(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】船舶用操舵装置
(51)【国際特許分類】
B63H 25/24 20060101AFI20230111BHJP
B63H 25/42 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
B63H25/24 Z
B63H25/42 B
B63H25/42 Z
(21)【出願番号】P 2019027637
(22)【出願日】2019-02-19
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】齋木 典保
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108374809(CN,A)
【文献】特開2017-178159(JP,A)
【文献】特開平02-279495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/24
B63H 25/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の外部に搭載される船外機推進ユニットの操舵を行う船舶用操舵装置であって、
ハンドルの操作量に応じて第1油圧ポンプより作動油が供給される一対のシリンダ室を有する操舵角変更用シリンダと、
前記一対のシリンダ室内の油圧によって前記操舵角変更用シリンダ内を往復動する一対の操舵角変更用ピストンと、
前記一対の操舵角変更用ピストン同士を連結するとともに前記一対の操舵角変更用ピストンの往復動に伴って駆動して前記船外機推進ユニットの操舵角を変更するラックアンドピニオン機構と、
前記操舵角変更用シリンダに連結されるとともに第2油圧ポンプを介して供給される作動油によって往復動する操舵角制限用ピストンをそれぞれ有する一対の操舵角制限用シリンダと、を備え、
前記各操舵角制限用ピストンは、前記各操舵角制限用シリンダ内を摺動するピストン部と、前記ピストン部から突出するように設けられるとともに前記ピストン部の往復動に合わせて前記操舵角変更用シリンダの前記各シリンダ室内にそれぞれ出没可能なロッド部と、をそれぞれ有し、
前記各操舵角制限用ピストンは、前記各ロッド部が前記操舵角変更用シリンダの前記各シリンダ室内に対して没入することで前記各操舵角変更用ピストンのストロークエンドまでの移動を許容する許容状態と、前記各ロッド部が前記操舵角変更用シリンダの前記各シリンダ室内に突出することで前記各操舵角変更用ピストンのストロークエンドまでの移動を規制する規制状態と、の双方に切り替え可能であり、
前記各操舵角制限用ピストンは、船速が予め定められた操舵角制限適用船速以上である場合には、前記規制状態となるように少なくとも動作されていることを特徴とする船舶用操舵装置。
【請求項2】
前記各操舵角制限用シリンダ内には、前記各操舵角制限用ピストンのストローク範囲を制限するストッパ部材がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の船舶用操舵装置。
【請求項3】
前記各操舵角制限用ピストンは、前記船速が上昇して前記操舵角制限適用船速以上になると、前記許容状態から前記規制状態に切り替わるように動作することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船舶用操舵装置。
【請求項4】
前記各操舵角制限用ピストンは、アクセルレバーの位置がアクセル全開位置で保持されると、前記許容状態から前記規制状態に切り替わるように動作することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船舶用操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の船舶用操舵装置として、例えば、船体の外部に搭載された船外機推進ユニットをモータにより操舵するモータ駆動式の操舵装置が知られている。このようなモータ駆動式の操舵装置は、特に小型船舶に採用されており、操船者のハンドル操作量をセンサによって検出するとともに、モータ制御部がセンサによって検出されたハンドル操作量に基づいてモータの駆動を制御することで船外機推進ユニットの操舵角(旋回量)を制御している。
【0003】
ところで、船舶が高速で走行している際に、操船者がハンドルを大きく操作した場合、そのハンドル操作量に基づいて船外機推進ユニットの操舵角が制御されると、船舶が大きく急旋回されることになり、船舶の走行安定性が損なわれてしまう虞がある。このため、船舶の高速走行時には、船舶が急旋回しないように船外機推進ユニットの操舵角を制限する必要がある。例えば、特許文献1の船舶用操舵装置では、ハンドルに反力を与える反力モータを設け、船舶が高速で走行している際には、反力モータを駆動させて操船者のハンドル操作をし難くすることにより、高速走行時に船外機推進ユニットの操舵角が大きくならないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、船体のサイズが大きくなると、船体の外部に取り付けられる船外機推進ユニットも大型のものが必要になり、その結果、船外機推進ユニットの重量が大きくなる。この場合、船外機推進ユニットを旋回動作させるために必要な力も大きくなるので、モータ駆動式の操舵装置に変えて、油圧駆動式の操舵装置が採用される。そして、油圧駆動式の操舵装置を採用した場合においても、モータ駆動式の操舵装置と同様に、船舶の高速走行時における船舶の走行安定性を損なわないように、船外機推進ユニットの操舵角を制限することが求められている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、油圧を用いて船外機推進ユニットを旋回動作させる油圧駆動式の船舶用操舵装置を採用した場合において、船舶の高速走行時における船外機推進ユニットの操舵角の制限を行うことができる船舶用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する船舶用操舵装置は、船体の外部に搭載される船外機推進ユニットの操舵を行う船舶用操舵装置であって、ハンドルの操作量に応じて第1油圧ポンプより作動油が供給される一対のシリンダ室を有する操舵角変更用シリンダと、前記一対のシリンダ室内の油圧によって前記操舵角変更用シリンダ内を往復動する一対の操舵角変更用ピストンと、前記一対の操舵角変更用ピストン同士を連結するとともに前記一対の操舵角変更用ピストンの往復動に伴って駆動して前記船外機推進ユニットの操舵角を変更するラックアンドピニオン機構と、前記操舵角変更用シリンダに連結されるとともに第2油圧ポンプを介して供給される作動油によって往復動する操舵角制限用ピストンをそれぞれ有する一対の操舵角制限用シリンダと、を備え、前記各操舵角制限用ピストンは、前記各操舵角制限用シリンダ内を摺動するピストン部と、前記ピストン部から突出するように設けられるとともに前記ピストン部の往復動に合わせて前記操舵角変更用シリンダの前記各シリンダ室内にそれぞれ出没可能なロッド部と、をそれぞれ有し、前記各操舵角制限用ピストンは、前記各ロッド部が前記操舵角変更用シリンダの前記各シリンダ室内に対して没入することで前記各操舵角変更用ピストンのストロークエンドまでの移動を許容する許容状態と、前記各ロッド部が前記操舵角変更用シリンダの前記各シリンダ室内に突出することで前記各操舵角変更用ピストンのストロークエンドまでの移動を規制する規制状態と、の双方に切り替え可能であり、前記各操舵角制限用ピストンは、船速が予め定められた操舵角制限適用船速以上である場合には、前記規制状態となるように少なくとも動作されている。
【0008】
これによれば、各操舵角制限用ピストンは、船速が予め定められた操舵角制限適用船速以上である場合には、各ロッド部が操舵角変更用シリンダの各シリンダ室内に突出することで各操舵角変更用ピストンのストロークエンドまでの移動を規制する規制状態となるように少なくとも動作されている。これにより、各操舵角変更用ピストンのストロークエンドまでの移動が規制された状態で、一対の操舵角変更用ピストンの往復動に伴ってラックアンドピニオン機構が駆動することにより、操舵角の制限が行われた状態での船外機推進ユニットの操舵が行われる。したがって、油圧を用いて船外機推進ユニットを旋回動作させる油圧駆動式の船舶用操舵装置を採用した場合において、船舶の高速走行時における船外機推進ユニットの操舵角の制限を行うことができる。
【0009】
上記船舶用操舵装置において、前記各操舵角制限用シリンダ内には、前記各操舵角制限用ピストンのストローク範囲を制限するストッパ部材がそれぞれ設けられているとよい。
これによれば、例えば、各操舵用制限用シリンダ内に設けられるストッパ部材の位置を変更することで、船外機推進ユニットの操舵角の制限角度を容易に調整することができる。
【0010】
