(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】血液の粘度を低減し、血液循環内の乱流を抑制し、連銭を治療するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61N 2/08 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
A61N2/08 Z
(21)【出願番号】P 2018560849
(86)(22)【出願日】2017-11-01
(86)【国際出願番号】 US2017059446
(87)【国際公開番号】W WO2018085330
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-10-21
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591135163
【氏名又は名称】テンプル・ユニバーシティ-オブ・ザ・コモンウェルス・システム・オブ・ハイアー・エデュケイション
【氏名又は名称原語表記】TEMPLE UNIVERSITY-OF THE COMMONWEALTH SYSTEM OF HIGHER EDUCATION
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】ロンチア タオ
(72)【発明者】
【氏名】ホン タン
(72)【発明者】
【氏名】シアオチュン シュイ
(72)【発明者】
【氏名】カジ エム.トウヒード-アル-イスラム
(72)【発明者】
【氏名】エンポン トゥー
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102350021(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0171640(US,A1)
【文献】特表平9-502623(JP,A)
【文献】特表2012-529485(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0280303(US,A1)
【文献】R.Tao, et.al.,Reducing blood viscosity with magnetic fields,Physical Review E84,2011年,011905-1-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 2/00 - 2/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液粘度を低減するとともに血流中の乱流を抑制するシステムであって、
患者の身体の部位を取り囲むように配置される環状磁石を備え、
前記環状磁石は、
前記部位内の血流に対し、磁力線の方向が該血流の方向と平行又は逆平行となるとともに該磁力線の方向が時間変化しない、一方向の静磁界を印加し、
前記血流に沿った血液粘度を所定の量だけ低減するとともに該血流中の乱流を所定の量だけ抑制するように、該血流に対し前記一方向の静磁界を継続して印加する
ように構成される、システム。
【請求項2】
前記一方向の静磁界の強度は、1テスラ以上である、請求項
1に記載のシステム。
【請求項3】
前記環状磁石は、前記部位として患者の肢を取り囲むように配置される、請求項
2に記載のシステム。
【請求項4】
前記環状磁石は、電磁石、永久磁石、及び超電導磁石から成る群から選択された磁石である、請求項
3に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年11月2日付けで出願された「SYSTEMS AND METHODS FOR REDUCING THE VISCOSITY OF BLOOD, SUPPRESSING TURBULENCE IN BLOOD CIRCULATION, AND CURING ROULEAUX」と題する米国仮出願第62/416,270号に関し、またこの優先権を主張する。前記米国仮出願の内容はあらゆる目的のために全体を参照することによって本明細書中に援用される。
