(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】多孔性ポリオレフィンフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 9/26 20060101AFI20230111BHJP
H01M 50/409 20210101ALI20230111BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/26 CES
H01M50/409
(21)【出願番号】P 2019520754
(86)(22)【出願日】2019-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2019006736
(87)【国際公開番号】W WO2019163935
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2018030549
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018030550
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】豊田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】下川床 遼
(72)【発明者】
【氏名】石原 毅
(72)【発明者】
【氏名】久万 琢也
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-517152(JP,A)
【文献】特表2012-501357(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170289(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/146579(WO,A1)
【文献】国際公開第00/49073(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/093572(WO,A1)
【文献】特開2017-88836(JP,A)
【文献】国際公開第2006/025323(WO,A1)
【文献】特開2008-55901(JP,A)
【文献】特開2005-343957(JP,A)
【文献】国際公開第2002/092677(WO,A1)
【文献】特開2017-25294(JP,A)
【文献】特開2019-143142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/26
H01M 50/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層からなる多孔性ポリオレフィンフィルムであって、シャットダウン温度(TSD)が133℃以下、空孔率が41%以上、かつ(長手(MD)方向の引張伸度(%)×長手(MD)方向の引張強度(MPa)+幅(TD)方向の引張伸度(%)×幅(TD)方向の引張強度(MPa))/2の値が12500以上、
突刺強度が6.0N/20μm以上、かつ、TSD(℃)、各層の融点の内、最も低い融点をTm(℃)としたとき、下記(1)式を満足する多孔性ポリオレフィンフィルム。
Tm-TSD≧0 式(1)
【請求項2】
MD方向の引張強度をMMD、TD方向の引張強度をMTDとしたとき、MMDおよびMTDがいずれも80MPa以上である、請求項1に記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項3】
(MD方向の引張伸度(%)×MD方向の引張強度(MPa)+TD方向の引張伸度(%)×TD方向の引張強度(MPa))/2の値が13700~30000である、請求項1~2のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項4】
TSDが131℃以下である請求項1~3のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項5】
多孔性フィルムの融点が133℃以上である請求項1~4のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項6】
前記記載のポリオレフィンがポリエチレンを含む請求項1~
5のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項7】
前記記載のポリオレフィンがエチレン・1-ヘキセン共重合体を主成分として含む請求項1~
6のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルムを用いた電池用セパレータ。
【請求項9】
請求項
8に記載の電池用セパレータを用いた2次電池。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか記載の多孔性ポリオレフィンフィルムを製造する方法であって、ポリオレフィンを主成分とする原料10~40質量%と溶媒60~90質量%とからなる溶液を調製し、前記溶液をダイより押出し、冷却固化することにより未延伸のゲル状組成物を形成し、前記ゲル状組成物を前記ポリオレフィンの結晶分散温度~融点+10℃の温度で延伸し、得られた延伸フィルムから可塑剤を抽出しフィルムを乾燥し、その後、得られた延伸物の熱処理/再延伸を行う工程を含み、前記ポリオレフィンがα-オレフィンを含有する高密度ポリエチレンを含み、α-オレフィンを含有する高密度ポリエチレンの融点が130~135℃であり、分子量が35万以下であることを特徴とする多孔性ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記α-オレフィンを含有する高密度ポリエチレンがエチレン・1-ヘキセン共重合体であることを特徴とする請求項
10記載の多孔性ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の分離、選択透過などに用いられる分離膜、及びアルカリ、リチウム二次電池や燃料電池、コンデンサーなど電気化学反応装置の隔離材等として広く使用されている微多孔膜に関する。特にリチウムイオン電池用セパレータとして好適に使用されるポリオレフィン製微多孔膜であり、従来の微多孔膜に比べ透過性を低下することなく、電池の内部短絡や釘刺し試験に対する安全性が優れた微多孔膜の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン微多孔膜は、フィルター、燃料電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータなどとして用いられている。特にノート型パーソナルコンピュータや携帯電話、デジタルカメラなどに広く使用されるリチウムイオン電池用のセパレータとして好適に使用されている。その理由は、ポリオレフィン微多孔膜が優れた膜の機械強度やシャットダウン特性を有していることが挙げられる。特に、リチウムイオン二次電池において近年は車載用途を中心に電池大型化および高エネルギー密度化・高容量化・高出力化を目指して開発が進められており、それに伴いセパレータへの安全性に対する要求特性も一層高いものとなってきている。
【0003】
シャットダウン特性とは、電池内部が過充電状態で過熱した時に、溶融して孔閉塞し、電池反応を遮断することにより、電池の安全性を確保する性能のことであり、シャットダウン温度が低いほど安全性の効果は高いとされている。
【0004】
また、電池容量増加に伴い部材(セパレータ)の薄膜化が進んでおり、捲回時や電池内の異物などによる短絡を防ぐためにも、セパレータの突刺強度やMD(機械方向)およびTD(機械と垂直方向)の引張強度および伸度の増加が求められている。しかし、シャットダウン温度と強度はトレードオフの関係にある。
【0005】
高強度化の手法としては延伸倍率増加による配向制御や高分子量PO(ポリオレフィン)を用いる手法がとられており、低温シャットダウンの手法としては、分子量の低下による原料の低融点化が行われている。
【0006】
すなわち、延伸倍率増加や高分子量POを用いた場合高強度化は容易であるが、フィルムの融点が上昇し、シャットダウン温度の上昇が起こる。対して、分子量の低い原料を用いることで融点が低下するためシャットダウン温度を低下できるが、良好な強度が得られない。そのため、これら2つの方法ではシャットダウン特性と強度の両立は困難である。
【0007】
特許文献1には高安全性、かつ高い透過性能と高い機械的強度を併せ持つ微多孔膜を提供する手法として比較的大きな分子量のPE(ポリエチレン)を逐次延伸により製造する手法が記載されている。得られる微多孔膜は高い透過性と強度を達成し、さらに、セパレータが高温にさらされた時の突き破れ温度が高く、良好な熱収縮特性を有している。しかしながら、逐次延伸により製造しているためポリマーが高度に配向しシャットダウン温度が高くなっている。