上記船舶用操舵装置において、前記各操舵角制限用ピストンは、前記船速が上昇して前記操舵角制限適用船速以上になると、前記許容状態から前記規制状態に切り替わるように動作するとよい。これによれば、船舶が予め定められた操舵角制限適用船速以上の船速で走行している際に、船外機推進ユニットの操舵角の制限を確実に行うことができる。
【0011】
上記船舶用操舵装置において、前記各操舵角制限用ピストンは、アクセルレバーの位置がアクセル全開位置で保持されると、前記許容状態から前記規制状態に切り替わるように動作するとよい。
【0012】
アクセルレバーの位置がアクセル全開位置で保持されると、船舶は加速して最高速度に達する。そこで、アクセルレバーの位置がアクセル全開位置で保持されると、各操舵角制限用ピストンは、各操舵角変更用ピストンのストロークエンドまでの移動を許容する許容状態からストロークエンドまでの移動を規制する規制状態に切り替わるように動作する。これによれば、船外機推進ユニットの操舵角の制限を早期に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、油圧を用いて船外機推進ユニットを旋回動作させる油圧駆動式の船舶用操舵装置を採用した場合において、船舶の高速走行時における船外機推進ユニットの操舵角の制限を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態における船舶を模式的に示す側面図。
【
図4】第1ロッド部及び第2ロッド部が第1操舵角変更用シリンダ内及び第2操舵角変更用シリンダ内それぞれに突出している状態を示す断面図。
【
図5】制御装置の制御を説明するためのフローチャート。
【
図6】別の実施形態における第1操舵角制限用シリンダ周辺を示す部分断面図。
【
図7】別の実施形態における第1操舵角制限用シリンダ周辺を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、船舶用操舵装置を具体化した一実施形態を
図1~
図5にしたがって説明する。
図1に示すように、船舶10は、船体11と、船体11の外部に搭載される船外機推進ユニット12と、を有している。船外機推進ユニット12は、ケース13、内燃機関14、操舵ユニット15、及び旋回ユニット16を有している。内燃機関14は、ケース13内に収容されている。ケース13は、船体11の船尾11eに対してブラケット17を介して取り付けられている。操舵ユニット15は、ケース13の下部に取り付けられている。さらに、旋回ユニット16は、操舵ユニット15の下部に取り付けられている。旋回ユニット16は、操舵ユニット15に対して旋回可能である。旋回ユニット16は、プロペラ16aを有している。プロペラ16aは、内燃機関14の駆動力によって回転駆動する。そして、プロペラ16aの回転によって、船舶10の推進力が発生する。したがって、内燃機関14は、船舶10の推進力を発生させるための船舶10の動力源である。
【0016】
図2に示すように、船舶10は、ハンドル18、アクセルレバー19、及び制御装置20を備えている。ハンドル18及びアクセルレバー19は、船体11内の運転室に設けられている。また、制御装置20は、船体11内に搭載されている。また、船舶10は、船速を検出する速度センサ21、ハンドル18の操作量を検出する角度センサ22、及びアクセルレバー19の位置を検出する位置センサ23を備えている。
【0017】
制御装置20は、速度センサ21、角度センサ22、及び位置センサ23それぞれに電気的に接続されている。速度センサ21により検出された船速に関する情報は、制御装置20に送信される。角度センサ22により検出されたハンドル18の操作量に関する情報は、制御装置20に送信される。なお、制御装置20には、角度センサ22から送信されるハンドル18の操作量に基づいて、船外機推進ユニット12の操舵角を算出するプログラムが予め記憶されている。位置センサ23により検出されたアクセルレバー19の位置に関する情報は、制御装置20に送信される。
【0018】
また、船舶10は、ディスプレイ24を備えている。ディスプレイ24は、例えば、船体11内の運転室に設けられている。ディスプレイ24は、制御装置20に電気的に接続されている。ディスプレイ24は、船舶10の運転に関する情報等を表示する。
【0019】
図3に示すように、船舶10は、船外機推進ユニット12の操舵を行う船舶用操舵装置30を備えている。船舶用操舵装置30は、操舵角変更用シリンダを構成する第1操舵角変更用シリンダ31及び第2操舵角変更用シリンダ41を備えている。また、船舶用操舵装置30は、一対の操舵角制限用シリンダである第1操舵角制限用シリンダ51及び第2操舵角制限用シリンダ61を備えている。さらに、船舶用操舵装置30は、ラックアンドピニオン機構71、第1油圧ポンプ81、オイルタンク82、第2油圧ポンプ83、及び切替弁84を備えている。
【0020】
第1操舵角変更用シリンダ31は、有底筒状の第1操舵角変更用チューブ32と、平板状の第1操舵角変更用ピストン33と、を有している。第1操舵角変更用チューブ32は、平板状の底壁32aと、底壁32aの外周部から第1操舵角変更用チューブ32の軸線方向に延びる筒状の周壁32bと、を有している。第1操舵角変更用ピストン33は、第1操舵角変更用チューブ32内を往復動可能に第1操舵角変更用チューブ32内に収容されている。そして、第1操舵角変更用チューブ32内には、第1操舵角変更用ピストン33、底壁32a、及び周壁32bによって区画されるシリンダ室としての第1シリンダ室34が形成されている。第1シリンダ室34内には作動油としてのオイルが充填されている。周壁32bにおける底壁32a側の端部には、第1シリンダ室34に連通する第1操舵角変更用オイル給排孔35が形成されている。また、底壁32aの中央部には、底壁32aを貫通する貫通孔36が形成されている。貫通孔36の軸心は、周壁32bの軸心と一致している。
【0021】
第2操舵角変更用シリンダ41は、有底筒状の第2操舵角変更用チューブ42と、平板状の第2操舵角変更用ピストン43と、を有している。第2操舵角変更用チューブ42は、平板状の底壁42aと、底壁42aの外周部から第2操舵角変更用チューブ42の軸線方向に延びる筒状の周壁42bと、を有している。第2操舵角変更用ピストン43は、第2操舵角変更用チューブ42内を往復動可能に第2操舵角変更用チューブ42内に収容されている。そして、第2操舵角変更用チューブ42内には、第2操舵角変更用ピストン43、底壁42a、及び周壁42bによって区画されるシリンダ室としての第2シリンダ室44が形成されている。したがって、操舵角変更用シリンダは、一対のシリンダ室を有している。第2シリンダ室44内には作動油としてのオイルが充填されている。周壁42bにおける底壁42a側の端部には、第2シリンダ室44に連通する第2操舵角変更用オイル給排孔45が形成されている。また、底壁42aの中央部には、底壁42aを貫通する貫通孔46が形成されている。貫通孔46の軸心は、周壁42bの軸心と一致している。
【0022】
第1操舵角変更用チューブ32及び第2操舵角変更用チューブ42は、それぞれの軸線方向が一致した状態で互いに配置されている。第1操舵角変更用チューブ32及び第2操舵角変更用チューブ42は、それぞれの開口が第1操舵角変更用チューブ32及び第2操舵角変更用チューブ42それぞれの軸線方向で互いに向き合うように配置されている。第1操舵角変更用チューブ32及び第2操舵角変更用チューブ42は、それぞれの開口が第1操舵角変更用チューブ32及び第2操舵角変更用チューブ42それぞれの軸線方向で互いに離間した状態で配置されている。第1操舵角変更用チューブ32及び第2操舵角変更用チューブ42は同一形状である。また、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43は同一形状である。
【0023】
ラックアンドピニオン機構71は、細長板状のラック72と、円形歯車であるピニオン73と、を有している。ラック72の一面には、複数のラック歯72aが設けられている。ピニオン73は、ラック歯72aに噛合されている。ピニオン73の内周部には、筒状の連結軸73aが連結されている。連結軸73aの一端はピニオン73に連結されるとともに、連結軸73aの他端は旋回ユニット16に連結されている。
【0024】
ラック72の長手方向の一端部は、第1操舵角変更用チューブ32の開口を介して第1操舵角変更用チューブ32内に入り込んでいる。ラック72の長手方向の一端には、第1操舵角変更用ピストン33が連結されている。ラック72の長手方向の他端部は、第2操舵角変更用チューブ42の開口を介して第2操舵角変更用チューブ42内に入り込んでいる。ラック72の長手方向の他端には、第2操舵角変更用ピストン43が連結されている。したがって、ラックアンドピニオン機構71のラック72は、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43同士を連結している。ピニオン73は、第1操舵角変更用チューブ32の開口端部と第2操舵角変更用チューブ42の開口端部との間に配置されている。
