(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/20 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
C22B1/20 B
C22B1/20 J
(21)【出願番号】P 2019091317
(22)【出願日】2019-05-14
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 勝
(72)【発明者】
【氏名】石山 理
(72)【発明者】
【氏名】矢部 英昭
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178148(JP,A)
【文献】特開平05-230558(JP,A)
【文献】特開平06-179872(JP,A)
【文献】特開2013-237876(JP,A)
【文献】特開2014-001435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結機内に下段系配合原料を装入することで、下段原料充填層を形成する工程と、前記下段原料充填層上に上段系配合原料を装入することで、上段原料充填層を形成する工程と、前記下段原料充填層の表面および前記上段原料充填層の表面にそれぞれ点火するとともに、前記下段原料充填層および前記上段原料充填層中の空気を下方に吸引する工程と、を有する二段点火焼結法において、
前記下段系配合原料が、コークス及び/又は無煙炭と、
前記下段系配合原料におけるコークス及び無煙炭よりも着火温度の低い高燃焼性炭材とを含
み、
前記上段系配合原料は、炭材としてコークス及び/又は無煙炭のみを含むことを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
焼結機内に下段系配合原料を装入することで、下段原料充填層を形成する工程と、前記下段原料充填層上に上段系配合原料を装入することで、上段原料充填層を形成する工程と、前記下段原料充填層の表面および前記上段原料充填層の表面にそれぞれ点火するとともに、前記下段原料充填層および前記上段原料充填層中の空気を下方に吸引する工程と、を有する二段点火焼結法において、
前記下段系配合原料が、コークス及び/又は無煙炭と、前記下段系配合原料におけるコークス及び無煙炭よりも着火温度の低い高燃焼性炭材とを含み、
前記上段系配合原料として、前記下段系配合原料として使用するコークス又は無煙炭よりも窒素含有量が大きいコークス及び/又は無煙炭を使用することを特徴とす
る焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
前記下段系配合原料に含まれる全炭材量に対し、前記高燃焼性炭材の配合比率を30mass%以上70mass%以下とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
前記下段系配合原料が、前記高燃焼性炭材として、ロガ指数10未満の低流動性石炭を原炭として乾留したチャーを含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項5】
前記下段系配合原料が、前記高燃焼性炭材として、アブラ椰子核殻を加熱処理して製造した固体炭化物であるアブラ椰子核殻炭を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高炉製銑の主原料は、焼結鉱である。この焼結鉱は、通常、次のように製造される。まず、原料となる鉄鉱石(粉)、製鋼ダスト等の含鉄雑原料、橄欖岩等のMgO含有副原料、石灰石等のCaO含有副原料、返鉱、燃焼熱によって焼結鉱を焼結(凝結)させる燃料となる炭材(凝結材とも言う)を所定の割合で混合し、混合物を、造粒して配合原料とする。次に、造粒された配合原料を、ホッパより、下方吸引式のドワイトロイド(DL)式焼結機のパレット上に搭載して、原料充填層を形成する。形成した原料充填層に上部(表面層)から原料充填層中の炭材に点火する。そして、パレットを連続的に移動させながらパレットの下方から空気を吸引することにより酸素を供給し、原料充填層中の炭材を上部から下部に向けて燃焼させることにより、炭材の燃焼熱により順次焼結させる。得られた焼結部(シンターケーキ)は、所定の粒度に粉砕、篩分け等により整粒して高炉の原料である焼結鉱となる。