【0008】
特許文献2には粘度平均分子量10万~30万の分子量の低いPEと粘度平均分子量70万以上の比較的分子量の高いPEを用いてシャットダウン特性及び高強度を達成する手法が記載されている。しかしながら、強度を維持するために比較的分子量の大きな成分を主原料として用いているため、シャットダウン温度が137℃と高く、十分なシャットダウン性能が得られていない。通常、分子量の低いPEを用いると融点が低下するためセパレータ製造時における熱処理時に孔が閉塞し空孔率が低下する。特許文献2では無機粒子を添加することで高閉塞を抑制し高い空孔率を維持しているが、無機粒子を用いて空孔を形成しているため膜構造が不均一になりやすいといったデメリットがある。
【0009】
特許文献3には耐酸化性と安全性を両立する目的でエチレンとイソブチレンの共重合体樹脂を使用する手法が記載されている。エチレンとイソブチレンの共重合体を使用することで分子量50万と比較的大きな分子量でありながら原料の低融点化を達成し、高強度、良好な空孔閉塞性、低熱収縮率を維持しているが空孔率には依然として改善の余地がある。
【0010】
特許文献4および5には積層膜を用いてシャットダウンと強度の機能分離を行う手法が記載されている。シャットダウン温度が130℃程度と良好な安全性能が得ているが、低分子量、低融点のPEを使用しているため十分な強度が得られていない。
【0011】
上記のように高強度化のためには分子量の大きな原料を用いる、または、配向制御が必要となる。しかしながら、いずれの場合も融点が上昇するため良好なシャットダウン特性が得られていない。また、原料の低融点化を行うことで良好なシャットダウン性能は得られるが熱処理時に孔が閉塞するため空孔率が低下する。高エネルギー密度化・高容量化・高出力化に伴う多様化する顧客のニーズに対し電池性能を損ねることなく安全性が高く、高い強度(タフネス)を有したセパレータの開発には改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2009-108323号公報
【文献】特開2008-266457号公報
【文献】特開2009-138159号公報
【文献】特開2015-208893号公報
【文献】特開平11-322989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記理由を鑑み、本発明は従来の微多孔膜が有する電池性能を低下させることなく、安全性の指標の一つである釘刺し試験や耐異物性といった安全性に優れた多孔性ポリオレフィンフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、電池の釘刺試験などの破壊試験に対してシャットダウン温度(TSD)と強度(タフネス)に効果があることを見出し、従来技術では達成できなかった高い安全性と透過性を改善するに至った。すなわち、本発明は以下の構成である。
【0015】
少なくとも1層からなる多孔性ポリオレフィンフィルムであって、シャットダウン温度(TSD)が133℃以下、空孔率が41%以上、かつ(長手(MD)方向の引張伸度(%)×長手(MD)方向の引張強度(MPa)+幅(TD)方向の引張伸度(%)×幅(TD)方向の引張強度(MPa))/2の値が12500以上、突刺強度が6.0N/20μm以上、かつ、TSD(℃)、各層の融点の内、最も低い融点をTm(℃)としたとき、下記(1)式を満足することを特徴とする多孔性ポリオレフィンフィルム。
Tm-TSD≧0 式(1)
前記多孔性ポリオレフィンフィルムを用いた電池用セパレータ。
【0016】
前記記載の電池用セパレータを用いた2次電池。
【0017】
前記多孔性ポリオレフィンフィルムを製造する方法であって、ポリオレフィンを主成分とする原料10~40質量%と溶媒60~90質量%とからなる溶液を調製し、前記溶液をダイより押出し、冷却固化することにより未延伸のゲル状組成物を形成し、前記ゲル状組成物を前記ポリオレフィンの結晶分散温度~融点+10℃の温度で延伸し、得られた延伸フィルムから可塑剤を抽出しフィルムを乾燥し、その後、得られた延伸物の熱処理/再延伸を行う工程を含み、前記ポリオレフィンがα-オレフィンを含有する高密度ポリエチレンを含み、α-オレフィンを含有する高密度ポリエチレンの融点が130~135℃であり、分子量が35万以下であることを特徴とする多孔性ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
従来のポリオレフィン製微多孔膜と比較して、強度と空孔率を維持しながら、シャットダウン特性が改善されているため、本発明の微多孔膜を電池用セパレータに使用することにより、電池特性を維持したまま釘刺し試験特性、耐異物性に優れた微多孔膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例2および比較例4のポリオレフィン多孔質膜のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、少なくとも1層からなる多孔性ポリオレフィンフィルムであって、シャットダウン温度(TSD)が133℃以下、空孔率が41%以上、かつ(長手(MD)方向の引張伸度(%)×長手(MD)方向の引張強度(MPa)+幅(TD)方向の引張伸度(%)×幅(TD)方向の引張強度(MPa))/2の値が12500以上、かつ、シャットダウン温度をTSD(℃)、各層の融点の内、最も低い融点をTm(℃)としたとき、下記(1)式を満足する特徴とした多孔性ポリオレフィンフィルムである。
Tm-TSD≧0 式(1)
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムにおける原料は単一組成である必要はなく、主原料と副原料を組み合わせた組成物であってよく、樹脂としてはポリオレフィンであることが好ましく、ポリオレフィン組成物であってもよい。また、シャットダウン温度を低下させる目的で使用する原料は主原料として使用しても良く、副原料として使用しても良い。ポリオレフィンとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられ、これらを2種類以上ブレンドして用いても良い。主原料となるポリオレフィン樹脂の重量平均分子量(以下Mwという)は1.5×105以上が好ましく、1.8×105以上がより好ましい。上限としてはMw5.0×105以下が好ましく、Mw3.5×105以下がより好ましく、3.0×105以下がさらに好ましい。ポリオレフィン樹脂のMwが1.5×105以上であると延伸による配向(高融点化)抑制や、原料の低融点化による製膜時の熱処理工程における高閉塞を抑制できシャットダウン温度の上昇や空孔率の低下を抑制できる。ポリオレフィン樹脂のMwが5.0×105以下であると、原料の融点上昇によるシャットダウン温度上昇を抑制できる。また、理由は不明であるが、Mw1.0×106以上の超高分子量ポリオレフィンの添加ではシャットダウン温度の上昇が抑えられるため、強度上昇など多孔膜の物性改良目的で2種類以上のポリオレフィンをブレンドするのであればMw1.0×105~5.0×105、とMw1.0×106以上の超高分子量ポリオレフィンが好ましい。
【0021】
短絡により生じる発熱抑制の観点から、シャットダウン温度は133℃以下が重要であり、好ましくは131℃以下、さらに好ましくは130℃以下、最も好ましくは128℃以下である。シャットダウン温度が133℃以下であれば、電気自動車などの高エネルギー密度化・高容量化・高出力化を必要とする二次電池用の電池用セパレータとして用いたときに良好な安全性が得られる。シャットダウン温度が100℃以下となると、通常の使用環境下でも孔が閉じ、電池特性が悪化してしまうため、シャットダウン温度は100℃程度が下限である。シャットダウン温度を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、フィルム製膜時の延伸条件や熱固定条件を後述する範囲内とすることが好ましい。シャットダウン温度が133℃以下であると従来のセパレータに比べ良好な耐釘刺し試験特性が得られ安全性が向上する。
【0022】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの空孔率は、透過性能および電解液含有量の観点から、41%以上であり、好ましくは42%以上であり、より好ましくは45%以上である。空孔率が41%未満であると、電池用セパレータとして用いたときにイオンの透過性が不十分となり、電池の出力特性が低下する場合がある。空孔率は、出力特性の観点からは高いほど好ましいが、高すぎると強度が低下する場合があるため70%程度が上限である。空孔率を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を前述した範囲とし、フィルム製膜時の延伸条件や熱固定条件を後述する範囲内とすることが好ましい。特に、本発明の微多孔膜は従来トレードオフの関係にあった空孔率とシャットダウン温度、強度(タフネス)が良化している点で優れている。
