(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】多芯ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20230111BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20230111BHJP
H01B 11/02 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/00 310
H01B11/02
(21)【出願番号】P 2020109899
(22)【出願日】2020-06-25
(62)【分割の表示】P 2020520831の分割
【原出願日】2019-12-06
【審査請求日】2020-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 拓実
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅之
(72)【発明者】
【氏名】八木澤 丈
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-102268(JP,A)
【文献】特開2016-212965(JP,A)
【文献】特開2018-060794(JP,A)
【文献】特開2019-185981(JP,A)
【文献】特開2018-078007(JP,A)
【文献】特開2019-179594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
H01B 7/00
H01B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電力線と、複数の前記電力線を覆う外周被膜とを備え、
前記電力線は、中心に配置された1本の第1導体と、前記第1導体の外周に配置された複数の第2導体とが撚り合わされており、
前記第1導体は、複数の第1素線が撚り合わされ、
前記第2導体は、複数の第2素線が撚り合わされ、
前記第1導体における前記第1素線の撚り方向と、前記第2導体における前記第2素線の撚り方向と、前記電力線における前記第1導体と前記第2導体との撚り方向と、が同一であり、
前記第1素線の撚りピッチは、前記第2素線の撚りピッチよりも短い多芯ケーブル。
【請求項2】
前記第2素線の撚りピッチは、前記第1素線の撚りピッチの、1.1倍以上1.4倍以下である請求項1に記載の多芯ケーブル。
【請求項3】
複数の前記電力線は撚り合わされており、
複数の前記電力線の撚り方向が、前記第2導体における前記第2素線の撚り方向と同一である請求項1または請求項2に記載の多芯ケーブル。
【請求項4】
2本の信号線を撚り合せた対撚信号線をさらに有し、
前記信号線は、複数の第3導体が撚り合わされ、
前記信号線における前記第3導体の撚り方向と、前記対撚信号線における前記信号線の撚り方向とが同一である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多芯ケーブル。
【請求項5】
前記対撚信号線と、複数の前記電力線とが撚り合わされており、
前記対撚信号線と複数の前記電力線との撚り方向と、前記対撚信号線における前記信号線の撚り方向とが同一である請求項4に記載の多芯ケーブル。
【請求項6】
2本の信号線を撚り合わせた対撚信号線をさらに有し、
前記対撚信号線の撚りピッチは、前記対撚信号線の撚り径の4倍以上10倍以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多芯ケーブル。
【請求項7】
2本の信号線を撚り合わせた対撚信号線をさらに有し、
前記信号線は、複数の第3導体が撚り合わされ、
前記第3導体は、前記第1導体及び前記第2導体より細い請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の多芯ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多芯ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には2本の被覆電線と、2本の被覆電線を覆う外被と、を有する車両用の多芯ケーブルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一観点によれば、複数の電力線と、複数の前記電力線を覆う外周被膜とを備え、
前記電力線は、中心に配置された1本の第1導体と、前記第1導体の外周に配置された複数の第2導体とが撚り合わされており、
前記第1導体は、10本以上100本以下の第1素線が撚り合わされ、
前記第2導体は、10本以上100本以下の第2素線が撚り合わされ、
前記第1導体における前記第1素線の撚り方向と、前記第2導体における前記第2素線の撚り方向と、前記電力線における前記第1導体と前記第2導体との撚り方向と、が同一であり、
前記第1素線の撚りピッチ、および前記第2素線の撚りピッチは、8mm以上22mm以下である多芯ケーブルを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、本開示の一態様に係る多芯ケーブルの長手方向と垂直な断面図である。
【
図2】
図2は、本開示の一態様に係る多芯ケーブルの長手方向と垂直な断面図の他の構成例である。
【
図3】
図3は、本開示の一態様に係る多芯ケーブルの長手方向と垂直な断面図の他の構成例である。
【
図4】
図4は、本開示の一態様に係る多芯ケーブルが有する電力線の導体部分の側面図である。
【
図5】
図5は、実験例における耐屈曲性試験の方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
車輪は、車体に対して変位可能に支持されており、車両の使用時等に、車輪の位置が車体に対して変位するため、車体に搭載された制御装置と、車輪の周囲に設けられた電動パーキングブレーキ等との間を接続する多芯ケーブルは繰り返し曲げられる場合がある。このため、多芯ケーブルについて耐久性を高める観点から、高い耐屈曲性が求められていた。
【0007】
本開示の目的は、耐屈曲性に優れた多芯ケーブルを提供することである。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、耐屈曲性に優れた多芯ケーブルを提供できる。
【0009】
実施するための形態について、以下に説明する。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0011】
(1)本開示の一態様に係る多芯ケーブルは、複数の電力線と、複数の前記電力線を覆う外周被膜とを備え、
前記電力線は、中心に配置された1本の第1導体と、前記第1導体の外周に配置された複数の第2導体とが撚り合わされており、
前記第1導体は、10本以上100本以下の第1素線が撚り合わされ、
前記第2導体は、10本以上100本以下の第2素線が撚り合わされ、
前記第1導体における前記第1素線の撚り方向と、前記第2導体における前記第2素線の撚り方向と、前記電力線における前記第1導体と前記第2導体との撚り方向と、が同一であり、