【0003】
焼結用の炭材として、主に、コークス、無煙炭が用いられる。
焼結用のコークスは、高炉用のコークスを製造する過程で、高炉使用に適さない粒度(通常40mm以下)のものを、焼結使用に適する3mm以下に粉砕したものである。高炉用の塊コークスに対して焼結用を粉コークスとも呼ぶ。
無煙炭は、石炭に付与される分類(褐炭、瀝青炭、無煙炭)の一つで、最も炭化が進行した石炭である。燃料比(固定炭素/揮発分(質量比))で4以上の石炭、簡易には、炭素含有量が90質量%以上の石炭が無煙炭に分類される。焼結で使用される無煙炭は、さらに窒素含有量も少ないことが要求される。
【0004】
このようなDL式焼結機による焼結鉱の製造方法において、原料充填層の形成と点火を二段以上の多段で行う多段装入多段点火焼結法が提案されている。
多段装入多段点火焼結法は、配合原料を焼結機の層高方向に順次に積荷して多段の原料充填層を形成するとともに各原料層表面に点火し、下方から空気を吸引することにより、各層の焼結反応を同時並行に進行させて焼結する方法である。
【0005】
二段で装入し、二段で点火する二段装入二段点火焼結法について
図1により説明する。
最初に、焼結鉱製造用の配合原料を造粒するために、含鉄原料に、副原料、炭材等を配合した原料に、水分を加えて、第1のドラムミキサー1A、第2のドラムミキサー2Aによりそれぞれ造粒する。
第1のドラムミキサー1Aにより造粒された第1の配合原料を第1のホッパ1Bから、図示を省略しているが床敷鉱を敷きつめたパレット上に装入し、下段層10を形成する。
パレット上に形成された下段層10は、パレットをパレット進行方向5へ移動させることにより、第1の点火器1C下まで移動し、そこで、第1の点火器1Cにより原料層(下段層10)表面の炭材に点火される。点火後、図示を省略したパレット下の風箱を介して、下方から空気を吸引する下方吸引6により、下段層10の焼結が開始され、引き続く下方吸引6によってそれが下方に進行して下段層燃焼帯10Aが形成される。
焼結が開始された下段層10が第2のホッパ2B下まで移動したとき、第2のドラムミキサー2Aにより造粒された第2の配合原料が、第2のホッパ2Bから点火後の下段層10上に装入されて、上段層20を形成する。
形成された上段層20の上部から第2の点火器2Cにより原料層(上段層20)表面の炭材に点火し、下方吸引6により、上段層燃焼帯20Aが形成され、上段層20の焼結が開始される。焼結が進行するに従い下降していく下段層燃焼帯10A、上段層燃焼帯20Aの前面(最下部)を、それぞれの燃焼帯の燃焼前線と呼ぶ。
その後の下方吸引6により、下段層10、上段層20のそれぞれの下段層燃焼帯10A、上段層燃焼帯20Aが同時並行で下降して焼結が進行する。下段層燃焼帯10A、上段層燃焼帯20Aがそれぞれの層の最下部まで到達すると、炭材の燃焼による焼結が終了し、焼結部3となる。最終的に、焼結が完了した焼結部3は、パレット終端より排鉱される。
【0006】
焼結鉱の製造過程における炭材の燃焼にともない、炭材中に含まれる窒素に起因するNOx(Fuel NOx)が発生する。これが、焼結の排ガスに数百ppmの濃度で含まれる。NOxは、大気汚染の一原因物質であるので、大気に放出する前にそれを排ガスから除くか、そもそも排ガス中にそれが含まれないように、焼結過程におけるNOxの生成を抑える必要がある。
【0007】
従来、焼結後の排ガス中のNOx低減手段として、焼結前に粉コークスを生石灰・消石灰で被覆する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、生石灰・消石灰は高価であるとともに、製鉄所によっては配合量に制約がある。
【0008】
特許文献2には、多段装入多段点火焼結法は、各層の原料の供給比率を変えることができるため、上段層20と下段層10の粒度差から生じる通気性阻害等による焼結歩留の低下をカバーでき、歩留が向上し、排ガス量を削減する利点を有する旨記載されている。
しかし、特許文献2には、NOxの生成、あるいは低減について、なんら記載も示唆もされていない。
【0009】
特許文献3では、多段装入多段点火焼結法により、焼結排ガスNOxを低減できるとしている。NOx低減機構については、以下のとおりである。