【0023】
主原料またはシャットダウン温度を低下させる目的で使用する原料の融点は空孔率とシャットダウン温度(TSD)、フィルムの融点制御の観点から130℃以上、135℃以下が好ましく、133℃以下がより好ましい。融点が130℃以上であると空孔率の低下を抑制でき、135℃以下であるとシャットダウン温度の上昇を抑えることができる。
【0024】
ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレンを主成分とすることが好ましい。透過性や空孔率、機械強度、シャットダウン性を向上させるためには、ポリオレフィン樹脂全体を100質量%として、ポリエチレンの割合が70質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、ポリエチレンを単独で用いることがさらに好ましい。また、ポリエチレンはエチレンの単独重合体のみならず、原料の融点を低下させるために、他のα-オレフィンを含有する共重合体であることが好ましい。α-オレフィンとしてはプロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン、またはそれ以上の分子鎖、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン等が挙げられる。α-オレフィンを含有する共重合体としてはヘキセン-1が最も好ましい。また、α-オレフィンはC13-NMRで測定することで確認できる。
【0025】
ここで、ポリエチレンの種類としては、密度が0.94g/cm3を越えるような高密度ポリエチレン、密度が0.93~0.94g/cm3の範囲の中密度ポリエチレン、密度が0.93g/cm3より低い低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられるが、膜強度を高くするためには、高密度ポリエチレン及び中密度ポリエチレンの使用が好ましく、それらを単独で使用しても、混合物として使用してもよい。
【0026】
低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、シングルサイト触媒により製造されたエチレン・α‐オレフィン共重合体、重量平均分子量1000~100000の低分子量ポリエチレンを添加すると、低温でのシャットダウン機能が付与され、電池用セパレータとしての特性を向上させることができる。ただし、上述の低分子量のポリエチレンの割合が多いと、製膜工程において、微多孔膜の空孔率低下が起こるため、エチレン・α‐オレフィン共重合体で密度が0.94g/cm3を越えるような高密度ポリエチレンが好ましく、長鎖分岐含有ポリエチレンがさらに好ましい。
【0027】
また、上記観点から本発明のポリオレフィン微多孔膜の分子量分布を測定した際、分子量4万未満の成分量が20%未満であることが好ましい。より好ましくは分子量2万未満の成分量が20%未満、更に好ましくは分子量1万未満の成分量が20%未満である。本発明では、上述した原料を用いることにより、分子量を大きく低下させること無くシャットダウン温度の低下が可能であり、結果として、強度や空孔率など他の物性との両立が可能となる。
【0028】
ポリエチレンの分子量分布(MwD)は6より大きいことが好ましく、10以上がより好ましい。分子量分布が6より大きいポリエチレンを用いることでシャットダウン温度とタフネスのバランスが改善される。
【0029】
また、ポリプロピレンを添加すると、本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを電池用セパレータとして用いた場合にメルトダウン温度を向上させることができる。ポリプロピレンの種類は、単独重合体のほかに、ブロック共重合体、ランダム共重合体も使用することができる。ブロック共重合体、ランダム共重合体には、プロピレン以外の他のα-エチレンとの共重合体成分を含有することができ、当該他のα-エチレンとしては、エチレンが好ましい。ただし、ポリプロピレンを添加すると、ポリエチレン単独使用に比べて機械強度が低下しやすいため、ポリプロピレンの添加量はポリオレフィン樹脂中、0~20質量%が好ましい。
【0030】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂に2種類以上のポリオレフィンをブレンドする場合、副原料の重量平均分子量としては、1.0×106以上4.0×106未満の超高分子量ポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。超高分子量ポリオレフィン樹脂を含有することによって、孔の微細化、高耐熱性化が可能であり、さらに、強度や伸度を向上させることができる。
【0031】
超高分子量ポリオレフィン樹脂(UHMwPO)としては超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)の使用が好ましい。超高分子量ポリエチレンは、エチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを含有する共重合体であってもよい。エチレン以外の他のα-オレフィンは上記と同じでよい。
【0032】
さらに、上述の主原料またはシャットダウン温度を低下させる目的で使用する原料は分子量が比較的小さいため、シート状に成形する際に、口金の出口でスウエルやネックが大きく、シートの成形性が悪化する傾向にある。副材としてUHMwPOを添加することでシートの粘度や強度が上昇し工程安定性が増加するためUHMwPOを添加することが好ましい。ただし、UHMwPO割合がポリオレフィン樹脂中50質量%以上であると押出負荷が増加して押出成形性が低下するため、UHMwPO割合は50質量%以下が好ましい。
【0033】
つまり、本発明おける主原料またはシャットダウン温度を低下させる目的で使用する原料の最も好ましい形態はMw1.5×105~3.0×105かつ融点が130~134℃のエチレン・1-ヘキセン共重合体ポリエチレンであり、このポリエチレンがポリエチレン樹脂全体を100質量%としたときに60質量%以上含まれていることである。
【0034】
ポリオレフィン樹脂と可塑剤との配合割合は成形加工性を損ねない範囲で適宜選択して良いが、ポリオレフィン樹脂と可塑剤との合計を100質量%として、ポリオレフィン樹脂の割合が10~40質量%である。ポリオレフィン樹脂が10質量%以上では(可塑剤が90質量%以下)、シート状に成形する際に、口金の出口でスウエルやネックインを抑制でき、シートの成形性および製膜性が向上する。一方、ポリオレフィン樹脂が40質量%未満(可塑剤が60質量%を超える)では製膜工程の圧力上昇を抑制でき良好な成形加工性が得られる。
【0035】
その他、本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムには、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤や帯電防止剤、紫外線吸収剤、さらにはブロッキング防止剤や充填材等の各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリエチレン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT:分子量220.4)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1330:分子量775.2)、テトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1010:分子量1177.7)等から選ばれる1種類以上を用いることが好ましい。酸化防止剤や熱安定剤の種類および添加量を適宜選択することは微多孔膜の特性の調整又は増強として重要である。
【0036】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の層構成は単層でも積層でも良く、物性バランスの観点から積層が好ましい。シャットダウン機能層に用いる原料および原料比率、原料組成は上述の範囲で行ってよい。上記原料処方を積層しシャットダウン機能層として用いる場合、シャットダウン機能層がトータル膜厚中に10%以上含有していることが好ましい。10%含有することで、良好なシャットダウン性能が得られる。
【0037】
シャットダウン温度を低下することで短絡による生じる発熱を早期に抑制することに加え、セパレータを高タフネス化することでセパレータが電極を巻き込み絶縁層を形成しながら溶融するため、シャットダウン温度と高タフネス化が釘刺し試験などの破壊試験に対し有効に働くことを見出した。
【0038】
