(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04W 48/18 20090101AFI20230111BHJP
H04W 28/18 20090101ALI20230111BHJP
H04W 24/00 20090101ALI20230111BHJP
【FI】
H04W48/18
H04W28/18
H04W24/00
(21)【出願番号】P 2018216855
(22)【出願日】2018-11-19
【審査請求日】2021-10-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】グエン キエン
(72)【発明者】
【氏名】キブリア ミルザ ゴーラン
(72)【発明者】
【氏名】村上 誉
(72)【発明者】
【氏名】石津 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】児島 史秀
【審査官】▲高▼木 裕子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-055124(JP,A)
【文献】特開2014-027450(JP,A)
【文献】特開2016-149619(JP,A)
【文献】特表2012-523144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 - 7/26
H04W 4/00 - 99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線端末と基地局間における無線通信状態を変化させる無線通信システムにおいて、
上記基地局及び上記無線端末の何れか一方又は両方は、
上記無線通信を行う上での状況情報を取得する状況情報取得手段と、
上記状況情報取得手段により取得された状況情報に基づいて上記無線通信において送受信すべきパケットデータにおいて上記無線通信を行う上で必要な条件情報が上位概念から下位概念までが各領域に段階的に記述されたヘッダの検査方法を制御しつつ、これを検査するヘッダ検査手段と、
上記ヘッダ検査手段により検査されたヘッダの記述内容に基づいて、
無線端末と基地局間において無線通信可能な2種以上の無線通信ネットワークの何れかを選択することで、上記無線通信状態を変化させる無線制御手段を備えること
を特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
上記状況情報取得手段は、上記無線端末の移動速度に関する状況情報を取得し、
上記ヘッダ検査手段は、上記無線通信を行う上で必要な消費電力に関する条件情報が上記
各領域に記述されたヘッダを検査すること
を特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
上記状況情報取得手段は、上記無線通信するパケットデータのデータサイズに関する状況情報を取得し、
上記ヘッダ検査手段は、上記無線通信を行う上で分割するファイル数の限度に関する条件情報が上記
各領域に記述されたヘッダを検査すること
を特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項4】
上記無線制御手段は、上記無線通信ネットワークとして、無線LAN、LTE(Long Term Evolution)、ミリ波帯無線通信の何れか2種以上の中から選択することで上記無線通信状態を変化させること
を特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項5】
上記ヘッダ検査手段は、DPI(ディープ・パケット・インスペクション)に基づいて検査を行うこと
を特徴とする請求項1~4のうち何れか1項記載の無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種以上の無線通信ネットワークが共存し、上記各無線通信ネットワークは、一以上の無線端末と基地局間で無線通信を行う無線通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレット端末が急速に普及している。これに伴い、移動通信トラフィック量は爆発的に増加している。特にソーシャルネットワークサービスやネットワークを介した触覚通信、拡張現実感等のサービスやアプリケーションの高度化および多様化も進展している。その中で低コストかつ柔軟性をもつ無線LANシステムは、携帯電話回線のトラフィックをデータオフロードする用途や、屋内の位置推定、緊急時の通信等において幅広く用いられている。同様にLTE(Long Term Evolution)は、いわゆる第3世代携帯電話の拡張版であり、従来の通信規格よりも通信速度が圧倒的に速く、多くのデータを一度に送受信することができる。
