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  • 特許-コイルスキッドおよび鋼板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】コイルスキッドおよび鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 47/24 20060101AFI20230111BHJP
   B21B 39/00 20060101ALI20230111BHJP
   B21B 45/00 20060101ALI20230111BHJP
   B21C 47/28 20060101ALI20230111BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230111BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230111BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
B21C47/24 Z
B21B39/00 H
B21B45/00 K
B21C47/28 B
C21D9/46 S
C22C38/00 301W
C22C38/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021551480
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2020037540
(87)【国際公開番号】W WO2021066141
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019183532
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】大塚 貴之
(72)【発明者】
【氏名】明石 透
(72)【発明者】
【氏名】塩川 一生
(72)【発明者】
【氏名】竹内 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】松原 弘樹
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-001019(JP,A)
【文献】特開昭56-045212(JP,A)
【文献】特開2005-186145(JP,A)
【文献】特開2015-167992(JP,A)
【文献】実開平04-098305(JP,U)
【文献】特開2018-188170(JP,A)
【文献】実開昭56-045510(JP,U)
【文献】特開2014-091365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 45/00-49/00
B21B 47/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱延鋼板を巻き取った熱延コイルが載置されるコイルスキッドであって、
金属板と断熱材とが、それぞれ少なくとも2層以上交互に積層され、前記断熱材の総厚みが100mm以上であり、
前記金属板が前記熱延コイルと接触することを特徴とする、コイルスキッド。
【請求項2】
前記断熱材の厚みが前記金属板の厚みよりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載のコイルスキッド。
【請求項3】
前記断熱材のそれぞれの厚みが、いずれも70mm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のコイルスキッド。
【請求項4】
熱延鋼板をコイルに巻き取った後に、巻き取った熱延コイルをコイルカーによりコイル置き場まで搬送し、前記コイルカーと前記コイル置き場のいずれか一方または両方において前記熱延コイルを冷却する鋼板の製造方法であって、
前記コイルカーと前記コイル置き場のいずれか一方または両方に、請求項1~3の何れか一項に記載のコイルスキッドが設けられていることを特徴とする、鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記コイルカーと前記コイル置き場のいずれか一方または両方に、前記熱延コイルを内部に収容するためのコイルボックスが設けられ、前記コイルボックス内に請求項1~3の何れか一項に記載のコイルスキッドが設けられていることを特徴とする、請求項4に記載の鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱延鋼板の巻き取り温度が400℃~750℃であることを特徴とする、請求項4または5に記載の鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