(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ホールカバー及びこれを備えたステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/20 20060101AFI20230111BHJP
B62D 3/12 20060101ALI20230111BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20230111BHJP
F16J 15/3208 20160101ALI20230111BHJP
【FI】
B62D1/20
B62D3/12 507
F16J15/16 B
F16J15/3208
(21)【出願番号】P 2019019432
(22)【出願日】2019-02-06
【審査請求日】2022-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 健太
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-043551(JP,A)
【文献】特開2013-193592(JP,A)
【文献】特開2015-209909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/20
B62D 3/12
F16J 15/16
F16J 15/3208
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラックハウジングにおけるピニオン軸を一部突出する態様で収容する筒状部に嵌合される筒状の嵌合部材と、前記嵌合部材の内周側に配置される環状のシール部材とを備えたホールカバーにおいて、
前記嵌合部材は、
前記筒状部に形成された筒状のハウジング側嵌合部の外周に嵌合されるカバー側嵌合部と、
前記筒状部に形成されたハウジング側挟持部との間で前記シール部材を軸方向に挟み込むカバー側挟持部と、
前記シール部材の外周を覆う被覆部とを備え、
前記被覆部には、該被覆部の内外を貫通する開口部が形成され、
前記開口部は、前記カバー側嵌合部の前記ハウジング側嵌合部に対する嵌合長さが予め定められた所定嵌合長さとなることにより前記嵌合部材の前記筒状部への嵌合が完了し、かつ車両への搭載がされていない状態で、前記シール部材が外部に露出するように形成されたホールカバー。
【請求項2】
請求項1に記載のホールカバーにおいて、
前記開口部は、前記ホールカバーが組み付けられた前記ラックハウジングが車両に搭載されて該ラックハウジングが前記嵌合部材を介して車両のダッシュパネルに予め設定された所定荷重で押し付けられた状態で、前記シール部材が前記被覆部の内周に隠れるように形成されたホールカバー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のホールカバーにおいて、
前記嵌合部材は、前記被覆部から軸方向に延びる腕部を備え、
前記腕部の先端には、前記筒状部に形成された被係合部に係合可能な爪部が形成され、
前記嵌合部材の前記筒状部への嵌合が完了し、かつ車両への搭載がされていない状態で、前記爪部が前記被係合部に係合するホールカバー。
【請求項4】
請求項3に記載のホールカバーにおいて、
前記開口部は、前記腕部に対し周方向に隣接して形成されたホールカバー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のホールカバーにおいて、
前記開口部は、周方向に間隔を空けて複数形成されたホールカバー。
【請求項6】
ピニオン軸を一部突出する態様で収容する筒状部を有するラックハウジングと、
前記筒状部に嵌合されて組み付けられる請求項1~5のいずれか一項に記載のホールカバーとを備え、
前記ラックハウジングが前記嵌合部材を介して車両のダッシュパネルに予め設定された所定荷重で押し付けられた状態で車両に搭載されるステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホールカバー及びこれを備えたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のステアリング装置として、ステアリング操作に伴う回転をラックアンドピニオン機構によりラック軸の往復直線運動に変換して転舵輪の転舵角を変更するものがある。こうしたステアリング装置は、車両のサスペンションメンバにボルト等によって締結されることにより、ラックハウジングがダッシュパネルに対してその外側から所定荷重で押し付けられた状態で車両に搭載される。このようにステアリング装置は車室外に設けられるため、雨水や塵等の異物が付着し易い。