【0003】
このような上述の如き無線通信システムは、一のセルBSS(Basic Service Set :BSS)としての無線通信ネットワークに対して割り当てられた一の基地局(アクセスポイント:AP)と複数の無線端末(STA)により構成される。
【0004】
ところで、このような基地局と無線端末との間で無線通信を行う上で、無線LAN、又はLTE(LTEネットワーク上のWi-Fiも含む)、ミリ波帯無線通信等の何れかの通信規格に基づく無線通信ネットワークを選択する必要がある。例えば無線端末を保持するユーザの移動速度の高低や、無線通信するパケットデータサイズに応じて、最適な無線通信ネットワークを選択したい場合もある。またセキュリティ性や通信品質の高さが特段求められない無線通信を行う場合には、より安価な無線通信ネットワークを選択したい場合もある。このような通信を行う上で、状況に応じた最適な無線通信ネットワークを選択することができれば、他のユーザとの間でも通信資源を効率的に活用することができ、より多くのユーザが同時に無線アクセスしても干渉を防止することが可能となり、更により安価な無線通信を実現することが可能となる。
【0005】
このような課題を解決するために、従来においてはユーザの好みに応じてパケットデータの無線通信をスケジューリングする技術が提案されているが(例えば、非特許文献1参照。)、基地局と無線端末との間で無線通信が行われる都度、その無線通信の状況を自動的に判別し、これに適した最適な無線通信ネットワークを選択するところまでは到達しきれていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】YAP, K.-K., HUANG, T.-Y., YIAKOUMIS, Y., CHINCHALI, S., MCKEOWN, N., AND KATTI, S. "Scheduling packets over multiple interfaces while respecting user preferences," In Proc. ACM CoNEXT 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
無線通信するパケットデータのヘッダには、最適な無線通信ネットワークを選択する上で手がかりとなる情報が記述されている場合が多々ある。このため、基地局と無線端末との間で無線通信が行われる都度、最適な無線通信ネットワークを選択するためには、無線通信するパケットデータのヘッダの記述内容を読み取る必要がある。このヘッダに記述されている内容は、基本的には最適な無線通信ネットワークを選択する上で必要なすべての記述領域を検査する必要がある一方で、無線通信の状況によってはその中の一部の記述領域のみ検査すれば、上記選択を行うに足りる場合もある。特に検査対象となるヘッダの記述領域をより少なくすることができれば、無線通信を行う上での処理量を軽くすることが可能となり、ひいては通信の効率化、高速化を図ることができる。
【0008】
しかしながら、このような要請に応えることができる技術は、従来において特段提案されていないのが現状であった。
【0009】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、2種以上の無線通信ネットワークが共存し、上記各無線通信ネットワークは、一以上の無線端末と基地局間で無線通信を行う無線通信システムにおいて、その無線通信の状況を自動的に判別し、これに適した最適な無線通信ネットワークを選択する上でより処理量を低減させることが可能な無線通信システムを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係る無線通信システムは、無線端末と基地局間における無線通信状態を変化させる無線通信システムにおいて、上記基地局及び上記無線端末の何れか一方又は両方は、上記無線通信を行う上での状況情報を取得する状況情報取得手段と、上記状況情報取得手段により取得された状況情報に基づいて上記無線通信において送受信すべきパケットデータにおいて上記無線通信を行う上で必要な条件情報が上位概念から下位概念までが各領域に段階的に記述されたヘッダの検査方法を制御しつつ、これを検査するヘッダ検査手段と、上記ヘッダ検査手段により検査されたヘッダの記述内容に基づいて、無線端末と基地局間において無線通信可能な2種以上の無線通信ネットワークの何れかを選択することで、上記無線通信状態を変化させる無線制御手段を備えることを特徴とする。
【0011】