前記第1素線の撚りピッチ、および前記第2素線の撚りピッチは、8mm以上22mm以下である。
【0012】
本開示の一態様に係る多芯ケーブルは、第1導体における第1素線の撚り方向と、第2導体における第2素線の撚り方向とを同一とすることで、第1導体と、第2導体とが接する箇所において、第1素線の向きと第2素線の向きとを揃えることができる。このため、電力線を含む多芯ケーブルを屈曲した際に、電力線に含まれる素線間の擦れを抑制し、さらには素線に傷が生じることを抑制できる。従って、多芯ケーブルを繰り返し屈曲させた場合でも、第1素線や、第2素線が切れることを抑制し、電力線の耐屈曲性を高められる。
【0013】
第1導体における第1素線の撚り方向と、第2導体における第2素線の撚り方向とを同一とすることで、第1導体と、第2導体とを製造する際に撚り方向を切り替える必要が無くなり、生産性を高めることもできる。
【0014】
さらに、第1導体における第1素線の撚り方向と、第2導体における第2素線の撚り方向と、電力線における第1導体と第2導体との撚り方向とを同一とすることで、特に素線間の擦れを抑制し、素線に傷が生じることを抑制できる。このため、電力線の耐屈曲性を特に高められる。
【0015】
本開示の一態様に係る多芯ケーブルは電力線以外に、接続する機器や印加する電圧等に応じて信号線や、電線等の各種被覆電線を含むこともできる。ただし、多芯ケーブルが含む被覆電線のうち、通常は電力線が最も太く、負荷が加わり易いため、電力線は、多芯ケーブルを繰り返し屈曲させた場合に切断され易い。このため、電力線の耐屈曲性を高めることで、多芯ケーブル全体の耐屈曲性を高めることができる。
【0016】
第1素線の撚りピッチと、第2素線の撚りピッチを8mm以上とすることで、第1導体、および第2導体の生産性を高めることができる。第1素線の撚りピッチと、第2素線の撚りピッチとを22mm以下とすることで、第1導体、および第2導体の長手方向の単位長さ辺りの素線の充填密度を高くし、第1導体、第2導体の強度を高めることができる。このため、第1素線の撚りピッチと、第2素線の撚りピッチとを22mm以下とすることで、電力線や、電力線を含む多芯ケーブルの耐屈曲性をさらに高めることができる。
【0017】
(2)前記第1素線の撚りピッチが、前記第2素線の撚りピッチよりも短くてもよい。
【0018】
電力線に含まれる第1導体、および第2導体のうち、中心に配置した第1導体は長手方向に沿って引っ張られ易い。このため、第2導体に含まれる第2素線よりも、第1導体に含まれる第1素線の撚りピッチを短くして、第1導体の強度を十分に高めることで、電力線や、電力線を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高められる。
【0019】
(3)前記第1素線の撚りピッチ、および前記第2素線の撚りピッチは、10mm以上14mm以下であってもよい。
【0020】
第1素線の撚りピッチと、第2素線の撚りピッチを10mm以上とすることで、第1導体、および第2導体の生産性を特に高めることができる。第1素線の撚りピッチと、第2素線の撚りピッチとを14mm以下とすることで、第1導体、第2導体の強度を特に高め、電力線や、電力線を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高めることができる。
【0021】
(4)前記第2素線の撚りピッチは、前記第1素線の撚りピッチの、1.1倍以上1.4倍以下であってもよい。
【0022】
電力線に含まれる第1導体、および第2導体のうち、中心に配置した第1導体は長手方向に沿って引っ張られ易いため、第1導体の強度を高めることが好ましい。ただし、第2導体は、第1導体と比較して長手方向に引っ張られにくいため、第2素線の撚りピッチを、第1素線の撚りピッチの1.1倍以上とすることで、電力線の耐屈曲性に影響を与えず、生産性を高めることができる。第2素線の撚りピッチを、第1素線の撚りピッチの1.4倍以下とすることで、第2導体の強度を十分に高くし、電力線や電力線を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を高めることができる。
【0023】
(5)複数の前記電力線は撚り合わされており、
複数の前記電力線の撚り方向が、前記第1導体における前記第1素線の撚り方向と、前記第2導体における前記第2素線の撚り方向と、前記電力線における前記第1導体と前記第2導体との撚り方向と、同一であってもよい。
【0024】
複数の電力線の撚り方向を、第1導体における第1素線の撚り方向、第2導体における第2素線の撚り方向、電力線における第1導体と第2導体との撚り方向と同一とすることで、多芯ケーブルを屈曲した際に、撚り合わせた電力線に含まれる個々の電力線の長手方向の移動を円滑にできる。従って、多芯ケーブルを繰り返し屈曲させた場合でも、電力線に局所的に力が加わることを抑制し、電力線や、電力線を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高められる。
【0025】
(6)前記電力線よりも断面積の小さい2本の信号線を撚り合せた対撚信号線をさらに有し、
前記信号線は、複数の第3導体が撚り合わされ、
前記信号線における前記第3導体の撚り方向と、前記対撚信号線における前記信号線の撚り方向とが同一であってもよい。
【0026】
信号線における第3導体の撚り方向と、対撚信号線における信号線の撚り方向とを同一とすることで、多芯ケーブルを屈曲した際に、対撚信号線に含まれる個々の信号線の長手方向の移動を円滑にできる。従って、多芯ケーブルを繰り返し屈曲させた場合でも、信号線に局所的に力が加わることを抑制し、信号線や、信号線を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高められる。
【0027】
(7)前記電力線よりも断面積の小さい2本の信号線を撚り合わた対撚信号線をさらに有し、
前記信号線は、複数の第3導体が撚り合わされ、
前記信号線における前記第3導体の撚り方向と、前記対撚信号線における前記信号線の撚り方向とが同一であり、
前記対撚信号線と、複数の前記電力線とが撚り合わされており、
前記対撚信号線と複数の前記電力線との撚り方向と、前記対撚信号線における前記信号線の撚り方向とが同一であってもよい。
【0028】
信号線における第3導体の撚り方向と、対撚信号線における信号線の撚り方向とを同一とすることで、多芯ケーブルを屈曲した際に、対撚信号線に含まれる個々の信号線の長手方向の移動を円滑にできる。従って、多芯ケーブルを繰り返し屈曲させた場合でも、信号線に局所的に力が加わることを抑制し、信号線や、信号線を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高められる。
また、対撚信号線と複数の電力線との撚り方向と、対撚信号線における信号線の撚り方向とを同一とすることで、多芯ケーブルを屈曲した際に、電力線や、対撚信号線の長手方向の移動を円滑にできる。従って、多芯ケーブルを繰り返し屈曲させた場合でも、電力線や、信号線に局所的に力が加わることを抑制し、電力線や、信号線、電力線や信号線を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高められる。