延コイルを冷却した後、冷延することを特徴とする、請求項4~6の何れか一項に記載の鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルスキッド、およびこのコイルスキッド上で熱延コイルを冷却する鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄板ハイテン等の高強度鋼板(特に、TRIP鋼などの超ハイテン)においては、熱延鋼板をコイラーにより巻き取った後の熱延コイルを、コイルカーによってコイラーから抜き出してコイル置き場のコイルスキッドまで搬送し、自然冷却している。このコイルカーまたはコイル置き場での冷却中に、熱延コイルが載置されたスキッド(以下、「コイルスキッド」と記載する。)による偏冷却が発生する。この偏冷却は、コイルの外周面に接触しているスキッドからの抜熱により、コイル外周部のスキッドへの接触部分の冷却速度が他の部分よりも速くなることにより生じ、接触部分の硬度が高くなる。その結果、コイル外周部に冷延原板(熱延鋼板)の長手方向に温度むら(硬度むら)が生じる。この硬度むらを起因として、冷延でのゲージハンチング(板厚変動)が発生しており、設備保全や操業安定化および品質の観点から対策が急務となっていた。
【0003】
このような冷延でのゲージハンチングの発生を防止する技術として、例えば、特許文献1には、コイルカーの熱延コイルとの接触部を加熱し、熱延コイル外周部の局部的なマルテンサイト変態を抑制することにより、熱延コイルの硬度変動を防止することが開示されている。また、コイル置き場のコイル置き台(コイルスキッド)の熱延コイルとの接触部を断熱等することにより、熱延コイルの硬度変動防止効果を更に高めることができることも記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、熱延鋼板の巻き取り後にコイルボックスを用いる場合において、断熱材で囲まれた保持容器の内部に、熱延コイルを収容し、断熱材の上に熱延コイルを保持する鋼製の保持部材を設け、この保持部材の質量を熱延コイルの質量の10%以下とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-001019号公報
【文献】特開2015-167992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、コイルカーの熱延コイルとの接触部を加熱することからコスト増となる。また、この場合、マルテンサイト変態を抑制することはできるが、冷却速度の微妙な差をさらに小さくすることが望まれる。加えて、コイルスキッドの熱延コイルとの接触部を断熱する方法として、コイルスキッドと熱延コイルとの間に断熱材を敷設することが開示されているが、この場合は、断熱材がコイルに付着してしまう恐れがある。
【0007】
上記特許文献2の技術では、鋼製の保持部材の下の断熱材が1層のみであるために、断熱材の強度不足により断熱材が変形してしまうという問題がある。また、特許文献2の図1および図2に示すように、熱延コイルの外周部と断熱材とが接触している場合、断熱材がコイルに付着してしまう恐れがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、コイルスキッドの強度を確保しつつコイルスキッドによる熱延コイルの外周部の偏冷却を防止することで、この偏冷却の結果生じる熱延コイルの長手方向の硬度むらを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、熱延鋼板を巻き取った熱延コイルが載置されるコイルスキッドであって、金属板と断熱材とが、それぞれ少なくとも2層以上交互に積層され、前記断熱材の総厚みが100mm以上であり、前記金属板が前記熱延コイルと接触することを特徴としている。
【0010】
本発明によれば、コイルスキッド自体(ひいては、コイルスキッドが設けられるコイル置き場やコイルカー、コイルボックス)の強度を確保しつつ、コイルスキッドによる熱延コイルの外周部の偏冷却を防止することができる。したがって、この偏冷却の結果生じる熱延コイルの長手方向の硬度むらを抑制すること、さらに冷延を施す場合には前記硬度むらを起因とする鋼板の冷延でのゲージハンチングを抑制することが可能となる。
【0011】
前記断熱材の厚みが前記金属板の厚みよりも大きくてもよい。
【0012】
前記断熱材のそれぞれの厚みが、いずれも70mm以下であってもよい。
【0013】