【0002】
本発明は大まかに言えば、医学的治療に関し、具体的には、血液の粘度を低減し、血液循環内の乱流を抑制し、連銭(rouleaux)のような心臓血管疾患を治療するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
多くの先進国における主な死因は心臓発作及び脳卒中である。最近の調査が示すところによれば、全ての心臓血管疾患と結びつく1つの共通の特徴が高い血液粘度である。さらに、血流中の乱流又は血流障害が、種々異なる血管構造領域を、アテローム性プラークが発達しやすいものにし、今度は、成長したプラークがさらに血流障害を悪化させる。乱流が収縮期駆出性雑音に関与することもある。血液循環内の乱流は心臓から著しく重い作業負荷を必要とするので、乱流は心臓発作及び他の心臓血管疾患を引き起こすおそれがある。
【0004】
1つの独特の血液疾患が連銭として知られている。連銭は赤血球がこれらの平らな面に沿って積み重なること(又は換言すれば、赤血球の軸線方向の積み重なり)を意味する用語である。
図1Aは赤血球を正常な分離状態で示しており、
図1Bは赤血球の連銭を示している。赤血球の平らな面が互いにくっつくことによって連銭を形成すると、赤血球は、循環内の血流を介して身体組織へ酸素を送達する上で主要な機能を適性に発揮するのを妨げられる。連銭は重篤な疾患であり、全身衰弱及び全身の痛み、眼窩の腫脹、視力低下、及び急性錯乱症状を招く。
【0005】
現在、血液粘度を低減するただ1つの方法は、薬剤、例えばアスピリンを服用することである。アスピリンは血液が凝固する傾向を阻害する。しかしながら、アスピリンは副作用を有する。すなわち高用量では、アスピリンは胃の出血、潰瘍、及び耳鳴りをもたらすことがある。加えて、血液粘度を低減するために薬剤を使用することは、血流中の乱流を抑制する助けとはならない。実際には、乱流は悪化するおそれがある。なぜならば、薬剤によって血液粘度が低減される結果としてレイノルズ数が増大するからである。連銭の場合、数多くの異なる潜在的な原因に基づき、効果的な連銭治療は難しいことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の事情に鑑みて、血液粘度を低減し、血流中の乱流を抑制し、連銭を治療する改善されたシステム及び方法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、流れ方向に沿った血液の粘度を低減し、血流中の乱流を抑制し、連銭を治療するシステム及び方法に関する。
【0008】
本発明の1つの態様によれば、血液粘度を低減し且つ/又は血流中の乱流を抑制する方法が開示される。この方法は、血流の方向に対して平行又は逆平行(antiparallel)の方向で血流に一方向磁界を印加し、血流の方向に沿った血液粘度が所定の量だけ低減されるまで、且つ/又は血流中の乱流が抑制されるまで、血流への一方向磁界の印加を維持することを含む。
【0009】
本発明の別の態様によれば、血液粘度を低減し且つ/又は血流中の乱流を抑制するシステムが開示される。システムは、患者の身体の部分を取り囲むように寸法設定された環状磁石を含む。磁石は、環状磁石内部の領域内で一方向磁界を生成するように構成されている。一方向磁界は、患者の身体の前記部分内の血液粘度を所定の量だけ低減し、且つ/又は血流中の乱流を所定の量だけ抑制するのに充分な強度を有している。
【0010】
本発明のさらに別の態様によれば、連銭を治療する方法が開示される。この方法は、連銭を含有する血液に一方向磁界を印加し、連銭が分離されるまで血液への一方向磁界の印加を維持することを含む。
【0011】
血流に対して平行又は逆平行の方向で一方向磁界が印加されると、赤血球は分極され凝集されて流れ方向に沿った短い鎖になる。従って、有効血液粘度は異方性になり、流れ方向に沿って粘度は著しく低減される。流れに対して垂直方向では、粘度はかなり高められ、乱流抑制をもたらす。これらの両効果によって、血流は層流になって大幅に改善され、心臓に対する作業負荷は低減され、心臓発作は防止される。加えて、強磁界は、重篤な血管疾患である連銭を破断し、赤血球の表面を完全に露出させ、これらの酸素機能を改善する。
