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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】不整地走行用のタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
B60C11/03 300E
B60C11/03 300C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019004857
(22)【出願日】2019-01-16
(65)【公開番号】P2020111264
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】白神 和也
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154241(JP,A)
【文献】特開平02-175305(JP,A)
【文献】特開昭55-136608(JP,A)
【文献】特開2012-030658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、複数のブロックが設けられた不整地走行用のタイヤであって、
前記ブロックは、タイヤ赤道上に配された複数の第1のブロックと、前記第1のブロックのタイヤ軸方向の両側に配された複数の第2のブロックとを含み、
前記第1のブロックは、タイヤ回転方向の先着側のエッジを有する第1ブロック本体と、前記第1ブロック本体からタイヤ回転方向の後着側に突出する複数の第1フィンとを含み、
前記第2のブロックは、タイヤ回転方向の先着側のエッジを有する第2ブロック本体と、前記第2ブロック本体からタイヤ回転方向の後着側に突出する複数の第2フィンとを含み、
タイヤ周方向に最も近い第1、第2のブロック間において、前記第2のブロックの後着側部分と、前記第1のブロックの先着側部分とがタイヤ周方向に重複する領域を具え
前記第1ブロック本体を、ブロック幅方向の中央領域と、その両外側の外側領域との3つの領域に等区分したときに、前記複数の第1フィンは、前記中央領域に配された中央の第1フィンと、前記両外側の外側領域にそれぞれ配された外の第1フィンとで構成され、
前記中央の第1フィンのタイヤ周方向の長さは、前記外の第1フィンのタイヤ周方向の長さよりも大きい、
不整地走行用のタイヤ。
【請求項2】
前記重複する領域のタイヤ周方向の長さLgは、前記第2フィンのタイヤ周方向の長さL4以下である、請求項1記載の不整地走行用のタイヤ。
【請求項3】
前記第1のブロックにおいて、隣り合う前記第1フィン間のタイヤ軸方向の間隔は、前記第1ブロック本体のタイヤ軸方向の幅W1の0.15~0.45倍である、請求項1又は2記載の不整地走行用のタイヤ。
【請求項4】
前記第1のブロックにおいて、前記複数の第1フィンのうち、ブロック幅方向の最外側に配される第1フィンのブロック幅方向の外側縁は、前記第1ブロック本体のブロック幅方向の外側縁の延長線上に位置する、請求項1~3の何れかに記載の不整地走行用のタイヤ。
【請求項5】
前記第1のブロックにおいて、前記複数の第1フィンのそれぞれのタイヤ軸方向の幅W2は、前記第1ブロック本体のタイヤ軸方向の幅W1の0.05~0.2倍である、請求項1~4の何れかに記載の不整地走行用のタイヤ。
【請求項6】
前記第1のブロックにおいて、前記複数の第1フィンのそれぞれのタイヤ周方向の長さL2は、前記第1ブロック本体のタイヤ周方向の長さL1の0.6~1.5倍である、請求項1~5の何れかに記載の不整地走行用のタイヤ。
【請求項7】
前記ブロックのゴム硬度は、70以上である、請求項1~6の何れかに記載の不整地走行用のタイヤ。
【請求項8】
前記第1のブロックにおいて、前記第1ブロック本体は、前記先着側のエッジから後着側のエッジまでのびる浅溝を具える、請求項1~7の何れかに記載の不整地走行用のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用タイヤとして好適であり、横グリップ性能とトラクション性能とを高めた不整地走行用のタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、自動二輪車用タイヤとして好適であり、泥濘地等の軟弱路面走行時の直進安定性を高めた空気入りタイヤが提案されている。
【0003】