【0025】
第1操舵角制限用シリンダ51は、有底筒状の第1操舵角制限用チューブ52と、第1操舵角制限用ピストン53と、を有している。第1操舵角制限用チューブ52は、平板状の底壁52aと、底壁52aの外周部から第1操舵角制限用チューブ52の軸線方向に延びる筒状の周壁52bと、を有している。周壁52bの先端は、第1操舵角変更用チューブ32の底壁32aの外面に連結されている。これにより、第1操舵角制限用チューブ52の開口は、第1操舵角変更用チューブ32の底壁32aによって閉塞されている。第1操舵角制限用チューブ52は、周壁52bの軸心が、第1操舵角変更用チューブ32の周壁32bの軸心と一致した状態で第1操舵角変更用チューブ32に連結されている。
【0026】
第1操舵角制限用ピストン53は、第1操舵角制限用チューブ52内に収容されるピストン部としての第1ピストン部53aと、第1ピストン部53aから突出するように設けられるロッド部としての第1ロッド部53bと、を有している。第1ピストン部53aは、平板状であるとともに、第1操舵角制限用チューブ52内を往復動可能に第1操舵角制限用チューブ52内に収容されている。第1ピストン部53aは、第1操舵角制限用シリンダ51内を摺動する。第1ロッド部53bは、第1ピストン部53aの中央部から突出するとともに第1操舵角変更用チューブ32の底壁32aの貫通孔36を貫通している。そして、第1ロッド部53bは、第1ピストン部53aの往復動に合わせて貫通孔36を介して第1操舵角変更用シリンダ31の第1シリンダ室34内に出没可能である。
【0027】
第1操舵角制限用チューブ52内には、第1ピストン部53a、底壁52a、及び周壁52bによって区画される第1操舵角制限用圧力作用室54aが形成されている。また、第1操舵角制限用チューブ52内には、第1ピストン部53a、周壁52b、及び第1操舵角変更用チューブ32の底壁32aによって区画される第1操舵角復帰用圧力作用室54bが形成されている。周壁52bにおける底壁52a側の端部には、第1操舵角制限用圧力作用室54aに連通する第1オイル給排孔55aが形成されている。また、周壁52bの先端部には、第1操舵角復帰用圧力作用室54bに連通する第2オイル給排孔55bが形成されている。
【0028】
貫通孔36と第1ロッド部53bとの間には第1シール部材36sが設けられている。第1シール部材36sは、貫通孔36と第1ロッド部53bとの間を介した第1シリンダ室34と第1操舵角復帰用圧力作用室54bとの間のオイルの流れを抑制する。
【0029】
周壁52bの内周面における第1オイル給排孔55aよりも先端側の部位には、第1ストッパ部材56aが取り付けられている。第1ストッパ部材56aは、薄平板リング状である。第1ストッパ部材56aは、第1ストッパ部材56aにおける底壁52a側に位置する面が第1オイル給排孔55aの内周面の一部に連続する位置に配置されている。周壁52bの内周面における第2オイル給排孔55bよりも底壁52a側であって、且つ第1ストッパ部材56aよりも先端側の部位には、第2ストッパ部材56bが取り付けられている。第2ストッパ部材56bは、薄平板リング状である。第2ストッパ部材56bは、第1ストッパ部材56aと同一形状である。第2ストッパ部材56bは、第2ストッパ部材56bにおける周壁52bの先端側に位置する面が第2オイル給排孔55bの内周面の一部に連続する位置に配置されている。
【0030】
第1ピストン部53aは、第1操舵角制限用チューブ52内を第1ストッパ部材56aと第2ストッパ部材56bとの間で往復動可能に第1操舵角制限用チューブ52内に収容されている。したがって、第1ストッパ部材56a及び第2ストッパ部材56bは、第1操舵角制限用ピストン53のストローク範囲を制限するストッパ部材である。
【0031】
第2操舵角制限用シリンダ61は、有底筒状の第2操舵角制限用チューブ62と、第2操舵角制限用ピストン63と、を有している。第2操舵角制限用チューブ62は、平板状の底壁62aと、底壁62aの外周部から第2操舵角制限用チューブ62の軸線方向に延びる筒状の周壁62bと、を有している。周壁62bの先端は、第2操舵角変更用チューブ42の底壁42aの外面に連結されている。これにより、第2操舵角制限用チューブ62の開口は、第2操舵角変更用チューブ42の底壁42aによって閉塞されている。第2操舵角制限用チューブ62は、周壁62bの軸心が、第2操舵角変更用チューブ42の周壁42bの軸心と一致した状態で第2操舵角変更用チューブ42に連結されている。
【0032】
第2操舵角制限用ピストン63は、第2操舵角制限用チューブ62内に収容されるピストン部としての第2ピストン部63aと、第2ピストン部63aから突出するように設けられるロッド部としての第2ロッド部63bと、を有している。第2ピストン部63aは、平板状であるとともに、第2操舵角制限用チューブ62内を往復動可能に第2操舵角制限用チューブ62内に収容されている。第2ピストン部63aは、第2操舵角制限用シリンダ61内を摺動する。第2ロッド部63bは、第2ピストン部63aの中央部から突出するとともに第2操舵角変更用チューブ42の底壁42aの貫通孔46を貫通している。そして、第2ロッド部63bは、第2ピストン部63aの往復動に合わせて貫通孔46を介して第2操舵角変更用シリンダ41の第2シリンダ室44内に出没可能である。
【0033】
第2操舵角制限用チューブ62内には、第2ピストン部63a、底壁62a、及び周壁62bによって区画される第2操舵角制限用圧力作用室64aが形成されている。また、第2操舵角制限用チューブ62内には、第2ピストン部63a、周壁62b、及び第2操舵角変更用チューブ42の底壁42aによって区画される第2操舵角復帰用圧力作用室64bが形成されている。周壁62bにおける底壁62a側の端部には、第2操舵角制限用圧力作用室64aに連通する第3オイル給排孔65aが形成されている。また、周壁62bの先端部には、第2操舵角復帰用圧力作用室64bに連通する第4オイル給排孔65bが形成されている。
【0034】
貫通孔46と第2ロッド部63bとの間には第2シール部材46sが設けられている。第2シール部材46sは、貫通孔46と第2ロッド部63bとの間を介した第2シリンダ室44と第2操舵角復帰用圧力作用室64bとの間のオイルの流れを抑制する。
【0035】
周壁62bの内周面における第3オイル給排孔65aよりも先端側の部位には、第3ストッパ部材66aが取り付けられている。第3ストッパ部材66aは、薄平板リング状である。第3ストッパ部材66aは、第3ストッパ部材66aにおける底壁62a側に位置する面が第3オイル給排孔65aの内周面の一部に連続する位置に配置されている。周壁62bの内周面における第4オイル給排孔65bよりも底壁62a側であって、且つ第3ストッパ部材66aよりも先端側の部位には、第4ストッパ部材66bが取り付けられている。第4ストッパ部材66bは、薄平板リング状である。第4ストッパ部材66bは、第3ストッパ部材66aと同一形状である。第4ストッパ部材66bは、第4ストッパ部材66bにおける周壁62bの先端側に位置する面が第4オイル給排孔65bの内周面の一部に連続する位置に配置されている。
【0036】
第2ピストン部63aは、第2操舵角制限用チューブ62内を第3ストッパ部材66aと第4ストッパ部材66bとの間で往復動可能に第2操舵角制限用チューブ62内に収容されている。したがって、第3ストッパ部材66a及び第4ストッパ部材66bは、第2操舵角制限用ピストン63のストローク範囲を制限するストッパ部材である。
【0037】
第1操舵角制限用チューブ52及び第2操舵角制限用チューブ62は同一形状である。また、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63は同一形状である。第1ストッパ部材56aと第2ストッパ部材56bとの間の距離と、第3ストッパ部材66aと第4ストッパ部材66bとの間の距離とは同じである。
【0038】
第1油圧ポンプ81は、船体11に搭載されている。第1油圧ポンプ81は、ハンドル18に連結されている。第1油圧ポンプ81は、ハンドル18の操作に基づいて駆動するヘルムポンプである。船舶用操舵装置30は、第1油圧ポンプ81と第1操舵角変更用オイル給排孔35とを接続する第1操舵角変更用オイル流路81aを備えている。また、船舶用操舵装置30は、第1油圧ポンプ81と第2操舵角変更用オイル給排孔45とを接続する第2操舵角変更用オイル流路81bを備えている。第1操舵角変更用オイル流路81a及び第2操舵角変更用オイル流路81bは、例えば、配管によってそれぞれ構成されている。そして、ハンドル18の操作量に応じて第1油圧ポンプ81より第1シリンダ室34及び第2シリンダ室44にオイルが供給される。
【0039】
