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  • 特許-バルーンカテーテル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】バルーンカテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20230111BHJP
   A61B 18/12 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
A61M25/10 530
A61M25/10 550
A61B18/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019508993
(86)(22)【出願日】2019-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2019004537
(87)【国際公開番号】W WO2019156195
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2018021634
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】八木 隆浩
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-533218(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0000977(US,A1)
【文献】特許第4062935(JP,B2)
【文献】特開2009-247727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
A61B 18/12
A61N 1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する外筒シャフトと、
前記外筒シャフトの基端部に接続された操作者が操作時に把持するための把持部材と、
前記把持部材に組み込まれた、液密性を保持するシール部材と、
可撓性を有する内筒シャフトと、
ロックウェル硬度がR115以上であり、かつ、曲げ弾性率が3.0~4.5GPaであり、肉厚が0.06~0.12mmであるチューブと、
前記内筒シャフトの基端部に接続された押込部材と、前記押込部材上に接続された抜け防止部材と、
前記外筒シャフトの遠位端部及び前記内筒シャフトの遠位端部にそれぞれ接続された弾性材料からなるバルーンと、
を備え、
前記チューブは、内筒シャフト上の前記バルーンとの接続部を除した範囲に外挿されている、バルーンカテーテル。
【請求項2】
前記チューブの内径と前記内筒シャフトの外径とのクリアランスは、0.01~0.1mmである、請求項1記載のバルーンカテーテル。
【請求項3】
前記内筒シャフトは、引張弾性率が500~1400MPaであり、肉厚が0.1~0.23mmであり、かつ、降伏強度が25MPa以上である、請求項1又は2記載のバルーンカテーテル。
【請求項4】
前記チューブと前記内筒シャフトとは、該チューブの基端部と該内筒シャフトの基端部とでのみ固定されている、請求項1~3のいずれか一項記載のバルーンカテーテル。
【請求項5】
前記チューブと前記内筒シャフトとは、該チューブの先端部と該内筒シャフトの先端部とでのみ固定されている、請求項1~3のいずれか一項記載のバルーンカテーテル。
【請求項6】
前記押込み部材は、外径変化を有するパイプ形状であり、
その外径の遷移部はテーパー状であり、それぞれのパイプ外径は基端側から先端側に向かって順に小さくなっており、
前記抜け防止部材は、前記バルーンの自然長の状態における、前記押込部材の先端側に向かって1つ目の外径変化したパイプ部上の位置に配置されている、請求項1~5のいずれか一項記載のバルーンカテーテル。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項記載のバルーンカテーテルと、
前記内筒シャフトと前記外筒シャフトとの間の空間に配置され、高周波を通電可能な電極リード線と、
前記内筒シャフトと前記外筒シャフトとの間の空間に配置され、前記バルーン内の温度を外部に送信するための温度センサリード線と、
前記電極リード線及び前記温度センサリード線を内部に挿通させて、外部から前記内筒シャフトと前記外筒シャフトとの間の空間に、前記電極リード線及び前記温度センサリード線を引き出すためのリード線被覆管と、
を備え、
前記電極リード線と前記温度センサリード線とは、互いに異なる金属で形成され、かつ、前記バルーンの内部で接触しており、
前記リード線被覆管は、外径変化部を有するパイプ形状であり、前記押込部材の持ち手部よりも遠位側に、前記シール部材を介して液密性を保持しながら摺動可能なように配置されている、
アブレーション用のバルーンカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、バルーンカテーテルは低侵襲治療に用いられており、その用途は血管狭窄症、心臓弁狭窄症、不整脈及び塞栓物質除去等の非常に多岐に渡る治療法に使用されている。一般的なバルーンカテーテルの構造は、シャフトを構成する外筒シャフトと内筒シャフトを備え、バルーンの基端側と外筒シャフトの先端部、バルーンの基端側と内筒シャフトの先端部がそれぞれ接続されてバルーンが形成されている。また、この構造を有する場合、外筒シャフトと内筒シャフトの間の流路に流体を流すことで、バルーンは拡張する。
【0003】
通常、カテーテルを患者の体内に挿入する際、挿入時の抵抗は、低い方が好ましい。しかしながら、バルーンカテーテルの場合、バルーン部分が嵩張りになることから、カテーテルの挿入時の抵抗が増大してしまう。このバルーン部分の嵩張りを防ぐため、挿入時にバルーン部分を折り畳んでおく方法が従来知られている。
【0004】
一方、天然ゴム、合成ゴム、ポリウレタン及びシリコン等の柔軟な材料でバルーンが構成されている場合、その柔軟性のため、バルーンを折り畳んでおくことが困難である。これを解決するため、外チューブより伸びにくい材質の線材を外チューブに固定し、内チューブの内側に硬質の芯材を挿脱可能に挿入して一体化させながら、外チューブと内チューブを摺動させることが可能なバルーンカテーテルが報告されている(特許文献1)。この場合、外チューブより伸びにくい材質の線材により外チューブの延伸を抑えつつ内チューブを押し込むことができるため、バルーンを長手方向に確実に伸長できる。
【0005】
同様に、柔軟な材料のバルーンを用いつつ、確実にバルーンを伸張させる技術として、硬質芯材を用いる代わりに、内筒シャフトにガイドワイヤーを挿入した状態でバルーンを伸張可能にすることで、バルーンを長手方向に確実に伸張させることを可能にした高周波バルーン付きアブレーションカテーテルが報告されている(特許文献2)。
【0006】