この提案のタイヤは、タイヤ赤道を跨ぐセンターブロックの列と、センターブロックのタイヤ軸方向の両側に配されるミドルブロックの列とを含む。各前記センターブロックは、タイヤ軸方向の幅がタイヤ周方向の長さより大きい横長状のブロック本体と、前記ブロック本体からタイヤ回転方向の後着側に突出する小幅の1本のキール部とを具える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4272244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このセンターブロックは、泥寧地でのパーシャル走行やブレーキング時において、キール部が軟弱地盤に突き刺さる。これにより、横滑りが抑えられ直進安定性が高まる。又、キール部は、ブロック本体を後着側から支えることで、該ブロック本体の接地時における後着側への変形を抑制し、トラクション性能を向上させる。
【0006】
自動二輪車用タイヤでは、車体を大きくバンクさせて旋回走行が行われる。従って、タイヤのバンク角が比較的小である直進走行時或いは旋回初期においては、前記キール部が、軟弱地盤に接地するため、上記効果が有効に発揮されうる。
【0007】
しかし、タイヤのバンク角がより大きくなる旋回中期以降においては、キール部が接地面から外れた状態が起こりうる。このとき、横滑りが発生し出し、タイヤの横グリップ性能が急に低下するという問題がある。又、キール部が接地面から外れることで、ブロック本体の接地部分(ブロック本体の一端側の部分)を支える効果が損なわれる。その結果、ブロック本体の接地部分の後着側への変形が大きくなり、トラクション性能が急に低下するという問題もある。
【0008】
そこで本発明は、自動二輪車用タイヤとして好適であり、旋回時における横グリップ性能及びトラクション性能を高めうる不整地走行用のタイヤを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、トレッド部に、複数のブロックが設けられた不整地走行用のタイヤであって、
前記ブロックは、タイヤ赤道上に配された複数の第1のブロックと、前記第1のブロックのタイヤ軸方向の両側に配された複数の第2のブロックとを含み、
前記第1のブロックは、タイヤ回転方向の先着側のエッジを有する第1ブロック本体と、前記第1ブロック本体からタイヤ回転方向の後着側に突出する複数の第1フィンとを含み、
前記第2のブロックは、タイヤ回転方向の先着側のエッジを有する第2ブロック本体と、前記第2ブロック本体からタイヤ回転方向の後着側に突出する複数の第2フィンとを含み、
タイヤ周方向に最も近い第1、第2のブロック間において、前記第2のブロックの後着側部分と、前記第1のブロックの先着側部分とがタイヤ周方向に重複する領域を具える。
【0010】
本発明に係る不整地走行用のタイヤでは、前記重複する領域のタイヤ周方向の長さLgは、前記第2フィンのタイヤ周方向の長さL4以下であるのが好ましい。
【0011】
本発明に係る不整地走行用のタイヤでは、前記第1のブロックにおいて、隣り合う前記第1フィン間のタイヤ軸方向の間隔は、前記第1ブロック本体のタイヤ軸方向の幅W1の0.15~0.45倍であるのが好ましい。
【0012】
本発明に係る不整地走行用のタイヤでは、前記第1のブロックにおいて、前記第1ブロック本体を、ブロック幅方向の中央領域とその両外側の外側領域との3つの領域に等区分したとき、各領域に少なくとも1つの前記第1フィンが配されるのが好ましい。
【0013】
本発明に係る不整地走行用のタイヤでは、前記第1のブロックにおいて、複数の前記第1フィンのうち、ブロック幅方向の最外側に配される第1フィンのブロック幅方向の外側縁は、前記第1ブロック本体のブロック幅方向の外側縁の延長線上に位置するのが好ましい。
【0014】
本発明に係る不整地走行用のタイヤでは、前記第1のブロックにおいて、前記第1フィンのタイヤ軸方向の幅W2は、前記第1ブロック本体のタイヤ軸方向の幅W1の0.05~0.2倍であるのが好ましい。
【0015】
本発明に係る不整地走行用のタイヤでは、前記第1のブロックにおいて、前記第1フィンのタイヤ周方向の長さL2は、前記第1ブロック本体のタイヤ周方向の長さL1の0.6~1.5倍であるのが好ましい。
【0016】
本発明に係る不整地走行用のタイヤでは、前記ブロックのゴム硬度は、70以上であるのが好ましい。
【0017】
