(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】亜鉛系めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20230111BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20230111BHJP
C23C 2/02 20060101ALI20230111BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20230111BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C23C28/00 B
C23C2/06
C23C2/02
C23C2/26
C25D5/26 F
(21)【出願番号】P 2021136571
(22)【出願日】2021-08-24
(62)【分割の表示】P 2021514225の分割
【原出願日】2020-04-16
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2019078556
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019182650
(32)【優先日】2019-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】柴尾 史生
(72)【発明者】
【氏名】二葉 敬士
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/213690(WO,A1)
【文献】特開平04-193967(JP,A)
【文献】特開2007-131906(JP,A)
【文献】特開2017-218647(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125887(WO,A1)
【文献】特開2004-202988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00-30/00
C23C 2/00-2/40
C25D 5/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板の少なくとも一方の表面に位置しており、所定の方向に延伸する凹部であるヘアラインが形成された亜鉛系めっき層と、
前記亜鉛系めっき層の表面に位置しており、平均厚みが0.05μm以上3.0μm以下である酸化物層と、
を備え、
前記酸化物層の表面には、前記凹部と、前記凹部以外の領域である平坦部とが形成され、
前記凹部の平均深さは0.1μm以上3.0μm未満であり、
前記凹部の底部は前記酸化物層の下層の前記亜鉛系めっき層に到達し、
前記凹部に存在する前記酸化物層の平面視での面積率AR1と、前記平坦部に存在する前記酸化物層の平面視での面積率AR2との比AR1/AR2が0以上0.5以下である亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
少なくとも前記凹部以外の前記亜鉛系めっき層の表面に前記酸化物層が位置する、請求項1に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】
前記酸化物層の表面に、透光性を有する有機樹脂被覆層を更に備える、
請求項1または請求項2に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】
前記亜鉛系めっき鋼板の表面の黒色度は、L
*値で40以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項5】
前記亜鉛系めっき層は、亜鉛系電気めっき層であり、
前記亜鉛系電気めっき層の平均付着量は、5g/m
2以上40g/m
2以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項6】
前記亜鉛系電気めっき層は、
Fe、Ni、およびCoからなる群より選択されるいずれか1つ以上の添加元素を合計で5質量%以上20質量%以下と、
Zn及び不純物からなる残部と、
を含有する、
請求項5に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項7】
前記亜鉛系めっき層は、亜鉛系溶融めっき層で
ある、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項8】
前記亜鉛系溶融めっき層は、
Al、およびMgからなる群より選択される何れか1つ以上の添加元素を合計で1質量%以上60質量%以下と、
Zn及び不純物から成る残部と、
を含有する、
請求項7に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項9】
前記有機樹脂被覆層が着色顔料を有する、
請求項3に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項10】
前記凹部の平均深さが0.1μm以上2.0μm未満である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項11】
前記亜鉛系めっき層が亜鉛系電気めっき層である、請求項10に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項12】
前記酸化物層が、亜鉛水酸化物及び亜鉛酸化物からなる群より選択される何れか1種以上を含む、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項13】
前記酸化物層の平均厚みが0.05μm以上3.0μm未満である、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項14】
前記凹部は表面粗さRaA’が5nm超500nm以下である領域を含み、前記平坦部は表面粗さRaB’が500nm超5000nm以下である領域を含む、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項15】
前記凹部の長さ方向に沿った平均長さが1cm以上である、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項16】
前記凹部は、前記凹部の長さ方向に直交する方向に沿った任意の1cm幅の範囲に、平均して3本/cm以上80本/cm以下の頻度で存在する、請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項17】
前記亜鉛系めっき層の平均付着量は、5g/m
2以上40g/m
2以下である、請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項18】
前記酸化物層が第二成分としてFe、Ni、及びCoからなる群より選択される何れか1種以上の添加元素を含有する、請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項19】
前記亜鉛系めっき層は、Fe、Ni、及びCoからなる群より選択される何れか1種以上の添加元素を、これらの添加元素の合計で5質量%以上20質量%以下含有し、前記亜鉛系めっき層の残部はZn及び不純物である、請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項20】
前記有機樹脂被覆層が黒色顔料を含有する、請求項3に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項21】
前記有機樹脂被覆層が2層以上であり、最下層以外のいずれか1以上の層に前記黒色顔料が含有される、請求項20に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項22】
前記有機樹脂被覆層が更にSi、P、及びZrから選択される何れか1種以上の添加元素を含有する、請求項21に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛系めっき鋼板に関する。本願は、2019年4月17日に、日本に出願された特願2019-078556号及び2019年10月3日に、日本に出願された特願2019-182650号に基づき優先権を主張し、これらの内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
電気機器、建材、及び、自動車をはじめとして、人々の目に触れる物品は、一般的に意匠性が求められる。意匠性を高める方法としては、物品の表面に対して塗装を施したりフィルムを貼り付けたりする方法が一般的であるが、近年、自然志向の欧米を中心に、金属の質感を活かした材料の適用が増加している。金属の質感を活かすという観点からすると、塗装や樹脂被覆は金属の質感を損なうため、物品の素材として、無塗装のままでも耐食性に優れるステンレス鋼材やアルミ材が用いられている。また、ステンレス鋼材やアルミ材の意匠性を向上させるために、バイブレーションと呼ばれる円弧状の細かい凹凸を付与したり、エンボス加工などが施されたりする。
特にヘアラインと呼ばれる細かい線状の凹凸を付与した外観が好まれて多用されている。さらにステンレス鋼材やアルミ材の意匠性を高めるため、着色する場合がある。
着色方法としては、ステンレス鋼材やアルミ材の表面に着色塗膜を被覆する方法、ステンレス鋼材やアルミ材の表面に存在する酸化物層の厚みを変えて着色する方法等が用いられる。特に高い黒色度が要求される場合、塗膜のみで着色するとヘアラインが隠蔽されて見えなくなるため好ましくない。高い黒色度が要求される場合には酸化物層により黒色化する方法が用いられる。
【0003】
ヘアライン仕上げ(HL仕上げ)は、ステンレス鋼材の表面仕上げの一つとして、JIS G4305:2012において、「適当な粒度の研磨材で連続した磨き目が付くように研磨して仕上げたもの」と定義されている。
【0004】
しかしながら、ステンレス鋼材およびアルミ材は高価であるため、これらステンレス鋼材およびアルミ材に替わる安価な材料が望まれている。このような代替材料の一つとして、ステンレス鋼材やアルミ材と同様な高意匠性及び適度な耐食性を備え、かつ、電気機器や建材等に使用するのに適した、ヘアライン外観を有する金属の質感(メタリック感)に優れた鋼材がある。
【0005】
鋼材に適度な耐食性を付与する技術として、鋼材に対して犠牲防食性に優れる亜鉛めっき、又は、亜鉛合金めっきを付与する技術が広く用いられている。
このような亜鉛めっき又は亜鉛合金めっき(以下、亜鉛めっきと亜鉛合金めっきとを総称して、「亜鉛系めっき」とも言う。)にヘアライン意匠を付与した鋼材に関する技術として、ヘアライン方向に直交するヘアライン直交方向の表面粗さRa(算術平均粗さ)が0.1~1.0μmであるめっき層の表面に対し、透光性を有する接着剤層と透光性を有するフィルム層めっき層とを形成する技術(以下の特許文献1を参照。)、
Zn-Al-Mg系溶融めっき層の表層に形成されたヘアライン方向及びヘアライン直交方向の粗さパラメータ(Ra及びPPI)を特定の範囲とし、かつ、Zn-Al-Mg系溶融めっき層の表面に透明樹脂皮膜層を形成する技術(以下の特許文献2を参照。)、
Zn及びZn系合金めっきに圧延でテクスチャを転写した鋼板に対し、表面粗度が一定範囲内となるような樹脂を被覆する技術(以下の特許文献3を参照。)、
が提案されている。
特許文献6には、酸化物層の表面にヘアラインを形成する技術が開示されている。
【0006】
また、黒色の亜鉛系めっき鋼板を作製する技術として、亜鉛系めっき層表面を酸化する技術(以下の特許文献4を参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国登録実用新案第3192959号公報
【文献】日本国特開2006-124824号公報
【文献】日本国特表2013-536901号公報
【文献】日本国特開昭63-65086号公報
【文献】国際公開第2015/125887号
【文献】日本国特開2017-218647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1~特許文献3で提案されているような、ヘアライン意匠が付与された鋼板に黒色の有機樹脂を被覆する技術では、黒色塗膜によりヘアライン意匠を隠蔽するため、ヘアライン意匠と黒色外観を両立することが困難であった。
【0009】
また、上記特許文献4で提案されているような、亜鉛系めっき層の表面に酸化被膜を形成する方法では、亜鉛系めっき層の表面に析出する酸化物の粒子径が大きくなるため、黒色外観とメタリック感(金属光沢感)の両立が課題であった。
【0010】
ここで、ヘアラインを形成する方法としては、ヘアラインを形成したいめっき鋼板を所定の粗度を有する圧延ロール等により圧延する鋼板圧延法と、ヘアラインを形成したいめっき鋼板の表面を研削するめっき研削法と、がある。上記のようなメタリック感(金属光沢感)の不足は、特に、上記の鋼板圧延法においてめっき原板にヘアラインを形成し、その後、電気めっきを施し、更にその後にめっき層表面に酸化物層を析出させてヘアラインを形成しためっき鋼板で顕著であった。
メタリック感の不足が顕著である理由は定かではないが、ヘアラインを鋼板圧延法でめっき原板に付与することで作製しためっき鋼板では、めっき層の最表面にめっきの結晶粒子の凹凸が存在し、この凹凸が酸化されることで粗大な粒子をめっき層表面に形成することで、入射してきた光が酸化物層表面で乱反射するためであると考えられる。
【0011】
また、特許文献2に記載のようにめっき後の鋼板に対して鋼板圧延法によりヘアラインを形成した場合、圧延によりめっきの結晶粒子の凹凸が潰される。そのため、光の乱反射によりメタリック感が不足するという問題は無いが、めっき表面が平滑化されるため、その後形成される酸化物の粒径が小さくなり、その表面に被覆する樹脂被膜との密着性が不足するという問題が生じる。
【0012】
光沢感を向上させるための方法として、電気めっき液中に所定の有機物添加剤を添加して、めっき結晶粒を微細化する方法が知られている(例えば、上記特許文献5を参照。)。その結果、めっき層表面に形成される酸化物の粒径も小さくなり、光沢感が向上する。しかしながら、めっきの結晶粒子を微細化すると、酸化物層の粒子径も小さくなるため樹脂を被覆した際に、樹脂皮膜との加工密着性が低下するという問題があった。また、上記特許文献5に記載の方法では、平滑なめっきを得るために有機物添加剤を用いる必要があり、めっき液のドラッグアウト(廃液)処理費用が増大するという問題があった。
【0013】
なお、ステンレス鋼材は、その表面に存在する酸化膜によってステンレス鋼材そのものの耐食性が良いために、耐食性向上のための塗装は不要である。すなわち、金属素地そのものを表面に使用できることから、基本的に樹脂被覆を必要としない。一方、ステンレス鋼材に対して樹脂被覆を施す場合には、着色や別の質感を付与することが目的である。そのため、ステンレス鋼材においては、本発明者らが知見したようなメタリック感の喪失は、問題とはならなかった。かかる事情は、アルミ材についても同様である。
【0014】
特許文献6には、酸化物層の表面にヘアラインを形成する技術が開示されている。しかし、本発明者が特許文献6に開示された技術を検討したところ、メタリック感とは異なる問題があることが判明した。具体的には、特許文献5では、亜鉛系めっき層を水蒸気酸化させることで酸化物層を形成している。このような水蒸気酸化は複雑かつ大型の設備で時間をかけて行う必要がある。そのため、インラインで(つまり、めっき等の他の工程と同一ラインで)行うことができない。したがって、酸化物層の形成にコストがかかる。また形成した酸化物層を部分的に研削して得られたヘアラインは、大気中で時間とともに変色する。すなわち、研削してその上層に皮膜を被覆するまでの時間を管理し、短くする必要がある。さらに、水蒸気酸化によって形成された酸化物層は厚いため、ヘアラインを視認可能な程度に形成するためには、ヘアラインを深く形成する必要がある。つまり、ヘアラインが視認可能となるためには、少なくともヘアラインを酸化物層の下層の亜鉛系めっき層までの深さまで形成する必要がある。特許文献6では酸化物層が厚いので、その分だけヘアラインを深く形成する必要がある。このため、ヘアラインの形成に手間がかかるのみならず、削りくず等の廃棄物が大量に生じることになる。したがって、特許文献6ではメタリック感の問題を根本的に解決することができない。
【0015】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、安価な鋼材を使用した場合であっても、良好な耐食性を備え、良好な黒色度及びヘアライン外観を有し、かつ、メタリック感及び加工密着性に優れた、亜鉛系めっき鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
<1>本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板は、鋼板と、前記鋼板の少なくとも一方の表面に位置しており、所定の方向に延伸する凹部であるヘアラインが形成された亜鉛系めっき層と、前記亜鉛系めっき層の表面に位置しており、平均厚みが0.05μm以上3.0μm以下である酸化物層と、を備え、前記酸化物層の表面には、前記凹部と、前記凹部以外の領域である平坦部とが形成され、前記凹部の平均深さは0.1μm以上3.0μm未満であり、前記凹部の底部は前記酸化物層の下層の前記亜鉛系めっき層に到達し、前記凹部に存在する前記酸化物層の平面視での面積率AR1と、前記平坦部に存在する前記酸化物層の平面視での面積率AR2との比AR1/AR2が0以上0.5以下である。<2>上記<1>に記載の亜鉛系めっき鋼板は、少なくとも前記凹部以外の前記亜鉛系めっき層の表面に前記酸化物層が位置してよい。
<3>上記<1>又は<2>に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記酸化物層の表面に、透光性を有する有機樹脂被覆層を更に備えてよい。
<4>上記<1>から<3>のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記亜鉛系めっき鋼板の表面の黒色度は、L*値で40以下であってよい。
<5>上記<1>から<4>のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記亜鉛系めっき層は、亜鉛系電気めっき層であり、前記亜鉛系電気めっき層の平均付着量は、5g/m2以上40g/m2以下であってよい。
<6>上記<5>に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記亜鉛系電気めっき層は、Fe、Ni、およびCoからなる群より選択されるいずれか1つ以上の添加元素を合計で5質量%以上20質量%以下と、Zn及び不純物からなる残部と、を含有してよい。
<7>上記<1>から<4>のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記亜鉛系めっき層は、亜鉛系溶融めっき層であってよい。
<8>上記<7>に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記亜鉛系溶融めっき層は、Al、およびMgからなる群より選択される何れか1つ以上の添加元素を合計で1質量%以上60質量%以下と、Zn及び不純物から成る残部と、を含有してよい。
<9>上記<3>に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記有機樹脂被覆層が着色顔料を有してよい。
<10>上記<1>から<9>のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記凹部の平均深さが0.1μm以上2.0μm未満であってよい。
<11>上記<10>に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記亜鉛系めっき層が亜鉛系電気めっき層であってよい。
<12>上記<1>から<11>のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記酸化物層が、亜鉛水酸化物及び亜鉛酸化物からなる群より選択される何れか1種以上を含んでよい。
<13>上記<1>から<12>のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記酸化物層の平均厚みが0.05μm以上3.0μm未満であってよい。
<14>上記<1>から<13>のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記凹部は表面粗さRaA’が5nm超500nm以下である領域を含み、前記平坦部は表面粗さRaB’が500nm超5000nm以下である領域を含んでよい。
<15>上記<1>から<14>のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記凹部の長さ方向に沿った平均長さが1cm以上であってよい。
<16>上記<1>から<15>のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記凹部は、前記凹部の長さ方向に直交する方向に沿った任意の1cm幅の範囲に、平均して3本/cm以上80本/cm以下の頻度で存在してよい。
<17>上記<1>から<16>のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記亜鉛系めっき層の平均付着量は、5g/m2以上40g/m2以下であってよい。
<18>上記<1>から<17>のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記酸化物層が第二成分としてFe、Ni、及びCoからなる群より選択される何れか1種以上の添加元素を含有してよい。
<19>上記<1>から<18>のいずれか1項に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記亜鉛系めっき層は、Fe、Ni、及びCoからなる群より選択される何れか1種以上の添加元素を、これらの添加元素の合計で5質量%以上20質量%以下含有し、前記亜鉛系めっき層の残部はZn及び不純物であってよい。
<20>上記<3>に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記有機樹脂被覆層が黒色顔料を含有してよい。
<21>上記<20>に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記有機樹脂被覆層が2層以上であり、最下層以外のいずれか1以上の層に前記黒色顔料が含有されてよい。
<22>上記<21>に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記有機樹脂被覆層が更にSi、P、及びZrから選択される何れか1種以上の添加元素を含有してよい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、安価な鋼材を使用した場合であっても、良好な耐食性を備え、良好な黒色度及びヘアライン外観を有し、かつ、メタリック感及び加工密着性に優れた、亜鉛系めっき鋼板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板の構造の一例を模式的に示した説明図であって、板厚方向に沿った断面図である。
