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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】放射能測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/167 20060101AFI20230111BHJP
   G01T 7/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
G01T1/167 C
G01T1/167 H
G01T7/00 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018170201
(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公開番号】P2020041930
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年 8月31日発行 日本きのこ学会第22回大会講演要旨集、p.61 日本きのこ学会予稿集編集委員会 〔刊行物等〕 平成30年 9月12日開催 日本きのこ学会第22回大会 函館アリーナ
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 美佳
(72)【発明者】
【氏名】片桐 秀明
(72)【発明者】
【氏名】榎本 良治
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/105519(WO,A1)
【文献】特開2015-222227(JP,A)
【文献】特開2002-361225(JP,A)
【文献】特開昭55-125467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00 - 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも所定のX線としての137Cs由来の32keVにおけるX線の入射線量に応じた信号を出力するX線検出器を用いて対象物の放射能を測定する方法であって、
前記X線検出器を収容する、前記所定のX線に対する遮蔽性を有する金属からなる開閉可能な筐体からなる筐体が、前記X線検出器が前記対象物に対して露出するように開状態で配置され、かつ、前記所定のX線に対する遮蔽性を有する金属部材からなる遮蔽部材であって、当該遮蔽部材により囲まれた空間への前記所定のX線以外のX線の進入が許容される程度に肉薄で可撓性を有する板状の遮蔽部材が、少なくとも前記筐体における前記X線検出器の露出領域を除いて前記対象物を囲んで前記空間を形成するように配置されている第1状態を実現する第1準備工程と、
前記第1状態において前記X線検出器の出力信号に応じた前記所定のX線の線量を測定する第1測定工程と、
前記筐体が、前記X線検出器が前記対象物から遮蔽されるように閉状態で配置され、かつ、前記遮蔽部材が、前記対象物を囲んでいない点で前記第1状態とは異なる第2状態を実現する第2準備工程と、
前記第2状態において前記X線検出器の出力信号に応じた前記所定のX線の線量を測定する第2測定工程と、
前記第1測定工程において測定された前記所定のX線の線量と、前記第2測定工程において測定された前記所定のX線の線量と、の差分に基づき、前記対象物の放射能濃度を評価する評価工程と、を含んでいることを特徴とする放射能測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の放射能を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所事故によって、福島県およびその周辺県を含む地点におけるシイタケ栽培およびこれに用いる原木生産は深刻な被害を受けている。当該地点における原木およびこれを用いて栽培されたシイタケの品質に対する信頼性を維持するためには、例えば林野庁が定めた指標値(例えば、放射性セシウムについては「50Bq/kg」である。)を超える放射能の高い原木を除外する必要がある。そこで、核種として137Cs(セシウム137)に由来する662keVにおける対象物の放射線の線量を測定することにより、非破壊方式で対象物の放射性汚染物質を検査する装置を採用することが考えられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-220029公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、137Csに由来する662keVにおける放射線は、福島県およびその周辺県を含む地域では対象物の周囲に存在する物体からも多量に放出されている。このため、当該物体の放射能の影響を排除して当該対象物に由来する低レベルの放射能を測定するためには、比較的厚く、その分だけ重量が大きい鉛製の遮蔽体を用いる必要がある。よって、立木等のその場から動かせないような対象物の放射能を測定するため、重量が大きい鉛製の遮蔽体を伴う放射能測定装置を原木生産林等、当該対象物がある場所まで運搬することは著しい労力を伴う。