1.下段層10の焼結は、低酸素濃度における炭材燃焼のため、NOx転換率(炭材に含有されている窒素が燃焼時にNOxとして放出される比率)が低下する。
2.上段層20の焼結時に生成したNOxが、下段層燃焼帯10Aで分解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-172067号公報
【文献】特開昭47-26304号公報
【文献】特開昭53-48904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献3に記載されるように、多段装入多段点火焼結法によれば、それだけで下段層10から排出される最終的な排ガス中のNOxはある程度低減される。しかしながら、環境負荷を抑えるためには、この排ガス中のNOxをさらに低減させ、排ガス処理に必要な処理工程やエネルギーを減少させることが望まれている。
【0012】
本発明は、炭材に被覆等の特段の処理を施さず、焼結排ガス中のNOx排出量をさらに低減できる、二段装入二段点火焼結法による焼結鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、その要旨とするところは、以下のとおりである。
【0014】
(1)焼結機内に下段系配合原料を装入することで、下段原料充填層を形成する工程と、前記下段原料充填層上に上段系配合原料を装入することで、上段原料充填層を形成する工程と、前記下段原料充填層の表面および前記上段原料充填層の表面にそれぞれ点火するとともに、前記下段原料充填層および前記上段原料充填層中の空気を下方に吸引する工程と、を有する二段点火焼結法において、
前記下段系配合原料が、コークス及び/又は無煙炭と、コークス及び無煙炭よりも着火温度の低い高燃焼性炭材とを含むことを特徴とする焼結鉱の製造方法。
(2)前記上段系配合原料として、前記下段系配合原料として使用するコークス又は無煙炭よりも窒素含有量が大きいコークス及び/又は無煙炭を使用することを特徴とする(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
(3)前記下段系配合原料に含まれる全炭材量に対し、前記高燃焼性炭材の配合比率を30mass%以上70mass%以下とすること
を特徴とする(1)又は(2)に記載の焼結鉱の製造方法。
(4)前記下段系配合原料が、前記高燃焼性炭材として、ロガ指数10未満の低流動性石炭を原炭として乾留したチャーを含むこと
を特徴とする(1)~(3)のいずれか1つに記載の焼結鉱の製造方法。
(5)前記下段系配合原料が、前記高燃焼性炭材として、アブラ椰子核殻を加熱処理して製造した固体炭化物であるアブラ椰子核殻炭を含むこと
を特徴とする(1)~(3)のいずれか1つに記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
二段装入二段点火焼結法において、下段系配合原料に燃焼性の異なる炭材を使用することにより、焼結排ガス中のNOx排出量が低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】二段装入二段点火焼結法に使用するDL式焼結機の概要図である。
【
図2】本発明の二段装入二段点火焼結法における原料処理工程の一例を示す図である。
【
図4】全炭材中のPKS炭の配合比率とNOx転換率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
焼結鉱の製造の焼結工程において、排ガス中のNOxは、焼結原料中の炭材の燃焼過程で生成されるFuel-NOxとされ、その発生起源は炭材に含まれる窒素にあるとされている。炭材が、原料充填層を通過する空気によって燃焼反応(C+O2→CO2)を起こすときに、窒素酸化反応(N(in fuel)+1/2O2→NO)も同時に引き起こすことで説明される。
【0019】
二段装入二段点火焼結法においては、上段層燃焼帯20Aにおける炭材および下段層燃焼帯10Aにおける炭材の燃焼によりそれぞれNOxが発生し、上段層燃焼帯20Aおよび下段層燃焼帯10Aにおいて発生したNOxは、空気の吸引によりそれぞれ各層の下方へ移動する。そして、下方へ移動したNOxのうち、下段層燃焼帯10Aにおいて発生したNOxはそのまま排ガスへ移行する。一方、上段層燃焼帯20Aにおいて発生したNOxは、下段層10を通過する際に、下段層燃焼帯10Aでその一部が分解されると考えられている。