シャットダウン温度を下げるためには低融点の原料または低分子量の原料を用いることが有効である。しかし、低融点原料を用いた場合、製膜工程の熱処理時に孔の閉塞が起こり良好な空孔率が得られない。分子量を上げることで良好な強度と伸度(タフネス)が得られる。しかし、分子量増加に伴い原料の融点が上昇するため、熱処理における孔の閉塞を抑制でき良好な空孔率が得られる一方で、シャットダウン温度が上昇する。そのため、上記3つのパラメータ、特に安全性の指標であるシャットダウン性能と電池の出力特性の指標である空孔率はトレードオフの関係にあり、電池性能と安全性の両立に課題があった。
【0039】
すなわち、空孔率、シャットダウン温度及び強度の3要素は、これら3要素のうちいずれか一つの要素の向上を図ると他の2つの要素が悪化するといった関係になっている。
【0040】
例えば、空孔率を大きくするためには通常であれば延伸倍率や延伸温度を下げる、または、分子量が大きく融点の高い原料を用いるといった手法がとられる。原料の融点が上昇することに加え、空孔率が高くなると孔を閉塞するスペースが多くなるためシャットダウン温度が上昇(悪化)する。さらに、樹脂量が減るため強度も悪化する。
【0041】
シャットダウン温度を低下させるために延伸倍率を下げる、または、分子量が低く低融点の原料を用いるといった手法がとられる。しかし、これらの手法では十分な延伸が行われずフィルムの品位が低下することに加え、良好な強度が得られない。さらに低融点の原料を用いるため熱処理時に孔が閉塞しやすく良好な空孔率が得られない。
【0042】
強度を増加するためには延伸倍率を上げる、または、分子量が大きく融点の高い原料を用いるといった手法が通常とられるが、配向増加による高融点化や原料の高融点化によりシャットダウン温度が上昇する。融点が上昇することで熱処理工程における空孔率の悪化は抑制されるが、延伸倍率増加により孔の圧密化(つぶれ)がおこり空孔率が減少する。
【0043】
ポリオレフィンを結晶の観点から考えると伸び切り鎖やラメラ晶などの結晶部と非晶部とに分けられ、さらに、非晶部にはタイ分子により絡み合う部分とシリア鎖等の自由に動ける部分がある。非晶部は、結晶部の末端や側鎖により形成され、非晶部のタイ分子密度が高くなると結晶同士が拘束され、融点が上昇しシャットダウン特性の低下を引き起こすものと考えられる。融点が低下すると、非晶部、結晶部ともに動きやすい状態となるため、孔が閉塞しやすくなるためシャットダウン性が良化する。そのため、シャットダウン温度はフィルムの融点とある程度関係している。
【0044】
シャットダウン温度と空孔率のバランスの観点からフィルムの融点は133℃以上が好ましい。後述するが、フィルムの製膜工程における延伸及び熱処理は通常結晶化温度から融点の間で行う。そのため、フィルムの融点が低ければ低いほど良好なシャットダウン特性が得られるが、延伸及び熱処理時に孔の閉塞が起こりやすい。フィルムの融点を133℃以上とすることで良好な空孔率が得られるとともに、良好なシャットダウン特性が得られる。シャットダウン温度の観点から、フィルムの融点は137℃以下が好ましく、136℃以下がより好ましく、135℃以下がさらに好ましい。137℃以下であると、空孔率とシャットダウン温度のバランスがとりやすく、従来トレードオフの関係にあったシャットダウン温度と空孔率の関係を改善することができる。
【0045】
上述したように、シャットダウン温度はフィルムの融点とある程度関係しており、フィルムの融点は製膜性の観点から、空孔率に強く影響する。そのため、フィルムの融点よりもシャットダウン温度が低いことが好ましい。
【0046】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、少なくとも1層からなる多孔性ポリオレフィンフィルムであって、シャットダウン温度をTSD(℃)、各層の融点の内、最も低い融点をTm(℃)としたとき、Tm-TSDの値が0以上である。Tm-TSDの値は好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2以上、より更に好ましくは4以上である。Tm-TSDの値が0未満であると、フィルムの融点Tmが低すぎるため、ポリマーの結晶性が十分でなく、延伸過程での開孔が不十分であり、出力特性が低下する場合や、シャットダウン温度が高く電池の安全性が低下する場合があった。出力特性と安全性の両立の観点から、Tm-TSDの値は大きいほど好ましいが、15程度が上限である。Tm-TSDの値を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、フィルム製膜時の延伸条件や熱固定条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
【0047】
Tm-TSDの値が0以上であることは、すなわち、フィルムのシャットダウン温度がフィルムの融点以下であることを意味する。通常、多孔性フィルムのシャットダウン温度を低くする手法としては、低温で融解する低融点ポリマーを原料に添加することで達成されてきた。しかし低融点ポリマーは結晶性が低いため、延伸過程での開孔が不十分であり、得られる多孔性フィルムの空孔率が低下する傾向にあり、電池の出力特性と安全性を両立することは困難であった。本発明では、特定のポリエチレンを原料に用いて原料組成を後述する範囲とし、また、フィルム製膜時の延伸条件や熱固定条件を後述する範囲内とすることでTm-TSDの値が0以上を満たし、電池の出力特性と安全性を両立可能とした。
【0048】
また、高タフネスとフィルムの融点制御の観点から、ポリエチレン原料としてはα-オレフィン共重合体が好ましく、ヘキセン-1がより好ましい。また、製膜工程でシャットダウン温度を制御する場合は結晶同士の拘束を制御する必要があるため延伸倍率を低くすることが好ましい。
【0049】
高タフネス化することで、釘刺し試験時にセパレータが電極を巻き込み絶縁層を形成するため破壊試験に対してシャットダウン温度のみで安全性を制御するよりも良好な安全性が得られる。そのため、セパレータのタフネス(長手(MD)方向の引張伸度(%)×長手(MD)方向の引張強度(MPa)+幅(TD)方向の引張伸度(%)×幅(TD)方向の引張強度(MPa))/2は12500以上が好ましく、13000以上がより好ましく、13700以上がさらに好ましく、14000以上がよりさらに好ましい。一方、上述のとおり高タフネス化には使用する原料の分子量増加または高倍延伸が必要となるため、融点が上昇しシャットダウン温度が上昇する。そのため、タフネスは30000以下が好ましく、20000以下がより好ましく、18000以下がさらに好ましい。また、タフネスを上記範囲とするには、フィルムの原料組成を前述した範囲とし、また、フィルム製膜時の延伸条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
【0050】
また、電極やデンドライトなどの異物により、セパレータの破れが発生し電池の安全性が低下するが、本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは空孔率が高く、シャットダウン温度が低く、高いタフネスを有していることから、良好な耐異物性が得られる。
【0051】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムにおいて、MD方向およびTD方向の引張強度(以下、単に「MD引張強度、または、MMD」「TD引張強度、または、MTD」とも記す。)は、300MPa以下が好ましく、200MPa以下がよりに好ましく、180MPa以下がさらに好ましい。通常、引張強度と引張伸度はトレードオフの関係にあるため、引張強度が300MPa以下であると良好な伸度が得られ、高タフネス化につながる。また、延伸による配向、フィルムの融点の上昇抑制、シャットダウン温度の上昇抑制の観点から引張強度は300MPa以下が好ましい。
【0052】
MMDおよびMTDがいずれも80MPa以上であることが好ましい。引張強度はより好ましくは90MPa以上、更に好ましくは100MPa以上、最も好ましくは120MPa以上である。引張強度が80MPa未満であると、薄膜にした時に捲回時や電池内の異物などによる短絡が生じやすくなり、電池の安全性が低下する場合がある。安全性向上の観点からは引張強度は高いほど好ましいが、シャットダウン温度の低温化と引張強度の向上はトレードオフとなる場合が多く、300MPa程度が上限である。引張強度を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、フィルム製膜時の延伸条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
【0053】
なお、本発明においては、フィルムの製膜する方向に平行な方向を、製膜方向あるいは長手方向あるいはMD方向と称し、フィルム面内で製膜方向に直交する方向を幅方向あるいはTD方向と称する。
【0054】