第2発明に係る無線通信システムは、第1発明において、上記状況情報取得手段は、上記無線端末の移動速度に関する状況情報を取得し、上記ヘッダ検査手段は、上記無線通信を行う上で必要な消費電力に関する条件情報が上記各領域に記述されたヘッダを検査することを特徴とする。
【0012】
第3発明に係る無線通信システムは、第1発明において、上記状況情報取得手段は、上記無線通信するパケットデータのデータサイズに関する状況情報を取得し、上記ヘッダ検査手段は、上記無線通信を行う上で分割するファイル数の限度に関する条件情報が上記各領域に記述されたヘッダを検査することを特徴とする。
【0013】
第4発明に係る無線通信システムは、第1発明において、上記無線制御手段は、上記無線通信ネットワークとして、無線LAN、LTE(Long Term Evolution)、ミリ波帯無線通信の何れか2種以上の中から選択することで上記無線通信状態を変化させることを特徴とする。
【0014】
第5発明に係る無線通信システムは、第1発明~第4発明の何れかにおいて、上記ヘッダ検査手段は、DPI(ディープ・パケット・インスペクション)に基づいて検査を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上述した構成からなる本発明によれば、無線通信の状況によってはその中の一部の記述領域のみ検査すれば、最適な無線通信ネットワークを選択を行うに足りる場合であれば、検査対象となるヘッダの領域をより少なくすることで、無線通信を行う上での処理量を軽くすることが可能となり、ひいては通信の効率化、高速化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明を適用した無線通信システムの構成例を示す図である。
【
図3】無線通信システムの動作を実行するためのフローチャートである。
【
図4】基地局へ送信するパケットデータの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明を適用した無線通信システム1の構成例を示している。この無線通信システム1は、2種以上の無線通信ネットワーク10a、10bから構成されている。無線通信システム1は、複数の無線端末2、無線端末2との間で無線通信する基地局3とを備えている。
【0019】
上述した
図1に示す無線通信システム1では、あくまで2種以上の無線通信ネットワーク10a、10bから構成されている場合を例示しているが、これに限定されるものではなく、3以上の無線通信ネットワーク10からなるものであってもよい。またこの無線通信ネットワーク10a、10bは、互いに異なる通信規格の下で、それぞれ無線端末2と基地局3との間で無線通信を実現する。以下の例では、この無線通信ネットワーク10aとして、無線LANシステムを適用し、無線通信ネットワーク10bとしてLTE(Long Term Evolution)を適用する場合を例にとり説明をする。
【0020】
無線端末2は、例えばノート型のパーソナルコンピュータ(PC)、携帯端末、スマートフォン、タブレット型端末、ウェアラブル端末等の無線通信可能な端末装置で構成されている。このような無線端末2は、基地局3に対してパケットデータを無線通信により送信する。
【0021】
基地局3は、無線通信ネットワーク10内の無線端末2との間において無線アクセスポイントとしての役割を果たし、インターネット等を始めとした公衆通信網との間においてインタフェースとしての役割を果たすものである。即ち、基地局3は、これを介して無線端末2がインターネット等を始めとした公衆通信網との間でデータの送受信を行うことを可能とするための中継手段を担うものである。
【0022】
図2は、これら無線端末2、基地局3のブロック構成を示している。
【0023】
無線端末2は、内部の中央制御ユニットとしての役割を担う制御部21と、基地局3との間でパケットデータを送受信するためのアンテナ等を有する送受信部22と、無線通信を行う上での状況情報を取得する状況情報取得部23と、制御部21、送受信部22及び状況情報取得部23に接続されたDPI検査部24とを備えている。
【0024】
同じく基地局3は、内部の中央制御ユニットとしての役割を担う制御部31と、無線端末2との間でパケットデータを送受信するためのアンテナ等を有する送受信部32と、無線通信を行う上での状況を検知するための状況情報取得部33と、制御部31、送受信部32及び状況情報取得部33に接続されたDPI検査部34とを備えている。
【0025】