【0020】
本発明者らは、焼結排ガス中のNOx排出量を低減するために、二段装入二段点火焼結法において、下段層燃焼帯10Aの幅(パレットの移動方向(
図2における左右方向)の長さ)を広げることにより、上段層燃焼帯20Aにおいて発生したNOxを効率的に分解することができると考えた。そして、下段層燃焼帯10Aの幅を広く確保する方策として、下段系配合原料中の炭材に燃焼性の異なる炭材を2種類以上使用することを思いついた。以下、その実施形態について説明する。
【0021】
図2は、本発明の二段装入二段点火焼結法による焼結鉱の製造方法を実施するための、原料処理工程の一例を示す図である。
図2に示すように、原料処理工程は、第1の原料槽群1D(以下、下段原料槽群ともいう)、および第2の原料槽群2D(以下、上段原料槽群ともいう)を備え、必要な種類と量の原料を供給する。第1の配合原料(以下、下段系配合原料ともいう)は、第1の原料槽群1Dより、第1のドラムミキサー1Aへと供給されて造粒され、焼結機の第1のホッパ1Bに移送される。また、第2の配合原料(以下、上段系配合原料ともいう)は、第2の原料槽群2Dより、第2のドラムミキサー2Aへと供給されて造粒され、焼結機の第2のホッパ2Bに移送される。下段系配合原料および上段系配合原料のドワイトロイド(DL)式焼結機への移送後の焼結工程は、
図1を用いて上述した焼結鉱の製造と同様である。
【0022】
図2に示すように、下段原料槽群は、5つの原料槽1D1~原料槽1D5を備えている。また、上段原料槽群は、4つの原料槽2D1~原料槽2D4を備える。原料槽1D1と原料槽2D1には鉄鉱石が、原料槽1D2と原料槽2D2にはMgO含有副原料が、原料槽1D3と原料槽2D3にはCaO含有副原料が収められる。原料槽1D4と原料槽2D4は、第1の炭材を収める第1炭材槽である。また、原料槽1D5は、第2の炭材を収める第2炭材槽である。このように、下段原料槽群は、2つの炭材槽(原料槽1D4,原料槽1D5)を備えている。原料槽1D4に貯留される第1の炭材と、原料槽1D5に貯留される第2の炭材とは、燃焼性が異なり、下段系配合原料には、燃焼性の異なる2種類の炭材が配合されて使用される。
【0023】
図2に示す本実施形態においては、下段原料槽群の原料槽1D4(第1炭材槽)および上段原料槽群の原料槽2D4(第1炭材槽)には高燃焼性炭材以外の炭材(例えば、コークス又は/及び無煙炭)を、原料槽1D5(第2炭材槽)には高燃焼性炭材(例えば、石炭チャーやバイオマス炭など)を貯留する。ここで、高燃焼性炭材とは、燃焼性の高い炭材、すなわち、燃焼速度の速い炭材である。炭材の燃焼速度に関しては、すでに種々の測定法や測定結果が公表されているが、それには、十分管理された測定を行わないと得られる測定結果が大きくばらつく問題点がある。そこで、本発明においては、燃焼速度を表す指標として、燃焼速度と実質的な対応関係がある着火温度を採用した。すなわち、高燃焼性炭材とは、コークスおよび無煙炭より着火温度の低い炭材をいう。
【0024】
表1は、種々の炭材の着火温度を示す表である。高燃焼性炭材とは、表1に例示するように、石炭チャーやバイオマス炭(アブラ椰子核殻炭や、木材を乾留して製造した木炭チャーなど)などが該当する。
【0025】
【0026】
石炭チャーとは、例えば、ロガ指数10未満の低流動性石炭を原炭として乾留して製造した焼結用炭材(チャー)である。この焼結用炭材は、原料となる石炭(混炭を含む)を、熱分解炉(例えばロータリーキルン)により乾留して製造される。ここで、ロガ指数はJIS-M8801に規定されているロガ試験方法によって算出される。ロガ試験方法では、試料に標準無煙炭を加えて一定条件のもとで乾留し,得られるるつぼコークスについて小形ドラム試験を行い,その機械的強度をロガ指数(略称:RI)として表す。ロガ指数10未満の低流動性石炭を原炭とすることにより、高燃焼性の石炭チャーを製造することができる。なお、石炭の流動性とは、加熱時の低分子化の度合に起因する特性であり、低流動性石炭は加熱時の低分子化が生じにくい特性を有する石炭である。
【0027】
