(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】転炉内スラグの流出防止方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/46 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
C21C5/46 103D
(21)【出願番号】P 2019002326
(22)【出願日】2019-01-10
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】正木 陽介
(72)【発明者】
【氏名】伊青 裕平
(72)【発明者】
【氏名】山口 敦惟
(72)【発明者】
【氏名】土岐 和也
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-0887132(KR,B1)
【文献】特開2004-238698(JP,A)
【文献】特開平08-073918(JP,A)
【文献】実公平02-048416(JP,Y2)
【文献】特開2018-184645(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2003-0000565(KR,A)
【文献】特開2000-160225(JP,A)
【文献】特開平11-209816(JP,A)
【文献】実開昭56-105377(JP,U)
【文献】特開2005-307344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/00
C21C 5/28-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉の出湯孔から溶鉄を取り出す際に、スラグカット栓を用いて転炉内スラグの流出を防止する方法であって、
予め、出湯流にスラグの混在が確認されるまでの、出湯開始からの時間を計測してX(秒)とし、
出湯流が旋回を開始して以降、かつ、出湯開始から前記X(秒)が経過する前に、スラグカット栓を前記出湯孔の直上に投入すること
により、出湯時間合計の1/3経過時にはスラグカット栓の投入が完了していることを特徴とする転炉内スラグの流出防止方法。
【請求項2】
転炉の出湯孔から溶鉄を取り出す際に、スラグカット栓を用いて転炉内スラグの流出を防止する方法であって、
予め、出湯流にスラグの混在が確認されるまでの、出湯開始からの時間を計測してX(秒)とするとともに、出湯流が旋回を開始するまでの、出湯開始からの時間を計測してY(秒)とし、
出湯開始から前記Y(秒)以降、かつ、出湯開始から前記X(秒)が経過する前に、スラグカット栓を前記出湯孔の直上に投入すること
により、出湯時間合計の1/3経過時にはスラグカット栓の投入が完了していることを特徴とする転炉内スラグの流出防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉内スラグの流出防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転炉精錬においては、溶銑、あるいは予備処理を行った溶鉄を転炉内に装入し、上吹きランスあるいは底吹きを併用して酸素ガスを供給して酸化精錬を行い、脱炭、脱りんあるいはその両方の精錬を行う。精錬完了後において、転炉内には精錬を終わった溶鉄(溶鋼)とともに、溶融スラグが形成され、溶融スラグは溶鉄の上部に浮上している。精錬は酸化精錬であり、溶融スラグは酸化性の高い(酸化鉄を多く含有する)スラグである。また脱りん精錬を行う場合は、脱りん精錬の結果として溶融スラグ中のリン含有量が高くなっている。
【0003】