電極活物質などによる破膜防止の観点から、膜厚を20μmに換算したフィルムの突刺強度が4.0N以上が好ましく、5.0N以上がより好ましく、更に好ましくは5.5N以上、より更に好ましくは6.5N以上である。突刺強度が4.0N以上であると、薄膜にした時に捲回時や電池内の異物などによる短絡を抑制し、良好な電池の安全性が得られる。安全性向上の観点からは突刺強度は高いほど好ましいが、シャットダウン温度の低温化と突刺強度の向上はトレードオフとなる場合が多く、15N程度が上限である。突刺強度を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、フィルム製膜時の延伸条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
【0055】
膜厚を20μmとしたときの突刺強度とは、膜厚T1(μm)の微多孔膜において突刺強度がL1であったとき、式:L2=(L1×20)/T1によって算出される突刺強度L2のことを指す。なお、以下では、膜厚について特に記載がない限り、「突刺強度」という語句を「膜厚を20μmとしたときの突刺強度」の意味で用いる。本発明の微多孔膜を用いることにより、ピンホールや亀裂の発生を防止し、電池組み立て時の歩留まりを向上させる事が可能になる。低いシャットダウン温度を維持したまま、従来技術同等の突刺強度を維持している点で優れている。
【0056】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムにおいて、透気抵抗度はJIS P 8117(2009)に準拠して測定した値をいう。本明細書では膜厚について特に記載がない限り、「透気抵抗度」という語句を「膜厚を20μmとしたときの透気抵抗度」の意味で用いる。測定した透気抵抗度がP1であったとき、式:P2=(P1×20)/T1によって算出される透気抵抗度P2を膜厚を20μmとしたときの透気抵抗度とする。透気抵抗度(ガーレー値)は1000sec/100cc以下であることが好ましく、700sec/100cc以下であることがより好ましい。透気抵抗度が1000sec/100cc以下であると良好なイオン透過性が得られ、電気抵抗を低下させることができる。
【0057】
105℃にて8時間保持したときのMD方向およびTD方向の熱収縮率は、20%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。熱収縮率が上記範囲内であると、局所的に異常発熱した場合にも、内部短絡の拡大を防止して影響を最小限に抑えることができる。
【0058】
次に、本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの製造方法を具体的に説明する。本発明の製造方法は、以下の(a)~(e)の工程からなる。
(a)ポリオレフィン単体、ポリオレフィン混合物、ポリオレフィン溶媒混合物及びポリオレフィン混練物を含むポリマー材料を溶融混練する。
(b)溶解物を押出し、シート状に成型して冷却固化し、
(c)得られたシートをロール方式またはテンター方式により延伸を行う。
(d)その後、得られた延伸フィルムから可塑剤を抽出しフィルムを乾燥する。
(e)つづいて熱処理/再延伸を行う。
【0059】
以下、各工程について説明する。
【0060】
(a)ポリオレフィン溶液の調製
ポリオレフィン樹脂を、可塑剤に加熱溶解させたポリオレフィン溶液を調製する。可塑剤としては、ポリオレフィンを十分に溶解できる溶剤であれば特に限定されないが、比較的高倍率の延伸を可能とするために、溶剤は室温で液体であることが好ましい。溶剤としては、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の脂肪族、環式脂肪族又は芳香族の炭化水素、および沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステルが挙げられる。液体溶剤の含有量が安定なゲル状シートを得るために、流動パラフィンのような不揮発性の液体溶剤を用いるのが好ましい。溶融混練状態では、ポリエチレンと混和するが室温では固体の溶剤を液体溶剤に混合してもよい。このような固体溶剤として、ステアリルアルコール、セリルアルコール、パラフィンワックス等が挙げられる。ただし、固体溶剤のみを使用すると、延伸ムラ等が発生する恐れがある。
【0061】
液体溶剤の粘度は40℃において20~200cStであることが好ましい。40℃における粘度を20cSt以上とすれば、ダイからポリオレフィン溶液を押し出したシートが不均一になりにくい。一方、200cSt以下とすれば液体溶剤の除去が容易である。なお、液体溶剤の粘度は、ウベローデ粘度計を用いて40℃で測定した粘度である。
【0062】
(b)押出物の形成およびゲル状シートの形成
ポリオレフィン溶液の均一な溶融混練は、特に限定されないが、高濃度のポリオレフィン溶液を調製したい場合、二軸押出機中で行うことが好ましい。必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で酸化防止剤等の各種添加材を添加してもよい。特にポリオレフィンの酸化を防止するために酸化防止剤を添加することが好ましい。
【0063】
押出機中では、ポリオレフィン樹脂が完全に溶融する温度で、ポリオレフィン溶液を均一に混合する。溶融混練温度は、使用するポリオレフィン樹脂によってことなるが、(ポリオレフィン樹脂の融点+10℃)~(ポリオレフィン樹脂の融点+120℃)とするのが好ましい。さらに好ましくは(ポリオレフィン樹脂の融点+20℃)~(ポリオレフィン樹脂の融点+100℃)である。ここで、融点とは、JIS K7121(1987)に基づき、DSCにより測定した値をいう(以下、同じ)。例えば、ポリエチレンの場合の溶融混練温度は140~250℃の範囲が好ましい。さらに好ましくは、160~230℃、最も好ましくは170~200℃である。具体的には、ポリエチレン組成物は約130~140℃の融点を有するので、溶融混練温度は140~250℃が好ましく、180~230℃が最も好ましい。
【0064】
樹脂の劣化を抑制する観点から溶融混練温度は低い方が好ましいが、上述の温度よりも低いとダイから押出された押出物に未溶融物が発生し、後の延伸工程で破膜等を引き起こす原因となる場合があり、上述の温度より高いと、ポリオレフィンの熱分解が激しくなり、得られる微多孔膜の物性、例えば、強度や空孔率等が悪化する場合がある。また、分解物がチルロールや延伸工程上のロールなどに析出し、シートに付着することで外観悪化につながる。そのため、上記範囲内で混練することが好ましい。
【0065】
次に、得られた押出物を冷却することによりゲル状シートが得られ、冷却により、溶剤によって分離されたポリオレフィンのミクロ相を固定化することができる。冷却工程においてゲル状シートを10~50℃まで冷却するのが好ましい。これは、最終冷却温度を結晶化終了温度以下とするのが好ましいためで、高次構造を細かくすることで、その後の延伸において均一延伸が行いやすくなる。そのため、冷却は少なくともゲル化温度以下までは30℃/分以上の速度で行うのが好ましい。一般に冷却速度が遅いと、比較的大きな結晶が形成されるため、ゲル状シートの高次構造が粗くなり、それを形成するゲル構造も大きなものとなる。対して冷却速度が速いと、比較的小さな結晶が形成されるため、ゲル状シートの高次構造が密となり、均一延伸に加え、フィルムの高タフネス化につながる。
【0066】
冷却方法としては、冷風、冷却水、その他の冷却媒体に直接接触させる方法、冷媒で冷却したロールに接触させる方法、キャスティングドラム等を用いる方法等がある。
【0067】
これまで微多孔膜が単層の場合を説明してきたが、本発明のポリオレフィン微多孔膜は、単層に限定されるものではなく、積層体にしてもよい。積層数は特に限定は無く、2層積層であっても3層以上の積層であってもよい。積層部分は、上述したようにポリエチレンの他に、本発明の効果を損なわない程度にそれぞれ所望の樹脂を含んでも良い。ポリオレフィン微多孔膜を積層体とする方法としては、従来の方法を用いることができる。例えば、所望の樹脂を必要に応じて調製し、これらの樹脂を別々に押出機に供給して所望の温度で溶融させ、ポリマー管あるいはダイ内で合流させて、目的とするそれぞれの積層厚みでスリット状ダイから押出しを行う等して、積層体を形成する方法がある。
【0068】
(c)延伸工程
得られたゲル状(積層シート含む)シートを延伸する。用いられる延伸方法としては、ロール延伸機によるMD一軸延伸、テンターによるTD一軸延伸、ロール延伸機とテンター、或いはテンターとテンターとの組み合わせによる逐次二軸延伸、同時二軸テンターによる同時二軸延伸などが挙げられる。延伸倍率は、膜厚の均一性の観点より、ゲル状シートの厚さによって異なるが、いずれの方向でも5倍以上に延伸することが好ましい。面積倍率では、25倍以上が好ましく、さらに好ましくは36倍以上、さらにより好ましくは49倍以上である。面積倍率が25倍未満では、延伸が不十分で膜の均一性が損なわれ易く、強度の観点からも優れた微多孔膜が得られない。面積倍率は150倍以下が好ましい。面積倍率が大きくなると微多孔膜の製造中に破れが多発しやすくなり、生産性が低下する。延伸倍率を上げることで配向が進み結晶化度が高くなり、多孔質基材の融点や強度が向上する。しかし、結晶化度が高くなるということは、非晶部が減少することを意味し、フィルムの融点およびシャットダウン温度が上昇する。
