(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04746 20160101AFI20230111BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20230111BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20230111BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20230111BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/0438
H01M8/04537
H01M8/04 J
H01M8/04 N
(21)【出願番号】P 2019136160
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 英文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 潤也
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 和貴
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102011087912(DE,A1)
【文献】特開2013-161616(JP,A)
【文献】特開2014-82092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
B60L 50/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、
前記燃料電池にカソードガスを供給する供給流路と、
前記燃料電池からカソード排ガスを排出する排出流路と、
前記排出流路からのカソード排ガスが供給されて動力を生成するタービンと、
前記排出流路における前記燃料電池と前記タービンとの間に設けられ、前記燃料電池から前記排出流路に排出されるカソード排ガスの流量を調節可能な出口弁と、
互いに連通可能な第1接続部と第2接続部とを有し、前記排出流路における前記出口弁と前記タービンとの間の位置に前記第1接続部が接続され、前記排出流路における前記タービンよりも下流の位置に前記第2接続部が接続されたタービンバイパス流路と、
前記タービンバイパス流路における前記第1接続部と前記第2接続部との間に設けられ、前記タービンバイパス流路を流れるカソード排ガスの流量を調節可能なタービンバイパス弁と、
前記燃料電池内の圧力を検知する圧力センサと、
前記圧力センサが検知した情報に基づき前記出口弁の開度と前記タービンバイパス弁の開度とを制御する制御部と、を備え、
前記燃料電池に対する出力要求値に応じて前記燃料電池内の目標圧力値が定められ、
前記タービンは、前記タービンに供給されるエア流量と前記タービンの上流側および下流側の圧力の比である圧力比との関係である設定圧力ラインを有し、
前記制御部は、前記燃料電池の前記目標圧力値が前記設定圧力ラインよりも低いときには
、前記出口弁の開度拡大を前記タービンバイパス弁の開度調節よりも優先して実施する第1制御を行ない、前記燃料電池の前記目標圧力値が前記設定圧力ラインよりも高いときには
、前記タービンバイパス弁の開度縮小を前記出口弁の開度調節よりも優先して実施する第2制御を行ない、
前記制御部は、前記第2制御を行なう際には、前記タービンバイパス弁が全閉の状態で前記出口弁を全開としないようにする、
燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御部は
、
前記第1制御において前記目標圧力値に向けて前記燃料電池内の圧力を高くする際に
は、
前記タービンバイパス弁
の開度を縮小させ、
前記第2制御において前記目標圧力値に向けて前記燃料電池内の圧力を高くする際には、前記出口弁の開度を縮小させ、
前記第1制御において前記目標圧力値に向けて前記燃料電池内の圧力を低くする際には、前記タービンバイパス弁の開度を拡大させ、
前記第2制御において前記目標圧力値に向けて前記燃料電池内の圧力を低くする際には、前記出口弁の開度を拡大させる、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第2制御において、前記タービンバイパス弁を全閉の状態で前記出口弁の開度を縮小させることによって、前記目標圧力値に向けて前記燃料電池内の圧力を高くする、