バイオマス炭とは、例えば、アブラ椰子核殻炭や木炭チャーなどの生物資源を材料として製造された炭材である。アブラ椰子核殻炭(PKS炭)は、アブラ椰子核殻(Palm Kernel Shell)を加熱処理(乾留)して製造した固体炭化物である。PKS炭の製造方法については、特開2014-218713(原ら)などに記載されているので、詳細は省略する。
【0028】
図3は、本実施形態の概略を説明する説明図であり、
図1の下段層10の一部を拡大したものである。
図3において、下段系配合原料に炭材の一部として高燃焼性炭材を使用した場合の下段層燃焼帯10Aの前面(燃焼帯の降下方向側の端面)および後面を、それぞれ直線Xおよび直線Yで示し、下段系配合原料に高燃焼性炭材を使用しなかった場合の下段層燃焼帯10Aの前面および後面を、それぞれ破線X1および破線Y1で示す。なお、便宜上、
図1におけるハッチングを省略している。
【0029】
下段系配合原料の炭材の一部に高燃焼性炭材を使用した場合、高燃焼性炭材を使用しない場合に比べて、
図3に示すように、層高方向の両側に下段層燃焼帯10Aの幅を拡げることができる。この幅の拡大は、前面については、下段系配合原料に着火温度の低い高燃焼性炭材を使用することにより燃焼開始が早まることによる。また、後面については、燃焼性の異なる2種類の炭材(高燃焼性炭材と高燃焼性炭材以外の炭材)を使用することにより、それぞれの炭材の燃焼する時間がズレる結果、炭材全体としての燃焼時間が長く確保されることによる。下段層燃焼帯10Aの幅を拡げることにより、上段層燃焼帯20Aでの燃焼により発生したNOxが下段層燃焼帯10Aを通過する時間がt
1からtへと長くなる。よって、上段層燃焼帯20Aでの燃焼により発生したNOxを、下段層燃焼帯10Aにおいて効率的に分解することが可能となる。また、高燃焼性炭材はコークスや無煙炭に比較して低酸素濃度下でも燃え残りが少なくなるため、二段点火焼結法における問題点であった下段層燃焼帯10Aにおける低酸素濃度下での炭材の燃焼不良の問題も同時に解決することができる。
【0030】
なお、本実施形態においては、上述の下段原料槽群と上段原料槽群とを備え、上段系配合原料と下段系配合原料のパレット上への投入を別系統として構成しているが、これに限らず、下段系配合原料に燃焼性の異なる2種類以上の炭材が配合されるように構成されていればよい。例えば、鉄鉱石、MgO含有副原料、CaO含有副原料、第1の炭材を貯留する原料槽を、上段原料槽群の原料槽2D1~2D4と下段原料槽群1D1~1D4の原料槽とに分けたが、同じ原料槽に貯留して、第1のドラムミキサー1Aと第2のドラムミキサー2Aとに供給するように構成してもよい。
【0031】
配合原料は上述のものに限らず、下段系配合原料に燃焼性の異なる2種類以上の炭材が配合されればよく、原料充填層の層高方向(
図1の上下方向)において上段層燃焼帯20Aと下段層燃焼帯10Aとが略同位置となるように(例えば上段層燃焼帯20Aの一部または全部が下段層燃焼帯10Aと重なるように)、原料を適宜選択して使用することができる。本実施形態では、下段系配合原料の炭材に、燃焼性の異なる2種類の炭材(高燃焼性炭材と高燃焼性炭材以外の炭材)を使用することにより、下段層燃焼帯10Aの幅を広くする構成としているが、高燃焼性炭材と高燃焼性炭材とを少なくとも1種類ずつ含む3種類以上の炭材を使用してもよい。なお、下段系配合原料の炭材に高燃焼性炭材を使用しない場合としては、2種類以上の、燃焼性の異なるコークス又は/及び無煙炭を、下段系配合原料に使用することも考えられる。
【0032】
本実施形態においては、第1炭材槽である原料槽1D4および原料槽2D4に、高燃焼性炭材以外の同じ炭材を貯留しているが、違う炭材を貯留してもよい。種類の異なるコークスや無煙炭が2種類以上あるのであれば、NOx排出量が低減するために、下段系配合原料に、上段系配合原料よりも窒素含有量の小さいコークスまたは無煙炭を使用することが望ましい。上述のように、上段層燃焼帯20Aで発生したNOxは、下段層燃焼帯10Aを通過する際にその一部が分解される一方、下段層燃焼帯10Aで発生したNOxはそのまま排ガスと移行するからである。
【実施例】
【0033】
本発明の二段装入二段点火焼結法の効果を検証した。ドワイトロイド(DL)式焼結機による一段装入一段点火及び二段装入二段点火による焼結鉱の製造方法を模擬した、以下の条件の一段点火及び二段点火の焼結鍋試験を行った。
