繊維繊度が0.2dtex未満では、撚糸時においてガイドローラーとの接触による炭素繊維の損傷が起こり易くなることがあり、また樹脂組成物の含浸処理工程においても同様の損傷が起こることがある。単繊維繊度が2.0dtexを超えると炭素繊維に樹脂組成物が充分に含浸されないことがあり、結果として耐疲労性が低下することがある。
【0029】
本発明において用いられる炭素繊維は、一つの繊維束中のフィラメント数が2500~50000本の範囲であることが好ましい。フィラメント数が2500本を下回ると、繊維配列が蛇行しやすく強度低下の原因となりやすい。また、フィラメント数が50000本を上回ると、プリプレグ作製時あるいは成形時に樹脂含浸が難しいことがある。フィラメント数は、より好ましくは2800~40000本の範囲である。
【0030】
本発明において、炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が、0.10以上であり、好ましくは0.10~0.50の範囲内のものであり、より好ましくは0.14~0.30の範囲内のものであり、さらに好ましくは0.14~0.20の範囲内のものである。表面酸素濃度(O/C)が0.10以上であることにより、炭素繊維表面の酸素含有官能基を確保し、マトリックス樹脂との強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度(O/C)が0.50以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の強度の低下を抑えることができるため好ましい。
【0031】
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着している汚れなどを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10-8Torrに保ち、光電子脱出角度90°で測定した。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は、282~296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積は、528~540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。表面酸素濃度(O/C)は、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積との比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA-1600を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は2.33である。
【0032】
本発明の炭素繊維は、サイジング剤塗布炭素繊維であることが好ましい。サイジング剤塗布炭素繊維とすることで炭素繊維のハンドリング性に優れるとともに、炭素繊維とマトリックス樹脂の界面接着性に優れ、炭素繊維強化複合材料用途として好適なものとなる。
【0033】
本発明において、サイジング剤はエポキシ樹脂化合物を含むことが好ましい。サイジング剤に含まれるエポキシ化合物としては、例えば脂肪族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物があり、これらを単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0034】
脂肪族エポキシ化合物のみからなるサイジング剤が塗布されてなる炭素繊維は、マトリックス樹脂との接着性が高いことが確認されている。そのメカニズムは確かではないが、脂肪族エポキシ化合物は柔軟な骨格および自由度が高い構造に由来して、炭素繊維表面のカルボキシル基および水酸基等の官能基と脂肪族エポキシ化合物が強い相互作用を形成することが可能であると考えられる。
【0035】
芳香族エポキシ化合物のみからなるサイジング剤が塗布されてなる炭素繊維は、サイジング剤とマトリックス樹脂との反応性が低く、プリプレグを長期保管した場合の物性変化が小さいという利点がある。また、剛直な界面層を形成することができるという利点もある。
【0036】
脂肪族エポキシ化合物と芳香族エポキシ化合物を混合したサイジング剤を使用する場合、より極性の高い脂肪族エポキシ化合物が炭素繊維側に多く偏在し、炭素繊維と逆側のサイジング層の最外層に極性の低い芳香族エポキシ化合物が偏在しやすいという現象が見られる。このサイジング層の傾斜構造の結果として、脂肪族エポキシ化合物は炭素繊維近傍で炭素繊維と強い相互作用を有することで炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性を高めることができる。また、外層に多く存在する芳香族エポキシ化合物は、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグにした場合に、脂肪族エポキシ化合物をマトリックス樹脂から遮断する役割を果たす。このことにより、脂肪族エポキシ化合物とマトリックス樹脂中の反応性の高い成分との反応が抑制されるため、長期保管時の安定性が発現される。
【0037】
脂肪族エポキシ化合物の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
【0038】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。また、このグリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ジシクロペンタジエン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
【0039】
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、1,3-ビス(ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンが挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、ダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
【0040】
分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化させて得られるエポキシ化合物としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ化合物が挙げられる。さらに、このエポキシ化合物としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
脂肪族エポキシ化合物として、これらのエポキシ化合物以外にも、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ化合物が挙げられる。
【0041】
上記の中でも、高い接着性の観点から、分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型ポリエポキシ化合物および/またはポリオール型ポリエポキシ化合物が好ましい。
【0042】
脂肪族エポキシ化合物は、1個以上のエポキシ基と、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基を有することが好ましい。脂肪族エポキシ化合物の具体例として、例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
【0043】
エポキシ基に加えて水酸基を有する化合物としては、例えば、ソルビトール型ポリグリシジルエーテルおよびグリセロール型ポリグリシジルエーテル等が挙げられ、具体的には“デナコール(商標登録)”EX-611、EX-612、EX-614、EX-614B、EX-622、EX-512、EX-521、EX-421、EX-313、EX-314およびEX-321(ナガセケムテックス(株)製)等が挙げられる。
【0044】
エポキシ基に加えてアミド基を有する化合物としては、例えば、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシ化合物は、脂肪族ジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
【0045】
エポキシ基に加えてウレタン基を有する化合物としては、例えば、ウレタン変性エポキシ化合物が挙げられ、具体的には“アデカレジン(商標登録)”EPU-78-13S、EPU-6、EPU-11、EPU-15、EPU-16A、EPU-16N、EPU-17T-6、EPU-1348およびEPU-1395((株)ADEKA製)等が挙げられる。または、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって、エポキシ基とウレタン基を有する化合物を得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0046】
エポキシ基に加えてウレア基を有する化合物としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシ化合物は、脂肪族ジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
【0047】
脂肪族エポキシ化合物は、上述した中でも高い接着性の観点からエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物がより好ましく、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルがさらに好ましい。
【0048】
芳香族エポキシ化合物は、分子内に芳香環を1個以上有する。芳香環とは、炭素からのみからなる芳香環炭化水素でも良いし、窒素あるいは酸素などのヘテロ原子を含むフラン、チオフェン、ピロール、イミダゾールなどの複素芳香環でも構わない。また、芳香環はナフタレン、アントラセンなどの多環式芳香環でも構わない。サイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材料において、炭素繊維近傍のいわゆる界面層は、炭素繊維あるいはサイジング剤の影響を受け、マトリックス樹脂とは異なる特性を有する場合がある。エポキシ化合物が芳香環を1個以上有すると、剛直な界面層が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との間の応力伝達能力が向上し、繊維強化複合材料の0°引張強度等の力学特性が向上する。また、芳香環により疎水性が向上することにより、脂肪族エポキシ化合物に比べて炭素繊維との相互作用が弱く、脂肪族エポキシ化合物を覆い、サイジング層外層に存在することができる。このことにより、芳香族エポキシ化合物を含むサイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグに用いた場合、長期間保管した場合の経時変化を抑制することができ好ましい。芳香環を2個以上有する芳香族エポキシ化合物は、芳香環による長期安定性が向上するため好ましい。芳香環の数の上限は特にないが、10個あれば力学特性およびマトリックス樹脂との反応の抑制の観点から十分である。
【0049】
芳香族エポキシ化合物は、分子内に少なくとも1個以上のエポキシ基と1個以上の芳香環を有する。芳香族エポキシ化合物は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基またはスルホ基から選択される、少なくとも1個以上の官能基を有するものが好ましく、1分子内に、エポキシ基以外の官能基を2種以上含んでいても良い。サイジング剤として、芳香族エポキシ化合物以外には、化合物の安定性、高次加工性を良好にすることから、芳香族エステル化合物、芳香族ウレタン化合物が好ましく用いられる。
【0050】
芳香族エポキシ化合物の分子内のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。また、10個以下であることが好ましい。
【0051】
芳香族エポキシ化合物は2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。エポキシ化合物が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。分子内に3個以上のエポキシ基または他の官能基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
【0052】
芳香族エポキシ化合物の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
【0053】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル、1,6-ジヒドロキシナフタレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p-ヒドロキシフェニル)メタン、およびテトラキス(p-ヒドロキシフェニル)エタンと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシとして、ビフェニルアラルキル骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
【0054】
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン、m-キシリレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよび9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンが挙げられる。
【0055】