別な観点による本発明は、熱延鋼板をコイルに巻き取った後に、巻き取った熱延コイルをコイルカーによりコイル置き場まで搬送し、前記コイルカーと前記コイル置き場のいずれか一方または両方において前記熱延コイルを冷却する鋼板の製造方法であって、前記コイルカーと前記コイル置き場のいずれか一方または両方に、上記コイルスキッドが設けられていることを特徴としている。
【0014】
前記コイルカーと前記コイル置き場のいずれか一方または両方に、前記熱延コイルを内部に収容するためのコイルボックスが設けられ、前記コイルボックス内に上記コイルスキッドが設けられていても良い。
【0015】
本発明によれば、コイルスキッド自体(ひいては、コイルスキッドが設けられるコイル置き場やコイルカー、コイルボックス)の強度を確保しつつ、コイルスキッドによる熱延コイルの外周部の偏冷却を防止することができる。したがって、この偏冷却の結果生じる熱延コイルの長手方向の硬度むらを抑制することが可能となる。
【0016】
前記熱延鋼板の巻き取り温度が400℃~750℃であっても良い。
【0017】
前記熱延コイルを冷却した後、冷延しても良い。なお、冷延する場合であっても、前記硬度むらを起因とする鋼板の冷延でのゲージハンチングを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、コイルスキッドの強度を確保しつつコイルスキッドによる熱延コイルの外周部の偏冷却を防止することで、この偏冷却の結果生じる熱延コイルの長手方向の硬度むらを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るコイルスキッドの構成の概略を示す説明図である。
図2】断熱材の下面から室温の鋼板を接触させた際の断熱材の厚み方向の温度変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
本発明の実施形態では、上述したような課題を踏まえ、熱延コイルの長手方向の硬度むらを抑制し、さらに冷延を施す場合には前記硬度むらを起因とする鋼板の冷延でのゲージハンチングを抑制すべく、コイルスキッドによる熱延コイルの外周部の偏冷却を防止する手段として、金属板と断熱材とが、それぞれ少なくとも2層以上交互に積層されたコイルスキッドを採用することとした。また、前記金属板が前記熱延コイルと接触しており、つまりコイルスキッドの熱延コイルと接触する側の表面は前記金属板で構成される。このようなコイルスキッドを採用することで、コイルスキッドの強度と熱延コイルに対する断熱効果を両立できる。以下、このような本実施形態に係るコイルスキッドについて詳述する。
【0022】
(コイルスキッド)
図1は、本実施形態に係るコイルスキッド10の構成の概略を示す説明図である。コイルスキッド10は、例えばコイル置き場やコイルカー、コイルボックスなどにおいて、熱延コイル1を載置させるために設けられる。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係るコイルスキッド10は、熱延鋼板をコイラー等により巻き取った後の熱延コイル1を載置するコイル載置台であって、金属板11と断熱材12とが、それぞれ少なくとも2層以上交互に積層された構造(つまり少なくとも4層の積層構造)を有している。ここで、本実施形態では、金属板11と断熱材12とを、それぞれ少なくとも2層以上交互に積層しているが、このような構造は、コイルスキッド10の強度と熱延コイル1に対する断熱効果を両立させるために必要な構成である。一方、金属板11の総厚みおよび断熱材12の総厚みがそれぞれ、2層以上積層した場合と同一であっても、金属板11と断熱材12とが1層ずつのみ積層されている場合には、コイルスキッド10の強度が不足し、例えば、金属板11が凹むなどの不都合が生じる。
【0024】
金属板11としては、例えば、鉄板(鋼板)、ステンレス鋼板、銅板、チタン板、およびアルミニウム板等(好ましくは鉄板(鋼板)、およびステンレス鋼板)を使用できる。また、断熱材12としては、例えば、グラスウール、ロックウール、およびセラミックファイバー等の無機材料、ならびに無機材料と樹脂の複合板等(好ましくは鉄板(鋼板)、およびステンレス鋼板)を使用できるが、熱延コイル1からのコイルスキッド10の抜熱を抑制可能な断熱効果を有する材質であれば特に制限されない。ここで、断熱材とは800℃以下で熱伝導率0.3W/m/K以下の機能を有する材料を意味する。
【0025】
また、本実施形態では、コイルスキッド10の最表層(つまり熱延コイル1と接触する側)に位置する金属板11は、熱延コイル1と接触している。断熱材12がコイルスキッド10の最表層に位置し、熱延コイル1と接触する場合には、上述したように、断熱材12が熱延コイル1の外周部に付着してしまう恐れがある。また、断熱材12としては、例えば、グラスウールのような硬度の比較的低い素材が用いられるため、強度が不足し、コイルスキッド10の表面が凹むなどの不都合が生じる。
【0026】