【0003】
この点を踏まえ、例えば特許文献1には、ラックハウジングにおけるピニオン軸を収容する筒状部に嵌合されて組み付けられるホールカバーを備えたステアリング装置が開示されている。このホールカバーは、筒状部に嵌合する嵌合部材と、筒状部と嵌合部材との間で軸方向に挟まれるシール部材とを備える。そして、ステアリング装置の車両搭載時に、ラックハウジングがホールカバーを介して所定荷重でダッシュパネルに押し付けられた状態となることで、シール部材を軸方向に圧縮し、筒状部と嵌合部材との間をシールしてラックハウジング内に異物が侵入することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1の構成では、シール部材は嵌合部材の内周側に配置された状態で、該嵌合部材と筒状部との間で軸方向に挟まれている。そのため、ホールカバーの嵌合部材をラックハウジングの筒状部に嵌合した状態で、シール部材が正しく組み付けられているかを確認することが困難である。
【0006】
本発明の目的は、シール部材が正しく組み付けられているかを容易に確認できるホールカバー及びこれを備えたステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するホールカバーは、ラックハウジングにおけるピニオン軸を一部突出する態様で収容する筒状部に嵌合される筒状の嵌合部材と、前記嵌合部材の内周側に配置される環状のシール部材とを備えたものにおいて、前記嵌合部材は、前記筒状部に形成された筒状のハウジング側嵌合部の外周に嵌合されるカバー側嵌合部と、前記筒状部に形成されたハウジング側挟持部との間で前記シール部材を軸方向に挟み込むカバー側挟持部と、前記シール部材の外周を覆う被覆部とを備え、前記被覆部には、該被覆部の内外を貫通する開口部が形成され、前記開口部は、前記カバー側嵌合部の前記ハウジング側嵌合部に対する嵌合長さが予め定められた所定嵌合長さとなることにより前記嵌合部材の前記筒状部への嵌合が完了し、かつ車両への搭載がされていない状態で、前記シール部材が外部に露出するように形成された。
【0008】
上記課題を解決するステアリング装置は、ピニオン軸を一部突出する態様で収容する筒状部を有するラックハウジングと、前記筒状部に嵌合されて組み付けられる上記ホールカバーとを備え、前記ラックハウジングが前記嵌合部材を介して車両のダッシュパネルに予め設定された所定荷重で押し付けられた状態で車両に搭載される。
【0009】
上記各構成によれば、ステアリング装置の車両搭載前に、ホールカバーの嵌合部材をラックハウジングの筒状部に嵌合した状態で、外部から開口部を介してシール部材を視認できる。そのため、シール部材が正しく組付けられているかを容易に確認できる。
【0010】
上記ホールカバーにおいて、前記開口部は、前記開口部は、前記ホールカバーが組み付けられた前記ラックハウジングが車両に搭載されて該ラックハウジングが前記嵌合部材を介して車両のダッシュパネルに予め設定された所定荷重で押し付けられた状態で、前記シール部材が前記被覆部の内周に隠れるように形成されることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、ステアリング装置の車両搭載後に、シール部材が開口部を介して外部に露出しなくなる。これにより、雨水や塵等の異物が開口部を介してシール部材に直接付着することを抑制して、シール性を向上させることができる。
【0012】
上記ホールカバーにおいて、前記嵌合部材は、前記被覆部から軸方向に延びる腕部を備え、前記腕部の先端には、前記筒状部に形成された被係合部に係合可能な爪部が形成され、前記嵌合部材の前記筒状部への嵌合が完了し、かつ車両への搭載がされていない状態で、前記爪部が前記被係合部に係合することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、嵌合部材の筒状部への嵌合が完了した状態で、爪部がラックハウジングの被係合部に係合するため、例えばホールカバーが組み付けられたラックハウジングを搬送する際に、ホールカバーがラックハウジングから脱落することを抑制できる。