さらに、例えば、グリシジルアミン型エポキシ化合物として、m-アミノフェノール、p-アミノフェノール、および4-アミノ-3-メチルフェノールのアミノフェノール類の水酸基とアミノ基の両方を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるエポキシ化合物が挙げられる。
【0056】
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
本発明に使用する芳香族エポキシ化合物として、これらのエポキシ化合物以外にも、上に挙げたエポキシ化合物を原料として合成されるエポキシ化合物、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートからオキサゾリドン環生成反応により合成されるエポキシ化合物が挙げられる。
【0057】
芳香族エポキシ化合物として、1個以上のエポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基を含むものが好ましく用いられる。例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
【0058】
エポキシ基に加えてアミド基を有する化合物としては、例えば、グリシジルベンズアミド、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは、芳香環を含有するジカルボン酸アミドのカルボキシル基に、2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてイミド基を有する化合物としては、例えば、グリシジルフタルイミド等が挙げられる。具体的には“デナコール(商標登録)”EX-731(ナガセケムテックス(株)製)等が挙げられる。
【0059】
エポキシ基に加えてウレタン基を有する化合物は、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の芳香環を含有する多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に、多価エポキシ化合物内の水酸基を反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートおよびビフェニル-2,4,4’-トリイソシアネートなどが挙げられる。
【0060】
エポキシ基に加えてウレア基を有する化合物としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシは、ジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有する芳香環を含有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
【0061】
エポキシ基に加えてスルホニル基を有する化合物としては、例えば、ビスフェノールS型エポキシ等が挙げられる。
エポキシ基に加えてスルホ基を有する化合物としては、例えば、p-トルエンスルホン酸グリシジルおよび3-ニトロベンゼンスルホン酸グリシジル等が挙げられる。
【0062】
芳香族エポキシ化合物は、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、またはテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのいずれかである場合、エポキシ基数が多く、エポキシ当量が小さく、かつ、2個以上の芳香環を有しており、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させることに加え、炭素繊維強化複合材料の0°引張強度等の力学特性を向上させる観点から好ましい。より好ましくは、フェノールノボラック型エポキシ化合物およびクレゾールノボラック型エポキシ化合物である。
【0063】
芳香族エポキシ化合物がフェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物である場合、プリプレグを長期保管した場合の安定性、接着性の観点から好ましく、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることがより好ましい。
【0064】
さらに、本発明で用いられるサイジング剤には、脂肪族エポキシ化合物と芳香族エポキシ化合物以外の成分を1種類以上含んでも良い。その他の成分としては、炭素繊維とサイジング剤との接着性を高める促進剤や、サイジング剤塗布炭素繊維に収束性あるいは柔軟性を付与することで取扱い性、耐擦過性および耐毛羽性を高め、マトリックス樹脂の含浸性を向上させる成分が挙げられる。また、サイジング剤の安定性を目的として、分散剤および界面活性剤等の補助成分を添加しても良い。
【0065】
本発明において、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は350~550g/molであることが好ましい。エポキシ当量が550g/mol以下であることで、サイジング剤が塗布されてなる炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上するため好ましい。また、エポキシ当量が350g/mol以上であることで、プリプレグに該サイジング剤塗布炭素繊維を用いた場合に、プリプレグに用いている樹脂成分とサイジング剤との反応を抑制することができるため、プリプレグを長期保管した場合にも得られた炭素繊維強化複合材料の物性が良好になるため好ましい。本発明におけるサイジング剤が塗布された炭素繊維のエポキシ当量とは、サイジング剤塗布繊維をN,N-ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に浸漬し、超音波洗浄を行うことで繊維から溶出させたのち、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めることができる。エポキシ当量は360g/mol以上が好ましく、380g/mol以上がより好ましい。また、530g/mol以下が好ましく、500g/mol以下がより好ましい。なお、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、塗布に用いるサイジング剤のエポキシ当量および塗布後の乾燥での熱履歴などにより、制御することができる。
【0066】
本発明において、サイジング剤の付着量は、炭素繊維100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.1~3.0質量部、さらに好ましくは0.2~3.0質量部の範囲である。サイジング剤の付着量がかかる範囲であると、高い剪断靱性を発現させることができる。サイジング剤の付着量の測定方法は、サイジング塗布炭素繊維を2±0.5g採取し、窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行ったときの該加熱処理前後の質量変化量を加熱処理前の質量で除した値の質量%である。
【0067】
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維の洗浄後に、炭素繊維に残留するサイジング剤付着量がサイジング剤塗布炭素繊維に対して0.08質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.08~3.0質量%、さらに好ましくは0.14~0.30質量%の範囲である。洗浄後のサイジング剤の付着量がかかる範囲であると、炭素繊維とサイジング剤の界面接着が良好となり、繊維強化複合材料とした際に高い剪断靱性を発現させることができる。本発明における「サイジング剤塗布炭素繊維の洗浄後のサイジング剤付着量」とは、次のように測定されて算出されるものである。サイジング剤塗布炭素繊維2±0.5gをアセトニトリルとクロロホルムを体積比9対1で混合した溶液10mlに浸漬し、超音波洗浄を20分間行うことで繊維からサイジング剤を溶出させた後、十分に乾燥させて質量を測定する。さらにこの洗浄後炭素繊維を窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行う。該加熱処理前後の質量変化量を、加熱処理前のサイジング剤塗布炭素繊維の質量で除した値の質量%を洗浄後のサイジング剤付着量とする。
【0068】
本発明のプリプレグにおいて、次の方法で規定される界面剪断強度(IFSS)は25MPa以上であることが好ましく、より好ましくは30MPa以上、さらに好ましくは40MPa以上である。界面剪断強度が高いと、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性も高い傾向となる。ここで、本発明における「界面剪断強度」は、炭素繊維の単繊維とビスフェノールA型エポキシ樹脂との界面剪断強度のことであり、次のように測定して算出される値である。
【0069】
以下、界面剪断強度の測定方法について説明する。測定にあたっては、Drzal,L.T.,Master,Sci,Eng.A126,289(1990)を参考にして行う。
すなわち、ビスフェノールA型エポキシ化合物“jER(登録商標)”828(三菱ケミカル(株)製)100質量部とメタフェニレンジアミン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)14.5質量部を、それぞれ容器に入れ、その後、上記のjER828の粘度低下とメタフェニレンジアミンの溶解のため、75℃の温度で15分間加熱する。その後、両者をよく混合し、80℃の温度で約15分間真空脱泡を行う。
【0070】
次に、炭素繊維束から単繊維を抜き取り、ダンベル型モールドの長手方向に単繊維に一定張力を与えた状態で両端を接着剤で固定する。その後、炭素繊維およびモールドに付着した水分を除去するため、80℃の温度で30分間以上真空乾燥を行う。ダンベル型モールドはシリコーンゴム製で、注型部分の形状は、中央部分巾5mm、長さ25mm、両端部分巾10mm、全体長さ150mmとする。
【0071】
上記の真空乾燥後のモールド内に、調製した樹脂を流し込み、オーブンを用いて、昇温速度1.5℃/分で75℃の温度まで上昇し2時間保持後、昇温速度1.5℃/分で125℃の温度まで上昇し2時間保持後、降温速度2.5℃/分で30℃の温度まで降温する。その後、脱型して試験片を得る。
【0072】
上記の手順で得られた試験片に繊維軸方向(長手方向)に歪速度0.3%/秒で引張力を与え、歪みを12%生じさせた後、偏光顕微鏡により試験片中心部22mmの範囲における繊維破断数N(個)を測定する。次に、平均破断繊維長laを、la(μm)=22×1000(μm)/N(個)の式により計算する。次に、平均破断繊維長laから臨界繊維長lcを、lc(μm)=(4/3)×la(μm)の式により計算する。さらに、ストランド引張強度σと炭素繊維単糸の直径dを測定し、次式より算出した値を本発明における「界面剪断強度」とする。
・界面剪断強度IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)。
【0073】
次に、本発明の構成要素[B]であるエポキシ樹脂について説明する。構成要素[B]のエポキシ樹脂は、本発明中の炭素繊維強化複合材料中の樹脂組成物が高次構造を有するために、メソゲン構造を有して液晶性を示す、いわゆる液晶性エポキシ樹脂が好ましい。液晶性は、構成要素[B]単独で示しても良いし、後述する構成要素[C]である硬化剤や他の成分と合わせることで示しても良い。構成要素[B]や[C]がメソゲン構造(ビフェニル基、ターフェニル基、ターフェニル類縁基、アントラセン基、これらがアゾメチン基、又はエステル基で接続された基等)を有することで、その構造に由来する高次構造(周期構造ともいう)が形成される。
【0074】
構成要素[B]がメソゲン構造を有する場合、下記一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂が好ましい。
【化1】
一般式(1)中、Q、Q、Qはそれぞれ群(I)より選択される1種の構造を含む。一般式(1)中のR、Rはそれぞれ炭素数1~6のアルキレン基を示す。群(I)中のZは各々独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。一般式(1)および群(I)中のY、Y、Yはそれぞれ群(II)より選択される少なくとも1種の2価の基又は単結合からなる連結基を示す。
【0075】
【化2】
【0076】
【化3】
群(I)におけるZは、各々独立に、炭素数1~4の脂肪族炭化水素基、炭素数1~4の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、又は塩素原子であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることが更に好ましい。群(I)におけるnは、各々独立に、0~2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。
【0077】
構成要素[B]中のメソゲン構造は、多い方が硬化後に樹脂は高次構造を形成し易いが、多過ぎると軟化点が高くなり、ハンドリング性が低下する。そのため、一般式(1)中のメソゲン構造の数は2つが特に好ましい。メソゲン構造の数が2つとは、ベンゼン環やシクロヘキサン環などの環構造を3つ含み、各環構造が上記群(II)の連結基または単結合で結合された状態のことをいう。ここで、本発明における軟化点とは、JIS K7234(1986)規定の環球法により、リングに注型した試料を浴槽中にて昇温し、試料にセットした球が光センサーを横切ったときの温度を示す。
【0078】
一般式(1)中のQ、Q、Qがベンゼン環を含むと、構成要素[B]の構造が剛直になるため高次構造形成し易くなり、靱性向上に有利となるため好ましい。また、一般式(1)中のQ、Q、Qが脂環式炭化水素を含むと、軟化点が低くなりハンドリング性が向上するため、これも好ましい態様となる。構成要素[B]のエポキシ樹脂は、1種類単独で用いても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0079】