以上のような本実施形態に係るコイルスキッド10によれば、コイルスキッド10自体(ひいては、コイルスキッド10が設けられるコイル置き場やコイルカー、コイルボックス)の強度を確保しつつ、コイルスキッド10による熱延コイル1の外周部の偏冷却を防止することができる。したがって、この偏冷却の結果生じる熱延コイル1の長手方向の硬度むらを抑制すること、さらに冷延を施す場合には前記硬度むらを起因とする鋼板の冷延でのゲージハンチングを抑制することが可能となる。
【0027】
ここで、断熱材12の総厚みは100mm以上であることが好ましい。特に、熱延鋼板の巻き取り温度が400℃~750℃であり、熱延鋼板の引張り強度(製品強度)が700MPa以上の高強度鋼板(ハイテン)の場合には、断熱材12の総厚みは100mm以上であることが好ましい。以下、図2を参照しながら、断熱材12の総厚みが100mm以上であることが好ましい理由を説明する。なお、2層以上存在する各断熱材12の平均厚みの総和が断熱材12の総厚みである。例えば、図1に示す熱延コイル1に近い側の断熱材12の厚みとは、熱延コイル1に近い側の金属板11と熱延コイル1から遠い側の金属板11との表面間の距離を意味する。また、平均厚みとは、無作為に選択した5箇所(ただし熱延コイル1との接触が想定される領域を測定の対象領域とする)の厚みの算術平均を意味する。
【0028】
図2は、断熱材の下面から室温の鋼板を接触させた際の断熱材の厚み方向の温度変化の一例を示すグラフである。
【0029】
断熱材12の総厚みの好適範囲を検討するため、まず初めに、一例として成分が質量%で、C:0.2%、Si:0.1%、Mn:2.0%、P:0.005%、S:0.001%を含む、1.2GPa級冷延鋼板用のスラブを加熱炉で1200℃に加熱し、熱間圧延により板厚2.5mmまで圧延した。熱間圧延後に、コイラーを用いて720℃で巻き取った熱延コイルを複数用意した。
【0030】
次いで、これらの熱延コイルを通常の鉄製のコイルスキッドを有するコイル置き場にて常温まで冷却し、冷間圧延により板厚1.19mmまで圧延した。その際の熱延鋼板および冷延鋼板の板厚の長手方向分布を測定したところ、熱延では発生していないゲージハンチングが冷延で発生していることがわかった。この冷延鋼板の長手方向における板厚分布でのみ確認できるゲージハンチングの周期が熱延コイルの一巻き分に相当していることが確認できた。コイルスキッドによる熱延コイルの外周部の偏冷却により熱延コイルの長手方向に硬度むらが生じ、冷延鋼板において、その硬度むらを起因とするゲージハンチングが発生する。
【0031】
ここで、上記熱延鋼板の連続冷却変態(CCT:Continuous Cooling Transformation)線図と、鉄製のコイルスキッドからの抜熱による鋼板の温度変化の関係を調査すると、熱延鋼板のコイルへの巻き取り後200秒経過したときに約90%の変態率であり、変態が殆ど完了してしまっている状態であることがわかる。ここで、熱延鋼板の強度(硬度)は、その冷却速度に依存して形成された組織が影響する。そこで、本発明者らは巻き取り後200秒経過したときに変態が進みすぎないようなコイルスキッドの構造を検討した。
【0032】
本実施形態では、コイルスキッドによる熱延コイルの外周部との接触部からの抜熱の影響が無いように、断熱材を有するコイルスキッドを用い、熱延鋼板のコイルへの巻き取り後200秒経過したときに、熱延コイルの外周部の温度が殆ど変わらず、変態組織に影響がでないような断熱材の厚みを検討した。この検討のため、断熱材自体の温度解析を実施した。
【0033】
具体的には、断熱材として、720℃に加熱した厚みが0.15mのグラスウールを用い、この断熱材に下面(断熱材の上面を基準として、そこから厚み方向に0.15m下の面)から室温の鋼板を接触させることにより断熱材を冷却していくときの当該断熱材の厚み方向の温度変化を測定した。その結果を図2に示した。例えば、図2における「1s」の凡例は、断熱材へ鋼板を接触させてから1秒経過後における断熱材の厚み方向の温度変化を示している。他も同様である。
【0034】
図2に示すように、例えば、断熱材へ鋼板を接触させてから1秒経過後では、断熱材のほぼ全厚みで温度が低下しておらず、冷却はほとんどされていないことがわかる。また、断熱材へ鋼板を接触させてから200秒経過後においては、断熱材の厚みが0.05mの部分までは温度がほとんど低下していなかった。その結果、グラスウール相当の熱物性値を有する断熱材を用いた場合、コイルスキッド10が有する断熱材12の総厚みが少なくとも100mm(=0.15m-0.05m)あれば、コイルスキッド10に接触する熱延コイル1の外周部が殆ど冷却されず(すなわち、熱延コイル1の外周部を断熱でき)、偏冷却の影響を受けず、変態組織にも影響がでないことがわかった。変態組織にも影響がでない(変態が進みにくい)ことは、熱延鋼板のCCT線図と、鉄製のコイルスキッドからの抜熱による鋼板の温度変化の関係の調査結果から、巻き取り後200秒後においても殆ど冷却されていなければ、変態率が50%未満であることからもわかる。