例えば、ハンドル18が右回りに操作されると、第1油圧ポンプ81は正転する。そして、第1油圧ポンプ81は、第1シリンダ室34内のオイルを、第1操舵角変更用オイル給排孔35、第1操舵角変更用オイル流路81a、第1油圧ポンプ81、第2操舵角変更用オイル流路81b、及び第2操舵角変更用オイル給排孔45を介して第2シリンダ室44内に供給する。これにより、第2シリンダ室44内の油圧が、第1シリンダ室34内の油圧に打ち勝って、第2操舵角変更用ピストン43が底壁42aから離間する方向に移動するとともに第1操舵角変更用ピストン33が底壁32aに接近する方向へ移動し、ラック72が第1操舵角変更用チューブ32に対して没入する方向へ移動する。このラック72における第1操舵角変更用チューブ32に対して没入する方向への移動に伴って、ラック歯72aと噛合されているピニオン73が左回りに回転し、旋回ユニット16が連結軸73aを介して左回りに旋回する。これにより、船舶10の進行方向が右方向に変更される。
【0040】
例えば、ハンドル18が左回りに操作されると、第1油圧ポンプ81は逆転する。そして、第1油圧ポンプ81は、第2シリンダ室44内のオイルを、第2操舵角変更用オイル給排孔45、第2操舵角変更用オイル流路81b、第1油圧ポンプ81、第1操舵角変更用オイル流路81a、及び第1操舵角変更用オイル給排孔35を介して第1シリンダ室34内に供給する。これにより、第1シリンダ室34内の油圧が、第2シリンダ室44内の油圧に打ち勝って、第1操舵角変更用ピストン33が底壁32aから離間する方向に移動するとともに第2操舵角変更用ピストン43が底壁42aに接近する方向へ移動し、ラック72が第2操舵角変更用チューブ42に対して没入する方向へ移動する。このラック72における第2操舵角変更用チューブ42に対して没入する方向への移動に伴って、ラック歯72aと噛合されているピニオン73が右回りに回転し、旋回ユニット16が連結軸73aを介して右回りに旋回する。これにより、船舶10の進行方向が左方向に変更される。
【0041】
ハンドル18が、船舶10を直進させる中立位置にある場合、第1操舵角変更用ピストン33と底壁32aとの間の距離と、第2操舵角変更用ピストン43と底壁42aとの間の距離とは同じである。ハンドル18が中立位置の状態から右回りに操作されて、第1操舵角変更用ピストン33と底壁32aとの間の距離と、第2操舵角変更用ピストン43と底壁42aとの間の距離とが同じ状態から、第1操舵角変更用ピストン33が底壁32aに接近するほど、旋回ユニット16における左方向、即ち船舶10の右回りへの操舵角が大きくなっていく。そして、第1操舵角変更用ピストン33が底壁32aに当接するまで移動すると、旋回ユニット16における左方向、即ち船舶10の右回りへの操舵角が最大角度となる。本実施形態において、第1操舵角変更用ピストン33における底壁32aに当接するまでの移動は、第1操舵角変更用ピストン33のストロークエンドまでの移動である。
【0042】
ハンドル18が中立位置の状態から左回りに操作されて、第1操舵角変更用ピストン33と底壁32aとの間の距離と、第2操舵角変更用ピストン43と底壁42aとの間の距離とが同じ状態から、第2操舵角変更用ピストン43が底壁42aに接近するほど、旋回ユニット16における右方向、即ち船舶10の左回りへの操舵角が大きくなっていく。そして、第2操舵角変更用ピストン43が底壁42aに当接するまで移動すると、旋回ユニット16における右方向、即ち船舶10の左回りへの操舵角が最大角度となる。本実施形態において、第2操舵角変更用ピストン43における底壁42aに当接するまでの移動は、第2操舵角変更用ピストン43のストロークエンドまでの移動である。なお、
図1のような旋回ユニット16の操舵角の最大角度は、例えば、±90度である。
【0043】
したがって、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43は、旋回ユニット16、すなわち船外機推進ユニット12の操舵角の変更を行うために第1シリンダ室34及び第2シリンダ室44内の油圧によって第1操舵角変更用シリンダ31及び第2操舵角変更用シリンダ41内を往復動する一対の操舵角変更用ピストンである。そして、ラックアンドピニオン機構71は、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43の往復動に伴って駆動して船外機推進ユニット12の操舵角を変更する。
【0044】
船舶用操舵装置30は、オイルタンク82と第2油圧ポンプ83とを接続する第1接続流路85を備えている。また、船舶用操舵装置30は、第2油圧ポンプ83と切替弁84とを接続する第2接続流路86を備えている。さらに、船舶用操舵装置30は、切替弁84とオイルタンク82とを接続する第3接続流路87を備えている。第1接続流路85、第2接続流路86、及び第3接続流路87は、例えば、配管によってそれぞれ構成されている。
【0045】
船舶用操舵装置30は、切替弁84と第1オイル給排孔55aとを接続する第1操舵角制限用オイル流路84aを備えている。また、船舶用操舵装置30は、切替弁84と第2オイル給排孔55bとを接続する第2操舵角制限用オイル流路84bを備えている。船舶用操舵装置30は、第1操舵角制限用オイル流路84aと第3オイル給排孔65aとを接続する第3操舵角制限用オイル流路84cを備えている。また、船舶用操舵装置30は、第2操舵角制限用オイル流路84bと第4オイル給排孔65bとを接続する第4操舵角制限用オイル流路84dを備えている。第2接続流路86、第1操舵角制限用オイル流路84a、第2操舵角制限用オイル流路84b、第3操舵角制限用オイル流路84c、及び第4操舵角制限用オイル流路84dは、第2油圧ポンプ83と第1操舵角制限用シリンダ51及び第2操舵角制限用シリンダ61とを接続する油圧配管88を構成している。そして、切替弁84は、油圧配管88に設けられている。
【0046】
オイルタンク82には作動油としてのオイルが貯留されている。第2油圧ポンプ83は、内燃機関14の動力によって駆動する。そして、内燃機関14の動力によって第2油圧ポンプ83が駆動すると、オイルタンク82内に貯留されているオイルが、第1接続流路85、第2油圧ポンプ83、及び第2接続流路86を介して切替弁84に供給される。
【0047】
切替弁84は、制御装置20に電気的に接続されている。切替弁84は、制御装置20から出力される指令信号に基づいて動作する電磁弁である。制御装置20には、切替弁84を動作させるための指令信号を生成するためのプログラムが予め記憶されている。切替弁84を動作させるための指令信号は、ハンドル18の操作量、アクセルレバー19の位置、及び船速それぞれに関する情報から生成される。
【0048】
切替弁84は、第2油圧ポンプ83から第2接続流路86を介して供給されたオイルにおける第1操舵角制限用オイル流路84aへの流れを許容し、且つ第2操舵角制限用オイル流路84bからのオイルにおける第3接続流路87への流れを許容する第1弁切替状態に切替可能に構成されている。また、切替弁84は、第2油圧ポンプ83から第2接続流路86を介して供給されたオイルにおける第2操舵角制限用オイル流路84bへの流れを許容し、且つ第1操舵角制限用オイル流路84aからのオイルにおける第3接続流路87への流れを許容する第2弁切替状態に切替可能に構成されている。さらに、切替弁84は、第2油圧ポンプ83から第2接続流路86を介して供給されたオイルにおける第1操舵角制限用オイル流路84a及び第2操舵角制限用オイル流路84bそれぞれへの流れを遮断し、且つ第2接続流路86から供給されたオイルにおける第3接続流路87への流れを許容する第3弁切替状態に切替可能に構成されている。切替弁84は、制御装置20からの指令信号によって、第1弁切替状態、第2弁切替状態、及び第3弁切替状態の3つの弁切替状態に切替可能に構成されている。
【0049】
制御装置20には、操舵角制限無しモード実行処理を行うプログラムが予め記憶されている。また、制御装置20には、操舵角制限有りモード実行処理を行うプログラムが予め記憶されている。さらに、制御装置20には、操舵角制限有りモード実行処理を行うか否かの判断処理を行うプログラムが予め記憶されている。
【0050】
制御装置20は、例えば、操舵角制限無しモード実行処理を行っている際に、判断処理によって、操舵角制限有りモード実行処理を行う旨の判断がされ、操舵角制限無しモード実行処理から操舵角制限有りモード実行処理に切り替わった場合、切替弁84が第1弁切替状態に切り替わるように切替弁84の動作を制御する。すると、第2油圧ポンプ83から第2接続流路86を介して切替弁84に供給されたオイルにおける第1操舵角制限用オイル流路84aへの流れが許容され、且つ第2操舵角制限用オイル流路84bからのオイルにおける切替弁84を介した第3接続流路87への流れが許容される。
【0051】