【0005】
そこで、本発明は、立木等のようにその場から動かせない対象物に由来する放射能濃度が低い場合でも、当該放射能の測定の負荷軽減を図りながら、当該測定精度の向上を図りうる方法等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、先行技術のように137Cs由来の662keVのガンマ線ではなく、137Cs由来の32keVのX線であれば、運搬容易な程度に薄い金属板によって遮蔽可能であり、かつ、X線の線量が微量であっても、高精度の放射能測定が可能であることを知見した。
【0007】
前記知見に基づく本発明の放射能測定装置は、少なくとも所定のX線としての137Cs由来の32keVにおけるX線の入射線量に応じた信号を出力するX線検出器と、前記X線検出器を収容する、前記所定のX線に対する遮蔽性を有する金属からなる開閉可能な筐体と、を有するX線検出ユニットと、前記所定のX線に対する遮蔽性を有する金属部材からなり、かつ、可撓性を有する板状の遮蔽部材と、前記X線検出器の出力信号に応じた前記所定のX線の基準線量を記憶する記憶装置と、前記X線検出器の出力信号に応じた前記所定のX線の線量と、前記記憶装置により記憶されている前記所定のX線の前記基準線量と、の差分に基づき、前記対象物の放射能濃度を評価するように構成されている演算処理装置と、を有する端末装置と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
前記知見に基づく本発明の放射能測定方法は、少なくとも所定のX線としての137Cs由来の32keVにおけるX線の入射線量に応じた信号を出力するX線検出器を用いて対象物の放射能を測定する方法であって、前記X線検出器を収容する、前記所定のX線に対する遮蔽性を有する金属からなる開閉可能な筐体からなる筐体が、前記X線検出器が前記対象物に対して露出するように開状態で配置され、かつ、前記所定のX線に対する遮蔽性を有する金属部材からなり、かつ、可撓性を有する板状の遮蔽部材が、少なくとも前記筐体における前記X線検出器の露出領域を除いて前記対象物を囲むように配置されている第1状態を実現する第1準備工程と、前記第1状態において前記X線検出器の出力信号に応じた前記所定のX線の線量を測定する第1測定工程と、前記筐体が、前記X線検出器が前記対象物から遮蔽されるように閉状態で配置され、かつ、前記遮蔽部材が、前記対象物を囲んでいない点で前記第1状態とは異なる第2状態を実現する第2準備工程と、前記第2状態において前記X線検出器の出力信号に応じた前記所定のX線の線量を測定する第2測定工程と、前記第1測定工程において測定された前記所定のX線の線量と、前記第2測定工程において測定された前記所定のX線の線量と、の差分に基づき、前記対象物の放射能濃度を評価する評価工程と、を含んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の放射能測定装置および放射能測定方法のそれぞれによれば、「第1状態」が実現される。第1状態では、X線検出器を収容する開閉可能な筐体が開状態であり、X線検出器が対象物に対して露出するようにX線検出ユニットが配置されている。さらに、可撓性を有する板状の遮蔽部材が、少なくとも筐体におけるX線検出器の露出領域を除いて対象物を囲むように配置されている。筐体および遮蔽部材はともに所定のX線に対して遮蔽性を有する金属により構成されている。所定のX線として、137Cs由来の32keVのX線が採用されていることにより、筐体および遮蔽部材を構成する金属の薄肉化、ひいては筐体および遮蔽部材のそれぞれの軽量化を図りながらも、当該所定のX線に対する高い遮蔽効果を筐体および遮蔽部材のそれぞれにもたせることができる。
【0010】
このため、第1状態では、対象物に由来する所定のX線(=A0)を含むX線(=A)に加えて、当該対象物の周囲の物体に由来するX線(=B)のうち、所定のX線(=B0)が少なくとも部分的に除かれたX線(=B-B0)の線量(=I(A+B-B0))に応じた信号がX線検出器から出力される。