また、カテーテルの内筒シャフトの座屈を防止するため、硬質材料からなるチューブと軟質材料からなるチューブで形成された二層チューブを内筒シャフトに用いることで曲げ剛性を調整し、さらに内筒シャフトと外筒シャフトを連結させることでガイドワイヤーの座屈を防ぐカテーテルが報告されている(特許文献3)。
【0007】
他の方法としては、カテーテル回収時にバルーンがイントロデューサーに引っ掛かり、バルーンにしわ寄せが発生したとしても、バルーン先端部が可動出来ることにより、バルーン部の嵩張りを低減したバルーンカテーテルも報告されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公平4-31714号
【文献】特許第4062935号
【文献】特許第3846508号
【文献】特許第4191517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のバルーンカテーテルは、内チューブの内側に硬質の芯材を挿脱可能に挿入することが必要とするため、術時の手間が増えることになる。また、例えば、血管内の湾曲においてもバルーン伸張を維持したい場合、硬質の芯材を挿入したまま術技を行う必要があるため、バルーンカテーテルが血管の湾曲に追従しない可能性がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の高周波バルーン付きアブレーションカテーテルは、バルーンが伸張した場合、伸張されたバルーンが元に戻ろうとする復元力により、内筒シャフトに対して圧縮荷重がかかり、ガイドワイヤーや内筒シャフトが座屈してしまう問題がある。特に、高周波バルーン付きアブレーションカテーテルの場合は、術中にバルーンが加熱されるため、熱によるバルーンの歪みや内筒シャフトの軟化が発生することで、初期状態よりもバルーンの嵩張りの増大や、内筒シャフトの座屈が起きやすくなる。
【0011】
特許文献3に記載のバルーンカテーテルは、内筒シャフトと外筒シャフトが連結されていることにより、シャフト同士の摺動ができない。さらに、内筒シャフトには硬質材料が含まれることで延伸しにくいため、カテーテル術においてバルーンカテーテルを患者の体内から回収する際、イントロデューサーシース先端部にバルーン部が引っ掛かりやすくなり、これをそのまま抜去しようとするとバルーン嵩張りのしわ寄せが先端部に集中し、結果としてイントロデューサーからバルーンカテーテルが抜けなくなったり、バルーンカテーテル抜去に難渋して患者の血管を傷つけてしまったりする問題もある。また、柔軟性の高いバルーンを拡張する時は、内筒シャフトの長軸方向に対し引張荷重がかかることで、内筒シャフトに延伸作用が働くこととなる。内筒シャフトが硬質材料の場合、シャフトの弾性域内での延伸作用が機能せず、バルーンの拡張による負荷がバルーン接続部に集中してしまうことで、当該部分の破損が起きる可能性や、内筒シャフトが引き延ばされて内径が低減し、ガイドワイヤーとの摺動性が損なわれる可能性がある。
【0012】
特許文献4に記載のバルーンカテーテルは、バルーン膨張時にバルーンの外径のみならず、バルーンカテーテルの長手方向上にもバルーンが膨張してしまう。そのため、狙った拡張径とするためのバルーンを膨張させる際の流体容量は、通常よりも多く必要となってしまう。また、バルーンカテーテルをガイドワイヤーと併用できるような構造とした場合、内筒シャフトは最低2つのルーメンが必要になるために内筒シャフトの外径は増大し、外筒シャフト内径とのクリアランスも低減するため、バルーンルーメンの流路面積は減少することとなる。バルーン内の流体容量の増大やバルーンルーメン流路面積の低減は、結果としてバルーンの拡張収縮速度は悪化する問題があり、例えば心臓弁狭窄の治療においては、血流を遮断する時間が長くなる可能性がある。
【0013】
このような状況から、柔軟な材料のバルーンを用いたバルーンカテーテルに係る数々の問題点を一気に解決するための手段はこれまで開示されてこなかった。
【0014】
そこで、本発明はバルーンの拡張収縮速度を悪化させることなく、バルーン収縮時のバルーンの嵩張りを低減することができるバルーンカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の(1)~(7)の発明を見出した。
(1) 可撓性を有する外筒シャフトと、上記外筒シャフトの基端部に接続された操作者が操作時に把持するための把持部材と、上記把持部材に組み込まれた、液密性を保持するシール部材と、可撓性を有する内筒シャフトと、ロックウェル硬度がR115以上であり、かつ、曲げ弾性率が3.0~4.5GPaであり、肉厚が0.06~0.12mmであるチューブと、上記内筒シャフトの基端部に接続された押込部材と、上記押込部材上に接続された抜け防止部材と、上記外筒シャフトの遠位端部及び上記内筒シャフトの遠位端部にそれぞれ接続された弾性材料からなるバルーンと、を備え、上記チューブは、内筒シャフト上の上記バルーンとの接続部を除した範囲に外挿されている、バルーンカテーテル。
(2) 上記チューブの内径と上記内筒シャフトの外径とのクリアランスは、0.01~0.1mmである、(1)記載のバルーンカテーテル。
(3) 上記内筒シャフトは、引張弾性率が500~1400MPaであり、肉厚が0.1~0.23mmであり、かつ、降伏強度が25MPa以上である、(1)又は(2)記載のバルーンカテーテル。
(4) 上記チューブと上記内筒シャフトとは、該チューブの基端部と該内筒シャフトの基端部とでのみ固定されている(1)~(3)のいずれか記載のバルーンカテーテル。
(5) 上記チューブと上記内筒シャフトとは、該チューブの先端部と該内筒シャフトの先端部とでのみ固定されている、(1)~(3)のいずれか記載のバルーンカテーテル。
(6) 上記押込み部材は、外径変化を有するパイプ形状であり、その外径の遷移部はテーパー状であり、それぞれのパイプ外径は基端側から先端側に向かって順に小さくなっており、上記抜け防止部材は、上記バルーンの自然長の状態における、上記押込部材の先端側に向かって1つ目の外径変化したパイプ部上の位置に配置されている、(1)~(5)のいずれか記載のバルーンカテーテル。
(7) (1)~(6)のいずれか記載のバルーンカテーテルと、上記内筒シャフトと上記外筒シャフトとの間の空間に配置され、高周波を通電可能な電極リード線と、上記内筒シャフトと上記外筒シャフトとの間の空間に配置され、上記バルーン内の温度を外部に送信するための温度センサリード線と、上記電極リード線及び上記温度センサリード線を内部に挿通させて、外部から上記内筒シャフトと上記外筒シャフトとの間の空間に、上記電極リード線及び上記温度センサリード線を引き出すためのリード線被覆管と、を備え、上記電極リード線と上記温度センサリード線とは、互いに異なる金属で形成され、かつ、上記バルーンの内部で接触しており、上記リード線被覆管は、外径変化部を有するパイプ形状であり、上記押込部材の持ち手部よりも遠位側に、上記シール部材を介して液密性を保持しながら摺動可能なように配置されている、アブレーション用のバルーンカテーテル。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ロックウェル硬度がR115以上であり、かつ、曲げ弾性率が3.0~4.5GPaであり、肉厚が0.06~0.12mmであるチューブを、内筒シャフト上のバルーンとの接続部を除した範囲に外挿することで、カテーテルのシャフト部の血管湾曲に対する追従性を損なうことなく、カテーテル体内挿入時のバルーン伸長距離を延長させることによるバルーン復元力に対するシャフトの耐座屈強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係るバルーンカテーテルの長手方向における側面の模式図である。