【0069】
延伸温度はゲル状シートの融点+10℃以下にすることが好ましく、(ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度Tcd)~(ゲル状シートの融点+5℃)の範囲にするのがより好ましい。具体的には、ポリエチレン組成物の場合は約90~100℃の結晶分散温度を有するので、延伸温度は好ましくは90~125℃であり、より好ましくは90~120℃である。結晶分散温度TcdはASTM D 4065に従って測定した動的粘弾性の温度特性から求める。90℃未満であると低温延伸のため開孔が不十分となり膜厚の均一性が得られにくく、空孔率も低くなる。125℃より高いと、シートの融解が起こり、孔の閉塞が起こりやすくなる。
【0070】
以上のような延伸によりゲルシートに形成された高次構造に開裂が起こり、結晶相が微細化し、多数のフィブリルが形成される。フィブリルは三次元的に不規則に連結した網目構造を形成する。延伸により機械的強度が向上するとともに、細孔が拡大するため、電池用セパレータに好適となる。また、可塑剤を除去する前に延伸することにより、ポリオレフィンが十分に可塑化し軟化した状態であるために、高次構造の開裂がスムーズになり、結晶相の微細化を均一に行うことができる。また、開裂が容易であるために、延伸時のひずみが残りにくく、可塑剤を除去した後に延伸する場合に比べて熱収縮率を低くすることができる。
【0071】
(d)可塑剤抽出(洗浄)・乾燥工程
次に、ゲル状シート中に残留する溶剤を洗浄溶剤を用いて除去する。ポリオレフィン相と溶媒相とは分離しているので、溶剤の除去により微多孔膜が得られる。洗浄溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、メチルエチルケトン等のケトン類、三フッ化エタン等の鎖状フルオロカーボンなどがあげられる。これらの洗浄溶剤は低い表面張力(例えば、25℃で24mN/m以下)を有する。低い表面張力の洗浄溶剤を用いることにより、微多孔を形成する網状構造が洗浄後の乾燥時に気-液界面の表面張力により収縮が抑制され、空孔率および透過性に優れた微多孔膜が得られる。これらの洗浄溶剤は可塑剤に応じて適宜選択し、単独または混合して用いる。
【0072】
洗浄方法は、ゲル状シートを洗浄溶剤に浸漬し抽出する方法、ゲル状シートに洗浄溶剤をシャワーする方法、またはこれらの組み合わせによる方法等により行うことができる。洗浄溶剤の使用量は洗浄方法により異なるが、一般にゲル状シート100質量部に対して300質量部以上であるのが好ましい。洗浄温度は15~30℃でよく、必要に応じて80℃以下に加熱する。この時、溶剤の洗浄効果を高める観点、得られる微多孔膜の物性のTD方向および/またはMD方向の微多孔膜物性が不均一にならないようにする観点、微多孔膜の機械的物性および電気的物性を向上させる観点から、ゲル状シートが洗浄溶剤に浸漬している時間は長ければ長い方が良い。
【0073】
上述のような洗浄は、洗浄後のゲル状シート、すなわち微多孔膜中の残留溶剤が1重量%未満になるまで行うのが好ましい。
【0074】
その後、乾燥工程で微多孔膜中の溶剤を乾燥させ除去する。乾燥方法としては、特に限定は無く、金属加熱ロールを用いる方法や熱風を用いる方法などを選択することができる。乾燥温度は40~100℃であることが好ましく、40~80℃がより好ましい。乾燥が不十分であると、後の熱処理で微多孔膜の空孔率が低下し、透過性が悪化する。
【0075】
(e)熱処理/再延伸工程
乾燥した微多孔膜を少なくとも一軸方向に延伸(再延伸)してもよい。再延伸は、微多孔膜を加熱しながら上述の延伸と同様にテンター法等により行うことができる。再延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよい。多段延伸の場合は、同時二軸または逐次延伸を組み合わせることにより行う。
【0076】
再延伸の温度は、ポリオレフィン組成物の融点以下にすることが好ましく、(Tcd-20℃)~融点の範囲内にするのがより好ましい。具体的には、ポリエチレン組成物の場合70~135℃が好ましく、110~132℃がより好ましい。最も好ましくは、120~130℃である。
【0077】
再延伸の倍率は、一軸延伸の場合、1.01~1.6倍が好ましく、特にTD方向は1.1~1.6倍が好ましく、1.2~1.4倍がより好ましい。二軸延伸の場合、MD方向およびTD方向にそれぞれ1.01~1.6倍とするのが好ましい。なお、再延伸の倍率は、MD方向とTD方向で異なってもよい。上述の範囲内で延伸することで、空孔率および透過性を上昇させることができるが、1.6以上の倍率で延伸を行うと、配向が進み、フィルムの融点が上昇し、シャットダウン温度が上昇する。また、熱収縮率及びしわやたるみの観点より再延伸最大倍率からの緩和率は0.9以下が好ましく、0.8以下であることがさらに好ましい。
【0078】
(f)その他の工程
さらに、その他用途に応じて、微多孔膜に親水化処理を施すこともできる。親水化処理は、モノマーグラフト、界面活性剤処理、コロナ放電等により行うことができる。モノマーグラフトは架橋処理後に行うのが好ましい。ポリエチレン多層微多孔膜に対して、α線、β線、γ線、電子線等の電離放射線の照射により架橋処理を施すのが好ましい。電子線の照射の場合、0.1~100 Mradの電子線量が好ましく、100~300kVの加速電圧が好ましい。架橋処理によりポリエチレン多層微多孔膜のメルトダウン温度が上昇する。
【0079】
界面活性剤処理の場合、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤又は両イオン系界面活性剤のいずれも使用できるが、ノニオン系界面活性剤が好ましい。界面活性剤を水又はメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールに溶解してなる溶液中に多層微多孔膜を浸漬するか、多層微多孔膜にドクターブレード法により溶液を塗布する。
【0080】
本発明の多孔性ポリエチレンフィルムは、電池用セパレータとして用いた場合のメルトダウン特性や耐熱性を向上する目的で、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂多孔質体やポリイミド、ポリフェニレンスルフィド等の多孔質体等の表面コーティングやセラミックなどの無機コーティングなどを行ってもよい。
【0081】
以上のようにして得られた多孔性ポリオレフィンフィルムは、フィルター、燃料電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータなど様々な用途で用いることができるが、特に電池用セパレータとして用いたとき安全性および出力特性に優れることから、電気自動車などの高エネルギー密度化、高容量化、および高出力化を必要とする二次電池用の電池用セパレータとして好ましく用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。以下に各特性の測定方法を説明する。なお、以下において、実施例3~6は、それぞれ参考例3~6と読み替えるものとする。
【0083】
1.ポリオレフィンの分子量分布測定
高温GPCによりポリオレフィンの分子量分布測定(重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mn)、所定成分の含有量などの測定)を行った。測定条件は以下の通りである。
・装置:高温GPC装置(機器No.HT-GPC、Polymer Laboratories製、PL-220)
・検出器:示差屈折率検出器RI
・ガードカラム:Shodex G-HT
・カラム:Shodex HT806M(2本)(φ7.8mm×30cm、昭和電工製)
・溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB、和光純薬製)(0.1% BHT添加)
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:145℃
・試料調製:試料5mgに測定溶媒5mLを添加し、160~170℃で約30分加熱攪拌した後、得られた溶液を金属フィルター(孔径0.5um)にてろ過した。
・注入量:0.200mL
・標準試料:単分散ポリスチレン(東ソー製)
・データ処理:TRC製GPCデータ処理システム 。
【0084】
その後、得られたMwおよびMnをPEに換算した。換算式は下記である。
・Mw(PE換算)=Mw(PS換算測定値)×0.468
・Mn(PE換算)=Mn(PS換算測定値)×0.468
・MwD=Mw/Mn 。
【0085】
2.メルトマスフローレート(MIまたはMFR)