本発明に係る不整地走行用のタイヤでは、前記第1のブロックにおいて、前記第1ブロック本体は、前記先着側のエッジから後着側のエッジまでのびる浅溝を具えるのが好ましい。
【0018】
本発明において、前記幅W1、W2、長さL1、L2、L4等は、踏面において測定した値である。又、ゴム硬度は、JIS-K6253に基づきデュロメータータイプAにより、23℃の環境下で測定したデュロメータA硬さである。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、第1のブロックは、第1ブロック本体から後着側に突出する複数の第1フィンを具え、第2のブロックは、第2ブロック本体から後着側に突出する複数の第2フィンを具える。
【0020】
従って、直進時には、第1フィン及び第2フィンがそれぞれ接地して横滑りを抑えるため、優れた直進安定性を発揮できる。又旋回時、タイヤのバンク角が大きくなった場合にも、少なくともタイヤ軸方向一方側の第2のブロックにおける第2フィンが接地しうる。そのため、この第2フィンが横滑りを抑え、横グリップ性能を高めうる。
【0021】
しかも本発明では、タイヤ周方向に最も近い第1、第2のブロック間において、第2のブロックの後着側部分と、第1のブロックの先着側部分とがタイヤ周方向に重複する領域を具える。即ち、タイヤ周方向に最も近い第1、第2のブロックが、互いにタイヤ周方向に位置ズレしながらタイヤ軸方向に横並びしている。そのため、第1、第2のブロック間から泥を逃がさないように多くの泥を集めることができ、より高いトラクションを発揮することができる。又第1、第2のブロックが互いに位置ズレすることで、横滑りを抑え、横グリップ性能をさらに高めうる。
【0022】
他方、多くの泥が集まることで、第1、第2のブロックへの負荷が高まる。しかし、第1、第2のブロックでは、それぞれ複数の第1フィン及び第2フィンによって支えられ、第1ブロック本体及び第2ブロック本体の倒れ込みが、広範囲で抑制される。なおフィンが一つの場合には、支えが一ヶ所となるため、全体の倒れ込みを抑えることが難しい。又、第1フィン及び第2フィンを複数とすることで、一つ一つのフィンの幅を小さくすることができるため、接地始めのブロックの泥濘地内への刺さり込みを良好に保つことができる。そしてこれらの相乗効果により、前述の多くの泥を集めることによるトラクションの向上を活かすことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の不整地走行用のタイヤの一実施形態を示す断面図である。
図2】そのトレッド部を平面に展開して示す平面図である。
図3】(a)、(b)は第1のブロックを示す斜視図及び平面図である。
図4】(a)、(b)は第2のブロックを示す斜視図及び平面図である。
図5】(a)、(b)は第3のブロックを示す斜視図及び平面図である。
図6図3(b)のB-B線断面図である。
図7図4(b)のC-C線断面図である。
図8】タイヤ周方向に最も近づいて配される第1、第2のブロックのグループを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1図2のA-A線断面を示す。図1に示すように、本実施形態の不整地走行用のタイヤ1(以下タイヤ1という)は、トレッド部2に、トレッド底面2Sから隆起する複数のブロック10を具える。ブロック10は、第1のブロック11及び第2のブロック12を含む。本例では、ブロック10が、第1のブロック11、第2のブロック12、及び第3のブロック13を含んで構成される。
【0025】
タイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4に至るカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されるトレッド補強コード層7とを含む。これらカーカス6及びトレッド補強コード層7としては、周知構造のものが好適に採用される。
【0026】
本例では、タイヤ1は、自動二輪車用タイヤであって、トレッド部2の外表面である踏面Sは、タイヤ赤道Cからトレッド端Teまで、タイヤ半径方向外側に凸となる円弧状に湾曲する。トレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向の直線幅であるトレッド幅TWがタイヤ最大幅をなし、これにより自動二輪車用タイヤ特有の旋回性能が付与される。
【0027】