【
図1B】本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板の構造の一例を模式的に示した説明図であって、板厚方向に沿った断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき層の一例を説明するための説明図であって、板厚方向に沿った要部拡大断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る亜鉛系電気めっき層の一例を説明するためのグラフである。
【
図4】本発明の一実施形態に係る亜鉛系電気めっき層の一例を説明するためのグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態に係る亜鉛系電気めっき層の一例を説明するためのグラフである。
【
図6】本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板の構造の他の一例を説明するための説明図であって、板厚方向に沿った要部拡大断面図である。
【
図7A】本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板の構造の他の一例を模式的に示した説明図であって、板厚方向に沿った断面図である。
【
図7B】本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板の構造の他の一例を模式的に示した説明図であって、板厚方向に沿った断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る亜鉛系電気めっき鋼板が有する、酸化物層が形成された亜鉛系電気めっき層の表面の一例を示す模式図である。
【
図9A】粗部及び平滑部間の境界をなす仮想線を説明するための断面図であって、
図2に示した形態の場合を示す。
【
図9B】粗部及び平滑部間の境界をなす仮想線を説明するための断面図であって、
図6に示した形態の場合を示す。
【
図10】本発明の変形例に係る亜鉛系めっき鋼板の構造の一例を模式的に示した説明図であって、板厚方向に沿った断面図である。
【
図11】本発明の変形例に係る亜鉛系めっき鋼板の構造の一例を模式的に示した説明図であって、板厚方向に沿った断面図である。
【
図12】本発明の変形例に係る亜鉛系めっき鋼板の表面形状を示すラインプロファイルの例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
化学組成の各元素の含有量の「%」表示は、「質量%」を意味する。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
「~」の前後に記載される数値に「超」または「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値または上限値として含まない範囲を意味する。
「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0020】
本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板は、
鋼板と、
前記鋼板の少なくとも一方の表面に位置しており、所定の方向に延伸する凹部であるヘアラインが形成された亜鉛系めっき層と、
前記亜鉛系めっき層の表面に位置しており、平均厚みが0.05μm以上3.0μm以下である酸化物層と、
を備える。
【0021】
本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板は、上記構成により、安価な鋼材を使用した場合であっても、良好な耐食性を備え、良好な黒色度及びヘアライン外観を有し、かつ、メタリック感及び加工密着性に優れた、亜鉛系めっき鋼板となる。
本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板は、次の知見により、見出された。
【0022】
従来技術では、ヘアラインを形成した亜鉛系めっき層上に設ける有機樹脂被覆層に黒色顔料を添加し、有機樹脂被覆層の膜厚および黒色顔料の濃度を調整することで、亜鉛系めっき鋼板に、黒色でヘアライン外観を有し、かつ、メタリック感を付与している。この場合、黒色度とヘアライン外観およびメタリック感の付与とはトレードオフの関係である。黒色度を高くすると有機樹脂被覆層の隠ぺい性が増すため、めっき層表面に形成したヘアラインが見えなくなり、メタリック感も低下する。
【0023】
そこで、本発明者らは、安価な鋼材を使用しつつ所定の耐食性を備える亜鉛系めっき鋼板の、黒色度、ヘアライン外観およびメタリック感を向上させるための方法ついて鋭意検討した。その結果、黒色を呈する0.05μm以上の平均厚さで酸化物層を亜鉛系めっき層の表層に形成すれば、黒色度が向上すると共に、亜鉛系めっき層に形成したヘアラインを隠蔽することなく、ヘアライン外観およびメタリック感を向上させることができることを知見した。
ただし、酸化物層を3μm以下の平均厚さとすると、酸化物層に亀裂が抑制され、亜鉛系めっき層と有機樹脂被覆層との加工密着性が向上することも知見した。
【0024】
以上の知見から、本発明の実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板は、上記構成により、安価な鋼材を使用した場合であっても、良好な耐食性を備え、良好な黒色度及びヘアライン外観を有し、かつ、メタリック感及び加工密着性に優れた、亜鉛系めっき鋼板となることが見出された。
【0025】
また、さらに、本発明者らは、メタリック感を向上させるための方法について鋭意検討し、亜鉛系めっき層の表層に形成する酸化物層における酸化物の粒子径を制御することができれば、めっき層の上層を樹脂被覆した際であっても、黒色でメタリック感を向上させることが可能であると考えた。本発明者らは、かかる着想のもと更なる検討を行った結果、次の知見を得た。
酸化物層表面で起こる乱反射を抑制するために、酸化物層を形成する前にめっき層の結晶粒子の凹凸を減らした平滑部を設けることで乱反射を抑制可能であるとの知見を得るに至った。一方、めっき層の表面においてめっき層の結晶粒子の凹凸が残存している部分は粗部となり、その表面に形成される酸化物の粒子径も大きくなる。この粒径が大きな酸化物粒子の存在により、加工密着性が向上する。それにより樹脂被覆層との加工密着性を得ることが出来る。
そこで、かかる粗部及び平滑部の割合を適切に調整することで、メタリック感及び加工密着性を両立できるとの知見を得ることができた。また、酸化物層の厚みが薄い場合はめっき層の表面粗度の影響を受けることを確認した。
【0026】
本発明者らは、上記のような各種知見のもと、粗部及び平滑部の割合について鋭意検討を行い、酸化物層の上層に有機樹脂被覆層が存在した場合であっても、黒色度とメタリック感と、有機樹脂被覆層及び亜鉛系めっき層間の加工密着性と、ヘアライン外観を両立させるための好適な条件に想到した。
【0027】
かかる知見から、本発明の実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板において、
前記酸化物層は、粗部(A)と平滑部(B)とからなり、
前記粗部(A)は、表面粗さRaAが500nm超5000nm以下である領域を含み、
前記平滑部(B)は、表面粗さRaBが5nm超500nm以下である領域を含み、
前記粗部(A)と前記平滑部(B)との境界を、前記所定の方向に直交するヘアライン直交方向でかつ板厚方向の断面において、前記ヘアライン直交方向に沿った観察幅1cmの範囲内における前記酸化物層の最高点H1から最低点H0を差し引いた最大高さRyの1/3の高さでかつ前記ヘアライン直交方向に平行をなす仮想直線上にあるとした場合、前記粗部(A)と前記平滑部(B)との境界が規定された前記酸化物層を平面視し、互いに同一面積単位で、前記粗部(A)の面積をSAとし、前記平滑部(B)の面積をSBとしたときに、面積比SB/SAが、0.6~10.0の範囲内であり、
前記粗部(A)と当該粗部(A)に隣り合う前記平滑部(B)との間の平均高低差は、0.3μm~5.0μmである、ことが好ましい。
【0028】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について、さらに詳細に説明する。
【0029】
(亜鉛系めっき鋼板の全体構成について)
以下では、まず、
図1A及び
図1Bを参照しながら、本発明の一実施形態に係る亜鉛系電気めっき鋼板の全体構成について詳細に説明する。
図1A及び
図1Bは、本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板の構造の一例を模式的に示した説明図である。
【0030】
本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1は、
図1Aに模式的に示したように、基材である鋼板11と、鋼板11の一方の表面に位置する亜鉛系めっき層13と、亜鉛系めっき層13の表面に位置する酸化物層14とを少なくとも有している。
また、
図1Bに示したように、本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1は、亜鉛系めっき層13の表面側に、透光性を有する有機樹脂被覆層15を更に有していることが好ましい。特に、有機樹脂被覆層15を有すると、耐指紋性、加工性、及び、耐食性が確保できる観点で好ましい。
【0031】
<基材について>
本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板の基材である鋼板11は、特に限定されるものではなく、亜鉛系めっき鋼板に求められる機械的強度(例えば、引張強度等)等に応じて、公知の各種の鋼材(軟鋼、普通鋼、高張力鋼など)を適宜利用することが可能である。
【0032】
<亜鉛系めっき層について>
鋼板11の少なくとも一方の表面には、亜鉛系めっき層13が形成されている。
亜鉛系めっき層13は、
図1Aに模式的に示したように、所定の方向(
図1Aの場合、紙面垂直方向)に延伸するヘアラインを形成する凹部101と、非ヘアライン部103と、を有している。
亜鉛系めっき層13において、ヘアラインを形成する凹部101内に、以下で詳述するような粗部が形成され、かつ、非ヘアライン部103内に、以下で詳述するような平滑部が形成されてもよい。または、亜鉛系めっき層13において、ヘアラインを形成する凹部101内に、以下で詳述するような、酸化物層14の平滑部が形成され、かつ、非ヘアライン部103に、以下で詳述するような、酸化物層14の粗部が形成されてもよい。何れの場合においても、ヘアラインの延伸方向に沿った平均長さは、1cm以上であることが好ましい。
【0033】
ヘアラインの深さ(亜鉛系めっき層13の表面に酸化物層14を形成した後のヘアライン深さ)としては、0.2μm以上2.5μm以下の範囲内であることが例示される。また、ヘアラインの延伸方向に直交する断面におけるヘアラインの断面形状は、主にV字形状であるが、U字形状を含んでもよい。
【0034】
以下の説明では、「ヘアラインが延伸している方向」のことを、「ヘアライン方向」と略記し、「ヘアラインの延伸方向に対して直交する方向」のことを、「ヘアライン直交方向」と略記する。また、上記の粗部及び平滑部については、以下で改めて詳細に説明する。
【0035】
[亜鉛系めっき層の種別及び組成について]
亜鉛系めっき層13としては、例えば、亜鉛系電気めっき層(電気亜鉛めっき層、電気亜鉛合金めっき層)、亜鉛系溶融めっき層(溶融亜鉛めっき層、溶融亜鉛合金めっき層を使用する。なお、以下、亜鉛系電気めっき層および亜鉛系溶融めっき層は、符号13を付して説明する場合がある。
【0036】
まず、亜鉛系めっき層13のめっき金属に関して、亜鉛系めっき以外のめっきでは、犠牲防食性に劣るために、使用にあたって切断端面が不可避的に露出する用途には適さない。また、めっき層中の亜鉛濃度が低くなり過ぎると犠牲防食能を喪失するため、亜鉛合金めっきは、めっき層の全質量に対して、亜鉛を35質量%以上含有することが好ましい。
【0037】
具体的には、亜鉛系めっき層13におけるZn含有量は、めっき層の全質量に対して、好ましくは前述のように35質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは80質量%以上である。一方、亜鉛系めっき層におけるZn含有量の上限は100質量%である。
【0038】
また、めっき方法としては、電気めっき法、溶融めっき法や、溶射法、蒸着めっき法などが存在する。しかしながら、溶射法では、めっき層内部の空隙により外観の均一性を担保できず、不適であることがある。また、蒸着法は、成膜速度が遅いために生産性に乏しいため、不適であることがある。従って、本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1では、鋼板表面に亜鉛系めっきを施すために、電気めっき法または溶融めっき法を利用することが好適である。
【0039】
ここで、電気亜鉛合金めっき層は、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、P、Sn、Mn、Mo、V、W、Zrからなる元素群から選択される少なくともいずれかの添加元素と、Znと、を含むことが好ましい。
特に、電気亜鉛合金めっき層は、Fe、Ni、及び、Coからなる元素群から選択される少なくとも何れかの添加元素を、合計で5質量%以上20質量%以下含有することが好ましい。つまり、亜鉛系電気めっき層は、Fe、Ni、およびCoからなる群より選択されるいずれか1つ以上の添加元素を合計で5質量%~20質量%と、Zn及び不純物からなる残部と、を含有することが好ましい。電気亜鉛合金めっき層が、Fe、Ni、Coの少なくとも何れかの添加元素を上記の合計含有量の範囲内で含有することで、より優れた耐食性(耐白錆性/バリア性)を実現することが可能となる。
【0040】
また、電気亜鉛めっき層及び電気亜鉛合金めっき層は、残部として不純物を含有していてもよい。ここで、不純物とは、亜鉛系電気めっき層の成分として意識的に添加したものではなく、原料中に混入しているか、或いは、製造工程において混入するものであり、Al、Mg、Si、Ti、B、S、N、C、Nb、Pb、Cd、Ca、Pb、Y、La、Ce、Sr、Sb、O、F、Cl、Zr、Ag、W、H等を挙げることができる。また、電気亜鉛めっきを実施する際には、同一の製造設備で製造される電気めっき鋼板の品種にもよるが、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、P、Sn、Mn、Mo、V、W、Zr等が不純物として混入する場合がある。ただし、不純物が、全めっきの質量に対して合計で1質量%程度存在しても、めっきによって得られる効果は損なわれることはない。
なお、意図的に添加したFe、Ni、Coと、不純物として混入したFe、Ni、Coとは、亜鉛系電気めっき層13中の濃度により判別できる。すなわち、例えば、意図的に添加した場合におけるFe、Ni、Coの合計含有量の下限値が5質量%であるため、合計含有量が5質量%未満であれば不純物として判別できる。
【0041】
上記のような亜鉛系電気めっき層の組成については、例えば以下のような方法で分析することが可能である。すなわち、板厚方向に沿った断面方向から電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)で分析し、めっき層の平均組成を求める。この時、めっき層表面に形成された酸化物層は除外する。酸化物層か否かは酸素濃度により判断する。酸素濃度が20質量%以上であれば、酸化物層と判断する。
【0042】
[亜鉛系電気めっき層の平均付着量について]
亜鉛系電気めっき層13の平均付着量は、5g/m2以上40g/m2以下であることが好ましい。亜鉛系電気めっき層13の平均付着量が5g/m2未満の場合、ヘアラインの付与時に、地鉄(すなわち、鋼板11)が露出してしまう可能性がある。一方、亜鉛系電気めっき層13の平均付着量が40g/m2を超える場合には、鋼板11に研削又は圧延で形成したヘアラインが、亜鉛系電気めっき層13により目立ち難くなる可能性があるため、好ましくない。亜鉛系電気めっき層13の平均付着量の下限値は、より好ましくは7g/m2であり、更に好ましくは10g/m2である。また、亜鉛系電気めっき層13の平均付着量の上限値は、より好ましくは35g/m2以下であり、更に好ましくは30g/m2である。
【0043】
亜鉛系溶融めっき層としては、「溶融亜鉛めっき層」または「溶融亜鉛合金めっき層」がある。
溶融亜鉛めっき層は、例えば、亜鉛と、残部が合計で5質量%未満のAl、Sb、Pbなどの元素で構成される。
溶融亜鉛合金めっき層は、例えば、亜鉛と、残部を合計1質量%以上の合金元素で構成される。合金元素群としては、Fe、Al、Mg、Si等から選択される少なくともいずれかの元素が選択される。特に、溶融亜鉛合金めっき層は、Al、およびMgからなる群より選択される何れか1つ以上を合計で1質量%以上60質量%以下含有することが好ましい。つまり、亜鉛系溶融めっき層は、Al、およびMgからなる群より選択される何れか1つ以上の添加元素を合計で1質量%~60質量%と、Zn及び不純物からなる残部と、を含有することが好ましい。溶融亜鉛合金めっき層が、上記の合計含有量の範囲内で含有することで、より優れた耐食性(耐白錆性/バリア性)を実現することが可能となる。
【0044】
また、溶融亜鉛めっき層及び溶融亜鉛合金めっき層は、残部として不純物を含有していてもよい。ここで、不純物とは、亜鉛系溶融めっき成分として意識的に添加したものではなく、原料中に混入しているか、或いは、製造工程において混入するものであり、Al、Mg、Si、Ni、Ti、Pb、Sb等を挙げることができる。ただし、不純物が、全めっきの質量に対して合計で1質量%程度存在しても、めっきによって得られる効果は損なわれることはない。
なお、意図的に添加した合金元素と、不純物として混入した元素とは、亜鉛系溶融めっき層13中の濃度により判別できる。すなわち、例えば、意図的に添加した場合におけるAl、Mgの合計含有量の下限値が1質量%であるため、合計含有量が1質量%未満であれば不純物として判別できる。
【0045】
上記のような亜鉛系溶融めっき層の組成については、例えば、上述した亜鉛系電気めっき層の組成の分析方法と同様の方法で分析することが可能である。
【0046】
[亜鉛系溶融めっき層13の平均付着量について]
亜鉛系溶融めっき層13の平均付着量は、40g/m2超150g/m2以下であることが好ましい。亜鉛系溶融めっき層13の平均付着量が40g/m2以下の場合、溶融めっき後の付着量制御のためのガスワイピング時のガス圧力を大きくする必要があり、均一なめっき付着量が得られない場合がある。一方、亜鉛系溶融めっき層13の平均付着量が150g/m2を超える場合には、通板速度を下げる必要があり、生産性が低下するため、好ましくない。
亜鉛系溶融めっき層13の平均付着量の下限値は、より好ましくは45g/m2以上であり、更に好ましくは50g/m2以上である。また、亜鉛系溶融めっき層13の平均付着量の上限値は、より好ましくは120g/m2以下であり、更に好ましくは90g/m2以下である。
【0047】
<酸化物層について>
ヘアラインを付与された亜鉛系めっき層13の表面は、
図1Aに模式的に示したように、酸化物層14で覆われている。つまり、酸化物層14は亜鉛系めっき層13の表面性状に沿って設けられて、酸化物層14にもヘアラインが付与されている。亜鉛系めっき鋼板は、このような酸化物層14を有することにより高い黒色度を有する。本願において、酸化物層14は、少なくとも凹部以外の亜鉛系めっき層13の表面に位置する。
【0048】
酸化物層14の平均厚みは、0.05μm以上3.0μm以下である。酸化物層14の平均厚みが0.05μm未満となる場合、十分な黒色度が得られず、ヘアラインおよびメタリック感が低下する。一方、酸化物層14の平均厚みが3.0μm超の場合は加工により酸化物層14に亀裂が生じ、加工密着性が低下する。
酸化物層14の平均厚みの下限値は、0.07μmであることがより好ましく、1.0μmであることが更に好ましい。酸化物層14の平均厚みの上限値は2.7μmであることが好ましく、更に好ましくは2.5μmである。
【0049】
酸化物層の平均厚みは、次の通り測定する。
亜鉛系めっき鋼板から、板厚方向に沿って切断した試料を採取する。そして、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を搭載した透過型電子顕微鏡(TEM-EDS)により、めっき層及び酸化物層の断面(板厚方向に沿った断面)を観察し、酸素元素をマッピングする。次に、表面からめっき層方向に存在する酸素濃度が20質量%以上の領域を酸化物層として定義し、酸化物層の厚みを複数個所測定する。そして、複数個所測定した酸化物層の厚みの平均値を算出する。
【0050】
酸化物層14は、例えば、Znを主体とする酸化物または水酸化物で構成される。ただし、Zn以外の合金元素に起因する酸化物又は水酸化物が含まれていてもよい。
具体的な、Znを主体とする酸化物または水酸化物としては、例えば、ZnO、ZnO1-×、Zn(OH)2等が例示される。
酸化物層14の形成方法としては、酸浸漬処理、酸化Zn処理、等の周知の方法が例示される。
【0051】
[有機樹脂被覆層について]
ヘアラインを付与された酸化物層14の表面には、
図1Bに模式的に示したように、透光性を有する有機樹脂被覆層15を備えることが好ましい。
ここで、有機樹脂被覆層15が透光性(透過性)を有するとは、表面に形成した有機樹脂被覆層15を通して、酸化物層14が目視で観察できることを意味する。なお、本明細書において、「透光性」及び「透過性」は同様の意味で用いられる。
【0052】
有機樹脂被覆層15の形成に用いられる樹脂は、十分な透明性、耐薬品性、耐食性、加工性、耐疵付性などを備えるものが好ましい。このような樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、メラミンアルキッド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等が利用可能である。
【0053】
有機樹脂被覆層15に所望の性能を付加するために、透明度及び外観を損なわない範囲、かつ、本発明で規定される範囲を逸脱しない範囲で、種々の添加剤を有機樹脂被覆層15に含有させてもよい。有機樹脂被覆層15に付加する性能としては、例えば、耐食性、摺動性、耐疵付き性、導電性、色調などが挙げられる。例えば耐食性であれば、防錆剤やインヒビターなどを含有させてもよく、摺動性や耐疵付き性であれば、ワックスやビーズなどを含有させてもよく、導電性であれば、導電剤などを含有させてもよく、色調であれば、顔料や染料などの公知の着色剤を含有させてもよい。
【0054】
なお、本実施形態に係る有機樹脂被覆層15に対して、顔料や染料などの公知の着色剤を含有させる場合、ヘアラインが視認できる程度に着色剤を含有させることが好ましい。
着色剤としては、べんがら、アルミ、マイカ、カーボンブラック、酸化チタン、コバルトブルー等が例示できる。着色剤の含有量は、有機樹脂被覆層15に対して1~10質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。