原料のMIは東洋精機製作所製メルトインデクサーを用いてJIS K 7210-2012に準拠し測定した。
【0086】
3.膜厚
微多孔膜の厚みは、接触式厚さ計を用いて、無作為に選択したMD位置で測定した。測定は、膜のTD(幅)に沿った点で、30cmの距離にわたって5mmの間隔で行った。そして、上記TDに沿った測定を5回行い、その算術平均を試料の厚さとした。
【0087】
4.透気抵抗度(sec/100cc/20μm)
膜厚T1の微多孔膜に対して透気抵抗度計(旭精工株式会社製、EGO-1T)で透気抵抗度P1を測定し、式:P2=(P1×20)/T1により、膜厚を20μmとしたときの透気抵抗度P2を算出した。
【0088】
5.突刺強度
先端に球面(曲率半径R:0.5mm)を有する直径1mmの針を、平均膜厚T1(um)の微多孔膜に2mm/秒の速度で突刺して最大荷重L1(貫通する直前の荷重、単位:N)を測定し、L2=(L1×20)/T1の式により、膜厚を20μmとしたときの突刺強度L2(N/20um)を算出した。
【0089】
6.空孔率
空孔率は、微多孔膜の質量w1と、微多孔膜と同じポリオレフィン組成物からなる同サイズの空孔のない膜の質量w2から、
空孔率(%)=100×(w2-w1)/w2
の式により算出した。
【0090】
7.熱収縮率
微多孔膜を105℃にて8時間保持したときのMD方向における収縮率を3回測定し、それらの平均値をMD方向の熱収縮率とした。また、TD方向についても同様の測定を行い、TD方向の熱収縮率を求めた。
【0091】
8.引張強度
MD引張強度およびTD引張強度については、幅10mmの短冊状試験片を用いて、ASTM D882に準拠した方法により測定した。
【0092】
9.シャットダウン、メルトダウン温度
微多孔膜を5℃/minの昇温速度で加熱しながら、王研式透気抵抗度計(旭精工株式会社製、EGO-1T)により透気度を測定し、透気度が検出限界である1×105秒/100ccAirに到達した温度を求め、シャットダウン温度(℃)(TSD)とした。
また、シャットダウン後も加熱を継続し、再び透気度が1×105秒/100ccAir未満となる温度を求め、メルトダウン温度(℃)(MDT)とした。
【0093】
10.DSC測定
融解熱は示差走査熱量計(DSC)により決定した。DSCはTAインスツルメンツのMDSC2920又はQ1000Tzero-DSCを用いて行い、JIS K7121-2012に基づき融点を算出した。また、積層微多孔膜は、微多孔膜から各層の成分を約5mg削りだし、評価用サンプルとした。
【0094】
11.最大収縮率
熱機械的分析装置(セイコー電子工業株式会社製、TMA/SS6600)を用い、長さ10mm(MD)、幅3mm(TD)の試験片を、一定の荷重(2gf)で測定方向に引っ張りながら、5℃/minの速度で室温から昇温して、サンプル長が最小となった温度を測定方向の最大収縮時温度とし、その温度における収縮率を最大収縮率とした。
【0095】
12.シャットダウン温度とフィルム融点の比
8.と9.記載の手法で測定されたシャットダウン温度と融点の比で算出した。
【0096】
13.電池作成および釘刺し試験
a.電池作製
正極シートは、正極活物質としてLi(Ni6/10Mn2/10Co2/10)O2を92質量部、正極導電助剤としてアセチレンブラックとグラファイトを2.5質量部ずつ、正極結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部を、プラネタリーミキサーを用いてN-メチル-2-ピロリドン中に分散させた正極スラリーを、アルミ箔上に塗布、乾燥、圧延して作製した(塗布目付:9.5mg/cm2)。この正極シートを80mm×80mmに切り出した。この時、活物質層の付いていない集電用のタブ接着部が、前記活物質面の外側に5mm×5mmの大きさになるように切り出し、幅5mm、厚み0.1mmのアルミ製のタブをタブ接着部に超音波溶接した。
【0097】
負極シートは、負極活物質として天然黒鉛98質量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを1質量部、負極結着剤としてスチレン-ブタジエン共重合体1質量部を、プラネタリーミキサーを用いて水中に分散させた負極スラリーを、銅箔上に塗布、乾燥、圧延して作製した(塗布目付:5.5mg/cm2)。この負極シートを90mm×90mmに切り出した。この時、活物質層の付いていない集電用のタブ接着部が、前記活物質面の外側に5mm×5mmの大きさになるように切り出した。正極タブと同サイズの銅製のタブをタブ接着部に超音波溶接した。
【0098】
次に、二次電池用セパレータを100mm×100mmに切り出し、二次電池用セパレータの両面に上記正極と負極を活物質層がセパレータを隔てるように正極・負極ともに10枚になるように重ね、正極塗布部が全て負極塗布部と対向するように配置して電極群を得た。1枚の150mm×330mmのアルミラミネートフィルムに上記正極・負極・セパレータを挟み込み、アルミラミネートフィルムの長辺を折り、アルミラミネートフィルムの長辺2辺を熱融着し、袋状とした。
【0099】
エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1モル/リットルとなるように溶解させ、作製した電解液を用いた。袋状にしたアルミラミネートフィルムに電解液15gを注入し、減圧含浸させながらアルミラミネートフィルムの短辺部を熱融着させてラミネート型電池とした。
【0100】
b.釘刺し試験
a.で作成した電池を0.5Cで4.2Vまで充電し(SOC:100%)、環境温度25℃の条件で、φ3mm、先端R0.9mmの釘を用いて0.1mm/secの速度で釘刺し試験を各サンプル3回測定し、終了条件は100mV電圧降下した点とした。
【0101】
判定基準は下記であり、B以上であれば実用上問題ないが、電池の高エネルギー密度化・高容量化が進むためAが好ましい。
[合否判定]
A:発煙/発火なし(優)
B:1/3発煙有(発火なし)(良)
C:2/3以上発煙、または1/3以上で発火(不良) 。
【0102】
13.耐異物性評価
引張試験機(AUTOGRAPH)《SHIMAZU製AGS-X》と1.5Vキャパシタ及びデータロガーを用いて負極/セパレータ/500μm径のクロム球/アルミ箔の順にセットした簡易電池に0.3mm/minの条件でプレスし電池がショートするまでの変移量で耐異物性評価を行った。高い変移量でもショートしないサンプルほど耐異物性が良好であり、変移量と耐異物性の関係は下記3段階とした。
A: 変移(mm)/セパレータ厚み(μm)が0.015以上
B: 変移(mm)/セパレータ厚み(μm)が0.01~0.015
C: 変移(mm)/セパレータ厚み(μm)が0.01未満
以下、実施例を示して具体的に説明する。
【0103】
(実施例1)
原料として、Mwが0.30×106、MwD(Mw/Mn)が18、MFRが2.0g/10minであり、134℃の融点を有するエチレン・1-ヘキセン共重合体を用いた(表1記載のPE(3))。ポリエチレン組成物30質量%に流動パラフィン70質量%を加え、さらに、混合物中のポリエチレンの質量を基準として0.5質量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールと0.7質量%のテトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシルフェニル)-プロピオネート〕メタンを酸化防止剤として加えて混合し、ポリエチレン樹脂溶液を調製した。
【0104】
得られたポリエチレン樹脂溶液を二軸押出機に投入し180℃で混練し、Tダイに供給し、最終微多孔膜厚みが20μmの厚さになるようにシート状に押し出した後、押出物を25℃に制御された冷却ロールで冷却してゲル状シートを形成した。
【0105】
得られたゲル状シートを、テンター延伸機により115℃で長手方向および幅方向ともに7倍に同時二軸延伸(面倍率で49倍)し、そのままテンター延伸機内でシート幅を固定し、115℃の温度で10秒間、熱固定処理した。
【0106】
次いで延伸したゲル状シートを洗浄槽で塩化メチレン浴中に浸漬し、流動パラフィン除去後乾燥を行い、ポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0107】
最後にテンター延伸機のオーブンとして長手方向に区切られた複数のゾーンからなるオーブンを使用し、延伸は行わず各ゾーン125℃で熱処理を実施した。
ポリオレフィン製微多孔膜の原料特性を表1、製膜条件および微多孔膜評価結果を表2に記載する。
【0108】
(実施例2~6)
ポリオレフィン製微多孔膜の原料特性(表1)記載の原料を用い、製膜条件を表2のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン製微多孔膜を作製した。得られたポリオレフィン微多孔膜評価結果は表2に記載のとおりである。
【0109】
(比較例1)