構成要素[B]は公知の方法により製造することができ、特許第4619770号公報、特開2010-241797、特開2011-98952号公報、特開2011-74366号公報、Journal of Polymer Science: Part A:Polymer Chemistry,Vol.42,3631(2004)等に記載の製造方法を参照することができる。
【0080】
構成要素[B]の具体例としては、1,4-ビス{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}シクロヘキサン、1-{3-メチル-4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}シクロヘキサン、1,4-ビス{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-1-シクロヘキセン、1-{3-メチル-4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-1-シクロヘキセン、1-{2-メチル-4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-1-シクロヘキセン、1-{3-エチル-4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-1-シクロヘキセン、1-{2-エチル-4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-1-シクロヘキセン、1-{3-n-プロピル-4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-1-シクロヘキセン、1-{3-イソプロピル-4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-1-シクロヘキセン、1,4-ビス{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-2-シクロヘキセン、1-{3-メチル-4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-2-シクロヘキセン、1,4-ビス{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-2,5-シクロヘキサジエン、1-{3-メチル-4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-2,5-シクロヘキサジエン、1,4-ビス{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-1,5-シクロヘキサジエン、1-{3-メチル-4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-1,5-シクロヘキサジエン、1,4-ビス{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-1,4-シクロヘキサジエン、1-{3-メチル-4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-1,4-シクロヘキサジエン、1,4-ビス{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-1,3-シクロヘキサジエン、1-{3-メチル-4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-1,3-シクロヘキサジエン、1,4-ビス{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}ベンゼン、1-{3-メチル-4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}-4-{4-(オキシラニルメトキシ)フェニル}ベンゼン、1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2-メチルベンゾエート}、1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3-メチルベンゾエート}、1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3,5-ジメチルベンゾエート}、1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2,6-ジメチルベンゾエート}、2-メチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、2-メトキシ-1,4-フェニレン-ビス(4-ヒドロキシベンゾエート)、2-メチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2-メチルベンゾエート}、2-メチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3-メチルベンゾエート}、2-メチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3,5-ジメチルベンゾエート}、2-メチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2,6-ジメチルベンゾエート}、2,6-ジメチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、2,6-ジメチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3-メチルベンゾエート}、2,6-ジメチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3,5-ジメチルベンゾエート}、2,3,6-トリメチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、2,3,6-トリメチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2,6-ジメチルベンゾエート}、2,3,5,6-テトラメチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、2,3,5,6-テトラメチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3-メチルベンゾエート}、2,3,5,6-テトラメチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3,5-ジメチルベンゾエート}、2-メチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)ベンゾエート}、4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート、4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2-メチルベンゾエート、4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3-メチルベンゾエート、4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3-エチルベンゾエート、4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2-イソプロピルベンゾエート、4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3,5-ジメチルベンゾエート、1,4-ビス{4-(3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)フェニル}-1-シクロヘキセン、1-{4-(3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)-3-メチルフェニル}-4-{4-(3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)フェニル}-1-シクロヘキセン、1,4-ビス{4-(5-メチル-3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)フェニル}-1-シクロヘキセン、1-{4-(5-メチル-3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)-3-メチルフェニル}-4-{4-(5-メチル-3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)フェニル}-1-シクロヘキセン、1,4-ビス{4-(4-メチル-4,5-エポキシペンチルオキシ)フェニル}-1-シクロヘキセン、1,4-ビス{4-(3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)フェニル}ベンゼン、1-{4-(3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)-3-メチルフェニル}-4-{4-(3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)フェニル}ベンゼン、1,4-ビス{4-(5-メチル-3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)フェニル}ベンゼン、1-{4-(5-メチル-3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)-3-メチルフェニル}-4-{4-(5-メチル-3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)フェニル}ベンゼン、1,4-ビス{4-(4-メチル-4,5-エポキシペンチルオキシ)フェニル}ベンゼン、1,4-ビス{4-(3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)フェニル}シクロヘキサン、1-{4-(3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)-3-メチルフェニル}-4-{4-(3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)フェニル}シクロヘキサン、1,4-ビス{4-(5-メチル-3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)フェニル}シクロヘキサン、1-{4-(5-メチル-3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)-3-メチルフェニル}-4-{4-(5-メチル-3-オキサ-5,6-エポキシヘキシルオキシ)フェニル}シクロヘキサン、1,4-ビス{4-(4-メチル-4,5-エポキシペンチルオキシ)フェニル}シクロヘキサンなどが挙げられ、中でも、硬化後の高次構造の形成、ハンドリング性、原料の入手容易性から、1-(3-メチル-4-オキシラニルメトキシフェニル)-4-(4-オキシラニルメトキシフェニル)-1-シクロヘキセン、2-メチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート、4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3-メチルベンゾエートが特に好ましい。
【0081】
構成要素[B]のエポキシ樹脂は、その一部が硬化剤等により部分的に重合したプレポリマーを含んでもよい。構成要素[B]の中でも、一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂は一般に結晶化し易く、炭素繊維に含浸させるためには高温を必要とするものが多い。構成要素[B]のエポキシ樹脂の少なくとも一部を重合させたプレポリマーを含むことは、結晶化が抑制させる傾向にあるためハンドリング性が良くなり、好ましい態様である。
【0082】
構成要素[B]のエポキシ樹脂を部分的に重合する方法としては、三級アミン類やイミダゾール類といったアニオン重合触媒や、三フッ化ホウ素-アミン錯体等のルイス酸といったカチオン重合触媒により重合させても良いし、エポキシ樹脂と反応可能な官能基を有するプレポリマー化剤を用いてもよい。構成要素[B]のエポキシ樹脂を部分的に重合する場合、製造するプレポリマーの分子量を制御し易いことから、プレポリマー化剤を用いた方法が好ましい。プレポリマーの分子量が大き過ぎると、炭素繊維強化複合材料内の樹脂の架橋密度が下がり、耐熱性や力学特性を損なう恐れがある。
【0083】
構成要素[B]のエポキシ樹脂を部分的に重合するプレポリマー化剤としては、エポキシ樹脂と反応可能な活性水素を2~4個有する化合物であれば特に限定されない。例えば、フェノール化合物、アミン化合物、アミド化合物、スルフィド化合物、酸無水物が挙げられる。ここで、活性水素とは有機化合物において窒素、酸素、硫黄と結合していて、反応性の高い水素原子をいう。活性水素が1個の場合、プレポリマーを用いたエポキシ樹脂硬化物の架橋密度が低下するため、耐熱性や力学特性が低くなる恐れがある。活性水素基が5個以上になると、構成要素[B]のエポキシ樹脂をプレポリマー化する際に反応の制御が困難となり、ゲル化する恐れがある。プレポリマー化剤として、2~3個の活性水素を有するフェノール化合物は、プレポリマー化反応中のゲル化抑制と、プレポリマーの貯蔵安定性から特に好適である。
【0084】