【0055】
[有機樹脂被覆層の厚みについて]
有機樹脂被覆層15の平均厚みは、10μm以下であることが好ましい。有機樹脂被覆層15の平均厚みが10μmを超えると、光が有機樹脂被覆層15内を通る距離が長くなることによって反射光が減少し、光沢度が低下する可能性が高くなる。また、加工に伴う樹脂の変形によって、亜鉛系めっき層13の表面のテクスチャと、有機樹脂被覆層15の表面の形状とのずれが、発生しやすくなる。以上の理由により、有機樹脂被覆層15の平均厚みは、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。
【0056】
一方、耐食性の観点から、有機樹脂被覆層15の断面から見て最も薄い部分の厚み(すなわち、有機樹脂被覆層15の厚みの最小値)が、0.1μm以上であり、かつ、有機樹脂被覆層15の平均厚みが、1.0μm以上であることが好ましい。ここで、「最も薄い部分」とは、ヘアラインに対して直交する方向に任意の位置で5mmの長さを切り出して断面試料を作成し、100μm間隔で20点測定した膜厚の最小値を意味し、「平均厚み」とは、20点の平均を意味する。有機樹脂被覆層15の最も薄い部分の厚みが0.5μm以上でかつ、有機樹脂被覆層15の平均厚みが3.0μm以上であることがより好ましい。
【0057】
以上、本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1の全体構成について、詳細に説明した。なお、
図1A及び
図1Bでは、鋼板11の一方の表面に亜鉛系めっき層13及び酸化物層14、有機樹脂被覆層15が形成される場合について図示しているが、鋼板11の互いに表裏をなす二つの表面上に亜鉛系めっき層13及び有機樹脂被覆層15が形成されてもよい。
【0058】
(亜鉛系電気めっき層13および酸化物層14の表面形状について)
次に、
図2から
図6を参照しながら、本実施形態に係る亜鉛系めっき層13および酸化物層14の表面形状について、詳細に説明する。
図2は、本実施形態に係る亜鉛系めっき層および酸化物層一例を説明するための説明図である。
図3から
図5は、本実施形態に係る亜鉛系めっき層および酸化物層の一例を説明するためのグラフである。
図6は、本実施形態に係る亜鉛系めっき層および酸化物層14の他の一例を説明するための説明図である。
【0059】
亜鉛系めっき層13は、先だって言及したように、表層部分に、ヘアラインを形成する凹部101と、非ヘアライン部103と、を有している。そして、酸化物層14にも、亜鉛系めっき層13の表面性状に沿って、ヘアラインを形成する凹部101と、非ヘアライン部103と、を有している。つまり、酸化物層14には、亜鉛系めっき層13のヘアラインに対応したヘアラインを有している。
また、ヘアラインとは異なるミクロ的な酸化物層14の表面形状に着目すると、酸化物層14は、表面粗さRaAが500nm超5000nm以下である領域を含む粗部111と、表面粗さRaBが5nm超500nm以下である領域を含む平滑部113と、を有している。
【0060】
酸化物層14では、上記のような粗部111がヘアライン内に形成されていてもよいし、上記のような平滑部113がヘアラインを内に形成されていてもよい。すなわち、上記のような粗部111が、ヘアラインを形成する凹部101内に形成され、かつ、上記のような平滑部113が非ヘアライン部103内に形成されている態様を有していてもよい。又は、上記のような平滑部113が、ヘアラインを形成する凹部101内に形成され、かつ、上記のような粗部111が非ヘアライン部103内に形成されている態様を有していてもよい。
【0061】
ここで、酸化物層14における粗部と平滑部の面積比については、実際の表面状態を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)などで観察して各々の面積比を測定することによって求めることも可能であるが、後述するようにレーザー顕微鏡により粗度プロファイルを測定し、それに基づく仮想直線による境界線により粗部相当部と平滑部相当部を設定し、その面積比を用いることした。
酸化物層14における粗部111及び平滑部113間の境界線については、以下のとおりに定義した。
まず、
図2及び
図9Aに示すように、酸化物層14において、粗部111がヘアラインを形成する凹部101内に形成され、かつ、平滑部113が主に非ヘアライン部103内に形成される場合に着目する。この場合、高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるレーザー顕微鏡(すなわち、高さ方向及び幅方向の表示分解能が1nmよりも優れたレーザー顕微鏡)を用いて、倍率500倍で平面視1cm×1cmの範囲における酸化物層14の表面高さを測定する。レーザー顕微鏡の観察視野が1cmに満たない場合は、複数視野を観察し、これらを連結して表面高さを測定しても良い。
【0062】
次に、ヘアライン方向に沿って、100μm間隔で、ヘアライン直交方向でかつ板厚方向の断面(
図9A)の表面高さをプロットし、その断面内における高さの最低点(H
0)及び最高点(H
1)をそれぞれ特定する。「平滑部113」は、最低点(H
0)からの高さが(H
1-H
0)×1/3以上である点の集合で規定される領域とした。一方、「粗部111」は、最低点(H
0)からの高さが(H
1-H
0)×1/3未満である点の集合で規定される領域とした。すなわち、粗部111と平滑部113との間の境界は、ヘアライン直交方向でかつ板厚方向の断面(
図9A)のそれぞれにおいて、ヘアライン直交方向に沿った観察幅1cmの範囲内における酸化物層14の最高点H
1から最低点H
0を差し引いた最大高さRyの1/3の高さでかつヘアライン直交方向に平行をなす仮想直線BL上に存在する。
【0063】
粗部111は、酸化物層14の形成後に、研削や圧延等の加工の影響を受けていない部分に相当する。そのため、酸化物層14の表面を顕微鏡観察すると、酸化物層14の粗部111では、高さを有する酸化物粒子が確認できる。
【0064】
酸化物層14の酸化物粒子の大きさを示す平均粒径Daveは、以下の方法により求められる。
まず、酸化物層14の表面をSEMで観察する。その際の視野倍率は、1000~10000倍の範囲内とするが、最大倍率である10000倍でも酸化物粒子が確認出来ない場合には、個数がゼロであるとカウントする。続いて、酸化物粒子の輪郭より、酸化物粒子1つあたりの平面積Sを求める。そして、その平面積と同じ平面積を持つ円を想定し、その直径を、下記の式(1)により前記代表径Dとして求める。そして、観察視野内における10個の酸化物粒子を任意に選び、それら10個の酸化物粒子の代表径Dの平均値を得ることで、平均粒径Daveが求められる。
【0065】
D=2×(S/π)0.5・・・式(1)
ここで、Dは、酸化物粒子の平面視における代表径であってその単位はμmである。また、Sは、酸化物粒子の平面視における円形相当面積であってその単位はμm2である。
【0066】
また、酸化物粒子の密度は、以下の方法により求められる。
まず、上述のように酸化物層14の表面をSEMで観察し、粒径閾値以上の酸化物粒子が100μm×100μmの範囲内にいくつあるかをカウントすることで、酸化物粒子の密度が求められる。前記粒径閾値は、下層の亜鉛系めっき層13のめっき種や合金毎に異なり、例えば、下層の亜鉛系めっき層13が、Zn-Ni電気めっき層である場合0.1μm~3.0μmの範囲内の値、Zn-Fe電気めっき層である場合0.3μm~3.6μmの範囲内の値、Zn-Co電気めっき層である場合0.4μm~9.6μmの範囲内の値となることが多い。
なお、SEMの倍率を最大倍率(10000倍)にしても酸化物粒子が確認出来ない場合には、個数がゼロであるとカウントする。
【0067】
亜鉛系めっき層13がZn-Fe電気めっき層である場合、粗部111における酸化物粒子の平均粒径Daveは、0.5μm~2.7μmの範囲内となる。また、粗部111における酸化物粒子の密度は、2×1010個/m2~5×1014個/m2の範囲内となる。実測値の一例を挙げると、亜鉛系めっき層13がZn-Fe電気めっき層である場合、粗部111における酸化物粒子は、平均粒径Daveが2.1μmでかつ密度が5×1013個/m2であった。
【0068】
さらに、亜鉛系めっき層13がZn-Co電気めっき層である場合、粗部111における酸化物粒子の平均粒径Daveは、0.6μm~7.2μmの範囲内となる。また、粗部111における酸化物粒子の密度は、0.5×1010個/m2~3.6×1014個/m2の範囲内となる。実測値の一例を挙げると、亜鉛系めっき層13がZn-Co電気めっき層である場合、粗部111における酸化物粒子は、平均粒径Daveが6.2μmでかつ密度が2.0×1012個/m2であった。
【0069】
さらに、亜鉛系めっき層13がZn-Ni電気めっき層である場合、粗部111における酸化物粒子の平均粒径Daveは、0.3μm~2.4μmの範囲内となる。また、粗部111における酸化物粒子の密度は、5×1010個/m2~8.4×1014個/m2の範囲内となる。実測値の一例を挙げると、亜鉛系めっき層13がZn-Ni電気めっき層である場合、粗部111における酸化物粒子は、平均粒径Daveが0.7μmでかつ密度が4.0×1012個/m2であった。
【0070】
以上を纏めると、亜鉛系めっき層13が、亜鉛系電気めっき層であり、添加元素として、Fe、Ni、及び、Coからなる群より選択される何れか1つ以上の元素を含む場合、粗部111において粒径が0.3μm以上である酸化物粒子の密度は、1010個/m2以上となる。
【0071】
次に、
図6及び
図9Bに示すように、酸化物層14において、平滑部113がヘアラインを形成する凹部101内に形成され、かつ、粗部111が主に非ヘアライン部103内に形成される場合に着目する。この場合、高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるレーザー顕微鏡(すなわち、高さ方向及び幅方向の表示分解能が1nmよりも優れたレーザー顕微鏡)を用いて、倍率500倍で平面視1cm×1cmの範囲における酸化物層14の表面高さを測定する。レーザー顕微鏡の観察視野が1cmに満たない場合は、複数視野を観察し、これらを連結して表面高さを測定しても良い。
【0072】
次に、ヘアライン方向に沿って、100μm間隔で、ヘアライン直交方向でかつ板厚方向の断面の表面高さをプロットし、その断面内における高さの最低点(H0)及び最高点(H1)をそれぞれ特定する。「粗部111」は、最低点(H0)からの高さが(H1-H0)×1/3以上である点の集合で規定される領域となる。一方、「平滑部113」は、最低点(H0)からの高さが(H1-H0)×1/3未満である点の集合で規定される領域となる。そして、これら粗部111及び平滑部113間の境界が、ヘアライン直交方向でかつ板厚方向の各断面において、ヘアライン直交方向に沿った観察幅1cmの範囲内における酸化物層14の最高点H1から最低点H0を差し引いた最大高さRyの1/3の高さでかつ前記ヘアライン直交方向に平行をなす仮想直線BL上に存在する。
【0073】
酸化物層14において、上記のような粗部111は、下層のめっき層の結晶粒子の凹凸が存在している部分に対応し、上記のような平滑部113は、粗部111よりも下層のめっき層の結晶粒子の凹凸が小さい部分に対応する。
酸化物層14では、酸化物粒子の凹凸が存在している粗部111と、粗部111よりも酸化物粒子の凹凸が小さい平滑部113と、を適切な割合で存在させている。これにより、平滑部113ではメタリック感の向上を実現するとともに、粗部111では、酸化物層14の上層に設けられることが好ましい有機樹脂被覆層15との加工密着性を実現する。
【0074】
以下では、酸化物層14の上層に有機樹脂被覆層15が存在した場合であってもメタリック感及び加工密着性を両立させるために、酸化物層14に求められる各種条件について、詳細に説明する。なお、以下では、粗部111がヘアラインを構成する凹部101内に形成され、かつ、平滑部113が非ヘアライン部103内に形成される場合を例に挙げて、説明を行うものとする。
【0075】
[粗部の平均表面高さと平滑部の平均表面高さとの差]
酸化物層14は、上記のように、粗部111及び平滑部113の双方を有していることから、
図2に模式的に示したように、互いに隣り合う粗部111及び平滑部113のそれぞれについて、粗部111の平均表面高さ、及び、平滑部113の平均表面高さを考えることができる。この際、酸化物層14では、粗部111と、かかる粗部111に隣り合う平滑部113と、の平均高低差(粗部111とかかる粗部111に隣り合う平滑部113との平均表面高さの差)は0.3μm~5.0μmの範囲となっている。すなわち、酸化物層14では、ヘアラインを形成する凹部101の略全てが粗部111で、非ヘアライン部103の略全てが平滑部113である場合、これら凹部101及び非ヘアライン部103間の平均高低差も、0.3μm~5.0μmの範囲となる。
【0076】
例えば、
図2に示した例において、ヘアラインを形成する凹部101内に形成された粗部A
2と、非ヘアライン部103内に形成された平滑部B
3とは、互いに隣り合っており、粗部A
2及び平滑部B
3の平均高低差を、公知の測定方法で特定することができる。この際に、平滑部B
3の平均表面高さと、粗部A
2の平均表面高さとの高低差(
図2におけるΔh)は、0.3μm~5.0μmの範囲内となっている。また、同様の関係は、粗部A
2と平滑部B
2との間や、粗部A
1と平滑部B
2との間や、粗部A
1と平滑部B
1との間にも成立している。
【0077】
互いに隣り合う平滑部113と粗部111の平均高低差が0.3μm未満である場合には、ヘアラインが目立たなくなり、亜鉛系めっき層13および酸化物層14にヘアライン加工をしたことが無駄になる。一方、互いに隣り合う平滑部113と粗部111の平均高低差が5.0μmを超える場合には、ヘアラインが粗くなりすぎて美麗なヘアラインとならず、ヘアラインとしての意匠性が損なわれてしまう。互いに隣り合う平滑部113と粗部111の平均高低差の下限値は、好ましくは0.8μmであり、より好ましくは、1.0μmである。また、互いに隣り合う平滑部113と粗部111の平均高低差の上限値は、好ましくは2.6μmであり、より好ましくは2.2μmである。
【0078】
なお、粗部111と平滑部113の平均高低差は、例えば、レーザー顕微鏡により酸化物層14の表面を測定することで、測定することができる。この際、酸化物層14の複数の箇所のそれぞれにおいて、ある粗部111の平均表面高さh1と、この粗部111に隣合う平滑部113の平均表面高さh2と、の差分△hを求める。そして、粗部111及び平滑部113の組み合わせの差分△hを20組以上求め、その平均値を「粗部111と平滑部113の平均高低差」とする。
ここで、粗部111の平均表面高さh1は、粗部111における平滑部113との境界間での最大高さと最小高さとの平均値とする。同様に、平滑部113の平均表面高さh2は、平滑部113における粗部111との境界間での最大高さと最小高さとの平均値とする。
【0079】
[粗部の面積と平滑部の面積の面積比]
粗部111と平滑部113との境界が規定された酸化物層を平面視(板厚方向から観察)した場合、酸化物層14において、粗部111の面積(粗部111に該当する領域の合計平面積)をS
Aとし、平滑部113の面積(平滑部113に該当する領域の合計平面積)をS
Bとしたときに、互いに同一面積単位における面積比S
B/S
Aが、0.6以上10.0以下の範囲内となっている。この際、例えば
図2に示した範囲内においては、粗部A
1の平面積と粗部A
2の面積の合計が、
図2に示した範囲内での粗部111の面積S
Aとなり、平滑部B
1の面積と平滑部B
2の面積と平滑部B
3の面積の合計が、
図2に示した範囲内での平滑部113の面積S
Bとなる。なお、平面積とは、
図8のように、酸化物層14を平面視した場合の面積(具体的には、酸化物層14の表面を電子顕微鏡で観察した際の画像として見た場合の面積)である。
【0080】
以下に、上記のような面積比S
B/S
Aが重要である理由について、
図3から
図5を参照しながら、具体的に説明する。
【0081】
図3は、面積比S
B/S
Aの値を2.0に固定した上で、平滑部113の表面粗さRa
B(JIS B 0601(2001)に規定された算術平均粗さRa)を変化させた場合に、市販の光沢度計を用いて、60度光沢(G60)を測定した結果を示したものである。
図3において、横軸が、平滑部113の表面粗さR
Bであり、縦軸が、60度光沢の測定結果である。また、
図3中には、ヘアラインの延伸方向(以下、ヘアライン方向)とヘアラインに直交する方向(以下、ヘアライン直交方向)とのそれぞれにおける測定結果を示している。
【0082】
図3から明らかなように、ヘアライン方向及びヘアライン直交方向の双方の測定結果において、平滑部113の表面粗さRa
Bが大きくなるほど(換言すれば、平滑部113から平滑性が失われていくほど)、60度光沢の値は減少していき、メタリック感が減少していくことがわかる。かかる結果から、平滑部113を設けることで、酸化物層14の表面に到達した光の乱反射を抑制して、光沢度を向上させることが可能であることがわかる。
【0083】
次に、
図4は、平滑部113の表面粗さRa
Bを20±5nmに調整して、面積比S
B/S
Aを変化させた場合に、市販の光沢度計を用いて、60度光沢(G60)を測定した結果を示したものである。
図4において、横軸が、面積比S
B/S
Aであり、縦軸が、60度光沢の測定結果である。
【0084】
図4から明らかなように、面積比S
B/S
Aを0.6以上とすることで、平滑部113を設けない場合(面積比S
B/S
A=0である場合)と比較して、ヘアライン方向で約5倍以上の光沢度を実現することが可能となり、ヘアライン直交方向においても約3倍以上の光沢度を実現することが可能となる。
【0085】
一方、
図4の測定に用いたものと同様の試料の表面に有機樹脂被覆層15を設け、その加工密着性を評価した結果が、
図5である。なお、加工密着性の評価は、以下の実施例で説明する方法と同様に行い、優れた加工密着性を意味する評点5から、加工密着性に劣ることを意味する評点1まで、5段階で評価した。
図5から明らかなように、面積比S
B/S
Aが10以下である試料では、加工密着性は評点5と評価されたのに対し、面積比S
B/S
Aが10を超えた試料では、加工密着性が低下した。
【0086】
また、平滑部113の表面粗さRa
Bを、5nm~500nmの範囲で変化させながら、
図4及び
図5と同様の測定を実施した。その場合においても、面積比S
B/S
Aを0.6以上とすることで、平滑部113を設けない場合(面積比S
B/S
A=0である場合)よりも飛躍的に優れた光沢度を実現することができ、面積比S
B/S
Aが10を超えると、加工密着性が低下した。
【0087】
以上の結果から、酸化物層14において、面積比SB/SAを0.6~10.0の範囲内とすることが好ましいことが、明らかとなった。酸化物層14において、面積比SB/SAの下限値は、好ましくは1.5であり、より好ましくは2.5である。また、面積比SB/SAの上限値は、好ましくは8.0であり、より好ましくは6.5である。
【0088】
ここで、粗部111の面積(粗部111に該当する領域の合計平面積)SA、及び、平滑部113の面積(平滑部113に該当する領域の合計平面積)SBは、高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるレーザー顕微鏡により測定した高さデータを2値化し、得られた2値化データに対して公知の画像処理を施すことで、測定可能である。
【0089】
なお、以上説明したような、粗部111と平滑部113との平均高低差、及び、粗部111と平滑部113との面積比S
B/S
Aについての条件は、次の通りである。すなわち、
図2に示したような、粗部111がヘアラインを構成する凹部101内に形成され、かつ、平滑部113が非ヘアライン部103内に形成される場合だけでなく、
図6に模式的に示したような、平滑部113がヘアラインを構成する凹部101内に形成され、かつ、粗部111が非ヘアライン部103内に形成される場合についても同様に成立することを確認している。
ただし、
図6中、h1は、平滑部113の平均表面高さであり、h2は、粗部111の平均表面高さを示す。
【0090】
[粗部における表面粗さについて]
酸化物層14では、粗部111が適切な割合で存在していることで、酸化物層14の上層に有機樹脂被覆層15が設けられた際の加工密着性を担保している。ここで、粗部111によって加工密着性を担保するためには、粗部111が、適切な表面粗さを有する適切な広さの領域を有することで、有機樹脂被覆層15との接触面積が増加することが好ましい。
【0091】
そのために、酸化物層14では、粗部111を、高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるレーザー顕微鏡を用いて測定したときに、表面粗さRaAが500nm超5000nm以下である領域を考え、かかる領域の合計面積が、粗部111の面積SAに対して、85%以上となることが好ましい。
【0092】
粗部111が表面粗さRaA500nm超5000nm以下となる領域を有することで、優れた加工密着性を実現することが可能な、有機樹脂被覆層15との接触状態をより確実に実現することができる。このような領域の合計面積が、粗部111の面積SAに対して、85%未満となる場合には、本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1において、優れた加工密着性を実現することが困難となる場合がある。そのため、本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1では、粗部111の面積SAに対する合計面積の割合を85%以上とすることが好ましい。
【0093】
また、粗部111の面積SAに対する、表面粗さRaAが500nm超5000nm以下となる領域の合計面積の割合は、高ければ高いほど良く、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。また、粗部111の面積SAに対する合計面積の割合の上限値は、特に規定するものではなく、100%となってもよい。
【0094】
[平滑部における表面粗さについて]
また、酸化物層14では、平滑部113が適切な割合で存在していることで、本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1のメタリック感を実現している。ここで、平滑部113によるメタリック感の向上効果を実現するためには、
図4にも例示したように、平滑部113が、適切な表面粗さを有する適切な広さの領域を有することが好ましい。
【0095】
そのために、酸化物層14では、平滑部113を、高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるレーザー顕微鏡を用いて測定したときに、表面粗さRaBが5nm超500nm以下である領域を考え、かかる領域の合計面積が、平滑部113の面積SBに対して、65%以上となることが好ましい。
【0096】
