(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】トレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20230111BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230111BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20230111BHJP
C08L 93/04 20060101ALI20230111BHJP
C08L 81/00 20060101ALI20230111BHJP
C08K 5/36 20060101ALI20230111BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20230111BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/36
C08K3/06
C08L93/04
C08L81/00
C08K5/36
C08L15/00
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2018558436
(86)(22)【出願日】2018-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2018019780
(87)【国際公開番号】W WO2019017067
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2017139988
(32)【優先日】2017-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 達也
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-101847(JP,A)
【文献】特表2004-505149(JP,A)
【文献】特表2008-527157(JP,A)
【文献】特開2014-214266(JP,A)
【文献】特開2005-146076(JP,A)
【文献】特開昭60-158233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00、11/00
C08C 19/00-19/44
C08G 75/00-75/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、シリカと、硫黄及び/又は硫黄含有化合物とを含み、かつ
下記式(1)~(3)を満たすトレッド用ゴム組成物。
75≦EB/M300
≦250 (1)
M100≧2.2MPa (2)
EB≧
580% (3)
(式中、EB、M300及びM100は、それぞれ、JIS K6251:2010に基づいて、トレッド用ゴム組成物から作成したダンベル状6号形試験片を用いて、常温(25℃)下において引張試験を実施して測定される破断時伸び(%)、300%伸張時応力(MPa)及び100%伸張時応力である。)
【請求項2】
下記式(1A)~(3A)を満たす請求項1記載のトレッド用ゴム組成物。
75≦EB/M300
≦200 (1A)
M100≧2.2MPa (2A)
EB≧
580% (3A)
(式中、EB、M300及びM100は、それぞれ、JIS K6251:2010に基づいて、トレッド用ゴム組成物から作成したダンベル状6号形試験片を用いて、常温(25℃)下において引張試験を実施して測定される破断時伸び(%)、300%伸張時応力(MPa)及び100%伸張時応力である。)
【請求項3】
ジエン系ゴムが変性スチレンブタジエンゴム及び/又は変性ブタジエンゴムを含む請求項1又は2記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
ジエン系ゴムがアルコキシシリル変性スチレンブタジエンゴムを含む請求項1又は2記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
硫黄含有オリゴマー及び/又はロジン系樹脂を含み、
前記硫黄含有オリゴマーは、クロロホルム溶媒を用いたGPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量が4000以上である化合物である請求項1~4のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
トレッドを有するタイヤであって、
前記トレッドの少なくとも一部が
、ジエン系ゴムと、シリカと、硫黄及び/又は硫黄含有化合物とを含むゴム組成物から作製され、かつ以下の式(1)~(3)を満たすタイヤ。
75≦EB/M300
≦250 (1)
M100≧2.2MPa (2)
EB≧
580% (3)
(式中、EB、M300及びM100は、それぞれ、JIS K6251:2010に基づいて、タイヤのトレッドから作成したダンベル状6号形試験片を用いて、常温(25℃)下において引張試験を実施して測定される破断時伸び(%)、300%伸張時応力(MPa)及び100%伸張時応力である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの耐カットチッピング性能の指標として、破断強度及び破断伸びで表した破壊エネルギー(TB×EB×0.5)や、破断伸びEBが汎用されており、例えば、EBが450%以上の場合に良好な耐カットチッピング性能が得られるという基準で判断されている。
【0003】
一方、グリップ性能に対し、(1)ヒステリシス摩擦力、(2)粘着摩擦力、(3)路面との実接触面積の3つの要素があると考えられている。最も寄与の大きいヒステリシス摩擦力に関しては、ゴムの粘弾性、特にウェット条件では、tanδ等を用いる手法が一般的である。粘着摩擦力に関しては、タイヤ表面にブリードしてくる粘着物質の凝着力を用いる方法である。ドライ条件のレース用タイヤでは、ヒステリシス摩擦力と匹敵する寄与が認識されている。路面との実接触面積については、十分な研究がなされていない。特に、走行初期のグリップ性能には、実接触面積の寄与が高いと想定される。ドライ条件では20~100℃、ウェット条件では-10~10℃のtanδが用いられる。上記(1)、(2)、(3)の要素を考慮しつつ、初期ウェットグリップ性能に優れたタイヤや指標の提供が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記課題を解決し、走行初期ウェットグリップ性能、引張特性に優れたトレッド用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ジエン系ゴムと、シリカと、硫黄及び/又は硫黄含有化合物とを含み、かつ
下記式(1)~(3)を満たすトレッド用ゴム組成物に関する。
EB/M300≧50 (1)
M100≧1.7Mpa (2)
EB≧500% (3)
【0006】
前記ゴム組成物は、下記式(1A)~(3A)を満たすことが好ましい。
EB/M300≧70 (1A)
M100≧2.0Mpa (2A)
EB≧550% (3A)
【0007】
前記ジエン系ゴムが変性スチレンブタジエンゴム及び/又は変性ブタジエンゴムを含むことが好ましい。
前記ジエン系ゴムがアルコキシシリル変性スチレンブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0008】
硫黄含有オリゴマー及び/又はロジン系樹脂を含むことが好ましい。
本発明はまた、前記ゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
前記ゴム組成物は、硫黄含有オリゴマー及び/又はロジン系樹脂を含むことが好ましい。
【0009】
本発明はまた、トレッドを有するタイヤであって、
前記トレッドの少なくとも一部が以下の式(1)~(3)を満たすタイヤに関する。
EB/M300≧50 (1)
M100≧1.7Mpa (2)
EB≧500% (3)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ジエン系ゴムと、シリカと、硫黄及び/又は硫黄含有化合物とを含み、かつ前記式(1)~(3)を満たすトレッド用ゴム組成物であるため、走行初期ウェットグリップ性能、引張特性に優れた空気入りタイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ジエン系ゴムと、硫黄及び/又は硫黄含有化合物と、シリカとを含み、かつ下記式(1)~(3)を満たすトレッド用ゴム組成物である。
EB/M300≧50 (1)
M100≧1.7Mpa (2)
EB≧500% (3)
これにより、優れた走行初期ウェットグリップ性能、引張特性、耐カットチッピング性能、操縦安定性を得ることが可能となる。
【0012】
式(1)~(3)のパラメーターの意義(このような作用効果が得られるメカニズム)は、以下のように推察されるものである。
前記のとおり、破断時伸び(EB)が諸性能の指標として使用されているが、破断時伸び(EB)/300%モジュラス(M300)を用いる手法は提案されていない。そして、M300が小さいことは300%伸びでの抗力が小さい、即ち、小さい力で変形が容易ということであり、結果、トレッド面の路面に対する実接触面積が大きくなる一方、M300が大きいと、剣山の上に硬いタイヤが乗ったイメージとなり、実接触面積が小さくなると考えられる。例えば、タイヤの走行初期には、タイヤ温度も環境温度付近と低く、通常、ゴムが路面の骨材のミクロ凹凸に接触し難く、ゴムと路面の凝着によるグリップ性能が得ることが難しいが、M300を小さくすることで、実接触面積が大きくなり、凝着力が増え、初期グリップの改善に寄与すると推察される。
【0013】
一方、EBが大きいと、優れた引張特性が付与されることで、耐カットチッピング性能が得られ、また、100%モジュラス(M100)が大きいと、良好な操縦安定性が得られると考えられる。このように、式(2)、(3)を満たすEB、M100を有すると共に、式(1)、特にM300を小さくすることで、式(1)を充足させることにより、実接触面積が大きくなり、優れた走行初期ウェットグリップ性能(ドライバー官能グリップ評価で、直進グリップ、コーナーグリップ、危険回避急ハンドルグリップ、急ブレーキ減速度合等の総合的な走行初期ウェットグリップ性能)が付与されると推察される。