2~3個の活性水素を有するフェノール化合物の中でも、ベンゼン環を1~2個有するフェノール化合物は、構成要素[B]のエポキシ樹脂のプレポリマーの構造が剛直になるため高次構造形成し易くなり、靱性向上する傾向があることに加えて、構成要素[B]のエポキシ樹脂のプレポリマー、構成要素[B]のエポキシ樹脂、構成要素[C]の硬化剤を含む樹脂組成物の粘度を低く抑えることができ、ハンドリング性が良くなるため好適である。
【0085】
2~3個の活性水素を有するフェノール化合物としては、例えば、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールG、ビスフェノールZ、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン及びこれらの誘導体が挙げられる。誘導体としては、ベンゼン環に炭素数1~8のアルキル基等が置換した化合物が挙げられる。これらのフェノール化合物は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0086】
構成要素[B]に含まれるプレポリマーの分子量は特に制限されない。樹脂組成物の流動性の観点から、数平均分子量は15000以下であることが好ましく、10000以下であることが好ましく、350-5000であることがさらに好ましい。本発明の数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー、SEC:Size Exclusion Chromatographyともいう)により、標準ポリスチレンを用いた換算分子量を示す。また、本願のプリプレグ、炭素繊維強化複合材料に含まれる構成要素[B]全体の数平均分子量は、10000以下であることが好ましく、5000以下であることが好ましく、250-3500であることがさらに好ましい。ここでいう数平均分子量は、構成要素[B]のモノマーとプレポリマーの分子量差が大きく、GPCでのピークが2本以上に分かれる場合は、構成要素[B]に由来するすべてのピークから測定された値をいう。
【0087】
構成要素[B]のエポキシ樹脂を部分的に重合してプレポリマー化する方法としては、特に制限はないが、例えば、合成溶媒中に構成要素[B]、上記プレポリマー化剤を溶解し、熱をかけながら撹持して合成することができる。プレポリマー化反応時にゲル化をしない範囲において、触媒を用いても良い。溶媒を使用せずに合成することは可能であるが、構成要素[B]は融点が高く、無溶媒ではプレポリマー化反応に高温を必要とするため、安全性の観点から合成溶媒を使用した合成法が好ましい。
【0088】
構成要素[B]がプレポリマーを含むと結晶化が抑制される傾向にあるためハンドリング性が良くなるが、含有量が多すぎると、構成要素[B]と構成要素[C]の硬化剤を含む樹脂組成物の溶融粘度が高くなり過ぎてしまい、構成要素[A]である炭素繊維への含浸が難しくなる恐れがある。構成要素[B]がプレポリマーを含む場合、その含有量は構成要素[B]中のエポキシ樹脂とプレポリマーの合計100質量部に対して、好ましくは80質量部以下、より好ましくは5~60質量部の範囲である。前述のGPCあるいはHPLC(High Performance Liquid Chromatography)測定における樹脂組成物中の全エポキシ樹脂由来ピークの面積に占めるプレポリマー由来のピーク面積の割合(プレポリマー由来のピーク面積/樹脂組成物中の全エポキシ樹脂由来のピーク面積)では、好ましくは0.80以下であり、より好ましくは0.05~0.60の範囲である。本発明のプリプレグのうち、少なくとも構成要素[B]と構成要素[C]を含み、構成要素[A]を除く他の全ての成分を、以下では「樹脂組成物」と呼称する。また、樹脂組成物は、特に区別して説明する場合、「構成要素[A]を除く他の全ての成分からなる樹脂組成物」と呼称することもある。本発明の樹脂組成物は、後述するとおり、例えば構成要素[B]に分散可能な熱可塑性樹脂やフィラーを含む場合もある。
【0089】
構成要素[B]と構成要素[C]を含む本発明の樹脂組成物としては、180℃未満の温度で結晶相から液晶相あるいは等方性液体に転移するものが好ましい。結晶相から液晶相あるいは等方性液体に転移する温度が180℃未満であることにより、炭素繊維強化複合材料を成形する際に樹脂の流動性が向上し、炭素繊維への含浸性が向上するため、ボイド等の欠陥が少ない炭素繊維強化複合材料を得やすくなる。
【0090】
本発明のプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料においては、構成要素[B]のエポキシ樹脂に加え、熱硬化性樹脂、エポキシ樹脂と熱硬化性樹脂の共重合体等を含んでも良い。上記の熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂組成物や化合物は、単独で用いてもよいし適宜配合して用いてもよい。少なくとも構成要素[B]のエポキシ樹脂に上記した熱硬化性樹脂等を配合することは、樹脂組成物の流動性と樹脂硬化物の耐熱性を向上することができる。
【0091】
一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂以外の構成要素[B]として用いられるエポキシ樹脂のうち、2官能のエポキシ樹脂としては、フェノールを前駆体とするグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。このようなエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ヒダントイン型およびレゾルシノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0092】
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂は、低粘度であるために、他のエポキシ樹脂と組み合わせて使うことが好ましい。
また、固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂に比較し架橋密度の低い構造を与えるため耐熱性は低くなるが、より靭性の高い構造が得られるため、グリシジルアミン型エポキシ樹脂や液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂と組み合わせて用いられる。
【0093】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂は、低吸水率かつ高耐熱性の硬化樹脂を与える。また、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびジフェニルフルオレン型エポキシ樹脂も、低吸水率の硬化樹脂を与えるため好適に用いられる。ウレタン変性エポキシ樹脂およびイソシアネート変性エポキシ樹脂は、破壊靱性と伸度の高い硬化樹脂を与える。
【0094】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825(三菱ケミカル(株)製)、“エピクロン(登録商標)”850(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD-128(東都化成(株)製)、およびDER-331やDER-332(以上、ダウケミカル社製)などが挙げられる。
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”806、“jER(登録商標)”807および“jER(登録商標)”1750(以上、三菱ケミカル(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830(DIC(株)製)および“エポトート(登録商標)”YD-170(東都化成(株)製)などが挙げられる。
【0095】
レゾルシノール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デコナール(登録商標)”EX-201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
グリシジルアニリン型のエポキシ樹脂市販品としては、GANやGOT(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0096】
ビフェニル型エポキシ樹脂の市販品としては、NC-3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ウレタン変性エポキシ樹脂の市販品としては、AER4152(旭化成エポキシ(株)製)などが挙げられる。
ヒダントイン型のエポキシ樹脂市販品としては、AY238(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)が挙げられる。
【0097】
一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂以外の構成要素[B]として用いられるエポキシ樹脂のうち、3官能以上のグリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン型、ジアミノジフェニルスルホン型、アミノフェノール型、メタキシレンジアミン型、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型、イソシアヌレート型等のエポキシ樹脂が挙げられる。中でも物性のバランスが良いことから、ジアミノジフェニルメタン型とアミノフェノール型のエポキシ樹脂が特に好ましく用いられる。
【0098】
また、3官能以上のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型およびテトラフェニロールエタン型等のエポキシ樹脂が挙げられる。
【0099】
3官能以上のエポキシ樹脂の市販品としてジアミノジフェニルメタン型のエポキシ樹脂は、ELM434(住友化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱ケミカル(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、“アラルダイト(登録商標)”MY721、“アラルダイト(登録商標)”MY9512、“アラルダイト(登録商標)”MY9663(以上ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、および“エポトート(登録商標)”YH-434(東都化成(株)製)などが挙げられる。
【0100】
メタキシレンジアミン型のエポキシ樹脂の市販品としては、TETRAD-X(三菱ガス化学(株)製)が挙げられる。
1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型のエポキシ樹脂の市販品としては、TETRAD-C(三菱ガス化学(株)製)が挙げられる。
【0101】
イソシアヌレート型のエポキシ樹脂の市販品としては、TEPIC-P(日産化学工業(株)製)が挙げられる。
トリスヒドロキシフェニルメタン型のエポキシ樹脂市販品としては、Tactix742(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)が挙げられる。
テトラフェニロールエタン型のエポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”1031S(ジャパンエポキシレジン(株)製)が挙げられる。
【0102】
アミノフェノール型のエポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”630(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および“アラルダイト(登録商標)”MY0510(ハンツマン(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0600(ハンツマン(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0610(ハンツマン(株)製)、などが挙げられる。
【0103】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、DEN431やDEN438(以上、ダウケミカル社製)および“jER(登録商標)”152(ジャパンエポキシレジン(株)製)などが挙げられる。
オルソクレゾールノボラック型のエポキシ樹脂の市販品としては、EOCN-1020(日本化薬(株)製)や“エピクロン(登録商標)”N-660(DIC(株)製)などが挙げられる。
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”HP7200(DIC(株)製)などが挙げられる。
【0104】
構成要素[B]および[C]を含む本発明の樹脂組成物が、一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂や熱硬化性樹脂を含有する場合、その配合量は、構成要素[B]の全エポキシ樹脂(一般式(1)で表されるエポキシ樹脂、それ以外のエポキシ樹脂を含む)、エポキシ樹脂のプレポリマー、その他の熱硬化性樹脂の合計100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましい。
【0105】
次に、本発明の構成要素[C]である構成要素[B]の硬化剤について説明する。本発明の構成要素[C]の硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤であり、エポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物である。硬化剤としては、具体的には、例えば、ジシアンジアミド、芳香族ポリアミン、アミノ安息香酸エステル類、各種酸無水物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、脂肪族アミン、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物のようなカルボン酸無水物、カルボン酸アミド、有機酸ヒドラジド、ポリメルカプタンおよび三フッ化ホウ素エチルアミン錯体のようなルイス酸錯体などが挙げられる。これらの硬化剤は、単独で使用しても複数を併用してもよい。