【0012】
本発明は下記詳細な説明から、これを添付の図面と共に読むと最もよく理解される。慣行に基づき、図面の種々の特徴は原寸に比例してはいないことが強調される。それどころか、種々の特徴の寸法は明確にするために任意に拡大又は縮小される場合がある。図面には以下の図が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】
図1Aはそれぞれ、正常な分離状態にある赤血球(a)又は連銭状態にある赤血球(b)を示す画像である。
【
図1B】
図1Bはそれぞれ、正常な分離状態にある赤血球(a)又は連銭状態にある赤血球(b)を示す画像である。
【
図2】
図2は本発明の態様に基づく、血液粘度を低減し、乱流を抑制し、連銭を治療する模範的システムを示す図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の態様に基づく模範的血流治療を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の態様に基づく模範的血流治療を示す図である。
【
図3C】
図3Cは、本発明の態様に基づく模範的血流治療を示す図である。
【
図4】
図4は、
図2の模範的システムを使用した血流治療の効果を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明に態様に基づく、血液粘度を低減し、血流中の乱流を抑制する模範的方法を示す図である。
【
図6A】
図6Aは赤血球を、
図5に示された血流治療の前(a)及び後(b)の状態で示す図である。
【
図6B】
図6Bは赤血球を、
図5に示された血流治療の前(a)及び後(b)の状態で示す図である。
【
図6C】
図6Cは赤血球の流れを、乱流を抑制する前の状態(a)、及び乱流を抑制することにより血液層流を形成した後の状態(b)で示す図である。
【
図6D】
図6Dは赤血球の流れを、乱流を抑制する前の状態(a)、及び乱流を抑制することにより血液層流を形成した後の状態(b)で示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の態様に基づく、連銭を治療する模範的方法を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、
図7の方法を用いて連銭を細分化して治療するプロセスを示す図である。
【
図8B】
図8Bは、
図7の方法を用いて連銭を細分化して治療するプロセスを示す図である。
【
図8C】
図8Cは、
図7の方法を用いて連銭を細分化して治療するプロセスを示す図である。
【
図8D】
図8Dは、
図7の方法を用いて連銭を細分化して治療するプロセスを示す図である。
【
図9A】
図9Aは赤血球を、
図7に示された連銭治療の前の状態(a)及び後の状態(b)で示す図である。
【
図9B】
図9Bは赤血球を、
図7に示された連銭治療の前の状態(a)及び後の状態(b)で示す図である。
【
図10A】
図10Aは本発明の態様に基づく、血液粘度を低減し、乱流を抑制し、連銭を治療する別の模範的システムを示す図である。
【
図10B】
図10Bは本発明の態様に基づく、血液粘度を低減し、乱流を抑制し、連銭を治療する別の模範的システムを示す図である。
【
図11】
図11は、1回の磁界治療後の、流れ方向に沿った低減された粘度の継続時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
具体的な実施態様を参照しながら本発明をここに例示し説明するが、本発明は、示された詳細に限定されるものではない。むしろ、請求項の同等物の範囲内で、本発明を逸脱することなしに種々の変更を細部に加えることができる。
【0015】
本発明の態様によれば、血流方向に対して好ましくは平行又は逆平行に、すなわち血流方向に沿って、血液に強磁界を印加する。赤血球はヘモグロビン、つまり酸素の輸送に関与する赤色タンパク質を含有している。ヘモグロビンは鉄を含有しており、その結果、ヘモグロビンを担持する赤血球は常磁性であり、すなわち、外部磁界が印加されている状態で一時的に磁気的に分極することができる。従って、血液に強磁界が印加されている状態では、赤血球は分極される。