図4に示すように、第2油圧ポンプ83から第2接続流路86を介して切替弁84に供給されたオイルが第1操舵角制限用オイル流路84aへ流れると、第1操舵角制限用オイル流路84a及び第1オイル給排孔55aを介して第1操舵角制限用圧力作用室54a内にオイルが供給される。そして、第1ピストン部53aは、第1操舵角制限用圧力作用室54a内の油圧を受圧して第1ストッパ部材56aから第2ストッパ部材56bに向けて移動するとともに、第1ロッド部53bが貫通孔36を介して第1操舵角変更用シリンダ31内に突出する。また、第1ピストン部53aにおける第1ストッパ部材56aから第2ストッパ部材56bに向けた移動に伴って、第1操舵角復帰用圧力作用室54b内のオイルが第2オイル給排孔55b、第2操舵角制限用オイル流路84b、切替弁84、及び第3接続流路87を介してオイルタンク82へ還流される。
【0052】
また、第2油圧ポンプ83から第2接続流路86を介して切替弁84に供給されたオイルが第1操舵角制限用オイル流路84aへ流れると、第1操舵角制限用オイル流路84a、第3操舵角制限用オイル流路84c、及び第3オイル給排孔65aを介して第2操舵角制限用圧力作用室64a内にオイルが供給される。そして、第2ピストン部63aは、第2操舵角制限用圧力作用室64a内の油圧を受圧して第3ストッパ部材66aから第4ストッパ部材66bに向けて移動するとともに、第2ロッド部63bが貫通孔46を介して第2操舵角変更用シリンダ41内に突出する。また、第2ピストン部63aにおける第3ストッパ部材66aから第4ストッパ部材66bに向けた移動に伴って、第2操舵角復帰用圧力作用室64b内のオイルが第4オイル給排孔65b、第4操舵角制限用オイル流路84d、第2操舵角制限用オイル流路84b、切替弁84、及び第3接続流路87を介してオイルタンク82へ還流される。
【0053】
第1ピストン部53aにおける第1ストッパ部材56aから第2ストッパ部材56bに向けた移動と、第2ピストン部63aにおける第3ストッパ部材66aから第4ストッパ部材66bに向けた移動とは、同期して行われる。よって、第1ピストン部53aにおける第1ストッパ部材56aから離間するタイミングと、第2ピストン部63aにおける第3ストッパ部材66aから離間するタイミングとは同じである。また、第1ピストン部53aにおける第2ストッパ部材56bに当接するタイミングと、第2ピストン部63aにおける第4ストッパ部材66bに当接するタイミングとは同じである。したがって、第1ピストン部53aが第1ストッパ部材56aから第2ストッパ部材56bまで移動するのに要する時間と、第2ピストン部63aが第3ストッパ部材66aから第4ストッパ部材66bまで移動するのに要する時間とは同じである。
【0054】
第1操舵角変更用シリンダ31内に突出した第1ロッド部53bは、第1操舵角変更用ピストン33と当接することにより、第1操舵角変更用ピストン33のストロークエンドまでの移動を規制する。よって、操舵角制限有りモード実行処理の際には、第1操舵角変更用ピストン33が底壁32aに当接しないため、旋回ユニット16における左方向、即ち船舶10の右回りへの操舵角が制限された状態となる。
【0055】
また、第2操舵角変更用シリンダ41内に突出した第2ロッド部63bは、第2操舵角変更用ピストン43と当接することにより、第2操舵角変更用ピストン43のストロークエンドまでの移動を規制する。よって、操舵角制限有りモード実行処理の際には、第2操舵角変更用ピストン43が底壁42aに当接しないため、旋回ユニット16における右方向、即ち船舶10の左回りへの操舵角が制限された状態となる。
【0056】
したがって、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63は、旋回ユニット16、すなわち船外機推進ユニット12の操舵角を制限するために第1操舵角制限用チューブ52及び第2操舵角制限用チューブ62それぞれの内部を往復動する操舵角制限用ピストンである。
【0057】
そして、制御装置20は、第1ピストン部53aが第2ストッパ部材56bに当接するとともに第2ピストン部63aが第4ストッパ部材66bに当接すると、切替弁84が第3弁切替状態に切り替わるように切替弁84の動作を制御する。すると、第2油圧ポンプ83から第2接続流路86を介して切替弁84に供給されたオイルにおける第1操舵角制限用オイル流路84a及び第2操舵角制限用オイル流路84bそれぞれへの流れが遮断され、且つ第2接続流路86から切替弁84に供給されたオイルにおける第3接続流路87への流れが許容される。これにより、第2油圧ポンプ83から第2接続流路86を介して切替弁84に供給されたオイルは、第3接続流路87を介してオイルタンク82へ還流される。
【0058】
そして、第1操舵角制限用圧力作用室54a内の油圧と第1操舵角復帰用圧力作用室54b内の油圧との均衡が保たれるとともに、第2操舵角制限用圧力作用室64a内の油圧と第2操舵角復帰用圧力作用室64b内の油圧との均衡が保たれる。その結果、第1ロッド部53bが第1操舵角変更用シリンダ31内に突出するとともに、第2ロッド部63bが第2操舵角変更用シリンダ41内に突出した状態で、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63それぞれの位置が保持される。
【0059】
制御装置20は、例えば、操舵角制限有りモード実行処理を行っている際に、判断処理によって、操舵角制限無しモード実行処理を行う旨の判断がされ、操舵角制限有りモード実行処理から操舵角制限無しモード実行処理に切り替わった場合、切替弁84が第2弁切替状態に切り替わるように切替弁84の動作を制御する。すると、第2油圧ポンプ83から第2接続流路86を介して切替弁84に供給されたオイルにおける第2操舵角制限用オイル流路84bへの流れが許容され、且つ第1操舵角制限用オイル流路84aからのオイルにおける切替弁84を介した第3接続流路87への流れが許容される。
【0060】
図3に示すように、第2油圧ポンプ83から第2接続流路86を介して切替弁84に供給されたオイルが第2操舵角制限用オイル流路84bへ流れると、第2操舵角制限用オイル流路84b及び第2オイル給排孔55bを介して第1操舵角復帰用圧力作用室54b内にオイルが供給される。そして、第1ピストン部53aは、第1操舵角復帰用圧力作用室54b内の油圧を受圧して第2ストッパ部材56bから第1ストッパ部材56aに向けて移動するとともに、第1ロッド部53bが第1操舵角変更用シリンダ31内に対して没入する。また、第1ピストン部53aにおける第2ストッパ部材56bから第1ストッパ部材56aに向けた移動に伴って、第1操舵角制限用圧力作用室54a内のオイルが第1オイル給排孔55a、第1操舵角制限用オイル流路84a、切替弁84、及び第3接続流路87を介してオイルタンク82へ還流される。
【0061】
また、第2油圧ポンプ83から第2接続流路86を介して切替弁84に供給されたオイルが第2操舵角制限用オイル流路84bへ流れると、第2操舵角制限用オイル流路84b、第4操舵角制限用オイル流路84d、及び第4オイル給排孔65bを介して第2操舵角復帰用圧力作用室64b内にオイルが供給される。そして、第2ピストン部63aは、第2操舵角復帰用圧力作用室64b内の油圧を受圧して第4ストッパ部材66bから第3ストッパ部材66aに向けて移動するとともに、第2ロッド部63bが第2操舵角変更用シリンダ41内に対して没入する。また、第2ピストン部63aにおける第4ストッパ部材66bから第3ストッパ部材66aに向けた移動に伴って、第2操舵角制限用圧力作用室64a内のオイルが第3オイル給排孔65a、第3操舵角制限用オイル流路84c、第1操舵角制限用オイル流路84a、切替弁84、及び第3接続流路87を介してオイルタンク82へ還流される。
【0062】
第1ピストン部53aにおける第2ストッパ部材56bから第1ストッパ部材56aに向けた移動と、第2ピストン部63aにおける第4ストッパ部材66bから第3ストッパ部材66aに向けた移動とは、同期して行われる。よって、第1ピストン部53aにおける第2ストッパ部材56bから離間するタイミングと、第2ピストン部63aにおける第4ストッパ部材66bから離間するタイミングとは同じである。また、第1ピストン部53aにおける第1ストッパ部材56aに当接するタイミングと、第2ピストン部63aにおける第3ストッパ部材66aに当接するタイミングとは同じである。したがって、第1ピストン部53aが第2ストッパ部材56bから第1ストッパ部材56aまで移動するのに要する時間と、第2ピストン部63aが第4ストッパ部材66bから第3ストッパ部材66aまで移動するのに要する時間とは同じである。
【0063】
第1ピストン部53aが第1ストッパ部材56aに当接するまで移動し、第1ロッド部53bが第1操舵角変更用シリンダ31内に対して最も没入した状態となると、第1ロッド部53bの先端は、貫通孔36から第1操舵角変更用シリンダ31内に突出していない状態となる。よって、第1操舵角変更用シリンダ31内に対して没入した第1ロッド部53bは、第1操舵角変更用ピストン33のストロークエンドまでの移動を許容する。したがって、操舵角制限無しモード実行処理の際には、第1操舵角変更用ピストン33が底壁32aに当接可能なため、旋回ユニット16における左方向、即ち船舶10の右回りへの操舵角の制限が解除された状態となる。