すなわち、無線端末2、基地局3は、互いに同一の構成としての状況情報取得部23、33、DPI検査部24、34を備えている。これら状況情報取得部23、33、DPI検査部24、34は、無線端末2、基地局3の両方に実装される場合に限定されるものではなく、無線端末2、基地局3の何れか一方に実装されていればよい。
【0026】
状況情報取得部23、33は、無線通信を行う上での各種状況が反映された状況情報を取得する。この状況情報は、例えば無線端末2の移動速度、無線端末2の位置情報、パケットデータのデータサイズのような無線通信を行う上で直接影響を与えるあらゆる状況に関する情報を含む。しかし、この状況情報はこのような例に限定されるものではなく、現在の日時、ユーザやシステムが決めた特定又は任意のルール、予め取得したユーザの属性情報(年齢や性別、嗜好等)等も状況情報に含めてもよい。
【0027】
状況情報取得部23、33は、このような状況情報を取得する上で必要とされるあらゆる手段を含むものである。状況情報取得部23、33は、例えば無線端末2の移動速度からなる状況情報を取得するのであれば、その状況情報が送受信するパケットデータのヘッダに含められる場合に、そのヘッダから情報を読み取る手段として具現化される。また状況情報取得部23は、例えば無線端末2の移動速度を直接検知するセンサとして具現化されるものであってもよい。また状況情報取得部23、33は、例えば無線端末2の位置情報からなる状況情報を取得するのであれば、その状況情報が送受信するパケットデータのヘッダに含められる場合に、そのヘッダから情報を読み取る手段として具現化されるものであってもよいし、GPS(Global Positioning System)等のように直接位置情報を検知するものであってもよい。また状況情報取得部23、33は、パケットデータのデータサイズからなる状況情報を取得するのであれば、その状況情報が送受信するパケットデータのヘッダに含められる場合に、そのヘッダから情報を読み取る手段として具現化される。状況情報取得部23、33は、現在の日時、ユーザやシステムが決めた特定又は任意のルール、予め取得したユーザの属性情報(年齢や性別、嗜好等)等からなる状況情報を取得するのであれば、その状況情報が送受信するパケットデータのヘッダに含められる場合に、そのヘッダから情報を読み取る手段として具現化され、図示しないストレージ等に記憶されるのであればそこから状況情報を読み出す手段として具現化される。
【0028】
DPI検査部24、34は、送受信するパケットデータにおけるヘッダの記述内容を読み取り、これを検査する、いわゆるパケットフィルタリングを行う。DPI検査部24、34は、送受信部22、32からのパケットデータが図示しないインスペクションポイントを通過する際に、ヘッダの検査を行う。このようなDPI検査部24、34においてヘッダのパケット解析が実施される場合において、DPIの検査処理負荷が重いと、パケット解析の処理負荷も重くなるが、本発明では、状況情報取得部23、33において取得された状況情報に基づいてヘッダの検査方法を制御しつつ、これを検査することで、その処理負荷の軽減を図る。DPI検査部24は、パケットデータにおけるヘッダの検査結果を、制御部21へと通知し、DPI検査部34は、パケットデータにおけるヘッダの検査結果を、制御部31へと通知する。
【0029】
制御部21、31は、DPI検査部24、34からそれぞれ通知されてきたヘッダの検査結果を受信する。制御部21、31は、このヘッダの検査結果に基づいて、無線端末2と基地局3間における無線通信状態を変化させる。この無線通信状態を変化させる場合の一例が、無線通信ネットワーク10a、10bのうち最適な無線通信ネットワーク10を選択することである。しかしながら、この無線状態の変化は、このような最適な無線通信ネットワーク10の選択に限定されるものではなく、無線端末2と基地局3間における無線通信状態を変化させるものであればいかなる概念も含まれる。但し、以下の例において無線通信状態の変化は、無線通信ネットワーク10a、10bのうち最適な無線通信ネットワーク10を選択する場合を例にとり説明をする。
【0030】
ヘッダの検査結果は、ヘッダの記述内容に基づいていることから、制御部21、31は、ヘッダの記述内容に基づいて最適な無線通信ネットワーク10を選択することを実際に行うことになる。
【0031】
このようにして制御部21、31を介して無線通信ネットワーク10a、10bの何れかが選択された後、この選択された無線通信ネットワーク10a、10bの何れかの下で、無線端末2、基地局3間で無線通信が行われることになる。
【0032】
次に、本発明を適用した無線通信システム1の動作について説明をする。