【0106】
芳香族ポリアミンを硬化剤として用いることにより、耐熱性の良好なエポキシ樹脂硬化物が得られるため好ましい。芳香族ポリアミンの中でも、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な繊維強複合材料を得るため特に好ましい硬化剤である。
また、ジシアンジアミドと尿素化合物、例えば、3,4-ジクロロフェニル-1,1-ジメチルウレアとの組合せ、あるいはイミダゾール類を硬化剤として用いることにより、比較的低温で硬化しながら高い耐熱耐水性が得られる。酸無水物を用いてエポキシ樹脂を硬化することは、アミン化合物硬化に比べ吸水率の低い硬化物を与える。その他、これらの硬化剤を潜在化したもの、例えば、マイクロカプセル化したものを用いることにより、プリプレグの保存安定性、特にタック性やドレープ性が室温放置しても変化しにくい。
【0107】
硬化剤の添加量の最適値は、エポキシ樹脂と硬化剤の種類により異なる。例えば、芳香族ポリアミン硬化剤では、化学量論的に当量となるように添加することが好ましいが、エポキシ樹脂のエポキシ基量に対する芳香族アミン硬化剤の活性水素量の比を0.7~1.0とすることにより、当量で用いた場合より高弾性率樹脂が得られることがあり、好ましい態様である。一方、エポキシ樹脂のエポキシ基量に対する芳香族ポリアミン硬化剤の活性水素量の比を1.0~1.6とすると、硬化速度の向上に加えて、高伸度樹脂が得られることがあり、これも好ましい態様である。したがって、エポキシ樹脂のエポキシ基量に対する硬化剤の活性水素量の比は、0.7~1.6の範囲が好ましい。
【0108】
芳香族ポリアミン硬化剤の市販品としては、セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製)、MDA-220(三井化学(株)製)、“jERキュア(登録商標)”W(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および3,3’-DAS(三井化学(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M-DEA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M-DIPA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M-MIPA(Lonza(株)製)および“Lonzacure(登録商標)”DETDA80(Lonza(株)製)などが挙げられる。
【0109】
ジシアンジアミドの市販品としては、DICY-7、DICY-15(以上、三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。ジシアンジアミドの誘導体は、ジシアンジアミドに各種化合物を結合させたものであり、エポキシ樹脂との反応物、ビニル化合物やアクリル化合物との反応物などが挙げられる。
各硬化剤は、硬化促進剤や、その他のエポキシ樹脂の硬化剤と組み合わせて用いても良い。組み合わせる硬化促進剤としては、ウレア類、イミダゾール類、ルイス酸触媒などが挙げられる。
【0110】
かかるウレア化合物としては、例えば、N,N-ジメチル-N’-(3,4-ジクロロフェニル)ウレア、トルエンビス(ジメチルウレア)、4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、3-フェニル-1,1-ジメチルウレアなどを使用することができる。かかるウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土ヶ谷化学(株)製)、“Omicure(登録商標)”24、52、94(以上CVC SpecialtyChemicals,Inc.製)などが挙げられる。
【0111】
イミダゾール類の市販品としては、2MZ、2PZ、2E4MZ(以上、四国化成(株)製)などが挙げられる。ルイス酸触媒としては、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素・モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・トリエタノールアミン錯体、三塩化ホウ素・オクチルアミン錯体などの、ハロゲン化ホウ素と塩基の錯体が挙げられる。
【0112】
有機酸ヒドラジド化合物としては、硬化促進性と保存安定性から3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド、2,6-ナフタレンジカルボジヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、および、イソフタル酸ジヒドラジド等を好ましく挙げることができる。これらの有機酸ヒドラジド化合物は、必要に応じて2種類以上を混合して配合して使用してもよい。有機酸ヒドラジド化合物の市販品としては、2,6-ナフタレンジカルボジヒドラジド((株)日本ファインケム製)、イソフタル酸ジヒドラジド(大塚化学(株)製)などが挙げられる。
また、これらエポキシ樹脂と硬化剤、あるいはそれらの一部を予備反応させた物を樹脂組成物中に配合することもできる。この方法は、粘度調節や保存安定性向上に有効な場合がある。
【0113】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、樹脂組成物がクロスニコル状態での偏光光学顕微鏡観察にて干渉模様を示す分子異方性を有する樹脂領域を含むことで、驚くべきことに優れたモードI層間靱性とモードII層間靱性、引張強度を発現する。これは、炭素繊維強化複合材料内にクラックが進展する際、樹脂組成物の異方性構造を崩すのにエネルギーを多く必要とするためと考えられる。
【0114】
ここでいう異方性構造とは、樹脂組成物の硬化後又は半硬化後に分子が配向配列している状態を意味し、例えば、硬化物中に結晶構造又は液晶構造といった高次構造が存在する状態を意味する。また、樹脂組成物が硬化後に分子異方性を有する樹脂領域を含むことも含まれる。ここでいう異方性を有する樹脂領域とは、1μm径以上の大きさで分子が配向配列した配向ドメインを示す。樹脂組成物中に含まれる高次構造が大きくなることで、配向ドメインが大きくなる傾向がある。
【0115】
高次構造が存在して分子異方性を有する樹脂領域は、偏光顕微鏡観察にてその存在を直接観察することができる。樹脂硬化物や炭素繊維強化複合材料の樹脂部をクロスニコル状態で偏光顕微鏡観察した際に、偏光解消による干渉模様が見られる場合は周期構造が存在していると判断できる。高次構造を形成していない、もしくは形成された高次構造のサイズが可視光波長オーダーより小さい場合には、光学的異方性を有しないため暗視野が観察される。液晶構造の場合には、形成する液晶相の種類によって観察される干渉模様が多岐に渡ることが知られている。観察される干渉模様の具体例としては、高次構造がネマチック相構造の場合には、シュリーレン組織、糸状組織、砂状組織、ドロプレット組織が挙げられ、スメクチック相構造の場合には、バトネ組織、フォーカルコニックファン組織、オイリーストリーク組織などが挙げられる。
【0116】
また、樹脂組成物の高次構造は、X線回折においては一般的には回折角度2θ≦10°の領域に回折ピークが現れることでも判断できる。構成要素[B]または[C]中、あるいは構成要素[B]および[C]の両方に存在するメソゲン構造(ビフェニル基、ターフェニル基、ターフェニル類縁基、アントラセン基、これらがアゾメチン基、又はエステル基で接続された基等)に基づく周期構造(高次構造)にあたり、回折角度2θが1.0~6.0°の範囲にあることで樹脂組成物は周期構造を取りやすくなり、樹脂靱性が向上する傾向がある。X線回折によって観測されるピークの回折角度2θの範囲は、1.0~6.0°であることが重要であり、好ましくは2.0~4.0°である。また、周期構造からなる結晶子サイズが大きいほど、樹脂は分子が配向配列した大きな構造を有することを示すため好ましい。最大結晶子サイズは、好ましくは25nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは100nm以上である。
【0117】
本発明の樹脂組成物等のX線回折の測定において、回折角度と最大結晶子サイズは以下の条件により測定した数値である。厚さ1mmで成形した炭素繊維強化複合材料等の試料を用いて、長さ40mm、幅10mmの測定試料を用意する。用意された測定試料について、広角X線回折装置を用いて、次の条件により測定を行う。
・X線源:CuKα線(管電圧45kV、管電流40mA)
・検出器:ゴニオメーター+モノクロメーター+シンチレーションカウンター
・走査範囲:2θ=1~90°
・走査モード:ステップスキャン、ステップ単位0.1°、計数時間40秒。
【0118】
結晶子サイズとは、X線回折によって得られた回折パターンにおいて、2θ=1~10°の範囲に現れるピークについて、半値幅を求め、この値から、次のシェラー(Scherrer)の式により算出する。ここでいう最大結晶子サイズは、1サンプル毎に10点測定した中の最大の結晶子サイズを示す。
結晶サイズ(nm)=Kλ/βcosθ
但し、
・K:1.0、λ:0.15418nm(X線の波長)
・β:(β -β 1/2
・β:見かけの半値幅(測定値)rad、β:1.046×10-2rad
・θ:Braggの回析角。
X線回折の測定は、炭素繊維強化複合材料内の炭素繊維軸に対して平行(0°)、垂直(90°)、45°に対して行う。
【0119】
樹脂組成物の高次構造は、構成要素[A]の炭素繊維に対していずれの方向を向いても良いが、炭素繊維軸に対して垂直な方向のみ周期構造を有する場合、炭素繊維のグラファイト構造由来の強いピークにより、X線回折では樹脂組成物由来のピークが観測できないことがある。その場合、炭素繊維を除いた樹脂組成物の硬化板にてX線回折により測定を行うか、または、炭素繊維強化複合材料のマトリックス樹脂部分のみを削り出して、樹脂硬化物の粉体のX線回折により測定を行うことで、周期構造の有無の確認できる。
【0120】
X線回折によって観測される回折角度2θ=1.0°~6.0°に由来する高次構造を、硬化後に樹脂組成物が有する範囲において本発明の炭素繊維強化複合材料の成形条件は特に限定されないが、成形温度が高すぎると、使用する装置や副資材に高い耐熱性が必要となり、炭素繊維強化複合材料の製造コストが高額となる。また、成形温度が低すぎると、構成要素[B]および[C]の反応に長時間を要し、これも製造コストの増加をまねく恐れがある。成形に用いる最高温度は、100~220℃が好ましく、120~200℃がさらに好ましい。
【0121】
また、樹脂組成物の高次構造は炭素繊維強化複合材料中の樹脂領域の5~10箇所について、任意の方位を0°とし、偏光方位を0°~150まで30°間隔で変化させて偏光IRあるいは偏光ラマン分光を測定し、偏光方位に対して信号強度の変化の有無をみることで確認することができる。異方性を持たない樹脂組成物では、偏光方位に対して強度変化は見られない。
また、本発明の炭素繊維強化複合材料において結晶構造又は液晶構造が存在するとエポキシ樹脂硬化物の貯蔵弾性率の温度に対する変化が小さくなるので、この貯蔵弾性率の変化を測定することにより、結晶構造又は液晶構造の存在を間接的に確認できる。
【0122】
本発明のプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料は、樹脂組成物を硬化して得られる硬化物が、示差走査熱量分析において、250℃以上、より好ましくは280℃以上、さらに好ましくは300℃以上の範囲に液晶相転移に起因する吸熱ピークを有することが好ましい。樹脂硬化物の液晶相転移に起因する吸熱ピークがかかる温度になることで、樹脂硬化物が液晶相を維持する温度域が広くなり、高温でも優れた力学特性が発現する樹脂硬化物が得られる。また、液晶相転移温度が高いほどより強固な高次構造を形成しているため、樹脂硬化物および炭素繊維強化複合材料は優れた力学特性を発現する傾向がある。確認方法としては、例えば、窒素雰囲気下で樹脂硬化物の示差走査熱量分析を行い、昇温速度を5℃/分として50℃から400℃まで昇温した際の熱流量における吸熱ピークの有無で確認することができる。示差走査熱量分析による液晶性の確認には、樹脂硬化物を用いてもよいし、炭素繊維強化複合材料を用いてもよい。
【0123】
本発明においては、上記の構成要素[B]および[C]を含む樹脂組成物に、熱可塑性樹脂を混合または溶解させて用いることもできる。熱可塑性樹脂を用いることで、得られるプリプレグのタック性の制御、炭素繊維強化複合材料を成形する時の樹脂組成物の流動性を制御することができるため、好ましく用いられる。このような熱可塑性樹脂としては、一般に、主鎖に、炭素-炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合からなる群から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、この熱可塑性樹脂は、部分的に架橋構造を有していても差し支えなく、結晶性を有していても非晶性であってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂が、上記の樹脂組成物に含まれるいずれかのエポキシ樹脂に混合または溶解していることが好適である。
【0124】