【0014】
これに対し、単純にHs(又はM100)を低くすれば、ミクロな変形には追従し易いものの、コーナリングの際に、ゴムの倒れ変形が大きく、ゴムの一部が浮き、面積増効果が減殺されるため、走行初期ウェットグリップ性能の指標として適さない。
【0015】
前記式(1)~(3)を満足させる手法としては、(a)シリカ用変性スチレンブタジエンゴム及び/又はシリカ用変性ブタジエンゴムを使用する方法、(b)硫黄(加硫剤)として、硫黄含有オリゴマーを使用する方法、(c)樹脂として、分散性の良い樹脂(芳香族変性テルペン樹脂、クマロンインデン樹脂等)を使用する方法、(d)硫黄架橋を均一にできるロジン系樹脂を使用する方法、(e)フィラーをシリカ主体とする共に、フィラーを増量する(例えば、シリカ量95質量部以上、ゴム組成物総量100質量%中のフィラー含有率が37質量%以上)方法、を単独又は適宜組み合わせる手法、等が挙げられる。
【0016】
なお、(a)~(e)の方法により、前記式(1)~(3)を満足できる理由は、以下のように推察される。
(a)シリカ用変性スチレンブタジエンゴム及び/又はシリカ用変性ブタジエンゴムを使用する場合、混練り中にポリマーがシリカ表面のOH基と結合し、シリカの分散が向上し、ポリマーとシリカが一体化する結果、式(1)~(3)が充足される。
【0017】
(b)硫黄含有オリゴマーを使用する場合、該オリゴマーはポリマーとの親和性が高くかつ、分子量がポリマーに近い為、ポリマー内部に均一に、取り込まれ、硫黄元素、更には硫黄-促進剤-亜鉛-脂肪酸複合体が形成され、均一なポリマー間架橋を形成できるため、M300が小さくなり、結果、式(1)~(3)が充足される。
【0018】
(c)分散性の良い樹脂を使用する場合、樹脂はポリマーのジエン系結合部位をブロックすることなく、硫黄元素はジエン結合部に近づける為、M300が小さくなり、結果、式(1)~(3)が充足される。
【0019】
(d)ロジン系樹脂を使用する場合、ロジンのCOOHが硫黄を吸着し、ポリマー内部へ均一に硫黄元素を配送できるため、M300が小さくなり、結果、式(1)~(3)が充足される。
【0020】
(e)フィラーをシリカ主体とする共に、フィラーを増量した場合、フィラーがポリマー塊を砕く効果があり、ポリマー同志の自己凝集が減り、ポリマーとフィラーの体積割合が近くなる為、均一な架橋が生じ易い結果、式(1)~(3)が充足される。
【0021】
前記ゴム組成物(加硫後のゴム組成物)は、下記式(1)を満たす。
EB/M300≧50 (1)
EB〔%〕/M300〔MPa〕が50〔%/MPa〕以上であると、トレッド面の路面に対する実接触面積が大きくなり、優れた走行初期ウェットグリップ性能が得られる傾向がある。EB/M300は、55以上が好ましく、70以上がより好ましく、75以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、300以下が好ましく、250以下がより好ましく、パターン付の汎用タイヤでは200以下が更に好ましい。
【0022】
前記ゴム組成物(加硫後のゴム組成物)は、下記式(2)を満たす。
M100≧1.7Mpa (2)
M100が1.7Mpa以上であると、良好な操縦安定性、走行初期ウェットグリップ性能、引張特性が得られる傾向がある。M100は、2.0MPa以上が好ましく、2.2MPa以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、4.0MPa以下が好ましく、3.5MPa以下がより好ましい。
【0023】
前記ゴム組成物(加硫後のゴム組成物)は、下記式(3)を満たす。
EB≧500% (3)
EBが500%以上であると、良好なチップカット性、亀裂成長性が得られる傾向がある。EBは、520%以上が好ましく、540%以上がより好ましく、550%以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、1000%以下が好ましく、800%以下がより好ましく、700%以下が更に好ましい。
【0024】
なお、EB(破断時伸び)、M300(300%モジュラス)、M100(100%モジュラス)は、加硫後のゴム組成物を、実施例に記載のJIS K6251:2010に基づく方法で測定した値である。
【0025】
前記ゴム組成物に用いるジエン系ゴムは特に限定されず、例えば、イソプレン系ゴム(イソプレンゴム(IR)、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム、天然ゴム(NR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、走行初期ウェットグリップ性能、引張特性等の観点から、SBR、BR、イソプレン系ゴムが好ましく、BR、SBRの併用が好ましく、変性BR、変性SBRが特に好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
変性BRとしては、シリカ用変性ローシスBRが好ましい。シリカ用変性ローシスBR(シリカとの相互作用を有する化合物により変性された低シス含量のシリカ用変性BR)としては、シリカと相互作用する官能基(好ましくは、窒素、酸素及びケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含む官能基)を有する化合物により変性された低シス含量のBRであれば特に限定されない。例えば、BRの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性ローシスBRや、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性ローシスBRや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性ローシスBR(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性ローシスBR)等が挙げられるが、末端変性ローシスBRが好ましい。
【0027】
上記官能基としては、例えばアミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等があげられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、低燃費性、ウェットグリップ性能の向上効果が高いという理由から、1,2,3級アミノ基(特に、グリシジルアミノ基)、エポキシ基、水酸基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)が好ましい。
【0028】
末端変性ローシスBRとしては、アルコキシシリル変性BR(アルコキシシリル基含有変性剤で変性されたBR)が好ましく、特に、下記式で表される化合物により変性された低シス含量の変性BR(S変性ローシスBR)が好ましい。
【0029】
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、同一若しくは異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(-COOH)、メルカプト基(-SH)又はこれらの誘導体を表す。R
4及びR
5は、同一若しくは異なって、水素原子又はアルキル基を表す。R
4及びR
5は結合して窒素原子と共に環構造を形成してもよい。nは整数を表す。)
【0030】
上記S変性ローシスBRとしては、特開2010-111753号公報などに記載されているものが挙げられる。
【0031】
R1、R2及びR3としてはアルコキシ基が好適である(好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基)。R4及びR5としてはアルキル基(好ましくは炭素数1~3のアルキル基)が好適である。nは、好ましくは1~5、より好ましくは2~4、更に好ましくは3である。また、R4及びR5が結合して窒素原子と共に環構造を形成する場合、4~8員環であることが好ましい。なお、アルコキシ基には、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、ベンジルオキシ基等)も含まれる。
【0032】
前記式で表される化合物の具体例としては、2-ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-ジメチルアミノエチルトリエトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、2-ジエチルアミノエチルトリメトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-ジエチルアミノエチルトリエトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。なかでも、前述の性能を良好に改善できる点から、3-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記式で表される化合物(変性剤)によるブタジエンゴムの変性方法としては、特公平6-53768号公報、特公平6-57767号公報などに記載されている方法など、従来公知の手法を使用できる。例えば、ブタジエンゴムと該化合物とを接触させることで変性でき、具体的には、アニオン重合によるブタジエンゴムの調製後、該ゴム溶液中に該化合物を所定量添加し、ブタジエンゴムの重合末端(活性末端)と該化合物とを反応させる方法などが挙げられる。
【0034】
末端変性ローシスBRとしては、また、分子中にグリシジルアミノ基を含む低分子化合物により変性された低シス含量の変性ブタジエンゴムが好ましい。例えば、下記式で示される低分子化合物で変性された低シス含量の変性ブタジエンゴムを好適に使用できる。
【0035】
【化2】
(式中、R
11及びR