図2】本発明の別の実施形態に係るバルーンカテーテルの長手方向における側面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のバルーンカテーテルは、可撓性を有する外筒シャフトと、上記外筒シャフトの基端部に接続された操作者が操作時に把持するための把持部材と、上記把持部材に組み込まれた、液密性を保持するシール部材と、可撓性を有する内筒シャフトと、ロックウェル硬度がR115以上であり、かつ、曲げ弾性率が3.0~4.5GPaであり、肉厚が0.06~0.12mmであるチューブと、上記内筒シャフトの基端部に接続された押込部材と、上記押込部材上に接続された抜け防止部材と、上記外筒シャフトの遠位端部及び上記内筒シャフトの遠位端部にそれぞれ接続された弾性材料からなるバルーンと、を備え、上記チューブは、内筒シャフト上の上記バルーンとの接続部を除した範囲に外挿されていることを特徴としている。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。なお、同一の要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。また、図面の比率は説明のものとは必ずしも一致していない。
【0020】
ここで、バルーンカテーテルにおいて「バルーンカテーテルの先端側」とは、バルーンカテーテルの長手方向におけるバルーン側を言う。また、「バルーンカテーテルの基端側」とは、バルーンカテーテルの長手方向における把持部材側のことを言う。
【0021】
また、「単層チューブ」とはチューブ断面形状が1層構造のチューブのことを言い、「多層チューブ」とは、複数の材料を組み合わせて作られた、チューブ断面形状が複数の層構造を有するチューブのことを言う。
【0022】
バルーンにおいて「自然長」とは、バルーンの接続部にバルーンの変形による荷重が発生していない状態での長手方向におけるバルーンの長さであり、バルーンにおける、バルーンの先端側と内筒シャフトの接続部からバルーンの基端側と外筒シャフトの接続部の間の長さのことを言う。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係るバルーンカテーテルの長手方向における側面の模式図である。図1に示されるバルーンカテーテル100は、外筒シャフト組立体、内筒シャフト組立体及びバルーン9から形成されている。
【0024】
バルーンカテーテル100において、外筒シャフト組立体は、外筒シャフト1、伸び防止部材2、把持部材3及びシール部材8から形成されている。
【0025】
外筒シャフト1の構造は、単層チューブでも多層チューブのどちらでもよい。例えば、多層チューブの場合は外層、中間層及び内層の3層からなる多層チューブが考えられる。
【0026】
外筒シャフト1の材料としては、外筒シャフト1が3層からなる多層チューブの場合、外層の材料には、抗血栓性に優れた可撓性のある高分子材料が好ましく、例えば、塩化ビニール、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテルブロックアミド共重合体、ポリプロピレン、ポリオレフィン又はポリエチレンテレフタレートが挙げられ、後述するバルーン9との熱による溶着を可能とするため、バルーン9の材料に合わせたポリウレタンやポリエーテルブロックアミド共重合体であることが好ましい。中間層は、金属製の平角線であればよく、例えば、医療機器に一般的に使用されるステンレスが挙げられる。内層に関しては、外筒シャフト1のルーメンの内表面の易滑性やチューブとしての耐延伸性を向上させるため、PTFE等のフッ素系ポリマーが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0027】
伸び防止部材2は、バルーン9を変形させた状態のまま血管内にバルーンカテーテル100を挿入する際、バルーン9が自然長の状態に戻ろうとする復元力によって、外筒シャフト1の延伸が発生することを防止する部材である。これを達成するため、伸び防止部材2はバルーン9の復元力よりも高い張力を持つ材料で形成されている。また、伸び防止部材2の形状は、外筒シャフト1の延伸を防ぐ形状であれば、どのような形状でもよいが、例えば、モノフィラメント状、マルチフィラメント状又は短冊状に形成された伸び防止部材2が考えられ、これが長手方向における全長に渡って、外筒シャフト1の内側に張られている、もしくは貼りつけられている。
【0028】
また、バルーンカテーテル100において、伸び防止部材2は、モノフィラメント状の伸び防止部材2の長手方向の長さは外筒シャフト1の長手方向の長さよりも長くなっている。これにより、作成途中では外筒シャフト1のルーメンの先端側の開口部と基端側の開口部の両端でそれぞれ伸び防止部材2の末端が飛び出すようになっており、この飛び出した部分は、外筒シャフト1の外表面に向けて折り返されるようになっている。さらに、外筒シャフト1の基端側の開口部には、液密にしながら内筒シャフト4と外筒シャフト1を摺動させることを可能にするシール部材8を有し、操作者が操作時に把持するための把持部材3が、外筒シャフト1の外周を囲うようにして取り付けられている。
【0029】
伸び防止部材2の材料としては、バルーンカテーテルが血管等の湾曲に追従することを阻害しないかつ高張力な材料が好適であり、アラミド繊維又はポリアクリレート繊維が好ましい。
【0030】
把持部材3は、操作者が操作時に把持するための部材であり、操作者が操作しやすい人間工学的な形状をしていればよく、例えばY型の形状であることが挙げられるが、これに限定されるものではない。外筒シャフト1の基端側に、外周を囲うようにして、取り付けられている。
【0031】
把持部材3の材料としては、成型の容易性及び強度を確保する観点から、一定の硬度のプラスチックが好ましく、例えば、スチロールポリマー、アクリルポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素ポリマー又はポリアセタール等のプラスチックが挙げられる。
【0032】
内筒シャフト4は、その内側がバルーンカテーテル100のガイドワイヤー用のルーメンとなり、外筒シャフト1のルーメン内に挿入されることで、バルーン9の拡張ルーメンを形成する部材である。
【0033】