【0011】
さらに、「第2状態」が実現される。第2状態では、筐体が閉状態であり、X線検出器が対象物から遮蔽されるようにX線検出ユニットが配置されている。さらに、遮蔽部材が対象物を囲んでいない。その他の点は第1状態と共通である。
【0012】
このため、第2状態では、対象物に由来するX線(=A)のうち所定のX線(=A0)を除くX線(=A-A0)に加えて、当該対象物の周囲の物体に由来するX線(=B)のうち、所定のX線(=B0)が少なくとも部分的に除かれたX線(=B-B0)の線量(=I(A-A0+B-B0))に応じた信号がX線検出器から出力される。第2状態におけるX線の線量が「基準線量」としてあらかじめ記憶装置により記憶されていてもよい。
【0013】
よって、第1状態におけるX線検出器の出力信号に応じたX線の線量(=I(A+B-B0))と、第2状態におけるX線検出器の出力信号に応じたX線の線量(=I(A-A0+B-B0))と、の差分は、対象物に由来する所定のX線(=A0)の線量(=I(A0))に応じたものとなる。当該差分が顕在化しやすいようなエネルギー(または波長)を有する137Cs由来の32keVのX線が所定のX線として採用される。これにより、対象物に由来する所定のX線(=A0)の線量(=I(A0))に基づき、当該対象物の放射能濃度の測定精度の向上が図られる。
【0014】
さらに、前記のように遮蔽部材は所定のX線に対する遮蔽性を有しながらも、可撓性を有する程度に肉薄の金属板材により構成されているため、保形性が高い、変形困難な肉厚の部材よりも軽量化が可能である。これにより、遮蔽部材の変形を伴って第1状態および第2状態の切り替えの簡易化が図られている。また、所定のX線に対する遮蔽性を確保できる程度に筐体を構成する金属部材を肉薄にすることができる。このため、筐体および遮蔽部材を備えている放射能測定装置の運搬の負荷軽減、ひいては放射能測定の負荷軽減が図られている。よって、立木など、その場所から動かせない対象物であっても、その放射能の測定精度を高く維持しながら、当該測定の負荷軽減が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態としての放射能測定装置の構成説明図。
図2A】開状態における筐体の斜視図。
図2B】閉状態における筐体の斜視図。
図3】本発明の一実施形態としての放射能測定方法のフローチャート。
図4A】第1状態に関する説明図。
図4B】第2状態に関する説明図。
図5】第1状態および第2状態でのX線線量測定結果に関する説明図。
図6】第1状態および第2状態でのX線線量測定結果の差分に関する説明図。
図7】放射能濃度と所定のX線の線量との関係に関する説明図。
図8】各種金属の厚さと所定のX線の透過率との関係に関する説明図。
図9】本発明の一実施形態としての放射能情報処理システムの構成説明図。
図10】本発明の一実施形態としての放射能情報処理システムの機能説明図。
図11A】対象物の放射能濃度に関する情報の一例に関する説明図。
図11B】対象物の経済的価値に関する情報の一例に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(放射能測定装置(構成))
図1に示されている本発明の一実施形態としての放射能測定装置は、X線検出ユニット10と、遮蔽部材20と、端末装置100と、を備えている。
【0017】
X線検出ユニット10は、結晶シンチレータ11および光電子増倍管12により構成されているX線検出器(シンチレーションカウンタ)と、当該X線検出器を収容する筐体14と、を有している。筐体14は一端が遮蔽された略矩形筒状の金属板により形成され、当該筒の他端の開口16を通じて内部が外部に開放されている開状態(図2A参照)と、開口16が金属板により形成されている蓋部材18により閉じられている閉状態(図2B参照)と、が切り替えられる。
【0018】
結晶シンチレータ11は、例えば1cm厚のヨウ化セシウムにより構成され、ガンマ線(X線)の入射に応じて発光する。光電子増倍管12は、結晶シンチレータ11が発した光を検出する。これにより、X線の線量がイベントの回数として検出される。
【0019】
筐体14および蓋部材18は、例えば、Pb、Fe、Al、Cu、Ti、NiおよびZnからなる群から選択される1種以上の金属またはこれらの合金の板材により形成されている。図8には、各種金属の厚さと137Cs由来の32keVの特性X線(「所定のX線」に相当する。)の遮蔽率との関係が示されている。図8から、Pb、Fe、Cu、Ni、Znが厚さ0.10cm以下であっても、所定のX線の透過率が10%未満である。このため、Pb、Fe、Cu、Ni、Zn等の金属板により形成された筐体14および蓋部材18は、当該金属板の厚さが0.10mm程度であっても所定のX線に対する高い遮蔽性を有する。