12は、同一又は異なって、炭素数1~10の炭化水素基を表し、該炭化水素基は、エーテル、及び3級アミンからなる群より選択される少なくとも1種の基を有してもよい。R
13及びR
14は、同一若しくは異なって、水素原子、又は炭素数1~20の炭化水素基を表し、該炭化水素基は、エーテル、及び3級アミンからなる群より選択される少なくとも1種の基を有してもよい。R
15は、炭素数1~20の炭化水素基を表し、該炭化水素基は、エーテル、3級アミン、エポキシ、カルボニル、及びハロゲンからなる群より選択される少なくとも1種の基を有してもよい。mは1~6の整数を表す。)
【0036】
R11及びR12は、炭素数1~10のアルキレン基(好ましくは炭素数1~3)が好ましい。R13及びR14は、水素原子が好ましい。R15は、炭素数3~20の炭化水素基(好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数8)が挙げられ、下記式などで表されるシクロアルキル基、シクロアルキレン基が好ましく、シクロアルキレン基がより好ましい。
【0037】
【0038】
また、mは2~3であることが好ましい。上記式で表される化合物としては、例えば、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-p-フェニレンジアミン、ジグリシジルアミノメチルシクロヘキサン、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等が好適に用いられる。
【0039】
分子中にグリシジルアミノ基を含む低分子化合物により変性された低シス含量の変性ブタジエンゴムとしては、分子中にグリシジルアミノ基を含む低分子化合物と、この低分子化合物の2量体以上のオリゴマーとの混合物により変性された低シス含量の変性ブタジエンゴム(A変性ローシスBR)がより好ましい。上記A変性ローシスBRとしては、特開2009-275178号公報などに記載されているものが挙げられる。
【0040】
上記オリゴマーは、上記低分子化合物の2量体~10量体が好ましい。また、上記低分子化合物は、分子量が1000以下の有機化合物であり、下記式の化合物が好適なものとして挙げられる。
【0041】
【0042】
上記式において、Rは2価の炭化水素基またはエーテル、エポキシ、ケトン等の酸素を含む極性基、チオエーテル、チオケトン等の硫黄を含む極性基、3級アミノ基、イミノ基等の窒素を含む極性基から選ばれる少なくとも一種の極性基を有する2価の有機基である。2価の炭化水素基としては、飽和または不飽和の直鎖状、分岐状、環状であってもよく、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、フェニレン基などを含む。具体的には、例えば、メチレン、エチレン、ブチレン、シクロヘキシレン、1,3-ビス(メチレン)-シクロヘキサン、1,3-ビス(エチレン)-シクロヘキサン、o-フェニレン、m-フェニレン、p-フェニレン、m-キシレン、p-キシレン、ビス(フェニレン)-メタンなどが挙げられる。
【0043】
上記式で表される低分子化合物の具体例としては、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、4,4-メチレン-ビス(N,N-ジグリシジルアニリン)、1,4-ビス(N,N-ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-p-フェニレンジアミン、4,4’-ビス(ジグリシジルアミノ)ベンゾフェノン、4-(4-グリシジルピペラジニル)-(N,N-ジグリシジル)アニリン、2-[2-(N,N-ジグリシジルアミノ)エチル]-1-グリシジルピロリジン等が挙げられる。なかでも、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンが好ましい。
【0044】
上記オリゴマー成分としては、下記式で表される2量体や、下記式で表される3量体が好適な例として挙げられる。
【0045】
【0046】
【0047】
上記低分子化合物と、上記オリゴマーとの混合物により変性する場合、変性剤(混合物)100質量%中、上記低分子化合物の含有量は75~95質量%、上記オリゴマーの含有量は25~5質量%であることが好ましい。
【0048】
変性剤における低分子化合物とオリゴマー成分の比率はGPCにより測定できる。
具体的には、低分子化合物からオリゴマー成分まで測定できるカラムを選択し、測定する。得られたピークにおいて、低分子化合物由来のピークの高分子側の最初の変曲点から垂線を下ろし、低分子側成分の面積と高分子側成分の面積比を求める。この面積比が低分子化合物とオリゴマー成分の比率に相当する。
なお、オリゴマー成分の高分子側ピークは、標準ポリスチレン換算分子量から求めた該低分子化合物の分子量の10倍以下の分子量となる点、あるいは該低分子化合物の分子量の10倍以下の分子量となる点までに成分ピークが0となる場合は成分ピークが0となる点までを積算する。
【0049】
リチウム化合物などの重合開始剤を用いたアニオン重合により合成された活性末端を有するブタジエンのポリマーと変性剤との反応は、前記変性剤をポリマーの活性末端と反応させることにより行う。分子中にグリシジルアミノ基を含む低分子化合物、又は該化合物とそのオリゴマーとの混合物によるブタジエンゴムの変性方法としては、前述の変性の方法に準じて行うことができる。
【0050】
シリカ用変性ローシスBRのシス含量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。50質量%以下にすることで、シリカ変性基のポリマーへの付加率が高まり、シリカと相互作用し易くなる傾向がある。上記シス含量の下限は特に限定されないが、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。10質量%以上にすることで、良好な破断伸びが得られる傾向がある。
【0051】
シリカ用変性ローシスBRのビニル含量は、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。ビニル含量を35質量%以下にすることで、良好な破断伸びEBが得られる傾向がある。上記ビニル含量の下限は特に限定されないが、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。
【0052】
シリカ用変性ローシスBRの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは20万以上、より好ましくは40万以上である。20万以上にすることで、良好な破断時伸びが得られる傾向がある。Mwは、好ましくは90万以下、より好ましくは70万以下である。90万以下にすることで、良好な分散性が得られ、充分な破断時伸びが得られる傾向がある。
【0053】
なお、本明細書において、ポリマーのシス含量(シス-1,4-結合ブタジエン単位量)及びビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。また、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0054】
ジエン系ゴム100質量%中のシリカ用変性ローシスBRの含有量は、好ましくは8質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上である。該含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。上記範囲内にすることで、充分な破断時伸びが得られる傾向がある。
【0055】
他のBRとしては特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR150B等の高シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等の1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を含むBR、希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム(希土類系BR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。スズ化合物により変性されたスズ変性ブタジエンゴム(スズ変性BR(カーボンブラック用変性BR))(例えば、開始剤としてリチウムを用いて重合され、ビニル結合量が5~50質量%、Mw/Mnが2.0以下、スズ原子の含有量が50~3000ppmのスズ変性BRなど)等の変性ブタジエンゴムも使用できる。なかでも、希土類系BRが好ましい。
【0056】
希土類系BRは希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴムであり、シス含量が高く、かつビニル含量が低いという特徴を有している。希土類系BRとしては、タイヤ製造における汎用品を使用できる。
【0057】
上記希土類元素系触媒としては、公知のものを使用でき、例えば、ランタン系列希土類元素化合物、有機アルミニウム化合物、アルミノキサン、ハロゲン含有化合物、必要に応じてルイス塩基を含む触媒が挙げられる。なかでも、ランタン系列希土類元素化合物としてネオジム(Nd)含有化合物を用いたNd系触媒が特に好ましい。
【0058】
ランタン系列希土類元素化合物としては、原子番号57~71の希土類金属のハロゲン化物、カルボン酸塩、アルコラート、チオアルコラート、アミド等が挙げられる。なかでも、前述のとおり、Nd系触媒の使用が高シス含量、低ビニル含量のBRが得られる点で好ましい。
【0059】
有機アルミニウム化合物としては、AlRaRbRc(式中、Ra、Rb、Rcは、同一若しくは異なって、水素又は炭素数1~8の炭化水素基を表す。)で表されるものを使用できる。アルミノキサンとしては、鎖状アルミノキサン、環状アルミノキサンが挙げられる。ハロゲン含有化合物としては、AlXkRd