図2に示すように、トレッド部2には、タイヤ赤道C上に配されるセンタブロック列Bc、トレッド端Teに沿って配されるショルダブロック列Bs、及び、センタブロック列Bcとショルダブロック列Bsとの間に配されるミドルブロック列Bmが配される。
【0028】
センタブロック列Bcは、タイヤ赤道C上でタイヤ周方向に配列する複数の第1のブロック11により形成される。ミドルブロック列Bmは、第1のブロック11のタイヤ軸方向の外側でタイヤ周方向に配列する複数の第2のブロック12により形成される。ショルダブロック列Bsは、第2のブロック12のタイヤ軸方向の外側でタイヤ周方向に配列する複数の第3のブロック13により形成される。第3のブロック13のタイヤ軸方向の外側縁が、トレッド端Teを構成する。第1のブロック11のピッチ数、第2のブロック12のピッチ数、及び第3のブロック13のピッチ数は互いに同数である。
【0029】
図3(a)、(b)に示すように、第1のブロック11は、第1ブロック本体15と、複数本の第1フィン20とを具える。
【0030】
踏面Sにおいて、第1ブロック本体15は、そのタイヤ軸方向の幅W1がタイヤ周方向の長さL1よりも大きい横長状をなす。第1ブロック本体15の前記幅W1と長さL1との比W1/L1は、特に規制されないが3.0~6.5の範囲が、トラクションの観点から好ましい。第1ブロック本体15の前記幅W1は、トレッド展開幅TW0(図2に示す)の0.25~0.35倍の範囲が好ましい。便宜上、図2~5、8において、踏面Sは、ドット模様で描かれている。
【0031】
踏面Sにおいて、第1ブロック本体15は、タイヤ回転方向Fの先着側(以下、単に「先着側」という場合がある。)のエッジ16と、タイヤ回転方向Fの後着側(以下、単に「後着側」という場合がある。)のエッジ17とを含む。
【0032】
先着側のエッジ16は、本例では、後着側に凹んでおり、最も後着側に位置する最凹部18を有する。最凹部18は、第1ブロック本体15の幅中心線X上に位置するのが好ましい。本例では、幅中心線Xは、タイヤ赤道C上に位置する場合が示される。しかし、図示されないが、センタブロック列Bcでは、幅中心線Xがタイヤ赤道Cの一方側にオフセットした一方の第1のブロック11と、他方側にオフセットした他方の第1のブロック11とが交互に、即ち千鳥状に配列しても良い。
【0033】
先着側のエッジ16は、前記最凹部18からタイヤ軸方向両側に向かって先着側に傾斜してのびる一対の傾斜エッジ部19を含む。本例では、各傾斜エッジ部19が、最凹部18からエッジ16の外端まで、直線状にのびる場合が示される。即ち、エッジ16の全体が、一対の傾斜エッジ部19によって形成されている。これにより、本例のエッジ16は、後着側に凹んだV字状に形成される。一方の傾斜エッジ部19と他方の傾斜エッジ部19とは、幅中心線Xを中心とした線対称に形成されているのが好ましい。しかし、一方の傾斜エッジ部19と他方の傾斜エッジ部19とは、互いに異なる形状や長さを有するものでも良い。
【0034】
各傾斜エッジ部19のタイヤ軸方向に対する角度θ1は10~45°であるのが好ましい。
【0035】
このような第1ブロック本体15は、泥濘地を走行する際、傾斜エッジ部19によって、泥を左右両側に逃がすことなく、ブロック中央側に掻き集め、これを剪断することができる。そのため大きなトラクションを得ることができる。
【0036】
前記角度θ1の上限は、30°以下さらには20°以下が好ましく、これにより、比較的硬質な路面でも大きなトラクションを得ることができる。
【0037】
後着側のエッジ17は、第1ブロック本体15の剛性の均一化のために、先着側のエッジ16と実質的に平行であるのが好ましい。「実質的に平行」には、エッジ16とエッジ17とが10度以下の角度で傾斜する場合も含まれる。
【0038】
なお先着側のエッジ16としては、後着側に円弧状に凹んだ略U字状に形成されてもよい。この場合、エッジ16は、最凹部18からタイヤ軸方向両側に向かって円弧状に湾曲する円弧状エッジを含んで構成される。この略U字状のエッジ16も、泥をブロック中央側に掻き集めて大きなトラクションを得ることができる。エッジ16としては、後着側に凹むことなくタイヤ軸方向にのびる直線であっても良い。
【0039】