【0020】
筐体14によるX線検出器(シンチレーションカウンタ)の遮蔽効果を方位によらずに均等にするため、筐体14を構成する金属板材の厚さは統一することが好ましい。例えば、筐体14の側壁の厚さが2mmである一方、底の厚さが1mmである、ということではなく、厚さ1mmの鉄板により筐体14がすべて1mmの鉄板で製作されることが好ましい。
【0021】
遮蔽部材20は、展開図において一方の短辺において略矩形状に切り欠かれた、略矩形状の金属板により形成されている。遮蔽部材20は、通常は、両短辺が相互に離間しており、軸線方向に延在しているスリットを側面に有する略円筒状の形状を有していてもよい。遮蔽部材20は、例えば、Pb、Fe、Al、Cu、Ti、NiおよびZnからなる群から選択される1種以上の金属またはこれらの合金の板材により形成されている。遮蔽部材20も、筐体14および蓋部材18と同様に、当該金属板の厚さが0.10mm程度であっても所定のX線に対する高い遮蔽性を有する。また、遮蔽部材20は、0.10mm程度の肉薄の金属板からなるため、両短辺を接触させるように、略円筒状に変形される程度の可撓性を有している(図1参照)。
【0022】
遮蔽部材20の形状は、対象物Xの外形に合わせて様々に変更されてもよく、その変形態様もさまざまに変更されてもよい。遮蔽部材20が対象物Xの外形に沿った形状に変形されたうえで取り外し可能に部分的に連結される単一の金属板により構成されるほか、ボルト-ナット等の機械的な連結機構によって取り外し可能に連結され、対象物の外形に沿った形状に組み立てられる複数の独立した平板状または曲板状の金属板によって構成されていてもよい。例えば、一対の同径かつ長さが同じ略半円筒状の金属板が、端縁部で機械的な連結機構により取り外し可能に連結されることによって略円筒状の遮蔽部材20が組み立てられてもよい。
【0023】
端末装置100は、パソコン、スマートホンおよびタブレット型端末等のうち少なくともいずれか1つにより構成されている。端末装置100は、筐体14に対して固定されていてもよい。端末装置100は、記憶装置102と、入力装置111と、出力装置112と、演算処理装置120と、を備えている。
【0024】
記憶装置102は、メモリにより構成され、第2状態(後述する。)におけるX線検出器の出力信号に応じたX線の線量を基準線量として記憶するなど、さまざまな情報を記憶する。入力装置111は、タッチ式ボタン、キーボードおよびマウスのうち少なくとも1つにより構成され、さらにはX線検出器からの出力信号が有線または無線で入力される入力インターフェース回路により構成されている。出力装置112は、ディスプレイ装置(画像出力装置)、または、ディスプレイ装置および音声出力装置により構成されている。入力装置111および出力装置112がタッチパネルにより構成されていてもよい。
【0025】
演算処理装置120は、CPU(マルチコアプロセッサまたはシングルコアプロセッサなど)により構成され、X線検出器の出力信号に応じたX線の線量と、記憶装置102により記憶されている基準線量と、の差分に基づき、対象物Xの放射能濃度を評価するように構成されている。演算処理装置120が割り当てられた演算処理を実行するように「構成されている」とは、演算処理装置120が記憶装置102を構成するメモリ等の種々のメモリから必要なデータおよびソフトウェアを読み取り、当該データを対象として当該ソフトウェアにしたがった演算処理を実行するようにプログラムされているまたは設計されていることを意味する。
(放射能測定方法) 前記構成の放射能測定装置を用いた本発明の一実施形態としての放射能測定方法について説明する。
【0026】
第1準備工程において「第1状態」が実現される(図3/STEP02)。第1状態では、筐体14が開状態であり、X線検出器を構成する結晶シンチレータ11が筐体開口16を通じて対象物Xに対して露出するようにX線検出ユニット10が配置されている(図2A参照)。第1状態では、さらに、可撓性を有する板状の遮蔽部材20が、筐体14におけるX線検出器の露出領域(開口16)を除いて対象物Xを囲むように変形されて配置されている。対象物Xとしてシイタケ栽培用の原木または建材用の原木等の立木が選択された場合、図4Aに示されているようにX線検出ユニット10および遮蔽部材20が対象物Xに対して配置されている。X線検出ユニット10および遮蔽部材20のそれぞれの対象物Xに対する位置および姿勢を維持するため、ボルト・ナット等の機械的な固定機構または連結機構のほか、載置台などの支持機構が用いられる。