請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御部は、
前記第1制御において、前記出口弁を全開の状態で前記タービンバイパス弁の開度を拡大することによって、前記目標圧力値に向けて前記燃料電池内の圧力を低くする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
一つのアクチュエータを備え、
前記アクチュエータは、前記制御部によって駆動されることで、前記タービンバイパス弁の開度と前記出口弁の開度との双方を調節可能である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
一つの弁体を備え、
前記弁体は、前記制御部によって駆動されることで、前記タービンバイパス弁の開度と前記出口弁の開度との双方を調節可能である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示された燃料電池システムは、燃料電池(スタック)と、燃料電池の排出側に配置された三方弁と、三方弁を介して燃料電池の排出側に接続されたタービン(エキスパンダ)とを備える。燃料電池の発電時、カソード排ガスがタービンに供給されるように三方弁は制御される。燃料電池の掃気時、掃気ガスがタービンを迂回する(バイパスする)ように三方弁は制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タービンの上流側に配置された三方弁等のタービンバイパス弁は、カソード排ガス等がタービンに供給されるように、または、カソード排ガス等がタービンに供給されずに迂回するように動作する。特許文献1に開示された三方弁は、掃気を行なうか否かに応じて動作する。
【0005】
燃料電池システムにおいては、燃料電池に対する出力要求値に応じて燃料電池内の目標圧力値が定められる。従来の燃料電池システムは、この目標圧力値に向けて燃料電池内の圧力を増減させる際に、タービンにおけるより高い動力回収効率を得ることを意図してタービンバイパス弁などの動作を制御していない。目標圧力値に向けて燃料電池内の圧力を増減させる際にタービンにおけるより高い動力回収効率を得るという点で、従来の燃料電池システムには改善の余地が存在している。
【0006】
本開示は、燃料電池の調圧機能を確保しつつタービンにおける動力回収効率を従来に比して向上させやすくすることが可能な構成を備えた燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に基づく燃料電池システムは、燃料電池と、上記燃料電池にカソードガスを供給する供給流路と、上記燃料電池からカソード排ガスを排出する排出流路と、上記排出流路からのカソード排ガスが供給されて動力を生成するタービンと、上記排出流路における上記燃料電池と上記タービンとの間に設けられ、上記燃料電池から上記排出流路に排出されるカソード排ガスの流量を調節可能な出口弁と、互いに連通可能な第1接続部と第2接続部とを有し、上記排出流路における上記出口弁と上記タービンとの間の位置に上記第1接続部が接続され、上記排出流路における上記タービンよりも下流の位置に上記第2接続部が接続されたタービンバイパス流路と、上記タービンバイパス流路における上記第1接続部と上記第2接続部との間に設けられ、上記タービンバイパス流路を流れるカソード排ガスの流量を調節可能なタービンバイパス弁と、上記燃料電池内の圧力を検知する圧力センサと、上記圧力センサが検知した情報に基づき上記出口弁の開度と上記タービンバイパス弁の開度とを制御する制御部と、を備え、上記燃料電池に対する出力要求値に応じて上記燃料電池内の目標圧力値が定められ、上記タービンは、上記タービンに供給されるエア流量と上記タービンの上流側および下流側の圧力の比である圧力比との関係である設定圧力ラインを有し、上記制御部は、上記燃料電池の上記目標圧力値が上記設定圧力ラインよりも低いときには第1制御を行ない、上記燃料電池の上記目標圧力値が上記設定圧力ラインよりも高いときには第2制御を行ない、上記制御部は、上記第2制御を行なう際には、上記タービンバイパス弁が全閉の状態で上記出口弁を全開としないようにする。
【0008】
上記燃料電池システムにおいては、上記制御部は、上記目標圧力値に向けて上記燃料電池内の圧力を高くする際には、上記出口弁および上記タービンバイパス弁のうちの少なくとも一方の開度を縮小させ、上記制御部は、上記目標圧力値に向けて上記燃料電池内の圧力を低くする際には、上記出口弁および上記タービンバイパス弁のうちの少なくとも一方の開度を拡大させてもよい。
【0009】