図6に、図3(b)のB-B線断面が示される。この断面は、先着側のエッジ16に連なる先着側の壁面16wを示す。壁面16wは、大きなトラクションを得るために、踏面Sに立てた法線に対する角度α1が7°以下、さらには5°以下であるのが好ましい。後着側のエッジ17に連なる後着側の壁面17wは、踏面S側の上壁面部17waと、この上壁面部17waに連なる下壁面部17wbとを含む。上壁面部17waは、泥濘地内への刺さり込みを良好とするために、法線に対する角度α2が7°以下、さらには5°以下であるのが好ましい。下壁面部17wbは、第1ブロック本体15の後着側への倒れ込みを抑える観点から、法線に対する角度α3は、角度α2よりも大、特には25~45°の範囲が好ましい。
【0040】
次に、図3(a)、(b)に示すように、複数の第1フィン20が、第1ブロック本体15から後着側に突出する。
【0041】
このような複数の第1フィン20は、第1ブロック本体15を後着側から支え、後着側への倒れ込みを広範囲で抑える。これにより、倒れ込みに起因して剪断力が下がるのを抑制しうる。なお第1フィン20が一つの場合には、支えが一ヶ所となるため、全体の倒れ込みを抑えることが難しい。
【0042】
又、第1フィン20を複数とすることで、倒れ込みの抑制効果を発揮しながら、一つ一つの第1フィンのタイヤ軸方向の幅W2を小とすることができる。これにより、接地始めのブロックの泥濘地内への刺さり込みを良好に保つことができる。そしてこれらの相乗効果により、剪断力をより高め、トラクション性能を向上させることができる。又複数の第1フィン20により、タイヤの横滑りを抑えることができ、直進走行性能及び旋回走行性能の向上にも貢献しうる。
【0043】
ここで、ブロックの泥濘地内への刺さり込み性と、ブロックの倒れ込みの抑制との両立のために、第1フィン20の幅W2を第1ブロック本体15の幅W1の0.05~0.2倍とすることが好ましい。幅W2が幅W1の0.05倍を下回ると、フィン自体の剛性が減じ、横滑りの抑制効果が低下するとともに、ブロックの倒れ込みの抑制が不充分となる。逆に0.2倍を超えると、泥濘地内へのブロックの刺さり込み性が悪くなる。
【0044】
又、ブロックの泥濘地内への刺さり込み性と、ブロックの倒れ込みの抑制との両立のために、隣り合う第1フィン20間のタイヤ軸方向の間隔Dを、第1ブロック本体15の幅W1の0.15~0.45倍の範囲とすることも好ましい。間隔Dが幅W1の0.15倍を下回ると、泥濘地内へのブロックの刺さり込み性が悪くなる。逆に0.45倍を超えると、間隔Dが開き過ぎるため、ブロックの倒れ込みの抑制が不充分となり、何れも剪断力の低下傾向を招く。
【0045】
又、第1ブロック本体15を、ブロック幅方向の中央領域Ycと、その両外側の外側領域Ysとの3つの領域に等区分したとき、各領域Yc、Ysに少なくとも1つの第1フィン20が配されるのが、さらに好ましい。第1ブロック本体15は、ブロック幅方向の両端部から刺さり始めるため、接地始めは両端部に路面からの力が集中する。その後、泥がブロックの両端側から中央側に集まると、中央領域Ycに力が集中する。そこで、中央領域Ycと外側領域Ysとに、少なくとも1つの第1フィン20を配することにより、第1ブロック本体15を支える力が強くなり、倒れ込みの抑制効果を高めることができる。刺さり込み性の観点からは、各領域Yc、Ysに1つの第1フィン20を配するのが好ましい。即ち第1フィン20を、中央の第1フィン20cと、外の第1フィン20s、20sとの3つで構成するのが好ましい。
【0046】
第1フィン20のうちで、ブロック幅方向の最外側に配される第1フィン20(本例では外の第1フィン20s)のブロック幅方向の外側縁E20は、第1ブロック本体15のブロック幅方向の外側縁E15の延長線上に位置するのが好ましい。これにより、刺さり始めにおいて、第1ブロック本体15の両端を支えることができるため、倒れ込みの抑制効果をより高めることができる。
【0047】
第1フィン20のタイヤ周方向の長さL2は、第1ブロック本体15のタイヤ周方向の長さL1の0.6~1.5倍の範囲が好ましい。長さL2が長さL1の1.5倍を超えると、第1フィン20自体が歪んで倒れ易くなってしまい、第1ブロック本体15への支えの効果が低下する。又長さL2が長さL1の0.6倍を下回る場合にも、第1ブロック本体15を充分に支えることができず、同様に、ブロックの倒れ込みの抑制効果が低下する。
【0048】
なお本例の如く、第1フィン20が、中央の第1フィン20cと外の第1フィン20s、20sとで構成される場合、中央の第1フィン20cの長さL2cは、外の第1フィン20sの長さL2sよりも大であることが、倒れ込みの抑制の観点から好ましい。特には、比L2c/L2sが、1.1以上であるのが好ましい。又同観点から、中央の第1フィン20cの幅W2cは、外の第1フィン20sの幅W2sよりも大であることが好ましい。特には、比W2c/W2sが、1.1以上であるのが好ましい。