転炉の側面には出湯孔が設けられている。主に精錬が完了した溶鋼を払い出すためのものであり、通常は出鋼孔と呼ばれる。精錬完了後、転炉を傾動することにより、出湯孔を経由して溶鉄を下方の取鍋へと払い出す(以下「出湯」という。)。通常は出鋼と呼ばれる。出湯の末期、転炉内の溶鉄が少なくなってくると、溶鉄層の上に形成された溶融スラグが溶鉄に巻き込まれ、溶鉄とともに取鍋内に排出される。上述のように、転炉内の溶融スラグは酸化性が高く、かつ有害不純物であるりんを高い濃度で含有している。従って、取鍋内に溶融スラグが大量に流出すると、スラグの酸化性が高いために鋼の清浄度が損なわれ、またスラグ中のりんが溶鉄に戻る、いわゆる復りん現象が起こるため、好ましくない。
【0004】
転炉からの出湯時にスラグ流出を防止するための代表的な技術として、スラグカットボールが用いられている。スラグカットボールは、直径が出湯孔よりも大きく、スラグと溶鉄の中間比重を持ち、出湯時に溶鉄が出終わり溶融スラグが出始める時期に該スラグカットボールで出湯孔に栓をするものである(非特許文献1参照)。特許文献1に記載のように、この目的を達成するには、ボールの投入位置をほぼ出湯孔の直上とし、かつ出湯末期に投入することが必要とされている。
【0005】
上記スラグカットボールを用いる場合、転炉内の溶湯表面でボールが浮遊する位置が一定でないため、出湯孔の閉止が不安定であるという問題があった。この問題を解決するため、スラグダーツが提案されている。スラグダーツは、特許文献2に記載のように、頭部とこれに連接される足部とを有する。出鋼中、足部が溶鋼の流れを受けて、スラグダーツ全体が転炉の出鋼口に引き寄せられ、出鋼口の上方に待機した状態になる。こうして、安定して出鋼口の閉止ができるようになった。スラグダーツの使用に際しては、特許文献2に記載のように、転炉からの出鋼末期にスラグ保持閉止具(スラグダーツ)を転炉内に投入する。
【0006】
特許文献3には、支部と、この支部の下方に延出した芯金の途中に取り付けた中位ストッパー部と、この中位ストッパーの下方に出鋼孔長さより十分長い距離を隔てて芯金に取り付けた出鋼孔脱落防止部とを有し、中位ストッパー部及び出鋼孔脱落防止部とこれらを繋ぐ芯金とを耐火物で被覆したスラグカット用ストッパーを転炉の出鋼孔に転炉内面側から挿入し、出鋼末期、溶鋼の比重より軽くスラグの比重より重くなるように調整した中位ストッパーが溶鋼量の減少に伴い下降して出鋼孔を閉塞することを利用して、スラグの流出を防止する方法が開示されている。スラグカット用ストッパーは、転炉へ溶銑を注入する前に出鋼孔へ装着する。
【0007】
特許文献4には、溶鋼上のスラグにプラスチックを添加してプラスチックをスラグの有する熱によって分解させ、プラスチック分解時の吸熱反応を利用してスラグを冷却し、スラグを固化させる或いはスラグの流出が妨げられるようにスラグの粘性を高める、スラグの流出防止方法が開示されている。
【0008】
特許文献5には、ストッパーボール(スラグカットボール)を、投入シュートを用いて炉内に投入するための、溶融金属処理時の滓流出防止用閉塞材投入装置が開示されている。
【0009】
スラグカットボール、スラグダーツ、スラグカット用ストッパーを用いない場合、及び特許文献4のプラスチックを添加する場合において、出湯末期、出湯孔からの流出が溶鉄から溶融スラグに変化したのを目視で確認し、直ちに転炉を傾転して元の直立位置に戻すことにより、スラグの流出を停止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】実公平2-48416号公報
【文献】特開2000-160225号公報
【文献】特開平11-241116号公報
【文献】特開2006-152370号公報
【文献】特公昭52-32604号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】第3版鉄鋼便覧 II 製銑・製鋼 第478-479頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