【0016】
赤血球がディスク形構造であることにより、最強の分極はそれぞれの血球の直径方向に沿って生じることが判っている.結果として、強磁界において、赤血球は傾いて、これらのディスク表面を磁界に対して平行にさせることになる。それぞれの赤血球はこれにより、誘起双極子モーメントを得る。
【0017】
赤血球はこうして磁界内で分極させられ凝集させられて赤血球の直径方向で短い鎖になる。赤血球が当初連銭状態である場合、誘起磁気双極子相互作用は赤血球の表面結合を先ず強制的に破断させ、次いで赤血球の直径方向に短い鎖を形成する。このような鎖において、赤血球の表面は完全に露出させられ、赤血球が正常な酸素機能を発揮するのを可能にする。これらの短い鎖は、血流方向に沿って整列させられる。こうして、血液粘度は異方性になる。すなわち、流れ方向に沿って、粘度は著しく低減されるが、しかし流れに対して垂直方向では、粘度はかなり高められる。このようにすると、流れに対して垂直方向の運動なしには乱流又は流れの障害は存在し得ないため、血流中の乱流が抑制され、血液乱流は層流になる。加えて、流れ方向に沿った粘度が低減されるのに伴って、血液層流はさらに改善される。
【0018】
流れ方向に沿った血液粘度を低減し、乱流を抑制することによって、本発明の態様は血液循環を大幅に改善し、心臓に対する作業負荷を低減する。これらの効果は永続的ではないものの、長時間にわたって継続し、繰り返すことができる。従って、本明細書中に記載された好適な磁界による反復治療は、正常な範囲内の血液粘度を保ち、血液層流を維持し、心臓発作を防止することができる。
【0019】
本明細書中に記載された模範的実施態様は、連銭の治療に特に適している。具体的には、本発明の態様は連銭体(rouleau)の積み重ねられた赤血球間に磁気反発を誘導するように動作することができる。このような反発力の強度は、外部から印加された磁界の強度に依存する。充分に強磁界が印加された状態では、力は赤血球の重量を超え、これにより、連銭体内の赤血球の積み重ねを破断するのに充分に強くなることができる。
【0020】
具体的な連銭治療が本明細書中に記載されているが、言うまでもなく、本明細書中に記載されたシステム及び方法は、血液粘度の低減、血液循環内の乱流の抑制、及び/又は患者の血液中の血球の分極が医学的に有利な結果に達する、他の血液疾患又は医学的症状を治療するために用いることができる。従って、下記模範的実施態様が連銭を治療するための利用に限定されるのではないことは、本明細書中の説明から明らかである。
【0021】
ここで図面を参照すると、
図2は、本発明の態様に基づく、血液粘度を低減し、且つ/又は血流中の乱流を抑制するシステム100を示す。システム100は、連銭を治療するために使用することもできる。概要としては、システム100は磁石110を含んでいる。システム100のさらなる詳細を以下に説明する。
【0022】
磁石110は一方向磁界を生成する。本明細書中に使用される「一方向(unidirectional)」という用語は、磁力線の方向が変化しない磁界を意味する(例えば消磁磁界)。磁石100は
図2に示されているように電磁石であってよく、或いは永久磁石又は超電導磁石であってもよい。磁石110が永久磁石である場合、磁石110は、使用者に対して所定の位置に磁石110を保持するためのハーネス又は他の構造をシステム100が含むのを可能にするのに充分に小さくてよい。磁石110が電磁石又は超電導磁石である場合、磁石110は患者に固定されるか又は患者によって着用されるにはあまりにも大きいことがある。この実施態様では、磁石110に対して定位置に患者を保持するための装置(例えばチェア、ベッド、プラットフォームなど)を設けることが必要な場合がある。
【0023】
模範的実施態様では、磁石110は環状(リング状)磁石である。この実施態様では、磁石110は、磁石内部の領域内、すなわちリング状磁石の中心を軸線方向に通る領域内で一方向磁界を生成するように構成されている。
【0024】
磁石110は、患者の身体の部分を取り囲むのに充分な寸法を有している。このようにして、磁石110によって生成された一方向磁界を、患者内部の血流に印加することができる。例えば、