上記燃料電池システムにおいては、上記制御部は、上記タービンバイパス弁を全閉の状態で上記出口弁の開度を縮小させることによって、上記目標圧力値に向けて上記燃料電池内の圧力を高くしてもよい。
【0010】
上記燃料電池システムにおいては、上記制御部は、上記出口弁を全開の状態で上記タービンバイパス弁の開度を拡大することによって、上記目標圧力値に向けて上記燃料電池内の圧力を低くしてもよい。
【0011】
上記燃料電池システムは、一つのアクチュエータを備え、上記アクチュエータは、上記制御部によって駆動されることで、上記タービンバイパス弁の開度と上記出口弁の開度との双方を調節可能であってもよい。
【0012】
上記燃料電池システムにおいては、一つの弁体を備え、上記弁体は、上記制御部によって駆動されることで、上記タービンバイパス弁の開度と上記出口弁の開度との双方を調節可能であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
上記構成を備えた燃料電池システムによれば、燃料電池の調圧機能を確保しつつタービンにおける動力回収効率を従来に比して向上させやすくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1における燃料電池システム10を模式的に示す図である。
【
図2】タービンに供給されるエア流量と、タービンの上流側および下流側の圧力の比である圧力比との関係を示したグラフである。
【
図3】第1制御および第2制御の詳細を説明するための表である。
【
図4】実施の形態2における出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vの構成例を示す図である。
【
図5】実施の形態2における出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vの構成例を示す図である。
【
図6】実施の形態2の変形例における出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vの構成例を示す図である。
【
図7】実施の形態3における出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vの構成例を示す図である。
【
図8】実施の形態3における出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vの構成例を示す図である。
【
図9】実施の形態3の変形例における出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vの構成例を示す図である。
【
図10】実施の形態4における出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vの構成例を示す図である。
【
図11】実施の形態5における出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態について、以下、図面を参照しながら説明する。以下の説明において同一の部品および相当部品には同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0016】
[実施の形態1]
(燃料電池システム10)
図1は、実施の形態1における燃料電池システム10を模式的に示す図である。燃料電池システム10は、燃料電池1、カソードガス供給系2およびアノードガス供給系(不図示)を備える。燃料電池1は、アノードガス(水素)およびカソードガス(空気)が供給されることにより発電する。
【0017】
カソードガス供給系2は、コンプレッサ3a、モータ3b、タービン3c、供給流路4、入口弁4v、排出流路5、出口弁5v、スタックバイパス流路6、スタックバイパス弁6v、タービンバイパス流路7、タービンバイパス弁7v、圧力センサ8および制御部9を備える。
【0018】
カソードガスは、コンプレッサ3aにより圧縮された状態で供給流路4に供給される。供給流路4は、燃料電池1とコンプレッサ3aとを接続しており、燃料電池1にカソードガスを供給する。入口弁4vは、供給流路4における燃料電池1とコンプレッサ3aとの間に設けられる。入口弁4vは、たとえば調圧弁、具体的には電磁バルブなどから構成され、燃料電池1に供給されるカソードガスの流量を調節可能である。
【0019】