【0014】
上記ホールカバーにおいて、前記開口部は、前記腕部に対し周方向に隣接して形成されることが好ましい。
上記構成によれば、例えば開口部を腕部から離れた位置に形成する場合と異なり、被覆部における腕部の根元付近の部分が容易に撓めるようになる。つまり、見かけ上、腕部の軸方向長さが長くなるため、嵌合部材を筒状部に嵌合する際に、腕部を容易に撓ませることができ、ホールカバーの組付け性を向上させることができる。
【0015】
上記ホールカバーにおいて、前記開口部は、周方向に間隔を空けて複数形成されることが好ましい。
上記構成によれば、シール部材における複数箇所を視認できるため、シール部材が正しく組付けられているかをより正確に確認できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シール部材が正しく組み付けられているかを容易に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】ラックハウジングの筒状部とホールカバーとの嵌合部分の分解斜視図。
【
図3】ステアリング装置の車両搭載前におけるラックハウジングの筒状部とホールカバーとの嵌合部分の断面図。
【
図4】(a)はステアリング装置の車両搭載前におけるラックハウジングの筒状部とホールカバーとの嵌合部分の側面図、(b)はステアリング装置の車両搭載後におけるラックハウジングの筒状部とホールカバーとの嵌合部分の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、ホールカバー及びこれを備えたステアリング装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、ステアリング装置1は、ステアリングホイール2が固定されるステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に連結されたラック軸4と、ラック軸4が往復動可能に挿通されるラックハウジング5と、ステアリングシャフト3の回転をラック軸4の往復動に変換するラックアンドピニオン機構6とを備えている。なお、ステアリングシャフト3は、ステアリングホイール2が位置する側から順にコラム軸7、中間軸8、及びピニオン軸9を連結することにより構成されている。
【0019】
ラック軸4とピニオン軸9とは、ラックハウジング5内に所定の交差角をもって配置されている。そして、ラック軸4に形成されたラック歯とピニオン軸9に形成されたピニオン歯とが噛合されることにより、ラックアンドピニオン機構6が構成されている。また、ラック軸4の両端には、図示しないタイロッドを介して転舵輪が組み付けられたナックルが連結される。したがって、ステアリング装置1では、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転がラック軸4の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッドを介してナックルに伝達されることにより、転舵輪の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0020】
ラックハウジング5は、ラック軸4の軸方向に延びる円筒状のハウジング本体11と、ハウジング本体11と一体形成されるとともにピニオン軸9の軸方向に延びる円筒状の筒状部12とを有している。なお、ラックハウジング5は、アルミ等の金属材料により構成されている。ハウジング本体11の両端部には、車両上下方向に延びる貫通孔13を有する取付部14がそれぞれ形成されている。ピニオン軸9は、筒状部12から突出しており、ダッシュパネルDの図示しない貫通孔に挿通されて該ダッシュパネルDの内側である車室内まで延在し、中間軸8に連結されている。
【0021】