【0027】
X線の検出感度向上の観点から複数個のX線検出ユニット10が用いられてもよい。この場合、遮蔽部材20の開口26の形状、サイズおよび個数が、当該複数個のX線検出ユニットに対応してさまざまに変更されてもよい。
【0028】
第1測定工程では、第1状態においてX線検出器(シンチレーションカウンタ)の出力信号に応じたX線の線量が測定される(図3/STEP04)。これにより、図5に実線で示されているように、各エネルギー(波長)におけるイベント回数(特定X線の線量に相当する。)が測定される。
【0029】
前記のように筐体14および遮蔽部材20はともに所定のX線に対して遮蔽性を有している。このため、第1状態では、対象物Xに由来する所定のX線としての137Cs由来の32keVのX線(=A0)を含むX線(=A)に加えて、当該対象物Xの周囲の物体(立木付近の土および落ち葉など)に由来するX線(=B)のうち、所定のX線(=B0)が少なくとも部分的に除かれたX線(=B-B0)の線量(=I(A+B-B0))に応じた信号がX線検出器から出力される。
【0030】
さらに、第2準備工程において「第2状態」が実現される(図3/STEP06)。第2状態では、筐体14が閉状態であり、X線検出器が対象物Xから遮蔽されるようにX線検出ユニット10が配置されている。さらに、遮蔽部材20が対象物Xを囲んでいない。その他の点は第1状態と共通である。対象物Xとして立木が選択された場合、図4Bに示されているようにX線検出ユニット10が対象物Xに対して配置されている。
【0031】
第2測定工程では、第2状態においてX線検出器(シンチレーションカウンタ)の出力信号に応じたX線の線量が測定される(図3/STEP08)。これにより、図5に点線で示されているように、各エネルギー(波長)におけるイベント回数(特定X線の線量に相当する。)が測定される。
【0032】
第2状態では、対象物Xに由来するX線(=A)のうち所定のX線(=A0)を除くX線(=A-A0)に加えて、当該対象物Xの周囲の物体に由来するX線(=B)のうち、所定のX線(=B0)が少なくとも部分的に除かれたX線(=B-B0)の線量(=I(A-A0+B-B0))に応じた信号がX線検出器から出力される。第2状態におけるX線の線量が「基準線量」としてあらかじめ記憶装置102により記憶されていてもよい。
【0033】
評価工程において、第1測定工程において測定されたX線の線量と、第2測定工程において測定されたX線の線量と、の差分に基づき、対象物Xのレベルが評価される(図3/STEP10)。例えば、図6には、当該差分として各エネルギー(波長)におけるイベント回数の差分が示されている。
【0034】
図7には、放射能濃度と、所定のX線(32keV)のイベント回数との関係が示されている。当該関係を求めるにあたり、バックグラウンド(対象物Xの周囲の物体に由来するX線(=B))が少ない実験室において、約280Bq/kgの原木を対象物Xとして、金属板で放射能濃度を調整しながら20~280Bq/kgの範囲に含まれる放射能濃度で測定試験が行われた。その結果、放射能濃度とガンマ線のイベント数とが比例関係にあることが確認された。
【0035】
第1状態におけるX線検出器の出力信号に応じたX線の線量(=I(A+B-B0))と、第2状態におけるX線検出器の出力信号に応じたX線の線量(=I(A-A0+B-B0))と、の差分は、対象物Xに由来する所定のX線(=A0)の線量(=I(A0))に応じたものとなる。当該差分が顕在化しやすいようなエネルギー(または波長)を有するX線が所定のX線として採用される。よって、対象物Xに由来する所定のX線(=A0)の線量(=I(A0))、すなわち32keVにおけるイベント回数に基づき、図7に示されている関係にしたがって、当該対象物Xの放射能濃度の測定精度の向上が図られる。
【0036】
さらに、前記のように遮蔽部材20は所定のX線としての137Cs由来の32keVのX線に対する遮蔽性を有しながらも、可撓性を有する程度に肉薄の金属板材により構成されているため、保形性が高い、変形困難な肉厚の部材よりも軽量化が可能である。これにより、遮蔽部材20の変形を伴って第1状態および第2状態の切り替えの簡易化が図られている。また、所定のX線に対する遮蔽性を確保できる程度に筐体14を構成する金属部材を肉薄にすることができる。このため、筐体14および遮蔽部材20を備えている放射能測定装置の運搬の負荷軽減、ひいては放射能測定の負荷軽減が図られている。よって、立木など、その場所から動かせない対象物であっても、その放射能の測定精度を高く維持しながら、当該測定の負荷軽減が図られる。 (放射能情報処理システム(構成))