転炉内スラグの流出防止方法として従来から用いられている、スラグカットボールやスラグダーツを含めて、出湯中に転炉内に投入し、溶湯に浮遊し、出湯末期にスラグ流出を防止する係止具を、以下総称して「スラグカット栓」と呼ぶ。出鋼末期にスラグカット栓を転炉内に投入することにより、スラグカット栓を用いずに転炉の傾転でスラグの流出を防止する場合に比較し、取鍋内に流出するスラグの流出を低減することは可能である。しかし、取鍋へのスラグ流出量の低減は決して十分なものではなかった。また、スラグカット栓を出湯孔の直上に投入しても、投入後にスラグカット栓が浮遊して出湯孔の直上位置からずれてしまい、出湯終了時に出湯孔を閉止できない場合があった。
【0013】
特許文献3に記載のスラグカット用ストッパーは、複雑な形状をしており高価であり、溶鉄装入前の転炉出湯孔に装着することは容易ではない。また特許文献4に記載された、溶鋼上のスラグにプラスチックを添加する方法では、冷却されるのがスラグの表層のみであるため溶鋼とスラグ界面近傍のスラグ流出を抑制する効果は小さく、また、プラスチックの熱分解により発生するガスが傾動中の炉口から噴出するため、作業環境を悪化させる課題があった。
【0014】
本発明は、スラグカット栓を用いた転炉内スラグの流出防止方法において、取鍋へのスラグ流出量を十分に低減することができ、かつ出湯終了時に出湯孔を確実に閉止することのできる、転炉内スラグの流出防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]転炉の出湯孔から溶鉄を取り出す際に、スラグカット栓を用いて転炉内スラグの流出を防止する方法であって、
予め、出湯流にスラグの混在が確認されるまでの、出湯開始からの時間を計測してX(秒)とし、
出湯流が旋回を開始して以降、かつ、出湯開始から前記X(秒)が経過する前に、スラグカット栓を前記出湯孔の直上に投入することにより、出湯時間合計の1/3経過時にはスラグカット栓の投入が完了していることを特徴とする転炉内スラグの流出防止方法。
[2]転炉の出湯孔から溶鉄を取り出す際に、スラグカット栓を用いて転炉内スラグの流出を防止する方法であって、
予め、出湯流にスラグの混在が確認されるまでの、出湯開始からの時間を計測してX(秒)とするとともに、出湯流が旋回を開始するまでの、出湯開始からの時間を計測してY(秒)とし、
出湯開始から前記Y(秒)以降、かつ、出湯開始から前記X(秒)が経過する前に、スラグカット栓を前記出湯孔の直上に投入することにより、出湯時間合計の1/3経過時にはスラグカット栓の投入が完了していることを特徴とする転炉内スラグの流出防止方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、転炉の出湯孔から溶鉄を取り出す際に、スラグカット栓を用いて転炉内スラグの流出を防止する方法において、出湯流が旋回を開始して以降、かつ、出湯流にスラグの混在が確認される以前において、スラグカット栓を前記出湯孔の直上に投入することにより、転炉から取鍋へのスラグの流出量を大幅に抑制し、かつ、出湯終了時に確実に出湯孔をスラグカット栓で閉止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、転炉を用いて溶鋼を精錬し、出鋼孔から溶鋼を出鋼する場合を例にとって説明を行う。転炉で脱りん精錬を行って溶鉄を形成し、出湯孔から当該溶鉄を出湯する場合についても同様に適用することができる。
【0019】
転炉出鋼時に、出鋼開始後の時間の経過とともに、転炉内の浴の深さは低減し、深さが浅くなるにつれて出鋼孔の直上には溶鋼-溶融スラグ界面の窪みが発生する。窪みの深さが深くなるにつれ、溶鋼上に浮いているスラグが出鋼流に巻き込まれて出鋼孔から流出することにより、取鍋へのスラグ流出が進行すると考えられる。さらに出鋼完了の末期には、溶鋼の流出が完了する直前から、スラグの流出が著しく起こることが知られている。スラグカット栓は、比重を溶鋼とスラグの中間に調整した耐火物製の物体(スラグカットボールは球体)であり、転炉内に投入すると、溶鋼-スラグ界面に留まる。スラグカット栓は、出鋼中においてもスラグが出鋼孔から流出する現象を抑止するとともに、出鋼完了時に出鋼孔を塞ぎ、出鋼末期のスラグ流出を抑制する。