【0029】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係る多芯ケーブルの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0030】
まず、本実施形態の多芯ケーブルの構成例について、
図1~
図3に基づき説明する。
【0031】
図1に本実施形態の多芯ケーブル10の長手方向と垂直な面での断面図を示す。また、
図2に本実施形態の他の構成例の多芯ケーブル20の長手方向と垂直な面での断面図を、
図3に本実施形態の他の構成例の多芯ケーブル30の長手方向と垂直な面での断面図をそれぞれ示す。
【0032】
図1~
図3に示すように、本実施形態の多芯ケーブル10、20、30は、複数の電力線11と、複数の電力線11を覆う外周被膜14とを備えることができる。
図1~
図3ではいずれも、2本の電力線11を有する場合を例に示しているが、係る形態に限定されず、本実施形態の多芯ケーブルは、3本以上の電力線11を有することもできる。
【0033】
本実施形態の多芯ケーブルは、電力線以外にも、接続する機器や印加する電圧等に応じて各種被覆電線を含むことができる。なお、被覆電線とは、導体と、導体を覆う絶縁層とを有する電線を意味し、信号線や、電線が挙げられる。
図1に示した多芯ケーブル10は、2本の電力線11に加えて、2本の信号線121を含む対撚信号線12を有している。
【0034】
図2に示した多芯ケーブル20は、2本の電力線11に加えて、2本の信号線121を含む対撚信号線12と、1本の電線21を有している。
【0035】
図3に示した多芯ケーブル30は、2本の電力線11に加えて、2本の信号線121を含む対撚信号線12を2本有している。このように、多芯ケーブルは、複数の電力線以外にも任意の構成の被覆電線を、任意の本数有することができる。
【0036】
本実施形態の多芯ケーブルが有する部材について以下に説明する。
【0037】
(1-1)電力線
ここで、
図4に、電力線11の導体部分の側面図を示す。
図4では、中心に配置した第1導体111が見えるように、第1導体111の長さと、第2導体112の長さとを変え、模式的に示している。
図4に示すように、電力線11は複数の導体を備えており、具体的には中心に配置された1本の第1導体111と、第1導体111の外周に配置された複数の第2導体112とを備え、第1導体111と、第2導体112とが撚り合わされている。
【0038】
また、第1導体111、第2導体112はそれぞれ複数の素線、すなわち複数のフィラメントが撚り合わされている。第1導体111は、複数の第1素線41が撚り合わされている。第2導体112は、複数の第2素線42が撚り合わされている。
【0039】
電力線11が有する第2導体112の本数は、電力線に要求される抵抗値等に応じて選択することができ、特に限定されないが、例えば6本以上12本以下であることが好ましい。第2導体112の本数を6本以上とすることで、電力線11の外周の凹凸を抑制し、取扱い性を高めることができる。また、第2導体112の本数を12本以下とすることで、電力線11の生産性を高めることができる。
【0040】
また、第1素線41や、第2素線42の素線径も特に限定されないが、例えば0.05mm以上0.15mm以下であることが好ましく、0.05mm以上0.10mm以下であることがより好ましい。第1素線41や、第2素線42の素線径を0.05mm以上とすることで、破断強度を維持し、第1導体111や、第2導体112の取扱い性を高めることができる。また、素線径を0.05mm以上とすることで、取扱い性を高めることができるため、第1導体111や、第2導体112の生産性を高めることができる。第1素線41や、第2素線42の素線径を0.15mm以下とすることで、切れにくくすることができ、電力線11や、電力線11を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高めることができる。
【0041】
第1素線41の素線径と、第2素線42の素線径とは同じであっても良く、異なっていても良い。ただし、第1素線41の素線径と、第2素線42の素線径とは同じであるほうが、用意する素線の種類を抑制でき、生産性を高めることができるため好ましい。
【0042】
第1導体111が有する素線の本数は特に限定されないが、例えば10本以上100本以下とすることが好ましく、10本以上49本以下とすることがより好ましい。また、第2導体112が有する素線の本数も特に限定されないが、例えば10本以上100本以下とすることが好ましく、10本以上49本以下とすることがより好ましい。第1導体111が有する素線の本数と、第2導体112が有する素線の本数とは同じであっても良く、異なっていても良い。多芯ケーブル全体では、例えば80本以上1300本以下の素線を有することができる。
【0043】
第1導体111、第2導体112が有する素線の本数を10本以上とすることで、第1導体111、第2導体112の強度を十分に高めることができる。また、第1導体111、第2導体112が有する素線の本数を100本以下とすることで、第1導体111、第2導体112の外径を抑制できる。第1導体111、第2導体112の外径を抑制することで、電力線11の外径を抑制し、取扱い性を高めることができる。第1導体111、第2導体112の外径は特に限定されないが、例えばそれぞれ0.4mm以上1.0mm以下とすることができる。第1導体111、第2導体112の断面積は特に限定されないが、例えばそれぞれ0.1mm2以上0.5mm2以下とすることができる。
【0044】
第1素線41や、第2素線42の材料は特に限定されず、第1素線41や、第2素線42として、銅または銅合金から構成された線を用いることができる。第1素線41や、第2素線42は、銅や銅合金の他に、錫めっき軟銅線や軟銅線等のような所定の導電性と柔軟性を有する材料で構成することもできる。第1素線41や、第2素線42を硬銅線で構成してもよい。
【0045】
第1導体111における第1素線41の撚り方向と、第2導体112における第2素線42の撚り方向とを異なる方向とすることで、第1導体111と、第2導体112とを撚り合せた際に、電力線11の表面の凹凸を抑制し、外観をよくすることができる。このため、従来は、第1導体111における第1素線41の撚り方向と、第2導体112における第2素線42の撚り方向とを異なる方向とすることがなされていた。
【0046】
しかしながら、本発明の発明者らの検討によれば、第1導体111における第1素線41の撚り方向と、第2導体112における第2素線42の撚り方向とを同一(同一方向)とすることで、多芯ケーブルの耐屈曲性を高めることができる。多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高める観点から、第1導体111における第1素線41の撚り方向と、第2導体112における第2素線42の撚り方向と、電力線11における第1導体111および第2導体112の撚り方向とが同一であることが好ましい。
【0047】