原料として、Mwが0.30×106、MwD(Mw/Mn)が6、MFRが3.0g/10minであり、136℃の融点を有するHDPEを用いた(表1記載のPE(1))。ポリエチレン組成物30質量%に流動パラフィン70質量%を加え、さらに、混合物中のポリエチレンの質量を基準として0.5質量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールと0.7質量%のテトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシルフェニル)-プロピオネート〕メタンを酸化防止剤として加えて混合し、ポリエチレン樹脂溶液を調製した。
【0110】
得られたポリエチレン樹脂溶液を二軸押出機に投入し180℃で混練し、Tダイに供給し、最終微多孔膜厚みが20μmの厚さになるようにシート状に押し出した後、押出物を25℃に制御された冷却ロールで冷却してゲル状シートを形成した。
【0111】
得られたゲル状シートを、テンター延伸機により115℃で長手方向および幅方向ともに9倍に同時二軸延伸(面倍率で81倍)し、そのままテンター延伸機内でシート幅を固定し、115℃の温度で10秒間、熱固定処理した。
【0112】
次いで延伸したシートを洗浄槽で塩化メチレン浴中に浸漬し、流動パラフィン除去後乾燥を行い、ポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0113】
最後にテンター延伸機のオーブンとして長手方向に区切られた複数のゾーンからなるオーブンを使用し、延伸は行わず各ゾーン=125℃で熱処理を実施した。
【0114】
(比較例2~12)
ポリオレフィン製微多孔膜の原料特性(表1)記載の原料を用い、製膜条件を表3のとおりに変更した以外は比較例1と同様にして、ポリオレフィン製微多孔膜を作製した。
【0115】
比較例1~12において、得られたポリオレフィン微多孔膜評価結果は表3に記載の通りである。
【0116】
実施例1はMw30万で融点が134℃のPEを使用している。後述する比較例1に比べ低融点の原料を用いているため、低いシャットダウン温度を達成しており、良好な釘刺し試験特性が得られている。また、比較的高い融点の原料を用いているため熱処理時の孔閉塞を抑制し、高い空孔率を維持している点で優れている。さらに、実施例6は比較例1から延伸倍率を下げているため、シャットダウン温度が低下するとともに、高いタフネスを有し、良好な釘刺し試験特性と耐異物性を有しており、従来技術に比べ優れた微多孔膜特性を有している。
【0117】
実施例2~4は比較例7~10の原料よりもさらに低融点かつ低分子量のエチレン・1-ヘキセン共重合体を使用している。そのため、高い延伸倍率においても130℃以下のシャットダウン温度を維持し、良好な釘刺し試験特性が得られている。さらに後述する比較例のような低融点原料ではないため従来技術同等の空孔率を維持しており優れた微多孔膜特性が得られている。
【0118】
実施例5は実施例1よりも、原料の分子量を上げているため、高いタフネスを有しているが、タイ分子密度が高くなり結晶同士の動きが抑制された結果、シャットダウン温度が上昇していると考えられる。しかしながら、エチレン・1-ヘキセン共重合体を使用し非晶部の絡み合い制御していることに加え、133℃と実施例1で使用した原料よりも低くい融点の原料を使用しているため、比較的低いシャットダウン温度を維持しており、良好な空孔率と釘刺し試験および耐異物性を有している。
【0119】
比較例1は融点の高い原料を用いることで良好な空孔率が得られたが、比較的小さな分子量のHDPEを用いて高倍率で延伸を行ったため高度に配向した結果、高強度化し伸度が減少し、良好なタフネスが得られなかった。また、高度に配向した結果微多孔膜の融点が上昇し、フィルムの融点とシャットダウン温度の差が-1.9℃となり、シャットダウン温度が上昇した結果、良好な釘刺し試験特性が得られなかった。
【0120】
比較例3は延伸倍率を5×5に変更し、UHMwPEを添加した。延伸倍率を下げることで、伸度が上昇し良好なタフネスが得られているが、比較例1、2同様HDPEを用いているため、シャットダウン温度が高く良好な釘刺し試験特性が得られなかった。
【0121】
比較例4~6は分子量が小さく融点の低いPEを使用し、延伸倍率を引く設定したため、微多孔膜の融点が減少し、低シャットダウン温度を達成している。そのため、良好な釘刺し試験特性が得られている。特に、UHMwPEを添加した系では高いタフネスを達成しており、良好な耐異物性特性が得られている。しかしながら、融点の低い原料を用いたため熱処理時に孔が閉塞し空孔率が低下した。
【0122】
比較例7~9は実施例1よりも、原料の分子量を上げているため、比較的高い延伸倍率においても比較的高いタフネスを有している。また、エチレン・1-ヘキセン共重合体を使用し非晶部の絡み合い制御していることに加え、実施例1で使用した原料よりも低くい融点の原料を使用することで、比較的低いシャットダウン温度(TSD)を維持していた。特に、比較例9はUHMwPEを添加しているため、良好なタフネスが得られている。そのため実用上問題ない耐異物性と釘刺し試験特性を有しているが、高エネルギー密度化・高容量化した電池設計においては不十分であり、TSDおよびフィルム融点とTSDの差に改善の余地があった。
【0123】
比較例10~12は実施例5にUHMwPEまたはHDPEを添加している。UHPEまたはHDPEを添加したため、PE樹脂中に占める主原料の割合が低下し、十分なTSDおよびフィルム融点とTSDの差が得られなかった。そのため実用上問題ない耐異物性と釘刺し試験特性を有しているが、高エネルギー密度化・高容量化した電池設計においては不十分であった。
【0124】
(実施例7)
第1のポリオレフィン溶液として、重量平均分子量(Mw)が1.8×105のポリエチレン(PE(4))からなるポリオレフィン樹脂100質量部に、酸化防止剤テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、混合物を調製した。得られた混合物30質量部と流動パラフィン70質量部を二軸押出機に投入し、上記と同条件で溶融混練し第1のポリオレフィン溶液を調製した。
【0125】
第2のポリオレフィン溶液として、Mwが2.0×106の超高分子量ポリエチレン(PE(6))40質量部及びMwが3.0×105の高密度ポリチレン(PE(1))60質量部からなる第2のポリオレフィン樹脂100質量部に、酸化防止剤テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、混合物を調製した。得られた混合物25質量部と流動パラフィン75質量部を二軸押出機に投入し、上記と同条件で溶融混練し第2のポリオレフィン溶液を調製した。
【0126】
第1及び第2のポリオレフィン溶液を、各二軸押出機からフィルターを通して異物を除去後、三層用Tダイに供給し、第1のポリオレフィン溶液/第2のポリオレフィン溶液/第1のポリオレフィン溶液となるように押し出した。押出し成形体を、30℃に温調した冷却ロールで速度2m/minで、引き取りながら冷却し、ゲル状三層シートを形成した。
【0127】
ゲル状三層シートを、テンター延伸機により115℃でMD方向及びTD方向ともに5倍に同時二軸延伸した。延伸後のゲル状三層シートを20cm×20cmのアルミニウム枠板に固定し、25℃に温調した塩化メチレン浴中に浸漬し、100rpmで3分間揺動しながら流動パラフィンを除去し、室温で風乾した。
【0128】
得られた乾燥膜を120℃×10分で熱固定処理を行った。得られたポリオレフィン多孔質膜の厚みは25μmであり、各層の厚み比は1/4/1であった。構成する各成分の配合割合、製造条件、評価結果等を表4に記載した。
【0129】
シャットダウン温度を低下させる目的で使用する原料の最も好ましい形態であるポリエチレン(PE(4))層と融点が高く比較的小さな分子量のHDPEとUHPwPEをブレンドした層を積層した結果、第1のポリオレフィン溶液層由来の低いシャットダウン温度(TSD)と第2のポリオレフィン溶液層由来の良好なタフネスと空孔率が得られた。そのため、良好な釘刺し試験特性と耐異物性を維持したまま、実施例3に比べ良好な空孔率が得られた。
【0130】
(比較例13)
ポリオレフィン製微多孔膜の原料特性(表1)記載の原料を用い、製膜条件を表4のとおりに変更した以外は実施例7と同様にして、ポリオレフィン製積層微多孔膜を作製した。得られたポリオレフィン微多孔膜評価結果は表4に記載の通りである。
【0131】
積層し機能分離を行うことで良好な釘刺試験、耐異物性を維持したまま比較例5に比べ空孔率の改善が見られたが、十分な空孔率は得られなかった。
【0132】
図1に実施例2および比較例4のSEM画像を示す。使用する原料および延伸倍率で得られる多孔膜の多孔構造が大きく異なっていることがわかる。
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】