【0064】
第2ピストン部63aが第3ストッパ部材66aに当接するまで移動し、第2ロッド部63bが第2操舵角変更用シリンダ41内に対して最も没入した状態となると、第2ロッド部63bの先端は、貫通孔46から第2操舵角変更用シリンダ41内に突出していない状態となる。よって、第2操舵角変更用シリンダ41内に対して没入した第2ロッド部63bは、第2操舵角変更用ピストン43のストロークエンドまでの移動を許容する。したがって、操舵角制限無しモード実行処理の際には、第2操舵角変更用ピストン43が底壁42aに当接可能なため、旋回ユニット16における右方向、即ち船舶10の左回りへの操舵角の制限が解除された状態となる。
【0065】
したがって、第2油圧ポンプ83は、第1操舵角制限用シリンダ51及び第2操舵角制限用シリンダ61にオイルをそれぞれ給排して第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63をそれぞれ往復動させる。切替弁84は、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63を、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43のストロークエンドまでの移動を許容する許容状態に切り替える動作を行う。また、切替弁84は、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63を、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43のストロークエンドまでの移動を規制する規制状態に切り替える動作を行う。したがって、切替弁84は、上記許容状態と上記規制状態との双方に切り替えるために動作し、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63は、上記許容状態と上記規制状態との双方に切り替え可能である。そして、切替弁84は、第2油圧ポンプ83における第1操舵角制限用シリンダ51及び第2操舵角制限用シリンダ61それぞれへのオイルの給排を切り替える。したがって、第1操舵角制限用シリンダ51及び第2操舵角制限用シリンダ61は、複動形のシリンダである。
【0066】
制御装置20は、第1ピストン部53aが第1ストッパ部材56aに当接するとともに第2ピストン部63aが第3ストッパ部材66aに当接すると、切替弁84が第3弁切替状態に切り替わるように切替弁84の動作を制御する。すると、第2油圧ポンプ83から第2接続流路86を介して切替弁84に供給されたオイルにおける第1操舵角制限用オイル流路84a及び第2操舵角制限用オイル流路84bそれぞれへの流れが遮断され、且つ第2接続流路86から切替弁84に供給されたオイルにおける第3接続流路87への流れが許容される。これにより、第2油圧ポンプ83から第2接続流路86を介して切替弁84に供給されたオイルは、第3接続流路87を介してオイルタンク82へ還流される。
【0067】
そして、第1操舵角制限用圧力作用室54a内の油圧と第1操舵角復帰用圧力作用室54b内の油圧との均衡が保たれるとともに、第2操舵角制限用圧力作用室64a内の油圧と第2操舵角復帰用圧力作用室64b内の油圧との均衡が保たれる。その結果、第1ロッド部53bが第1操舵角変更用シリンダ31に対して没入するとともに、第2ロッド部63bが第2操舵角変更用シリンダ41に対して没入した状態で、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63それぞれの位置が保持される。
【0068】
制御装置20には、操舵角制限値α、操舵角制限適用船速V、及び操舵角制限用ピストン動作完了時間Tが予め設定されたパラメータとして記憶されている。操舵角制限値αは、制御装置20が操舵角制限有りモードを実行している際に許容される船外機推進ユニット12の操舵角の上限値である。例えば、第1ピストン部53aが第2ストッパ部材56bに当接した状態において、第1操舵角変更用ピストン33と第1ロッド部53bとが当接すると、船外機推進ユニット12における左方向への操舵角が操舵角制限値αとなる。また、例えば、第2ピストン部63aが第4ストッパ部材66bに当接した状態において、第2操舵角変更用ピストン43と第2ロッド部63bとが当接すると、船外機推進ユニット12における右方向への操舵角が操舵角制限値αとなる。
【0069】
操舵角制限適用船速Vは、予め定められた船速であり、制御装置20が判断処理を実行している際に操舵角制限有りモード実行処理を行うか否かの判断に用いられる。そして、制御装置20には、船速が上昇して操舵角制限適用船速V以上になると、第1ロッド部53b及び第2ロッド部63bが第1操舵角変更用シリンダ31内及び第2操舵角変更用シリンダ41内にそれぞれ突出した状態となるように切替弁84の動作を制御するプログラムが予め記憶されている。したがって、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63は、船速が上昇して操舵角制限適用船速V以上となると、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43のストロークエンドまでの移動を許容する許容状態からストロークエンドまでの移動を規制する規制状態に切り替わるように動作する。制御装置20は、切替弁84の動作を船速に応じて制御する制御部である。
【0070】
操舵角制限用ピストン動作完了時間Tは、第1ピストン部53aが第1ストッパ部材56aから第2ストッパ部材56bまで移動するのに要する時間、又は第1ピストン部53aが第2ストッパ部材56bから第1ストッパ部材56aまで移動するのに要する時間である。なお、操舵角制限用ピストン動作完了時間Tは、第2ピストン部63aが第3ストッパ部材66aから第4ストッパ部材66bまで移動するのに要する時間、又は第2ピストン部63aが第4ストッパ部材66bから第3ストッパ部材66aまで移動するのに要する時間でもある。
【0071】
また、制御装置20には、アクセルレバー19の位置がアクセル全開位置で保持されると、第1ロッド部53b及び第2ロッド部63bが第1操舵角変更用シリンダ31内及び第2操舵角変更用シリンダ41内にそれぞれ突出した状態となるように切替弁84の動作を制御するプログラムが予め記憶されている。したがって、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63は、アクセルレバー19の位置がアクセル全開位置で保持されると、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43のストロークエンドまでの移動を許容する許容状態からストロークエンドまでの移動を規制する規制状態に切り替わるように動作する。
【0072】
アクセルレバー19の位置がアクセル全開位置で保持されると、船舶10は加速して最高速度に達する。したがって、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63は、船速が操舵角制限適用船速V以上である場合には、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43のストロークエンドまでの移動を規制する規制状態となるように少なくとも動作されている。
【0073】
また、制御装置20は、第1ピストン部53a及び第2ピストン部63aが移動し始めたときに、時間を計測するタイマー機能を有している。制御装置20には、第1ピストン部53a及び第2ピストン部63aが移動し始めたときに、第1ピストン部53a及び第2ピストン部63aの移動時間を、操舵角変更経過時間として計測するプログラムが予め記憶されている。
【0074】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図5に示すように、制御装置20は、まず、ステップS11において初期設定を行う。制御装置20は、初期設定として、操舵角制限無しモード実行処理を行うとともに、操舵角変更経過時間を「0」にし、さらには、操舵角制限越えフラグを「0」にする。次に、制御装置20は、ステップS12において、速度センサ21により検出された船速に関する情報、角度センサ22により検出されたハンドル18の操作量に関する情報、及び位置センサ23により検出されたアクセルレバー19の位置に関する情報をそれぞれ受信する。
【0075】
次に、制御装置20は、ステップS13において、速度センサ21により検出された船速が操舵角制限適用船速V以上であるか否かを判定する。制御装置20は、ステップS13において船速が操舵角制限適用船速V以上ではないと判定すると、ステップS14に移行し、ステップS14において位置センサ23により検出されたアクセルレバー19の位置がアクセル全開位置であるか否かを判定する。制御装置20は、ステップS14においてアクセルレバー19の位置がアクセル全開位置ではないと判定すると、ステップS15に移行し、ステップS15において操舵角制限有りモード実行処理を行っているか否かを判定する。