第1導体111における第1素線41の撚り方向と、第2導体112における第2素線42の撚り方向とを同一とすることで、第1導体111と、第2導体112とが接する箇所において、第1素線41の向きと第2素線42の向きとを揃えることができる。このため、電力線11を含む多芯ケーブルを屈曲した際に、素線間の擦れを抑制し、さらには素線に傷が生じることを抑制できる。従って、多芯ケーブルを繰り返し屈曲させた場合でも、第1素線41や、第2素線42が切れることを抑制し、電力線11の耐屈曲性を高められる。
【0048】
第1導体111における第1素線41の撚り方向と、第2導体112における第2素線42の撚り方向とを同一とすることで、第1導体111と、第2導体112とを製造する際に撚り方向を切り替える必要が無くなり、生産性を高めることもできる。
【0049】
さらに、上述のように、第1導体111における第1素線41の撚り方向と、第2導体112における第2素線42の撚り方向と、電力線11における第1導体111と第2導体112との撚り方向とを同一とすることで、特に素線間の擦れを抑制し、素線に傷が生じることを抑制できる。このため、電力線11の耐屈曲性を特に高められる。
【0050】
既述の様に、本実施形態の多芯ケーブルは電力線以外にも、接続する機器や印加する電圧等に応じて信号線や、電線等の各種被覆電線を含むことができる。ただし、多芯ケーブルが含む被覆電線のうち、通常は電力線が最も太く、負荷が加わり易いため、多芯ケーブルを繰り返し屈曲させた場合に切断され易い。このため、上述のように電力線の耐屈曲性を高めることで、多芯ケーブル全体の耐屈曲性を高めることができる。
【0051】
第1素線41の撚りピッチと、第2素線42の撚りピッチとは特に限定されないが、8mm以上22mm以下であることが好ましく、10mm以上14mm以下であることがより好ましい。特に、第1素線41の撚りピッチは、8mm以上16mm以下であることが好ましい。第2素線42の撚りピッチは、8mm以上18mm以下であることが好ましい。
【0052】
第1素線41の撚りピッチと、第2素線42の撚りピッチを8mm以上とすることで、第1導体111、および第2導体112の生産性を高めることができる。第1素線41の撚りピッチと、第2素線42の撚りピッチを10mm以上とすることで、第1導体111、および第2導体112の生産性を特に高めることができる。
【0053】
第1素線41の撚りピッチと、第2素線42の撚りピッチとを22mm以下とすることで、第1導体111、および第2導体112の長手方向の単位長さ当りの素線の充填密度を高くし、第1導体111、第2導体112の強度を高めることができる。このため、第1素線41の撚りピッチと、第2素線42の撚りピッチとを22mm以下とすることで、電力線11や、電力線11を含む多芯ケーブルの耐屈曲性をさらに高めることができる。第1素線41の撚りピッチと、第2素線42の撚りピッチとを14mm以下とすることで、第1導体111、第2導体112の強度を特に高め、電力線11や、電力線11を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高めることができる。
【0054】
第1素線41の撚りピッチと、第2素線42の撚りピッチとは同じであっても良く、異なっていても良い。ただし、特に多芯ケーブルの耐屈曲性を高める観点から、第1素線の撚りピッチが、第2素線の撚りピッチよりも短い方が好ましい。電力線11に含まれる第1導体111、および第2導体112のうち、中心に配置した第1導体111は長手方向に沿って引っ張られ易い。このため、第2導体112に含まれる第2素線42よりも、第1導体111に含まれる第1素線41の撚りピッチを短くし、第1導体111の強度を十分に高めることで、電力線11や、電力線11を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高められるからである。
【0055】
第2素線42の撚りピッチは、第1素線41の撚りピッチの1.0倍以上2.2倍以下であることが好ましく、1.1倍以上1.4倍以下であることがより好ましい。なお、第2素線42の撚りピッチの第1素線41の撚りピッチに対する比率は、第2素線の撚りピッチ/第1素線の撚りピッチにより算出できる。
【0056】
第1導体111と、第2導体112とは撚りピッチを同じとすることもできるため、第2素線42の撚りピッチは、第1素線41の撚りピッチの1.0倍以上にできる。既述の様に電力線11に含まれる第1導体111、および第2導体112のうち、中心に配置した第1導体111は長手方向に沿って引っ張られ易いため、第1導体111の強度を高めることが好ましい。ただし、第2導体112は、第1導体111と比較して長手方向に引っ張られにくいため、第2素線42の撚りピッチを、第1素線41の撚りピッチの1.1倍以上とすることで、電力線の耐屈曲性に影響を与えず、生産性を高めることができる。
【0057】
第2素線42の撚りピッチの第1素線41に対する比率を2.2倍以下とすることで、第2導体112の強度を十分に高くすることができる。特に、第2素線42の撚りピッチを、第1素線41の撚りピッチの1.4倍以下とすることで、第2導体112の強度を十分に高くし、電力線11や、電力線11を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高めることができる。
【0058】
図1等に示したように、本実施形態の多芯ケーブルは、複数の電力線11を有することができる。複数の電力線11は撚り合わせておくこともできる。複数の電力線11を撚り合わせる場合、複数の電力線11の撚り方向が、第1導体111における第1素線41の撚り方向と、第2導体112における第2素線42の撚り方向と、電力線11における第1導体111および第2導体112の撚り方向と、同一であることが好ましい。
【0059】
複数の電力線11の撚り方向を、第1導体111における第1素線41の撚り方向、第2導体112における第2素線42の撚り方向、電力線11における第1導体111と第2導体112との撚り方向と同一とすることで、多芯ケーブルを屈曲した際に、撚り合わせた電力線に含まれる個々の電力線11の長手方向の移動を円滑にできる。従って、多芯ケーブルを繰り返し屈曲させた場合でも、電力線11に局所的に力が加わることを抑制し、電力線11や、電力線11を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高められる。
【0060】
電力線11は、例えば電動パーキングブレーキ(Electric Parking Brake:EPB)と、電子制御装置(Electric Control Unit:ECU)とを接続するために用いることができる。EPBは、ブレーキキャリパーを駆動するモータを有している。例えば、多芯ケーブルが2本の電力線を含む場合、一方の電力線11は上記モータへ電力を供給する給電線として用い、他方の電力線11は該モータのアース線として用いることができる。
【0061】
電力線11は、第1導体111、および第2導体112の外周を第1の絶縁層113で被覆しておくことができる。第1の絶縁層113は、合成樹脂を主成分とする組成物により形成でき、第1導体111、および第2導体112の外周に積層されることで第1導体111、および第2導体112を被覆する。第1の絶縁層113の平均厚みとしては、特に限定されないが、例えば0.1mm以上5mm以下とすることができる。ここで「平均厚み」とは、任意の十点において測定した厚みの平均値をいう。なお、以下において他の部材等に対して「平均厚み」という場合にも同様に定義される。