【0034】
(原料配合)
原料配合条件を表2に示す。
試験ケースによらず、新原料(炭材以外の原料)の配合は同一である。鉄鉱石、石灰石、橄欖岩、および生石灰を配合した新原料を100質量%として、炭材の配合割合を、外数で5.0質量%とした。なお、表2の鉄鉱石A~Eは異なる産地のものを使用した。
【0035】
【0036】
上記5.0質量%(外数)の炭材の構成を表3に示す。
一段点火では、試験ケース1は粉コークスのみを使用し、試験ケース3は試験ケース1の粉コークスの32%をアブラ椰子核殻炭(以下、PKS炭ともいう)へ置換したケース、試験ケース5は試験ケース1の粉コークスの56%をPKS炭へ置換したケースである。二段点火では、上段系配合原料の炭材として、全てのケースにおいて粉コークスを使用した。下段系配合原料の炭材としては、試験ケース2は粉コークスのみを使用し、試験ケース4,6~9では粉コークスとPKS炭を併用した。ここで、炭材に粉コークスのみを使用したケースを参考例とし、一段点火、かつ、炭材に粉コークスとPKS炭を併用したケースを比較例とし、二段点火、かつ、下段系配合原料の炭材として粉コークスとPKS炭を併用したケースを発明例とした。発明例1~5では、下段系配合原料の炭材中のPKS炭配合比率を変え、50%(対新原料2.5質量%(外数))、10%(対新原料0.5質量%(外数))、30%(対新原料1.5質量%(外数))、70%(対新原料3.5質量%(外数))、90%(対新原料4.5質量%(外数))とした。なお、一段装入である比較例1と比較例2の粉コークス及びPKS炭の配合は、それぞれ、二段装入である発明例1と発明例5の全炭材(上段および下段)中のPKS炭の配合比率(質量%)と略同じとなるように設定した(表4,5参照)。すなわち、比較例1と発明例1、比較例2と発明例5においては、それぞれ、配合原料全体に対する粉コークス及びPKS炭の配合比率が略同一となるように配合した。
【0037】
【0038】
(造粒方法)
一段点火のケースでは配合原料を一括して造粒し、二段点火のケースでは上段系配合原料と下段系配合原料とを別々に造粒した。造粒は、ドラムミキサー(直径600mm、回転数25rpm)で4分間(min)混合後、配合原料を100質量%として7.0質量%の量の水分を添加し、さらにドラムミキサーで4分間(min)処理した。
【0039】
(装入・点火方法)
鍋は、高さ500mmの円柱形の下段用鍋(φ300mm)と、高さ300mmの円柱形の上段用鍋(φ300mm)の2本を準備した。一段点火のケースでは、2本の鍋を下段用鍋が下側となるように積んで、そこへ配合原料(層厚800mm)を装入して、1100℃1分間(min)点火した。二段点火のケースでは、下段用鍋に下段系配合原料(層厚500mm)を、上段用鍋に上段系配合原料(層厚300mm)を装入した。そして、まず、下段系配合原料を装入した下段用鍋をセットして、1100℃1分間(min)点火した。点火終了後、下段用鍋の上に、直ちに上段用鍋をセットして、1100℃1分間(min)点火した。吸引圧は、点火開始から14.7kPa一定とした。なお、下段系配合原料の点火終了から上段系配合原料の点火開始までに30秒要した。
【0040】
(焼結時間)
焼結時間は以下のように測定した。熱電対を下段用鍋の上面から60mm、150mm、300mm、450mmの位置にそれぞれセットした。一段点火の場合は450mm位置の熱電対のピーク時刻までの所要時間を焼結時間とした。一方、二段点火の場合は、上段の焼結完了と下段の焼結完了の遅い方を、上下段全体としての焼結完了とみなすため、60mm位置の熱電対の2回目のピーク時刻(上段の焼結完了)までの所要時間と、450mm位置の熱電対の1回目のピーク時刻(下段の焼結完了)までの所要時間の2つのうち長い方を、焼結時間とした。焼結完了となった時刻から3分後に吸引を停止し、焼結終了とした。
【0041】
(生産率)
生産率は、上述のように測定した焼結時間に基づいて、以下の式(1)により求めた。
生産率=成品量(t)/焼結面積(0.07m2)/焼結時間(日) …(1)
【0042】
(NOx評価方法)
排ガスNOx濃度は、焼結排ガスを分取し分析計へ供して測定した。