【0035】
以上の検討より、本実施形態に係るコイルスキッド10では、断熱材12の総厚みが100mm以上であることが好ましい。断熱材12の総厚みの上限値は、特に限定されるものではないが、断熱効果と強度との兼合いから、500mm以下であってもよい。
【0036】
また、コイルスキッド10は、金属板11と断熱材12とが、それぞれ少なくとも2層以上交互に積層されている。積層構造とすることで、金属板11および断熱材12をそれぞれ1層ずつ有する構造である場合に比べて、コイルスキッド10の強度が高められる。
【0037】
なお、断熱材12のそれぞれの厚みが、いずれも70mm以下であることが好ましい。断熱材12のそれぞれの厚みがいずれも70mm以下であることで、コイルスキッド10の強度がより高められる。断熱材12のそれぞれの厚みの下限値は、特に限定されるものではないが、断熱効果と強度との兼合いから、いずれも10mm以上であってもよい。ここで、断熱材12のそれぞれの厚みとは、2層以上存在する断熱材12ごとの平均厚みを指す。平均厚みとは、無作為に選択した5箇所(ただし熱延コイル1との接触が想定される領域を測定の対象領域とする)の厚みの算術平均を意味する。
【0038】
なお、金属板11の総厚みや各金属板11の厚みは、熱延コイル1の質量から必要とされるコイル置き場の強度を考慮して定めればよい。また、熱延コイル表面に接する金属板が厚い場合には、金属板からの冷却の影響が大きくなってしまうため、熱延コイル表面に接する金属板の厚みは10mm以内が望ましい。
【0039】
本実施形態では、熱延コイル1の巻き取り方法は特に制限されるものではないが、例えば、熱延鋼板をコイラーにより巻き取ったものであってもよい。すなわち、本実施形態に係るコイルスキッド10は、コイルボックスと同時に運用されてもよく、つまり熱延コイル1を内部に収容して保温するコイルボックス(保温ボックス)の中に本実施形態に係るコイルスキッド10を設けてもよい。本実施形態に係るコイルスキッド10をコイルボックスと同時に運用することで、熱延コイル1はコイルボックスによって保温された状態で冷却されるため、コイルスキッド10を通じた抜熱をさらに低減することができる。なお、コイルスキッド10をコイルボックスと同時に運用する場合、コイルカーとコイル置き場のいずれか一方または両方に、前記コイルスキッド10及び前記コイルボックスを設けてもよい。
【0040】
また、本実施形態では、コイルスキッド10が設けられる場所は特に制限されるものではないが、例えば、熱延コイル1を巻き取り後にコイル置き場まで搬送するコイルカー上、熱延コイル1を熱延後に載置するコイル置き場などに設けることができる。また、例えば熱間圧延ラインの粗圧延工程と仕上げ圧延工程との間において熱延コイル1を保管するためのコイルボックス(保温ボックス)内にコイルスキッド10が設けられても良い。
【0041】
(鋼板の製造方法)
以上、本実施形態に係るコイルスキッド10の構成について詳細に説明したが、続いて、このコイルスキッド10上で熱延コイル1を冷却する工程を含む本実施形態に係る鋼板の製造方法について詳述する。
【0042】
本実施形態に係る鋼板の製造方法では、熱延鋼板をコイルに巻き取った後に、巻き取った熱延コイル1をコイルカーによりコイル置き場まで搬送し、コイルカーとコイル置き場のいずれ一方または両方において熱延コイル1を冷却する。本実施形態では、コイルカーとコイル置き場のいずれか一方または両方に、上述したコイルスキッド10、すなわち、金属板11と断熱材12とがそれぞれ少なくとも2層以上交互に積層されたコイルスキッド10が設けられている。また、金属板11が熱延コイル1と接触している。
【0043】
以上のような本実施形態に係るコイルスキッド10を用いた鋼板の製造方法によれば、コイルスキッド10自体(ひいては、コイルスキッド10が設けられるコイル置き場やコイルカー)の強度を確保しつつ、コイルスキッド10による熱延コイル1の外周部の偏冷却を防止することができる。したがって、この偏冷却の結果生じる熱延コイル1の長手方向の硬度むらを抑制することが可能となる。さらに、この熱延コイル1を用いて冷延して鋼板を製造した場合、熱延コイル1の長手方向に生じた硬度むらを起因とする鋼板の冷延でのゲージハンチングを抑制することができる。
【0044】
本実施形態に係る鋼板の製造方法にあっては、例えば、巻き取り温度を400℃~750℃として熱延コイル1を製造してもよい。そして、この熱延コイル1を冷却後、冷延することで、引張り強度が700MPaを超える鋼板を製造してもよい。本実施形態によれば、冷延でのゲージハンチングを抑制した鋼板の製造方法を実現することができる。