ここで、内筒シャフト4は、試験方法をISO527とした場合、引張弾性率と降伏強度がそれぞれ、500~1400MPaと25MPa以上となり、その内筒シャフト4の肉厚が0.1~0.23mmの材料からなることが好ましい。具体的な材料としては、ポリアミド又はポリエーテルブロックアミドが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
チューブ5は、血管内にバルーンカテーテル100を挿入するためにバルーン9の嵩張りを低減する目的でバルーン9を伸長する際に、バルーン9の復元力による内筒シャフト4のキンクや座屈を防止する部材である。内筒シャフト4の先端部の一部を除き、内筒シャフト4のほぼ全長に渡って内筒シャフト4に外挿されていることから、内筒シャフト4とチューブ5は摺動可能な状態にあるため、バルーン拡張時に内筒シャフト4に掛かる引張張力において、内筒シャフト4のみに延伸作用が発生する機構となる。この内筒シャフト4とチューブ5の関係性により、バルーン伸長時の耐座屈性とバルーン拡張時の柔軟性を両立している。
【0035】
チューブ5は、内筒シャフト4に外挿されていればよい。しかしながら、チューブ5の先端側の端部又はチューブ5の基端側の端部のどちらか一方でのみ、内筒シャフト4とチューブ5が固定されることで内筒シャフト組立体が形成されることが好ましい。このように、チューブ5の基端部と内筒シャフト4の基端部とでのみ固定されている、又は、チューブ5の先端部と内筒シャフト4の先端部とでのみ固定されている場合、最低限の固定部位で他の部材に乗り上げる等の部材の干渉を防ぎつつ、内筒シャフト4のみに延伸作用が発生する機構を維持することができる。
【0036】
チューブ5の材料としては、ポリイミドやポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド又はポリアミドイミドが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0037】
押込部材6は、血管内にバルーンカテーテル100を挿入するために、操作者がバルーン9を伸長する操作を行うための部材である。押込部材6には、押込部材6の把持部分以外の箇所で2つ以上の外径を持つパイプ部分を備えており、それぞれのパイプ部分における外径は、先端側から基端側にかけて順に大きくなり、それぞれの外径の遷移部はテーパー形状となっている。また、押込部材6の先端側の端部は、内筒シャフト4の基端側の端部と接続されている。
【0038】
押込部材6のパイプ部の材料は、操作者が押し込み操作しやすいようにするため、硬質なポリマー又は金属材料を用いることが好ましく、金属材料を用いることが好ましい。また、金属材料としては、ステンレスが好ましい。また、押込部材6の基端側の端部に操作者が持ちやすいようにするための持ち手部分を設けることが好ましく、この持ち手部分の材料に関しては、硬質なポリマー又は金属材料が好ましい。また、持ち手部分の表面は滑り止めの観点からローレット加工又はサンドブラスト加工を用いて表面形状が荒くされていることが好ましい。
【0039】
押込部材6のパイプ部分の段差は、シール部材8の締め付け力にも依るが、基端側のパイプ部分において、段差を0.3~0.4mmとし、テーパー移行長さを0.5~1mmとしておくことで、内筒シャフト組立体と外筒シャフト組立体を摺動させる際に、操作者が触感により段差部を感じることが可能となり、後述するシール部材8が、押込部材6のパイプ部分の段差を乗り越える際の荷重が10~15Nとなるためストレスを感じることなく段差を移動可能な操作となる。
【0040】
抜け防止部材7は、0.1~0.4mmの肉厚を持つ円筒形状であり、押込部材6のパイプ部の2番目に太い外径を持つパイプ上に接続され、バルーンカテーテル100のバルーン9の自然長の状態の位置から、基端側に短くならないようにするための部材である。
【0041】
抜け防止部材7の材料は、硬質なポリマー又は金属が好ましい。抜け防止部材7を押込部材6に取り付ける場合、接着剤による接着、溶接又は溶着等の取り付け方法を、抜け防止部材7の材料に合わせて選択をすればよい。
【0042】
バルーンカテーテル100において、バルーン9は弾性材料により形成される。具体的にバルーン9を形成する弾性材料としては、シリコン、ポリエーテルブロックアミド共重合体、ポリウレタン、天然ゴム又は合成ゴムが挙げられる。また、バルーン9は、多層構造であってもよい。多層構造のバルーンの場合、例えば、ポリウレタン又はポリエステルからなる仮撚糸を筒状に編んで形成したメッシュと、天然ゴムとを、ゴム糊により接着してバルーンを得てもよい。治療対象に応じてバルーン9の硬度は異なっていてよいが、単一素材によりバルーン9を構成して心房細動アブレーション術に使用する場合、その材料のショアA硬度は100以下であることが好ましい。
【0043】
シール部材8は、把持部材3が有する開口部を塞ぐことでバルーンカテーテル100の内部を液密にしつつ、外筒シャフト組立体に対して、後述する内筒シャフト組立体を摺動させることを可能にする。
【0044】
シール部材8の材料としては、液密性を保ちつつ内筒シャフト組立体を摺動可能とする観点で軟質な材料が好ましく、例えば、シリコーンゴム、合成ゴム又はスチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0045】
また、シール部材8の構造は、例えば、軟質材料のシートの一部に切れ込みを入れたスリット弁をシール部材8として把持部材3に組み込んでもよいし、把持部材3にキャップ嵌合構造を設けた上で、Oリングや円筒形状の軟質材料をシール部材8として、キャップ嵌合構造によりシール部材8を締め付ける形状であってもよい。
【0046】
さらに、バルーンカテーテル100において、内筒シャフト組立体は、内筒シャフト4、チューブ5、押込部材6、抜け防止部材7及びシール部材8から形成されている。
【0047】
バルーン9を形成する弾性材料は、天然ゴム又は合成ゴムのような難溶着性の材料の場合、通常では外筒シャフト1への取り付けが困難となる。この場合、外筒シャフト1の先端部には、例えば硬質製のポリマーや金属製の短いパイプを外筒シャフト1の先端部から突出するように内挿してもよく、そのパイプの突出部上に難溶着材料をテグスのような糸で巻き付けて接着してもよい。
【0048】
同様に、バルーン9を形成する弾性材料は、天然ゴム又は合成ゴムのような難溶着材料の場合、通常では内筒シャフト4への取り付けも困難となる。この場合、内筒シャフト4の先端部には、例えば硬質製のポリマーや金属製の短いパイプを内筒シャフト4に内挿してもよく、そのパイプが存在する部分での内筒シャフト4の外周上に難溶着材料をテグスのような糸で巻き付けて接着してもよい。
【0049】
バルーン9の自然長は、治療対象に合わせて適宜設定すればよいが、心臓弁狭窄症や心房細動治療のどちらの場合においても20~30mmが好ましい。外筒シャフト1の長さも治療対象に合わせて適宜設定すればよいが、心臓弁狭窄を対象とする場合は、長さは200~1100mmが好ましく、心房細動治療の場合には、700~1000mmが好ましい。
【0050】
バルーン9の膨張時の外径は、治療対象に合わせて適宜設定すればよいが、心臓弁狭窄症の場合には13~30mmが好ましく、心房細動治療の場合には、20~35mmが好ましい。