【0020】
しかしながら、スラグカット栓使用時の課題は、スラグカットの成功率(出鋼終了時にスラグカット栓が出鋼孔を閉止する成功率)が低く、スラグカットが成功したとしても取鍋へのスラグ流出量が多いことであった。
【0021】
そこで、本発明者らは転炉出鋼現象を模擬する水モデル実験を行った。アクリル製の透明容器を準備し、容器の中心底部に排水ノズルを接続する。容器内に水を収容し、水面にトレーサー(樹脂粒)を浮かべる。排水の途中で排水ノズルの直上にボール(スチロール製)を投入する。そして、排水の進行によって容器内の水の深さが低減するに応じて、排水粒の挙動と、水面に浮かべたトレーサー(樹脂粒)流出の挙動を観察した。
【0022】
その結果、以下のことがわかった。
ボールを投入せずに排水流を観察すると、水面の低下とともに、まず排水口直上の水面に窪みが生じ、さらに水面が低下すると窪みの深さは深くなり、やがて窪みの底部は排水ノズルの高さに到達し、その時点以降、排水ノズルからのトレーサーの流出が開始した。窪みが生じ始めてから窪み深さが排水ノズルの高さに到達するまでの途中において、排水ノズル付近の排水流に旋回流が観察される。容器内の液深さが浅くなると、旋回流の有無にかかわらず、排水ノズルへの吸引流に起因して、排水ノズル直上の水面に窪みが発生する。旋回流が形成されると、旋回流による遠心力も加味されて、窪みはさらに深くなるものと推定される。
【0023】
次に、排水の途中でボールを投入し、排水流の観察を行った。排水口直上に窪みが発生する前にボールを投入すると、ボールはノズル軸外を漂ってしまい、流出抑制に寄与しなかった。一方、窪みがある程度の深さになった以降であって、排水ノズル付近に旋回流が観察された以降(窪み底部がノズル高さに到達する前)にボールを投入すると、ボールが回転しながら窪み内に留まり、排水へのトレーサー流出が低減し、最終的にボールが確実に排水ノズルに嵌り、流出抑制に寄与した。一方、窪みの最深部が排水ノズルの高さに到達した後にボールを投入すると、トレーサーの流出は既に始まってしまった。したがって、ボールの投入タイミングを、排水ノズル付近に旋回流が発生してから窪みの最深部が排水ノズルに到達するまでに制御することが、スラグカットの成功率を高めるポイントであることを見出した。
【0024】
次に、実際の転炉からの溶鋼の出鋼時に、現象の観察を行った。転炉の炉容は100トン転炉であり、出鋼孔の直径は125mmである。
【0025】
出鋼中に転炉内の溶湯表面を観察すると、当然ながら溶融スラグの表面のみが観察され、溶鋼とスラグの界面の状況を観察することはできない。そして、溶融スラグ表面の観察からは、溶鋼-スラグ界面における窪みの発生も、溶鋼中の旋回流も観察することはできない。
【0026】
そこで、出鋼孔から取鍋への出鋼流を観察した。出鋼開始時には、出鋼流の旋回も出鋼流中のスラグ混在も観察されない。出鋼開始からの時間が経過すると、出鋼流が旋回し始め、旋回しつつ流下する現象が観察され、以降、旋回流が継続した。出鋼流の旋回周期は1秒程度であった。さらに、旋回流発生から時間が経過すると、出鋼流中にスラグが混在する現象が観察され、以降、出鋼末期に出鋼流から大量にスラグが流出するまで、出鋼流中のスラグ混在は継続した。
【0027】
前記水モデル実験での観察結果と、上記転炉からの出鋼流の観察結果との対比によると、出鋼流に旋回流が観察された以降にスラグカット栓を投入すれば、スラグカット栓を出鋼孔直上に留まらせることができ、かつ出鋼流にスラグの混在が発生する前にスラグカット栓を投入すれば、出鋼流とともに流出するスラグの流出を大幅に防止できるのではないかと着想した。
【0028】
出鋼流にスラグの混在が発生する前にスラグカット栓を投入するためには、スラグの混在が発生する時期を予め知っておく必要がある。そこで、合計100ヒートにわたって出鋼流を観察した結果、出鋼開始からスラグの混在が開始するまでの所要時間は、再現性良くほぼ同一時間であることが確認できた。そこで、予め出鋼開始からスラグの混在が開始するまでの所要時間を計測してその平均値を「X秒」とする。