3-k(式中、Xはハロゲン、Rdは炭素数1~20のアルキル基、アリール基又はアラルキル基、kは1、1.5、2又は3を表す。)で表されるハロゲン化アルミニウム;Me3SrCl、Me2SrCl2、MeSrHCl2、MeSrCl3などのストロンチウムハライド;四塩化ケイ素、四塩化錫、四塩化チタン等の金属ハロゲン化物が挙げられる。ルイス塩基は、ランタン系列希土類元素化合物を錯体化するのに用いられ、アセチルアセトン、ケトン、アルコール等が好適に用いられる。
【0060】
上記希土類元素系触媒は、ブタジエンの重合の際に、有機溶媒(n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、トルエン、キシレン、ベンゼン等)に溶解した状態で用いても、シリカ、マグネシア、塩化マグネシウム等の適当な担体上に担持させて用いてもよい。重合条件としては、溶液重合又は塊状重合のいずれでもよく、好ましい重合温度は-30~150℃であり、重合圧力は他の条件に依存して任意に選択してもよい。
【0061】
上記希土類系BRは、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上である。下限以上にすることで、良好な加工性が得られる傾向がある。該Mw/Mnは、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下、特に好ましくは2以下、最も好ましくは1.9以下である。上限以下にすることで、良好な引張特性が得られる傾向がある。
【0062】
上記希土類系BRのMwは、好ましくは20万以上、より好ましくは25万以上であり、また、好ましくは90万以下、より好ましくは60万以下である。更に、上記希土類系BRのMnは、好ましくは10万以上、より好ましくは15万以上であり、また、好ましくは80万以下、より好ましくは70万以下である。MwやMnを下限以上にすることで、良好な引張特性が得られる傾向がある。上限以下にすることで、良好な加工性が得られる傾向がある。
【0063】
上記希土類系BRのシス含量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。下限以上にすることで、良好な引張特性が得られる傾向がある。
【0064】
上記希土類系BRのビニル含量は、好ましくは1.8質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下である。上限以下にすることで、良好な引張特性が得られる傾向がある。
【0065】
前記ゴム組成物が希土類系BRを含有する場合、ジエン系ゴム100質量%中の希土類系BRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上である。下限以上にすることで、良好な破断伸びが得られる傾向がある。該含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。上限以下にすることで、良好な引張特性が得られる傾向がある。
【0066】
また、前記ゴム組成物において、ジエン系ゴム100質量%中のBRの含有量は、好ましくは8質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。下限以上にすることで、良好な引張特性が得られる傾向がある。該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。上限以下にすることで、良好な破断伸びEBが得られる傾向がある。
【0067】
SBRとしては、特に限定されず、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)、シリカとの相互作用を有する化合物により変性されたシリカ用変性スチレンブタジエンゴム(シリカ用変性SBR)等が挙げられる。なかでも、シリカ用変性SBRが好ましい。
【0068】
シリカ用変性SBRとしては、上述のシリカ用変性BRの骨格成分であるブタジエンゴムをスチレンブタジエンゴムに置き換えたものを使用すればよい。なかでも、シリカ用変性SBRとしては、アルコキシシリル変性SBR(アルコキシシリル基含有変性剤で変性されたSBR)が好ましく、特に、上記S変性ローシスBRにおける式で表される化合物により変性された変性ブタジエンゴム(S変性SBR)が好ましく、溶液重合のスチレンブタジエンゴム(S-SBR)の重合末端(活性末端)を当該式で表される化合物により変性した(S変性S-SBR(特開2010-111753号公報に記載の変性SBR))が好適に用いられる。
【0069】
シリカ用変性SBRの結合スチレン量は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。また、シリカ用変性SBRの結合スチレン量は、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは23質量%以上である。
なお、スチレン量は、H1-NMR測定により算出される。
【0070】
前記ゴム組成物がシリカ用変性SBRを含有する場合、ジエン系ゴム100質量%中のシリカ用変性SBRの含有量は、好ましくは8質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。該含有量の上限は特に限定されず、100質量%でも良いが、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは72質量%以下、特に好ましくは70質量%以下である。
【0071】
また、前記ゴム組成物において、ジエン系ゴム100質量%中のSBRの含有量は、25質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上である。該SBRの含有量は、100質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
【0072】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などを用いることができるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカ(含水シリカ)が好ましい。市販品としては、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0073】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは80m2/g以上、より好ましくは115m2/g以上、更に好ましくは150m2/g以上である。下限以上にすることで、良好なグリップ性能が得られる傾向がある。また、好ましくは400m2/g以下、より好ましくは270m2/g以下、更に好ましくは250m2/g以下である。上限以下にすることで、良好なシリカ分散性が得られる傾向がある。
なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0074】
前記ゴム組成物において、シリカの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは80質量部以上、更に好ましくは90質量部以上である。これにより、充分な補強性を得ることができ、良好な走行初期ウェットグリップ性能が得られる傾向がある。また、該含有量の上限は特に限定されないが、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは140質量部以下である。上限以下にすることで、シリカの良好な分散が得られやすい傾向がある。
【0075】
前記ゴム組成物がシリカを含有する場合、シリカとともにシランカップリング剤を含むことが好ましい。
シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。市販品としては、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、前記性能バランスの点から、スルフィド系、メルカプト系が好ましい。
【0076】
前記ゴム組成物がシランカップリング剤を含有する場合、その含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。下限以上にすることで、シランカップリング剤を配合したことによる効果が得られる傾向がある。また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。上限以下にすることで、配合量に見合った効果が得られ、良好な混練時の加工性が得られる傾向がある。
【0077】
前記ゴム組成物は、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカ等の他の充填剤を含んでも良い。なかでも、走行初期ウェットグリップ性能、引張特性の観点から、カーボンブラックを含むことが好ましい。
【0078】
使用可能なカーボンブラックとしては、特に限定されないが、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。市販品としては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0079】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、50m2/g以上が好ましく、80m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上が更に好ましい。下限以上にすることで、良好な走行初期ウェットグリップ性能が得られる傾向がある。また、300m2/g以下が好ましく、150m2/g以下がより好ましく、130m2/g以下が更に好ましい。上限以下にすることで、カーボンブラックの良好な分散が得られる傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのDBP吸収量は、ASTM D2414-93に準拠して測定される。
【0080】
カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。これにより、紫外線劣化防止を得ることができ、良好な走行初期ウェットグリップ性能が得られる傾向がある。また、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。これにより、良好なカーボンブラック分散性、ウェットグリップ性能が得られる傾向がある。