中でも、良好な耐熱性を得るためには、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)が少なくとも150℃以上であり、170℃以上であることが好ましい。配合する熱可塑性樹脂のガラス転移温度が、150℃未満であると、成形体として用いた時に熱による変形を起こしやすくなる場合がある。さらに、この熱可塑性樹脂の末端官能基としては、水酸基、カルボキシル基、チオール基、酸無水物などのものがカチオン重合性化合物と反応することができ、好ましく用いられる。具体的には、ポリエーテルスルホンの市販品である“スミカエクセル(登録商標)”PES3600P、“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P、“スミカエクセル(登録商標)”PES5200P、“スミカエクセル(登録商標)”PES7600P(以上、住友化学工業(株)製)、Virantage(登録商標)”VW-10200RFP、“Virantage(登録商標)”VW-10700RFP(以上、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製)などを使用することができ、また、特表2004-506789号公報に記載されるようなポリエーテルスルホンとポリエーテルエーテルスルホンの共重合体オリゴマー、さらにポリエーテルイミドの市販品である“ウルテム(登録商標)”1000、“ウルテム(登録商標)”1010、“ウルテム(登録商標)”1040(以上、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製)などが挙げられる。オリゴマーとは10個から100個程度の有限個のモノマーが結合した比較的分子量が低い重合体を指す。
【0125】
また、本発明においては、上記の構成要素[B]および[C]を含む樹脂組成物に、さらにエラストマーを配合してもよい。かかるエラストマーは、硬化後のエポキシマトリックス相内に微細なエラストマー相を形成させる目的で配合される。これにより、樹脂硬化物への応力負荷時に生じる平面歪みを、エラストマー相の破壊空隙化(キャビテーション)により解消することができ、エポキシマトリックス相の塑性変形が誘発される結果、大きなエネルギー吸収を引き起こし、炭素繊維強化複合材料としての更なる層間靭性の向上に繋がる。
【0126】
エラストマーとは、ガラス転移温度が20℃より低いドメインを有するポリマー材料のことであり、液状ゴム、固形ゴム、架橋ゴム粒子、コアシェルゴム粒子、熱可塑性エラストマー、ガラス転移温度が20℃より低いブロックを有するブロック共重合体などが挙げられる。中でも、エラストマーとしては、ガラス転移温度が20℃以下のブロックを含むブロック共重合体およびゴム粒子から選ばれたものが好ましい。これにより、エポキシ樹脂へのエラストマーの相溶を最小限に抑えつつ、微細なエラストマー相を導入できることから、耐熱性や弾性率の低下を抑えつつ、炭素繊維強化複合材料としての層間靭性を大きく向上させることができる。
【0127】
ゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が、取り扱い性等の観点から好ましく用いられる。かかるゴム粒子の一次粒子径は、50~300μmの範囲にあることが好ましく、特に80~200μmの範囲にあることが好ましい。また、かかるゴム粒子は使用するエポキシ樹脂との親和性が良好であり、樹脂調製や成形硬化の際に二次凝集を生じないものであることが好ましい。
【0128】
架橋ゴム粒子の市販品としては、カルボキシル変性のブタジエン-アクリロニトリル共重合体の架橋物からなるFX501P(日本合成ゴム工業(株)製)、アクリルゴム微粒子からなるCX-MNシリーズ(日本触媒(株)製)、YR-500シリーズ(新日鐵住金化学(株)製)等を使用することができる。
コアシェルゴム粒子の市販品としては、例えば、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなる“パラロイド(登録商標)”EXL-2655((株)クレハ製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる“スタフィロイド(登録商標)”AC-3355、TR-2122(武田薬品工業(株)製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合物からなる“PARALOID(登録商標)”EXL-2611、EXL-3387(Rohm&Haas社製)、“カネエース(登録商標)”MXシリーズ(カネカ(株)製)等を使用することができる。
【0129】
本発明においては、本発明の樹脂組成物に熱可塑性樹脂粒子を配合することも好適である。熱可塑性樹脂粒子を配合することにより、炭素繊維強化複合材料としたときに、樹脂硬化物の靱性が向上し耐衝撃性が向上する。
【0130】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂粒子の素材としては、樹脂組成物に混合または溶解して用い得る熱可塑性樹脂として、先に例示した各種の熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。炭素繊維強化複合材料とした時に安定した接着強度や耐衝撃性を与える観点から、粒子中で形態を保持するものであることが好ましい。中でも、ポリアミドは最も好ましく、ポリアミドの中でも、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド6、ポリアミド66やポリアミド6/12共重合体、特開2009-221460号公報の実施例1~7に記載のエポキシ化合物においてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたポリアミド(セミIPNポリアミド)などを好適に用いることができる。この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状が、樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点で好ましい態様である。
【0131】
ポリアミド粒子の市販品としては、SP-500、SP-10、TR-1、TR-2、842P-48、842P-80(以上、東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”1002D、2001UD、2001EXD、2002D、3202D、3501D,3502D、(以上、アルケマ(株)製)、“グリルアミド(登録商標)”TR90(エムザベルケ(株)製)、“TROGAMID(登録商標)”CX7323、CX9701、CX9704、(デグサ(株)製)等を使用することができる。これらのポリアミド粒子は、単独で使用しても複数を併用してもよい。
【0132】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、カップリング剤や、熱硬化性樹脂粒子、エポキシ樹脂に溶解可能な熱可塑性樹脂、あるいはシリカゲル、カーボンブラック、クレー、カーボンナノチューブ、金属粉体といった無機フィラー等を配合することができる。
本発明のプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料は、その炭素繊維質量分率は好ましくは40~90質量%であり、より好ましくは50~80質量%である。炭素繊維質量分率が低すぎると、得られる複合材料の質量が過大となり、比強度および比弾性率に優れる炭素繊維強化複合材料の利点が損なわれることがあり、また、炭素繊維質量分率が高すぎると、樹脂組成物の含浸不良が生じ、得られる炭素繊維強化複合材料がボイドの多いものとなり易く、その力学特性が大きく低下することがある。
【0133】
本発明のプリプレグは、本発明の樹脂組成物を、メチルエチルケトンやメタノール等の溶媒に溶解して低粘度化し、炭素繊維に含浸させるウェット法と、エポキシ樹脂組成物を加熱により低粘度化し、炭素繊維に含浸させるホットメルト法等によって好適に製造することができる。
ウェット法は、炭素繊維をエポキシ樹脂組成物の溶液に浸漬した後、引き上げ、オーブン等を用いて溶媒を蒸発せしめ、プリプレグを得る方法である。
【0134】
ホットメルト法は、加熱により低粘度化した樹脂組成物を直接炭素繊維に含浸させる方法、または樹脂組成物を離型紙等の上にコーティングした樹脂フィルムを作製しておき、次に炭素繊維の両側または片側からその樹脂フィルムを重ね、加熱加圧することにより樹脂組成物を転写含浸せしめ、プリプレグを得る方法である。このホットメルト法では、プリプレグ中に残留する溶媒が実質的に皆無となるため好ましい態様である。
【0135】
ホットメルト法でプリプレグを作製する場合、樹脂組成物の粘度としては、後述する方法で測定される最低粘度で0.01~30Pa・sとすることが好ましい。ここでいう樹脂組成物の最低粘度とは、パラレルプレートを使用した動的粘弾性測定装置(ARES,TA Instruments製)を使用し、温度を2℃/分の速度で昇温させながら周波数0.5Hz、およびプレート間隔1mmの条件で測定した複素粘度ηについて、40-180℃の温度範囲での最も低い値を示す。
【0136】
本発明のプリプレグは、単位面積あたりの炭素繊維量が50~1000g/mであることが好ましい。かかる炭素繊維量が50g/m未満では、炭素繊維強化複合材料を成形する際に所定の厚みを得るために積層枚数を多くする必要があり、作業が繁雑となることがある。一方で、炭素繊維量が1000g/mを超えると、プリプレグのドレープ性が悪くなる傾向にある。
【0137】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、上述した本発明のプリプレグを所定の形態で積層し、加圧・加熱して成形する方法を一例として製造することができる。熱および圧力を付与する方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法等が使用される。特にスポーツ用品の成形には、ラッピングテープ法と内圧成形法が好ましく用いられる。
ラッピングテープ法は、マンドレル等の芯金にプリプレグを捲回して、炭素繊維強化複合材料製の管状体を成形する方法であり、ゴルフシャフトや釣り竿等の棒状体を作製する際に好適な方法である。より具体的には、マンドレルにプリプレグを捲回し、プリプレグの固定および圧力付与のため、プリプレグの外側に熱可塑性樹脂フィルムからなるラッピングテープを捲回し、オーブン中でエポキシ樹脂を加熱硬化させた後、芯金を抜き去って管状体を得る方法である。
【0138】
また、内圧成形法は、熱可塑性樹脂製のチューブ等の内圧付与体にプリプレグを捲回したプリフォームを金型中にセットし、次いでその内圧付与体に高圧の気体を導入して圧力を付与すると同時に金型を加熱せしめ、管状体を成形する方法である。この内圧成形法は、ゴルフシャフト、バット、およびテニスやバトミントン等のラケットのような複雑な形状物を成形する際に、特に好ましく用いられる。
本発明の炭素繊維強化複合材料は、前記した樹脂組成物を用いて、プリプレグを経由しない方法によっても製造することができる。
【0139】
このような方法としては、例えば、構成要素[B]および[C]を含む本発明の樹脂組成物を直接炭素繊維に含浸させた後加熱硬化する方法、即ち、ハンド・レイアップ法、フィラメント・ワインディング法、プルトルージョン法や、あらかじめ部材形状に賦形した連続繊維基材に樹脂組成物を含浸および硬化させるレジン・フィルム・インフュージョン法、レジン・インジェクション・モールディング法およびレジン・トランスファー・モールディング(RTM)法等が用いられる。
【0140】
本発明による樹脂組成物は、RTM法に関する総説(SAMPE Journal,Vol.34,No.6,pp7-19)に挙げられている、VARTM(Vaccum-assisted ResinTransfer Molding)、VIMP(Variable Infusion Molding Process)、TERTM(Thermal Expansion RTM)、RARTM(Rubber-Assisted RTM)、RIRM(Resin Injection Recirculation Molding)、CRTM(Continuous RTM)、CIRTM(Co-injection Resin Transfer Molding)、RLI(Resin Liquid Infusion)、SCRIMP(Seeman’s Composite Resin Infusion Molding Process)等の成形法にも好適に用いられる。
【実施例
【0141】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものでは無い。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0142】
<実施例および比較例で用いられた原材料>
(1)構成要素[A]
・炭素繊維1
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を乾湿式紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、総繊度1,000テックス、比重1.8、ストランド引張強度6.6GPa、ストランド引張弾性率324GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり80クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。後述の(5)に記載の方法に従って測定したところ、表面酸素濃度O/Cは、0.16であった。
【0143】
“jER(登録商標)”152(三菱ケミカル(株)製)を20質量部、ビスフェノールAのエチレンオキシド2mol付加物2molとマレイン酸1.5mol、セバチン酸0.5molの縮合物を20質量部および乳化剤10質量部からなる水分散エマルジョンを調整した後、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル50質量部を混合してサイジング液を調合した。なお、乳化剤としてポリオキシエチレン(70mol)スチレン化(5mol)クミルフェノールを用いた。
このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。
このように作製した炭素繊維を、後述の(7)に記載の方法に従って測定したところ、サイジング剤塗布炭素繊維の洗浄後のサイジング剤付着量は0.15質量%であり、好ましい付着量であった。また、後述の(8)に記載の方法で測定した界面接着強度は44MPaであった。
【0144】
・炭素繊維2
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を乾湿式紡糸し、焼成し、総フィラメント数12,000本、総繊度1,000テックス、比重1.8、ストランド引張強度4.9GPa、ストランド引張弾性率230GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり80クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。このとき表面酸素濃度O/Cは、0.15であった。
この炭素繊維を用い、炭素繊維1と同様の手法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。サイジング剤塗布炭素繊維の洗浄後のサイジング剤付着量は0.17質量%であり、好ましい付着量であった。また、界面接着強度は43MPaであった。
【0145】
・炭素繊維3
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を乾湿式紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、総繊度1,000テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.9GPa、ストランド引張弾性率294GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり120クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。このとき表面酸素濃度O/Cは、0.20であった。
この炭素繊維を用い、炭素繊維1と同様の手法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。洗浄後のサイジング剤付着量は0.19質量%であり、好ましい付着量であった。また、界面接着強度は45MPaであった。
【0146】
・炭素繊維4
電気量を炭素繊維1g当たり80クーロンで電解表面処理した以外は炭素繊維3と同様にして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。表面酸素濃度O/Cは、0.15であった。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。洗浄後のサイジング剤付着量は0.16質量%であり、好ましい付着量であった。また、界面接着強度は43MPaであった。
【0147】
・炭素繊維5
電気量を炭素繊維1g当たり40クーロンで電解表面処理した以外は炭素繊維3と同様にして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。表面酸素濃度O/Cは、0.13であった。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。洗浄後のサイジング剤付着量は0.12質量%であり、好ましい付着量であった。また、界面接着強度は29MPaであった。
【0148】
・炭素繊維6
濃度0.1モル/lの硫酸を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり20クーロンで電解表面処理した以外は炭素繊維3と同様にして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。表面酸素濃度O/Cは、0.12であった。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。洗浄後のサイジング剤付着量は0.13質量%であり、好ましい付着量であった。また、界面接着強度は27MPaであった。
【0149】
・炭素繊維7
電気量を炭素繊維1g当たり10クーロンで電解表面処理し、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルの代わりにエチレングリコールを使用した以外は炭素繊維6と同様にして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。表面酸素濃度O/Cは、0.09であった。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。洗浄後のサイジング剤付着量は0.05質量%であった。また、界面接着強度は21MPaであった。
【0150】
・炭素繊維8
電解処理を行わない以外は炭素繊維7と同様にして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。表面酸素濃度O/Cは、0.02であった。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。洗浄後のサイジング剤付着量は0.02質量%であった。界面接着強度は18MPaであった。
【0151】
・炭素繊維9
ポリグリセリンポリグリシジルエーテルの代わりに“jER(登録商標)”828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製))を使用した以外は炭素繊維4と同様にして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。表面酸素濃度O/Cは、0.15であった。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。洗浄後のサイジング剤付着量は0.09質量%であり、好ましい付着量であった。また、界面接着強度は27MPaであった。
【0152】
・炭素繊維10
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を乾湿式紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、総繊度1,000テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.9GPa、ストランド引張弾性率294GPaの炭素繊維を得た。表面酸素濃度O/Cは、0.15であった。得られた炭素繊維は、サイジング剤を塗布しなかった。該炭素繊維の洗浄後のサイジング剤付着量は0質量%であった。また界面接着強度は22MPaであった。
【0153】
・炭素繊維11
以下の手順で作製した炭素繊維からなる繊維基材が炭素繊維11である。炭素繊維4を経糸として1.8本/cmの密度で引き揃え、これに平行、かつ交互に配列された補助経糸としてガラス繊維束ECDE-75-1/0-1.0Z(日東紡(株)製、フィラメント数:800本、繊度:67.5tex)を1.8本/cmの密度で引き揃えて一方向性シート状炭素繊維束群を形成した。緯糸としてガラス繊維束E-glassヤーンECE-225-1/0-1.0Z(日東紡(株)製、フィラメント数:200本、繊度:22.5tex)を用い、前記一方向性シート状炭素繊維群に直交する方向に3本/cmの密度で配列し、織機を用いて補助経糸と緯糸が互いに交差するように織り込み、実質的に炭素繊維が一方向に配列されクリンプがない、一方向性ノンクリンプ織物を作製した。なお、得られた炭素繊維織物の炭素繊維繊度に対する緯糸の繊度割合は2.2%、補助経糸の繊度割合は6.5%であり、炭素繊維の目付は192g/mであった。
【0154】
(2)構成要素[B]
一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂
・エポキシ樹脂1
化合物名:2-メチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、特開2010-241797号公報参照、エポキシ当量:245g/eq)
・エポキシ樹脂2
化合物名:4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート、特許第5471975号公報参照、エポキシ当量:213g/eq)
【0155】
・エポキシ樹脂3
上記エポキシ樹脂1を200℃に加熱融解し、そこへプレポリマー化剤としてレゾルシノール(水酸基当量:55g/eq)をエポキシ当量数:水酸基当量数が100:25になるように加え、窒素雰囲気下、200℃で3時間加熱することでエポキシ樹脂3を得た。プレポリマーの含有量は、エポキシ樹脂1とそのプレポリマーの合計100質量部に対して53質量部であり、JIS K7236に従いエポキシ当量を測定したところ353g/eqであった。
【0156】
・エポキシ樹脂4
エポキシ樹脂1をエポキシ樹脂2に変更した以外は、上記エポキシ樹脂3と同様にしてエポキシ樹脂4を得た。プレポリマーの含有量は、エポキシ樹脂2とそのプレポリマーの合計100質量部に対して53質量部であり、JIS K7236に従いエポキシ当量を測定したところ320g/eqであった。
【0157】
・エポキシ樹脂5
プレポリマー化剤をレゾルシノールからビスフェノールF(水酸基当量:100g/eq)に変更して、エポキシ当量数:水酸基当量数が100:15になるように添加した以外は、上記エポキシ樹脂4と同様にしてエポキシ樹脂5を得た。プレポリマーの含有量は、エポキシ樹脂2とそのプレポリマーの合計100質量部に対して38質量部であり、JIS K7236に従いエポキシ当量を測定したところ309g/eqであった。
【0158】
一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂
・“エピクロン(登録商標)”830(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、DIC(株)製)
・“jER(登録商標)”YX4000H(ビフェニル型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製)
・“jER(登録商標)”604(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、三菱ケミカル(株)製)
・“アラルダイト(登録商標)”MY0610(トリグリシジル-m-アミノフェノール、ハンツマン・ジャパン(株)製)
・“jER”(登録商標)828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製)。
【0159】
(3)構成要素[C]
・“セイカキュア”(登録商標)-S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化(株)製)
・3,3’-DAS(3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、三井化学ファイン(株)製)。
・DICY7(ジシアンジアミド、三菱ケミカル(株))
・DCMU99{3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、硬化促進剤、保土ヶ谷化工業(株)製}。
(4)その他の成分
・“Virantage(登録商標)”VW-10700RFP(ポリエーテルスルホン、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製)。
【0160】
<各種評価法>
(5)炭素繊維の表面酸素濃度O/Cの測定
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従いX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒で表面に付着している汚れを除去した炭素繊維を、約20mmにカットし、銅製の試料支持台に拡げた。次に、試料支持台を試料チャンバー内にセットし、試料チャンバー中を1×10-8Torrに保った。続いて、X線源としてAlKα1、2を用い、光電子脱出角度を90°として測定を行った。なお、測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。C1sメイン面積は、282~296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、O1sピーク面積は、528~540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA-1600を用い、上記装置固有の感度補正値は2.33であった。
【0161】
(6)サイジング剤付着量の測定
サイジング塗布炭素繊維のサイジング剤の付着量は、次の手順に従い求めた。まず、サイジング塗布炭素繊維を2±0.5g採取し、窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行った。このときの加熱処理前後の質量変化量を加熱処理前の質量で除した値の質量%をサイジング剤の付着量とした。
【0162】
(7)サイジング剤塗布炭素繊維の洗浄後のサイジング剤付着量の測定
サイジング剤塗布炭素繊維の洗浄後のサイジング剤の付着量は次のように測定した。まず、サイジング剤塗布炭素繊維2±0.5gをアセトニトリルとクロロホルムを体積比9対1で混合した溶液10mlに浸漬し、超音波洗浄を20分間行い、サイジング剤塗布炭素繊維からサイジング剤を溶出させた後、十分に乾燥させて質量を測定した。さらに、この洗浄後の炭素繊維を窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行った。このときの加熱処理前後の質量変化量を、加熱処理前の質量で除した値の質量%を洗浄後のサイジング剤の付着量とした。