【0029】
次に、スラグカット栓としてスラグカットボールを準備し、出鋼中においてスラグカット栓を溶融物表面に投入する時期を種々変更し、スラグカット効果の比較を行った。
【0030】
スラグカットボールとして、主要組成が、質量%で、Cr2O3:40%、Fe2O3:25%、MgO:10%、SiO2:10%、Al2O3:10%、残部:不純物である耐火物を用い、内部に鉄芯を装着し、直径220mm、重量26kgのスラグカットボールを用いた。スラグカットボールの比重は4.67であり、溶鋼とスラグそれぞれの比重の中間の比重を有している。出鋼開始前に、スラグカットボールの投入シュートを転炉の炉口から炉内に装入する。出鋼中の所定のタイミングで、上記のスラグカットボールを、出鋼孔の直上付近に存在する、液相状態の溶融スラグに向けてシュートから転がして投入した。スラグカットボールの投下開始指令から、スラグカットボールがシュートを転がって溶融物表面に到着(投入)するまでに所要時間(T秒)を必要とする。以下、投下開始指令発出時を「投下」と呼び、実際にスラグカットボールが溶融物に到着する時点を「投入」と呼ぶ。
【0031】
使用回数が1500回以上である転炉で、溶銑100tonを脱炭吹錬した。吹錬終了後の溶融スラグは、塩基度(CaO/SiO2)が3.5であり、その容量は、71kg/溶鋼tonであり、溶鋼の温度は、1650℃であった。吹錬終了後、炉体を傾動して出鋼を開始する。出鋼開始から出鋼終了までの所要時間(出鋼時間)は120秒であった。スラグカットボールの投下(投下指令発出)時刻から投入(転炉内の溶融物に到着)時刻までの期間(T秒)は2秒であった。
【0032】
予め、出鋼開始から出鋼流へのスラグ混在開始までの時間(X秒)を計測した。出鋼流へのスラグの混在は、溶鋼とスラグでは出鋼流表面の輝度が異なることから、出鋼流外観をビデオカメラを用いて撮像し、画像解析で観察して判別を行った。その結果、X=18秒であった。出鋼流の観察は、遮光めがねを通じて目視で観察することもできる。
【0033】
出鋼中に出鋼流を遮光めがねを通じて目視で観察し、出鋼流の旋回開始時期を特定した。
図1に、出鋼中の状況と期間の模式図を示す。出鋼開始から出鋼流の旋回開始までの期間を「期間A」、出鋼流の旋回開始からX秒までを「期間B」、X秒から出鋼終了までを「期間C」とした。出鋼開始から出鋼流の旋回開始までの所要時間は、概ね5秒程度であった。
【0034】
そして、スラグカットボールの投入を、上記期間A、期間B、期間Cのいずれかとしたときの、取鍋へのスラグ流出量の比較を行った。溶融スラグの流出量を以下の方法により算出した。すなわち、出鋼が完了した取鍋内の溶融物表面に鉄の棒を挿入し、回収した鉄の棒に付着したスラグ層の厚さを測定し、取鍋の断面積とスラグの密度を乗じて、溶融スラグの流出量を算出した。さらに、算出した流出量を溶鋼量で割って、溶鋼1ton当たりの溶融スラグ流出量を求めた。さらに、それぞれの期間について100回試験を行い、各期間における溶融スラグの流出量の平均値を求めた。
【0035】
得られた溶融スラグ流出量を表1に示す。
【0036】
【0037】
比較例1は期間Aで投入した場合(出鋼開始と同時にボール投下指示を発出し、出鋼開始から2秒でボール投入)であり、投入したボールが出鋼孔軸上および渦の外に漂ってしまい、スラグ流出抑制に寄与しない場合が多く、この場合は取鍋へのスラグ大量流出をもって出鋼終了と目視判断し、転炉を傾転して出鋼を終了した。そのため、6.0kg/tの多量のスラグが流出した。
実施例1は期間Bで投入した場合(出鋼流の旋回開始から1秒後にボール投下指示を発出し、出鋼開始から8秒程度でボール投入)であり、投入したボールが出鋼孔直上で回転しながら出鋼孔軸上にとどまり、出鋼中の期間Cにおいても出鋼流へのスラグの混入を最低限に防止し、さらに出鋼終了時には出鋼孔を閉止することができたので、3.0kg/tと少量のスラグ流出量に抑制できた。