【0076】
制御装置20は、ステップS15において操舵角制限有りモード実行処理を行っていると判定すると、ステップS16に移行し、ステップS16において操舵角変更経過時間を「0」にする。そして、制御装置20は、ステップS17において操舵角制限無しモード実行処理を行う。一方、制御装置20は、ステップS15において操舵角制限有りモード実行処理を行っていないと判定すると、ステップS17に移行する。
【0077】
次に、制御装置20は、ステップS18において、操舵角変更経過時間が操舵角制限用ピストン動作完了時間T以上であるか否かを判定する。制御装置20は、ステップS18において操舵角変更経過時間が操舵角制限用ピストン動作完了時間T以上ではないと判定すると、ステップS19に移行し、ステップS19において切替弁84が第2弁切替状態となるように切替弁84の動作を制御する。また、制御装置20は、ステップS19において切替弁84が第2弁切替状態となるように切替弁84の動作を制御すると同時に、操舵角変更経過時間を計測する。そして、制御装置20は、ステップS20において、現在のモード実行処理の状況が操舵角制限無しモード実行処理中か操舵角制限有りモード実行処理中かを知らせるための操舵角制限状況に関する情報と、現在の船外機推進ユニット12の操舵角と、をディスプレイ24に出力する。その後、制御装置20は、ステップS12に移行し、ステップS12以降の処理を繰り返し行う。
【0078】
一方、制御装置20は、ステップS18において操舵角変更経過時間が操舵角制限用ピストン動作完了時間T以上であると判定すると、ステップS21に移行し、ステップS21において切替弁84が第3弁切替状態となるように切替弁84の動作を制御する。これにより、第1ロッド部53bが第1操舵角変更用シリンダ31に対して没入するとともに、第2ロッド部63bが第2操舵角変更用シリンダ41に対して没入した状態で、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63それぞれの位置が保持され、船外機推進ユニット12の操舵角が制限されていない状態となる。そして、制御装置20は、ステップS20に移行する。
【0079】
一方、制御装置20は、ステップS13において船速が操舵角制限適用船速V以上であると判定すると、ステップS22に移行し、ステップS22において操舵角制限無しモード実行処理を行っているか否か、又は操舵角制限越えフラグが「0」であるか否かを判定する。また、制御装置20は、ステップS14においてアクセルレバー19の位置がアクセル全開位置であると判定すると、ステップS22に移行する。
【0080】
ステップS13及びステップS14は、ステップS12において制御装置20が受信した船速に関する情報、ハンドル18の操作量に関する情報、及びアクセルレバー19の位置に関する情報に基づいて、操舵角制限有りモード実行処理を行うか否かの判断を制御装置20が行う判断処理である。
【0081】
制御装置20は、ステップS22において操舵角制限無しモード実行処理を行っている、又は操舵角制限越えフラグが「0」であると判定すると、ステップS23に移行し、ステップS23において操舵角変更経過時間を「0」にする。そして、制御装置20は、ステップS24において操舵角制限有りモード実行処理を行う。一方、制御装置20は、ステップS22において操舵角制限無しモード実行処理を行っていない、又は操舵角制限越えフラグが「0」ではないと判定すると、ステップS24に移行する。
【0082】
次に、制御装置20は、ステップS25において船外機推進ユニット12の操舵角の絶対値が操舵角制限値αよりも大きいか否かを判定する。制御装置20は、ステップS25において船外機推進ユニット12の操舵角の絶対値が操舵角制限値αよりも大きいと判定すると、ステップS26に移行し、ステップS26において操舵角制限越えフラグを「1」とする。そして、制御装置20は、ステップS27において船外機推進ユニット12の操舵角を操舵角制限値α以下にするようにディスプレイ24に警告表示を出力する。
【0083】
次に、制御装置20は、ステップS28において切替弁84が第1弁切替状態となるように切替弁84の動作を制御する。また、制御装置20は、ステップS28において切替弁84が第1弁切替状態となるように切替弁84の動作を制御すると同時に、操舵角変更経過時間を計測する。そして、制御装置20は、ステップS20に移行し、ステップS20において、現在の操舵角制限状況に関する情報と、現在の船外機推進ユニット12の操舵角と、をディスプレイ24に出力する。その後、制御装置20は、ステップS12に移行し、ステップS12以降の処理を繰り返し行う。
【0084】
一方、制御装置20は、ステップS25において船外機推進ユニット12の操舵角の絶対値が操舵角制限値αよりも大きくないと判定すると、ステップS29に移行し、ステップS29において操舵角制限越えフラグを「0」とする。そして、制御装置20は、ステップS30において、操舵角変更経過時間が操舵角制限用ピストン動作完了時間T以上であるか否かを判定する。
【0085】
制御装置20は、ステップS30において操舵角変更経過時間が操舵角制限用ピストン動作完了時間T以上ではないと判定すると、ステップS28に移行し、ステップS28以降の処理を行う。一方、ステップS30において操舵角変更経過時間が操舵角制限用ピストン動作完了時間T以上あると判定すると、ステップS21に移行し、ステップS21において切替弁84が第3弁切替状態となるように切替弁84の動作を制御する。これにより、第1ロッド部53bが第1操舵角変更用シリンダ31内に突出するとともに、第2ロッド部63bが第2操舵角変更用シリンダ41内に突出した状態で、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63それぞれの位置が保持され、船外機推進ユニット12の操舵角が制限された状態となる。
【0086】
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63は、船速が操舵角制限適用船速V以上である場合には、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43のストロークエンドまでの移動を規制する規制状態となるように少なくとも動作されている。そして、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43それぞれのストロークエンドまでの移動が規制された状態で、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43の往復動に伴ってラックアンドピニオン機構71が駆動することで、操舵角の制限が行われた状態での船外機推進ユニット12の操舵が行われる。したがって、油圧を用いて船外機推進ユニット12を旋回動作させる油圧駆動式の船舶用操舵装置30を採用した場合において、船舶10の高速走行時における船外機推進ユニット12の操舵角の制限を行うことができる。
【0087】
(2)第1操舵角制限用シリンダ51内には、第1操舵角制限用ピストン53のストローク範囲を制限する第1ストッパ部材56a及び第2ストッパ部材56bが設けられており、第2操舵角制限用シリンダ61内には、第2操舵角制限用ピストン63のストローク範囲を制限する第3ストッパ部材66a及び第4ストッパ部材66bが設けられている。これによれば、第1操舵角制限用シリンダ51内に設けられる第1ストッパ部材56a及び第2ストッパ部材56bの位置を変更するとともに、第2操舵角制限用シリンダ61内に設けられる第3ストッパ部材66a及び第4ストッパ部材66bの位置を変更することで、船外機推進ユニット12の操舵角の制限角度を容易に調整することができる。
【0088】
(3)第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63は、船速が上昇して操舵角制限適用船速V以上となると、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43のストロークエンドまでの移動を許容する許容状態からストロークエンドまでの移動を規制する規制状態に切り替わるように動作する。これによれば、船舶10が操舵角制限適用船速V以上の船速で走行している際に、船外機推進ユニット12の操舵角の制限を確実に行うことができる。
【0089】