【0081】
また、前記ゴム組成物の総量100質量%中の充填剤の含有率は、走行初期ウェットグリップ性能、引張特性の観点から、30質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましく、37質量%以上が更に好ましい。
【0082】
前記ゴム組成物には、良好な走行初期ウェットグリップ性能が得られるという点から、レジン(樹脂)を配合することが好ましい。
【0083】
レジンの軟化点は、-10~170℃であることが好ましい。上記範囲内にすることで、ジエン系ゴムとの相溶性が良好になる傾向がある。該軟化点は、0℃以上がより好ましく、10℃以上が更に好ましい。また、160℃以下がより好ましく、150℃以下が更に好ましく、140℃以下がより更に好ましい。
なお、本明細書において、軟化点とは、JIS K6220:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0084】
レジンのガラス転移温度(Tg)は、-40~100℃であることが好ましい。上記範囲内にすることで、ジエン系ゴムとの相溶性が良好になる傾向がある。該ガラス転移温度は、-30℃以上がより好ましい。
なお、本明細書において、Tgは、JIS K7121に準拠し、示差走査熱量計を用いて測定できる。
【0085】
レジンとしては、例えば、芳香族ビニル重合体、クマロンインデン樹脂、インデン樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。市販品としては、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、JXエネルギー(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)、東亞合成(株)等の製品を使用できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、芳香族ビニル重合体、クマロンインデン樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂が好ましい。
【0086】
上記芳香族ビニル重合体とは、α-メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂であり、スチレンの単独重合体、α-メチルスチレンの単独重合体、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体などが挙げられる。なかでも、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましい。
【0087】
上記クマロンインデン樹脂とは、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、クマロン及びインデンを含む樹脂であり、クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0088】
上記インデン樹脂とは、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、インデンを含む樹脂である。
【0089】
上記ロジン系樹脂(ロジン類)変性の有無によって分類可能であり、無変性ロジン(未変性ロジン)、ロジン変性体(ロジン誘導体)に分類できる。無変性ロジンとしては、トールロジン(別名トール油ロジン)、ガムロジン、ウッドロジン、不均斉化ロジン、重合ロジン、水素化ロジン、その他の化学的に修飾されたロジンなどが挙げられる。ロジン変性体は無変性ロジンの変性体であって、ロジンエステル類、不飽和カルボン酸変性ロジン類、不飽和カルボン酸変性ロジンエステル類、ロジンのアミド化合物、ロジンのアミン塩などが挙げられる。
【0090】
ロジン系樹脂は、カルボキシル基の含有量が過度に高くなく、適度な酸価を有していることが好ましい。具体的には、ロジン系樹脂の酸価は、通常、0mgKOH/gを超え、例えば、200mgKOH/g以下、好ましくは100mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、さらに好ましくは10mgKOH/g以下である。
なお、酸価は、後述する実施例に準拠して測定できる。なお、酸価が過度に高い場合などには、公知のエステル化処理によって、ロジン類のカルボキシル基を低減し、酸価を上記範囲に調整することも可能である。
【0091】
上記テルペン系樹脂としては、テルペン化合物を重合して得られるポリテルペン樹脂や、テルペン化合物と芳香族化合物とを重合して得られる芳香族変性テルペン樹脂などを使用できる。また、これらの水素添加物を使用することもできる。
【0092】
上記ポリテルペン樹脂は、テルペン化合物を重合して得られる樹脂である。該テルペン化合物は、(C5H8)nの組成で表される炭化水素及びその含酸素誘導体で、モノテルペン(C10H16)、セスキテルペン(C15H24)、ジテルペン(C20H32)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物であり、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオールなどが挙げられる。
【0093】
上記ポリテルペン樹脂としては、上述したテルペン化合物を原料とするピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、ピネン/リモネン樹脂などが挙げられる。なかでも、重合反応が容易である点、天然松脂が原料のため、安価であるという点から、ピネン樹脂が好ましい。ピネン樹脂は、通常、異性体の関係にあるα-ピネン及びβ-ピネンの両方を含んでいるが、含有する成分の違いにより、β-ピネンを主成分とするβ-ピネン樹脂と、α-ピネンを主成分とするα-ピネン樹脂とに分類される。
【0094】
上記芳香族変性テルペン樹脂としては、上記テルペン化合物及びフェノール系化合物を原料とするテルペンフェノール樹脂や、上記テルペン化合物及びスチレン系化合物を原料とするテルペンスチレン樹脂などが挙げられる。また、上記テルペン化合物、フェノール系化合物及びスチレン系化合物を原料とするテルペンフェノールスチレン樹脂を使用することもできる。なお、フェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。また、スチレン系化合物としては、スチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。
【0095】
前記ゴム組成物において、レジンの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、走行初期ウェットグリップ性能等の観点から、3質量部以上が好ましく、7質量部以上がより好ましく、9質量部以上が更に好ましい。該含有量は、引張特性等の観点から、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、37質量部以下が更に好ましい。
【0096】
前記ゴム組成物には、オイルを配合してもよい。オイルを配合することにより、加工性が改善され、タイヤに柔軟性を与えることができ、良好な走行初期ウェットグリップ性能を付与できる。
【0097】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物が挙げられる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。市販品としては、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、アロマ系プロセスオイルが好ましい。
【0098】
前記ゴム組成物において、オイルの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。また、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。上記範囲内とすることにより、良好な走行初期ウェットグリップ性能、引張特性が得られる傾向がある。
なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイルの量も含まれる。
【0099】
また、前記ゴム組成物において、前記レジン及びオイルの合計含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上である。また、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。上記範囲内とすることにより、走行初期ウェットグリップ性能が改善される傾向がある。
【0100】
前記ゴム組成物は、硫黄(硫黄加硫剤)及び/又は硫黄含有化合物を含む。
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。市販品としては、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0101】
前記ゴム組成物において、ジエン系ゴム100質量部に対する前記硫黄(硫黄加硫剤)の含有量は、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下、更に好ましくは2.5質量部以下である。上記範囲内にすることで、良好な走行初期ウェットグリップ性能や引張特性が得られる傾向がある。
【0102】
硫黄含有化合物としては、硫黄を含有する架橋性を有する化合物が使用可能であり、例えば、ウェットグリップ性能や引張特性、老化後引張特性の観点から、硫黄含有オリゴマーが好ましい。
【0103】