【実施例
【0045】
(実施例1)
上述した本発明の実施の形態にかかるコイルスキッド10を用いた鋼板の製造方法の効果を確認するため、成分が質量%で、C:0.2%、Si:0.1%、Mn:2.0%、P:0.005%、S:0.001%を含む、1.2GPa級冷延鋼板用のスラブを加熱炉で1200℃に加熱し、熱間圧延により板厚2.5mmまで圧延した。熱間圧延後に、コイラーを用いて720℃で巻き取った熱延コイルを複数用意した。
【0046】
また、熱延コイルの質量からコイル置き場の必要強度を検討したところ、厚みが1mmの鋼板2枚と、総厚みが100mmのグラスウール製の断熱材とを交互に積層したコイルスキッドを用いることで、十分強度が保てることがわかった。そこで、図1に示すコイルスキッド10と同様の構造を有するコイルスキッドを作製した。すなわち、熱延コイルの外周部と接触する部分に、金属板として1mm厚みのステンレス鋼板を敷き、その下層に断熱材として50mm厚みのグラスウールを、さらにその下層に1mm厚みのステンレス鋼板を、さらにその下層に50mm厚みのグラスウールを積層したコイルスキッドをコイル置き場上に製作した。
【0047】
このコイルスキッドを有するコイル置き場において上記のようにして用意された熱延コイルを常温まで冷却し、冷却した熱延鋼板を1.19mmまで冷間圧延し、高強度鋼板を製造した。
【0048】
参考例1
断熱材としての各層のグラスウールの厚みをそれぞれ、50mmから40mmに変更した以外は、実施例1と同様にして高強度鋼板を製造した。
【0049】
(比較例1)
熱延コイルの外周部と接触する部分に、金属板として2mm厚みのステンレス鋼板を敷き、その下層に断熱材として100mm厚みのグラスウールを積層したコイルスキッドを作製した以外は、実施例1と同様にして高強度鋼板を製造した。
【0050】
(比較例2)
熱延コイルの外周部と接触する部分に、金属板として1mm厚みのステンレス鋼板を敷き、その下層に断熱材として80mm厚みのグラスウールを積層したコイルスキッドを作製した以外は、実施例1と同様にして高強度鋼板を製造した。
【0051】
(比較例3)
熱延コイルの外周部と接触する部分に、金属板として2mm厚みのステンレス鋼板を敷いたコイルスキッドを作製し、且つ断熱材として100mm厚みのグラスウールを前記熱延コイルの外周部と前記金属板との間に挟んで介在させた以外は、実施例1と同様にして高強度鋼板を製造した。
【0052】
(評価方法)
以上のようにして製造した実施例1、参考例1および比較例1~3の高強度鋼板について、コイルスキッドの強度および断熱効果を評価した。
【0053】
(1)コイルスキッドの強度の評価
コイルスキッドの強度の評価は、熱延コイルの冷却後にコイルスキッドの表面を観察し、以下のように評価した。
○:金属板部分に何の影響もなかった場合
×:金属板部分に凹み・砕け等の変形が生じた場合
【0054】
(2)断熱効果の評価
断熱効果の評価は、冷延でのゲージハンチングの発生状況について、以下の式により表される冷延鋼板のハンチング量Hを指標として以下のように評価した。
H={(ハンチングの振幅[mm])/(全厚[mm])×100[%]
◎:Hが0.5%未満
○:Hが0.5%以上1%未満
×:Hが1%以上
【0055】
(評価結果)
以上の評価の結果を表1に示す。表1に示すように、金属板と断熱材とがそれぞれ2層ずつ積層された実施例1および参考例1は、コイルスキッドの強度および断熱効果のいずれも良好な結果となった。特に、断熱材の総厚みが100mmである実施例1は、断熱効果に特に優れていた。
【0056】
一方、金属板と断熱材とがそれぞれ1層ずつしか設けられていないコイルスキッドを用いた比較例1および比較例2では、コイルスキッドの強度に劣る結果となった。特に、金属板の総厚みが1mmしかなく、かつ、断熱材の総厚みが100mm未満である比較例2では、強度および断熱効果の両方に劣る結果となった。また、コイルスキッド内に断熱材を設けるのではなく、断熱材を熱延コイルと金属板との間に挟んで介在させた比較例3では、断熱材がつぶれてしまい断熱効果の両方に劣る結果となった。さらに比較例3では、断熱材が熱延コイルに接触しており、冷却後の熱延コイルの表面に断熱材の付着が観察された。
【0057】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、コイルスキッド、およびこのコイルスキッド上で熱延コイルを冷却する鋼板の製造方法に有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 熱延コイル
10 コイルスキッド
11 金属板
12 断熱材
図1
図2