排出流路5は、燃料電池1とタービン3cとを接続しており、燃料電池1からカソード排ガスを排出する。カソード排ガスはタービン3cに供給される。タービン3cはこの際、エネルギーを回収し、動力を生成する。タービン3cとコンプレッサ3aとはシャフトを介して連結されている。タービン3cによって回収されたエネルギーは、駆動力としてコンプレッサ3aの回転に利用される。コンプレッサ3aは、モータ3bによっても回転駆動可能である。
【0020】
排出流路5は、配管部5a,5b,5c,5d,5eを含む。出口弁5vは、排出流路5における燃料電池1とタービン3cの間(配管部5a,5b間)に設けられる。出口弁5vは、たとえば調圧弁、具体的には電磁バルブなどから構成され、燃料電池1から排出流路5に排出されるカソード排ガスの流量を調節可能である。
【0021】
スタックバイパス流路6は、互いに連通可能な接続部6a,6bを有する。接続部6aは、供給流路4におけるコンプレッサ3aと入口弁4vの間の位置に接続される。接続部6bは、排出流路5における出口弁5vとタービン3cとの間(配管部5c,5d間)の位置に接続される。
【0022】
スタックバイパス流路6は、コンプレッサ3aから吐出されたカソードガスを、燃料電池1をバイパスしてタービン3cに供給する。接続部6a,6b間にスタックバイパス弁6vが設けられる。スタックバイパス弁6vはスタックバイパス流路6を流れるカソードガスの流量を調節可能である。
【0023】
タービンバイパス流路7は、互いに連通可能な第1接続部7aと第2接続部7bとを有する。第1接続部7aは、排出流路5における出口弁5vとタービン3cとの間(配管部5b,5c間)の位置に接続される。第2接続部7bは排出流路5におけるタービン3cよりも下流の位置(配管部5e)に接続される。
【0024】
タービンバイパス流路7は、燃料電池1から吐出されたカソード排ガスを、タービン3cをバイパスして配管部5eに供給する。第1接続部7aと第2接続部7bとの間にタービンバイパス弁7vが設けられる。タービンバイパス弁7vはタービンバイパス流路7を流れるカソード排ガスの流量を調節可能である。
【0025】
圧力センサ8は配管部5aに設けられ、燃料電池1内の圧力を検知することができる。圧力センサ8が検知した情報は制御部9に入力される。制御部9は、圧力センサ8が検知した情報に基づき、入口弁4v、出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vの各々の開度を制御する。
【0026】
ここで、燃料電池1内のガス流量および圧力に応じて、燃料電池1の出力(発電量)が変化する。たとえば車両に搭載されたECUは、アクセル開度などに基づいて燃料電池1に対する出力要求値を算出し、出力要求値に応じて燃料電池1内の目標流量(要求流量)および目標圧力値(要求圧力値)が定められる。
【0027】
燃料電池システム10においては、制御部9は、目標圧力値に向けて燃料電池1内の圧力を高くする際には、出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vのうちの少なくとも一方の開度を縮小させ、制御部9は、目標圧力値に向けて燃料電池1内の圧力を低くする際には、出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vのうちの少なくとも一方の開度を拡大させる。
【0028】
タービンは容量を有しており、燃料電池システム10においては固定容量式のタービン3cが用いられている。タービンは、カソード排ガス等の有するエネルギーを動力として回収する手段であり、調圧弁、配管および絞り等と同様に、圧力損失を発生させる。
【0029】
この圧力損失は燃料電池1内の圧力にも影響する。燃料電池1内の圧力は、燃料電池1に供給されるカソードガスの流量および圧力(すなわち入口弁4vの開度)だけでなく、出口弁5vの開度、タービン3cの仕様(大きさおよび形状)、タービン3cに供給される流体の流量および圧力、ならびに、タービンバイパス弁7vの仕様および開度などによっても定められる。
【0030】
図2は、タービンに供給されるエア流量と、タービンの上流側および下流側の圧力の比である圧力比との関係を示したグラフである。タービンは、タービンインペラを有する。所定開口径および所定流路断面積を有する流路の内側にタービンインペラが配置される。タービンのこれらの開口径などが決まると、エア流量に対する圧力比が決まる。つまり、タービンの開口径などに応じてエア流量に対する圧力比が決まる。
【0031】
エア流量と圧力比との関係は、たとえば