【0051】
上記の内筒シャフト組立体を外筒シャフト組立体に挿入し、内筒シャフト組立体を外筒シャフト組立体の先端側の端部をバルーン9で接着することでバルーンカテーテル100は形成される。
【0052】
このバルーンカテーテル100の形成の際、外筒シャフト組立体のシール部材8の位置が、内筒シャフト組立体の押込部材6の細径部における基端側の端部の位置になるように調整して、内筒シャフト組立体が外筒シャフト組立体に挿入される。その状態でシール部材8を避けて押込部材6の細径部上に抜け防止部材7を取り付け、外筒シャフト1の先端側端部と内筒シャフト4の先端側端部(チューブ5が外挿されていない部分)とにバルーン9が取り付けられ、これをバルーン9の自然長の状態として、バルーンカテーテル100が形成される。
【0053】
バルーンカテーテル100の形成の際、内筒シャフト組立体のチューブ部分の剛性をさらに高めるためには、押込部材6のパイプ部分を外筒シャフト1のルーメンまで進入させることが好ましい。この場合、バルーンカテーテルの治療対象によってその長さを適宜設定すればよいが、大腿動脈から心臓弁にアプローチするような場合、600~900mmが好ましく、大腿静脈から左心房にアプローチするような場合、500~800mmが好ましい。
【0054】
また、押込部材6のパイプ部分を外筒シャフト1まで進入させる場合、これに伴いバルーンカテーテルの長さに合わせて、内筒シャフト4及びチューブ5の長さが適宜調整されることとなる。内筒シャフト4の長さについては、大腿動脈から心臓弁にアプローチするような場合、200~400mmが好ましく、大腿静脈から左心房にアプローチするような場合、100~300mmが好ましい。
【0055】
次に、本発明の別の実施形態に係るバルーンカテーテルについて説明する。図2はバルーンカテーテル200の長手方向における側面の模式図である。バルーンカテーテル200の外筒シャフト組立体は、バルーンカテーテル100の有する外筒シャフト組立体と同様の構造である。一方、バルーンカテーテル200の有する内筒シャフト組立体は、バルーンカテーテル100の有する外筒シャフト組立体の構造とは異なっている。
【0056】
具体的には、バルーンカテーテル200が有する内筒シャフト組立体は、内筒シャフト4の基端側の端部が押込部材6の先端側端部に取り付けられ、ポリイミドで形成されたチューブ5は内筒シャフト4の先端部の一部を除き、内筒シャフト4の全長に渡って内筒シャフト4に外挿されており、チューブ5は内筒シャフト4の基端側の端部とのみ固着されている。
【0057】
また、バルーンカテーテル200は、高周波を用いるように形成されており、電極リード線11及び温度センサリード線12を有している。ここで、電極リード線11及び温度センサリード線12は、ほぼ全長が電気絶縁性保護被覆に覆われており、通電させたい部分の電気絶縁性保護被覆を除することで、高周波の通電やもう一方のリード線との電気的接触を可能としている。加えて、電極リード線11及び温度センサリード線12は、チューブ5及び押込部材6のほぼ全長に渡って内筒シャフト4の上に配置されている。
【0058】
バルーン9の内部において、電極リード線11はチューブ5の外周上にコイル状に巻き付けられて固定される。これにより、電極リード線11の先端側は、電極リード線のコイル部10が形成されることが好ましい。このようにすることで、バルーン部における内筒シャフト4の湾曲に対する追従性を損なわないようすることができ、さらに、患者の体表面に貼られる対極板と電極リード線の間での高周波の通電をより好適にすることが可能になる。
【0059】
また、バルーン9の内部において、電気絶縁性保護被覆が除された部分の電極リード線11と電気絶縁性保護被覆が除された部分の別の金属からなる温度センサリード線12が接触することで電極リード線11と温度センサリード線12が通電する。この時、電極リード線11と温度センサリード線12は互いに異なる金属のため、接触した点において熱電対(互いに異なる金属間の温度差に応じて発生する微弱な電圧(熱起電力)を用いた温度センサ)が形成され、バルーン9内部の温度測定を可能にする。
【0060】
バルーンカテーテル200のように高周波を用いる場合、外筒シャフト1の中間層の金属編組に高周波が流れ込まないように、外筒シャフト1の先端側の端部は、例えば単層チューブを外筒シャフト1の先端部に溶着して取り付けて、金属編組が高周波に対して露出しないように構成されていることが好ましい。また、外筒シャフト1の外層の厚みは、バルーン9の膜厚よりも厚くなっていることが好ましい。
【0061】
しかしながら、バルーンカテーテル200のような高周波を用いるバルーンカテーテルの場合、押込部材6のパイプ部分の外周上の電極リード線11及び温度センサリード線12を真っ直ぐにする観点で、押込部材6のパイプ部分には段差を設けず寸胴形状のままとしておく方が好ましい。
【0062】
高周波通電用電極10の材料としては、例えば、銅、銀、金、白金及びタングステン並びにそれらの合金が好ましい。また、バルーンカテーテル200において、電極リード線11の先端部は電極リード線のコイル部10を形成しているが、この電極リード線のコイル部10において、電極リード線が有する電気絶縁性保護被覆を除くことで、電極リード線のコイル部10は、高周波を通電することが可能となる。この場合、電極リード線11がコイル状の場合、より高周波を通電しやすくなるため好ましい。
【0063】
電極リード線11は、高周波発生電源を用いるアブレーション用バルーンカテーテルのバルーンの内部に高周波電流を導通させる部材である。
【0064】
電極リード線11の材料としては、例えば、銅、銀、金、白金及びタングステン並びにこれらの合金が挙げられる。また、短絡を防止する観点から、電極リード線11は、フッ素ポリマーなどの電気絶縁性保護被覆が表面に施されている。また、電極リード線11の直径は特に限定はないが、実用性の観点から、0.05~0.4mmが好ましい。
【0065】
温度センサリード線12は、電極リード線11とは互いに異なる金属で形成され、かつ、バルーン9の内部で接触することでバルーン9内の温度を測定するための熱電対を形成するとともに、測定されたバルーン9内の温度を電圧として外部に送信するための部材である。
【0066】
温度センサリード線12の材料は、熱電対を形成するために電極リード線11とは異種金属を用いる。また、温度センサリード線12の材料は、電極リード線11とは異種金属であればどのような金属を用いてもよく、例えば、ニッケル、クロム、白金又はこれらの合金が好ましい。また、温度センサリード線12は、短絡を防止する観点から、フッ素ポリマー等の電気絶縁性保護被覆が表面に施されていることが好ましい。また、温度センサリード線12の直径は特に限定はないが、実用性の観点から、0.05~0.4mmが好ましい。
【0067】