【0163】
(8)界面剪断強度(IFSS)の測定
界面剪断強度(IFSS)の測定は、次の(a)~(d)の手順で行った。
(a)樹脂の調製
ビスフェノールA型エポキシ化合物“jER(登録商標)”828(三菱ケミカル(株)製)100質量部とメタフェニレンジアミン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)14.5質量部を、それぞれ容器に入れた。その後、上記のjER828の粘度低下とメタフェニレンジアミンの溶解のため、75℃の温度で15分間加熱した。その後、両者をよく混合し、80℃の温度で約15分間真空脱泡を行った。
(b)炭素繊維単糸を専用モールドに固定
炭素繊維束から単繊維を抜き取り、ダンベル型モールドの長手方向に単繊維に一定張力を与えた状態で両端を接着剤で固定した。その後、炭素繊維およびモールドに付着した水分を除去するため、80℃の温度で30分間以上真空乾燥を行った。ダンベル型モールドはシリコーンゴム製で、注型部分の形状は、中央部分巾5mm、長さ25mm、両端部分巾10mm、全体長さ150mmだった。
【0164】
(c)樹脂注型から硬化まで
上記(b)の手順の真空乾燥後のモールド内に、上記(a)の手順で調整した樹脂を流し込み、オーブンを用いて、昇温速度1.5℃/分で75℃の温度まで上昇し2時間保持後、昇温速度1.5℃/分で125℃の温度まで上昇し2時間保持後、降温速度2.5℃/分で30℃の温度まで降温した。その後、脱型して試験片を得た。
(d)界面剪断強度(IFSS)の測定
上記(c)の手順で得られた試験片に繊維軸方向(長手方向)に歪速度0.3%/秒で引張力を与え、歪みを12%生じさせた後、偏光顕微鏡により試験片中心部22mmの範囲における繊維破断数N(個)を測定した。次に、平均破断繊維長laを、la(μm)=22×1000(μm)/N(個)の式により計算した。次に、平均破断繊維長laから臨界繊維長lcを、lc(μm)=(4/3)×la(μm)の式により計算した。ストランド引張強度σと炭素繊維単糸の直径dを測定し、炭素繊維と樹脂界面の接着強度の指標である界面剪断強度IFSSを、次式で算出した。実施例では、測定数n=5の平均を試験結果とした。
・界面剪断強度IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)。
【0165】
(9)樹脂組成物の調製
ニーダー中に、表1,2に示す各配合比で、硬化剤、硬化促進剤以外の樹脂成分を所定量加え、混練しつつ、160℃まで昇温し、160℃1時間混練することで、透明な粘調液を得た。混練しつつ80℃まで降温させた後、硬化剤、硬化促進剤を所定量添加え、さらに混練し、樹脂組成物を得た。
【0166】
(10)プリプレグの作製
(9)で調製した樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布して樹脂フィルムを作製した。次に、シート状に一方向に配列させた構成要素[A]の炭素繊維に、樹脂フィルム2枚を炭素繊維の両面から重ね、加熱加圧により樹脂を炭素繊維に含浸させ、炭素繊維の目付が190g/m、樹脂組成物の質量分率が35%の一方向プリプレグを得た。
【0167】
(11)モードI層間靭性(GIC)試験用複合材料製平板の作製とGIC測定
JIS K7086(1993)に準じ、次の(a)~(e)の操作によりGIC試験用複合材料製平板を作製した。
(a)(10)で作製した一方向プリプレグを、繊維方向を揃えて20ply積層した。ただし、積層中央面(10ply目と11ply目の間)に、繊維配列方向と直角に、幅40mm、厚み50μmのフッ素樹脂製フィルムをはさんだ。
(b)積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆い、オートクレーブ中で150℃4時間、180℃2時間、内圧0.59MPaで加熱加圧して硬化し、一方向炭素繊維強化複合材料を成形した。
(c)(b)で得た一方向炭素繊維強化複合材料を、幅20mm、長さ195mmにカットした。繊維方向は、試験片の長さ側と平行になるようにカットした。
【0168】
(d)JIS K7086(1993)に記載のピン負荷用ブロック(長さ25mm、アルミ製)では試験時に接着部が剥がれてしまったため、代わりにトライアングル状グリップを使用した(図1)。試験片端(フッ素樹脂製フィルムを挟んだ側)から4mmの位置に幅方向両端に1mm長さのノッチを入れ、トライアングル状グリップを引っかけた。試験はトライアングル状グリップをインストロン万能試験機(インストロン社製)のクロスヘッドで引っ張ることで試験片に荷重を与えた。
(e)亀裂進展を観察しやすくするため、試験片の両側面に白色塗料を塗った。
作製した複合材料製平板を用いて、以下の手順により、GIC測定を行った。JIS K7086(1993)附属書1に従い、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いて試験を行った。クロスヘッドスピードは、亀裂進展が20mmに到達するまでは0.5mm/分、20mm到達後は1mm/分とした。試験は亀裂が100mm進展するまで行い、試験中に取得した荷重-変位線図の面積からGICを算出した。
【0169】
(12)モードII層間靱性(GIIC)の測定
(11)のGIC試験の(a)から(c)と同様に試験片を作製し、幅20mm、長さ195mmの試験片を得た。この試験片をJIS K7086(1993)附属書2に従って、GIIC試験を行った。
【0170】
(13)0°引張強度試験用複合材料製平板の作製と測定
(10)で作製した一方向プリプレグを所定の大きさにカットし、一方向に6枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、150℃4時間、180℃2時間、内圧0.59MPaで加熱加圧して硬化し、一方向炭素繊維強化複合材料を得た。この一方向炭素繊維強化複合材料を幅12.7mm、長さ230mmでカットし、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得た。この試験片はインストロン万能試験機を用いて、JIS K7073(1988)の規格に準じて0゜引張試験を行った。
【0171】
(14)繊維基材を用いたプリプレグの作製
構成要素[B]および[C]を含む樹脂原料を表1,2に示す配合比で混練し、樹脂組成物を作製した。炭素繊維11の繊維基材上に、作製した樹脂組成物を目付104g/mとなるように均一に塗布した。樹脂塗布面をFEPフィルム“トヨフロン(登録商標)”(東レ(株)製)でカバーして150℃で加温した後、600mmHg以上の真空圧力でコンパクションすることで、樹脂組成物の質量分率が35%である繊維基材を用いたプリプレグを作製した。
【0172】
(15)プレス成形によるモードI層間靭性(GIC)およびモードII層間靱性(GIIC)試験用複合材料製平板成形方法と測定
(a)(14)で作製した繊維基材を用いたプリプレグを、繊維方向を揃えて20ply積層した。ただし、積層中央面(10ply目と11ply目の間)に、繊維配列方向と直角に、幅40mm、厚み50μmのフッ素樹脂製フィルムをはさんだ。
(b)積層したプリプレグを金型上に配置した後、加熱型プレス成形機により、1.0MPaの加圧下、180℃4時間で流動・成形せしめ、一方向炭素繊維強化複合材料を成形した。
(c)(7)のGIC試験の(c)~(e)と同様にしてGIC測定を、(8)のGIIC試験と同様にしてGIIC測定を行った。
【0173】
(16)プレス成形による0°引張強度試験用複合材料製平板の作製と測定
(14)で作製した繊維基材を用いたプリプレグを所定の大きさにカットし、一方向に6枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、150℃4時間、180℃2時間、内圧0.59MPaで加熱加圧して硬化し、一方向炭素繊維強化複合材料を得た。この一方向炭素繊維強化複合材料を幅12.7mm、長さ230mmでカットし、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得た。この試験片はインストロン万能試験機を用いて、JIS K7073(1988)の規格に準じて0゜引張試験を行った。
【0174】
(17)偏光光学顕微鏡による観察
(10)または(14)で作製した一方向プリプレグを幅50mm、長さ50mmにカットし、プリプレグが幅80mm以上となるように繊維間隔を手で広げた後、オーブンにて150℃4時間、180℃2時間の条件で硬化し、観察用の炭素繊維強化複合材料の試験体を得た。試験体の樹脂領域を偏光光学顕微鏡(キーエンス(株)製;VHX-5000、偏光フィルター付き)により観察を行った。ファンシェイプ組織やフォーカルコニック組織といった高次構造形成が観察された場合を「A」、高次構造が観察されなかった場合を「B」とした。
【0175】
(18)X線回折による回折角度2θの測定
(10)または(14)で作製した一方向プリプレグを厚さ約1mmとなるように積層した後、積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆い、オートクレーブ中で150℃4時間、180℃2時間、内圧0.59MPaで加熱加圧して硬化し、一方向炭素繊維強化複合材料を成形した。成形した炭素繊維強化複合材料を、長さ40mm、幅10mmにカットし、試験片を得た。測定は以下の条件により、炭素繊維強化複合材料内の炭素繊維軸に対して平行(0°)、垂直(90°)、45°に対して行った。
・装置:X’ PertPro(スペクトリス(株)PANalytical事業部製)
・X線源:CuKα線(管電圧45kV、管電流40mA)
・検出器:ゴニオメーター+モノクロメーター+シンチレーションカウンター
・走査範囲:2θ=1~90°
・走査モード:ステップスキャン、ステップ単位0.1°、計数時間40秒
1~10°範囲における回折角度2θのピークを表1,2に記載した。また、ピークを有さない場合は「B」と記載した。
【0176】
(19)偏光ラマン分光による樹脂硬化物中の分子異方性の測定
(11)または(15)で作製した炭素繊維強化複合材料から2cm角を切り出すことで、試験片を得た。測定は、炭素繊維強化複合材料内の樹脂部分について任意の5箇所に対して、以下の条件により行った。
・装置:PDP320((株)PHOTO Design製)
・ビーム径:1μm
・光源:YAGレーザー/1064nm
・回折格子:Single 300gr/mm
・スリット:100μm
・検出器:CCD:Jobin Yvon 1024×256
・対物レンズ:×100
測定した試験片の任意の方向を0°とし、偏光方向を0°~150まで30°間隔で変化させて偏光ラマン分光を測定。芳香環のC=C伸縮振動に由来する1600cm-1付近のラマンバンド強度について、測定した5箇所について変動幅が20%以上の偏光方位を有する場合は異方性あり(A)、偏光方位0°~150°のいずれも変動幅が20%未満だった場合は異方性なし(B)とした。
【0177】
(実施例1~11、比較例1~2、4~6)
表1,2の配合比に従って、上記(9)樹脂組成物の調製の手順で炭素繊維強化複合材料用樹脂組成物を作製した。得られた樹脂組成物を用いて、上記(10)プリプレグの作製の手順でプリプレグを得た。得られたプリプレグを用いて、上記の(11)モードI層間靭性(GIC)試験用複合材料製平板の作製とGIC測定、(12)モードII層間靱性(GIIC)、(13)0°引張強度試験用複合材料製平板の作製と測定、(17)偏光光学顕微鏡による観察、(18)X線回折による回折角度2θの測定、(19)偏光ラマン分光による樹脂組成物中の異方性の測定を行った。結果を表1,2に示す。
実施例の各種測定結果は表1,2に示す通りであり、実施例1~11のように高次構造を有する樹脂組成物と好ましい表面酸素濃度を有する炭素繊維の組合せにより、優れたモードI層間靱性GIC、モードII層間靱性GIIC、および引張強度を有する炭素繊維強化複合材料が得られた。
比較例1~2はいずれも、高次構造を有する樹脂硬化物と表面酸素濃度が低い炭素繊維との組合せである。比較例1~2は、同じ構成要素[B]および[C]を用いた実施例3よりもモードI層間靱性GIC、モードII層間靱性GIICはいずれも低く、本発明により特にモードI層間靱性GICとモードII層間靱性GIICが飛躍的に向上していることがわかる。また、比較例4~6の樹脂硬化物は高次構造を持たず、分子が異方性を持つ樹脂領域を持たない。比較例4と実施例1との比較、比較例5,6と実施例2~5との比較により、同じ構成要素[A]を用いた各実施例と比較して、モードI層間靱性GIC、モードII層間靱性GIIC、引張強度はいずれも低く、本発明により特にモードI層間靱性GICとモードII層間靱性GIICが飛躍的に向上していることがわかる。
【0178】
(実施例12~13、比較例3)
表1,2の配合比に従って上記(9)樹脂組成物の調製の手順で炭素繊維強化複合材料用樹脂組成物を作製した。得られた樹脂組成物を用いて、上記(14)繊維基材を用いたプリプレグの作製の手順でプリプレグを得た。得られたプリプレグを用いて、上記の(15)プレス成形によるモードI層間靭性(GIC)およびモードII層間靱性(GIIC)試験用複合材料製平板成形方法と測定、(16)プレス成形による0°引張強度試験用複合材料製平板の作製と測定、(17)偏光光学顕微鏡による観察、(18)X線回折による回折角度2θの測定、(19)偏光ラマン分光による樹脂組成物中の異方性の測定を行った。結果を表1,2に示す。
比較例3の樹脂硬化物は高次構造を持たず、分子が異方性を持つ樹脂領域を持たない。比較例3と実施例12,13との比較により、同じ構成要素[A]を用いた各実施例と比較してモードI層間靱性GIC、モードII層間靱性GIIC、引張強度はいずれも低く、本発明により特にモードI層間靱性GICとモードII層間靱性GIICが飛躍的に向上していることがわかる。
【0179】
【表1】
【0180】
【表2】

図1