硫黄含有オリゴマーは、クロロホルム溶媒を用いたGPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が4000以上であることが好ましい。Mw4000以上の硫黄含有オリゴマーはゴム状を有しているため、SBR、BR等のジエン系ゴムとの親和性、混ざりが極めて良好であり、ジエン系ゴム中の分散性が非常に良好になる。よって、ウェットグリップ性能や、引張特性が改善される傾向がある。Mwの下限は、好ましくは8000以上、より好ましくは1万以上である。Mwの上限は特に限定されず、溶媒による分子切断のため、正しい分子量測定は困難であるが、SBRやNR並の分子量、すなわち、好ましくは200万以下、より好ましくは160万以下、更に好ましくは140万以下である。また、Mwの上限は、10万以下、8万以下、5万以下でも良い。
なお、Mwは、溶媒としてクロロホルムを用いたGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定をした場合のポリスチレン換算のMwであり、具体的には後述の実施例の方法で測定した値である。
【0104】
前記硫黄含有オリゴマーは、ウェットグリップ性能や引張特性の点から、硫黄元素の含有率が10~95質量%であることが好ましい。下限は、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましく、45質量%以上が特に好ましい。上限は、90質量%以下がより好ましく、75質量%以下が更に好ましい。
【0105】
前記硫黄含有オリゴマーは、下記式(I)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【化7】
(式中、Rは、ヘテロ原子を含んでもよい置換又は非置換の2価炭化水素基である。x(平均値)は、1.0~10.0である。)
【0106】
Rのヘテロ原子を含んでもよい置換又は非置換の2価炭化水素基は、直鎖、環状若しくは分枝のいずれの基でもよく、特に直鎖状の基が好ましい。ヘテロ原子としては特に限定されず、酸素、窒素等が挙げられる。該2価炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは12以下、特に好ましくは8以下である。
【0107】
該2価炭化水素基として、具体的には、置換又は非置換の炭素数1~18のアルキレン基、炭素数5~18のシクロアルキレン基、炭素数1~18のオキシアルキレン基を含むアルキレン基等が挙げられる。なかでも、置換又は非置換の炭素数1~18のアルキレン基、置換又は非置換の炭素数1~18のオキシアルキレン基を含むアルキレン基が好ましい。なお、Rの2価炭化水素基の置換基は特に限定されず、水酸基、フェニル基、ベンジル基などの官能基が挙げられる。
【0108】
置換又は非置換の炭素数1~18のアルキレン基の具体例としては、置換又は非置換のメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、1,2-プロピレン基などが挙げられる。
【0109】
置換又は非置換の炭素数1~18のオキシアルキレン基を含むアルキレン基としては、(CH2CH2O)pで示される基、(CH2)qで示される基及び(CH2O)rで示される基(pは1~5の整数、qは0~2の整数、rは0~2の整数である)が任意に結合したオキシアルキレン基を含むアルキレン基等が挙げられる。好ましい基としては、-CH2CH2OCH2CH2-、-(CH2CH2O)2CH2CH2-、-(CH2CH2O)3CH2CH2-、-(CH2CH2O)4CH2CH2-、-(CH2CH2O)5CH2CH2-、-(CH2CH2O)2CH2-、-CH2CH2OCH2OCH2CH2-等が挙げられる。
【0110】
xは、平均として1.0~10.0であり、好ましくは2.0以上、より好ましくは3.0以上、更に好ましくは3.5以上であり、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.0以下、更に好ましくは4.5以下である。前記式(I)で示される繰り返し単位の数n(平均値)は、好ましくは10以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは35以上であり、好ましくは1000以下、より好ましくは400以下、更に好ましくは110以下である。
【0111】
前記硫黄含有オリゴマーは、極性パラメーターSP値が12.5以下であることが好ましい。この場合、ジエン系ポリマー中の分散性が高まり、前記性能バランスが改善される。該SP値の上限は、好ましくは12.0以下、より好ましくは11.5以下である。下限は特に限定されないが、好ましくは7.0以上、より好ましくは8.0以上、更に好ましくは9.0以上、特に好ましくは10.0以上、最も好ましくは10.5以上である。
なお、本明細書において、極性パラメーターSP値は、化合物の構造に基づいてHoy法によって算出される溶解度パラメーター(Solubility Parameter)を意味する。Hoy法とは、例えば、K.L.Hoy “Table of Solubility Parameters”,Solvent and Coatings Materials Research and Development Department,Union Carbites Corp.(1985)に記載された計算方法である。
【0112】
前記硫黄含有オリゴマーは、下記式(I-1)で表されるジハロゲン化合物及び下記式(I-2)で表されるアルカリ金属多硫化物を反応して得られるものであることが好ましい。
【化8】
(式中、Hは、同一又は異なってハロゲン原子である。Rは、ヘテロ原子を含んでもよい置換又は非置換の2価炭化水素基である。)
【化9】
(式中、Mは、アルカリ金属である。x(平均値)は、1.0~10.0である。)
【0113】
前記式(I-1)において、Hのハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、なかでも、塩素、臭素が好ましい。Rのヘテロ原子を含んでもよい置換又は非置換の2価炭化水素基は、前記と同様である。前記ジハロゲン化化合物は、2,2’-ジクロロエチルエーテル(ビス(2-クロロエチル)エーテル)であることが好ましい。
【0114】
前記式(I-2)において、Mのアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどが挙げられる。x(平均値)は、前記と同様である。
【0115】
例えば、前記硫黄含有オリゴマーは、(1)式(I-1)のジハロゲン化合物及び式(I-2)のアルカリ金属多硫化物を、親水性溶媒及び疎水性溶媒の非相溶混合溶媒中で2相系で反応させる製法、(2)式(I-2)のアルカリ金属多硫化物の溶液中に、式(I-1)のジハロゲン化合物を、該ジハロゲン化合物が該アルカリ金属多硫化物と界面で反応を生ずるような速度で添加して反応させる製法、等により調製可能である。
【0116】
前記(1)、(2)等の製法において、前記ジハロゲン化合物及び前記アルカリ金属多硫化物の反応は当量反応であり、前記ジハロゲン化合物:前記アルカリ金属多硫化物を0.95:1.0~1.0:0.95(当量比)で反応させることが好ましい。反応温度は、好ましくは50~120℃、より好ましくは70~100℃である。
【0117】
親水性溶媒、疎水性溶媒(親油性溶媒)は特に限定されず、反応系において非相溶で2相を形成する任意の溶媒を使用できる。親水性溶媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類;等が挙げられる。疎水性溶媒としては、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ジオキサン、ジブチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;等が挙げられる。親水性溶媒、疎水性溶媒は、それぞれ単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0118】
前記(1)の製法の場合、溶媒として、水、エタノール及びトルエンを含むものを用いることが好ましい。前記(2)の製法の場合、式(I-2)で表されるアルカリ金属多硫化物と、水及び/又はエタノールを含む溶媒とを混合したものに、式(I-1)で表されるジハロゲン化合物とトルエンとを混合したものを適切な速度で滴下することが好ましく、溶媒はジハロゲン化合物に応じて適宜変更すれば良い。
【0119】
前記ジハロゲン化合物及び前記アルカリ金属多硫化物の反応時に、触媒は特段必要ではないが、必要に応じて添加しても良い。触媒としては、4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、クラウンエーテルなどを使用できる。具体的には、(CH3)4N+Cl-,(CH3)4N+Br-,(C4H9)4N+Cl-,(C4H9)4N+Br-,C12H25N+(CH3)3Br-,(C4H9)4P+Br-,CH3P+(C6H5)3I-,C16H33P+(C4H9)3Br-,15-crown-5,18-crown-6,Benzo-18-crown-6等が挙げられる。
【0120】
なお、(1)クロロホルム溶媒を用いたGPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量が4000以上の硫黄含有オリゴマー、(2)更に硫黄元素の含有率が10~95質量%である硫黄含有オリゴマー、(3)更に上記式(I)で表される繰り返し単位を有する硫黄含有オリゴマー、(4)更にSP値が12.5以下である硫黄含有オリゴマーも、前述の製法で調製可能である。
【0121】
前記ゴム組成物において、ジエン系ゴム100質量部に対する前記硫黄含有オリゴマーの含有量は、好ましくは0.4質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは8.0質量部以下、更に好ましくは6.0質量部以下である。上記範囲内にすることで、良好な走行初期ウェットグリップ性能や引張特性が得られる傾向がある。
【0122】
また、前記ゴム組成物において、ジエン系ゴム100質量部に対する前記硫黄(硫黄加硫剤)及び硫黄含有オリゴマーの合計含有量は、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.7質量部以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは8.0質量部以下、更に好ましくは6.0質量部以下である。上記範囲内にすることで、良好な走行初期ウェットグリップ性能や引張特性が得られる傾向がある。