平滑部113が表面粗さRaB5nm超500nm以下となる領域を有することで、優れた光沢度をより確実に実現することができる。このような領域の合計面積が、平滑部113の面積SBに対して、65%未満となる場合には、本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1において、優れたメタリック感を実現することが困難となる場合がある。そのため、本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1では、平滑部113の面積SBに対する前記合計面積の割合を65%以上とする。
【0097】
また、平滑部113の面積SBに対する前記合計面積の割合は、高ければ高いほど良く、好ましくは70%以上であり、より好ましくは75%以上である。また、平滑部113の面積SBに対する前記合計面積の割合の上限値は、特に規定するものではなく、100%となってもよい。
【0098】
なお、上記のような合計面積は、高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるレーザー顕微鏡を用いて、平滑部113の表面粗さRaB又は粗部111の表面粗さRaAをヘアラインと同一方向に沿って1μm間隔で測定し、以下の式(2)及び式(3)により求めることができる。ここで、Raの測定長が短すぎると局所的な表面粗さを測定してしまうため、測定長さは50μm以上とする。レーザー顕微鏡の観察視野が50μmに満たない場合は、複数視野を観察し、複数の視野を連結することでRaを求めても良い。なお、測定回数は、20回以上とする。
【0099】
粗部合計面積:SA×(RaAが500nm超5000nm以下となった回数/全測定回数)・・・式(2)
平滑部合計面積:SB×(RaBが5nm超500nm以下となった回数/全測定回数)・・・式(3)
【0100】
ここで、「粗部111が、表面粗さRaAが500nm超5000nm以下である領域を含む」とは、次の通り定義される。高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるレーザー顕微鏡を用いて、粗部111の表面粗さRaAをヘアラインと同一方向に沿って1μm間隔、測定長さ50μm以上で測定する。そして、20回以上測定した平均の、表面粗さRaAが500nm超5000nm以下となる場合、「粗部111が、表面粗さRaAが500nm超5000nm以下である領域を含む」と定義する。
同様に、平滑部113について、20回以上測定した平均の、表面粗さRaBが5nm超500nm以下となる場合、「平滑部113が、表面粗さRaBが5nm超500nm以下である領域を含む」と定義する。
なお、本明細書において、表面粗さRaA及びRaBは、JIS B 0601(2001)に規定された算術平均粗さRaを意味する。
【0101】
[ヘアラインの形成頻度について]
また、亜鉛系めっき層13及び酸化物層14において、上記のような粗部111又は平滑部113を含む凹部101(つまり、ヘアライン)は、ヘアライン直交方向に沿った任意の1cm幅の範囲に、3本/cm以上80本/cm以下の頻度で存在することが好ましい。ヘアライン直交方向におけるヘアラインの形成頻度を、3本/cm~80本/cmの範囲内とすることで、より優れた意匠性を実現することができる。ヘアライン直交方向におけるヘアラインの形成頻度が3本/cm未満である場合には、ヘアラインの密度が低くなりすぎて、ヘアラインを認識できない可能性が高くなる。一方、ヘアライン直交方向におけるヘアラインの形成頻度が80本/cmを超える場合には、ヘアラインの密度が高くなりすぎて美麗なヘアラインとならず、ヘアラインとしての意匠性が損なわれてしまう可能性がある。
【0102】
ヘアライン直交方向に沿った任意の1cm幅の範囲における凹部101(つまり、ヘアライン)の存在頻度の下限値は、より好ましくは10本/cmであり、更に好ましくは15本/cmである。また、ヘアライン直交方向に沿った任意の1cm幅の範囲における凹部101(つまり、ヘアライン)の存在頻度の上限値は、より好ましくは70本/cmであり、更に好ましくは65本/cmである。
【0103】
なお、かかる凹部101の存在頻度は、酸化物層14の表面を、高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるレーザー顕微鏡で観察し、任意の1mm幅の範囲について、凹部101の個数を数えることで特定することができる。すなわち、酸化物層14の表面について、任意の1mm幅の範囲を20箇所以上測定し、各範囲における凹部101の個数の合計を測定箇所数で除算することで、凹部101の平均頻度を求めることができる。
【0104】
以上、
図2~
図6を参照しながら、酸化物層14の表面形状について、詳細に説明した。
【0105】
(亜鉛系めっき鋼板の他の構成例について)
ここで、
図1A及び
図1Bでは、亜鉛系めっき層13及び酸化物層14のみに凹部101が設けられている場合について図示していた。しかしながら、本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1では、
図7A及び
図7Bに示したように、鋼板11の表面に対しても、所定の方向に延伸するヘアラインを形成する凹部105を設けてもよい。この場合、亜鉛系溶融めっきは自身の厚みで、ヘアラインを形成する凹部を埋めてしまう。そのため、めっきは亜鉛系電気めっきとする。
【0106】
より詳細には、
図7A及び
図7Bに示したように、鋼板11の表面において、亜鉛系めっき層13及び酸化物層14におけるヘアライン(すなわち、凹部101)に対応する位置に、凹部105を設けてもよい。
【0107】
ここで、
図1A及び
図7Aに示したように、亜鉛系めっき層13及び酸化物層14のみに凹部101を設ける場合と、
図1B及び
図7Bに示したように、鋼板11の表面にも凹部105を設ける場合とでは、亜鉛系めっき鋼板1を製造するに際して、ヘアライン加工のタイミングが異なる。かかるヘアライン加工のタイミングの違いについては、以下で改めて詳細に説明する。
【0108】
(亜鉛系めっき鋼板の表面の黒色度について)
本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1の表面の黒色度は、L*値で40以下であることが好ましく、35以下がより好ましい。
ここで、L*値は、CIE1976L*a*b*表色系におけるL*値を意味する。そして、L*値は、反射分光濃度計で測定できる。
L*値の測定は、JIS Z8781-4(2013)に準じて行う。L*値の測定装置には正反射光を含むSCI方式と正反射光を含まないSCE方式がある。いずれも黒色度を表すが、本発明においてはSCI方式で測定した。
【0109】
鋼板11の表面のうち、酸化物層14の表面に形成された凹部101と対応する位置に凹部105が存在するか否かは、公知の方法で確認することが可能である。かかる確認方法として、例えば、亜鉛系めっき鋼板1を断面方向から観察する方法、酸化物層14を表面から撮影した写真と、インヒビターを添加した塩酸で酸化物層14および亜鉛系めっき層13のみを除去した後に表面から撮影した写真と、酸化物層14およびを比較する方法等を挙げることができる。
【0110】
(亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法について)
続いて、以上説明したような本実施形態に係る亜鉛系電気めっき鋼板(亜鉛系電気めっき層13を有するめっき鋼板)の製造方法について、簡単に説明する。
【0111】
<製造方法-その1>
以下では、まず、
図1A及び
図1Bに示したような構造を有する亜鉛系電気めっき鋼板1の製造方法について、簡単に説明する。
かかる場合には、まず、表面粗さの調整された鋼板11に対し、アルカリ溶液による脱脂と塩酸や硫酸等を用いた酸による酸洗とを施す。そして、鋼板11の表面に亜鉛系電気めっき層13を形成する。ここで、鋼板11の表面粗さの調整は、公知の方法を利用することが可能であり、例えば、表面粗さが所望の範囲となるように調整されたロールで鋼板11を圧延して表面粗さを転写する方法、などの方法を用いることができる。
【0112】
亜鉛系電気めっき層13の形成方法としては、既知の電気めっき法を用いることができる。電気めっき浴としては、例えば、硫酸浴、塩化物浴、ジンケート浴、シアン化物浴、ピロリン酸浴、ホウ酸浴、クエン酸浴、その他錯体浴及びこれらの組合せ等を使用できる。また、電気亜鉛合金めっき浴には、Znイオンの他に、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、P、Sn、Mn、Mo、V、W、Zrから選ばれる1つ以上の単イオン又は錯イオンを添加することで、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、P、Sn、Mn、Mo、V、W、Zrを所望量含有する電気亜鉛合金めっき層13を形成することができる。また、めっき浴中のイオンの安定化やめっきの特性を制御するために、上記めっき浴に対して添加剤を加えることが、さらに好ましい。
【0113】
なお、上記電気めっき浴の組成、温度、流速、及び、めっき時の電流密度や通電パターン等は、所望のめっき組成となるように適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。また、厚みの制御は、所望の組成となる電流密度の範囲内で電流値と時間とを調整することにより、行うことができる。
【0114】
以上により得られた亜鉛系電気めっき層13を備えるめっき鋼板に対し、ヘアラインを形成する。ヘアラインを付与する方法については、特に限定されるものではなく、既知の各種の方法を用いることができる。かかる既知の方法としては、例えば、ステンレス鋼材にヘアラインを付与する場合と同様に、研磨ベルトで研磨する方法、砥粒ブラシで研磨する方法、テクスチャを付与したロールで転写する方法、所定の研削機器で研削する方法等を挙げることができる。
【0115】
なお、ヘアラインの深さや頻度は、研磨ベルトや砥粒ブラシの粒度やロールのテクスチャの深さ、及び、圧下力や相対速度や回数を調整することによって、所望の状態に制御することができる。
【0116】
以上のようにしてヘアラインを形成した亜鉛系電気めっき層13の表面には、めっきの結晶粒子による凹凸が存在している。そこで、本実施形態に係る亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法では、ヘアラインの形成後に、亜鉛系電気めっき層13の表面形状が、先だって説明したような酸化物層14の各種の条件を満足する表面形状となるまで、公知の方法により亜鉛系電気めっき層13の表面を研削したり、研磨したり、表面粗度を調整したロールで圧延したりする。
【0117】
次に、ヘアラインを付与した亜鉛系電気めっき層13の表面に、酸化物層14を形成する。
【0118】
ここで、亜鉛系電気めっき層13へのヘアライン形成において、上記のような研削処理、研磨処理、又は圧延処理において、めっき層の結晶粒子の凹凸が残存している部分がヘアライン部に対応するように、かかる残存部分の周囲にある非ヘアライン部103を適宜、研削、研磨、又は、圧延の処理をしていく。その結果、
図2に模式的に示したように、処理を行った部分(非ヘアライン部103)はめっき層の結晶粒子の凹凸が抑制された平滑部となる。そして、めっき層の平坦部に酸化物層14を形成すると、平滑部113となる。
一方、処理を受けておらずヘアラインを形成する凹部101が、めっき層の結晶粒子の凹凸が残存している粗部となる。そして、めっき層の粗部に酸化物層14を形成すると、粗部111となる。
【0119】
逆に、上記のような研削処理、研磨処理、又は、圧延処理において、ヘアライン部となる部分のみを選択的に研削、研磨、圧延の処理をした場合には、
図6に模式的に示したような、ヘアラインを形成する凹部101が、めっき層の結晶粒子の凹凸が抑制された平滑部となる。そして、めっき層の平坦部に酸化物層14を形成すると、平滑部113となる。
一方、処理を受けていない非ヘアライン部103が、めっき層の粗部となる。そして、めっき層の粗部に酸化物層14を形成すると、粗部111となる。
【0120】
このような、
図6に示す形態を砥粒ブラシでの研磨により形成する場合について説明する。ヘアライン形成前における亜鉛系電気めっき層13の表面は、平坦であるものの、めっき層の結晶粒子の凹凸で覆われた状態になっている。この状態において、亜鉛系電気めっき層13の表面を砥粒ブラシで研磨することにより、削り取られた部分がヘアライン(凹部101)となる。しかも、このヘアラインでは、研磨によってめっきの結晶粒子の凸部も削られるので、元の状態よりも表面粗度が低くなって平滑になる。すなわち、ヘアラインの形成とヘアラインにおける表面粗度調整とが同時に行われる。
一方、亜鉛系電気めっき層13の表面のうち、砥粒ブラシで削られなかった平坦部分(非ヘアライン部103)は元の通り、めっき層の結晶粒子の凹凸が残った状態になっている。
以上により、
図6に示したように、めっき層の粗部に形成した酸化物層14の粗部111が支配的に存在して加工密着性が担保された非ヘアライン部103と、めっき層の平滑部に形成した酸化物層14の平滑部113が支配的に存在して光沢度の高い凹部101とが併存することになる。
【0121】
酸化物層14の形成方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、硝酸塩とりん酸を混合した酸性水溶液を亜鉛系電気めっき層と接触させる方法が挙げられる。こうして亜鉛系電気めっき層13の表面に酸化物層14が形成される。この際、平滑な亜鉛系電気めっき層13の表面には粒子径が小さな酸化物が析出し、粗い亜鉛系電気めっき層13の表面には粒子径が大きな酸化物が析出する。そのため、酸化物層14に、上記好適な表面性状を付与できる。
【0122】
次に、ヘアラインを付与した酸化物層14の表面に、必要に応じて、有機樹脂被覆層15を被覆する。ここで、有機樹脂被覆層15の形成に使用する塗料は、酸化物層14に塗布した瞬間には酸化物層14の表面形状に追従し、一旦、酸化物層14の表面形状を反映した後のレベリングが遅いものであることが好ましい。すなわち、高いせん断速度では粘度が低く、低いせん断速度では粘度が高い塗料であることが望ましい。具体的には、せん断速度が0.1[1/sec]では10[Pa・s]以上の粘度を有し、せん断速度が1000[1/sec]では0.01[Pa・s]以下のせん断粘度を有することが望ましい。
【0123】
上記のような範囲にせん断粘度を調整するには、例えば水系のエマルジョン樹脂を用いた塗料であれば、水素結合性の粘度調整剤を加えて調整することができる。このような水素結合性の粘度調整剤は、低せん断速度時には水素結合によって互いに拘束しあうため、塗料の粘度を高めることができるが、高せん断速度では水素結合が切断されるため、粘度が低下する。これにより、求める塗装条件に応じたせん断粘度に調整することが可能となる。
【0124】
なお、有機樹脂被覆層15を被覆する方法については、特に限定されるものではなく、既知の方法を用いることができる。例えば、上記のような粘度に調整された塗料を使用し、吹き付け法やロールコーター法やカーテンコーター法やダイコーター法や浸漬引き上げ法で塗布した後に、自然乾燥又は焼付け乾燥されて形成することができる。なお、乾燥温度及び乾燥時間、並びに、焼付け温度及び焼付け時間は、形成する有機樹脂被覆層15が所望の性能を備えるように、適宜決定すればよい。このとき、昇温速度が遅いと、樹脂成分の軟化点から焼付け完了までの時間が長くなってレベリングが進んでしまうため、昇温速度は、速い方が好ましい。
【0125】
<製造方法-その2>
次に、
図7A及び
図7Bに示したような構造を有する亜鉛系電気めっき鋼板(亜鉛系電気めっき層13を有するめっき鋼板)の製造方法について、簡単に説明する。
かかる場合、上記「製造方法-その1」と同様にして表面粗さの調整まで終了した鋼板を用いる。そして、この鋼板に対して、めっき処理を施す前にヘアラインを形成することで、鋼板11が得られる。鋼板にヘアラインを付与する方法については、特に限定されるものではないが、研磨ベルトで研磨する方法、砥粒ブラシで研磨する方法、テクスチャを付与したロールで転写する方法、所定の研削機器で研削する方法等を利用することが好ましい。これにより、鋼板11の表面に、
図7A及び
図7Bに示したような凹部105が形成される。
【0126】
続いて、ヘアラインの形成された鋼板11に対して亜鉛系電気めっき層13を形成する。亜鉛系電気めっき層13の形成方法は、上記「製造方法-その1」と同様に実施することが可能であるため、以下では詳細な説明は省略する。ヘアラインの形成された鋼板11に対して電気めっきを施すことにより、ヘアラインの形成された鋼板11の表面形状を保持したまま、亜鉛系電気めっき層13が形成されることとなる。すなわち、平面視で鋼板11のヘアラインと対応する位置及び形状のヘアラインを持つ亜鉛系電気めっき層13が形成される。
【0127】
以上のようにして形成した亜鉛系電気めっき層13の表面には、上記「製造方法-その1」と同様に、めっき層の結晶粒子が存在している。すなわち、この時点における亜鉛系電気めっき層13の表面は、凹部101及び非ヘアライン部103の双方とも、めっきの結晶粒子の凹凸で覆われた状態になっている。
そこで、本製造方法では、亜鉛系電気めっき層13の形成後に、亜鉛系電気めっき層13の表面形状が先だって説明したような各種の条件を満足する表面形状となるまで、公知の方法により亜鉛系電気めっき層13の表面を研削したり、研磨したり、表面粗度を調整したロールで圧延したりする。これにより、上記「製造方法-その1」と同様に、亜鉛系電気めっき層13の表面に、酸化物層14の粗部111及び平滑部113に対応する粗部及び平滑部が形成される。
【0128】
より具体的に言うと、例えば砥粒ブラシで研磨する場合には、亜鉛系電気めっき層13の表面のうち、主に非ヘアライン部103のみが研磨されていく。その結果、砥粒ブラシで研磨された非ヘアライン部103では結晶粒子の凸部が削られるので、元の状態よりも表面粗度が低くなって平滑になり、平滑部が支配的に存在する。そして、めっき層の平滑部に酸化物層14を形成すると、平滑部113となる。
一方、砥粒ブラシが届きにくい凹部をなす凹部101では、ほぼ元の通り、めっき層の結晶粒子の凹凸が残った状態の粗部になっている。そして、めっき層の粗部に酸化物層14を形成すると、粗部111となる。
以上により、めっき層の粗部に形成した酸化物層14の粗部111が支配的に存在して加工密着性が担保された非ヘアライン部103と、めっき層の平滑部に形成した酸化物層14の平滑部113が支配的に存在して光沢度の高い凹部101とが併存することになる。
【0129】
続いてヘアラインを付与した酸化物層14の表面に、必要に応じて、有機樹脂被覆層15を被覆する。かかる有機樹脂被覆層15の形成は、上記「製造方法-その1」と同様に実施することが可能であるため、以下では詳細な説明は省略する。
【0130】
続いて
図7Bに示すように、ヘアラインを付与した亜鉛系電気めっき層13の表面に、必要に応じて、有機樹脂を被覆する。かかる有機樹脂被覆層15の形成は、上記「製造方法-その1」と同様に実施することが可能であるため、以下では詳細な説明は省略する。
【0131】
以上、本実施形態に係る亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法について説明した。
なお、亜鉛系電気めっき鋼板1としては、
図1Aに示した形態と
図7Aに示した形態とを見比べた場合、
図7Aに示した形態の方が、平面だけでなく深さ方向にも平滑部が形成され、ヘアラインに深みが生じるため、高い光沢感(質感)が得られやすい。同様の理由により、
図1Bに示した形態と
図7Bに示した形態とを見比べた場合も、
図7Bに示した形態の方が高い光沢感(質感)が得られやすい。
【0132】
(亜鉛系溶融めっき鋼板の製造方法について)
続いて、以上説明したような本実施形態に係る亜鉛系溶融めっき鋼板(亜鉛系溶融めっき層13を有するめっき鋼板)の製造方法について、簡単に説明する。
【0133】
<製造方法-その3>
以下では、まず、
図1A及び
図1Bに示したような構造を有する亜鉛系溶融めっき鋼板1の製造方法について、簡単に説明する。
かかる場合には、まず、表面粗さの調整された鋼板11を焼鈍し、鋼板温度を450℃とした状態で溶融めっきの中に浸漬し、引き上げる。めっき付着量は引き揚げ時に窒素ガスでワイピングし調整する。鋼板11とめっき層を合金化する場合は、めっき後に到達温度が500℃となる様に誘導加熱(以下、単にIHという場合がある。)で加熱する。
【0134】
亜鉛系溶融めっき層13の形成方法としては、既知の溶融めっき法を用いることができる。例えば、溶融亜鉛めっき浴の種類としては、Zn以外の元素の合計が5質量%未満のものを用いることができ、例えば、Znおよび2質量%のAlを含有するめっき浴が用いられる。また、亜鉛合金溶融めっき浴の種類としては、合金元素の合計が5質量%以上のものを用いることができ、例えば、55質量%のAlを含有するもの、13質量%のAlと3%のMgを含有するものなどを用いることができる。
【0135】
なお、上記溶融めっき浴の組成、温度、ガスワイピング流速、めっき付着量等は、所望のめっき組成となるように適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0136】
以上により得られた亜鉛系溶融めっき層13を備えるめっき鋼板11に対し、本実施形態に係るヘアラインを形成する。ヘアラインを付与する方法については、特に限定されるものではなく、既知の各種の方法を用いることができる。かかる既知の方法としては、例えば、ステンレス鋼材にヘアラインを付与する場合と同様に、研磨ベルトで研磨する方法、砥粒ブラシで研磨する方法、テクスチャを付与したロールで転写する方法、所定の研削機器で研削する方法等を挙げることができる。
【0137】
なお、ヘアラインの深さや頻度は、研磨ベルトや砥粒ブラシの粒度やロールのテクスチャの深さ、及び、圧下力や相対速度や回数を調整することによって、所望の状態に制御することができる。
【0138】
以上のようにしてヘアラインを形成した亜鉛系溶融めっき層13の表面には、前述の亜鉛系電気めっき層13の様なめっきの結晶粒子による凹凸は存在しない。亜鉛系溶融めっき層13の表面に凹凸を形成する。本実施形態に係る亜鉛系溶融めっき鋼板1の製造方法では、ヘアラインの形成後に、亜鉛系溶融めっき層13の表面形状が先だって説明したような、酸化物層14の表面性状の各種の条件を満足する表面形状となるまで、公知の方法により亜鉛系溶融めっき層13の表面を研削したり、研磨したり、表面粗度を調整したロールで圧延したりする。
【0139】
次に、ヘアラインを付与した亜鉛系溶融めっき層13の表面に、酸化物層14を形成する。
【0140】
ここで、亜鉛系溶融めっき層13へのヘアライン形成において、上記のような研削処理、研磨処理、又は圧延処理において、めっき層の表面に形成した凹凸がヘアライン部に対応するように、適宜、研削、研磨、又は、圧延の処理をしていく。その結果、
図2に模式的に示したように、処理を行っていない部分はめっきの結晶粒子の凹凸が抑制された平滑部となる。そして、めっき層の平坦部に酸化物層14を形成すると、平滑部113となる。
一方、処理を行った凹部101が、めっきの結晶粒子の凹凸が残存している粗部となる。そして、めっき層の粗部に酸化物層14を形成すると、粗部111となる。