【0049】
図3(a)、(b)に示すように、第1ブロック本体15は、本例では、先着側のエッジ16から後着側のエッジ17までのびる浅溝22を具える。本例の浅溝22は、先着側のエッジ16からのびる第1溝部22aと、この第1溝部22aから両側に分岐する2つの分岐溝部22bとを有するY字状に形成される。本例では、第1溝部22aは、幅中心線X上を通り、分岐溝部22bは、中央の第1フィン20cを跨ぐ。
【0050】
ここで、第1のブロック11では、複数の第1フィン20を有することでブロック剛性が増し、踏面Sが硬直化する。その結果、路面への追従性が減じて接地性が低下する傾向がある。これに対して、浅溝22は、ブロック剛性を維持しながら、踏面Sの硬直化を抑え、接地性を高めうるという効果がある。これにより、トラクション性能の向上に、さらに貢献できる。
【0051】
図6に示すように、浅溝22の溝深さh22は、第1のブロック11の高さh11の15~25%であるのが好ましく、15%を下回ると、上記効果(踏面Sの硬直化の抑制)が期待できなくなる。逆に、溝深さh22が、高さh11の25%を越えると、ブロック剛性自体の低下を招き、ブロックの倒れ込みが大きくなって、トラクション性能が低下する。
【0052】
図3(b)に示すように、浅溝22の溝幅W22は、第1ブロック本体15の前記幅W1の2.5~6.5%であるのが好ましく、2.5%を下回ると、上記効果(踏面Sの硬直化の抑制)が期待できなくなる。逆に、溝幅W22が、幅W1の6.5%を越えると、接地面積が減じて、トラクション性能が低下する。
【0053】
図4(a)、(b)に示すように、第2のブロック12は、本例では、第1のブロック11と同様に、第2ブロック本体25と、複数(本例では2本)の第2フィン30とを具える。
【0054】
踏面Sにおいて、第2ブロック本体25は、そのタイヤ軸方向の幅W3がタイヤ周方向の長さL3よりも大きい横長状をなす。第2ブロック本体25の前記幅W3と長さL3との比W3/L3は、前記第1のブロック11の比W1/L1より小であるのが好ましい。特に規制されないが、長さL3と長さL1との比L3/L1は0.85~1.15が好ましく、幅W3と幅W1との比W3/W1は0.4~0.7が好ましい。
【0055】
踏面Sにおいて、第2ブロック本体25は、タイヤ回転方向Fの先着側(以下、単に「先着側」という場合がある。)のエッジ26と、タイヤ回転方向Fの後着側(以下、単に「後着側」という場合がある。)のエッジ27とを含む。
【0056】
先着側のエッジ26は、タイヤ軸方向内側から外側に向かって先着側に傾斜してのびる傾斜エッジ部29を含む。本例では、傾斜エッジ部29が、エッジ26の内端から外端まで直線状にのびる場合が示される。即ち、エッジ26の全体が、傾斜エッジ部29によって形成されている。傾斜エッジ部29のタイヤ軸方向に対する角度θ2は10~45°であり、特には前記角度θ1と実質的に等しいのが好ましい。「実質的に等しい」には角度差|θ1-θ2|が5度以下の場合も含まれる。
【0057】
なお後着側のエッジ27は、第2ブロック本体25の剛性の均一化のために、先着側のエッジ26と実質的に平行であるのが好ましい。
【0058】
図7に、図4(b)のC-C線断面が示される。図7に示すように、先着側のエッジ26に連なる先着側の壁面26wは、大きなトラクションを得るために、踏面Sに立てた法線に対する角度α4が7°以下、さらには5°以下であるのが好ましい。後着側のエッジ27に連なる後着側の壁面27wは、踏面S側の上壁面部27waと、この上壁面部27waに連なる下壁面部27wbとを含む。上壁面部27waは、泥濘地内への刺さり込みを良好とするために、法線に対する角度α5が7°以下、さらには5°以下であるのが好ましい。下壁面部27wbは、第2ブロック本体25の後着側への倒れ込みを抑える観点から、法線に対する角度α6は、角度α5よりも大、特には25~45°の範囲が好ましい。
【0059】
図4(a)、(b)に示すように、複数の第2フィン30が、第2ブロック本体25から後着側に突出する。第2フィン30のタイヤ軸方向の幅W4は、第2ブロック本体25の前記幅W3よりも小であり、好ましくは幅W3の0.05~0.2倍の範囲が望ましい。