筒状部12には、筒状部12とダッシュパネルDとの間でピニオン軸9を覆うとともに、ダッシュパネルDの貫通孔を覆うホールカバー15が組み付けられている。なお、ホールカバー15とダッシュパネルDとの間には、図示しないシール部材が介在される。そして、ステアリング装置1は、ラックハウジング5が貫通孔13に挿通される図示しないボルトを介して車両のサスペンションメンバに連結されることにより、ラックハウジング5がホールカバー15を介して車両のダッシュパネルDに予め設定された所定荷重で押し付けられた状態で、車両に搭載される。なお、所定荷重は、車両の仕様等に応じて予め決まっており、例えば数百ニュートン程度に設定される。
【0022】
次に、筒状部12及びホールカバー15の構造について説明する。なお、以下では、説明の便宜上、車両に搭載した状態でのステアリング装置1の車両上側を軸方向一端側とし、車両下側を軸方向他端側とする。
【0023】
図2及び
図3に示すように、筒状部12は、軸方向一端側に開口する円筒状のハウジング側嵌合部21と、ハウジング側嵌合部21の軸方向他端部から径方向外側に延出される円環状のハウジング側挟持部22と、ハウジング側挟持部22における周方向の所定範囲から軸方向他端側に延出される複数の被係合部23とを有している。ハウジング側嵌合部21の開口端部は、その全周に亘って平坦な端面を有するハウジング側規制部24とされている。ハウジング側挟持部22の外周面と被係合部23の外周面とは、面一となるように形成されている。筒状部12の内周にはピニオン軸9を回転可能に支持する軸受25が固定されるとともに、軸受25の軸方向一端側にはシール部材26が固定されている。
【0024】
ホールカバー15は、筒状部12に嵌合される円筒状の嵌合部材31と、嵌合部材31の内周側に配置される円環状のシール部材32とを備えている。
シール部材32は、ゴム材料により構成されている。シール部材32は、円環状の基部41と、基部41から軸方向他端側に延出されるリップ部42とを備えている。
【0025】
嵌合部材31は、樹脂材料により構成されている。嵌合部材31は、軸方向から見て長円状のフランジ部51と、フランジ部51から軸方向他端側に延びるテーパ筒部52と、テーパ筒部52の軸方向他端部から径方向外側に延出される円環状のカバー側規制部53と、カバー側規制部53の外周縁から軸方向他端側に延びる円筒状のカバー側嵌合部54とを備えている。フランジ部51は、ラック軸4とピニオン軸9との交差角に応じて、ピニオン軸9の軸方向に対して交差する方向に傾斜して形成されている。テーパ筒部52は、その軸線がピニオン軸9と平行になるとともに、軸方向他端側に向かってその内外径が大きくなるように形成されている。カバー側規制部53の内径は、ハウジング側嵌合部21の内径と略等しく設定されている。なお、
図3に示すように、後述するようにホールカバー15の筒状部12への嵌合が完了した状態で、かつステアリング装置1を車両に搭載する前の状態、すなわちラックハウジング5が嵌合部材31を介して所定荷重でダッシュパネルDに押し付けられる前の状態では、カバー側規制部53はハウジング側規制部24から離間している。カバー側嵌合部54の内径は、ハウジング側嵌合部21の外径よりも僅かに大きく設定されている。そして、カバー側嵌合部54の内周は、ハウジング側嵌合部21の外周に隙間嵌めによって嵌合されている。
【0026】
また、嵌合部材31は、カバー側嵌合部54の軸方向他端部から径方向外側に延出される円環状のカバー側挟持部55と、カバー側挟持部55の径方向外周縁部から軸方向他端側に延出される円筒状の被覆部56と、カバー側挟持部55の径方向内周縁部から軸方向他端側に延出される円環状の壁部57とを備えている。さらに、嵌合部材31は、被覆部56から軸方向他端側に向かって延びる複数の腕部58を備えている。なお、本実施形態の嵌合部材31には、被覆部56の周方向に間隔を空けて3本の腕部58が形成されている。
【0027】
カバー側挟持部55は、ハウジング側挟持部22との間でシール部材32を軸方向に挟み込んでいる。被覆部56の内径は、ハウジング側挟持部22の外径よりも僅かに大きく形成されている。そして、被覆部56の内周は、ハウジング側挟持部22の外周に隙間嵌めによって嵌合されている。壁部57の内径はカバー側嵌合部54の内径と略等しく形成されるとともに、壁部57の外径は、シール部材32の基部41の内径と略等しく形成されている。また、壁部57の軸方向に沿った長さは、シール部材32の基部41の軸方向に沿った長さよりもやや短く設定されている。そして、壁部57により、被覆部56の内周に配置されたシール部材32の位置ずれが防止されている。各腕部58は、被覆部56における上記被係合部23に対応する位置から軸方向他端側に向かって延びる長方形板状に形成されている。各腕部58の軸方向他端部には、径方向内側に向かって突出する爪部59が形成されている。各爪部59は、軸方向一端側から他端側に向かって突出量が徐々に小さくなる断面三角形状に形成されている。