【0062】
第1の絶縁層113の主成分は、絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、低温下における耐屈曲性向上の観点から、エチレンとカルボニル基を有するαオレフィンとの共重合体(以下、主成分樹脂ともいう)が好ましい。上記主成分樹脂のカルボニル基を有するαオレフィン含有量の下限としては、14質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。一方、上記カルボニル基を有するαオレフィン含有量の上限としては、46質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。上記カルボニル基を有するαオレフィン含有量を上記下限以上とすることで、低温での耐屈曲性を特に高めることができるため好ましい。また、上記カルボニル基を有するαオレフィン含有量を上記上限以下とすることで、第1の絶縁層113の強度等の機械的特性を高めることができ、好ましい。
【0063】
カルボニル基を有するαオレフィンとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸;メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン等のビニルケトン;(メタ)アクリル酸アミド等から選択された1種類以上を含むことが好ましい。これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびビニルエステルから選択された1種類以上がより好ましく、アクリル酸エチルおよび酢酸ビニルから選択された1種類以上がさらに好ましい。
【0064】
上記主成分樹脂としては、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン-ブチルアクリレート共重合体(EBA)等の樹脂が挙げられ、これらの中でもEVAおよびEEAから選択された1種類以上が好ましい。
【0065】
第1の絶縁層113は、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、反射付与剤、隠蔽剤、加工安定剤、可塑剤等の添加剤を含有していてもよい。また、第1の絶縁層113は、上記主成分樹脂以外のその他の樹脂を含有してもよい。
【0066】
その他の樹脂の含有量の上限としては、50質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましい。また、第1の絶縁層113は、その他の樹脂を実質的に含有しなくてもよい。
【0067】
上記難燃剤としては、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤、金属水酸化物、窒素系難燃剤、リン系難燃剤等のノンハロゲン系難燃剤等が挙げられる。難燃剤は、1種単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
臭素系難燃剤としては、例えばデカブロモジフェニルエタン等が挙げられる。塩素系難燃剤としては、例えば塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリフェノール、パークロルペンタシクロデカン等が挙げられる。金属水酸化物としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。窒素系難燃剤としては、例えばメラミンシアヌレート、トリアジン、イソシアヌレート、尿素、グアニジン等が挙げられる。リン系難燃剤としては、例えばホスフィン酸金属塩、ホスファフェナントレン、リン酸メラミン、リン酸アンモニウム、リン酸エステル、ポリホスファゼン等が挙げられる。
【0069】
難燃剤としては、環境負荷低減の観点からノンハロゲン系難燃剤が好ましく、金属水酸化物、窒素系難燃剤およびリン系難燃剤がより好ましい。
【0070】
第1の絶縁層113が難燃剤を含有する場合、第1の絶縁層113における難燃剤の含有量の下限としては、樹脂成分100質量部に対し、10質量部が好ましく、50質量部がより好ましい。一方、難燃剤の含有量の上限としては、樹脂成分100質量部に対し、200質量部が好ましく、130質量部がより好ましい。難燃剤の含有量が上記下限より小さいと、難燃効果を十分に付与できないおそれがある。逆に、難燃剤の含有量が上記上限を超えると、第1の絶縁層113の押出成型性を損なうおそれ、および伸びや引張強さ等の機械的特性を損なうおそれがある。
【0071】
第1の絶縁層113は、樹脂成分が架橋されていることが好ましい。第1の絶縁層113の樹脂成分を架橋する方法としては、電離放射線を照射する方法、熱架橋剤を用いる方法、シラングラフトマーを用いる方法等が挙げられ、電離放射線を照射する方法が好ましい。また、架橋を促進するため、第1の絶縁層113を形成する組成物にはシランカップリング剤を添加することが好ましい。
【0072】
既述の様に、本実施形態の多芯ケーブルは、電力線以外の被覆電線を含有することもできる。例えば信号線や、電線等を含むことができる。ここでは信号線、電線の構成例について説明する。
【0073】
(1-2)信号線
信号線121は、第1導体111や、第2導体112より細い第3導体1211と、第3導体1211を覆う第2の絶縁層1212と、を含んでいる。信号線121は2本一組で撚り合わされて対撚信号線12として構成することができる。長手方向に沿って撚り合わされる2本の信号線121は、互いに大きさおよび材料を同じとすることができる。対撚信号線12の撚りピッチは特に限定されないが、例えば対撚信号線12の撚り径(対撚信号線12の外径)の4倍以上10倍以下とすることができる。
【0074】
多芯ケーブルが、電力線11に加えて、対撚信号線12を有する場合、対撚信号線12の外径は、電力線11の外径とほぼ同じ大きさとすることができる。
【0075】
信号線121は、センサからの信号を伝送するために用いることもできるし、ECUからの制御信号を伝送するために用いることもできる。2本の信号線121は、例えばアンチロックブレーキシステム(Anti-lock Brake System:ABS)の配線に用いることができる。2本の信号線121はそれぞれ、例えば、差動式の車輪速センサと車両のECUとを接続する線として用いることができる。2本の信号線121を他の信号の伝送に用いてもよい。
【0076】
第3導体1211は、1本の導体から構成しても良いし、電力線11と同様に複数本の導体を撚り合わされて構成してもよい。第3導体1211は、既述の第1導体111や、第2導体112を構成する導体と同じ材料で構成してもよいし、異なる材料を用いてもよい。第3導体1211の断面積は特に限定されないが、例えば0.13mm2以上0.5mm2以下とすることができる。なお、信号線121は複数の第3導体1211を有することもできる。
【0077】
第2の絶縁層1212の材料は特に限定されないが、例えば、難燃剤が配合されることで難燃性が付与された架橋ポリエチレン等の難燃性のポリオレフィン系樹脂で形成することができる。第2の絶縁層1212を構成する材料としては、難燃性のポリオレフィン系樹脂に限られず、架橋フッ素系樹脂等の他の材料で形成しても良い。第2の絶縁層1212の外径は、例えば1.0mm以上2.2mm以下とすることができる。