【0060】
このような複数の第2フィン30は、第2ブロック本体25を後着側から支え、後着側への倒れ込みを広範囲で抑える。
【0061】
又、第2フィン30を複数とすることで、倒れ込みの抑制効果を発揮しながら、一つ一つの第2フィンの幅W4を小とすることができる。これにより、接地始めのブロックの泥濘地内への刺さり込みを良好に保つことができる。ブロックの泥濘地内への刺さり込み性と、ブロックの倒れ込みの抑制との両立のために、第2フィン30の幅W4を第2ブロック本体25の幅W3の0.05~0.2倍とすることが好ましい。又同理由により、隣り合う第2フィン30間の間隔Dを、第2ブロック本体25の前記幅W3の0.4~0.9倍の範囲とすることも好ましい。
【0062】
第2フィン30のうちで、ブロック幅方向の最外側に配されるフィン(本例では外の第2フィン30s)のブロック幅方向の外側縁E30は、第2ブロック本体25のブロック幅方向の外側縁E25の延長線上に位置するのが好ましい。これにより、刺さり始めにおいて、第2ブロック本体25の両端を支えることができるため、倒れ込みの抑制効果をより高めることができる。
【0063】
第2フィン30のタイヤ周方向の長さL4は、第2ブロック本体25のタイヤ周方向の長さL3の0.6~1.3倍の範囲が好ましい。長さL4が長さL3の1.3倍を超えると、第2フィン30自体が歪んで倒れ易くなってしまい、第2ブロック本体25への支えの効果が低下する。長さL4が長さL3の0.6倍を下回る場合にも、第2ブロック本体25を充分に支えることができず、同様に、ブロックの倒れ込みの抑制効果が低下する。
【0064】
図8に、複数の第1、第2のブロック11、12のうちで、タイヤ周方向に最も近づいて配される第1、第2のブロック11、12のグループが示される。このグループにおいて、第2のブロック12は、第1のブロック11よりも先着側に変位している。これにより、第2のブロック12の後着側部分12rと、第1のブロック11の先着側部分11fとがタイヤ周方向に重複する領域Gを具える。即ち、前記グループにおいて、第1、第2のブロック11、12は、互いにタイヤ周方向に位置ズレしながらタイヤ軸方向に横並びしている。
【0065】
そのため、第1、第2のブロック11、12間から泥が逃げるのを抑え、多くの泥を前記グループにて集めることができる。又第1、第2のブロック11、12がタイヤ周方向に互いに位置ズレしているため、第1フィン20及び第2フィン30とも協働してタイヤの横滑りをより効果的に抑えることができ、直進安定性及び旋回性能をさらに高めうる。
【0066】
なお多くの泥が集まることで、第1、第2のブロック11、12への負荷が高まる。しかし、第1、第2のブロック11、12は、前述のごとく複数の第1フィン20及び第2フィン30によって支えられ、第1ブロック本体15及び第2ブロック本体25の倒れ込みが広範囲で抑制される。そのため、多くの泥が集まることによるトラクションの向上を、充分に活かすことが可能になる。
【0067】
重複する領域Gのタイヤ周方向の長さLgは、第2フィン30のタイヤ周方向の長さL4以下であるのが好ましい。長さLgが0、即ち、重複する領域Gが無い場合、第1、第2のブロック11、12間から泥が逃げてしまい、トラクション性能が低下する。又長さLgが長さL4の1.0倍を越えると、第1、第2のブロック11、12間での排土性が悪くなり、目詰まりの発生傾向となる。その結果、横滑り傾向を招き、横グリップ性能を低下させる。このような観点から、長さLgの下限は長さL4の0.3倍以上がより好ましく、上限は0.7倍以下がより好ましい。
【0068】
ここで、前記重複する領域Gは、具体的には、以下のように定義される。第1のブロック11の先着側のエッジ16におけるブロック幅方向の外端点Qfを通るタイヤ軸方向線xfと、第2のブロック12において最もタイヤ赤道C側に位置する第2フィン30の後着側の端点Qrを通るタイヤ軸方向線xrとの間の領域として定義される。又長さLgは、タイヤ軸方向線xf、xr間のタイヤ周方向の距離として定義される。
【0069】
図2に示すように、第2のブロック12は、第1のブロック11よりも先着側に距離K0で変位している。距離K0は、第2ブロック本体25の長さL3の0.8~1.2倍であるのが好ましい。
【0070】