図3Aに示されているように患者の頸部を、
図3Bに示されているように患者の腕を、且つ/又は
図3Cに示されているように患者の脚部を取り囲むように、磁石110は寸法設定されていてよい。
【0025】
別の実施態様において、磁石110は棒磁石、又は患者の血流に一方向磁界を印加することができる任意の他の形状の磁石であってよい。磁石110は、患者の体内の血液粘度を所定の量だけ低減し、且つ/又は患者の血流中の乱流を所定の量だけ抑制するのに充分な強度を有している。磁石110は、正常範囲内、例えば約0.003Pa・s(約3.0cp)~約0.004Pa・s(4.0cp)の範囲内にあるように血液粘度を低減するのに充分な強度を有していてよい。模範的実施態様では、磁石110は、1テスラ以上の強度を有する一方向磁界を生成する。一例では、磁石110は1.33テスラの一方向磁界を生成する。このような磁界強度又はこれよりも強い磁界強度を有する磁界が、患者の体内の連銭を分離するのに適していることがある。
【0026】
図4を参照しながらシステム100の模範的動作をここで説明する。
図4は患者の体内(例えば患者の肢内部)の典型的な血流を示している。
図4の左側に示されているように、治療前には、患者の血流中の赤血球は無秩序である。赤血球が無秩序であること、これらが互いに衝突する可能性があることにより、全血流は比較的高い有効粘度を有している。加えて、このような血液は、血流方向から逸れた乱れた流れ又は渦を発現させることもある。システム100による治療中、磁石100は血流に一方向磁界を印加する。
図4の矢印によって示されているように、この磁界は血流方向に対して平行に印加される。この磁界の結果として、赤血球が分極させられ、
図4の右側に示されているように凝集させられることにより赤血球の直径方向で短い鎖になる。これらの短い鎖は血流方向に沿って整列させられる。結果として血液粘度は血流方向に沿って著しく低減される。それというのも、赤血球鎖は流れ方向に沿って流線形であるからである。
【0027】
他方において、流れに対して垂直方向の血液粘度は著しく高められる。それというのも、これらの短い鎖が流れに対して垂直方向のいかなる運動にも強く抵抗するからである。血流は、これが磁界の印加前に乱れていたならば層流になる。
図4における磁界の印加後、血液循環のための充分な時間とともに、患者の全身内の全ての血液は、流れ方向に沿った粘度を低減させ、身体の任意の部分における血液循環内のいかなる乱流も抑制される。
【0028】
図5は、本発明に態様に基づく、血液粘度を低減し、且つ/又は血流中の乱流を抑制する方法200を示す。概要としては、方法200は磁界を印加し、磁界の印加を維持することを含む。システム100を参照しながら方法200のさらなる詳細を以下に説明する。
【0029】
ステップ210において、血流に一方向磁界を印加する。血流は患者の体内にあってよく、或いは血液透析において見いだされるような体外の血流であってもよい。模範的実施態様では、磁石110は患者の肢を取り囲み、患者の肢内部の血流に一方向磁界を印加する。一方向磁界は血流の方向に対して平行又は逆平行の方向に印加される。
【0030】
ステップ220において、血流に対する一方向磁界の印加は、有効血液粘度が所定の量だけ低減されるまで維持される。
図6A及び6Bはそれぞれ、赤血球をステップ220の実施の前及び後の状態で示している。
図6Aは、赤血球が治療前には分離しており無秩序であることを示している。
図6Bに示されているように、一方向磁界の印加によって、一方向磁界の方向に沿って血球鎖が形成されており、これにより、所定の粘度低減がもたらされる。所定の粘度低減に達するために必要なステップ220の継続時間は、所望される所定の低減量、一方向磁界の強度、及び血流が磁界に晒される時間の長さに依存する。一例では、血液粘度は正常範囲、例えば0.003Pa・s(3.0cp)~0.004Pa・s(4.0cp)の範囲内に保たれる。従って、粘度低減量は、磁気治療前の当初の粘度に依存してよい。いくつかの事例では、目標に達するために、50%の粘度低減を予め決めることができる。
【0031】