【0141】
逆に、上記のような研削処理、研磨処理、又は、圧延処理において、ヘアライン部となる部分のみを選択的に研削、研磨、圧延の処理をした場合には、
図6に模式的に示したような、ヘアラインを形成する凹部101が、めっきの結晶粒子の凹凸が抑制された平滑部となる。そして、めっき層の平坦部に酸化物層14を形成すると、平滑部113となる。
一方、処理を受けていない非ヘアライン部103が、粗部となる。そして、めっき層の粗部に酸化物層14を形成すると、粗部111となる。
【0142】
このような、
図6に示す形態を砥粒ブラシでの研磨により形成する場合について説明する。ヘアライン形成前における亜鉛系溶融めっき層13の表面は、平坦である。めっきの結晶粒子の凹凸で覆われた状態になっている。この状態において、亜鉛系溶融めっき層13の表面を砥粒ブラシで研磨することにより、削り取られた部分がヘアライン(凹部101)となる。しかも、このヘアラインでは、研磨によってめっきに凹凸が形成されるので、元の状態よりも表面粗度が高くなる。すなわち、ヘアラインの形成とヘアラインにおける表面粗度調整とが同時に行われる。一方、亜鉛系溶融めっき層13の表面のうち、砥粒ブラシで削られなかった平坦部分(非ヘアライン部103)は元の通り、めっきが平滑な状態になっている。以上により、
図6に示したように、めっき層の粗部に形成した酸化物層14の粗部111が支配的に存在して加工密着性が担保された非ヘアライン部103と、めっき層の平坦部に形成した酸化物層14の平滑部113が支配的に存在して光沢度の高い凹部101とが併存することになる。
【0143】
酸化物層14の形成方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、硝酸塩とりん酸を混合した酸性水溶液を亜鉛系電気めっき層と接触させる方法が挙げられる。この酸化物層は、下地である亜鉛系溶融めっき層表面の金属粒子径に応じて酸化物粒子を形成する。従い、平滑な亜鉛系溶融めっき層表面には粒子径が小さな酸化物が析出し、粗い亜鉛系溶融めっき層表面には粒子径が大きな酸化物が析出する。そのため、酸化物層14に、上記好適な表面性状を付与できる。
【0144】
次に、ヘアラインを付与した酸化物層14の表面に、必要に応じて、有機樹脂被覆層15を被覆する。有機樹脂被覆層15の形成に使用する塗料は、上述した亜鉛系電気めっき鋼板で使用する塗料と同様である。
【0145】
なお、有機樹脂被覆層を被覆する方法については、特に限定されるものではなく、既知の方法を用いることができる。例えば、上記のような粘度に調整された塗料を使用し、吹き付け法やロールコーター法やカーテンコーター法やダイコーター法や浸漬引き上げ法で塗布した後に、自然乾燥又は焼付け乾燥されて形成することができる。なお、乾燥温度及び乾燥時間、並びに、焼付け温度及び焼付け時間は、形成する有機樹脂被覆層15が所望の性能を備えるように、適宜決定すればよい。このとき、昇温速度が遅いと、樹脂成分の軟化点から焼付け完了までの時間が長くなってレベリングが進んでしまうため、昇温速度は、速い方が好ましい。
【0146】
(変形例)
上記の実施形態では、ヘアラインを付与された亜鉛系めっき層の表面に、酸化物層で覆われている場合を説明した。以下では、酸化物層の表面にヘアラインを付与する場合を、
図10から
図12を参照して説明する。変形例では、酸化物層の一部を除去し、凹部の底部は亜鉛系めっき層に到達しているため、亜鉛系めっき層の金属色と酸化物層の黒色とのコントラストにより、凹部の平均深さが非常に浅くても、ヘアライン外観の視認性に優れる。
【0147】
<1.亜鉛系めっき鋼板の全体構成>
まず、
図10及び
図11に基づいて本実施形態の変形例に係る亜鉛系めっき鋼板1’の全体構成について説明する。亜鉛系めっき鋼板1’は、鋼板11’と、亜鉛系めっき層13’と、酸化物層14’とを備える。酸化物層14’の表面には、線状に形成された凹部101’と、凹部101’以外の領域である平坦部103’とが形成される。凹部101’はヘアライン部に相当し、平坦部103’は非ヘアライン部に相当する。亜鉛系めっき鋼板1’の特性(特に耐食性等)をさらに向上させるために、亜鉛系めっき鋼板1’は、凹部101’及び平坦部103’を覆い、かつ透光性を有する有機樹脂被覆層15’を更に備えることが好ましい。亜鉛系めっき層13’、酸化物層14’、及び有機樹脂被覆層15’は鋼板11’の両面に設けられてもよく、片面のみに設けられてもよい。以下、各構成要素について説明する。
【0148】
<2.鋼板>
亜鉛系めっき鋼板1’の基材である鋼板11’は、特に限定されるものではなく、亜鉛系めっき鋼板1’に求められる機械的強度(例えば、引張強度等)等に応じて、公知の各種の鋼材(軟鋼、普通鋼、高張力鋼など)を鋼板11’として適宜利用することが可能である。
【0149】
<3.亜鉛系めっき層>
亜鉛系めっき層13’は、鋼板11’の少なくとも一方の表面に形成される。なお、本実施形態の変形例においてめっきの金属種として亜鉛系めっきを選択したのは、亜鉛系めっきが優れた犠牲防食性を有するからである。
【0150】
亜鉛系めっき層13’は、例えば亜鉛系電気めっき層または亜鉛系溶融めっき層である。亜鉛系電気めっき層は、鋼板11’を電気亜鉛めっきすることで鋼板11’の表面に形成される。亜鉛系溶融めっき層は、鋼板11’を溶融亜鉛めっきすることで鋼板11’の表面に形成される。亜鉛系めっき層13’は、他のめっき方法、例えば溶射法または蒸着めっき法等によって形成されてもよい。ただし、溶射法では、亜鉛系めっき層13’内部に空隙が形成されるので、外観の均一性を担保できない可能性がある。また、蒸着法では、成膜速度が遅いために生産性に乏しい。したがって、亜鉛系めっき層13’は亜鉛系電気めっき層または亜鉛系溶融めっき層であることが好ましい。さらに、亜鉛系めっき層13’は、亜鉛系電気めっき層であることがより好ましい。亜鉛系めっき層13’を電気亜鉛めっきで形成することで、亜鉛系めっき層13’を容易に薄膜化することができる。したがって、原材料コスト等を低減することができる。なお、詳細は後述するが、亜鉛系めっき層13’が薄膜であっても亜鉛系めっき鋼板1’の特性(耐食性、ヘアライン外観等)を十分に高めることができる。
【0151】
(3-1.亜鉛系電気めっき層の組成)
亜鉛系電気めっき層は、電気亜鉛めっき層及び電気亜鉛合金めっき層に区分される。電気亜鉛めっき層は、Zn及び不純物で構成される。電気亜鉛合金めっき層は、後述する添加元素を含み、残部がZn及び不純物で構成される。いずれのめっき層においても、Znの含有量は亜鉛系めっき層13’の総質量に対して35質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。Znの含有量の上限値は最大で100質量%であるが、不純物がほぼ確実に存在することを考慮すると、100質量%未満である。
【0152】
電気亜鉛合金めっき層は、上述した添加元素として、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、P、Sn、Mn、Mo、V、W、及びZrからなる群から選択されるいずれか1種以上の添加元素を、亜鉛系めっき層13’の総質量に対してこれらの添加元素の合計で5~20質量%含むことが好ましい。特に、電気亜鉛合金めっき層は、上述した添加元素として、Fe、Ni、及びCoからなる群より選択される何れか1種以上の添加元素を、亜鉛系めっき層13’の総質量に対してこれらの添加元素の合計で5~20質量%で含有することがより好ましい。この場合、亜鉛系めっき鋼板1’の耐食性(耐白錆性、バリア性等)がより向上する。
【0153】
電気亜鉛めっき層及び電気亜鉛合金めっき層に含まれる不純物としては、亜鉛系電気めっき層の成分として意識的に添加したものではなく、原料中に混入しているか、或いは、製造工程において混入するもの、所謂不純物が挙げられる。このような不純物としては、Al、Mg、Si、Ti、B、S、N、C、Nb、Pb、Cd、Ca、Pb、Y、La、Ce、Sr、Sb、O、F、Cl、Zr、Ag、W、及びH等が挙げられる。他の種類の不純物として、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、P、Sn、Mn、Mo、V、及びZrも挙げられる。なお、本実施形態の変形例の効果を妨げない範囲で、上述した添加元素以外の元素を電気亜鉛めっき層及び電気亜鉛合金めっき層に添加してもよい。このような添加元素も不純物に区分される。不純物となる元素の質量%の合計は、亜鉛系電気めっき層の総質量に対して最大でも1質量%未満であることが好ましい。この場合、これらの元素は亜鉛系めっき層13’にほとんど影響を与えない。なお、意図的に添加したFe、Ni、Coと、不純物として混入したFe、Ni、Coとは、亜鉛系めっき層13’中の濃度により判別できる。すなわち、例えば、意図的に添加した場合におけるFe、Ni、Coの合計含有量の下限値が5質量%であるため、Fe、Ni、Coの合計含有量が5質量%未満であれば、Fe、Ni、Coを不純物として判別できる。
【0154】
なお、亜鉛系めっき層13’(すなわち、上述した亜鉛系電気めっき層及び後述する亜鉛系溶融めっき層)の組成は、例えば、上述した亜鉛系電気めっき層の組成の分析方法と同様の方法で分析することが可能である。他の方法としては、めっきした鋼板をインヒビター(例えば朝日化学工業社製 NO.700AS)入りの10質量%塩酸に浸漬して溶解剥離し、溶解した溶液を誘導結合プラズマ発光分析装置(Inductively Coupled Plasma:ICP)で分析する方法も挙げられる。
【0155】
(3-2.亜鉛系溶融めっき層の組成)
亜鉛系溶融めっき層は、溶融亜鉛めっき層及び溶融亜鉛合金めっき層に区分される。溶融亜鉛めっき層は、Zn及び不純物で構成される。溶融亜鉛合金めっき層は、後述する添加元素を含み、残部がZn及び不純物で構成される。いずれのめっき層においても、Znの含有量は亜鉛系めっき層13’の総質量に対して35質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。Znの含有量の上限値は最大で100質量%であるが、不純物がほぼ確実に存在することを考慮すると、100質量%未満である。なお、溶融亜鉛めっき層には、Al、Sb、及びPbからなる群から選択されるいずれか1種以上の添加元素を添加してもよい。この場合、これらの元素の添加量は合計で1質量%以上、5質量%未満であることが好ましい。
【0156】
溶融亜鉛合金めっき層は、上述した添加元素として、Fe、Al、Mg、及びSiからなる群から選択されるいずれか1種以上の添加元素を、亜鉛系めっき層13の総質量に対してこれらの添加元素の合計で1~60質量%含むことが好ましい。特に、溶融亜鉛合金めっき層は、上述した添加元素として、Al、及びMgからなる群より選択される何れか1種以上の添加元素を、亜鉛系めっき層13’の総質量に対してこれらの添加元素の合計で1~60質量%で含有することがより好ましい。この場合、亜鉛系めっき鋼板1’の耐食性(耐白錆性、バリア性等)がより向上する。
【0157】
溶融亜鉛めっき層及び溶融亜鉛合金めっき層に含まれる不純物としては、亜鉛系溶融めっき層の成分として意識的に添加したものではなく、原料中に混入しているか、或いは、製造工程において混入するもの、所謂不純物が挙げられる。このような不純物としては、Al、Mg、Si、Ni、Ti、Pb、及びSb等が挙げられる。なお、本実施形態の変形例の効果を妨げない範囲で、上述した添加元素以外の元素を溶融亜鉛めっき層及び溶融亜鉛合金めっき層に添加してもよい。このような添加元素も不純物に区分される。不純物となる元素の質量%の合計は、亜鉛系溶融めっき層の総質量に対して最大でも1質量%未満であることが好ましい。この場合、これらの元素は亜鉛系めっき層13’にほとんど影響を与えない。なお、意図的に添加した添加元素と、不純物とは、亜鉛系めっき層13’中の濃度により判別できる。すなわち、例えば、意図的に添加した添加元素の合計含有量の下限値が1質量%であるため、各元素の合計含有量が1質量%未満であれば、これらの元素を不純物として判別できる。
【0158】
(3-3.亜鉛系めっき層の平均付着量)
亜鉛系めっき層13’の平均付着量は、5~40g/m2であることが好ましい。なお、平均付着量は、鋼板11’に付着した亜鉛系めっき層13’の総質量を亜鉛系めっき層13’が付着した表面の面積で除算することで得られる値である。めっき付着量は例えば、めっきした鋼板をインヒビター(朝日化学工業社製 NO.700AS)入りの10質量%塩酸に浸漬して溶解剥離し、浸漬前後の鋼板の質量変化によって測定可能である。亜鉛系めっき層13’の平均付着量が5g/m2未満の場合、酸化物層14に凹部101’(すなわちヘアライン)を形成する際に、地鉄(すなわち鋼板11’)が露出してしまう可能性がある。このため、ヘアライン外観及び耐食性が低下する可能性がある。一方、亜鉛系めっき層13’の平均付着量が40g/m2を超える場合には、製造コストが増大する可能性がある。亜鉛系めっき層13’の平均付着量の下限値は、より好ましくは7g/m2以上であり、より好ましくは10g/m2以上である。また、亜鉛系めっき層13’の平均付着量の上限値は、より好ましくは35g/m2以下であり、より好ましくは30g/m2以下である。
【0159】
<4.酸化物層>
酸化物層14’は、亜鉛系めっき層13’の表面に形成される。酸化物層14’は、亜鉛系めっき層13’を酸化することで亜鉛系めっき層13’の表面に形成される。酸化処理の具体的な内容は後述する。
【0160】
亜鉛系めっき鋼板1’は、このような酸化物層14’を有することにより、高い黒色度を有する。詳細は後述するが、例えば酸化物層14’によって亜鉛系めっき鋼板1’の表面の黒色度をL*値で50以下とすることができる。L*は好ましくは40以下、より好ましくは35以下である。黒色顔料を含む有機樹脂被覆層15’が酸化物層14’の表面(後述する凹部101’及び平坦部103’の表面)に形成されている場合、これらの相乗効果によってL*値を40以下とすることができる。ここで、L*値はCIE1976L*a*b*表色系におけるL*値を意味し、反射分光濃度計で測定される。
【0161】
酸化物層14’は、例えば、亜鉛水酸化物及び亜鉛酸化物からなる群のうち少なくとも1種以上を含む。これにより、高い黒色度が実現される。亜鉛水酸化物及び亜鉛酸化物の具体例としては、ZnO、ZnO1-x、Zn(OH)2等が挙げられる。酸化物層14は、さらに第二成分としてFe、Ni、及びCoからなる群より選択される何れか1種以上の添加元素を含有することが好ましい。これらの元素は亜鉛系めっき層13’、特に電気亜鉛合金めっき層に由来するものである。酸化物層14’がこれらの第二成分を含む場合、亜鉛系めっき鋼板1の黒色度がより高くなる。
【0162】
酸化物層14’の平均厚みは0.05μm以上3.0μm未満であることが好ましい。酸化物層14’の平均厚みが0.05μm未満となる場合、十分な黒色度が得られない可能性がある。酸化物層14’の平均厚みが3.0μm以上となる場合、亜鉛系めっき鋼板1’の加工中に酸化物層14’に亀裂が生じる可能性がある。酸化物層14’にこのような亀裂が入ると、加工密着性、特に有機樹脂被覆層15との密着性が低下する可能性がある。酸化物層14’の平均厚みの下限値は0.07μmであることがより好ましく、1.0μmであることがより好ましい。酸化物層14’の平均厚みの上限値は2.7μmであることが好ましく、2.5μmであることがより好ましい。
【0163】
酸化物層14’の平均厚みは例えば以下の方法で特定される。すなわち、亜鉛系めっき鋼板1’の板厚方向の断面のうち、いずれかの領域を断面観察領域として設定する。ここで、断面観察領域には、少なくとも酸化物層14’の表面から0.3μm以上の深さまでの領域を含む。ついで、この断面観察領域を、EDS(エネルギー分散型X線分析装置)を搭載した透過型電子顕微鏡(TEM-EDS)により観察する。これにより、断面観察領域における元素分布を特定する。ついで、酸素濃度(ここでの酸素濃度は、断面観察領域内の各微小領域における酸素濃度、すなわち当該微小領域内に存在する全元素の総質量に対する当該微小領域内の酸素の質量%である)が20質量%以上となる領域を酸化物層14’として特定する。ここで、TEM-EDSにより酸化物層14’内の元素分布を特定することで、酸化物層14’の組成も特定することができる。さらに、酸化物層14’の厚みを複数個所で測定し、これらの算術平均値を酸化物層14’の平均厚みとすればよい。
【0164】
<5.酸化物層の表面構造>
酸化物層14’の表面には、線状に形成された凹部101’と、凹部101’以外の領域である平坦部103’とが形成される。凹部101’はいわゆるヘアラインである。
【0165】
凹部101’は、酸化物層14’の表面を研磨する、すなわち酸化物層14’の一部を除去することで形成される。凹部101’の底部101a’(各凹部101のもっとも深い位置に存在する部分)は酸化物層14’の下層の亜鉛系めっき層13’に到達している。このように、凹部101’では亜鉛系めっき層13’が露出しているので、ヘアライン外観が良好となる。すなわち、凹部101’内の亜鉛系めっき層13’の金属色と酸化物層14’の黒色とのコントラストでヘアライン外観(視認性)が良好となる。
【0166】
凹部101’の平均深さは0.1μm以上3.0μm未満である。このように、本実施形態の変形例では、凹部101’の平均深さが非常に浅い。しかしながら、後述する実施例に示されるように、良好なヘアライン外観が得られている。さらに、凹部101’の平均深さが非常に浅いことから、凹部101’の形成を容易に行うことができ、かつ削りくずの発生も抑制することができる。凹部101の平均深さが0.1μm未満となる場合、凹部101’の底部が亜鉛系めっき層13’に到達せず、良好なヘアライン外観が得られない。また、メタリック感も低下する。凹部101’の平均深さが3.0μm以上となる場合、凹部101’の形成に手間がかかるのみならず、大量の削りくずが発生する。また、耐食性及び加工密着性が低下する。凹部101’の平均深さは、0.1μm以上2.0μm未満が好ましい。
【0167】
凹部101’の平均深さは例えば以下の方法で測定される。すなわち、深さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、深さ方向に垂直な方向(面方向)の表示分解能が1nm以上であるレーザー顕微鏡を準備する。そして、酸化物層14’の表面のうち任意の1cm×1cmの領域を平面視観察領域として設定する。この平面視観察領域をヘアライン直交方向に沿ってレーザー顕微鏡で走査する。走査間隔は例えば100μm間隔とする。これにより、表面形状のラインプロファイルを複数取得する。ラインプロファイルの一例を
図12に示す。
図12の横軸は測定長(μm)を示し、縦軸は予め設定された基準位置からの表面高さ(μm)を示す。そして、ラインプロファイルにおいて、ヘアライン直交方向に沿った観察幅1cmの範囲内における最高点をH
1、最低点をH
0とした場合(このような最高点H
1、最低点H
0はヘアライン直交方向に沿ったラインプロファイルにより特定される)、H
0+2/3×(H
1-H
0)の高さで、且つ前記ヘアラインと直角に交わる線上に存在する点を凹部101’と平坦部103’との境界点とする。そして、同一凹部内で隣接する境界点同士を結ぶ直線から当該境界点間で最も深い位置の点(すなわち凹部101’の底部101a’)までの深さ方向の距離(底部101a’から境界点同士を結ぶ直線に下した深さ方向の直線の長さ)を凹部101’の深さとする。そして、各ラインプロファイルで測定されたすべての凹部101’の深さを算術平均することで、凹部の平均深さを算出する。なお、この方法により平面視観察領域内での凹部101’の位置も特定される。また、変形例では、その製法の違いから、前記本実施形態と境界点の規定の仕方が異なっている。変形例においては、凹部101’と平坦部103’との境界点が前記実施形態と比べ、底部に近い位置となっている。
凹部101’では亜鉛系めっき層13’が露出しているので、ヘアライン外観が良好となる。優れた視認性を実現するためには、亜鉛系めっき層がある程度の深さで削られていることが好ましい。すなわち、[(H
1-H
0)-(酸化物層の平均厚み)]が0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。
【0168】
なお、凹部101’の長さ方向に沿った平均長さが1cm以上であることが好ましい。さらに、凹部101’は、凹部101’の長さ方向に直交する方向に沿った任意の1cm幅の範囲に、平均して3~80本/cmの頻度で存在することが好ましい。以下、任意の1cm幅の範囲内に存在する凹部101’の本数を「凹部101’の単位幅当たりの本数」とも称する。これらの要件が満たされる場合に、ヘアライン外観、メタリック感、及び加工密着性がより良好となる。なお、凹部101’がこれらの要件を満たすか否かは上述した平面視観察領域内の観察結果に基づいて判断すればよい。すなわち、平面視観察領域内に存在する各凹部101’の長さ方向に沿った長さを測定し、それらの算術平均値が1cmであるか否かを判定すればよい。また、平面視観察領域内で1cm幅の領域を任意に数か所選択し、選択された各領域に存在する凹部101’の本数を測定する。そして、各領域に存在する凹部101’の本数を算術平均値する。そして、この算術平均値が3~80本/cmとなるか否かを判定すればよい。
【0169】
さらに、凹部101’に存在する酸化物層14’の平面視での面積率AR1と、平坦部103’に存在する酸化物層14’の平面視での面積率AR2との比(面積率比)AR1/AR2が0以上0.5以下である。この条件が満たされることによって、黒色度、ヘアライン外観及びメタリック感が良好となる。
【0170】
ここで、面積率AR1は、凹部101’に存在する酸化物層14’の平面視での面積を凹部101’の平面視での面積で除算することで得られる値である。凹部101’は酸化物層14’を研磨することで形成されるので、理想的には凹部101’の表面には酸化物層14’は存在しない。このため、面積率AR1は0となり、面積率比AR1/AR2は0となる。しかし、研磨材の摩耗等によって凹部101’内の酸化物層14’が十分に除去されない場合もある。この場合、凹部101’内に酸化物層14’がわずかに残留することになるので、AR1は0よりも大きくなる。ただし、AR1が過剰に大きくなると凹部101’の表面の大部分が酸化物層14’で覆われることになり、ヘアライン外観及びメタリック感が損なわれる。
【0171】
一方、面積率AR2は、平坦部103’に存在する酸化物層14’の平面視での面積を平坦部103’の平面視での面積で除算することで得られる値である。平坦部103’は酸化物層14が残留する箇所なので、理想的にはAR2は100となる。しかし、凹部101’の形成過程において研磨材により平坦部103’もわずかに研磨される可能性がある。この結果、AR2が100を下回ることがありうる。AR2が過剰に小さくなると、平坦部103’に存在する酸化物層14’が少なくなり、黒色度が低下する。そこで、本発明者は、両者のバランスに着目し、面積率比AR1/AR2が0~0.5となる場合に黒色度、ヘアライン外観及びメタリック感が良好となることを見出した。
【0172】