図2に示すような概ね一次直線L1で表わされ、固有の特性(仕様)としてタービンに備えられる。エア流量と圧力比との当該関係を、設定圧力ラインともいう。すなわちタービンは、タービンに供給されるエア流量とタービンの上流側および下流側の圧力の比である圧力比との関係である、設定圧力ラインを有している。設定圧力ラインは、二次曲線や他の曲線で表わされることもある。
図2に示す設定圧力ライン(一次直線L1)は、出口弁5vを全開に設定し、タービンバイパス弁7vを全閉に設定した際に得られる、タービン3cのエア流量と圧力比との関係の一例を表している。
【0032】
タービンの開口径および流路断面積は、消費電力の低減や、タービンの動力回収効率の向上ないし最大化などを意図して所定の値が算出され、設計に反映される。たとえば、エア流量q1のガスがタービンに供給された際に、圧力比p1がタービンの上流と下流との間に形成されるように、タービンの開口径および流路断面積などが設定される。エア流量と圧力比との関係が設定圧力ラインに近くなるような状態でタービン3cが使用および動作されることによって、消費電力の低減やタービンの動力回収効率の向上など、設計段階で期待された効果が得られる。
【0033】
エア流量と圧力比との関係を設定圧力ラインに近付けることに関して、燃料電池1内の目標圧力値に応じてエア流量qbのガスがタービン3cに供給されることになったとする。この場合に、所望の圧力比paをタービン3cの上流および下流に形成するためには、(エア流量qb-エア流量qa)の分のガスをタービンバイパス流路7によってタービン3cを迂回させる。これにより、エア流量qaに対応する圧力比paをタービン3cの上流および下流に形成でき、ひいては、エア流量と圧力比との関係が設定圧力ラインにより一層近くなるような状態でタービン3cを使用および動作させることが可能となる。
【0034】
上述のとおり、燃料電池1に対する目標流量および目標圧力値は、アクセル開度等に応じて変動する。特段の対策を施さない場合、タービンに供給されるガスの流量および圧力は、消費電力の低減やタービンの動力回収効率の向上を意図して設計された設定圧力ライン(たとえば一次直線L1)から離れやすく、結果として、消費電力の低減やタービンの動力回収効率の向上を十分に図ることができなくなる場合がある。
【0035】
これに対して燃料電池システム10においては、制御部9が、目標圧力値に向けて燃料電池1内の圧力を増減させる際に、タービンバイパス弁などの動作を制御する。具体的には制御部9は、目標圧力値に向けて燃料電池1内の圧力を高くする際には、出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vのうちの少なくとも一方の開度を縮小させ、制御部9は、目標圧力値に向けて燃料電池1内の圧力を低くする際には、出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vのうちの少なくとも一方の開度を拡大させる。この制御動作によれば、タービンにおける動力回収効率を従来に比して向上させやすくすることが可能となる。
【0036】
図3を参照して、制御部9は、燃料電池1の目標圧力が設定圧力ライン(たとえば一次直線L1)よりも低いときには第1制御を行ない、燃料電池1の目標圧力が設定圧力ライン(たとえば一次直線L1)よりも高いときには第2制御を行なう。第1制御を行なう場合であっても、第2制御を行なう場合であっても、入口弁4vはたとえば全開に設定し、スタックバイパス弁6vはたとえば全閉に設定するとよい。制御部9は、第2制御を行なう際には、タービンバイパス弁7vが全閉の状態で出口弁5vを全開としないようにする。第1制御および第2制御の詳細については以下のとおりである。
【0037】
第1制御においては、制御部9は、目標圧力値に向けて燃料電池1内の圧力を高くする際には、出口弁5vを全開の状態でタービンバイパス弁7vの開度を縮小するとよい。たとえば、出口弁5vの開度拡大をタービンバイパス弁7vの開度調節よりも優先して実施し、出口弁5vの開度が全開状態となった後に、タービンバイパス弁7vの開度を縮小する。これらの制御動作によれば、目標圧力値に向けて燃料電池1内の圧力を高くすること、すなわち燃料電池1の調圧機能を確保することが可能となりつつ、タービン3cへのガス供給量が多くなり、タービン3cにおける動力回収効率を得ることが可能となる。
【0038】
第1制御においては、制御部9は、目標圧力値に向けて燃料電池1内の圧力を低くする際には、出口弁5vを全開の状態でタービンバイパス弁7vの開度を拡大するとよい。たとえば、出口弁5vの開度拡大をタービンバイパス弁7vの開度調節よりも優先して実施し、出口弁5vの開度が全開状態となった後に、タービンバイパス弁7vの開度を拡大する。これらの制御動作によれば、タービン3cへのガス供給量が少なくなるものの、タービン3cへのガス供給量を最大限確保しつつ、目標圧力値に向けて燃料電池1内の圧力を低くすること、すなわち燃料電池1の調圧機能を確保することが可能となりつつ、タービン3cにおける動力回収効率を得ることが可能となる。