図3は、無線通信システム1の動作を実行するためのフローチャートである。このフローチャートでは、無線端末2から基地局3に向けて最初にパケットデータを送信する場合を例にとり説明をする。なお、この無線通信システム1においては、無線端末2と基地局3との間デフォルトの無線通信ネットワーク10aが予め割り当てられているものとする。
【0033】
先ずステップS11において、基地局3における状況情報取得部33又は無線端末2における状況情報取得部23は、状況情報を取得する。状況情報が仮に移動速度に関するものであれば、状況情報取得部23が移動速度を検知し、
図4に示すように基地局3へ送信するパケットデータ5における実データが記述されるペイロード52の前に付加された管理領域としてのヘッダ51にこれを含める。また状況情報が仮にデータサイズに関するものであれば、状況情報取得部23がそのデータサイズに関する状況情報を抽出し、制御部21による制御の下でパケットデータ5におけるヘッダ51に含める。更に状況情報が仮にユーザやシステムが決めた特定又は任意のルール、予め取得したユーザの属性情報に関するものであれば、状況情報取得部23がその特定又は任意のルールや属性情報に関する状況情報を抽出し、制御部21による制御の下でパケットデータ5におけるヘッダ51に含める。このような状況情報は、例えばヘッダ51における領域#0に記述する。無線端末2における送受信部22は、このような状況情報が領域#0に記述されたヘッダ51を有するパケットデータを基地局3へ送信する。この送信は、上述したデフォルトの無線通信ネットワーク10aを介して行う。基地局3は、このようなパケットデータ5を送受信部32にて受信し、ヘッダ51における領域#0に記述されている状況情報を取得する。これにより、無線端末2側において抽出された状況情報を、基地局3側において同様に取得することができる。
【0034】
ちなみに、このステップS11において基地局3側に送信されてくるパケットデータ5のヘッダ51に記述されている状況情報を読み出す以外に、基地局3側において既に状況情報を保有している場合には、これを読み出すことで取得するようにしてもよい。また、基地局3から無線端末2に対してパケットデータ5を最初に送信する場合、状況情報が例えば移動速度に関するものであれば、無線端末2側において移動速度を既に周知の手段が反映された状況情報取得部23を介して取得している場合もあり、かかる場合には、わざわざ基地局3から送信されてくるパケットデータ5のヘッダ51からこれを読み出す必要は無いことは勿論である。
【0035】
このステップS11を通じて、無線端末2、基地局3のうち、少なくともパケットデータ5を受信する側の状況情報取得部23、33において状況情報が取得されている状態となっている。状況情報取得部23、33は、この取得した情報情報をDPI検査部24、34にそれぞれ送信する。
【0036】
次にステップS12へ移行し、パケットデータ5を受信する側のDPI検査部24、34においてDPI検査を行うべくパケットフィルタリングを行う。
【0037】
次にステップS13においてDPI検査部24、34は、ステップS12においてフィルタリングされたパケットデータ5に対してDPI検査を実行する。このDPI検査では、パケットデータ5におけるヘッダ51の領域に記述されている内容の検査を行う。
【0038】
送受信するパケットデータ5におけるヘッダ51の領域#1、#2、#3、・・・が順次並んでおり、この領域#1、#2、#3、・・・において、実際に無線通信ネットワーク10a、10bのうち、無線通信を行う上で何れが適しているか判断するための条件情報がそれぞれ記述されている。つまり、無線通信を行う上で必要な条件情報が上位概念から下位概念までが各領域#1~領域#3において段階的に記述されている。DPI検査部24、34は、受信したパケットデータ5のヘッダ51について、領域#1、#2、#3、・・・に記述された全ての条件情報を検査することを前提としているが、ステップS11において取得した状況情報に基づいて、その検査対象の領域#1、#2、#3、・・・を制御することもできる。
【0039】
ちなみにこの領域#1に記述された条件情報は、最も基本的な条件が記載されている。そしてその次に続く領域#2は、その直前の領域#1に記述された条件情報よりも下位概念に限定された条件情報が記述されている。更にその次に続く領域#3は、その直前の領域#2に記述された条件情報よりも更に下位概念に限定された条件情報が記述されている。その後に続く各領域も、その直前の領域よりも下位概念に限定された条件情報が記述されている。即ち、領域#1~#3の3つの領域で考えた場合、領域#1において最も上位概念的な基本的な条件情報が記述されており、領域3がより詳細な下位概念的な情報が記述されている。
【0040】