【0078】
本実施形態の多芯ケーブルが信号線を含む場合、
図1~
図3に示した多芯ケーブル10~30のように、本実施形態の多芯ケーブルは、電力線11よりも断面積の小さい2本の信号線121を撚り合せた対撚信号線12をさらに有することができる。
【0079】
この場合、信号線121は、上述のように、複数の第3導体1211が撚り合わされ、信号線121における第3導体1211の撚り方向と、対撚信号線12における信号線121の撚り方向とが同一であることが好ましい。
【0080】
信号線121における第3導体1211の撚り方向と、対撚信号線12における信号線121の撚り方向とを同一とすることで、多芯ケーブルを屈曲した際に、対撚信号線12に含まれる個々の信号線121の長手方向の移動を円滑にできる。従って、多芯ケーブルを繰り返し屈曲させた場合でも、信号線121に局所的に力が加わることを抑制し、信号線121や、信号線121を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高められる。
【0081】
(1-3)電線
図2の多芯ケーブル20に示したように、本実施形態の多芯ケーブルは、被覆電線として、電線21を有することもできる。
【0082】
電線21は、第1導体111や、第2導体112より細い第4導体211と、第4導体211を覆う第3の絶縁層212と、を含んでいる。電線21は、大きさおよび材料が信号線121と同じであってもよい。
【0083】
電線21は、センサからの信号を伝送するために用いることもできるし、ECUからの制御信号を伝送するために用いることもできるし、電子機器へ電力を供給する給電線としても用いることができる。電線21をアース線として利用することもできる。
【0084】
第4導体211は、1本の導体から構成してもよいし、電力線11と同様に複数本の導体を撚り合わせて構成してもよい。第4導体211は、第1導体111、第2導体112や、第3導体1211を構成する導体と同じ材料で構成してもよいし、異なる材料を用いてもよい。第4導体211の断面積は特に限定されないが、例えば0.13mm2以上0.5mm2以下とすることができる。なお、電線21は複数の第4導体211を有することもできる。
【0085】
第3の絶縁層212は、第2の絶縁層1212と同じ材料を用いることができるし、異なる材料を用いてもよい。第3の絶縁層212の外径は、1.0mm以上2.2mm以下とすることができる。
【0086】
2本の電線21が用いられ、これらが撚り合わされて対撚電線が構成されてもよい。この場合、撚り合わされる2本の電線21は、大きさおよび材料が同じであることが好ましい。電線を対撚電線とし、対撚信号線と共に多芯ケーブルに配置する場合、対撚電線は、対撚信号線12と同じ方向に撚られていることが好ましい。また、この場合、対撚電線は、対撚信号線12と撚りピッチが等しいことが好ましい。対撚電線の外径は、対撚信号線12の外径とほぼ同じ大きさとすることができる。対撚電線の外径は、電力線11の外径とほぼ同じ大きさとすることができる。
【0087】
既述の様に、本実施形態の多芯ケーブルが有する複数の被覆電線の構成は特に限定されず、多芯ケーブルを接続する機器等に応じて、任意の構成の被覆電線を、任意の本数有することができる。ただし、
図1~
図3に示した多芯ケーブル10、20、30の様に、多芯ケーブルは、複数の電力線11に加えて、対撚信号線12を含むことが好ましい。電力線11と、対撚信号線12とを備えた多芯ケーブルとすることで、各種用途で使用することができる、汎用性の高い多芯ケーブルとすることができるからである。
【0088】
既述の様に、複数の電力線11は撚り合せておくこともできる。また、本実施形態の多芯ケーブルが、信号線等の被覆電線をさらに有する場合、必要に応じて複数の電力線11と、被覆電線等とをあわせて撚り合わせることもできる。
【0089】
具体的には例えば、
図1に示した多芯ケーブル10の場合であれば、2本の電力線11と、1本の対撚信号線12を撚り合せてコア13を構成できる。また、
図2に示した多芯ケーブル20の場合、2本の電力線11と、1本の対撚信号線12と、電線21とを撚り合せてコア23を構成できる。
図3に示した多芯ケーブル30の場合、2本の電力線11と、2本の対撚信号線12とを撚り合せてコア33を構成できる。
【0090】
コアの全体の撚り径は特に限定されないが、例えば5.5mm以上9mm以下とすることができる。
【0091】
また、コアの撚りピッチについても特に限定されないが、例えばコアの撚り径の12倍以上24倍以下とすることができる。コアの撚りピッチをコアの撚り径の24倍以下とすることで、撚りがゆるくなることを抑制し、耐屈曲性を特に高めることができる。また、コアの撚りピッチをコアの撚り径の12倍以上とすることで、多芯ケーブルの生産性を特に高めることができる。
【0092】
なお、コアが対撚信号線12を含む場合、コアの撚りピッチのコアの撚り径に対する比率は、対撚信号線12の撚りピッチの対撚信号線12の撚り径に対する比率より大きいことが好ましい。コアの撚り方向は、複数の電力線11の撚り方向と同一であることが好ましい。また、コアの撚り方向は、対撚信号線12の撚り方向とも同一であることが好ましい。
【0093】
本実施形態の多芯ケーブルが、
図1等に示したように対撚信号線12をさらに含む場合、上述のように対撚信号線12と、複数の電力線11とを撚り合せておくこともできる。この場合、対撚信号線12と複数の電力線11との撚り方向と、対撚信号線12における信号線121の撚り方向とが同一であることが好ましい。
【0094】
対撚信号線12と複数の電力線11との撚り方向と、対撚信号線12における信号線121の撚り方向とを同一とすることで、多芯ケーブルを屈曲した際に、電力線11や、対撚信号線12の長手方向の移動を円滑にできる。従って、多芯ケーブルを繰り返し屈曲させた場合でも、電力線11や、信号線121に局所的に力が加わることを抑制し、電力線11や、信号線121、電力線11や信号線121を含む多芯ケーブルの耐屈曲性を特に高められる。
【0095】
既述の様に、本実施形態の多芯ケーブルが対撚信号線12を有する場合、対撚信号線12は、例えば電力線11よりも断面積の小さい2本の信号線121を撚り合せて形成できる。信号線121は、複数の第3導体1211が撚り合わされ、信号線121における第3導体1211の撚り方向と、対撚信号線12における信号線121の撚り方向とが同一であることが好ましい。
【0096】
(2)外周被膜
ここまで説明したように、本実施形態の多芯ケーブルは、複数の電力線11や、必要に応じて、信号線121、電線21等の被覆電線を含むことができる。そして、本実施形態の多芯ケーブルは、複数の電力線11を一括して覆う外周被膜14を有することができる。なお、上述のように、本実施形態の多芯ケーブルが複数の電力線11以外に、信号線121等の被覆電線を含有する場合には、外周被膜14は、複数の電力線11と、被覆電線とを一括して覆うように配置できる。
【0097】
外周被膜14の構成は特に限定されず、単一の層から構成することもでき、2層以上の複数の層から構成することもできる。