ここで、面積率AR1、面積率AR2、及び面積率比AR1/AR2は以下の方法で測定される。すなわち、上述した平面視観察領域を電界放出型電子プローブマイクロアナライザー(Field Emission Electron Probe Micro Analyzer:FE-EPMA)で観察する。これにより、平面視観察領域における元素分布を特定する。ついで、凹部101’内の各領域のうち、酸素濃度(ここでの酸素濃度は、平面視観察領域内の各微小領域における酸素濃度、すなわち当該微小領域内に存在する全元素の総質量に対する当該微小領域内の酸素の質量%である)を測定する。FE-EPMAは約1μmの深さの元素情報を検出する。そのため、酸化物層の平均厚みが1μm超の場合は、FE-EPMAにより検出された酸素が20質量%以上となる領域を酸化物層14として特定する。酸化物層の平均厚みが1μm以下の場合は、得られた酸素濃度が以下の関係を満足する領域を酸化物層14’として特定する。
検出された酸素濃度>酸化物層平均厚さ[μm]/1[μm]×20質量%
酸化物層14’以外の領域は凹部101’内で露出した亜鉛系めっき層13’である。これにより、平面視観察領域内の凹部101’に存在する酸化物層14’の平面視での面積が求まるので、これを平面視観察領域内の凹部101’の平面視での面積で除算することで面積率AR1を求める。
【0173】
さらに、平坦部103’内の各領域のうち、酸化物層14’となる領域を上記と同様の方法で特定する。酸化物層14’以外の領域は平坦部103’内で露出した亜鉛系めっき層13’である。これにより、平面視観察領域内の平坦部103’に存在する酸化物層14’の平面視での面積が求まるので、これを平面視観察領域内の平坦部103’の平面視での面積で除算することで面積率AR2を求める。そして、面積率AR1を面積率AR2で除算することで面積率比AR1/AR2を求める。
【0174】
さらに、凹部101’は表面粗さRaA’が5nm超500nm以下である領域を含み、平坦部103’は表面粗さRaB’が500nm超5000nm以下である領域を含むことが好ましい。これにより、ヘアライン外観及びメタリック感をより高めることができる。なお、表面粗さRaA’及びRaB’はいずれも中心線平均粗さ(算術平均粗さ)である。すなわち、表面粗さRaA’及びRaB’は、JIS B 0601(2001)に規定された算術平均粗さRaを意味し、その測定方法は粗部111の表面粗さRaAや平滑部113の表面粗さRaBと同様である。
【0175】
研磨を行う前、すなわち凹部101’を形成する前の酸化物層14’の表面には、その下層の亜鉛系めっき層13’の凹凸に由来する凹凸が多く形成されている。つまり、亜鉛系めっき層13’の表面には、比較的粒径の大きな結晶粒子が多数存在しており、これらの結晶粒子によって比較的粗い凹凸が形成されている。そして、酸化物層14’の表面には、亜鉛系めっき層13’の凹凸に由来する比較的粗い凹凸が形成されている。酸化物層14’の表面粗さRa’は、このような凹凸によって500nm超5000nm以下となることが多い。
【0176】
このような酸化物層14’の表面を研磨することで酸化物層14’の表面に凹部101’が形成される。したがって、凹部101’の表面は研磨されているので、表面粗さRaA’は小さくなる。そして、表面粗さRaA’が5nm超500nm以下となる場合に、メタリック感が特に良好となる。したがって、凹部101’は、表面粗さRaA’が5nm超500nm以下である領域を含むことが好ましい。
【0177】
一方で、平坦部103’は凹部101’ほど研磨されないので、上述した粗い凹凸がほぼそのまま残ることが多い。このような粗い凹凸によるアンカー効果により、酸化物層14’と有機樹脂被覆層15’との密着性、すなわち加工密着性が良好となる。したがって、平坦部103’は表面粗さRaB’が500nm超5000nm以下である領域を含むことが好ましい。なお、表面粗さRaA’、RaB’は、上述した表面形状のラインプロファイルにより測定される。複数のラインプロファイルによって測定された表面粗さRaA’、RaB’を算術平均してもよいし、いずれかのラインプロファイルから測定された表面粗さRaA’、RaB’を代表値として選択してもよい。
【0178】
酸化物層14’の表面は、比較的粒径の大きな酸化物粒子が密に分布することによって上述した粗い凹凸が形成されている。そこで、このような酸化物粒子の平均粒径及び密度について簡単に説明する。酸化物粒子の平均粒径は、例えば以下の方法で測定される。まず、酸化物層14’の表面をSEMで観察する。その際の視野倍率は、1000~10000倍の範囲内とすればよい。ただし、最大倍率である10000倍でも酸化物粒子が確認出来ない場合には、観察視野内で酸化物粒子の個数がゼロであるとカウントする。観察視野内に少なくとも10個の酸化物粒子が観察できるまで観察視野を変更する。
【0179】
観察視野内で10個以上の酸化物粒子が確認できた場合、酸化物粒子の輪郭に基づいて、酸化物粒子1つあたりの平面積S(μm2)を求める。そして、平面積Sと下記の式(1)とに基づいて、酸化物粒子の代表径D(μm)を求める。式(1)から明らかな通り、代表径Dは酸化物粒子の円相当径である。そして、観察視野内における10個の酸化物粒子を任意に選び、それら10個の酸化物粒子の代表径Dの平均値を平均粒径とする。
D=2×(S/π)0.5・・・式(1)
【0180】
また、酸化物粒子の密度は、例えば以下の方法により求められる。まず、上述のように酸化物層14’の表面をSEMで観察する。ついで、平均粒径が粒径閾値以上となる酸化物粒子が100μm×100μmの範囲内にいくつあるかをカウントする。これにより、酸化物粒子の密度が求められる。粒径閾値は、下層の亜鉛系めっき層13’のめっき種や合金毎に異なる。例えば、下層の亜鉛系めっき層13’がZn-Ni電気亜鉛合金めっき層となる場合、粒径閾値は0.1~3.0μmとなる。亜鉛系めっき層13’がZn-Fe電気亜鉛合金めっき層となる場合、粒径閾値は0.3~3.6μmとなる。亜鉛系めっき層13’がZn-Co電気亜鉛合金めっき層となる場合、粒径閾値は0.4~9.6μmとなる。なお、SEMの倍率を最大倍率(10000倍)にしても酸化物粒子が確認出来ない場合には、個数がゼロであるとカウントする。この場合、酸化物粒子が観測されるまで観察視野を変更する。
【0181】
亜鉛系めっき層13’がZn-Fe電気亜鉛合金めっき層となる場合、表面粗さRaB’が500nm超5000nm以下である領域では、酸化物粒子の平均粒径が0.5~2.7μmの範囲内の値となり、密度が2×1010~5×1014個/m2の範囲内の値となることが多い。
【0182】
また、亜鉛系めっき層13’がZn-Co電気亜鉛合金めっき層となる場合、表面粗さRaB’が500nm超5000nm以下である領域では、酸化物粒子の平均粒径が0.6~7.2μmの範囲内の値となり、密度が0.5×1010~3.6×1014個/m2の範囲内の値となることが多い。
【0183】
また、亜鉛系めっき層13’がZn-Ni電気亜鉛合金めっき層となる場合、表面粗さRaB’が500nm超5000nm以下である領域では、酸化物粒子の平均粒径が0.3~2.4μmの範囲内となり、密度が5×1010~8.4×1014個/m2の範囲内の値となることが多い。
【0184】
以上を纏めると、亜鉛系めっき層13’が亜鉛系電気めっき層となり、添加元素としてFe、Ni、及びCoからなる群から選択される何れか1種以上の元素を含む場合、表面粗さRaB’が500nm超5000nm以下である領域では、酸化物粒子の平均粒径が0.3μm以上となり、密度が1010個/m2以上となることが多い。もちろん、酸化物粒子の平均粒径及び密度は上述した値に制限されない。平坦部103’が、表面粗さRaB’が500nm超5000nm以下である領域を含む場合、酸化物粒子の平均粒径及び密度が上述した範囲外の値となったとしても、良好な加工密着性が得られる。
【0185】
以上述べたように、本実施形態の変形例に係る亜鉛系めっき鋼板1’によれば、安価な亜鉛系めっき鋼板を使用する場合であっても、良好な黒色度、ヘアライン外観、及びメタリック感を実現することができる。さらに、凹部101’の平均深さが0.1μm以上3.0μm未満と非常に浅いので、凹部101’の形成を容易に行うことができ、かつ削りくずの発生も抑制することができる。凹部の平均深さが非常に浅くても、ヘアライン外観の視認性に優れるのは、変形例では、凹部の底部が亜鉛系めっき層に到達しており、亜鉛系めっき層の金属色と酸化物層の黒色とのコントラストが大きいことによる。
【0186】
<6.有機樹脂被覆層>
図11に示すように、亜鉛系めっき鋼板1’は、凹部101’及び平坦部103’を覆う有機樹脂被覆層15’をさらに有することが好ましい。有機樹脂被覆層15’は、透光性(透過性)を有する。ここで、有機樹脂被覆層15’が透光性(透過性)を有するとは、有機樹脂被覆層15’を介して凹部101’及び平坦部103’を目視で観察可能であることを意味する。
【0187】
有機樹脂被覆層15’の形成に用いられる樹脂は、十分な透明性、耐薬品性、耐食性、加工性、耐疵付性などを備えるものが好ましい。このような樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、メラミンアルキッド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等が挙げられる。
【0188】
有機樹脂被覆層15’には、本実施形態の変形例の効果を損なわない範囲で各種の添加剤を添加してもよい。これらの添加剤により、亜鉛系めっき鋼板1’に耐食性、摺動性、耐疵付き性、導電性、または色調等を付与することができる。例えば亜鉛系めっき鋼板1’の耐食性を向上させたい場合、防錆剤またはインヒビターなどを有機樹脂被覆層15’に添加してもよい。これらの防錆剤またはインヒビターは、それらの成分としてSi、P、及びZrから選択される何れか1種以上の元素を含有することが好ましい。この場合、亜鉛系めっき鋼板1の耐食性がより向上する。亜鉛系めっき鋼板1’に摺動性または耐疵付き性を付与したい場合、ワックスまたはビーズ等を有機樹脂被覆層15’に添加してもよい。亜鉛系めっき鋼板1の導電性を向上させたい場合、導電剤等を有機樹脂被覆層15’に添加してもよい。亜鉛系めっき鋼板1’の色調を調整したい場合、顔料または染料等の公知の着色剤を有機樹脂被覆層15’に添加してもよい。ここで、有機樹脂被覆層15’に黒色顔料を添加することで、亜鉛系めっき鋼板1の黒色度をさらに高めることができる。もちろん、黒色顔料等の着色剤は、ヘアラインが隠蔽されない程度に有機樹脂被覆層15’に添加することが好ましい。具体的な着色剤としては、例えばべんがら、アルミ、マイカ、カーボンブラック、酸化チタン、コバルトブルー等が挙げられる。着色剤の含有量は、有機樹脂被覆層15’の総質量に対して1~10質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。
【0189】
有機樹脂被覆層15’は多層構造であってもよい。この場合、上述した添加剤のうち、特に着色剤は最下層(凹部101’及び平坦部103’を覆う層)以外のいずれか1以上の層に添加されることが好ましい。着色剤を最下層以外の層に添加することで、ヘアライン外観をより良好にすることができる。この場合の添加量は、添加対象の層の総質量に対して上述した質量%となることが好ましい。
変形例では、亜鉛系めっき層の金属色と酸化物層の黒色とのコントラストにより、ヘアライン外観の視認性を高めている。また、最下層塗膜はヘアラインを形成する凹部で相対的に塗膜厚が厚くなる。そのため、着色剤を有機樹脂被覆層15’の最下層に添加すると、黒色塗膜によりヘアラインが隠ぺいされる恐れがある。
【0190】
有機樹脂被覆層15’の平均厚みは10μm以下であることが好ましい。有機樹脂被覆層15’が多層構造となる場合、全ての層を含めた全体の平均厚みが10μm以下であることが好ましい。有機樹脂被覆層15’の平均厚みが10μmを超える場合、光が有機樹脂被覆層15’内を通過する距離が長くなるので、光沢度が低下する可能性がある。さらに、酸化物層14’の表面のテクスチャと有機樹脂被覆層15’の表面のテクスチャとの間にずれが発生する可能性がある。このため、有機樹脂被覆層15’の平均厚みは10μm以下であることが好ましい。有機樹脂被覆層15’の平均厚みは8μm以下であることがより好ましい。
【0191】
一方、有機樹脂被覆層15’の平均厚みの下限値は1.0μmであることがより好ましい。有機樹脂被覆層15’の平均厚みが1.0μm未満となる場合、有機樹脂被覆層15’による機能を十分に発揮できない可能性がある。ここで、有機樹脂被覆層15’の平均厚みは、有機樹脂被覆層15’を含む亜鉛系めっき鋼板1’の厚み方向の断面を観察することで測定される。すなわち、断面から有機樹脂被覆層15’の位置を特定し、その厚みを複数個所で測定する。そして、測定値の算術平均値を有機樹脂被覆層15’の平均厚みとする。なお、各測定箇所で測定された厚みの最小値は0.1μm以上であることが好ましい。厚みの最小値が0.1μm未満となる場合、その箇所における耐食性が他の箇所に比べて低下する可能性があるからである。
【0192】
<7.亜鉛系めっき鋼板の製造方法>
(7-1.準備工程)
つぎに、本実施形態の変形例に係る亜鉛系めっき鋼板1’の製造方法について説明する。まず、表面粗さの調整された鋼板11’に対してアルカリ溶液による脱脂を行う。ついで、鋼板11’の表面を覆う酸化物層を除去する。酸化物層を除去する方法としては、酸洗、水素ガス雰囲気中での焼鈍等が挙げられる。例えば、亜鉛系電気めっきを行う場合、酸洗を行ってもよい。亜鉛系溶融めっき層を行う場合、焼鈍を行ってもよい。
【0193】
(7-2.亜鉛系めっき層形成工程)
ついで、鋼板11’の表面に亜鉛系めっき層13’を形成する。ここで、亜鉛系めっき層13’を形成する方法は、上述したように電気亜鉛めっき方法または溶融亜鉛めっき方法が好ましい。そこで、ここではこれらのめっき方法について説明する。
【0194】
(7-2-1.亜鉛系電気めっき層形成工程)
本実施形態の変形例では、公知の電気亜鉛めっき方法を使用することができる。電気亜鉛めっき方法で使用する電気めっき浴としては、例えば、硫酸浴、塩化物浴、ジンケート浴、シアン化物浴、ピロリン酸浴、ホウ酸浴、クエン酸浴、その他錯体浴及びこれらの組合せ等が挙げられる。電気亜鉛合金めっき浴には、Znイオンの他に、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、P、Sn、Mn、Mo、V、W、及びZrから選ばれる1つ以上の単イオン又は錯イオンを添加することで、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、P、Sn、Mn、Mo、V、W、Zrを所望量含有する亜鉛系電気めっき層を形成することができる。これらの添加元素のうち、Fe、Co、及びNiからなる群から選択される何れか1種以上の元素を添加することが好ましい。また、めっき浴中のイオンを安定化させ、かつめっきの特性を制御するために、上記めっき浴に対して添加剤を加えることが、さらに好ましい。
【0195】
なお、上記電気めっき浴の組成、温度、流速、めっき時の電流密度、及び通電パターン等は、所望のめっき組成となるように適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。また、亜鉛系電気めっき層の付着量の制御は、亜鉛系電気めっき層が所望の組成となる電流密度の範囲内で電流値と時間とを調整することにより、行うことができる。
【0196】
(7-2-2.亜鉛系溶融めっき層形成工程)
本実施形態の変形例では、公知の溶融亜鉛めっき方法を使用することができる。まず、表面粗さの調整された鋼板11’を焼鈍する。ついで、鋼板温度を例えば450℃とした状態で鋼板11’を溶融めっき浴に浸漬し、引き上げる。これにより、鋼板11’の表面に亜鉛系溶融めっき層が形成される。めっき付着量は鋼板11’の引き揚げ時に窒素ガス等によるガスワイピングにより調整される。鋼板11’と亜鉛系溶融めっき層とを合金化する場合は、めっき後に到達温度が例えば500℃となる様に亜鉛系溶融めっき層を例えばIHで加熱する。
【0197】
ここで、溶融亜鉛めっき浴には、上述した添加元素、すなわちFe、Al、Mg、及びSiからなる群から選択されるいずれか1種以上の添加元素を添加してもよい。溶融めっき浴の組成、温度、ガスワイピング流速、めっき付着量等は、所望のめっき組成となるように適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0198】
(7-3.酸化物層形成工程)
以上の工程により、鋼板11の表面に亜鉛系めっき層13’を形成する。ついで、亜鉛系めっき層13’の表面に酸化物層14’を形成する。すなわち、亜鉛系めっき層13’の表面を黒化処理する。亜鉛系めっき層13’の表面を黒化処理する方法としては、次の方法が挙げられる。例えば硝酸塩とりん酸を混合した酸性水溶液を亜鉛系めっき層13’に接触させる方法、酒石酸とフッ素化物を混合した酸性水溶液を亜鉛系めっき層13’に接触させて電解処理する方法、ニッケル、アンチモンおよびフッ素化合物を含む酸性水溶液を亜鉛系めっき層13’に接触させる方法等である。これらの方法によれば、粗大な酸化物粒子からなる酸化物層14’を形成することができるので、酸化物層14’の表面に粗い凹凸を形成することができ、ひいては、酸化物層14’の表面粗さRaを500nm超5000nm以下とすることができる。さらにこの方法は非常に簡易であり、インラインで実施することができる。なお、酸化物層14’の平均厚みは酸性水溶液の濃度及び浸漬時間等を適宜調整することで調整可能である。一方、特許文献6に記載された水蒸気酸化はインラインで実施することができない。さらに、酸化物層14’の表面の凹凸も非常に小さくなる。
【0199】
(7-4.ヘアライン形成工程)
ついで、酸化物層14’の表面に上述した凹部101’及び平坦部103’を形成する。すなわち、酸化物層14’の表面にヘアラインを形成する。具体的なヘアライン形成方法は特に制限されず、従来用いられていたヘアライン形成方法と同様の方法を使用することができる。具体的なヘアライン形成方法としては、例えば、酸化物層14’の表面を研磨材(例えば研磨ベルト及び砥粒ブラシ)で研磨する方法、酸化物層14’の表面にテクスチャを付与したロールを押圧することでテクスチャを酸化物層14’の表面に転写する方法、酸化物層14’の表面を研削機器で研削する方法等が挙げられる。
【0200】
なお、酸化物層14’の表面構造(例えば凹部101’の深さ、長さ、頻度、面積率AR1、AR2、表面粗さRaA’、RaB’等)は、例えば研磨材の粒度、研磨材の圧下力、研磨時間、ロールのテクスチャの深さ、ロールの圧下力、ロールの相対速度、ロールの押圧回数等を調整することによって調整される。特に、本実施形態の変形例では、凹部101’の平均深さが0.1μm以上3.0μm未満となるので、削りくずの発生を抑制することができる。また、形成しためっき層および酸化物層の研削量を抑制することで、製品にならない部分にかかるコストを削減することができる。
【0201】
(7-5.有機樹脂被覆層形成工程)
ついで、凹部101’及び平坦部103’の表面に有機樹脂被覆層15’を形成する。なお、有機樹脂被覆層15’は省略されてもよいが、耐食性、黒色度等の特性を高めるという観点からは有機樹脂被覆層15’を形成することが好ましい。有機樹脂被覆層15’の形成方法は特に問われないが、例えば塗料を用いる方法が挙げられる。具体的には、有機樹脂被覆層15’と同様の組成を有する塗料を凹部101’及び平坦部103’の表面に塗布し、乾燥させる。これにより、凹部101’及び平坦部103’の表面に有機樹脂被覆層15’を形成する。有機樹脂被覆層15’の表面にさらに塗料を塗布し、乾燥させることで、有機樹脂被覆層15’を多層構造とすることができる。有機樹脂被覆層15’を多層構造とする場合、最下層以外の何れかの層に着色剤、例えば黒色顔料を添加することが好ましい。以上の工程により、本実施形態の変形例に係る亜鉛系めっき鋼板1’を作製する。
【0202】
ここで、有機樹脂被覆層15’の形成に使用する塗料は、凹部101’及び平坦部103’に塗料を塗布した瞬間には凹部101’及び平坦部103’の表面形状に追従し、酸化物層14’の表面形状に追従した後のレベリングが遅いものであることが好ましい。すなわち、高いせん断速度では塗料の粘度が低く、低いせん断速度では塗料の粘度が高いことが好ましい。例えば、せん断速度が0.1[1/sec]となる場合にはせん断粘度が10[Pa・s]以上となり、せん断速度が1000[1/sec]となる場合にはせん断粘度が0.01[Pa・s]以下となることが好ましい。
【0203】
水系のエマルジョン樹脂を用いた塗料を使用する場合、水素結合性の粘度調整剤を塗料に加えることで、せん断粘度を調整することができる。このような水素結合性の粘度調整剤は、低せん断速度時には水素結合によって互いに拘束しあうため、塗料の粘度を高めることができる。一方、高せん断速度では粘度調整剤の水素結合が切断されるため、塗料の粘度が低下する。これにより、塗料のせん断粘度を求める塗装条件に応じた値に調整することができる。
【0204】
また、塗料を凹部101’及び平坦部103’に塗布する方法は特に制限されず、公知の方法を適宜使用することができる。具体的な塗布方法としては、例えば、吹き付け法、ロールコーター法、カーテンコーター法、ダイコーター法、及び浸漬引き上げ法等が挙げられる。その後、塗料を自然乾燥又は焼付け乾燥することで、有機樹脂被覆層15’が形成される。乾燥時間、乾燥温度などは適宜調整されればよいが、昇温速度が遅いと、樹脂成分の軟化点から焼付け完了までの時間が長くなってレベリングが進んでしまう可能性がある。このため、昇温速度は速い方が好ましい。
【実施例】
【0205】
以下、本発明の効果を、発明例により具体的に説明する。
なお、後述する表1A、表1B、表3A、表3B及び表5Bにおける面積S
A及び面積S
Bは、それぞれ、観察視野の全面積を1.0とした場合におけるそれぞれの面積(ただし無次元値)であり、面積S
A+面積S
B=1.0になる。
また、表1A、表3A及び表5Bにおける「Ra
Aが500nm超5000nm以下の合計面積」の欄のうち、左欄は面積S
Aのうちで粗度条件を満たす面積の割合(最大1.0)であり、右欄は粗度条件を満たす実面積である。よって、面積S
A×[左欄]=[右欄]になる。
同様に、表1B、表3B及び表5Bにおける「Ra
Bが5nm超500nm以下の合計面積」の欄のうち、左欄は面積S
Bのうちで粗度条件を満たす面積の割合(最大1.0)であり、右欄は粗度条件を満たす実面積である。よって、面積S
B×[左欄]=[右欄]になる。
また、表1B、表3B及び表5Bにおける平均高低差は、
図2又は
図6に示す△hの平均値である。すなわち、ある粗部111の平均表面高さと、この粗部111に隣り合う平滑部113の平均表面高さとの差分△hを求め、これを、粗部111及び平滑部113の各組み合わせのそれぞれについて求める。そして、求めた各△hの平均値を求め、これを表1及び表3の平均高低差とした。
なお、以下に示す実施例に記載の内容により、本発明の内容が制限されるものではない。
【0206】
(実験例1:電気めっき;粗部がヘアラインを形成する例)
厚さが0.6mmである鋼板(JIS G 3141で規定された冷延鋼板のうちで絞り用のSPCD)を、濃度30g/LのNa4SiO4処理液を用い、処理液60℃、電流密度20A/dm2、処理時間10秒の条件で電解脱脂し、水洗した。次いで、電解脱脂した鋼板を、60℃の濃度50g/LであるH2SO4水溶液に10秒間浸漬し、更に水洗することで、めっき前処理を行った。