【0037】
図9に示されている本発明の一実施形態としての放射能情報処理システムは、第1端末装置Q1と、第2端末装置Q2と、放射能情報処理サーバ200と、により構成されている。第1端末装置Q1および第2端末装置Q2のそれぞれと、放射能情報処理サーバ20とは、ネットワークを介して相互通信可能に構成されている。第1端末装置Q1は、放射能測定装置を構成する端末装置100により構成されていてもよい。第2端末装置Q2は、放射能測定装置を構成する端末装置100とは別個の端末装置により構成されていてもよいが、当該端末装置100と同様の構成を有する。
放射能情報処理サーバ200は、記憶装置202と、入力インターフェース211と、出力インターフェース212と、演算処理装置220と、を備えている。
【0038】
記憶装置202は、メモリにより構成され、さまざまな情報を記憶する。記憶装置202は、放射能情報処理サーバ200と相互通信機能を有するデータベースサーバ(外部記憶装置)により構成されていてもよい。入力インターフェース211は、ネットワークを介したデータ受信機能を有する受信装置により構成されている。出力インターフェース212は、ネットワークを介したデータ送信機能を有する送信装置により構成されている。演算処理装置220は、CPU(マルチコアプロセッサまたはシングルコアプロセッサなど)により構成され、割り当てられた演算処理(後述する。)を実行するように構成されている。
(放射能情報処理システム(機能))
【0039】
前記構成の放射能情報処理システムによれば、第1端末装置Q1により対象物Xの放射能濃度に関する情報が生成される(図10/STEP112)。当該情報の生成に際して、例えば、本発明の一実施形態としての放射能測定装置および方法が採用される(図1図7参照)。
【0040】
第1端末装置Q1から放射能情報処理サーバ200に対して、対象物Xの放射能濃度に関する情報が、対象物Xが存在する地点に関する地点情報とともに送信される(図10/矢印D1)。地点情報は、放射能測定装置または第1端末装置Q1が有する測位機能(GPSおよび必要に応じてジャイロセンサが用いられる。)により測定された、対象物Xが存在する地点の緯度および経度(または緯度、経度および高度)により表わされる。第1端末装置Q1が有する出力装置112に表示されている地図において、ユーザの操作(例えばタップ)により指定された地点により地点情報が特定されてもよい。地点情報が、当該地点が属する地域の広がりを表わす緯度および経度の複数の組み合わせおよび必要に応じて地域名称により表わされていてもよい。
【0041】
放射能情報処理サーバ200が、対象物Xの放射能濃度に関する情報および地点情報を受信し、これらを関連付けて記憶装置202に記憶保持させる。また、演算処理装置220が、対象物Xの放射能濃度に基づき、記憶装置202または外部の記憶装置(データベース)により記憶保持されている、対象物Xの放射能濃度と経済的価値との最新の関係にしたがって、当該対象物Xの経済的価値を評価し、当該経済的価値に関する情報を生成する(図10/STEP202)。対象物Xの経済的価値に関する情報は、その基礎となった放射能濃度に関する情報に関連付けられている地点情報と関連付けられて記憶装置202に記憶保持される。
【0042】
第2端末装置Q2の入力装置111を通じて所定の操作(例えば、所定のアプリケーションソフトウェアにしたがった操作)があった場合、特定地域に存在する対象物Xの放射能濃度に関する情報に対する要求が生成される(図10/STEP122)。特定地域は、例えば、第2端末装置Q2の出力装置112に表示されている地図において、ユーザの操作(例えばダブルタップ)により指定された地域である。当該要求が、特定地域情報とともに第2端末装置Q2から放射能情報処理サーバ200に対して送信される(図10/矢印D2)。
【0043】
放射能情報処理サーバ200が、当該要求および特定地域情報を受信し、演算処理装置220が、特定地域に含まれている地点に対応する地点情報に関連付けられている、対象物Xの放射能濃度に関する情報を記憶装置202から検索する(図10/STEP204)。そして、放射能情報処理サーバ200から要求元の第2端末装置Q2に対して当該検索情報を送信する(図10/矢印D3)。第2端末装置Q2が放射能濃度に関する情報を受信し、演算処理装置220が当該情報を出力装置212に出力させる(図10/STEP124)。