【0098】
具体的には例えば、外周被膜14は、複数の電力線11等を配置した多芯ケーブルの中心側から順に第1の被膜層141と、第2の被膜層142とを有することもできる。
【0099】
第1の被膜層141の主成分としては、柔軟性を有する合成樹脂であれば特に限定されず、例えばポリエチレンやEVA等のポリオレフィン、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー等が挙げられる。これらの合成樹脂は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0100】
第1の被膜層141の最小厚み、すなわちコアと第1の被膜層141の外周との最小距離は、0.3mm以上が好ましく、0.4mm以上がより好ましい。また、第1の被膜層141の最小厚みは、0.9mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましい。
【0101】
第1の被膜層141の外径は、6.0mm以上が好ましく、7.3mm以上がより好ましい。また、第1の被膜層141の外径は、10mm以下が好ましく、9.3mm以下がより好ましい。
【0102】
多芯ケーブルの外側に配置される第2の被膜層142には難燃性が望まれることも多い。また、EPB用ケーブル等の車両に搭載されるケーブルの場合、第2の被膜層142は走行中の石跳ね等によるダメージを受けやすく摩耗しやすい。従って、第2の被膜層142を形成する材料には耐外傷性や耐摩耗性に優れた樹脂が望まれる。さらにケーブルを柔軟なものにするため柔軟性に優れた材料が望まれる。
【0103】
第2の被膜層142の主成分としては、難燃性および耐摩耗性に優れた合成樹脂であれば特に限定されず、例えばポリウレタン等が挙げられる。架橋熱可塑性ポリウレタンが特に好ましい。
【0104】
第2の被膜層142の平均厚みとしては、0.3mm以上0.7mm以下が好ましい。
【0105】
第1の被膜層141の柔軟性が第2の被膜層142の柔軟性よりも高いことが好ましい。これは、多芯ケーブルが、第2の被膜層142により難燃性および耐摩耗性を確保しながら、優れた柔軟性を得られるからである。第1の被膜層141および第2の被膜層142は、それぞれ樹脂成分が架橋されていることが好ましい。第1の被膜層141および第2の被膜層142の架橋方法は、第1の絶縁層113の架橋方法と同様とすることができる。
【0106】
また、第1の被膜層141および第2の被膜層142は、第1の絶縁層113で例示した添加剤を含有してもよい。
【0107】
本実施形態の多芯ケーブルは、ここまで説明した複数の電力線や、外周被膜以外に任意の部材をさらに有することもできる。
【0108】
例えば複数の電力線11の外周を覆う、抑え巻15を有していてもよい。抑え巻15は、複数の電線や、場合によってはさらに被覆電線を撚り合せたコアを覆っている。抑え巻15を配置することで、コアを構成する複数の電力線11等の撚り合わされた形状を安定的に維持することができる。抑え巻15は、外周被膜14の内側に設けることができる。
【0109】
抑え巻15として、例えば、紙テープや不織布、ポリエステルなどの樹脂製のテープを用いることができる。また、抑え巻15は、コアの長手方向に沿って、螺旋状に巻き付けてもよいし、縦添え、すなわち抑え紙の長手方向をコアの長手方向に沿って配置する構成であっても良い。また、巻き方向は、Z巻きでもS巻きでも良い。またコア13が対撚信号線12等を含む場合、抑え巻15の巻き方向は、コア13に含まれる対撚信号線12等の対撚り方向と同じ方向に巻いてもよいし、反対方向に巻いてもよい。もっとも、抑え巻15の巻き方向と対撚信号線12等の対撚り方向とを反対にすると、抑え巻15の表面に凹凸が生じにくく、多芯ケーブルの外径形状が安定し易いので好ましい。
【0110】
なお、抑え巻15が、緩衝作用を有し屈曲性を高める機能や、外部からの保護機能を有することから、抑え巻15を設けた場合には外周被膜14の層を薄く構成できる。このように抑え巻15を設けることにより、さらに曲げやすくかつ耐摩耗性に優れた多芯ケーブルを提供できる。
【0111】
また、押出被覆で樹脂製の外周被膜14等を設ける場合には、該樹脂が複数の被覆電線の間に入り込んでしまい、多芯ケーブルの末端において複数の被覆電線を分離しにくくなる場合がある。そこで、抑え巻15を設けることにより、該樹脂の複数の被覆電線の間への侵入を防止し、端末において電力線等の複数の被覆電線を取り出しやすくすることができる。
【0112】
また、本実施形態の多芯ケーブルは、例えば外周被膜14と、コアとの間の領域16に介在を有していてもよい。介在は、スフ糸やナイロン糸などの繊維で構成することができる。介在は、抗張力繊維で構成してもよい。
【0113】
介在は、複数の電力線11間や、電力線11と信号線121との間の様に、被覆電線間に形成される隙間に配置することができる。
【0114】
以上、実施形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形および変更が可能である。
【実施例】
【0115】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
まず、以下の実験例において作製した多芯ケーブルの評価方法について説明する。
(1)第1素線、第2素線の撚りピッチの評価。
【0116】
第1素線を撚り合せた第1導体の場合を例に説明すると、まず第1導体の最外層の第1素線の数、すなわち素線数nを数える。
【0117】
次いで、第1導体の中心軸に沿って、第1導体に直尺をあてがい、基準とする素線から、(n+1)番目の素線までの距離を測り取り、係る長さを第1導体における第1素線の撚りピッチとした。
【0118】
ここでは、第1導体の場合を例に説明したが、第2導体の第2素線の撚りピッチについても同様にして測定した。
(2)耐屈曲性試験
以下の実験例で得られた多芯ケーブルについて、JIS C 6851(2006)(光ファイバ特性試験方法)に準ずる方法にて耐屈曲性試験を行った。
【0119】
具体的には、
図5に示すように、水平かつ互いに平行に配置された直径60mmの2本のマンドレル511、512の間に、評価を行う多芯ケーブル52を鉛直方向に配置して挟み、上端を一方のマンドレル511の上側に当接するように水平方向に90°屈曲させた後、他方のマンドレル512の上側に当接するように水平方向に90°屈曲させることを-30℃の恒温槽内で繰り返した。この繰り返しは、ケーブル中の2本の導体を接続して抵抗値を測定しながら行い、初期抵抗値の10倍以上まで抵抗が上昇したときの回数(右側に曲げてから、左側に曲げた後、右側に戻ってくるまでを屈曲回数1回とする。)を耐屈曲性試験の指標値とした。なお、耐屈曲性試験の指標値、すなわち屈曲回数が多いほど耐屈曲性に優れることを意味する。
【0120】
指標値が3000回未満の場合にはD、3000回以上10000回未満の場合にはC、10000回以上15000回未満の場合にはB-、15000回以上30000回未満の場合にはB、30000回以上の場合にはAと評価した。Aが最も耐屈曲性に優れ、Dが最も耐屈曲性が悪く、A、B、B-、C、Dの順に耐屈曲性が低下していくことを意味する。A、B、B-のいずれかの場合には、十分な耐屈曲性を有する多芯ケーブルと評価できる。