【0207】
次に、以下の表1Aから表1Cに示すNo.1~No.28の鋼板サンプルについては、亜鉛系電気めっき層13を形成する前に、研削により、鋼板の表面にヘアラインを形成した。また、以下の表1に示すNo.29の鋼板サンプルについては、亜鉛系電気めっき層13を形成する前に、圧延により、鋼板の表面にヘアラインを形成した。圧延方法は、表面に模様を施した圧延ロールを意匠面に圧下する方法とした。圧延速度は200mpmとし、圧延ロール径は500mmとした。
【0208】
次いで、全ての鋼板サンプルに対し、下記の表1Aから表1Cに示す組成の亜鉛系電気めっきを施して、亜鉛系電気めっき層13を形成した。ここで、以下の表1Cにおいて、「めっき組成」の欄に記載されている添加元素は、亜鉛を主成分とする電気めっき液中に添加された元素であり、かかる欄が空欄である場合には、電気亜鉛めっきを施したことを意味する。
【0209】
Zn―Niめっき層(表1Aから表1C:No.1~18、23~29)は、以下のようにして形成した。浴温50℃、電流密度50A/dm2でめっきしたときに、以下の表1の組成となるような比で硫酸Zn七水和物と硫酸Ni六水和物を調整した、硫酸Zn七水和物と硫酸Ni六水和物とを合計で1.2Mと、無水硫酸ナトリウム50g/Lと、を含むpH2.0のめっき浴を用い、付着量が表1Aから表1Cに示した値となるように、めっき時間を調整した。
【0210】
Zn-Feめっき層(表1Aから表1C:No.19)は、以下のようにして形成した。浴温50℃、電流密度50A/dm2でめっきしたときに、以下の表1Aから表1Cの組成となるような比で硫酸Zn七水和物と硫酸Fe(II)七水和物を調整した、硫酸Zn七水和物と硫酸Fe(II)七水和物とを合計で1.2Mと、無水硫酸ナトリウム50g/Lと、を含むpH2.0のめっき浴を用い、付着量が表1Aから表1Cに示した値となるように、めっき時間を調整した。
【0211】
Zn-Coめっき層(表1Aから表1C:No.20)は、以下のようにして形成した。浴温50℃、電流密度50A/dm2でめっきしたときに、以下の表1Aから表1Cの組成となるような比で硫酸Zn七水和物と硫酸Co七水和物を調整した、硫酸Zn七水和物と硫酸Co七水和物とを合計で1.2Mと、無水硫酸ナトリウム50g/Lと、を含むpH2.0のめっき浴を用い、付着量が表1Aから表1Cに示した値となるように、めっき時間を調整した。
【0212】
Zn-Ni-Fe-Coめっき層(表1Aから表1C:No.21)は、以下のようにして形成した。浴温50℃、電流密度50A/dm2でめっきしたときに、以下の表1Aから表1Cの組成となるような比で硫酸Zn七水和物と硫酸Ni六水和物と硫酸Co七水和物と硫酸Fe(II)七水和物とを調整した、硫酸Zn七水和物と硫酸Ni六水和物と硫酸Fe(II)七水和物と硫酸Co七水和物とを合計で1.2Mと、無水硫酸ナトリウム50g/Lと、を含むpH2.0のめっき浴を用い、付着量が表1Aから表1Cに示した値となるように、めっき時間を調整した。
【0213】
Znめっき層(表1Aから表1C:No.22)は、以下のようにして形成した。硫酸Zn七水和物を1.2Mと、無水硫酸ナトリウム50g/Lと、を含むpH2.0のめっき浴を用い、浴温50℃、電流密度50A/dm2でめっきしたときに、付着量が表1Aから表1Cに示した値となるように、めっき時間を調整した。
【0214】
なお、上記の全てのめっき処理に際して、鋼板に対する相対流速が1m/secとなるように、めっき液を流動させた。また、得られためっき層の組成は、めっきした鋼板をインヒビター(朝日化学工業社製 NO.700AS)入りの10質量%塩酸に浸漬して溶解剥離し、溶解した溶液をICPで分析することで確認した。
【0215】
また、上記の試薬は、全て一般試薬(硫酸亜鉛7水和物、無水硫酸ナトリウム、塩酸、硫酸(pH調整))を用いた。
【0216】
また、No.1~No.29の鋼板サンプルについては、以下のようにして調整した。亜鉛系電気めっき層13を形成した後に、亜鉛系電気めっき層13の表面をブラシ研磨し、表1Aから表1Cに示した凹部101及び非ヘアライン部103の表面形状となるように、研磨条件(研磨紙の粒度、圧下力、研磨回数等)を適宜調整した。これにより、凹部101が粗部111で構成され、非ヘアライン部103が平滑部113で構成されるような、亜鉛系電気めっき層13の表面形状を形成した。
【0217】
その後、No.2~No.26、28、29の鋼板サンプルに、酸性水溶液(硝酸ナトリウム120g/L、リン酸45g/L:pH0.6、30℃)をスプレー噴霧して亜鉛系電気めっき層13の表面に酸化物層14(具体的には、Znを主体とした酸化物層)を形成した。酸化物層の厚みは酸性水溶液の温度およびスプレー噴霧時間により調整した。酸化物層の厚さは、TEM-EDSによる断面観察で求め、厚みに応じてTEM-EDSの測定倍率を変えて測定した。
なお、表中の下線は、本発明の規定範囲外であることを示す。
【0218】
粗部111と平滑部113との境界は、ヘアライン直交方向でかつ板厚方向の断面において、前記ヘアライン直交方向に沿った観察幅1cmの範囲内における酸化物層14の最高点H1から最低点H0を差し引いた最大高さRyの1/3の高さでかつ前記ヘアライン直交方向に平行をなす仮想直線上にあるとした。
【0219】
なお、表1Aから表1Cに示した酸化物層14における粗部(A)および平滑部(B)の、各種の表面粗さ、表面高さ、ヘアライン本数、面積比等は、高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるキーエンス社製レーザー顕微鏡/VK-9710を用いて上記の方法に則して測定した。めっき付着量は、表面に対して垂直方向からFE-EPMAで分析した。そして、最表層に形成された酸化物層を除いたZn系めっき層厚みと、めっき層の平均組成および各金属の比重から、めっき付着量を算出した。
表1A及び表1B中、RaA又はRaBが500nm超5000nm以下の合計面積の欄における左欄は、面積SA又は面積SB×合計面積の値を示す。
【0220】
ヘアラインを付与した上記のめっき鋼板(No.26を除く鋼板)に対し、透明な有機樹脂被覆層を形成した。透明な有機樹脂被覆層は、以下のような方法で形成した。すなわち、ウレタン系樹脂(第一工業製薬社製、スーパーフレックス170)と、メラミン樹脂(オルネクスジャパン社製、サイメル327)とを、固形分質量比が85:15となるように混合した。その後、着色顔料として黒色顔料(トーヨーカラー社製、EMF Black HK-3)または青顔料(大日精化社製、AFブルーE-2B)のいずれか1つ以上を塗膜中質量濃度が2mass%または15mass%となる様に添加した。ポリエチレンワックス(三井化学社製、ケミパールW500)を、乾燥皮膜中濃度が2質量%となるように添加し、攪拌した。更に、得られた混合物を水で希釈して、種々の濃度と粘度を有する処理液を準備した。これら処理液を、ロールコーターで鋼板表面に塗布した。この際、乾燥膜厚が以下の表1Cに示す厚みとなるように調整した。塗装した鋼板を280℃に保持した熱風炉内で30秒保持した。鋼板の到達温度は210℃とし、加熱後は、水をスプレー噴霧することで冷却した。
【0221】
【0222】
【0223】
【0224】
作製した鋼板サンプルの黒色度(L*値)を既述の方法に従って測定した。
次に、作製した鋼板サンプルについてヘアラインの目立ちやすさ(透過性(ヘアラインの見え方))を評価した。鋼板サンプルに形成したヘアラインが上下になるように垂直に設置し、距離を変えて観察し、目視でヘアラインが確認できる距離から目立ちやすさを以下の基準で評価した。得られた結果を、以下の表2にまとめて示した。
【0225】
(評価基準)
5:1mの距離からヘアラインが視認できる
4:70cm以上、1m未満の距離からヘアラインが視認できる
3:50cm以上、70cm未満の距離からヘアラインが視認できる
2:30cm以上、50cm未満の距離からヘアラインが視認できる
1:30cmの距離からヘアラインが視認できない
【0226】
JIS G4305:2012で規定されるヘアラインステンレスにクリア塗膜を塗装した。クリア塗膜には市販のポリエステル/メラミン塗料(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製、NSC200HQ)バーコーターで塗装し、熱風炉で30秒間焼付け硬化し、塗膜厚みを変化させた鋼板サンプルとメタリック感を比較した。得られた結果を、以下の表2にまとめて示した。
【0227】
(評価基準)
5:ステンレス(塗装なし)同等以上のメタリック感
4:ステンレス(塗膜厚5μm)同等
3:ステンレス(塗膜厚10μm)同等
2:ステンレス(塗膜厚30μm)同等
1:メタリック感が感じられない
【0228】
得られた亜鉛系電気めっき鋼板の耐食性は、以下の方法により評価した。
すなわち、得られたそれぞれの亜鉛系電気めっき鋼板から、幅70mm×長さ150mmの試験片を作製した。エッジ及び裏面をテープシールして、塩水噴霧試験(JIS Z 2371)を行った。そして、24時間後の非シール部分の白錆発生面積率を目視で観察し、以下の評価基準で評価した。白錆発生面積率とは、観察部位の面積に対する白錆発生部位の面積の百分率である。得られた結果を、以下の表2にまとめて示した。
【0229】
(評価基準)
5:白錆発生率10%未満
4:白錆発生率10%以上25%未満
3:白錆発生率25%以上50%未満
2:白錆発生率50%以上75%未満
1:白錆発生率75%以上
【0230】
また、得られた亜鉛系電気めっき鋼板の加工密着性(有機樹脂被覆層との密着性)については、以下の方法により評価した。
すなわち、得られたそれぞれの亜鉛系電気めっき鋼板から、幅50mm×長さ50mmの試験片を作製した。得られた試験片に対して180°の折り曲げ加工を施した後、折り曲げ部の外側に対してテープ剥離試験を実施した。テープ剥離部の外観を拡大率10倍のルーペで観察し、下記の評価基準で評価した。折り曲げ加工は、20℃の雰囲気中において、0.5mmのスペーサーを間に挟んで実施した。得られた結果を、以下の表2にまとめて示した。
【0231】
(評価基準)
5:有機樹脂被覆層に剥離が認められない
4:極一部の有機樹脂被覆層に剥離が認められる(剥離面積≦2%)
3:一部の有機樹脂被覆層に剥離が認められる(2%<剥離面積≦10%)
2:有機樹脂被覆層に剥離が認められる(10%<剥離面積≦20%)
1:有機樹脂被覆層に剥離が認められる(剥離面積>20%)
【0232】
【0233】
No.1~No.29の鋼板サンプルのうち、No.1およびNo.2の比較材においては、酸化物層を形成していない、又は酸化物層の厚さが規定を満たしておらず、黒色度が劣位であった。
また、No.7の比較材においては酸化物層の厚みが規定よりも大きく、加工密着性が劣位であった。
また、No.27の比較材においては、有機樹脂被覆層中の着色顔料濃度が高いため、酸化物層が存在しなくてもL*値が40以下となった。しかし、有機樹脂被覆層の隠ぺい性が高くヘアラインが隠ぺいされて見えなかった。
【0234】
上記表2から明らかなように、本発明の実施例に係る亜鉛系電気めっき鋼板は、安価な鋼材を使用した場合であっても、良好な耐食性を備え、高い黒色度とヘアライン外観を有し、かつ、メタリック感及び加工密着性に優れていることがわかる。
着色顔料に青色の顔料を使用したNo.28についても、良好な耐食性を備え、高い黒色度とヘアライン外観を有し、かつ、メタリック感及び加工密着性に優れていることがわかる。
【0235】
(実験例2:電気めっき、平滑部がヘアラインを形成する例)
厚さが0.6mmである鋼板(JIS G 3141で規定された冷延鋼板のうち絞り用のSPCD)を、濃度30g/LのNa4SiO4処理液を用い、処理液60℃、電流密度20A/dm2、処理時間10秒の条件で電解脱脂し、水洗した。次いで、電解脱脂した鋼材を、60℃の濃度50g/LであるH2SO4水溶液に10秒間浸漬し、更に水洗することで、めっき前処理を行った。
【0236】
次いで、全ての鋼板サンプルに対し、下記の表3Aから表3Cに示す組成の亜鉛系電気めっきを施して、亜鉛系電気めっき層13を形成した。ここで、以下の表3Aから表3Cにおいて、「めっき組成」の欄に記載されている「添加元素」が、電気めっき液中に添加された元素である。かかる欄が空欄である場合(表3C:No.61)には、電気亜鉛めっきを施したことを意味する。
【0237】
また、Zn-Niめっき層(表3Aから表3C:No.41~57、62~68)は、以下のようにして形成した。浴温50℃、電流密度50A/dm2でめっきしたときに、以下の表3の組成となるような比で硫酸Zn七水和物と硫酸Ni六水和物を調整した、硫酸Zn七水和物と硫酸Ni六水和物とを合計で1.2Mと、無水硫酸ナトリウム50g/Lと、を含むpH2.0のめっき浴を用い、ヘアライン形成後のめっき付着量が表3Bに示した値となるように、めっき時間を調整した。
【0238】
Zn-Feめっき層(表3Aから表3C:No.58)は、以下のようにして形成した。浴温50℃、電流密度50A/dm2でめっきしたときに、以下の表3の組成となるような比で硫酸Zn七水和物と硫酸Fe(II)七水和物を調整した、硫酸Zn七水和物と硫酸Fe(II)七水和物とを合計で1.2Mと、無水硫酸ナトリウム50g/Lと、を含むpH2.0のめっき浴を用い、ヘアライン形成後のめっき付着量が表3に示した値となるように、めっき時間を調整した。
Zn-Coめっき層(表3Aから表3C:No.59)は、以下のようにして形成した。浴温50℃、電流密度50A/dm2でめっきしたときに、以下の表3Aから表3Cの組成となるような比で硫酸Zn七水和物と硫酸Co七水和物を調整した、硫酸Zn七水和物と硫酸Co七水和物とを合計で1.2Mと、無水硫酸ナトリウム50g/Lと、を含むpH2.0のめっき浴を用い、ヘアライン形成後のめっき付着量が表3に示した値となるように、めっき時間を調整した。
【0239】
Zn-N-Fe-Coめっき層(表3Aから表3C:No.60)は、以下のようにして形成した。浴温50℃、電流密度50A/dm2でめっきしたときに、以下の表3Aから表3Cの組成となるような比で硫酸Zn七水和物と硫酸Ni六水和物と硫酸Co七水和物と硫酸Fe(II)七水和物とを調整した、硫酸Zn七水和物と硫酸Ni六水和物と硫酸Fe(II)七水和物と硫酸Co七水和物とを合計で1.2Mと、無水硫酸ナトリウム50g/Lと、を含むpH2.0のめっき浴を用い、ヘアライン形成後のめっき付着量が表3Bに示した値となるように、めっき時間を調整した。
【0240】
なお、上記の全てのめっき処理に際して、鋼板に対する相対流速が1m/secとなるように、めっき液を流動させた。また、得られためっき層の組成は、めっきした鋼板をインヒビター(朝日化学工業社製 NO.700AS)入りの10質量%塩酸に浸漬して溶解剥離し、溶解した溶液をICPで分析することで確認した。
【0241】
また、上記の試薬は、全て一般試薬(硫酸亜鉛7水和物、無水硫酸ナトリウム、塩酸、硫酸(pH調整))を用いた。
【0242】
また、以下の表3Aから表3Cに示すNo.41~No.67の鋼板サンプルについては、亜鉛系電気めっき層13を形成後に、研削により、鋼板の表面にヘアラインを形成した。なお、研削方法は、表面に模様を施したロールを回転させながら、亜鉛系電気めっき層13を有する意匠面(すなわち、亜鉛系電気めっき層13の表面)に圧下する方法とした。研削ブラシは、鋼板サンプルの通板方向と逆方向に回転させた。ヘアライン深さは、ブラシ材質、回転速度及びブラシ-鋼板間の荷重により調整した。また、ヘアライン密度は、ブラシの糸径と密度により調整した。
【0243】
次に、以下の表3Aから表3Cに示すNo.68の鋼板サンプルについては、亜鉛系電気めっき層13を形成した後に、圧延により、亜鉛系電気めっき鋼板1の表面にヘアラインを形成した。なお、圧延方法は、表面に模様を施した圧延ロールを、亜鉛系電気めっき鋼板1の意匠面(すなわち、亜鉛系電気めっき層13の表面)に圧下する方法とした。圧延速度は、50mpmとした。
【0244】
その後、No.42~No.65、67、68の鋼板サンプルに、酸性水溶液(硝酸ナトリウム120g/L、リン酸45g/L:pH0.6、30℃)をスプレー噴霧して亜鉛系電気めっき層13の表面に酸化物層14(具体的には、Znを主体とする酸化物層)を形成した。酸化物層の厚みは酸性水溶液の温度およびスプレー噴霧時間により調整した。なお、表中の下線は、本発明の規定範囲外であることを示す。
【0245】
以上のような手順により、凹部101が平滑部113で構成され、非ヘアライン部103が粗部111で構成されるような、酸化物層14の表面形状を形成した。
なお、粗部111と平滑部113との境界は、ヘアライン直交方向でかつ板厚方向の断面において、前記ヘアライン直交方向に沿った観察幅1cmの範囲内における酸化物層14の最高点H1から最低点H0を差し引いた最大高さRyの1/3の高さでかつ前記ヘアライン直交方向に平行をなす仮想直線上にあるとした。
【0246】
ここで、表3Aから表3Cに示した酸化物層14における粗部(A)および平滑部(B)の、各種の表面粗さ、表面高さ、ヘアライン本数、面積比等は、高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるキーエンス社製レーザー顕微鏡/VK-9710を用いて上記の方法に則して測定した。めっき付着量は、表面に対して垂直方向からFE-EPMAで分析し、最表層に形成された酸化物層を除いたZn系めっき層厚みと、めっき層の平均組成および各金属の比重から算出した。
表3A及び表3B中、RaA又はRaBが500nm超5000nm以下の合計面積の欄における左欄は、面積SA又は面積SB×合計面積の値を示す。
【0247】
ヘアラインを付与した上記のめっき鋼板(No.65を除く鋼板)に対し、透明な有機樹脂被覆層を形成した。透明な有機樹脂は、以下のような方法で形成した。すなわち、ウレタン系樹脂(第一工業製薬社製、スーパーフレックス170)と、メラミン樹脂(オルネクスジャパン社製、サイメル327)とを、固形分質量比が85:15となるように混合した。その後、着色顔料として黒色顔料(トーヨーカラー社製、EMF Black HK-3)または青顔料(大日精化社製、AFブルーE-2B)のいずれか1つ以上を塗膜中質量濃度が2質量%または15質量%となる様に添加した。ポリエチレンワックス(三井化学社製、ケミパールW500)を、乾燥皮膜中濃度が2質量%となるように添加し、攪拌した。更に、得られた混合物を水で希釈して、種々の濃度と粘度を有する処理液を準備した。これら処理液を、ロールコーターで鋼板表面に塗布した。この際、乾燥膜厚が以下の表3Cに示す厚みとなるように調整した。塗装した鋼板を280℃に保持した熱風炉内で30秒保持した。鋼板の到達温度は210℃とし、加熱後は、水をスプレー噴霧することで冷却した。
【0248】
【0249】
【0250】
【0251】
以上のようにして得られた亜鉛系電気めっき鋼板のそれぞれについて、実験例1と同様にして、黒色度、透過性(ヘアラインの見え方)、耐食性、及び、加工密着性を評価した。評価方法及び評価基準は、実験例1と同様である。得られた結果を、以下の表4にまとめて示した。
【0252】
【0253】
No.41~No.68の鋼材サンプルのうち、No.41および42の比較例においては、酸化物層を形成しない、又は酸化物層の厚さが規定を満たしておらず、黒色度が劣位であった。
また、No.47の比較材においては酸化物層の厚みが規定よりも大きく、加工密着性が劣位であった。
【0254】
また、No.66の比較例においては、有機樹脂被覆層中の着色顔料濃度が高いため、酸化物層が存在しなくてもL*値が40以下となった。しかし、有機樹脂被覆層中の隠ぺい性が高くヘアラインが隠ぺいされて見えなかった。
【0255】
上記表4から明らかなように、本発明の実施例に係る亜鉛系電気めっき鋼板は、安価な鋼材を使用した場合であっても、良好な耐食性を備え、高い黒色度とヘアライン外観を有し、かつ、メタリック感及び加工密着性に優れていることがわかる。
【0256】
(実験例3:溶融めっき、粗部がヘアラインを形成する例)
厚さが0.6mmである鋼板(JIS G 3141で規定された冷延鋼板のうちで絞り用のSPCD)を、濃度30g/LのNa4SiO4処理液を用い、処理液60℃、電流密度20A/dm2、処理時間10秒の条件で電解脱脂し、水洗した。次いで、5%水素ガス雰囲気で800℃に加熱し5分間保持した。その後、450℃まで空冷し、鋼板表面に形成した酸化物層を除去した。
【0257】
次いで、全ての鋼板サンプルに対し、下記の表5Aから表5Dに示す組成の亜鉛系溶融めっきを施して、亜鉛系溶融めっき層13を形成した。ここで、以下の表5Aから表5Dにおいて、「めっき組成」の欄に記載されている「添加元素」が、溶融めっき浴中に添加された元素である。かかる欄が空欄である場合(表5D:No.100)には、溶融亜鉛めっきを施したことを意味する。
【0258】
また、Zn-Al-Mgめっき層(表5Aから表5D:No.81~97、101~107)は、めっき浴温450℃でめっきしたときに、以下の表5Aから表5Dの組成となるようにめっき浴組成を調整した。また、ヘアライン形成後のめっき付着量が表5に示した値となるように、めっき後のガスワイピング条件によりめっき付着量を調整した。
【0259】
また、Zn-Alめっき層(表5Aから表5D:No.98)は、めっき浴温650℃でめっきしたときに、以下の表5の組成となるようにめっき浴組成を調整した。また、ヘアライン形成後のめっき付着量が表5Cに示した値となるように、めっき後のガスワイピング条件によりめっき付着量を調整した。
【0260】
Zn-Feめっき層(表5Aから表5D:No.99)は、ヘアライン形成後のめっき付着量が表5Cに示した値となるように、めっき浴温500℃でめっきし、めっき後のガスワイピング条件を調整した。また、鋼板に含まれるFeと亜鉛溶融めっき層に含まれるZnを合金化させ、以下の表5Aから表5Dの組成となるように、めっき後の鋼板を500℃で加熱した。
【0261】
溶融亜鉛めっきを行う実施例No.100は、めっき浴温500℃でめっきした。また、ヘアライン形成後のめっき付着量が表5Cに示した値となるように、めっき後のガスワイピング条件によりめっき付着量を調整した。
【0262】
なお、上記の全てのめっき処理に際して、得られためっき層の組成は、めっきした鋼板をインヒビター(朝日化学工業社製 NO.700AS)入りの10質量%塩酸に浸漬して溶解剥離し、溶解した溶液をICPで分析することで確認した。
【0263】
次に、以下の表5Aから表5Dに示すNo.81~No.107の鋼板サンプルについては、亜鉛系溶融めっき層13を形成した後に、研削により、亜鉛系溶融めっき鋼板1の表面にヘアラインを形成した。なお、研削方法は、表面に模様を施したロールを回転させながら、亜鉛系溶融めっき層13を有する意匠面(すなわち、亜鉛系溶融めっき層13の表面)に圧下する方法とした。研削ブラシは、鋼板サンプルの通板方向と逆方向に回転させた。ヘアライン深さは、ブラシ材質、回転速度及びブラシ-鋼板間の荷重により調整した。また、ヘアライン密度は、ブラシの糸径と密度により調整した。
【0264】
次に、以下の表5Aから表5Dに示すNo.81~No.107の鋼板サンプルについては、研削によりヘアラインを形成した後に、圧延により、亜鉛系溶融めっき鋼板1の表面に凹凸を形成した。なお、圧延方法は、表面に模様を施した圧延ロールを、亜鉛系溶融めっき鋼板1の意匠面(すなわち、亜鉛系電気めっき層13の表面)に圧下する方法とした。