【0123】
なお、前記ゴム組成物には、前記硫黄、硫黄含有オリゴマー以外に、ハイブリッド架橋剤等の他の架橋剤を更に配合してもよい。
【0124】
前記ゴム組成物は、走行初期ウェットグリップ性能、引張特性の観点から、加硫促進剤を含むことが好ましい。
【0125】
加硫促進剤は、前記硫黄含有オリゴマーが硫黄の均一分散し易いため、特に種類は限定されない。例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(DM(2,2’-ジベンゾチアゾリルジスルフィド))、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。
【0126】
前記ゴム組成物において、加硫促進剤の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.7質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。上記数値範囲内であると、良好な走行初期ウェットグリップ性能、引張特性が得られる傾向がある。
【0127】
上記ゴム組成物は、ワックスを含むことが好ましい。ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックス等が挙げられる。市販品として、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、石油系ワックスが好ましく、パラフィンワックスがより好ましい。
【0128】
ワックスの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内とすることにより、良好な走行初期ウェットグリップ性能、引張特性が得られる傾向がある。
【0129】
前記ゴム組成物は、老化防止剤を含有することが好ましい。
老化防止剤としては特に限定されず、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。市販品としては、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、耐オゾン性(オゾンクラック性能)が良好であり、良好な走行初期ウェットグリップ性能、引張特性が得られるという理由から、p-フェニレンジアミン系老化防止剤(より好ましくは、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)が好ましい。
【0130】
前記ゴム組成物において、老化防止剤の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。また、好ましくは7質量部以下、より好ましくは6質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。上記範囲内とすることにより、良好な走行初期ウェットグリップ性能、引張特性が得られる傾向がある。
【0131】
前記ゴム組成物は、脂肪酸、特にステアリン酸を含むことが好ましい。
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、NOF社、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
【0132】
前記ゴム組成物において、脂肪酸の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内とすることにより、良好な走行初期ウェットグリップ性能、引張特性が得られる傾向がある。
【0133】
前記ゴム組成物は、酸化亜鉛を含むことが好ましい。
酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0134】
前記ゴム組成物において、酸化亜鉛の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。上記範囲内とすることにより、良好な走行初期ウェットグリップ性能、引張特性が得られる傾向がある。
【0135】
前記ゴム組成物には、前記成分の他、タイヤ工業において一般的に用いられている添加剤を配合でき、可塑剤、滑剤などの加工助剤;界面活性剤;等を例示できる。
【0136】
前記ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0137】
混練条件としては、架橋剤(加硫剤)及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常100~180℃、好ましくは120~170℃である。加硫剤、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常120℃以下、好ましくは85~110℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫などの加硫処理が施される。加硫温度としては、通常140~190℃、好ましくは150~185℃である。
【0138】
本発明のタイヤ(空気入りタイヤ等)は、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、上記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッド(単層トレッド、多層トレッドのキャップトレッド等の路面に接触する部材)等の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0139】
前記タイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック、バスなどの重荷重用タイヤ、ライトトラック用タイヤ、二輪自動車用タイヤ、レース用タイヤ(高性能タイヤ)などに使用可能である。特に、レース用タイヤに好適である。
【実施例】
【0140】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0141】
<末端変性剤の作製>
窒素雰囲気下、250mlメスフラスコに3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(アヅマックス(株)製)を20.8g入れ、さらに無水ヘキサン(関東化学(株)製)を加え、全量を250mlにして作製した。
【0142】
<共重合体製造例1>
充分に窒素置換した30L耐圧容器にシクロヘキサン(関東化学(株)製)を18L、ブタジエン(高千穂商事(株)製)を2000g、ジエチルエーテル(関東化学(株)製)を53mmol加え、60℃に昇温した。次に、ブチルリチウム(関東化学(株)製)を16.6mL加えた後、3時間撹拌した。次に0.4mol/Lの四塩化ケイ素/ヘキサン溶液を12ml加え、30分撹拌を行った。次に、上記末端変性剤を13mL追加し30分間撹拌を行った。反応溶液に2,6-tert-ブチル-p-クレゾール(大内新興化学工業(株)製)0.2gを溶かしたメタノール(関東化学(株)製)2mLを添加後、反応溶液を18Lのメタノールが入ったステンレス容器に入れて凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、変性BRを得た。
【0143】
<共重合体製造例2>
充分に窒素置換した30L耐圧容器にn-ヘキサンを18L、スチレン(関東化学(株)製)を540g、ブタジエンを1460g、テトラメチルエチレンジアミンを17mmolを加え、40℃に昇温した。次に0.4mol/Lの四塩化ケイ素/ヘキサン溶液を3.5ml加え、30分撹拌を行った。次に、ブチルリチウムを10.5mL加えた後、50℃に昇温させ3時間撹拌した。次に、上記末端変性剤を30mL追加し30分間撹拌を行った。反応溶液に2,6-tert-ブチル-p-クレゾール(大内新興化学工業(株)製)0.2gを溶かしたメタノール(関東化学(株)製)2mLを添加後、反応溶液を18Lのメタノールが入ったステンレス容器に入れて凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、変性SBRを得た。
【0144】
(製造例1:硫黄含有オリゴマー1(ゴム状)の合成)
窒素ガス・アルゴンガス等の不活性ガスにより完全に置換したフラスコに、30%多硫化ソーダ水溶液104.4g(0.180mol)、イオン交換水150g、エタノール150gを取り撹拌、90℃まで昇温後、トルエン100gにて希釈したビス(2-クロロエチル)エーテル25.0g(0.175mol)を2時間かけて滴下し、更に同温度で3時間反応して有機層を分離した後、90℃にて真空濃縮・乾燥して目的オリゴマー27.3gを得た。
得られた硫黄含有オリゴマー1(ゴム状)は、Mw2.1万、硫黄元素の含有率55質量%、上記式(I)の繰り返し単位(R=(CH2)2O(CH2)2、x(平均値)=4.0、SP値11.1)であった。
【0145】
(製造例2:硫黄含有オリゴマー2(液状)の合成)
窒素ガス・アルゴンガス等の不活性ガスにより完全に置換したフラスコに、30%多硫化ソーダ水溶液104.4g(0.180mol)、イオン交換水150g、更に反応触媒としてテトラブチルアンモニウムクロリド(TBAB)1.25gを取り撹拌、90℃まで昇温後、トルエン100gにて希釈したビス(2-クロロエチル)エーテル25.0g(0.175mol)を2時間かけて滴下し、更に同温度で3時間反応して有機層を分離した後、90℃にて真空濃縮・乾燥して目的オリゴマー25.5gを得た。
得られた硫黄含有オリゴマー2(液状)は、Mw2670、硫黄元素の含有率55質量%、上記式(I)の繰り返し単位(R=(CH2)2O(CH2)2、x(平均値)=4.0、SP値11.1)であった。
【0146】
(製造例3:硫黄含有オリゴマー3(液状)の合成)
窒素ガス・アルゴンガス等の不活性ガスにより完全に置換したフラスコに、30%多硫化ソーダ水溶液104.4g(0.180mol)、イオン交換水150gを取り撹拌、90℃まで昇温後、トルエン100gにて希釈したビス(2-クロロエチル)エーテル25.0g(0.175mol)を2時間かけて滴下し、更に同温度で3時間反応して有機層を分離した後、90℃にて真空濃縮・乾燥して目的オリゴマー25.0gを得た。