【0039】
第2制御においては、制御部9は、目標圧力値に向けて燃料電池1内の圧力を高くする際には、タービンバイパス弁7vを全閉の状態で出口弁5vの開度を縮小するとよい。たとえば、タービンバイパス弁7vの開度縮小を出口弁5vの開度調節よりも優先して実施し、タービンバイパス弁7vの開度が全閉状態となった後に、出口弁5vの開度を縮小する。これらの制御動作によれば、目標圧力値に向けて燃料電池1内の圧力を高くすること、すなわち燃料電池1の調圧機能を確保することが可能となりつつ、タービン3cへのガス供給量が多くなり、タービン3cにおける動力回収効率を得ることが可能となる。
【0040】
第2制御においては、制御部9は、目標圧力値に向けて燃料電池1内の圧力を低くする際には、タービンバイパス弁7vを全閉の状態で出口弁5vの開度を拡大するとよい。たとえば、タービンバイパス弁7vの開度縮小を出口弁5vの開度調節よりも優先して実施し、タービンバイパス弁7vの開度が全閉状態となった後に、出口弁5vの開度を拡大する。これらの制御動作によれば、目標圧力値に向けて燃料電池1内の圧力を低くすること、すなわち燃料電池1の調圧機能を確保することが可能となりつつ、タービン3cへのガス供給量が多くなり、タービン3cにおける動力回収効率を得ることが可能となる。
【0041】
なお、燃料電池システム10の停止時には、入口弁4vおよび出口弁5vはいずれも全閉に設定され、スタックバイパス弁6vおよびタービンバイパス弁7vはいずれも任意の開度(たとえば全開)に設定されるとよい。入口弁4vおよび出口弁5vがいずれも全閉に設定されていることにより、燃料電池1へのガスの供給および排出は制限される。
【0042】
[実施の形態2]
上述の実施の形態1(
図1)では、出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vが相互に離間して配置される。制御部9は、出口弁5vおよびタービンバイパス弁7vをそれぞれ独立して駆動することができる。
【0043】
図4に示す構成においては、ハウジング11が1つの弁体12を収容している。ハウジング11のうちの弁体12を収容している空間には、燃料電池1(
図1。以下同じ)に連通する配管部5aと、タービン3cに連通する配管部5cと、配管部5eに連通する第2接続部7bとが接続されている。
【0044】
弁体12は、半円の断面形状を有し、シャフト13により軸支されている。アクチュエータ14がシャフト13を回転させることによって、弁体12はハウジング11内で回転する。弁体12が収容されている空間と配管部5aとの間で出口弁5vが構成されており、同空間と第2接続部7bとの間でタービンバイパス弁7vが構成されている。
【0045】
図4および
図5に示すように、アクチュエータ14は、制御部9(
図1)によって駆動されることで、タービンバイパス弁7vの開度と出口弁5vの開度との双方を調節可能である。
図4に示される状態では、タービンバイパス弁7vが全閉に設定されながら、配管部5aから配管部5cおよびタービン3c(
図1)に流れるカソード排ガスの流量が出口弁5vによって調節されている。
【0046】
図5に示される状態では、配管部5aが全開に設定されながら、配管部5aから第2接続部7bおよび配管部5e(
図1)に流れるカソード排ガスの流量がタービンバイパス弁7vによって調節されている。1つの弁体12が制御部9(
図1)によって駆動されることで出口弁5vの開度およびタービンバイパス弁7vの開度の双方が調節可能であり、制御上の簡素化を図れる。また、1つのアクチュエータ14で出口弁5vの開度およびタービンバイパス弁7vの開度の双方が調節可能であり、構成上の簡素化も図れる。
【0047】
(変形例)
図6に示すようなボールバルブにて上述のような制御動作が実現されてもよい。
図4,
図5では、弁体12は半円の断面形状を有し、各配管は約60°の角度間隔を有してハウジング11に設けられている。
図6に示す構成例では、各配管が約90°の角度間隔を有してハウジング11に設けられており、弁体12は内角が約120°である略扇形状を有している。当該構成によっても同様の機能を実現可能である。
【0048】
[実施の形態3]
図7および