(3)形状安定性試験
以下の実験例で得られた多芯ケーブルについて、形状安定性試験を行った。
【0121】
形状安定性試験は、まず以下の実験例で得られた多芯ケーブルの長手方向と垂直な断面において、直交する2方向の直径(外径)を測定した。
【0122】
そして、測定した2方向の直径のうち、長い方の直径(長径)の、短い方の直径(短径)に対する割合、すなわち、長径/短径×100が、100%以上105%未満の場合にはA、105%以上110%未満の場合にはB、110%以上115%未満の場合にはC、115%以上の場合にはDと評価した。Aが最も形状安定性に優れ、Dが最も形状安定性が悪く、A、B、C、Dの順に形状安定性が低下していくことを意味する。
(4)生産性評価
1時間当たりの多芯ケーブルの生産量(長さ)について、実験例1の場合を基準として、実験例1の1.2倍未満の場合にはC、1.2倍以上1.35倍未満の場合にはB-、1.35倍以上1.5倍未満の場合にはB、1.5倍以上2.0倍未満の場合にはA、2.0倍以上の場合にはA+と評価した。A+が最も生産性が高く、Cが最も生産性が低く、A+、A、B、B-、Cの順に生産性が低下していくことを意味する。
(実験例)
以下、実験条件について説明する。実験例1~実験例7が実施例、実験例8が比較例となる。
[実験例1]
図1に示した多芯ケーブル10を作製し、評価を行った。具体的には、コア13は、2本の電力線11と、2本の信号線121を含む対撚信号線12とを含む。
【0123】
電力線11は中心に配置された1本の第1導体111と、第1導体111の外周に配置された6本の第2導体112を含む。また、第1導体111および第2導体112を覆う第1の絶縁層113を有している。
【0124】
第1導体111は素線径が0.08mmの第1素線が48本、右撚りに撚り合わされて構成されている。第2導体112は素線径が0.08mmの第2素線が48本、右撚りに撚り合わされて構成されている。
【0125】
第1導体111、および第2導体112はいずれも、外径が0.63mmであり、断面積が0.24mm2であった。以下の他の実験例でも、第1導体111、第2導体の外径、断面積は同じ値となった。また、第1素線、および第2素線の撚りピッチを測定したところ、表1に示す値であることが確認できた。
【0126】
電力線11は、第1導体111、および第2導体112を右撚りに撚り合せている。
【0127】
対撚信号線12は、3本の第3導体1211を含む2本の信号線121を右撚りに撚り合せて構成されている。信号線121において、3本の第3導体1211は、右撚りに撚り合わせて構成されている。3本の第3導体1211は、第2の絶縁層1212により覆われている。第3導体1211は16本の素線が撚り合わされて構成されており、第3導体1211の外径は1.6mmであり、断面積は0.25mm2である。
【0128】
用いた信号線121の断面積は、いずれも電力線11の断面積よりも小さくなっている。以下の他の実験例においても同様であった。
【0129】
コア13は、上述の2本の電力線11と、対撚信号線12とが長手方向に沿って右撚りに撚り合せて形成されている。そして、コア13の周りには、抑え巻15として薄紙が配置され、コア13を覆うように外周被膜14が配置されている。
【0130】
外周被膜14は、第1の被膜層141と、第2の被膜層142とを有している。第1の被膜層141は、その最小厚みが0.65mmであり、ポリエチレン樹脂により形成した。第2の被膜層142は平均厚みが0.5mmであり、ポリウレタン樹脂により形成した。
【0131】
得られた多芯ケーブルについて、耐屈曲性試験、形状安定性試験、および生産性評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例2]
第2導体112を作製する際に、第2素線の撚りピッチを変更した点以外は、実験例1と同様にして多芯ケーブルを製造し、評価を行った。また、第1素線、および第2素線の撚りピッチを測定したところ、表1に示す値であることが確認できた。
【0132】
評価結果を表1に示す。
[実験例3]
第1導体111、および第2導体112を作製する際に、第1素線、第2素線の撚りピッチを変更した点以外は、実験例1と同様にして多芯ケーブルを製造し、評価を行った。また、第1素線、および第2素線の撚りピッチを測定したところ、表1に示す値であることが確認できた。
【0133】
評価結果を表1に示す。
[実験例4]
第2導体112を作製する際に、第2素線の撚りピッチを変更した点以外は、実験例3と同様にして多芯ケーブルを製造し、評価を行った。また、第1素線、および第2素線の撚りピッチを測定したところ、表1に示す値であることが確認できた。
【0134】
評価結果を表1に示す。
[実験例5]
第2導体112を作製する際に、第2素線の撚りピッチを変更した点以外は、実験例3と同様にして多芯ケーブルを製造し、評価を行った。また、第1素線、および第2素線の撚りピッチを測定したところ、表1に示す値であることが確認できた。
【0135】
評価結果を表1に示す。
[実験例6]
第1導体111、および第2導体112を作製する際に、第1素線、第2素線の撚りピッチを変更した点以外は、実験例1と同様にして多芯ケーブルを製造し、評価を行った。また、第1素線、および第2素線の撚りピッチを測定したところ、表1に示す値であることが確認できた。
[実験例7]
第1導体111、および第2導体112を作製する際に、第1素線、第2素線の撚りピッチを変更した点以外は、実験例1と同様にして多芯ケーブルを製造し、評価を行った。また、第1素線、および第2素線の撚りピッチを測定したところ、表1に示す値であることが確認できた。
[実験例8]
第2導体112を作製する際に、第2素線を左撚りとした点以外は、実験例5と同様にして多芯ケーブルを製造し、評価を行った。また、第1素線、および第2素線の撚りピッチを測定したところ、表1に示す値であることが確認できた。
【0136】
評価結果を表1に示す。
【0137】
【表1】
表1に示した結果によれば、第1素線の撚り方向と、第2素線の撚り方向と、第1導体と第2導体との撚り方向と、が同一である実験例1~実験例7の多芯ケーブルでは耐屈曲性試験の評価結果が、A、B、B-のいずれかであり、十分な耐屈曲性を有することを確認できた。
【0138】
特に第1素線の撚りピッチが、第2素線の撚りピッチよりも短い実験例2~5においては耐屈曲性試験の評価結果がAであり、特に優れた耐屈曲性を有することを確認できた。
【0139】
一方、第1素線の撚り方向と、第2素線の撚り方向とが異なる実験例8の多芯ケーブルは、耐屈曲性試験の評価結果がCであり、耐屈曲性が劣っていることを確認できた。
【符号の説明】
【0140】
10、20、30、52 多芯ケーブル
11 電力線
111 第1導体
112 第2導体
113 第1の絶縁層
12 対撚信号線
121 信号線
1211 第3導体
1212 第2の絶縁層
13、23、33 コア
14 外周被膜
141 第1の被膜層
142 第2の被膜層
15 抑え巻
16 領域
21 電線
211 第4導体
212 第3の絶縁層
41 第1素線
42 第2素線
511、512 マンドレル