【0044】
これにより、出力装置212を構成するディスプレイ装置には、例えば図11Aに示されているように、対象物Xが存在する地域S1~S5の濃淡により、対象物Xの放射能濃度の高低が表現された、特定地域を含む地図が表示される。また、図11Aに示されている地域のうち例えば第1地域S1がタップされることにより、第1地域S1の代表地点を表わす「緯度X1、経度Y1」というテキストのほか、第1地域S1に存在する対象物Xの個数を表わす「立木本数△」というテキストおよび当該対象物Xに由来する放射能濃度を表わす「放射能濃度▲」というテキストが表示される。
【0045】
第2端末装置Q2の入力装置111を通じて所定の操作(例えば、所定のアプリケーションソフトウェアにしたがった操作)があった場合、特定地域に存在する対象物Xの経済的価値に関する情報に対する要求が生成される(図10/STEP126)。当該要求が、特定地域情報とともに第2端末装置Q2から放射能情報処理サーバ200に対して送信される(図10/矢印D4)。
【0046】
放射能情報処理サーバ200が、当該要求および特定地域情報を受信し、演算処理装置220が、特定地域に含まれている地点に対応する地点情報に関連付けられている、対象物Xの経済的価値に関する情報を記憶装置202から検索する(図10/STEP206)。そして、放射能情報処理サーバ200から要求元の第2端末装置Q2に対して当該検索情報を送信する(図10/矢印D5)。第2端末装置Q2が経済的価値に関する情報を受信し、演算処理装置220が当該情報を出力装置212に出力させる(図10/STEP128)。
【0047】
これにより、出力装置212を構成するディスプレイ装置には、例えば図11Bに示されているように、対象物Xが存在する地域S1~S5の濃淡により、対象物Xの経済的価値の高低が表現された、特定地域を含む地図が表示される。また、図11Bに示されている地域のうち例えば第2地域S2がタップされることにより、第2地域S2の代表地点を表わす「緯度X2、経度Y2」というテキストのほか、第2地域S2に存在する対象物Xの個数を表わす「立木本数〇」というテキストおよび当該対象物Xに由来する経済的価値を表わす「経済的価値●」というテキストが表示される。
(本発明の他の実施形態)
【0048】
前記実施形態では、137Cs由来の32keVにおけるX線が所定のX線とされて対象物Xの放射能が測定されたが、他の実施形態として、例えば、100 keV 以下程度のX線であれば他の核種・エネルギーにおけるX線が所定のX線とされて対象物Xの放射能が測定されてもよい。
【0049】
前記実施形態では、第1端末装置Q1により対象物Xの放射能濃度に関する情報が生成されたが(図10/STEP112参照)、他の実施形態として、第1端末装置Q1からX線検出器の出力信号(図5/実線参照)が放射能情報処理サーバ200に対して送信され、その演算処理装置220により対象物Xの放射能濃度に関する情報が生成されてもよい。この場合、放射能情報処理サーバ200の記憶装置202により、第2状態におけるX線検出器からの出力信号(図5/点線参照)またはこれに応じた対象物Xの放射能濃度に関する基準情報が記憶保持されていてもよい。
【0050】
前記実施形態では、放射能情報処理サーバ200により対象物Xの経済的価値に関する情報が生成されたが(図10/STEP202参照)、他の実施形態として、第1端末装置Q1の演算処理装置120により対象物Xの経済的価値に関する情報が生成されてもよい。
【0051】
前記実施形態では、対象物Xの放射能濃度および経済的価値に関する情報が放射能情報処理サーバ200から第2端末装置Q2に対して送信されたが(図10/矢印D3およびD5参照)、他の実施形態として、対象物Xの放射能濃度および経済的価値に関する情報のうち少なくとも一方が第1端末装置Q1から第2端末装置Q2に対して直接的に送信されてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10‥X線検出ユニット、11‥結晶シンチレータ(X線検出器)、12‥光電子増倍管(X線検出器)、14‥筐体、16‥筐体開口、18‥蓋部材、20‥遮蔽部材、26‥遮蔽開口、100‥端末装置、102‥記憶装置、111‥入力装置、112‥出力装置、120‥演算処理装置、200‥放射能情報処理サーバ、Q1‥第1端末装置、Q2‥第2端末装置。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B