【0028】
このように構成されたホールカバー15の嵌合部材31は、カバー側嵌合部54がハウジング側嵌合部21の外周に隙間嵌めにより嵌合するとともに、被覆部56がハウジング側挟持部22の外周に隙間嵌めにより嵌合する。そして、カバー側嵌合部54のハウジング側嵌合部21に対する嵌合長さが予め設定された所定嵌合長さとなることで、嵌合部材31の筒状部12への嵌合が完了する。嵌合部材31の筒状部12に対する嵌合が完了した状態では、被覆部56がハウジング側挟持部22の外周に嵌合し、爪部59が被係合部23に係合する。これにより、嵌合部材31が筒状部12に対して嵌合されてホールカバー15がラックハウジング5に組み付けられている。なお、嵌合部材31の筒状部12への嵌合が完了した状態は、シール部材32がハウジング側挟持部22及びカバー側挟持部55の双方に接触し、これらに挟み込まれている状態であると言うこともできる。
【0029】
そして、ステアリング装置1が車両に搭載され、ホールカバー15が組み付けられたラックハウジング5が嵌合部材31を介して所定荷重でダッシュパネルDに押し付けられると、ハウジング側規制部24がカバー側規制部53に当接するとともに、シール部材32がハウジング側挟持部22とカバー側挟持部55との間で所定量圧縮される。これにより、筒状部12とホールカバー15との間がシールされる。なお、所定量は、筒状部12とホールカバー15との間のシール性能を十分に確保しつつ、シール部材32の劣化が早まるほど過度に圧縮しない量であり、実験結果等に基づいて予め定められている。
【0030】
ここで、ホールカバー15を筒状部12に組み付ける際に、例えばシール部材32の一部がめくれ上がることで、シール部材32がハウジング側挟持部22とカバー側挟持部55との間に挟まれない状態となるおそれがある。そのため、ホールカバー15を筒状部12に組み付けた状態で、シール部材32が正しく組み付けられているかを確認することが好ましい。
【0031】
この点、
図4に示すように、本実施形態の被覆部56には、その内外を貫通する開口部61が形成されている。開口部61は、各腕部58に対し周方向両側に隣接して設けられている。つまり、被覆部56には、6つの開口部61が形成されている。各開口部61は、被覆部56の軸方向他端部に位置するとともに、軸方向他端側に開口した矩形の切欠き状に形成されている。そして、
図4(a)に示すように、各開口部61は、ステアリング装置1の車両搭載前の筒状部12に対して嵌合部材31の組み付けが完了し、かつステアリング装置1が車両への搭載がされていない状態で、シール部材32が各開口部61を介して外部に露出するように形成されている。すなわち、各開口部61は、ステアリング装置1の車両搭載前の筒状部12に対して嵌合部材31の組み付けが完了し、ラックハウジング5が嵌合部材31を介してダッシュパネルDに所定荷重で押し付けられた際にシール部材32に作用する荷重よりも小さな荷重がシール部材32に作用する状態で、シール部材32が各開口部61を介して外部に露出するように形成されている。さらに、
図4(b)に示すように、各開口部61は、ホールカバー15が組み付けられたラックハウジング5が車両に搭載されてラックハウジング5が嵌合部材31を介してダッシュパネルDに所定荷重で押し付けられた状態で、シール部材32が被覆部56の内周に隠れるように形成されている。換言すると、各開口部61の軸方向に沿った長さは、ホールカバー15の自重による影響を除いてほとんど圧縮されていない状態のシール部材32が露出するとともに、ステアリング装置1の車両搭載時に加わる荷重によって圧縮された状態で被覆部56の内周に隠れるような長さに設定されている。