リード線被覆管13は、押込部材6の外周に配置された、電極リード線11及び温度センサリード線12を内部に挿通する被覆管である。ここで、バルーンカテーテル200において、リード線被覆管13は、外部の電源に接続された電極リード線11及び温度センサリード線12を内部に挿通させており、外部からリード線被覆管13を通して電極リード線11及び温度センサリード線12を内筒シャフト4と外筒シャフト1の間の空間に引き出すようにしている。また、リード線被覆管13は、押込部材6の持ち手部分よりも長手方向の先端側に、シール部材8と液密性を保持しながら摺動可能なように配置されている、
【0068】
また、バルーンカテーテル200において、リード線被覆管13は、長手方向における基端側から順に外径が変化した細径部、中間部及び太径部を有するパイプ形状であり、かつ、中間部はテーパー状であるため、全体として段差を有している。
【0069】
リード線被覆管13の段差は、バルーンカテーテル100と同様に、シール部材8の締め付け力にも依るが、基端側のパイプ部分において、外筒シャフト組立体と内筒シャフト組立体の摺動力が10~15Nとなる場合には、段差を0.3~0.4mmとし、テーパー移行長さを0.5~1mmとしておくことで、操作者が触感により段差部を感じることが可能となり、かつ、ストレスを感じることなく段差を移動可能な操作となるため好ましくなる。
【0070】
リード線被覆管13の材料は、操作者が押し込み操作しやすいよう硬い材料が好ましい。具体的には硬質なポリマー又は金属材料が挙げられるが。金属材料を材料として用いるのが好ましく、耐腐食性が高いことから、ステンレスを材料として用いるのがより好ましい。
【0071】
また、抜け防止部材7をリード線被覆管13に取り付ける場合、接着剤による接着、溶接又は溶着等の取り付け方法を、抜け防止部材7の材料に合わせて選択をすればよい。
【0072】
充填材14は、リード線被覆管13の内側に液体が導通しないようにするための部材である。押込部材6の把持部分以外でのパイプ外周上にある電極リード線11及び温度センサリード線12は、リード線被覆管13の内側に挿通され、リード線被覆管13と押込部材6の把持部分以外のパイプ外周との隙間に充填剤14が充填される。
【0073】
充填材14の材料は、押込部材6とリード線被覆管13の隙間を液密に充填しつつ、これらを一体化させるようにするため、例えば、ウレタン系やシリコン系のシーリング材やエポキシ接着剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
上記の内筒シャフト組立体を外筒シャフト組立体に挿入し、内筒シャフト組立体を外筒シャフト組立体の先端側の端部をバルーン9で接着することでバルーンカテーテル200は形成される。
【0075】
ここで、内筒シャフト組立体を外筒シャフト組立体に挿入する時、外筒シャフト組立体のシール部材8の位置が、内筒シャフト組立体のリード線被覆管13の細径部における基端側の端部の位置になるように配置され、その状態でシール部材8を避けてリード線被覆管13の細径部上に抜け防止部材7を取り付け、外筒シャフト1の先端側の端部と内筒シャフト4の先端側の端部(チューブ5が外挿されていない部分)とにバルーン9が取り付けられ、これをバルーン9の自然長の状態として、バルーンカテーテル200を成す。
【0076】
押込部材6の把持部分以外でのパイプ外周上にある電極リード線11及び温度センサリード線12は、リード線被覆管13の内側に挿通され、リード線被覆管13と押込部材6の把持部分以外のパイプ外周との隙間に充填剤14が充填される。
【実施例
【0077】
以下、本発明のバルーンカテーテルの具体的な実施例について、図1を交えて説明する。
【0078】
(実施例1)
外層の材料をポリエーテルブロックアミド共重合体、中間層の材料をステンレス平角線による編組構造とし、内層の材料をPTFEとして、3層構造のチューブを成型した。この3層構造のチューブの先端部に対しポリエーテルブロックアミド共重合体の単層チューブ(長さ4mm)を熱溶着により取り付け、ブレードチューブを作製した。このブレードチューブは、外径が3.1mm、内径が2.6mm、長さが1050mmであった。
【0079】
次に、先端側に細径部を有し、基端側に細径部を有する、1段の段差付のパイプ(細径部が外径2mm、内径1.84mm、長さ7mmであり、太径部が外径2.4mm、内径2.24mm、長さ3mm;ステンレス製)を用意し、アラミド繊維(長さが1200mm、直径が0.3mm)の端部を段差付のパイプの段差に巻き付けて固定し、アラミド繊維をブレードチューブに貫通後、段差付のパイプの太径部とブレードチューブ先端部とを接着剤により固定することで、外筒シャフト1を作製した。
【0080】
把持部材3として、Oリングを嵌め込み可能なキャップ嵌合構造を備えるY型コネクターを用い、伸び防止部材2として、外筒シャフト1のルーメンの全長に渡り伸び防止部材2とするためアラミド繊維が張られるように配置させ、外筒シャフト1の基端側の端部外周上にアラミド繊維を折り返した状態で、外筒シャフト1の基端側の端部とY型コネクターのチューブ接続口とを接着剤により固定した。
【0081】
押込部材6として、持ち手部分を備えた、外径が3段変化するステンレス製のパイプを用意した。押込部材6において、径が異なる部分を、長手方向における基端側からそれぞれ太径部、中間部及び細径部とした時、太径部は、外径が2.1mm、長さが60mmであり、中間部は、外径が1.8mm、長さが10mmであり、太径部から中間部に移行するテーパー長さは0.5mm、細径部は、外径が1.16mm、長さが805mmであった。また、押込部材6としての最小内径は1.0mmであった。
【0082】
続いて、押込部材6上に、把持部材3のネジ式のキャップと内径1.4mm、線径1.5mmのOリングとを外挿し(キャップが基端側となるよう)、Oリングが中間部の基端側の端部に位置する場所で、押込部材6の中間部上で、Oリングよりも先端側に、抜け防止部材7を接着剤により固定した。抜け防止部材7は、ポリイミド製であり、内径が1.9mm、肉厚が0.06mm、長さが8.5mmであった。
【0083】
内筒シャフト4を構成するチューブとして、引張弾性率1300MPa(試験方法:ISO527)であり、降伏強度40MPa(試験方法:ISO527)のチューブ(ポリアミド製)を用い、外径1.2mm、内径1.0mm、長さ約305mmとし、基端側の端部を拡径して、押込部材6の細径部の先端部に、接着剤により固定した。さらに、このチューブの先端を拡径し、ステンレスパイプ(外径1.16mm、内径1.0mm、長さ7mm)をチューブのルーメンに嵌め込み、接着剤により固定し、これを内筒シャフト4とした。
【0084】
チューブ5は、曲げ弾性率3.5GPa(試験方法:ASTM D790)、ロックウェル硬度R126(試験方法:ASTM D785)、内径1.25mm、外径1.37mmのチューブ(ポリイミド製)とし、長さを295mmとした。なお、このチューブ5は、内筒シャフト4の先端に取り付けられているステンレスパイプを接着する前に、チューブ5の基端側端部と押込部材6のパイプの細径部の先端とが接するよう、内筒シャフト4を構成するチューブに外挿され、チューブ5の基端側の端部の約2mm部分のみが内筒シャフト4に接着剤により固定されている。