比較例2は期間Cで投入した場合(出鋼開始から50秒でボール投入)であり、出鋼終了時の出鋼孔閉止はなされたものの、ボール投入前に既にスラグ流出が始まっているため、スラグ流出量が期間Bよりも多い4.5kg/tとなった。
したがって、最もスラグ流出量を抑制できる投入タイミングは実施例1の期間Bであった。
【0038】
以上の結果に基づき、本発明は、転炉の出湯孔から溶鉄を取り出す際に、スラグカット栓を用いて転炉内スラグの流出を防止する方法であって、予め、出湯流にスラグの混在が確認されるまでの、出湯開始からの時間を計測してX(秒)とし、出湯流が旋回を開始して以降、かつ、出湯開始から前記X(秒)が経過する前に、スラグカット栓を前記出湯孔の直上に投入することを特徴とする転炉内スラグの流出防止方法である。
【0039】
転炉内スラグの流出防止のために、スラグカット栓としてスラグカットボールやスラグダーツを用いる場合、従来は前述のように、出鋼末期にスラグカット栓を転炉内に投入していた。しかし、以上詳細に説明したように、出鋼所要時間が120秒程度である場合において、出鋼開始から18秒にはすでに出鋼流中にスラグの混入が始まっていることが、本発明者らの検討によって明らかになった。従って、スラグカット栓の投入時期は、出鋼末期では遅すぎ、スラグカット栓の投入までに取鍋へのスラグ流入が進んでしまっている。本発明のように、予め出鋼流を観察して、出鋼開始から出鋼流へのスラグ混入開始までの時間(X秒)を計測し、X秒以前にスラグカット栓を投入することによってはじめて、取鍋へのスラグの流入を大幅に抑制することが可能となる。
【0040】
また、スラグカット栓の投入が早すぎると、投入したスラグカット栓が転炉内で浮遊することによって出鋼孔の直上から外れてしまうが、出鋼流を観察し、出鋼流が旋回を開始した以降においてスラグカット栓を投入することとすれば、投入したスラグカット栓が出鋼孔の直上に保持されるため、出鋼末期において確実に出鋼孔を閉止することができる。そして、出鋼流へのスラグ混入開始時期は、出鋼流の旋回開始時期以降に到来するので、出鋼流の旋回開始から出鋼流へのスラグ混入開始までの期間に、確実にスラグカット栓を投入することが可能である。
【0041】
本発明において、出鋼流へのスラグ混入開始までにスラグカット栓の投入を完了しており、上記のように出鋼流へのスラグ混入開始(18秒)は出鋼時間合計(120秒)の0.15倍程度であり、即ち出鋼時間合計の1/3経過時にはスラグカット栓の投入は完了している。この点で、スラグカット栓の投入を出鋼末期としていた従来とは明らかに相違し、本発明によって取鍋へのスラグ流出防止が際立つ主要な因子となっている。
【0042】
上記本発明では、対象とするヒートで出鋼流を観察し、出鋼流が旋回を開始して以降にスラグカット栓を投入するものである。本発明ではさらに、予め出湯流が旋回を開始するまでの、出湯開始からの時間を計測してY(秒)とし、出湯開始からY(秒)以降、かつ、出湯開始から前記X(秒)が経過する前に、スラグカット栓を前記出湯孔の直上に投入することとしてもよい。出鋼流の観察は、遮光めがねを通じて目視で観察することができ、あるいは、ビデオカメラを用いることもできる。
【0043】
本発明でスラグ流出防止のために用いるスラグカット栓としては、特許文献1、非特許文献1に記載されているような球状のスラグカットボール(スラグボール)、特許文献2に記載されているようなスラグダーツ、さらには球状のボールの円周上に円盤を設けた土星状のスラグカットボールのいずれをも用いることができる。
【0044】
スラグカット栓を転炉内の出湯孔の直上に投入する方法としては、特許文献5に記載されたような投入シュートを用いる方法、スラグカット栓に設けた吊り具を用いて吊り上げて投入する方法、特許文献1に記載されたように、スラグカットボールを針金で吊って転炉内に挿入し、針金が溶断してスラグカットボールが保持具から離れる方法など、いずれの方法をも用いることができる。