【0032】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)嵌合部材31の被覆部56にその内外を貫通する開口部61を形成し、開口部61を、嵌合部材31の筒状部12に対する嵌合が完了し、かつステアリング装置1の車両への搭載がされていない状態でシール部材32が外部に露出するように形成した。そのため、ステアリング装置1の車両搭載前に、ホールカバー15の嵌合部材31をラックハウジング5の筒状部12に嵌合した状態で、外部から開口部61を介してシール部材32を視認できる。これにより、シール部材32が正しく組付けられているかを容易に確認できる。
【0033】
(2)開口部61を、ホールカバー15が組み付けられたラックハウジング5が車両に搭載されて該ラックハウジング5が嵌合部材31を介してダッシュパネルDに所定荷重で押し付けられた状態で、シール部材32が被覆部56の内周に隠れるように形成した。そのため、ステアリング装置1の車両搭載後に、シール部材32が開口部61を介して外部に露出しなくなる。これにより、雨水や塵等の異物が開口部61を介してシール部材32に直接付着することを抑制して、シール性を向上させることができる。
【0034】
(3)嵌合部材31は、被覆部56から軸方向に延びる腕部58を備え、腕部58の先端に筒状部12の被係合部23に係合可能な爪部59を形成した。そして、嵌合部材31の筒状部12への嵌合が完了し、かつステアリング装置1の車両への搭載がされていない状態で、爪部59が被係合部23に係合するようにした。そのため、例えばホールカバー15が組み付けられたラックハウジング5を搬送する際に、ホールカバー15がラックハウジング5から脱落することを抑制できる。
【0035】
(4)開口部61を、腕部58に対し周方向に隣接して形成した。そのため、例えば開口部61を腕部58から離れた位置に形成する場合と異なり、被覆部56における腕部58の根元付近の部分が容易に撓めるようになる。つまり、見かけ上、腕部58の軸方向長さが長くなるため、嵌合部材31を筒状部12に嵌合する際に、腕部58を容易に撓ませることができ、ホールカバー15の組付け性を向上させることができる。
【0036】
(5)開口部61を周方向に間隔を空けて複数形成したため、シール部材32における複数箇所を視認できる。これにより、シール部材32が正しく組付けられているかをより正確に確認できる。
【0037】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態において、例えばシール部材32がリップ部42を有しない構成としてもよく、種々の形状のシール部材32を採用してもよい。
【0038】
・上記実施形態では、開口部61を軸方向他端側に開口する矩形の切欠き状に形成したが、開口部61の形状は適宜変更可能である。例えば開口部61を半円形の切欠き状にしてもよく、また開口部61が軸方向他端側に開口しない孔状としてもよい。
【0039】
・上記実施形態において、開口部61を腕部58から周方向に離間した位置に形成してもよい。この場合、複数の開口部61の少なくとも1つを腕部58に対し周方向に隣接して形成し、複数の開口部61の他の少なくとも1つの開口部61を腕部58から周方向に離間した位置に形成してもよい。
【0040】
・上記実施形態において、開口部61の数は適宜変更可能であり、被覆部56に開口部61を1つだけ形成してもよい。
・上記実施形態において、腕部58の数は適宜変更可能である。また、腕部58を形成しなくてもよい。
【0041】
・上記実施形態において、ホールカバー15が組み付けられたラックハウジング5が車両に搭載されて該ラックハウジング5が嵌合部材31を介してダッシュパネルDに所定荷重で押し付けられた状態で、シール部材32が開口部61を介して外部に露出するように開口部61を形成してもよい。
【0042】
・上記実施形態において、嵌合部材31の筒状部12に対する嵌合が完了した状態で、被覆部56がハウジング側挟持部22の外周に嵌合しない、つまり被覆部56の軸方向他端部とハウジング側挟持部22との間に軸方向の隙間があるように嵌合部材31を形成してもよい。なお、この場合、ステアリング装置1の車両搭載後は被覆部56がハウジング側挟持部22の外周に嵌合する。
【符号の説明】
【0043】
D…ダッシュパネル、1…ステアリング装置、5…ラックハウジング、9…ピニオン軸、12…筒状部、15…ホールカバー、22…ハウジング側挟持部、23…被係合部、31…嵌合部材、32…シール部材、55…カバー側挟持部、56…被覆部、57…壁部、58…腕部、59…爪部、61…開口部。