模範的実施態様では、一方向磁界は1テスラ以上の強度、より具体的には1.33テスラの強度を有する。一方向磁界は所定の時間、例えば4秒間にわたって血液試料に印加されてよい。より長い時間、例えば20秒間、30秒間、1分間、5分間又はそれ以上が用いられてもよい。印加される磁界がより弱い事例では、印加時間はより長くてよい。印加される磁界がより強い場合には、所要時間はより短くてよい。患者の全身内部の全ての血液のために流れ方向に沿った粘度を低減し、患者の体内の血液循環の任意の部分における乱流を抑制するために、
図3A~3Cにおける配置によって、磁界が少なくとも15分間又はそれ以上印加されてよい。
【0032】
図6C及び6Dはそれぞれ、ステップ220の実施の前及び後の血流を示している。
図6Cは一方向磁界の印加前には、血流が当初乱れていたことを示している。
図6Dに示されているように、一方向磁界の印加は乱流を抑制し、血流を層流状にする。乱流抑制に達するために必要なステップ220の継続時間は、粘度低減のために必要な時間の長さと同じであっても異なっていてもよい。
【0033】
図7は、本発明の態様に基づく、連銭を治療する方法300を示す。概要としては、方法300は、磁界を印加し、磁界の印加を維持することを含む。方法300のさらなる詳細を以下に説明する。
【0034】
ステップ310において、連銭を含有する血液に一方向磁界を印加する。血液は患者の体内の血流部分であってよく、血液透析において見いだされるような体外の血流であってもよく、或いは輸血のために用いられるような静的な(流動しない)血液リザーバ内にあってもよい。模範的実施態様では、磁石110は患者の肢を取り囲み、患者の肢内部の血流に一方向磁界を印加する。
【0035】
一方向磁界は血流方向に対して平行又は逆平行に印加することができる。凝集させられた赤血球鎖によって血流を妨害するのを回避するために、磁束線を血流方向に対して平行又は逆平行に配向することが望ましい場合がある。
【0036】
ステップ320において、血液中の連銭が分離されるまで、血液への一方向磁界の印加を維持する。
図8A,8B,8C及び8Dはそれぞれ、ステップ310及び320の実施の前及び後における、連銭を細分化して治療するためのプロセスを示す概略図である。
図8Aは、ステップ310を実施する前の連銭を示している。
図8Bは、ステップ320の実施中に、連銭体内の2つの隣接する赤血球の誘起双極子モーメントが反発力を及ぼすことにより連銭体を破断することを示している。
図8Cは、ステップ320の実施中に、連銭体が破断された後、誘起双極子モーメントが強制的に、赤血球に直径方向に沿って短い鎖を形成させることを示している。
図8Dは、ステップ320の実施後に磁界がターンオフされ、
図8Cの短い鎖が破断された後、赤血球が最終的に血漿内部に自由に分配されることを示している。
【0037】
図9A及び9Bはそれぞれ、ステップ320の実施の前及び後の赤血球を示している。
図9Aに示されているように、赤血球は主面に沿って連銭又はスタックを形成している。
図9Bに示されているように、一方向磁界の印加によって、連銭が分離されている。連銭を分離するのに必要なステップ320の継続時間は、連銭の重篤度(例えば積み重ねられた赤血球の数、又は連銭の数)、一方向磁界の強度、及び血液が磁界に晒される時間の長さに依存する。
【0038】
模範的実施態様では、一方向磁界の強度は1テスラ以上、通常は1.33テスラである。一方向磁界は所定の時間、例えば少なくとも1分間にわたって、血液試料に印加することができる。特に重篤な連銭を分離するためには、より長い時間、例えば5分間、10分間、15分間、20分間、30分間、40分間、50分間、又は最大1時間を用いてもよい。
図3A~3Cの配置を用いて患者の全身内の全ての血液中の連銭を治療するためには、少なくとも1時間以上にわたって磁界を印加してよい。
【0039】
いくつかの実施態様では、患者の生理学的特徴をモニタリングすることにより、治療の効力を見極め、且つ/又は治療を完了することができるか否かを見極めることができる。これらの特徴は、血液粘度低減治療又は連銭治療のために観察することができる。好適な生理学的特徴は、例えば患者の心拍数、血圧、血中酸素濃度、収縮期駆出性雑音の有無、心拍波形(例えば心電図を使用)、及び/又は正常心臓機能度を含む。加えて、連銭治療に際して、血液は(例えば顕微鏡下で)直接に視覚的に検査することにより、連銭の有無を見極めることもできる。血液粘度低減又は乱流抑制の程度を見極めるためにモニタリングすることができる他の好適な生理学的特徴が、本明細書中の説明から当業者には明らかとなる。