【0085】
内筒シャフト4とチューブ5、押込部材6より構成される内筒シャフト組立体を、外筒シャフト組立体に挿通させ、把持部材3のキャップを把持部材3にはめ込み、シール部材8となるOリングを、押込部材6の中間部から太径部にOリングが乗り上げる際(内筒シャフト組立体と外筒シャフト組立体の摺動力と同義)が15Nとなるように締め付けた。そして、Oリング位置が、押込部材6の中間部の基端側の端部となるように調整し、これをバルーンカテーテル100のバルーンの自然長の状態とすることとした。
【0086】
バルーンカテーテル100において、バルーン9は、3層構造で形成されている。内層のバルーンとして天然ゴムラテックスであり、内径4.5mm、片側膜厚0.3mmを、外筒シャフト1の段付きパイプの細径部上と内筒シャフト4のステンレスパイプ上に0.2号のナイロンテグスを巻き付け後に接着剤で固定してこれを内側バルーンとし、さらにその上に、内径4.5mm、片側膜圧0.3mmの天然ゴムラテックスと、ポリウレタンとポリエステルより構成される仮撚糸で、針数50本で筒状に編まれたメッシュとをゴム糊により接着して構成された外側バルーンの組立体を配置させ、外筒シャフト1の段付きパイプの細径部上と内筒シャフト4のステンレスパイプ上に0.6号のナイロンテグスで巻き付けて接着剤で固定してこれを外側バルーンとした。
【0087】
これにより、内層が天然ゴムラテックス、中間層がメッシュ、外層が天然ゴムラテックスの3層構造のバルーン9が得られた。また、バルーンの自然長25mm、拡張時のバルーン径が26mmとなるようにした。
【0088】
(比較例1)
実施例1の内筒シャフト4の作成時にチューブ(ポリイミド製)を取り付けない以外は、実施例1と同様の方法でバルーンカテーテルを作製し、これを比較例1とした。この比較例1の内筒シャフト4は、外径1.35mm、内径0.94mmであった。
【0089】
(比較例2)
内筒シャフト4を外径1.1mm、内径1.0mmとした以外は、実施例1と同様の方法でバルーンカテーテルを作製し、比較例2とした。
【0090】
(比較例3)
内筒シャフト4を引張弾性率414MPa(試験方法:ISO527)、降伏強度23MPa(試験方法:ISO527)の(ポリエーテルブロックアミド共重合体製)を用い、外径1.2mm、内径1.0mmとした以外は、実施例1と同様の方法でバルーンカテーテルを作製し、比較例3とした。
【0091】
(比較例4)
内筒シャフト4及び内筒シャフト4の先端に取り付けたステンレスパイプに代えて、曲げ弾性率3.5GPa(試験方法:ASTM D790)、ロックウェル硬度R126(試験方法:ASTM D785)、内径1.2mm、肉厚0.06mmのチューブA(ポリイミド製)と、内径1.35mm、肉厚0.06mmのポリイミド製のチューブBと、内径1.5mm、肉厚0.04mmのポリイミド製のチューブCを重ね合わせ、その長さを約310mmとしてチューブ5とし、チューブ5の基端側の端部を、押込部材6の細径部の先端と接着固定し、バルーン9を取り付けた以外は、実施例1と同様の方法でバルーンカテーテルを作製し、比較例4とした。
【0092】
(模擬血管を使用した実施例及び比較例の比較)
外径16mm、内径10mm、長さ70cmの耐圧ホースを用い、この耐圧ホースの端部から16cm程度の位置をループの中心としてで、耐圧ホースが扁平しないように1周のループを作成し、これを模擬血管とした。作成したループの曲率は、耐圧ホースの断面における中心軸を円周とした場合に、直径5cmとなった。なお、耐圧ホースのループを作成した側の端部が模擬血管における先端側となる。
【0093】
耐圧ホースの基端側の端部に呼び径11Fr.(測定内径:3.75mm)のイントロデューサーシース(東郷メディキット株式会社製;医療機器承認番号:16100BZZ00178000)をセットし、模擬血管及びイントロデューサーシースの内部を貫通するように、0.035インチ、長さ260cmのガイドワイヤー(Cook社製;医療機器承認番号:22400BZX00511000)を留置した。
【0094】
実施例1及び比較例1~4のバルーンカテーテルを、基端側からバルーンカテーテルをガイドワイヤーに沿って模擬血管の内部に進入させ、(1)11Fr.イントロデューサーシースへの挿入性、(2)模擬血管ループ部の追従性測定、(3)外径26mmとなるまでのバルーン拡張時の水の注入量、(4)完全拡張状態からのバルーン収縮時間測定、(5)11Fr.イントロデューサーシースからの抜去時の抵抗力(カテーテル回収性)の、(1)~(5)までの試験を順番に実施し、血管内でのバルーンカテーテルを用いた操作者の術技を模擬的に再現した模擬試験とした。この時、(1)~(5)までの試験を順番に実施していき、途中で評価が×になったものは、術中で次の操作に移れなかったものとし、実施不可と評価した。
【0095】
(1)~(5)までの試験を順番に実施した結果を表1に記載する。
【0096】
【表1】
【0097】
また、血管内でのバルーンカテーテルを用いた操作者の術技を模擬的に再現した模擬試験とは別に、(1)~(5)までの試験を順番に行なわず、単体で試験した結果を表2に記載する。
【0098】
【表2】
【0099】
(1)11Fr.イントロデューサーシースへの挿入性測定:
この測定は、バルーンカテーテルの血管内への挿入を模擬的に再現したものである。実施例1及び比較例1~4のバルーンカテーテルを11Fr.イントロデューサーシースに挿入し、その挿入性について評価を行った。11Fr.イントロデューサーシースに対して、難なく挿入できたものを挿入可能(○)として評価し、11Fr.イントロデューサーシースに対して、操作者がバルーンカテーテルを手で押し進めることが出来ない場合や、挿入が出来たとしてもバルーンカテーテルに何らかの破損が発生した場合を、挿入不可能(×)として評価した。
【0100】
比較例1において、外筒シャフト組立体に対して内筒シャフト組立体を60mm摺動して押し込んでバルーン9を伸張させた際、内筒シャフト4に座屈が発生し11Fr.イントロデューサーシースへ挿入不可能(×)となったが、実施例1及び比較例2~4では、全てイントロデューサーシースへ挿入可能(○)であった。
【0101】
なお、外筒シャフト組立体に対して内筒シャフト組立体を60mm摺動して押し込んでバルーン9を伸張させた際のバルーン長は、実施例1及び比較例2~4では70mm、座屈が発生した比較例1では56mmであった。
【0102】
(2)模擬血管ループ部の追従性測定:
この測定は、バルーンカテーテルの患部への送達操作の際、血管内の湾曲部に追従して進入できるかを模擬的に再現したものである。11Fr.イントロデューサーシースへの挿入性測定をクリアした実施例1、比較例2、比較例3及び比較例4のバルーンカテーテルについて、模擬血管内のループ部(ループの曲率は、耐圧ホースの断面における中心軸を円周とした場合、直径5cm)において、ガイドワイヤーに追従して進入できるかの評価を行った。模擬血管内のループ部に対して、難なく挿入できたものを追従性が良好(○)として評価し、模擬血管内のループ部への挿入の際、バルーンカテーテルがガイドワイヤーに追従できずガイドワイヤーの形状を変形させてしまう場合や、バルーンカテーテルがガイドワイヤーのコーティングを剥離させてしまうような場合を追従性が悪い(×)として評価した。