排ガスNOx排出量の評価指標として(2)および(3)式で計算されるNOx転換率を用いた。ここで、NOx転換率とは炭材中の窒素量に対するNOx発生量のモル比であるが、炭材のカーボン燃焼率を考慮する必要がある。
一方、排ガス中に含まれるCOおよびCO2は炭材、点火ガスおよび石灰石由来とみなされるが、炭材燃焼カーボン量はCOおよびCOの生成量から点火ガスおよび石灰石由来のカーボン量を引き算して求めた。ここで、点火ガス中のカーボンはすべて燃焼し、石灰石はすべて脱炭酸反応したものと仮定した。
【0043】
ηNO=100×[NOx/NCOKE]×[CCOKE/CCOKE Comb]
・・・・・(2)
CCOKE Comb=(CO+CO2-CLPG-CCLS)・・・・・(3)
ηNO :NOx転換率(%)
NOx :焼結開始から終了までの排ガスNOx積算量(mol)
CO :焼結開始から終了までの排ガスCO積算量(mol)
CO2 :焼結開始から終了までの排ガスCO2積算量(mol)
NCOKE :炭材由来の窒素入量(mol)
CCOKE :炭材由来のカーボン入量(mol)
CCOKE Comb:炭材由来の燃焼カーボン量(mol)
CLPG :点火ガス由来のカーボン入量(mol)
CCLS :石灰石由来のカーボン入量(mol)
【0044】
(試験結果)
試験ケース1~4の結果を表4の下段に示す。表4に示すように、比較例1と発明例1とは、全炭材(上段および下段)に対するPKS炭の配合比が略同じである。つまり、同量のPKS炭を、比較例1(一段装入一段点火)では層厚方向全体に分布させているのに対し、発明例1(二段装入二段点火)では下段層10のみに分布させている。下段層10のみにPKS炭を使用した発明例1の方が、全体に分布させた比較例1よりもNOx転換率が15%低減している。
【0045】
また、表4に示すように、一段装入一段点火において、炭材に粉コークスおよびPKS炭を使用した比較例1の方が、炭材に粉コークスのみを使用した参考例1に比べ、NOx転換率が10%低減している。炭材に粉コークスのみを使用した場合は、二段装入二段点火とした参考例2の方が、一段装入一段点火とした参考例1に比べ、NOx転換率が8%低減している。上段に粉コークスのみ、下段に粉コークスとおよびPKS炭を使用した発明例1では、参考例1に比べ、NOx転換率が25%低減している。このように、発明例1では、二段装入二段点火による下段燃焼帯におけるNOx分解効果(低減率8%;参考例1に対する参考例2)およびPKS炭自体のNOx発生低減効果(低減率10%;参考例1に対する比較例1)との相乗値(17%)以上に、NOx転換率が低減した。また、試験ケース1~4の中で、発明例1の生産率が一番高かった。
【0046】
【0047】
試験ケース5~9の結果を表5の下段に示す。表5に示すように、比較例2と発明例5とは、全炭材(上段および下段)に対するPKS炭の配合比が略同じである。上述した比較例1と発明例1の場合と同様、下段層10のみにPKS炭を使用した発明例5の方が、全体に分布させた比較例2よりもNOx転換率が低く、4%低減している。
【0048】
【0049】
図4は、試験ケース1~9の試験結果における、全炭材に対するPKS炭の配合比率とNOx転換率との関係を示す図である。
図4に示すように、2段点火のケースは
1段点火
のケースと比較して、同一PKS炭配合比ではNOx転換率が低位になった。特に、下段系の炭材中のPKS炭配合比率が30%以上70%以下において低くなった。下段系の炭材中のPKS炭配合比率が30%未満であると、PKS炭の使用効果が現れにくく、70%を超えると、炭材の燃焼速度が速くなりすぎて下段層燃焼帯10Aの幅を拡げることができず、NOxを十分に分解することができないためであると考えられる。
【0050】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0051】
1A…第1のドラムミキサー、1B…第1のホッパ、1C…第1の点火器、1D…第1の原料槽群(下段原料槽群)、第1の原料槽1D1~1D4、2A…第2のドラムミキサー、2B…第2のホッパ、2C…第2の点火器、2D…第2の原料槽群(上段原料槽群)、第2の原料槽2D1~2D5、10…下段層、10A…下段層燃焼帯、20…上段層、20A…上段層燃焼帯、3…焼結部、5…パレット進行方向、6…下方吸引