【0040】
図10A及び10Bは、本発明の態様に基づく、血液粘度を低減し、且つ/又は血流中の乱流を抑制する別のシステム400を示す。システム400は連銭を治療するために使用することができる。概要としては、システム400は磁石410を含む。システム400のさらなる詳細を以下に説明する。
【0041】
磁石410は、一方向磁界を生成する電磁石である。磁石410は、その真ん中を通る軸線方向キャビティ412を画定する環状(又はリング状)磁石である。磁石410は、磁石410のキャビティ412を軸線方向に通り、且つキャビティ412の軸線に沿って延びる一方向磁界を生成するように構成されている。
【0042】
図10Bに示されているように、磁石410のキャビティ412は、患者の身体の部分、すなわち患者の腕を受容するのに充分な寸法を有している。このようにして、磁石410によって生成された一方向磁界は患者内部の血流に、より具体的には患者の腕を通る血流の方向に沿って印加される。
【0043】
磁石410は、患者の身体内の血液粘度を所定の量だけ低減し、且つ/又は患者の血流中の乱流を所定の量だけ抑制するのに充分な強度を有している。磁石410は、磁石110に関して上述した強度を有していてよい。
【0044】
本発明の例
流れ方向に沿った血液粘度が低減され、乱流が抑制されると、血液層流が改善され、心臓に対する作業負荷が低下させられ、血圧が低減される。これらの結果は以下の臨床試験例によって支持される。この試験例の結果は表1に示されている。磁界が印加される前には、被験者の血圧は、収縮期血圧140mmHg及び拡張期血圧99mmHgであった。次いで被験者は
図10A及び10Bのシステムを使用した。このシステムにおいて、被験者は右腕を治療領域内に挿入した。腕内の血流に対して平行に磁界を印加した。10分間の治療時間後、患者の血圧は下に示すように、115/75mmHgまで下がった。
【表1】
【0045】
図11は、1回の磁界治療後の低減された血液粘度の継続時間を示している。流れ方向に沿った粘度低減(異方性粘度の一部)が、流れ方向に沿って短い赤血球鎖が凝集された結果であるため、血液粘度は、凝集された鎖が完全に分解された後、当初の等方性の値に戻ることになる。赤血球は軟質且つ弾性的であるので、凝集された短い鎖によって、懸濁液は粘弾性流体として作用するようになる。熱運動によるこのような粘弾性鎖の分解は極めて遅い。従って、磁界で治療された血液は、単回の磁界処理後24時間を超えた時間にわたって所定のレベルの異方性弾性を維持することができる。
図11に示されているように、血液試料の当初の粘度は37℃で0.00365Pa・s(3.65センチポアズ(cp))であった。1.3テスラの磁界による4秒間にわたる治療後、粘度は0.0031Pa・s(3.10cp)まで、15%だけ低減された。粘度は、治療後8時間までは0.00313Pa・s(3.13cp)以下のままであり、治療後16時間までは0.00317Pa・s(3.17cp)以下のままであり、治療後24時間までは0.00322Pa・s(3.22cp)以下のままであった。これらの結果は、一回の効率的な磁界治療が24時間以上持続する粘度低減効果を維持できることを示している。
【0046】
プロセスは繰り返すこともできる。短い鎖が分解されたら、血液に強磁界を印加すると、血液粘度が再び異方性になる。従って、例えば毎日一回強磁界治療を施すことによって、血液粘度を流れ方向で低く保つことができ、全ての乱流を抑制することができ、血流を層流にすることができる。
【0047】
本発明の好ましい実施態様を本明細書中に示し説明してきたが、言うまでもなく、このような実施態様は一例として提供されているにすぎない。本発明の思想を逸脱することなしに、当業者ならば数多くの変更、変化、及び置換に思い至る。従って、添付の請求項は本発明の思想及び範囲に含まれるような変更形全てに範囲が及ぶものとする。