DPI検査部24、34は、取得した状況情報に基づいて、領域#1のみを検査するか、領域#1に加えて領域#2まで検査対象領域を拡張するか、領域#1及び領域#2に加えて更に領域#3まで検査対象領域を拡張するかを制御する。
【0041】
実際にステップS11において取得した状況情報によっては、領域#1のみを検査すれば、最適な無線通信ネットワーク10を選択する上での条件情報としては十分な場合もあれば、その状況情報によっては領域#1~領域#3まで検査対象領域を拡張しなければ十分な条件情報を得ることができない場合もある。最適な無線通信ネットワーク10をDPI検査を通じて精度よく選択することに最もプライオリティを高く設定しているため、検査対象領域を領域#1~領域#3まで拡張することが必要であれば勿論そのように処理動作を実行する。しかし、領域#1に加えて領域#2まで、更には領域#1のみを検査対象領域とすれば最適な無線通信ネットワーク10を選択する上で十分であれば、そのように制御をする。その結果、検査対象領域を減少させることができ、DPI検査の検査処理負荷を軽くすることが可能となり、パケット解析の処理量も低減させることができる。
【0042】
例えば、領域#1~領域#3において無線通信を行う上で必要な消費電力に関する条件情報が記述されているものとする。このとき領域#1は、消費電力が大きく分類して「多い」、「中程度」、「少ない」の3段階で記述されており、領域#2は、消費電力が更に20段階に分類されて記述されており、領域#3は、消費電力が時系列的に紐づけられて記述されているものとする。このとき、DPI検査部24、34は、領域#1のみを検査する場合、消費電力が大きく分類して「多い」、「中程度」、「少ない」の3段階の条件情報のみ取得することになる。同様にDPI検査部24、34は、領域#1と領域#2を検査する場合、消費電力が20段階まで細部に亘り分類された条件情報を取得することになる。更にDPI検査部24、34は、領域#1と領域#2と領域#3を検査する場合、消費電力が20段階まで細部に亘り分類された条件情報に加えて、それぞれの消費電力が時系列的にどのように変化するかについての情報も取得することになる。
【0043】
DPI検査部24、34は、領域#1~領域#3において無線通信を行う上で必要な消費電力に関する条件情報が記述されている場合において、ステップS11において、無線端末2の移動速度に関する状況情報を取得した場合には、これに応じて検査対象領域を制御することができる。かかる場合において無線端末2の移動速度が速い場合には、当該無線端末2を中心とした周囲の建物の環境が単位時間当たりで高速に激変し、その結果、無線端末2を中心とした通信環境も激変することとなる。かかる場合には、即座に通信環境が変化するために20段階に至るまで細部まで分類された消費電力を読み取ってもあまり意味はなく、それぞれの消費電力が時系列的にどのように変化するかについての情報も同様に意味をなさないため、領域#1における消費電力の3段階の分類が分かれば、2種以上の無線通信ネットワークの何れかを選択する上で十分である。従って、無線端末2の移動速度が速い場合には、領域#1のみ検査し、残りの領域#2~領域#3は検査しないことで処理量を軽減させる。一方、無線端末2の移動速度が遅い場合には、当該無線端末2を中心とした周囲の建物の環境が単位時間当たりでほとんど変化しないため、無線端末2を中心とした通信環境も激変することなく電池も安定していることから、消費電力のレベルを細部まで読み取るとともに、消費電力が時系列的にどのように変化するかについてまで知ることで、何れの無線通信ネットワークが最適であるかをより高精度に判定することも可能となる。かかる場合には、領域#1~領域#3の全てを検査対象に含める。このようにして無線端末2の移動速度に関する状況情報に応じて検査対象を異ならせることで選択精度を維持しつつ、処理量を低減させることができる。
【0044】
また別の例として 例えば、領域#1~領域#3において分割するファイル数の限度に関する条件情報が記述されているものとする。このとき領域#1は、分割するファイル数の限度が「多い」、「中程度」、「少ない」の3段階で記述されており、領域#2は、分割するファイル数の限度が更に20段階に分類されて記述されており、領域#3は、分割するファイル数の限度がファイルの分割方式との関係において紐づけられて記述されているものとする。このとき、DPI検査部24、34は、領域#1のみを検査する場合、分割するファイル数の限度が大きく分類して「多い」、「中程度」、「少ない」の3段階の条件情報のみ取得することになる。同様にDPI検査部24、34は、領域#1と領域#2を検査する場合、分割するファイル数の限度が20段階まで細部に亘り分類された条件情報を取得することになる。更にDPI検査部24、34は、領域#1と領域#2と領域#3を検査する場合、分割するファイル数の限度が20段階まで細部に亘り分類された条件情報に加えて、それぞれのファイル数の限度がファイルの分割方式との関係において紐付けられた情報も取得することになる。