(4)アクセルレバー19の位置がアクセル全開位置で保持されると、船舶10は加速して最高速度に達する。そこで、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63は、アクセルレバー19の位置がアクセル全開位置で保持されると、第1操舵角変更用ピストン33及び第2操舵角変更用ピストン43のストロークエンドまでの移動を許容する許容状態からストロークエンドまでの移動を規制する規制状態に切り替わるように動作する。これにより、船外機推進ユニット12の操舵角の制限を早期に行うことができる。
【0090】
(5)制御装置20が、切替弁84が第3弁切替状態となるように切替弁84の動作を制御することにより、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63それぞれの位置が保持される。これにより、第1ストッパ部材56a、第2ストッパ部材56b、第3ストッパ部材66a、及び第4ストッパ部材66bそれぞれに負荷が掛かってしまうことを抑制できる。
【0091】
(6)本実施形態の船舶用操舵装置30によれば、油圧を用いて船外機推進ユニット12の操舵を行うことができるため、船外機推進ユニット12の重量が大きい場合であっても、船外機推進ユニット12の操舵を容易に行うことができる。
【0092】
(7)本実施形態の船舶用操舵装置30によれば、従来技術のように、ハンドル18に反力を与える反力モータを備える必要が無いため、船体11側の構成に制約が生じてしまうことを抑制することができる。
【0093】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0094】
○
図6に示すように、第1操舵角制限用チューブ52の底壁52aと第1操舵角制限用ピストン53の第1ピストン部53aとの間に、第1ロッド部53bが第1操舵角変更用シリンダ31内に対して没入する方向へ第1操舵角制限用ピストン53を付勢する引張ばね91を設けてもよい。これによれば、操舵角制限有りモード実行処理から操舵角制限無しモード実行処理に切り替わったときに、引張ばね91の付勢力によって、第1ロッド部53bが第1操舵角変更用シリンダ31内に対して没入する方向へ第1操舵角制限用ピストン53をスムーズに移動させることができる。なお、この場合、第2操舵角制限用チューブ62の底壁62aと第2操舵角制限用ピストン63の第2ピストン部63aとの間にも、第2ロッド部63bが第2操舵角変更用シリンダ41内に対して没入する方向へ第2操舵角制限用ピストン63を付勢する引張ばね91を設けてもよい。
【0095】
○ 実施形態において、第1操舵角制限用チューブ52の底壁52aと第1操舵角制限用ピストン53の第1ピストン部53aとの間に、第1ロッド部53bが第1操舵角変更用シリンダ31内に突出する方向へ第1操舵角制限用ピストン53を付勢する付勢ばねを設けてもよい。これによれば、操舵角制限無しモード実行処理から操舵角制限有りモード実行処理に切り替わったときに、付勢ばねの付勢力によって、第1ロッド部53bが第1操舵角変更用シリンダ31内に突出する方向へ第1操舵角制限用ピストン53をスムーズに移動させることができる。なお、この場合、第2操舵角制限用チューブ62の底壁62aと第2操舵角制限用ピストン63の第2ピストン部63aとの間にも、第2ロッド部63bが第2操舵角変更用シリンダ41内に突出する方向へ第2操舵角制限用ピストン63を付勢する付勢ばねを設けてもよい。
【0096】
○
図7に示すように、第1ロッド部53bの先端に環状のフランジ92を設けてもよい。これによれば、第1ロッド部53bの先端にフランジ92が設けられていない場合に比べると、第1ロッド部53bにおける第1操舵角変更用ピストン33との接触面積が大きくなるため、第1操舵角変更用ピストン33のストロークエンドまでの移動を規制し易くすることができる。なお、第2ロッド部63bの先端にも環状のフランジ92を設けてもよい。
【0097】
○ 実施形態において、船舶用操舵装置30は、第1ストッパ部材56a、第2ストッパ部材56b、第3ストッパ部材66a、及び第4ストッパ部材66bを削除した構成であってもよい。この場合、第1ピストン部53aは、第1操舵角制限用チューブ52の底壁52aと第1操舵角変更用チューブ32の底壁32aとの間で移動する。また、第2ピストン部63aは、第2操舵角制限用チューブ62の底壁62aと第2操舵角変更用チューブ42の底壁42aとの間で移動する。なお、この場合、第1ピストン部53aが底壁52aに当接している状態や第1ピストン部53aが底壁32aに当接している状態において、第1オイル給排孔55a又は第2オイル給排孔55bにおけるオイルの給排が行われ易くなるように、第1ピストン部53aの角部全周に切欠が形成されているとよい。また、第2ピストン部63aが底壁62aに当接している状態や第2ピストン部63aが底壁42aに当接している状態において、第3オイル給排孔65a又は第4オイル給排孔65bにおけるオイルの給排が行われ易くなるように、第2ピストン部63aの角部全周に切欠が形成されているとよい。
【0098】
○ 実施形態において、第1ストッパ部材56a及び第2ストッパ部材56bにおける第1操舵角制限用シリンダ51内での位置、第3ストッパ部材66a及び第4ストッパ部材66bにおける第2操舵角制限用シリンダ61内での位置を適宜変更してもよい。
【0099】
○ 実施形態において、制御装置20は、アクセルレバー19の位置がアクセル全開位置で保持された場合であっても、第1ロッド部53b及び第2ロッド部63bが第1操舵角変更用シリンダ31内及び第2操舵角変更用シリンダ41内に突出した状態となるように切替弁84の動作を制御しなくてもよい。
【0100】
○ 実施形態において、船舶用操舵装置30は、例えば、第1操舵角変更用シリンダ31内及び第2操舵角変更用シリンダ41内それぞれの油圧や油温、第1操舵角制限用シリンダ51内及び第2操舵角制限用シリンダ61内それぞれの油圧や油温、内燃機関14の回転数、船舶10の加速度等を検出する各種センサをさらに備えていてもよい。そして、制御装置20が、船速に加えて、各々のパラメータを用いて、切替弁84の動作の制御を行ってもよい。これによれば、切替弁84の動作を精度よく制御することができる。
【0101】
○ 実施形態において、制御装置20は、ステップS27において船外機推進ユニット12の操舵角を操舵角制限値α以下にするようにディスプレイ24に警告表示を出力したが、これに限らず、例えば、ランプやブザー又は音声によって警告をするようにしてもよい。
【0102】
○ 実施形態において、船舶用操舵装置30は、第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63それぞれの位置を検出するピストン位置検出センサを備えていてもよい。この場合、制御装置20は、第1ピストン部53a及び第2ピストン部63aの移動時間を、操舵角変更経過時間として計測しなくてもよい。
【0103】
○ 実施形態において、船外機推進ユニット12の操舵角の最大角度は、±90度でなくてもよく、操舵角の最大角度は特に限定されるものではない。
○ 実施形態において、第1操舵角変更用チューブ32及び第2操舵角変更用チューブ42は、それぞれの開口が繋がった状態で配置されていてもよい。また、第1操舵角変更用チューブ32及び第2操舵角変更用チューブ42が、それぞれの開口が繋がっており、一体形成されていてもよい。つまり、操舵角変更用シリンダは、一つのシリンダで形成されていてもよい。要は、操舵角変更用シリンダは、一対のシリンダ室を有しており、一対のシリンダ室内の油圧によって操舵角変更用シリンダ内を一対の操舵角変更用ピストンが往復動する構成であればよい。
【0104】
○ 実施形態において、第1操舵角制限用シリンダ51及び第2操舵角制限用シリンダ61は、例えば、上記規制状態から上記許容状態に切り替える際に、復帰ばねによって第1操舵角制限用ピストン53及び第2操舵角制限用ピストン63それぞれを移動させる単動形のシリンダであってもよい。
【符号の説明】
【0105】
10…船舶、11…船体、12…船外機推進ユニット、18…ハンドル、19…アクセルレバー、30…船舶用操舵装置、31…操舵角変更用シリンダを構成する第1操舵角変更用シリンダ、33…操舵角変更用ピストンである第1操舵角変更用ピストン、34…シリンダ室としての第1シリンダ室、41…操舵角変更用シリンダを構成する第2操舵角変更用シリンダ、43…操舵角変更用ピストンである第2操舵角変更用ピストン、51…操舵角制限用シリンダである第1操舵角制限用シリンダ、53…操舵角制限用ピストンである第1操舵角制限用ピストン、53a…ピストン部としての第1ピストン部、53b…ロッド部としての第1ロッド部、56a…ストッパ部材である第1ストッパ部材、56b…ストッパ部材である第2ストッパ部材、61…操舵角制限用シリンダである第2操舵角制限用シリンダ、63…操舵角制限用ピストンである第2操舵角制限用ピストン、63a…ピストン部としての第1ピストン部、63b…ロッド部としての第1ロッド部、66a…ストッパ部材である第3ストッパ部材、66b…ストッパ部材である第4ストッパ部材、71…ラックアンドピニオン機構、81…第1油圧ポンプ、83…第2油圧ポンプ。