図8に示す構成においては、ハウジング11がレバー状の弁体12を収容している。ハウジング11のうちの弁体12を収容している空間には、燃料電池1(
図1)に連通する配管部5aと、タービン3cに連通する配管部5cと、配管部5eに連通する第2接続部7bとが接続されている。
【0049】
弁体12は、円弧状に延びる形状を有し、シャフト13により軸支されている。アクチュエータ14がシャフト13を回転させることによって、弁体12はハウジング11内で周方向に沿って移動する。弁体12が収容されている空間と配管部5aとの間で出口弁5vが構成されており、同空間と第2接続部7bとの間でタービンバイパス弁7vが構成されている。
【0050】
アクチュエータ14は、制御部9(
図1)によって駆動されることで、タービンバイパス弁7vの開度と出口弁5vの開度との双方を調節可能である。
図7に示される状態では、タービンバイパス弁7vが全閉に設定されながら、配管部5aから配管部5cおよびタービン3c(
図1)に流れるカソード排ガスの流量が出口弁5vによって調節されている。
【0051】
図8に示される状態では、配管部5aが全開に設定されながら、配管部5aから第2接続部7bおよび配管部5e(
図1)に流れるカソード排ガスの流量がタービンバイパス弁7vによって調節されている。1つの弁体12が制御部9(
図1)によって駆動されることで出口弁5vの開度およびタービンバイパス弁7vの開度の双方が調節可能であり、制御上の簡素化を図れる。また、1つのアクチュエータ14で出口弁5vの開度およびタービンバイパス弁7vの開度の双方が調節可能であり、構成上の簡素化も図れる。
【0052】
(変形例)
図9に示すような板状の弁体12にて上述のような制御動作が実現されてもよい。
図7,
図8では、弁体12の周方向に延びる外周面によってタービンバイパス弁7vの開度が調節される。
図6に示す板状の弁体12ではそのような調節はできないものの、弁体12とタービンバイパス弁7v側の配管(第2接続部7b)との間の間隔を調節することによって略同様の機能を実現可能である。
【0053】
[実施の形態4]
図10を参照して、上述のような機能と同様な機能が、直動弁の構造を有する弁体12によって実現されてもよい。アクチュエータ14は、複数のギヤなどを介してシャフト13に駆動連結されており、シャフト13に螺合しているギヤの作用によってシャフト13を軸方向に往復移動させることができる。
【0054】
弁体12と出口弁5v(配管部5a)との間の間隔を調節することによって、これらの間を通過するカソード排ガスの流量を調節可能となる。また、弁体12とタービンバイパス弁7v側の配管(第2接続部7b)との間の間隔を調節することによって、これらの間を通過するカソード排ガスの流量を調節可能となる。
【0055】
[実施の形態5]
図11を参照して、上述のような機能と同様な機能が、2つの弁体12a,12bによって実現されてもよい。弁体12aは、回転式のバタフライバルブであり、タービンバイパス弁7vの開度を調節できる。弁体12bは、直動弁の構造を有しており、出口弁5vの開度を調節できる。
【0056】
アクチュエータ14は、弁体12aに連結されているとともに、雌ネジが形成されたシャフト13aと雄ネジが形成されたシャフト13bとを介して弁体12bに連結されている。シャフト13a,13bが相互に螺合していることによって、アクチュエータ14の回転によってシャフト13bおよび弁体12bを軸方向に往復移動させることができる。
【0057】
弁体12bと出口弁5v(配管部5a)との間の間隔を調節することによって、これらの間を通過するカソード排ガスの流量を調節可能となる。また、弁体12aの姿勢を調節することによって、タービンバイパス弁7vを通過するカソード排ガスの流量を調節可能となる。
【0058】
以上、実施の形態について説明したが、上記の開示内容はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1 燃料電池、2 カソードガス供給系、3a コンプレッサ、3b モータ、3c タービン、4 供給流路、4v 入口弁、5 排出流路、5a,5b,5c,5d,5e 配管部、5v 出口弁、6 スタックバイパス流路、6a,6b 接続部、6v スタックバイパス弁、7a 第1接続部、7b 第2接続部、7 タービンバイパス流路、7v タービンバイパス弁、8 圧力センサ、9 制御部、10 燃料電池システム、11 ハウジング、12,12a,12b 弁体、13,13a,13b シャフト、14 アクチュエータ、L1 設定圧力ライン(一次直線)、p1,pa 圧力比、q1,qa,qb エア流量。