【0045】
DPI検査部24、34は、領域#1~領域#3において分割するファイル数の限度に関する条件情報が記述されている場合において、ステップS11において、無線通信するパケットデータのデータサイズに関する状況情報を取得した場合には、これに応じて検査対象領域を制御することができる。かかる場合において無線端末2のパケットデータのデータサイズが大きい場合には、ファイル数の分割が必要となり、分割するファイル数の限度を細かいレベルまで確認する必要が出てくる。このため、領域#1に加え、少なくとも領域#2まで検査範囲を延長する必要が出てくる。必要に応じてファイル数の限度がファイルの分割方式との関係において異なるのであればその情報の取得も必要となり、領域#1~領域#3の全てを検査対象に含める必要が出てくる。一方、無線端末2のパケットデータのデータサイズが小さい場合には、ファイル数の分割は特段不要となり、分割するファイル数の限度を細かいレベルまで確認する必要も生じないことから領域#1のみの検査で十分である。このようにして無線端末2の無線通信するパケットデータのデータサイズに応じて検査対象を異ならせることで選択精度を維持しつつ、処理量を低減させることができる。
【0046】
ちなみに、上述した例においては、領域#1~領域#3がヘッダ51に形成されている場合において説明をしたが、これに限定されるものではなく、少なくとも領域#1~領域#2の2つの領域が形成されていればよい。かかる場合において、領域#1には無線通信を行う上で必要な条件情報が記述され、領域#2には領域#1よりも下位概念に限定された条件情報が記述されている。同様にヘッダ51において領域#4以上が付されている場合においても、その直前に設けられた領域よりも下位概念に限定された条件情報が順次記述されている。
【0047】
上述のようにしてDPIに基づくヘッダ51の検査を終了させた後、ステップS14へ移行する。ステップS14では上述のようなDPIによる検査により抽出したヘッダ51の記述内容に基づき、2種以上の無線通信ネットワークの何れかを選択する作業を行う。
【0048】
このステップS14においては予め設定したプロファイルに合致するか否か判断を行う。例えば無線通信ネットワーク10aに応じたプロファイルと、無線通信ネットワーク10bに応じたプロファイルを予め設定しておく。ステップS13においてDPI検査を行ったヘッダ51の内容が何れのプロファイルに該当するか判別する。その結果、DPI検査を行ったヘッダ51の内容が無線通信ネットワーク10aに応じたプロファイルに含まれるのであればステップS15へ移行し、デフォルトとして設定された無線通信ネットワーク10aに基づいて、無線端末2と基地局3との間で無線通信を行う。これに対して、DPI検査を行ったヘッダ51の内容が無線通信ネットワーク10aに応じたプロファイルに含まれないのであれば、或いは無線通信ネットワーク10ab応じたプロファイルに含まれるのであれば、ステップS16へ移行し、無線端末2と基地局3との間の無線通信を無線通信ネットワーク10bにおいて実現できるようにするための切り替え設定を行う。
【0049】
例えばヘッダ51において無線通信を行う上で必要な消費電力に関する条件情報が記述されている場合には、これに基づいて最適な無線通信ネットワーク10として、無線通信ネットワーク10a(無線LANシステム)、無線通信ネットワーク10b(LTE)の何れかが最適であるかが予めプロファイルとして設定されている。新たに無線端末2と基地局3との間で無線通信を行う場合には、DPIを通じて検査したヘッダ51の記述内容とプロファイルとの適合性をステップS14において判断するのみで、各無線通信に応じた最適な無線通信ネットワーク10を割り当てることが可能となる。
【0050】
なお、上述した実施の形態においては、ヘッダ51の検査を行う上でDPIに基づいて実行する場合を例にとり説明をしたが、これに限定されるものではなく、他のいかなる手段に基づいてヘッダ51の記述内容を読み取ることで検査を行うようにしてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0051】
1 無線通信システム
2 無線端末
3 基地局
10 無線通信ネットワーク
21、31 制御部
22、32 送受信部
23、33 状況情報取得部
24、34 DPI検査部
51 ヘッダ
52 ペイロード