【0265】
その後、No.82~105、No.107の鋼材サンプルに、酸性水溶液(硝酸ナトリウム120g/L、リン酸45g/L:pH0.6、30℃)をスプレー噴霧して亜鉛系電気めっき層13の表面に酸化物層14(具体的には、Znを主体とした酸化物層)を形成した。酸化物層の厚みは酸性水溶液の温度およびスプレー噴霧時間により調整した。なお、表中の下線は、本発明の規定範囲外であることを示す。
【0266】
以上のような手順により、凹部101が平滑部113で構成され、非ヘアライン部103が粗部111で構成されるような、酸化物層14の表面形状を形成した。
なお、粗部111と平滑部113との境界は、ヘアライン直交方向でかつ板厚方向の断面において、前記ヘアライン直交方向に沿った観察幅1cmの範囲内における酸化物層14の最高点H1から最低点H0を差し引いた最大高さRyの1/3の高さでかつ前記ヘアライン直交方向に平行をなす仮想直線上にあるとした。
【0267】
ここで、表5Aから表5Dに示した酸化物層14における粗部(A)及び平滑部(B)の、各種の表面粗さ、表面高さ、ヘアライン本数、面積比等は、高さ方向の表示分解能が1nm以上であり、かつ、幅方向の表示分解能が1nm以上であるキーエンス社製レーザー顕微鏡/VK-9710を用いて上記の方法に則して測定した。めっき付着量は、表面に対して垂直方向からFE-EPMAで分析し、最表層に形成された酸化物層を除いたZn系めっき層厚みと、めっき層の平均組成および各金属の比重から算出した。
表5B中、RaA又はRaBが500nm超5000nm以下の合計面積の欄における左欄は、面積SA又は面積SB×合計面積の値を示す。
【0268】
ヘアラインを付与した上記のめっき鋼板(No.105を除く鋼板)に対し、透明な有機樹脂被覆層を形成した。透明な有機樹脂被覆層は、以下のような方法で形成した。すなわち、ウレタン系樹脂(第一工業製薬社製、スーパーフレックス170)と、メラミン樹脂(オルネクスジャパン社製、サイメル327)とを、固形分質量比が85:15となるように混合した。その後、着色顔料として黒色顔料(トーヨーカラー社製、EMF Black HK-3)または青顔料(大日精化社製、AFブルーE-2B)のいずれか1つ以上を塗膜中質量濃度が2質量%または15質量%となる様に添加した。ポリエチレンワックス(三井化学社製、ケミパールW500)を、乾燥皮膜中濃度が2質量%となるように添加し、攪拌した。更に、得られた混合物を水で希釈して、種々の濃度と粘度を有する処理液を準備した。これら処理液を、ロールコーターで鋼板表面に塗布した。この際、乾燥膜厚が以下の表5Dに示す厚みとなるように調整した。塗装した鋼板を280℃に保持した熱風炉内で30秒保持した。鋼板の到達温度は210℃とし、加熱後は、水をスプレー噴霧することで冷却した。
【0269】
【0270】
【0271】
【0272】
【0273】
以上のようにして得られた亜鉛系溶融めっき鋼板のそれぞれについて、実験例1と同様にして、黒色度、透過性(ヘアラインの見え方)、耐食性、及び、加工密着性を評価した。評価方法及び評価基準は、実験例1と同様である。得られた結果を、以下の表6にまとめて示した。
【0274】
【0275】
No.81~No.107の鋼材サンプルのうち、No.81および82の比較例においては、酸化物層が形成されていない、又は酸化物層の厚みが規定を満たしておらず、黒色度が劣位であった。
また、No.87の比較材においては酸化物層の厚みが規定よりも大きく、加工密着性が劣位であった。
【0276】
また、No.106の比較例においては、有機樹脂被覆層中の着色顔料濃度が高いため、酸化物層が存在しなくてもL*値が40以下となった。しかし、有機樹脂被覆層の隠ぺい性が高くヘアラインが隠ぺいされて見えなかった。
【0277】
上記表6から明らかなように、本発明に係る亜鉛系溶融めっき鋼板は、安価な鋼材を使用した場合であっても、良好な耐食性を備え、良好な黒色度とヘアライン外観を有し、かつ、メタリック感及び加工密着性に優れていることがわかる。
【0278】
上記の実施例では、ヘアラインを付与された亜鉛系めっき層の表面に、酸化物層で覆われている場合の実施例を説明した。以下では、酸化物層の表面にヘアラインを付与する場合の実施例を、表7Aから表8を参照して説明する。
【0279】
<1.試験サンプルの準備>
つぎに、本実施形態の変形例の実施例を説明する。本実施例では、まず、以下の工程により亜鉛系めっき鋼板の試験サンプルを準備した。製造工程の概要を表7Aに示す。なお、表中の下線は、本発明の規定範囲外であることを示す。
【0280】
(1-1.準備工程)
厚さが0.6mmである鋼板(JIS G 3141で規定された冷延鋼板のうちで絞り用のSPCD)を、濃度30g/LのNa4SiO4処理液を用いて電離脱脂し、水洗した。ここで、脱脂条件は、処理液60℃、電流密度20A/dm2、処理時間10秒とした。ついで、鋼板の表面を覆う酸化物層を除去した。具体的には、亜鉛系電気めっきを行う場合、電解脱脂した鋼板を、60℃に保温した濃度50g/LのH2SO4水溶液に10秒間浸漬し、更に水洗した。亜鉛系溶融めっきを行う場合、鋼板を5%水素ガス雰囲気で800℃に加熱し5分間保持した。その後、450℃まで空冷した。
【0281】
(1-2.亜鉛系めっき層形成工程)
ついで、亜鉛系めっき層形成工程を行った。具体的な工程は以下の通りである。なお、得られためっき層の組成は、めっきした鋼板をインヒビター(朝日化学工業社製 NO.700AS)入りの10質量%塩酸に浸漬して溶解剥離し、溶解した溶液をICPで分析することで確認した。
【0282】
(1-2-1.Zn―Ni電気亜鉛合金めっき層形成工程:No.1’~17’、21’~31’、34’~37’)
鋼板を浴温50℃、電流密度50A/dm2でめっきしたときに、電気亜鉛合金めっき層が以下の表2-1に示す組成となるように、硫酸Zn七水和物と硫酸Ni六水和物を混合した。ついで、硫酸Zn七水和物と硫酸Ni六水和物とを合計で1.2Mと、無水硫酸ナトリウム50g/Lとを含むpH2.0のめっき浴を用意した。ついで、このめっき浴を用いて浴温50℃、電流密度50A/dm2で電気亜鉛めっきを行った。ここで、めっき付着量が表7Cに示した値となるように、めっき時間を調整した。また、鋼板に対する相対流速が1m/secとなるように、めっき液を流動させた。
【0283】
(1-2-2.Zn―Fe電気亜鉛合金めっき層形成工程:No.18’)
鋼板を浴温50℃、電流密度50A/dm2でめっきしたときに、電気亜鉛合金めっき層が以下の表2-1に示す組成となるように、硫酸Zn七水和物と硫酸Fe(II)七水和物を混合した。ついで、硫酸Zn七水和物と硫酸Fe(II)七水和物とを合計で1.2Mと、無水硫酸ナトリウム50g/Lとを含むpH2.0のめっき浴を用意した。ついで、このめっき浴を用いて浴温50℃、電流密度50A/dm2で電気亜鉛めっきを行った。ここで、めっき付着量が表2-1に示した値となるように、めっき時間を調整した。また、鋼板に対する相対流速が1m/secとなるように、めっき液を流動させた。
【0284】
(1-2-3.Zn―Co電気亜鉛合金めっき層形成工程:No.19’)
鋼板を浴温50℃、電流密度50A/dm2でめっきしたときに、電気亜鉛合金めっき層が以下の表2-1に示す組成となるように、硫酸Zn七水和物と硫酸Co七水和物を混合した。ついで、硫酸Zn七水和物と硫酸Co七水和物とを合計で1.2Mと、無水硫酸ナトリウム50g/Lとを含むpH2.0のめっき浴を用意した。ついで、このめっき浴を用いて浴温50℃、電流密度50A/dm2で電気亜鉛めっきを行った。ここで、めっき付着量が表7Cに示した値となるように、めっき時間を調整した。また、鋼板に対する相対流速が1m/secとなるように、めっき液を流動させた。
【0285】
(1-2-5.電気亜鉛めっき層形成工程:No.20’)
硫酸Zn七水和物1.2Mと、無水硫酸ナトリウム50g/Lとを含むpH2.0のめっき浴を用意した。ついで、このめっき浴を用いて浴温50℃、電流密度50A/dm2で電気亜鉛めっきを行った。ここで、めっき付着量が表7Cに示した値となるように、めっき時間を調整した。また、鋼板に対する相対流速が1m/secとなるように、めっき液を流動させた。
【0286】
なお、上記の試薬は、全て一般試薬(硫酸Zn七水和物、無水硫酸ナトリウム、塩酸、硫酸(pH調整)等)を用いた。
【0287】
(1-2-7.Zn-Al-Mg溶融亜鉛合金めっき層形成工程:No.32’、33’)
鋼板をめっき浴温450℃でめっきしたときに、溶融亜鉛合金めっき層が以下の表2-1に示す組成となるように、めっき浴の組成を調整した。ついで、鋼板温度を450℃に保持した鋼板を450℃のめっき浴に浸漬し、その後鋼板を引き上げることで鋼板の表面に溶融亜鉛合金めっき層を形成した。ついで、めっき付着量が表7Cに示した値となるように、ガスワイピングを行った。
【0288】
(1-3.酸化物層形成工程)
酸化物層形成工程では、鋼板毎に異なる方法で亜鉛系めっき層の表面に酸化物層を形成した。No.1’~31’、34’~37’では以下の黒化処理1により酸化物層を形成し、No.32’では以下の黒化処理3により酸化物層を形成し、No.33’では以下の黒化処理4により酸化物層を形成した。得られた酸化物層の平均厚み、組成は上述した方法により測定した。
【0289】
黒化処理1:酸性水溶液(硝酸ナトリウム(関東化学ホールディング社製)120g/L、リン酸(関東化学ホールディング社製)45g/L、pH0.6、30℃)を亜鉛系めっき層の表面に3秒間スプレー噴霧した。
黒化処理3:酸性水溶液(硫酸ニッケル六水和物(関東化学ホールディング社製)45g/L、塩化アンチモン(III)(関東化学ホールディング社製)を2g/L、ホウフッ化水素酸(関東化学ホールディング社製)を7g/L、pH1.0、温度70℃)に各供試材を3秒間浸漬させた。
黒化処理4:特許文献6(特開2017-218647号公報)の実施例2を参考に、水蒸気処理(温度:120℃、相対湿度:95%、酸素濃度:1.0%、処理時間20h)を行った。
いずれの供試材も、黒化処理を施した後、水洗、乾燥を行った。また黒化処理1~3の酸性水溶液のpHは硫酸(関東化学ホールディング社製)により調整した。
【0290】
(1-4.ヘアライン形成工程)
ついで、酸化物層の表面を砥粒ブラシで研磨することで、酸化物層の表面に上述した凹部及び平坦部を形成した。ここで、凹部101’の平均深さ、長さ方向に沿った平均長さ、単位幅当たりの本数、面積率AR1、AR2、面積率比AR1/AR2、表面粗さRaA’が5nm超500nm以下である領域(表7Bに凹部の平均粗度RaA’の有無と記載)の有無、及び平坦部103’の表面粗さRaB’が500nm超5000nm以下である領域(表7Bに平坦部の平均粗度RaB’の有無と記載)の有無が、表7Aおよび表7Bに示す値または区分となるように、砥粒ブラシの粒度、圧下力、及び研磨時間を調整した。平滑領域及び粗領域の有無に関し、「-」は評価不能であることを示す。なお、得られた表面構造の特定は上述した方法により行った。
【0291】
(1-5.有機樹脂被膜形成工程)
一部の鋼板(No.1’~24’、26’~37’)では、凹部及び平坦部の表面にさらに有機樹脂被覆層を形成した。これらのうち、No.31以外の鋼板では有機樹脂被覆層は2層(上層、下層)とした。まず、ウレタン系樹脂(第一工業製薬社製、スーパーフレックス170)と、メラミン樹脂(オルネクスジャパン社製、サイメル327)とを、固形分質量比が85:15となるように混合した。一方、着色顔料として黒色顔料(トーヨーカラー社製、EMF Black HK-3)及び青色顔料(大日精化社製、AFブルーE-2B)を準備した。ついで、これらの材料と水を混合することで、顔料を含まない無色塗料、黒色顔料を固形分(顔料含む)の総質量に対して2質量%で含む黒色塗料1、黒色顔料を15質量%で含む黒色顔料2、青色顔料を2質量%で含む青色塗料を準備した。ついで、Siを有効成分として含むSi系添加剤(日産化学社製/スノーテックスN)、Pを有効成分として含むP系添加剤(関東化学社製/リン酸アンモニウム)、Zrを有効成分として含むZr系添加剤(キシダ化学社製/炭酸ジルコニウムアンモニウム)を準備した。No.36’は、有機樹脂被覆層が2層で、上層および下層に黒色顔料を含有させた。
【0292】
No.1’~30’、32’~35’、37’では、まず、Si系添加剤を添加した無色塗料をロールコーターで凹部及び平坦部の表面に塗布した。ついで、無色塗料を塗布した亜鉛系めっき鋼板を280℃に保持した熱風炉内で30秒保持した。亜鉛系めっき鋼板の到達温度は210℃とし、加熱後は、水をスプレー噴霧することで冷却した。以上の工程により黒色顔料を含まない下層を形成した。ついで、Si系添加剤を添加した黒色塗料1をロールコーターで下層上に塗布した。その後は上記と同様の工程を行った。これにより黒色顔料を含む上層を下層上に形成した。なお、上層及び下層の全体の平均厚みが表7Cに示す値となるように各塗料の塗布量を調整した。なお、上層及び下層が同程度の厚みとなるように各塗料の塗布量はほぼ同量とした。以上の工程により凹部及び平坦部の表面にさらに有機樹脂被覆層を形成した。なお、平均厚みの測定は上述した方法により行った。
【0293】
No.26’では、上層用の塗料を黒色塗料2とし、上層用及び下層用の塗料の添加剤をSi系添加剤とした他はNo.1’~24’と同様の処理を行うことで凹部及び平坦部の表面にさらに有機樹脂被覆層を形成した。
【0294】
No.27’では、上層用の塗料を青色塗料とし、上層用及び下層用の塗料の添加剤をSi系添加剤とした他はNo.1’と同様の処理を行うことで凹部及び平坦部の表面にさらに有機樹脂被覆層を形成した。
【0295】
No.28’では、上層用の塗料を黒色塗料1とし、上層用及び下層用の塗料の添加剤をP系添加剤とした他はNo.1’と同様の処理を行うことで凹部及び平坦部の表面にさらに有機樹脂被覆層を形成した。
【0296】
No.29’では、上層用の塗料を黒色塗料1とし、上層用及び下層用の塗料の添加剤をZr系添加剤とした他はNo.1’と同様の処理を行うことで凹部及び平坦部の表面にさらに有機樹脂被覆層を形成した。
【0297】
No.30’では、上層用及び下層用の塗料に添加剤を添加しなかった他はNo.1’と同様の処理を行うことで凹部及び平坦部の表面にさらに有機樹脂被覆層を形成した。
【0298】
No.31’では、下層を形成しなかった他はNo.1’と同様の処理を行うことで凹部及び平坦部の表面にさらに有機樹脂被覆層を形成した。
【0299】
No.36’では、下層用の塗料を黒色塗料1とした他はNo.1’と同様の処理を行うことで凹部及び平坦部の表面にさらに有機樹脂被覆層を形成した。
【0300】
<2.試験サンプルの評価>
以上の工程により作製された亜鉛系めっき鋼板のサンプルを以下の方法で評価した。結果を表8にまとめて示す。
【0301】
(2-1.黒色度(L*値))
CIE1976L*a*b*表色系におけるL*値を測色計(コニカミノルタ社製CR-400)で測定した。L*値が50以下であれば高い黒色度が実現できていると言える。L*値は40以下が好ましい。
【0302】
(2-2.ヘアライン外観(ヘアラインの見えやすさ))
作製した試験サンプルに形成したヘアライン(凹部)が上下になるように垂直に設置し、観察者と試験サンプルとの距離を変えて目視でヘアラインを観察した。ついで、目視でヘアラインが確認できた距離と、以下の評価基準とに基づいて、ヘアライン外観を評価した。
【0303】
(評価基準)
5:1mの距離からヘアラインが視認できる。
4:70cm以上、1m未満の距離からヘアラインが視認できる。
3:50cm以上、70cm未満の距離からヘアラインが視認できる。
2:30cm以上、50cm未満の距離からヘアラインが視認できる。
1:30cmの距離からヘアラインが視認できない。
【0304】
(2-3.メタリック感)
JIS G4305:2012で規定されるヘアラインステンレス鋼板にクリア塗料を塗布した。クリア塗料には市販のポリエステル/メラミン塗料(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製、NSC200HQ)を使用し、塗布はバーコーターで行った。その後、塗料を塗布したステンレス鋼板を熱風炉で30秒間焼付け硬化した。このような工程により塗膜の厚みが異なる複数種類の比較用サンプルを準備した。ついで、試験サンプルとこれらの比較用サンプルとのメタリック感を比較し、以下の評価基準に基づいて試験サンプルのメタリック感を評価した。
【0305】
(評価基準)
5:ステンレス(塗装なし)同等以上のメタリック感
4:ステンレス(塗膜厚5μm)同等
3:ステンレス(塗膜厚10μm)同等
2:ステンレス(塗膜厚30μm)同等
1:メタリック感が感じられない
【0306】
(2-4.耐食性)
試験サンプルから幅70mm×長さ150mmの試験片を切り出した。ついで、試験片のエッジ及び裏面をテープシールして、塩水噴霧試験(JIS Z 2371)を行った。そして、24時間後の非シール部分の白錆発生率を目視で測定し、白錆発生率と以下の評価基準で耐食性を評価した。白錆発生率とは、観察部位の面積に対する白錆発生部位の面積%である。
【0307】
(評価基準)
5:白錆発生率10%未満
4:白錆発生率10%以上25%未満
3:白錆発生率25%以上50%未満
2:白錆発生率50%以上75%未満
1:白錆発生率75%以上
【0308】
(2-5.加工密着性)
試験サンプルから幅50mm×長さ50mmの試験片を切り出した。ついで、試験片に180°の折り曲げ加工を施した。折り曲げ加工は、20℃の雰囲気中において、0.5mmのスペーサーを試験片と折り曲げ機との間に挟んで実施した。ついで、折り曲げ部の外側に対してテープ剥離試験を実施した。すなわち、市販の接着テープ(ニチバン社製セロテープ(登録商標))を折り曲げ部の外側に貼りつけ、その後剥離する処理を行った。ついで、剥離した接着テープを拡大率10倍のルーペで観察し、接着テープに付着した有機樹脂被覆層の面積%(折り曲げ部分の有機樹脂被覆層の総面積に対する剥離部分の面積%)を測定した。ついで、下記の評価基準で加工密着性を評価した。なお、有機樹脂被覆層を有さないNo.25では本試験を行わなかった。このため、表8におけるNo.25’の加工密着性は「-」で示した。
【0309】
(評価基準)
5:有機樹脂被覆層に剥離が認められない
4:極一部の有機樹脂被覆層に剥離が認められる(剥離部分の面積%≦2%)
3:一部の有機樹脂被覆層に剥離が認められる(2%<剥離部分の面積%≦10%)
2:有機樹脂被覆層に剥離が認められる(10%<剥離部分の面積%≦20%)
1:有機樹脂被覆層に大きな剥離が認められる(剥離部分の面積%>20%)
【0310】
【0311】
【0312】
【0313】
【0314】
(2-6.考察)
実施例となるNo.2’~6’、8’~32’では、良好な黒色度、ヘアライン外観、メタリック感、耐食性、及び加工密着性が得られた。具体的には、L*値が50以下、あるいは40以下となり、ヘアライン外観、メタリック感、耐食性、及び加工密着性の評価がほぼすべて3以上となった。なお、黒色顔料を含有する有機樹脂被覆層を有するNo.2’~24’、26’、28’~33’において、L*値が40以下となった。
【0315】
ただし、酸化物層の平均厚みが3.0μm以上となるNo.33’では、メタリック感及び加工密着性がやや低下する傾向があった。したがって、酸化物層の平均厚みは3.0μm未満であることが好ましいことがわかる。
【0316】
また、凹部の長さ方向に沿った平均長さが1cm未満であるNo.9’では、ヘアライン外観及びメタリック感がやや低下する傾向があった。したがって、凹部の長さ方向に沿った平均長さは1cm以上であることが好ましいことがわかる。
【0317】
また、凹部の単位幅当たりの本数が80本/cmを超えているNo.13’では、加工密着性がやや低下する傾向があった。したがって、凹部の単位幅当たりの本数は80本/cm以下であることが好ましいことがわかる。
【0318】
また、亜鉛系めっき層の平均付着量が5g/m2未満であるNo.15’では、ヘアライン外観及び耐食性がやや低下する傾向があった。このため、亜鉛系めっき層の平均付着量は5g/m2以上であることが好ましいことがわかる。また、電気亜鉛合金めっき層へのNi添加量が5質量%未満となるNo.25’では、耐食性がわずかに低下した。したがって、添加元素を添加する場合の添加量は5質量%以上であることが好ましいことがわかる。
【0319】
また、有機樹脂被覆層を有さないNo.25’では、耐食性がやや低下する傾向があった。また、L*値も40を超えた。一方で、黒色顔料を含有する有機樹脂被覆層が形成されている場合、L*値は40以下となる。このため、亜鉛系めっき鋼板には有機樹脂被覆層(特に黒色顔料を含有する有機樹脂被覆層)を形成することが好ましいことがわかる。
【0320】
また、有機樹脂被覆層への黒色顔料の添加量が5質量%を超えるNo.26’や下層塗膜に黒色顔料を含有するNo.36‘では、ヘアライン外観がやや低下する傾向があった。このため、黒色顔料の添加量は5質量%以下であること、下層塗膜には黒色顔料を含有しないことが好ましいとがわかる。なお、No.26’、No.36’のヘアライン外観の評価は2となるが、実用上問題ないレベルである。
【0321】
また、有機樹脂被覆層に青色顔料を添加したNo.27’では、L*値が40を超えた。したがって、L*値をさらに下げるためには黒色顔料を使用することが好ましいことがわかる。
【0322】
また、下層が存在しない、すなわち黒色顔料を含む有機樹脂被覆層が直接凹部及び平坦部の表面に被覆したNo.31’では、ヘアライン外観、メタリック感、耐食性、及び加工密着性がやや低下する傾向があった。したがって、黒色顔料等の着色剤を有しない下層が存在することが好ましいことがわかる。
【0323】
一方、No.1’では酸化物層をすべて研磨してしまったために、ヘアライン外観、耐食性、及び加工密着性が著しく低下した。No.7’では、研磨ブラシによる研磨を行わなかった(すなわちヘアラインを形成しなかった)ので、そもそもヘアラインを視認できず、メタリック感も著しく低下した。No.33’では、酸化物層が非常に厚く、凹部の底部が酸化物層の下層の亜鉛系めっき層に到達していない。このため、SAが100となっている。さらに、平坦部におけるSBも100になっている。このため、SA/SBが0.5を大きく超えている。そして、No.33’では、メタリック感及び加工密着性が著しく低下した。
【0324】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態及び実施例について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0325】
本発明によれば、安価な鋼材を使用した場合であっても、良好な耐食性を備え、良好なヘアライン外観を有し、かつ、黒色度とメタリック感及び加工密着性に優れた、亜鉛系めっき鋼板を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0326】
1、1’ 亜鉛系めっき鋼板
11、11’ 鋼板
13、13’ 亜鉛系めっき層
14、14’ 酸化物層
15、15’ 有機樹脂被覆層
101、101’105 凹部
103 非ヘアライン部
103’ 平坦部
111 粗部
113 平滑部