【0103】
なお、比較例4のバルーンカテーテルにおいては、模擬血管のループ部を進入させる際の抵抗力が非常に強く、ガイドワイヤーのコーティング剥離が発生した。
【0104】
また、比較例1のバルーンカテーテルについては、11Fr.イントロデューサーシースへ挿入できないことから、(1)~(5)までの試験を順に実施は不可能であった。しかしながら、模擬血管ループ部の追従性測定を単体で実施した場合、比較例1のバルーンカテーテルは、模擬血管ループ部における追従性が良好(○)であるという結果となった。
【0105】
(3)外径26mmとなるまでのバルーン拡張時の水の注入量測定:
この測定は、血管の狭窄部におけるバルーン拡張操作を模擬的に再現したものである。実施例1、比較例2及び比較例3のバルーンカテーテルについて、カテーテル内部に水を注入してそのバルーンを拡張し、そのバルーン径が26mmとなるまでに注入した水の量を測定した。バルーンに注入された水の量が多くなる場合、カテーテルの長手方向におけるバルーン長が長くなっており、これはバルーンカテーテルの内筒シャフトに余計な延伸が発生していることを意味する。すなわち、内筒シャフトの延伸を回避することは、カテーテル破損の発生確率を抑えることに繋がるため、本測定においてバルーンに注入される水量は少ない方が好ましい。
【0106】
外径26mmとなるまでのバルーン拡張時の水の注入量測定の結果、比較例1のバルーンカテーテルでは注入量が20.1mL、比較例3のバルーンカテーテルでは注入量が20.7mLとなったのに対し、実施例1のバルーンカテーテルでは注入量が17.9mLと、最もバルーン容量が少ない結果となった。
【0107】
また、比較例1及び比較例4のバルーンカテーテルについては、(1)~(5)までの試験を順に実施は不可能であったが、外径26mmとなるまでのバルーン拡張時の水の注入量測定を単体で実施した場合、比較例1のバルーンカテーテルでは注入量が17.8mL、比較例4のバルーンカテーテルでは注入量が17.7mLとなり、実施例1のバルーンカテーテルとほぼ同等の注入量を達成した。
【0108】
(4)完全拡張状態からのバルーン収縮時間測定:
この測定は、血管の狭窄部をバルーンで拡張した後のバルーンの収縮操作を模擬的に再現したものである。実施例1、比較例2及び比較例3のバルーンカテーテルで、外径26mmに拡張されたバルーンを完全拡張状態として測定時間の起点とし、その状態からバルーンカテーテルに接続された30mLシリンジの押子を目一杯引ききることで水を吸い出してバルーンを収縮させ、バルーンが完全に収縮するまでの時間を終点として、起点から終点までの時間を測定した。この起点から終点までの時間は、例えば、心臓の弁拡張のカテーテル術の場合であれば、バルーン拡張時の血流を遮断している時間を意味しており、この時間が短いほど患者の負担は少なくなる。
【0109】
完全拡張状態からのバルーン収縮時間測定の結果、実施例1のバルーンカテーテルでは3.8秒、比較例2のバルーンカテーテルでは4.5秒、比較例3のバルーンカテーテルでは4.8秒となり、実施例1が最も早いバルーン収縮時間となった。
【0110】
なお、比較例1及び比較例4のバルーンカテーテルについては、(1)~(5)までの試験を順に実施は不可能であったが、完全拡張状態からのバルーン収縮時間測定を単体で実施した場合、比較例1のバルーンカテーテルでは3.8秒、比較例4のバルーンカテーテルでは4.8秒となった。
【0111】
(5)11Fr.イントロデューサーシースからの抜去時の抵抗力測定(カテーテル回収性):
この測定は、バルーンの収縮後、バルーンカテーテルを患者の体外へ抜去する操作を模擬的に再現したものである。実施例1、比較例2及び比較例3のバルーンカテーテルにフォースゲージ(イマダ社製)を取り付けて、11Fr.イントロデューサーシースからのカテーテル抜去操作を行い、11Fr.イントロデューサーシースとバルーンカテーテルの間で発生する抵抗力を測定した。具体的には、各バルーンカテーテルの外筒シャフト組立体に対して内筒シャフト組立体を60mm摺動して押し込んでバルーン9を伸張させ、バルーンカテーテルを11Fr.イントロデューサーシースから抜去時の抵抗力を測定した。加えて、評価として、操作者がバルーンカテーテルに破損なく抜去できたものをカテーテル回収性が良好(○)として評価し、バルーンカテーテルを11Fr.イントロデューサーシースから引き抜けない場合や、引き抜けたとしてもカテーテルに何らかの破損が発生した場合を、カテーテル回収性が悪い(×)として評価した。
【0112】
結果、実施例1のバルーンカテーテルの抜去時の抵抗力は14Nであり、バルーンカテーテルに破損なく11Fr.イントロデューサーシースの抜去が可能であったため、カテーテル回収性が良好(○)として評価した。また、比較例2及び比較例3のバルーンカテーテルでは、抜去時の抵抗力は14Nであり、実施例1と同等の抵抗力であったが、比較例2及び比較例3のどちらにおいても11Fr.イントロデューサーシースからの抜去時に内筒シャフト4に局所的な永久ひずみが発生してルーメンが狭くなり、ガイドワイヤーとの摺動性が悪化した結果、バルーンカテーテルとガイドワイヤーとのスタックが発生した。
【0113】
バルーンカテーテルとガイドワイヤーがスタックした場合、これらは一体化した動きとなってしまう。本来、ガイドワイヤーはカテーテル術においてカテーテルのレールとなるべき役割は果たさなければいけないが、カテーテルとガイドワイヤーが一体化した動きになってしまうと、その操作時に血管や組織を傷つけてしまう可能性がある。
【0114】
なお、比較例1及び比較例4のバルーンカテーテルについては、(1)~(5)までの試験を順に実施は不可能であったが、比較例4のバルーンカテーテルについて、11Fr.イントロデューサーシースからの抜去時の抵抗力測定を単体で実施した場合、バルーンカテーテルに破損なく11Fr.イントロデューサーシースから抜去可能であったため、カテーテル回収性が良好(○)として評価できたが、測定された抵抗力は25Nとなり、実施例1のバルーンカテーテルよりも約2倍程度高い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、例えば、弁狭窄治療や心房細動治療等の血管内治療に用いるバルーンカテーテルに利用できる。
【符号の説明】
【0116】
1・・・外筒シャフト、2・・・伸び防止部材、3・・・把持部材、4・・・内筒シャフト、5・・・チューブ、6・・・押込部材、7・・・抜け防止部材、8・・・シール部材、9・・・バルーン、10・・・電極リード線のコイル部、11・・・電極リード線、12・・・温度センサリード線、13・・・リード線被覆管、14・・・充填材、100・・・バルーンカテーテル、200・・・バルーンカテーテル
図1
図2