図5(a)、(b)に示すように、踏面Sにおいて、第3のブロック13は、先着側のエッジ36と、後着側のエッジ37とを有する。先着側のエッジ36は、タイヤ軸方向内側から外側に向かって先着側に傾斜してのびる傾斜エッジ部39を含む。本例では、傾斜エッジ部39が、エッジ36の内端から外端まで直線状にのびる場合が示される。即ち、エッジ36の全体が、傾斜エッジ部39によって形成されている。傾斜エッジ部39のタイヤ軸方向に対する角度θ3は10~45°であり、特には前記角度θ1、θ2と実質的に等しいのが好ましい。
【0071】
後着側のエッジ37は、先着側のエッジ36と逆方向に傾斜する。これにより、第3のブロック13、13間における排土性が高められ、目詰まりによるトラクション性能の低下を抑制しうる。
【0072】
図2に示すように、第3のブロック13は、第2のブロック12よりも先着側に距離K1で変位している。前記距離K1は、前記距離K0の1.0~2.0倍であるのが好ましい。このような配置は、第1~第3のブロック11~13が互いに協働して、多くの泥を集めうるため、トラクション性能をより向上しうる。
【0073】
ブロック10のゴム硬度が低いと、ブロック剛性が減じて変形し易くなる。従って、ブロックの泥濘地内への刺さり込み性と、ブロックの倒れ込みの抑制との両立のために、ゴム硬度を70以上とするのが好ましい。ゴム硬度の上限は、ブロック欠け等の観点から90以下が好ましい。
【0074】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0075】
図2の基本パターンを有する不整地走行用の自動二輪車用の後輪タイヤが、表1の仕様に基づき試作された。そして、各テストタイヤのトラクション性能、横グリップ性能、及び排土性能がテストされた。
【0076】
実施例及び比較例2における第1のブロックは、それそれ、図3(a)、(b)に示す形状をなし、第1フィンの幅W2c、W2s、長さL2c、L2s、浅溝の有無のみ相違する。又実施例及び比較例2における第2のブロックは、それそれ、図4(a)、(b)に示す形状をなし、互いに同サイズで形成される。
【0077】
比較例1では、第1のブロックは、第1ブロック本体に1つのフィンのみが設けられており、このフィンは、幅中心線X上で後着側にのびる。第2のブロックにはフィンは無いが、第2のブロック全体の外形寸法(幅及び周方向の長さ)は、実施例及び比較例2における第2のブロック全体の外形寸法(幅及び周方向の長さ)と実質的に等しい。
【0078】
実施例及び比較例において、
・W1/L1=4.3
・傾斜エッジ部の角度θ1=15度
で同一である。
【0079】
各タイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
・使用車両:排気量450cc のモトクロス競技車両
タイヤ
・前輪(共通使用):市販の不整地走行用タイヤ(タイヤサイズ80/100-21、リムサイズ1.60WM)
・後輪:表1のテストタイヤ(タイヤサイズ120/80-19、リムサイズ2.15WM)
・内圧;前輪、後輪ともに80kPa
テスト方法は以下の通りである。
【0080】
<トラクション性能、横グリップ性能、排土性能>
上記車両で不整地面を走行し、直進時及び旋回時においてトラクション性能、横グリップ性能、及び排土性能が、それぞれテストライダーの官能により10点満点で評価された。数値が大きいほど優れている。
【0081】
【表1】
【0082】
表に示されるように、実施例は、トラクション性能と横グリップ性能とが向上していることが確認できる。なお実施例3では、重複する領域の長さLgがL4の1.0倍であるため、第1、第2のブロック間の排土性能が減じ、実施例1に比して横グリップ性能が低下傾向となっている。又比較例2は、重複する領域が無いことにより、第1、第2のブロック間から土が逃げる。そのため、実施例1に比して、トラクション性能を充分に高めることができない。
【符号の説明】
【0083】
1 不整地走行用のタイヤ
2 トレッド部
10 ブロック
11 第1のブロック
11f 先着側部分
12 第2のブロック
12r 後着側部分
15 第1ブロック本体
16 先着側のエッジ
17 後着側のエッジ
20 第1フィン
22 浅溝
25 第2ブロック本体
26 先着側のエッジ
30 第2フィン
C タイヤ赤道
20 外側縁
15 外側縁
F タイヤ回転方向
G 重複する領域
S 踏面
Yc 中央領域
Ys 外側領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8