得られた硫黄含有オリゴマー3(液状)は、Mw1250、硫黄元素の含有率55質量%、上記式(I)の繰り返し単位(R=(CH2)2O(CH2)2、x(平均値)=4.0、SP値11.1)であった。
【0147】
(製造例3:硫黄含有オリゴマー4(ゴム状)の合成)
窒素ガス・アルゴンガス等の不活性ガスにより完全に置換したフラスコに、30%多硫化ソーダ水溶液104.4g(0.180mol)、イオン交換水150gを取り撹拌、90℃まで昇温後、トルエン100gにて希釈した1,6-ジクロロヘキサン27.13g(0.175mol)を2時間かけて滴下し、更に同温度で3時間反応して有機層を分離した後、90℃にて真空濃縮・乾燥して目的オリゴマー28.0gを得た。
得られた硫黄含有オリゴマー4(ゴム状)は、Mw1.6万、硫黄元素の含有率質量58%、上記式(I)の繰り返し単位(R=-(CH2)5-、x(平均値)=4.0、SP値11.1)であった。
【0148】
なお、実施例で用いる硫黄含有オリゴマー1の構造は、下記式(化10)で示される繰り返し単位を有する化合物であると推察される。
【化10】
【0149】
硫黄含有オリゴマー2~3の構造は、上記式(化10)、下記式(化11)で示される化合物の混合物(化10及び/又は化11の混合物)であると推察される。
【化11】
【0150】
硫黄含有オリゴマー4の構造は、下記式(化12)で示される繰り返し単位を有する化合物であると推察される。
【化12】
【0151】
ポリマーの分析は、以下の方法で行った。
(構造同定)
ポリマーの構造同定(スチレン含量、ビニル含量)は、日本電子(株)製JNM-ECAシリーズの装置を用いて行った。測定は、ポリマー0.1gを15mlのトルエンに溶解させ、30mlのメタノール中にゆっくり注ぎ込んで再沈殿させたものを、減圧乾燥後に測定した。
【0152】
(重量平均分子量Mwの測定)
ポリマーの重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算値として求めた。
【0153】
硫黄含有オリゴマーのMw、構造同定は、以下の方法で行った。
(重量平均分子量(Mw)、構造同定)
下記装置、条件でゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定した測定値を基に標準ポリスチレン換算によりMwを求めた。
また、GPC測定により得られたクロマトグラムにおける各ピーク部分を分取し、この分取した各画分をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により分析することにより、各ピーク部分の分子量を求めた。
更に、硫黄含有オリゴマーについて13CNMRにより分析を行った。
そして、13CNMRによる分析結果と、GPCにより測定した重量平均分子量と、GC/MSにより測定した各ピーク部分の分子量とに基づいて、硫黄含有オリゴマーの構造を同定した。
(1)前処理方法
サンプルを溶媒にて溶解後、0.45μmメンブランフィルターろ過したものを測定溶液とした。
(2)装置・測定条件
装置:東ソー(株)製GPC-8000シリーズ
カラム:東ソー(株)製のTSKGel SuperAWM-H×2+SuperAW2500×1(6.0mm I.D.×150mm×3本)
溶媒:クロロホルム
流量:0.6mL/min.
検出器:RI検出器
カラム温度:40℃
注入量:20μL
分子量標準:標準ポリスチレン
【0154】
ロジン系エステル樹脂の酸価は、以下の方法で行った。
(酸価(mgKOH/g)測定)
JIS K 5902(2006年)に準拠し、サンプルを化学天秤で0.5~0.7g、100mlマイヤーに量り取り、中性溶剤(トルエン/メタノール=2:1)に完全に溶解させるまでよく振った後、1%フェノールフタレインを約5滴加え、N/5KOHにて滴定することにより、酸価を求めた。
なお、滴定の終点は、測定液が、微紅色となり30秒以内に消えなかった点とした。
【0155】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
シリカ用変性SBR1:共重合体製造例2で作製した変性SBR(アルコキシシリル変性、結合スチレン量27質量%、ビニル含量53モル%、Mwは40万)
シリカ用変性SBR2:日本ゼオン社製NS616(非油展、アミン変性、スチレン量21質量%、ビニル量66質量%、Mw24万)
ハイシスBR1:ランクセス社製のBUNA-CB25(Nd系触媒を用いて合成したBR、シス含量96モル%)
シリカ用ローシス変性BR2:共重合体製造例1で作製した変性BR(ビニル含量13質量%、シス含量38質量%、トランス含量50質量%、Mw/Mn1.19、Mw42万)
【0156】
カーボンブラック:キャボットジャパン製のショウブラックN220(N2SA114m2/g)
シリカ:デグッサ社製のUltrasil VN3(N2SA175m2/g)
シランカップリング剤:Evonik社製のSi75(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
【0157】
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355(パラフィンワックス、融点70℃、ノルマルアルカン含有量85質量%)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
プロセスオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH-24(アロマ系プロセスオイル)
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種
【0158】
TO-125:ヤスハラケミカル(株)製のYSレジンTO-125(芳香族変性テルペン樹脂、軟化点125℃、Tg64℃)
T160:ヤスハラケミカル(株)製のYSポリスターT160(テルペンフェノール樹脂、軟化点160℃、Tg100℃)
Sylvares4401:アリゾナケミカル社製のSylvares4401(α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、軟化点85℃、Tg43℃)
C10:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C10(液状クマロンインデン樹脂、軟化点10℃、Tg-30℃)
ロジンP:ハリマ化成製のハリスターP(ロジンエステル樹脂、軟化点102℃、酸価9mgKOH/g)
ロジンTF:ハリマ化成(株)製のハリスターTF(ロジンエステル樹脂、軟化点80℃、酸価10mgKOH/g)
【0159】
硫黄含有オリゴマー1:上記硫黄含有オリゴマー製造例1
硫黄含有オリゴマー2(液状):上記硫黄含有オリゴマー製造例2
硫黄含有オリゴマー3(液状):上記硫黄含有オリゴマー製造例3
硫黄含有オリゴマー4:上記硫黄含有オリゴマー製造例4
【0160】
ハイブリッド架橋剤1:フレキシス社製のPERKALINK900(1,3-ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン)
ハイブリッド架橋剤2:ランクセス社製のVulcuren VP KA9188(1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)
硫黄:細井化学工業(株)製の5%オイル含有粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、融点103℃)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’-ジフェニルグアニジン、融点145℃)
【0161】
(実施例及び比較例)
表1に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃の条件下で10分間プレス加硫して試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を得た。なお、ゴム試験片評価については、試験用タイヤのトレッド部からゴムを切り出して行った。
【0162】
得られた試験用タイヤ、ゴム試験片を下記により評価した。結果を表1に示す。
【0163】
(初期ウェットグリップ性能)
上記試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ウェットアスファルト路面のテストコースにて10周の実車走行を行った。その際に2周目おける操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが評価し、比較例1を100として指数表示をした(初期ウェットグリップ性能指数)。数値が大きいほど初期ウェットグリップ性能が高いことを示す。指数値が105以上の場合に良好であると判断した。
【0164】
(EB、M300、M100)
JIS K6251:2010に基づいて、上記試験用タイヤのトレッドから切り出したゴム試験片から作成したダンベル状6号形試験片を用いて、常温(25℃)下において引張試験を実施して、破断時伸び(EB)(%)、300%伸張時応力(M300)(MPa)、100%伸張時応力(M100)(MPa)を測定した。
【0165】
【0166】
表1より、ジエン系ゴムとシリカと硫黄及び/又は硫黄含有化合物とを含み、かつ前記式(1)~(3)規定の所定のEB/M300、M100、EBを有するトレッド用ゴム組成物は、走行初期ウェットグリップ性能に優れていた。同時に、良好な引張特性、耐カットチッピング性能、操縦安定性を有していた。
【0167】
高シリカほどEB/M300が高い傾向は有るが、M100が低下する為、初期ウェットグリップ性能はそれほど向上しない(実施例6、7)。なぜなら、ポリマー成分が減り、M100が低下する為である。硫黄含有オリゴマー1、2、TO-125は、M300を小さくする効果、すなわち、架橋を均一化する効果があり、それに連れ、EB/M300=70付近にできる(実施例1、2、5、6)。